説明

蛍光体層の形成方法

【課題】蒸着時における蛍光体層の成長を良好にすることができ、すなわち、蒸着の初期から高精度で安定した蛍光体層を形成することができ、平面放射線画像検出器において、放射線画像の読み取り面から均一に発光光を射出することを可能にする蛍光体層の形成方法を提供することにある。
【解決手段】FPDの蛍光体層を真空蒸着で形成するに際し、溶融した蒸着材料の温度が、予め設定した温度に対して±5℃以内であり、かつ、蒸着材料の温度分布が±5℃以内である第1の条件、蒸着材料を収容する容器の温度が、予め設定した温度に対して±3℃以内であり、かつ、容器の温度分布が±3℃以内である第2の条件、および、蒸着速度の変動幅が、予め設定した蒸着速度に対して±7%以内である第3の条件のうちの少なくとも1つの条件を満たした後に、支持体に蛍光体層の蒸着を開始することにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体層の形成方法に関し、特に、平面放射線画像検出器に用いられる蛍光体層の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放射線画像検出器は、医療用や工業用非破壊検査などに用いられ、放射線(X線、α線、β線、γ線、電子線、紫外線等)を電気的な画像信号として取り出す平面放射線画像検出器(フラットパネルディスプレイ 以下、FDPという)や放射線像を可視像として取り出すX線イメージ管などがある。
【0003】
FPDには、例えばX線が入射するときに光導電膜で発した電子−正孔対(e−hペア)を電場で収集して、電化信号として読み出す直接方式と、X線イメージ管と同様に、放射線によって発光する蛍光物質で形成された蛍光体層でX線を可視光に変換し、フォトダイオード等の光電変換素子で読み出す間接方式との2つの方式がある。
【0004】
上述のような間接方式のFPDは、複数のフォトセンサおよびTFT(Thin Film Transistor )等の素子が2次元的に配列されている光電変換素子部からなる光検出器パネル上に、放射線を光電変換素子で検出可能な光に変換するための蛍光体層を直接形成して構成される。
【0005】
上述のようなFPDを製造する際には、光検出器パネル表面に、蛍光体を所定の厚みに蒸着するのが一般的である。蛍光体の粉末をバインダ等を含む溶媒に分散してなる塗料を調製して、この塗料を光検出器パネル表面に塗布し、乾燥する、塗布方法による層に比較して、蒸着によって作製される蛍光体層は、真空中で形成されるので不純物が少なく、また、バインダなどの蛍光体以外の成分が殆ど含まれないので、性能のバラツキが少なく、しかも発光効率が非常に良好であるという、優れた特性を有しているためである。
【0006】
近年、特に医療診断装置関連の使用分野においては、従来に比して格段に高感度、高鮮鋭度に記録可能な装置が求められるようになっており、この目的のために開発された技術として、蛍光体層を、その成長状態が均一である、独立した多数の柱状結晶からなるように構成する方法がある。
そこで、上述のようなFPDを製造する際にも、この独立した多数の柱状結晶からなる蛍光体層を形成する方法を適用することが好ましい。
例えば、特許文献1には、少なくとも柱状結晶のシンチレータ層(放射線によって発光する蛍光体物質でなる蛍光体層)を有し、このシンチレータ層の膜厚が500μm以上で、かつ、シンチレータ層における柱状結晶の充填率が70〜85%であることを特徴とする放射線シンチレータが開示されている。
【0007】
ここで、前述のような光検出器パネル上に直接蛍光体層が形成されるFPDにおいては、蛍光体層の上面から照射された放射線によって発光する光(蛍光)を、光検出器により蛍光体層の底面側から読み取る。そのため、蛍光体層を構成する独立した多数の柱状結晶が、特に、蛍光体層の底面近傍でその成長状態が均一であること、つまり、不均一な形状での成長等がないことが不可欠である。
そのため、例えば、蛍光体層を蒸着によって形成する際に、蒸着初期の蒸発が一定で無く、蒸発に揺らぎが生じることにより、蛍光体層の底面側表面にヒロックが生じる場合や、また、蒸着初期の蛍光体層は、柱状結晶ではない非柱状層で構成されるのが一般的であるが、蛍光体層の蒸着初期に蒸発の揺らぎが生じると、この非柱状層の密度が不均一になり、非柱状層の膜厚分布も不均一になる場合があるが、これらの現象が生じないようにしなければならない。
【0008】
【特許文献1】特開2006−58099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来技術の問題点を解決することにあり、平面放射線画像検出器に用いる蛍光体層を真空蒸着によって形成するに際し、溶融した蒸着材料の温度、蒸着材料を収容する容器、および、蒸着速度のうちのいずれか1つを厳密に制御した後に、蛍光体層の蒸着を開始することにより、蒸着時における蛍光体層の成長を良好にすることができ、すなわち、蒸着の初期から高精度で安定した蛍光体層を形成することができ、平面放射線画像検出器において、放射線画像の読み取り面から均一に発光光を射出することを可能にする蛍光体層の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、放射線の入射によって発光する蛍光体層の光を光電変換素子で測定することにより放射線画像を撮影する平面放射線画像検出器の、前記蛍光体層を真空蒸着で形成するに際し、前記光電変換素子が形成されてなる支持体を基板として用いると共に、溶融した蒸着材料の温度が、予め設定した温度に対して±5℃以内であり、かつ、前記蒸着材料の温度分布が±5℃以内である第1の条件、前記蒸着材料を収容する容器の温度が、予め設定した温度に対して±3℃以内であり、かつ、前記容器の温度分布が±3℃以内である第2の条件、および、蒸着速度の変動幅が、予め設定した蒸着速度に対して±7%以内である第3の条件のうちの少なくとも1つの条件を満たした後に、前記支持体に蛍光体層の蒸着を開始することを特徴とする蛍光体層の形成方法を提供する。
