説明

衝撃エネルギ吸収部材及びその製造方法

【課題】筒状の本体部2を座屈変形させることなく筒軸Z方向に安定して変形させることが可能でかつ取扱い性に優れた衝撃エネルギ吸収部材1を提供する。
【解決手段】本体部2が、変形部3と該変形部3の塑性変形の方向を制御する複数の変形制御部4とが一体成形されてなり、変形制御部4は、本体部2に対して筒軸方向に所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、変形部3を、筒軸Z方向への圧縮塑性変形と同時に本体部2径方向の外側及び内側の少なくとも一方側へ塑性変形させる配置及び形状に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状の本体部に対して筒軸方向に入力される圧縮荷重を吸収する、車両のクラッシュカン等に好適な衝撃エネルギ吸収部材及びその製造方法に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば車両のフロントサイドフレームの先端又はリヤサイドフレームの後端に、衝撃エネルギ吸収部材としてクラッシュカンを設けて、このクラッシュカンにより、車両の正面衝突時や後面衝突時の衝撃エネルギ(衝撃圧縮荷重)を吸収するようにすることはよく知られている。
【0003】
上記クラッシュカン等の衝撃エネルギ吸収部材においては、衝撃エネルギの吸収性能を向上させるべく種々の提案がなされている。例えば特許文献1では、衝撃エネルギ吸収部材の筒状の本体部を、少なくとも1つの短筒形状の第1部分と、この第1部分に対して同心軸状に重ねて配置された少なくとも1つの短筒形状の第2部分とで構成し、上記第1部分と第2部分との接続部分を上記同心軸に対して傾斜する部分を含む構成として、本体部に対して筒軸方向に圧縮荷重が入力されたときに、第1部分を縮径させつつ第2部分を拡径させて、第1部材を第2部材の内側中空部に押し込むようにしている。この構成により、不安定な座屈現象の発生を抑制して変形モードを安定させ、これにより衝撃エネルギの吸収性能を高めるようにしている。
【特許文献1】国際公開第2006/025559号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1のものでは、本体部に対して筒軸方向に圧縮荷重が入力されたときにおいて、第1部分と第2部分とを接続部分で分離させて第1部材を第2部材の内側中空部に押し込む際に、第1部材が第2部材の内側中空部にスムーズに押し込まれずに、第1部材又は第2部材が座屈変形する可能性があり、衝撃エネルギ吸収部材を安定して変形させることが困難になる。この座屈変形を確実に防止するためには、第1及び第2部分の長さをかなり短くしておく必要があるが、この場合、車両に生じるような圧縮荷重に対応可能にしようとすると、第1及び第2部分の数がかなり多くなる。また、第1部材を第2部材の内側中空部にスムーズに押し込むためには、第1部分と第2部分とは単に接触しているか、又は固定されていたとしても、その固定力を小さくしておく必要があるが、上記のように第1及び第2部分の数がかなり多くなると、衝撃エネルギ吸収部材の運搬時や車両等への組付け時に第1部分又は第2部分が脱落する可能性があり、取扱い性が悪いという問題がある。
【0005】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、筒状の本体部を座屈変形させることなく本体部筒軸方向に安定して変形させることが可能でかつ取扱い性に優れた衝撃エネルギ吸収部材を提供しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明では、筒状の本体部を有し、該本体部に対して該本体部の筒軸方向に入力される圧縮荷重を吸収する衝撃エネルギ吸収部材を対象として、上記本体部は、金属からなりかつ所定以上の上記圧縮荷重を受けて本体部筒軸方向に圧縮塑性変形する変形部と、該本体部における筒軸方向の複数箇所に本体部周方向に沿ってそれぞれ環状に配置され、該変形部の塑性変形の方向を制御する複数の変形制御部とが一体成形されてなり、上記変形制御部は、上記本体部に上記所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、上記変形部を、本体部筒軸方向への圧縮塑性変形と同時に本体部径方向の外側及び内側の少なくとも一方側へ塑性変形させる配置及び形状に設定されている構成とした。
【0007】
上記の構成により、本体部に対して筒軸方向に所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、変形部は、変形制御部によって、本体部筒軸方向への圧縮塑性変形と同時に本体部径方向の外側及び/又は内側へ塑性変形し、このような変形部の塑性変形により圧縮荷重(衝撃エネルギ)を吸収することができる。また、変形部は、本体部筒軸方向の長さが短くなるとともに本体部径方向の外側及び/又は内側へ広がるように変形するので、本体部全体として座屈変形が生じずに筒軸方向に安定して変形する。しかも、変形部は、変形制御部と一体成形されたものであるので、変形制御部から分離し難く、このことでも、本体部が筒軸方向に安定して変形することになる。したがって、本体部に対して、筒軸方向の圧縮荷重と同時に、本体部を径方向に倒すような力が入力されたとしても、本体部は座屈変形し難くて筒軸方向に確実に変形し、これにより、圧縮荷重の吸収性能を高めることができる。また、変形部や変形制御部の数が多くなっても、変形部と変形制御部とを一体成形により互いに強固にかつ容易に固定することができ、衝撃エネルギ吸収部材の運搬時や車両等への組付け時における取扱い性を向上させることができる。尚、変形制御部は、例えば、本体部筒軸方向の圧縮荷重に対して変形部よりも圧縮塑性変形し難くかつ破壊し難い材料、つまり上記圧縮荷重に対する強度及び剛性が変形部よりも高い材料で構成すればよい。
【0008】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、上記変形部及び上記変形制御部が上記本体部の筒軸方向に交互に積層され、上記各変形制御部の上記変形部と接する面が、本体部径方向の外側に向かって本体部筒軸方向の一方側又は他方側に傾斜する傾斜面とされているものとする。
【0009】
