説明

血管形成術用バルーン

膨張可能な血管形成術用バルーンは、外側表面層を有するバルーンを含み、外側表面層は電界紡糸ナノファイバーで形成され、少なくとも1種の薬理活性物質(酸化窒素(NO)等)を含む。外側表面層は、バルーンに被せることができる個別の可撓性を有する管状部材またはソックス上に形成することができる。NOの放出を増加させるために、アスコルビン酸等の酸性剤をバルーンに組み込むことができる。生体の管状構造における細胞障害の治療方法は、コーティングされたバルーンを管状構造内の治療部位に配置する工程と、治療部位においてバルーンを膨張させる工程と、治療部位において薬理活性物質を放出する工程とを含む。必要に応じて、バルーンおよびステントを生体の管状構造に挿入する前に、ステントをバルーン上に付着させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管形成術用バルーンおよびその製造方法に関する。バルーンは、例えば血管内ステントを膨張させるために、例えば生体の血管系に好適に挿入することができる。
【背景技術】
【0002】
血管形成術用バルーンは、様々な診断手順や治療において使用されることが多い。例えば、バルーンは、狭窄した血管を治療するために、体内管腔内に留置されたステントを膨張させるために使用される。ステントは、細胞増殖などの副作用を防止するために、留置後に周囲組織に溶離する医薬を含む場合が多い。膨張性ステントは、目的の部位に配置された後に膨張することによりステントを膨張させる血管形成術用バルーンカテーテル上に配置される。あるいは、ステントは、目的の部位に配置された後に自ら膨張するように、ニチノール(Nitinol)等の超弾性合金などの復元能力を有する材料で形成することができる。そのような自己膨張ステントは、伸縮性チューブによって目的の部位に配置される場合が多く、例えば、膨張前にステントが固定されている内側部材上をスライドさせることにより外側部材が除去される。
【0003】
一般に、生体の血管系に挿入するための医療用品は、一定の物理的要件を満たすことが望ましい。例えば、挿入を容易にするために、ステントの表面は親水性であると共に低い表面摩擦を有していなければならない。ステントの表面は、酸化窒素(NO)等の薬剤で被覆される場合がある。酸化窒素を放出するマトリックスは、医療用品が目的の部位に配置された後に動脈攣縮を緩和または防止することもできる。また、酸化窒素は、血小板の凝集を抑制し、平滑筋細胞増殖を減少させて再狭窄を減少させることが知られている。酸化窒素を特定の部位に直接供給すると、医療スタッフが異物または装置を患者に導入した部位において、炎症を防止または軽減させる。
【0004】
国際特許出願第WO2004/006976号は、別のステントを導入した後に、血管壁に直接適用するためのバルーン基材に配置または塗布される親油性生体活性材料の単層を示している。上記文献の開示によれば、ステントを使用することなく血管形成術にバルーンを使用することができた。生体活性材料の層は、ディッピング、浸漬またはスプレー塗布によってバルーン上に設けることができる。
【0005】
様々な酸化窒素(NO)供与体化合物、酸化窒素供与体化合物を含む医薬組成物、酸化窒素を放出することができるポリマー組成物が提案されている。例えば、米国特許第6,737,447B1号に対応する欧州特許第1220694 B1号は、医療用品上に被覆層を形成する直鎖状ポリ(エチレンイミン)ジアゼニウムジオレート(poly(etihylenimine) diazeniumdiolate)のナノファイバーを少なくとも1つ含む医療用品を開示している。このポリマーは、医療用品の周囲組織に酸化窒素を供給するために有効である。
【発明の開示】
【0006】
本発明の好ましい実施形態の目的は、体内管腔における薬物伝達を改善することができるバルーンを提供することにある。
【0007】
第1の態様において、本発明は、外側表面層を有するバルーンを含み、外側表面層が電界紡糸ナノファイバーからなり、かつ、少なくとも1種の薬理活性物質を含む、膨張可能な血管形成術用バルーンを提供する。
【0008】
第2の態様において、本発明は、ナノファイバーを電界紡糸することによって、バルーンの外側表面層を形成する工程を含み、外側表面層が少なくとも1種の薬理活性物質を含む、血管形成術用バルーンの製造方法を提供する。本体部および外側表面層は、例えば、経皮的血管形成術(percutaneous translumenal angioplasty;PTA)用バルーン、経皮的冠動脈形成術(percutaneous translumenal coroner angioplasty;PTCA)用バルーン、経皮的神経血管形成術(percutaneous translumenal neurovascular angioplasty;PTNA)用カテーテルなどの膨張可能な被覆された血管形成術用バルーンを形成することができる。外側表面層は、バルーンの形状に追従する、すなわち、バルーンが膨張する際にバルーンと共に拡張し、バルーンが萎んだ時には収縮することが好ましい。外側表面層は、以下に詳細に説明するポリマーで形成することが好ましい。
