説明

表面被覆切削工具

【課題】本発明の目的は、被膜の最表面層として窒化アルミニウム層を形成することにより極めて優れた耐摩耗性を示す表面被覆切削工具を提供することにある。
【解決手段】本発明は、基材と、該基材上に形成された被膜とを備える表面被覆切削工具であって、該被膜は、物理的蒸着膜であり、かつ基材上に形成された厚み7〜15μmの窒化物層と、該窒化物層上に形成された厚み3〜10μmの炭窒化物層と、該炭窒化物層上に形成された厚み0.2〜5μmのAlN層とを含むことを特徴とする表面被覆切削工具に係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材と該基材上に形成された被膜とを備える表面被覆切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な切削条件下において優れた工具寿命を示す切削工具が求められており、種々の研究が活発に行なわれている。
【0003】
たとえば、表面被覆切削工具の被膜を内層と最外層とからなる構造とし、その最外層に塩素を含んだ窒化アルミニウムを用いることにより、高温加工において優れた潤滑性を示す表面被覆切削工具が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、表面被覆切削工具の被膜として、下地強靭層、下側硬質層、複合酸炭化物層または複合炭窒酸化物層、酸化アルミニウム層、窒化アルミニウム層からなる構造を有し、高温安定性を示す表面被覆切削工具が提案されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2005−297142号公報
【特許文献2】特開2003−048104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の表面被覆切削工具は、最外層の窒化アルミニウムが塩素を含むことから該層の強度が低下する場合があり、また内層として含まれる窒化物層の厚みが薄いことと相俟って耐摩耗性が低下する場合があった。
【0006】
また、上記特許文献2の表面被覆切削工具は、複合酸炭化物層または複合炭窒酸化物層上に酸化アルミニウム層を形成させた構造を含むため、その部分が脆化することから被膜全体としての耐摩耗性が劣る結果となっていた。
【0007】
被膜の最表面に窒化アルミニウム層を形成すると、その窒化アルミニウム層の潤滑作用により耐摩耗性の向上が期待されるものの、その効果を十分に発揮した表面被覆切削工具は未だ提供されていない現状にある。
【0008】
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、基材上に窒化物層を形成し、該窒化物層上に炭窒化物層を形成した後、被膜の最表面層として窒化アルミニウム層を形成することにより極めて優れた耐摩耗性を示す表面被覆切削工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、基材と、該基材上に形成された被膜とを備える表面被覆切削工具であって、該被膜は、物理的蒸着膜であり、かつ基材上に形成された厚み7〜15μm(7μm以上15μm以下、本明細書において特に断りのない限りこれと同様の表記は同様の意味を示す)の窒化物層と、該窒化物層上に形成された厚み3〜10μmの炭窒化物層と、該炭窒化物層上に形成された厚み0.2〜5μmのAlN層とを含むことを特徴とする表面被覆切削工具に係る。
【0010】
ここで、上記被膜は、12〜30μmの厚みを有することが好ましく、また上記窒化物層はTiAlN層であり、上記炭窒化物層はTiCN層であることが好ましい。
【0011】
また、上記AlN層は、スパッタリング法で形成され、六方晶型の結晶構造を含んでおり、2800〜3800mgf/μm2の硬度を有することが好ましい。また、上記TiAlN層は、TixAl1-xN(式中xは0.3≦x≦0.7である)で表わされる化合物からなることが好ましく、上記TiCN層は、TiCy1-y(式中yは0.05≦y≦0.60である)で表わされる化合物からなることが好ましい。
【0012】
また、上記被膜全体の残留応力は、+1〜−1GPaであることが好ましく、上記TiAlN層、上記TiCN層、および上記AlN層のうち少なくとも1層は、その層を構成する化合物がV、Cr、Y、Nb、Hf、Ta、B、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素をその化合物に含まれる金属成分に対して0.1〜20原子%含むことが好ましい。
【0013】
また、上記窒化物層は、TiAlMe1N層とTiAlMe2N層とを交互に積層させた超多層構造またはTiAlN薄層とTiAlMe2N層とを交互に積層させた超多層構造を有し、上記炭窒化物層は、TiMe3CN層とTiMe4CN層とを交互に積層させた超多層構造またはTiCN薄層とTiMe4CN層とを交互に積層させた超多層構造を有し、上記AlN層は、AlMe5N層とAlMe6N層とを交互に積層させた超多層構造またはAlN薄層とAlMe6N層とを交互に積層させた超多層構造を有し、上記Me1、Me2、Me3、Me4、Me5、およびMe6は、それぞれ独立してV、Cr、Y、Nb、Hf、Ta、B、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示すが、Me1とMe2とは同じ元素を示すことはなく、Me3とMe4とは同じ元素を示すことはなく、Me5とMe6とは同じ元素を示すことはない態様とすることが好ましい。
