説明

虚血および再灌流損傷を防止する方法

【課題】虚血および/または再灌流障害を抑える方法を提供すること。
【解決手段】虚血および再灌流障害を処置または抑える方法を提供する。虚血および/または再灌流障害は、心筋虚血(例えば、急性心筋梗塞、選択的血管形成、冠状動脈バイパス移植、手術(心バイパスもしくは心移植を含む)によって生ずる)、脳虚血(例えば、卒中、頭部外傷もしくは溺水によって生ずる)、腸管虚血、腎性虚血、または組織虚血(敗血症、心停止、溺水、またはショックによって生ずる)を含む。上記方法は、虚血および/または再灌流に関連した障害または該障害になるリスクを持つ哺乳動物に対して、1種類以上の薬剤の有効量を投与する工程を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(政府の権利についての言明)
本発明は、少なくとも部分的に、米国政府からの助成金(米国国立衛生研究所助成金HL61518およびHL60590)により、なされたものである。政府は、本発明に対して一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
虚血性心疾患は、北米では主要な死因であり、高齢化につれてよりいっそう一般的になる(Scroggins,2001)。虚血および再灌流は、種々のメカニズムを介して心筋外傷に至る。例えば、虚血および再灌流はミトコンドリアに対して重大な影響を及ぼし、それを克服するには該ミトコンドリアの完全性および機能を保つことが欠かせない(Borutaiteら、1995;DiLisaら、1998;Kayら、1997;Ferrariら、1996;Kobaraら、1996)。酸化的リン酸化は、再灌流後に一時的増加するが、その後減少し;ピリジン・ヌクオレオチドがミトコンドリアから失われ、複合体Iを介した呼吸が損なわれ;スーパーオキシド産生の増加(複合体Iを介した逆行的な電子の流れによるものと考えられる);カルシウム恒常性の喪失に伴ってミトコンドリア膜透過性遷移孔が開き、チトクロムcが放出される(Borutaiteら、1995;Duanら、1989;DiLisaら、1998;Piperら、1985;Beckerら、1999;Halestrapら、1998)。しかし、これらのミトコンドリアの変化が虚血による低酸素分圧に対する内因性反応によって引き起こされるものか、サイトゾルでの変化がある程度原因となって起こるものなのか、明らかでない。サイトゾルの変化として、アシドーシス、無機リン酸塩の増加、カルシウムの増加、および長鎖アシル補酵素Aの増加が挙げられる。
【0003】
さらに、種々のシグナル伝達経路(例えば、MAPキナーゼ、特にc−Jun NH末端キナーゼ(JNK)、およびp38のシグナル伝達経路が挙げられる)が心筋虚血および再灌流中に活性化される。既に、JNKが虚血/再灌流に応答してサイトゾルからミトコンドリアに移動すること、しかもウサギ成体心筋細胞での代謝阻害モデルでJNKの阻害が保護的であることが示されている(Heら、1999)。
【0004】
虚血プリコンディショニングは、短時間の虚血および再灌流を、より持続的な虚血/再灌流障害に先立っておこなうことで、心筋を保護する(Murryら、1986)。プリコンディショニングは、ミトコンドリア機能の早い回復とよりいっそう効率的なATP再合成とによって、特徴づけられる。これらの多様な研究から、虚血および再灌流が、ミトコンドリアを標的とするサイトゾル性のシグナルを活性化させて、虚血および再灌流中のミトコンドリアの応答を調節すること、さらに上記プリコンディショニングがサイトゾルからミトコンドリアへのシグナル伝達も伴うことが明らかである。
【0005】
今日の虚血性心疾患治療法は、虚血領域への血流を回復させることを目的としている。しかし、再灌流中、主に活性酸素種(ROS)(例えば、スーパーオキシド・アニオン)の発生により心臓がさらに障害を受ける(Singhら、1995;Flahertyら、1988)。虚血組織に酸素を再導入した後の数分内に、ROSの上昇を検出することができる(Bolliら、1995)。ROSは細胞障害および心筋障害の主要なメディエーターであり、フリーラジカル・スカベンジャーにより関連障害が減ることが示されている(Cesselliら、2001)。低レベルのスーパーオキシドは、プリコンディショニングに関与していると思われるシグナル伝達経路(Sunら、1996)および肥大症の発症(Itoら、1995)に影響を与える。しかし、より高いレベルは有害であり、脂質過酸化反応およびアポトーシスを引き起こす(Siwikら、1999;Halmosiら、2001)。再灌流障害の治療法は、現在のところ存在していない。
【0006】
従って、求められているものは、虚血および/または再灌流障害を抑える方法である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
本発明は、哺乳動物動物(例えば、ヒト)での虚血および/または再灌流に関連した障害を抑制、処置、および/または予防する方法を提供する。虚血および/または再灌流障害は、心筋虚血(例えば、急性心筋梗塞、選択的血管形成、冠状動脈バイパス移植、手術(心バイパスもしくは心移植を含む)によって生ずる)、脳虚血(例えば、卒中、頭部外傷もしくは溺水によって生ずる)、腸管虚血、腎性虚血、または組織虚血(敗血症、心停止、溺水、またはショックによって生ずる)を含む。
【0008】
上記方法は、虚血および/または再灌流に関連した障害または該障害になるリスクを持つ哺乳動物に対して、1種類以上の薬剤の有効量を投与する工程を包含する。これらの薬剤として、限定されるものではないが、Hレセプターアンタゴニスト、H/K−ATPase阻害剤、抗菌剤、抗真菌剤(例えば、アゾール)、中枢神経系(CNS)活性剤(例えば、三環系抗うつ薬、セロトニン再取込阻害剤抗うつ薬、フェノチアジン抗精神病薬、およびベンゾジアゼピン不安緩解剤)、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、メチラポン、7−エトキシレゾルフィン、HMG−CoAシンターゼ阻害剤、サルタン、ならびにカルシウムチャネル遮断薬が挙げられ、好ましくは、該薬剤は、1種類以上のチトクロムP450(CYP450もしくはCYP)酵素(例えば、モノオキシゲナーゼおよび還元酵素)の量または活性を阻害する。1つの実施形態では、上記薬剤はHレセプターアンタゴニスト(シメチジン、ラニチジン、もしくはエブロチジン)またはその誘導体である。1つの実施形態では、上記薬剤はH/K−ATPase阻害剤(例えば、オメプラゾール)またはその誘導体である。1つの実施形態では、上記薬剤は抗菌剤または抗真菌剤(例えばクロラムフェニコール、ケトコナゾール、スルファフェナゾール、クロトリマゾール、もしくはミコナゾール)あるいはその誘導体である。例えば、スルファフェナゾールの誘導体として、限定されるものではないが、4−アミノ−N−(2−(2,3,5,6−テトラフルオロ−フェニル)−2H−ピラゾール−3−イル))−ベンゼンスルホンアミド、4−ブロモ−N−(2−フェニル−2H−ピラゾール−3−イル)−ベンゼンスルホンアミド、4−アミノ−N−(2−(3,4−ジクロロフェニル)−2H−ピラゾール−3−イル))−ベンゼンスルホンアミド、4−アミノ−N−(2−シクロヘキシル−2H−ピラゾール−3−イル))−ベンゼンスルホンアミド、4−アミノ−N−(2−エチル−2H−ピラゾール−3−イル))−ベンゼンスルホンアミド、4−アミノ−N−エチル−(2−フェニル−2H−ピラゾール−3−イル)−ベンゼンスルホンアミド、4−アミノ−N−メチル−(2−フェニル−2H−ピラゾール−3−イル)−ベンゼンスルホンアミド、4−アミノ−N−プロピル−(2−フェニル−2H−ピラゾール−3−イル)−ベンゼンスルホンアミド、4−メチル−N−(2−ベンジル−2H−ピラゾール−3−イル)−ベンゼンスルホンアミド、4−メチル−N−(2−(2,6−ジクロロ−フェニル)−2H−ピラゾール−3−イル))−ベンゼンスルホンアミド、4−メチル−N−(2−(3,4−ジクロロ−フェニル)−2H−ピラゾール−3−イル))−ベンゼンスルホンアミド、4−メチル−N−(2−(4−メトキシ−フェニル)−2H−ピラゾール−3−イル))−ベンゼンスルホンアミド、N−(2−フェニル−2H−ピラゾール−3−イル)−4−ビニルベンゼンスルホンアミド、4−(2−ブロモエチル)−N−(2−フェニル−2H−ピラゾール−3−イル)−ベンゼンスルホンアミド、または4−アリル−N−(2−フェニル−2H−ピラゾール−3−イル)−ベンゼンスルホンアミドが挙げられる。1つの実施形態では、上記薬剤は三環系抗うつ薬(例えば、クロミプラミン、アミトリプチリン、もしくはデシプラミン)またはその誘導体である。1つの実施形態では、セロトニン再取込阻害剤(例えば、フルオキセチン、セルトラリン、もしくはパロキセチン)またはその誘導体である。別の実施形態では、上記薬剤はフェノチアジン(例えば、クロルプロマジン)またはその誘導体。1つの実施形態では、上記薬剤はベンゾジアゼピン(例えば、フルラゼパム)またはその誘導体である。別の実施形態では、上記薬剤は非ステロイド性抗炎症薬(例えば、ジクロフェナク、フルフェナミン、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、もしくはケトプロフェン)またはその誘導体。別の実施形態では、カルシウムチャネル遮断薬である。例示的な好ましい薬剤として、限定されるものではないが、Hレセプターアンタゴニスト(シメチジン、ラニチジン、およびエプロチジン)、H/KATPase阻害剤(オメプラゾール)、抗菌剤および抗真菌剤(例えば、クロラムフェニコール、エコナゾール、ケトコナゾール、スルファフェナゾール、トリメトプリム,スルファメトキサゾール、クロトリマゾール、およびミコナゾール)、CNS活性剤(クロミプラミン、アミトリプチリン、およびデシプラミン等の三環系抗うつ薬、フルオキセチン、セルトラリン、およびパロキセチン等のセロトニン再取込阻害剤抗うつ薬、クロルプロマジン等のフェノチアジン抗精神病薬)、ベンゾジアゼピン不安緩解剤(例えば、フルラゼパムおよびメダザパム)、NSAID(例えば、ジクロフェナク、フルフェナミン、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、およびケトプロフェン)、メチラポン、7−エトキシレゾルフィン、HMG−CoAシンターゼ阻害剤(例えば、スタチン)、ならびにカルシウムチャネル遮断薬(例えば、ジルチアゼム、ベラパミル、レルカニジピン、ニフェジミン、ニソルジピン、ニカルジピン、イスラジピン、ニトレンジピン、フェロジピン、およびアムロジピン)、1種類以上のチトクロムP450酵素を好ましくは阻害する薬剤が挙げられる。他の有効な薬剤は、抗不整脈薬アミオダロンである。本明細書に記載した兆候または症状を処置するのに有用なさらに別の薬剤は、レスベラトロル等のフラボノイド、さらに赤ワイン、ブドウ種子エキス、緑茶、他の食料および薬草フラボノイド源に存在する他の関連化合物である。上記薬剤を1種類以上、虚血前、虚血症状発現後、または再灌流開始後に投与してもよく、あるいはそれらの投与時を任意に組み合わせてもよい。1つの実施形態では、1種類以上の薬剤を静脈内投与してもよい。1つの実施形態では、1種類以上の薬剤を経口投与してもよい。1つの実施形態では、1つの実施形態では、1種類以上の薬剤を、冠状動脈に対してカテーテル(たとえば血管形成術用カテーテル)経由で投与してもよい。1つの実施形態では、1種類以上の薬剤を、薬物送達用バルーンを具備したカテーテルを介して投与してもよい。
【0009】
上記したもの以外の薬剤も、単独で、もしくは上記薬剤に加えて、本発明の方法で用いてもよいと考えられ、該薬剤として、限定されるものではないが、ミトコンドリアによるスーパーオキシド産生を阻害する薬剤、例えば複合体I阻害剤(例えば、イデベノン、ロテノン、p−ヒドロキシ−安息香酸水銀、ロリニアスタチン−2、カプサイシン、およびアミタール)、複合体II阻害剤(例えば、ミクソチアゾール、アンチマイシンA、およびムシジン(ストロビルリンA))、ならびに他の部位でスーパーオキシド産生を阻害する薬剤、例えばキサンチンオキシダーゼ阻害剤(例えば、アロプリノール)、およびNAD(P)Hオキシダーゼ阻害剤(例えば、アポシアニンおよびジフェニレンヨードニウム)が挙げられる。
【0010】
本明細書に記載したように、虚血および再灌流に先立って、心臓をクロラムフェニクコール(チトクロムP450の阻害剤)で前処理することで、梗塞サイズが著しく減少する(約90%まで)。さらに、虚血性発作後にクロラムフェニコールを投与することで、約60〜約80%まで梗塞サイズを減少させることができた。このことは、驚くべきことである。なぜなら、虚血前に投与した場合に心保護的である大部分の薬剤が、虚血開始後に投与した場合は必ずしも心保護的であるというわけではない。クロラムフェニコールもまた、チトクロムP450酵素を阻害する。本明細書でさらに説明するように、シメチジンおよびスファフェナゾール(両方ともタンパク質合成以外のチトクロムP450酵素を阻害する)が、再灌流障害を抑制または低減し、さらに心臓でO・−を発生させることが示された。面白いことに、試験した阻害剤の濃度で複数のアイソザイムの弱い阻害が起こるかもしれないが、チトクロムP450 2Cファミリーは、クロラムフェニコール、スルファフェナゾール、およびシメチジンによって阻害されることが知られているP450アイソザイムの唯一のファミリーである。さらに、虚血および再灌流後に二倍を上回るスーパーオキシド産生が、薬物処理によって75%まで減少した。これらの化合物は、例えばスーパーオキシド産生の減少による一酸化窒素の血管拡張効果を向上させることによって、虚血後、冠動脈血流量を高めることもでき、さらに、例えば心臓毒性チトクロムP450代謝産物である14,15−エポキシエイコサトリエン酸(14,15−EET)の産生を妨げることで、虚血/再灌流後に心収縮性を高めることもできる。
【0011】
従って、1種類以上のチトクロムP450酵素、例えばチトクロムP450 1Aファミリーの1種類以上のメンバー(例えば、1A1)、チトクロムP450 1Bファミリーの1種類以上のメンバー(例えば、1B1)、チトクロムP450 2Bファミリーの1種類以上のメンバー(例えば、2B6または2B7)、チトクロムP450 2Cファミリーの1種類以上のメンバー(例えば、2C8−19)、チトクロムP450 2Dファミリーの1種類以上のメンバー(例えば、2D6)、チトクロムP450 2Eファミリーの1種類以上のメンバー(例えば、2E1)、チトクロムP450 2Fファミリーの1種類以上のメンバー(2F2)、チトクロムP450 4Aファミリーの1種類以上のメンバー(例えば、4A10)、チトクロムP450 2Jファミリーの1種類以上のメンバー(例えば、2J2)、チトクロムP450 4Bファミリーの1種類以上のメンバー(例えば、4B1)を阻害する薬剤は、一重項酸素、スーパーオキシド、およびエイコサノイド等の心臓毒性剤の産生を制限することができ、心臓保護的であり、また心筋梗塞等の種々の徴候または症状に関連している虚血および再灌流による障害を取り除く。さらに、これらの薬剤は、再灌流の開始とともに投与することができることから、それらは、例えば、血管形成術(例えば、ステント装着)または血栓溶解療法に対するアジュバントとして臨床的に適用できる。
【0012】
従って、1種類以上のチトクロムP450酵素の阻害剤を含む本明細書に記載の上記薬剤は、以下の例示的な徴候または症状の処置に有用である。すなわち、該徴候または症状とは、急性心筋梗塞、血管形成、冠状動脈バイパス移植手術、心バイパスを伴う手術、任意の器官での虚血性再灌流障害、卒中(脳血管アクシデント)、臓器移植、敗血症性ショックまたは外傷性ショック、同様に、アテローム硬化、緊張亢進、コカインによって誘発された心臓病、喫煙によって誘発された心臓病、心不全、および肺高血圧等の他の病的プロセスである。
【0013】
本発明の1つの実施形態では、虚血および/または再灌流障害を処置または抑える方法を提供する。この方法は、虚血および/または再灌流障害を持つ、または該障害になるリスクを持つヒト等の哺乳動物に対して、1種類以上の薬剤の有効量を投与する工程を包含するもので、該薬剤として、Hレセプターアンタゴニスト、H/KATPase阻害剤、抗菌剤、抗真菌剤、中枢神経系(CNS)活性剤、例えば、三環系抗うつ薬、セロトニン再取込阻害剤抗うつ薬、フェノチアジン抗精神病薬、およびベンゾジアゼピン不安緩解剤、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、メチラポン、7−エトキシレゾルフィン、HMG−CoAシンターゼ阻害剤、サルタン、ならびにカルシウムチャネル遮断薬が挙げられ、該薬剤は、好ましくは1種類以上のチトクロムP450酵素)を阻害し、例えば脈管介入手技に起因する虚血および/または再灌流を処置または防止するのに有効である。投与は、虚血および/または再灌流に先立っておこなってもよく、また虚血および/または再灌流の開始後、続けておこなってもよい。従って、チトクロムP450酵素の阻害剤を含む薬剤は、このように血管形成術、冠状動脈バイパス移植、または他の脈管介入手技の前に予防療法として使用することができ、あるいは移植のセッティングにおけるドナー器官(例えば、心臓、肺、肝臓、または腎臓)のための事前処置、例えば、器官を収集する前に、器官のレシピエントに対して任意に投与したり、急性急性アンギナの設定で起こるような虚血性障害に対して心臓を保護したりするために投与する。1種類以上の上記薬剤の投与は、虚血前、虚血症状発現後、もしくは再灌流開始後であってもよく、またはこれらの任意の組み合わせであってもよい。
【0014】
本発明の1つの局面では、方法は、ヒト等の哺乳動物に対して、虚血症状発現前に、血管介入的手法等により、虚血および/または再灌流障害を処置または抑えるのに有効な一定量の1種類以上の薬剤を投与する工程を包含し、該薬剤として、Hレセプターアンタゴニスト、H/K−ATPase阻害剤、抗菌剤、抗真菌剤、中枢神経系(CNS)活性剤、例えば、三環系抗うつ薬、セロトニン再取込阻害剤抗うつ薬、フェノチアジン抗精神病薬、およびベンゾジアゼピン不安緩解剤、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、メチラポン、7−エトキシレゾルフィン、HMG−CoAシンターゼ阻害剤、サルタン、ならびにカルシウムチャネル遮断薬が挙げられ、該薬剤は、好ましくは、1種類以上のチトクロムP450酵素)を阻害し、例えば、血管インターベンション手順に起因する虚血および/または再灌流障害を処置または防止するのに有効である。投与は、虚血および/または再灌流の発症前に始まっても、虚血および/または再灌流の発症後に続いていてもよい。チトクロムP450酵素の阻害剤を含む薬剤は、従って、血管形成術、冠動脈バイパス移植または他の血管インターベンション手順の前の予防的処置としてか、あるいは、例えば、器官の採取前に、移植の場面においてドナー器官(例えば、心臓、肺、肝臓または腎臓)に対する前処置として使用され得、必要に応じて、器官レシピエントに対して投与され、ならびに、急性狭心症の場面において生じるような虚血性損傷に対して心臓を保護するために投与される。
【0015】
従って、本発明は、哺乳動物ドナー器官での虚血および再灌流障害を抑える方法を提供する。この方法は、該ドナー器官と有効量の1種類以上の薬剤とを接触させる工程を包含し、該薬剤は、Hレセプターアンタゴニスト、H/K−ATPase阻害剤、抗菌剤、抗真菌剤、三環系抗うつ薬、セロトニン再取込阻害剤、フェノチアジン、ベンゾジアゼピン、カルシウムチャネル遮断薬、および非ステロイド性抗炎症薬からなる群から選択され、1種類以上の薬剤が、好ましくは1種類以上のチトクロムP450酵素を阻害する。1つの実施形態では、上記薬剤は、Hレセプターアンタゴニスト、例えばシメチジン、ラニチジン、もしくはエブロチジンである。1つの実施形態では、上記薬剤は、H/K−ATPase阻害剤、例えばオメプラゾールである。1つの実施形態では、上記薬剤は抗菌剤または抗真菌剤、例えば、クロラムフェニコール、ケトコナゾール、スルファフェナゾール、クロトリマゾール、またはミコナゾールである。1つの実施形態では、上記薬剤は、三環系抗うつ薬、例えばクロミプラミン、アミトリプチリン、もしくはデシプラミンである。1つの実施形態では、上記薬剤は、セロトニン再取込阻害剤、例えばフルオキセチン、セルトラリン、またはパロキセチンである。別の実施形態では、上記薬剤は、フェノチアジン、例えばクロルプロマジンである。1つの実施形態では、上記薬剤はベンゾジアゼピン、例えばフルラゼパムである。別の実施形態では、上記薬剤は非ステロイド性抗炎症薬、例えばジクロフェナク,フルフェナミン、フェノプロフェン、フルビプロフェン、またはケタプロフェンである。別の実施形態では、上記薬剤はカルシウムチャネル遮断薬である。
【0016】
別の実施形態では、本発明は、虚血症状発現後、本明細書に記載した有効量の1種類以上の薬剤(例えば1種類以上のチトクロムP450酵素を阻害する薬剤)を哺乳動物に対して投与することで、再灌流障害を阻害する方法を提供する。
【0017】
本発明の薬剤は、任意の経路または手段によって、限定されるものではないが、薬剤の経静脈的投与(例えば、予定した手技の前に)、虚血または再灌流障害のリスクがある器官に対するカテーテル(例えば、薬物送達用バルーンを持つ血管形成術用カテーテルを介した冠動脈内送達)、または経口投与、あるいは血栓溶解剤との組み合わせ(i.v.)によって、投与することができる。
