説明

複合型ダンパによる制振架構

【課題】鋼材系履歴型ダンパの座屈耐力を向上させる、制振架構を提供すること。
【解決手段】建造物の架構1の面内に略V字状に配置される一対の鋼材系履歴型ダンパ10と、一対の鋼材系履歴型ダンパ10の相互の交点に設けられた継手材20と接続された粘弾性体ダンパ30と、継手材20が架構1の面外方向へ変形することを抑制するための当て板40と、を備える。例えば、当て板40を、鋼材系履歴型ダンパ10の外部、又は粘弾性体ダンパ30の外部に設ける。また、当て板40を、架構1の面外方向から継手材20を挟むように配置し、継手材20と直接的又は間接的に当接するように設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震や風等による建造物の揺れを低減するための制振架構に関し、特に、鋼材系履歴型ダンパと粘弾性体ダンパを備えた複合型ダンパによる制振架構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、風荷重や小地震及び大地震による建造物の揺れを、低減することを目的とした制振架構の開発が進められている。このような制振架構の一例として、建造物の架構の面内にK型又はV型に配置された鋼材系履歴型ダンパと、この鋼材系履歴型ダンパに対して直列状に接続された粘弾性体ダンパとを備えた制振架構がある(例えば特許文献1参照)。この制振架構によれば、風荷重や小地震による小振幅の振動エネルギーを粘弾性体ダンパの減衰特性により吸収できると共に、大地震による大振幅の振動エネルギーを鋼材系履歴型ダンパの弾塑性履歴特性により吸収でき、全体として広域振幅の振動を制振できる。
【0003】
【特許文献1】特開平10−280727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、鋼材系履歴型ダンパは、その部材軸方向に沿った軸力(圧縮力・引張力)を受けて部材に塑性変形が生じることにより振動エネルギーを有効に吸収するものである。大地震時に、鋼材系履歴型ダンパが架構の面外方向に変形した場合には、早期に圧縮座屈が生じて圧縮耐力が十分に発揮できない可能性があった。特に、粘弾性体ダンパは鋼板と粘弾性体を交互に積層して構成されており、粘弾性体の圧縮剛性の設定によっては粘弾性体ダンパの面外方向の剛性が低くなるケースがあるため、このような粘弾性体ダンパを鋼材系履歴型ダンパに組み合わせた場合には、鋼材系履歴型ダンパの面外方向への変形が相乗的に生じる可能性があった。
【0005】
本発明は、上述した従来技術の課題を解決するためになされたものであり、鋼材系履歴型ダンパの座屈耐力を向上させることができる、複合型ダンパによる制振架構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1に記載の複合型ダンパによる制振架構は、建造物の架構の面内に略V字状に配置される一対の大振幅用減衰手段と、前記一対の大振幅用減衰手段の相互の接続部と接続された小振幅用減衰手段と、前記接続部が前記架構の面外方向へ変形することを抑制するための面外変形抑制手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に記載の複合型ダンパによる制振架構は、請求項1に記載の複合型ダンパによる制振架構において、前記面外変形抑制手段を、前記大振幅用減衰手段の外部、又は前記小振幅用減衰手段の外部に設けたことを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に記載の複合型ダンパによる制振架構は、請求項2に記載の複合型ダンパによる制振架構において、前記面外変形抑制手段は、前記架構の面外方向から前記接続部を挟むように配置されたものであって、前記接続部と直接的又は間接的に当接する一対の当接部を備えることを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に記載の複合型ダンパによる制振架構は、請求項3に記載の複合型ダンパによる制振架構において、前記当接部は、前記架構を構成する梁又は柱に支持された平板材であって、前記接続部の外側面に沿って略平行に配置された平板材を含むことを特徴とする。