このことにより、各変形制御部の傾斜面によって、変形部を、本体部筒軸方向への圧縮塑性変形と同時に本体部径方向の外側及び/又は内側へ塑性変形させることが容易にできるようになる。
【0010】
請求項3の発明では、請求項2の発明において、上記本体部筒軸方向に隣り合う任意の2つの傾斜面は、本体部径方向の外側に向かって互いに反対側に傾斜しているものとする。
【0011】
このことで、変形部を、本体部筒軸方向への圧縮塑性変形と同時に本体部径方向の外側又は内側へ塑性変形させることがより確実にできるようになる。また、変形部が複数ある場合に、全ての変形部を本体部径方向の同じ側へ塑性変形させることができる。
【0012】
請求項4の発明では、請求項3の発明において、上記各傾斜面は、上記本体部に上記所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、上記変形部を、本体部筒軸方向への圧縮塑性変形と同時に本体部径方向の内側へ塑性変形させるように傾斜しているものとする。
【0013】
このことにより、変形部が本体部径方向の内側へ塑性変形する場合の変形抵抗は、外側へ塑性変形する場合の変形抵抗に比べて大きいので、圧縮荷重の吸収量をより一層大きくすることができる。
【0014】
請求項5の発明では、請求項1〜4のいずれか1つの発明において、上記変形部は、アルミニウム合金鋳物からなり、上記変形制御部は、強化繊維が含有されたアルミニウム合金鋳物からなるものとする。
【0015】
このことで、変形制御部は、強化繊維により変形部よりも圧縮塑性変形し難くかつ破壊し難くなって、変形部の塑性変形の方向を確実に制御できるようになる。また、衝撃エネルギ吸収部材の軽量化を図ることができる。さらに、強化繊維成形体からなる予備成形体を成形しておいて、この予備成形体とアルミニウム合金の溶湯とを複合化することで、変形部及び変形制御部を容易に一体成形することができる。
【0016】
請求項6の発明では、請求項5の発明において、上記アルミニウム合金鋳物は、Al−Mn−Fe−Mg系合金鋳物であるものとする。
【0017】
すなわち、Al−Mn−Fe−Mg系合金は、各成分の含有量を適切に設定することによって、アルミニウム合金の強度を維持しつつ鋳造性及び伸びの両方を同時に向上させて、鋳造のままでも高い伸びを有する高延性のものとすることができる。よって、衝撃エネルギ吸収部材の軽量化を図りつつ、圧縮荷重の吸収性能を高めることができる。
【0018】
請求項7の発明では、請求項1〜6のいずれか1つの発明において、衝撃エネルギ吸収部材は、車両のフロントサイドフレーム又はクラッシュカンに用いられるものとする。
【0019】
このことにより、車両の正面衝突時や後面衝突時の衝撃エネルギを確実に吸収して、車両の安全性を高めることが可能になる。また、変形部及び変形制御部を、請求項5の発明のような材料にすることで、車両の軽量化を図りつつ、安全性の向上化を図ることができる。
【0020】
請求項8の発明は、筒状の本体部を有し、該本体部に対して該本体部の筒軸方向に入力される圧縮荷重を吸収する衝撃エネルギ吸収部材の製造方法の発明であり、この発明では、上記本体部は、金属からなりかつ所定以上の上記圧縮荷重を受けて本体部筒軸方向に圧縮塑性変形する変形部と、該本体部における筒軸方向の複数箇所に本体部周方向に沿ってそれぞれ環状に配置され、該変形部の塑性変形の方向を制御する複数の変形制御部とからなり、上記変形制御部は、上記本体部に上記所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、上記変形部を、本体部筒軸方向への圧縮塑性変形と同時に本体部径方向の外側及び内側の少なくとも一方側へ塑性変形させる配置及び形状に設定されており、上記金属の溶湯との複合化により上記複数の変形制御部をそれぞれ形成することが可能な複数の予備成形体を成形する工程と、上記成形した予備成形体を金型のキャビティ内にセットした状態で、上記金属の溶湯を該キャビティ内に供給することで、該溶湯と予備成形体とを複合化して、上記変形部と変形制御部とを一体成形する工程とを含むものとする。
【0021】
この発明により、予備成形体とアルミニウム合金の溶湯とを複合化することで、変形部及び変形制御部を容易に一体成形することができ、本体部筒軸方向に安定して変形させることが可能でかつ取扱い性に優れた衝撃エネルギ吸収部材を容易に製造することができる。
【0022】
請求項9の発明では、請求項8の発明において、上記変形部及び上記変形制御部が上記本体部の筒軸方向に交互に積層され、上記各変形制御部の上記変形部と接する面が、本体部径方向外側に向かって本体部筒軸方向の一方側又は他方側に傾斜する傾斜面とされているものとする。
【0023】
このことで、請求項2の発明に係る衝撃エネルギ吸収部材を容易に製造することができる。
【0024】
請求項10の発明では、請求項8又は9の発明において、上記金属は、アルミニウム合金であり、上記予備成形体は、強化繊維成形体からなるものとする。
【0025】
このことにより、請求項5の発明に係る衝撃エネルギ吸収部材を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明の衝撃エネルギ吸収部材によると、本体部が、変形部と複数の変形制御部とが一体成形されてなり、上記変形制御部が、本体部に対して筒軸方向に所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、上記変形部を、本体部筒軸方向への圧縮塑性変形と同時に本体部径方向の外側及び内側の少なくとも一方側へ塑性変形させる配置及び形状に設定されている構成としたことにより、本体部が筒軸方向に安定して変形するようになり、圧縮荷重の吸収性能を高めることができるとともに、衝撃エネルギ吸収部材の運搬時や車両等への組付け時における取扱い性を向上させることができる。
【0027】
また、本発明の衝撃エネルギ吸収部材の製造方法によると、複数の予備成形体を成形する工程と、該成形した複数の予備成形体を金型のキャビティ内にセットした状態で、金属の溶湯を該キャビティ内に供給することで、該溶湯と各予備成形体とを複合化して、変形部及び変形制御部を一体成形する工程とを含むようにしたことにより、本体部を座屈変形させることなく筒軸方向に安定して変形させることが可能でかつ取扱い性に優れた衝撃エネルギ吸収部材を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0029】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る衝撃エネルギ吸収部材1を示し、この衝撃エネルギ吸収部材1は、筒状(本実施形態では円筒状)の本体部2を有していて、該本体部2に対して筒軸Z方向(図1の上下方向)に入力される圧縮荷重を吸収するものである。
