説明

表面被覆切削工具

【課題】従来に比べて厚い被膜をPVD法で形成することにより優れた耐摩耗性を有するとともに、形成時や切削加工時に被膜が破壊されることを低減した表面被覆切削工具を提供することにある。
【解決手段】本発明の表面被覆切削工具は、基材と、該基材上に形成された被膜とを含む表面被覆切削工具であって、上記被膜は、15μm以上50μm以下の厚みを有する物理蒸着層であって、X線回折において(200)面配向を示し、その(200)面におけるピークの半価幅2θが0.1°<2θ<0.9°を満たす柱状組織を含み、この柱状組織は、複数の柱状晶を含み、基材表面から垂直方向2μmの位置であって基材表面に対して平行な所定の長さの線分上において、基板表面に対して垂直方向の長さが2.5μm以上4μm以下である柱状晶が上記線分の50%以上80%以下を占めることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材と該基材上に形成された1以上の層からなる被膜とを含む表面被覆切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料の切削加工においては各種の切削工具が使用されている。たとえば、CVD(化学蒸着)工具、PVD(物理蒸着)工具、サーメット工具、超硬工具、セラミック工具があり、これらの切削工具は用途に応じて使用されている。このうち、CVD工具とは、基材上にCVD法による被覆層(セラミックコーティング)が形成された工具であり、一般に耐剥離性に優れるとともに、耐熱性に優れるアルミナ膜を形成することができるので、鋼の旋削工具用途で主に使用されている。また、PVD工具とは、基材上にPVD法による被覆層(セラミックコーティング)が形成された工具であり、被覆層中に圧縮残留応力を有するので耐欠損性に優れており、機械的衝撃が大きなフライス用途で主に使用されている。一方、サーメット工具、超硬工具、セラミック工具とは、上記のような被覆層を有さない工具である。
【0003】
近年、切削速度の高速化に伴い、上記のようなCVD工具やPVD工具の使用割合が増加している。
【0004】
また、昨今、切削加工業界においては、時間当たりの生産性を高めるため、高速・高能率加工に対する要求が高まっており、CVD工具の厚膜化(すなわち厚い被覆層を形成すること)が進められている。しかし、CVD工具では基材とアルミナ膜やTiCN膜等の被覆層との熱膨張係数差に起因して、15μm程度に厚膜化すると膜中に大きな引張残留応力が発生して膜強度が低下するとともに、膜の面粗さが大きくなって膜の耐剥離性が低下するという問題が生じていた。このため、CVD法により被覆層を形成した後にこの被覆層に対してブラスト処理を施したり、磨き処理を施すなどの表面処理技術が実施されている(特許文献1)。しかし、CVD法により形成した被覆層全体の引張残留応力を開放することは難しく、15μm以上の被覆層を形成した厚膜CVD工具の耐欠損性を安定させることは困難であった。
【0005】
これに対して、PVD工具はPVD法により形成された被覆層中に圧縮残留応力を付与することができるため、旋削加工でも断続切削などの機械的衝撃の激しい用途において優れた切削性能を期待できる。このような点から、PVD法を利用したものとして、X線回折において(200)面に最高ピークを有し、かつ最高ピークの半価幅が2θで0.6°以下である回折パターンを示すTi−Al複合炭化物層を設けることが検討されている(たとえば、特許文献1)。また、TiAlNにCrおよびOを含む被膜であって、X線回折において(200)面に最高ピークを有し、最高ピークの半価幅が2θで0.4°以上0.7°以下の回折パターンを示す被膜により、耐酸化性や摺動性を改善させることが提案されている(たとえば、特許文献2)。
【特許文献1】特開2003−136302号公報
【特許文献2】特開2003−165003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1には、該文献に開示された組成の被膜では、15μm以上の厚膜化を行なう場合にはチッピングが発生しやすくなることが記載されており、厚膜化による工具寿命の延長を望めるものではなかった。また、特許文献2に開示された組成の被膜においては、(200)面のピーク半価幅を上記範囲とするにはエピ成長をさせる必要があり、そのためには成膜速度0.1um/hとしなければならず、生産性に乏しいものであった。また、得られた被膜も耐摩耗性と工具寿命を両立したものではなかった。このため工具寿命をさらに延長させることが求められていた。特に15μm以上の厚みを有する被覆層を形成したCVD工具に対して、耐摩耗性の点で優位性を有する工具寿命の長い厚膜PVD工具の開発が望まれていた。
【0007】