【0010】
また、請求項5に記載の複合型ダンパによる制振架構は、請求項3に記載の複合型ダンパによる制振架構において、前記架構により支承された床部に固定された一対の方杖を備え、前記一対の方杖の先端部に、前記当接部を設けたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項6に記載の複合型ダンパによる制振架構は、請求項2に記載の複合型ダンパによる制振架構において、前記架構を構成する梁又は柱に設けられたものであって、前記接続部を当該梁又は当該柱の部材軸方向に沿って往復移動可能とするスライダ部を設けたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項7に記載の複合型ダンパによる制振架構は、建造物の架構の面内に略V字状に配置される一対の大振幅用減衰手段と、前記一対の大振幅用減衰手段の相互の接続部と接続された小振幅用減衰手段と、前記大振幅用減衰手段が前記架構の面外方向へ変形することを抑制するための面外変形抑制手段を、前記小振幅用減衰手段の内部に設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る複合型ダンパによる制振架構によれば、面外変形抑制手段によって接続部の架構の面外方向の変形を抑制することができるので、大振幅用減衰手段の座屈長さを短く設定することができるため、大振幅用減衰手段の圧縮耐力を効果的に発揮させることができる。
【0014】
また、請求項2に係る複合型ダンパによる制振架構によれば、面外変形抑制手段を大振幅用減衰手段の外部又は小振幅用減衰手段の外部に設けたので、接続部の架構の面外方向の変形を直接的に抑制することができ、大振幅用減衰手段の圧縮耐力を一層効果的に発揮させることができる。また、面外変形抑制手段を外部に設けたので、この面外変形抑制手段の形状や設置場所の調整等が容易になり、当該制振架構の施工誤差を吸収することができると共に、建造物が新築であるか既存であるかを問わず取り付けることができ、面外変形抑制手段の施工性を向上させることができる。
【0015】
また、請求項3に係る複合型ダンパによる制振架構によれば、当接部を接続部を挟み込む位置に設けたので、簡易に取り付けることができ、当接部の施工性を一層向上することができる。
【0016】
また、請求項4に係る複合型ダンパによる制振架構によれば、当接部を、架構の梁又は柱を利用して設けたので、当該当接部を支持する特別な部材等を備える必要がなく、当接部の設置コストを抑えることができる。
【0017】
また、請求項5に係る複合型ダンパによる制振架構によれば、方杖が斜材・ブレース材として機能することで、接続部の架構の面外方向の変形に対して抵抗することができるので、構造的な安定性を高めることができ、大振幅用減衰手段の座屈耐力を一層向上させることができる。
【0018】
また、請求項6に係る複合型ダンパによる制振架構によれば、スライダ部を、接続部と架構の梁、又は柱の相互間に設けたので、スライダ部の架構の面外方向の露出を抑えることができ、室内空間を有効に利用することができると共に、接続部近傍の意匠性を一層向上することができる。
【0019】
また、請求項7に係る複合型ダンパによる制振架構によれば、面外変形抑制手段を、小振幅用減衰手段の内部に設けたので、現場での取り付けの手間を省くことができ、施工性を一層向上することができる。また、面外変形抑制手段を外部に露出させないので、室内空間を有効に利用できると共に、意匠性を一層向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る複合型ダンパによる制振架構の各実施の形態を詳細に説明し、各実施の形態に対する変形例について説明する。ただし、これら各実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0021】
〔実施の形態1〕
まず実施の形態1について説明する。この実施の形態1は、面外変形抑制手段を制振架構の外部に設けた形態である。
【0022】
(構成)
