説明

表面改質ミクロフィブリル化セルロース及びこれを含有してなる複合化樹脂

【課題】繊維と複合化した樹脂の機械的強度を向上させる技術の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、樹脂に配合された際に、樹脂の機械的強度増強に寄与するミクロフィブリル化セルロース及びこれを含有してなる複合化樹脂に関するものである。より具体的には、本発明のミクロフィブリル化セルロースは、シランカップリング剤処理によって表面改質されたミクロフィブリル化セルロースである。また、本発明の樹脂は前記の表面改質されたミクロフィブリル化セルロースを含有する樹脂である。さらに、本発明の製造方法は、前記の表面改質されたミクロフィブリル化セルロースを製造する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂に配合された際に、樹脂の機械的強度増強に寄与するミクロフィブリル化セルロース及びこれを含有してなる複合化樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ミクロフィブリル化セルロースはパルプなどの植物繊維を解繊して得られる、伸びきり鎖結晶からなるナノファイバーである。また、バクテリア(主として酢酸菌)由来のミクロフィブリル化セルロースも知られており、これを利用した食品としてナタデココがよく知られている。ミクロフィブリル化セルロースは軽くて強い特性を有することが知られており、これを樹脂に配合することによって、配合された樹脂の重量の増加を抑えつつ樹脂の強度等の物性を向上させることが試みられている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献では、ミクロフィブリル化セルロースと樹脂成分を溶融混練することにより成形体を製造している。
【特許文献1】特開2005−42283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、この方法は、溶融混練時の温度が高温であるため、ミクロフィブリル化セルロース中に含まれる水分によって、ポリ乳酸等のポリエステル類が加水分解等を起こし劣化することがあり、より機械的強度の強い複合化樹脂が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
シランカップリング剤の作用の一つとして、有機−無機界面の接着改良が知られている。これは、シランカップリング剤が加水分解されてシラノールとなり、部分的に縮合してオリゴマー状態となり、続いて無機質表面に水素結合的に吸着し、これを乾燥することにより、水酸基が脱水縮合反応して化学結合となり、無機材料と強固に接着するものである。本発明者は、一般的なパルプをシランカップリング剤で表面処理した後、樹脂に複合化させて複合化樹脂を製造し、この複合化樹脂の機械的強度がシランカップリング処理をしない場合と比較して向上することを確認した。さらに、パルプをミクロフィブリル化セルロースに代えて、同様にして得られる複合化樹脂の機械的強度が、パルプのシランカップリング剤処理の場合と比較して顕著に高くなることを確認した。本発明はこのような知見に基づいてなされたものである。
【0005】
すなわち、本発明は下記のミクロフィブリル化セルロース、樹脂及び製造方法に係るものである。
項1.シランカップリング剤で表面処理してなるミクロフィブリル化セルロース。
項2.シランカップリング剤がアミノ基を有するものである項1に記載のミクロフィブリル化セルロース。
項3.項1又は2に記載のミクロフィブリル化セルロースを含有する樹脂。
項4.ミクロフィブリル化セルロースをシランカップリング剤処理することを特徴とする項1に記載のミクロフィブリル化セルロースの製造方法。
項5.シランカップリング剤がアミノ基を有するものである項4に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、機械的強度に優れたミクロフィブリル化セルロース含有樹脂とこれに必要なシランカップリング剤処理されたミクロフィブリル化セルロースを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のミクロフィブリル化セルロースは、シランカップリング剤処理によって表面改質されたミクロフィブリル化セルロースである。また、本発明の樹脂は前記の表面改質されたミクロフィブリル化セルロースを含有する樹脂である。さらに、本発明の製造方法は、前記の表面改質されたミクロフィブリル化セルロースを製造する方法である。
【0008】
ミクロフィブリル化セルロースの製造方法は公知であり、一般的には、セルロース繊維含有材料をリファイナー、二軸混錬機(二軸押出機)、高圧ホモジナイザー、媒体攪拌ミル、石臼、グラインダー、振動ミル、サンドグラインダー等により磨砕ないし叩解することによって解繊又は微細化して製造されるが、特開2005−42283号公報に記載の方法等の公知の方法で製造することもできる。さらに、市販品を利用することも可能である。セルロース繊維含有材料は、植物(例えば木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ、再生パルプ、古紙)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等を起源とするものが知られているが、本発明ではそのいずれも使用できる。好ましくは植物又は微生物由来のセルロース繊維であり、より好ましくは植物由来のセルロース繊維である。
【0009】