本発明は、虚血または再灌流障害の抑制、予防、または処置に役立つように、本明細書に記載される薬剤の1種類以上の実質的に純粋な製剤を含む組成物およびキットも提供する。この組成物は、1種類以上のチトクロムP450酵素を選択的に阻害するのに有効な量の薬剤とキャリア(例えば、薬学的に受容可能なキャリア)とから構成される。この組成物またはキットは、任意に、1種類以上の他の治療薬を含むものであってもよく、該治療薬として、例えば本発明の薬剤および血栓溶解剤が挙げられる。このキットは、2つ以上の含有手段から構成されるものであってもよく、該含有手段の例として2本のバイアル瓶が挙げられ、各々のバイアル瓶に異なる薬剤が含まれる。あるいは、単一の含有手段に、本明細書に記載した薬剤の1種類以上を入れたものであってもよい。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
哺乳類動物の再灌流障害を処置または防止する方法であって、
虚血症状発現後、哺乳類動物に対して、Hレセプターアンタゴニスト、H/K−ATPase阻害剤、抗菌剤、抗真菌剤、三環系抗うつ薬、セロトニン再取込阻害剤、フェノチアジン、ベンゾジアゼピン、カルシウムチャネル遮断薬、および非ステロイド性抗炎症薬からなる群から選択される1種類以上の薬剤の有効量を投与する工程を包含し、該1種類以上の薬剤は、1種類以上のチトクロムP450酵素を阻害する、方法。
(項目2)
哺乳類動物の虚血および再灌流障害を防止する方法であって、
虚血および再灌流を呈しているか、または該虚血および再灌流のリスクを持っている哺乳類動物に対して、Hレセプターアンタゴニスト、H/K−ATPase阻害剤、抗菌剤、抗真菌剤、三環系抗うつ薬、セロトニン再取込阻害剤、フェノチアジン、ベンゾジアゼピン、カルシウムチャネル遮断薬、および非ステロイド性抗炎症薬からなる群から選択される1種類以上の薬剤の有効量を投与する工程を包含し、該1種類以上の薬剤は、1種類以上のチトクロムP450酵素を阻害し、該量は1種類以上のチトクロムP450酵素を選択的に阻害するのに有効である、方法。
(項目3)
哺乳類動物ドナー器官の虚血および再灌流障害を防止する方法であって、
該ドナー器官に対して、Hレセプターアンタゴニスト、H/K−ATPase阻害剤、抗菌剤、抗真菌剤、三環系抗うつ薬、セロトニン再取込阻害剤、フェノチアジン、ベンゾジアゼピン、カルシウムチャネル遮断薬、および非ステロイド性抗炎症薬からなる群から選択される1種類以上の薬剤の有効量を接触させる工程を包含し、該1種類以上の薬剤は、1種類以上のチトクロムP450酵素を阻害する、方法。
(項目4)
前記哺乳類動物での前記再灌流障害は、心筋虚血の後に起こる、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記哺乳類動物が心筋虚血を持つことが疑われる、項目2に記載の方法。
(項目6)
前記心筋虚血が、急性心筋梗塞、血管形成術、あるいは心バイパスもしくは心移植を含む冠状動脈バイパス移植手術に起因する、項目4または5に記載の方法。
(項目7)
前記哺乳類動物での再灌流障害は、脳虚血、腎性虚血、組織虚血、または腸管虚血の後に起こる、項目1に記載の方法。
(項目8)
前記哺乳類動物が、脳虚血、腎性虚血、組織虚血、または腸管虚血を呈するか、または脳虚血、腎性虚血、組織虚血、または腸管虚血のリスクを持っている、項目2に記載の方法。
(項目9)
前記脳虚血が、卒中、頭部外傷もしくは溺水に起因する、項目7に記載の方法。
(項目10)
前記組織虚血が、敗血症、心停止、ショック、または溺水に起因する、項目7に記載の方法。
(項目11)
心筋梗塞または脈管介入手技に関連した再灌流障害を処置または防止する方法であって、
このような処置を必要とする哺乳類動物に対して、Hレセプターアンタゴニスト、H/K−ATPase阻害剤、抗菌剤、抗真菌剤、三環系抗うつ薬、セロトニン再取込阻害剤、フェノチアジン、ベンゾジアゼピン、カルシウムチャネル遮断薬、および非ステロイド性抗炎症薬からなる群から選択される1種類以上の薬剤の有効量を投与する工程を包含し、該1種類以上の薬剤は、1種類以上のチトクロムP450酵素を阻害する、方法。
(項目12)
前記手順が、血管形成術、あるいは心バイパスもしくは心移植を含む冠状動脈バイパス移植手術である、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記1種類以上の薬剤が、前記手順前、中、または後に投与される、項目11に記載の方法。
(項目14)
血小板溶解薬をさらに含む、項目1、2、または11に記載の方法。
(項目15)
前記血小板溶解薬が静脈内投与される、項目14に記載の方法。
(項目16)
前記血小板溶解薬が、トリプシン、プラスミノーゲンアクチベーター、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、またはヘパリンである、項目14に記載の方法。
(項目17)
前記薬剤が、クロラムフェニコール、ケトコナゾール、スルファフェナゾール、スルファメトキサゾール、トリメトプリム、クロトリマゾール、エコナゾール、シメチジン、メチラポン、または7−エトキシレゾルフィンである、項目1、2、3、または11に記載の方法。
(項目18)
投与される前記量は、梗塞となった組織の量を25%を上回って減少させる、項目11に記載の方法。
(項目19)
前記ドナー器官が心臓、腎臓、または肝臓である、項目3に記載の方法。
(項目20)
前記接触が器官の採取に先立って行われる、項目3に記載の方法。
(項目21)
前記接触が移植に先立って行われる、項目3に記載の方法。
(項目22)
前記量が1種類以上のチトクロムP450酵素を選択的に阻害する、項目1または11に記載の方法。
(項目23)
前記哺乳類動物が器官移植レシピエントである、項目1または2に記載の方法。
(項目24)
前記脈管介入手技が、ステント、レーザー・カテーテル、アテレクトミー・カテーテル、血管顕微鏡検査法装置、βもしくはγカテーテル、旋回性アテレクトミー装置、被覆ステント、放射性バルーン、熱安定性ワイヤ、熱安定性バルーン、生物分解可能性ステント・ストラット、または生物分解性スリーブを用いる、項目11に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】虚血および再灌流もしくは再灌流のみの単離心臓(A)を処置するための実験的プロトコールを示す図である。
【図1B】虚血および再灌流もしくは再灌流のみのウサギ(B)を処置するための実験的プロトコールを示す図である。
【図2A−1】虚血/再灌流(I/R)後のクロラムフェニコール、シメチジン、およびスルファフェナゾール処理心臓での梗塞減少を示す図である。ラット成体心臓を20分間、ランゲンドルフ(Langendorff)モードで灌流し、つぎに30分間、非流動虚血にさらした後、再灌流を2時間行った。クロラムフェニコール(CAP)、ゲンタマイシン、シメチジン、またはスルファフェナゾールを、手順全体(Full)に対して、または再灌流のための虚血直後(CAP−After)に添加した。(A)再灌流の2時間後、心臓を凍結し、TTCを用いて梗塞サイズを評価した。冠動脈流出物を、虚血直前および直後に15分間にわたり回収し、CK放出について評価した。誤差バーはSEMを示す。*は、p<0.01を示し、**はP<0.001(I/Rとの比較)。
【図2A−2】虚血/再灌流(I/R)後のクロラムフェニコール、シメチジン、およびスルファフェナゾール処理心臓での梗塞減少を示す図である。ラット成体心臓を20分間、ランゲンドルフ(Langendorff)モードで灌流し、つぎに30分間、非流動虚血にさらした後、再灌流を2時間行った。クロラムフェニコール(CAP)、ゲンタマイシン、シメチジン、またはスルファフェナゾールを、手順全体(Full)に対して、または再灌流のための虚血直後(CAP−After)に添加した。(A)再灌流の2時間後、心臓を凍結し、TTCを用いて梗塞サイズを評価した。冠動脈流出物を、虚血直前および直後に15分間にわたり回収し、CK放出について評価した。誤差バーはSEMを示す。*は、p<0.01を示し、**はP<0.001(I/Rとの比較)。
【図2A−3】虚血/再灌流(I/R)後のクロラムフェニコール、シメチジン、およびスルファフェナゾール処理心臓での梗塞減少を示す図である。ラット成体心臓を20分間、ランゲンドルフ(Langendorff)モードで灌流し、つぎに30分間、非流動虚血にさらした後、再灌流を2時間行った。クロラムフェニコール(CAP)、ゲンタマイシン、シメチジン、またはスルファフェナゾールを、手順全体(Full)に対して、または再灌流のための虚血直後(CAP−After)に添加した。(A)再灌流の2時間後、心臓を凍結し、TTCを用いて梗塞サイズを評価した。冠動脈流出物を、虚血直前および直後に15分間にわたり回収し、CK放出について評価した。誤差バーはSEMを示す。*は、p<0.01を示し、**はP<0.001(I/Rとの比較)。
【図2B】虚血/再灌流(I/R)後のクロラムフェニコール、シメチジン、およびスルファフェナゾール処理心臓での梗塞減少を示す図である。ラット成体心臓を20分間、ランゲンドルフ(Langendorff)モードで灌流し、つぎに30分間、非流動虚血にさらした後、再灌流を2時間行った。クロラムフェニコール(CAP)、ゲンタマイシン、シメチジン、またはスルファフェナゾールを、手順全体(Full)に対して、または再灌流のための虚血直後(CAP−After)に添加した。(B)各処置に対してTTCで染色した例示的な心臓切片。
【図2C】虚血/再灌流(I/R)後のクロラムフェニコール、シメチジン、およびスルファフェナゾール処理心臓での梗塞減少を示す図である。ラット成体心臓を20分間、ランゲンドルフ(Langendorff)モードで灌流し、つぎに30分間、非流動虚血にさらした後、再灌流を2時間行った。クロラムフェニコール(CAP)、ゲンタマイシン、シメチジン、またはスルファフェナゾールを、手順全体(Full)に対して、または再灌流のための虚血直後(CAP−After)に添加した。
【図3A】クロラムフェニコールは、有意に梗塞サイズを減らして、ウサギで回旋枝冠動脈閉塞後の後虚血低血圧症を抑える。4時間の再灌流が後に続く虚血30分間誘導(冠動脈閉塞症)の30分前に、ウサギに対して、CAP(20mg/kg)有りおよび無しの注射を行った。(A)4時間目に、心臓を除去して素早く凍結し、梗塞サイズについてブラインド評価した。虚血後、ベースラインからの左室圧の減少を評価した。誤差バーは、平均値および標準誤差(n=6)を表す。星印は、p値<0.05を表す。
【図3B】クロラムフェニコールは、有意に梗塞サイズを減らして、ウサギで回旋枝冠動脈閉塞後の後虚血低血圧症を抑える。4時間の再灌流が後に続く虚血30分間誘導(冠動脈閉塞症)の30分前に、ウサギに対して、CAP(20mg/kg)有りおよび無しの注射を行った。(B)ラット心臓をCAP(100μg/ml)存在下または非存在下、ランゲンドルフ・モードで15分間にわたって灌流し、つづいて20分間虚血および同一緩衝液による15分間再灌流を行った。スーパーオキシド・レベルの評価は、エチジウムへのDHE変換を測定することで行った。星印は、p値<0.05を示す。誤差バーは、虚血/再灌流(n=5)、虚血/再灌流+CAP(100μg/ml)(n=4)の標準誤差を表す。
【図4A】ミトコンドリアに対するクロラムフェニコール注入の効果とCYO活性を示す図である。(A)クロラムフェニコールの存在下または非存在下で灌流を行った心臓から単離したミトコンドリアを、ミトコンドリア・ゲノムによってコードされたタンパク質であるチトクロム・オキシダーゼ・サブユニット(CO−1)および複合体1サブユニット3(ND3)の発現レベルについて評価した。
【図4B】ミトコンドリアに対するクロラムフェニコール注入の効果とCYO活性を示す図である。(B)ミトコンドリア呼吸をポーラログラフ分析によって評価した。状態3および状態4呼吸を、パルミトイルカニチン(複合体1基質)、コハク酸塩(複合体II基質)、およびTMPD/アスコルビン酸塩(複合体1Y基質)について示す。誤差バーは標準偏差を示す。
【図4C】ミトコンドリアに対するクロラムフェニコール注入の効果とCYO活性を示す図である。(C)心臓ミクロソームを、クロラムフェニコールの存在下または非存在下で灌流した心臓から調製し、CYP活性をAMMCのNADPH依存型脱メチル化反応として測定した。
【図5A】AMMC脱メチル化酵素活性に対するスルファフェナゾールの効果を示す図である。(A)AHMC生成物生成速度を評価し、IC50値を計算した。
【図5B】AMMC脱メチル化酵素活性に対するスルファフェナゾールの効果を示す図である。(B)AHMC生成物生成を、スルファフェナゾール(50μM)(SUL)の存在または非存在下で、バウロウイルス感染CYP2D特異的スーパーソームで2時間にわたって測定した。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(発明の詳細な説明)
(I.定義)
薬剤の「有効量」という用語は、限定されるものではないが心筋梗塞、卒中、敗血性ショック、外傷性ショック等の兆候および症状、ならびに血管形成術や、心バイパス、心臓動脈側副路移植手術、および臓器移植を含む外科手術等の脈管介入手技に伴う虚血および/または再灌流障害を処置、抑制、または予防するのに十分な量である。好ましい有効量は、1種類以上のチトクロムP450酵素を選択的に阻害する量である。例えば、インビトロでは、10μMスルファフェナゾールがチトクロムP450 2Cの阻害に対して選択的である。インビトロでの選択的阻害に用いられる例示的な薬剤の例示的な量は、50mg/kg/日のクロラムフェニコールであり、任意の分割投与量で800〜1,600mg/日であり、あるいはシメチジンの場合は50mg/時間(輸液)、トリメトプリムの場合は80〜200mg/日(分割投与量)または160mg/時間(輸液)、スルファメトキサゾールの場合は800〜1,600mg/日(分割量)、さらにメチルポン(methyrpone)の場合は4時間ごとに750mg(15mg/kg=単回投与)である。チトクロムP450酵素を選択的阻害する量を同定する方法は、公知である(例えば、Masimirembwaら、2001;Kellyら、2000;およびMasubuchiら、1998を参照せよ)。本発明の方法で有用な薬剤の有効量は、選択薬剤、ならびに哺乳動物の年齢、性別、健康状態、および体重等のファクターにもとづいて変動し、また当業者に周知の方法で決定することができる。
【0020】
「薬学的に受容可能な」は、キャリア、希釈液、賦形剤、および/または塩(製剤の他の成分と互換性があり、そのレシピエントに対して有害ではない)を意味する。
【0021】
「薬学的に受容可能な塩類」は、この発明に用いられる化合物の塩類であり、非毒性の酸または塩基性塩類を形成するのに十分な酸性または塩基性を持ち、例えば、好ましくは適当な有機または無機塩基と遊離酸とを反応させて調製することができる。塩の形態の例として、限定されるものではないが、アセテート、ベンゼンスルホナート、安息香酸塩、重炭酸塩、重硫酸塩、酒石酸水素塩、ホウ酸塩、臭化物、カルシウム、エデト酸カルシウム、カンシラート、炭酸塩、塩化物、クラブラン酸塩、クエン酸塩、二塩化水素化物、エデト酸塩、エジシル酸塩、エストレート、エシレート、フマル酸塩、グルセプテート、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリコリルアルサニル酸塩、ヘキシルレゾルシナート、ヒドラバミン、ヒドロブロミド、塩酸、ヒドロキシナフトエート、ヨウ化物、イソチオネート、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシレート、臭化メチル、硝酸メチル、硫酸メチル、ムケート、ナプシレート、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸エステル、パモ酸塩、パルミチン酸塩、パントテネート、リン酸塩/二リン酸塩、ポリガラクツロ酸、カリウム、サリチル酸塩、ナトリウム、ステアリン酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクル酸塩、トシル酸塩、トリエチオジド、および吉草酸塩、ならびにアルミニウム、アンモニウム、カルシウム、銅、第2鉄、第1鉄、リチウム、マグネシウム、マンガン塩、カリウム、ナトリウム、亜鉛、その他を含む無機塩基に由来する塩類を挙げることができる。非毒性の有機塩基に由来する塩類として、一級、二級、および三級アミンの塩類、置換アミン類(天然に生ずる置換アミン類および環状アミン類等)、ならびに塩基性イオン交換樹脂(例えば、アルギニン、ベタイン、カフェイン、コリン、N,N−ジベンジルエチレンジアミン、ジエチルアミン、2−ジエチルアミノエタノール、2−ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、エチレンジアミン、N−エチルホルホリン、N−エチルピペリジン、グルカミン、グルコサミン、ヒスチジン、ヒドラバミン、イソプロピルアミン、リジン、メチルグルアニン、モルホリン、ピペラジン、ピペリジン、ポリアミン樹脂、プロカイン、プリン、テオブロミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、トロメタミンなどが挙げられる。
【0022】
薬学的に受容可能な塩類の例は、生理学的に受容可能な塩を形成する酸により形成された有機酸付加塩類であり、例えば、トシル酸塩、メタンスルホン酸塩、アセテート、クエン酸塩、マロン酸塩、酒石酸塩、琥珀酸塩、安息香酸塩、アスコルビン酸塩、α−ケトグルタル酸塩、およびα−グリセロリン酸塩が挙げられる。適当な無機塩類もまた、形成することが可能であり、例えば塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、重炭酸塩、および炭酸塩の塩類が挙げられる。カルボン酸に由来する塩類として、それらのエステル、好ましくはアルキルエステルが挙げられる。
【0023】
薬学的に受容可能な塩類は、例えばアミン等の十分に塩基性の化合物と生理学的に受容可能なアニオンを与える適当な酸とを反応させることによって、当業者に周知の標準的方法を用いて得ることができる。
【0024】
本明細書で用いられるように、「実質的に純粋」とは、対象種は、存在する支配的な種であり(すなわち、モル・ベースで、組成物中の個々の他の種のいずれよりも豊富である)、好ましくは実質的に精製された分画が、対象種が少なくとも、存在するすべての高分子種の少なくとも約50%を構成する組成物である。一般に、実質的に純粋な組成物は、組成物に存在するすべての高分子種の約80%を上回る部分を構成し、より好ましくは約85%、約90%、約95%、および約99%を上回る部分を構成する。最も好ましくは、対象種は本質的に均質性を呈するまでに精製され(従来の検出方法では組成物中に汚染種を見つけることができない)、組成物が本質的に単一の高分子種からなる。
【0025】
本明細書で用いられる「哺乳類動物」として、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギ、および家畜(例えば、バッファロー、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、およびブタ)が挙げられる。
【0026】
「プリコンディショニング」として、第2のより厳しいストレスに対する抵抗を与える短い期間の細胞のストレスが挙げられる。
【0027】
(II.本発明の方法で有用な薬剤を同定するための例示的な薬剤および方法)
本発明の薬剤は、虚血および/または再灌流障害を持つ(冒されている)または虚血および/または再灌流障害のリスクがある哺乳類動物を処置するのに有用である。チトクロムP450酵素の阻害剤が心筋に対する虚血および/または再灌流障害を阻害するのに有用であるという知見が得られていることから、これらの薬剤は、本明細書に開示された他の薬剤と同様に、虚血および/または再灌流障害に関連した幅広い範囲の兆候または症状を処置または予防するのに有用であると考えられる。例えば、これらの薬剤として、限定されるものではないが、Hレセプターアンタゴニスト、H/KATPase阻害剤、抗菌剤、抗真菌剤、ならびに三環系抗うつ薬、セロトニン再取込阻害剤抗うつ薬、フェノチアジン抗精神病薬、およびベンゾジアゼピン不安緩解剤等の活性剤が挙げられる。好ましい薬剤として、Hレセプターアンタゴニスト(例えば、シメチジン、ラニチジン、およびエブロチジン)、H/KATPase阻害剤(例えば、オメプラゾール)、抗菌剤または抗真菌剤(例えばクロラムフェニコール、エコナゾール、ケトコナゾール、スルファフェナゾール、トリメトプリム、スルファメトキサゾール、クロトリマゾール、およびミコナゾール)、中枢神経系(CNS)活性剤(例えば、クロミプラミン,アミトリプチリン、およびデシプラミン、セロトニン再取込阻害剤抗うつ薬(例えば、フルオキセチン、セルトラリン、およびパロキセチン)、フェノチアジン抗精神病薬(例えば、クロルプロマジン)、およびベンゾジアゼピン不安緩解薬(例えば、フルラゼパムおよびメダザパム)、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)(例えば、ジクロフェナク、フルフェナミン、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、およびケトプロフェン)、メチラポン、7−エトキシレゾルフィン、HMG−CoAシンターゼ阻害剤(例えば、スタチン)、サルタン、およびカルシウムチャネル遮断薬(例えば、ジルチアゼム、ベラパミル、レルカニジピン、ニフェジミン、ニソルジピン、ニカルジピン、イスラジピン、ニトレンジピン、フェロジピン、およびアムロジピン)が挙げられる。本明細書に記載したように、広範囲の阻害剤の使用よりもむしろ、ある種のチトクロムP450酵素に対する特異性を持つ阻害剤の使用、および/または1種類以上のチトクロムP450酵素を選択的に阻害する特定の投薬量のチトクロムP450阻害剤が、関係のない生理学的プロセスを妨げることによって生ずる副作用を最小限にすることができる。
