説明

衝撃エネルギ吸収部材

【課題】筒状の本体部2を座屈変形させることなく本体部2の筒軸Z方向に安定して変形させることが可能でかつ圧縮荷重の吸収性能及び取扱い性に優れた衝撃エネルギ吸収部材を提供する。
【解決手段】本体部2を形成する金属母材内に断面中空部材4を、該本体部2の周方向にその全体に亘って延びかつ筒軸Z方向に積層されるように埋設し、その断面中空部材4の断面中空部4aに上記金属母材を充填し、断面中空部材4を、本体部2に対して所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、本体部2の筒軸Z方向に潰れ変形するとともに、該潰れ変形に伴って、該断面中空部材4に対して本体部2径方向の外側に位置する金属母材を本体部2径方向の外側へ変形させかつ断面中空部材4に対して本体部2径方向の内側に位置する金属母材を本体部2径方向の内側へ変形させるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状の本体部に対して筒軸方向に入力される圧縮荷重を吸収する、車両のクラッシュカン等に好適な衝撃エネルギ吸収部材に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば車両のフロントサイドフレームの先端又はリヤサイドフレームの後端に、衝撃エネルギ吸収部材としてクラッシュカンを設けて、このクラッシュカンにより、車両の正面衝突時や後面衝突時の衝撃エネルギ(衝撃圧縮荷重)を吸収するようにすることはよく知られている。
【0003】
上記クラッシュカン等の衝撃エネルギ吸収部材においては、衝撃エネルギの吸収性能を向上させるべく種々の提案がなされている。例えば特許文献1では、衝撃エネルギ吸収部材の筒状の本体部を、少なくとも1つの短筒形状の第1部分と、この第1部分に対して同心軸状に重ねて配置された少なくとも1つの短筒形状の第2部分とで構成し、上記第1部分と第2部分との接続部分を上記同心軸に対して傾斜する部分を含む構成として、本体部に対して筒軸方向に圧縮荷重が入力されたときに、第1部分を縮径させつつ第2部分を拡径させて、第1部材を第2部材の内側中空部に押し込むようにしている。この構成により、不安定な座屈現象の発生を抑制して変形モードを安定させ、これにより衝撃エネルギの吸収性能を高めるようにしている。
【特許文献1】国際公開第2006/025559号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1のものでは、本体部に対して筒軸方向に圧縮荷重が入力されたときにおいて、第1部分と第2部分とを接続部分で分離させて第1部材を第2部材の内側中空部に押し込む際に、第1部材が第2部材の内側中空部にスムーズに押し込まれずに、第1部材又は第2部材が座屈変形する可能性があり、衝撃エネルギ吸収部材を安定して変形させることが困難になる。この座屈変形を確実に防止するためには、第1及び第2部分の長さをかなり短くしておく必要があるが、この場合、車両に生じるような圧縮荷重に対応可能にしようとすると、第1及び第2部分の数がかなり多くなる。また、第1部材を第2部材の内側中空部にスムーズに押し込むためには、第1部分と第2部分とは単に接触しているか、又は固定されていたとしても、その固定力を小さくしておく必要があるが、上記のように第1及び第2部分の数がかなり多くなると、衝撃エネルギ吸収部材の運搬時や車両等への組付け時に第1部分又は第2部分が脱落する可能性があり、取扱い性が悪いという問題がある。
【0005】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、筒状の本体部を座屈変形させることなく本体部筒軸方向に安定して変形させることが可能でかつ圧縮荷重の吸収性能及び取扱い性に優れた衝撃エネルギ吸収部材を提供しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、この発明では、本体部を形成する金属母材内に断面中空部材を、該本体部の周方向にその全体に亘って延びかつ筒軸方向に積層されるように埋設し、その断面中空部材の断面中空部に上記金属母材を充填し、上記断面中空部材を、上記本体部に対して所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、該本体部の筒軸方向に潰れ変形するとともに、該潰れ変形に伴って、該断面中空部材に対して本体部径方向の外側に位置する金属母材を本体部径方向の外側へ変形させかつ断面中空部材に対して本体部径方向の内側に位置する金属母材を本体部径方向の内側へ変形させるように構成した。