本発明において、ミクロフィブリル化セルロースの繊維径は平均値が4nm〜400nmであることが好ましく、4nm〜200nmであることがより好ましく、4nm〜100nmであることがより一層好ましい。また、ミクロフィブリル化セルロースは図1(b)に示されているように、繊維径に対する繊維長が非常に長い繊維であり、その繊維長を決定することが難しいが、好ましくは平均値が繊維径の5倍以上、より好ましくは10倍以上、より一層好ましくは20倍以上である。また、その繊維長をあえて記載するならば、好ましくは平均値が50nm〜200μm、よりこのましくは100nm〜50μmである。
【0010】
本発明では、前記のようなミクロフィブリル化セルロースをシランカップリング剤で表面処理する。例えば、次のような手順で表面処理を行う。先ず、シランカップリング剤、メタノール、エタノール等の低級アルコール及び水を混合し、シランカップリング剤を部分加水分解させ、この液にミクロフィブリル化セルロースを接触させ、次いで、ミクロフィブリル化セルロース内に含まれる溶媒を徐々に蒸発除去するため乾燥する。この処理によって、シランカップリングオリゴマーがミクロフィブリル化セルロース表面に水素結合力を伴いながら規則的に配列すると考えられる。このように、シランカップリング剤とミクロフィブリル化セルロースを接触させた後、ミクロフィブリル化セルロースを乾燥することによって、シランカップリング剤で表面処理されたミクロフィブリル化セルロースを得ることができる。シランカップリング剤の反応機構を参酌すると、接触処理によって、部分加水分解(多くの場合さらに縮合している)したシランカップリング剤の水酸基がミクロフィブリル化セルロース表面の水酸基と水素結合を形成し、乾燥処理によって、両水酸基が脱水反応し化学結合を形成し、ミクロフィブリル化セルロース表面にシランカップリング剤が強固に結合した状態になると推測される。
【0011】
シランカップリング処理において使用されるミクロフィブリル化セルロースの形態は特に限定されず、例えば、シート状、塊状、粉体状、繊維状等の形態で使用できるし、成形されたものであっても使用できる。シランカップリング剤は一つ又は二つの官能基と二つ又は三つの加水分解性基と0又は一つの非反応性基がケイ素原子に結合したものを1種単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。代表的なシランカップリング剤は下記の化学式(1)で表される。
【0012】
Y−R−Si(R(R3−n (1)
Yが官能基、Rがリンカー(主としてアルキレン基)、Rが非反応性基、Rが加水分解性基である。加水分解性基は加水分解によって水酸基を生ずる基である。nは0又は1を表す。好ましいnは0である。
好ましいRは炭素数2〜8のアルキレン基、フェニレン基、Yと一体となって(Y−Rが)ビニル基である。より好ましいRは炭素数2〜4のアルキレン基であり、Cがより一層好ましい。
【0013】
好ましいRは炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基である。より好ましいRはメチル基又はフェニル基であり、メチル基がより一層好ましい。
【0014】
好ましいRはハロゲン原子(好ましくは塩素原子、フッ素原子、臭素原子、より好ましくは塩素原子)、水酸基、炭素数1〜6のアルコキシ基、フェノキシ基である。より好ましいRは炭素数1〜3のアルコキシ基(βメトキシエトキシ基を含む)であり、メトキシ基又はエトキシ基がより一層好ましい。
【0015】
好ましいYは、RN−基、RN−R−NR−基、R1110N−R−RN−R−NR−基、Rと一体となって(Y−Rが)ビニル基、エポキシ基、3,4-エポキシシクロヘキシル基、ハロゲン原子(好ましくは塩素原子、フッ素原子、臭素原子、より好ましくは塩素原子)、メルカプト基、イソシアネート基、置換基を有することのあるグリシジル基、グリシドキシ基、ビニル基(CH2=CH-)、メタクリロキシ基(CH2=C(CH3)COO-)、アクリロキシ基(CH2=CHCOO-)、ウレイド基(NH2CONH-)、置換基を有することのあるメタクリル基、ビニル基、エポキシ基、アクリル基などである。
【0016】
前記置換基としては炭素数1〜6(好ましくは1〜3)のアルキル基、ハロゲン原子(好ましくは塩素原子、フッ素原子、臭素原子、より好ましくは塩素原子)、フェニル基等が挙げられる。R,R,R,R,R10及びR11はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基を表し、R,Rはそれぞれ独立に、炭素数2〜6のアルキレン基を表す。
【0017】
好ましいR,R,R,R,R10及びR11はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基である。
【0018】
好ましいR,Rはそれぞれ独立に、炭素数2〜4アルキレン基であり、Cがより一層好ましい。
【0019】
また、上記化学式(1)には該当しないが、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド((C2H5O)3SiC3H6S4C3H6Si(OC2H5)3)、ビス(トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド((CH3O)3SiC3H6S4C3H6Si(OCH3)3)、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン(((C2H5O)3SiC3H6N=C(CH3)C4H9)、3−トリメトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン(((CH3O)3SiC3H6N=C(CH3)C4H9)もシランカップリング剤として使用できる。