図1は実施の形態1に係る複合型ダンパによる制振架構の正面図、図2は図1の要部拡大図である。この複合型ダンパによる制振架構は、架構1、鋼材系履歴型ダンパ10、継手材20、粘弾性体ダンパ30、及び当て板40を備えて構成されている。
【0023】
(構成−架構)
架構1は、上下の梁部材2、3と、左右の柱部材4、5とを組み合わせて構成されている。以下では、これら上下の梁部材2、3、及び左右の柱部材4、5によって形成された略方形状の平面の内部を「架構1の面内」と称する。この架構1の構造形式は任意であるが、例えばラーメン構造やアーチ構造が該当する。また、この架構1の具体的な構成材は任意であるが、例えば、鉄筋コンクリート構造、鋼構造、又は木造構造等が該当する。
【0024】
(構成−鋼材系履歴型ダンパ)
一対の鋼材系履歴型ダンパ10は、特許請求の範囲における大振幅用減衰手段に対応するもので、架構1の面内において上梁部材2の部材軸方向の中心点近傍に備えられた継手材20から下梁部材3の部材軸方向の端部近傍に至るように配置されており、このように一対の鋼材系履歴型ダンパ10を配置することによって全体としてV字型の制振架構が構成されている。この鋼材系履歴型ダンパ10は、連結部材11、鋼材系履歴型ダンパ本体12、及び拘束部材13を備える。
【0025】
連結部材11は、鋼材系履歴型ダンパ本体12と下梁部材3を連結し、あるいは鋼材系履歴型ダンパ本体12と継手材20を連結するもので、鋼材系履歴型ダンパ本体12の部材軸方向の両端部に配置され、鋼材系履歴型ダンパ本体12、下梁部材3、及び継手材20に対して溶接やボルト等により接続されている。
【0026】
鋼材系履歴型ダンパ本体12は、弾塑性履歴特性によって架構1の振動エネルギーを吸収するものであり、具体的には、縦断面形状が連結部材11と略対応した弾塑性部材であって、連結部材11を介して下梁部材3と継手材20との相互間に配置されている。この鋼材系履歴型ダンパ本体12を構成する材質は任意であり、例えば、普通鋼材に比べて小さな応力で降伏する極軟鋼材が該当する。
【0027】
拘束部材13は、鋼材系履歴型ダンパ本体12の座屈を抑制するもので、略長筒状に形成された中空鋼管であり、鋼材系履歴型ダンパ本体12の周囲を覆う位置に固定されている。この拘束部材13は鋼材系履歴型ダンパ本体12よりも降伏点が高い鋼材にて構成され、この拘束部材13と鋼材系履歴型ダンパ本体12との相互間には、鋼材系履歴型ダンパ本体12の軸変形を阻害しない状態で、コンクリート等から形成された図示しない被覆部材が設けられている。
【0028】
(構成−継手材)
継手材20は、特許請求の範囲における接続部に対応するもので、鋼材を用いた中空の直方体として構成され、一対の鋼材系履歴型ダンパ10の延長線上の交点に配置されている。
【0029】
(構成−粘弾性体ダンパ)
一対の粘弾性体ダンパ30は、減衰特性によって架構1の振動エネルギーを吸収するものであり、特許請求の範囲における小振幅用減衰手段に対応する。この一対の粘弾性体ダンパ30は、継手材20を中心として略左右対称に設けられており、架構1の面内において継手材20の水平端部から略水平方向に沿って配置されている。
【0030】
図3は図2のA−A矢視断面図である。図3に示すように、粘弾性体ダンパ30は、抵抗プレート30a及び粘弾性体30bを備えて構成されている。抵抗プレート30aは、略板状の鋼板であり、所定の間隔で積層状に複数配置されている。粘弾性体30bは、抵抗プレート30aと略対応する平面形状の略板状体であり、抵抗プレート30aに対して加硫接着等により固着されており、各抵抗プレート30a間の相対変位に対してせん断変形して追随する。この粘弾性体30bを構成する材質は任意であり、例えば、ゴム系、アクリル系、アスファルト系、又はシリコン系等の高分子系材料が該当する。この粘弾性体ダンパ30には、粘弾性体30b及び抵抗プレート30aをその積層方向に沿って貫通するピン孔30cと、当該ピン孔30cに挿入される略円筒状のピン30dと、このピン30dがピン孔30cから脱落することを防止する脱落防止ピン30eが設けられている。ここでは、ピン孔30cの内径をピン30dの外径より大きくすることで、これらピン30dとピン孔30cとの間に、粘弾性体30bのせん断変形を許容する隙間が形成されている。このように構成された粘弾性体ダンパ30は、連結部材31を介して、継手材20とブラケット32の相互間に配置されており、架構1の面内と略直交する方向に積層された抵抗プレート30aが、連結部材31に対してボルト等により接続されている。
