説明

複列ころ軸受ユニット

【課題】限られた量の潤滑剤を内部へ効率よく、且つバランスよく容易に封入可能な複列ころ軸受ユニットを提供する。
【解決手段】相対回転可能に対向配置された少なくとも一対の静止輪2及び回転輪4(16p,16q)と、静止輪及び回転輪にそれぞれ形成された複列の軌道溝間へ転動可能に組み込まれた複数のころ18とを備え、ユニット内部への潤滑剤の封入によって潤滑される複列ころ軸受ユニットXにおいて、ころは、その回転軸に沿って貫通孔18hが形成されて中空構造を成す中空ころ18aと、貫通孔を持たない中実ころ18bで構成し、複列の軌道溝のうち、少なくとも一方の軌道溝には、複数の中空ころと中実ころを混在して組み込むとともに、中空ころを周方向へ少なくとも1つの中実ころを挟んで略等間隔で配置し、中空ころの貫通孔を通すことで、ユニット内部の軌道溝間領域へ潤滑剤を封入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の複列ころ軸受ユニット(例えば、自動車の車輪を支持するためのハブユニット軸受など)の潤滑に関し、特に、ユニット内部への潤滑剤の封入方法を改良し、潤滑性能の向上を図った複列ころ軸受ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、軸受に対しては、当該軸受の軌道輪(回転輪及び静止輪)、転動体(玉やころ)及び保持器が相互に接触する部分の摩擦や摩耗の減少、焼付き防止、あるいは疲れ寿命の延長などを目的として、潤滑が行われている。このような潤滑は、軸受内部に潤滑剤を封入することにより行っており、その際に使用される潤滑剤の種類によって、油潤滑とグリース潤滑に大別することができる。
【0003】
一般的に、油潤滑には、潤滑剤の流動性や装置に対する冷却効果が高く、グリース潤滑よりも潤滑性能に優れているという特長がある一方で、その性質上、軸受内部へ封入した潤滑油が軸受外部へ漏洩し易いという欠点がある。これに対し、グリース潤滑には、軸受外部への漏洩を抑制することができ、軸受及びその周辺構造を簡略化できるとともに、メンテナンスフリーであるという特長がある。このため、例えば、自動車の車輪を支持するハブユニット軸受(以下、車輪支持用軸受ユニットという)の場合には、その優れたメンテナンス性を考慮し、グリース潤滑が広く行われており、これにより、当該車輪支持用軸受ユニットの信頼性の向上などが図られている。
【0004】
かかる車輪支持用軸受ユニットは、各種の荷重(ラジアル荷重、アキシアル荷重及びモーメント荷重など)に対する負荷容量を高めるため、通常、転動体軌道(軌道溝)が複数形成された複列構成とされており、当該複列の軌道溝に組み込まれる転動体の種類によって、玉軸受ユニット(一例として、アンギュラ玉軸受ユニット)と、ころ軸受ユニット(同、円錐ころ軸受ユニット)に大別される。このうち、図2〜4に示すような複列円錐ころ軸受ユニットは、ころの長さ寸法を大きくすることで当該軸受ユニットの負荷容量や剛性を高めることができるため、比較的重量の大きい車両や、アクスルの構造上、かかる軸受ユニットの断面高さ((外径寸法−内径寸法)/2)を低く抑えることが要求される場合などに採用されている。
【0005】
ところで、図2〜4に示すような複列円錐ころ軸受ユニット(以下、軸受ユニットAという)においては、回転輪10に形成された軌道面10rの両肩部に円錐ころ22を保持、案内するための鍔部10a,10bが設けられている。この場合、軌道面10rは、転動体である円錐ころ22の傾斜した転動面に沿って傾斜して形成されており、軸受ユニットAの外部側(以下、ユニット外部側という)に大径の鍔部(同、大径鍔部10aという)が配設されているとともに、内部側(同、ユニット内部側という)に小径の鍔部(同、小径鍔部10bという)が配設されている。
【0006】
そして、大径鍔部10a、より具体的には、そのユニット内部側の面(以下、接触面10sという)は、円錐ころ22の頭部(大径側の端部)22hと接触しており、その接点はすべり接触となっている。このため、例えば、ユニット内部への潤滑剤(一例として、グリース)の封入時にかかる接点部分に対して当該グリースが十分に供給されない場合、大径鍔部10aの接触面10sと円錐ころ22の頭部22hが滑らかに接触せず、これらの接点部分で焼き付きなどの不具合が生じてしまう。
