説明

蛍光体の成膜方法

【課題】 蛍光体の結晶粒径を微細化することで、薄膜化・表面平滑化を実現することのできる蛍光体の成膜方法を提供することを解決課題とする。
【解決手段】 電子を照射することにより発光する蛍光体を基板上に成膜する方法であって、前記蛍光体の成膜をスパッタリング法により前記基板にバイアス電力を印加しつつ行うことを特徴とする蛍光体の成膜方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FED(Field Emission Display:電界放出ディスプレイ)等に用いられる蛍光体の成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイの研究が活発化しており、なかでも、低電力で画像を表示することができるFED等が注目されている。
FEDとは画像表示デバイスの1つであり、エミッタから電子を真空中に放出し、蛍光体へ衝突させることで蛍光体を発光させ、画像等を表示するデバイスである。
【0003】
FEDに用いられる蛍光体は従来CRT(Cathode Ray Tube:陰極線管)用蛍光体が使用されていた。CRT用蛍光体としては、ZnS系材料(ZnSに銀(Ag),銅(Cu),アルミニウム(Al)を含有させたもの)や硫酸化イットリウム(YS)にユウロピウム(Eu)を含有させたもの等が用いられている。
【0004】
しかしながら、これらのCRT用蛍光体は結晶粒径が5〜10μmと大きく、また蛍光体表面に凹凸が生じるため、FEDに用いる場合、以下のような問題が生じる。
CRT用蛍光体をCRTに用いる場合、CTRの加速電圧は30kV程度と比較的高いため、電子の進入長が3〜4μmとなり、CRT用蛍光体を用いたとしても、蛍光体の中心部まで光を進入させることができる。そのため、蛍光体中心部の発光効率が高い領域を使用して光を発生させることができる。
一方、FEDにCRT用蛍光体を用いる場合、FEDの加速電圧は約10kVとCRTに比して低いため、電子の進入長が1μm以下となり、蛍光体表面近傍までしか電子を進入させることができない。そのため、蛍光体表面の結晶性が不十分な領域が主たる発光領域となる。つまり、CRT用蛍光体をFRDに用いた場合、発光効率が低下するという問題が生じる。
【0005】
このような問題に鑑み、ミクロンサイズの粒径を有するCRT用蛍光体に代わり、ナノサイズの粒径を有する蛍光体の研究が活発化している(例えば、下記特許文献1参照)。ナノサイズの粒径を有する蛍光体の研究は、例えば、酸化亜鉛(ZnO),酸化イットリウム(Y),チタン酸ストロンチウム(SrTiO)等の酸化物薄膜を用いて行われている。
ナノサイズの微細な粒径を有する蛍光体を用いることにより、蛍光体を薄膜化することができ、また表面の平滑化も図れるため、蛍光体の中心部まで電子を進入させることができ、発光効率が向上する。
しかしながら、現状では蛍光体の結晶粒径の制御や、蛍光体の薄膜化・表面平滑化が十分実現されているとはいえない。
【0006】
【特許文献1】特開2005−068352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記現状に鑑みてなされたものであり、蛍光体の結晶粒径を微細化することで、薄膜化・表面平滑化を実現することのできる蛍光体の成膜方法を提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、電子を照射することにより発光する蛍光体を基板上に成膜する方法であって、前記蛍光体の成膜をスパッタリング法により前記基板にバイアス電力を印加しつつ行うことを特徴とする蛍光体の成膜方法に関する。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記基板に印加するバイアス電力が高周波電力であることを特徴とする請求項1記載の蛍光体の成膜方法に関する。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記スパッタリング法がマグネトロンスパッタリング法であることを特徴とする請求項1又は2記載の蛍光体の成膜方法に関する。
【0011】
請求項4に係る発明は、前記スパッタリング法が対向ターゲット方式であることを特徴とする請求項1又は2記載の蛍光体の成膜方法に関する。
【0012】
