説明

表面処理金属板及び電子機器用筐体

【課題】電子機器の筐体に好適に用いることができ、接合部の電磁波シールド性及び耐食性に優れた金属板及び該金属板を少なくとも一部に用いて製造された電子機器用筐体を提供する。
【解決手段】金属板表面の少なくとも一部に、導電性添加剤を含有する平均厚み0.5μm以上20μm以下の有機樹脂層が形成されてなる表面処理金属板であって、該有機樹脂層中の導電性添加剤の平均体積含有率が1%以上10%以下であり、かつ、該有機樹脂層中に、導電性添加剤の体積含有率が0.5%以下である領域が存在し、前記領域の幅方向の長さは、前記有機樹脂層の平均厚みの少なくとも4倍であることを特徴とする表面処理金属板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器の筐体に好適に用いることができ、接合部の電磁波シールド性及び耐食性に優れた金属板及び該金属板を少なくとも一部に用いて製造された電子機器用筐体に関する。特に、数MHzから数GHzまでの放射ノイズによる電子機器の誤動作を効果的に抑制可能な金属板及び筐体に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁波は、以前より、放送、レーダー、船舶通信、電子レンジ等に利用されてきたが、近年、情報通信技術のめざましい発展により、その利用は飛躍的に拡大している。中でも、大容量情報の伝送が可能となるGHz帯の利用が急増し、携帯電話(1.5GHz)、ETC(5.8GHz)、衛星放送(12GHz)、無線LAN(2.45〜60.0GHz)、車載追突防止レーダー(76GHz)等で用いられるようになってきた。一方、一般家庭においても、従来のケーブル配線に加え、マイクロ波、ミリ波を用いた無線通信でパソコンやテレビ、各種情報家電をネットワーク化して、いつでもコンピューターに繋がるユビキタス社会の到来が始まっている。
【0003】
このように、数多くの電磁波発生源が我々の周囲を取り巻き、通信デバイスの小型化、高速化、薄肉化と相まって、不要電磁波の放射とそれによる誤動作の危険性は格段に高まっているものと考えられる。
【0004】
不要な電磁波の放射(Emission)を抑制したり、不要電磁波の放射を受けても誤動作し難くする(Immunity)手段として、金属材料による電磁波シールド技術がある。電磁波シールド材として金属材料が適することは、例えば、非特許文献1に記載がある。本発明で述べる電磁波シールドとは、非特許文献1で言う「電磁シールド」のことであって、「静電シールド」や「磁気シールド」とは区別されるべきものである。即ち、周波数が凡そ1MHz以上の電磁波が、材料を貫通して漏洩するのを防止する効果を言う。この意味で、金属材料は、例えば、プラスチック等と比較して、格段に優れた電磁波シールド効果を有する。不要電磁波の発生源を金属板で囲うことによりEmissionは抑制され、また、電子回路を金属板で囲うことにより、外部からの不要輻射から回路を守るImmunityの手段となる。したがって、金属板により隙間や接合部の無い電子機器筐体を作成できれば、良好な電磁波シールドが得られ、電磁波漏洩は殆ど問題にならない。
【0005】
しかしながら、電子機器用筐体には、ビス止め、スポット溶接、はぜ折り等による何らかの接合部がある。また、金属板の表面は、耐食性や耐指紋性を付与する目的で、有機樹脂を含有する被膜で被覆されていることがある。このような場合には、電磁波は接合部から漏洩する可能性があり、筐体の電磁波シールド性は、接合部からの漏洩の大小によって決まる。したがって、金属板といえども、電磁波シールド性を改善する技術が必要となる。
【0006】
金属板の電磁波シールド性改善を意図した従来技術を例示する。特許文献1には、亜鉛系又はアルミニウム系めっき鋼板の表面に、クロムを含有しない有機及び/又は無機皮膜を形成させた表面処理鋼板において、中心線平均粗さRaが大きい、即ち、凹凸があるめっき鋼板の上に皮膜を形成させることにより、皮膜厚の分布を不均一にして、電磁波シールド性と耐食性に優れた表面処理鋼板を提供する方法が開示されている。皮膜の導電性は凸部の皮膜厚が薄い部分で決定されるため、上記の構成は電磁波シールド性に優れること、また、皮膜の不均一があっても良好な耐食性が得られることが述べられている。
【0007】
特許文献2には、表面が粗面化された鋼板と、その表層にNi、Cu、Al、Zn、Snから選ばれる金属を主成分とする膜厚2μm以下のめっきを形成させた鋼板が、電磁波シールド性に優れていることが開示されている。鋼板表面の凹凸で電磁波は反射され、また凹凸により行路長を大きくすることで電磁波が減衰されること、めっき層を形成させることで、めっき/鋼板界面における電磁波の反射によっても電磁波が減衰されることが開示されている。
【0008】
特許文献3には、有機皮膜中に、微細突起を有する導電性物質を適量含有させた導電性、電磁波シールド性に優れた塗装鋼板が開示されている。導電性物質としては透磁率の高いものが好ましいこと、導電性物質は塗膜を貫通することが必要であり、そのために微細突起を設けて樹脂の被覆を軽減すべきであることが開示されている。
【0009】
金属板以外での電磁波シールドの従来技術を例示する。特許文献4には、フレーク状導電性粉末とバインダー樹脂からなる電磁波シールド膜及び電磁波シールド塗料が開示されている。導電性粉末としてアスペクト比が10〜250の銀、銅、ニッケル、コバルト、ケイ素鋼が好ましいこと、電磁波シールド膜の膜厚は10〜100μmとすべきことが述べられている。
【0010】
特許文献5には、細長い軟磁性体粒子を高分子マトリクスに分散させ、可塑化状態で一定方向に流動させることで、軟磁性体粒子を整列させると共に、板状面を層面と平行に配向させる、電磁波シールド成形体の製造方法が開示されている。折り曲げ、穴あけ加工や、振動、衝撃が加わっても、電磁波シールド性が低下しないことが特長であると述べられている。
【0011】
特許文献6には、樹脂中に燐片状金属粒子が平面方向に配向されている電磁波シールド材が開示されている。金属粒子の添加量を増やしても、樹脂シートの可とう性が損なわれない点が特徴であると述べられている。
【0012】
【特許文献1】特開2004−156081号公報
【特許文献2】特開2002−232184号公報
【特許文献3】特開2005−313609号公報