【0030】
上記衝撃エネルギ吸収部材1は、本実施形態では、図2に示すように、車両100の前部における車幅方向両側位置で前後方向にそれぞれ延びるように設けられる左右のフロントサイドフレーム91の前端とフロントバンパー93における車幅方向に延びるバンパーレインフォースメント93aの左右両端部との間にそれぞれ介設されるクラッシュカン92として用いられる。この場合、衝撃エネルギ吸収部材1は、筒軸Z方向が車両100の前後方向に一致するように配設されて、車両100の正面衝突時にバンパーレインフォースメント93aから入力される衝突エネルギ(衝撃圧縮荷重)を吸収する。
【0031】
尚、衝撃エネルギ吸収部材1は、上記クラッシュカン92に限らず、上記左右のフロントサイドフレーム91の一部(特に前端部分)、車両100の後部における車幅方向両側位置で前後方向にそれぞれ延びるように設けられる左右のリヤサイドフレーム(図示せず)の一部(特に後端部分)、又は、この各リヤサイドフレームの後端とリヤバンパー94のバンパーレインフォースメント(図示せず)との間に介設されるクラッシュカン(図示せず)に用いてもよい。また、衝撃エネルギ吸収部材1は、車両100において衝撃エネルギを吸収する必要がある部分に広く用いることができるとともに、車両100以外のものに用いることも可能である。
【0032】
上記本体部2における筒軸Z方向の両側端には、衝撃エネルギ吸収部材1を上記フロントサイドフレーム91の前端とバンパーレインフォースメント93aとにそれぞれ取付固定するための第1及び第2固定部7,8がそれぞれ設けられている。第1固定部7には、該第1固定部7をフロントサイドフレーム91の前端に締結固定するためのボルトが挿通される複数のボルト挿通孔7aが形成されており、第2固定部8には、該第2固定部8をバンパーレインフォースメント93aに締結固定するためのボルトが挿通される複数のボルト挿通孔8aが形成されている。これら第1及び第2固定部7,8の形状は、衝撃エネルギ吸収部材1の適用箇所によって異なる。
【0033】
本実施形態のように衝撃エネルギ吸収部材1をクラッシュカン92に用いる場合、本体部2の外径Dは40〜100mmが好ましく、肉厚tは2〜8mmが好ましく、長さLは80〜150mmが好ましい。尚、本体部の外径Dは、図1では、本体部2の筒軸Z方向全体に亘って一定に記載しているが、厳密には一定ではなくて、第2固定部8側に向かって徐々に小さくなっている。これは、衝撃エネルギ吸収部材1を後述の鋳造金型30(図8参照)で鋳造した後に該鋳造金型30からの離型を容易にするためである。
【0034】
上記本体部2は、該本体部2に対する筒軸Z方向の所定以上の圧縮荷重を受けて筒軸Z方向に圧縮塑性変形する複数(本実施形態では4つ)の変形部3と、該本体部2における筒軸Z方向の複数箇所に本体部2周方向に沿ってそれぞれ環状に配置され、該変形部3の塑性変形の方向を制御する複数(本実施形態では5つ)の変形制御部4とが一体成形されてなる。この変形制御部4は、筒軸Z方向の圧縮荷重に対して変形部3よりも圧縮塑性変形し難くかつ破壊し難い材料、つまり上記圧縮荷重に対する強度及び剛性が変形部3よりも高い材料で構成すればよいが、これに限られるものでもない。本実施形態で用いる具体的な材料については後述する。
【0035】
上記変形制御部4は、上記本体部2に上記所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、上記変形部3を、筒軸Z方向への圧縮塑性変形と同時に本体部2径方向の内側へ強制的に塑性変形(縮径変形)させる配置及び形状に設定されている。
【0036】
具体的には、上記複数の環状の変形部3及び上記複数の環状の変形制御部4が、本体部2の筒軸Z方向に交互に積層され、各変形制御部4の変形部3と接する面が、本体部2の径方向外側に向かって筒軸Z方向の一方側又は他方側に傾斜する傾斜面4aとされている。そして、筒軸Z方向に隣り合う任意の2つの傾斜面4aは、本体部2径方向の外側に向かって互いに反対側に傾斜している。本実施形態では、各傾斜面4aは、本体部2に対して筒軸Z方向に所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、全変形部3を、筒軸Z方向への圧縮塑性変形と同時に本体部2径方向の内側へ塑性変形させるように傾斜している。すなわち、各変形制御部4の筒軸Z方向の長さが、本体部2径方向の外側に向かって大きくなっている一方、各変形部3の筒軸Z方向の長さが、本体部2径方向の外側に向かって小さくなっている。
【0037】
尚、各傾斜面4aは、本体部2に対して筒軸Z方向に所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、全変形部3を、筒軸Z方向への圧縮塑性変形と同時に本体部2径方向の外側へ塑性変形(拡径変形)させるように傾斜していてもよい。すなわち、各変形制御部4の筒軸Z方向の長さを、本体部2径方向の外側に向かって小さくする一方、各変形部3の筒軸Z方向の長さを、本体部2径方向の外側に向かって大きくする。但し、変形部3が本体部2径方向の内側へ塑性変形する場合の変形抵抗は、外側へ塑性変形する場合の変形抵抗に比べて大きいので、圧縮荷重の吸収量を大きくする観点からは、変形部3を本体部2径方向の内側へ塑性変形させる方が好ましい。
【0038】
上記各傾斜面4aの傾斜角度θ(筒軸Z方向に対して垂直な面に対する傾斜角度)は、30°〜60°が好ましく、特に好ましいのは40°〜50°である。本体部2径方向の外側に向かって筒軸Z方向の一方側に傾斜する傾斜面4aの傾斜角度と、他方側に傾斜する傾斜面4aの傾斜角度とは同じであることが好ましいが、互いに異なっていてもよい。
【0039】
本実施形態では、本体部2における筒軸Z方向の両側端部が変形制御部4でそれぞれ構成されているが、変形部3でそれぞれ構成してもよく、該両側端部のうちいずれか一方の端部のみを変形制御部4で構成してもよい。また、変形部3は1つであってもよく、この場合には、本体部2における筒軸Z方向の両側端部が変形制御部4でそれぞれ構成されることになる。