【0007】
軸受ユニットAの内部へグリースを封入する場合、通常、回転輪10と静止輪12の間の開放部分からグリース封入用の治具(図示しない)を挿入してグリースを吐出し、順次、ユニット内部へグリースを押し込む方法が採られている。
しかしながら、大径鍔部10a(接触面10s)と円錐ころ22(頭部22h)との接点部分は、軸受平面側(ユニット外部側)を基準として見た場合、当該大径鍔部10aのユニット内部側(大径鍔部10aの背後側)に位置するため、かかる接点部分(大径鍔部10aの接触面10sの近傍)に対してグリースを十分に封入することは困難となっていた。
【0008】
そこで、かかる接点部分に対してグリースを容易に且つ十分に封入し、当該接点部分の潤滑状態を良好に保つべく、従来から各種の方策が講じられてきた。例えば、特許文献1には、大径鍔部10aの接触面10sの近傍に対してグリースを十分に封入するための軸受ユニット構造例が開示されている。しかしながら、前記構造例では、静止輪(アウタレース及びアクスルハブ)を取り外し、かかる接点部分を外部に露出させた上で、当該接点部分に対するグリースの補給作業(封入作業)を行う必要がある。このため、グリースの補給作業(封入作業)自体は、容易に行うことができるが、その際の前作業に非常に手間がかかり、実際上、有効な方策とはなり得ない。
【特許文献1】実開平6−32747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、図2〜4に示すような複列円錐ころ軸受ユニット(軸受ユニットA)は、その全幅(同各図の左右方向の寸法)に対する円錐ころ22の長さ寸法の割合が大きく、軌道溝間の領域(空間)が小さい。このような溝間領域の小さい軸受ユニットAでは、結果として、グリースの動的空間容積が少なく、ユニット内部へ封入可能なグリース量が限定される。このため、グリースを大径鍔部10a(接触面10s)と円錐ころ22(頭部22h)との接点部分の近傍へ集中的に封入すると、小径鍔部10bの近傍へのグリース封入量が減少してしまう場合や、あるいは、封入されたグリースが小径鍔部10bの近傍へ十分に到達しない場合がある。この結果、かかる小径鍔部10bの近傍の潤滑状態が悪化し、場合によっては、溝間領域のグリースが欠如してしまう虞もある。
【0010】
また、軸受ユニットAは、いわゆる背面組合せ形(DB)の軸受として構成されており、これにより高剛性化が図られている一方で、その軸受内部空間がユニット外部方向へ向かうに従って径の大きくなる円錐状(先太りとなるテーパ状)を成している。このため、溝間領域にグリースを蓄積し、当該蓄積したグリースを少しずつ軌道面10rに移動させていくことが好ましい。
【0011】
本発明は、このような課題を解決するためになされており、その目的は、限られた量の潤滑剤(例えば、グリースや潤滑油)をユニット内部へ効率よく、且つバランスよく容易に封入可能な複列ころ軸受ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的を達成するために、本発明に係る複列ころ軸受ユニットは、相対回転可能に対向配置された少なくとも一対の静止輪及び回転輪と、当該静止輪及び当該回転輪にそれぞれ形成された複列の軌道溝へ転動可能に組み込まれた複数のころとを備え、ユニット内部への潤滑剤の封入によって潤滑が行われる。かかる複列ころ軸受ユニットにおいて、前記ころは、その回転軸に沿って貫通孔が形成されて中空構造を成す中空ころと、当該貫通孔を持たない中実ころで構成され、前記複列の軌道溝のうち、少なくとも一方の軌道溝には、複数の前記中空ころと前記中実ころが混在して組み込まれているとともに、当該中空ころが周方向へ少なくとも1つの中実ころを挟んで略等間隔で配置されており、前記中空ころの貫通孔を通すことで、ユニット内部の前記軌道溝間の領域へ潤滑剤が封入されている。
【0013】
この場合、前記一方の軌道溝への前記中空ころの組込数は、当該軌道溝への中空ころの組込数と中実ころの組込数を合計して算出した組込ころ総数の約数に設定すればよい。