【0011】
本発明においては、前記蒸着材料を収容する容器を、複数個用いるのが好ましい。
【0012】
また、本発明においては、蒸着が完了するまで、前記第1の条件、第2の条件、および第3の条件のうちの少なくとも1つを満たすように、前記蒸着材料の加熱をフィードバック制御するのが好ましい。
【0013】
また、本発明においては、前記第1の条件、第2の条件、および第3の条件のうちの少なくとも1つを満たすまでは、前記蒸着材料の加熱をフィードバック制御し、前記第1の条件、第2の条件、および第3の条件のうちの少なくとも1つを満たした後に、予め設定した所定のタイミングで、前記蒸着材料の加熱を一定加熱条件とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、平面放射線画像検出器に用いる蛍光体層を真空蒸着によって形成するに際し、溶融した蒸着材料の温度、蒸着材料を収容する容器、および、蒸着速度のうちのいずれか1つを厳密に制御した後に、蛍光体層の蒸着を開始することにより、蒸着時における蛍光体層の成長を良好にするこができ、すなわち、蒸着の初期から高精度で安定した蛍光体層を形成することができ、これにより、放射線画像の読み取り面から均一に発光光を射出することを可能にする平面放射線画像検出器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の蛍光体層の形成方法について、添付の図面を用いて説明する。
【0016】
図1は、本発明を実施する蛍光体層の形成装置を示す模式的斜視図である。
図1に示す蛍光体層の形成装置10(以下、単に形成装置10とする)は、蛍光体(母体)となる材料の一例としてのCsI(ヨウ化セシウム)と、付活剤(賦活剤:activator)の一例としてのTlI(ヨウ化タリウム)とを所定の混合比率で混合した原料を1つの蒸発源に収容し加熱蒸発させる一元蒸着によって、回転保持される支持体(ここでは、上面に2次元に配列された光電変換手段を有する支持体)Sの表面に蛍光体層を形成する装置である。
【0017】
このような形成装置10は、基本的に、真空チャンバ12と、この真空チャンバ12内に配置されている支持体Sの支持体回転保持機構Pと、加熱蒸発部14と、真空ポンプ(真空排気手段)16と、ガス導入ノズル18とを有して構成される。なお、形成装置10は、これ以外にも、公知の真空蒸着装置が有する各種の構成要素を満たしてもよいのは、もちろんである。例えば、被蒸着物の洗浄を行うRF用マッチングボックスや、真空チャンバ12内の真空度を測定する真空計(測定手段)等を有してもよい。
【0018】
なお、ここで用いる上面に2次元的に配列された光電変換手段を有する支持体Sには、特に限定はなく、放射線の入射によって蛍光体層が発した発光を光電変換して検出する素子が二次元方向に配置されたFPD(フラットパネルディテクター、以下、FPDとする)やシンチレータパネル等となる各種の板状物が利用可能であるが、具体例としては、特開昭60−240285号公報、特開平8−116044号公報に開示されているような、画素ごとに独立した光導電層を二次元的に配置したものが好適に例示される。
【0019】
また、支持体Sの基材となる材料にも、特に限定はなく、ガラス、セラミックス、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、ポリイミド等、放射線検出器で利用されている各種のシート状の基板が、全て利用可能である。
支持体Sにおいて、層の蒸着面にも限定は無く、一例として、ガラス、セラミックス、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、ポリイミド等が例示され、また、光電変換素子の表面に直接、層を形成しても良い。
【0020】
また、成膜中に不活性ガスの導入を行うためのガス導入ノズル18を有する形成装置10は、好ましくは、一旦、真空チャンバ12内を高真空度まで排気した後、排気を行いつつガス導入ノズル(ガス導入管)18によって不活性ガスを導入して真空チャンバ12内を0.1Pa〜10Pa程度の真空度(中真空)とし、この中真空下で、加熱蒸発部14において抵抗加熱によって蒸着材料(ヨウ化タリウムおよびヨウ化セシウム)を加熱蒸発して、支持体回転保持機構Pによって支持体Sを回転させつつ、真空蒸着による支持体Sへの蛍光体層の形成を行う。
【0021】
本発明において、蛍光体層を形成する蛍光体としては、特に限定は無く、放射線の照射により300〜800nmの波長範囲に発光を示す蛍光体が好ましく用いられ、一例として挙げたCsI:Tl以外にも各種のものが利用可能である。
他の一例として、基本組成式(I):
IX・aMIIX’2・bMIIIX”3:zA
で示されるアルカリ金属ハロゲン化物系蛍光体が好ましく例示される。