請求項5に係る発明は、前記蛍光体が酸化亜鉛であることを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載の蛍光体の成膜方法に関する。
【0013】
請求項6に係る発明は、前記スパッタリング法に用いるターゲットが、酸化亜鉛を母材とし、アルミニウム、ガリウム、インジウムのうちの少なくとも一種と、リチウム、ナトリウムのうちの少なくとも一種を同時に含有させていることを特徴とする請求項1乃至5いずれか記載の蛍光体の成膜方法に関する。
【0014】
請求項7に係る発明は、前記スパッタリング法において、酸化亜鉛を母材としアルミニウム、ガリウム、インジウムのうちの少なくとも一種を含有させた第一ターゲットと、酸化亜鉛を母材としリチウム、ナトリウムのうちの少なくとも一種を含有させた第二ターゲットを用い、夫々のターゲットを独立に放電させることを特徴とする請求項1乃至6いずれか記載の蛍光体の成膜方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明によれば、蛍光体の成膜をスパッタリング法により基板にバイアス電力を印加しつつ行うことにより、蛍光体の配向性を制御し、結晶粒径を制御することができる。それにより、蛍光体の結晶粒径を微細化することもでき、蛍光体の薄膜化・表面平滑化を実現することができる。
【0016】
請求項2に係る発明によれば、基板に印加するバイアス電力が高周波電力であることにより、基板に絶縁体を用いた場合でも基板表面にまでバイアス電力を印加することができ、バイアス電力の印加の効果を確実に奏することができる。
【0017】
請求項3に係る発明によれば、スパッタリング法がマグネトロンスパッタリング法であることにより、低電力で且つ高い成膜速度により蛍光体を成膜することができる。
【0018】
請求項4に係る発明によれば、スパッタリング法が対向ターゲット方式であることにより、蛍光体へのダメージも少なくすることができる。
【0019】
請求項5に係る発明によれば、蛍光体が酸化亜鉛であることにより、FEDに使用される電圧10kV以下の範囲で高い発光効率を示すため、FEDに好適に利用可能となる。
【0020】
請求項6に係る発明は、ターゲットが、酸化亜鉛を母材とし、アルミニウム、ガリウム、インジウムのうちの少なくとも一種と、リチウム、ナトリウムのうちの少なくとも一種を同時に含有させていることにより、白色光を発光させることができる。
【0021】
請求項7に係る発明によれば、スパッタリング法において、酸化亜鉛を母材としアルミニウム、ガリウム、インジウムのうちの少なくとも一種を含有させた第一ターゲットと、酸化亜鉛を母材としリチウム、ナトリウムのうちの少なくとも一種を含有させた第二ターゲットを用い、夫々のターゲットを独立に放電させることにより、第一ターゲットに含有される不純物と第二ターゲットに含有される不純物の夫々の濃度や比率を任意に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る蛍光体の成膜方法について説明する。
【0023】
本発明に係る蛍光体の成膜方法は、スパッタリング法により蛍光体を成膜する方法である。スパッタリング法とは、真空中にスパッタリングガスを導入しながら基板とターゲットの間に電力を印加してプラズマを発生させることで、イオン化したスパッタリングガスをターゲットに衝突させて、はじき飛ばされたターゲット物質を基板上に成膜させる方法である。
また本発明では、蛍光体の成膜時に基板にバイアス電力が印加される。バイアス電力とは、通常接地電位に保持される基板の電位を制御するために用いられるものであり、高周波電力もしくは直流電圧が印加される。高周波電力を印加した場合、基板はプラズマに対して負の電位に自己バイアスされる。直流電圧を印加する場合、負もしくは正の電位を印加する。基板の電位を制御することで基板に衝突するイオン化した粒子のエネルギーを制御することができ、蛍光体の結晶粒径を制御することができる。
【0024】
図1は、スパッタリング法で蛍光体を成膜するための装置(スパッタリング装置)の一例を示す概略構成図であり、以下、図1に示すスパッタリング装置を説明することで、蛍光体の成膜方法について説明する。
【0025】