【0020】
具体的なシランカップリング剤としては次の化合物があげられる。ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、p−スチリルトリメトキシシラン等のビニル系官能基を有するシランカップリング剤;3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等のメタクリロキシ系官能基を有するシランカップリング剤;3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のアクリロキシ系官能基を有するシランカップリング剤;3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルジエトキシシラン、N−メチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−メチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−メチル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−メチル−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N,N’−ジメチル−3−アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、N,N’−ジメチル−3−アミノプロピルメチルトリエトキシシラン、N,N’−ジメチル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N’−ジメチル−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、(N−メチル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、(N−メチル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、(N−メチル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、(N−メチル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、(N,N’−ジメチル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、(N,N’−ジメチル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、(N,N’−ジメチル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、(N,N’−ジメチル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、2−アミノエチルトリメトキシシラン、2−アミノエチルトリエトキシシラン、2−アミノエチル−メチルジメトキシシラン、2−アミノエチル−メチルジエトキシシラン、4−アミノブチルトリメトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、4−アミノブチル−メチルジメトキシシラン、4−アミノブチル−メチルジエトキシシラン、6−アミノヘキシルトリメトキシシラン、6−アミノヘキシルトリエトキシシラン、6−アミノヘキシル−メチルジメトキシシラン、6−アミノヘキシル−メチルジエトキシシラン、8−アミノオクチルトリメトキシシラン、8−アミノオクチルトリエトキシシラン、8−アミノオクチル−メチルジメトキシシラン、8−アミノオクチル−メチルジエトキシシラン、4−アミノフェニルトリメトキシシラン、4−アミノフェニルトリエトキシシラン、4−アミノフェニル−メチルジメトキシシラン、4−アミノフェニル−メチルジエトキシシラン、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリメトキシシラン、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリエトキシシラン、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルメチルジメトキシシラン、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルメチルジエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルメチルジエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、3−トリメトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン等のアミノ系官能基を有するシランカップリング剤;3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジエトキシシラン等のハロゲン原子で置換されたアルキル基がケイ素原子に結合したシランカップリング剤;3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトエチルトリメトキシシラン、3−メルカプトエチルトリエトキシシラン、3−メルカプトエチル−メチルジメトキシシラン、3−メルカプトエチル−メチルジメトキシシラン等のメルカプト系官能基を有するシランカップリング剤;ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド系シランカップリング剤;3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン等のイソシアネート系官能基を有するシランカップリング剤が挙げられる。