【0007】
具体的には、請求項1の発明では、筒状の本体部を有し、該本体部に対して筒軸方向に入力される圧縮荷重を吸収する衝撃エネルギ吸収部材を対象とする。
【0008】
そして、上記本体部は、該本体部を形成する金属母材内に断面中空部材が、該本体部の周方向にその全体に亘って延びかつ筒軸方向に積層されるように埋設されてなり、上記断面中空部材の断面中空部には、上記金属母材が充填されており、上記断面中空部材は、上記本体部に所定以上の上記圧縮荷重が入力されたときに、該本体部の筒軸方向に潰れ変形するとともに、該潰れ変形に伴って、該断面中空部材に対して本体部径方向の外側に位置する金属母材を本体部径方向の外側へ変形させかつ断面中空部材に対して本体部径方向の内側に位置する金属母材を本体部径方向の内側へ変形させるように構成されているものとする。
【0009】
上記の構成により、本体部に対して筒軸方向に所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、断面中空部材は、その断面中空部に充填された金属母材と共に本体部の筒軸方向に潰れ変形し、これにより、圧縮荷重(衝撃エネルギ)を吸収することができる。また、その潰れ変形に伴って、断面中空部材が本体部径方向に広がるとともに、断面中空部材に対して本体部径方向の外側及び内側に位置する金属母材が、それぞれ本体部径方向の外側及び内側へ変形し、本体部全体として径方向に広がることになる。これにより、本体部全体として座屈変形が生じずに筒軸方向に安定して変形し易くなる。さらに、断面中空部材は金属母材内に埋設されているので、金属母材から分離するようなことはなく、このことでも、本体部が筒軸方向に安定して変形することになる。したがって、本体部に対して、筒軸方向の圧縮荷重と同時に、本体部を径方向に倒すような力が入力されたとしても、本体部は座屈変形し難くて筒軸方向に確実に変形し、これにより、圧縮荷重の吸収性能を高めることができる。また、本体部の成形と同時に断面中空部材を埋設することで、本体部を容易に成形することができるとともに、断面中空部材が金属母材から分離するようなことはないので、衝撃エネルギ吸収部材の運搬時や車両等への組付け時における取扱い性を向上させることができる。
【0010】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、上記本体部の筒軸と同心状のリング状をなす複数の上記断面中空部材が、該本体部の筒軸方向に積層された状態で上記金属母材内に埋設されているものとする。
【0011】
このことにより、本体部の周方向全体に亘って均一に変形させることが可能になり、本体部を座屈変形させることなく本体部筒軸方向により一層安定して変形させることが可能になる。
【0012】
請求項3の発明では、請求項1の発明において、1つの上記断面中空部材が、上記本体部の筒軸の周りに螺旋状に密着巻回された状態で上記金属母材内に埋設されているものとする。
【0013】
このことで、1つの長尺の断面中空部材を螺旋状に巻回することで、該断面中空部材の1周毎の対応部分が互いに本体部の筒軸方向に積層されることになる。この場合、断面中空部材は1つで済むので、本体部をより一層容易に成形することができるようになる。
【0014】
請求項4の発明では、請求項1〜3のいずれか1つの発明において、上記金属母材は、アルミニウム合金鋳物であり、上記断面中空部材は、強化繊維が含有されたアルミニウム合金鋳物からなるものとする。
【0015】