【0040】
上記複数の変形部3の形状及び大きさは略同じであることが好ましい。これは、圧縮加重が全ての変形部3に均一に作用して特定の変形部3に集中しないようにするためである。
【0041】
本実施形態では、上記変形部3はアルミニウム合金鋳物からなり、上記変形制御部4は、強化繊維が含有されたアルミニウム合金鋳物からなる。これら変形部3及び変形制御部4は、後述の如くアルミニウム合金の溶湯と強化繊維成形体からなる予備成形体15(図5参照)との複合化により一体成形されたものである。
【0042】
上記アルミニウム合金として好ましいのは、Al−Mn−Fe−Mg系合金である。このAl−Mn−Fe−Mg系合金は、各成分の含有量を適切に設定することによって、アルミニウム合金の強度を維持しつつ鋳造性及び伸びの両方を同時に向上させて、鋳造のままでも高い伸びを有する高延性のものとすることができる。具体的には、0.5〜2.5%のMn成分と、0.1〜1.5%のFe成分と、0.01〜1.2%のMg成分と、残部が不可避不純物を含むAl成分とからなるアルミニウム合金とする(含有量の数値は質量百分率である)。
【0043】
また、上記各成分含有量を有するAl−Mn−Fe−Mg系合金に、質量百分率で0.1〜0.2%のTi成分、質量百分率で0.01〜0.1%のB成分、及び、質量百分率で0.01〜0.2%のBe成分のうちの少なくとも1つを添加することがより好ましい。すなわち、Ti成分、B成分及びBe成分は、鋳物の結晶粒を微細化することによりその特性を向上させて鋳造割れ性を改善することができるが、含有量が多すぎると、粗大化合物が生成されて伸びが低下する。そこで、Ti成分、B成分及びBe成分の各含有量を上記範囲に設定して、伸びの低下を防ぎつつ、鋳造割れ性をさらに良好にする。
【0044】
尚、上記Al−Mn−Fe−Mg系合金に代えて、例えば、Al−Si系合金を用いてもよく(この合金の場合には、高真空ダイカスト法で鋳造する)、Mg系合金やその他の金属を用いてもよい。
【0045】
上記強化繊維としては、アルミナ繊維、シリカ繊維、シリコンカーバイト繊維等が好ましい。アルミナ繊維及びシリカ繊維の場合には、例えば、平均繊維径3μm〜5μm、繊維長さ5mm〜10mmのものを用い、シリコンカーバイト繊維の場合には、例えば、平均繊維径10μm〜15μm、繊維長さ5mm〜10mmのものを用いればよい。上記強化繊維成形体(予備成形体15)の繊維体積率は5〜10%であることが好ましく、予備成形体15の強化繊維が存在しない部分は空孔となっている。
【0046】
上記強化繊維に代えて、平均径8μm〜12μm、長さが数cmのスチール又はステンレスワイヤーがアルミニウム合金鋳物に含有していてもよい。この場合も、上記強化繊維と同様に、ワイヤーを固めたものからなる予備成形体を成形して、アルミニウム合金の溶湯とその予備成形体とを複合化する。この予備成形体のワイヤー体積率は5〜10%であることが好ましい。
【0047】
上記溶湯と複合化する予備成形体としては、多孔質金属体であってもよい。例えば気孔率98%のニッケル多孔体(商品名:ニッケルセルメット)を予備成形体として用いることができる。また、筒軸Z方向に対応する方向に貫通する複数の貫通孔を有する金属製(筒軸Z方向の圧縮荷重に対してアルミニウム合金鋳物よりも圧縮塑性変形し難くかつ破壊し難い金属(例えばスチール))の予備成形体を用いることも可能である(上記貫通孔にアルミニウム合金の溶湯を含浸させる)。
【0048】
このように変形制御部4は、変形部3の構成材料であるアルミニウム合金と強化繊維との複合化により強化されて、筒軸Z方向の圧縮荷重に対して変形部3よりも圧縮塑性変形し難くかつ破壊し難くなっており、これにより、本体部2に対して筒軸Z方向に所定以上の圧縮荷重(但し、変形制御部4が圧縮塑性変形しない大きさの圧縮荷重)が入力されたときには、図3に示すように、変形制御部4が圧縮塑性変形しない状態で(但し、弾性変形はする)、変形部3が筒軸Z方向に圧縮塑性変形することになる。また、変形制御部4の傾斜面4aによって、変形部3が、筒軸Z方向への圧縮塑性変形と同時に本体部2径方向の内側へ塑性変形することになる。この変形部3の塑性変形によって上記圧縮加重を吸収する。このとき、変形部3は、その筒軸Z方向の長さが短くなりながら本体部2径方向の内側へ広がることにより、本体部2全体として座屈変形が生じずに筒軸Z方向に安定して変形する。尚、変形部3は、筒軸Z方向の圧縮塑性変形に伴って、本体部2径方向の外側へも少し塑性変形することになるが、その外側への塑性変形量は、強制的に変形させられる内側への塑性変形量に比べてかなり小さい。
【0049】
また、本体部2に対して筒軸Z方向に、変形制御部4が圧縮塑性変形するような大きさの圧縮加重が入力されたときには、図4に示すように、変形制御部4も筒軸Z方向に圧縮塑性変形する。さらに、傾斜面4aが変形部3から受ける反力によって、変形制御部4が本体部2径方向の外側へ塑性変形することになる。この変形制御部4の塑性変形時においても、変形制御部4は、傾斜面4aの傾斜角度θが0になるまでは、変形部3を、筒軸Z方向への圧縮塑性変形と同時に本体部2径方向の内側へ塑性変形させる役目を果たす。そして、変形制御部4の塑性変形により傾斜面4aの傾斜角度θが0になったとしても、その時点では既に、変形部3の塑性変形量がかなり大きくなっており、この結果、その時点以降も圧縮荷重が作用し続けたとしても、本体部2全体として座屈変形が生じずに筒軸Z方向に変形する。
【0050】
上記衝撃エネルギ吸収部材1を製造するには、先ず、図5に示すように、上記アルミニウム合金の溶湯との複合化により上記複数の変形制御部4をそれぞれ形成することが可能な複数の予備成形体15を成形する。この各予備成形体15の形状は、変形制御部4と同じ形状をなしている。尚、図5に示す予備成形体15は、本体部2における筒軸Z方向の両側端部に位置する2つの変形制御部4以外の3つの変形制御部4を形成するためのものである。
【0051】
各予備成形体15は、以下のようにして作製する。すなわち、最初に、不図示の容器内に、上記強化繊維と、水と、添加剤とを入れて撹拌混合してスラリー24(図6参照)を調製する。上記添加剤は、予備成形体15の強度を確保するための強化剤(例えば粒状アルミナゾル)、該強化剤の強化繊維への付着を促進させるための付着促進剤(例えば硫酸アンモン)、及び、強化繊維の分散性を向上させるための分散剤(例えばポリアミド)である。