【特許文献4】特開2000−357893号公報
【特許文献5】特開平6−232587号公報
【特許文献6】特開2003−258490号公報
【非特許文献1】清水康敬 「最新 電磁波の吸収と遮断」 p205〜223 日経技術図書株式会社 (1999)
【非特許文献2】「導電性フィラーの新しい混練・分散技術とその不良対策」 技術情報協会 (2004)
【非特許文献3】工藤敏夫 EMC 1991.2.5, No.34, p49 (1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、これらの従来技術にはいずれも課題がある。特許文献1及び特許文献2は、金属板表面に凹凸を付与することで電磁波シールド性を改善するとの技術内容である。しかし、発明者らの検討によると、国際規格(CISPR)で求められる30MHzから1GHzまでの電界波の漏洩抑制に対して、これらの方法は必ずしも有効ではない。特許文献1では、電磁波シールド効果を検証する方法として直流表面抵抗を測定しているが、交流である高周波のシールド性を評価する指標として原理的に適切でない。また、特許文献2では、KEC法により1〜100MHzまでの電磁波のシールド効果を評価しているが、周波数範囲が国際規格に準拠していない。また、KEC法では発信源と受信源が近接していて、上記の周波数範囲では両者が1波長以上離れておらず、近傍界での測定となっている。したがって、発信源の種類によって結果が異なり、正しく電界波の漏洩抑制を調べているかどうか定かではない。そもそもこれらの技術思想では、凹凸があるめっき鋼板を厚みの不均一な有機皮膜で被覆しており、凸部の皮膜厚が薄い部分が腐食の起点となることが懸念される。
【0014】
特許文献3は、塗膜を貫通する導電性物質によって電磁波シールド性を改善するものであるので、絶縁性被膜で金属板を被覆することによる塗膜本来の防錆機能を損なうものである。
【0015】
以上の金属板に関する特許文献1〜3には、接合部での電磁波シールド性を向上させるという課題認識が希薄であり、したがって、接合部でなぜ電磁波が漏洩し易いか、接合部での漏洩を如何にして防止するかに関する示唆が無い。
【0016】
特許文献4の電磁波シールド膜は、バインダー樹脂中に金属粉をそのままの状態で含有するものである。これを金属板に適用した場合を考えると、特許文献3と同様、導電性物質である金属粉が腐食の起点となって、耐食性が不良となることが懸念される。また、金属粒子が腐食して、電磁波シールド性が経時劣化する懸念がある。
【0017】
特許文献5及び6は、細長い軟磁性体粒子あるいは燐片状金属粒子を高分子マトリクスに平行配向させなければ優れた電磁波シールド性が得られず、そのために多量の軟磁性体粒子や燐片状金属粒子を添加しなければならず、経済的でない。
【0018】
そこで、本発明は、従来技術の上記課題を解決し、接合部の電磁波シールド性及び耐食性に優れた金属板、及び、これを用いた電子機器筐体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題を解決するために、まず接合部でなぜ電磁波が漏洩し易いかを解明すべく実験と計算を行った。その結果、接合部からの電磁波漏洩現象を説明するに至った。次に、耐食性を低下させることなく、如何にして漏洩を防止するかについて考察し、着想を基に実験により検証した。その結果、導電性添加剤を含む有機樹脂層により金属表面を被覆するに当たって、導電性添加剤を有機樹脂層内の一部の領域に密集して分布させること、導電性添加剤の添加量を10容量%以下とすること、金属板表面を表皮深さのより大きい金属で被覆することにより課題解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
本発明は、以下の(1)〜(17)を要旨とする。
(1) 金属板表面の少なくとも一部に、導電性添加剤を含有する平均厚み0.5μm以上20μm以下の有機樹脂層が形成されてなる表面処理金属板であって、該有機樹脂層中の導電性添加剤の平均体積含有率は、1%以上10%以下であり、該有機樹脂層中に、導電性添加剤の体積含有率が0.5%以下である領域が存在し、前記領域の幅方向の長さは、前記有機樹脂層の平均厚みの少なくとも4倍であることを特徴とする、表面処理金属板。
(2) 前記有機樹脂層中における前記領域の体積含有率は、50%以上90%以下であることを特徴とする、(1)に記載の表面処理金属板。
(3) 前記導電性添加剤は、金属を含有する添加剤であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の表面処理金属板。
(4) 前記金属を含有する添加剤は、金属粒子であることを特徴とする、(3)に記載の表面処理金属板。
(5) 前記金属粒子は、磁性体であることを特徴とする、(4)に記載の表面処理金属板。
(6) 前記金属を含有する添加剤は、金属被覆された絶縁性添加剤であることを特徴とする、(3)に記載の表面処理金属板。
(7) 前記金属被覆する金属は、磁性体であることを特徴とする、(6)に記載の表面処理金属板。
(8) 前記絶縁性添加剤は、有機樹脂であることを特徴とする、(6)に記載の表面処理金属板。
(9) 前記金属板の中心線平均粗さRa75は、2μm以下であることを特徴とする、(1)に記載の表面処理金属板。
(10) 前記金属板は、非磁性体であることを特徴とする、(1)又は(9)に記載の表面処理金属板。
(11) 前記金属板の主成分は、Cu、Al、Zn、Sn、Cr、Pb、Ti又はMnから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする、(1)又は(9)に記載の表面処理金属板。
(12) 前記金属板と有機樹脂層の間に、さらに、前記金属板よりも表皮深さの大きい金属を主成分とする金属層を有することを特徴とする、(1)に記載の表面処理金属板。
(13) 前記金属層の表皮深さの大きい金属は、非磁性体であることを特徴とする、(12)に記載の表面処理金属板。
(14) 前記金属層の表皮深さの大きい金属は、Cu、Al、Zn、Sn、Cr、Pb、Ti又はMnから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする、(12)に記載の表面処理金属板。