このことにより、断面中空部材は、強化繊維により金属母材よりも強度及び剛性が高くなって、本体部筒軸方向に潰れ変形したときに、断面中空部材に対して本体部径方向の外側及び内側にそれぞれ位置する金属母材をそれぞれ本体部径方向の外側及び内側へ確実に変形させるようにすることができる。また、衝撃エネルギ吸収部材の軽量化を図ることができる。さらに、強化繊維成形体からなる、断面中空部材と同じ形状の予備成形体を成形しておいて、この予備成形体とアルミニウム合金の溶湯とを複合化することで、本体部を容易に成形することができる。また、その溶湯は予備成形体内を通って該予備成形体の断面中空部に達するので、予め予備成形体の断面中空部に金属母材を充填しておかなくても、本体部の成形時に同時に充填することが可能になる。
【0016】
請求項5の発明では、請求項4の発明において、上記アルミニウム合金鋳物は、Al−Mn−Fe−Mg系合金鋳物であるものとする。
【0017】
すなわち、Al−Mn−Fe−Mg系合金は、各成分の含有量を適切に設定することによって、アルミニウム合金の強度を維持しつつ鋳造性及び伸びの両方を同時に向上させて、鋳造のままでも高い伸びを有する高延性のものとすることができる。よって、衝撃エネルギ吸収部材の軽量化を図りつつ、圧縮荷重の吸収性能を高めることができる。
【0018】
請求項6の発明では、請求項1〜5のいずれか1つの発明において、衝撃エネルギ吸収部材は、車両のフロントサイドフレーム又はクラッシュカンに用いられるものとする。
【0019】
このことにより、車両の正面衝突時や後面衝突時の衝撃エネルギを確実に吸収して、車両の安全性を高めることが可能になる。また、金属母材及び断面中空部材を、請求項4の発明のような材料にすることで、車両の軽量化を図りつつ、安全性の向上化を図ることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明の衝撃エネルギ吸収部材によると、本体部を形成する金属母材内に埋設された断面中空部材を、本体部に対して所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、本体部の筒軸方向に潰れ変形するとともに、該潰れ変形に伴って、該断面中空部材に対して本体部径方向の外側に位置する金属母材を本体部径方向の外側へ変形させかつ断面中空部材に対して本体部径方向の内側に位置する金属母材を本体部径方向の内側へ変形させるように構成したことにより、本体部が筒軸方向に安定して変形するようになり、圧縮荷重の吸収性能を高めることができるとともに、衝撃エネルギ吸収部材の運搬時や車両等への組付け時における取扱い性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係る衝撃エネルギ吸収部材1を示し、この衝撃エネルギ吸収部材1は、筒状(本実施形態では円筒状)の本体部2を有していて、該本体部2に対して筒軸Z方向(図1の上下方向)に入力される圧縮荷重を吸収するものである。
【0023】
上記衝撃エネルギ吸収部材1は、本実施形態では、図2に示すように、車両100の前部における車幅方向両側位置で前後方向にそれぞれ延びるように設けられる左右のフロントサイドフレーム91の前端とフロントバンパー93における車幅方向に延びるバンパーレインフォースメント93aの左右両端部との間にそれぞれ介設されるクラッシュカン92として用いられる。この場合、衝撃エネルギ吸収部材1は、筒軸Z方向が車両100の前後方向に一致するように配設されて、車両100の正面衝突時にバンパーレインフォースメント93aから入力される衝突エネルギ(衝撃圧縮荷重)を吸収する。
【0024】
尚、衝撃エネルギ吸収部材1は、上記クラッシュカン92に限らず、上記左右のフロントサイドフレーム91の一部(特に前端部分)、車両100の後部における車幅方向両側位置で前後方向にそれぞれ延びるように設けられる左右のリヤサイドフレーム(図示せず)の一部(特に後端部分)、又は、この各リヤサイドフレームの後端とリヤバンパー94のバンパーレインフォースメント(図示せず)との間に介設されるクラッシュカン(図示せず)に用いてもよい。また、衝撃エネルギ吸収部材1は、車両100において衝撃エネルギを吸収する必要がある部分に広く用いることができるとともに、車両100以外のものに用いることも可能である。