【0031】
このように構成された鋼材系履歴型ダンパ10及び粘弾性体ダンパ30は以下のように機能する。すなわち、小地震や風等による小振幅の揺れに対しては、粘弾性体ダンパ30の粘弾性体30bがせん断変形することで、振動エネルギーを吸収する。また、大地震による大振幅の揺れに対しては、粘弾性体ダンパ30の粘弾性体30bの変形がピン30dによって抑制され、鋼材系履歴型ダンパ10の鋼材系履歴型ダンパ本体12が変形することで、振動エネルギーを吸収する。
【0032】
(構成−当て板)
次に、当て板40について説明する。図4は図2のB−B矢視断面図、図5は図4の要部拡大図である。一対の当て板40は、曲げ抵抗によって継手材20の架構1の面外方向の変形を抑制するものであり、特許請求の範囲における面外変形抑制手段に対応する。この一対の当て板40は、略板状の鋼板から形成されており、上梁部材2の下端部から略鉛直方向に沿って継手材20を挟み込むように立設され、当て板40の側面が継手材20の側面と対向する位置に設けられ、上梁部材2に対して溶接等により固着されている。
【0033】
この当て板40は、非変形状態の継手材20に対して当接する位置に配置してもよく、あるいは、継手材20が所定の許容範囲以上に変形した場合のみ当該継手材20に対して当接する位置に配置してもよい。継手材20の変形要因としては、振動の他、温度変化・施工誤差を考慮してもよい。また、当て板40を継手材20に対して直接当接させてもよく、あるいは他の部材を介して継手材20に当接させてもよい。本実施の形態では、当て板40と継手材20との間に、滑り材41、嵌合部材42、及び相手材21が設けられている。滑り材41は、当て板40と継手材20を特定の圧力下で相互に摺動可能とするもので、例えばPTFE材等のフッ素樹脂材から略板状に形成されている。嵌合部材42は、当て板40に滑り材41を固定するために、当て板40における継手材20側の面に溶接等で固着された鋼製の平板であり、滑り材41を嵌合固定する凹部を備える。相手材21は、継手材20における当て板40側の面に溶接等で固着されたステンレス板であり、滑り材41との摩擦を軽減する。本実施の形態のほか、当て板40と継手材20との間に、滑り材41のみを設けてもよい。この場合、滑り材41は、当て板40又は継手材20の側面に接着剤等で固着されている。
【0034】
このように構成された当て板40の機能は以下の通りである。まず、当て板40が設けられていない構造を想定すると、粘弾性体ダンパ30は、抵抗プレート30aと粘弾性体30bを複数積層したものであるため、地震や風等による揺れによって粘弾性体ダンパ30の積層方向に変形する可能性がある。この変形時には、継手材20が面外方向に変形し、これに伴って、鋼材系履歴型ダンパ10も架構1の面外方向に変形する。これにより、鋼材系履歴型ダンパ10の拘束状態は、鋼材系履歴型ダンパ10の下梁部材3側の端部を固定端、鋼材系履歴型ダンパ10の継手材20側の端部を自由端とするものであって、鋼材系履歴型ダンパ10の継手材20側の端部が、架構1の面外方向へ移動する一端自由他端拘束状態となる。この状態の鋼材系履歴型ダンパ10の座屈長さlK1は、オイラーの座屈理論より2×Lと算出される(ここで、Lは鋼材系履歴型ダンパ10の材長を示す)。
【0035】
これに対して、当て板40を設けた場合、粘弾性体30bが粘弾性体ダンパ30の積層方向に変形した場合であっても、当て板40が継手材20と当接することで、継手材20の面外方向の変形が抑制される。これにより、鋼材系履歴型ダンパ10の拘束状態は、鋼材系履歴型ダンパ10の継手材20側の端部が架構1の面外方向へ移動しない一端自由他端拘束状態となる。このときの鋼材系履歴型ダンパ10の座屈長さlK2は、オイラーの座屈理論より0.7×Lと算出される。以上のことから、当て板40を設けることで、鋼材系履歴型ダンパ10の座屈長さを短くすることができ、鋼材系履歴型ダンパ10の座屈耐力を向上できる。
【0036】