【0009】
ナノファイバーの直径は、通常は2〜4000nm、好ましくは2〜3000nmであり、したがって、多数のナノファイバーがバルーンの外側表面に存在する。これにより、バルーンの外側表面上のナノファイバーは大きな累積面積を形成し、バルーンの重量に対する面積は、電界紡糸されていないその他の表面によって得られる面積よりも大きい。したがって、被覆されたバルーンの重量と比較して、電界紡糸表面は、薬理活性物質のかなり大きな貯蔵部を構成する。ナノファイバーは、単一分子の大きさに近い0.5nmの直径を有するように製造することもできる。
【0010】
ナノファイバーの紡糸は、多くの場合、コアに対するポリマーの噴霧のみによる方法よりも簡単にまたは正確に制御することができることが分かった。このことは、医療用品を従来よりも小さなサイズで(例えば小さな直径で)形成することができるという利点がある。本発明によれば、比較的小さな直径を有するバルーンを製造することができる。比較的小さな直径を有するバルーンは、大きな直径を有する医療用品と比較して、生体の血管系への導入を容易にし、バルーンの導入の結果として発生しうる副作用を軽減する。ナノファイバーを紡糸することによって、十分な機械的安定性を維持しながら、2種以上の材料が小さなサイズの分子スケールで組み合わせられた一体的な複合医療用品を製造することができる。紡糸材料の約2〜5分子の大きさと同等の断面積を達成することができる。分子のサイズは使用する材料に明らかに依存する。なお、ポリウレタン分子のサイズは通常3000nm未満である。
【0011】
「電界紡糸」という用語は、ある電位(好ましくは一定の電位、好ましくは負電位)に維持された基体に粒子を塗布するプロセスを含む。粒子は、別の電位(好ましくは正電位)の供給源から供給される。正電位および負電位は例えば、周囲環境(すなわち、プロセスを実施する室内)の電位を基準としてバランスを取ることができる。周囲環境の電位を基準とした基体の電位は好ましくは−5〜−30kVであり、周囲環境の電位を基準とした供給源の正電位は好ましくは+5〜+30kVであり、したがって、供給源と基体との間の電位差は10〜60kVとなる。
【0012】
近年、ナノファイバーの電界紡糸技術は非常に発展してきている。米国特許第6,382,526号はナノファイバーの製造方法および装置を開示しており、これらの方法および装置は本発明に係る方法において有用である。米国特許第6,520,425号はナノファイバーを形成するためのノズルを開示している。なお、これらの米国特許に開示された方法および装置は本発明に係る方法に適用することができるが、本発明の保護範囲はこれらの方法および装置には限定されるものではない。
【0013】
本発明によって製造されるバルーンは、長さに沿って複数の部分を形成していてもよい。例えば、複数の部分は、異なる硬度などの異なる特性を有することができる。そのような異なる特性は、異なる部分に異なるファイバー形成材料を使用することおよび/または製造パラメータ(電界紡糸プロセスにおける電極の電圧、高電圧側電極と低電圧側電極との間の距離、医療用品(または医療用品が周囲に製造されるコアワイヤー)の回転速度、電界強度、コロナ放電開始電圧またはコロナ放電電流など)を変化させることによって得ることができる。
【0014】
バルーンの本体部は、例えば、ナイロン12、Ticoflex(登録商標)等のポリアミド材料またはそれらの組み合わせによって形成することができる。例えば、Ticoflex(登録商標)コーティングが設けられたナイロン12でバルーン本体を形成し、その上に電界紡糸ナノファイバーによって外側表面層を形成してもよい。または、ナノファイバーを形成するために使用されるポリマーとして、Ticoflex(登録商標)を直接使用することができる。
【0015】
また、本発明に係る方法の好ましい実施形態によって製造されたバルーンは、低い表面摩擦を有することが分かった。本発明の実施形態では、低い表面摩擦は、電界紡糸プロセスのファイバー形成材料として、吸水性材料を使用することによって達成することができる。したがって、血管系に導入されると、吸水性電界紡糸材料は体液を吸収し、親水性の摩擦の低い表面が得られる。例えば、吸水性表面はポリウレタン材料またはポリアクリル酸材料を使用して得ることができる。
【0016】
好ましくは、バルーンの外側表面層は医薬の貯蔵部を構成することができる。外側表面層の電界紡糸部分は、医薬を保持するための貯槽部を構成するか、医薬が分子鎖に封じ込められるか、分子鎖に付着するか、または分子鎖を取り囲むマトリックスポリマー供給源を構成することができる。本明細書に開示されるバルーンは、限定されるものではないが、例えば酸化窒素組成物、へパリン、化学療法剤などの適当な医薬を担持することができる。
