説明

術後鎮痛剤の低減

【課題】外傷部位への成分混合物の注入による股関節またはひざ関節の置換手術、外科的切開または創傷の閉鎖前の組織のねじれ/引き延ばしといった整形外科処置による疼痛の低減のための方法を提供する。
【解決手段】混合物は、局所麻酔剤、エピネフリン、モルヒネ、およびコルチコステロイドで構成される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
術後の疼痛抑制は、関節全置換手術においてしばしば最も困難で厄介な側面である。不適切な疼痛抑制は一部の患者とその家族にとって深刻な不安と懸念の原因となる場合がある。更に、機能、リハビリテーション、および退院という意味においての術後の回復は、不適切な疼痛抑制が逆効果となってしまう可能性がある。
【0002】
術後疼痛抑制の現在の手順は、非経口麻酔剤、局所麻酔、および神経ブロックの様々な組合せを取り入れている。手術後、最初の24−48時間の間、これらの手順で投与された麻酔剤の用量はかなりのものである場合があり、吐き気、痒み、嘔吐、眠気、尿貯留、腸閉塞などといった再三にわたる副作用を合併する。局所麻酔と神経ブロックは、一時的もしくは永続的な神経機能障害を合併する可能性がある。麻酔剤使用に伴ってみられるより重篤な副作用には、呼吸障害と死亡がある。更に、その効果はかなり頻繁に最適以下である。PCAの効果の無さと反跳疼痛は頻繁に発生する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
結果として、薬物注入ポンプ、吸収性放出カプセル、および吸収性縫合糸などといった様々な関節内送達システムを介した様々な局所麻酔剤を用いる、より局所的な疼痛抑制に近年関心が高まっている。本発明はこれらの送達システムとは異なるものであり、これらの薬剤の単なる関節内放出ではなく股関節とひざ関節周辺の重要な軟組織への局所麻酔剤の浸透のための、これまで一度も述べられたことがない技術である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、特にひざ、股関節、もしくはその他の関節の置換手術といった とりわけ整形外科手術において、術後鎮痛剤の必要性を顕著に減少させる役割を果たし、その結果として機能回復を早める。「軽減された組織外傷手術」RTTS、と呼ばれる進歩した術後疼痛抑制手順が開発された。
【0005】
本発明は、股関節とひざ関節周辺の重要な軟組織への独自の局所麻酔剤混合物の浸透を目的とする新規技術であり、手術後(特に、ひざ関節もしくは股関節の置換手術といった整形外科手術)の鎮痛剤の必要性を顕著に低減する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明で用いられる局所的な浸透のための薬剤は、全て局所的浸透を目的として認可されており、広く医療分野で使用されている。好適な濃度は、以下に適切な範囲で括弧内(乾重量)に示す。全ての用量は、各個別の薬剤に対して確認された毒性量よりかなりに少ない。これまで具体的に研究はされていないが、本技術によるこれらの組み合わされた薬剤の使用は、相加的作用を有する可能性がある。
【0007】
(1) ブピバカイン:bupivacaine(マーカイン:marcaine)、リドカイン、もしくはノボカインといった任意の長時間活性型局所麻酔剤、
【0008】
(2) エピネフリン、
【0009】
(3) モルヒネ、アヘン剤、duramorph、およびその他の持続放出性モルヒネ誘導体、
【0010】
(4) Depo−Medrol、ベタメタゾンdiproprionate、プレドニゾロン、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロンヘクサアセトニド、リドカインなどのコルチコステロイド、
【0011】
(5) 任意の第一世代もしくは第二世代セファロスポリン。
【0012】
注入のための典型的な混合物は、(重量%に基づいた)以下を含む。
【0013】
10mgから500mg、望ましくは80mgから120mgの局所麻酔剤、
【0014】
100mcgから500mcg、望ましくは200mcgから300mcgのエピネフリン、
【0015】
2mgから20mg、望ましくは4mgから6mgのモルヒネ、
【0016】
20mgから200mg、望ましくは40mgから80mgのコルチコステロイド、