【0014】
また、上記窒化物層は、TiAlMe1N層とTiAlMe2N層とを交互に積層させた超多層構造またはTiAlN薄層とTiAlMe2N層とを交互に積層させた超多層構造を有し、上記炭窒化物層は、TiMe3CN層とTiMe4CN層とを交互に積層させた超多層構造またはTiCN薄層とTiMe4CN層とを交互に積層させた超多層構造を有し、前記Me1、Me2、Me3、およびMe4は、それぞれ独立してV、Cr、Y、Nb、Hf、Ta、B、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示すが、Me1とMe2とは同じ元素を示すことはなく、Me3とMe4とは同じ元素を示すことはない態様とすることも好ましい。
【0015】
また、上記基材は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶型窒化硼素焼結体、またはダイヤモンド焼結体のいずれかにより構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の表面被覆切削工具は、上記のような構成を有することにより、極めて優れた耐摩耗性を示すという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
<表面被覆切削工具>
本発明の表面被覆切削工具は、基材と、該基材上に形成された被膜とを備え、該被膜は、物理的蒸着膜であり、かつ基材上に形成された厚み7〜15μmの窒化物層と、該窒化物層上に形成された厚み3〜10μmの炭窒化物層と、該炭窒化物層上に形成された厚み0.2〜5μmのAlN層とを含むことを特徴とする。
【0018】
このような構成を有する本発明の表面被覆切削工具は、たとえばドリル、エンドミル、フライス加工用または旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、またはクランクシャフトのピンミーリング加工用チップ等として極めて有用に用いることができる。
【0019】
<基材>
本発明の表面被覆切削工具の基材としては、このような切削工具の基材として知られる従来公知のものを特に限定なく使用することができる。たとえば、超硬合金(たとえばWC基超硬合金、WCの他、Coを含み、あるいはさらにTi、Ta、Nb等の炭窒化物等を添加したものも含む)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化硅素、窒化硅素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、およびこれらの混合体など)、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体等をこのような基材の例として挙げることができる。
【0020】
なお、基材として超硬合金を使用する場合、そのような超硬合金は、組織中に遊離炭素やη相と呼ばれる異常相を含んでいても本発明の効果は示される。なお、本発明で用いる基材は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。たとえば、超硬合金の場合はその表面に脱β層が形成されていたり、サーメットの場合には表面硬化層が形成されていても良く、このように表面が改質されていても本発明の効果は示される。
【0021】
<被膜>
本発明の被膜は、物理的蒸着膜であり、かつ基材上に形成された厚み7〜15μmの窒化物層と、該窒化物層上に形成された厚み3〜10μmの炭窒化物層と、該炭窒化物層上に形成された厚み0.2〜5μmのAlN層とを含むことを特徴とする。本発明の被膜は、このような構造を有することにより、次のような優れた作用効果が示される。すなわち、高硬度を有することから耐摩耗性に優れるという好適な特性を有する反面、欠け易いという短所を併せ持つ炭窒化物層に対して、その下層として窒化物層を形成したことにより、炭窒化物層に発生した亀裂が基材に伝播することを有効に防止することができ、工具全体の破壊を抑制することができる。さらに、潤滑作用に優れ、かつ異常摩耗を抑制できるAlN層を該炭窒化物層上に形成したことにより、切削加工時における該炭窒化物層に対する切削抵抗を低減することができる。このようにして、本発明の表面被覆切削工具は、工具自体が破壊されることを極めて有効に防止し得、かつ切削抵抗を低減でき、以って極めて優れた耐摩耗性が示される。
【0022】
ここで、このような本発明の被膜は、基材上の全面を被覆する態様を含むとともに、部分的に被膜が形成されていない態様をも含み、さらにまた部分的に被膜の一部の積層態様が異なっているような態様をも含む。また、このような本発明の被膜は、その全体の厚みが12〜30μmであることが好ましい。この全体の厚みは、より好ましくは15〜20μmである。12μm未満であると耐摩耗性に劣る場合があり、30μmを超えると被膜に残存する応力に耐え切れず被膜が自己破壊する場合がある。
【0023】
本発明の被膜は物理的蒸着膜であるが、本発明でいう物理的蒸着膜とは物理的蒸着法(PVD法)により形成される被膜をいう。本発明においてこのような物理的蒸着膜を採用する理由は、基材表面に成膜される被膜として結晶性の高い化合物による被膜を形成することが不可欠であり、種々の成膜方法を検討した結果、物理的蒸着法により形成される被膜が最適であることが見出されたからである。