【0017】
膨張可能なバルーンの外側表面層は、少なくとも1種の薬理活性物質を含む電界紡糸ファイバーで形成される。電界紡糸ファイバーは1種以上のポリマーのポリマーマトリックスを形成する。「電界紡糸ファイバー(すなわち、ポリマーマトリックス)で形成された外側表面層」はバルーンの最外層である必要はなく、例えば、親水性ポリマー(例えば、ポリアクリル酸(およびコポリマー)、ポリエチレンオキシド、ポリ(ポリビニルピロリドン等のN−ビニルラクタム))の層が外側表面層(ポリマーマトリックス)上にコーティングとして設けられていてもよい。または、膨張可能なバルーンが目的の部位に配置されるまでポリマーマトリックスと血液との接触を遅らせるために、外側表面層(ポリマーマトリックス)上にバリア層をコーティングとして設けることができる。バリア層は溶解または崩壊する生分解性ポリマーで形成することができ、あるいは、バリア層はバルーンの膨張時に崩壊してもよい。
【0018】
「ポリマーマトリックス」という用語は、電界紡糸ファイバーによって形成された三次元構造を意味する。電界紡糸プロセスの性質上、ポリマーマトリックスは薬理活性物質の迅速な放出を可能とする非常にアクセス性の高い表面によって特徴付けられる。ポリマーマトリックスのポリマーは、ポリマー溶液や溶融ポリマーを含む様々なポリマーをベースとする材料およびその複合マトリックスから調製することができる。使用できるポリマーとしては、例えば、ナイロン等のポリアミド、ポリウレタン、フッ素ポリマー、ポリオレフィン、ポリイミド、ポリイミン、(メタ)アクリルポリマー、およびポリエステル、ならびに適当なコポリマーが挙げられる。また、ファイバー形成材料としてカーボンを使用することができる。
【0019】
ポリマーマトリックスは1種以上のポリマーで形成され、薬理活性物質の他に、塩、緩衝成分、微粒子などの他の成分を含むことができる。
【0020】
「少なくとも1種の薬理活性物質を含む」とは、薬理活性物質が個別の分子としてポリマーマトリックス中に存在しているか、または、薬理活性物質が共有結合またはイオン相互作用によってマトリックスのポリマーに結合していることを意味する。後者の場合には、通常は生物学的作用が発生する前に薬理活性物質をポリマー分子から放出させる必要がある。薬理活性物質の放出は、加水分解、イオン交換等による生理的流体(例えば血液)との接触によって発生する場合が多い。
【0021】
好ましい一実施形態では、薬理活性物質は共有結合によってポリマー分子に結合している。
【0022】
薬理活性物質は、外側表面層を製造するための液体物質に混合させてもよい。
【0023】
興味深い一実施形態では、薬理活性物質は酸化窒素供与体である。ある種の治療では、バルーンが治療部位に配置された直後(または配置後5分間以内)に酸化窒素が気相で生体組織内に放出されることが望ましい。酸化窒素が気相で放出されると、NO供与体の残渣はほとんど組織に付着しない。
【0024】
本発明の好ましい実施形態では、NONO’ateが酸化窒素供与体として使用される。NONO’ateは、以下の式にしたがって、酸触媒下で親アミンおよびNOガスに分解する(米国特許第6,147,068号、Larry K.Keefer:Methods Enzymol,(1996)268,281−293,Naunyn−Schmeideberg,Arch Pharmacol(1998)358,113−122を参照)。
【0025】
[式]

【0026】
本実施形態では、NOは電界紡糸ポリマーマトリックス内において放出される。マトリックスは多孔性であるため、水がマトリックス内に進入することができる。NO分子は、多くの方法およびそれらの組み合わせによって、マトリックスから組織内へと輸送されることができる。いくつかのシナリオを以下に記載する:NOがマトリックス内で水に溶解し、拡散または水流によってマトリックスの外に輸送される;NOが気体の形態にてマトリックスから拡散し、マトリックスの外部で水に溶解する;NOが水から組織内に拡散する;NOが気体の形態にてマトリックスから組織内に拡散する。
【0027】
上記式に示されるように、NOの放出速度は媒体のpHに大きく依存する。したがって、様々な量の酸をマトリックスに添加することによって、NOの放出速度を制御することができる。例えば、pH5.0におけるNO放出の半減期(half−live)は約20分であり、pH7.4における放出の半減期は約10時間である。例えば、NOの放出を増加させるための酸性剤(acidic agent)として、アスコルビン酸を使用することができる。
【0028】
また、酸化窒素を放出することができる様々な酸化窒素(NO)供与体化合物およびポリマー組成物が、例えば米国特許第5,691,423号,米国特許第5,962,520号,米国特許第5,958,427号,米国特許第6,147,068号,米国特許第6,737,447 B1号(欧州特許第1220694 B1号に対応)に提案されており、これらの文献の開示内容はこの参照によって本明細書の一部をなすものとする。