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、厚い被覆層をPVD法で形成することにより優れた耐摩耗性を有するとともに、該被覆層の形成時に被覆層が破壊されたり切削加工時に被覆層が破壊されたりすることを低減した表面被覆切削工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の表面被覆切削工具は、基材と、該基材上に形成された1以上の層からなる被膜とを含む表面被覆切削工具であって、上記被膜は、15μm以上50μm以下の厚みを有する物理蒸着層であって、X線回折において(200)面配向を示し、その(200)面におけるピークの半価幅2θが0.1°<2θ<0.9°を満たす柱状組織を含み、この柱状組織は、複数の柱状晶を含み、基材表面から垂直方向2μmの位置であって基材表面に対して平行な所定の長さの線分上において、基板表面に対して垂直方向の長さが2.5μm以上4μm以下である柱状晶が上記線分の50%以上80%以下を占めることを特徴とする。
【0009】
上記被膜は、積算残留応力が−1GPa以上1GPa以下であることが好ましい。また、X線回折における(200)面と(111)面のピーク強度の比I(200)/I(111)が、10<I(200)/I(111)<40であることが好ましい。
【0010】
上記被膜は、少なくとも1層が、周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素、または、該元素の少なくとも1種と、硼素、酸素、炭素、および窒素からなる群より選択される少なくとも1種の元素とからなる化合物により構成される硬質被膜層により構成されることが好ましい。
【0011】
上記被膜は、少なくとも1層が、少なくともTiを含む窒化物、炭窒化物、窒酸化物または炭窒酸化物により構成されることが好ましい。
【0012】
また、本発明の表面被覆切削工具は、上記被膜上に窒化アルミニウム、窒化シリコン、Al化合物の窒化物およびSi化合物の窒化物のいずれかにより構成される最表面層をさらに備え、該最表面層は、その厚みが0.2μm以上2μm以下であることが好ましい。
【0013】
本発明における表面被覆切削工具の基材は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶型窒化硼素焼結体、またはダイヤモンド焼結体により構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、形成時や切削加工時に被覆層が破壊されることなく、また、被覆層と基材との密着性に優れるので、切削加工における耐摩耗性を改善した表面被覆切削工具を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
<表面被覆切削工具>
本発明の表面被覆切削工具は、基材と、該基材上に形成される1以上の層からなる被膜とを備えるものである。このような構成を有する本発明の表面被覆切削工具は、たとえばドリル、エンドミル、フライス加工用または旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、またはクランクシャフトのピンミーリング加工用チップ等として有用である。
【0016】
このように本発明の表面被覆切削工具は各種用途に用いることができるものであるが、なかでも従来CVD工具が主として用いられていた旋削用として用いる場合、本発明の効果の発現が顕著である。すなわち、本発明の表面被覆切削工具は、このような旋削用の用途において、従来の厚膜CVD工具に代替するものであり、厚膜CVD工具に比し各種の物性が改善されおり、その結果工具寿命が延長されたものである。それゆえ、高速および高能率加工に極めて有効である。
【0017】
<基材>
本発明の表面被覆切削工具の基材としては、上記のような切削工具の基材として知られる従来公知のものを特に限定なく使用することができる。たとえば、超硬合金(たとえばWC基超硬合金、WCの他、Coを含み、あるいはさらにTi、Ta、Nb等の炭窒化物等を添加したものも含む)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化硅素、窒化硅素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、およびこれらの混合体など)、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体等をこのような基材の例として挙げることができる。
【0018】
そして、本発明の基材として特に好ましくは超硬合金を挙げることができ、WCの結晶粒を含み、該結晶粒の平均粒径が0.3μm以上2.5μm以下となる超硬合金を特に好適に用いることができる。上記平均粒径は、より好ましくは0.4μm以上2μm以下、さらに好ましくは0.5μm以上1.5μm以下である。
【0019】