【0052】
続いて、図6に示すように、濾過装置20により、スラリー24中の水等の液体成分を除去する。この濾過装置20は、内部に多孔性フィルタ22が配設された容器21と、この容器21の底部と接続された吸引装置(図示せず)とを備えている。この多孔性フィルタ22の中央部には、上方に突出する突部22a(フィルタとしての機能はない)が形成され、この突部22aの周囲部分(フィルタとして機能する)は、変形制御部4の傾斜面4aに対応するべく水平に対して傾斜している。そして、容器21内において多孔性フィルタ22における突部22aの周囲部分の上側に上記スラリー24を投入し、その後、上記吸引装置により、多孔性フィルタ22を介して、スラリー24中の水等の液体成分を除去(吸引脱水)する。
【0053】
次いで、図7に示すように、スラリー24中の液体成分を除去することにより得られた脱液体部材25を圧縮する。すなわち、上記容器21内において多孔性フィルタ22における突部22aの周囲部分の上側に脱液体部材25を配置したまま、脱液体部材25をその上方からパンチ27により加圧して予備成形体15の形状となるように圧縮成形する。上記パンチ27の下面の中央部には、上記突部22aが嵌合する嵌合孔27aが形成され、この嵌合孔27aの周囲部分は、変形制御部4の傾斜面4aに対応するべく水平に対して傾斜している。尚、本体部2における筒軸Z方向の両側端部に配置する変形制御部4を形成するための予備成形体15を成形する際には、パンチ27の下面を傾斜させないで水平に延びる形状にする。
【0054】
続いて、上記圧縮成形した脱液体部材25を乾燥させた後に焼結する。この焼結は、例えば、640〜840℃で1.5時間行う。こうして強化繊維成形体からなる予備成形体15が完成する。
【0055】
次に、図8に示すような鋳造金型30を用いて衝撃エネルギ吸収部材1を製造(鋳造)する。この鋳造金型30は、固定金型プレート31に取付固定された固定金型32と、固定金型プレート31に対して図8の左右方向に移動可能に支持された可動金型プレート33に取付固定された可動金型34とを備えている。固定金型32には、可動金型34側に開口する凹陥部32aが形成されている一方、可動金型34には、その凹陥部32a内に入り込む突出部34aが形成され、これら凹陥部32a及び突出部34a間にキャビティ35が形成される。上記突出部34aの外周面には、複数の予備成形体15をそれぞれ支持するための複数の溝(図示せず)が形成されている。また、固定金型32には、第2固定部8の複数のボルト挿通孔8aをそれぞれ形成するための複数のピン32bが設けられており、可動金型34には、第1固定部7の複数のボルト挿通孔7aをそれぞれ形成するための複数のピン34bが設けられている。
【0056】
また、上記鋳造金型30には、上記キャビティ35内にアルミニウム合金の溶湯を供給するための射出スリーブ37が設けられている。この射出スリーブ37には上記溶湯の給湯口37aが形成されている。また、射出スリーブ37内には、射出スリーブ37に対して摺動可能に嵌装された射出プランジャ38が設けられており、この射出プランジャ38を図8の左側へ移動させることで、給湯口37aから射出スリーブ37内に供給された溶湯をキャビティ35内へ射出する。
【0057】
上記鋳造金型30を用いて衝撃エネルギ吸収部材1を製造するには、先ず、型開き状態で、可動金型34の突出部34aに形成された複数の溝に、上記成形した複数の予備成形体15をそれぞれ支持させ、その後、可動金型34を固定金型32側へ移動させて型を閉じる。これにより、複数の予備成形体15が鋳造金型30のキャビティ15内にセットされた状態となる。
【0058】
続いて、射出スリーブ37内に給湯口37aからアルミニウム合金の溶湯(溶湯温度700℃程度)を供給し、この溶湯を射出プランジャ38によりキャビティ35内に射出して供給する。これにより、キャビティ35内における予備成形体15が存在しない部分では、変形部3並びに第1及び第2固定部7,8が成形されるとともに、各予備成形体15内の空孔に溶湯が充填されて予備成形体15と溶湯とが複合化され、このことで変形制御部4が変形部3並びに第1及び第2固定部7,8と一体成形される。そして、キャビティ15内の溶湯が凝固すれば、衝撃エネルギ吸収部材1の鋳造が完了する。
【0059】
したがって、本実施形態では、衝撃エネルギ吸収部材1の本体部2が、複数の変形部3と該変形部3の塑性変形の方向を制御する複数の変形制御部4とが本体部2の筒軸Z方向に交互に積層された状態で一体成形されてなり、各変形制御部4の変形部3と接する面を傾斜面4aとすることによって、本体部2に対して筒軸Z方向に所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、変形部3が筒軸Z方向への圧縮塑性変形と同時に本体部2径方向の内側へ塑性変形するようにしたので、変形部3は、その筒軸Z方向の長さが短くなりながら本体部2の径方向内側へ広がることになり、これにより、本体部2全体として座屈変形が生じずに筒軸Z方向に安定して変形する。しかも、変形部3は、変形制御部4と一体成形されたものであるので、変形制御部4から分離し難く、このことでも、本体部2が筒軸Z方向に安定して変形することになる。この結果、本体部2に対して、筒軸Z方向の圧縮荷重と同時に、本体部2を径方向に倒すような力が入力されたとしても、本体部2は座屈変形し難くて筒軸Z方向に確実に変形し、これにより、圧縮荷重の吸収性能を高めることができる。また、変形部3が本体部2径方向の内側へ塑性変形する場合の変形抵抗が、外側へ塑性変形する場合の変形抵抗に比べて大きいので、圧縮荷重の吸収量をより一層大きくすることができる。さらに、変形部3や変形制御部4の数が多くなっても、変形部3と変形制御部4とを一体成形により互いに強固にかつ容易に固定することができ、衝撃エネルギ吸収部材1の運搬時や車両への組付け時における取扱い性を向上させることができる。
【0060】
(実施形態2)
図9は、本発明の実施形態2を示し、変形制御部4の形状を上記実施形態1とは異ならせたものである。
【0061】