この他にも、当て板40は、直接的又は間接的に継手材20の面外方向の変形を抑制し得る限りにおいて任意の構造にて構成可能である。図6は変形例に係る当て板40の一例を示す正面図、図7は図6のC−C矢視断面図である。この変形例では、継手材20及び当て板40には、架構1の面外方向へ貫通する4つの長孔43と、各長孔43に挿入された貫通ボルト44とが設けられており、この貫通ボルト44を介して一対の当て板40が相互に連結されている。ここで、各長孔43と各貫通ボルト44の間には水平方向に沿ってクリアランスが設けられており、継手材20の水平方向への振動が許容されている。この構造によれば、相互に連結された一対の当て板40によって、継手材20の面外方向の変形を一層強固に抑制できる。
また、図8は変形例に係る当て板40の一例を示す正面図、図9は図8のD−D矢視断面図である。この変形例では、当て板40に略板状のリブ材45が設けられている。具体的には、上梁部材2の下フランジ幅が当て板40の配置間隔よりも広げられた場合である。リブ材45は、当て板40の側面に対して略直角に配置され、上梁部材2及び当て板40の側面とは溶接やボルト等で固着されている。この構造によれば、リブ材45を備えた一対の当て板40によって、継手材20の面外方向の変形を一層強固に抑制できる。
【0037】
(実施の形態1の効果)
このように実施の形態1によれば、当て板40によって継手材20の面外方向の変形を拘束することで、鋼材系履歴型ダンパ10の面外方向の変形を拘束でき、鋼材系履歴型ダンパ10の座屈耐力を向上させることができる。
【0038】
また、当て板40を継手材20の外部に配置したので、上梁部材2と継手材20の相互間で施工誤差が生じたとしても、当て板40の設置場所や寸法等を調整することで、その施工誤差を吸収することができると共に、既設の架構1に対しても、当て板40を容易に取り付けられる。
【0039】
〔実施の形態2〕
次に、実施の形態2について説明する。この実施の形態2は、実施の形態1で備えていたものと類似の当て板に加えて、方杖を設けた形態である。実施の形態2の構成は、特記する場合を除いて実施の形態1の構成と略同一であり、実施の形態1の構成と略同一の構成についてはこの実施の形態1で用いたのと同一の符号を必要に応じて付して、その説明を省略する(実施の形態3、4においても同じ)。
【0040】
(方杖の構成)
図10は実施の形態2に係る制振架構の構成を示す正面図、図11は図10のE−E矢視断面図である。一対の方杖50は、軸力抵抗によって継手材20の架構1の面外変形を抑制するものであり、床部材6から継手材20に至るように側面V字状に設けられ、床部材6に対して溶接やボルト等により固定されている。この一対の方杖50は、鋼材から形成されており、その先端部には、固定構造を除いて実施の形態1と同様に構成された当て板40が溶接等により固着されている。この方杖50はH型鋼にて形成しているが、これに限らず、断面形状を略方形状や略円形状とする鋼材にて形成してもよい。また、当て板40に対する方杖50の固着位置は、継手材20の面外方向の変形力の中心位置と一致させることが好ましく、この場合には継手材20の面外方向の変形力を効率よく方杖50に伝達できる。また、1枚の当て板40に固着される方杖50は、1本に限らず、複数の方杖50を固着してもよい。
【0041】
(方杖の機能)
次に、方杖50の機能について詳細に説明する。実施の形態2の制振架構において、地震や風等による架構1の面外方向の揺れに対して、継手材20が当て板40と当接すると、床部材6に支持された方杖50に軸力が作用することで、方杖50が継手材20の面外方向の変形に対して抵抗するので、継手材20の面外方向の変形は抑制される。
【0042】
(実施の形態2の効果)
このように実施の形態2によれば、実施の形態1と略同様の効果に加えて、継手材20の変形に対して方杖50の軸力により抵抗することができるので、鋼材系履歴型ダンパ10の座屈耐力を一層向上させることができる。
【0043】
〔実施の形態3〕
次に、実施の形態3について説明する。この実施の形態3は、実施の形態1の当て板に代えて、リニアスライダを備える形態である。
【0044】
(リニアスライダの構成)