図1に示すスパッタリング装置(100)は、真空処理室(7)内に基板支持台(2)及びターゲット支持台(5)上のターゲット(4)を有している。そして、真空処理室(7)内にガス導入口(8)よりスパッタリングガスを導入しながら、ターゲット(4)に電源(6)を用いて高電力を印加し、スパッタリングガスをイオン化する。そして、イオン化したスパッタリングガスをターゲット(4)に衝突させることにより、はじき飛ばされたターゲット物質が、基板支持台(2)上の基板(1)に成膜され、蛍光体(P)となる。なお、真空処置室(7)は、排気口(9)より内部の空気を排出することで内部が真空に調整されている。加えて、基板(1)を所望の温度にするためのヒーター(2a)、成膜時のみ開くことのできる開閉式のシャッタ(10)も有している。
【0026】
ターゲット(4)は蛍光体(P)に応じて適宜選択すればよい。具体的には、蛍光体(P)として、酸化亜鉛(ZnO),酸化イットリウム(Y),チタン酸ストロンチウム(SrTiO)等の酸化物薄膜を用いる場合、これらの焼結体をターゲット(4)として利用すればよい。
【0027】
また、スパッタリング装置(100)は、ターゲット表面に磁界を印加するための磁石(5a)がターゲット支持台(5)に備え付けられているマグネトロンスパッタリング装置である。磁石(5a)を備え付けることにより、スパッタリングガスとターゲット(4)のイオン化衝突の頻度を増大させることができ、ターゲット付近に高密度プラズマを生成させて、成膜速度を向上させることができる。また、電力も低電力に抑えることができる。
【0028】
また、蛍光体(P)の成膜時に基板(1)に対しても電源(3)によりバイアス電力を印加する。スパッタリング装置(100)ではバイアス電力として高周波電力を印加している。高周波電力を印加した場合、基板はプラズマに対して負の電位に自己バイアスされる。このようにバイアス電力を印加して基板(1)の電位を制御することで基板に衝突するイオン化した粒子のエネルギーを制御することができ、蛍光体(P)の結晶粒径を制御することができる。
また、基板(1)に絶縁体を用いる場合、バイアス電力として直流電圧を用いるより高周波電力を用いるほうが好ましい。高周波電力を用いることにより、絶縁体の基板を用いても基板表面までバイアス電力を印加することができ、バイアス電力の印加の効果を確実に奏することができるからである。
【0029】
図2は基板(1)とターゲット(4)間の電位を示すイメージ図であり、実線(a)が基板に高周波のバイアス電力を印加した場合の電位を示し、破線(b)が基板にバイアス電力を印加しない場合の電位を示す。なお、図2中上側が基板(1)であり、下側がターゲット(4)である。
図2に示す如く、基板の電位は高周波のバイアス電力により負に帯電する。
ここで、スパッタリングガスは正の電荷を有するので(例えばAr)、バイアス電力によりイオンの運動エネルギーが増大し、基板(1)側へ加速される。バイアス電力を印加してスパッタリングガスの加速を制御することにより、成膜される蛍光体(P)の結晶粒径を制御することができる。つまり、バイアス電力の値を制御して蛍光体(P)の結晶粒径を微細化することができ、それにより蛍光体の薄膜化を図ることができる。また、バイアス電力を印加することで、蛍光体(P)の表面平滑性も向上させることができる。
【0030】
このように、基板にバイアス電力を印加することで蛍光体(P)の結晶粒径を制御することができるのは、蛍光体(P)の配向性が制御されるからである。
例えば、蛍光体(P)に酸化亜鉛を用いた場合、一般的なスパッタリング法を用いると(002)方向に優先配向した薄膜が得られることが知られており、X線回折(XRD)法による評価を行うと、(002)以外の配向に起因する回折ピークが得られないのが一般的である。これに対し、バイアス電力を印加することで、(002)配向以外の配向、より詳しくは、(100)配向と(101)配向等が生じる。
このように、蛍光体(P)が多結晶化することにより、蛍光体(P)の構成成分である酸化亜鉛の結晶粒径が微細化する。
なお、結晶性や結晶粒径の変化の態様はバイアス電力の周波数やスパッタリングガスの種類等の条件により異なるものであり、条件ごとに、好適なバイアス電力の条件を設定する必要がある。
また、(002)配向、(100)配向、(101)配向とは、ミラー指数で示した配向性であり、これを六方晶用指数で示すと下記表1のようになる。
【0031】
【表1】

【0032】
スパッタリングガスとしては、不活性ガスと酸素の混合ガスを用いることが好ましい。不活性ガスを用いることにより、スパッタ率を向上させることができる。そのため、高い成膜速度を実現することができる。不活性ガスとしては、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、ネオン(Ne)等の希ガスを挙げることができる。