【0025】
上記本体部2における筒軸Z方向の両側端には、衝撃エネルギ吸収部材1を上記フロントサイドフレーム91の前端とバンパーレインフォースメント93aとにそれぞれ取付固定するための第1及び第2固定部7,8がそれぞれ設けられている。第1固定部7には、該第1固定部7をフロントサイドフレーム91の前端に締結固定するためのボルトが挿通される複数のボルト挿通孔7aが形成されており、第2固定部8には、該第2固定部8をバンパーレインフォースメント93aに締結固定するためのボルトが挿通される複数のボルト挿通孔8aが形成されている。これら第1及び第2固定部7,8の形状は、衝撃エネルギ吸収部材1の適用箇所によって異なる。
【0026】
本実施形態のように衝撃エネルギ吸収部材1をクラッシュカン92に用いる場合、本体部2の外径Dは40〜100mmが好ましく、肉厚tは2〜8mmが好ましく、長さLは80〜150mmが好ましい。尚、本体部の外径Dは、図1では、本体部2の筒軸Z方向全体に亘って一定に記載しているが、厳密には一定ではなくて、第2固定部8側に向かって徐々に小さくなっている。これは、衝撃エネルギ吸収部材1を後述の鋳造金型30(図7参照)で鋳造した後に該鋳造金型30からの離型を容易にするためである。
【0027】
上記本体部2は、該本体部2並びに上記第1及び第2固定部7,8を形成する金属母材内に断面中空部材4が、該本体部2の周方向にその全体に亘って延びかつ筒軸Z方向に積層されるように埋設されてなっている。この断面中空部材4の断面中心部に位置する断面中空部4aには上記金属母材が充填されている。本実施形態では、断面中空部材4の断面形状は円形(後述の如く筒軸Z方向に相隣接する2つの断面中空部材4が互いに繋がっているために、厳密には円形ではない)であり、断面中空部4aも円形である。これらの形状は円形に限らず、例えば、長径又は短径が筒軸Z方向に沿うような楕円形状であってもよい。また、断面中空部材4の肉厚が断面周方向において異なっていてもよい。
【0028】
本実施形態では、上記本体部2の筒軸Zと同心状のリング状(ドーナツ状)をなす複数(本実施形態では6つ)の断面中空部材4が、該本体部2の筒軸Z方向に積層された状態で上記金属母材内に埋設されている。筒軸Z方向に相隣接する2つの断面中空部材4は互いに繋がっている。また、各断面中空部材4における本体部2径方向の最外側部は、本体部2の外側面に現れ、各断面中空部材4における本体部2径方向の最内側部は、本体部2の内側面に現れる。尚、複数の断面中空部材4を本体部2の筒軸Z方向に積層する代わりに、1つの長尺の断面中空部材4を、本体部2の金属母材内において、該本体部2の筒軸Zの周りに螺旋状に密着巻回した状態で埋設するようにしてもよい。
【0029】
上記断面中空部材4は、本体部2に対して筒軸Z方向に所定(例えば車両の軽衝突時に生じるような値)以上の圧縮荷重が入力されたときに、該本体部2の筒軸Z方向に潰れ変形するとともに、該潰れ変形に伴って、該断面中空部材4に対して本体部2径方向の外側に位置する金属母材(相隣接する2つの断面中空部材4の間において本体部2径方向の外側部分に位置する金属母材)を本体部2径方向の外側へ変形(拡径変形)させかつ断面中空部材4に対して本体部2径方向の内側に位置する金属母材(相隣接する2つの断面中空部材4の間において本体部2径方向の内側部分に位置する金属母材)を本体部2径方向の内側へ変形(縮径変形)させるように構成されている。上記断面中空部材4は、筒軸Z方向の圧縮荷重に対して上記金属母材よりも圧縮塑性変形し難くかつ破壊し難い材料、つまり上記圧縮荷重に対する強度及び剛性が上記金属母材よりも高い材料で構成することが好ましいが、これに限られるものでもない。
【0030】
本実施形態では、上記金属母材は、アルミニウム合金鋳物であり、上記断面中空部材4は、強化繊維が含有されたアルミニウム合金鋳物からなる。この断面中空部材4は、後述の如くアルミニウム合金の溶湯と強化繊維成形体からなる予備成形体15(図4参照)とが複合化されたものである。その複合化時に、本体部2並びに第1及び第2固定部7,8が一体成形されるとともに、予備成形体15の断面中空部15c(図4参照)内にも上記溶湯が充填されて、断面中空部材4の断面中空部4a内が金属母材で充填されることになる。