通常、鋼旋削用CVD工具の基材として用いられる超硬合金に含まれるWCの結晶粒の平均粒径は3〜5μmである。CVD法により形成される被覆層は引張残留応力を有するため、製造工程でその被覆層中に亀裂が導入されており、被覆層の厚み分だけ予め亀裂が導入された状態になっている。このため、WCの結晶粒の粒度は上記のように3〜5μmと大きくして亀裂進展抵抗を高めている。これに対し、本発明のようにPVD法で被覆した被覆層には亀裂は原則的に存在しないため、亀裂進展抵抗を高めておく必要性は小さく、逆にその平均粒径を0.3〜2.5μmの範囲とすることにより、基材の硬度を高くすることができ耐摩耗性を向上できるほか、強度も大きくなり、優れた耐欠損性を期待できる。さらに、WCの結晶粒の平均粒径をこの範囲とすることにより後述のように基材と被覆層との界面において被覆層を形成する結晶粒がWCの結晶粒と整合して成長することができ、これにより被覆層が微粒化して超硬基材との密着力を向上することができる。このため、切削工具として優れた耐剥離性を実現できる。このようなWCの結晶粒の平均粒径は、走査型電子顕微鏡や結晶方位解析装置を用いて基材表面(被覆層との界面領域)中の所定の長さを有する任意の線分(この線分は基材表面に平行な位置関係を有するものとする)上に存在するWCの結晶粒の個数を測定することにより、その所定長さ中に存在するWCの結晶粒の長さをその個数で除することによって求めるものとする。その測定される線分の所定長さは、2〜100μm程度とすることが好ましく、より好ましくは5〜50μm程度とするのが好適である。誤差を排除し、基材全体の数値を代表するのに十分なものであると考えられるからである。
【0020】
なお、このような平均粒径のWCの結晶粒を含む超硬合金は、原料としてそれぞれ平均粒径0.1〜2.5μmのWC粉末、Co粉末、およびこの両者に加え必要に応じCr32粉末、VC粉末、NbC粉末、TiC粉末、およびTaC粉末等から選ばれる少なくとも1種の粉末を、所定の配合比でエタノール中において粉砕混合し、その混合粉末を乾燥後プレス成形し、その成形体を真空中1400℃前後の高温で焼結することによって製造することができる。
【0021】
上記基材として超硬合金を使用する場合、超硬合金を構成する組織中に遊離炭素やη相と呼ばれる異常相を含んでいても本発明の効果は示される。
【0022】
なお、本発明で用いる基材は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。たとえば、超硬合金の場合はその表面に脱β層が形成されていたり、サーメットの場合には表面硬化層が形成されていたりしてもよく、このように表面が改質されていても本発明の効果は奏される。
【0023】
<被膜>
本発明の表面被覆切削工具は、上記基材上に形成された1以上の層からなる被膜を含む。該被膜は、2以上の層からなるものでもよい。上記被膜は、その厚み(2以上の層からなる場合は、その合計厚み)が15μm以上50μm以下である。被膜の厚みは20μm以上であることが好ましく、また35μm以下であることが好ましい。被膜の厚みが15μm未満の場合では、工具寿命が十分に改善されたものとなり難い傾向があり、50μmを超える場合は、本発明の効果が発揮されない場合がある。一方、被膜の厚みが本発明の範囲を満たす場合は、高速加工における耐摩耗性および耐欠損性が向上し、その結果工具寿命を大幅に延長することが可能となる。
【0024】
ここで、本発明において、被覆の厚みは刃先部における厚みをいい、たとえば表面被覆切削工具の基材上に形成された被膜の厚みのうち、すくい面の刃先部における被膜の厚みをいう。
【0025】
<物理蒸着層>
上記厚みを有する本発明における被膜は、物理蒸着層からなることで本発明の効果を奏するものである。ここで、物理蒸着層とは、PVD(物理蒸着)法により形成される被膜をいう。本発明でいうPVD法とは、特に限定されるものではなく、たとえばスパッタリング法、イオンプレーティング法、蒸着法等公知の方法を挙げることができる。また、上記被膜が2以上の層からなる場合は、各層が物理蒸着層からなり、その各層の合計厚みが上記範囲を満たすものとする。
【0026】
なお、上記のような厚みを有する被膜をCVD法により形成する場合は、得られた被膜の耐欠損性が改善されず、本発明の被膜のような物性および効果を奏するものは得られない。これは、CVD法においては、形成時において引張応力を開放することが困難であるためと考えられる。
【0027】
<配向性>
本発明における上記被膜は、X線回折において(200)面配向を示す。被膜が2以上の層からなる場合は、各層がX線回折において(200)面配向を示すものである。被膜における結晶構造が上記のように(200)面配向を示す場合は、切削加工において耐欠損性の点が優れる。
【0028】
<半価幅>
上記被膜は、X線回折の(200)面におけるピークの半価幅が2θで0.1°以上0.9°以下を満たす。ピークの半価幅は2θで0.2°以上であることが好ましく、また、0.5°以下であることが好ましい。なお、上記配向性と同様に、被膜が2以上の層からなる場合は、その各層のX線回折における(200)面におけるピークの半価幅が上記範囲を満たすものとする。上記半価幅が小さいと結晶性が良好であり、大きいと結晶性が劣ることを示す。ここで、上記半価幅が本発明の範囲よりも小さい場合は、被膜を構成する結晶に歪み(欠陥が)ほとんど存在しない状態となる。このような状態では、基材上に形成されていく結晶粒子が3次元的に粗大化する傾向があり、上記のような厚みの被膜を形成する際に膜破壊が起こる場合がある。他方、上記半価幅が本発明の範囲よりも大きい場合は、被膜を構成する結晶に導入される歪み(欠陥)が非常に多くなり、そのような欠陥が切削加工時における拡散の拠点となり、耐摩耗性が改善されない場合や、低下する場合がある。