(15) 前記金属層の平均厚みは、0.5μm以上40μm以下であることを特徴とする、(12)〜(14)のいずれかに記載の表面処理金属板。
(16) (1)〜(15)のいずれかに記載の表面処理金属板を少なくとも一部に用いてなる、電子機器用筐体。
(17) 用いる部位が接合部を含むことを特徴とする、(16)に記載の電子機器用筐体。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、接合部の電磁波シールド性及び耐食性に優れた金属板を経済的に提供でき、これを電子機器筐体に用いることで、国際規格(CISPR)で求められる30MHz〜1GHzの放射ノイズはもちろん、動作周波数の高速化に伴って今後発生が予想される10GHzまでの放射ノイズに対しても、これを効果的にシールドし、電子機器の誤動作を抑制可能である。したがって、従来行われてきた接合部の電磁波シールド対策、即ち、ガスケットの多用やスポット溶接やビス止め等を省略もしくは簡素化でき、生産性、経済性に優れた電子機器筐体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を詳述する。
まず、接合部でなぜ電磁波が漏洩し易いかについて述べる。金属板からなる電子機器筐体の内部で発生した、周波数が数MHzから数GHzの放射ノイズは、金属板表面に到達すると、その大部分は反射されるが、一部は金属板の内部へ浸透しながら減衰してゆく。電界強度が1/eまでに減衰する深さがその金属の浸透深さであり、上記の周波数帯では数十μm以下である。したがって、発生する誘導電流は金属の表皮を伝わる。
【0023】
筐体接合部の金属板の間に絶縁層がある場合、筐体内に放射ノイズによる電界が発生すると、筐体内側の金属板表皮にはその方向に電流が発生する。接合部には絶縁層があるため、電流は接合部を横切って伝達されない。すると、電流は筐体内側の金属板表皮から筐体外側の金属板表皮へと流れる。この電流によって筐体外側に電磁波が発生し、これが漏洩電磁波となって伝わる。
【0024】
接合部にある層が有機樹脂層の場合、有機樹脂中の分極性成分等の影響により、若干の伝達が起こる。この伝達が起こり易いほど、金属板の表皮を伝わって筐体外側へ漏洩する電流が少なくなり、漏洩が起こり難い。
【0025】
接合部を等価回路で表すと、図1のようになると考えた。(i)は有機樹脂層の直流抵抗、(ii)は有機樹脂層の容量成分、(iii)は金属板の表皮深さに対応した抵抗成分である。(i)の直流抵抗に基づくインピーダンスは、周波数に依存せず一定値になると考えられる。(ii)の容量成分に基づくインピーダンスは、周波数が高くなると減少する。また、周波数が高くなると金属の表皮深さは浅くなるため、電流は流れ難くなって、(iii)の抵抗成分は大きくなる。
【0026】
本発明は、(i)の直流抵抗RDC及び(iii)の金属板の抵抗成分R(ω)を小さくすることを目的に構成されている。耐食性を損なわないためには、導電性添加剤の添加量は少ない方が好ましい。この前提で、(i)の直流抵抗RDCを小さくするには、導電性添加剤を有機樹脂層内に均一に分散させるのではなく、層内の一部の領域に密集して配置させ、層の厚み方向に電磁波を伝達できる経路を効率的に形成させることが有効である。また、(iii)の抵抗R(ω)を下げるためには、金属板の表皮深さをなるべく大きくする、もしくは、金属板と有機樹脂層の間に、金属板よりも表皮深さの大きい金属を主成分とする金属層を設けることが有効である。
【0027】
以上を基に、本発明の内容について説明する。
前記(1)は、本発明の基本構成を規定したものである。
本発明に用いる金属板は、電子機器の筐体もしくは筐体内の部材に適する形状、寸法、強度、加工性を備えたものであれば、特にその種類は制限されず、鋼やアルミニウム、マグネシウム、銅、亜鉛、ニッケル、チタン等の金属板及び合金板、さらには、これらの金属板を異種金属で被覆しためっき金属板等が例示できる。筐体を構成する金属板は通常、板厚3mm以下である。金属板を筐体の構造部材として用いる場合の板厚の下限値は通常0.1mmである。
【0028】
本発明で適用可能な導電性添加剤としては、有機樹脂層中に分散可能なものであって、体積固有抵抗率が凡そ10Ωcm以下であるものが適する。これに該当する材料として、カーボン系、金属系、金属酸化物系材料があり、形態としては、粒状、フレーク状、繊維状、不定形等がある。個々の導電性添加剤の大きさとしては、粒状、フレーク状、不定形であれば長径が、繊維状であれば線径が、有機樹脂層の厚みより小さいことが好ましい。
【0029】
カーボン系材料としては、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ等が例示できる。カーボンブラックとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック等が例示できる。黒鉛としては、人造黒鉛と天然黒鉛があり、いずれも適用できる。金属系材料としては、殆どの金属が体積固有抵抗率10−6〜10−4Ωcmであることから適用可能であり、例えば、銀、銅、金、アルミニウム、イリジウム、タングステン、モリブデン、亜鉛、コバルト、ニッケル、カドミウム、インジウム、鉄、白金、パラジウム、錫、クロム、鉛、チタン等が例示できる。金属は、単体であっても、2種類以上の金属元素を主成分とする合金(例えばステンレス、センダスト等)であってもよい。また、他の基材の表面を金属で被覆したものも含まれる。金属酸化物系材料としては、酸化インジウム(SnをドープしたITO等)、導電性酸化チタン(Sbをドープした酸化錫層で表面被覆したもの等)等が例示できる。
【0030】
以上の他、非特許文献2に記載されたもののうちで、体積固有抵抗率が凡そ10Ωcm以下であるものは適用可能である。
【0031】
