説明

装着式動作補助装置及びその制御方法

【課題】本発明は生体信号の検出感度に応じたパラメータに補正することを課題とする。
【解決手段】動作補助装置10のキャリブレーション制御手段162は、装着者12が動作補助装着具を装着したときに、負荷発生手段164により電力増幅手段158に対して駆動源140からの駆動力を負荷(入力トルク)として装着者12に付与させる。そして、駆動源140からの駆動力を付与された装着者12は、予め決められた所定キャリブレーション動作を行って骨格筋から力を発生させる。これにより、上記キャリブレーション動作に伴って物理現象検出手段142が関節角度を検出し、生体信号検出手段144が筋電位信号を検出する。パラメータ補正手段156では、フェーズ特定手段152によって特定されたフェーズにおける差分導出手段154によって算出された負荷(入力トルク)と駆動力(筋力)との差に基づいてパラメータKを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は装着者の動作を補助する装着式動作補助装置及びその制御方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
筋力が失われた身体障害者あるいは筋力が衰えた高齢者にとっては、健常者であれば簡単に行える動作でも非常に困難である場合が多い。このため、今日では、これらの人達の動作を補助あるいは代行するために、種々のパワーアシスト装置の開発が進められている。
【0003】
これらのパワーアシスト装置としては、例えば、利用者(以下「装着者」という)に装着される装着式動作補助装置(以下、単に「動作補助装置」という)がある。
【0004】
この種の動作補助装置には、装着者の皮膚上に貼り付けられ、当該装着者の筋活動に伴う筋電位信号(生体信号)を検出する筋電位センサ(検出手段)と、装着者に補助動力を付与するためのアクチュエータ(駆動源)とを備えた構成のものが開発されつつある(例えば、非特許文献1)。
【0005】
この動作補助装置では、検出手段による検出結果に基づいてモータ等のアクチュエータを駆動すると共に、装着者の意思に従ってアシスト力(補助動力)を付与するようにアクチュエータをコンピュータ制御することを特徴としている。そのため、動作補助装置は、装着者の意思に基づいたアシスト力を当該装着者に付与することが可能になり、装着者の動作に必要なアシスト力を装着者の動作に連動するように付与することができる。
【0006】
ところで、上述した動作補助装置では、例えば、筋電位センサの検出信号を増幅した信号と所定の相関関係を有する制御信号を、アクチュエータを制御するドライバ回路に供給することにより、装着者が発する筋電位信号に対して所要の相関関係を満たすようにアシスト力を発生させている。
【0007】
すなわち、装着者の筋活動に伴う筋電位信号および動力が、互いに正の相関を有するとともに互いの大きさの比率が所定の値となるため、これら所要の関係を満たすように、筋電位信号に応じたアシスト力を付与する必要がある。換言すると、動作補助装置によるアシスト力が筋電位信号に対して所要の関係を満たさなければ、装着者に付与される補助動力が過大あるいは過小となり、利用者の利便性を著しく損なう虞れがある。
【0008】
装着者が発する筋電位信号は、微弱な電気信号であり、且つ各個人によって筋電位信号と筋電位信号によって生じる筋力との比例関係が異なり、しかも同一人でもその日の体調によって皮膚の電気的抵抗値が一定でないので、筋電位信号と筋電位信号によって生じる筋力が一定ではない場合が多い。そのため、上記動作補助装置では、制御信号に対して所定の係数(パラメータ)を掛けてアクチュエータヘの制御量を補正すべく、所謂キャリブレーション装置を備えている。具体的には、動作補助具が装着者に装着された場合に、筋電位信号およびアシスト力を所要の関係に対応付けて係数(パラメータ)による補正を行うキャリブレーション装置を備えている。このキャリブレーション装置は、装着者に対して所定量の負荷が作用した場合の筋電位信号を取得し、これら負荷および筋電位信号の対応関係から上記係数(パラメータ)を変更して導出可能に補正する構成とされている。
【0009】
このキャリブレーション装置では、装着者への負荷を段階的に変化させ、各段階の負荷に拮抗するように装着者に筋力を発生させた場合に、各段階の負荷および筋電位信号の対応関係に基づいて、筋電位信号および補助動力を所要の関係に対応付けることができる。
【0010】
ここで、装着者への負荷を段階的に変化させる方法としては、異なる重量の錘を予め用意しておき、表面筋電位を検出する度に別の錘に取り替える方法、あるいは、コイルバネを装着者の脚に連結させ、該コイルバネの伸び量を段階的に変化させる方法が考えられる。
【0011】
これらの方法を適用したキャリブレーション装置を備える動作補助装置では、必要に応じ、筋電位信号および補助動力を所要の関係に確実に対応付けることができるため、装着者に付与されるアシスト力が過大あるいは過小となる事態を防止することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Takao Nakai, Suwoong Lee, Hiroaki Kawamoto and Yoshiyuki Sankai, "Development of Power Assistive Leg for Walking Aid using EMG and Linux," Second Asian Symposium on Industrial Automation and Robotics, BITECH, Bangkok, Thailand, May 17-18, 2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、上述した動力補助装置では、上述したように筋電位信号を検出する筋電位センサを装着者の皮膚上に直接貼り付けており、皮膚を介して表面筋電位を検出するようにしている。そのため、例えば、同一の装着者であっても筋電位センサの貼着位置がずれた場合や体調が変化した場合には、電気的抵抗値が相違あるいは変化してしまい、筋電位信号の検出感度のバラツキを招来するので、上述した補正(キャリブレーション)を装着時に毎回行う必要がある。このため、上述したキャリブレーション方法では、動作補助具が装着者に装着される都度、異なる重量の錘を何度も交換したり、あるいはコイルバネを取り付けて該コイルバネの伸び量を段階的に変化させるといった煩雑な作業を装着者に強いることになる。
【0014】
このように、従来のキャリブレーション方法では、キャリブレーションのために1人の装着者に要する作業が著しく煩雑なものとなり、キャリブレーションが終了するまでにかなりの時間を要するばかりか、筋力の弱った装着者に余計な負担を強いるものであり、これらの理由により動作補助装置の実用化、普及を図る上で大きな制約となるという問題があった。
【0015】
そこで、本発明は、上記実情に鑑みて、装着式動作補助装置のキャリブレーションのために装着者が要する作業の煩雑化を抑えることのできる装着式動作補助装置及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明は以下のような手段を有する。
〔1〕本発明は、動力で作動する装着式動作補助装置であって、
装着者に装着される第1フレームおよび第2フレームと、該第1フレームおよび該第2フレームを動作可能に連結する関節とを有し、該第1フレームおよび該第2フレームは屈曲方向および伸展方向を画定するように該関節のまわりに移動し、回動角度を画定する、動作補助装着具と、
該動作補助装着具の関節が前記装着者の関節に近接するように、対応する肢節に該第1フレームおよび該第2フレームを取り外し可能に取り付ける、少なくとも1組の締結ベルトと、
筋電位センサと、
該動作補助装着具に設けられ、その体積の大部分を占有する部分が、該動作補助装着具の外側に配置され、該関節まわりに該第1および該第2フレームを駆動するための力を印加するように、該動作補助装着具の該第1および該第2フレームに連結され、該筋電位センサからの筋電位信号に基づく補助動力を発生する駆動源と、
前記装着式動作補助装置の初期設定で、筋電位センサからの検出信号に基づいて前記補助動力の補正を行うためのパラメータを更新するキャリブレーション手段と、
前記キャリブレーション手段により更新された前記パラメータを用いて前記筋電位センサにより検出された検出信号に応じた補助動力を発生するように演算処理を行なって前記駆動源を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする。
〔2〕本発明は、前記筋電位センサからの検出信号及び前記駆動源への制御信号を入出力するインターフェイスを有することを特徴とする。
〔3〕本発明は、前記インターフェイスは、前記筋電位センサからの検出信号を前記キャリブレーション手段に入力し、前記制御手段により生成された制御信号を前記駆動源に出力することを特徴とする。
〔4〕本発明は、動力で作動する装着式動作補助装置であって、