【0021】
これらのなかでも、アミノ基又はメルカプト基を有するシランカップリング剤が好ましく、アミノ基を有するシランカップリング剤がより好ましい。3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン及び2−アミノエチル−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピル−トリメトキシシラン、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピル−トリエトキシシランがより一層好ましい。
【0022】
シランカップリング剤は、シランカップリング剤と所定量の水とを、酸等の触媒の存在下に反応させることにより容易に部分加水分解できる。使用する水の量により、生成する部分加水分解物の分子量を制御できる。
【0023】
シランカップリング剤及びその部分加水分解物は、水又は低級アルコール等の溶剤に希釈して使用することが好ましい。その濃度は、0.1〜20質量%が好ましく、0.3〜10質量%がより好ましく、0.5〜5質量%が最も好ましい。シランカップリング剤(部分加水分解物含む)の濃度がこの範囲にあると接着性に優れる。シランカップリング剤及びその部分加水分解物には、テトラアルコキシシラン類、TiやAlのアルコキシド類を混合して用いてもよく、前記のシランカップリング剤と共加水分解し、その部分の共加水分解物として用いてもよい。
【0024】
接触の方法は、特に限定されず、シランカップリング剤含有液にミクロフィブリル化セルロースを浸漬する方法、シランカップリング剤含有液をミクロフィブリル化セルロースにディッピング、スピンコート、スプレー、ハケ塗り、ロールコート等の方法で塗布する方法などが挙げられる。接触時間は適宜選択できる。また、アミノ基を有しないシランカップリング剤を用いるときにはシランカップリング処理液にアミン系添加剤、例えば、トリエチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン、無水ジエチルヒドロキシルアミン、ピリジン、N,N−ジメチルアミノピリジンを添加することが好ましく、トリエチルアミンがより好ましい。アミン系添加剤のモル数は通常添加したシランカップリング剤のモル数に対して5〜30%、好ましくは10〜20%である。
【0025】
上記の接触工程を経たミクロフィブリル化セルロースは処理液から分離されて乾燥工程に供される。分離されたミクロフィブリル化セルロースは、乾燥の前にミクロフィブリル化セルロース内の溶媒を、必要であれば減圧条件下で、徐々に蒸発させることが好ましい。この蒸発工程は、5〜50℃程度、好ましくは20〜40℃程度で、1時間〜1週間程度、好ましくは12時間〜2日間程度である。接触工程によってシランカップリングオリゴマーは、主として水素結合により、ミクロフィブリル化セルロース表面に配列するが、このような蒸発工程による熟成を経ることによって、より均一に配列が進む。
【0026】
乾燥工程は、通常、室温〜150℃、好ましくは80〜130℃程度で実施する。乾燥時間は特に制限されないが1〜180分が好ましく、60〜120分がより好ましい。乾燥は減圧条件で行うことが好ましい。
【0027】
上記のようにしてシランカップリング剤処理されたミクロフィブリル化セルロースを樹脂に配合することができる。ミクロフィブリル化セルロースの配合された樹脂におけるミクロフィブリル化セルロースの含有量は通常、1〜99質量%、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜40質量%である。
【0028】
樹脂の材質は特に限定されないが、例えばポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、フッ素樹脂、アミド樹脂、アセタール樹脂、ポリカーボネート、繊維素プラスチック、ポリグリコール酸、ポリ−3−ヒドロキシブチレート、ポリ−4−ヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバリレートポリエチレンアジペート、ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトン等のポリエステル、ポリエチレングリコール等のポリエーテル、ポリグルタミン酸、ポリリジン等のポリアミド、ポリビニルアルコールなどの熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ケイ素樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂などを使用でき、一種単独又は二種以上組み合わせて使用できるがこれらに限定されない。好ましくは、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート等の生分解性樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;フェノール樹脂;エポキシ樹脂である。
【0029】
