説明

被加工物に付着した加工油を減量するための処理方法及びその装置

【課題】
加工作業により被加工物に付着残留した加工油を簡易な方法により減量除去し、これを再利用可能とするとともに、被加工物の洗浄のために必要となる洗浄溶剤を少なくするか又はゼロとすることにより、ランニングコストを低くするとともに、地球環境への負荷を軽減する。
【解決手段】
被加工物12の加工作業に使用した加工油と同じ加工油4を、前記加工作業時の油温よりも高温に加熱して粘度を低下させ、この加熱した加工油4を、前記加工作業により加工油が付着した被加工物12に接触させることにより、被加工物12に付着している加工油の粘度を低下させ、その付着量を減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削、研削、プレス、絞り、打ち抜き、引き抜き、鍛造等の被加工物の加工作業の過程で被加工物に付着した加工油の付着残留量を減量するための処理方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被加工物に対して切削、研削、プレス、絞り、打ち抜き、引き抜き、鍛造等の加工を施す際には、摩擦抑制や冷却等の目的で被加工物に加工油を付着させて使用するため、上記加工作業後の被加工物には、多量の加工油が付着残留するものとなる。この被加工物に付着残留した加工油は、次工程の使用に備えて、被加工物の表面から除去又は減量しておく必要がある。そこで、特許文献1に示す如く、上記の加工作業後の被加工物に洗浄溶剤を噴射したり、被加工物を洗浄溶剤内に浸漬させたりして、被加工物の表面から加工油を除去する作業が、一般に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−246335号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、上述の如き被加工物の洗浄を行う場合には、加工作業により加工油が付着した被加工物をそのままの状態で洗浄機に投入し、上述の如き洗浄溶剤を用いた噴射洗浄や浸漬洗浄を行っていた。そのため、加工作業により被加工物に付着した加工油はすべて、上記の洗浄作業により洗浄溶剤とともに被加工物から除去されて持ち出されるものとなり、加工油の消耗が激しくなり、ランニングコストが高くなるとともに、環境への負荷も高いものとなっていた。
【0005】
また、加工作業により加工油が多量に付着残留した被加工物をそのままの状態で洗浄するため、上記の多量の加工油を除去するために多量の洗浄溶剤が必要となり、この点に於いてもランニングコストが高くなっていた。また、上述の如く加工油が多量に付着残留した被加工物を洗浄溶剤で洗浄することにより、洗浄溶剤に多量の加工油が混入するものとなるため、洗浄溶剤の汚染速度が速くなり、これに伴って洗浄溶剤の交換頻度も高くなり、この点に於いてもランニングコストが高くなっていた。
【0006】
そこで、本願発明は上述の如き課題を解決しようとするものであって、加工作業により被加工物に付着残留した加工油を簡易な方法により減量除去し、これを再利用可能とするとともに、被加工物の洗浄のために必要となる洗浄溶剤を少なくするか場合によってはゼロとすることにより、ランニングコストを低くするとともに、地球環境への負荷を軽減しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は上述の如き課題を解決するため、被加工物の加工作業に使用した加工油と同じ加工油を、前記加工作業時の油温よりも高温に加熱して粘度を低下させ、この加熱した加工油を、前記加工作業により加工油が付着した被加工物に接触させることにより、被加工物に付着している加工油の粘度を低下させ、その付着量を減少させるものである。
【0008】
また、上記の方法を実施するための装置は、加工作業により加工油が付着した被加工物を収納し、被加工物の加工作業に使用した加工油と同じ加工油を接触可能とした収納槽と、この収納槽内又は収納槽外に配置し被加工物の加工作業時の加工油の油温よりも高温に同じ加工油を加熱することにより粘度を低下させる加熱機構とから成る。そして、加工油の付着した被加工物を加熱した加工油と接触させることにより、被加工物に付着した加工油の粘度を低下させ、その付着量を減少可能としたものである。
【0009】