上記式において、MIはLi、Na、K、Rb及びCsからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ金属を表し、MIIはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Ni、Cu、Zn及びCdからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ土類金属又は二価金属を表し、MIIIはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInからなる群より選択される少なくとも一種の希土類元素又は三価金属を表わす。また、X、X’およびX”はそれぞれ、F、Cl、Br及びIからなる群より選択される少なくとも一種のハロゲンを表わし、Aは、Y、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Na、Mg、Cu、Ag、Tl及びBiからなる群より選択される少なくとも一種の希土類元素又は金属を表す。また、a、bおよびzはそれぞれ、0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<z<1.0の範囲内の数値を表わす。
また、上記基本組成式(I)中のMIとしては少なくともCsを含んでいることが好ましく、Xとしては少なくともIを含んでいることが好ましく、Aとしては特にTl又はNaであることが好ましい。zは1×10-4≦z≦0.1の範囲内の数値であることが好ましい。
【0022】
また、基本組成式(II):
IIFX:zLn
で示される希土類付活アルカリ土類金属弗化ハロゲン化物系蛍光体も好ましい。
上記式において、MIIはBa、Sr及びCaからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ土類金属を表し、LnはCe、Pr、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Nd、Er、Tm及びYbからなる群より選択される少なくとも一種の希土類元素を表す。Xは、Cl、Br及びIからなる群より選択される少なくとも一種のハロゲンを表す。また、zは、0<z≦0.2の範囲内の数値を表わす。
なお、上記式中のMIIとしては、Baが半分以上を占めることが好ましい。Lnとしては、特にEu又はCeであることが好ましい。
また、他に、LnTaO4:(Nb,Gd)系、Ln2SiO5:Ce系、LnOX:Tm系(Lnは希土類元素である)、Gd22S:Tb、Gd22S:Pr,Ce、ZnWO4、LuAlO3:Ce、Gd3Ga512:Cr,Ce、HfO2等を挙げることができる。
【0023】
真空チャンバ12は、鉄、ステンレス等で形成される、真空蒸着装置で利用される公知の真空チャンバ(ベルジャー、真空槽)である。
真空チャンバ12の側面には、真空ポンプ16がディフューザ16aを介して接続されている。この真空ポンプ16は、例えば、油拡散ポンプが用いられている。なお、真空ポンプ16は、特に限定されるものではなく、必要な到達真空度を達成できるのであれば、真空蒸着装置で利用されている各種のものが利用可能である。一例として、クライオポンプ、ターボモレキュラポンプを利用することができ、さらに、補助として、クライオコイル等を併用してもよい。なお、前述の蛍光体層を成膜する形成装置10においては、真空チャンバ12内の到達真空度は、8.0×10−4Pa以下であるのが好ましい。
【0024】
ガス導入ノズル18は、適宜の配管を介してボンベと接続されており、ガス流量の調整手段等を有する(もしくは、これらに接続される)、真空蒸着装置またはスパッタリング装置等で用いられている公知のガス導入手段であり、前記中真空での真空蒸着による蛍光体層の成膜を行うために、アルゴンガス(Arガス)や窒素ガス等の不活性ガスを真空チャンバ12内に導入する。この不活性ガスとは、真空蒸着の際に、支持体Sおよび蛍光体層と反応しないガスのことである。
このガス導入ノズル18を介して、不活性ガスが真空チャンバ12内に導入される。ガス導入ノズル18は、図示例においては、真空チャンバ12の底面12aに設けられている。
【0025】
支持体回転保持機構Pは、支持体Sを回転保持するものであり、真空蒸着装置またはスパッタリング装置等で用いられる公知のものが適宜利用可能である。
【0026】
真空チャンバ12内の下方には、加熱蒸発部14が配置される。
加熱蒸発部14は、抵抗加熱によって、蒸着材料であるヨウ化セシウムおよびヨウ化タリウムを蒸発させる部位である。また、加熱蒸発部14の上には、加熱蒸発部14(ルツボ50およびルツボ52)からの蒸着材料の蒸気を遮蔽するシャッタ40が配置される。
【0027】
前述のように、形成装置10は、蛍光体(母体)となる材料の一例としてのCsI(ヨウ化セシウム)と、付活剤(賦活剤:activator)となる材料の一例としてのTlI(ヨウ化タリウム)とを、1つの蒸発源に収容し加熱蒸発する、一元の真空蒸着を行うものである。
【0028】
図1に示すように、図示例の形成装置10においては、同形状のルツボ50が、支持体Sの回転中心の下方に2つ配置される。なお、各ルツボは、離間や絶縁材の挿入等によって、互いに絶縁状態に有る。
【0029】
本実施形態において、ルツボ50は、ドラム型(円筒状)の大型のルツボを用いている。
【0030】
図2に、ルツボ50の概略図を示す。なお、図2において、(A)は上面図、(B)は一部切欠き正面図、(C)は側面図である。
ルツボ50は、ドラムの側面に、ドラムの軸線方向に延在するスリット状の蒸気排出口を有する。また、蒸気排出口には、同形状の上下開口面を有する四角筒状のチムニー50aが固定され、同様に、蒸着材料の蒸気は、このチムニー50aから排出される。
【0031】
このようなチムニー(煙突状の蒸気排出部)を有することにより、ルツボ内における局所加熱や異状加熱によって突沸が生じた際に、蒸着材料が不意にルツボから噴出することを防止でき、周囲や支持体Sの汚染を防止できる。特に、前述のような中真空の蒸着では、前述のように、支持体Sとルツボ50とを近接する必要があるので、その効果は大きい。