【0024】
なお、本発明の物理的蒸着膜を形成するのに用いられる物理的蒸着法としては、従来公知の物理的蒸着法を特に限定することなく用いることができる。このような物理的蒸着法としては、たとえばスパッタリング法、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、電子イオンビーム蒸着法等を挙げることができる。特に原料元素のイオン率が高いカソードアークイオンプレーティング法もしくはスパッタリング法を用いると、被膜を形成する前に基材表面に対して金属またはガスイオンボンバードメント処理が可能となるため、被膜と基材との密着性が格段に向上するので好ましい。
【0025】
<窒化物層>
本発明の窒化物層は、基材上に形成されるものであって、7〜15μmの厚みを有するものである。ここで、「基材上に形成される」とは、基材直上に基材と接するようにして形成されることをいう。上記厚みは、より好ましくは8〜12μmである。該厚みが7μm未満では、被膜中で発生した亀裂が基材に伝播するのを防止することができず、靭性が不十分となってしまう。また、該厚みが15μmを超えると、当該層にドロップレットを含むこととなり当該層の面粗さが粗くなってしまう。当該層の面粗さが粗くなると、当該層上に形成される炭窒化物層が疎に形成されてしまい両層の密着性に劣ることとなる。
【0026】
なお、本発明の窒化物層は、後述の超多層構造を含む他、互いに組成の異なる複数の層により構成することもできる。このように複数の層で構成する場合、上記厚みはその合計厚みを示すものとする。
【0027】
このような本発明の窒化物層は、既に上記したように炭窒化物層に発生した亀裂を基材に伝播することを極めて有効に防止するという優れた効果を示すものである。しかも、当該窒化物層自体が耐衝撃性に優れているため、断続加工時の衝撃による基材欠損を抑えることもできる。さらに、切削時(特に高温時)の基材と被膜間の原子拡散を有効に防止することができ、この点からも基材の破損を好適に防止することができるという優れた作用を示すものである。
【0028】
本発明においては、その厚みが7〜15μmとなる限りこのような窒化物層を構成する窒化物としては従来公知の種々のものを選択することが可能であるが、とりわけそのような窒化物としてTiAlNを用いてなるTiAlN層(すなわちTiAlNにより構成される層)を採用することが好適である。TiAlNは、種々の窒化物の中でも、とりわけ立方晶型のTiN中に本来は六方晶型が安定相であるAlNが固溶した構造となっており、このため結晶格子内に歪みが保持されていることから耐欠損性に優れるとともに基材との間で原子の拡散を極めて有効に抑制する(すなわち良好な耐拡散性を示す)。
【0029】
このようなTiAlN層を構成するTiAlNは、TiとAlとNの原子比が1:1:2のもののみに限られるものではなく、従来公知の組成のものを特に限定することなく用いることができる(なお、本発明において「TiAlN」のように化合物を化学式で示す場合であって、原子比が特に規定されていない場合は従来公知のあらゆる原子比を含み得ることを示す)。そして、TiAlN層は、特に好ましくはTixAl1-xN(式中xは0.3≦x≦0.7である)で表わされる化合物からなることが好ましい。これにより、特に良好な耐欠損性と耐拡散性が示されるからである。
【0030】
なお、上記式中xは、より好ましくは0.4≦x≦0.6である。xが0.3未満の場合、耐摩耗性が低下する場合があり、0.7を超えると格子内の歪みが小さくなり耐欠損性が低下する場合がある。なお、上記式TixAl1-xN中Nの原子比は特に限定されるものではないが、TiとAlの合計を1とする場合、Nの原子比は0.95〜1.05とすることが好ましい。
【0031】
このような窒化物層は、たとえば次のような条件を採用した物理的蒸着法、好ましくはアークイオンプレーティング法により形成することができる。すなわち、目的とする金属組成の焼結ターゲットまたは溶成ターゲットを用い、基材上への成膜直後において、基材温度を700℃以上というように比較的高温度に設定し、まず300nm程度成膜する。続いて、ヒーターを一旦OFF状態として基材温度を550℃程度まで冷却し、その温度で500nm程度成膜する。以後、700℃で100nm成膜し、次いで550℃で500nm成膜するというサイクルを繰り返すことにより、所望の厚みを有する窒化物層を形成することができる。
【0032】
このように成膜温度を一定の厚み毎に高温と低温を繰り返すようにして制御することにより、窒化物層を構成する窒化物の結晶が三次元的に成長することを抑制しつつその結晶性を極めて良好に制御することができる。これに対し、700℃程度の高温で連続成膜(100nm以上の厚みを成膜)すると、被膜の表面側に向かって結晶粒が三次元的に放射状に成長してしまうため好ましくない。一方、550℃程度の低温にて500nmを超える厚みを成膜すると結晶性が悪化する傾向を示す。なお、成膜初期は、基材を構成する各結晶の粒子形状の影響を受けるため、高温での成膜の厚みが少し厚くなるように成膜すると、結晶性が良好となるため好ましい。
【0033】
<炭窒化物層>