【0028】
(A.薬剤を同定するための例示的な方法)
本発明の方法に有用な薬剤を同定するための方法として、インビトロおよびインビボ方法が挙げられる。インビトロ方法は、組織培養あるいは単離された器官もしくは組織を用いることができる。例えば、腎上皮細胞は、インビトロで培養されることができる。虚血を刺激するために、組織培養あるいは単離された器官もしくは組織を用いることができる。腎上皮細胞を、生体外で培養することができる。融合性上皮細胞シートの形成後、細胞をリン酸緩衝食塩水で洗い、さらに単層を鉱油に浸漬する(Meldrumら、2002)。鉱油にさらすことで、細胞が酸素および栄養素にさらされるのが制限され、代謝産物がに制限して、代謝産物のウオッシュアウト(washout)が防げる。組織培養中の他の細胞種、例えば単離筋細胞に対しても、虚血をシミュレーションすることができる(Gottliebら、1994;Gottliebら、1996;Henryら、1996)。虚血の防止または予防に使用する薬剤をスクリーニングするために、該薬剤を虚血前または虚血中に培養基に添加してもよい。その後、コントロール培養基と薬剤処理培養基とで細胞性障害の量を決定した。腎性虚血では、腎虚血性障害を減少させる薬剤を同定する上でクレアチン濃度のインビトロ測定が有用であると思われる(Brasileら、2002)。一方、心筋虚血性障害を減少させる薬剤を同定する上でCK濃度の測定((例えば、CK EC2.7.3.2 UV−Testキット,Sigmaを用いる)が有用であると思われる。
【0029】
心筋虚血に有効な薬剤を同定する他のインビトロ方法として、試験薬剤で処理された単離心臓でのCK放出、スーパーオキシド産生、および冠状流を測定することが挙げられる。例えば、麻酔下でウサギ等の哺乳類動物から心臓を切除し、素早くカニューレ挿入してランゲンドルフ灌流装置と接続した。この心臓を虚血/再灌流症状の発現前にクレープス・リンゲル緩衝液で、例えば15〜60分間、灌流した。無流動虚血状態を一定の時間(例えば、5〜60分間)維持し、流動の回復(例えば、5〜60分間)によって再灌流を行った。虚血のプリコンディショニングは、例えば、非流動虚血と規則的虚血直前の再灌流との5分周期を3回繰り返すことで、誘導される。虚血誘導前、虚血開始時、再灌流開始時、またはそれらの任意の組み合わせで、試験すべき薬剤を添加してもよい。コントロール対試験心臓でのCK放出の測定は、製造元の指示通りにCK EC2.7.3.2 UV−Testキット(Sigma)を用いておこなうことができる。
【0030】
同様に、単離した腎臓を、移植腎臓モデルでの薬剤のスクリーニングに用いることが可能である(Brasileら、2002を参照せよ)。
【0031】
スーパーオキシド産生の評価は、エチジウムへのジヒドロエチジウム(DHE)の変換を介しておこなうことができる(Millerら、1998)。組織(例えば、心臓)切片(1mm厚)を2μM DHE((Molecular Probes,Eugene,OR)含有PBSで、暗所で37℃、20分間、染色した。Kodack Digtal Science 1Dソフトウェア(Kodak)を用いて、Kodak DC120デジタル・カメラ(Kodak)により紫外線トランスルミネーター(Fisher Scientific)上に得られた切片の画像をTIFFファイルとして保存し、Adobe Photoshop 5.5を用いて分析した。スーパーオキシド産生を反映している相対的な蛍光強度を、心臓全体の面積に対する蛍光(白色)ピクセルの比として定量した。統計解析は、ANOVAを用いて群間で行った。また、梗塞領域の大きさの測定にも心臓切片を用いることができる(実施例を参照せよ)。
【0032】
インビトロアッセイで1種類以上のチトクロムP450酵素を阻害する薬剤の能力についても調べた(実施例IIを参照せよ)。
【0033】
本発明の薬剤を、動物モデルでの心筋、腸管、腎臓、または脳の虚血に関連した再灌流障害から守る、あるいは該障害を防止または処置する効果について、調べることができる。心筋梗塞は、通常、アテローム硬化性プラークの破裂に対して続発する血栓症による冠状血管の急性閉鎖の結果である。隣接する心筋への障害および結果として生ずる心不全は、虚血と再灌流の期間中に生じた障害とが続いている期間に対して続発する。再灌流障害は、酸素遊離ラジカルの上昇と炎症性メディエーターとを伴う。心筋虚血の例示的な動物モデルが、Zhangら、1999;Ningら、および本明細書の実施例に開示されている。
【0034】
ラットおよびウサギが腸管虚血のモデルとして使われてきた(Kuenzlerら、2002;Caglayanら、2002)。ウサギ腸管虚血/再灌流モデルでは、例えば、該動物を開腹し、それから、無傷性の微小血管クランプを腸間膜動脈にかけて、関連する静脈を閉塞する(Caglayanら、2002)。セグメントの両端で辺縁血管を分けて連結し、さらに壁内副行血流を無傷性の腸圧挫鉗子で停止させる(Caglayanら、2002)。腸間膜拍動が失われて腸管セグメントが青白くなりはじめると、腸間膜の虚血が確認される。つぎに、腸を腹腔に戻して切開部を閉じる。所望の虚血期間(例えば、60分間)後、再び開腹をおこない、動脈の微小血管クランプを取り除いて再灌流をおこなう。障害の検出は、細胞内酵素、例えばアスパラギン酸塩アミノトランスフェラーゼ、CK、および乳酸塩ジヒドロゲナーゼの血中濃度(Caglayanら、2002)、またはガラクトースもしくはグリシンの吸収度(Kuenzlerら、2002)によって、おこなうことができる。また、腸管粘膜の病変を、Chinら、1970に記載どおりに、測定することができる。
【0035】
同様に、げっ歯動物モデルで、一方または両方の腎動脈をクランプすることで腎性虚血の誘導をおこなうことができ、またクランプを取り除くことで再灌流を誘導できる(Yoshidaら、2002;Miyazawaら、2002)。コントロール動物および試験薬剤処理動物でのクレアチンおよび好中球、中間型T細胞ならびに/または多形核リンパ球のレベルを測定することができる(Brasileら、2002;Miyazawaら、2002)。クレアチンおよび好中球のレベル、中間型T細胞および/または検査医薬品で接触するコントロール動物と動物の中の多形核リンパ球は、それから測定されていることがありえる(Brasileら、2002;Miyazawaら、2002)。脳虚血は、例えば、中大脳動脈閉塞の方法によってラットで一時的に誘発することができる(Loyら、2002;Longaら、1989)。
【0036】
肝虚血および再灌流障害に伴う敗血症のブタモデルを用いて、薬剤のスクリーニングをおこなってもよい(Lemaireら、1994)。このモデルでは、門脈大静脈シャントを作り、その後、肝臓の枝(すなわち、門脈および総肝動脈)をクランプすることで虚血が達成される。再灌流は、門脈下大静脈吻合を閉じることによって達成される。盲腸の結紮および穿孔を使用する慢性敗血症のラット・モデルも、用いることが可能である(Scottら、2002)。
【0037】
アテローム硬化の発症は、平滑筋細胞、内皮細胞、および炎症性細胞を巻き込む複雑なプロセスであり、特に単球由来組織マクロファージ、BまたはT細胞、ならびに活性酸素種がアテローム硬化を促進させると考えられている。ひとたび内皮細胞が活性化されると、該内皮細胞は、炎症細胞の溢出にとって重要な細胞接着因子を発現する。活性化内皮細胞は、他の粘着分子中、E−セレクチン、P−セレクチン、およびICAM−1(順々に白血球の溢出に関与する)を発現する。強力な炎症誘発性サイトカインもまた、初発性血管障害の部位で発現された。TNF−αおよびIL−1が、IL−8およびMCP−1を含むいくつかのケモカインと同様に、アテローム硬化性病変でレベルが上昇することがわかった。
【0038】
現在、血管障害の急性的な安定性が、短期の、例えば、数年もたたないうちに、全プラーク負荷(total plaque burden)であるよりも、心筋梗塞のリスクのより重要なデターミナントであることが、認められている。チトクロムP450酵素の阻害剤は、例えばプラーク負荷もしくは障害発症の減少、またはプラーク安定性の上昇によって、アテローム硬化を抑制または予防するのに有用であり、心筋梗塞のリスクを減少させる。アテローム硬化の動物モデルは、当該技術分野で知られており、所望の特性を持つ薬剤のスクリーニングに用いることが可能である(例えば、Postら、2002;Bergら、2002;Georgeら、2002;Nishimotoら、2002を参照せよ)。
【0039】
高血圧症は、アテローム硬化の危険因子である。本発明の薬剤が高血圧の抑制または処置に有用であるかどうかを判断するために、ウサギモデルが用いられる。プラーク形成の誘発は、ニュージーランド白ウサギに対して3週間にわたりアテローム誘発食を与えることによっておこなう。各ウサギ群の1/2に試験薬剤を投与して、ダクロン・バンドで下行胸部大動脈(狭窄群)の中央部のまわりを包むことで、大動脈絞窄を作る。別の群のウサギに対しては、大動脈絞窄なしでバンディング技術を施す。さらに別の群のウサギは、コントロール群とする。
【0040】
脈管介入手技に関連した虚血または再灌流障害の防止に薬剤を用いることができるかどうかを判断するために、いくつかの動物モデルを用いることができる(例えば、Wilczekら、2002;Maffiaら、2002;Yasudaら、2002;Kipshidzeら、2002;Yoonら、2002を参照せよ)。
【0041】
(B.心臓誘導の処置に有用なチトクロムP450阻害剤を同定する例示的なインビトロ方法)
心臓組織は、心筋細胞を含む。該心筋細胞は、機械的力を生じ、心臓の大部分の酸素およびエネルギーを消費し、さらに心臓のミトコンドリアの大部分を含む。心臓組織は、内皮細胞も含む。内皮細胞は、心臓の毛細血管を裏打ちし、一酸化窒素と血管運動の調子および心収縮性を調節する他の因子とを産生する。内皮細胞は、心筋細胞に等しい数が心臓に存在するにもかかわらず、その質量は心臓の約1/10である。
【0042】
チトクロムP450酵素(EC 1.14.14.1、非特異的モノオキシゲナーゼ)は、特徴的な吸収スペクトルによって定義されるヘム・タンパク質であり、Fe(II)CO錯体が、450μm端付近に特徴的なソレー帯を有する。チトクロムP450酵素は、FAD/FMN含有NADPH−チトクロムP450還元酵素およびチトクロムbも含まれる多酵素系の状態で存在する膜結合型のターミナル・オキシダーゼである。チトクロムP450エンザイム・スーパーファミリーに属する酵素は、酸素およびNADPH依存型のかたちで、コレステロール、ステロイド、アラキドン酸、ブラジキニン、ビタミン、ゼノバイオティックス、および多数の治療物質を酸化、過酸化、および/または還元する。いくつかのチトクロムP450アイソフォームは、基質の選択に特異性があるが、多くのもの、特に小胞体に存在するものは、多数の反応を触媒する。
【0043】
多くの異なるチトクロムP450酵素が存在し、30未満のチトクロムP450遺伝子が単一の生物体で該遺伝子の産物を発現しうる。また、その多くの遺伝子産物が一つの組織で同時に産生される。チトクロムP450遺伝子は、そのコード配列および配列相同性にもとづいて分類される(Nebertら、1991)。40%以上の配列同一性を持つすべての種から得られたチトクロムP450タンパク質を同一のファミリーに導入して、アラビア数で示す。相同性が55%を上回るタンパク質を同一のサブクラスにグループ分けして大文字で示し、最後の数が特定遺伝子産物を特定する(Coonら、1992)。
【0044】
大多数のチトクロムP450酵素が肝臓で発現され、肝臓外組織での発現は著しく低レベルである。しかし、いくつかのチトクロムP450酵素が心臓、血管系、胃腸管、腎臓、および肺で主に検出される(Oyekanら、2002;Scarboroughら、1999)。
【0045】
チトクロムP450の分布は、左右の心室間で異なっており、さらに細胞型によっても異なる。チトクロムP450モノオキシゲナーゼは、心臓内皮細胞と心筋細胞とに存在し、冠動脈血流の調節、および活性酸素種(ROS)(例えば、スーパーオキシド)および血管作動性エイコサノイドの産生にとって重要である。エイコサノイドは順番に細胞内シグナル伝達経路、形質膜イオンチャネル、および潜在的に、プリコンディショニングによる心保護に関係するミトコンドリアATP感受性カリウムチャネル(mito KATP)を調整する。
【0046】
チトクロムP450酵素の阻害剤は、該酵素の特異性にもとづいて選択することができる。例えば、フルバスタチンはCYP2C9の強力な阻害剤である(Scriptureら、2001)。一方、ロバスタチン、アトルバスタチン、シムバスタチン、およびデリバスタチンは、CYP2C19およびCYP3A4を阻害し、さらにアトルバスタチン、セリバスタチン、およびフルバスタチンはCYP2D6に対する中程度の阻害剤である。特定のチトクロムP450アイソザイムの選択的阻害剤を同定するために、心臓組織での再灌流霜害に関与するチトクロムP450酵素を同定するのと同様に、例えば、アラキドン酸およびリノール酸を代謝するものは、本明細書に記載したアッセイを含む種々のアッセイおよび/またはアイソザイム特異的基質および/または阻害剤によるアッセイを、用いることができる。チトクロムP450アイソザイムは、むしろゆるく還元酵素に結合する。この非効率的な結合は、副生成物スーパーオキシドの生成をもたらし、他のものよりもいくつかのアイソザイムによって、より多く生ずる。低酸素状態後または酸化ストレス(例えば、過酸化水素)にさらされた後、いくつかのチトクロムP450アイソザイムがさらにもっと解離(uncoupled)し、より強くスーパーオキシドを生成する。H9c2(ラット胎児細胞系)、および新生児ラット心筋細胞が、アポトーシスを開始し、過酸化水素に反応してスーパーオキシドを産生し、さらにそれをスルファフェナゾール等のチトクロムP450阻害剤による処置で救い出すことができることが観察された。これらの結果は、過酸化水素による処置は、チトクロムP450アイソザイムを解離させることで、アポトーシスにつながるROS産生の増加をもたらすことを示唆した。
【0047】
(1.内皮細胞)
内皮細胞内のチトクロムP450アイソザイムが心筋細胞のものと異なることから、
心臓組織での再灌流障害に関与するチトクロムP450を同定するアッセイで、内皮細胞および心筋細胞を用いる。従って、ヒト冠状動脈内皮細胞(HAEC)および/またはラット心臓内皮細胞(コラゲナーゼ灌流およびラット心臓の解離によって得た)等の内皮細胞ならびに心筋細胞に対して、チトクロムP450活性、特にスーパーオキシド産生能、ならびにチトクロムP450阻害(例えば、心保護チトクロムP450阻害剤)に対する感受性についてのスクリーニングを行った。例えば、HAEC、ラット内皮細胞、および/または成体心筋細胞を、H誘導アポトーシスから該細胞を救出するチトクロムP450阻害剤の能力について、スクリーニングする。アポトーシスの記録は、分光測光式プレート読み取り装置を用いてテトラゾリウム染料MTTの還元により点数化して、おこなう。MTTが生細胞のジヒドロゲナーゼによって還元されると、着色産物が得られる。従って、MTTアッセイは、生存細胞を採点することになる。結果は、正常膜電位を持つミトコンドリアをローダミン123を用いて染色し、一方核をヘキスト33432で染色することで、生細胞の蛍光顕微鏡をおこなうことにより、確認される。ジヒドロエチジウムを、スーパーオキシド産生の示度(readout)として用いる。
【0048】
(2.アイソザイム特異的阻害剤)
HAECをGentest基質とともに用いて、特異的ヒト・チトクロムP450アイソザイムと、種々のチトクロムP450阻害剤の有効性を調べた。ヒト心臓組織に存在すると知られている特異的アイソザイムとして、表1に列挙したものが挙げられる。基質は、CYP1A、2B、2C、2D、2E、および4Aアイソザイムについて、商業得的に入手可能である。アラキドン酸代謝産物は、LC−MS−MSを用いて検出することができる。予防効果とチトクロムP450阻害剤の同一サブユニットに対して感受性を示すアイソザイムとの間の緊密な相互関係は、特定のアイソザイムと関係しており、該アイソザイムは、阻害剤の同一サブユニットに対して感受性を示す。同じアイソザイムは、心臓での再灌流障害の原因にもなり得る。
【0049】
(表1:ヒト心臓のCYPアイソザイム)
【0050】
【表1】

心保護が単離心筋細胞でより密接に酸化ストレスの保護と相関する場合、有害なチトクロムP450アイソザイムが内皮細胞よりむしろ心筋細胞の中で存在する可能性がある。凍結した心臓切片でのスーパーオキシド産生を測定するために、未固定ヒト心臓クリオスタット切片をジヒドロエチジウムで染色して、基礎スーパーオキシド産生を検出する。類似の切片を候補チトクロムP450阻害剤で処置し、該阻害剤がスーパーオキシド産生を抑制する能力を評価する。チトクロムP450依存ROS産生が、過酸化水素で初めに前処理したスライドで増加する。
【0051】
ラット心臓での再灌流障害に関与するチトクロムP450アイソザイムは、種(例えば、CYP1B1)を超えて高度に保存されており、そのアイソザイムがヒト心臓組織に存在することから、ヒトの対応アイソザイムが候補阻害遺伝子に影響される可能性がある。クロラムフェニコールおよびスルファフェナゾールで阻害したラット心臓の候補チトクロムP450アイソザイムを、基質としてAMMC(Gentest産物)を用いて検出することができる。AMMC脱メチル化酵素活性は、密接に、灌流心臓モデルでの保護に必要とされる濃度に密接に対応する濃度範囲のクロラムフェニコールおよびスルファフェナゾールによって、阻害される。CYP2D2および2D6が、AMMCを脱メチル化する最も一般的な酵素である一方で、それらの酵素は組み換え系ではスルファフェナゾールによる阻害を受けなかった。
【0052】
(3.冠状動脈環の血管緊張)
再灌流の間、血管拡張は十分な再酸素負荷を可能とする上で重要であり、その一方で血管収縮が末端組織で虚血を永続させる。本明細書に記載された結果は、再灌流中の冠血流量を高めることが示されており、血管拡張が少なくともいくつかのチトクロムP450阻害剤の特徴であることを示唆している。心臓を保護する薬剤を同定するために、外植血管(例えば、冠状動脈バイパス移植時に得たもの)から得た冠状動脈環切片を用いることができる。なぜなら、該切片はスーパーオキシドに反応にして収縮し、一酸化窒素に反応して弛緩するからである。従って、血管緊張は、スーパーオキシドと一酸化窒素とのバランスの裏返しである。チトクロムP450酵素からのスーパーオキシド産生の阻害は、テンションメーターで測定可能な血管緊張低下に帰着する。必要に応じて、器官浴槽灌流用緩衝液を修飾して上記環断片を最初に虚血および再灌流にかけて、スーパーオキシド産生を悪化させることができる。血管緊張低下と梗塞規模の減少との間で、相互関係が確立されており、血管緊張低下を高めるチトクロムP450阻害剤が梗塞規模を減少させることが可能である。
【0053】
(4.乳頭筋部)
ヒト心臓由来の乳頭筋部を外科手術の際に取り出し、器官浴槽での虚血/再灌流処理を施した。本発明に有用な薬剤は、スーパーオキシド産生(DHE変換によって検出)を制限し、アポトーシス(TUNELアッセイによって組織学的切片で検出、Gottlieb,1994を参照せよ)を減らす。
【0054】
(5.白血球および血小板)
再灌流障害の1つの側面は、炎症によってもたらされ、活性T細胞、単核細胞、およびマスト細胞、ならびにおそらくB細胞および好中球が包含される。T細胞は、遊離基によって活性化されることから、おそらく再灌流中に活性化される。従って、末梢白血球を用いて、チトクロムP450阻害剤の有効性についてスクリーニングしてもよい。リンパ球、好中球、および単核細胞は、標準的な分析法を用いて全血液から得られる。活性化の評価は、活性化特異的抗体を用い、適当な刺激にさらした後、フローサイトメトリーによっておこなう。活性化白血球のROS産生を抑制する薬剤は、任意の器官での再灌流障害において、有益であると思われる。
【0055】
血小板凝集は、虚血/再灌流障害のもう一つの側面である。血小板活性化がチトクロムP450酵素によって発生する可能性があるROSとアラキドン酸代謝物とによって引き起こされる可能性があることを示唆されている。従って、血小板中のチトクロムP450酵素の阻害は、凝集を抑制する可能性がある(凝集は、ヒト血液から血小板凝集測定法およびヒト血液由来精製血小板を用いて試験することができる効果であり、該血小板を種々のチトクロムP450の存在または非存在下でインキュベートする)。
【0056】
(D.例示的な薬剤)