【0032】
前述のように、ルツボ50は、ドラム型のルツボであり、ドラムの側面に軸線方向に一致するスリット状の蒸気排出口50bが形成され、蒸気排出口50bには、上下面が開放する四角筒状のチムニー50aが固定される。チムニー50aには、内部から支えて強度を向上するために、略Z字状のリブ50cが配置される。
【0033】
また、ルツボ50内には、突沸した蒸着材料が噴出するのを防止するための遮蔽部材62が固定される。遮蔽部材62は、長尺な矩形の板材を短手方向に折り返して、略T字状としたもので、T字上部の長手方向両端を上方に垂直に折り返して取付部62aが形成される。この遮蔽部材62は、上方から見た際に、T字上面で蒸気排出口50bを閉塞するようにルツボ50(ドラム)内に配置され、取付部62aが内側からドラム端面に固定される。
【0034】
ルツボ50(ドラム)の両端面には、電極60が固定される。
この電極60には、抵抗加熱用電源20(以下、単に電源20という)が接続される。なお、電源20には、特に限定はなく、抵抗加熱による真空蒸着において、抵抗加熱源となるルツボの発熱に用いられるものが、各種利用可能である。
【0035】
図示例においては、ルツボ50の底面の中央部とこの中央部から最も離間する底面の端部近傍とに、温度測定手段である熱電対58aおよび58b(その測定部)がチムニー50aの蒸気排出口50bから挿入され、ルツボ内の底面に接して配置される。
【0036】
熱電対58aおよび58bには、加熱制御手段22が接続される。
加熱制御手段22は、熱電対58aおよび58bによる温度測定結果に応じて、溶融した蒸着材料温度が所定の温度となるように、電源20からルツボ50に供給する電力を制御(フィードバック制御)するものである。この制御動作の詳細については、後に説明する。
【0037】
以下、蛍光体層の形成装置10の作用を説明することにより、本発明の蛍光体層の形成方法をより詳細に説明する。
【0038】
まず、真空チャンバ12を開放して、支持体回転保持機構Pで支持体Sを保持し、かつ、全てのルツボ50にヨウ化タリウムとヨウ化セシウムとを所定の混合比で混合した原料を所定量まで充填した後、シャッタ40を閉塞し、さらに、真空チャンバ12を閉塞する。
【0039】
次いで、真空排気手段16を駆動して真空チャンバ12内を排気し、真空チャンバ12内が例えば8×10−4Paとなった時点で、排気を継続しつつ、ガス導入ノズル18によって真空チャンバ12内にアルゴンガスを導入して、真空チャンバ12内の圧力を例えば1Paに調整し、さらに、抵抗加熱用の電源20を駆動して全てのルツボ50に通電して蒸着材料を加熱する。なお、この時点では、シャッタ40は、閉塞している。
【0040】
蒸着材料の加熱を開始したら、加熱制御手段22は、例えばルツボ50の中央に配置される熱電対58aおよびこの中央部から最も離間する位置に配置される熱電対58bによる測定結果に応じて、電源20によるルツボ50の加熱を制御する。なお、加熱制御手段22による加熱の制御は、熱電対58aおよび熱電対58bの一方の温度測定結果に応じて行ってもよい。また、加熱制御は、電流制御でも、電圧制御でも、電力制御でもよい。
【0041】
ここで、本発明の蛍光体層の形成方法においては、蒸着材料の加熱を開始した後、溶融した蒸着材料の温度が、予め設定した温度に対して±5℃以内であり、かつ、前記蒸着材料の温度分布が±5℃以内である第1の条件、蒸着材料を収容する容器の温度が、予め設定した温度に対して±3℃以内であり、かつ、前記容器の温度分布が±3℃以内である第2の条件、および、蒸着速度の変動幅が、予め設定した蒸着速度に対して±7%以内である第3の条件のうちの少なくとも1つを満たした後に、支持体Sへの蒸着を開始する。
図示例の形成装置10は、ルツボ50内の底部に熱電対58aおよび58bを配置して、溶融した蒸着材料の温度を測定し、溶融した蒸着材料の温度が、予め設定した温度に対して±5℃以内であり、かつ、前記蒸着材料の温度分布が±5℃以内である第1の条件を満たした後に、シャッタ40を開放して、蒸着を開始する。
【0042】
前述のように、FPDでは、蛍光体層の先端(基板と逆側)から放射線を入射して、基端側においてフォトダイオード等の光電変換素子によって、放射線の入射による蛍光体層の発光を受光/測定して、放射線画像を得る。
従って、FPDの蛍光体層を真空蒸着で形成する際には、励起光の入射による輝尽発光光で放射線画像を得る輝尽性蛍光体を用いる放射線像変換パネル(いわゆるIP)とは異なり、蛍光体層の基端側の性状が適正であることが重要である。
【0043】
本発明は、蒸着材料の加熱を開始して、上記第1の条件〜第3の条件のうちの少なくとも1つを満たした後に、蒸着を開始することにより、蒸着材料の蒸発、すなわち、蒸着が極めて高度に安定した後に、支持体Sの蒸着を開始する。言い換えれば、本発明においては、蒸着開始に先立ち、蒸着材料の蒸発状態すなわち蒸着速度の初期設定を行って、蒸着の初期状態を好ましい蛍光体層の蒸着に応じて合わせておき、その後、蒸着を開始する。
これにより、蒸着の初期から、非常に適正かつ安定した状態の蒸着材料蒸気で蒸着を行うことができ、蒸着の開始時点から、適正な蛍光体層を安定して形成できる。
【0044】
前述のように、図1に示す形成装置10では、溶融した蒸着材料の温度が、予め設定した温度に対して±5℃以内、好ましくは、±1℃以内となり、かつ、蒸着材料の温度分布が±5℃以内、好ましくは、±1℃以内となった後に、蒸着を開始する。