また、前記一方の軌道溝の周方向へ沿って隣り合う中空ころ間への前記中実ころの組込数は、当該軌道溝への中実ころの組込数を中空ころの組込数で除し、その商を切り上げ又は切り捨てて算出された整数に設定すればよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る複列ころ軸受ユニットによれば、限られた量の潤滑剤(例えば、グリースや潤滑油)をユニット内部へ効率よく、且つバランスよく容易に封入することができ、封入された潤滑剤を確実にユニット内部の全体へ満遍なく行き亘らせることができる。この結果、潤滑剤の封入量を少量に限定せざるを得ない場合であっても、かかる複列ころ軸受ユニットを長期に亘って良好な潤滑状態に保つことができ、当該軸受ユニットを一定の精度で安定して回転させ続けること、すなわち耐久性の向上を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の複列ころ軸受ユニットについて、添付図面を参照して説明する。なお、本発明に係る複列ころ軸受ユニットは、各種の用途並びにユニット構成とすることができるが、ここでは、図1(a),(b)に示すような自動車の車輪を支持するためのハブユニット軸受、具体的には、複列の円錐ころ軸受ユニット(以下、軸受ユニットXという)を一例として想定し、当該軸受ユニットXの構成について説明する。なお、軸受ユニットXは、ユニット内部へ潤滑剤が封入されて潤滑が行われており、その際、封入される潤滑剤は潤滑油及びグリースのいずれであってもよいが、ここでは、グリースGが封入される場合を一例として想定する。
【0016】
この場合、軸受ユニットXは、自動車の駆動輪(前置エンジン後輪駆動(FR)車及び後置エンジン後輪駆動(RR)車の後輪、前置エンジン前輪駆動(FF)車の前輪及び四輪駆動(4WD)車の全輪)を支持するハブユニット軸受として構成してもよいし、自動車の従動輪(FR車及びRR車の前輪、FF車の後輪)を支持するハブユニット軸受として構成してもよい。
【0017】
なお、ハブユニット軸受の型式(タイプ)は、図1(a),(b)に示すタイプには特に限定されず、例えば、静止輪には、図示しない車体構成部材(例えば、懸架装置のナックル)に固定されるフランジが一体成形などにより設けられていてもよいし、回転輪には、図示しない車輪構成部材(例えば、ディスクホイール)が固定されるハブフランジが一体成形などにより設けられていてもよい。また、回転輪は、図1(a),(b)に示すような第1の内輪16pと第2の内輪16qの分割構成であってもよいし、図示しないハブと内輪構成体で構成されていてもよい。なお、内輪構成体は、静止輪の図示しない車体内方側の軌道面と対向する軌道面が形成され、ハブに外嵌されて当該ハブとともに回転輪を構成する部材のことを指す。
さらに、転動体は、図1(a),(b)に示すような円錐ころ18のほか、軸受ユニットXの使用条件や使用目的などに応じて、円筒ころや球面ころなどの各種のころを任意に選択して使用してもよい。
【0018】
ここで、図1(a),(b)に示す構成においては、外方部材(外方軌道輪)を静止輪2、内方部材(内方軌道輪)を回転輪4(内輪16p,16q)としているが、これとは逆に外方部材(外方軌道輪)を回転輪、内方部材(内方軌道輪)を静止輪とした構成のハブユニット軸受であってもよい。
また、上述したいずれのハブユニット軸受(軸受ユニットX)においても、静止輪は、車体構成部材(例えば、懸架装置のナックル(図示しない))に固定されて静止状態に維持されるのに対し、回転輪は、車輪構成部材(例えば、ディスクホイール(図示しない))が固定されて当該車輪構成部材とともに回転している。
【0019】
図1(a),(b)には、本発明の一実施形態に係る軸受ユニットXが示されており、当該軸受ユニットXには、相対回転可能に対向配置された静止輪2及び回転輪4と、当該静止輪2及び回転輪4の間にそれぞれ形成された軌道溝へ転動可能に組み込まれた複数の転動体(円錐ころ)18が備えられている。
【0020】
具体的には、静止輪2は、車体構成部材(例えば、懸架装置のナックル(図示しない))に固定され、常時非回転状態に維持されているのに対し、回転輪4は、車輪構成部材(例えば、ディスクホイール(図示しない))が固定されて当該車輪構成部材とともに回転しており、当該静止輪2及び回転輪4にそれぞれ形成されて相互に対向する軌道面21,41間(以下、軌道溝aという)、及び軌道面23,43間(同、軌道溝bという)へ複数の転動体(円錐ころ)18がそれぞれ転動可能に組み込まれて、軸受ユニットXが構成されている。
【0021】