【0017】
0mgから2mg、望ましくは500mgから1000mgの抗生物質、
【0018】
具体的な処方は以下の通りである。
【0019】
16/24ccの0.5%ブピバカイン(マーカイン/Sensorcaine)(80/120mg)−−−これは手術後の疼痛抑制にもっとも広く使用されている長時間作用型の局所麻酔である。用量は、脊髄麻酔/硬膜外麻酔に一般的に投与される局所麻酔の用量を考慮した上で決定された。この用量は、平均的成人のための安全範囲内になるよう、麻酔学チームにより決定された。用量は更なる安全対策として、ケースバイケースで麻酔医により確認される。(40mgから120mg)。
【0020】
0.3ccの1:1000エピネフリン(300mcg)−−−エピネフリンは、αアドレナリン作用を通じて吸収率を低下させることにより効果を長く持続させることができるため、ブピバカインと組み合わせて日常的に利用されている。更に、血管収縮作用を通じて創傷の出血を減らす二次的な利点がある可能性もある。
【0021】
6mgのモルヒネ−−−近年文献では、モルヒネが末梢作用を介して疼痛ブロックに有効性があることが証明された。中枢神経系に対するモルヒネの作用は、末梢ブロックとの組合せでより効果的であることが示されている。更に、局所麻酔で用いる場合に優れた鎮痛効果があることが一般に十分認められている。本薬剤混合物へのモルヒネの添加は、同様に添加された他の薬剤とは完全に異なる機構を介して一層の鎮痛効果を補うと考えられる。(4から6mg)。
【0022】
40mgのメチルプレドニゾロン(depo−medrol)−−−これは強力な抗炎症剤である。メチルプレドニゾロンが数々の炎症メディエーターを介して外科手術による外傷の炎症反応を緩和することは十分に立証されている。術後の疼痛の多くは、炎症と浮腫を伴う手術に対する身体の反応に関連している。この炎症、浮腫、腫れ、および疼痛を減少させることで、麻酔剤の必要性はより少なくなり、回復が向上するはずである。
【0023】
10ccの生理食塩水(0.9%)中に調製されたセフロキシム(zinacef)750mg−−−この添加物は、浸透後の疼痛の改善が期待されているのではなく、感染する機会を減少させる事が期待されている。これは、標準的な手術前後の抗生物質の静脈内投与による予防法と抗生物質の洗浄溶液との組合せで行われる。セフロキシムは静脈抗生物質予防法に用いられる抗生物質(通常、セファゾリン−Ancef/Kefzol)と同様の種類に属する。
【0024】
生理食塩水(0.9%)−−−希釈と浸透性向上のために。
【0025】
以下の薬剤混合物は、次に滅菌条件下で総量60ccの生理食塩水に混合される。この混合物は、これまで医学文献にはこれまで決して述べられたことのない方法で、股関節およびひざ関節周辺の軟組織に針で注入される。現在利用可能な他のFDA承認済みの局所送達システムは麻酔剤の関節内放出に焦点を当てている一方、本システムは、その効力を次第に溶出する薬剤の軟組織への浸透に依存している。更に薬剤を最も強い疼痛反応を引き起こす軟組織に濃縮することによって、回復機能に対する効果が強化される。
【0026】
注入技術
試験的なインプラントによる安定な関節再建が達成された後、試験インプラントを取り除き、創傷をしっかりと洗浄する。インプラントの除去は、関節周辺の軟組織、特にひざの後方関節包および股関節の前方関節包へのより一層のアクセスを可能にする。血管内注入を防ぐ適切な注入技術(注入前の吸引)を用いて、ひざの後方関節包に中央から側部への複数動作で全溶液の約25%を注入した。残りの75%は、中央および側部側副靱帯の付着点と起点、滑膜、および四頭筋腱の切り口に段階的に注入する。股関節には、25%の溶液を前方関節包に注入し、一方残りの75%は、中臀筋の付着点、後方関節包と短外側回旋筋、中臀筋、および大腿筋膜の切り口に注入する。
【0027】
本注入技術の主な利点は、術後疼痛抑制の全体的な改善である。非経口鎮痛剤の必要性を減少もしくは排除できれば、鎮痛剤に関連した副作用もしくは有害事象が少なくなる。更に、PCAもしくは硬膜外ポンプ維持に関連する費用が解消される。術後リハビリテーションの向上、機能回復の向上、および入院期間の短縮も本手順に見込まれる利点である。
【0028】
以下の実施例は、本発明を例証するのに役立つ。前期実施例および本明細書の別の部分における割合とパーセンテージは、特に示さない限り重量による割合である。