具体的には、熱電対58aおよび58bによる蒸着材料の測定温度が設定温度の±5℃以内となり、かつ、熱電対58aおよび58bによる測定温度の差が±5℃以内となった後に、シャッタ40を開放して蒸着を行う。本発明者の検討によれば、蒸着材料の温度をルツボ50内の2点で測定すれば、蒸着材料の温度分布を知見でき、すなわち、2点で測定した蒸着材料の温度差が±5℃以内となったことで、蒸着材料の温度分布が±5℃以内となったと見なすことができる。
【0045】
なお、ルツボ50内における蒸着材料の測定点には、特に限定はなく、1点または3点以上を測定してもよく、また、ルツボの形状等に応じた、ルツボ内における蒸着材料の対流等に応じて、適宜、設定すればよい。
ここで、本発明者の検討によれば、図示例のように、ルツボ底面において、中央部と、この中央部と最も離間する位置との2点で蒸着材料の温度を測定することにより、殆どのルツボ50において、適正に蒸着材料の温度分布を知見できる。また、ルツボ50の底部で温度を測定することにより、蒸着材料の量によらず、適正に蒸着材料の温度測定を行うことができる。
【0046】
前述のように、形成装置10においては、ルツボ50に通電を開始(蒸着材料の加熱開始)した後、熱電対58aおよび58bによる蒸着材料の測定温度が設定温度の±5℃以内となり、かつ、熱電対58aおよび58bによる測定温度の差が±5℃以内となった後に、シャッタ40を開放して、蒸着を開始する。
蒸着を開始した後、形成する蛍光体層の膜厚等に応じて設定された所定時間の蒸着を行ったら、シャッタ40を閉塞し、電源20によるルツボ50への通電を停止し、支持体Sの回転を停止して、蒸着を終了する。蒸着を終了したら、真空チャンバ12内を大気開放して、支持体Sが十分に冷却された後、蛍光体層を形成した支持体Sを取り出す。
【0047】
ここで、熱電対58aおよび58bによる温度測定結果に応じた加熱の制御(加熱のフィードバック制御)は、蒸着を終了するまで行ってもよい。
しかしながら、蒸着を開始した後、適宜、設定したタイミングで、フィードバック制御(すなわち、温度測定による蒸着速度のモニタリング)をやめ、それ以降は、加熱を一定出力で制御するのが好ましい。
【0048】
当然のことであるが、蒸着が進行すれば、ルツボ50内の蒸着材料は減少する。その結果、蒸着の最後0の方は、ルツボ50内に温度を測定するのに十分な量の蒸着材料が無くなってしまう場合が多い。この様な状態では、蒸着材料の温度を正確に測定することができない場合も多く、その場合には、蒸着速度の正確なモニタリングすなわち適正なフィードバック制御を行うこともできなくなってしまい、逆に、蒸着速度が不安定になって、蛍光体層の特性が低下してしまう場合もある。
これに対し、蒸着を開始した後、所定のタイミングでフィードバック制御を辞め、加熱を一定出力制御として、そのまま最後まで蒸着を行うことにより、ルツボ内の蒸着材料が少なくなることによる、前記不都合を回避して、安定した加熱すなわち蒸着を維持して、最後まで、適正な蒸着を行うことが可能になる。
【0049】
一定出力制御は、例えば、蒸着開始の条件を満たした時点、あるいは、蒸着開始の条件を満たした後、所定の時間を経過した時点、あるいは、蒸着開始後、所定時間を経過した時点で、電源20の出力を演算して、その結果に応じて、加熱を一定出力で行えばよい。
また、一定出力制御は、電流制御でも、圧力制御でも、電力制御でもよい。
【0050】
なお、加熱をフィードバック制御から一定出力制御に切り換えるタイミングには、特に限定は無く、蒸着量、ルツボに充填する蒸着材料の量、ルツボの形状等に応じて、適宜、決定すればよいが、一定出力での加熱の制御は、蛍光体層の全蒸着時間の80%以下とするのが好ましい。
これにより、当初はフィードバック制御によって適正な膜形成を行い、最後は、一定出力制御によって、前記不都合を回避した成膜を行って、厚さ方向の全域に渡って適正な蛍光体層を形成できる。
【0051】
あるいは、前記第1の条件を満たしたら、適宜、設定したタイミングで、加熱を一定出力制御に切り換えて、その後、シャッタ40を開放して蒸着を開始してもよい。
これによっても、先と同様の効果を得ることができる。
【0052】
なお、このような蛍光体層の蒸着の制御の切り替えに関しては、後述する第2および第3の条件に応じて蒸着を開始する場合や、第1の条件〜第3の条件の複数を満たした後に蒸着を開始する場合にも、同様である。
【0053】
前述のように、第2の条件は、蒸着材料を収容する容器(ルツボ50)の温度が、予め設定した温度に対して±3℃以内であり、かつ、容器の温度分布が±3℃以内であることである。
図3に、この第2の条件に応じて蛍光体層の蒸着を開始する装置に用いられるルツボ50および加熱制御系の該略図を示す。
図3に示されるルツボ50は、構成は前述の図2に示すルツボ50と同じ物であり、熱電対58による測定位置のみが異なる。すなわち、図2に示す例では、熱電対58aおよび58bは、チムニー50aからルツボ50内に挿入され、ルツボ50の底部において蒸着材料の温度を測定している。それに対し、図3に示す例においては、2つの熱電対58cおよび58dは、ルツボ50の底部外壁において、ルツボ50すなわち蒸着材料の収容容器の温度を測定する。
また、加熱制御手段22は、このルツボ50の温度測定結果に応じて、電源20を制御して、蒸着材料の加熱を制御する。
【0054】
前述のように、第2の条件では、加熱を開始した後、ルツボ50(蒸着材料を収容する容器)の温度が、予め設定した設定温度の±3℃以内、好ましくは±1℃以内となり、ルツボ50の温度分布が±3℃以内、好ましくは、±1℃以内となった後に、蒸着を開始する。
具体的には、加熱を開始した後、熱電対58cおよび58dによる蒸着材料の想定温度が設定温度の±3℃以内となり、かつ、熱電対58cおよび58dによる測定温度の差が±3℃以内となった後に、シャッタ40を開放して蒸着を開始する。