また、加熱した加工油と被加工物との接触は、脱脂洗浄機を用いた洗浄工程の前工程として行うものであっても良い。この場合には、上記の加熱した加工油との接触により被加工物に付着した加工油の粘度を低下させ、付着残留量を減少させてから、脱脂洗浄機を用いた洗浄を行うものとなるため、加工作業後の被加工物をそのまま脱脂洗浄機に投入する場合と比較し、脱脂洗浄機による洗浄を容易なものとすることが可能となるとともに、脱脂洗浄後の被加工物の清浄度を高めることも可能となる。また、上述の如く脱脂洗浄前に被加工物への加工油の付着残留量を減少させておくことで、被加工物の脱脂洗浄に必要な洗浄溶剤の使用量を減少させることが可能となるため、脱脂洗浄のコストを安くすることが可能となる。
【0010】
また、加熱した加工油は、冷却して被加工物の加工作業に再利用するものであっても良い。本願発明に於いては、被加工物の加工作業に使用した加工油と加熱した加工油を同一としているため、被加工物に付着残留した加工油が加熱した加工油に混入しても、同一の加工油として容易に再利用することが可能となる。
【0011】
また、前記加工油の加熱、及びこの加熱した加工油と被加工物との接触は、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気内で行うものであっても良い。本願発明に於いては前述の如く、加工油を加熱して用いるものであり、加工油によっては、このように加熱を行うことで酸化劣化しやすくなるものもある。そこで、このように加熱によって酸化劣化しやすい加工油を使用する場合には、加工油の加熱、及びこの加熱した加工油と被加工物との接触を、不活性ガス雰囲気内で行うことで、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスにより加工油と大気との接触を遮断することが可能となるため、加工油の酸化劣化を抑制することが可能となり、加工油の再利用を繰り返し行うことが可能となる。
【0012】
また、前記加工油の加熱温度は50℃〜200℃としたものであっても良い。加工油は、加工部分の冷却等のために用いられるのが通常であり、加工部分との熱交換により、加工作業時にその温度が50℃近くまで上昇する場合もある。そのため、加工油の加熱温度を50℃未満とすると、この加熱温度が前記加工作業時の加工油の油温よりも低温になるおそれがあり、この場合には、被加工物の表面に付着した加工油の粘度を十分に低下させることができず、加工油の付着量を十分に減少できないおそれがある。また、加工油の加熱温度が200℃を超えると、過熱化により加工油が熱劣化し、加工油の再利用が困難なものとなるとともに、引火の可能性も生じる。
【0013】
また、前記加熱した加工油と被加工物との接触時には、前記加熱した加工油に被加工物を浸漬させた状態で、被加工物を回転、揺動、超音波振動、被加工物への加工油の噴射又は加工油に非浸漬状態の被加工物に加熱した加工油を噴射する手段の一つまたは複数の手段を選択的に用いるものであっても良い。この場合には、加熱した加工油と被加工物との接触時に、被加工物に対して上述の物理力を与えることで、被加工物からの付着加工油及び加工屑の減量効率を、一層高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は上述の如く構成したものであり、被加工物に加熱した加工油を接触させて被加工物に付着した加工油の粘度を低下させることにより、被加工物に付着した加工油の油切りを良好なものとし、被加工物に付着した加工油の付着残留量を、洗浄溶剤を用いることなく減少させる事を可能とするものである。また、上述の如く付着加工油の粘度を低下させてその油切りを良好なものとすることにより、加工作業により被加工物に付着した切り屑その他の加工屑の付着量を、あわせて減量可能とするものである。
【0015】
そのため、洗浄溶剤を用いた洗浄作業の前に本願発明の処理工程を行うことで、加工作業後の被加工物をそのまま洗浄溶剤を用いて洗浄する場合と比較して、洗浄溶剤の使用量を少なくしながら被加工物を容易に高い清浄度まで洗浄することが可能となり、洗浄のランニングコストを低くすることが可能となる。また、精密洗浄を必要としない場合には、本願発明の処理工程後に、洗浄溶剤を用いた洗浄作業を行わずに被加工物をそのまま熱風乾燥させて次工程に移ることも可能となり、この場合には、洗浄溶剤が全く必要ないものとなり、洗浄工程を簡易なものとするとともにランニングコストを安くすることが可能となる。
【0016】