【0029】
好ましい実施形態では、ナノファイバーは、共有結合によって結合した酸化窒素供与体(例えば、ジアゼニウムジオレート部位)を有するポリマーで形成される。
【0030】
ポリイミンは、共有結合によって結合したジアゼニウムジオレート部位を有することができる様々なポリマーを代表するものである。ポリイミンは、ポリ(エチレンイミン)などのポリ(アルキレンイミン)を含む。例えば、ポリマーは、米国特許第6,737,447号に開示されているような直鎖状ポリ(エチレンイミン)ジアゼニウムジオレート(NONO−PEI)であってもよく、その開示内容はこの参照によって本明細書の一部をなすものとする。直鎖状ポリ(エチレンイミン)(PEI)への酸化窒素供与体の付加量は、PEIのアミン基の5〜80%(例えば10〜50%(例えば33%))がジアゼニウムジオレート部位を担持するように変化させることができる。適用される条件に応じて、直鎖状NONO−PEIは、放出可能な酸化窒素の全量のうち様々な割合の酸化窒素を放出させることができる。
【0031】
ジアゼニウムジオレート部位を有するポリアミン(特にポリ(エチレンイミン)ジアゼニウムジオレート)は、電界紡糸プロセス用のポリマーとして有利に使用することができる。なぜなら、そのようなポリマーは好適な親水性を通常有するためであり、かつ、ジアゼニウムジオレート部位の付加(およびこれによるNO分子の付加)を広範囲で変化させることができるためである(上述したNONO−PEIの例を参照)。
【0032】
別の実施形態では、薬理活性物質は個別の分子としてポリマーマトリックス内に存在する。
【0033】
この実施形態では、薬理活性物質は、微小球体やマイクロカプセルなどの微粒子に含まれていてもよい。そのような微粒子は、特に癌の治療に有用である。微粒子は生分解性であってもよく、生分解性ポリマー(多糖類、ポリアミノ酸、ポリ(リン酸エステル)生分解性ポリマー、グリコール酸と乳酸のポリマーまたはコポリマー、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(トリメチレンカーボネート)コポリマー、ポリ(α−カプロラクトン)ホモポリマーまたはコポリマーなど)で形成されていてもよい。
【0034】
または、微粒子は、アモルファスシリカ、カーボン、セラミック材料、金属、または非生分解性ポリマーなどの非生分解性物質であってもよい。
【0035】
微粒子は、化学療法剤などの薬理活性物質を包み込む微小球体の形態であってもよい。薬理活性物質の放出は、好ましくは投与後に開始する。
【0036】
薬理活性物質を包み込む微小球体は、電磁波または超音波衝撃波によって薬理活性物質を放出しやすいように処理することができる。
【0037】
バルーンがしばしば蛇行した通路を通過して治療部位に容易に到達するために、外側表面層上に親水性層を設けることが好ましい。親水性層は個別の材料層として設けることができる。または、外側表面層自体が親水性を有していてもよい。
【0038】
外側表面層は、酸化窒素などの薬理活性物質を放出するための触媒として作用する酸性剤(乳酸またはビタミンCなど)を含むことが有利である。酸性剤は治療部位におけるpH値を変化させることができ、治療部位における酸化窒素の放出速度は局所pH値の関数として変化する。したがって、ビタミンCの存在は酸化窒素の放出を高める、すなわち、酸化窒素の急激な放出をもたらすことができる。
【0039】
一般に、酸化窒素の放出については「血管形成術および/またはステント挿入後の血管内増殖の防止(Prevention of intimal hyperplasia after angioplasty and/or stent insertion」または、「How to mend a broken heart」,Jan Harnek MD,Heart Radiology,University of Lund,Sweden,2003に記載されている。
【0040】
薬理活性物質は、ナノファイバー間に分散させた生分解性ビーズの形態として設けることができ、ビーズは薬理活性物質を放出することができ、生分解性ビーズの場合には薬理活性物質の放出後に分解する。そのようなビーズは国際特許出願第PCT/DK2004/000560号に詳細に記載されており(上記文献の開示内容はこの参照によって本明細書の開示内容に含まれるものとする)、治療部位において組織内に浸透し、その組織内で薬理活性物質を放出することができる。あるいは、ビーズは、例えば血流によって治療部位から離れるように輸送できる小さなサイズを有していてもよい。
【0041】
外側表面層は、バルーンに被せることができる個別の可撓性チューブまたはソックス上に形成することができる。したがって、様々な特性を有するかまたは様々な薬理活性物質を含む様々な可撓性チューブを安価に製造し、従来の大量生産バルーンに被せることができる。可撓性チューブは、マンドレルなどのコア部材を用意し、マンドレルを連続的に回転させながらナノファイバーを電界紡糸によって付着させることによって形成することができる。