本発明に用いる有機樹脂としては、導電性添加剤のバインダーとして有機樹脂層を形成し得るものであれば、特に制限が無く、水溶性有機樹脂、エマルジョン型有機樹脂、溶剤系有機樹脂のいずれもが使用可能である。例えば、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、アイオノマー系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレンやポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂あるいはポリスチレン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニルスルフィド、ポリアミドイミド、シクロオレフィンポリマー、液晶ポリマー等が例示される。これらを単独で用いても良いし、2種類以上を混合して用いたり、共重合体を用いたり(例えば、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、等)、互いに変性したり(例えば、エポキシ変性ウレタン樹脂、アクリル変性アイオノマー樹脂、等)、あるいは別の有機物で変性したもの(例えば、アミン変性エポキシ樹脂、等)を用いても良い。
【0032】
有機樹脂層の平均厚みは、供試材の断面を適正な倍率で走査型電子顕微鏡(SEM)又は光学顕微鏡で観察することにより決定する。金属板の十分離れた位置から最低10サンプルを採取し、埋め込み・研磨の後、各サンプルとも特異でない3〜5箇所について断面観察により膜厚測定を行って、得られた合計30〜50測定の平均値を膜厚(平均厚み)とする。
【0033】
有機樹脂層の平均厚みは、0.5μm以上20μm以下とする。0.5μm未満では耐食性が不十分であり、20μm超になると本発明の技術をもってしても電磁波シールド性が不十分となる。より好適には、1μm以上10μm以下、さらに好適には、1μm以上5μm以下である。有機樹脂層は、筐体に使用される金属板の表裏面全てに形成されていても良いし、接合部として用いられる部分にのみ形成されていても良い。接合部として用いられる部分には有機樹脂層は必須である。
【0034】
本発明の特徴は、有機樹脂層の直流抵抗RDCを小さくするために、導電性添加剤を層内に均一に分散させるのではなく、層内の一部の領域に密集して配置させ、層の厚み方向に電磁波を伝達できる経路を効率良く形成させたところにある。また、導電性添加剤の添加による、耐食性の低下を抑制したものである。このために、以下の2つの要件を満足する必要がある。
【0035】
1) 有機樹脂層中の導電性添加剤の平均体積含有率が1%以上10%以下であること。
2) 有機樹脂層中に、導電性添加剤の体積含有率が0.5%以下である領域が存在し、この領域の幅方向の長さが有機樹脂層の平均厚みの少なくとも4倍であること。
【0036】
まず、上記1)について説明する。有機樹脂層中の導電性添加剤の平均体積含有率とは、有機樹脂層中への導電性添加剤の添加率を体積換算で表したものである。平均体積含有率が1%未満では電磁波シールド効果が不十分であり、10%以上では耐食性が不十分となる。
【0037】
導電性添加剤の平均体積含有率は、金属板から有機樹脂層を剥離し、有機樹脂層中の有機樹脂分を溶解もしくは膨潤させることにより導電性添加剤を分離して、その体積を測定した後、算出する。有機樹脂層の剥離及び導電性添加剤の分離には、有機樹脂層中に存在する有機樹脂に応じた適切な剥離剤(有機溶剤等からなるリムーバー)を用いる。分離後、樹脂残渣の付着が無いよう、導電性添加剤を溶剤でよく洗浄した後、さらにアセトンやアルコールで洗い、乾燥炉に入れて100℃程度で乾燥して溶剤を除去する。導電性添加剤の体積は、メスシリンダー中に適量の水を入れ、その中に乾燥後の導電性添加剤を入れた後の水の体積増加から求める。測定には、金属板の十分離れた位置から、50mm×50mm の大きさのサンプルを最低10サンプル採取し、これらから分離された導電性添加剤を全て合わせて、前記の方法でその体積を測定する。有機樹脂層自身の体積は、前述した断面観察により求めた有機樹脂層の平均厚みを用いて、50mm×50mm×(有機樹脂層の平均厚み)×(測定サンプル数)の計算により求める。導電性添加剤の体積を有機樹脂層自身の体積で除した値を百分率に直したものが、導電性添加剤の平均体積含有率である。
【0038】
次に、上記2)について、図2を用いて説明する。図2は、金属板の表面に導電性添加剤を10%含む有機樹脂層が形成されている断面を、走査型電子顕微鏡で観察した写真である。(a)は本発明例であり、点線矢印で示す領域が、導電性添加剤の体積含有率が0.5%以下で、幅方向の長さが少なくとも平均厚みの4倍である領域となっている。これに対して、(b)は比較例であり、このような領域が存在しない。
【0039】
ここで、導電性添加剤の体積含有率が0.5%以下であることは、この領域が電磁波を伝達し難い領域であるための要件である。また、幅方向の長さが少なくとも平均厚みの4倍であることは、導電性添加剤を有機樹脂層内に均一分散させるのではなく、層内の一部の領域に密集して配置させるための要件である。この領域の長さの上限は1000μmとする。1000μmを超えると、導電性添加剤が密集した領域が離れ過ぎて、電磁波を伝達可能な領域の密度が低くなり、電磁波の伝達が不十分となるためである。より好ましくは500μm、さらに好ましくは100μmである。なお、塗り斑が存在した場合に、長手方向の長さを測定すると、この塗り斑の領域を測定する懸念があるため、幅方向の長さを測定することで、塗膜についてより平均的な情報を得ることが可能である。
【0040】
有機樹脂層中には、有機樹脂、導電性添加剤以外の構成成分があっても良い。例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の酸化物添加剤、ポリエチレン、フッ素樹脂等からなるワックスや界面活性剤等の有機添加剤、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤等の有機−無機複合添加剤、着色顔料、腐食抑制剤等が例示される。
【0041】
前記(2)は、導電性添加剤の体積含有率が0.5%以下、幅方向の長さが少なくとも平均厚みの4倍である領域の好ましい体積含有率の範囲を規定したものである。該領域の体積含有率が高いほど、有機樹脂層内で導電性添加剤が存在する領域が狭くなり、導電性添加剤はより密集して配置される。体積含有率が50%未満では導電性添加剤の密集が不十分であり、90%超では密集領域の分布密度が低くなり過ぎて電磁波シールド効果がかえって低下する。
【0042】
なお、導電性添加剤の密集の度合いは、ここで規定する体積含有率と、前記(1)で規定した有機樹脂層中の導電性添加剤の平均体積含有率との両方により、凡そ見積もることができる。例えば、導電性添加剤の体積含有率が0.5%以下、長さが少なくとも平均厚みの4倍である領域の体積含有率をW(%)、有機樹脂層中の導電性添加剤の平均体積含有率をV0(%)とすると、導電性添加剤が密集した領域における該導電性添加剤の平均体積含有率V(%)は、下式(I)で表される。