多数の薬剤が本発明の方法で用いることが可能であり、限定されるものではないが、該薬剤として、Hレセプターアンタゴニスト(シメチジン、ラニチジン、およびエブロチジン)、H/K−ATP阻害剤(例えば、オメプラゾール)、抗菌剤および抗真菌剤(例えば、クロラムフェニコール、エコナゾール、ケトコナゾール、スルファフェナゾール,トリメトプリム、スルファメトキサゾール、クロトリマゾール、およびミコナゾール、CNS−活性剤(例えば、三環系抗うつ薬(例えば、クロミプラミン、アミトリプチリン、およびデシプラミン)、セロトニン再取込阻害剤抗うつ薬(例えば、フルオキセチン、セルトラリン、およびパロキセチン)、フェノチアジン抗精神病薬(例えば、クロルプロマジン)、およびベンゾジアゼピン不安緩解剤(フルラゼパムおよびメダザパム))、NSAID(例えば、ジクロフェナク、フルフェナミン、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、およびケトプロフェン)、メチラポン、7−エトキシレゾルフィン、HMG−CoAシンターゼ阻害剤(例えば、スタチン)、サルタン、ならびにカルシウムチャネル遮断薬(例えば、ジルチアゼム、ベラパミル、レルカニジピン、ニフェジミン、ニソルジピン、ニカルジピン、イスラジピン、ニトレンジピン、フェロジピン、およびアムロジピン)、同様に、ミトコンドリアによるスーパーオキシド産生を阻害する薬剤(例えば、複合体I阻害剤(例えば、イデベノン、ロテノン、p−ヒドロキシ−安息香酸水銀、ロリニアスタチン−2、カプサイシン、およびアミタール)、複合体III阻害剤(例えば、ミクソチアゾール、アンチマイシンA、およびムシジン(ストロビルリンA))、ならびに他の部位でスーパーオキシド産生を阻害する薬剤、例えばキサンチンオキシダーゼ阻害剤(例えば、アロプリノール)、およびNAD(P)Hオキシダーゼ阻害剤(例えば、アポシアニンおよびジフェニレンヨードニウム)が挙げられる。
【0057】
特に、本発明を実施する上で有用な薬剤として、限定されるものではないが、1種類以上のチトクロムP450酵素の量(レベル)または活性を阻害する薬剤が挙げられる。チトクロムP540酵素の例示的な阻害剤として、Hレセプターアンタゴニスト(シメチジン、ラニチジン、およびエブロチジン)、H/KATP阻害剤(例えば、オメプラゾール)、抗菌剤および抗真菌剤(例えば、クロラムフェニコール、エコナゾール、ケトコナゾール、スルファフェナゾール、クロトリマゾール、およびミコナゾール、CNS−活性剤(例えば、三環系抗うつ薬(例えば、クロミプラミン、アミトリプチリン、およびデシプラミン)、セロトニン再取込阻害剤抗うつ薬(例えば、フルオキセチン、セルトラリン、およびパロキセチン)、フェノチアジン抗精神病薬(例えば、クロルプロマジン)、およびベンゾジアゼピン不安緩解剤(フルラゼパムおよびメダザパム))、NSAID(例えば、ジクロフェナク、フルフェナミン、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、およびケトプロフェン)、メチラポン、7−エトキシレゾルフィン、HMG−CoAシンターゼ阻害剤(例えば、スタチン)、サルタン、ならびにカルシウムチャネル遮断薬(例えば、ジルチアゼム、ベラパミル、レルカニジピン、ニフェジミン、ニソルジピン、ニカルジピン、イスラジピン、ニトレンジピン、フェロジピン、およびアムロジピン)を挙げることができる。
【0058】
さらに、チトクロムP450酵素の1つまたは1サブセットの基質または阻害剤として作用することができる薬剤として、限定されるものではないが、チトクロムP450 1Aファミリー(例えば、1A1または1A2)、チトクロムP450 2Bファミリー(例えば、2B6および2B7)、チトクロムP450 2Cファミリー(例えば、2C8−19(例えば、2C9または2C19))、チトクロムP450 2Dファミリー(例えば、2D6)、チトクロムP450 2Eファミリーの1種類以上のメンバー(例えば、2E1)、チトクロムP450 3Aファミリー(例えば、3A4、3A5、および3A7)、さらにチトクロムP450 4Bファミリー(例えば、4B1)が本発明の方法で用いることが可能である。例えば、レスベラトロルは1A1の阻害剤である。例えば、1A2の基質として、限定されるものではないが、アミトリプチリン、カフェイン、クロミプラミン、クロザピン、シクロベンザプリン(Flexeril(登録商標))、エストラジオール、フルボキサミン、ハロペリドール、イミプラミンN−DeMe、メキシレチン、ナプロキセン、オンダンセトロン、フェナセチン、アセタミノフェン、プロプラノロール、リルゾール、ロピバカイン、タクリン、テオフィリン、ベラパミル、ワーファリン、ジレウトン、およびゾルミトリプタンが挙げられる。1A2の阻害剤として、限定されるものではないが、アミオダロン、シメチジン、フルオロキノロン、フルボキサミン、フラフィルリン、メトキサレン、ミベフラジル、およびチクロピジンが挙げられる。
【0059】
2B6の基質として、ブプロピオン、シクロホスファミド、およびイホスファミドが挙げられ、さらに2B6の阻害剤としてチオテパが挙げられる。2C8の基質として、TCA、ジアゼパム、およびベラパミルが挙げられ、さらにシメチジンが2C8の阻害剤である。
【0060】
2C9の基質として、NSAID(例えば、ジクロフェナク、イブプロフェン、スプロフェン、メロキシカム、およびS−ナプロキセン)、経口血糖降下薬(例えば、トルブタミドおよびグリピジド)、アンジオテンシンII遮断剤(例えば、ロサルタン(活性化)およびイレベサルタン)、アミトリプチリン、セレコキシブ、フルオキセチン、フルバスタチン、グリベリド、フェニトイン、ロシグリタゾン、タモキシフェン、トルセミド、トルブタミド、ピロキシカン、イルベサルタン、ベラパミル、デキストロメトルファン、およびS−ワーファリンが挙げられる。2C9の阻害剤として、限定されるものではないが、アミオダロン、シメチジン、クロラムフェニコール、フルコナゾール、フルバスタチン、フルボキサミン、イソニアジド、ケトコナゾール、メトロニダゾール、リトナビル、ロバスタチン、パロキセチン、フェニルブタゾン、プロベニシド、セルトラリン、スルファメトキサゾール、スルファフェナゾール、テニポシド、チクロピジン、トリメトプリム、およびザフィルルーカストが挙げられる。
【0061】
2C19の基質として、プロトン・ポンプ阻害剤、例えば、ランソプラゾール、オメプラゾール、パントプラゾール、およびE3810、抗てんかん薬、例えば、ジアゼパム、ノフェニトイン(O)、S−メフェニトイン、およびフェノバルビトン、アミトリプチリン、シタロプラム、クロミプラミン、シクロホスファミド、ヘキソバルビタール、イミプラミンN−DeME、インドメタシン、R−メフォバルビタール、モコロベミド、ネルフィナビル、ニルタミド、プリミドン、プロゲステロン、プログアニル、プロプラノロール、テニポシド、ならびにR−ワーファリンが挙げられる。2C19の阻害剤として、シメチジン、フェルバメート、フルオキセチン、フルボキサミン、インドメタシン、ケトコナゾール、ランソプラゾール、モダフィニル、オメプラゾール、パロキセチン、プロベニシド、チクロピジン、およびトプラメートが挙げられる。
【0062】
2D6の基質として、限定されるものではないが、β遮断薬(例えば、カレジロール、S−メトプロロール、プロパフェルノン、およびチモロール)、抗鬱薬(例えば、アミトリプチリン、クロミプラミン、デシプラミン、イミプラミン、およびパロキセチン)、ならびに抗精神病薬(例えばハロペリドール、ペルフェナジン、リスペリドン、チオリダジン、アルプレノロール、アンフェタミン、ブフラオロール、クロルフェニラミン、クロルプロマジン、コデイン、デブリソキン、デクスフェンフルラミン、デキストロメトルファン、エンカイニド、フレカイニド、フルオキセチン、フルボキサミン、リドカイン、メトクロプラミド、メトキシアンフテアミン、メキシレチン、ノトリプチリン、ミナプリン、オンダンセトロン、ペルヘキシリン、フェナセチン、フェンホルミン、プロプラノロール、クアノキサン、スパルテイン、タモキシフェン、トラマドール、およびベンラファキシン)が挙げられる。2D6の阻害剤として、限定されるものではないが、アミオダロン、セルコキシブ、クロルプロマジン、クロルフェニラミン、シメチジン、クロミプラミン、コカイン、ドキソルビシン、フルキセチン、ハロファントリン、レッド・ハロペリドール、レボメプロマジン、メトクロプラミド、メサドン、ミベフラジル、モクロベミド、パロキセチン、キニジン、ラニチジン、チロナビル、セルトラリン、およびテルビナフィンが挙げられる。
【0063】
2E1の基質として、限定されるものではないが、エンフルラン、ハロタン、イソフルラン、メトキシフルラン、セボフルラン、およびアセトアミノフェン等の麻酔薬、アニリン、ベンゼン、クロルゾキサゾン、エタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、ならびにテオフィリンが挙げられる。2E1の阻害剤として、限定されるものではないが、エチルジチオカルバメートおよびジスルファンが挙げられる。
【0064】
3A4、5、および7の基質として、限定されるものではないが、マクロライド系抗生物質(例えば、クラリスロマイシンおよびエリスロマイシン)、抗不整脈薬(例えばキニジン)、ベンゾジアゼピン(例えば、アルプラゾラム、ジアゼパム、ミダゾラム、およびトリアゾラム)、免疫変調成分(例えば、シクロスポリン、タロリムス、およびFK506)、抗ウイルス剤(例えば、インジナビル、ネルフィナビル、リトナビル、およびサキナビル)、プロキネチック・シサプリン、抗ヒスタミン(例えば、アステミゾール、クロルフェニラミン、およびテルフェニジン)、カルシウムチャネル遮断薬(例えば、アムロジピン、ジルチアゼム、フェロジピン、レルカニジピン、ニフェジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン、およびベラパミル)、HMG CoA還元酵素阻害剤(例えば、アトルバスタチン、セリバスタチン、およびロバスタチン)、エストラジオール、ヒドロコルチゾン、プロゲステロン、テストステロン、アルフェンタニル、ブスピロン、カフェイン、コカイン、ダプソン、コデイン、N−脱メチル化、デキストロメトルファン、フェンタニル・フィナステリド、ハロペリドール、リドカイン、メサドン、オダンストロン、ピモジド、プロプラノロール、キニーネ、サルメテロール、シルデナフィル、タモキシフェン、タクソール、テルフェナジン、トラゾドン、ビンクリスチン、ザレプロン、ならびにゾルピデムが挙げられる。3A4、5、および7の阻害剤として、限定されるものではないが、デラビリジン、インジナビル、ネルフィナビル、リトナビル、サキナビル、アミオダロン、シメチジン、シプロフロキサシン、クラリスロマイシン、ジエチルジチオカルバメート、ジルチアゼム、エリスロマイシン、フルコナゾール、フルボキサミン、ゲストデン、イタコナゾール、ケトコナゾール、ミフェプリストーン、ネファゾドン、ノルフロキサシン、ノルフルオキセチン、ミベフタジル、ならびにトロレアンドマイシンが挙げられる。
【0065】
1つの実施形態において、薬剤はチトクロムP450還元酵素(例えば、エピガロカテキン没食子酸塩またはエピカテキン没食子酸塩)の阻害剤である。
【0066】
1つの実施形態において、薬剤はCYP2C9の阻害剤であり、限定されるものではないが、スルファダイアジン、スルファメチゾール、ジメチルスルホキシド、スルファドキシン、スルファメラジン、サルファニルアミド、スルファトロキソアゾール、スルフイソミジン、スルフイソキサゾール、スルコナゾール、スルファメトキサゾール、メチマゾール、クロラムフェニコール、イソニアジド、スルファフェナゾール、スルファモキソール、硫黄アミド・イミジン、スルファジメトキシン、スルファピリジン、トリメトプリム、ジクロフェナク、イブプロフェン、フェニルブタゾン、デキストロ・プロポキシフェン、プロポキシフェン、プロポフォール、バルデコキシブ、パレコキシブ、ザルトプロフェン、インドメタシン、ロルノキシカム、メフェナム酸、メロキシカム、ピロキシカム、テノキシカム、ミコナゾール、(R)−ミコナゾール、(S)−ミコナゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール、チオコナゾール、スルフィンピラゾンスルフィド、スルフィンピラゾン、オルフェナドリン、アナストロゾール、メトロニダゾール、クロザピン、クロトリマゾール、ケトコナゾール、D0870(抗真菌剤アゾール)デスメチルアゼラスチン、H−ハイドロキシ−N’(4−ブチル−2−メチルフェニル)−ホルマミジン(HET0016)、リトナビル(HIV Protease阻害剤)、ネルフィナビル・ヒドロキシル−t−ブチルアミド(M8)、サキナビル、ネルフィナビル、ロピナビル、インジナビル、エファビレンツ、8−ヒドロキシル・エファビレンツ、N−(3,5−ジクロロ−4−ピリジル)−4−メトキシ−3−(プロ−2−インロキシ)ベンズアミド、ピリメタミン、スピロ(フルオレン−9,4−イミダゾキジン)−2’,5’−ジオン、Te−フェニル−L−テルロシステイン、Se−フェニル−L−セレノシステイン、および関連セレノシステイン誘導体、チアベンダゾール、S−フェニル−L‐システイン、N−ジデシク−N’−2−フルオロエチル−尿素、4−(4−ニトロフェニルスルホイル)アニリン、フェニルスルホン、ヒドロキシホルマミジン化合物、メチルイミダゾール誘導体(ラス癌遺伝子ファルネシル・タンパク質トランスフェラーゼ阻害剤)、3−[(アリールチオ)−エチル]シドノン、1,4−ベンゾチアジン、アルテリン酸(artelinic
acid)、アゼラスチン、6−ハイドロキシアゼラスチン、1−アミノベンゾトリアゾール、2−[4−(2−チアゾリルオキシ)−フェニル]−プロピオン酸、トリプタミン、パラチオン、チクロピジン、ロサルタン、モダフィニル、トルカポン、バルサルタン、モクロベミド、パロキセチン、デスメチルセルトラリン、フルオキセチン、フルボキサミン、ノルフルオキセチン、セルトラリン、テルフェナジン、トルブタミド、スチリペントール、フェニトイン、(S)−メフェニトイン、メフェニトイン、アルキルアミン(メチレンジオキシフェニル類)、ベンゾチアゾリン誘導体(メチレンジオキシフェニル類)、ペラジンおよび関連フェノチアジン、10−(イミダゾリル)−デカン酸、N,N−ジエチルジチオカルバメート(ジスルフィラムの代謝産物)、エタノール、1‐ブタノール、2‐ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、アセトアルデヒド、ニルバノール、(−)−N3−ベンジルニルバノール、(+)−N3−ベンジルニルバノール、フェノバルビトールおよび誘導体、N3−アルキル置換フェニトイン、バルプロ酸、デスロラタジン、ロラチジン、デスメチルシタロプラム、デクスロキシグルミド、ジデスメチルシタロプラム、ミダゾラム、ゾルピデム、ミゾラスチン、テガセロド、シタロプラム、
7−エチル−10−ヒドロキシカンプトテシン、ブプレノルフィン、イリノテカン、アステミゾール、レバミピド、タモキシフェン、インジプロン、LY333531(プロテインキナーゼCβ阻害剤)、LY335979(シクロプロピルジエンゾスベラン)、チエニリル酸、セラトロダスト、シメチジン、ランソプラゾール、オメプラゾール、ラベプラゾール、またはオラザピンが挙げられる。
【0067】
1つの実施形態では、1種類以上の薬剤として、アミオダロン、ワーファリン、ピラノクマリン、フェンプロクーモン、ビスヒドロキシクマリン、アセノクマロール、ジクマロール、キニジン、フルバスタチン、(+)−フルバスタチン、(3R,5S)−フルバスタチン、(3S,5R)−フルバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、シンバスタチン、アトルバスチン、セリバスタチン、メチルクロフェナペート、ゲムフィブロジル、バミジピン(カルシウムチャネル遮断薬)、ベネジピン、非エチルアミオダロン、トログリタゾン、トログリタゾン代謝産物、一酸化炭素、マニジピン、ニカルジピン、デクスメデトミジン、ピオグリタゾン、ロシグリタゾン、ベラパミル、ジルチアゼム、アムロジピン、フェロジピン、ニフェジピン、イスラジピン、ニトレンジピン、ニルバジピン、クリニジピン、ニモジピン、カンデサルタン、エプロサルタン、またはイルベサルタンが挙げられる。
【0068】
別の実施形態では、一種類以上の薬剤として、天然産物、例えばナリンゲニン、オロキシリンA、クエルセチン、シリビン、イプリフラボン、C7−ヒドロキシイソフラボン、ベルガモチン(グレープフルーツ・ジュース抽出物)、6’,7’−ジヒドロキシベルガモチン、フラノクマリン・ダイマー、および関連フラノクマリン誘導体およびフラノクマリン抽出物、インペラトリン、(柑橘類のクマリン)、7,8−ベンゾフラボン、アルファ−ナフトフラボン、4−ヒドロキシフラバノン、4’−ヒドロキシフラボノン、ポリヒドロキシフラボノイド、および関連フラボノイド、アピゲニン、クリシン、(−)−エピカテキン、(−)−エピガロカテキンおよび関連緑茶抽出物、例えば、エピガロカテキン没食子酸またはエピカテキン没食子酸、およびフラボノイド)、フラボノイド(食物源由来)、グラブリジン、ケンペロール、バレレン酸、ビテキシン、エキヌス上目、ギンセノシドRd、ギンセノシドRb2(ヤクヨウニンジン成分)、朝鮮ニンジン(中国産ハーブ抽出物)、7、4’−ジヒドロキシフラボン、ハイパーフォリン、ヒペリシン(セイヨウオトギリソウ由来),131I8−双アピゲニン(セイヨウオトギリソウ由来)、セイヨウオトギリソウ抽出物、フェネチルイソチオシアン酸塩(アブラナ科野菜由来)、アエシン(トチノキ由来)、カテキン(ブドウ種油由来)、シス・リノール酸(マツヨイグサ油由来)、ダリルチオスルフィン酸(アリシン、ニンニク由来)、デスメトキシヤンゴニン(カバカバ由来)、カバニン、カバ抽出物、ジヒドロメチスチシン、ギンコール酸IおよびII(イチョウ由来)、オールトランスレチノール(ビタミンA1)およびレチナールの関連形態、ビタミンD3コレカルシフェロールおよび関連ビタミンD3化合物、プロスタグランジンE2(PGE2、ジノプロストン)、アラキドン酸、プロゲステロン、C17−アルファ−ヒドロキシプロゲステロン、C−21−ヒドロキシプロゲステロン(およびプロゲステロンの他の誘導体)、ノニルフェノール、および赤葡萄酒、ブドウ、もしくはピーナッツに由来するフィトアレキシン、例えばレスベラトロル、トランスレスベラトロル、オキシレスベラトロル、および関連トランスヒドロキシスチルベン誘導体が挙げられる。
【0069】
1つの実施形態では、薬剤は、シメチジン、クロラムフェニコール、エコナゾール、ケトコナゾール、スルファフェナゾール、クロトリマゾール、ミコナゾール、トリメトプリム、スルファメトキサゾール、またはトリメトプリム/スルファメトキサゾールからなる群から選択される。
【0070】
1つの実施形態では、好ましい薬剤は、タンパク質合成(例えばミトコンドリア内のタンパク質合成)を実質的に阻害するものではない。1つの実施形態では、本発明の方法で用いられる薬剤は、クロラムフェニコールではない(Heら、2001を参照せよ)。
【0071】
(III.治療薬によって処置される例示的な徴候または症状)
哺乳類動物で再灌流障害の処置または防止をおこなうために、任意の症状に関連した虚血(例えば、ROS産生に関連したもの)の開始後、本発明の1種類以上の薬剤を投与することができる。虚血および再灌流障害にかかるリスクのある哺乳類動物に対しても、そのような1種類以上の薬剤を投与してもよい。例えば、虚血または症状と関連しているもの、または原因としているものとして、急性心筋梗塞、選択的血管形成、冠状動脈バイパス移植、心バイパスまたは臓器もしくは組織移植を含む外科処置、例えば、心移植、卒中、頭部外傷、溺水、敗血症、心停止、溺水、またはショック、アテローム硬化、高血圧症、コカイン誘発疾患、喫煙誘発心疾患、心不全、肺高血圧症、出血、毛細血管漏出症候群(例えば、小児および成人呼吸促進症候群)、多臓器系障害、低膠質浸透圧(飢餓、神経性無食欲、またはスクラム・タンパク質生産減少による肝不全)の状態、アナフィラキシー、低体温、冷障害、例えば、原因として低温灌流、凍傷、肝腎障害症候群、酒客譫妄、挫傷、腸間膜機能不全、末梢血管疾患、跛行、放蕩、感電死、過剰薬物性血管拡張、過剰薬物性血管収縮、移植後組織拒絶、対宿主性移植片病、放射線被曝(例えば、透視検査または放射線検査、もしくはレーザー光暴露等の高エネルギー暴露の際)が挙げられる。過剰な薬物性血管拡張は、例えば、ニトロプルシド、ヒドララゾン、ジアゾキシド、カルシウムチャネル遮断薬、または全身麻酔薬に起因する。過剰な薬物性血管収縮は、例えば、ネオシネフリン、イソプロテレノール、ドーパミン、ドブタミンまたはコカインに起因する。
【0072】
1つの実施形態では、本発明の1種類以上の薬剤を用いて、脈管介入手技に関連する再灌流障害の処置または防止する。脈管介入手技として、限定されるものではないが、ステント、例えば被覆ステント、血管形成術用カテーテル(経皮経管動脈形成術)、レーザー・カテーテル、アテレクトミー・カテーテル、例えばTECおよびDVI、血管顕微法装置、βまたはγ線放射カテーテル、血管内超音波装置、旋回性アテレクトミー装置、放射性風船、熱安定性ワイヤ、熱安定性バルーン、生物分解性ステント・ストラットまたは生物分解性スリーブの使用が挙げられる。
【0073】