【0033】
また、不活性ガスとともに酸素を用いることにより、正の電荷を有するイオンの運動エネルギーが増大する。具体的には基板に入射する電離した酸素(O、O)の運動エネルギーが増大する。つまり、スパッタリングガス中に酸素を含有することで、バイアス電力を印加することにより、酸素イオンが基板(1)側へと加速される。それにより、酸素の反応が促進され、基板(1)上に成膜される蛍光体の酸化度を向上させることができる。その結果、蛍光体(P)が熱的安定性に優れたものとなる。
【0034】
また、蛍光体は、主となる構成成分によっても発光する色が異なるが、不純物を含有させることによっても様々な色を発光させることができる。
例えば、酸化亜鉛を主成分とする蛍光体の場合、青色の光を発光させるためには銅(Cu)を含有させればよい。また、酸化亜鉛に亜鉛(Zn)を含有させることにより青緑の光を発光させることもできる。
黄色の光を発光させるためには、酸化亜鉛にリチウム(Li)を含有させればよい。さらに、リチウム(Li)に加えてアルミニウム(Al)も含有させることにより黄色の光の発光強度を増大させることもできる。
また、赤色の光を発光させるためには、高い濃度でリチウム(Li)を含有させればよい。
【0035】
また、蛍光体から白色光を発光させることもできる。この場合、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)(IIIA族の元素)のうちの少なくとも一種と、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)(IA族の元素)のうちの少なくとも一種を同時に含有させればよい。白色光を発光させることにより、蛍光灯等にも利用することができる。
このようにIIIA族の元素とIA族の元素の二種類を酸化亜鉛に含有させる場合、酸化亜鉛を母材とし、IIIA族の元素の少なくとも一種と、IA族の元素の少なくとも一種を同時に含有させたものターゲット(4)として用いればよい。
また、酸化亜鉛を母材としIIIA族の元素の少なくとも一種を含有させたターゲット(4)(第一ターゲットと称す)と、酸化亜鉛を母材としIA族の元素の少なくとも一種を含有させたターゲット(4)(第二ターゲットと称す)の二種類のターゲット(4)を用いて、夫々のターゲット(4)を独立に放電させることで蛍光体を成膜してもよい。第一ターゲットと第二ターゲットを用いることにより、夫々のターゲットに印加する電圧を制御する等して、第一ターゲットに含有される不純物(IIIA族の元素)と第二ターゲットに含有される不純物(IA族の元素)の夫々の濃度や比率を任意に制御することができる。具体的には第一ターゲットと第二ターゲットをターゲット支持台(5)に並べて配置し、夫々に電源(6)を設けて高電力を印加すればよい。また、第一ターゲット、第二ターゲットに加えて、不純物を含まない酸化亜鉛からなるターゲットを用いることにより、不純物の濃度や比率の制御をより正確に行うこともできる。
【0036】
また、バイアス電力を印加することにより、ドナーとなる不純物を活性化させることができる。ここで不純物の活性化は蛍光体の発光効率や発光スペクトルに影響を与える。つまり、バイアス電力を印加することにより、発光効率や発光スペクトルも制御することができる。
なお、上記したような不純物を含有させるためには、蛍光体を成膜する際に用いるターゲット(4)に不純物を予め含有させておいてもよいし、事後的にドーピングしてもよい。
【0037】
上記説明では、スパッタリング装置(100)を用いて、マグネトロンスパッタリング法による蛍光体の成膜方法を説明したが、本発明の蛍光体の成膜方法では、対向ターゲット方式のスパッタリング法を用いることも好ましい。
【0038】
図3は対向ターゲットスパッタリング装置(200)の概略構成図である。なお、図1で示すスパッタリング装置(100)と同様の構成には同じ符号を付している。
対向ターゲット方式のスパッタリング法は、図3で示す如く、二枚のターゲット(4a,4b)を−定の間隔をおいて対面するように設置し、その表面に垂直な磁場を発生させる。そして、スパッタリングガス雰囲気中でターゲットに電源(6a,6b)を用いて直流電力又は高周波電力を印加し、両ターゲット(4a,4b)間で挟まれた空間内にプラズマを発生させ、両ターゲット(4a,4b)間で挟まれた空間の外側に置かれた基板(1)表面に薄膜を成膜する。