【0055】
第1の条件と同様に、本発明者の検討によれば、ルツボ50の温度を2点で測定すれば、ルツボ50の温度分布を知見でき、すなわち、2点で測定したルツボ50の温度差が±3℃以内となったとことで、ルツボの温度分布が±3℃以内となったと見なせる。
なお、ルツボ50の温度測定点には、特に限定はなく、1点でも3点以上を測定してもよく、また、ルツボ50の形状等に応じた、ルツボ50内における蒸着材料の対流等に応じて、適宜、設定すればよい。本発明者の検討によれば、図示例のように、ルツボ50の底部外壁において、中央部と、この中央部と最も離間する位置との2点でルツボ50の温度を測定することにより、殆どのルツボ50において、適正にルツボの温度分布を知見できる。
【0056】
さらに、本発明において、蒸着を開始する第3の条件は、蒸着速度の変動幅が、予め設定した蒸着速度に対して±7%以内であることである。
図4に、この第3の条件に応じて蛍光体層の蒸着を開始する装置に用いられるルツボ近傍および加熱制御系の概略図を示す。
【0057】
図4に示されるルツボ50は、構成は前述の図2に示すルツボ50と同じ物である。
しかしながら、本例においては、熱電対58による温度測定は行わず、水晶振動子を用いる蒸発量センサ56を用いて、蒸着材料の蒸発量を測定し、その測定結果を、加熱制御手段22に送る。
加熱制御手段22は、この蒸発量から、その時点における蒸着速度(蒸着レート)を検出して、蒸着速度が所定の設定値となるように、電源20を制御して、蒸着材料の加熱を制御する。なお、加熱の制御は、蒸着速度を算出せずに、予め蒸発量と蒸着速度との関係を知見しておき、検出した蒸発量に応じて行ってもよいのは、もちろんである。
【0058】
前述のように、第3の条件では、加熱を開始した後、蒸着速度の変動幅(蒸着速度のバラツキ量)が、予め設定した蒸着速度に対して、±7%以内、好ましくは±3%以内となった後に、シャッタ40を開放して蒸着を開始する。すなわち、[蒸着速度の変動幅/設定蒸着速度]×100≦7となった後に、支持体Sへの蛍光体層の蒸着を開始する。
蒸着速度には、特に限定は無いが、1〜50μm/minが好ましい。
【0059】
なお、本発明において、蒸着速度の検出方法は、図示例の水晶振動子を用いた蒸発量センサ56には限定はされず、真空蒸着で利用されている、各種の方法が利用可能である。
一例として、レーザ変位計を用いて、シャッタ40の表面の位置を測定し、その変化から、蒸着速度を検出してもよい。当然のことであるが、シャッタ40を閉塞した状態では、シャッタ40の表面(下面)に、蛍光体層が堆積する。従って、このシャッタ40の表面すなわち蛍光体層の高さの変化から、蒸着速度を知見することができる。
【0060】
以上の例においては、第1の条件〜第3の条件のいずれか1つを満たした後に、シャッタ40を開放して、支持体Sへの蛍光体蒸着を開始しているが、本発明は、これに限定はされず、第1の条件〜第3の条件のうちのいずれか2つを満たした後に、蒸着を開始するようにしてもよく、あるいは、第1の条件〜第3の条件のすべてを満たした後に、蒸着を開始するようにしてもよい。
【0061】
また、図示例においては、2つのルツボ50に蒸着材料を充填して、蒸着を行っているが、本発明は、これに限定されず、ルツボ50を1つのみ用いて蛍光体層の蒸着をおこなってもよく、あるいは、3つ以上のルツボ50を用いて蛍光体層の蒸着を行ってもよい。
なお、本発明の効果をより好適に発言し、蒸着開始時の蛍光体層の性状を良好にできる等の点で、本発明においては、複数のルツボ50を用いて蛍光体層の蒸着を行うのが、好ましい。
【0062】
さらに、図示例においては、蛍光体(母体)と付活材(賦活剤[activator])とを混合したものを蒸着材料として用いているが、本発明は、これに限定はされず、蛍光体と付活剤とを別々のルツボに充填して蒸着を行う、二元(あるいは、それ以上の多元)の真空蒸着を行ってもよい。
なお、蛍光体層中における付活剤の量は、極微量であるので、二元の真空蒸着を行う場合には、蛍光体となる蒸着材料のみ、蒸着材料やルツボの温度測定、蒸着量の測定等を行って、第1の条件〜第3の条件が満たされた後に、蒸着を開始するようにしてもよい。あるいは、蛍光体および付活剤の両者に対して、これらの測定を行って、第1の条件〜第3の条件が満たされた後に、蒸着を開始するようにしてもよいのは、もちろんである。
【0063】
以上、本発明の一実施形態に係る真空蒸着方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいことはいうまでもない。
【0064】
また、図示例の装置は、支持体Sを回転保持しつつ成膜を行う装置であるが、本発明は、これに限定はされず、支持体を直線搬送しつつ成膜を行う、いわゆる直線搬送式の真空形成装置であってもよい。
【0065】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明をより詳細に説明する。
【0066】
[実施例1]
まず、真空チャンバ12を開放して、支持体回転保持機構Pでガラス板(以下、基板Zとする)を保持し、かつ、全てのルツボ50にヨウ化タリウムとヨウ化セシウムとを0.001:99.999の混合比で混合した原料を充填した後、シャッタ40を閉塞し、さらに、真空チャンバ12を閉塞した。
【0067】
次いで、真空排気手段16を駆動して真空チャンバ12内を排気し、真空チャンバ12内が8×10−4Paとなった時点で、排気を継続しつつ、ガス導入ノズル18によって真空チャンバ12内にアルゴンガスを導入して、真空チャンバ12内の圧力を1Paに調整し、さらに、抵抗加熱用の電源20を駆動して、全てのルツボ50に通電し、蒸着材料を加熱した。