【0029】
<ピーク強度>
上記被膜は、X線回折における(200)面と(111)面のピーク強度の比I(200)/I(111)が、10<I(200)/I(111)<40を満たすことが好ましい。ピーク強度の比I(200)/I(111)は、20以上であることがより好ましく、また、35以下であることがより好ましい。
【0030】
上記ピーク強度の比が10以下の場合は、被膜全体の結晶性が悪くなり、耐摩耗性が不十分となる場合がある。また、上記ピーク強度の比が40以上の場合は、膜組織が疎になり、耐摩耗性が低下する場合がある。一方、上記ピーク強度の比が10<I(200)/I(111)<40を満たす場合は、被膜を構成する結晶の成長方向が揃う傾向にあり、この場合被膜全体の結晶性を良好なものとすることができる。また、結晶成長過程において、成長方向の異なる結晶粒が隣接することが少なく、粒子間の歪みの発生を抑制することができるので、結晶性を良好に保つことができる。その結果、上記のように耐摩耗性等に優れた表面被覆切削工具を提供することができる。
【0031】
<X線回折>
本発明において、上記配向性、半価幅、ピーク強度はθ−2θ法により決定する値をいう。
【0032】
上記θ−2θ法は、基材表面の法線を、常にX線の入射方向と回折線の検出器の方向とを二等分するように配置して測定を行ない、基材表面に平行な結晶面からの回折線のみを検出する公知の方法である。具体的には、X線発生装置から発生するX線と測定対象の表面とのなす角をθとしたとき、試料の回転角θを変化させてX線受光装置の回転角2θを変化させる配置で、各2θに対する回折強度をプロットする。なお、用いるX線はCu−Kα線とする。
【0033】
また、X線回折において得られるピークが重複する場合は、正規分布(ガウス分布)でフィッティングしてピーク分離を行ない、それぞれのピークを決定する。
【0034】
<柱状組織>
本発明の上記被膜は柱状組織を含むものである。この柱状組織とは、複数の柱状晶を含むものをいう。ここで、本発明において柱状晶とは、結晶の平均粒径(基板平行方向の幅)が0.1μm以上2.5μm以下であり、結晶の長さ(基板表面に対して垂直方向の長さ)が0.1μm以上10μm以下のものをいう。
【0035】
上記被膜においては、基材表面から垂直方向(垂直上方向)2μmの位置であって基材表面に対して平行な所定の長さの線分上において、基板表面に対して垂直方向の長さが2.5μm以上4μm以下である柱状晶が上記線分の50%以上80%以下を占める。被膜の基材からの厚みが2μmの位置において、上記のように基板表面に対して垂直方向の長さが特定の範囲を満たす柱状晶が前記線分の50%以上を占める場合は、被膜の厚みを15μm以上と厚膜化しても、基材と被膜や被膜間の密着力を維持することが可能となる。一方、前記線分の50%未満または80%を超えて上記のように基板表面に対して垂直方向の長さが特定の範囲を満たす柱状晶が存在する場合は、被膜の強度が不足し、厚みを増大させる際に膜剥離が生じる。なお、上記のように基板表面に対して垂直方向の長さが特定の範囲にある柱状晶の平均径は、特に限定されるものではないが、密着力をより強固にできることから、0.1μm〜1μm程度の平均径を有することが好ましい。また、所定の線分の長さは任意に設定すればよく、たとえば20μmの線分における占有率により規定することができる。
【0036】
なお、基材表面から垂直方向2μmの位置に存在する柱状晶は、被膜の形成初期段階において形成されるものであって、基材初期段階の結晶状態を特定の柱状晶により構成することにより、上記のように厚膜化した場合においても基材と被膜との密着力を維持することが可能となる。
【0037】
このような柱状晶のサイズは、EBSD(Electron Back Scatter Diffraction Patterns)法により得られる結晶方位分布(結晶方位マップ)を実測することにより求めることができる。
【0038】
<積算残留応力>
本発明においては、上記被膜の積算残留応力が−1GPa以上1GPa以下であることが好ましい。被膜の積算残留応力は−0.7GPa以上であることがより好ましく、−0.5GPa以上であることがさらに好ましい。また、積算残留応力は0.2GPa以下であることがより好ましく、0GPa以下であることがさらに好ましい。被膜の積算残留応力がこのような範囲を満たす場合は、被膜が比較的小さな圧縮応力を有することを示し、旋削加工における耐欠損性を高めることができ、工具特性の信頼性に優れる。
【0039】
なお、上記圧縮応力(圧縮残留応力)とは、被膜に存する内部応力(固有ひずみ)の一種であって、負の数値(単位:GPa)で表されるものである。一方、引張応力(引張残留応力)とは、被膜に存する内部応力の一種であって、正の数値(単位:GPa)で表されるものである。このような圧縮応力および引張応力はともに被膜内部に残存する内部応力であることから、本発明においてこれらをまとめて単に残留応力(便宜的に0GPaも含む)と表現することもある。
【0040】