【0043】
V≧100×(V0−0.5×W/100)/(100−W) (I)
【0044】
例えば、
V0=1(%)、 W=90(%)のとき、V≧5.5(%)
V0=5(%)、 W=70(%)のとき、V≧15.5(%)
V0=10(%)、W=80(%)のとき、V≧48.0(%)
等となる。本発明において、優れた電磁波シールド性を得るためには、式(I)により算出されるVの値が、5%以上であることが好ましい。さらに好ましくは10%以上、より一層好ましくは20%以上である。
【0045】
有機樹脂層中における前記領域の体積含有率W(%)は、供試材の断面を適正な倍率で走査型電子顕微鏡(SEM)又は光学顕微鏡で観察することにより決定する。金属板の十分離れた位置から最低10サンプルを採取し、埋め込み・研磨の後、各サンプルとも特異でない3〜5箇所について断面観察を行う。導電性添加剤の同定には、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)や電子線マイクロアナライザー(EPMA)を用いて元素分析を行うのが良い。断面観察を行って、導電性添加剤として同定された物質の体積含有率が0.5%以下である長さが少なくとも平均厚みの4倍である領域の面積率を求め、これをその断面における前記領域の体積含有率とする。得られた合計30〜50測定の平均値を有機樹脂層中における前記領域の体積含有率W(%)とする。
【0046】
前記(3)は、導電性添加剤として、金属を含有する添加剤を用いることを規定したものである。金属を含有する添加剤とは、金属からなる添加剤、金属と非金属が混合された添加剤、非金属からなる添加剤の表面を金属で被覆したもの等を含む。
【0047】
前記(4)は、金属を含有する添加剤として金属粒子を用いることを規定したものである。金属は前述のように体積固有抵抗率が低く、本発明に好適に使用できる。金属粒子の製造方法としては、機械粉砕法、アトマイズ法、高温ガス還元法、塩類溶液還元法、水溶液電解法、カルボニル化合物分解法、蒸着等気相法等があり、いずれによって製造されたものも適用可能である。粒子の大きさや形状も製造方法によって異なるが、形状は球状、燐片状、樹枝状、粉状等いずれでもよく、これらをまとめて粒子と呼ぶことにする。個々の金属粒子の大きさとしては、粒状、フレーク状、不定形であれば長径が、繊維状であれば線径が、有機樹脂層の厚みより小さいことが好ましい。より好ましくは有機樹脂層の厚みの1/2以下、さらに好ましくは1/5以下、より一層好ましくは1/10以下である。これは、粒子の大きさが小さいほど、有機樹脂層の形成途中で導電性金属が移動し易く、有機樹脂層内の一部の領域に密集して分布させることが容易となるためである。
【0048】
前記(5)は、前記(4)の金属粒子として磁性金属を用いることを規定したものである。磁性金属は適切な方法により残留磁化を持たせることで、前記(1)に規定する不均一分散皮膜の形成を制御することが容易であるため、本発明では特に好適である。磁性金属としては、単体として、鉄、コバルト、ニッケル等が、合金として、炭素鋼、ケイ素鋼、フェライト系ステンレス鋼、Fe−Si−Al合金(センダスト)、Ni−Fe合金(パーマロイ)、Fe基アモルファス、Co基アモルファス、Fe−Si−B系アモルファス等が適用可能である。
【0049】
前記(6)は、金属を含有する添加剤が、金属被覆された絶縁性添加剤からなることを規定したものである。ここで言う絶縁性添加剤とは、金属単体に比較して比重の小さい、有機樹脂やセラミックス、ガラスビーズ、ポリエステル繊維等のことである。これらに金属被覆をしたものは、金属粒子よりも有機樹脂溶液中での分散性、製造時の取り扱いに優れ、皮膜中への歩留まりも高く、かつ、本発明に適用した場合の電磁波シールド効果は金属粒子と遜色無い。金属被覆層の形成方法は、特に限定されないが、無電解めっき法、電気めっき法が好適である。金属被覆層の厚みも特に限定されないが、絶縁性添加剤を確実に被覆するためには0.1μm以上が好ましく、製造コストの点からは3μm以下が好ましい。
【0050】
前記(7)は、前記(6)の金属被覆層として磁性金属を用いることを規定している。磁性金属を用いると、前記(5)で述べたように、前記(1)の不均一分散皮膜の形成を制御することが容易である。
【0051】
前記(8)は、前記(6)の絶縁性添加剤が有機樹脂であることを規定している。有機樹脂の形状としては粒状、フレーク状、球状、針状、繊維状、不定形等がある。有機樹脂の種類としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリアミド、ジビニルベンゼン、ヘキサトリエン、ジビニルスルホン、アルキレンジアクリレート、アルキレンテトラメタクリレート、フェノールホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリエステル、ナイロン、アクリル樹脂等が例示できる。有機樹脂の製造方法は特に規定されず、懸濁重合、シード重合、乳化重合等が例示できる。
【0052】
次に、前記(1)〜(8)に係る本発明の製造方法について述べる。本発明の有機樹脂層を金属板上に形成するには、前述の有機樹脂、導電性添加剤、その他の添加剤を所定の割合で混合した組成物を、金属板上に塗布し、乾燥すればよい。混合の順序は特に規定するものではないが、大スケールで安定的に組成物を得るためには、導電性添加剤を予め所定量だけ計り取り、これを有機樹脂の希釈液で2〜3倍に希釈してよく攪拌し、必要に応じて界面活性剤を添加する。これを有機樹脂や添加物、溶剤等を混合した混合液にゆっくり攪拌しながら混合してゆくのが良い。できた組成物は定常的に攪拌しておくのがよい。
【0053】
本発明の特徴は、導電性添加剤を有機樹脂層内に均一に分散させるのではなく、層内の一部の領域に密集して配置させ、層の厚み方向に電磁波を伝達できる経路を形成させたところにある。その方法としては、以下の3通りが例示できる。
【0054】