磁場をターゲット表面と平行に印加するマグネトロンスパッタリング装置と異なり、電子を収束するための磁場をターゲット表面に対して垂直に印加するため、ターゲット(4a,4b)として強磁性体を用いた場合でもその影響を殆ど受けずに磁場を発生させることができる。また、このターゲット表面に垂直な磁場により高密度プラズマを形成することができ、蛍光体の成膜速度を向上させることもできる。
【0039】
また、高密度プラズマの発生はターゲット(4a,4b)間に限られる。基板(1)がターゲット(4a,4b)と垂直に配置されているため、プラズマ内で発生した高エネルギー電子及び高エネルギーイオンが基板(1)に到達しにくく、ダメージの少ない蛍光体(P)を得ることができる。
また、対向ターゲットスパッタリング装置(200)において、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)(IIIA族の元素)のうちの少なくとも一種を含む第一ターゲットと、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)(IA族の元素)のうちの少なくとも一種を含む第二ターゲットを用いる場合、対向するターゲット(4a,4b)の位置夫々に、第一ターゲットと第二ターゲットを並べて配置すればよい。
【0040】
なお、本発明に係る蛍光体の成膜はマグネトロンスパッタリング法や対向ターゲット方式のスパッタリング法に限られるわけではなく、他のスパッタリング法も当然含まれる。
【0041】
次いで、本発明に係る蛍光体を用いたFEDについて説明する。
図4はFED(300)の一部を示す概略構成図である。
FED(300)は、3極管方式のFEDであり、電子を放出するエミッタ(15)を有するエミッタパネル(A)と、蛍光体(P)を有するアノードパネル(B)とが複数(図1においては2個)のスペーサー(14)を介して対向している。
【0042】
また、FED(300)において、対向するエミッタパネル(A)とアノードパネル(B)の間は高真空状態であり、エミッタパネル(B)のエミッタ(15)から放出された電子はアノードパネル(B)の蛍光体に衝突して励起し発光する。その結果、画素が発色し、画像が形成される。
【0043】
エミッタパネル(A)はガラス板等からなる背面基板(11)、背面基板(11)のアノードパネル(B)側に位置するカソード電極(12)を有し、カソード電極(12)上にエミッタ(15)と絶縁膜(16)を有し、さらに絶縁膜(16)上にゲート電極(17)を有する。
【0044】
カソード電極(12)としては、アルミニウム(Al),銀(Ag)等の金属膜、インジウムスズ酸化物(ITO)膜等を挙げることができる。
また、エミッタ(15)はその表面から蛍光体(P)に向けて電子を放出する素子であり、たとえば、カーボンナノチューブやダイアモンド薄膜等の炭素系材料、モリブデン(Mo)等の金属蒸着材料を挙げることができる。
【0045】
アノードパネル(B)はガラス板等の透明基板からなる基板(1)からエミッタパネル(A)側に向けて、ITO等の透明電極からなるアノード電極(13)、蛍光体(P)が順に形成されてなる。また、蛍光体(P)のエミッタパネル(A)側の表面には、帯電防止用にアルミニウム等からなるメタルバック(18)が成膜されている。
【0046】
蛍光体(P)としては、酸化亜鉛(ZnO),酸化イットリウム(Y),チタン酸ストロンチウム(SrTiO)等の酸化物薄膜を挙げることができる。なかでも酸化亜鉛はFEDに使用される電圧10kV以下の範囲で高い発光効率を示すため好ましい。
また、不純物を含有させることにより、発光スペクトルを変化させることもできる。
【0047】
蛍光体(P)は基板にバイアス電力を印加した状態でスパッタリング法により成膜されたものである。基板にバイアス電力を印加していることにより、蛍光体(P)の結晶粒径を制御することができる。それにより、蛍光体(P)の結晶粒径を微細化することができ、蛍光体(P)の薄膜化・表面平滑化を実現することができる。
【0048】
図5(i)はバイアス電力を印加して成膜することで、結晶粒径を微細化した蛍光体(P)をFEDに用いた場合のイメージ図である。また、図5(ii)には従来用いられていたCRT用蛍光体(CP)をFEDに用いた場合のイメージ図を示す。