図12は実施の形態3に係る制振架構の構成を示す正面図、図13は図12のF−F矢視断面図、図14は図13の要部拡大図である。上梁部材2と継手材20との相互間には、リニアスライダ60が配置されている。このリニアスライダ60は、特許請求の範囲におけるスライダ部に対応するもので、固定体61、ガイドレール62、複数の回転子63、及び可動体64を備えて構成されている。
【0045】
固定体61は、ガイドレール62を固定するための板状部材であって、上梁部材2の部材軸方向に沿って直方体状に伸張され、上梁部材2に対して溶接等にて固着されている。
【0046】
ガイドレール62は、可動体64を上梁部材2の部材軸方向に誘導するものであり、固定体61の下側面に対して溶接等により固着されている。このガイドレール62の部材軸方向の長さは任意であるが、例えば、大地震時の想定層間変形に対応した長さや、鋼材系履歴型ダンパ10の限界せん断ひずみから計算される長さとすることができる。
【0047】
複数の回転子63は、可動体64を上梁部材2の部材軸方向に摺動させるものである。この回転子63は、略球状や略円筒状に形成され、可動体64の側面と対向するガイドレール62の側面において、図示しない回転軸によって回転可能に設けられている。
【0048】
可動体64は、継手材20をガイドレール62の部材軸方向に沿って往復移動可能とする軌道を形成するもので、直方体状に構成され、継手材20の上梁部材2側の面に溶接等によって固着されている。この可動体64の上側面には、ガイドレール62及び複数の回転子63を摺動可能に受容する溝部が形成されている。
【0049】
(リニアスライダの機能)
次に、リニアスライダ60の機能について詳細に説明する。地震や風等による架構1の面内の揺れが生じた場合、可動体64がガイドレール62に沿って移動することで、継手材20の架構1の面内方向の変形が許容され、粘弾性体ダンパ30又は鋼材系履歴型ダンパ10による振動エネルギーの吸収が可能となる。一方、可動体64がガイドレール62と嵌合することで、継手材20の面外方向の変形が抑制される。
【0050】
(実施の形態3の効果)
このように実施の形態3によれば、リニアスライダ60によって継手材20の面外方向の変形を拘束することで、鋼材系履歴型ダンパ10の面外方向の変形を拘束でき、鋼材系履歴型ダンパ10の座屈耐力を向上させることができる。
【0051】
また、リニアスライダ60を上梁部材2と継手材20との相互間に設けたので、リニアスライダ60が架構1の外部に露出することを抑えることができ、室内空間を有効に利用することができるので、天井の納まりを向上させることや、天井内の配管の障害となることを防止できること、あるいは、架構1の意匠性を一層向上させることができる。
【0052】
〔実施の形態4〕
次に、実施の形態4について説明する。この実施の形態4は、粘弾性体ダンパにスペーサを設けた形態である。
【0053】
(ベアリングの構成)
図15は本実施の形態に係る図2のA−A矢視断面図である。粘弾性体ダンパ30の内部には、複数のベアリング71が設けられている。このベアリング71は、粘弾性体30bの積層方向の変形を抑制するものであって、粘弾性体ダンパ30の端部において、抵抗プレート30aの相互間に配置されている。このベアリング71は、例えば、鋼製のボールベアリング又はローラーベアリングとして形成され、抵抗プレート30aに形成された凹部に回動可能に配置されている。これらベアリング71は、当該抵抗プレート30aに隣接する他の抵抗プレート30aに接する位置及び形状にて配置されており、抵抗プレート30aが粘弾性体30bのせん断変形に追随して水平方向に移動することを許容する一方で、抵抗プレート30aが粘弾性体30bの積層方向に変形することを抑制する。
【0054】