また、加工作業により加工油が付着した被加工物を加熱した加工油と接触させることにより、被加工物に付着した加工油が加熱した加工油に混入するが、両者は同一の加工油であるから、そのまま容易に再利用することが可能となる。そのため、被加工物に付着した加工油をすべて洗浄溶剤により除去する場合と比較し、加工油の消費量を少なくしランニングコストを低くすることが可能となる。また、被加工物に付着した加工油の再利用を可能とすることで、CO2の排出量を削減することも可能となり、地球環境への負荷を軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1を示す概念図。
【図2】実施例1〜3に於ける、加工油の油温と付着加工油の残留率の推移を示すグラフ。
【図3】実施例4を示す概念図。
【図4】実施例5を示す概念図。
【実施例1】
【0018】
本発明の実施例1を図面において詳細に説明すると、(1)は収納槽で、上端の出入口(2)を蓋体(3)により開閉可能に被覆している。この収納槽(1)には、図1に示す如く加工油(4)を収納するとともに、上記収納槽(1)内に配置した加熱機構(5)により、上記加工油(4)を加熱可能としている。また、収納槽(1)には温度センサー(9)を配置するとともに、第1開閉弁(6)を設けたオーバーフロー管(7)を介して加工油タンク(8)を接続している。また、収納槽(1)には、第1液位センサー(16)を設けており、収納槽(1)内の加工油(4)の液位が一定以上となった場合には、第1液位センサー(16)からの信号により第1開閉弁(6)を開放し、上記オーバーフロー管(7)を介して加工油(4)を加工油タンク(8)に導入可能としている。また、収納槽(1)には、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスを注入するための注入口(10)を、第2開閉弁(11)を介して接続している。
【0019】
上述の如く構成したものに於いて、加工作業により被加工物(12)に付着した加工油の減量処理を行うには、加工作業に使用した加工油と同じ種類の加工油(4)を収納槽(1)内に収納し、この同じ種類の加工油(4)を、前記加熱機構(5)により加工作業時の加工油の油温よりも高温に加熱する。そして、加工作業により加工油が付着した被加工物(12)を、蓋体(3)を開放した出入口(2)から収納槽(1)内に導入して蓋体(3)を閉止する。そして、収納槽(1)内の加熱した加工油(4)に、被加工物(12)を図1に示す如く浸漬させる。このように被加工物(12)を加熱した加工油(4)に浸漬させることにより、被加工物(12)に付着した加工油が加熱され、その粘度が低下する。そして、このように被加工物(12)に付着した加工油の粘度を低下させた状態で、図1に二点鎖線で示す如く、被加工物(12)を加工油(4)から引き上げる。
【0020】
このように、被加工物(12)に付着した加工油の粘度を低下させた状態で、被加工物(12)を加熱した加工油(4)から引き上げることにより、被加工物(12)に付着した加工油の油切りを良好なものとし、被加工物(12)に付着した加工油の付着残留量を、洗浄溶剤を用いることなく減少させる事が可能となる。また、上述の如く被加工物(12)に付着した加工油の粘度を低下させてその油切りを良好なものとすることにより、加工作業により被加工物(12)に付着した切り屑その他の加工屑の付着量を、あわせて減量することが可能となる。
【0021】
そのため、洗浄溶剤を用いた洗浄作業の前に本願発明の処理工程を行うことで、加工作業後の被加工物(12)をそのまま洗浄溶剤を用いて洗浄する場合と比較して、洗浄溶剤の使用量を少なくしながら被加工物(12)を容易に高い清浄度まで洗浄することが可能となり、洗浄のランニングコストを低くすることが可能となる。例えば、本願発明の処理工程を、脱脂洗浄機(図示せず)を用いた洗浄工程の前工程として行えば、上記の脱脂洗浄機による洗浄作業を容易なものとすることが可能になり、脱脂洗浄後の被加工物(12)の清浄度も高めることができる。
【0022】
また、精密洗浄を必要としない場合には、本願発明の処理工程後に、洗浄溶剤を用いた洗浄作業を行わずに被加工物(12)をそのまま熱風乾燥させて次工程に移ることも可能となり、この場合には、洗浄溶剤が全く必要ないものとなり、洗浄工程を簡易なものとするとともにランニングコストを安くすることが可能となる。
【0023】