また、上記積算残留応力とは、被膜の全体厚みにおける平均残留応力をいい、この積算残留応力は、X線を用いたsin2ψ法により測定することができる。sin2ψ法は、多結晶材料の残留応力の測定方法として広く用いられており、「X線応力測定法」(日本材料学会、1981年株式会社養賢堂発行)の54〜66頁に詳細に説明されている。本発明における積算残留応力とは、まず並傾法と側傾法とを組み合わせて試料に対するX線の侵入深さを固定し、測定する応力方向と測定位置に立てた試料表面法線を含む面内で種々のψ方向に対する回折角度2θを測定して2θ−sin2ψ線図を作成し、作成した線図の勾配から所望の深さ(被膜の表面からの距離)までの残留応力の平均値をいう。たとえば、X線の進入深さを0.02μmごとに変更して測定して上記線図を作成し、その線図から平均残留応力(積算残留応力)を求めることができる。
【0041】
より具体的には、X線源からのX線を試料に所定角度で入射させ、試料で回折したX線をX線検出器で検出し、該検出値に基づいて内部応力を測定するX線応力測定方法において、試料の任意箇所の試料表面に対して任意の設定角度でX線源よりX線を入射させ、試料上のX線照射点を通り試料表面で入射X線と直角なω軸と、試料台と平行でω軸を回転させた時に入射X線と一致するχ軸を中心に試料を回転させるときに、試料表面と入射X線とのなす角が一定となるように試料を回転させながら、回折面の法線と試料面の法線とのなす角度ψを変化させて回折線を測定することによって、試料内部の残留応力を求めることができる。
【0042】
なお、残留応力の測定において用いるX線源としては、X線源の質(高輝度、高平行性、波長可変性等)の点で、シンクロトロン放射光(SR)を用いることが好ましい。
【0043】
ここで、残留応力を上記のように2θ−sin2ψ線図から求めるためには、測定対象である被膜のヤング率とポアソン比が必要となる。該ヤング率はダイナミック硬度計等を用いて測定することができ、ポアソン比は材料によって大きく変化しないため0.2前後の値を用いればよい。また、一般に、2θ−sin2ψ線図から残留応力を求めるに際して、ヤング率を用いることなく格子定数および格子面間隔を求めることにより残留応力の強度分布の代用とすることもできる。
【0044】
<被膜の組成>
本発明の表面被覆切削工具の基材上に形成される被膜は、1以上の層を含むものである。すなわち、本発明における被膜は、被膜全体として上記のような物性を満足するものであれば、単一組成の1層のみから構成されていてもよいし、互いに組成の異なる2以上の層によって構成されていてもよい。なお、本発明における被膜は、基材上の全面を被覆するもののみに限られるものではなく、部分的に被膜が形成される態様も含む。
【0045】
本発明における被膜は、工具の耐摩耗性、耐酸化性、靭性、使用済み刃先部の識別のための色付性等の諸特性を向上させる作用を付与するために形成されるものであり、その組成は特に限定されるものではなく従来公知のものを採用することができる。
【0046】
本発明の被膜は、たとえば、元素周期律表のIVa族元素(Ti、Zr、Hf等)、Va族元素(V、Nb、Ta等)、VIa族元素(Cr、Mo、W等)、Al(アルミニウム)、およびSi(シリコン)からなる群より選択される少なくとも1種の元素、または該元素の少なくとも1種と、硼素、酸素、炭素および窒素からなる群より選択される少なくとも1種の元素とからなる化合物により構成される硬質皮膜層により構成されることが好ましい。窒素を含有すると靭性に優れ、厚膜化しても被膜が破壊しにくいため好ましい。炭窒化物は耐クレータ性に優れるため好ましく、酸化物は耐酸化性と耐溶着性に優れるため好ましい。なお、上記少なくとも1種の元素のみからなるものをその組成とすることもできる。
【0047】
上記硬質被膜層は、単層であっても、多層または超多層であってもよい。ここで、多層とは2以上の層であり、なかでも性質および組成の相異なる2以上の層を数nm〜数百nmの厚みで100〜10000層程度積層したものを特に超多層(通常上下交互または繰り返し積層されるもの)という。超多層の場合、相異なる複数のターゲットを使用し、各層の厚みがnmレベルであることから、成膜速度に優れ、また、相異なる性質および組成の層を組み合わせることで被膜の硬度や断熱性、耐酸化性などの膜特性が向上するので好ましい。
【0048】
本発明において被膜を構成する層のうち少なくとも1層は、少なくともTiを含む(TiおよびTi化合物のいずれかの)窒化物、炭窒化物、窒酸化物または炭窒酸化物により構成されることが好ましい。このような窒化物等の化合物は、鋼に対する耐溶着性および耐摩耗性に特に優れるため、高速度および高性能の切削特性が特に要求される鋼加工において有効である。
【0049】
上記少なくともTiを含む窒化物、炭窒化物、窒酸化物または炭窒酸化物としては、たとえば、Ti、(Ti1-xAlx)、(Ti1-xCrx)、(Ti1-xMox)、(Ti1-xZrx)、(Ti1-xSix)、(Ti1-xHfx)、(Ti1-xNbx)、(Ti1-xx)、または(Ti1-x-yAlxSiy)の窒化物、炭窒化物、窒酸化物または炭窒酸化物(式中x、yは1以下の任意の数)等や、これらにさらにB、Cr等を含むものも含むもの等を例示することができる。なお、上記において、窒素、酸素、炭素の原子比は特に限定されず、目的に応じていずれの値も採用することができる。