(A)導電性添加剤に残留磁気を与える方法:導電性添加剤として磁性金属を用いる場合に適用できる。磁性金属で被覆された絶縁性添加剤も含む。前述のようにして混合した組成物をプラスチック製の容器に入れ、周囲を電磁コイルで取り囲む。単相インバーター電源によりコイルに交流磁場を与える。磁場の強さを暫減させ、磁性金属に地磁気の2〜6倍程度の残留磁気が残るようにする。このように処理した組成物を金属板に塗布すると、塗布時に導電性添加剤が残留磁気により凝集・結合し、前記有機樹脂層中に、導電性添加剤の体積含有率が0.5%以下、長さが少なくとも平均厚み(膜厚)の4倍である領域が形成される。
【0055】
(B)導電性添加剤に残留電気(静電気)を与える方法:非水溶媒中に樹脂と導電性添加剤を分散して作成される組成物に適用できる。組成物を容器に入れ、金属製のパイプを通して液循環させる。パイプの壁面と導電性添加剤との摩擦により静電気を発生させ、導電性添加剤に残留電気を与える。このように処理した組成物を金属板に塗布すると、塗布時に導電性添加剤が残留電気により凝集・結合し、前記有機樹脂層中に、導電性添加剤の体積含有率が0.5%以下、長さが少なくとも平均厚みの4倍である領域が形成される。なお、金属パイプ側に蓄積された残留電気は、一定時間毎に、アースにより除去しておくことが安全上好ましい。
【0056】
(C)凝集剤を添加する方法:導電性添加剤を負電荷もしくは正電荷を有する界面活性剤により水溶性又は水分散性樹脂液中に分散して作成される組成物に適用できる。組成物を容器に入れ、塗布直前に適量の凝集剤を添加する。凝集剤は多価の金属イオンを含む水溶性化合物からなるもの、例えば、硫酸アルミニウム、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、アルミン酸ナトリウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、あるいはポリアクリルアミド系、ポリアクリル酸ナトリウム系等のアニオン系高分子凝集剤、アクリル酸エステル系等のカチオン系の高分子凝集剤等が適用できる。塗布直前に凝集剤を適量添加した組成物金属板に塗布すると、塗布時に導電性添加剤が凝集・結合し、前記有機樹脂層中に、導電性添加剤の体積含有率が0.5%以下、長さが少なくとも平均厚みの4倍である領域が形成される。
【0057】
以上、(A)〜(C)の方法のうち、最も凝集の程度を制御し易いのは(A)の方法である。電磁コイルに与える磁場の強さを適切に制御することで、磁性粒子に残留する磁気の強さをコントロールできるためである。(B)の方法で凝集の程度を制御するには、金属パイプ側の残留電気量をモニターしつつ、循環条件にフィードバックする必要がある。(C)の方法で凝集の程度を制御するには、凝集剤の種類と添加量、組成物の攪拌条件、凝集剤の添加から塗布までの時間等を厳密に制御する必要がある。
【0058】
上記の方法で準備した組成物を金属板に塗布する。塗布は通常の方法でよく、例えばロールコーターによる方法、スプレー+ロール絞り、浸漬+ロール絞り、バーコーター、ローラー塗布、はけ塗り等、いずれの方法でも良い。乾燥は、有機樹脂の種類にもよるが、一般的には溶剤もしくは水分が十分に除去される程度、即ち、乾燥板温が100℃〜200℃であればよい。乾燥方法も、直火炉、誘導加熱炉、電気抵抗炉、熱風乾燥炉等、通常の方法から選択できる。
【0059】
次に、金属板に関する規定について説明する。前記(9)は、金属板の中心線平均粗さRa75を2μm以下に規定したものである。より好適には1.5μm以下である。Ra75はJIS−B−0601に準拠し、カットオフ値0.8mmとして測定する。本発明は、特許文献1や特許文献2のように、金属板表面に凹凸を付与することで電磁波シールド性を改善しようとするものではない。凹凸の付与は電磁波シールド性の改善につながらないばかりか、有機樹脂層の平均厚み(膜厚)が小さい部位、例えば、0.5μm未満の部位では、耐食性の低下を招くので避けるべきである。表面粗さは、通常ダル鋼板程度で十分であり、ことさらテクスチャーを付与する必要はない。本発明の構成によれば、金属板がブライト相当の平滑さ、即ち、Ra75が0.1μm未満であっても、十分な接合部電磁波シールド性を発現するものである。
【0060】
前記(10)〜(15)は、図1、(iii)で説明した金属板の抵抗R(ω)を小さくするための要件である。
【0061】
前記(10)は、金属として非磁性体を用いることにより、R(ω)を小さくした構成である。金属の表皮深さは、導電率、比透磁率の−1/2乗に比例する。金属の違いによる導電率の差は比透磁率の差に比べて小さく、比透磁率の大小(磁性体であるかどうか)により、表皮深さの大小はほぼ決まる。金属として表皮深さの大きい非磁性体を用いることで、R(ω)を小さくすることができ、優れた接合部電磁波シールド性が得られる。下記(11)には含まれない例として、オーステナイト系ステンレス鋼板が例示できる。
前記(11)は、非磁性体である金属の主成分として、特定の金属のうち1種又は2種以上から選択するものである。金属の表皮深さは、Cu<Al<Zn<Sn<Cr<Pb<Ti<Mnの順である。2種以上の金属を選択する場合には、これらの合金とする。
【0062】
前記(12)は、金属板を、これより表皮深さの大きい金属からなる金属層で被覆した後に、有機樹脂層を形成させることにより、金属板単体よりもR(ω)を小さくしたものである。この結果、より優れた接合部電磁波シールド性が得られる。金属層の形成方法は、電気めっき、溶融めっき、気相めっき、置換析出、圧着等、通常の方法のいずれを用いても良いが、電気めっき、溶融めっき、置換析出が経済的である。金属層の金属として、2種以上の金属を選択しても良い。この場合には、これらの合金としてもよいし、又は、単金属からなる層を用いた複層構造としても良い。複層構造とする場合には、有機樹脂層に近い層としてより表皮深さの大きい金属を選ぶのが好適である。
【0063】
前記(13)は、金属層として非磁性体を用いることにより、前記(12)の要件を満足させた構成である。金属層として表皮深さの大きい非磁性体を用いることで、R(ω)を小さくすることができ、優れた接合部電磁波シールド性が得られる。この方法は特に、金属板として鋼板等の磁性金属を用いる場合に有効である。
【0064】