【0042】
バルーンが膨張していない状態では、可撓性チューブは折り畳まれ、断面においてスポーク・ハブ形状を構成している。
【0043】
電界紡糸外層のバルーン本体への密着性を向上させるために、バルーン本体を被覆する前に、バルーン本体を中間ポリマー層(例えばTicoflex層)によって被覆することができる。例えば、中間層はディップコーティングによってバルーン本体に形成することができる。中間層は、ポリウレタンまたは米国特許第6,737,447 B1号に開示された直鎖状ポリ(エチレンイミン)ジアゼニウムジオレートなどの外側表面コーティングに使用されるポリマーによって形成することもできる。ディップコーティング自体は公知である。例えば、ディップコーティングはゴム業界においてラテックス製品の製造に使用されており、共押出は例えば光ファイバーケーブルの製造に使用されている。粗面またはテクスチャー面を形成するために、ディップコーティングの代わりにブレーディングを使用することができる。
【0044】
バルーンの製造方法の一実施形態では、例えば1〜5バール(または1.5〜5バール、または2〜5バール)の圧力で加圧した酸化窒素を含むチャンバ内で、外側表面層を酸化窒素に暴露することによって、外側表面層に酸化窒素を塗布することができる。バルーンが潰れることを防止するために、バルーンが膨張した状態(すなわち、加圧ガスまたは液体によってバルーンが膨張した状態)で酸化窒素を塗布することができる。可撓性チューブ上に形成される可撓性チューブとして、またはバルーンに被せられる可撓性チューブとして、外側表面層が形成される場合、チューブは、好ましくは、チューブが加圧された酸化窒素に暴露された時に可撓性チューブ内を延びるコア部材(鋼線等)によって支持される。または、可撓性チューブをバルーンに被せる際に、可撓性チューブにNOを塗布することができ、この場合、圧力チャンバ内でNOを塗布する際に、バルーンを膨張させることが好ましい。
【0045】
ナノファイバーを電界紡糸する工程は、支持部材から離れて配置された分配電極(dispensing electrode)を介してファイバー形成材料を供給することにより、ファイバー形成材料の複数の撚り糸を分配電極から得ることを通常含む。本発明の方法の一実施形態では、外側表面層の特性は、撚り糸が支持部材に達する際の撚り糸の流動性を制御することにより制御され、例えば、分配電極と支持部材との間の距離を制御することによって制御される。噴流の流動性を制御することによって、交差するファイバーを、1点のみで折れたとしても解けることがない多重連結ネットワークとして形成することができる。また、電界紡糸プロセスにおいてファイバーがバルーンまたは支持部材に接触する場所にて、流動性によって、流動性がより高いファイバーをバルーンまたはその他の支持部材に密接に追従することができる。
【0046】
さらなる態様において、本発明は、生体の管状構造における炎症、増殖または癌などの細胞障害を治療する方法を提供し、該方法は、管状構造内の治療部位に上述したバルーンを配置する工程と、治療部位においてバルーンを膨張させる工程と、治療部位において薬理活性物質を放出する工程と、を含む。
【0047】
薬理活性物質を放出する工程は、外側表面層に含まれるpH調整物質(例えば、ビタミンC(アスコルビン酸)または乳酸)によって制御することができる。
【0048】
バルーンを配置する工程の前に、膨張していないステントをバルーン上に配置することができ、ステントはバルーンと共に治療部位に配置することができる。このような実施形態では、バルーンが膨張する際に、治療部位においてステントが膨張し、バルーンを収縮させ、ステントを治療部位に残した状態でバルーンを管状構造から除去する。これは、バルーンが膨張するまで薬理活性物質の伝達が完全には開始せず、バルーンが収縮・除去されるとすぐに薬理活性物質の伝達が実質的に阻害されるため、伝達時間を正確に制御することができるという利点がある。そのうえ、ステントが生体の管状構造を通過して治療部位に到達する際に失われる医薬の量を減らすことができる。
【0049】
さらに別の態様では、本発明はまた、上述した被覆バルーンと、ステントと、必要に応じて、ステントを治療部位に導入するためのガイドワイヤーとを含むキットを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0051】
図1〜図6に示す実施形態では、ナノファイバーをコア部材の外側表面に紡糸する。コア部材は、コアワイヤー(またはマンドレル)100と、コアワイヤーの外側表面に設けられたPTFE層102と、PTFE層102の外側表面に設けられた熱可塑性材料のコーティング104と、熱可塑性コーティングの外側表面に設けられた少なくとも1本の補強ワイヤー106とを含み、電界紡糸ナノファイバー単繊維が外層108として設けられている(すなわち、外層108が補強ワイヤーおよび熱可塑性コーティングを取り囲んでいる)。必要に応じて、親水性層110は任意に医療用品の外側表面に設けられている(図6を参照)。