【0050】
上記少なくともTiを含む窒化物、炭窒化物、窒酸化物または炭窒酸化物としては、具体的には、TiCN、TiN、TiSiN、TiSiCN、TiAlN、TiAlCrN、TiAlSiN、TiAlSiCrN、TiBN、TiAlBN、TiSiBN、TiBCN、TiAlBCN、TiSiBCN等を挙げることができる。なお、これらの組成中、各原子比は上記一般式の例に倣うものとする。なお、本発明において、他の化合物の化学式を示す場合において、特に原子比を示さない場合は、原子比を任意に選択できるものとする。
【0051】
<最表面層>
本発明の表面被覆切削工具は、上記のような物性を有する被膜上に、さらに、窒化アルミニウム、窒化シリコン、Al化合物の窒化物およびSi化合物の窒化物のいずれかにより構成される最表面層を備えることが好ましく、該最表面層は、その厚みが0.2μm以上2μm以下であることが好ましい。このような最表面層を備える場合は、鋼に対する耐溶着性をさらに向上させることができる。
【0052】
上記Al化合物の窒化物およびSi化合物の窒化物をそれぞれAlMeN、SiMeNと表記する場合、MeとしてはHf、Zr、Cr、Tiなどを例示することができる。これらの化合物において原子比は特に限定されるものではないが、AlまたはSiに対してMeの原子比(%)が2<Me<15であることが好ましい。Meを上記範囲で含む化合物により最表面層を形成する場合は、高温での切削特性をさらに改善することができ、その結果切削工具の寿命を長くすることができる。
【0053】
また、上記最表面層を備える場合は、その厚みが0.2μm以上2μm以下であることが好ましい。該厚みは、0.5μm以上であることがより好ましい。最表面層をこのような厚み範囲で設けることにより、上記のような耐溶着性および高温での切削特性といった効果の発現を良好にすることができる。
【0054】
<被膜の形成方法>
本発明における被膜は物理蒸着層であるため、PVD法(物理蒸着法)により形成されるが、上述のようにPVD法による限りいずれのPVD法によっても形成することができる。その形成方法の種類は特に限定されないが、なかでも、イオンプレーティング法は、成膜条件の制御が容易であり、また膜組成などの精度が比較的高い点で好ましい方法のひとつである。
【0055】
また、上記のような被膜の特性(配向性、半価幅、柱状晶の存在比等)は、本発明者の研究によると、被膜形成時の基材温度を制御することにより調整することが可能であることが明らかとなった。
【0056】
すなわち、通常、結晶性を向上させる目的で成膜温度を高くするが、高温条件で一定に保持して被膜を形成した場合には、各結晶粒が3次元に放射状に成長し、特に100nmを超える場合は、この3次元の放射状の結晶粒の成長を抑制することができないことがわかった。そして、このような現象は、結晶粒が3次元に放射状に成長する前に基材の温度を低下させて結晶成長を制御することにより3次元成長を抑制できることを本発明者は見出した。一方、基材の温度を低下させて被膜を成形しつづけると、この場合も結晶性が悪化するため、本発明の上記のような特性を有する被膜を形成するためには、成膜において、基材温度を高温と低温の交互の状態とすることが必要であることがわかった。
【0057】
上記のような基材温度は、形成する被膜や基材の種類により特に限定されるものではないが、たとえば高温とは700℃以上850℃以下の範囲、低温とは400℃以上650℃以下の範囲を例示することができる。また、上記のような結晶成長の制御の点からは、高温条件による成膜は100nm以下とすることが好ましく、低温条件により成膜は、たとえば500nm以下とすることが好ましい。基材表面から300nm程度の被膜形成の初期領域において、被膜を形成する結晶粒子のサイズは基材を構成する粒子サイズの影響を大きく受けるので、初期領域の被膜は上述のような高温条件で形成することが好ましい。
【0058】
また、被膜における残留応力については、被膜形成時の基材温度およびバイアス電圧等を制御することにより、所望の物性を付与できることが本発明者らの研究により明らかとなった。
【0059】
すなわち、基材に対して大きな基材バイアス電圧をかけると、被膜を構成する元素がイオン状態で基材に対して高エネルギーで供給されるため、イオン状態の元素が基材に衝突するときの衝撃が大きくなり、その結果、形成される被膜の圧縮応力が大きくなる(負の応力値の絶対値が大きくなる)と考えられる。また、バイアス電圧が高くなりすぎると、イオンのエネルギーが非常に高くなり、応力を緩和する傾向がある。一方、基材バイアス電圧が小さい場合は、そのような基材とイオン状態の元素との衝突による衝撃も小さく、このため付与される圧縮応力が小さくなり(負の応力値の絶対値が小さくなり)、あるいは引張応力が付与される場合もあるものと推測される。また、基材の温度が高くなるにつれて、被膜に付与される圧縮応力が減少する傾向があり、このような傾向に基づき、基材温度およびバイアス電圧等を制御すれば被膜に所望の物性を付与することができる。