装着者に装着される第1フレームおよび第2フレームと、該第1フレームおよび該第2フレームを動作可能に連結する関節とを有し、該第1フレームおよび該第2フレームは屈曲方向および伸展方向を画定するように該関節のまわりに移動し、回動角度を画定する動作補助装着具と、
該動作補助装着具の関節が前記装着者の関節に近接するように、対応する肢節に該第1フレームおよび該第2フレームを取り外し可能に取り付ける、少なくとも1組の締結ベルトと、
筋電位センサと、
該動作補助装着具に設けられ、その体積の大部分を占有する部分が、該動作補助装着具の外側に配置され、該関節まわりに該第1および該第2フレームを駆動するための力を印加するように、該動作補助装着具の該第1および該第2フレームに連結され、該筋電位センサからの筋電位信号に基づく補助動力を発生する駆動源と、
初期設定時に前記筋電位センサからの検出信号に基づいて前記補助動力の補正を行うためのパラメータを更新するキャリブレーション手段と、
前記キャリブレーション手段により更新された前記パラメータを用いて前記筋電位センサにより検出された検出信号に応じた補助動力を発生するように演算処理を行なって前記駆動源を制御する制御手段と、
前記筋電位センサからの検出信号及び前記駆動源への制御信号を入出力するインターフェイスと、
を備えることを特徴とする。
〔5〕本発明は、前記インターフェイスは、前記筋電位センサからの検出信号を前記キャリブレーション手段に入力し、前記制御手段により生成された制御信号を前記駆動源に出力することを特徴とする。
〔6〕本発明は、前記制御手段から出力された制御データは、前記インターフェイスを介してデータ出力部あるいは通信ユニットに出力されることを特徴とする。
〔7〕本発明は、装着者が関節のまわりに肢を動かす際に、当該装着者の体調に応じて駆動源による補助動力を制御するパラメータを調整する装着式動作補助装置の制御方法であって、
前記装着式動作補助装置の初期設定で、筋電位センサからの検出信号に基づいて当該装着者が発生する仮想トルクを推定する第1ステップと、
当該仮想トルクと前記検出信号との関係に基づいて前記補助動力の補正を行うためのパラメータを更新する第2ステップと、
前記更新されたパラメータを用いて前記筋電位センサにより検出された検出信号に応じた補助動力を発生するように演算処理を行なって前記駆動源を制御する第3ステップと、
インターフェイスを介して前記筋電位センサからの検出信号が入力され、前記駆動源への制御信号を出力する第4ステップと、
を有することを特徴とする。
〔8〕本発明は、前記制御手段から出力された制御データを、前記インターフェイスを介してデータ出力部あるいは通信ユニットに出力させる第5ステップを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、駆動源から段階的に付与された負荷としての駆動力に対抗して筋力を発生させる際の生体信号としての電位を検出手段によって検出し、この検出信号に対応して装着者が発生する仮想トルクを推定し、仮想トルクと検出信号との関係に基づいて演算処理により補助動力の補正を行うためのパラメータを更新するため、キャリブレーションに要する労力と時間を大幅に削減することが可能になり、このことにより装着式動作補助装置の実用化及び普及をより一層促進することが可能になる。
【0018】
さらに、筋力が衰えた装着者に対してキャリブレーションを行うために余計な負担を強いることがなく、動作補助装着具が装着者に装着される際に、装着者が簡単な動作を行うだけで、キャリブレーションが自動的に行われて、当該装着者の状態に応じた補正値を設定し、装着者の筋電位信号に基づく駆動力を装着者の動作に連動して正確に付与することが可能になる。
【0019】
よって、キャリブレーションを行う際に装着者の意思に沿ったアシスト力が駆動源から付与され、アシスト力が過大になったり、過小になったりせず、装着者の動作を安定的にアシストして装着式動作補助装置の信頼性をより高めることができる。
【0020】
特に装着者が初心者の場合のように、装着された動作補助装着具を思うように使うことが難しいと思われる状況においても、装着者は安心してキャリブレーションを行うことができる。そのため、装着者が自由に動作することができないような身体障害者の場合でも、特別な操作をせずに装着者の身体的な不利な動作を避けるようにしてキャリブレーションを行うことが可能になり、装着者の身体的な弱点を補うようにキャリブレーションを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による装着式動作補助装置の一実施例の制御系システムを示すブロック図である。
【図2】装着式動作補助装置の一実施例が装着された状態を前側からみた斜視図である。
【図3】装着式動作補助装置の一実施例が装着された状態を後側からみた斜視図である。
【図4】動作補助装着具18の左側面図である。
【図5】動作補助装着具18の背面図である。
【図6】動作補助装置10を構成する各機器のブロックである。
【図7】各タスク及びフェーズの一例を示す図である。
【図8】キャリブレーションデータベース148を模式的に示した図である。
【図9】動作の一例としてのフェーズA1〜A4の動作過程を示す図である。
【図10】表面筋電位e〜eの検出位置を示す図であり、(A)は脚を前から見た図、(B)は脚を後から見た図である。
【図11】表面筋電位e〜eの検出位置を示す図であり、(A)は股関節を矢印方向に曲げる際の表面筋電位を示す脚の側面図であり、(B)は膝関節を矢印方向に曲げる際の表面筋電位を示す脚の側面図である。
【図12】動作補助装着具18が装着された装着者12の膝関節の屈筋の状態を示す概略図である。
【図13】右股関節の伸筋に対する入力トルクと仮想トルクを示すグラフである。
【図14】右股関節の屈筋に対する入力トルクと仮想トルクを示すグラフである。
【図15】装着者12が基準の所定動作と同じ動作を行ったときの表面筋電位と仮想トルクとの差を示すグラフである。
【図16】屈伸動作に伴う股関節の関節角度変化及び膝関節の関節角度変化を示すグラフである。
【図17】屈伸動作に伴う股関節の曲げ動作の仮想トルク、股関節の伸び動作の仮想トルク、膝関節の曲げ動作の仮想トルク、膝関節の伸び動作の仮想トルクを示すグラフである。
【図18】屈伸動作に伴う股関節の曲げ動作の表面筋電位、股関節の曲げ動作の基準仮想トルク、股関節の伸び動作の推定トルクを示すグラフである。
【図19】屈伸動作に伴う股関節の伸び動作の表面筋電位、股関節の伸び動作の基準仮想トルク、股関節の曲げ動作の推定トルクを示すグラフである。
【図20】制御装置100が実行するメイン制御処理の手順を説明するためのフローチャートである。
【図21】静止状態での初期設定を行う初回キャリブレーションの制御手順を示すフローチャートである。
【図22】ワンモーション(1回の動作)による再設定キャリブレーションの制御手順を示すフローチャートである。
【図23】所定の基準動作によるキャリブレーションの制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面と共に本発明の一実施例について説明する。
【実施例】
【0023】
図1は本発明による装着式動作補助装置の一実施例の制御系システムを示すブロック図である。図1に示されるように、動作補助装置10の制御系システムは、装着者12に対してアシスト力を付与する駆動源140と、装着者12の動作に応じた関節角度(物理現象)を検出する物理現象検出手段142と、装着者12が発生する筋力に応じた筋電位(生体信号)を検出する生体信号検出手段144とを備えている。
【0024】
データ格納手段146には、装着者12が発生する筋力に対する筋電位(生体信号)の検出感度に応じて指令信号(制御信号)のパラメータを補正するためのキャリブレーションデータベース148と、指令信号データベース150とが格納されている。尚、キャリブレーションデータベース148は、後述するように、動作補助装着具18(図2、図3を参照)を装着した装着者12が発する動力(筋力)および生体信号(筋電位信号)の第1の対応関係を予め格納した第1記憶領域(第1の格納手段)と、装着者12が所定の基本動作を行う過程で発する動力(筋力)および生体信号(筋電位信号)の第2の対応関係を予め格納した第2記憶領域(第2の格納手段)とを有する。
【0025】
物理現象検出手段142によって検出された関節角度(θknee,θhip)及び生体信号検出手段144によって検出された筋電位信号(EMGknee,EMGhip)は、キャリブレーションデータベース148及び指令信号データベース150に入力される。
【0026】
制御装置100は、フェーズ特定手段152、差分導出手段154、パラメータ補正手段156、制御手段160、キャリブレーション制御手段162、負荷発生手段164を有する。そして、キャリブレーション制御手段162は、動作補助装着具18が装着者12に装着される都度、装着者12による基本動作において発生する生体信号と第2の対応関係とに基づいて、第1の対応関係を満たすように生体信号に応じた補助動力の補正を行う。
【0027】
すなわち、キャリブレーション制御手段162は、装着者12が動作補助装着具18を装着して電源スイッチがオンに操作されたときに、キャリブレーション制御処理を実行して負荷発生手段164により電力増幅手段158に対して駆動源140からの駆動力を負荷(入力トルク)として装着者12に段階的に付与させ、この駆動力と拮抗するように装着者12に筋力を発生させる。