本発明の炭窒化物層は、上記の窒化物層上に形成されるものであって、3〜10μmの厚みを有するものである。上記厚みは、より好ましくは4〜7μmである。該厚みが3μm未満では、耐摩耗性が不十分となってしまう。また、該厚みが10μmを超えると、該層中に亀裂が発生しやすくなり、自己破壊してしまう。
【0034】
なお、本発明の炭窒化物層は、後述の超多層構造を含む他、互いに組成の異なる複数の層により構成することもできる。このように複数の層で構成する場合、上記厚みはその合計厚みを示すものとする。
【0035】
このような本発明の炭窒化物層は、既に上記したように高硬度を有することから耐摩耗性に極めて優れているとともに、とりわけ上記の窒化物層上に当該炭窒化物層を形成したことによりすくい面摩耗の基材表面に対する傾斜角度を大きくすることができ、切り屑と被膜との接触面積が小さくなることから摩耗の進行を飛躍的に抑制し、以って工具寿命を延長することができるという作用を示す。因みに、この構成を逆にすると(すなわち炭窒化物層上に窒化物層を形成すると)、すくい面摩耗の基材表面に対する傾斜角度が小さくなり摩耗が著しく進行することになる。
【0036】
本発明においては、その厚みが3〜10μmとなる限りこのような炭窒化物層を構成する炭窒化物としては従来公知の種々のものを選択することが可能であるが、とりわけそのような炭窒化物としてTiCNを用いてなるTiCN層(すなわちTiCNにより構成される層)を採用することが好適である。TiCNは、種々の炭窒化物の中でもとりわけ高い硬度を有し、特に優れた耐摩耗性を示す。このような特性は、窒化物層としてのTiAlN層上にこのTiCN層を形成した場合に顕著に発揮されるため特に好ましい。
【0037】
このようなTiCN層を構成するTiCNは、Tiと(C+N)との原子比が1:1のもののみに限られるものではなく、従来公知の組成のものを特に限定することなく用いることができる。そして、特に好ましくは、TiCN層はTiCy1-y(式中yは0.05≦y≦0.60である)で表わされる化合物からなることが好ましい。これにより、特に良好な耐摩耗性が示されるからである。
【0038】
なお、上記式中yは、より好ましくは0.2≦y≦0.4である。yが0.05未満の場合、硬度が低くなり耐摩耗性が低下する場合があり、0.60を超えると硬度が高くなりすぎて自己破壊してしまう場合がある。なお、上記式TiCy1-y中Tiの原子比は特に限定されるものではないが、CとNの合計を1とする場合、Tiの原子比は0.95〜1.05とすることが好ましい。
【0039】
なお、上記式中のyは、該層中を通して常に一定である必要はなく、たとえば被膜の厚み方向においてその値が変化する(分布する)ものであってもよい。
【0040】
このような炭窒化物層は、たとえば上記の窒化物層の形成方法と同様の方法を採用することにより形成することができる。なお、メタン等の炭素源ガスの流量を制御することにより、厚み方向で炭素の原子比を変化させることができる。
【0041】
<AlN層>
本発明のAlN層は、AlN(窒化アルミニウム、なおAlが1に対してNが0.9〜1.1である原子比のものも含む)により構成される層であり、上記の炭窒化物層上に形成されるものであって、0.2〜5μmの厚みを有するものである。上記厚みは、より好ましくは0.5〜3μmである。該厚みが0.2μm未満では、炭窒化物層の表面粗さの影響が大きくなり、本来のAlN層の効果が示されなくなる。また、該厚みが5μmを超えると、生産性が極めて劣るとともに結晶化を抑制することができず均一摩耗が困難となる。
【0042】
なお、本発明のAlN層は、後述の超多層構造を含む他、互いに組成の異なる複数の層により構成することもできる。このように複数の層で構成する場合、上記厚みはその合計厚みを示すものとする。
【0043】
このような本発明のAlN層は、この層を最表面層とすることにより逃げ面の摩耗が特に均一となり異常摩耗を極めて有効に抑制することができる。このため、硬度が高い反面脆いという短所を併せ持つ炭窒化物層上にこのAlN層を形成することにより、炭窒化物層の短所を相補し、炭窒化物層に生じる異常摩耗を極めて有効に抑制することができる。しかも、このようなAlN層は、摺動性に優れることから刃先部に被削材の溶着が発生し難く、この点からも異常摩耗をさらに抑制することができる。
【0044】
一般に異常摩耗が生じた部分は切削抵抗が高くなり摩耗の進行が助長されることから、このような異常摩耗を抑制することは工具全体としての耐摩耗性の向上に直接的に貢献するものとなる。
【0045】
このようなAlN層を構成するAlNは、AlとNの原子比が1:1のもののみに限られるものではなく、従来公知の組成のものを特に限定することなく用いることができる。なお、このようなAlN層は、塩素を含まないことが好ましい。塩素を含むと、結晶性が悪くなり耐摩耗性が劣るためである。
【0046】
そして、このようなAlN層は、とりわけスパッタリング法で形成され、六方晶型の結晶構造を含んでおり、2800〜3800mgf/μm2(より好ましくは3200〜3600mgf/μm2)の硬度を有することが好ましい。硬度をこの範囲とすることにより、炭窒化物層(特にTiCN層)の硬度よりも低硬度となり、摩耗がより均一なものとなる。さらに、六方晶型の結晶構造を含む(すなわちXRD(X線回折)による(102)面の半価幅が0.4〜0.7°)ことにより摩耗はより一層均一なものとなる。これは、その詳細なメカニズムは未だ解明されていないものの、AlN層中に六方晶型の結晶構造を含む結晶質成分と結晶構造を含まない非晶質成分とが微小サイズで混在することにより、切削加工時の摩耗単位が微小化するためではないかと考えられる。