【0031】
上記アルミニウム合金として好ましいのは、Al−Mn−Fe−Mg系合金である。このAl−Mn−Fe−Mg系合金は、各成分の含有量を適切に設定することによって、アルミニウム合金の強度を維持しつつ鋳造性及び伸びの両方を同時に向上させて、鋳造のままでも高い伸びを有する高延性のものとすることができる。具体的には、0.5〜2.5%のMn成分と、0.1〜1.5%のFe成分と、0.01〜1.2%のMg成分と、残部が不可避不純物を含むAl成分とからなるアルミニウム合金とする(含有量の数値は質量百分率である)。
【0032】
また、上記各成分含有量を有するAl−Mn−Fe−Mg系合金に、質量百分率で0.1〜0.2%のTi成分、質量百分率で0.01〜0.1%のB成分、及び、質量百分率で0.01〜0.2%のBe成分のうちの少なくとも1つを添加することがより好ましい。すなわち、Ti成分、B成分及びBe成分は、鋳物の結晶粒を微細化することによりその特性を向上させて鋳造割れ性を改善することができるが、含有量が多すぎると、粗大化合物が生成されて伸びが低下する。そこで、Ti成分、B成分及びBe成分の各含有量を上記範囲に設定して、伸びの低下を防ぎつつ、鋳造割れ性をさらに良好にする。
【0033】
尚、上記Al−Mn−Fe−Mg系合金に代えて、例えば、Al−Si系合金を用いてもよく(この合金の場合には、高真空ダイカスト法で鋳造する)、Mg系合金やその他の金属を用いてもよい。
【0034】
上記強化繊維としては、アルミナ繊維、シリカ繊維、シリコンカーバイト繊維等が好ましい。アルミナ繊維及びシリカ繊維の場合には、例えば、平均繊維径3μm〜5μm、繊維長さ5mm〜10mmのものを用い、シリコンカーバイト繊維の場合には、例えば、平均繊維径10μm〜15μm、繊維長さ5mm〜10mmのものを用いればよい。上記強化繊維成形体(予備成形体15)の繊維体積率は5〜10%であることが好ましく、予備成形体15の強化繊維が存在しない部分は空孔となっている。
【0035】
上記本体部2に対して筒軸Z方向に所定以上の圧縮荷重が入力されたときには、図3に示すように、断面中空部材4が、その断面中空部4aに充填された金属母材と共に本体部2の筒軸Z方向に潰れ変形して、筒軸Z方向よりも本体部2径方向に長い断面略楕円状になる。この潰れ変形により、上記圧縮荷重を吸収する。そして、その潰れ変形に伴って、断面中空部材4に対して本体部2径方向の外側に位置する金属母材(相隣接する2つの断面中空部材4の間において本体部2径方向の外側部分に位置する金属母材)が、本体部2径方向の外側へ塑性変形するとともに、断面中空部材4に対して本体部2径方向の内側に位置する金属母材(相隣接する2つの断面中空部材4の間において本体部2径方向の内側部分に位置する金属母材)が、本体部2径方向の内側へ塑性変形する。これにより、本体部2全体として径方向に広がることになり、本体部2全体として座屈変形が生じずに筒軸Z方向に安定して変形する。
【0036】
上記衝撃エネルギ吸収部材1を製造するには、先ず、図4に示すように、上記アルミニウム合金の溶湯との複合化により断面中空部材4を形成することが可能な予備成形体15を成形する。この予備成形体15は、上記6つの断面中空部材4を積層した形状と略同じ形状をなしている。また、この予備成形体15は、別々に作製した径方向外側部分15aと径方向内側部分15bとを互いに合わせて作製したものである。これら径方向外側部分15aと径方向内側部分15bとの合わせ部分には、断面中空部材4の断面中空部4aに対応した断面中空部15cが形成される。
【0037】
上記予備成形体15の径方向外側部分15a及び内側部分15bは、以下のようにしてそれぞれ作製する。すなわち、最初に、不図示の容器内に、上記強化繊維と、水と、添加剤とを入れて撹拌混合してスラリー24(図5参照)を調製する。上記添加剤は、予備成形体15の強度を確保するための強化剤(例えば粒状アルミナゾル)、該強化剤の強化繊維への付着を促進させるための付着促進剤(例えば硫酸アンモン)、及び、強化繊維の分散性を向上させるための分散剤(例えばポリアミド)である。