【0060】
このような方法により得られた被膜を有する本発明の表面被覆切削工具は、優れた耐摩耗性を有するとともに、形成時や切削加工時に被膜が破壊されることがなく、その結果工具寿命の長いものである。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の被覆層の化合物組成はXPS(X線光電子分光分析装置)によって確認し、柱状組織については、上記EBSD法により観測した。また、被膜の配向性、ピーク強度、ピークの半価幅は上記θ−2θ法により、残留応力および厚みは、上述のsin2ψ法によりそれぞれ測定した。
【0062】
θ−2θ法およびsin2ψ法による測定において使用したX線のエネルギーは10keVとし、ピークの半価幅は(200)面の値を測定した。残留応力については、測定した回折ピーク位置を正規分布のフィッティングにより決定し、2θ−sin2ψ線図の傾きを求め、ダイナミック硬度計(MTS社製ナノインデンター)を用いて求めたヤング率と、TiNのポアソン比(0.19)とを用いて求めた。
【0063】
なお、本実施例においては被膜と最表面層とをカソードアークイオンプレーティング法とマグネトロンスパッタリング法により形成しているが、たとえば上述のようにスパッタリング法(例えばバランスドまたはアンバランスドスパッタリング法)単独によっても被膜を形成することは可能である。なお、本実施例においては、上記カソードアークイオンプレーティング法とマグネトロンスパッタリング法とを1のチャンバー内で実施することができる公知のカソードアークイオンプレーティングスパッタリング装置を用いた。
【0064】
(実施例1〜32)
<表面被覆切削工具の作製>
まず、表面被覆切削工具の基材として、切削用刃先交換型チップ(超硬合金(P20)製、形状がCNMG120408(ISO規格))を用意し、カソードアークイオンプレーティングスパッタリング装置のチャンバー内に設けられたホルダーに装着した。
【0065】
真空ポンプにより上記チャンバー内を減圧するとともに、該装置内に設置されたヒータにより上記基材の温度を600℃に加熱し、チャンバー内の圧力が1.0×10-4Paとなるまで真空引きを行なった。
【0066】
次に、アルゴンガスを導入してチャンバー内の圧力を3.0Paに保持し、上記基材の基材バイアス電源の電圧を徐々に上げながら−1500Vとし、基材の表面のクリーニングを15分間行なった。その後、アルゴンガスを排気した。
【0067】
次いで、予め装置内にセットした金属蒸発源である合金製ターゲットを用い、反応ガスとして窒素ガス、メタンガス、酸素ガス等を所望の組成に応じて導入させながら、反応ガス圧4.0Paとし、表1に示す組成を有する被膜を形成した。基材上に第1層を形成し、その上面に第2層を形成し、最表面層は第2層の上面に形成させた。
【0068】
実施例1〜32においては、300nmの厚みまでは基材温度を700℃またはそれ以上に設定し、被膜が300nm形成されたところで上記ヒータによる加熱を停止して、基材の温度を550℃まで下げた。基材の温度が550℃になったことを確認し、この温度を保ったままで、500nmの被膜を形成した。その後、上記ヒータにより基材の温度を700℃まで上昇させて100nmの被膜を形成させ、次いで、上述のように基材の温度が550℃の条件で500nmの被膜を形成させた。そして、この基材温度700℃で100nm、基材温度550℃で500nm被膜を形成させる操作を繰り返して、表1および表3に記載の所望の組成および厚みを有する被膜を有する表面被覆切削工具を得た。
【0069】
なお、バイアス電圧は25V〜550Vの範囲で上記温度条件等とともに調整し、表に記す物性の被膜を形成させた。
【0070】
また、最表面層を備える場合は、アンバランスドスパッタリング法により被膜を作成した。その際、基材温度は500℃〜700℃とし、0.5Pa〜40Pa、放電電力2kW〜9.5kW、バイアス電圧0V〜200V、周波数50kHz〜400kHz、off時間0μs〜10μsの条件で成膜を行なった。
【0071】
(比較例1〜6)
基材のクリーニング操作までは実施例1と同様にして基材を準備した。比較例1および2においては、下記の表2に示す組成を有す被膜を汎用のCVD法により成膜し、比較例3〜6については、成膜時の温度条件を一定とした汎用のPVD法により下記表2に示す組成を有する被膜を形成して、表面被覆切削工具を得た。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
表1〜表3において、たとえば、実施例20の第1層のTi47Al47Hf6N(8)/Al70Cr30N(9)とは、第1層が超多層であり、Ti47Al47Hf6NとAl70Cr30Nとが交互に括弧内に示す層厚(nm)で形成されていることを示す。その他の実施例における同様の記載は、上記のような超多層の組成を示すものである。
【0076】
<物性>