すなわち、本実施形態では、衝撃エネルギ吸収部材1の本体部2における各変形制御部4の外形(傾斜面4aの形状)は、上記実施形態1と同じ形状であるが、本体部2における筒軸Z方向の両側端部に位置する2つの変形制御部4以外の3つの変形制御部4には、その外周側の面(本体部の外周面を構成する面)から内周側に向かって凹む凹部4bが変形制御部4全周に亘って設けられている。そして、この各凹部4b内に変形部3がそれぞれ位置する。また、上記実施形態1と同様に、5つの変形制御部4間にも変形部3がそれぞれ位置する。以下、変形制御部4間の変形部3と凹部4b内の変形部3とを区別する場合には、変形制御部4間の変形部3を大変形部3aといい、凹部4b内の変形部を小変形部3bという。小変形部3bの体積は大変形部3aの体積よりも小さい。
【0062】
上記変形部3の配置により、本体部2の内周側では、4つの変形部3(大変形部3a)と5つの変形制御部4とが本体部2の筒軸Z方向に交互に積層され、本体部2の外周側では、7つの変形部3(4つの大変形部3a及び3つの小変形部3b)と8つの変形制御部4とが本体部2の筒軸Z方向に交互に積層されているといえる。
【0063】
上記各凹部4bの筒軸Z方向の長さは、本体部2の径方向外側に向かって大きくなっている。すなわち、各変形制御部4の小変形部3bと接する面も、本体部2の径方向外側に向かって筒軸Z方向の一方側又は他方側に傾斜する傾斜面4cとされている。但し、この傾斜面4cは、本体部2に対して筒軸Z方向に所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、上記小変形部3bを、筒軸Z方向への圧縮塑性変形と同時に本体部2径方向の外側へ塑性変形させるように傾斜している。
【0064】
本実施形態においても、上記実施形態1と同様に、変形部3はアルミニウム合金鋳物からなり、変形制御部4は、強化繊維が含有されたアルミニウム合金鋳物からなる。尚、変形部3及び変形制御部4の材料は、これ以外にも、上記実施形態1で説明したものを用いることができる(後述の実施形態3及び4においても同様)。そして、これら変形部3及び変形制御部4は、アルミニウム合金の溶湯と強化繊維成形体からなる予備成形体との複合化により一体成形されたものである。
【0065】
上記本体部2に対して筒軸Z方向に所定以上の圧縮荷重(但し、変形制御部4が圧縮塑性変形しない大きさの圧縮荷重)が入力されたときには、図10に示すように、上記大変形部3aが、上記実施形態1と同様に、筒軸Z方向への圧縮塑性変形と同時に本体部2径方向の内側へ塑性変形する。ここで、変形制御部4の外周側における筒軸Z方向の弾性変形量は、凹部4bがあるために、内周側よりも大きくなる。この変形制御部4の外周側の弾性変形により、小変形部3bが、筒軸Z方向への圧縮塑性変形と同時に本体部2径方向の外側へ塑性変形する。この小変形部3bにおける本体部2径方向の外側への塑性変形量は、大変形部3aにおける本体部2径方向の内側への塑性変形量よりも小さい。
【0066】
尚、上記変形制御部4の外周側の弾性変形により傾斜面4aの傾斜角度θが小さくなるが、この傾斜角度θが小さくなることを考慮して、傾斜角度θを実施形態1よりも大きくしておくことが好ましい。
【0067】
また、本体部2に対して筒軸Z方向に、変形制御部4が圧縮塑性変形するような大きさの圧縮加重が入力されたときには、変形制御部4も筒軸Z方向に圧縮塑性変形する。このとき、傾斜面4aが大変形部3aから受ける反力と傾斜面4cが小変形部3bから受ける反力とが互いに打ち消しあうため(傾斜面4aが大変形部3aから受ける反力の方が少し大きい)、変形制御部4は実施形態1のように大きくは本体部2径方向の外側へ塑性変形しない。そして、変形制御部4が塑性変形したとしても、上記実施形態1と同様に、本体部2全体として座屈変形が生じずに筒軸Z方向に変形する。
【0068】
本実施形態の衝撃エネルギ吸収部材1の製造方法は、上記実施形態1で説明した方法と同様であり、上記アルミニウム合金の溶湯との複合化により上記複数の変形制御部4をそれぞれ形成することが可能な複数の予備成形体を成形し、該成形した予備成形体を、記実施形態1で説明した鋳造金型30のキャビティ35内にセットした状態で、上記アルミニウム合金の溶湯を該キャビティ35内に供給することで、該溶湯と各予備成形体とを複合化して、変形部3、変形制御部4並びに第1及び第2固定部7,8を一体成形する。尚、各予備成形体を成形する際、予備成形体に、変形制御部4の凹部4bに対応する凹部を形成する。この予備成形体の凹部は、濾過装置20の容器21内に、該凹部に対応する型を配設するようにすれば、その型により形成することができる。
【0069】
したがって、本実施形態では、大変形部3aを、筒軸Z方向への圧縮塑性変形と同時に本体部2径方向の内側へ塑性変形することに加えて、小変形部3bを、筒軸Z方向への圧縮塑性変形と同時に本体部2径方向の外側へ塑性変形するようにしたので、上記実施形態1と同様の作用効果が得られるとともに、全変形部3を、本体部2全体として径方向外側及び内側にバランス良く広がるようにすることができ、本体部2の座屈変形をより一層確実に防止することができる。
【0070】
(実施形態3)
図11は、本発明の実施形態3を示し、上記実施形態1の変形制御部4に代えて、本体部2の外周部に複数の外周側変形制御部5を配置し、本体部2の内周部に複数の内周側変形制御部6を配置したものである。
【0071】
すなわち、本実施形態では、衝撃エネルギ吸収部材1の本体部2は、変形部3と、本体部2の外周部における筒軸Z方向の複数箇所に本体部2周方向に沿ってそれぞれ環状に配置され、上記変形部3の塑性変形の方向を制御する複数の外周側変形制御部5と、本体部2の内周部における筒軸Z方向の複数箇所に本体部2周方向に沿ってそれぞれ環状に配置され、上記変形部3の塑性変形の方向を制御する複数の内周側変形制御部6とが一体成形されてなるものである。そして、上記外周側及び内周側変形制御部5,6は、本体部2の筒軸Z方向において交互に配置されていて、本体部2に対して筒軸Z方向に所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、上記変形部3の筒軸Z方向への圧縮塑性変形と同時に該変形部3において本体部2外周部に位置する部分を本体部2径方向の外側へ強制的に塑性変形させるとともに本体部2内周部に位置する部分を本体部2径方向の内側へ強制的に塑性変形させる。
【0072】
本実施形態においても、上記実施形態1と同様に、変形部3はアルミニウム合金鋳物からなり、外周側及び内周側変形制御部5,6は、強化繊維が含有されたアルミニウム合金鋳物からなり、変形部3並びに外周側及び内周側変形制御部5,6は、アルミニウム合金の溶湯と強化繊維成形体からなる予備成形体との複合化により一体成形されたものである。尚、外周側及び内周側変形制御部5,6の構成材料は、同じであることが好ましいが、互いに異なっていてもよい。