【0047】
なお、AlN層をスパッタリング法により形成すると、該層の組織が均質になり、硬度や結晶性分布が一様になるというメリットがある。
【0048】
このようなスパッタリング法の具体的条件は、たとえば以下のような条件を挙げることができる。すなわち、高周波数のパルスと低周波数のパルスとを交互に印加できるようなパルス化スパッタリング法を採用し、ターゲットとしては目的組成の焼結ターゲットまたは溶成ターゲットを用いる。そして、スパッタカソードに印加するパルス周波数を厚みが20〜70nmとなる毎に制御し、100kHz以下のパルス周波数と300kHz以上のパルス周波数とを交互に印加する。なお、成膜温度は700℃以下とし、成膜速度は0.1〜0.6μm/時とすることが好ましい。
【0049】
このようにパルス周波数を交互に変化させて印加することにより、ターゲットから飛来する粒子のエネルギーを調整することができる。すなわち、300kHz以上のパルス周波数の印加割合を高くすると結晶性が良好となり硬度が向上する一方、100kHz以下のパルス周波数の印加割合を高くすると結晶性が悪化し硬度が低下する傾向を示すため、これらのパルス周波数を制御することによりAlN層の特性を制御することができる。
【0050】
一方、AlN層は、上記の窒化物層を形成する場合の条件と同様の条件を採用することによりアークイオンプレーティング法により形成することもできる。
【0051】
<他の元素の添加>
本発明の上記TiAlN層、上記TiCN層、および上記AlN層のうち少なくとも1層は、その層を構成する化合物(すなわちTiAlN、TiCN、およびAlNのうち少なくとも1種)がV、Cr、Y、Nb、Hf、Ta、B、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素をその化合物に含まれる金属成分に対して0.1〜20原子%(より好ましくは1〜10原子%)含むことが好ましい。このような他の元素を含むことにより、結晶格子中に歪みが入り硬度がさらに向上することから耐摩耗性がより向上したものとなる。しかも、切削加工時において被膜中あるいは被膜と基材間において原子拡散が抑制され、耐酸化性等の耐反応性が良好となる。
【0052】
なお、このような他の元素は、物理的蒸着法により被膜を形成する際に、被膜の原料となるターゲット中に所望量包含させることにより、当該層を構成する化合物中に含有させることができる。なお、このような他の元素の含有の態様は、浸入型であってもよいし、置換型であってもよい。
【0053】
<超多層構造>
本発明の被膜を構成する窒化物層、炭窒化物層、およびAlN層は、それぞれ次のような超多層構造とすることが好ましい。すなわち、上記窒化物層は、TiAlMe1N層とTiAlMe2N層とを交互に積層させた超多層構造またはTiAlN薄層とTiAlMe2N層とを交互に積層させた超多層構造を有し、上記炭窒化物層は、TiMe3CN層とTiMe4CN層とを交互に積層させた超多層構造またはTiCN薄層とTiMe4CN層とを交互に積層させた超多層構造を有し、上記AlN層は、AlMe5N層とAlMe6N層とを交互に積層させた超多層構造またはAlN薄層とAlMe6N層とを交互に積層させた超多層構造を有し、上記Me1、Me2、Me3、Me4、Me5、およびMe6は、それぞれ独立してV、Cr、Y、Nb、Hf、Ta、B、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示すが、Me1とMe2とは同じ元素を示すことはなく、Me3とMe4とは同じ元素を示すことはなく、Me5とMe6とは同じ元素を示すことはない態様とすることが好ましい。なお、上記において、窒化物層および炭窒化物層を上記のような超多層構造とし、AlN層のみを通常の層(すなわち超多層構造ではない層)とする態様を採用することもできる。
【0054】
上記のような超多層構造を採用することにより、耐摩耗性をさらに向上させることができる。これは、恐らく超多層構造とすることにより、たとえ被膜中のいずれかの箇所で亀裂が発生したとしてもそれが伝播することがなく、以って被膜の大規模破壊を防止し、その結果として耐摩耗性が向上するものと考えられる。
【0055】
ここで、上記窒化物層において、TiとAlとの原子比は上記化学式TixAl1-xNにおける「x」で規定される原子比と同様の原子比を採用することができ、Me1とMe2の原子比はTiとAlとこれらの金属(Me1またはMe2)との合計を1とする場合、それぞれ0.001〜0.2(すなわち0.1〜20原子%)の範囲とすることができ、Nの原子比はTiとAlとこれらの金属(Me1またはMe2)との合計を1とする場合、0.95〜1.05の範囲とすることができる。また、TiAlN薄層とは、Me1やMe2のような他の元素を含まず、TiとAlとNのみ(これら三者の原子比は上記に同じ)により構成される層を意味する。
【0056】
また、上記炭窒化物層において、CとNとの原子比は上記化学式TiCy1-yにおける「y」で規定される原子比と同様の原子比を採用することができ、Me3とMe4の原子比はTiとこれらの金属(Me3またはMe4)との合計を1とする場合、それぞれ0.001〜0.2の範囲とすることができ、Tiとこれらの金属との合計の原子比はCとNとの合計を1とする場合、0.95〜1.05の範囲とすることができる。また、TiCN薄層とは、Me3やMe4のような他の元素を含まず、TiとCとNのみ(これら三者の原子比は上記に同じ)により構成される層を意味する。