【0038】
続いて、図5に示すように、濾過装置20により、スラリー24中の水等の液体成分を除去する。この濾過装置20は、内部に多孔性フィルタ22が配設された容器21と、この容器21の底部と接続された吸引装置(図示せず)とを備えている。この多孔性フィルタ22は、予備成形体15の径方向外側部分15aの周方向の一部を切断して展開したときの径方向外側面、又は、径方向内側部分15bの周方向の一部を切断して展開したときの径方向内側面に対応する形状をなしている。そして、容器21内において多孔性フィルタ22上に上記スラリー24を投入し、その後、上記吸引装置により、多孔性フィルタ22を介して、スラリー24中の水等の液体成分を除去(吸引脱水)する。
【0039】
次いで、図6に示すように、スラリー24中の液体成分を除去することにより得られた脱液体部材25を圧縮する。すなわち、上記容器21内において多孔性フィルタ22上に脱液体部材25を配置したまま、脱液体部材25をその上方からパンチ27により加圧して予備成形体15の径方向外側部分15a又は径方向内側部分15bの上記展開形状となるように圧縮成形する。
【0040】
次いで、上記圧縮成形した、径方向外側部分15aとなる脱液体部材25と、径方向内側部分15bとなる脱液体部材25とを、それぞれ径方向外側部分15a及び径方向内側部分15bの形状になるように円筒状に丸め、径方向外側部分15aとなる脱液体部材25の内周面と径方向内側部分15bとなる脱液体部材25の外周面とを互いに合わせる。このように合わせたものは、6つの断面中空部材4を積層した形状と略同じ形状をなしており、その合わせ部には、断面中空部材4の断面中空部4aに対応する断面中空部15cが形成される。
【0041】
そして、上記脱液体部材25を乾燥させた後に焼結する。この焼結は、例えば、640〜840℃で1.5時間行う。こうして強化繊維成形体からなる予備成形体15が完成する。
【0042】
尚、上記スラリー24を、ドーナツ状をなすキャビティを有する型内に流し込んで、1つの断面中空部材4に対応する予備成形体を成形し、この予備成形体を6つ積層して上記予備成形体15と同様のものを作製することも可能である。この場合、型内に、焼結により焼失する焼失部材(例えば発泡スチロール)をセットしておき、焼結時にこの焼失部材を焼失させることで、予備成形体に断面中空部を形成する。或いは、スラリー24を、6つの断面中空部材4を積層した形状と略同じ形状をなすキャビティを有する型内に流し込むようにしてもよい。この場合も、予備成形体に断面中空部を形成するために焼失部材を用いる。
【0043】
次に、図7に示すような鋳造金型30を用いて衝撃エネルギ吸収部材1を製造(鋳造)する。この鋳造金型30は、固定金型プレート31に取付固定された固定金型32と、固定金型プレート31に対して図7の左右方向に移動可能に支持された可動金型プレート33に取付固定された可動金型34とを備えている。固定金型32には、可動金型34側に開口する凹陥部32aが形成されている一方、可動金型34には、その凹陥部32a内に入り込む突出部34aが形成され、これら凹陥部32a及び突出部34a間にキャビティ35が形成される。上記突出部34aの外周面には、上記予備成形体15を支持するための複数の溝(図示せず)が形成されている。また、固定金型32には、第2固定部8の複数のボルト挿通孔8aをそれぞれ形成するための複数のピン32bが設けられており、可動金型34には、第1固定部7の複数のボルト挿通孔7aをそれぞれ形成するための複数のピン34bが設けられている。
【0044】
また、上記鋳造金型30には、上記キャビティ35内にアルミニウム合金の溶湯を供給するための射出スリーブ37が設けられている。この射出スリーブ37には上記溶湯の給湯口37aが形成されている。また、射出スリーブ37内には、射出スリーブ37に対して摺動可能に嵌装された射出プランジャ38が設けられており、この射出プランジャ38を図7の左側へ移動させることで、給湯口37aから射出スリーブ37内に供給された溶湯をキャビティ35内へ射出する。