次に、本実施の形態の変形例について説明する。図16は本実施の形態の変形例に係る図2のA−A矢視断面図である。粘弾性体ダンパ30の内部には、上述のベアリング71に代えて、ゴム体72が設けられている。このゴム体72は、粘弾性体30bの積層方向の変形を抑制するものであって、例えば縦断面コ字状に形成され、粘弾性体ダンパ30の端部に嵌合され、抵抗プレート30aの相互間及びその側方に配置される。抵抗プレート30aの相互間に配置される部分は、粘弾性体30bの水平方向の変形を阻害しないように当該相互間の隙間よりも薄厚状とされている一方、粘弾性体30bが積層方向に変形した場合には抵抗プレート30aに当接することで当該変形の増大を防止可能な厚みとされている。このゴム体72は、粘弾性体ダンパ30よりも硬質なものが好ましく、例えば、粘弾性体30bの静的せん断弾性率よりも大きな天然ゴム及び高減衰ゴムを用いることができる。あるいは、ゴム体72に代えて金属体を用いてもよい。
【0055】
(実施の形態4の効果)
このように実施の形態4によれば、実施の形態1と略同様の効果に加えて、ベアリング71やゴム体72は粘弾性体ダンパ30の工場組立時に取り付け可能であることから、現場での作業性を簡略化することができる。また、ベアリング71やゴム体72は、粘弾性体ダンパ30の内部に設けられており外部に露出しないので、室内空間の有効利用にも寄与できると共に、意匠性を一層向上することができる。
【0056】
〔各実施の形態に対する変形例〕
以上、本発明に係る各実施の形態について説明したが、本発明の具体的な構成及び手段は、特許請求の範囲に記載した各発明の技術的思想の範囲内において、任意に改変及び改良することができる。以下、このような変形例について説明する。
【0057】
(解決しようとする課題や発明の効果について)
まず、発明が解決しようとする課題や発明の効果は、前記した内容に限定されるものではなく、本発明によって、前記に記載されていない課題を解決したり、前記に記載されていない効果を奏することもでき、また、記載されている課題の一部のみを解決したり、記載されている効果の一部のみを奏することがある。
【0058】
(各実施の形態の組み合わせについて)
各実施の形態において説明した構成は、任意の組み合わせで、相互に組み合わせることができる。例えば、実施の形態1の当て板40と、実施の形態4のベアリング71やゴム体72を、同一の架構1に同時に適用してもよい。
【0059】
(大振幅用減衰手段と小振幅用減衰手段について)
大振幅用減衰手段は、鋼材系履歴型ダンパ10に限らず、粘性ダンパ、あるいは摩擦ダンパとしてもよい。鋼材系履歴型ダンパ10を用いる場合においても、その配置方法は任意であり、例えば、V字型に代えて、A字型又はX字型となるように配置してもよい。また、小振幅用減衰手段は、粘弾性体ダンパ30に限られず、鋼材系履歴型ダンパ10、粘性ダンパ、あるいは摩擦ダンパとしてもよい。
鋼材系履歴型ダンパ10として、材料強度が高ひずみ速度感受性を有した超塑性金属材料(例えば亜鉛−アルミ合金など)は、小振幅用減衰手段として適している。
減衰手段としての粘性ダンパは、シリンダ内にオイル等の粘性材料を封入したオイルダンパなどが適している。特に、変位増幅機構を備えた粘性ダンパは、小振幅用減衰手段として適している。
【0060】
(面外変形抑制手段について)
実施の形態1〜4では、面外変形抑制手段を、継手材20の外部や、粘弾性体ダンパ30の内部に配置したことを説明したが、鋼材系履歴型ダンパ10の外部に設けてもよい。例えば、実施の形態1の一対の当て板40を架構1の左右の柱部材4、5から鋼材系履歴型ダンパ10の上端部に至るように延出し、この当て板40によって鋼材系履歴型ダンパ10を面外方向から挟むようにしてもよい。この場合、一つの鋼材系履歴型ダンパ10に対して複数組の当て板40を設けてもよい。
【0061】
あるいは、面外変形抑制手段を粘弾性体ダンパ30の外部に設けてもよい。図17は変形例に係る図2のA−A矢視断面図である。粘弾性体ダンパ30を貫通するピン30dの両端部には、ストッパ73が設けられている。このストッパ73は、鋼材から形成されるもので、ピン孔30cの直径よりも大きな円環状であって、かつ、図3の脱落防止ピン30eよりも厚肉状に形成されており、脱落防止ピン30eより高い剛性で粘弾性体ダンパ30の面外方向への変形を抑制する。
【産業上の利用可能性】
【0062】
この発明に係る複合型ダンパによる制振架構は、地震等による建造物の揺れを低減するための制振架構に適用でき、特に鋼材系履歴型ダンパの座屈耐力を効果的に向上させることに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施の形態1に係る複合型ダンパによる制振架構の構成を示す正面図である。