例えば、本発明の薬剤は、チトクロムP450酵素の上方制御に関連した徴候の防止または処置に有用であり、限定されるものではないが、該徴候として、高血圧症、肥満、薬物(例えばコカイン)乱用、心不全が挙げられ、ならびに喫煙者と糖尿病患者がより重篤な冠状動脈疾患および卒中になりやすいことから、喫煙者および糖尿病患者で、有用である。本発明の1つの実施形態において、これらの徴候を有する患者は、心血管系での有害な現象が生ずる危険性を減少させるために、本発明の1種類以上の剤を用いて常習的に治療を受ける。別の実施形態では、本発明の1種類以上の薬剤は、心不全の進行を遅らせるために、常習的に投与される。例えば、心臓の症状を、該心臓で発現するチトクロムP450酵素(例えば、CYP1A1、2B6/7、2C8−19、例えば2C9、2D6、2E1、および41B1)の阻害剤により、抑制または処置することが可能である。例えば、心不全がCYP2J2、CYP1B1、CYP2E1、CYP4A10とCYP2F2の上方制御を伴うことから、心不全患者を、それらの酵素の1種類以上の1種類以上の阻害剤で治療してもよい。薬物使用により心臓組織でCYP 1A1および2J2が誘導されることから、それらの酵素の1種類以上の阻害剤が、麻薬常用者(drug users)で心保護的となる可能性がある。また、CYP4A10およびCYP2E1が肥満患者で上方制御されるので、それらの酵素の阻害剤は同様に有効であると思われる。
【0074】
さらに、一度心筋梗塞を経験した患者は、続けて心筋梗塞にかかる可能性が高い。従って、1つの実施形態では、心筋梗塞で生き残った患者を、1種類以上の本発明の薬剤で常習的に処置することで、再発の危険性を少なくしたり、あるいは再発の際の重症度を下げたりする。同様に、本発明の1種類以上の薬剤を卒中または末梢血管疾患の患者に対して常習的に投与してもよい。さらに、チトクロムP450酵素発現が性的に二形性であり、男性のほうが循環器病の危険性が高いことから、男性特異的チトクロムP450アイソザイムの選択的阻害は、心臓のリスクを減少させるのに有用であると思われる。
【0075】
また、1種類以上の本発明の薬剤を、低酸素または酸化ストレスに反応してチトクロムP450が活性化されることで、過剰な活性酸素種(ROS)が生ずるので、化学療法、放射線療法、またはレーザー処理前、中、または後に、哺乳類動物に対して投与してもよく、あるいはまたはアルコール中毒、熱傷、敗血症、早産児網膜症、高酸素、新生児呼吸困難症候群、壊死性腸炎、血管内溶血、急性呼吸不全症候群、アルツハイマー疾患、パーキンソン病、および関連神経変性疾患、自己免疫疾患(ループスおよび関節リウマチ等)、ならびにアテローム硬化等の慢性の炎症過程にあると診断される哺乳類動物に投与してもよい。これらの症状での特異的チトクロムP450アイソザイムの阻害は、ROS産生を減少させ、発病の一因となる組織損傷を減らす。
【0076】
従って、このように、1つの実施形態で、心血管イベント後の哺乳類動物、または喫煙者、糖尿病患者、高血圧症、異脂肪血症または脈管イベントの家族歴を持つ哺乳類動物等、虚血性イベントの危険にさらされた哺乳類動物、同様に、記録された冠状動脈疾患、末梢血管疾患、または脳血管疾患の哺乳類動物で、あるいは診断学もしくは治療のための放射線照射に先立って、もしくはレーザー治療(例えば、皮膚もしくは網膜レーザー治療)前の哺乳類動物に、治療薬を予防的に使うことができる。
【0077】
(IV.治療薬の投薬量、剤形、および投薬経路)
本発明の治療薬(その薬剤的に許容される塩を含む)を、所望の効果が達成されるようにして投与する。ここで、所望の効果とは、例えば、虚血および/または再灌流障害の防止または減少、心収縮性の増加、冠動脈血流の増加、スーパーオキシド産生の減少もしくは脂質過酸化を含む活性酸素種産生の減少、CK放出の減少、梗塞の防止または梗塞サイズの減少、ならびに/あるいは1種類以上のチトクロムP450アイソザイムのレベルまたは活性の阻害または減少である。このような所望の効果を達成するために、薬剤、またはその組み合わせを、単一投薬量または分割投薬量として投与することができる。投与する量は、種々の因子に応じて変動するもので、該因子として、限定されるものではないが、選択した薬剤、予防または処置すべき徴候もしくは症状、哺乳類動物の体重、生理的状態、健康、および年齢、さらに予防または処置が達成されるかどうかである。そのような因子は、動物モデルを使用している臨床家または当該技術分野で入手可能な試験システムによって、容易に判断することができる。チトクロムP450酵素を阻害する薬剤では、好ましい量は、選択的に1種類以上のチトクロムP450酵素を阻害するために選ばれるものである。例えば、本発明の方法で使用されるクロトリマゾールまたはプロアジフェンの量は、Zhangら(1999)に記載されているような高い用量は含まれない。
【0078】
従って、本発明にもとづいた治療薬を、例えば、レシピエントの生理的状態、投与の目的が治療もしくは予防であるかどうか、さらに当業者に知られていの他の要素に応じて、単一用量または複用量を連続または間欠的に投与することができる。上記投与は、虚血または再灌流障害の危険にさらされている患者(例えば、心筋梗塞の危険にさらされた患者)にとって予防的なもの、あるいは障害の臨床的確認に先立つ救急車または救急処置室での虚血および/または再灌流障害に関連したある種の症状に応えて行われる。治療薬の予防的投与が必要となり得る他の症状として、限定されるものではないが、喫煙者、糖尿病患者、高血圧症、異脂肪血症、または脈管イベントの家族歴を持つ哺乳類動物、同様に、記録された冠状動脈疾患、末梢血管疾患、または脳血管疾患の哺乳類動物で、および/または診断学もしくは治療のための放射線照射に先立って、もしくはレーザー治療(例えば、皮膚もしくは網膜レーザー治療)前の、心血管イベント後の哺乳類動物が挙げられる。本発明の薬剤の投与は、本質的に、事前に選択した時間にわたって連続的に、あるいは一連の間隔を開けた用量であてもよい。局所および全身投与の両方が、考えられる。
【0079】
組成物を調製するために、薬剤を合成、さもなければ入手し、必要性または希望に応じて精製した後、任意に凍結乾燥および安定化させる。つぎに、薬剤を適当な濃度に調節し、任意に他の薬剤と化合する。
【0080】
従って、本発明の治療薬を含む1種類以上の適当な単位投薬形態を、経口、非経口(皮下、静脈内、筋肉内、および腹膜内を含む)、経腸、経皮(dermal)、舌下、経粘膜、経皮(transdermal)、胸腔内、肺内、鼻腔内(呼吸性)経路を含む種々の経路によって、投与することができる。治療薬を、徐放用に処方してもよい(例えば、マイクロカプセル化を利用。WO94/07529ならびに米国特許第4,962,091号を参照せよ)。剤形は、必要に応じて、離散的な単位投薬形態に都合よく与えられ、製薬分野で知られている任意の方法によって調製することができる。そのような方法は、治療薬を液体キャリア、固形マトリックス、半固形キャリア、微粉固形キャリア、またはそれの組合せと混合し、必要に応じて、生成物を所望の送達系に導入または付形するステップを含むものであってもよい。一般に、そのような用量および投薬形態は、特定の徴候または状態の臨床症状を処置または予防するのに有効な本発明の薬剤の少なくとも1種類を一定量含む。本発明の方法に従って処置された徴候または状態の1種類以上の症状の統計学的に有意な何らかの減衰が、本発明の範囲内でのそのような徴候または状態の処置であると考えられる。
【0081】
本発明の治療薬が経口投与用に調製される場合、該治療薬は通常、薬学的製剤または単位投薬形態を形成するために薬剤的に許容されるキャリア、希釈剤または賦形剤と組み合わされる。経口投与では、粉末、粒状の製剤、溶液、懸濁液、あるいはチューイングガムかから活性成分を接種するための天然もしくは合成ポリマーまたは樹脂として、上記薬剤を提供することができる。活性剤を、巨丸剤、舐剤またはペーストとして提供してもよい。経口投与される本発明の治療薬もまた、徐放用に製剤化することができ、例えば、該薬剤を被覆、マイクロカプセル化、さもなければ持続的送達用の装置に入れることができる。そのような製剤中の全活性成分は、製剤の0.1重量%〜99.9重量%を構成する。
【0082】
本発明の治療薬を含む薬学的製剤は、周知かつ容易に入手可能な成分を用いて、当該技術分野で公知の方法により、調製することができる。例えば、薬剤を、一般の賦形剤、希釈剤、またはキャリアと配合し、錠剤、カプセル、溶液、懸濁液、粉末、エアゾール等の剤形にする。そのような製剤にとって適当な賦形剤、希釈剤、およびキャリアの例として、緩衝液、さらにデンプン、セルロース、糖、マニトール、およびケイ素誘導体等の充填剤および増量剤が挙げられる。決着剤として、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、および他のセルロース誘導体、アルギン酸塩、ゼラチン、およびポリビニル・ピロリドンを挙げることができる。保湿剤として、グリセロール糖が挙げられ、分散剤として炭酸カルシウムおよび重炭酸ナトリウム等が挙げられる。溶解を抑制するための薬剤として、例えばパラフィンを挙げることができる。四級アンモニウム化合物等の吸収促進剤も含むことができる。表面活性剤、例えばセチルアルコールおよびグリセロールモノステアレートも含ませることができる。カオリンおよびベントナイト等のな吸着物質キャリアを、加えることができる。タルク、カルシウム、およびステアリン酸マグネシウム、さらに固形ポリエチルグリコール等の潤滑油も、含有させることができる。防腐剤も加えてもよい。本発明の組成物は、増粘剤(例えばセルロースおよび/またはセルロース誘導体)を含むこともできる。それらは、キサンタン、グアーゴム、またはカルボゴムまたはアラビアゴム、あるいはその代わりに、ポリエチレングリコール、ベントン、およびモンモリロナイトを含むものであってもよい。
【0083】
例えば、本発明の薬剤を含む錠剤またはカプレットは、緩衝剤(例えば、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、および炭酸マグネシウム)を含むことができる。カプレットおよび錠剤は、不活性成分(例えば、セルロース、アルファ化澱粉、二酸化ケイ素、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、微結晶性セルロース、澱粉、タルク、二酸化チタン、安息香酸、クエン酸、トウモロコシ澱粉、鉱油、ポリプロピレングリコール、燐酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、など)を含むこともできる。本発明の薬剤を少なくとも1種類含む硬質または軟質ゼラチン・カプセルは、不活性成分を含むことができ、該不活性成分として、ゼラチン、微結晶性セルロース、ラウリル硫酸ナトリウム、澱粉、タルク、および二酸化チタン、同様に、液状ビヒクル(例えばポリエチレングリコール(PEG)および植物油)が挙げられる。さらに、本発明の薬剤を1種類以上含む腸溶性カプレットまたは錠剤は、胃での分解に耐えて、十二指腸のアルカリ環境に対してよりニュートラルに溶解するように設計される。
【0084】
本発明の治療薬もまた、経口投与に好都合なエリキシルまたは溶液として、あるいは非経口投与に適当な溶液として、処方することができる。投与は、針、処置される領域(例えば、冠状動脈)に対して遠位であるカテーテル(例えば、バルーンカテーテル)、薬剤の徐放に有用と思われるステントもしくは該薬剤によって被覆されたステント(例えば、冠内ステント)を介して達成することができる。本発明の治療薬の薬学的製剤もまた、水性または無水溶液もしくは分散の形、あるいはエマルジョンまたは懸濁液または塗剤の形をとることもできる。
【0085】
従って、治療薬を、非経口投与(例えば、注射によって、例としてボーラ巣注射または持続注入法)用に製剤化することができ、またアンプル、プレフィルド・シリンジ、小容量の輸液容器で、または多用量型容器で、単位用量形態で存在してもよい。上記したように、保存剤を添加して貯蔵寿命を保つことができる。活性薬剤および他の成分で懸濁液、溶液、または油性もしくは水性ベヒクルのエマルジョンを形成してもよく、また懸濁剤、安定化剤、および/または分散剤等の処方薬剤を含むものであってもよい。あるいは、活性薬剤および他の成分は、適当なベヒクル、例えば発熱性物質を含まない無菌水で使用前に構成するために、滅菌固体の無菌単離によって、または溶液から凍結乾燥によって、得た粉末形態であってもよい。
【0086】
これらの製剤は、当該技術分野で周知の薬剤的に許容されるキャリア、ベヒクル、およびアジュバンドを含むことができる。アセトン、エタノール、イソプロピル、アルコール、「Dowanol」という名で売られている製品等のグリコールエーテル、ポリグロコール、およびポリエチレングリコール、短鎖酸のC−Cアルキルエステル、乳酸エチルもしくは乳酸プロピル、「Miglyol」という名で市販されている製品等の脂肪酸トリグリセリド、イソプロピルミリステート、動物油、鉱物油、および植物油、ならびにポリシロキサン等から選択され、生理学的見地から許容される1種類以上の有機溶媒を用いて、溶液を調製することが可能である。
【0087】
必要に応じて、抗酸化剤、表面活性剤、他の防腐剤、フィルム形成、角質溶解、もしくは面皰溶解剤、香水、調味料、ならびに発色剤から選択されるアジュバントを加えることが、可能である。t−ブチルヒドロキノン、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、ならびにα−トコフェロールおよびその誘導体を添加することができる。
【0088】
また、本発明の1種類以上の薬剤と1種類以上の他の薬剤とを含む配合製品が考えられる。
【0089】
さらに、上記薬剤は徐放投薬形態等として製剤化するのによく適している。製剤を、活性剤が放出(おそらく一定時間にわたって)されるように構成することができる。コーティング、エンベロープ、および保護マトリックスを、例えば、ポリマー物質、例えばポリ乳酸−グリコール酸塩、リポソーム、マイクロエマルジョン、微小粒子、ナノ粒子、またはワックスから作ることができる。これらのコーティング、エンベロープ、および保護マトリックスは、留置装置、例えばステント、カテーテル、腹膜透析管、およびドレイン装置をコーティングするのに有用である。
【0090】
局所投与するため、標的領域(例えば、胸部)に対して直接投与するために当該技術分野で知られているように、治療薬を製剤化することができる。局所投与に主に適合する形状は、クリーム、ミルク、ゲル、分散エマルジョンまたはマイクロエマルジョン、より大きくまたは少ない範囲に濃くなったローション、含浸パッド、軟膏またはスティック、エアゾール製剤(例えば、スプレーまたはフォーム)、石鹸、洗剤、ローション剤、または石鹸の塊の形状をなす。この目的のための他の従来の形状として、創傷被覆材、被覆包帯、または他の高分子被覆剤、軟膏、クリーム、ローション剤、ペースト、ゼリー、スプレー、およびエアゾールが挙げられる。従って、本発明の治療薬を、経皮投与のためのパッチまたは包帯を介して送達することができる。あるいは、上記薬剤を、粘着性ポリマー(例えば、ポリアクリレートまたはアクリレート/ビニルアセテート共重合体)の一部として、製剤化することができる。長期投与のために、微小孔構造および/または空気を通す裏打ち積層体を使用することが望ましいと考えられ、皮膚の水分過剰または浸軟を最小化することができる。適当な厚みは、通常、約10〜約200ミクロンである。
【0091】
上記したように、本発明の治療薬の送達は、経皮投与のためのパッチを介しておこなうことができる。治療薬の経皮投与に適当なパッチの例は、米国特許第5,560,922号を参照せよ。経皮送達用のパッチは、裏打ち層およびポリマー・マトリックスから構成することができ、該ポリマー・マトリックス内に1種類以上の皮膚浸透促進剤とともに治療剤が分散または溶解される。裏打ち層は、任意の適当な材料から作ることができ、該材料は治療剤に対して非透過性である。裏打ち層は、マトリックス層の保護被覆として機能するとともに支持機能も提供する。裏打ち層は、ポリマー・マトリックスと本質的に寸法が同じになるように形成することができ、またはポリマー・マトリックスの大きさを超えてのびるように、もしくはポリマー・マトリックスの一端または複数の端を覆い、それによって裏打ち層の延長部分の表面が粘着手段のベースとなるように外側へ延在する、より大きな寸法とすることができる。あるいは、ポリマー・マトリックスは、粘着性ポリマー(例えば、ポリアクリレート、またはアクリル酸塩/ビニル酢酸塩共重合体を含有することができ、もしくは該ポリマー・マトリックスを該粘着性ポリマーから製剤化することができる。長期投与のために、微小孔構造および/または空気を通す裏打ち積層体を使用することは、望ましいと思われ、皮膚の水分過剰または浸軟を最小化することができる。
【0092】
裏打ち層を作るために適当な材料の例は、高密度および低密度のポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル(例えば、ポリ(エチレンフタレート))、金属箔、そのような適当なフィルムの金属箔積層体、その他である。好ましくは、裏打ち層に用いられる材料は、そのようなポリマー・フィルムとアルミホイル等の金属箔との積層体である。そのような積層体において、積層体のポリマー/フィルムは、通常、粘着性高分子マトリックスと接触した状態にある。
【0093】
裏打ち層は、所望の保護および支持機能を提供する任意の厚さとすることができる。適当な厚さは、約10〜約200ミクロンである。
【0094】
通常、生物学的に許容される粘着性ポリマー層を形成するのに用いられるそれらのポリマーは、本体、制御された速度で治療薬が通過できる薄壁または皮膜を形作る能力を持つものである。適当なポリマーは、生物学的および薬剤的に互換性、非アレルギー性、および不溶性を持ち、装置が接触する体液または組織と互換性を持つ。可溶性ポリマーの使用は、回避される。なぜなら、皮膚水分によるマトリックスの溶解または浸食は、投薬量単位(dosage unit)の能力と同様に治療薬の放出速度に影響を及ぼし、除去の利便性がそのまま残る。
【0095】
粘着性ポリマー層を作るための例示的な材料として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、エチレン/プロピル共重合体、エチレン/エチルアクリレート共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、シリコーン・エラストマー、特に医療グレードのポリメチル・シロキサン、ネオプレン・ゴム、ポリイソブチレン、ポリアクリラート、含塩素ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、架橋ポリメタクリル酸ポリマー(ヒドロゲル)、ポリ塩化ビニリデン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ブチル・ゴム、エオピクロロヒドリン・ゴム、エチレン/ビニルアルコール共重合体、エチレン/ビニルオキシエタノール共重合体;シリコーン共重合体、例えばポリシロキサン/ポリカーボネート共重合体、ポリシロキサン/ポリエチレン・オキシド共重合体、ポリシロキサン/ポリメタクリレート共重合体、ポリシロキサン/アルキレン共重合体(例えば、ポリシロキサン/エチレン共重合体)、ポリシロキサン/アルキレンシラン共重合体(例えば、ポリシロキサン/エチレンシラン共重合体)、その他;セルロース・ポリマー、例えばメチルまたはエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびセルロースエステル;ポリカーボネート;ポリテトラフルオロエチレン;その他が挙げられる。
【0096】
好ましくは、生物学的に許容される粘着性ポリマー・マトリックスは、ガラス転移温度が室温を下回るポリマーから選択されなければならない。このようなポリマーは、必ずしも必要ではないが、室温で一定の結晶化度を持つことができる。例えば、架橋モノマーをポリアクリレート・ポリマーに取り込むことができ、該ポリマーに治療薬を分散させた後にマトリックスを架橋させるための部位を提供する。ポリアクリレート・ポリマーに対する既知の架橋モノマーとして、ブチレンジアクリレートおよびジメタクリレート等のポリオールのポリメタアクリル酸エステル、トリメチロールプロパントリメタクリレート、その他が挙げられる。そのような部位を提供する他のモノマーとして、アリルアクリレート、アリルメタアクリレート、ジアリルマレエート等が挙げられる。
【0097】
好ましくは、可塑剤および/または湿潤薬は、癒着性ポリマー・マトリックス中で分散する。この目的にとって、水溶性ポリオールが一般に適当なものである。製剤への湿潤薬の取り込みは、投薬量単位が皮膚上の水分を吸収するのを可能にし、その結果として皮膚刺激性を減らして、送達系の粘着ポリマー層が脱落するのを防ぐ。
【0098】
経皮性の送達系から放出される治療薬は、皮膚の各々の層に浸透することができなければならない。治療薬の浸透率を増加させるために、経皮性の薬物送達系は、皮膚(角質層)の最も外部の層(分子の浸透に対して最も高い抵抗性を示す)の透過性を、特に増加させることが可能でなければならい。治療薬の経皮的送達用パッチの構成は、当該技術分野で周知である。
【0099】
口または喉で局所投与するために、治療薬をさらに製剤化することができる。例えば、活性成分を、風味づけられたベース(通常はショ糖およびアカシアまたはトラガカント)をさらに含むロゼンジ、不活性ベース(例えば、ゼラチンおよびグリセリンまたはショ糖およびアカシア)を含むトローチ、および適当な液状キャリアに本発明の組成物を含むうがい薬として製剤化してもよい。