【0028】
その後、駆動源140からの駆動力を付与された装着者12は、予め決められた所定のキャリブレーション動作(例えば、タスクA:着席状態から立ち上がる動作)を行って骨格筋から筋力を発生させる。これにより、上記キャリブレーション動作に伴って物理現象検出手段142が関節角度を検出すると共に、生体信号検出手段144が筋電位信号を検出する。
【0029】
そして、フェーズ特定手段152では、物理現象検出手段142により検出した関節角度をキャリブレーションデータベース148に格納された関節角度と比較することにより、装着者12のキャリブレーション動作パターンのフェーズを特定する。
【0030】
また、差分導出手段154では、キャリブレーション制御処理の開始により、負荷発生手段164により付与された駆動源140の負荷(入力トルク)と、生体信号検出手段144により検出された筋電位信号(実測値)に対応する筋力(推定トルク)とを比較し、両者の差分を求め上記第2の対応関係を求める。
【0031】
また、パラメータ補正手段156では、フェーズ特定手段152によって特定されたフェーズにおける差分導出手段154によって算出された負荷(入力トルク)と筋力(推定トルク)との差に基づいて、上記第1の対応関係を満足するようにパラメータKを補正する。負荷発生手段164により付与された駆動源140からの入力トルクと、生体信号検出手段144により検出された筋電位信号(実測値)に対応する筋力との差がないときは、基準パラメータを補正しない。しかし、負荷発生手段164により付与された駆動源140からの入力トルクと、生体信号検出手段144により検出された筋電位信号(実測値)に対応する筋力との差があるときは、両者が一致するようにパラメータKを補正する。その際、補正パラメータK'は、入力トルクと推定トルクとが等しくなるように設定される(第2のパラメータ設定手段)。
【0032】
そして、キャリブレーション制御手段162は、パラメータ補正手段156によって補正されたパラメータを当該装着者12のパラメータとして設定し、次のフェーズに対するキャリブレーションを行う。
【0033】
このように、キャリブレーションによって設定されたパラメータを用いて生体信号検出手段144によって検出された生体信号に応じたアシスト力を発生するように駆動源140を制御するため、装着者12のその日の状態(皮膚の抵抗値)や生体信号検出手段144の取付位置のずれなどに拘り無く筋力とアシスト力とが例えば、1:1の所定割合を保つように制御することが可能になる。
【0034】
また、制御手段160では、物理現象検出手段142によって検出された関節角度(θknee,θhip)及び生体信号検出手段144によって検出された筋電位信号(EMGknee,EMGhip)が供給されており、関節角度及び筋電位信号に応じた各フェーズ毎の駆動源140からのアシスト力をキャリブレーション制御手段162によって設定された補正パラメータK'を用いて演算し、その演算結果から得られた指令信号を電力増幅手段158に供給する。
【0035】
ここで、装着式動作補助装置10の具体的な構成例について詳しく説明する。
【0036】
図2は装着式動作補助装置の一実施例が装着された状態を前側からみた斜視図である。図3は装着式動作補助装置の一実施例が装着された状態を後側からみた斜視図である。
【0037】
図2及び図3に示されるように、動作補助装置10は、例えば、骨格筋の筋力低下により歩行が不自由な下肢運動機能障害者、あるいは、歩行運動のリハビリを行う患者などのように自力歩行が困難な人の歩行動作を補助(アシスト)する装置であり、脳からの信号により筋力を発生させる際に生じる生体信号(表面筋電位)を検出し、この検出信号に基づいてアクチュエータからの駆動力を付与するように作動する。
【0038】
動作補助装置10を装着した装着者12は、自らの意思で歩行動作を行うと、その際に発生した生体信号に応じた駆動トルクがアシスト力として動作補助装置10から付与され、例えば、通常歩行で必要とされる筋力の半分の力で歩行することが可能になる。従って、装着者12は、自身の筋力とアクチュエータ(本実施例では、電動式の駆動モータを用いる)からの駆動トルクとの合力によって全体重を支えながら歩行することができる。
【0039】
その際、動作補助装置10は、後述するように歩行動作に伴う重心の移動に応じて付与されるアシスト力(モータトルク)が装着者12の意思を反映するように制御している。そのため、動作補助装置10のアクチュエータは、装着者12の意思に反するような負荷を与え無いように制御されており、装着者12の動作を妨げないように制御される。
【0040】
また、動作補助装置10は、歩行動作以外にも、例えば、装着者12が椅子に座った状態から立ち上がる際の動作、あるいは立った状態から椅子に腰掛ける際の動作も補助することができる。さらには、装着者12が階段を上がったり、階段を下りる場合にもパワーアシストすることができる。特に筋力が弱っている場合には、階段の上り動作や、椅子から立ち上がる動作を行うことが難しいが、動作補助装置10を装着した装着者12は、自らの意思に応じて駆動トルクを付与されて筋力の低下を気にせずにした動作することが可能になる。
【0041】
ここで、動作補助装置10の構成の一例について説明する。図2及び図3に示されるように、動作補助装置10は、装着者12に装着される動作補助装着具18にアクチュエータ(駆動源140に相当する)を設けたものである。アクチュエータとしては、装着者12の右側股関節に位置する右腿駆動モータ20と、装着者12の左側股関節に位置する左腿駆動モータ22と、装着者12の右膝関節に位置する右膝駆動モータ24と、装着者12の左膝関節に位置する左膝駆動モータ26とを有する。これらの駆動モータ20,22,24,26は、制御装置からの制御信号により駆動トルクを制御されるサーボモータからなる駆動源であり、モータ回転を所定の減速比で減速する減速機構(図示せず)を有しており、小型ではあるが十分な駆動力を付与することができる。
【0042】
また、装着者12の腰に装着される腰ベルト30には、駆動モータ20,22,24,26を駆動させるための電源として機能するバッテリ32,34が取り付けられている。バッテリ32、34は、充電式バッテリであり、装着者12の歩行動作を妨げないように左右に分散配置されている。
【0043】
また、装着者12の背中に装着される制御バック36には、後述する制御装置、モータドライバ、計測装置、電源回路などの機器が収納されている。尚、制御バック36の下部は、腰ベルト30に支持され、制御バック36の重量が装着者12の負担にならないように取り付けられる。
【0044】
そして、動作補助装置10は、装着者12の右腿の動きに伴う表面筋電位(EMGhip)を検出する筋筋電位センサ38a,38bと、装着者12の左腿の動きに伴う表面筋電位(EMGhip)を検出する筋電位センサ40a,40bと、右膝の動きに伴う表面筋電位(EMGknee)を検出する筋電位センサ42a,42bと、左膝の動きに伴う表面筋電位(EMGknee)を検出する筋電位センサ44a,44bとが設けられている。
【0045】
これらの各筋電位センサ38a,38b,40a,40b,42a,42b,44a,44bは、骨格筋が筋力を発生させる際の表面筋電位を測定する検出手段であり、骨格筋で発生した微弱電位を検出する電極(図示せず)を有する。尚、本実施例では、各筋電位センサ38a,38b,40a,40b,42a,42b,44a,44bは、電極の周囲を覆う粘着シールにより装着者12の皮膚表面に貼着するように取り付けられる。
【0046】
人体においては、脳からの指令によって骨格筋を形成する筋肉の表面にシナプス伝達物質のアセチルコリンが放出される結果、筋線維膜のイオン透過性が変化して活動電位(EMG:Electro MyoGram Myoelectricity)が発生する。そして、活動電位によって筋線維の収縮が発生し、筋力を発生させる。そのため、骨格筋の筋電位を検出することにより、歩行動作の際に生じる筋力を推測することが可能になり、この推測された筋力に基づく仮想トルクから歩行動作に必要なアシスト力を求めることが可能になる。
【0047】
また、筋肉は、血液によりアクチンとミオシンと呼ばれるたんぱく質が供給されると伸び縮みするが、筋力を出すのは縮むときである。そのため、2つの骨が互いに回動可能な状態に連結された関節では、関節を曲げる方向の力を発生させる屈筋と、関節を伸ばす方向の力を発生させる伸筋とが2つの骨間に装架されている。
【0048】
そして、人体には、腰から下に脚を動かすための筋肉が複数あり、腿を前に上げる腸腰筋と、腿を下げる大殿筋と、膝を伸ばすための大腿四頭筋と、膝を曲げる大腿二頭筋などがある。
【0049】
筋電位センサ38a,40aは、装着者12の腿の付け根部分前側に貼着され、腸腰筋の表面筋電位を検出することにより脚を前に出すときの筋力に応じた筋電位を測定する。
【0050】
筋電位センサ38b,40bは、装着者12のお尻に貼着され、大殿筋の表面筋電位を検出することにより、例えば、後ろに蹴る力や階段を上がるとき筋力に応じた筋電位を測定する。