また、上述の如く、加工作業により加工油が付着した被加工物(12)を加熱した加工油(4)と接触させると、加工作業により被加工物(12)に付着した加工油が収納槽(1)内の加工油(4)に混入し、収納槽(1)内の加工油(4)が増量する。この増量した加工油(4)は、第1開閉弁(6)を開放したオーバーフロー管(7)を介して加工油タンク(8)内に流入する。そして、本発明に於いては前述の如く、収納槽(1)内の加熱した加工油(4)と加工作業に使用した加工油を同一の種類としているため、上記加工油タンク(8)内に流入した加工油(4)を、冷却用熱交換器(図示せず)を用いて冷却することにより、そのまま容易に被加工物(12)の加工作業に再利用することが可能となる。そのため、被加工物(12)に付着した加工油をすべて洗浄溶剤により除去する場合と比較し、加工油の消費量を少なくしランニングコストを低くすることが可能となる。また、被加工物(12)に付着した加工油の再利用を可能とすることで、CO2の排出量を削減することも可能となり、地球環境への負荷を軽減することが可能となる。
【0024】
また、本願発明に於いては前述の如く、加工油(4)を加熱して用いるものであり、加工油(4)によっては、このように加熱を行うことで酸化劣化しやすくなるものもある。そこで、本実施例に於いては、前述の加工油(4)の加熱、及びこの加熱した加工油(4)と被加工物(12)との接触の際には、前記第2開閉弁(11)を開放し、不活性ガスの注入口(10)から収納槽(1)内に窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスを導入するものとしている。このように不活性ガスを収納槽(1)内に導入することにより、上述の加工油(4)の加熱、及びこの加熱した加工油(4)と被加工物(12)との接触を不活性ガスの雰囲気で行うことが可能となる。そのため、加工油(4)と大気との接触を上記の不活性ガスにより遮断することが可能となり、加工油(4)の酸化劣化を抑制することが可能となるため、前述の加工油(4)の再利用を繰り返し行うことが可能となる。
【0025】
また、前述の加工油(4)の加熱は、加工作業時の加工油の油温よりも高温で行うものであり、50℃〜200℃とするのが好ましい。加工油は、加工部分の冷却等のために用いられるのが通常であり、加工部分との熱交換により、加工作業時にその温度が50℃近くまで上昇する場合もある。そのため、加工油(4)の加熱温度を50℃未満とすると、この加熱温度が前記加工作業時の加工油の油温よりも低温になるおそれがあり、この場合には、加熱した加工油(4)により被加工物(12)の表面に付着した加工油の粘度を十分に低下させることができず、加工油の付着量を十分に減少できないおそれがある。また、加工油(4)の加熱温度が200℃を超えると、過熱化により加工油(4)が熱劣化し、加工油(4)の再利用が困難なものとなるとともに、引火の可能性も生じる。
【0026】
また、前述の如く加熱した加工油(4)に被加工物(12)を浸漬させる際に、被加工物(12)を回転又は揺動させたり、加工油(4)に超音波振動を加えたり、被加工物(12)に加工油(4)を噴射したりすれば、上記回転、揺動、超音波振動又は噴射による物理力で、被加工物(12)からの付着加工油及び加工屑の減量効率を一層高めることが可能となる。
【0027】
また、上述の如く加工油(4)との接触により加工油の付着量を減量した被加工物(12)を更に熱水に浸漬させれば、被加工物(12)に付着した加工油及び加工屑の付着量を一層減少させることが可能となるとともに、被加工物(12)の乾燥作業も容易なものとなるし、加工油の回収量も増やすことができる。また、上記熱水にエチルアルコールやIPAを混合させれば、被加工物(12)に付着した加工油及び加工屑の減量効率を一層高めることが可能となるとともに、被加工物(12)の乾燥作業も一層容易なものとなる。
【0028】
また、加工油を加熱することで、被加工物(12)への加工油の付着残留量を減量できることを立証するための実験を行った。この実験に於いては、表面が100mm×100mmの正方形状で、厚さ1mmの鉄板を、被加工物(12)として用いた。また、本実験に使用した加工油(4)の詳細を表1に示す。なお、加工油1は本実施例1に、加工油2は後述の実施例2に、加工油3は後述の実施例3に、それぞれ用いたものである。
【0029】
【表1】

【0030】
本実験の実施例1の実験方法は以下の通りである。まず、加工油が付着していない被加工物(12)を、常温(21℃)の加工油(4)に1分間浸漬させた後に加工油(4)から引き上げて3分間油切りを行い、被加工物(12)の重量を測定した。そして、この重量と加工油が付着する前の重量との重量差を、常温での加工油の付着油量とした。次に加工油(4)を85℃まで加熱した後、上記の油切り後の被加工物(12)を加工油(4)に1分間浸漬させた後に引き上げて3分間油切りを行い、被加工物(12)の重量を測定した。そして、この重量と加工油が付着する前の重量との重量差を、上記加熱温度に於ける加工油の付着油量とした。また、加工油(4)を、140℃、190℃まで更に加熱し、同様の測定を行った。