【0073】
本実施形態では、上記外周側及び内周側変形制御部5,6の強化繊維は、本体部2の径方向に延びていることが好ましい。これは、本体部2に対して筒軸Z方向に、外周側及び内周側変形制御部5,6が圧縮塑性変形するような大きさの圧縮加重が入力されたときに、外周側及び内周側変形制御部5,6が筒軸Z方向に真っ直ぐに圧縮塑性変形するようにして、本体部2の座屈変形を抑制するためである。
【0074】
上記変形部3は、本体部2において外周側及び内周側変形制御部5,6以外の部分に位置している。すなわち、変形部3は、本体部2において筒軸Z方向全体に亘って延びる1つのものであり、外周側及び内周側変形制御部5,6の上記配置によって蛇腹状をなしており、本体部2外周部に位置する部分と本体部2内周部に位置する部分とが筒軸Z方向に交互に配置されている。そして、本体部2に対して筒軸Z方向に所定以上の圧縮荷重(但し、外周側及び内周側変形制御部5,6が圧縮塑性変形しない大きさの圧縮荷重)が入力されたときには、図12に示すように、外周側及び内周側変形制御部5,6によって、変形部3の筒軸Z方向への圧縮塑性変形と同時に該変形部3において本体部2外周部に位置する部分が本体部2径方向の外側へ塑性変形するとともに本体部2内周部に位置する部分が本体部2径方向の内側へ塑性変形する。変形部3において本体部2径方向の外側へ塑性変形する部分と内側へ塑性変形する部分とは、本体部2の筒軸Z方向において交互に位置することになる。
【0075】
また、本体部2に対して筒軸Z方向に、外周側及び内周側変形制御部5,6が圧縮塑性変形するような大きさの圧縮加重が入力されたときには、外周側及び内周側変形制御部5,6も筒軸Z方向に圧縮塑性変形する。このとき、上述の如く、強化繊維の配向により、外周側及び内周側変形制御部5,6が筒軸Z方向に真っ直ぐに圧縮塑性変形する。この圧縮塑性変形に伴って、外周側変形制御部5は主として本体部2径方向の外側へ塑性変形し、内周側変形制御部6は主として本体部2径方向の内側塑性変形する。外周側及び内周側変形制御部5,6の塑性変形時においても、外周側及び内周側変形制御部5,6は、変形部3の筒軸Z方向への圧縮塑性変形と同時に該変形部3において本体部2外周部に位置する部分を本体部2径方向の外側へ塑性変形させるとともに本体部2内周部に位置する部分を本体部2径方向の内側へ塑性変形させる役目を果たす。そして、外周側及び内周側変形制御部5,6が塑性変形し始めた時点では、先に塑性変形した変形部3が、既に本体部2径方向の外側及び内側へ大きく塑性変形している。よって、外周側及び内周側変形制御部5,6が塑性変形したとしても、本体部2全体として座屈変形が生じずに筒軸Z方向に変形する。
【0076】
本実施形態の衝撃エネルギ吸収部材1の製造方法は、上記実施形態1で説明した方法と同様であり、上記アルミニウム合金の溶湯との複合化により上記複数の外周側変形制御部5及び複数の内周側変形制御部6をそれぞれ形成することが可能な複数の外周側予備成形体及び複数の内周側予備成形体を成形し、該成形した外周側及び内周側予備成形体を鋳造金型30のキャビティ35内にセットした状態で、上記アルミニウム合金の溶湯を該キャビティ35内に供給することで、該溶湯と外周側及び内周側予備成形体とを複合化して、変形部3、外周側及び内周側変形制御部5,6並びに第1及び第2固定部7,8を一体成形する。尚、複数の内周側予備成形体6は、上記実施形態1と同様に、可動金型34の突出部34aの複数の溝にそれぞれ支持させるが、複数の外周側予備成形体5は、固定金型32の凹陥部32aの側壁面に形成した複数の溝にそれぞれ支持させる。
【0077】
したがって、本実施形態では、変形部3の筒軸Z方向への圧縮塑性変形と同時に該変形部3において本体部2外周部に位置する部分を本体部2径方向の外側へ塑性変形するとともに本体部2内周部に位置する部分を本体部2径方向の内側へ塑性変形するようにしたので、変形部3が本体部2全体として径方向外側及び内側にバランス良く広がり、上記実施形態2と同様の作用効果が得られる。
【0078】
(実施形態4)
図13は、本発明の実施形態4を示し、外周側及び内周側変形制御部5,6の形状を上記実施形態3とは異ならせたものである。
【0079】
すなわち、本実施形態では、外周側及び内周側変形制御部5,6の断面形状が半円形状をなしており、外周側変形制御部5の内周側及び内周側変形制御部6の外周側がそれぞれ円弧状をなしている。これにより、圧縮加重が変形部3全体に均一に作用して特定部位に集中しないようにすることができ、この結果、変形部3の圧縮塑性変形及び本体部2径方向の外側及び内側への塑性変形が均一に生じ、本体部2の座屈変形が生じ難くなる。このときの本体部2(変形部3)の変形の様子を図14に示す。本実施形態の衝撃エネルギ吸収部材1の製造方法は、上記実施形態3と同様である。
【0080】
したがって、本実施形態では、上記実施形態3に比べて、本体部2を筒軸Z方向に更に安定させて変形させることができ、圧縮荷重の吸収性能をより一層高めることができる。
【0081】
尚、外周側及び内周側変形制御部5,6の断面形状については、上記実施形態3,4の形状に限らず、台形、三角形、正方形、円形等の種々の断面形状が適応可能である。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、筒状の本体部に対して筒軸方向に入力される圧縮荷重を吸収する衝撃エネルギ吸収部材及びその製造方法に有用であり、特に車両のクラッシュカン(車両前部に配設されるものと後部に配設されるものとを含む)、左右のフロントサイドフレーム及び左右のリヤサイドフレームに適用する場合に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施形態1に係る衝撃エネルギ吸収部材を示す断面図である。
【図2】衝撃エネルギ吸収部材が適用されるクラッシュカンを示す車両の前部を破断した側面図である。
【図3】衝撃エネルギ吸収部材の本体部に対して筒軸方向に所定以上の圧縮荷重(変形制御部が圧縮塑性変形しない大きさの圧縮荷重)が入力されたときの該本体部の変形状態を示す断面図である。
【図4】衝撃エネルギ吸収部材の本体部に対して筒軸方向に、変形制御部が塑性変形するような大きさの圧縮加重が入力されたときの状態を示す断面図である。