【0045】
上記鋳造金型30を用いて衝撃エネルギ吸収部材1を製造するには、先ず、型開き状態で、可動金型34の突出部34aに形成された複数の溝に、上記成形した予備成形体15を支持させ、その後、可動金型34を固定金型32側へ移動させて型を閉じる。これにより、予備成形体15が鋳造金型30のキャビティ15内にセットされた状態となる。
【0046】
続いて、射出スリーブ37内に給湯口37aからアルミニウム合金の溶湯(溶湯温度700℃程度)を供給し、この溶湯を射出プランジャ38によりキャビティ35内に射出して供給する。これにより、本体部2並びに第1及び第2固定部7,8が一体成形される。また、本体部2においては、予備成形体15内の空孔に溶湯が充填されて予備成形体15と溶湯とが複合化され、これにより金属母材内に断面中空部材4が埋設されることになる。さらに、上記溶湯は、予備成形体15内の空孔を通って予備成形体15の断面中空部へ進入するため、断面中空部材4の断面中空部4aに金属母材が充填されることになる。こうしてキャビティ15内の溶湯が凝固すれば、衝撃エネルギ吸収部材1の鋳造が完了する。
【0047】
したがって、本実施形態では、衝撃エネルギ吸収部材1の本体部2の金属母材内に、本体部2の筒軸Zと同心状のリング状をなす複数の断面中空部材4が、筒軸Z方向に積層された状態で埋設され、この断面中空部材4が、筒軸Z方向に潰れ変形するときに、断面中空部材4に対して本体部2径方向の外側に位置する金属母材を本体部2径方向の外側へ変形させかつ断面中空部材4に対して本体部2径方向の内側に位置する金属母材を本体部2径方向の内側へ変形させるようにしたので、本体部2に対して筒軸Z方向に所定以上の圧縮荷重が入力されたときに、本体部2は、その筒軸Z方向の長さが短くなりながら本体部2径方向の外側及び内側へ広がることになり、これにより、本体部2全体として座屈変形が生じずに筒軸Z方向に安定して変形する。この結果、本体部2に対して、筒軸Z方向の圧縮荷重と同時に、本体部2を径方向に倒すような力が入力されたとしても、本体部2は座屈変形し難くて筒軸Z方向に確実に変形し、これにより、圧縮荷重の吸収性能を高めることができる。しかも、断面中空部材4は、その潰れ変形により、断面中空部4aに充填された金属母材と共に上記圧縮荷重を効果的に吸収する。また、断面中空部材4においては、断面中空部4a内に金属母材が充填されていることで、断面中空部4aがなくなるほどの潰れが生じ難くなるとともに、断面中空部材4自体が破断し難くなる。よって、衝撃エネルギ吸収部材1は優れた圧縮荷重の吸収性能を発揮する。
【0048】
また、本体部2の金属母材内に断面中空部材4が埋設されているので、断面中空部材4が金属母材から分離するようなことはなく、衝撃エネルギ吸収部材1の運搬時や車両への組付け時における取扱い性を向上させることができる。
【0049】
尚、上記実施形態では、断面中空部材4を、強化繊維が含有されたアルミニウム合金鋳物からなるものとしたが、筒軸Z方向の圧縮荷重に対してアルミニウム合金鋳物よりも圧縮塑性変形し難くかつ破壊し難い金属(例えば鋼等)からなる金属管で構成してもよい。この場合、本体部2の成形時に金属管の内部(断面中空部)に溶湯を充填できるように、金属管に複数の孔を形成しておくことが好ましい。但し、本体部2の成形時に金属管の内部に溶湯を充填する必要は必ずしもなく、金属管の作製時又は作製後に、本体部2の成形とは別に、金属管の内部(断面中空部)に溶湯を充填するようにしてもよい。また、このような金属管の場合においても、上記実施形態と同様に、本体部2の筒軸Zと同心状のリング状をなす複数の金属管を、該本体部2の筒軸Z方向に積層するようにしてもよく、1つの長尺の金属管を、本体部2の筒軸Zの周りに螺旋状に密着巻回するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、筒状の本体部に対して筒軸方向に入力される圧縮荷重を吸収する衝撃エネルギ吸収部材に有用であり、特に車両のクラッシュカン(車両前部に配設されるものと後部に配設されるものとを含む)、左右のフロントサイドフレーム及び左右のリヤサイドフレームに適用する場合に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態に係る衝撃エネルギ吸収部材を示す断面図である。