【0068】
ここで、図2に示すように熱電対58aおよび58bを用いて、ルツボ50内の底面の中心部、および、この中心部から最も離間した底面の端部近傍において、蒸着材料の温度を測定した。
このとき、加熱制御手段22は、熱電対58aおよび58bの測定温度の結果に応じて、ルツボ50の発熱をフィードバック制御した。
【0069】
その後、全てのルツボ50において、2点の測定温度が、設定した温度(650℃)に対して±4.0℃以内で、かつ、両者の差が±4.0℃以内となった後に、シャッタ40を開放し、次いで、基板Zの回転駆動を開始し、基板Zの表面への蛍光体層の蒸着を開始した。
【0070】
蒸着開始後、予め設定した蒸着速度に応じて、蛍光体層の厚さが600μmとなった時点で、蛍光体層の蒸着を終了し、基板Zの回転駆動を停止し、シャッタ40を閉塞し、抵抗加熱用の電源を切り、ガス導入ノズル18によるArガスの導入量を増加して、真空チャンバ12内を大気圧とし、次いで真空チャンバを開放した。
なお、本実施例では、蒸着終了まで加熱のフィードバック制御を実施した。
【0071】
[実施例2]
全てのルツボ50において、2点の測定温度が、共に、予め設定した温度(650℃)に対して±1.7℃以内で、かつ、両者の差が1.7℃以内となった後に、シャッタ40を開放して蒸着を行った以外は、実施例1と全く同様にして蛍光体層を形成した。
【0072】
[実施例3]
全てのルツボ50において、2点の測定温度が、共に、予め設定した温度(650℃)に対して±0.9℃以内で、かつ、両者の差が0.9℃以内となった後に、シャッタ40を開放して蒸着を行った以外は、実施例1と全く同様にして蛍光体層を形成した。
【0073】
[実施例4]
蒸着材料の温度ではなく、ルツボ50の外壁の底面中央、および、この中央から最も離れた底面において、ルツボ50の温度を測定して蒸着材料の加熱を制御し、かつ、熱電対58cおよび58dによる温度測定結果が、予め設定した温度(650℃)に対して、±3.0℃以内で、両者の差が±3.0℃以内となった後にシャッタ40を開放して蒸着を行った以外、実施例1と全く同様にして蛍光体層を形成した。
【0074】
[実施例5]
全てのルツボ50において、2点の測定温度が、共に、予め設定した温度(650℃)に対して1.0℃以内で、かつ、両者の差が±1.0℃以内となった後に、シャッタ40を開放して蒸着を行った以外は、実施例4と全く同様にして蛍光体層を形成した。
【0075】
[実施例6]
蒸着材料の温度ではなく、水晶振動子を用いる蒸発量センサ56を用いて蒸着材料の蒸発量を検出して、この検出結果に応じてルツボ50の加熱を制御し、かつ、測定した蒸発量に対応する蒸発速度の変動幅が、予め設定した蒸発速度(5μm/min)の±6.8%以内となった後に、蒸着を開始した以外は、実施例と全く同様にして蛍光体層を形成した。
【0076】
[実施例7]
測定した蒸発量対応する蒸発速度の変動幅が、予め設定した蒸発速度(5μm/min)の±3.0%以内となった後に、シャッタ40を開放して蒸着を行った以外は、実施例6と全く同様にして蛍光体層を形成した。
【0077】
[実施例8]
蒸着速度を検出する方法として、水晶振動子を用いた蒸発センサ56を用いる代わりに、レーザ変位計を用いて、シャッタ40の表面の位置を測定し、その変化から、蒸着速度を検出した以外は、実施例6と全く同様にして蛍光体層を形成した。
【0078】
[実施例9]
測定した蒸発量対応する蒸発速度の変動幅が、予め設定した蒸発速度(5μm/min)の±2.0%以内となった後に、シャッタ40を開放して蒸着を行った以外は、実施例6と全く同様にして蛍光体層を形成した。
【0079】
[実施例10]
全てのルツボ50において、2点の測定温度が、共に、予め設定した温度に対して±4.0℃以内で、かつ、両者の差が4.0℃以内となった後に、その際の電源20の出力を検出し、その際の電流値に応じて、フィードバック制御を電流一定出力モードに切り換え、蒸着を開始した以外は、実施例1と全く同様にして蛍光体層を形成した。この際の、一定の電流値は、切り換え直前の電流値とした。
【0080】
[実施例11]
蒸着終了30分前に、その時点の電源20の出力を検出し、その際の電流値に応じて、フィードバック制御から電流一定出力モードに切り換えた以外は、実施例1と全く同様にして、基板Z上に蛍光体層を形成した。この際の、一定の電流値は、切り換えの直前の電流値とした。
【0081】
[実施例12]
蒸着終了30分前に、その時点の電源20の出力を検出し、その際の電力値に応じて、フィードバック制御から電力一定出力モードに切り換えた以外は、実施例1と全く同様にして、基板Z上に蛍光体層を形成した。この際の、一定の電力値は、切り換えの直前の電力値とした。
【0082】
[実施例13]
測定した蒸発量に対応する蒸発速度の変動幅が、予め設定した蒸発速度(5μm/min)の±6.9%以内となった後に、その際の電源20の出力を検出し、その際の電流値に応じて、フィードバック制御を電流一定出力モードに切り換え、シャッタ40を開放して蒸着を行った以外は、実施例6と全く同様にして蛍光体層を形成した。この際の、一定の電流値は、切り換えの直前の電流値とした。
【0083】
[実施例14]
測定した蒸発量対応する蒸発速度の変動幅が、予め設定した蒸発速度(5μm/min)の±6.9%以内となった後に、シャッタ40を開放して蒸着を行い、蒸着終了の30分前に、その時点の電源20の出力を検出し、その際の電流値に応じて、フィードバック制御から電流一定出力モードに切り換えた後に、実施例6と全く同様にして、蛍光体層を形成した。この際の、一定の電流値は、切り換えの直前の電流値とした。