生分解性樹脂の例としては、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸、グリコール酸、リンゴ酸、コハク酸、ε−カプロラクトン、N−メチルピロリドン、炭酸トリメチレン、パラジオキサノン、1,5−ジオキセパン−2−オン、水酸化酪酸、水酸化吉草酸などのホモポリマー、コポリマー又はこれらポリマーの混合物が挙げられ、一種単独又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましい生分解性樹脂は、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトンであり、より好ましいのはポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートである。
【0030】
シランカップリング剤処理されたミクロフィブリル化セルロースと樹脂とを複合化する方法は特に限定されず、通常のミクロフィブリル化セルロースを樹脂と複合化する方法を採用できる。例えば、ミクロフィブリル化セルロースより構成されるシートあるいは成形体を樹脂モノマー液に十分に含浸させて熱、UV照射、重合開始剤等によって重合する方法、あるいは、ポリマー樹脂溶液又は樹脂粉末分散液に十分に含浸させて乾燥する方法のほか、ミクロフィブリル化セルロース繊維を樹脂モノマー液中に十分に分散させて熱、UV照射、重合開始剤等によって重合する方法、あるいは、ポリマー樹脂溶液又は樹脂粉末分散液に十分に分散させて乾燥する方法のほか、ミクロフィブリル化セルロースを熱溶融した樹脂液中に混練分散させてプレス成形、押し出し成形、あるいは射出成形する方法等が挙げられる。
【0031】
複合化にあたっては、界面活性剤、でんぷん類、アルギン酸等の多糖類、ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質、タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物、着色剤、可塑剤、香料、顔料、流動調整剤、レベリング剤、導電剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、紫外線分散剤、消臭剤の添加剤を配合してもよい。
【0032】
以上のようにして複合化樹脂を製造することができる。本発明の方法で製造された複合化樹脂は、従来のミクロフィブリル化セルロースとの複合化樹脂よりも機械的強度に優れた樹脂である。この複合化樹脂は他の成形可能な樹脂と同様に成形可能であり、例えば押出成形、射出成形により成形することができる。成形の条件は樹脂の成形条件を必要に応じて適宜調整して適用すればよい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例等により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<試験方法>
以下の実施例及び比較例では次の方法により試験した。
<走査型電子顕微鏡観察>
オートファインコータ(JFC-1600、JEOL)を用いて試料表面をスパッタリング電流:10mA, スパッタリング時間:90秒にてPtコーティングした後、電解放射走査顕微鏡(JSM-6700, JEOL)で観察を行った。
<FT-IR測定>
FT-IR測定にはSpectrum One システムA+(パーキンエルマージャパン)を使用した。アクセサリーとして、ユニバーサルATRアクセサリー(パーキンエルマージャパン)を用いた。分解能: 4cm-1、積算回数: 4回、測定範囲: 400-4000 cm-1の条件にて測定を行った。
<弾性率測定試験>
4cm×0.45cmにカットした試験片を弾性率測定試験に供した。測定機器として、Instron 4411(インストロンジャパン)を使用した。引張速度は1mm/分である。
【0034】
<製造例1:セルロースパルプシート及びミクロフィブリル化セルロースシート>
ミクロフィブリル化セルロース(MFC)繊維「セリッシュ(ダイセル化学工業社)KY-100G」22 g(セルロース含有量:2.2g)をエタノール1000 mLに浸し、ホモジナイザーでファイバーを溶媒中に分散させた。回転数は13500/分、撹拌時間は5分間である。ホモジナイザーは本体: T25ベーシックウルトラタラックス、シャフト: S25N-25F、IKAジャパン株式会社製を使用した。得られたMFC懸濁液を直径18.5 cmのろ紙を用いて吸引濾過し風乾した。得られたMFCのシートをろ紙から剥がしとり、エタノールに浸したのち、120℃で4分間、1MPaの圧力でホットプレスし、平滑なMFCシートを得た(4×7 cm、重量約260mg、厚さ約210μm)。また、比較試料として、市販のパルプシート(ろ紙, #1, アドバンテック製;3.5×4 cm、重量119.9 mg、厚さ120μm)を用いた。また、作成したシート表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した(図1)。図1(a)に示されているように、パルプシートは概ね数十μmの繊維径のファイバーで構成されている。一方、図1(b)に示されているように、MFCシートは概ね数十nmの繊維径を持つファイバーで構成されていることが確認された。
【0035】
<製造例2:二軸混練によるミクロフィブリル化セルロース(MFC)シート作成>
王子製紙製のNBKP(固形分23.6%)を(株)テクノベル製二軸押出機(スクリュー直径:15mm)に入れて解繊する。回転数400/分で、解繊時間は60分である。得られたミクロフィブリル化セルロース(MFC)を水で薄め懸濁液とし、直径18.5cmのろ紙を用いて吸引濾過し風乾した。さらに得られたMFCのシートをろ紙から剥がしとり、エタノールに浸した後、120℃で4分間、1MPaの圧力でホットプレスし、平滑なMFCシートを得た(4×7cm、質量約260mg、厚さ約250μm)。また作成したシート表面を走査顕微鏡(SEM)で観察し、このMFCシートは概ね50nmの繊維径を有するファイバーで構成されていることを確認した。得られたミクロフィブリル化セルロース2.2gをエタノール1000mLに浸し、ホモジナイザーでファイバーを水中に分散させた後は、製造例1と同様に行った。