【0031】
本実験の実施例1の実験結果を表2に示す。なお、本実施例1及び後述の実施例2、3に於いて、各油温に於ける加工油の残留率及び減量率は、常温に於ける付着油量を基準として算出した。
【0032】
【表2】

【0033】
表2に示す如く、実施例1に於いては、加工油(4)の油温を21℃から最終的に190℃まで高めることにより、21℃の加工油の残留率を100%としたときに、加工油の残留率を13.9%まで下げることができた。
【実施例2】
【0034】
本実験の実施例2の実験方法は、常温時の加工油(4)の油温を32℃、加熱後の加工油(4)の油温を72℃、115℃、153℃とした点を除き、実施例1と同様である。実施例2の実験結果を表3に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
表3に示す如く、実施例2に於いては、加工油(4)の油温を32℃から最終的に153℃まで高めることにより、32℃の加工油の残留率を100%としたときに、加工油の残留率を61.5%まで下げることができた。
【実施例3】
【0037】
本実験の実施例3の実験方法は、常温時の加工油(4)の油温を32℃、加熱後の加工油(4)の油温を71℃、113℃、153℃とした点を除き、実施例1と同様である。実施例3の実験結果を表4に示す。
【0038】
【表4】

【0039】
表4に示す如く、実施例3に於いては、加工油(4)の油温を32℃から最終的に153℃まで高めることにより、32℃の加工油の残留率を100%としたときに、加工油の残留率を25.0%まで下げることができた。
【0040】
また、実施例1〜3に於ける加工油の油温と加工油の残留率の推移をグラフ化したものを図2に示す。
【0041】
図2に示す如く、実施例1〜3の全てに於いて、加工油(4)を加熱することで、被加工物(12)への加工油の残留率が低下した。これは、被加工物(12)の表面に付着した加工油が収納槽(1)内の加熱した加工油(4)に接触することにより、被加工物(12)に付着した加工油の粘度が低下するため、これにより、被加工物(12)に付着した加工油の油切りが促進されたことによるものである。このことから、加工油(4)を加熱することで、被加工物(12)への加工油の付着残留量を減量できることが立証された。そのため、本願発明の如く、加工作業により加工油が付着した被加工物(12)を加熱した加工油(4)に接触させ、被加工物(12)に付着した加工油を加熱することで、被加工物(12)に付着した加工油の付着量を減少可能であることを確認することができた。
【実施例4】
【0042】
上記実施例1〜3に於いては、加熱した加工油(4)に被加工物(12)を浸漬させることにより、被加工物(12)に付着した加工油の付着量を減量可能としているが、本実施例4に於いては、図3に示す如く、加熱した加工油(4)をポンプ(13)により加圧し、加工油(4)に浸漬していない被加工物(12)に対して噴射することにより、被加工物(12)に付着した加工油の付着量を減量可能としている。このように、被加工物(12)に対して加工油(4)を噴射することにより、上記噴射の圧力で、被加工物(12)に付着した加工油の減量効率を、一層高めることが可能となる。
【0043】
また、本願発明の減量処理は、常圧状態で実施しても減圧状態で実施しても良く、常圧状態よりも酸素が少ない減圧状態で実施すれば、加工油(4)の酸化劣化を防止することが可能となる。
【実施例5】
【0044】
上記実施例4に於いては、図3に示す如く、加工油(4)を加熱するための加熱機構(5)及び温度センサー(9)を収納槽(1)に設けているが、本実施例5に於いては、図4に示す如く、収納槽(1)の外部に設けた加熱槽(14)に加熱機構(5)及び温度センサー(9)を設けている。そして、加熱槽(14)に配置した第2液位センサー(17)からの信号により第3開閉弁(15)を開放して、収納槽(1)内の加工油(4)の一部を加熱槽(14)内に導入した後、第2液位センサー(17)からの信号により第3開閉弁(15)を閉止する。そして、加熱槽(14)内に導入した加工油(4)を加熱した後、この加熱した加工油(4)をポンプ(13)で加圧し、被加工物(12)に噴射するものとしている。このような構成を採用することにより、収納槽(1)内に収納した加工油(4)のうち、被加工物(12)との接触に必要な分のみを加熱槽(14)に収納して加熱することが可能となるため、収納槽(1)内の加工油(4)のすべてを加熱する場合と比較し、加熱エネルギーを節約することが可能となる。なお、本実施例に於いては上述の如く、収納槽(1)から加熱槽(14)に加工油(4)を導入しているが、他の異なる実施例に於いては、別個に設けた槽から加熱槽(14)に加工油(1)を導入することも可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 収納槽