【0051】
筋電位センサ42a,44aは、装着者12の膝上前側に貼着され、大腿四頭筋の表面筋電位を検出し、膝から下を前に出す筋力に応じた筋電位を測定する。
【0052】
筋電位センサ42b,44bは、装着者12の膝上後側に貼着され、大腿二頭筋の表面筋電位を検出し、膝から下を後に戻す筋力に応じた筋電位を測定する。
【0053】
従って、動作補助装置10では、これらの筋電位センサ38a,38b,40a,40b,42a,42b,44a,44bによって検出された表面筋電位に基づいて4個の駆動モータ20,22,24,26に供給する駆動電流を求め、この駆動電流で駆動モータ20,22,24,26を駆動することで、アシスト力が付与されて装着者12の歩行動作を補助するように構成されている。
【0054】
また、歩行動作による重心移動をスムーズに行うため、脚の裏にかかる荷重を検出する必要がある。そのため、装着者12の左右脚の裏には、反力センサ50a,50b,52a,52b(図2及び図3中、破線で示す)が設けられている。
【0055】
また、反力センサ50aは、右脚前側の荷重に対する反力を検出し、反力センサ50bは、右脚後側の荷重に対する反力を検出する。反力センサ52aは、左脚前側の荷重に対する反力を検出し、反力センサ52bは、左脚後側の荷重に対する反力を検出する。各反力センサ50a,50b,52a,52bは、例えば、印加された荷重に応じた電圧を出力する圧電素子などからなり、体重移動に伴う荷重変化、及び装着者12の脚と地面との接地の有無を夫々検出することができる。
【0056】
ここで、動作補助装着具18の構成について図4及び、図5を併せ参照して説明する。図4は動作補助装着具18の左側面図である。図5は動作補助装着具18の背面図である。
【0057】
図4及び図5に示されるように、動作補助装着具18は、装着者12の腰に装着される腰ベルト30と、腰ベルト30の右側部から下方に設けられた右脚補助部54と、腰ベルト30の左側部から下方に設けられた左脚補助部55とを有する。
【0058】
右脚補助部54と左脚補助部55とは、対称に配置されており、腰ベルト30を支持するように下方に延在する第1フレーム56と、第1フレーム56より下方に延在し装着者12の腿外側に沿うように形成された第2フレーム58と、第2フレーム58より下方に延在し装着者12の脛外側に沿うように形成された第3フレーム60と、装着者12の脚の裏(靴を履く場合には、靴底)が載置される第4フレーム62とを有する。
【0059】
第1フレーム56の下端と第2フレーム58の上端との間には、軸受構造とされた第1関節64が介在しており、第1フレーム56と第2フレーム58とを回動可能に連結している。この第1関節64は、股関節と一致する高さ位置に設けられており、第1フレーム56が第1関節64の支持側に結合され、第2フレーム58が第1関節64の回動側に結合されている。
【0060】
また、第2フレーム58の下端と第3フレーム60の上端との間には、軸受構造とされた第2関節66が介在しており、第2フレーム58と第3フレーム60とを回動可能に連結している。この第2関節66は、膝関節と一致する高さ位置に設けられており、第2フレーム58が第2関節66の支持側に結合され、第3フレーム60が第2関節66の回動側に結合されている。
【0061】
従って、第2フレーム58及び第3フレーム60は、腰ベルト30に固定された第1フレーム56に対して第1関節64及び第2関節66を回動支点とする振り子運動を行えるように取り付けられている。すなわち、第2フレーム58及び第3フレーム60は、装着者12の脚と同じ動作を行えるように構成されている。
【0062】
そして、第1関節64及び第2関節66の支持側には、モータブラケット68が設けられている。モータブラケット68は、外側水平方向に突出するモータ支持部68aを有し、モータ支持部68aには、駆動モータ20,22,24,26が垂直状態に取り付けられている。そのため、駆動モータ20,22,24,26は、側方に大きく突出せず、歩行動作時に周囲の障害物などに接触しにくいように設けられている。
【0063】
また、第1関節64及び第2関節66は、駆動モータ20,22,24,26の回転軸が、ギヤを介して被駆動側となる第2フレーム58、第3フレーム60に駆動トルクを伝達するように構成されている。
【0064】
さらに、駆動モータ20,22,24,26は、関節角度を検出する角度センサ(物理現象検出手段142に相当する)70,72,74,76を有する。この角度センサ70,72,74,76は、例えば、第1関節64及び第2関節66の関節角度に比例したパルス数をカウントするロータリエンコーダなどからなり、関節角度に応じたパルス数に対応した電気信号をセンサ出力として出力する。
【0065】
角度センサ70,72は、装着者12の股関節の関節角度(θhip)に相当する第1フレーム56と第2フレーム58との間の回動角度を検出する。また、角度センサ74,76は、装着者12の膝関節の関節角度(θknee)に相当する第2フレーム58の下端と第3フレーム60との間の回動角度を検出する。
【0066】
尚、第1関節64及び第2関節66は、装着者12の股関節、膝関節の回動可能な角度範囲でのみ回動される構成であり、装着者12の股関節、膝関節に無理な動きを与えないようにストッパ機構(図示せず)が内蔵されている。
【0067】
第2フレーム58には、装着者12の腿に締結される第1締結ベルト78が取り付けられている。また、第3フレーム60には、装着者12の膝下に締結される第2締結ベルト80が取り付けられている。従って、駆動モータ20,22,24,26で発生された駆動トルクは、ギヤを介して第2フレーム58、第3フレーム60に伝達され、さらに第1締結ベルト78、第2締結ベルト80を介して装着者12の脚にアシスト力として伝達される。
【0068】
また、第3フレーム60の下端には、軸82を介して第4フレーム62が回動可能に連結されている。さらに、第4フレーム62の下端には、装着者12の靴底の踵部分が載置される踵受け部84が設けられている。そして、第2フレーム58及び第3フレーム60は、ネジ機構により軸方向の長さを調整可能であり、装着者12の脚の長さに応じて任意の長さに調整されるように構成されている。
【0069】
上記各フレーム56,58,60,64は、夫々金属により形成されており、腰ベルト30に設けられたバッテリ32,34、制御バック36、動作補助装着具18の重量を支えることができる。すなわち、動作補助装置10は、動作補助装着具18などの重量が装着者12に作用しないように構成されており、筋力が低下した装着者12に余計な荷重を与えないように取り付けられる。
【0070】
図6は動作補助装置10を構成する各機器のブロックである。図6に示されるように、バッテリ32,34は、電源回路86に電源供給しており、電源回路86では所定電圧に変換して入出力インターフェイス88に定電圧を供給する。また、バッテリ32,34の充電容量は、バッテリ充電警告部90によって監視されており、バッテリ充電警告部90は、予め設定された残量に低下すると、警告を発して装着者12にバッテリ交換または充電を報知する。
【0071】
各駆動モータ20,22,24,26を駆動する第1乃至第4モータドライバ92〜95は、入出力インターフェイス88を介して制御装置100からの制御信号に応じた駆動電圧を増幅して各駆動モータ20,22,24,26に出力する。
【0072】
各筋電位センサ38a,38b,40a,40b,42a,42b,44a,44bから出力された表面筋電位の検出信号は、第1乃至第8差動増幅器(電力増幅手段158に相当する)101〜108によって増幅され、A/D変換器(図示せず)によってデジタル信号に変換されて入出力インターフェイス88を介して制御装置100に入力される。尚、筋肉で発生する筋電位は、微弱である。そのため、第1乃至第8差動増幅器101〜108で例えば、30μVの筋電位をコンピュータが判別可能な3V程度に増幅するには、10倍となる100dBの増幅率が必要になる。
【0073】
また、角度センサ70,72,74,76から出力された角度検出信号は、夫々第1乃至第4角度検出部111〜114に入力される。第1乃至第4角度検出部111〜114は、ロータリエンコーダによって検出されたパルス数を角度に相当する角度データ値に変換しており、検出された角度データは入出力インターフェイス88を介して制御装置100に入力される。
【0074】
反力センサ50a,50b,52a,52bから出力された反力検出信号は、夫々第1乃至第4反力検出部121〜124に入力される。第1乃至第4反力検出部121〜124は、圧電素子によって検出された電圧を力に相当するデジタル値に変換しており、検出された反力データは入出力インターフェイス88を介して制御装置100に入力される。
【0075】
メモリ(データ格納手段146に相当する)130は、各データを格納する格納手段であり、起立動作、歩行動作や着席動作など各動作パターン(タスク)毎に設定されたフェーズ単位の制御データが予め格納されたデータベース格納領域130Aと、各モータを制御するための制御プログラムが格納された制御プログラム格納領域130Bなどが設けられている。
【0076】