【0036】
<製造例3:グラインダーによるミクロフィブリル化セルロースシート作製>
日本製紙製のサルファイトパルプ(固形分23.6%)を長径250mmのグラインダー部を有する増幸産業社製のマスコロイダーで解繊する。このグラインダー処理は1回行った。得られたミクロフィブリル化セルロース(MFC)を水で薄め懸濁液とし、直径18.5cmのろ紙を用いて吸引濾過し風乾した。得られたMFCのシートをろ紙から剥がしとり、エタノールに浸した後、120℃で4分間、1MPaの圧力でホットプレスし、平滑なMFCシートを得た(4×7cm、質量約260mg、厚さ約230μm)。このMFCシートは概ね50nmの繊維径を有するファイバーで構成されていた。得られたミクロフィブリル化セルロース2.2gをエタノール1000mLに浸し、ホモジナイザーでファイバーを水中に分散させた後は、製造例1と同様に行った。
【0037】
<実施例1:製造例1によるMFCシートのシランカップリング剤(APS)処理>
エタノール4mL、水lmLの混合溶媒に3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APS、信越シリコーン社製)を滴下し、このシラン化合物濃度を50,100,200,400mmo1/Lとした反応溶液4種を調製した。この調製したシランカップリング溶液に製造例1において作成したMFCシートを浸し、室温下震盪した。二時間後にMFCシートを取り出して、室温下、二日間風乾し、更に、120℃で二時間減圧乾燥した後、ソックスレー抽出器を用いて一晩エタノール洗浄した。洗浄後、120℃で4分間lMPaの圧力でホットプレスした。得られたシートの重量とシランカップリング剤処理前のシートの重量との比較から重量増加率を求め、重量増加率をシートに固定化されたシランカップリング剤量とした。
【0038】
重量増加率(%)=(APS処理後のシート重量一APS処理前のシート重量)/(APS処理前のシート重量)×100
固定化されたAPS量は、6.1%,8.6%,12.2%,13.1%であった。一晩のエタノール洗浄にもかかわらずシート重量が増加したことから、MFCとシランカップリング剤とが強く結合していることが示唆された。また、FT―IRを用いてシランカップリング試薬の導入の確認を行った(図2)。図2中、上方のスペクトルはAPS処理MFCシートの測定結果を表し、下方は非処理MFCシートの測定結果を表す。両スペクトルを比較すると、APS処理MFCシートのスペクトルでは1600cm−1付近にピークが現れていた。このピークはシランカップリング剤に含まれていたアミノ基に由来するものと推察され、MFCシート表面にシランカップリング剤が導入されていることが示唆された。
【0039】
<比較例1:セルロースパルプシートのシランカップリング剤(APS)処理>
エタノール4mL、水lmLの混合溶媒に3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APS、信越シリコーン社製)を400mmol/L濃度となるように滴下した。この調製したシランカップリング溶液に製造例1において作成したパルプシートを浸し、室温下震盪した。二時間後にパルプシートを取り出して、室温下、二日間風乾し、更に、120℃で二時間減圧乾燥した後、ソックスレー抽出器を用いて一晩、エタノール洗浄した。洗浄後、120℃で4分間lMPaの圧力でホットプレスした。得られたシートの重量とシランカップリング剤処理前のシートの重量との比較から重量増加率を求め、重量増加率をシートに固定化されたシランカップリング剤量とした。固定化されたAPS量は9.7%であった。
【0040】
<実施例2:製造例1によるMFCシートのシランカップリング剤(AAPS)処理>
シランカップリング剤としてN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトノエトキシシラン(AAPS、信越シリコーン製)を用いた以外は実施例1と同様にしてシランカップリング剤処理されたシートを製造し、重量増加率を求め、重量増加率をシートに固定化されたシランカップリング剤量とした。固定化されたAAPS量は、6.5%,9.3%,13.0%,16.3%であった。
【0041】
<実施例3:製造例1によるMFCシートのシランカップリング剤(MPS)処理>
シランカップリング剤として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(MPS、信越シリコーン製)を100mmol/L濃度で用い、アミン系添加剤としてトリエチルアミン7.5μLをシランカンプリング剤処理溶液に添加した以外は実施例1と同様にしてシランカップリング剤処理されたシートを製造し、重量増加率を求め、重量増加率をシートに固定化されたシランカップリング剤量とした。固定化されたMPS量は、4.8%であった。
【0042】
<MFCシート又はパルプシートとアクリル樹脂との複合化樹脂の製造>
<実施例4及び比較例2:MFCシート又はパルプシートとアクリル樹脂との複合化樹脂の製造>