この場合、転動体(円錐ころ)18は、環状を成す保持器8に形成されたポケット内に1つずつ回転自在に保持された状態で、軌道溝a(軌道面21,41間)、及び軌道溝b(軌道面23,43間)を転動している。これにより、各転動体(円錐ころ)18は、その転動面が相互に接触することなく軌道溝a,bを所定間隔(一例として、等間隔)で転動することができ、結果として、当該各転動体(円錐ころ)18が相互に接触して摩擦が生じることによる回転抵抗の増大や、焼付きなどを防止することができる。なお、図1(a),(b)に示す構成においては、保持器8として、いわゆる傾斜型のもみぬきタイプが適用されているが、軸受ユニットXの使用条件や使用目的、並びに転動体の種類などに応じて、くし型やかご型など任意のタイプを使用すればよい。
【0022】
また、本実施形態においては、転動体(円錐ころ)18が中空ころ18aと中実ころ18bの2種類で構成されている。中空ころ18aは、その回転軸に沿って貫通孔18hが形成された中空構造を成しているのに対し、中実ころ18bは、当該貫通孔18hを持たない構造(いわゆる、円錐ころ)を成している。
【0023】
そして、軸受ユニットXに形成された複列の軌道溝a,b(軌道面21,41間、及び軌道面23,43間)のうち、少なくとも一方の軌道溝(一方の軌道列)には、複数の中空ころ18aと中実ころ18bが混在して組み込まれている。図1(a),(b)には、一例として、軌道溝a(軌道面21,41間)にのみ、中空ころ18aと中実ころ18bを混在させて組み込んだ軸受ユニットXの構成が示されている。なお、この場合、他方の軌道溝b(軌道面23,43間)には、中空ころ18aは組み込まれておらず、中実ころ18bのみが組み込まれた構成となっている。
【0024】
ただし、軌道溝a(軌道面21,41間)のみならず、軌道溝b(軌道面23,43間)にも中空ころ18aと中実ころ18bを混在させて組み込んだ構成としてもよいし、軌道溝bにのみ、これらのころ18a,18bを混在させて組み込んだ構成であってもよい。
【0025】
また、一方の軌道溝(軌道溝a(軌道面21,41間))に混在して組み込まれた複数の中空ころ18aと中実ころ18bは、当該中空ころ18aが当該軌道溝aの周方向へ当該中実ころ18bを挟んで略等間隔で配置されている。その際、軌道溝a(軌道面21,41間)への中空ころ18aの組込数、すなわち、当該軌道溝a(軌道面21,41間)で中実ころ18bと混在させる中空ころ18aの数は、例えば、軸受ユニットXの大きさなどに応じて任意に設定すればよいため、ここでは特に限定しない。
【0026】
ただし、中空ころ18aは、その回転軸に沿って貫通孔18hが形成された中空構造を成しているため、中実ころ18bと同一材料(例えば、同一鋼材など)で構成した場合、その重量が中実ころ18bよりも小さい。したがって、中実ころ18bと混在させて組み込んだ際、一方の軌道溝(軌道溝a(軌道面21,41間))、ひいては軸受ユニットXの重量バランスを偏らせることなく、これを略均等に保って振動を防止すべく、2つ以上の中空ころ18aを当該一方の軌道溝(軌道溝a)へ組み込むことが好ましい。なお、その際、中空ころ18aを中実ころ18bよりも比重の大きな材料で構成し、中空ころ18aと中実ころ18bの重量差をなくすことで、前記重量バランスを略均等に保ち、振動の発生を防止してもよい。
【0027】
さらに、一方の軌道溝(軌道溝a(軌道面21,41間))への中空ころ18aの組込数(中実ころ18bと混在させる中空ころ18aの数)は、当該軌道溝a(軌道面21,41間)への中空ころ18aの組込数と中実ころ18bの組込数を合計して算出した組込ころ総数の約数に設定することが好ましい。
例えば、軌道溝a(軌道面21,41間)への組込ころ総数を9個とした場合、中空ころ18aの組込数を3個に設定し、中実ころ18bの組込数を6個に設定すればよい。そして、当該3個の中空ころ18aを1つずつ相互に2個の中実ころ18bを挟んで組み込むことで、かかる軌道溝aの周方向へこれらの中空ころ18aを等間隔で配置すればよい。
【0028】
また、一方の軌道溝(軌道溝a(軌道面21,41間))への中空ころ18aの組込数を上述した組込ころ総数の約数に設定した構成とする代わりに、かかる軌道溝a(軌道面21,41間)の周方向へ沿って隣り合う中空ころ18aの間への中実ころ18bの組込数を、当該軌道溝aへの中実ころ18bの組込数を中空ころ18aの組込数で除し、その商を切り上げ又は切り捨てて算出した整数に設定した構成としてもよい。これにより、かかる軌道溝aの周方向へ中空ころ18aを略等間隔で配置することができる。