【0029】
実施例
2003年10月1日から2004年6月20日まで、患者50人(50股関節)および患者36人(53ひざ関節)が、改良型術後疼痛抑制手順とともに全股関節および全ひざ関節の置換手術を受けた。(RTTS)。全患者に脊椎麻酔が施された。
【0030】
手術中に、皮膚とその下の顔面平面の伸展、裂離、浸軟を回避するために鋭利なメスで10−20cmの切開が行われた。縫合前に、マーカイン80mg、Depo−Medrol 40mg、モルヒネ4mg、エピネフリン300mcg、Zinacef 750mg、およびクロニジン100mg、局所専用混合物を関節周囲の靱帯付着物、滑膜、関節包、およびorthrotomy部位に注入した。外科的切開された部位は、組織がねじられるか、もしくは引き延ばされている。患者は術後疼痛スケールで追跡し、鎮痛剤の必要性を監視した。更に、例えば助力無しの歩行、階段を上る、可動域(ROM)、および全体的な満足度といった機能回復指標を記録するために患者評価質問票を使用した。
【0031】
結果
ヒストリカル・コントロールと比較して、麻酔性鎮痛剤の必要性、操作の比率、および長期間の理学療法の必要性が研究期間中、顕著に減少した。機能回復の指標とROMは患者の90%で早期に達成された。全般的な患者満足度は大いに向上した。
【0032】
全股関節および全ひざ関節の置換手術後の不安定な術後初期(3日間)に急性疼痛を抑制することで、RTTS疼痛抑制手順は機能回復指標の向上と患者満足度の向上を可能にした。疼痛抑制は、切開の長さよりも機能回復においてはるかに大きな役割を担っていると思われる。
【0033】
本発明に対して、例えば別の局所麻酔剤の使用もしくは本技術の別の外科処置への応用といった、本発明の本質から逸脱しない様々な変更が行われる可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
整形手術における術後疼痛不快感低減のための方法において、創傷の縫合前ではなく切開後の、局所麻酔を含む薬剤混合物の手術で生じた外傷部位への注入からなる、方法。
【請求項2】
前記請求項1に記載の方法において、股関節置換手術に用いられることを特徴とする、方法。
【請求項3】
前記請求項2に記載の方法において、ひざ関節手術に用いられることを特徴とする、方法。
【請求項4】
前記請求項1に記載の方法において、注入のための前記外傷部位が前記手術切開部位であることを特徴とする、方法。
【請求項5】
前記請求項1に記載の方法において、前記外傷部位が組織が引き延ばされ、ねじられている場所であることを特徴とする、方法。
【請求項6】
前記請求項1に記載の方法において、前記薬剤混合物が局所麻酔、モルヒネ、エピネフリン、およびメチルプレドニゾロンを含むことを特徴とする、方法。
【請求項7】
前記請求項1に記載の方法において、前記局所麻酔剤がブピバカイン(マーカイン)であることを特徴とする、方法。
【請求項8】
整形手術における術後疼痛不快感低減のための方法において、皮膚の伸展、裂離、浸軟を回避するために鋭利なメスで10−20cmの切開が行われ、創傷の縫合前ではなく切開後の組織がねじれ、引き延ばされた部位への、マーカイン、モルヒネ、エピネフリン、セフロキシム(zinacef)、およびクロニジンの混合物の注入からなる、方法。
【請求項9】
前記請求項8に記載の方法において、術後初期(3日間)に急性疼痛の抑制に役立つことを特徴とする、方法。
【請求項10】
前記請求項8に記載の方法において、股関節置換手術およびひざ関節手術における疼痛不快感の抑制に用いられることを特徴とする、方法。

【公表番号】特表2008−533140(P2008−533140A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−501859(P2008−501859)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【国際出願番号】PCT/US2005/042703
【国際公開番号】WO2006/101540
【国際公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(507309105)
【出願人】(507309138)
【Fターム(参考)】