【図2】図1の要部を拡大した図である。
【図3】図2のA−A矢視断面図である。
【図4】図2のB−B矢視断面図である。
【図5】図4の要部を拡大した図である。
【図6】図2の変形例に係る当て板の一例を示す正面図である。
【図7】図6のC−C矢視断面図である。
【図8】図2の変形例に係る当て板の一例を示す正面図である。
【図9】図8のD−D矢視断面図である。
【図10】実施の形態2に係る複合型ダンパによる制振架構の構成を示す正面図である。
【図11】図10のE−E矢視断面図である。
【図12】実施の形態3に係る複合型ダンパによる制振架構の構成を示す正面図である。
【図13】図12のF−F矢視断面図である。
【図14】図13の要部を拡大した図である。
【図15】実施の形態4に係る図2のA−A矢視断面図である。
【図16】実施の形態4の変形例に係る図2のA−A矢視断面図である。
【図17】実施の形態4の変形例に係る図2のA−A矢視断面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 架構
2 上梁部材
3 下梁部材
4 左柱部材
5 右柱部材
6 床部材
10 鋼材系履歴型ダンパ
11、31 連結部材
12 鋼材系履歴型ダンパ本体
13 拘束部材
20 継手材
21 相手材
30 粘弾性体ダンパ
30a 抵抗プレート
30b 粘弾性体
30c ピン孔
30d ピン
30e 脱落防止ピン
32 ブラケット
40 当て板
41 滑り材
42 嵌合部材
43 長孔
44 貫通ボルト
45 リブ材
50 方杖
60 リニアスライダ
61 固定体
62 ガイドレール
63 回転子
64 可動体
71 ベアリング
72 ゴム体
73 ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物の架構の面内に略V字状に配置される一対の大振幅用減衰手段と、
前記一対の大振幅用減衰手段の相互の接続部と接続された小振幅用減衰手段と、
前記接続部が前記架構の面外方向へ変形することを抑制するための面外変形抑制手段と、
を備えることを特徴とする複合型ダンパによる制振架構。
【請求項2】
前記面外変形抑制手段を、
前記大振幅用減衰手段の外部、又は前記小振幅用減衰手段の外部に設けたこと、
を特徴とする請求項1に記載の複合型ダンパによる制振架構。
【請求項3】
前記面外変形抑制手段は、前記架構の面外方向から前記接続部を挟むように配置されたものであって、前記接続部と直接的又は間接的に当接する一対の当接部を備えること、
を特徴とする請求項2に記載の複合型ダンパによる制振架構。
【請求項4】
前記当接部は、前記架構を構成する梁又は柱に支持された平板材であって、前記接続部の外側面に沿って略平行に配置された平板材を含むこと、
を特徴とする請求項3に記載の複合型ダンパによる制振架構。
【請求項5】
前記架構により支承された床部に固定された一対の方杖を備え、
前記一対の方杖の先端部に、前記当接部を設けたこと、
を特徴とする請求項3に記載の複合型ダンパによる制振架構。
【請求項6】
前記架構を構成する梁又は柱に設けられたものであって、前記接続部を当該梁又は当該柱の部材軸方向に沿って往復移動可能とするスライダ部を設けたこと、
を特徴とする請求項2に記載の複合型ダンパによる制振架構。
【請求項7】
建造物の架構の面内に略V字状に配置される一対の大振幅用減衰手段と、
前記一対の大振幅用減衰手段の相互の接続部と接続された小振幅用減衰手段と、
前記大振幅用減衰手段が前記架構の面外方向へ変形することを抑制するための面外変形抑制手段を、前記小振幅用減衰手段の内部に設けたこと、
を特徴とする複合型ダンパによる制振架構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−280963(P2009−280963A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130984(P2008−130984)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】