【0057】
また、上記AlN層において、AlとNとの原子比はAlと他の金属(Me5またはMe6)との合計を1とする場合、Nは0.9〜1.1の範囲とすることができ、Me5とMe6の原子比はAlとこれらの金属(Me5またはMe6)との合計を1とする場合、それぞれ0.001〜0.2の範囲とすることができる。また、AlN薄層とは、Me5やMe6のような他の元素を含まず、AlとNのみ(これら両者の原子比は上記に同じ)により構成される層を意味する。
【0058】
一方、上記の超多層構造を構成する各層の厚みは、1〜50nm、より好ましくは2〜20nmとすることが好ましい。各層の厚みが1nm未満の場合は製造が困難となり、50nmを超えると亀裂の伝播を有効に抑止することが困難となる。
【0059】
このような超多層構造は、上記と同様の物理的蒸着法により形成することができ、その諸条件は従来公知の範囲内から任意に選択することができる。
【0060】
<被膜全体の残留応力>
本発明の被膜全体の残留応力は、+1〜−1GPa(−1GPa以上+1GPa以下)であることが好ましい。より好ましくは+0.5〜−0.7GPaであり、さらに好ましくは+0.2〜−0.5GPaである。残留応力が+1GPaを超えると被膜の剛性が不十分となる場合があり、−1GPa未満では被膜の自己破壊が生じる場合がある。被膜がこのような範囲の残留応力、特にその絶対値が小さくなる残留応力を有する場合、耐欠損性に優れた旋削加工が可能となり、極めて信頼性に優れた工具を得ることができる。
【0061】
ここで、残留応力とは、被膜全体の平均残留応力をいい、次のようなsin2ψ法という方法で測定することができる。X線を用いたsin2ψ法は、多結晶材料の残留応力の測定方法として広く用いられている。この測定方法は、「X線応力測定法」(日本材料学会、1981年株式会社養賢堂発行)の54〜66頁に詳細に説明されているが、本発明ではまず並傾法と側傾法とを組み合せてX線の侵入深さを固定し、測定する応力方向と測定位置に立てた試料表面法線を含む面内で種々のψ方向に対する回折角度2θを測定して2θ−sin2ψ線図を作成し、その勾配からその深さ(被膜の表面からの距離)までの残留応力の平均値を求めることができる。
【0062】
より具体的には、X線源からのX線を試料に所定角度で入射させ、試料で回折したX線をX線検出器で検出し、該検出値に基づいて内部応力を測定するX線応力測定方法において、試料の任意箇所の試料表面に対して任意の設定角度でX線源よりX線を入射させ、試料上のX線照射点を通り試料表面で入射X線と直角なω軸と、試料台と平行でω軸を回転させた時に入射X線と一致するχ軸を中心に試料を回転させるときに、試料表面と入射X線とのなす角が一定となるように試料を回転させながら、回折面の法線と試料面の法線とのなす角度ψを変化させて回折線を測定することによって、試料内部(すなわち被膜)の残留応力を求めることができる。
【0063】
なお、上記で用いるX線源としては、X線源の質(高輝度、高平行性、波長可変性等)の点で、シンクロトロン放射光(SR)を用いることが好ましい。
【0064】
なおまた、上記のように残留応力を2θ−sin2ψ線図から求めるためには、被膜のヤング率とポアソン比が必要となる。しかし、該ヤング率はダイナミック硬度計等を用いて測定することができ、ポアソン比は材料によって大きく変化しないため0.2前後の値を用いればよい。
【0065】
一方、本発明でいう圧縮応力(圧縮残留応力)とは、被膜に存する内部応力(固有ひずみ)の一種であって、負の数値(単位:GPa)で表されるものである。一方、本発明でいう引張応力(引張残留応力)とは、これも被膜に存する内部応力の一種であって、正の数値(単位:GPa)で表されるものである。このような圧縮応力および引張応力は、ともに被膜内部に残存する内部応力であることからこれらを単にまとめて残留応力(便宜的に0GPaも含む)と表現することもある。
【0066】
なお、このような範囲の残留応力を有する被膜は、物理的蒸着法により、基材に衝突して被膜となる原子またはイオンの運動量を調節することにより形成することができ、一般にその運動量が大きい場合にその絶対値が大きくなる圧縮残留応力を得ることができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の被膜および各層の厚みは被膜断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察することにより測定し、各層を構成する化合物の組成はXPS(X線光電子分光分析装置)によって確認した。また、結晶構造はXRD(X線回折)により確認し、半価幅はXRDを用いて入射角0.5°の条件で測定し、算出した。また、被膜全体の残留応力は上記のsin2ψ法により測定し、硬度はダイナミック硬度計(MTS社製ナノインデンター)を用いて測定した。
【0068】
<実施例1〜44および比較例1〜6>
以下のようにして表面被覆切削工具を作成し、その評価を行なった。
【0069】
<表面被覆切削工具の作成>
まず、表面被覆切削工具の基材として材質がP20(JIS)であり形状がCNMG120408(JIS)である旋削加工用刃先交換型切削チップを準備し、その基材をカソードアークイオンプレーティング・スパッタ装置に装着した。