上記実施例1〜32および比較例1〜6で作製した表面被覆切削工具のそれぞれについて、形成された被膜の配向性、(200)面のピーク半価幅(表中、「(200)面半価幅」と記す)、(200)面と(111)面のX線ピーク強度比(I(200)/I(111))を上記θ−2θ法により測定した。結果を表3および表4に示す。また、基材表面から垂直方向2μmの位置であって基材表面平行方向の所定長さ(20μm)の線分上に存在する柱状晶のうち、基材表面垂直方向の長さが2.5μm以上4μm以下である柱状晶の含有(存在)率(%)をEBSD法により観測して求めた(表3および表4に柱状晶の含有率(%)として記す。)。また、積算残留応力(表中、「応力」と記す。)については、上記sin2ψ法により測定した。これらの結果についても、表4〜表6に示す。
【0077】
【表4】

【0078】
【表5】

【0079】
【表6】

【0080】
<評価>
下記表7に示す条件において、実施例1〜32および比較例1〜6で得られた表面被覆切削工具について耐摩耗性試験を行なった。結果を表8に示す。なお、耐摩耗性の評価は、TAが破損するまでの時間を測定し、該時間の長いものが耐摩耗性に優れることを示す。
【0081】
【表7】

【0082】
【表8】

【0083】
表8の結果から明らかなように、実施例1〜32で得られた本発明の表面被覆切削工具では、比較例1〜6で得られた表面被覆切削工具に比べて、耐摩耗性が著しく向上することがわかる。また、実施例1と実施例2〜19とを比べると、本発明においては、被膜を構成する層の数によらず、被膜全体が本発明の特性を満たせば、耐摩耗性を向上できるものであることがわかる。また、超多層を含む被膜を形成させた実施例20、23、26、28、29および30では、耐摩耗性をより改善できることがわかる。
【0084】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0085】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の表面被覆切削工具における被膜は、切削工程のような高温条件においても十分な耐性を有するので、類似の特性を必要とする工具等の被膜として転用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に形成された1以上の層からなる被膜とを含む表面被覆切削工具であって、
前記被膜は、15μm以上50μm以下の厚みを有する物理蒸着層であって、X線回折において(200)面配向を示し、その(200)面におけるピークの半価幅2θが0.1°<2θ<0.9°を満たす柱状組織を含み、
前記柱状組織は、複数の柱状晶を含み、基材表面から垂直方向2μmの位置であって基材表面に対して平行な所定の長さの線分上において、基板表面に対して垂直方向の長さが2.5μm以上4μm以下である柱状晶が前記線分の50%以上80%以下を占める表面被覆切削工具。
【請求項2】
前記被膜は、積算残留応力が−1GPa以上1GPa以下である請求項1に記載の表面被覆切削工具。
【請求項3】
前記被膜は、X線回折における(200)面と(111)面のピーク強度の比I(200)/I(111)が、10<I(200)/I(111)<40である請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
【請求項4】
前記被膜は、周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素、または、該元素の少なくとも1種と、硼素、酸素、炭素、および窒素からなる群より選択される少なくとも1種の元素とからなる化合物により構成される硬質被膜層により構成される請求項1〜3のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
【請求項5】
前記被膜は、少なくとも1層が、少なくともTiを含む窒化物、炭窒化物、窒酸化物または炭窒酸化物により構成される請求項1〜4のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
【請求項6】
前記表面被覆切削工具は、前記被膜上に窒化アルミニウム、窒化シリコン、Al化合物の窒化物およびSi化合物の窒化物のいずれかにより構成される最表面層をさらに備え、
前記最表面層は、その厚みが0.2μm以上2μm以下である請求項1〜5のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
【請求項7】
前記基材は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶型窒化硼素焼結体、またはダイヤモンド焼結体により構成される請求項1〜6のいずれかに記載の表面被覆切削工具。

【公開番号】特開2009−269096(P2009−269096A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119039(P2008−119039)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(503212652)住友電工ハードメタル株式会社 (390)
【Fターム(参考)】