【図2】衝撃エネルギ吸収部材が適用されるクラッシュカンを示す車両の前部を破断した側面図である。
【図3】衝撃エネルギ吸収部材の本体部に対して筒軸方向に所定以上の圧縮荷重が入力されたときの該本体部の変形状態を示す断面図である。
【図4】予備成形体を示す断面図である。
【図5】スラリー中の液体成分を除去している状態を示す濾過装置の容器の断面図である。
【図6】スラリー中の液体成分を除去することにより得られた脱液体部材を圧縮している状態を示す図5相当図である。
【図7】鋳造金型を示す断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 衝撃エネルギ吸収部材
2 本体部
4 断面中空部材
4a 断面中空部
15 予備成形体
30 鋳造金型
91 フロントサイドフレーム
92 クラッシュカン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の本体部を有し、該本体部に対して筒軸方向に入力される圧縮荷重を吸収する衝撃エネルギ吸収部材であって、
上記本体部は、該本体部を形成する金属母材内に断面中空部材が、該本体部の周方向にその全体に亘って延びかつ筒軸方向に積層されるように埋設されてなり、
上記断面中空部材の断面中空部には、上記金属母材が充填されており、
上記断面中空部材は、上記本体部に所定以上の上記圧縮荷重が入力されたときに、該本体部の筒軸方向に潰れ変形するとともに、該潰れ変形に伴って、該断面中空部材に対して本体部径方向の外側に位置する金属母材を本体部径方向の外側へ変形させかつ断面中空部材に対して本体部径方向の内側に位置する金属母材を本体部径方向の内側へ変形させるように構成されていることを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材。
【請求項2】
請求項1記載の衝撃エネルギ吸収部材において、
上記本体部の筒軸と同心状のリング状をなす複数の上記断面中空部材が、該本体部の筒軸方向に積層された状態で上記金属母材内に埋設されていることを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材。
【請求項3】
請求項1記載の衝撃エネルギ吸収部材において、
1つの上記断面中空部材が、上記本体部の筒軸の周りに螺旋状に密着巻回された状態で上記金属母材内に埋設されていることを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の衝撃エネルギ吸収部材において、
上記金属母材は、アルミニウム合金鋳物であり、
上記断面中空部材は、強化繊維が含有されたアルミニウム合金鋳物からなることを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材。
【請求項5】
請求項4記載の衝撃エネルギ吸収部材において、
上記アルミニウム合金鋳物は、Al−Mn−Fe−Mg系合金鋳物であることを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の衝撃エネルギ吸収部材において、
車両のフロントサイドフレーム又はクラッシュカンに用いられることを特徴とする衝撃エネルギ吸収部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−77986(P2010−77986A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243881(P2008−243881)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】