【0052】
ガイドワイヤーの直径は、少なくとも0.1mm以上(例えば0.1〜1.0mm)である。好ましくはポリウレタン(PU)コーティングである熱可塑性コーティングは、5μmから約0.05mm、好ましくは0.01mm±20%の厚みを有する。補強ワイヤーは、5μmから約0.05mm、好ましくは0.01mm±20%の直径を有する。
【0053】
上述したように、PTFE層102をコア部材100の外側表面に設けることができる。PTFE層の表面の少なくとも一部(ナノファイバーおよび/または熱可塑性コーティングが設けられた部分など)は、PTFE層の外側表面への材料の接着性を向上させるために変性させることができる。好ましくは、そのような変性はエッチングを含み、例えば共有結合または接着のための下塗りされた(primed)PTFE表面を形成することができる。エッチングは、フラックス酸(flux acid)またはフッ化水素酸をPTFE層の表面に塗布することによって行うことができる。PTFE層はコアワイヤーに被せられ、コアワイヤーと同軸に延びるホースとして設けることができる。
【0054】
ポリウレタン(PU)などの熱可塑性材料104のコーティングは、コア部材100の外側表面(すなわち、PTFE層102が設けられている場合、PTFE層102の外側表面)に設けることができる。PTFE層102を設ける工程および/または熱可塑性コーティング104を設ける工程に続いて、1以上の補強ワイヤー106をコア部材100の外側表面に設けることができる。好ましい一実施形態では、1以上の補強ワイヤー106をポリウレタンコーティング104の外側表面に設ける。補強ワイヤーは、1以上の鋼製ワイヤーまたは/および炭素単繊維などの織り糸(yarn)から製造されたワイヤーからなることができ、巻き取りによって設けることができる。あるいは、補強ワイヤーはナノファイバーの紡糸(好ましくは上述したような電界紡糸)によって設けることができる。電界紡糸補強ワイヤーは、カーボンまたはポリマーから形成することができ、ポリマー溶液および溶融ポリマーを含むことができる。使用できるポリマーとしては、ナイロン、フッ素ポリマー、ポリオレフィン、ポリイミド、ポリエステルが挙げられる。
【0055】
管状部材を形成する際、あるいは、管状部材のうち少なくとも電界紡糸によって形成される部分を形成する際、コア部材の外側表面の周囲にナノファイバーを均等に分散させるために、好ましくはコア部材100を回転させる。
【0056】
本発明の好ましい実施形態では、この時点でナノファイバー108をコア部材の外側表面(すなわち、好ましくは、必要に応じて補強ワイヤーによって補強される熱可塑性コーティング104の外側表面)に設ける。電界紡糸については既に詳細に述べた。
【0057】
次に、テトラヒドロフラン(THF)またはイソプロパノール(IPA)などの溶媒をコア部材の外側表面に塗布することができ、外側表面は医療用品の電界紡糸部分(層)108によって形成されることができる。これにより、熱可塑性コーティング104は少なくとも部分的に溶媒に溶解し、補強ワイヤー106が熱可塑性コーティング104に接着される。その結果、補強ワイヤー106は熱可塑性コーティング104内に埋め込まれる。溶媒を供給する工程によって、表面摩擦が低くかつ密度が非常に高い表面が得られることが明らかになっており、これは、溶媒が塗布された際に電界紡糸ナノファイバーの延伸分子が皺状になるかまたは縮むためであると考えられる。
【0058】
コアワイヤー100(またはマンドレル)は、溶媒を塗布する工程の後、あるいは、溶媒を塗布する工程の前であって、電界紡糸ナノファイバー108の単繊維を塗布する工程の後に除去する。
【0059】
得られる管状部材は、バルーンに被せる可撓性チューブまたはソックスとして使用することができる。
【0060】
あるいは、電界紡糸によってナノファイバーをバルーン上に直接形成することができ、バルーンには必要に応じて上述したようなコーティング処理(例えば、ディップコーティングまたは編み上げ処理)を行って、表面に対するナノファイバーの密着性を向上させる。
【0061】
図7は、本発明に係るバルーンを含む血管形成術用バルーンカテーテルの各種実施形態を示す。図7の上側の図は、電界紡糸ナノファイバーからなる外側表面層120を含む膨張したバルーン118を示す。バルーンはガイドワイヤー122に支持されている。
【0062】
図11の中央の図は、電界紡糸ナノファイバーからなるチューブまたはソックス126が被せられた、膨張していないバルーン124を示す。図11の下側の図において、破線はバルーンが膨張した場合のバルーン124とソックス126の輪郭線を示す。
【0063】