実施例1で得られた各々のMFCシート(シランカップリング処理品)と製造例1で得られたMFCシート(シランカップリング未処理品)を、エトキシ化ポリプロピレングリコール#700ジメタクリレート(1206PE、新中村化学工業社)に浸して、室温下、シート内部に樹脂を減圧下(0.09MPa)注入した。この1206PEを含浸したシートをスライドガラスで挟んで紫外線照射装置(F300S,LC−6ベンチトップコンベアー,フュージョンUVシステムズ・ジャパン)を用い、紫外線を照射して(20J/cm)、樹脂を硬化させ、複合化樹脂を製造した。同様にして、パルプシート(シランカップリング処理品と未処理品)についても複合化樹脂を製造した。また、これらシートを用いずに同様にして硬化させた樹脂(コントロール)も製造した。
【0043】
複合化前のシート重量と複合化樹脂重量との差から得られた複合化樹脂の繊維含有率を求め、コントロール樹脂とともに弾性率測定試験に供した。試験により得られた弾性率(MPa)を表1に示す。表1において、繊維の配合量は、複合化樹脂を100とした時の複合化樹脂中のMFC又はパルプ(固定化されたシランカップリング剤を含む)の重量割合を示したものである。
【0044】
また、未処理MFCシート(APS固定化量0%)の複合化樹脂及びPS固定化量6.1%のMFCシートの複合化樹脂については、試験により破断した複合化樹脂の破断面をSEM観察に供した。(図3)。
【0045】
【表1】

【0046】
複合化樹脂における繊維量はなるべく同じくらいとなるようにした。パルプのシランカップリング剤処理(9.7%)における弾性率の増加は14.0%であったがMFCのシランカップリング剤処理(8.6%)における弾性率の増加は78.3%であった。
【0047】
図3では、左列において、APS導入率0%のMFC複合化樹脂の破断面のSEM写真(上段400倍;下段2000倍)が示され、右列において、APS導入率6.1%のMFC複合化樹脂の破断面のSEM写真(上段400倍;下段2000倍)が示されている。
【0048】
APS導入率0%のMFC複合化樹脂の破断面は6.1%のものと比較して、広範囲にわたり、破断の際に引き抜けた繊維が観察された。これは、APS導入率0%のMFC複合化樹脂は、繊維と樹脂との相溶性が低いために、繊維一樹脂界面において剥離が生じたためと考えられ、他方APS導入率6.1%のMFC複合化樹脂では繊維と樹脂との相溶性が高く、界面における剥離が生じにくいと考えられる。
【0049】
<実施例5:MFCシートとアクリル樹脂との複合化樹脂の製造>
実施例2で製造したAAPS処理MFCシートを使用した以外は、実施例4及び比較例2と同様にして繊維含有率を求め、弾性測定試験を行った。試験により得られた弾性率(MPa)を表2に示した。AAPS処理MFCの配合した樹脂においても非常に大きな弾性率の増加が確認された。
【0050】
【表2】

【0051】
<実施例6:MFCシートとアクリル樹脂との複合化樹脂の製造>
実施例3で製造したMPS処理MFCシートを使用した以外は、実施例4及び比較例2と同様にして繊維含有率を求め、弾性率測定試験を行った。試験により得られた弾性率(MPa)を表3に示した。MPS処理MFCの配合した樹脂においても非常に大きな弾性率の増加が確認された。
【0052】
【表3】

【0053】
<実施例7:製造例2によるMFCシートのシランカップリング剤(APS)処理>
エタノール4mL、水lmLの混合溶媒に3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APS、信越シリコーン社製)を滴下し、このシラン化合物濃度を400mmo1/Lとした反応溶液を調製した。この調製したシランカップリング溶液に製造例2において作成したMFCシートを浸し、室温下震盪したほかは、実施例1と同様にし、得られたシートの重量とシランカップリング剤処理前のシートの重量との比較から重量増加率を求め、重量増加率をシートに固定化されたシランカップリング剤量とした。固定化されたAPS量は15.0%であった。
【0054】
<実施例8:製造例3によるMFCシートのシランカップリング剤(APS)処理>
エタノール4mL、水lmLの混合溶媒に3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APS、信越シリコーン社製)を滴下し、このシラン化合物濃度を400mmo1/Lとした反応溶液を調製した。この調製したシランカップリング溶液に製造例3において作成したMFCシートを浸し、室温下震盪したほかは、実施例1と同様にし、得られたシートの重量とシランカップリング剤処理前のシートの重量との比較から重量増加率を求め、重量増加率をシートに固定化されたシランカップリング剤量とした。固定化されたAPS量は13.7%であった。
【0055】
<実施例9:製造例2によるMFCシートとアクリル樹脂との複合化樹脂の製造>
実施例7で製造した二軸押出機によるAPS処理MFCシートと製造例2で製造したAPS未処理MFCシートを使用した以外は、実施例4及び比較例2と同様にして繊維含有率を求め、弾性率測定試験を行った。試験により得られた弾性率(MPa)を表4に示した。APS処理MFCの配合した樹脂においても非常に大きな弾性率の増加が確認された。図4では、左列において、APS導入率0%のMFC複合化樹脂の破断面のSEM写真(上段400倍;下段2000倍)が示され、右列において、APS導入率15.0%のMFC複合化樹脂の破断面のSEM写真(上段400倍;下段2000倍)が示されている。
【0056】
【表4】

【0057】
<実施例10:製造例2によるMFCシートとフェノール樹脂との複合化樹脂の製造>