前記(14)は、非磁性体である金属層の主成分として、特定の金属のうち1種又は2種以上から選択するものである。金属層として用いる金属の表皮深さは、Cu<Al<Zn<Sn<Cr<Pb<Ti<Mnの順である。2種以上の金属を選択する場合には、これらの合金としてもよいし、又は、単金属からなる層を用いた複層構造としても良い。合金とする場合には、例えば、Znめっきの代わりに、Zn−Snめっき、Zn−Crめっき、Zn−Tiめっき、Zn−Mnめっき等を用いるのが効果的である。複層構造とする場合には、有機樹脂層に近い層としてより表皮深さの大きい金属を選ぶのが好適である。例えば、鋼板の上にZnをめっきし、その上層にSnをめっきし、その上層に有機樹脂層を設けるという例が挙げられる。
【0065】
前記(15)は、金属層の平均厚みを規定したものである。金属層の平均厚みが0.5μm未満では効果が小さく、40μm超では効果が飽和する。
【0066】
前記(16)は、前記(1)〜(15)の金属板を少なくとも一部に用いてなる電子機器用筐体である。本発明の金属材を少なくとも一部に適用可能な電子機器用筐体としては、例えば、デスクトップPC、デジタルテレビ等のデジタル家電製品、複写機、さらにはカーナビゲーション、カーAV、エンジンルーム用電子機器、車載レーダー用筐体等のカーエレクトロニクス機器等が挙げられる。また、ノートPC、携帯電話等のモバイル製品用筐体の一部に本発明の金属材を用いてもよい。
【0067】
前記(17)は、前記(16)の電子機器用筐体であって、前記(1)〜(15)の金属板を用いる部位として、接合部を含んだものである。接合部としては、ビス止め、スポット溶接、はぜ折等による接合部が例示できる。ただし、シーム溶接のように、金属板を溶融して隙間無く接合している部位は、ここでは接合部とは呼ばない。このような部位には、本発明の金属板を適用しなくても問題ない。
【実施例】
【0068】
(実施例1)
以下に、本発明を、実施例を用いて、非限定的に説明する。
【0069】
(1)供試した金属板
以下の7種類の金属板を用いた。
鋼板:板厚0.8mmの軟鋼板
SUS1(ステンレス鋼板):板厚1.2mmのSUS304
SUS2(ステンレス鋼板):板厚1.2mmのSUS430
Cu(銅板):板厚1.0mmの純Cu板
Ni(ニッケル板):板厚1.0mmの純Ni板
Ti(チタン板):板厚1.0mmの純Ti板
Al(アルミニウム板):板厚0.6mmのJIS3004
【0070】
(2)金属層
金属板の上にさらに金属層を設けたものについては、以下の8種類の中から選択した。
Zn−EG(電気亜鉛めっき):硫酸亜鉛水溶液に硫酸を添加しためっき浴を用いて、金属板に電気亜鉛めっきした。
Zn−HD(溶融亜鉛めっき):Al0.20%を含有する溶融亜鉛浴に金属板を浸漬して溶融亜鉛めっきした。
Al(溶融アルミニウムめっき):Si10%を含有する溶融アルミニウム浴に金属板を浸漬して溶融アルミニウムめっきした。
Sn(電気錫めっき):フェロスタン浴を用いて、金属板に電気錫めっきした。
Cu(電気銅めっき):硫酸銅水溶液に硫酸を添加しためっき浴を用いて、金属板に電気銅めっきした。
Cr(電気クロムめっき):サージェント浴を用いて、金属板に電気クロムめっきした。
Ti(蒸着チタンめっき):真空蒸着により、金属板にチタンめっきを施した。
【0071】
(3)粗度測定
金属板及び金属層を有する金属板の表面粗度の測定には、触針式粗度計(ミツトヨ製、サーフテストSV−3100 S4)を用いた。中心線平均粗さRa75はJIS−B−0601に準拠し、カットオフ値0.8mmとして求めた。なお、表2のRa75の測定値は、金属層があるものについては全て、金属層を施した後の値である。
【0072】
(4) 有機樹脂
有機樹脂には、エマルジョン系、水溶性、溶剤系の合計6種類から選んで用いた。
U:エマルジョン系ウレタン樹脂(大日本インキ製、ハイドランHW)
E:エマルジョン系エポキシ樹脂(荒川化学工業製、モデピクス302)
A:エマルジョン系アクリル樹脂(三井化学製、アルマテックス)
PV:水溶性ポリビニルアルコール(日本合成化学製、ゴーセノールT)
M:溶剤系メラミン樹脂(日本ペイント製、オルガセレクト100)
PE:溶剤系ポリエステル樹脂(日本ペイント製、ユニポン400)
【0073】
(5) 導電性添加剤
表1に示す3種類の導電性添加剤を用いた。
【0074】
【表1】

【0075】
(6) その他の添加剤
いくつかの水準には防錆顔料として、以下を10mass%添加した。
コロイダルシリカ(日産化学製、スノーテックスシリーズ)
コロイダルシリカの種類は、樹脂の種類に応じて適したものを選んだ。平均粒子径は20nmのものを選んだ。
【0076】
(7) 残留磁気又は残留電気の付与
表1の導電性添加剤のうち、Ni及びNi−Resinについては、前記(A)の方法で、地磁気の3倍の残留磁気を付与させた。また、Cuについては、前記(B)の方法で、残留電気(静電気)を付与させた。
【0077】
(8) 塗布、乾燥
有機樹脂、導電性添加剤とその他の添加剤を混合し、前記(7)の前処理を行った組成物を、ロールコーターで金属板に塗布し、直火型の乾燥炉で乾燥した。乾燥条件(温度、時間)は、樹脂の種類と平均厚み(膜厚)に応じて、それぞれ適切に調整した。
【0078】
(9) 電磁波シールド性の評価
板厚3mmのAl板を溶接して一辺550mmの筐体を作成し、上面にのみ137mm×137mmの開口部を設けた。これを電波半無響室内に設置し、電磁波の基準発信源として、Schaffner社製コームジェネレーターを筐体内部に固定した後、周波数10MHz〜1000MHzまで10MHz間隔でパルス波を発信した。開口部周囲に、幅5mmのソフトガスケット(森宮電機製SGK5−1)を置いた。この上に150mm×150mmの供試金属板を載せた。筐体から水平方向に3m離れた地点に受信アンテナを配置し、これをスペクトラムアナライザーに接続することにより、筐体からの漏洩電磁波の信号強度を測定し、電界強度1μV/mを0dB(基準値)としてdBで表示した。測定は3回行い、得られた結果を平均した。比較として、開口部に金属板を置かない場合(全オープン)の電界強度(I)、及び、開口部に銅板を置き、銅板の周囲と筐体の接触部分を銅箔製の導電テープで完全にシールした場合(全シールド)の電界強度(I)も測定した。開口部に供試金属板を置いたときに得られた電界強度の平均値(I)に対して、下式(II)により得られる値を、その供試金属板の電磁波シールド効果(SE)とした。
【0079】
SE (dB) = I − I (II)