【0070】
続いて、真空ポンプにより該装置のチャンバー内を減圧するとともに、該装置内に設置されたヒーターにより上記基材の温度を650℃に加熱し、チャンバー内の圧力が1.0×10-4Paとなるまで真空引きを行なった。
【0071】
次に、アルゴンガスを導入してチャンバー内の圧力を3.0Paに保持し、上記基材の基板バイアス電源の電圧を徐々に上げながら−1500Vとし、Wフィラメントを加熱して熱電子を放出させながら基材の表面のクリーニングを15分間行なった。その後、アルゴンガスを排気した。
【0072】
次いで、上記基材上に直接接するようにして表1および表2記載の各窒化物層を形成した。かかる窒化物層は、上記で既に説明したように目的とする組成(すなわち表1および表2記載の窒化物層の金属組成)の焼結ターゲットまたは溶成ターゲットを用い、ArおよびN2ガスを導入して成膜を行なった。基材上への成膜直後は基材温度を700℃以上の高温度に設定することによりまず300nm程度成膜し、続いてヒーターを一旦OFF状態とすることにより基材温度を550℃程度まで冷却し、その後その温度で500nm程度成膜し、以後、700℃で100nm成膜するという操作と550℃で500nm成膜するという操作とを繰り返すことにより、表1および表2記載の厚みを有するようにして形成した。
【0073】
なお、表1および表2中、「窒化物層」の欄の「組成」は窒化物層を構成する化合物の組成を示し、「製法」の欄の「アーク」はアークイオンプレーティング法により形成したことを示し、「CVD」は公知の化学的蒸着法により形成したことを示し、「x」は化学式TixAl1-xNにおけるxを示す。また、表2中の実施例35〜38の窒化物層は超多層構造を有するものであるが、これらについては従来公知の条件で成膜し、「厚み比」の欄に各対応する各層の厚みを示した。これに対し、表1中の実施例5は、窒化物層が2層で構成されており、各層の厚みは「厚み比」の欄に記載されている厚みを有することを示している。
【0074】
続いて、上記で形成した窒化物層上に表1および表2記載の各炭窒化物層を形成した。かかる炭窒化物層は、上記の窒化物層と同様にして形成することができ、すなわち目的とする組成(すなわち表1および表2記載の炭窒化物層の金属組成)の焼結ターゲットまたは溶成ターゲットを用い、Ar、N2、およびCH4を導入しながら700℃で100nm成膜するという操作と550℃で500nm成膜するという操作とを繰り返すことにより、表1および表2記載の厚みを有するようにして形成した。
【0075】
なお、表1および表2中、「炭窒化物層」の欄の「組成」は炭窒化物層を構成する化合物の組成を示し、「製法」の欄の「アーク」はアークイオンプレーティング法により形成したことを示し、「CVD」は公知の化学的蒸着法により形成したことを示し、「y」は化学式TiCy1-yにおけるyを示す。また、表2中の実施例35〜38の炭窒化物層は超多層構造を有するものであるが、これらについては従来公知の条件で成膜し、「厚み比」の欄に各対応する各層の厚みを示した。
【0076】
続いて、上記で形成した炭窒化物層上に表1および表2記載の各AlN層を形成した。かかるAlN層は、上記の窒化物層と同様にして形成することができ、すなわち目的とする組成(すなわち表1および表2記載のAlN層の金属組成)の焼結ターゲットまたは溶成ターゲットを用い、700℃で100nm成膜するという操作と550℃で500nm成膜するという操作とを繰り返すことにより、表1および表2記載の厚みを有するようにして形成した。
【0077】
一方、AlN層をスパッタリング法で形成する場合は、AlN層を炭窒化物層上に、上記で既に説明したように、スパッタカソードに印加するパルス周波数を厚みが20〜70nmとなる毎に制御し、100kHz以下のパルス周波数と300khz以上のパルス周波数とを交互に印加することにより形成した。なお、成膜温度は700℃とし、成膜速度は0.1〜0.6μm/時とした。
【0078】
なお、表1および表2中、「AlN層」の欄の「組成」はAlN層を構成する化合物の組成を示し、「製法」の欄の「アーク」はアークイオンプレーティング法により形成したことを示し、「スパッタ」はスパッタリング法により形成したことを示し、「CVD」は公知の化学的蒸着法により形成したことを示す。また、「結晶構造」の欄の「h含有」とは、六方晶型の結晶構造を含んでいることを示し、「amo」とはアモルファス状態であることを示す。また、表2中の実施例35〜37のAlN層は超多層構造を有するものであるが、これらについては従来公知の条件で成膜し、「厚み比」の欄に各対応する各層の厚みを示した。また、「全体」の欄の「厚み」は被膜全体の厚みを示し、「応力」は被膜全体の残留応力を示す。
【0079】
<表面被覆切削工具の耐摩耗性の評価>
上記で作製した実施例1〜44および比較例1〜6の表面被覆切削工具のそれぞれについて、以下の条件による連続旋削試験を行なうことにより耐摩耗性の評価を行なった。該評価は、刃先の逃げ面摩耗幅が0.2mmを超える時間を切削時間として測定することにより行なった。その結果を表3に示す。切削時間が長いもの程耐摩耗性が優れていることを示している。
【0080】
<連続旋削の条件>
被削材:SCM435丸棒
切削速度:250m/分
切り込み:2.0mm
送り:0.3mm/rev