【0100】
軟膏およびクリームを、例えば、適当な増粘剤および/またはゲル化剤を加えた水性または油性のベースと製剤化することができる。ローションを、水性または油性のベースと製剤化してもよく、一般に1種類以上のエマルジョン剤、安定化剤、分散剤、懸濁剤、増粘剤、または色素を含むものであってもよい。例えば、米国特許第4,140,122号、第4,383,529号、および第4,051,842号に開示されているように、イオン導入法を介して活性剤を送達することもできる。局所用製剤に存在する本発明の治療薬の重量パーセントは、種々の因子に左右されるが、一般に製剤の全重量の0.01%〜95重量%、概して0.1〜85重量%である。
【0101】
点滴剤、例えば点眼または点鼻薬を、水性または非水性ベースで1種類以上の治療薬を用いて製剤化してもよく、該ベースは1種類以上の分散剤、溶解剤、または懸濁剤から構成される。液体スプレーは、加圧されたパックから適宜送達される。点滴剤の送達は、単純な点眼剤点滴器であるキャップ付きボトルまたはプラスチック製ボトルを介して、または液体含有物を特別に成形されたクロージャーを介して、おこなうことができる。
【0102】
本発明の薬学的製剤は、任意の成分として、薬剤的に許容されるキャリア、賦形薬、可溶化または乳化剤、ならびに当該技術分野で入手可能なタイプの塩類を含むものであってもよい。そのような物質の例として、生理食塩液(例えば、生理学的に緩衝された塩溶液および水)が挙げられる。本発明の薬学的製剤に有用であるキャリアおよび/または賦形薬の具体的かつ非限定的な例として、リン酸緩衝生理食塩液(pH7.0〜pH8.0)等の生理学的に受容可能な緩衝食塩溶液である。
【0103】
本発明の薬剤を、気道に対して投与することもできる。従って、本発明もまた、本発明の方法で使用するための薬学的製剤及び投薬形態を提供する。あるいは、吸入または通気によって投与するために、組成物を乾燥粉末の形状(例えば、治療薬と適当な粉ベースとの粉末混合物)にしてもよい。粉末組成物を、例えば、カプセルまたはカートリッジの単位投与形態で存在さてもよく、または吸入装置、注入器、または定量吸入器(例えば、加圧式定量吸入器(MDI)および乾燥粉末吸入器(Newinan(1984)に開示)を参照せよ)の助けをかりて投与することも可能である。アロマ系オイルも投与することができる。
【0104】
本発明の治療薬もまた、エアゾールまたは吸入形状で投与する場合に、水溶液中に投与することもできる。従って、他のエアゾール薬学的製剤は、例えば、処置すべき兆候または状態に特異的な本発明の薬剤を1種類以上、約0.1mg/ml〜約100mg/ml含む生理学的に受容可能な緩衝生理食塩水を含むものであってもよい。液体に溶解または懸濁されない固体微粒子の形状となった乾燥エアゾールもまた、本発明を実施する上で有用である。本発明の薬剤を、散布剤として製剤化することができ、該薬剤は微粒子から構成され、該微粒子の粒径は約1〜5μm、もしくは2〜3μmである。微粒子は、当該技術分野で周知の技術を用いて粉末化およびスクリーンろ過によって、調製することが可能である。粒子の投与は、粉末形状となった所定量の微粒子状物質を吸入させることでおこなう。各投与形態の個々のエアゾール用量に含まれる活性成分または複数の活性成分の単位含有量は、特定の兆候または状態を処置するために有効な量をそれ自体が構成する必要はない。なぜなら、必要な有効量は、複数の投薬量単位の投与によって達成することができるからである。さらに、有効量は、個々の投与または一連の投与のいずれかを投薬形態での用量よりも少ないものを用いて達成することが可能である。
【0105】
吸入による上気道(鼻)または下気道への投与をおこなうために、本発明の治療薬を噴霧器または加圧されたパックまたはエアゾール・スプレーを送達する他の簡便な手段から、都合よく送達させる。加圧パックは、適当な噴霧剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、または他の適当な気体を含むものであってもよい。加圧エアゾールの場合、投薬量単位を、計量された量を送達するためのバルブをもうけることによって、定めることが可能である。噴霧器として、限定されるものではないが、米国特許第4,624,251号、第3,703,173号、第3,561,444号、および第4,635,627号に開示されたものが挙げられる。本明細書に開示されるエアゾール送達系は、Fisons Corporation(Bedford,Mass.)、Schering Corp.(Kenilworth,NJ)、およびAmerican Pharmoseal Co.,(Valencia,CA)等、数多くの販売元から入手可能である。鼻腔内投与のために、治療薬の投与を、点鼻薬、液体スプレー、プラスチックボトル噴霧器または定量吸入器を介しておこなうことも可能である。例示的な噴霧器は、Mistometer(Wintrop)およびMedihaler(Riker)である。
【0106】
さらに、活性成分は、他の治療薬と組み合わせて使用してもよく、他の治療薬として、例えば、鎮痛剤、抗炎症薬、タンパク質合成を阻害する薬剤、例えは、エリスロマイシンおよびその誘導体、テトラサイクリンおよびその誘導体、ピューロ邁進およびその誘導体、リンコマイシンおよびその誘導体、ならびにストレプトマイシン;イデベノン、ロテノン、p−ヒドロキシメルクリベンゾエート、ロリニアスタチン−2、カプサイシン、およびアミタール等の複合体I阻害剤、ミクソチアゾール、アンチマイシンA、およびムシジン(ストロビルリンA)等の複合体III阻害剤;ならびにスーパーオキシド産生阻害剤、例えば、キサンチンオキシダーゼ阻害剤(例えば、アロプリノール)、およびNAD(P)Hオキシダーゼ阻害剤(例えば、アポシニンおよびジフェニレンヨードニウム、抗ヒスタミン薬、気管支拡張剤、およびその他が、上記した状態またはいくつかの他の状態であろうとなかろうと、挙げられる。
【0107】
本発明は、さらに、キットまたは他の容器等、パッケージ化された薬剤的組成物に関する。キットまたは容器は、本発明の治療上有効な量の試薬と、特定の兆候または容器にとって薬学的組成物を用いるための指示書を保持する。薬学的組成物は、有効量において、本発明の少なくとも1つの薬剤を含む。
【0108】
本発明は、以下の非限定的実施例によって、さらに記載される。
【実施例】
【0109】
(実施例I)
(材料および方法)
(ランゲンドルフ灌流および全虚血/再灌流)
全虚血プロトコールは、Tsuchidaら(1994)のものを改作した。全ての手順は、The Scripps Research Institute(TSRI)のAnimal Care and Use Committeeにより承認された。単離した心臓を得るために、麻酔下でウサギ等の哺乳類動物から心臓を切除し、素早くカニューレ挿入してランゲンドルフ灌流装置と接続した。この心臓を虚血/再灌流症状の発現前にクレブス・リンゲル緩衝液で、15分間灌流する。無流動虚血状態を30分間維持し、15分間の流動の回復によって再灌流をおこなう(特に明記しないかぎり)。虚血のプリコンディショニングは、非流動虚血と規則的虚血および再灌流直前の再灌流との5分周期を3回繰り返すことで、誘導されうる。
【0110】
要約すると、心臓を麻酔下でウサギから切除し、素早くカニューレ挿入してランゲンドルフ灌流装置と接続した。この心臓を虚血/再灌流症状の発現前にクレブス・リンゲル緩衝液で、15分間灌流した。無流動虚血状態を30分間維持し、15分間の流動の回復によって再灌流を行った(特に明記しないかぎり)。虚血のプリコンディショニングは、非流動虚血と規則的虚血および再灌流直前の再灌流との5分周期を3回繰り返すことで、誘導した。クレアチンキナーゼ(CK)放出の測定と、トリフェニルテトラゾリウムクロクロライド(TTC)染色を用いた梗塞サイズの測定とによって、これらの介入の有効性を検証した(Painら、2000;Downey,2001)。
【0111】
(ミトコンドリアおよびサイトゾルの単離)
全虚血の完了時に、該心臓をカニューレから取り出し、心臓当たり20mLの氷冷MSE緩衝液(マンニトール 225mmol/L、スクロース 75mmol/L、EGTA 1mmol/L、NaVO 1mmol/L、およびHEPES−KOH[pH
7.4]20mmol/L)中で心室を細かく刻んだ。直径10mm回転刃を備えたPowerGen 125(Fisher Scientific)によって、最高出力で、心臓を5秒間さらにポリトロン・ホモジナイズした。ホモジェネートを10分間600g、4℃で遠心した。ペレットを破棄して、上清を10分間10,000gで遠心して、ミトコンドリアおよびリソソームをペレット化した。上清(粗サイトゾル)を30分間100,000gでさらに遠心し、無微粒子サイトゾル(S100)を得た。先の10,000g遠心から得たペレットをMSE緩衝液10mLで再懸濁し、10分間8000gで遠心した。この洗浄ステップを1度繰り返した。最終ペレットをMSE緩衝液3mLで再懸濁し、6%パーコール5mL、17%メトリザミド2mL、および35%メトリザミド2mL(全て、スクロース0.25mol/L中で調製し、13mL管に入れた)からなる混成パーコール/メトリザミド不連続勾配精製によってさらに精製した(Storrieら、1996)。
【0112】
試料3mlを勾配の最上部に重ね、Beckman SW41ローターを用いて20分間50,000g、4℃で遠心した。17%メトリザミドと35%メトリザミドとの間の界面にあるミトコンドリア画分を回収し、MSE緩衝液で少なくとも10倍に希釈し、続いて、10分間10,000gで遠心して、メトリザミドを除去した。ペレットをMSE緩衝液20mlで再懸濁し、再び遠心した。最終ペレットをMSE緩衝液3mLで再懸濁し、アリコートを−80℃で保存した。ブラッドフォード・アッセイを用いてタンパク質濃度を測定し、全ての実験に対して、等量のミトコンドリア・タンパク質をゲルに入れた。ミトコンドリアとともにインキュベートする前に、サイトゾル濃度を全ての条件で等しくなるように調整した。
【0113】
(ミトコンドリアのサブオルガネラ分画)
ComteおよびGautheronの方法(1979)の改良版を用いてミトコンドリアを分画した。新たに単離した精製ミトコンドリアを5分間10,000gで遠心してペレット化した。このミトコンドリア・ペレットをKHPO(pH7.4)10mMで再懸濁し、低張性膨張のために氷上で20分間インキュベートした。該ミトコンドリアを15分間10,000g、4℃で遠心し、ミトプラスト(内膜およびマトリックス)をペレット化した。外膜(OM)および膜間腔(IMS)を含有する上清を30分間100,000gで遠心し、OM(ペレット)とIMS(上清)とを分離した。MC緩衝液(スクロース 300mM、EGTA 1mM、NaVO 1mM、MOPS 20mM、pH7.4)500μlで該ミトプラスト・ペレットを再懸濁し、出力を8〜10ワットに設定して、20秒間バーストと40秒間停止期間との周期を5回繰り返して氷上で超音波処理した。超音波処理したミトプラスト調製物を10分間10,000gで遠心し、残存するいずれのインタクトなミトプラストまたはミトコンドリアを除去し、続いて、30分間100,000gで遠心して、内膜(IM)とマトリックス(MTX)とを分離した。
【0114】
(成体心筋細胞の代謝阻害)
Gottliebら(1996)に記載されるように、成体ウサギ心筋細胞の単離および代謝阻害を行った。心筋細胞を窒素キャビテーションによって破砕した(Gottliebら、2000)。勾配精製を用いないこと以外は、上述のようにミトコンドリアおよびサイトゾルを単離した(Heら、1999)。
【0115】
(ミトコンドリア・リンタンパク質の標識、精製、および同定)
リン酸化反応のために、HEPES−KOH[pH7.5] 25mmol/L、酢酸マグネシウム 10mmol/L、ATP(冷) 10μmol/L、および[γ−32P]ATP 10μCiを添加したMSE緩衝液で精製ミトコンドリア100μgを30分間30℃でインキュベートした(サイトゾル250μg有りまたは無しで)。その後、反応混合物を5分間10,000gで遠心した。ミトコンドリア・ペレットをMC緩衝液500μLで再懸濁し、2度洗浄した。ミトコンドリア・タンパク質を12%ポリアクリルアミド・ゲル上で分解し、ニトロセルロースに転写し、オートラジオグラフ法によって検出した。
【0116】
プロテインキナーゼ阻害実験のために、サイトゾルを阻害剤とともに指定濃度でインキュベートし、その後ミトコンドリアを添加し、ATPを添加して反応を開始した。セリン/トレオニン・キナーゼ阻害剤(Calbiochem、カタログ番号539572)には、ビスインドリルマレイミドI 10nmol/L、H−89 48μmol/L、プロテインキナーゼG阻害剤86μmol/L、ML−7 0.3μmol/L、KN−93 0.37μmol/L、およびスタウロスポリン10nmol/Lを含んだ。チロシン・キナーゼ阻害剤(Calbiochem、カタログ番号657021)には、ゲニステイン25μmol/L、PP2 5nmol/L、AG490 15μmol/L、AG1296、1μmol/L、およびAG1478 3nmol/Lを含んだ。
【0117】
(2Dゲル電気泳動、質量分析法、およびホスホアミノ酸分析)
(ホスホアミノ酸の測定)
EF−Tumtのリン酸化アミノ酸(群)を測定するために、放射性標識タンパク質をPVDF膜から切除し、酸加水分解した。加水分解された混合物を薄層セルロース・プレート上で1−D電気泳動した(Murryら、1986)。
【0118】
質量分析法による同定のためのp46を調製するために、2個の未処置心臓からメトリザミド精製ミトコンドリア14mgを得た。アリコートのうちの1つを非放射性「冷」ATPでリン酸化した以外は、上述のようにミトコンドリアの2つのアリコート(それぞれ7mg)をリン酸化した。反応後に、両反応物のミトコンドリアを上述のようにサブオルガネラ分画し、IMを得た。p46の同定用ソースとしてIMを選択した理由は、その後の2Dゲル分析用に少量であり、かつp46が適当に豊富であるためである。尿素8MおよびTris−HCl(pH7.4)20mMを含有する緩衝液で、温IMおよび「冷」IMを最懸濁し、Pharmacia IPGphor IEFシステムを用いた同一条件下で2Dゲル電気泳動によって分解した。両ゲルをクーマシー・ブルー染色し、乾燥させた。放射性標識試料を含有するゲルをX線フィルムにさらして、p46を局在化した。位置マーカーを用いて、オートラジオグラフを該ゲルに重ねた。3つの近い間隔にある放射性箇所が3つのクーマシー・ブルー染色箇所に正確に重なっていることが判明した。これらの箇所は、他の箇所がほとんど近くにないゲルの比較的「クリーンな(clean)」部分に位置しており、明瞭に認識された。非放射性ゲル上の同様の3つの箇所を視認し、オートラジオグラフの重なりによって確認し、質量分析のために切除した。
【0119】
(p46のゲル内消化)
3つの箇所全てのトリプシン・ゲル内消化をDiLisa他(1998)に記載されるように実行した。分離されていないトリプシン・ペプチド混合物を50%アセトニトリル−5%トリフルオロ酢酸で希釈し、最終量15μlにした。
【0120】
(MALDI分析)
DiLisaら(1998)に記載されるように、窒素レーザー(337nm)を備えたVoyager DE−Str MALDI−TOF計測器(Applied Biosystems,Framingham,MA)を用い、遅延抽出(Kayら、1997)およびリフレクトロン・モード(Ferrain,1996)で操作して、MALDI分析を実行した。トリプシン自己消化ペプチド上で質量スペクトルを内部校正した。
【0121】
(MS/MS分析によるペプチド・シーケンシング)
MS/MS分析のために、C18逆相Zip−Tip(登録商標)(Millipore;Bedford,MA)上で、ゲル内消化後に得た粗ペプチド混合物を精製した。精製試料をナノスプレー・ニードル(Protana,Odense;Denmark)に供給し、Q−Star四重極飛行時間計測器(Sciex,Toronto;Canada)で、ナノスプレー・モードで分析した。イオン・スプレー電圧は1100Vに設定した。MS/MS実験のために、衝突エネルギーQを50に設定した。
【0122】
(EF−Tuのカラム・クロマトグラフィー精製およびp46の検出)
ミトコンドリアを[γ−32P]ATPで標識し、上述のように分画し、マトリックス画分を得た。1mLDEAE−Sepharose Fast−Flowカラム(Pharmacia)上での陰イオン交換クロマトグラフィーによって、該ミトコンドリア・マトリックス成分を分解し、段階的塩勾配(KCl 40〜500mmol/L(10mmol/Lずつ)、Tris HCl(pH7.4)20mmol/L含有緩衝液中)で溶出した。遠心フィルター濃縮器(Ultrafree−4,Millipore)を用いて、画分(0.5mL)を回収し、濃縮し、およびTris HCl[pH7.4]20mmol/L中のKCl40mmol/Lに緩衝液を交換した。12%SDS−PAGEによって、タンパク質画分を分解した。Woriaxら(1997)に記載されるように、EF−Tuに対してイムノブロット分析を実行した。
【0123】
(梗塞サイズの測定)
定量方法以外は、梗塞サイズの測定は、Downey(2001)に詳述されたものと基本的に同一とした。TTC反応後に、心臓切片を走査して、TIFFファイルに読み込み、Adobe Photoshop 5.5で分析した。画像を同一方法でデジタル操作して、等価の結果を確実にした。ヒストグラムが基本的に赤色および白色(それぞれ、非梗塞および梗塞領域に相当)のみがスペクトル上に残るように輝度および対比を調整した。赤および白のヒストグラム数を記録した。白数を赤+白の数の合計で割って、%梗塞を計算した。梗塞へのクロラムフェニコール(CAP)の効果を試験するために、全手順、すなわち安定化15分、全虚血30分、再灌流2時間(Downey,2001)にわたって、CAP100μg/mLを緩衝液中に含んだ。TTC染色へのCAPの起こりうる干渉を制御するために、CAPを2時間の再灌流の最後の15分間で添加した。
【0124】
(ウサギ心臓cDNA由来EF−Tumtのシーケンシング)
ウサギ心臓cDNAライブラリ(Stratagene,La Jolla,CA)を鋳型として用いて、ウサギEF−TucDNAをPCR増幅した。プライマーは、ウシ配列にもとづいた。フォワード・プライマーの配列は、5’−agcatgtggtggtgtatgtga−3’(配列番号1)であり、リバース・プライマーの配列は、5’−tgtggaacatctcaatgcctg−3’(配列番号2)である。このようにして得られたPCR産物を、その後、The Scripps Research Institute Department of Molecular and Experimental Medicine DNA Core Labでの自動シーケンシングのためにPCR−2.1ベクター(Q−biogene,Carlsbad,CA)にサブクローニングした。
【0125】
(表1:p46のリン酸化)
【0126】
【表1A】

コントロール、虚血(MI)、またはプリコンディショニング(PC)心臓由来のミトコンドリアを[γ−32P]ATPで標識し、その後、洗浄して、SDS−PAGEによって分解した。PhosphorImagerを用いてオートラジオグラフを走査し、画素密度をレーンにまたがって比較した。各実験で、コントロールを値1に標準化した。NSは、有意でない(not significant)を示す。
【0127】
(結果)
30分間の全虚血後に15分間の再灌流をした心臓で、ミトコンドリア・タンパク質のリン酸化パターンを分析し、コントロール灌流心臓ならびに虚血および再灌流前にプリコンディショニングしたものと比較した。心臓全体の[γ−32P]正リン酸標識は実用的ではないので、心臓からミトコンドリアを調製し、[γ−32P]ATPとともにインキュベートした。多数のミトコンドリア・タンパク質のリン酸化が認められたが、虚血心臓由来のミトコンドリアは、常に、46kDaの単一タンパク質のより大きいリン酸化(1.4倍、P<0.01)を示した(表1参照)。プリコンディショニングした心臓由来のこのタンパク質(名称p46)のリン酸化の程度は、コントロール心臓と有意に異なることはなかった。これらの結果から、p46のリン酸化は虚血/再灌流およびプリコンディショニングによって逆に調節されることが示される。
【0128】
p46のリン酸化がサイトゾル因子によって調節されるかどうかを測定するために、単離したコントロール灌流心臓と、全虚血および再灌流した心臓とからサイトゾルを調製した。その後、正常ウサギ心臓から新たに単離したミトコンドリアとともに、これらのサイトゾルを[γ−32P]ATPの存在下でインキュベートした。コントロールサイトゾルの存在下でのp46のリン酸化は極めて低かったが、虚血心臓由来のサイトゾルの存在下で正常ミトコンドリアをインキュベートした際には増加した。いずれのサイトゾルも存在させずにインキュベートしたミトコンドリアもp46のリン酸化を示したので、正常サイトゾルに存在する因子が内因性キナーゼによりp46のリン酸化を抑制することが示唆される。
【0129】