図12および図13は、バルーンが膨張していない状態の模式図であり、可撓性チューブが折り畳まれて、断面においてスポーク・ハブ形状を構成している。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1〜図6は、本発明の一実施形態に係るバルーンのための医療用チューブ(例えば管状部材)の製造方法の好ましい一実施形態を順に説明する図である。
【図2】図1〜図6は、本発明の一実施形態に係るバルーンのための医療用チューブ(例えば管状部材)の製造方法の好ましい一実施形態を順に説明する図である。
【図3】図1〜図6は、本発明の一実施形態に係るバルーンのための医療用チューブ(例えば管状部材)の製造方法の好ましい一実施形態を順に説明する図である。
【図4】図1〜図6は、本発明の一実施形態に係るバルーンのための医療用チューブ(例えば管状部材)の製造方法の好ましい一実施形態を順に説明する図である。
【図5】図1〜図6は、本発明の一実施形態に係るバルーンのための医療用チューブ(例えば管状部材)の製造方法の好ましい一実施形態を順に説明する図である。
【図6】図1〜図6は、本発明の一実施形態に係るバルーンのための医療用チューブ(例えば管状部材)の製造方法の好ましい一実施形態を順に説明する図である。
【図7】図7は、本発明の一実施形態に係るバルーンを含む血管形成術バルーンカテーテルを示す。
【図8】図8および図9は、バルーンの折り畳み状態を示す。
【図9】図8および図9は、バルーンの折り畳み状態を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側表面層を有するバルーンを含み、
前記外側表面層は電界紡糸ナノファイバーで形成され、かつ、少なくとも1種の薬理活性物質を含む、膨張可能な血管形成術用バルーン。
【請求項2】
請求項1において、
前記バルーンと前記外側表面層との間に形成された中間層をさらに含み、
前記中間層はディップコーティングによって形成されている、膨張可能な血管形成術用バルーン。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記外側表面層は個別の可撓性チューブ上に形成され、かつ、該外側表面層が前記バルーンに被せられている、膨張可能な血管形成術用バルーン。
【請求項4】
請求項3において、
前記可撓性チューブは折り畳まれて、断面においてスポーク・ハブ形状を形成している、膨張可能な血管形成術用バルーン。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記薬理活性物質は酸化窒素を含み、
前記外側表面層は酸性剤をさらに含む、膨張可能な血管形成術用バルーン。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記外側表面層はポリマーマトリックスで実質的に形成され、該ポリマーマトリックスは、少なくとも1種の前記薬理活性物質を放出することができる分子を含む、膨張可能な血管形成術用バルーン。
【請求項7】
請求項6において、
前記外側表面層は、直鎖状ポリ(エチレンイミン)ジアゼニウムジオレートで実質的に形成されている、膨張可能な血管形成術用バルーン。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかにおいて、
前記薬理活性物質は、前記ナノファイバー間に分散された生分解性ビーズの形態で設けられている、膨張可能な血管形成術用バルーン。
【請求項9】
ステントと、
前記ステントを膨張させるための請求項1ないし8のいずれかに記載の被覆バルーンと、を含む、キット。
【請求項10】
請求項9において、
前記ステントを生体の管状構造内の治療部位に導入するためのガイドワイヤーをさらに含む、キット。
【請求項11】
請求項10において、
前記ガイドワイヤーにコーティングが設けられている、キット。
【請求項12】
ナノファイバーを電界紡糸することによって、バルーンの外側表面層を形成する工程を含み、
前記外側表面層は少なくとも1種の薬理活性物質を含む、血管形成術用バルーンの製造方法。
【請求項13】
請求項12において、
前記外側表面層は、前記バルーンが膨張していない状態で設けられる、血管形成術用バルーンの製造方法。
【請求項14】
請求項12または13において、
前記外側表面層を形成する工程の前に、前記バルーンをディップコーティングして中間層を形成する工程を含む、血管形成術用バルーンの製造方法。
【請求項15】
請求項12ないし14のいずれかにおいて、
個別の可撓性チューブ上に前記外側表面層を形成すること、および
前記可撓性チューブを前記バルーンに被せること、
を含む、血管形成術用バルーンの製造方法。
【請求項16】
請求項15において、
前記外側表面層を前記可撓性チューブ上に形成する工程は、
少なくとも1つのコア部材を設けること、および
前記コア部材の外側表面に前記ナノファイバーを電界紡糸することによって、前記外側表面層を有する前記可撓性チューブを形成すること、