DRY/WET:DRY
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
【表3】

【0084】
表3より明らかなように、実施例1〜44の本発明に係る表面被覆切削工具は、比較例1〜6の表面被覆切削工具に比し、優れた耐摩耗性を示し、工具寿命が向上していることが確認できた。
【0085】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0086】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に形成された被膜とを備える表面被覆切削工具であって、
前記被膜は、物理的蒸着膜であり、かつ基材上に形成された厚み7〜15μmの窒化物層と、該窒化物層上に形成された厚み3〜10μmの炭窒化物層と、該炭窒化物層上に形成された厚み0.2〜5μmのAlN層とを含む、表面被覆切削工具。
【請求項2】
前記被膜は、12〜30μmの厚みを有する請求項1記載の表面被覆切削工具。
【請求項3】
前記窒化物層はTiAlN層であり、前記炭窒化物層はTiCN層である請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
【請求項4】
前記AlN層は、スパッタリング法で形成され、六方晶型の結晶構造を含んでおり、2800〜3800mgf/μm2の硬度を有する請求項1〜3のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
【請求項5】
前記TiAlN層は、TixAl1-xN(式中xは0.3≦x≦0.7である)で表わされる化合物からなる請求項3または4に記載の表面被覆切削工具。
【請求項6】
前記TiCN層は、TiCy1-y(式中yは0.05≦y≦0.60である)で表わされる化合物からなる請求項3〜5のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
【請求項7】
前記被膜全体の残留応力は、+1〜−1GPaである請求項1〜6のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
【請求項8】
前記TiAlN層、前記TiCN層、および前記AlN層のうち少なくとも1層は、その層を構成する化合物がV、Cr、Y、Nb、Hf、Ta、B、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素をその化合物に含まれる金属成分に対して0.1〜20原子%含む請求項3〜7のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
【請求項9】
前記窒化物層は、TiAlMe1N層とTiAlMe2N層とを交互に積層させた超多層構造またはTiAlN薄層とTiAlMe2N層とを交互に積層させた超多層構造を有し、前記炭窒化物層は、TiMe3CN層とTiMe4CN層とを交互に積層させた超多層構造またはTiCN薄層とTiMe4CN層とを交互に積層させた超多層構造を有し、前記AlN層は、AlMe5N層とAlMe6N層とを交互に積層させた超多層構造またはAlN薄層とAlMe6N層とを交互に積層させた超多層構造を有し、前記Me1、Me2、Me3、Me4、Me5、およびMe6は、それぞれ独立してV、Cr、Y、Nb、Hf、Ta、B、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示すが、Me1とMe2とは同じ元素を示すことはなく、Me3とMe4とは同じ元素を示すことはなく、Me5とMe6とは同じ元素を示すことはない、請求項1〜8のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
【請求項10】
前記窒化物層は、TiAlMe1N層とTiAlMe2N層とを交互に積層させた超多層構造またはTiAlN薄層とTiAlMe2N層とを交互に積層させた超多層構造を有し、前記炭窒化物層は、TiMe3CN層とTiMe4CN層とを交互に積層させた超多層構造またはTiCN薄層とTiMe4CN層とを交互に積層させた超多層構造を有し、前記Me1、Me2、Me3、およびMe4は、それぞれ独立してV、Cr、Y、Nb、Hf、Ta、B、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示すが、Me1とMe2とは同じ元素を示すことはなく、Me3とMe4とは同じ元素を示すことはない、請求項1〜8のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
【請求項11】
前記基材は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶型窒化硼素焼結体、またはダイヤモンド焼結体のいずれかにより構成される、請求項1〜10のいずれかに記載の表面被覆切削工具。

【公開番号】特開2010−142932(P2010−142932A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325892(P2008−325892)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(503212652)住友電工ハードメタル株式会社 (390)
【Fターム(参考)】