図5(ii)に示す如く、CRT用蛍光体(CP)は粒子サイズが大きく表面凹凸が顕著である。そのため、CRT用蛍光体(CP)の上に成膜されたメタルバック(18)の膜厚も不均一となる。FED(300)はCRTに比して加速電圧が低く電子の進入長が小さいため、CRT用蛍光体(CP)を用いると、結晶性の良好な中央の領域まで電子が進入せず、結晶性が不充分な表面領域で発光することとなり、発光効率が低下する。
一方、図5(i)で示す如く、バイアス電力を印加して成膜した蛍光体(P)は結晶が微細化されている。そのため、蛍光体の薄膜化を実現することができ、エミッタ(15)から発せられた電子が薄膜中央の結晶性の良好な領域まで達する。それにより、蛍光体(P)の発光効率が向上する。
さらに、結晶が微細化されることにより表面も平滑となり、蛍光体の上に形成されたメタルバック(18)の膜厚も薄く均一なものとすることができる。そのため、電子がメタルバックを確実に透過し、発光効率をより向上させることができる。
また、蛍光体(P)とメタルバック(18)とを真空中で連続して成膜することが好ましい。これにより、蛍光体(P)およびメタルバック(18)との界面を安定化させ、発光に寄与しない界面の結晶欠陥を低減することができる。
【0049】
(試験例)
以下、本発明の成膜方法により得られた蛍光体を評価するための試験例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。
(試験例1)
試験例1として、酸化亜鉛からなる蛍光体を使用して蛍光体の物質特性を検証する。
試験例1において用いた蛍光体は、スパッタリングガスとしてアルゴン(Ar)と酸素(O)の混合ガスを用いマグネトロンスパッタリング法により成膜した。また、成膜時にはターゲットに13.56MHzの高周波電力(100W)を印加し、基板には13.56MHzの高周波のバイアス電力の値を変化させて印加した。
なお、その他の成膜条件については、表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
図6は、基板にバイアス電力を印加して成膜した酸化亜鉛からなる蛍光体についてXRDスペクトル強度の結果を示した図であり、図6(i)〜(v)が夫々、バイアス電力を0W,5W,10W,20W,40W印加したときの強度を示している。なお、(iii)〜(v)は図示の関係上、強度を50倍にして示している。
図6(i)で示す如く、基板にバイアス電力を印加しなかった場合、(002)配向以外の配向は検出できなかった。しかし、図6(ii)〜(v)に示す如く、バイアス電力を印加することにより、(002)配向が弱まり、多結晶となっていくことが分かる。
具体的には、バイアス電力を5W印加した場合(図6(ii))、(002)配向の配向性は弱くなり、バイアス電力を10W印加した場合(図6(iii))、(002)配向の配向性がさらに弱くなって、(103)配向も現れる。また、バイアス電力を20W印加した場合(図6(iv))では(100)配向、(101)配向、(110)配向が現れ、多結晶となる。さらに、バイアス電力を40W印加した場合(図6(v))では(110)配向が強く現れる。
図6で示す如く、基板にバイアス電力を印加することにより、結晶の配向性を制御することができる。
【0052】
図7は蛍光体の表面のSEM(走査電子顕微鏡)像を示した写真であり、図7(i)〜(v)が夫々、バイアス電力を0W,5W,10W,20W,40W印加したときのSEM像を示している。
図7で示すように、バイアス電力を印加することにより、蛍光体の粒径が変化していることが分かる。
なお、配向性や結晶粒径の変化の態様はバイアス電力の周波数やスパッタリングガスの種類等の条件により異なり、試験例1に示した結果により本発明が限定されることはない。
【0053】
(試験例2)
次いで、試験例2として、蛍光体の電気的特性について検証する。
図8は、ガリウム(Ga)を含有させた酸化亜鉛からなる蛍光体についての電気的特性を示した図であり、図8(i)〜(iii)は順に比抵抗、移動度、キャリア濃度を示している。なお、図8(i)〜(iii)において、横軸はすべてバイアス電力(W)を示し、縦軸は夫々比抵抗ρ(Ω・cm)、移動度μ(cm・V−1・sec−1)、キャリア濃度(1/cm)を示す。