このリン酸化活性が心筋細胞に関連しており、心臓内の他の細胞型が原因ではないことを検証するために、代謝阻害剤(2−デオキシグルコースおよびKCN)の存在または不在下でインキュベートした単離成体ウサギ心筋細胞からサイトゾルを調製した(Heら、1999)。コントロール心筋細胞由来のサイトゾルは、p46のリン酸化を再度抑制した。しかし、代謝阻害した心筋細胞由来のサイトゾルは、代謝阻害時または回復後10分のいずれでも、46kDaミトコンドリア・タンパク質のリン酸化を阻害できなかった。
【0130】
JNK免疫反応性およびキナーゼ活性が虚血/再灌流後のミトコンドリアに移動するが、虚血単独後のミトコンドリアには移動しないことが先行して示された(Heら、1999)。p46リン酸化を代謝回復の不在下では検出できなかったが、JNKがp46のリン酸化を媒介するかどうかについては未知であった。この可能性を試験するために、サイトゾルのJNKまたはp38マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)を免疫枯渇した。その後、免疫枯渇させたコントロールまたは虚血サイトゾルとともに、ミトコンドリアを[γ−32P]ATPの存在下でインキュベートした。JNKまたはp38MAPKの免疫枯渇は、虚血サイトゾルにより媒介されるリン酸化での増加を弱めなかったので、これらのプロテインキナーゼのいずれもリン酸化に関与していないことが示された。
【0131】
関連する起こりうるシグナル伝達経路について更なる情報を得るために、コントロールまたは虚血サイトゾルとともに、ミトコンドリアを種々のキナーゼ阻害剤の存在下でインキュベートし、ミトコンドリア内のp46のリン酸化への効果を評価した。セリン/トレオニン・キナーゼ阻害剤パネルを試験した。該パネルには、広域阻害剤スタウロスポリンと、プロテインキナーゼC(PKC)、PKA、Ca2+/カルモジュリン(CaM)キナーゼII、ミオシン軽鎖キナーゼ、およびPKGの阻害剤とを含んだ。ミトコンドリアは、A−キナーゼ・アンカー・タンパク質(AKAP)によって膜へ固定される(anchored)関連するプロテインキナーゼAを有することが認められた。しかし、PKA阻害剤H−89は、p46のリン酸化に影響しなかった(データは図示せず)ので、PKAが関与していないことが示唆された。セリン/トレオニン・キナーゼ・パネル中の阻害剤はp46のリン酸化を抑制しなかった。その後、EGFRおよびsrcに対して効果的な広領域阻害剤ゲニステインと、p56(lck)、p59(fynI)、およびHckの阻害剤PP2と、JAK2の阻害剤AG490とを含むチロシン・キナーゼ阻害剤を試験した。リン酸化を低下させた唯一の阻害剤はゲニステインであった(n=3)。サイトゾル中のチロシン・キナーゼと、ミトコンドリアに内因性であるものとを識別するために、虚血心臓由来のミトコンドリアをゲニステインとともにインキュベートし、ゲニステインがp46のリン酸化を再度阻害することができることが見出された。
【0132】
p46を同定するために、コントロールおよび虚血サイトゾル処理ミトコンドリアの内膜タンパク質を同一条件下で2D SDS−PAGEゲルによって分析した。p46の等電点(pI)は、約6.5のようであった。質量分析のための調製用2Dゲルで、オートラジオグラフ上の放射性標識p46に相当する内膜タンパク質の2Dゲル上の3つの近い間隔にあるクーマシー染色箇所を、MALDI質量分析法による分析用に選択した。
【0133】
対象の3つの箇所から得られたMALDIスペクトルによって、3つの箇所全てが同じタンパク質を表すことが明らかになった。全数12個の質量指紋を得て、データベース検索したが、完全にマッチするタンパク質はなかった。従って、ナノエレクトロスプレー質量分析法(MS)によって、ゲルの中央箇所から得た試料をさらに分析した。MALDI分析によって観測された全てのペプチド質量指紋がナノエレクトロスプレーMSスペクトルでも見出された。二重電荷イオンとして観測されたペプチドの全てを別々のMS/MS実験で分析した。全イオン系列が得られるように断片化したペプチドは、全てではなかった。4種類の分析したペプチドは、十分に断片化し、完全または部分的なシーケンシングが可能であった。12個のアミノ酸からなる1種類のペプチドを完全にシーケンシングし、AEAGDNI(L)GAI(L)VR(配列番号7)を得た(MS/MSは残基IおよびLを識別できないので、括弧内の「L」は可能な選択肢を表す)。最後の3つの残基以外はシーケンシングされた13個のアミノ酸の第2のペプチドから、配列I(L)I(L)DAVTYIPV(配列番号8)を得た。さらに2種類のペプチドを部分的にシーケンシングして、6個のアミノ酸および4個のアミノ酸を生成し、それらはそれぞれ、EEI(L)DNA(配列番号9)およびYVSE(配列番号10)である。
【0134】
長い配列の方のペプチド2種類をBLAST検索し、伸張因子Tuのヒトおよびウシ・ミトコンドリア前駆体(それぞれ、SwissProt登録番号P49411およびP49410)と完全にマッチ(100%)した。ウサギ配列はデータベースにはないが、EF−Tu配列はヒトとウシとの間で高度に保存されている(>94%同一性)。ウサギEF−Tumtに対する部分的配列をPCRによって得た。EF−Tumtに対するウシ配列に対応するプライマーを、ウサギ心臓cDNAを鋳型とするPCR合成に用いて、部分配列を得た(データ図示せず)。得られた部分配列に関して、ウサギは、アミノ酸レベルで、ヒト配列と92%相同性を有し、ウシと95%相同性を有していた。質量分析法によって得た1種類のペプチド配列は、部分的なcDNA配列内にあり、完全にマッチしていた。
【0135】
リンタンパク質が実際にEF−Tumtであることを検証するために、放射性標識ミトコンドリア・タンパク質試料のイムノブロット分析を行った。EF−Tumtに対する抗体(Woriaxら、1997)は、リンタンパク質に対応する一連の箇所を認識した。リンタンパク質がEF−Tumtを表すことをさらに確認するために、EF−Tumtの精製用に開発されたプロトコールに従って、DEAE−Sepharose陽イオン交換カラム上で、ミトコンドリア抽出物を部分的に精製した(Woriaxら、1997)。EF−Tumt存在に関して、かつp46リンタンパク質に関して画分を分析した。図5Bに示すように、放射性標識リンタンパク質(上部パネル)は、EF−Tumt(下部パネル)と厳密に同じ画分に溶出した。EF−TumtおよびEF−TSmtは、複合体として、DEAE−Sepharose上で溶出するので、2Dゲル電気泳動と比べて、この手順は異なる生化学的特性に依存する(Woriaxら、1997)。両スキームで、別のタンパク質がEF−Tuと同時精製する起こりそうにない。これらの研究にもとづいて、リンタンパク質が実際にEF−Tumtであることが結論づけられた。
【0136】
前述の観測によって、EF−Tumtがインビトロでリン酸化を受けることが示された。EF−Tumtが内因的にリン酸化されるかどうかを確認するために、ミトコンドリアをホスファターゼ阻害剤の存在下で心臓から単離し、2Dゲル電気泳動し、EF−Tumtの免疫検出を行った。EF−Tumtに対する抗体は、等電点のわずかに異なる2つまたは恐らく3つの箇所を検出した。これらの複数の箇所の分布は、インビトロリン酸化実験で見られたものに相当し、酸性リン酸基の付加を表す可能性が高い。3つの箇所が存在することによって、少なくとも2つのリン酸化部位の存在が示唆される。これらの観測によって、EF−Tumtがインビボで、コントロール心臓中でさえも、リン酸化されるという確証が得られる。虚血後に増加するインビトロリン酸化が利用可能な非リン酸化部位の「バック・リン酸化(back−phosphorylation)」表す可能性と、コントロールおよびプリコンディショニング心臓で、EF−Tumtが実際に高度にリン酸化されている(それによって、インビトロ反応での放射性リン酸の組み込みに利用可能な部位がほとんど残されない)可能性とも増加させる。
【0137】
ミトコンドリアを分画して、46kDaリンタンパク質のサブミトコンドリア局在化を測定し、これをEF−Tumtの分布と比較した。該リンタンパク質の大多数はマトリックス中で見出されたが、一部は内膜に関連することが見出された。この分布は、EF−Tumtに対して観測されたものと同一であった。サブミトコンドリア画分の純度も測定した。ウエスタン・ブロットによって分析したように、内膜成分リスケ鉄硫黄タンパク質(Fes)は、基本的にマトリックスには存在しないことが見出されたが、一方で、マトリックス・タンパク質hsp60は、ある程度内膜画分に混入していた。EF−Tumtの分布は、hsp60に相当しているので、EF−Tumtがマトリックスに存在している可能性があるか、または膜と可逆的な関係によるものであると示唆される。しかし、ES−Tsmtも抗体によって検出されたが、ES−Tsmtは、マトリックス画分でのみ検出されたことが興味深い。アミノ酸加水分解によって、EF−Tumtがセリン上でリン酸化されることが示された。
【0138】
原核生物でのEF−Tuのリン酸化は、タンパク質翻訳を阻害する。同じことが真核生物のEF−Tuにも言える可能性があった。もしそうであれば、ミトコンドリア・タンパク質合成の阻害は、EF−Tumtリン酸化の効果を再現することが予測される。この可能性を試験するために、ミトコンドリア・タンパク質合成の有力な阻害剤CAPで心臓を前処理し、虚血および再灌流後の梗塞サイズへの効果を試験した。CAP処理は、全虚血後に、梗塞サイズを64.1(±4.1)から43.1(±6.4)(平均値の±標準誤差)まで減少させ、CK放出を低下させたので、ミトコンドリア・タンパク質合成の阻害が心保護的である可能性が示唆された。2時間の再灌流の最後の15分に投与されたCAPは保護的ではなかった(梗塞サイズ69.2±5.7)。
【0139】
CAP処理は、ミトコンドリアにコードされるタンパク質・チトクロム・オキシダーゼ・サブユニットIの免疫検出も減少させたが、一方で、核にコードされるミトコンドリア・タンパク質(例えば、VDAC、ANT、Hsp60、FeS(Rieske)、およびチトクロム・オキシダーゼIV)は変化しないままであった(データ図示せず)。15分と短いCAP注入は、ミトコンドリアにコードされるチトクロム・オキシダーゼIのほぼ完全な消失を引き起こすのに十分であった。このことによって、心臓中の複数のミトコンドリアにコードされるタンパク質の代謝回転は非常に迅速であることが示唆される。
【0140】
(考察)
虚血、再灌流、またはプリコンディショニング時に、多数のプロテインキナーゼが活性化され、これらのうちの少なくとも2つはミトコンドリアに移動すると考えられる。小分子またはサイトゾル・キナーゼのどちらかは、シグナルをミトコンドリアに伝達し、EF−Tumtのリン酸化を刺激することが可能である。実際、正常心臓由来のサイトゾルは、EF−Tumtのリン酸化を抑制するが、一方で、いずれのサイトゾルも存在しないことか、または虚血サイトゾルが存在することによって、リン酸化が有利になる(上記参照)。上述の実験は、ホスファターゼ阻害剤の存在下で行ったので、このことが、サイトゾル因子によって差次的に調節されるキナーゼとホスファターゼとの間の均衡を表す可能性がある。
【0141】
EF−Tumtのリン酸化は、虚血に応答して増加するので、EF−Tumtリン酸化への虚血のプリコンディショニングの効果を測定した。EF−Tumtリン酸化に対する内因性ミトコンドリア・キナーゼの活性を測定するために、コントロール、虚血、およびプレコンディショニング心臓からミトコンドリアを単離した。精製したミトコンドリアをサイトゾルの不在下で[γ−32P]ATPとともにインキュベートした。プリコンディショニングは、再灌流の15分目に見られるリン酸化の量を減少させた。先述したように、緩衝液でインキュベートしたミトコンドリアは、EF−Tumtのリン酸化の基礎レベルのみを示したが、一方で、コントロールまたはプリコンディショニング心臓由来のサイトゾルは、リン酸化を抑制した。虚血心臓由来のサイトゾルまたは虚血心臓から調製したミトコンドリアは、EF−Tumtのリン酸化を刺激した。これらの観測によって、正常な代謝活性心筋細胞のサイトゾルは、EF−Tumtのリン酸化を調節する上で効果的であるが、虚血または代謝阻害細胞のサイトゾルは、このリン酸化過程を調節する能力を失っていたことが示唆される。別の解釈としては、EF−Tumtのリン酸化を刺激する虚血心臓由来のサイトゾルに存在する因子があるということである。虚血対コントロールサイトゾルでのEF−Tumtのリン酸化での変化は、異なる濃度のサイトゾルATP中[γ−32P]ATPの希釈が原因の可能性は少なく、アデニン・ヌクレオチド・トランスロケーターを介したATP輸送での変化が原因の可能性も少ない。この理由は、他のリンタンパク質バンドは、全ての条件下で同レベルのリン酸化を示したためである。このリン酸化は、虚血および15分の再灌流した心臓由来のミトコンドリアで増加したが、最灌流を90分に延長した場合はベースラインまでレベルが減少した。これらの結果から、EF−Tumtのリン酸化が虚血とプリコンディショニングとによって調節されることが示される。
【0142】
MAPKファミリーのメンバーは、虚血性障害(Heら、1999;Rainesら、1999;Wangら、1998)およびプリコンディショニング(Weinbrennerら、1997;Maulikら、1998;Haqら、1998)に関与している。しかし、JNKおよびp38の免疫枯渇は、EF−Tumtのリン酸化に影響しなかったので、これは他のキナーゼ経路によって調節されている可能性があることが示唆された。ゲニステインがリン酸化を阻害するということと、EF−Tumtがセリン上でリン酸化されるということとの知見によって、EF−Tumtリン酸化を担うシグナル伝達経路がチロシン・キナーゼおよびセリン/トレオニン・キナーゼ両方を含むということが示唆される。
【0143】
EF−Tumtリン酸化の意義は何であるか。ミトコンドリアは、ミトコンドリア・ゲノムにコードされる13個のポリペプチドの合成に不可欠であるオルガネラ特異的タンパク質合成系を含む。この系のタンパク質産物の全ては、ミトコンドリ内膜に位置する電子伝達複合体およびFATPシンターゼの成分である。先行する調査では、ミトコンドリアにコードされるサブユニットを含む電子伝達複合体IおよびIVの機能での変化が同定されたが、一方で、核にコードされるサブユニットのみを含有する複合体IIは影響を受けない。
【0144】
驚くべきことに、リン酸化の主標的は、EF−Tumtであった。EF−Tuは、aa−tRNAと結合してリボソームへ運ぶ機能をするGTPアーゼである。細菌では、トレオニン382上のEF−Tuのリン酸化は、三成分複合体の形成を防ぐことが判明している(Lippmannら、1993;Kraalら、1999)。このThr残基は、EF−Tuで高度に保存されており、哺乳類動物ミトコンドリア因子に存在し、その配列は現在入手可能である。従って、この残基は、ウサギEF−TumtのThrである可能性がある。ウサギEF−Tumt内のセリン・リン酸化部位は未だ測定されていない。さらに、リン酸化部位の数も測定されていない。MALDIスペクトルは、等電点で異なる全ての3つの箇所で同一であり、これは2つのリン酸化部位にも整合する。しかし、N末端またはC末端でのグリコシル化または微量のタンパク質分解は、分子質量での検出可能な差異はなくpIでの変化を有する箇所を生じさせる可能性もある。EF−Tumtは、リン酸化されることが先行して報告されており、タンパク質合成でのその活性へのこの修飾の効果を測定するためには更なる研究を必要とするであろう。コントロールまたはプレコンディショニング心臓と比べて、EF−Tumtリン酸化が虚血心臓で高まるという事実は、リン酸化が何らかの生理学的意義を持つことを示す。EF−Tumtリン酸化がミトコンドリア・タンパク質合成の不活性化に至り、その結果として、複合体IおよびIVの機能に不可欠なミトコンドリア・サブユニットを失うということが予測されることが興味深い。このことにより、特に複合体Iが再灌流時にスーパーオキシド酸性に関与する場合、CAP処理の心保護的効果が説明されうる。さらに、ミトコンドリア・タンパク質合成の阻害は、エネルギー節約をすることが可能であり、制限のあるATPを不可欠な必要性に対して活用できる。
【0145】
EF−Tumtの存在量は、腫瘍細胞で増加(Wellsら、1995)し、多数の他のミトコンドリア・タンパク質とともに、ペーシング誘導性の心不全ではほとんど消滅することが判明している(Heinkeら、1998)。Escherichia coli EF−Tuもシャペロンとして機能することが報告されている(Kudlickiら、1997)。この活性は、リン酸化によって調節されることが可能である。EF−Tumtは、虚血性障害後のミトコンドリア・タンパク質の再折り畳みに関与することによって、熱ショック・タンパク質と類似の役割を果たすことが可能である。
【0146】
(実施例II)
(方法)
(ランゲンドルフ心臓灌流)
すべての手順は、Scripps Resarch Istitute(TSRI)でAnimal Care and Use Committeeの承認を得た。実施例1と同様にラット心臓をクレブス・リンゲル緩衝液を用いてランゲルドルフ・モードで灌流した。CAP(300μM)(Calbiochem,San Diego,CA)、硫酸ゲンタマイシン(50mg/ml)(Sigma,St.Louis,MO)、ケトコナゾール(7.5μM)、スルファフェナゾール(10〜300μm)(Sigma,St.Louis,MO)、またはシメチジン(200〜600μM)を、虚血前または再灌流時に、灌流緩衝液に添加した。非流動虚血(no−flow ischemia)を30分間にあたって保ち、クレアチンキナーゼ(CK)放出測定およびジヒドロエチジウム(DHE)染色をおこなうために15分間にわたって、またトリフェニルテトラゾリウムクロリド(TTC)染色による梗塞サイズの測定のために120分間にわたって、流動を再開することで再灌流を行った。CK活性の測定は、CKEC2.7.3.2UV−Testキット(Sigma)を製造元の指示書どおりに用いて行った。TTC染色後の梗塞サイズの測定は、実施例1の記載どおりに実施した。
【0147】
(ウサギ回旋枝閉塞)
12匹のニュージーランドホワイト・ウサギ(2.8〜3.9kg)を、局所虚血前に、無作為化して、CAP(20mg/kg、滅菌生理食塩液中)またはベヒクル(薬物ではない)の静脈内ボラスを受けるためにランダム化した。動物を、気管開口術を介して、大気による機械的に通気させ、その後、心臓を胸骨正中切開によって露出させた。適当な結紮糸を、回旋冠状動脈周辺に通過させた。Gottliebら(1994)に述べられているように、縫合結紮を、回旋冠状動脈のまわりに通し、スネア閉塞して再灌流した。虚血をスネア閉塞により誘導し、目視検査により確認した。30分の虚血後、結紮を解き放し、心臓を4時間にわたって再灌流した。つぎに、心臓をすばやく切除し、アクリジン・オレンジの注入によって灌流正常領域をマーキングした。心臓を凍結させ、TTC染色を用いて次の日に梗塞サイズを測定した。危険にさらされた領域(アクリジン・オレンジ染色によって境界を定めた)の比率として梗塞サイズを、心臓の処置状態が隠された観察者によって、測定した。
【0148】
(スーパーオキシド産生の測定)
Millerら(1998)述べられるように、スーパーオキシド生成をエチジウムからジヒドロ・エチジウム(DHE)への変換を介して評価した。心臓切片(1mm厚)を、2mMDHE(Molecular Probes、Eugene,OR)含有PBSで暗所、37℃、20分間にわたり染色した。Kodak Digital Science 1D ソフトウェアを用い、Kodak DC120デジタル・カメラを備えた紫外線トランスイルミネーター(Fisher Scientific)上の切片像を、TIFFファイルとして保存し、Adobe Photoshop 5.5を用いて分析した。スーパーオキシド産生を反映する相対的な経口強度は、全心臓領域に対する蛍光(白色)ピクセルの比率として定量した。
【0149】
(ミトコンドリアの調製および酸素消費量の測定)
心臓を、氷冷MSE緩衝液(mmol/Lで、マンニトール220、ショ糖70、EGTA2、MOPS5(pH7.4)、およびタウリン2、0.2%脱脂肪酸ウシ血清アルブミン(BSA)を追加)中で、素早く切り刻んだ。心臓組織をMSE中でポリトロン・タイプ組織グラインダーを用い、11,000rpm、2.5秒でホモゲナイズし、その後Potter−Elvehjem組織グラインダーを用いて500rpmで素早く2回ストロークした。ホモゲネートを2回、500g、5分間で遠心し、上清を得た。3,000rpmで2回遠心することで、この上清からミトコンドリアをペレット化し、このペレットをMSE緩衝液でリンスした。上清は粗サイトゾルとして保存した。最終ペレットをリンスし、50μlのインキュベーション培地(mmol/Lで、マンニトール220、ショ糖70、EGTA1、MOPS5(pH7.4)、およびタウリン2、MgCl
10、およびKHPO 5、0.2%脱脂肪酸ウシ血清アルブミン(BSA)を追加)(Scholteら、1997)に再懸濁した。ミトコンドリアを湿った氷上で15分間インキュベートし、タンパク質濃度をブラッドフォード分析(BSAを標準として用いた)によって測定した。すべての作業は、0℃で湿った氷上で行った。
【0150】
(マウスまたはラット心臓から得たミトコンドリア内での呼吸の測定)