実施例7で製造した二軸押出し機によるAPS処理MFCシートと製造例2で製造したAPS未処理MFCシートを、フェノール樹脂(大日本インキ株式会社製)に浸して、室温下、シート内部に樹脂を減圧下(30mmHg)で注入し、圧力5MPa、温度150℃で加熱加圧して硬化させ、複合化樹脂を製造した。同様にしてパルプシート(シランカップリング処理品と未処理品)についても複合化樹脂を製造した。また、これらシートを用いずに同様にして硬化させた樹脂(コントロール)も製造した。実施例7と同様にして繊維含有率を求め、弾性率試験を行った。
【0058】
複合化前のシート重量と複合化樹脂重量との差から得られた複合化樹脂の繊維含有率を求め、コントロール樹脂とともに弾性率測定試験に供した。試験により得られた弾性率(GPa)を表5に示す。表5において、繊維の配合量は、複合化樹脂を100とした時の複合化樹脂中のMFC又はパルプ(固定化されたシランカップリング剤を含む)の重量割合を示したものである。
【0059】
【表5】

【0060】
<実施例11:ミクロフィブリル化セルロース(MFC)とポリプロピレンの複合化樹脂の製造>
王子製紙製のNBKP(固形分23.6%)に3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APS、信越シリコーン社製)をNBKP固形分に対して5質量%添加し攪拌した。得られたNBKP/APS混合物を(株)テクノベル製二軸押出機(スクリュー径:15mm)に入れて解繊した(解繊条件:回転数400/分、解繊時間60分)。得られたミクロフィブリル化セルロース(MFC)/APS混合物を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、概ね50nmの繊維径を有するファイバーで構成されていることを確認した。
【0061】
またAPSを添加していないNBKPに対しても二軸混練機にて解繊し、MFCを調製した。APSを添加したMFCと添加してないものの比較から重量増加率を求め、重量増加率をファイバーに固定化されたシランカップリング剤量とした。
【0062】
重量増加率(%)=(APS処理されたNBKPを解繊したもの−NBKPを解繊したもの)/(NBKPを解繊したもの)×100
得られたミクロフィブリル化セルロース(MFC)/APS混合物に対して80質量%のポリプロピレン(商品名MA3、日本ポリプロ株式会社製)を添加し攪拌機にて混合したものをラボプラストミル(東洋精機製;MODEL 30C 150)にて溶融混練(混練条件;180℃、回転数40RPMにて15分間)した。
得られた混合物をプレスにて成型機((株)神藤金属工業所)にてプレス成形をし、シートを作成した。ポリプロピレン混合前のミクロフィブリル化セルロース(MFC)/APS混合物重量と複合化シート重量との差から繊維含有率を求めた。
【0063】
APSを添加していないMFCに関しても同様に複合化シートを作成した。得られたシート2種をコントロール樹脂をシート化したものについて弾性率測定試験を行った。試験により得られた弾性率(GPa)を表6に示す。表6において繊維の配合量は、複合化樹脂を100とした時の複合化樹脂中のMFC(固定化されたシランカップリング剤を含む)の重量割合を示したものである。
【0064】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明はMFCを使用する分野で利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1(a)は製造例において製造されたセルロースパルプシートのSEM写真(250倍)であり、スケールバーは100μmを表す。図1(b)は製造例において製造されたMFCシートのSEM写真(20000倍)であり、スケールバーは1μmを表す。
【図2】図2は、実施例1(上方スペクトル)及び比較例1(下方スペクトル)において測定されたFT-IRのスペクトルを表す。縦軸は吸光度(%)、横軸は波数(cm-1)を示す。
【図3】図3は実施例4及び比較例2において撮影された複合化樹脂の破断面のSEM写真を表す。左列は、APS導入率0%のMFC複合化樹脂の破断面のSEM写真(上段400倍;下段2000倍)を表し、右列は、APS導入率6.1%のMFC複合化樹脂の破断面のSEM写真(上段400倍;下段2000倍)を表す。
【図4】図4は実施例9において撮影された複合化樹脂の破断面のSEM写真を表す。左列は、APS導入率0%のMFC複合化樹脂の破断面のSEM写真(上段400倍;下段2000倍)を表し、右列は、APS導入率15.0%のMFC複合化樹脂の破断面のSEM写真(上段400倍;下段2000倍)を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シランカップリング剤で表面処理してなるミクロフィブリル化セルロース。
【請求項2】
シランカップリング剤がアミノ基を有するものである請求項1に記載のミクロフィブリル化セルロース。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のミクロフィブリル化セルロースを含有する樹脂。
【請求項4】
ミクロフィブリル化セルロースをシランカップリング剤処理することを特徴とする請求項1に記載のミクロフィブリル化セルロースの製造方法。
【請求項5】
シランカップリング剤がアミノ基を有するものである請求項4に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−266630(P2008−266630A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−82027(P2008−82027)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】