【0084】
[比較例1]
蒸着材料を加熱した時点から蒸着が終了するまで、加熱制御手段22が、一定の電流(200A)をルツボ50に供給して、ルツボ50を加熱した以外は、実施例1と全く同様にして蛍光体層を形成した。
【0085】
[比較例2]
加熱制御手段22が、蒸着材料を加熱した時点から蒸着が終了するまで、一定の電力(300W)を供給した以外は、比較例1と全く同様にして蛍光体層を形成した。
【0086】
[比較例3]
全てのルツボ50において、2点の測定温度が、共に、予め設定した温度(650℃)に対して±6.0℃以内で、かつ、両者の差が±6.0℃以内となった後に、シャッタ40を開放して蒸着を開始した以外は、実施例1と全く同様にして蛍光体層を形成した。
【0087】
[比較例4]
全てのルツボ50において、2点の測定温度が、共に、予め設定した温度(650℃)に対して±4.0℃以内で、かつ、両者の差が±4.0℃以内となった後に、シャッタ40を開放して蒸着を開始した以外は、実施例4と全く同様にして蛍光体層を形成した。
【0088】
[比較例5]
測定した蒸発量に対応する蒸発速度の変動幅が、予め設定した蒸発速度(5μm/min)の±8.0%以内となった後に、シャッタ40を開放して蒸着を行った以外は、実施例6と全く同様にして蛍光体層を形成した。
【0089】
[比較例6]
測定した蒸発量に対応する蒸発速度の変動幅が、予め設定した蒸発速度(5μm/min)の±8.0%以内となった後に、シャッタ40を開放して蒸着を行った以外は、実施例8と全く同様にして蛍光体層を形成した。
【0090】
得られた各種の蛍光体層について、下記のようにして、蒸着後の蛍光体層の点欠陥の数を調べた。これらの結果をまとめたものを表1に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
[点欠陥の測定方法]
上記のようにして基板Z上に蛍光体層を形成した後、蛍光体層が形成されていない基板Z表面にAgBrフィルムを貼着し、次いで、蛍光体層側から、X線を照射し、AgBrフィルムに潜像を焼付け、現像する。
このとき得られた画像からランダムに10箇所を選択し、1箇所当たり100cmを観察して、一箇所あたりの平均の点欠陥数を求めた。
なお、平均の点欠陥数が30個以内であれば、この蛍光体層を用いて高品質な平面放射線画像検出器を製造することができる。
【0093】
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
なお、上記実施形態並びに実施例は、いずれも本発明の一例を示すものであり、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の趣旨を変更しない範囲内で、適宜の変更・改良を行ってもよいことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の蛍光体層の形成方法を実施する蛍光体層の形成装置の概略斜視図である。
【図2】(A)は、図1に示す蛍光体層の形成装置のルツボの上面図、(B)は同概略正面図、(C)は同内部の概略側面図である。
【図3】図2とは、別のルツボの概略斜視図である。
【図4】図2とは、別のルツボの概略斜視図である。
【符号の説明】
【0095】
10 蛍光体層の形成装置
12 真空チャンバ
16 真空ポンプ
18 ガス導入ノズル
20 (抵抗加熱)電源
22 加熱制御手段
40 シャッタ
50 ルツボ
56 蒸発量センサ
58 熱電対
62 遮蔽部材
P 保持搬送手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線の入射によって発光する蛍光体層の光を光電変換素子で測定することにより放射線画像を撮影する平面放射線画像検出器の、前記蛍光体層を真空蒸着で形成するに際し、
前記光電変換素子が形成されてなる支持体を基板として用いると共に、
溶融した蒸着材料の温度が、予め設定した温度に対して±5℃以内であり、かつ、前記蒸着材料の温度分布が±5℃以内である第1の条件、
前記蒸着材料を収容する容器の温度が、予め設定した温度に対して±3℃以内であり、かつ、前記容器の温度分布が±3℃以内である第2の条件、
および、蒸着速度の変動幅が、予め設定した蒸着速度に対して±7%以内である第3の条件のうちの少なくとも1つの条件を満たした後に、
前記支持体に蛍光体層の蒸着を開始することを特徴とする蛍光体層の形成方法。
【請求項2】
前記蒸着材料を収容する容器を、複数個用いる請求項1に記載の蛍光体層の形成方法。
【請求項3】
蒸着が完了するまで、前記第1の条件、第2の条件、および第3の条件のうちの少なくとも1つを満たすように、前記蒸着材料の加熱をフィードバック制御する請求項1または2に記載の蛍光体層の形成方法。
【請求項4】
前記第1の条件、第2の条件、および第3の条件のうちの少なくとも1つを満たすまでは、前記蒸着材料の加熱をフィードバック制御し、前記第1の条件、第2の条件、および第3の条件のうちの少なくとも1つを満たした後に、予め設定した所定のタイミングで、前記蒸着材料の加熱を一定加熱条件とする請求項1または2に記載の蛍光体層の形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−88531(P2008−88531A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−273438(P2006−273438)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】