酸素消費量の測定は、クラーク・タイプ酸素電極(Instech)を用いて、600μlKCL呼吸緩衝液(mmol/Lで、KCl 140、EGTA 1、MOPS 10(pH7.4)、MgCl 10、およびKHPO 5、0.2%脱脂肪酸ウシ血清アルブミン(BSA)を追加)(Scholteら、1997;Chanceら、1961;McKeeら、1990)中、30℃で行った。複合体II活性の測定は、基質としての5mMコハク酸塩とともに200μgのミトコンドリアを用いて行った。複合体IV活性の測定は、基質としてのTMPD0.4mMおよびアスコルビン酸塩1mMとともに150μgのミトコンドリアを用いて行った。各複合体について、2mMADP添加後にADP刺激呼吸率(状態3)を測定;ADP非依存型呼吸率、オリゴマイシン非感受性(状態4)を、2μMオリゴマイシンの添加後に測定;さらに、2μMFCCPによるミトコンドリアの脱共役後に、最大呼吸率を測定した。率は、阻害剤(複合体IIIに対しては1μMアンチマイシンA、複合体IVに対しては、1mMKCN)に対して非感受性である率を差し引いた後、nA O/分/mgタンパク質として、測定した。ミトコンドリアの完全性の測定として、状態4で割った呼吸調節比(RCR)状態3を計算した。
【0151】
(ミトコンドリア・タンパク質のイムノブロッティング)
ミトコンドリア(50のμg)を、SDS−PAGEによって分析し、PVDFナイロン膜に転写した。膜に対して、Dr.Akemi Matsuo−Yagi(Scripps Research Institute)から快く提供された抗体によるND3の探索をおこない、またチトクロム・オキダーゼ・サブユニットI(Molecular Probes,Eugene,OR)の探索を行った。検出は、ECL(Amersham,Piscataway,NJ)を用いて行った。非飽和オートラジオグラフを、Scion/NIH Imageで定量化した。
【0152】
(心臓ミクロソームでのチトクロムP450活性の測定)
CAP(300μM)の存在または非存在下で虚血/再灌流の直後、ラット心臓をKCl緩衝液(0.15M、pH7.4)で、ポスト・マウンテッド・ローター・ステータ組織ホモゲナイザーでホモゲナイズした。Wallesとその共同研究者(2001)によって記載されているように、分画遠心分離によってミクロソームをラット肝臓(Sprague−Dawley,オス6−8週)から単離した。ホモゲナイズした組織を11,000gで30分間、4℃で遠心した。上清をさらに、170,000gで60分間、4℃で遠心した。結果として得られたペレットをKCl緩衝液に再懸濁し、200,000gで40分間、VCで遠心した。つぎに、ミクロソーム分画は、トリス−ショ糖緩衝液(0.25Mショ糖、20mMトリス緩衝液、5mMEDTA)に移した。タンパク質濃度をビシンコニン酸マイクロ分析(Pierce)によって測定した。ミクロソーム溶液を等分し、さらに使用するまで−80℃で保存した。
【0153】
(チトクロムP450の蛍光定量アッセイ)
複数の分析を、蛍光検出器ミクロタイタープレート(96穴)で、37℃で平行して行った。CYP2D2スーパーソーム、基質(AMMC)、製品標準3−[2−(N,N−ジエチル−N−メチルアミノ)エチル]−7−ヒドロキシ−4−メチルクマリン(AMHC)、およびNADPH生成系を、BD Gentest(Woburn,MA)から得られた。反応成分の予熱を37℃で行った。アッセイの開始は、選択された基質濃度に対してNADPH再生系を添加することでおこなうことで、線形の時間経過プロフィール(AMMC、30μM)が得られ、またスルファフェナゾール(AMMC、50μM)の存在または非存在下、上記したように単離したラット肝臓ミクロソーム・タンパク質(10mg/ml)を含むリン酸緩衝液(50mM、pH7.4)(最終有機共溶媒濃度、0.1%アセトニトリル)を得た。反応の進行に続いて、SPECTRAmaxTMGEMINIデュアル走査マイクロプレート分光計を用い、1時間37℃で、AHMC形成(λex=390nmおよびλem=460nm)を連続してモニタリングした。NADPHの残存吸収を、分析全体を通じて補償した。反応の進行は、全反応の10%を上回ることがなく、その間、反応速度が線形化(r>0.985)する。残存蛍光放出での線形初期変化は、濃度に変換することができ、そのため生成物生成の率が標準曲線と比較される。AHMCのIC50測定を、Graphpad Prism(登録商標)ソフトウェア(San Diego、CA)を用いて実行した。心臓ミクロソームに関して、パーセントとして、クロラムフェニコールフェニコール処理または未処理の群から得た心臓ミクロソーム標本間のAHMC形成間の比較によって、クロラムフェニコールによる阻害を計算した。
【0154】
(統計解析)
統計解析を、GrapbPad InState 4.10ソフトウェア(San Diego,CA)を使用するANOVAによって、群間で実行した。0.05未満のp値は、重要であるとみなされた。
【0155】
(結果)
再灌流の間のCK放出、冠血流量、および梗塞サイズに対するCAP投与の効果は、ランゲンドルフ・モードで灌流させられる単離ラット心臓で評価した。全体的非流動虚血(I/R+CAP)前後のCAP(300μm)による処置は、梗塞サイズを著しく減少させ、43.2±3.2%(SEM)(n=16)(未処理)から16.0±3.6%(n=5、p<0.005)(処理済み)まで著しく減少させた(図2A)。虚血前に投与したCAPは、虚血後のCK放出の量を、未処理の心臓で2.25U/15分±0.28(SEM)(n=16)から0.27±0.13(n=5、p<001)まで実質的に減少させた。冠血流量に対する効果は、心保護に対するものに匹敵した。ゲンタマイシン(構造的に無関係な抗生物質)はこのモデルで心保護的ではなく、起こり得るCAPの抗菌剤効果と相反した。さらに、虚血直後のクロラムフェニコールの投与もまた、実質的に梗塞サイズを減少させた(21.7%±2.7、n=5 対 43.2%、p<0.01)。このことは、再灌流障害がこのモデルでの組織障害の主要なデターミナントであることを示唆している。
【0156】
ミトコンドリアとチトクロムP450モノオキシゲナーゼとの両方が特定の状況下でROSを生成すると考えれば、CAPによる心保護のメカニズムは、ミトコンドリア・タンパク質合成およびチトクロムP450アイソザイムの両方でCAPの既知の阻害能力にもとづく(Kranerら、1994)。ミトコンドリア・タンパク質合成および活性は、Westernブロッティングによって決定され、ミトコンドリア酸素消費量およびブルー・ネイティブPAGE(データ示さず)、それぞれを、ミトコンドリア機能上のクロラムフェニコールの効果に対して評価した(図2および表2)。後の実験によれば、30分間にわたるCAPによる灌流は、ミトコンドリアによってコードされたタンパク質の濃度を変えるほど、十分なものではなく、もしくは呼吸鎖活性に影響を及ぼすほど十分ではなく、CAPはミトコンドリアに対して、これといった影響を及ぼさないものと示唆される。
【0157】
【表2】

ラット心臓をクロラムフェニコールの存在下または非存在下で30分間貫流し、つづいてミトコンドリアを単離し、酸素消費量を測定した。
【0158】
ランゲルドルフ・モードでのI/R中のCAP投与が不活性化心臓活動であるかどうかを評価するために(上掲を参照せよ)、プールした心臓(1群あたり2つ)から心臓ミクロソームを、CAPの存在および非存在下で再灌流直後に単離した。チトクロムP450活性測定は、蛍光基質3−[2−(N,N−ジエチル−N−メチルアミノ)エチル]−7−メトキシ−4−メチルクマリン(AMMC、100μM)、ラットでのラット・チトクロムP450−2Dファミリーに対する基質(およびヒトでのP450−2C)とヒトでの2CスーパーファミリーのNADPH依存型脱メチル化反応に対して行った。チトクロムP450 AMMC O−ジメルラーゼ活性は、CAP処理ラット心臓から調製したミクロソームで95%阻害された。
【0159】
CAPの心保護的効果がチトクロムP450の阻害によるものかどうかを確かめるために、ミトコンドリア・タンパク質合成に影響を及ぼさないチトクロムP450阻害剤をランゲンドルフ灌流モデルで研究した。シメチジン(200〜600μM)によって、梗塞サイズが用量依存的に減少した(図2A〜図2B)。梗塞サイズに対するその効果に平行して、シメチジンもCK放出を減少させた(図2A).虚血後冠血流量は、処置された心臓でも増加した。CAPおよびシメチジンはともにチトクロムP450 2Cスーパーファミリーとして知られていることから(Kranerら、1994;Rendicら、1997)、選択的チトクロムP450 2C阻害剤、スルファフェナゾールを試験した。スルファフェナゾール(10μMおよび300μM)処置は、CK放出および再灌流2時間後の梗塞サイズを減少させた。このことからチトクロムP450 2Cファミリーが再灌流障害において重要な役割を担うことが示唆される。
【0160】
スルファフェナゾールは、ヒトCYP2C9のかなり選択的な阻害剤である一方で、齧歯類P450アイソザイムの阻害剤であることが知られている。従って、虚血・再灌流障害に対するスルファフェナゾールによる用量依存型保護を観察した後、スルファフェナゾールによる齧歯類P450アイソザイム活性の阻害を調べた。ラット肝ミクロソームのスルファフェナゾールの効果、アイソザイム媒介修飾を、ラットのCYP2D2およびヒトのCYP2D6に対する選択的基質である蛍光基質AMMCを用いて調べた。スルファフェナゾールが、ラット肝ミクロソームでAMMCを阻害することがわかった(IC50、0.5μM)(図5A)。CYP2D2が、スルファフェナゾールによって阻害されるAMM脱メチル化酵素かどうかを決定するために、AMM脱メチル化酵素活性に対するスルファフェナゾール(50μM)の効果を、CYP2D2超音波(CYP2P2を特異的に発現するバキュロウイルス感染昆虫細胞から単離されたミクロソーム)を用いて評価した。おもしろいことに、スルファフェナゾールは、著しくCYP2D2を阻害するものにはみえないことから、スルファフェナゾールは、未だ確認されていないCYP AMMC脱メチル化酵素を阻害している(図5B)。
【0161】
CAPの観察された心保護効果は、モデル特異的なものではない。また、ランゲンドルフ/モードに加えて、CAPの保護効果は、回旋性冠状動脈閉塞のウサギモデルで研究された。ウサギに対して、CAP(20mg/kg.i.v.生理的食塩水中)または薬物無しのいずれかを、30分間にわたる冠状動脈のスネア閉塞の30分前に投与し、その後4時間の再灌流を行った(図3A)。危険にさらされた領域の容量は、2群間で異ならなかった(不図示)。しかし、ランゲルドルフ・モードに類似して、CAP投与は梗塞サイズを著しく減少させた。すなわち、リスク(未処理)のある49.3%±17.7対18.3%±12.1(CAP処理)(n=6、p<0.05)(図3A)。虚血後低血圧症もまた、薬物処理ウサギで減少した(−34.2mm HO±2.3 対 −13.3±2.2、n=6、p<0.05)(図3A)。
【0162】
虚血/再灌流障害が、ROS、例えばスーパーオキシド・アニオン(O・−)、過酸化水素(H)、一重項分子状酸素()、およびヒドロキル・ラジカル(HO)の産生を高めることが知られている。CAPの心保護的な結果がROS、O・−の生産の減少にどの程度かかわったかについて判断するために、O生成を、15分の再灌流の後で得られる心臓切片で測定した(図3B)。エチジウムに対するジヒドロエチジウム(DHE)の酸化、スーパーオキシド・アニオン産生の定量化可能な化学的マーカーは、薬物を用いない虚血/再灌流に対してCAP処置心臓のほうが約3倍減少した(33.6%±5.0対10.5±1.6、p<0.005、n=4)。
【0163】
(考察)
外植されたヒト心臓組織の最近のRT−PCR分析は、アラキドン酸エポキシゲナーゼ活性(すなわちCYP2J2)により、チトクロムP450と同様にCYP 1A1、2B6/7、2C8−19、2D6、2E1、および4B1(Thumら、2000)の存在を明らかにした(Wuら、1996)。さらに、内皮CYP2C9(それはエポキシエイコサトリエン酸(EETs)にアラキドン酸を代謝させることが報告された)は、冠状動脈の活性酸素種の機能的に重要なもとであることも示された((Flemingら、2001)。血管調節での顕著な役割に関係するCYP酵素を代謝するアラキドン酸は、一連の領域立体特異的エポキシド(11,12−EET,14,15−EET,8,9−EETおよび5,6−EET)およびHETE(19−HETEおよび20−HETE)を形成するXYP4Aファミリーに属するω−ヒドロキシラーゼを生成する2つの遺伝子ファミリーのエポキシゲナーゼ(例えばヒトの2B、2C8、2C9、2C10、2J2;ブタでは2C34;ラットでは2C11、2C23、および2J4)である。特に、例えばラットCYP4A2および4A3といういくつかの酵素が存在し、これらは水酸化およびエポキシ化の能力がある(Nguyenら、1999)。
【0164】
クロラムフェニコールおよび構造に無関係なチトクロムP450阻害剤(シメチジンおよびスルファフェナゾール)が梗塞サイズおよびCK放出の両方を減少させるという知見は、虚血および再灌流後の心筋障害の重要な媒体であることから、心臓のチトクロムP450モノオキシゲナーゼと強く関係する。クロラムフェニコール、シメチジン、またはスルファフェナゾールによる処置は、虚血を伴う関連冠血流量の低下を予防することも観察され。チトクロムP450抑制がしばしば虚血性発作に続く非再環流現象を減らす可能性もあることが示唆された。さらに、クロラムフェニコールは、再灌流で投与される場合でも、強く心保護的であることがわかった。また、再灌流障害がランゲンドルフ・モードの組織損傷の主要決定基であることを示唆する。そのうえ、初期のCK放出とそれ以降の梗塞サイズの相違は、組織障害が初期の再灌流の間、発展し続けることが示唆される。
【0165】
チトクロムP450 AMMC O−脱メチル化酵素活性は、クロラムフェニコール処理ラット心臓から調製したミクロソームで95%阻害された。スルファフェナゾール(10μMおよび300μM)による処置は、再灌流の2時間後のクレアチンキナーゼ放出および酵素の規模を著しく減少させ、CYP2Cが再灌流障害で著しい役割を演じるものと示唆される。肝臓および心筋ミクロソームに存在するAMMC脱メチル化酵素は、それぞれスルファフェナゾールおよびクロラムフェニコールによって阻害され、このチトクロムP450アイソフォームが再灌流障害に関与することが示唆される。
【0166】
血管緊張は、スーパーオキシド・アニオン(血管収縮)と一酸化窒素との間のバランスによって調整される(・NO)(血管拡張)(Caiら、2000)。スーパーオキシド・アニオンは、反応性の高いスパーオキシナイトライト(ONOO−)を生成する−NOと反応する。
従って、チトクロムP450阻害心臓での減少したO・−産生は、ONOO−レベルの減少を介して保護的であり、また・NOレベルが高くなることで冠状動脈拡張を増加する。この概念を支援して、増加した冠血流量は、クロラムフェニコール、シメチジンまたはスルファフェナゾールで治療される心臓でも観察された。選択的阻害剤スルファフェナゾールでこの明細syに記載される結果は、チトクロムP450 2C9相同分子種が再灌流障害の鍵となる媒体である可能性があることを示唆する。
【0167】
ヒトでは、チトクロムP450 2C9は、アラキドン酸を血管作用性エイコサノイド(Fisslthalerら、1996)に変換するその能力による内皮から派生した過分極している因子(EDHF)シンターゼとしても知られている。ラット2CチトクロムP450スーパーファミリーのメンバーが再灌流障害で重要な調節性の役割を果たす証拠を推定することは(Flemingら、2001)、ヒト・チトクロムP450−2C9によるROS産生がEDHF媒介血管拡張を取り消すことが可能であることを示している。
【0168】
エイコサノイドは、プロテインキナーゼのために細胞内第2メッセンジャーとして用いられることができる。チトクロムP450酵素生成シコサノイドは、原形質膜上のATP感受性カリウムチャネルを調整することが示された。従って、チトクロムP450酵素生成エイコサノイドがミトコンドリアのKATPチャネルを調整することができるという可能性が存在する。アラキドン酸はチトクロムP450ω−水酸化酵素と同様にチトクロムP450エポキシゲナーゼのための基質であり、これらの製品には広く異なる生理的効果がある。このように、チトクロムP450酵素のサブセットの抑制は、複雑な結果をもたらす可能性がある。カルシウム非依存型ホスホリパーゼA2(iPLA2)は、アラキドン酸を放出し、PLA2の抑制は梗塞サイズを減少させる(Williamsら、2002)。これらの観察は、アラキドン酸の代謝のチトクロムP450酵素の関与が心筋で生理的重要性のことを示唆する。
【0169】
さらに、チトクロムP450酵素はエイコサノイド代謝産物およびスーパーオキシドの生成を介してカルシウム恒常性に影響を及ぼし、そのことはカルシウム−ATPase、Na/Ca交換体、および他のイオン/チャネルの機能に影響を及ぼすことができる(Barnesら、2000;Zaidiら、1999)。アポトーシス促進性タンパク質Bikは、BH3ドメイン(BH3のみ)のみにある他のBcl−2ファミリー・メンバーとの相同性を共有し、ミトコンドリアから放出されるチトクロムcをトリガーするために、ERで機能する(Germainら、2002)。従って、チトクロムP450酵素が、特に酸化ストレスをセットする際に、特定の設定でアポトーシスを調整することが考えられる。
【0170】
クロラムフェニコールが主にジヒドロエチジウム変換を抑制したという観察は、ヘムを含有するチトクロムP450モノオキシゲナーゼ酵素の一種類以上が心臓の再灌流の間のスーパーオキシド生成の主な罪人であることを示唆している。これは、心臓組織でチトクロムP450酵素の比較的低い発生量を考慮することは驚くべきことである。しかし、無調製のチトクロムP450活性は、電子伝達複合体(Davydov,2001)から、ミトコンドリア障害と活性酸素種の二次的生産とを導くことができた。
【0171】
これらの観察は、心臓のチトクロムP450酵素が虚血/再灌流障害において重要な役割を果たすという仮説を支持し、そのようなチトクロムP450活性の抑制は、治療的価値を持つ。さらに、チトクロムP450モノオキシゲナーゼが心筋再灌流障害の媒介となるという知見には、循環器病の処置への重要な含みがある。例えば、タバコ喫煙はチトクロムP450酵素を上方制御(Rendicら、1997)して、致命的な心筋梗塞(Weinerら、2000)の危険度を増し、スタチン・ファミリーのコレステロール減少薬が、多くの場合、チトクロムP450阻害剤(Corsiniら、1999)であり、コレステロール低下効果とは別個に心血管症のリスクを減らす(Comparatoら、2001)。特に、HMG−CoA還元酵素阻害剤フルバスタチンは、チトクロムP450−2C9の特異的阻害剤(Scriptureら、2001)であり、ヒトでのチトクロムP4502C9の特異的阻害剤であり、心保護に関与していることが示唆される。さらに、チトクロムP450発現は性的に二相性(sexually dimorphic)(Parkら、1999)であり、女性では心血管症の危険性が減少していることがその理由であると考えられる。
【0172】
要約すると、本研究は、チトクロムP450モノオキシゲナーゼを阻害する特性および/または開ヘム・ポケットで酵素を阻害する特性を共有し、すでに臨床的に用いられ、分子状酸素の還元が阻害する種々の薬剤は、再灌流に伴う障害に対して、器官(心臓含む)を保護するためにアジュバンド療法に対する重要かつ差し迫った可能性、すなわち急性心筋梗塞、バルーン血管形成術、冠動脈バイパス術、臓器移植、および脳卒中と同程度多様な状況で再灌流障害を改善する可能性を持つことを示唆している。
【0173】
(参照文献)
【0174】
【表3−1】

【0175】
【表3−2】

【0176】
【表3−3】

【0177】
【表3−4】

【0178】
【表3−5】

個々にあたかも参照によって組み込まれるかのように、全ての刊行物、特許、および特許文献は、本明細書で援用される。本発明は、種々の具体的かつ好ましい実施形態および技術に関して記載されている。しかし、本発明の精神および範囲内にある限り、多くのバリエーションおよび修正が可能であることが理解されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A−1】
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【図2A−2】
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【図2A−3】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2010−24253(P2010−24253A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254477(P2009−254477)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【分割の表示】特願2004−520094(P2004−520094)の分割
【原出願日】平成15年7月9日(2003.7.9)
【出願人】(509303442)ラディカル セラピューティックス, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】