を含む、血管形成術用バルーンの製造方法。
【請求項17】
請求項15または16において、
前記可撓性チューブを前記バルーンに被せることに続いて、断面においてスポーク・ハブ形状を形成するように前記可撓性チューブを折り畳むことを含む、血管形成術用バルーンの製造方法。
【請求項18】
請求項12ないし17のいずれかにおいて、
前記薬理活性物質は酸化窒素を含む、血管形成術用バルーンの製造方法。
【請求項19】
請求項18において、
前記外側表面層は酸性剤をさらに含む、血管形成術用バルーンの製造方法。
【請求項20】
請求項12ないし19のいずれかにおいて、
前記外側表面層はポリマーマトリックスで実質的に形成され、該ポリマーマトリックスは、少なくとも1種の前記薬理活性物質を放出することができる分子を含む、血管形成術用バルーンの製造方法。
【請求項21】
請求項20において、
前記外側表面層は、直鎖状ポリ(エチレンイミン)ジアゼニウムジオレートで実質的に形成されている、血管形成術用バルーンの製造方法。
【請求項22】
請求項18ないし21のいずれかにおいて、
加圧した酸化窒素を含むチャンバ内で前記外側表面層を酸化窒素に暴露することによって、酸化窒素を該外側表面層に塗布する、血管形成術用バルーンの製造方法。
【請求項23】
請求項22において、
前記バルーンが膨張していない状態で酸化窒素を塗布する、血管形成術用バルーンの製造方法。
【請求項24】
請求項15または22において、
前記可撓性チューブを前記バルーンに被せる前に酸化窒素を塗布し、前記可撓性チューブが前記チャンバ内でコア部材によって支持される、血管形成術用バルーンの製造方法。
【請求項25】
請求項22ないし24のいずれかにおいて、
前記チャンバ内で1〜5バールの圧力で前記バルーンを酸化窒素に暴露する、血管形成術用バルーンの製造方法。
【請求項26】
請求項12ないし25のいずれかにおいて、
前記ナノファイバーを電界紡糸する工程は、支持部材から離れて配置された分配電極を介してファイバー形成材料を供給することによって、該ファイバー形成材料の複数の撚り糸を前記分配電極から出現させることを含み、
前記撚り糸が前記支持部材に達する際の前記撚り糸の流動性を制御することによって、前記外側表面層の特性を制御することを含む、血管形成術用バルーンの製造方法。
【請求項27】
請求項26において、
前記撚り糸が前記支持部材に達する際の前記撚り糸の流動性は、前記分配電極と前記支持部材との間の距離を制御することによって制御される、血管形成術用バルーンの製造方法。
【請求項28】
請求項1ないし8のいずれかに記載のバルーンにおける酸化窒素の放出のための触媒としての酸性剤の使用。
【請求項29】
前記管状構造内の治療部位に請求項1ないし8のいずれかに記載のバルーンを配置する工程と、
前記治療部位において前記バルーンを膨張させる工程と、
前記治療部位において前記薬理活性物質を放出する工程と、
を含む、生体の管状構造における細胞障害の治療方法。
【請求項30】
請求項28において、
前記薬理活性物質を放出する工程は、前記外側表面層に含まれるpH調整物質の存在によって制御される、生体の管状構造における細胞障害の治療方法。
【請求項31】
請求項28または29において、
前記バルーンを配置する工程の前に、
前記バルーン上に膨張していないステントを配置すること、
前記バルーンと共に前記ステントを前記治療部位に配置すること、
次いで、前記バルーンが膨張する際に前記治療部位において前記ステントを膨張させること、および
次いで、前記バルーンを収縮させ、前記ステントを前記治療部位に残した状態で該バルーンを前記管状構造からすること、
を含む、生体の管状構造における細胞障害の治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−508121(P2007−508121A)
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−535639(P2006−535639)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【国際出願番号】PCT/US2004/033851
【国際公開番号】WO2005/037339
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(506126152)キューブ メディカル エーエス (2)
【氏名又は名称原語表記】Cube Medical A/S
【住所又は居所原語表記】Langebjerg 2 CK−4000 Roskilde Denmark
【出願人】(505395700)ザ ユニバーシティ オブ アクロン (20)
【氏名又は名称原語表記】The University of Akron
【住所又は居所原語表記】302 E. Buchtel Common, Akron, OH 44325 U.S.A.
【Fターム(参考)】