4 加工油
5 加熱機構
12 被加工物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の加工作業に使用した加工油と同じ加工油を、前記加工作業時の油温よりも高温に加熱して粘度を低下させ、この加熱した加工油を、前記加工作業により加工油が付着した被加工物に接触させることにより、被加工物に付着している加工油の粘度を低下させ付着量を減少させることを特徴とする被加工物に付着した加工油を減量するための処理方法。
【請求項2】
加工作業により加工油が付着した被加工物を収納し、被加工物の加工作業に使用した加工油と同じ加工油を接触可能とした収納槽と、この収納槽内又は収納槽外に配置し被加工物の加工作業時の加工油の油温よりも高温に同じ加工油を加熱することにより粘度を低下させる加熱機構とから成り、加工油の付着した被加工物を加熱した加工油と接触させることにより、被加工物に付着している加工油の粘度を低下させ付着量を減少可能としたことを特徴とする被加工物に付着した加工油を減量するための処理装置。
【請求項3】
加熱した加工油と被加工物との接触は、脱脂洗浄機を用いた洗浄工程の前工程として行うことを特徴とする請求項1に記載の被加工物に付着した加工油を減量するための処理方法。
【請求項4】
加熱した加工油と被加工物との接触は、脱脂洗浄機を用いた洗浄工程の前工程として行うことを特徴とする請求項2に記載の被加工物に付着した加工油を減量するための処理装置。
【請求項5】
加熱した加工油は、冷却して被加工物の加工作業に再利用することを特徴とする請求項1または3に記載の被加工物に付着した加工油を減量するための処理方法。
【請求項6】
加熱した加工油は、冷却して被加工物の加工作業に再利用することを特徴とする請求項2または4に記載の被加工物に付着した加工油を減量するための処理装置。
【請求項7】
前記加工油の加熱、及びこの加熱した加工油と被加工物との接触は、不活性ガス雰囲気内で行うことを特徴とする請求項1に記載の被加工物に付着した加工油を減量するための処理方法。
【請求項8】
前記加工油の加熱、及びこの加熱した加工油と被加工物との接触は、不活性ガス雰囲気内で行うことを特徴とする請求項2に記載の被加工物に付着した加工油を減量するための処理装置。
【請求項9】
前記加工油の加熱温度は、50℃〜200℃としたことを特徴とする請求項1、3、5又は7に記載の被加工物に付着した加工油を減量するための処理方法。
【請求項10】
前記加工油の加熱温度は、50℃〜200℃としたことを特徴とする請求項2、4、6又は8に記載の被加工物に付着した加工油を減量するための処理装置。
【請求項11】
前記加熱した加工油と被加工物との接触時には、前記加熱した加工油に被加工物を浸漬させた状態で、被加工物を回転、揺動、超音波振動、被加工物への加工油の噴射又は加工油に非浸漬状態の被加工物に加熱した加工油を噴射する手段の一つまたは複数の手段を選択的に用いることを特徴とする請求項1、3又は7に記載の被加工物に付着した加工油を減量するための処理方法。
【請求項12】
前記加熱した加工油と被加工物との接触時には、前記加熱した加工油に被加工物を浸漬させた状態で、被加工物を回転、揺動、超音波振動、被加工物への加工油の噴射又は加工油に非浸漬状態の被加工物に加熱した加工油を噴射する手段の一つまたは複数の手段を選択的に用いることを特徴とする請求項2、4又は8に記載の被加工物に付着した加工油を減量するための処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−56367(P2011−56367A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207417(P2009−207417)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【特許番号】特許第4571223号(P4571223)
【特許公報発行日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(390019884)ジャパン・フィールド株式会社 (28)
【Fターム(参考)】