【0029】
例えば、軌道溝a(軌道面21,41間)への中実ころ18bの組込数(すなわち、組込総数)を7個、中空ころ18aの組込数を3個とした場合(この場合、組込ころ総数は10個となる)、かかる軌道溝aの周方向へ沿って隣り合う中空ころ18aの間へ2個(前記商を切り上げた場合)、又は3個(同、切り捨てた場合)の中実ころ18bを組み込むことで、当該軌道溝aの周方向へこれらの中空ころ18aを略等間隔で配置できる。具体的には、軌道溝aにおいて、周方向へ沿って隣り合う中空ころ18aの間へ2個の中実ころ18bが組み込まれた部位が2箇所、3個の中実ころ18bが組み込まれた部位が1箇所、それぞれ構成される。
【0030】
このように中空ころ18aと中実ころ18bが一方の軌道溝(軌道溝a(軌道面21,41間))へ配置された(組み込まれた)軸受ユニットXは、上述したようにグリース潤滑が行われており、これにより、軸受ユニットXは、静止輪2及び回転輪4(内輪16p,16q)、転動体18(中空ころ18a及び中実ころ18b)、並びに保持器8が相互に接触する部分の摩擦や摩耗の減少、焼付き防止、あるいは疲れ寿命の延長などが図られている。その際、ユニット内部へのグリースGの封入は、以下の手順で行えばよい。
【0031】
なお、封入されるグリースGは、軸受ユニットXに要求される潤滑性能などに応じ、各種のグリースを任意に選択して使用すればよいため、その具体的な種類は特に限定されない。例えば、基油として、鉱油、あるいはシリコーン油及びジエステル油等の合成油などを用いることができるとともに、増ちょう剤として、リチウム石鹸等の金属石鹸、ウレアあるいはフッ素化合物などを用いることができ、これらの基油と増ちょう剤を任意に組み合わせてグリースGを構成すればよい。なお、必要に応じて、各種の添加剤(例えば、酸化防止剤、防錆剤及び極圧剤など)をグリースGに対して添加してもよい。
【0032】
また、グリースGが封入される際には、図1(a)に示すように、静止輪2、回転輪4(内輪16p,16q)、及び保持器8に保持された転動体18(中空ころ18a及び中実ころ18b)が一体的に組み付けられ、軸受ユニットXは、当該静止輪2と回転輪4(内輪16p,16q)の間の両側(同図の左側と右側)が開放された状態となっている(同図に示す状態)。
【0033】
かかるグリースGの封入は、グリース封入機(図示しない)を用いて行われており、その際、予めグリースGの封入量(吐出量)がグリース封入機に設定され、当該設定量のグリースGが前記グリース封入機によって加圧される。かかるグリース封入機には、グリースGを吐出するためのノズル30a,30bが接続されており、当該ノズル30a,30bからユニット内部へグリースGが吐出されることで、軸受ユニットXに対してグリースGが封入されている。この場合、グリースGの吐出量は、例えば、軸受ユニットXの大きさ、より具体的にはユニット内部空間の大きさなどに応じて任意に設定すればよい。
【0034】
本実施形態においては、一例として、中空ころ18aを介してユニット内部の軌道溝a,b間領域(以下、列間部位Sという)へグリースGを吐出するためのノズル(同、列間ノズル30aという)と、回転輪4(内輪16q)の大径鍔部4aの近傍へグリースGを吐出するためのノズル(同、鍔部ノズル30bという)がそれぞれ設けられている。なお、大径鍔部4aは、転動体18(中空ころ18a及び中実ころ18b)を保持、案内するために、回転輪4(内輪16p,16q)の軌道面41,43の両肩部にそれぞれ設けられた鍔部4a,4bのうち、軸受ユニットXの外部側(以下、ユニット外部側という)に配設され、内部側(同、ユニット内部側という)に配設された鍔部(同、小径鍔部4bという)と比べて大径の鍔部のことをいう。
【0035】
図1(a)に示す構成においては、一例として、列間ノズル30aが軸受ユニットXの静止輪2と回転輪4との間の一方側の開放部分(内輪16p側の開放部分(同図の右端部分))に位置付けられるとともに、当該列間ノズル30aの吐出口32aが軸受ユニットXの内部(同図の左方)へ向けて開口された状態となっている。また、鍔部ノズル30bが静止輪2と回転輪4(内輪16q)との間の他方側の開放部分(内輪16q側の開放部分(同図の左端部分))に位置付けられるとともに、当該鍔部ノズル30bの吐出口32bが軸受ユニットXの内部(同図の右方)へ向けて開口された状態となっている。