本実施例では、データベース格納領域130Aにキャリブレーションデータベース148及び指令信号データベース150が格納されている。また、キャリブレーションデータベース148は、図8に示されるように、動作補助装着具18を装着した装着者12が発する筋力(動力)eA1(t)…および生体信号EA1(t)…の第1の対応関係、及び基準パラメータKA1…が格納されている。また、第1の対応関係は、生体信号EA1(t)…に対して筋力eA1(t)…が比例関係にあり、正の相関を有する。
【0077】
また、キャリブレーションデータベース148は、装着者12が所定の基本動作を行う過程で発する筋力(動力)e'A1(t)…および生体信号EA1(t)…の第2の対応関係、及び補正パラメータK'A1…が格納されている。第2の対応関係は、基本動作における生体信号EA1(t)…の変化と筋力eA1(t)…の変化との関係である。
【0078】
また、制御装置100から出力された制御データは、入出力インターフェイス88を介してデータ出力部132あるいは通信ユニット134に出力され、例えば、モニタ(図示せず)に表示したり、あるいはデータ監視用コンピュータ(図示せず)などにデータ通信で転送することもできる。
【0079】
また、制御装置100は、角度センサ70,72,74,76により検出された関節角度を基準パラメータの関節角度と比較することにより、装着者12の動作パターンのフェーズを特定し、このフェーズに応じた動力を発生させるための指令信号を生成する自律的制御手段(制御手段160に相当する)100Aを有する。
【0080】
さらに、制御装置100は、動作補助装着具18が装着者12に装着されたとき、駆動モータ(駆動源)20,22,24,26からの所定の駆動力を外的負荷として付与する負荷発生手段100Dと、付与された駆動力に抗して発生した生体信号を筋電位センサ(検出手段)38a,38b,40a,40b,42a,42b,44a,44bにより検出し、この検出信号に基づいて自律的制御手段100Aが行う演算のパラメータ(例えば、比例制御での比例ゲイン)を生成し、このパラメータを当該装着者固有の補正値として設定する補正値設定手段(パラメータ補正手段156に相当する)100Eと、補正値設定手段100E等の動作を適宜制御することにより、補正されたパラメータを当該装着者12に固有のパラメータとして設定するキャリブレーション制御手段100Fとを備えている。
【0081】
本実施例のキャリブレーションとしては、例えば、購入した動作補助装着具18を最初に装着するときに行う初期設定キャリブレーションと、当該初期設定キャリブレーションを行った後、動作補助装着具18を装着する都度行う再設定キャリブレーションとがある。
【0082】
初期設定キャリブレーションでは、後述するように装着者12が予め決められた姿勢で静止した状態を維持することで、補正値設定処理が行われる。
【0083】
また、再設定キャリブレーションでは、後述するように装着者12が予め決められた基準動作、例えば、装着者12が静止状態で筋力を発生させることで補正値更新処理が行われる静止状態キャリブレーションと、装着者12が起立した状態で膝を曲げ状態から膝の屈伸を一度行うことによって補正値更新処理が行われるワンモーションキャリブレーションとがある。
【0084】
ここで、上記キャリブレーションを行う際は、当初の装着者12に付与される負荷を小さく設定し、キャリブレーションの動作経過と共に負荷が徐々に大きくなるように駆動モータ20,22,24,26を制御しながら駆動力に抗して発生した生体信号を検出するようにしている。また、本実施例の装着式動作補助装置10においては、初期設定キャリブレーションとして静止状態でのキャリブレーションと、装着の都度行う再設定キャリブレーションとしてワンモーション(1回の動作)によるキャリブレーションとの何れかを選択することが可能である。
【0085】
ここで、装着者12が行うキャリブレーション時の動作について図7乃至図9を参照して説明する。
【0086】
図7は各データベースに格納される各タスク及びフェーズの一例を示す図である。図7に示されるように、装着者12の動作を分類するタスクとしては、例えば、着席状態から離席状態に移行する立ち上がり動作データを有するタスクAと、立ち上がった装着者12が歩行する歩行動作データを有するタスクBと、立った状態から着席状態に移行する着席動作データを有するタスクCと、立った状態から階段を上がる階段昇り動作データを有するタスクDとがメモリ130に格納されている。
【0087】
そして、各タスクには、さらに最小単位の動作を規定する複数のフェーズデータが設定されており、例えば、歩行動作のタスクBには、左右両脚が揃った状態の動作データを有するフェーズB1と、右脚を前に出したときの動作データを有するフェーズB2と、左脚を前に出して右脚に揃えた状態の動作データを有するフェーズB3と、左脚を右脚の前に出した状態の動作データを有するフェーズB4とが格納されている。
【0088】
図8はキャリブレーションデータベース148を模式的に示した図である。図8に示されるように、キャリブレーションデータベース148には、各動作毎に設定されたタスクA,B…の夫々を分割した各フェーズ毎に検出される表面筋電位eA1(t)…,筋電位に対応する基準パラメータKA1…などが格納されている。
【0089】
本実施例では、動作補助装着具18を装着した装着者12は、予め決められた所定のキャリブレーション動作を行う。ここでは、例えば、図9に示されるような装着者12が着席状態から立ち上がり動作(フェーズA1〜A4)を基準動作として行い、そして、再び着席動作(フェーズA4〜A1)を行うものとする。
【0090】
ここで、上記装着者12が発生する筋力に応じた筋電位を検出する生体信号検出手段144のキャリブレーションの原理についてさらに詳しく説明する。
【0091】
装着者12が静的な動きを行った場合、表面筋電位と装着者12が出す筋力の関係は、ほぼ線形であることが分かっている。このことから、以下の式(1)(2)により計測した表面筋電位から装着者12が出したトルクを推定する手法が開発されている。尚、推定されたトルクを「仮想トルク」と言う。
τhip =K−K … (1)
τknee=K−K … (2)
式(1)(2)において、τhipは股関節の仮想トルク、τkneeは膝関節の仮想トルク、e〜eは、筋肉により発生する表面筋電位であり、K〜Kは、パラメータである。装着者12の股関節及び膝関節は、屈筋と伸筋との収縮のバランスにより動作する。図10(A)(B)及び図11(A)(B)に示されるように、eは大腿直筋の表面筋電位、eは大殿筋の表面筋電位、eは内側広筋の表面筋電位、eは大腿二頭筋の表面筋電位である。
【0092】
仮想トルクの算出には、ノイズなども考慮してデジタルフィルタを通した値が用いられる。本実施例では、ローパスフィルタを通した値を表面筋電位の値として取得する。
【0093】
表面筋電位を検出する制御システムのキャリブレーションでは、式(1)(2)より各筋の仮想トルクτを取り出した次式(3)の各パラメータKを求める。
τ=Ke … (3)
すなわち、本実施例のキャリブレーションでは、対象となる筋が1Nmの力を出したときの表面筋電位の値が1になるように式(3)のパラメータKの値を求め、この値を更新する。
【0094】
このように、本実施例では、初期設定キャリブレーション及び再設定キャリブレーションの何れの場合においても、筋電位センサ38a,38b,40a,40b,42a,42b,44a,44bを検出し、この検出結果を用いて上記パラメータKの値を補正する。
【0095】
次に、上述した再設定キャリブレーションについて説明する。このキャリブレーションの動作としては、例えば、装着者12が座った状態で膝を曲げ状態から膝を伸び状態に動かすワンモーションを適用可能であり、装着者12の負担を軽減できると共に、短時間でキャリブレーションを終了することが可能になる。
【0096】
図12は動作補助装着具18が装着された装着者12の膝関節の屈筋の状態を示す概略図である。図12に示されるように、動作補助装着具18が装着された状態の装着者12に対して駆動モータ20,22,24,26を用いて膝関節に負荷として入力トルクτを加える。装着者12は、その入力トルクτに対して拮抗する筋力を加えて膝関節が動かない静止状態に保つ。このとき、駆動モータ20,22,24,26によって加えられた入力トルクτと装着者12が発生させた筋力のトルクτは同じと言える。
【0097】
このことから、以下の式(4)が成り立つ。
τ(t)=τ(t) … (4)
装着者12が発生させた筋力は、上記式(3)より、
τ=Ke … (5)
と表せるため、式(4)は、
τ=Ke … (6)
と書き直すことができる。
【0098】
次に、上記静止状態において行う初期設定キャリブレーションの手順について説明する。静止状態での初期設定キャリブレーションは、次の手順でキャリブレーションを行われる。
(手順1)駆動モータ20,22,24,26の駆動力(トルクτ)に対抗する筋力を装着者12が出しているときの表面筋電位eを計測する。
(手順2)計測された表面筋電位とそのときに入力されたトルクτから最小二乗法を用いることにより式(6)が成り立つパラメータKを求める。
【0099】