【0080】
代表値として周波数350MHz、700MHzの値を表2に示した。なお、開口部を全シールドしたときの電磁波シールド効果、即ち、(I−Is)の値は、周波数350MHzで30dB、700MHzで35dBであった。これらが本評価方法での最高到達レベルである。また、放射ノイズの漏洩抑制の観点からの合格レベルは、周波数350MHzで26dB以上、700MHzで31dB以上とした。
【0081】
(10) 耐食性の評価
供試材を150mm(L)×70mm(W)に切り出し、JIS−Z−2371に規定する塩水噴霧試験を72時間行った。腐食面積率により、以下のように評価した。評点3以上を合格とした。
【0082】
評点5 : 腐食面積率2%未満
評点4 : 腐食面積率2%以上、5%未満
評点3 : 腐食面積率5%以上、10%未満
評点2 : 腐食面積率10%以上、20%未満
評点1 : 腐食面積率20%以上
【0083】
本発明例を表2に示す。本発明例のうち、No.3、11、17、25、32について、それぞれ(7)で述べた前処理を行わずに塗布した比較例を、表3のNo.36〜40に示す。また、本発明例のNo.3について、(7)で述べた前処理を行わず、かつ有機樹脂層中の導電性添加剤の平均体積含有率を変化させて塗布した比較例を、表3のNo.41〜43に示す。また、本発明例のNo.2について、(7)で述べた前処理を行わず、かつ有機樹脂層の平均厚みを変化させて塗布した比較例を、表3のNo.44〜45に示す。さらに、本発明例のうち、No.7、8について、導電性添加剤のみ添加せず、他は同じ条件で塗布した比較例を表3のNo.46、47に示す。
【0084】
本発明例は、いずれも比較例に対して、耐食性を損なうことなく電磁波シ−ルド性が改善されている。また、表2の通り、本発明の好適範囲内では、さらに優れた電磁波シールド性を得ることができる。
【0085】
【表2】

【0086】
【表3】

【0087】
(実施例2)
表2の実施例No.2、3、11及び表3の比較例No.36、37の金属材をデスクトップPCの筐体に用いた。電波半無響室内で3m離れた地点での周波数30MHz〜1000MHzの放射ノイズを測定し、VCCI規格値と比較した。この結果、実施例No.2、3、11は規格を満足し、一方、No.36、37からは規格値以上の放射ノイズが検出された。
【0088】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】接合部の等価回路である。
【図2】本発明例(a)及び比較例(b)の断面SEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板表面の少なくとも一部に、導電性添加剤を含有する平均厚み0.5μm以上20μm以下の有機樹脂層が形成されてなる表面処理金属板であって、
該有機樹脂層中の導電性添加剤の平均体積含有率は、1%以上10%以下であり、
該有機樹脂層中に、導電性添加剤の体積含有率が0.5%以下である領域が存在し、
前記領域の幅方向の長さは、前記有機樹脂層の平均厚みの少なくとも4倍であることを特徴とする、表面処理金属板。
【請求項2】
前記有機樹脂層中における前記領域の体積含有率は、50%以上90%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の表面処理金属板。
【請求項3】
前記導電性添加剤は、金属を含有する添加剤であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の表面処理金属板。
【請求項4】
前記金属を含有する添加剤は、金属粒子であることを特徴とする、請求項3に記載の表面処理金属板。
【請求項5】
前記金属粒子は、磁性体であることを特徴とする、請求項4に記載の表面処理金属板。
【請求項6】
前記金属を含有する添加剤は、金属被覆された絶縁性添加剤であることを特徴とする、請求項3に記載の表面処理金属板。
【請求項7】
前記金属被覆する金属は、磁性体であることを特徴とする、請求項6に記載の表面処理金属板。
【請求項8】
前記絶縁性添加剤は、有機樹脂であることを特徴とする、請求項6に記載の表面処理金属板。
【請求項9】
前記金属板の中心線平均粗さRa75は、2μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の表面処理金属板。
【請求項10】
前記金属板は、非磁性体であることを特徴とする、請求項1又は9に記載の表面処理金属板。
【請求項11】
前記金属板の主成分は、Cu、Al、Zn、Sn、Cr、Pb、Ti又はMnから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項1又は9に記載の表面処理金属板。
【請求項12】
前記金属板と有機樹脂層の間に、さらに、前記金属板よりも表皮深さの大きい金属を主成分とする金属層を有することを特徴とする、請求項1に記載の表面処理金属板。
【請求項13】
前記金属層の表皮深さの大きい金属は、非磁性体であることを特徴とする、請求項12に記載の表面処理金属板。
【請求項14】
前記金属層の表皮深さの大きい金属は、Cu、Al、Zn、Sn、Cr、Pb、Ti又はMnから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項12に記載の表面処理金属板。
【請求項15】
前記金属層の平均厚みは、0.5μm以上40μm以下であることを特徴とする、請求項12〜14のいずれかに記載の表面処理金属板。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載の表面処理金属板を少なくとも一部に用いてなる、電子機器用筐体。
【請求項17】
用いる部位が接合部を含むことを特徴とする、請求項16に記載の電子機器用筐体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−277711(P2008−277711A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−122792(P2007−122792)
【出願日】平成19年5月7日(2007.5.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】