【0036】
なお、図1(a)には、列間ノズル30aと鍔部ノズル30bをそれぞれ1つずつ配設された状態が示されているが、これらのノズル30a,30bは複数配設することが望ましい。その際、列間ノズル30aは、グリースGを吐出させる軌道溝(一例として、軌道溝a(軌道面21,41間))に組み込まれた中空ころ18aの数と同数だけ設け、これらの列間ノズル30aを1つずつ、所定の中空ころ18aと周方向に沿って同一位相となるように配置する。具体的には、各列間ノズル30aは、その吐出口32aが中空ころ18aの貫通孔18hへ向けて各々開口するように配置すればよい。
【0037】
複数の列間ノズル30aをこのように配設することで、グリース封入機によって加圧されたグリースGを各列間ノズル30aの吐出口32aから、当該吐出口32aが各々正対する中空ころ18aの貫通孔18hへ向けてそれぞれ個別に吐出させることができる。この結果、吐出されたグリースGを各中空ころ18aの貫通孔18hを通して軸受ユニットXの列間部位Sまでスムーズに到達させることができるため、当該列間部位SへグリースGを確実に封入させることができるとともに、充分に蓄積させることができる。
【0038】
この場合、図1(b)に示すように、列間ノズル30a(図1(a))は、これに内設された送出管34aを延出し、外部へ露出させた構造としてもよい。列間ノズル30aをこのような構造とすることで、送出管34aを中空ころ18aの貫通孔18hへ挿通し、その吐出口32aを軸受ユニットXの列間部位Sの近傍へ位置付け(開口させ)、当該列間部位Sに対して直接グリースGを吐出させることができる。これにより、列間部位SへグリースGをより確実に封入させることができるとともに、より効果的に充分な量のグリースSを蓄積させることができる。
【0039】
一方、鍔部ノズル30bは、例えば、軸受ユニットXの大きさなどに応じて、周方向へ沿って所定の間隔(例えば、等間隔)で所定の数だけ配設すればよい。なお、列間ノズル30aと同一側の静止輪2と回転輪4との間の開放部分へ鍔部ノズル30bを配設する場合、鍔部ノズル30bが周方向に沿って当該列間ノズル30aの間に挟まれた状態(例えば、これらが1つずつ交互に並んだ状態)となるように、これらの鍔部ノズル30bを位置付ければよい。
【0040】
複数の鍔部ノズル30bをこのように配設することで、グリース封入機によって加圧されたグリースGを各鍔部ノズル30bの吐出口32bから、回転輪4(内輪16p,16q)の大径鍔部4aの近傍へ向けて、より具体的には、当該大径鍔部4aと転動体18(中空ころ18a又は中実ころ18b)との接触部分へ向けてそれぞれ個別に吐出させることができる。この結果、吐出されたグリースGをかかる大径鍔部4aの近傍(大径鍔部4aと中空ころ18a又は中実ころ18bとの接触部分)へ充分に封入させることができる。
【0041】
なお、列間ノズル30a、並びに鍔部ノズル30bから吐出させるグリースGの量は、例えば、軸受ユニットXの大きさ、より具体的にはユニット内部空間の大きさなどに応じて任意に設定すればよいため、特に限定されないが、当該軸受ユニットXの列間部位Sへ充分な量のグリースGが封入、蓄積されるように、鍔部ノズル30bからの吐出量を必要最小限に止め、列間ノズル30aからの吐出量を可能な限り多くすることが好ましい。この場合、例えばグリース封入機に対し、これらの列間ノズル30a及び鍔部ノズル30bの吐出量を予めそれぞれ設定しておけばよい。その際、各列間ノズル30aからの吐出量は、相互に異なっていてもよいが、均等とすることが好ましい。同様に、鍔部ノズル30bからの吐出量は、相互に異なっていてもよいが、均等とすることが好ましい。
【0042】
列間ノズル30a及び鍔部ノズル30bからの吐出量をこのような設定とすることで、軸受ユニットXの列間部位Sを長期に亘って良好な潤滑状態に保つことができる。加えて、列間部位SにグリースSを充分に蓄積させることで、当該蓄積グリースSを、回転輪4(内輪16p,16q)の回転に伴って、当該回転輪4(内輪16p,16q)の軌道面41,43に沿って大径鍔部4a側へ移動させることができる。これにより、限られた量のグリースGをユニット内部において流動させ、列間部位Sだけでなく、当該ユニット内部全体を長期に亘って良好な潤滑状態に保つことができる。