最小二乗法を用いてパラメータKを求める演算式は、以下の式(7)のようになる。
K=Στ(t)e(t)/Σe(t) …(7)
以上のことから、例えば、装着者12が図12に示すように、膝関節をほぼ90度の角度で曲げた着席状態で静止したまま1Nmの力を出したときの表面筋電位の値が1になるようにパラメータKを求めることが可能になる。この静止状態では、駆動モータ20,22,24,26の駆動力(トルクτ)を負荷(入力トルク)として装着者12に段階的に付与させるのに対して、装着者12はこの駆動力と拮抗するように筋力を発生させることで静止状態を保つことになる。
【0100】
次に、予め決められた基準動作を行う再設定キャリブレーションの手順について説明する。このワンモーション(1回の動作)での再設定キャリブレーションは、次の手順でキャリブレーションを行われる。
(手順1)装着者12が膝の角度を90度から180度になるように膝関節を回動させ、その後、膝の角度を180度から90度になるように膝関節を元に戻す。
(手順2)角度センサ74,76により検出された膝関節の角度に応じた駆動モータ20,22,24,26の駆動力(トルクτ)を付与する。
(手順3)装着者12が膝の伸縮動作をときの表面筋電位eを計測する。
(手順4)計測された表面筋電位とそのときに入力されたトルクτから最小二乗法を用いることにより式(6)が成り立つパラメータKを求める。
【0101】
ここで、上記初期設定キャリブレーションを行った場合について原理について図13乃至図15を参照して説明する。
【0102】
例えば、入力トルクτとして駆動モータ20,22,24,26から8Nm,16Nm,24Nm,32Nmのトルクを装着者12に付与してパラメータKを求めた。この場合、求めたパラメータKを用いてキャリブレーションを行ったときの表面筋電位から仮想トルクを算出し、そのときに加えた入力トルクと比較した結果を図13、図14に示す。尚、図13は右股関節の伸筋に対する入力トルク(a)と仮想トルク(b)を示すグラフである。図14は右股関節の屈筋に対する入力トルク(a)と仮想トルク(b)を示すグラフである。
【0103】
この図13に示す入力トルクのグラフ(a)と仮想トルクのグラフ(b)及び図14に示す入力トルクのグラフ(b)と仮想トルクのグラフ(b)から上記手法によって求められたパラメータKを用いて算出された仮想トルクと、そのときに加えられた入力トルクとがほぼ一致していることが分かる。
【0104】
また、図13において、駆動モータ20,22,24,26からの入力トルクは、図13のグラフ(a)から分かるように時間の経過と共に、そのトルク値が段階的に上昇するように制御される。従って、駆動モータ20,22,24,26は、当初、小さいトルク値になるように駆動されており、且つ入力トルクが所定の時間間隔でパルス的に印加されると共に、そのトルク値が段階的に大きくなるように制御される。
【0105】
これにより、装着者12は、動作補助装着具18が装着されたとき、過大なトルクが付与されることが防止され、入力されるトルクの値が徐々に上昇することで入力トルクに抗して筋力を発生させる筋肉の負担が軽減され、キャリブレーション時の筋肉疲労を軽減することができる。
【0106】
また、図13及び図14から分かるように、左右の股関節及び左右の膝関節でも同様な結果を得ることができた。そして、上記のようにして得られたパラメータKを用いて仮想トルクによりアシスト力を発生させる場合、装着者12が出した筋力1Nmに対して、同様な駆動モータ20,22,24,26の駆動力1Nmをアシスト力として装着者12に付与することができるので、装着者12は、所定動作に必要な力の半分の筋力で動作することが可能になる。
【0107】
さらに、本実施例では、動作補助装着具18を装着された装着者12がキャリブレーションを行う場合、入力トルクに対して対抗する筋力を発生させる必要があるため、装着者12にとって負担が大きくならないように入力トルクを抑制してキャリブレーションを行うように駆動モータ20,22,24,26の駆動力を制御している。
【0108】
すなわち、本実施例では、装着者12が予め決められた所定の動作(例えば、図9または図12を参照)を行うことで表面筋電位のキャリブレーションを行うことにより、装着者12が大きな負担を負うことなく表面筋電位のキャリブレーションを行うことが可能になる。
【0109】
例えば、所定の動作を2回行ったとき、その2回の動作で各関節が出した筋力が同様であるとすると、そのときに得られる仮想トルクも同様でなければならない。そこで、基準となる動作の仮想トルクパターンを基準データとして予めメモリ130に格納しておくことにより、キャリブレーション時のパラメータ補正処理が効率良く行える。
【0110】
そして、装着者12がキャリブレーション動作を行うことにより得られたパラメータKを用いて、装着者12が基準となる所定動作を行ったときの仮想トルクをτ(t)、新たにそれと同じ動作をしたときの表面筋電位をe'(t)とすると、次式(8)の関係が成り立つ。
τ(t)=Ke'(t) … (8)
表面筋電位のキャリブレーションを行うときには、図15に示されるように、装着者12が基準の所定動作と同じ動作を行ったときの表面筋電位(図15中、実線で示すグラフ(a))を計測し、仮想トルク(図15中、破線で示すグラフ(b))が入力トルクと同じになるようにパラメータK'を決定する(第1のパラメータ設定手段)。
【0111】
最小二乗法をもちいてパラメータK'を求める式(9)は、前述した式(7)と同様に以下のようになる。
K'=Στ(t)e'(t)/Σe'(t) …(9)
仮想トルクτは、装着式動作補助装置10を用いたキャリブレーションにより求めたものであるため、以上より得られたパラメータK'は、装着式動作補助装置10を用いたキャリブレーションと同様のものと言える。よって、装着者12が所定動作を行うキャリブレーション手法により装着者12が出した筋力1Nmに対して、1Nmのアシスト力として装着者12に付与することができる。
【0112】
次に、本実施例のキャリブレーションを用いた基準動作が例えば、図16に示すように、屈伸動作とした場合の実験結果を図17及び図18、図19に示す。
【0113】
図16に示すグラフ(a)は、屈伸動作に伴う股関節の関節角度変化を示し、図16に示すグラフ(b)は、屈伸動作に伴う膝関節の関節角度変化を示している。
【0114】
図17において、グラフ(a)は、屈伸動作に伴う股関節の曲げ動作の仮想トルクを示し、グラフ(b)は、屈伸動作に伴う股関節の伸び動作の仮想トルクを示し、グラフ(c)は、屈伸動作に伴う膝関節の曲げ動作の仮想トルクを示し、グラフ(d)は、屈伸動作に伴う膝関節の伸び動作の仮想トルクを示している。
【0115】
次に、基準動作を上記のような屈伸動作とした場合に、屈伸動作によるキャリブレーションを行うと、図18及び図19に示すような右股関節の屈筋、伸筋の補正結果が得られた。図18において、グラフ(a)は、屈伸動作に伴う股関節の伸び動作の表面筋電位を示し、グラフ(b)は、屈伸動作に伴う股関節の伸び動作の基準仮想トルクを示し、グラフ(c)は、屈伸動作に伴う股関節の伸び動作の推定トルクを示している。また、図19において、グラフ(a)は、屈伸動作に伴う股関節の曲げ動作の表面筋電位を示し、グラフ(b)は、屈伸動作に伴う股関節の曲げ動作の基準仮想トルクを示し、グラフ(c)は、屈伸動作に伴う股関節の曲げ動作の推定トルクを示している。
【0116】
従って、図18及び図19に示すグラフ(a)〜(c)から基準とした仮想トルクとキャリブレーションにより求めたパラメータK'による推定トルクは、同様な振幅波形になり、屈伸動作に伴う推定トルクが表面筋電位から得られた仮想トルクとほぼ同じ大きさになることが分かる。
【0117】
このように、本実施例では、装着者12が所定動作を行うことで表面筋電位のキャリブレーションを行うことができ、これにより、装着者12に大きな負担を与えずに済むと共に、仮想トルク(言い換えると、キャリブレーションされた表面筋電位)を求めるためのパラメータK'を瞬時に算出することが可能になる。
【0118】
尚、上記説明で負荷として装着者12に与えるトルクは、各人の体力に応じた負荷を与えるように設定することが可能であり、例えば、負荷の下限値及び上限値を予め設定することにより、キャリブレーションのときに装着者12にかかる負担が過大とならないように調整することも可能である。
【0119】
ここで、制御装置100が実行するメイン制御処理の手順について図20に示すフローチャートを参照して説明する。図20に示されるように、制御装置100は、ステップS11(以下「ステップ」を省略する)で動作補助装着具18が装着者12に装着されて電源スイッチ(図示せず)がオンに操作されると、S12に進み、電源オン操作が初回かどうかをチェックする。S12において、初回である場合には、S13に進み、初期設定モードに移行し、S14で前述した初期設定キャリブレーション処理を実行する。
【0120】