【図5】予備成形体を示す断面図である。
【図6】スラリー中の液体成分を除去している状態を示す濾過装置の容器の断面図である。
【図7】スラリー中の液体成分を除去することにより得られた脱液体部材を圧縮している状態を示す図6相当図である。
【図8】鋳造金型を示す断面図である。
【図9】本発明の実施形態2を示す図1相当図である。
【図10】実施形態2に係る衝撃エネルギ吸収部材の本体部の図3相当図である。
【図11】本発明の実施形態3を示す図1相当図である。
【図12】実施形態3に係る衝撃エネルギ吸収部材の本体部の図3相当図である。
【図13】本発明の実施形態4を示す図1相当図である。
【図14】実施形態4に係る衝撃エネルギ吸収部材の本体部の図3相当図である。
【符号の説明】
【0084】
1 衝撃エネルギ吸収部材
2 本体部
3 変形部
4 変形制御部
4a 傾斜面
4c 傾斜面
5 外周側変形制御部
6 内周側変形制御部
15 予備成形体
30 鋳造金型
35 キャビティ
91 フロントサイドフレーム
92 クラッシュカン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の本体部を有し、該本体部に対して筒軸方向に入力される圧縮荷重を吸収する衝撃エネルギ吸収部材であって、
上記本体部は、金属からなりかつ所定以上の上記圧縮荷重を受けて本体部筒軸方向に圧縮塑性変形する変形部と、該本体部における筒軸方向の複数箇所に本体部周方向に沿ってそれぞれ環状に配置され、該変形部の塑性変形の方向を制御する複数の変形制御部とが一体成形されてなり、
上記変形制御部は、上記本体部に上記所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、上記変形部を、本体部筒軸方向への圧縮塑性変形と同時に本体部径方向の外側及び内側の少なくとも一方側へ塑性変形させる配置及び形状に設定されていることを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材。
【請求項2】
請求項1記載の衝撃エネルギ吸収部材において、
上記変形部及び上記変形制御部が上記本体部の筒軸方向に交互に積層され、
上記各変形制御部の上記変形部と接する面が、本体部径方向の外側に向かって本体部筒軸方向の一方側又は他方側に傾斜する傾斜面とされていることを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材。
【請求項3】
請求項2記載の衝撃エネルギ吸収部材において、
上記本体部筒軸方向に隣り合う任意の2つの傾斜面は、本体部径方向の外側に向かって互いに反対側に傾斜していることを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材。
【請求項4】
請求項3記載の衝撃エネルギ吸収部材において、
上記各傾斜面は、上記本体部に上記所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、上記変形部を、本体部筒軸方向への圧縮塑性変形と同時に本体部径方向の内側へ塑性変形させるように傾斜していることを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の衝撃エネルギ吸収部材において、
上記変形部は、アルミニウム合金鋳物からなり、
上記変形制御部は、強化繊維が含有されたアルミニウム合金鋳物からなることを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材。
【請求項6】
請求項5記載の衝撃エネルギ吸収部材において、
上記アルミニウム合金鋳物は、Al−Mn−Fe−Mg系合金鋳物であることを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の衝撃エネルギ吸収部材において、
車両のフロントサイドフレーム又はクラッシュカンに用いられることを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材。
【請求項8】
筒状の本体部を有し、該本体部に対して筒軸方向に入力される圧縮荷重を吸収する衝撃エネルギ吸収部材の製造方法であって、
上記本体部は、金属からなりかつ所定以上の上記圧縮荷重を受けて本体部筒軸方向に圧縮塑性変形する変形部と、該本体部における筒軸方向の複数箇所に本体部周方向に沿ってそれぞれ環状に配置され、該変形部の塑性変形の方向を制御する複数の変形制御部とからなり、
上記変形制御部は、上記本体部に上記所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、上記変形部を、本体部筒軸方向への圧縮塑性変形と同時に本体部径方向の外側及び内側の少なくとも一方側へ塑性変形させる配置及び形状に設定されており、
上記金属の溶湯との複合化により上記複数の変形制御部をそれぞれ形成することが可能な複数の予備成形体を成形する工程と、
上記成形した予備成形体を金型のキャビティ内にセットした状態で、上記金属の溶湯を該キャビティ内に供給することで、該溶湯と予備成形体とを複合化して、上記変形部と変形制御部とを一体成形する工程とを含むことを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材の製造方法。
【請求項9】
請求項8記載の衝撃エネルギ吸収部材の製造方法において、
上記変形部及び上記変形制御部が上記本体部の筒軸方向に交互に積層され、
上記各変形制御部の上記変形部と接する面が、本体部径方向外側に向かって本体部筒軸方向の一方側又は他方側に傾斜する傾斜面とされていることを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9記載の衝撃エネルギ吸収部材の製造方法において、
上記金属は、アルミニウム合金であり、
上記予備成形体は、強化繊維成形体からなることを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−38338(P2010−38338A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205197(P2008−205197)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】