【0043】
このように、本実施形態に係る軸受ユニットXによれば、限られた量のグリースGをユニット内部へ効率よく、且つバランスよく容易に封入することができ、封入されたグリースGを確実にユニット内部の全体へ満遍なく行き亘らせることができる。この結果、グリースGの封入量を少量に限定せざるを得ない場合であっても、かかる軸受ユニットXを長期に亘って良好な潤滑状態に保つことができ、当該軸受ユニットXを一定の精度で安定して回転させ続けること、すなわち耐久性の向上を図ることが可能となる。
【0044】
なお、軸受ユニットXへのグリースGの封入が完了した後は、ユニット内部を外部から遮蔽して密封状態(気密状態、及び液密状態)に保つための各種の密封装置(例えば、接触型のシール、あるいは非接触型のシールやシールドなど)を、静止輪2と回転輪4(内輪16p,16q)との間の開放部分に組み付ければよい。これにより、封入されたグリースGのユニット外部への漏洩を防止することができるとともに、ユニット内部への異物(例えば、泥水、塵埃など)の侵入を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施形態に係る複列ころ軸受ユニットの構成を説明するための図であって、(a)は、一方の軌道溝に中空ころと中実ころを混在させて組み込み、当該中空ころの貫通孔を通してグリースをユニット内部(列間部位)へ封入(吐出)させるとともに、大径鍔部の近傍へ封入させる状態を示す断面図、(b)は、列間ノズルの送出管を延出させ、列間部位へグリースを直接封入(吐出)させる状態を示す断面図。
【図2】従来の複列円錐ころ軸受ユニットの構成例を示す断面図。
【図3】従来の複列円錐ころ軸受ユニットの構成例を示す断面図。
【図4】従来の複列円錐ころ軸受ユニットの構成例を示す断面図。
【符号の説明】
【0046】
2 静止輪
4 回転輪
16p,16q 内輪
18 転動体(円錐ころ)
18a 中空ころ
18b 中実ころ
18h 貫通孔
21,23,41,43 軌道面
X 軸受ユニット(複列円錐ころ軸受ユニット)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対回転可能に対向配置された少なくとも一対の静止輪及び回転輪と、当該静止輪及び当該回転輪にそれぞれ形成された複列の軌道溝へ転動可能に組み込まれた複数のころとを備え、ユニット内部への潤滑剤の封入によって潤滑される複列ころ軸受ユニットであって、
前記ころは、その回転軸に沿って貫通孔が形成されて中空構造を成す中空ころと、当該貫通孔を持たない中実ころで構成され、
前記複列の軌道溝のうち、少なくとも一方の軌道溝には、複数の前記中空ころと前記中実ころが混在して組み込まれているとともに、当該中空ころが周方向へ少なくとも1つの中実ころを挟んで略等間隔で配置されており、
前記中空ころの貫通孔を通すことで、ユニット内部の前記軌道溝間の領域へ潤滑剤が封入されていることを特徴とする複列ころ軸受ユニット。
【請求項2】
前記一方の軌道溝への前記中空ころの組込数は、当該軌道溝への中空ころの組込数と中実ころの組込数を合計して算出した組込ころ総数の約数に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の複列ころ軸受ユニット。
【請求項3】
前記一方の軌道溝の周方向へ沿って隣り合う中空ころ間への前記中実ころの組込数は、当該軌道溝への中実ころの組込数を中空ころの組込数で除し、その商を切り上げ又は切り捨てて算出された整数に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の複列ころ軸受ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−168129(P2009−168129A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6494(P2008−6494)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】