すなわち、S14では、駆動モータ20,22,24,26から付与された負荷としての駆動力に対する生体信号を各筋電位センサ38a,38b,40a,40b,42a,42b,44a,44bから出力された表面筋電位の検出信号によって検出し、この検出信号に基づいて補正値を求める。S15において、モータへの印加電圧を1ランク上げて負荷を増大させる。続いて、S16に進み、負荷が予め設定された上限値に達したかどうかを確認する。S16において、負荷が予め設定された上限値でないときは、上記S14に戻り、S14〜S16の処理を繰り返す。
【0121】
そして、S16において、負荷が予め設定された上限値に達したときは、S17に進み、上記キャリブレーションで得られたパラメータK'を設定する。
【0122】
次のS17では、動作補助装着具18を装着された装着者12が図12に示されるような静止状態でのキャリブレーションによって得られた装着者12の筋力に応じた補正値(パラメータK')を設定する(第1のパラメータ設定手段)。すなわち、S15では、前述したように装着者12が膝関節をほぼ90度の角度で曲げた着席状態で静止したまま1Nmの力を出したときの表面筋電位の値が1になるようにパラメータKを求める。この初回のキャリブレーションでは、駆動モータ20,22,24,26の駆動力(トルクτ)を負荷(入力トルク)として装着者12に段階的に付与させるのに対して、装着者12はこの駆動力と拮抗するように筋力を発生させる。
【0123】
このように、駆動源から付与された駆動力に抗して発生した生体信号を各筋電位センサによって検出し、この検出信号に基づいて演算処理のパラメータを生成し、このパラメータを当該装着者固有の補正値としてデータベース148に設定する。
【0124】
これにより、動作補助装着具18が装着者12に装着される都度、装着者12が所定の基本動作を行う過程で発する動力および生体信号の対応関係(第2の対応関係)とに基づいて、装着者12が発する動力および生体信号の対応関係(第1の対応関係)を満たすように生体信号に応じた補助動力の補正を行うことが可能になる。
【0125】
その後は、S18に進み、通常のアシスト力制御処理を実行する制御モードに移行する。そして、S19において、電源スイッチがオフに操作されるまで、通常の制御モードが継続される。
【0126】
また、上記S12において、電源オン操作が2回目以降である場合には、S20に進み、前述した再設定モードに移行する。そして、S21では、装着者12がワンモーション(1回の動作)での補正値設定キャリブレーションを実行し、図16に示されるようなキャリブレーション動作を行うのに伴って得られた装着者12の筋力に応じた補正値(パラメータK')を設定する(第2のパラメータ設定手段)。その後は、上記S17〜S19の処理を実行する。
【0127】
尚、本実施例では、2回目以降ワンモーションによるキャリブレーションを行うものとしたが、これに限らず、2回目以降も初回と同様に静止状態のまま補正値設定キャリブレーションを行うようにしても良い。
【0128】
次に、各補正値設定モード毎の制御処理について図21乃至図23を参照して説明する。図21は初期設定を行う初回キャリブレーションの制御手順を示すフローチャートである。尚、初回キャリブレーションの場合、前述したように、装着者12がモータ負荷に対して着席した静止状態を保つように筋力を発生させることにより補正値を設定する。
【0129】
図21に示されるように、制御装置100は、S31において、装着者12が着席した静止状態(図12参照)に応じて駆動モータ20,22,24,26に所定駆動電流を供給して駆動力(入力トルク)を負荷として付与する。そのため、装着者12は、着席状態まま駆動モータ20,22,24,26の駆動力に拮抗するように筋力を発生させることになる。
【0130】
次のS32では、装着者12の筋電位信号を各筋電位センサ38a,38b,40a,40b,42a,42b,44a,44bから取得する。次のS33では、実測された筋電位信号に基づいて仮想トルクを演算により推定する。
【0131】
その後、S34に進み、負荷として付与された入力トルクと上記仮想トルクとを比較する。そして、S35において、入力トルクと仮想トルクとの比率を求める。次のS36では、前述したキャリブレーションデータベース148に格納された各フェーズ毎の負荷に対するパラメータを読み出し、このパラメータに上記比率をかけてモータドライバ92〜95に供給される制御信号の補正値(補正パラメータ)を求める。続いて、S37に進み、補正パラメータを自律的制御のパラメータとして設定する。
【0132】
このように、動作補助装着具18が装着された装着者12は、着席した状態ままその日の状態に応じた生体信号のキャリブレーションを自動的に行うことができ、従来のように、キャリブレーションを行うために錘を負荷として装着者に取り付けたり、あるいは錘の代わりにコイルバネを取り付けるといった面倒な作業が不要になる。そのため、キャリブレーションに要する労力と時間を大幅に削減することが可能になり、このことにより装着式動作補助装置10の実用化及び普及をより一層促進することが可能になる。
【0133】
さらに、筋力が衰えた装着者12に対してキャリブレーションを行うために余計な負担を強いることがなく、当該装着者12の状態に応じた補正値を設定し、装着者12の筋電位信号に基づく駆動力を装着者12の動作に連動して正確に付与することが可能になる。
【0134】
よって、キャリブレーションを行う際に装着者12の意思に沿ったアシスト力が駆動源から付与され、アシスト力が過大になったり、過小になったりせず、装着者12の動作を安定的にアシストして装着式動作補助装置の信頼性をより高めることができる。
【0135】
特に装着者12が初心者の場合のように、装着された動作補助装着具18を思うように使うことが難しいと思われる状況においても、装着者12は安心してキャリブレーションを行うことができる。そのため、装着者12が自由に動作することができないような身体障害者の場合でも、特別な操作をせずに装着者12の身体的な不利な動作を避けるようにしてキャリブレーションを行うことが可能になり、装着者12の身体的な弱点を補うようにキャリブレーションを行うことができる。
【0136】
次に前述した再設定モード1のキャリブレーションについて図22を参照して説明する。図22はワンモーション(1回の動作)による再設定キャリブレーションの制御手順を示すフローチャートである。尚、ワンモーションによるキャリブレーションを行う場合、装着者12は、着席したまま膝を曲げ状態から膝を伸び状態に1回だけ動かすことになる。また、メモリ130には、キャリブレーションの動作に対応する基準筋電位が予め格納されている。
【0137】
図22に示されるように、制御装置100は、S41において、膝関節の角度センサ74,76からの検出信号の有無を確認する。そして、装着者12が図16に示すような着席状態で膝の伸縮動作を行うのに伴う第2関節66の関節角度の動きを角度センサ74,76によって検出すると、S42に進み、角度センサ74,76からの検出信号に基づいて膝の動作角度を設定する。
【0138】
続いて、S43に進み、膝の動作角度に応じた基準筋電位をメモリ130から読み込む。次の、S44では、装着者12の筋電位の実測値を各筋電位センサ38a,38b,40a,40b,42a,42b,44a,44bから読み込む。そして、S45では、基準筋電位と筋電位の実測値とを比較する。
【0139】
次の、S46では、基準筋電位と筋電位の実測値との比率を求める。そして、S47では、前述したキャリブレーションデータベース148に格納された膝の動作角度に応じたパラメータを読み出し、このパラメータに上記比率をかけてモータドライバ92〜95に供給される制御信号の補正値(補正パラメータ)を求める。続いて、S48に進み、補正パラメータを自律的制御のパラメータとして設定する。
【0140】
このように、2回目以降のキャリブレーションは、駆動モータ20,22,24,26の駆動力を使わずに着席した状態で膝を回動させる動作(ワンモーション)によってパラメータK'を補正することができるので、装着者12の体力的な負担を大幅に軽減できると共に、動作補助装着具18を装着してからキャリブレーションに要する準備時間を短縮することが可能になる。そのため、2回目以降のキャリブレーションでは、歩行開始が速やかに行えることになる。
【0141】
次に前述した再設定モード2のキャリブレーションについて図23を参照して説明する。この再設定モード2では、装着者12が着席状態から立ち上がり動作(フェーズA1〜A4)を基準動作として行い、そして、再び着席動作(フェーズA4〜A1)を行うものとする(図9を参照)。
【0142】
図23に示されるように、制御装置100は、S51において、動作補助装着具18に設けられた角度センサ70,72,74,76からの検出信号の有無を確認する。そして、装着者12が図9に示すような動作を行うのに伴って第1関節64及び第2関節66の関節角度の動きを角度センサ70,72,74,76からの検出信号によって検出すると、S52に進み、角度センサ70,72,74,76からの検出信号に基づいてキャリブレーションデータベース148に格納されたタスクを選択し、装着者12の基準動作を設定する。
【0143】
次のS53では、第1関節64及び第2関節66の基準動作に応じた基準筋電位をメモリ130から読み込む。続いて、S54に進み、装着者12の筋電位の実測値を各筋電位センサ38a,38b,40a,40b,42a,42b,44a,44bから読み込む。そして、S55では、基準筋電位と筋電位の実測値とを比較する。