なお、試験例2に用いた蛍光体は、スパッタリングガスとしてアルゴン(Ar)を用いてマグネトロンスパッタリング法により成膜した。また、成膜時にはターゲットに13.56MHzの高周波電力(100W)を印加し、基板には13.56MHzの高周波のバイアス電力の値を変化させて印加した。その他の成膜条件については表3に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
図8(iii)に示す如く、バイアス電力を大きくすることによりキャリア濃度が大きくなることが分かる。
キャリア濃度は本来ドナーとなる不純物(試験例2の場合、ガリウム)の含有量によって決定されるが、バイアス電力を印加することにより、不純物の含有量を増やさなくてもキャリア濃度が大きくなっている。この理由は、バイアス電力の印加により、ドナーとなる不純物が活性化されたからである。
バイアス電力の印加により大きくなるキャリア濃度は、蛍光体の発光効率や発光スペクトルに関係するため、バイアス電力を印加することにより、発光効率や発光スペクトルにも影響を与えることができるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る成膜方法で得られた蛍光体は、FED等のフラットパネルディスプレイやランプ照明等に好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】スパッタリング法で蛍光体を成膜するための装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】基板とターゲット間の電位を示すイメージ図である。
【図3】対向ターゲット方式のスパッタリング装置を示す概略構成図である。
【図4】FEDの一部を示した概略構成図である。
【図5】FEDにおける蛍光体の周辺を示したイメージ図である。
【図6】基板にバイアス電力を印加して成膜した酸化亜鉛からなる蛍光体についてXRDスペクトル強度の結果を示した図である。
【図7】蛍光体の表面のSEM像を示した写真である。
【図8】ガリウムを含有させた酸化亜鉛からなる蛍光体についての電気的特性を示した図である。
【符号の説明】
【0058】
1 基板
4 ターゲット
P 蛍光体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子を照射することにより発光する蛍光体を基板上に成膜する方法であって、
前記蛍光体の成膜をスパッタリング法により前記基板にバイアス電力を印加しつつ行うことを特徴とする蛍光体の成膜方法。
【請求項2】
前記基板に印加するバイアス電力が高周波電力であることを特徴とする請求項1記載の蛍光体の成膜方法。
【請求項3】
前記スパッタリング法がマグネトロンスパッタリング法であることを特徴とする請求項1又は2記載の蛍光体の成膜方法。
【請求項4】
前記スパッタリング法が対向ターゲット方式であることを特徴とする請求項1又は2記載の蛍光体の成膜方法。
【請求項5】
前記蛍光体が酸化亜鉛であることを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載の蛍光体の成膜方法。
【請求項6】
前記スパッタリング法に用いるターゲットが、
酸化亜鉛を母材とし、アルミニウム、ガリウム、インジウムのうちの少なくとも一種と、リチウム、ナトリウムのうちの少なくとも一種を同時に含有させていることを特徴とする請求項1乃至5いずれか記載の蛍光体の成膜方法。
【請求項7】
前記スパッタリング法において、
酸化亜鉛を母材としアルミニウム、ガリウム、インジウムのうちの少なくとも一種を含有させた第一ターゲットと、
酸化亜鉛を母材としリチウム、ナトリウムのうちの少なくとも一種を含有させた第二ターゲットを用い、
夫々のターゲットを独立に放電させることを特徴とする請求項1乃至6いずれか記載の蛍光体の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−308725(P2008−308725A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156880(P2007−156880)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(597154966)学校法人高知工科大学 (141)
【出願人】(505044451)ソナック株式会社 (107)
【Fターム(参考)】