【0144】
次の、S56では、基準筋電位と筋電位の実測値との比率を求める。そして、S57では、前述したキャリブレーションデータベース148に格納された膝の動作角度に応じたパラメータを読み出し、このパラメータに上記比率をかけてモータドライバ92〜95に供給される制御信号の補正値(補正パラメータ)を求める。続いて、S58に進み、補正パラメータを自律的制御のパラメータとして設定する。
【0145】
次のS59では、キャリブレーション動作のタスクが終了したかどうかを確認する。S59において、まだキャリブレーション動作のフェーズが残っている場合は、S60に進み、次のフェーズに更新して上記S53以降の処理を再度実行する。
【0146】
また、上記S59において、キャリブレーション動作のタスクが終了した場合は、今回のキャリブレーション処理を終了する。
【0147】
このように、2回目以降のキャリブレーションは、駆動モータ20,22,24,26の駆動力を使わずにパラメータK'を補正することができるので、装着者12の体力的な負担を大幅に軽減できると共に、動作補助装着具18を装着してからキャリブレーションに要する準備時間を短縮することが可能になる。
【0148】
従って、キャリブレーションの動作は、装着者12が屈伸動作を行うことで表面筋電位のキャリブレーションを行っても良いし、あるいは、装着者12が椅子に座った状態で膝の曲げ伸ばし動作を基準動作としても良いし、その個人に合ったキャリブレーションを行うことができるので、装着者12が身体障害者の場合には動作可能な任意の動作でキャリブレーションを行うことも可能であり、他の動作(タスク)を基準動作とすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0149】
尚、上記実施例では、装着者12の脚にアシスト力を付与する構成とされた動作補助装置10を一例として挙げたが、これに限らず、例えば、腕の動作をアシストするように構成された動作補助装置にも本発明を適用することができるのは勿論である。
【0150】
また、上記実施例では、電動モータの駆動トルクをアシスト力として伝達する構成について説明したが、電動モータ以外の駆動源を用いてアシスト力を発生させる装置にも適用することができるのは勿論である。
【符号の説明】
【0151】
10 動作補助装置
12 装着者
20 右腿駆動モータ
22 左腿駆動モータ
24 右膝駆動モータ
26 左膝駆動モータ
30 腰ベルト
32,34 バッテリ
36 制御バック
38a,38b,40a,40b,42a,42b,44a,44b 筋電位センサ
50a,50b,52a,52b 反力センサ
54 右脚補助部
55 左脚補助部
56 第1フレーム
58 第2フレーム
60 第3フレーム
62 第4フレーム
64 第1関節
66 第2関節
70,72,74,76 角度センサ
78 第1締結ベルト
80 第2締結ベルト
84 踵受け部
86 電源回路
88 入出力インターフェイス
100 制御装置
101〜108 差動増幅器
111〜114 角度検出部
121〜124 反力検出部
130 メモリ
140 駆動源
142 物理現象検出手段
144 生体信号検出手段
146 データ格納手段
148 キャリブレーションデータベース
150 指令信号データベース
152 フェーズ特定手段
154 差分導出手段
156 パラメータ補正手段
158 電力増幅手段
160 制御手段
162 キャリブレーション制御手段
164 負荷発生手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力で作動する装着式動作補助装置であって、
装着者に装着される第1フレームおよび第2フレームと、該第1フレームおよび該第2フレームを動作可能に連結する関節とを有し、該第1フレームおよび該第2フレームは屈曲方向および伸展方向を画定するように該関節のまわりに移動し、回動角度を画定する動作補助装着具と、
該動作補助装着具の関節が前記装着者の関節に近接するように、対応する肢節に該第1フレームおよび該第2フレームを取り外し可能に取り付ける、少なくとも1組の締結ベルトと、
筋電位センサと、
該動作補助装着具に設けられ、その体積の大部分を占有する部分が、該動作補助装着具の外側に配置され、該関節まわりに該第1および該第2フレームを駆動するための力を印加するように、該動作補助装着具の該第1および該第2フレームに連結され、該筋電位センサからの筋電位信号に基づく補助動力を発生する駆動源と、
前記装着式動作補助装置の初期設定で、筋電位センサからの検出信号に基づいて前記補助動力の補正を行うためのパラメータを更新するキャリブレーション手段と、
前記キャリブレーション手段により更新された前記パラメータを用いて前記筋電位センサにより検出された検出信号に応じた補助動力を発生するように演算処理を行なって前記駆動源を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする装着式動作補助装置。
【請求項2】
前記筋電位センサからの検出信号及び前記駆動源への制御信号を入出力するインターフェイスを有することを特徴とする請求項1に記載の装着式動作補助装置。
【請求項3】
前記インターフェイスは、前記筋電位センサからの検出信号を前記キャリブレーション手段に入力し、前記制御手段により生成された制御信号を前記駆動源に出力することを特徴とする請求項2に記載の装着式動作補助装置。
【請求項4】
動力で作動する装着式動作補助装置であって、
装着者に装着される第1フレームおよび第2フレームと、該第1フレームおよび該第2フレームを動作可能に連結する関節とを有し、該第1フレームおよび該第2フレームは屈曲方向および伸展方向を画定するように該関節のまわりに移動し、回動角度を画定する動作補助装着具と、
該動作補助装着具の関節が前記装着者の関節に近接するように、対応する肢節に該第1フレームおよび該第2フレームを取り外し可能に取り付ける、少なくとも1組の締結ベルトと、
筋電位センサと、
該動作補助装着具に設けられ、その体積の大部分を占有する部分が、該動作補助装着具の外側に配置され、該関節まわりに該第1および該第2フレームを駆動するための力を印加するように、該動作補助装着具の該第1および該第2フレームに連結され、該筋電位センサからの筋電位信号に基づく補助動力を発生する駆動源と、
初期設定時に前記筋電位センサからの検出信号に基づいて前記補助動力の補正を行うためのパラメータを更新するキャリブレーション手段と、
前記キャリブレーション手段により更新された前記パラメータを用いて前記筋電位センサにより検出された検出信号に応じた補助動力を発生するように演算処理を行なって前記駆動源を制御する制御手段と、
前記筋電位センサからの検出信号及び前記駆動源への制御信号を入出力するインターフェイスと、
を備えることを特徴とする装着式動作補助装置。
【請求項5】
前記インターフェイスは、前記筋電位センサからの検出信号を前記キャリブレーション手段に入力し、前記制御手段により生成された制御信号を前記駆動源に出力することを特徴とする請求項4に記載の装着式動作補助装置。
【請求項6】
前記制御手段から出力された制御データは、前記インターフェイスを介してデータ出力部あるいは通信ユニットに出力されることを特徴とする請求項4または5記載の装着式動作補助装置。
【請求項7】
装着者が関節のまわりに肢を動かす際に、当該装着者の体調に応じて駆動源による補助動力を制御するパラメータを調整する装着式動作補助装置の制御方法であって、
前記装着式動作補助装置の初期設定で、筋電位センサからの検出信号に基づいて当該装着者が発生する仮想トルクを推定する第1ステップと、
当該仮想トルクと前記検出信号との関係に基づいて前記補助動力の補正を行うためのパラメータを更新する第2ステップと、
前記更新されたパラメータを用いて前記筋電位センサにより検出された検出信号に応じた補助動力を発生するように演算処理を行なって前記駆動源を制御する第3ステップと、
インターフェイスを介して前記筋電位センサからの検出信号が入力され、前記駆動源への制御信号を出力する第4ステップと、
を有することを特徴とする装着式動作補助装置の制御方法。
【請求項8】
前記制御手段から出力された制御データを、前記インターフェイスを介してデータ出力部あるいは通信ユニットに出力させる第5ステップを有することを特徴とする請求項7に記載の装着式動作補助装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2011−25053(P2011−25053A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181601(P2010−181601)
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【分割の表示】特願2008−200028(P2008−200028)の分割
【原出願日】平成16年3月11日(2004.3.11)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】