説明

複合型制振材料

【課題】 制振材料に必要な形状安定性を有すると共に、振幅ひずみの大きい領域まで高度の減衰能を有し、かつ、振幅ひずみの小さい領域においても減衰能を発揮し、微小振動の抑制が可能な制振材料を提供する。
【解決手段】 少なくとも二枚の制振合金板状部材と、
該制振合金板状部材の間に配置された有機高分子系制振層と
からなる複合型制振材料であって、
前記制振合金板状部材が双晶型制振合金からなり、
前記有機高分子系制振層が、有機高分子マトリックス材料と、該有機高分子マトリックス材料中に含有してなる少なくとも一種の制振付与剤とからなることを特徴とする複合型制振材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料と有機高分子材料との積層体からなる複合型制振材料に関するものであり、さらに詳しくは、少なくとも二枚の制振合金板状部材の間に有機高分子系制振層を配置してなる複合型制振材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、産業機械、輸送機関の発達、家電用品の普及により、各種機器より発生する振動、騒音が健康管理または環境保全の観点から問題視されるに至っている。特に、輸送機関、とりわけ鉄道の高速化による振動・騒音、高速道路、橋梁での自動車等の車輌による振動・騒音、また、オーディオ、パソコン等の各種精密機械の普及に伴なう振動・騒音が社会問題として取り上げられるようになり、その防止低減対策が今後の社会生活にとって不可欠な状況となっている。
【0003】
従来、振動、騒音を防止するためには、(1)質量を増加させ、剛性を高めること、(2)共振を回避すること、(3)振動を減衰させることの三点が重要であるとされている(新素材ハンドフックp235(丸善))。
【0004】
前記(1)、(2)の振動を起こさせないようにするための剛構造設計に対し、前記(3)は、柔構造というべきものであり、自由に振動を起こさせてそのあと速やかに減衰させるのがよいとする考え方であり、かかる振動減衰には、振動体の有する振動エネルギーを熱にかえて消費することにより振幅を急速に減少させ振動を止める手法が提案され、また、実施にも移されている。特に、材料自体が有する減衰能を利用する制振材料が各種開発されてきている。
【0005】
そのなかで、例えば、非圧電性の有機高分子マトリックスに圧電性、誘電性、導電性を有する低分子化合物を分散させてなる有機高分子系制振材料が提案されている。かかる制振材料の作用は、従来の制振作用の原理とは異なる原理によるものであって、振動エネルギーを一度、電気エネルギーに変換し、次いで、熱エネルギーに変換して消費することにより振動を減衰させるとするものであり、圧電・導電効果に基く電気エネルギー損失が加わるため、より効率的な振動減衰が可能とされている。しかし、かかる制振材料は、有機物質の性質上、強度が弱く、荷重下においては形状安定性を欠如するため用途が限定され、また、減衰能を発揮する温度範囲が限定されるという問題点もあった。
【0006】
一方、強度と制振性を備えた金属板を利用した制振材料として、例えば、先行技術1(特開昭62−132639号公報(特許文献1))には、複数の金属板間に、エラストマーとカーボンブラックの粒状混練物を配合した樹脂層を挟持した制振金属板が記載されている。しかし、損失係数(η)は常温で相対的に高い値を示しているものの、0.05に達しない状態であり、減衰能は低いものであった。
【0007】
また、先行技術2(特開昭62−251135号公報(特許文献2))には、(A)相対粘度が1.35〜2.00のポリブチレンテレフタレートおよび(B)ポリブチレンテレフタレート共重合体を配合したポリエステル組成物を中間層として2枚の金属板間に接着させた制振性金属積層板が記載されている。
【0008】
さらに、先行技術3(特開平6−15772号公報(特許文献3))には、2枚の金属板の間に樹脂層を挟持してなる複合型制振材料であって、該樹脂層がアイオノマー型水性ポリエステル樹脂、アイオノマー型水性ポリウレタン型樹脂、水性フェノキシ樹脂から選択される樹脂を含有するものであり、常温での引張り剪断接着強さと低温のガラス転移温度を充足したものであることが記載されている。
【0009】
かかる先行技術で示されている金属板と金属板との間に中間層を介存させた拘束型制振材料は、中間層の粘弾性物質の剪断変形による内部摩擦を利用して振動を減衰させるものであり、前記制振材料のなかには常温での損失係数は、0.5以上に達し、ある程度の効果は得られている。
しかしながら、前記の先行技術として挙げられている制振材料は、減衰能の振幅ひずみ依存性が大きく、特に、微小振動に対する減衰能に難点があり、精密機器等の分野への適用には解決すべき点が残されていた。
かかる状況下において、減衰能が高く、かつ振幅ひずみが小さい領域においても減衰能が大きく、さらに、振幅ひずみの大きい領域まで減衰能を発揮することができる制振材料の開発が切望されてきた。
【0010】
【特許文献1】特開昭62−132639号公報
【特許文献2】特開昭62−251135号公報
【特許文献3】特開平6−15772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の課題は、制振材料に必要な強度と形状安定性を有すると共に、振幅ひずみが大きい領域まで高度の減衰能を有し、かつ振幅ひずみの小さい領域においても減衰能を発揮し、振幅ひずみの小さい微小振動の抑制が可能な制振材料および該制振材料からなる制振成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明者らは、本発明の前記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、前記の有機高分子系制振材料に着目し、かかる有機高分子系制振材料を制振合金と組み合わせることにより、前記課題を解決できることに想到した。すなわち、下記記載の特定の有機高分子系制振層を二枚の制振合金板状部材の間に配置してなる複合型制振材料を提供することにより、前記課題を解決できることを見出し、かかる知見に基いて本発明の完成に到達した。
【0013】
かくして、本発明によれば、
少なくとも二枚の制振合金板状部材と、
該制振合金板状部材の間に配置された有機高分子系制振層と
からなる複合型制振材料であって、
前記制振合金板状部材が双晶型制振合金からなり、
前記有機高分子系制振層が、有機高分子マトリックス材料と、該有機高分子マトリックス材料中に含有してなる少なくとも一種のフェノール系化合物とからなることを特徴とする複合型制振材料
が提供される。
【0014】
本発明によれば、少なくとも二枚の制振合金板状部材と、該制振合金板状部材の間に配置された有機高分子系制振層とからなる複合型制振材料が提供されるが、さらに、好適な実施態様として次の1)〜12)に掲げるものを包含する。
【0015】
1)前記双晶型合金がMn基制振合金である前記複合型制振材料。
2)前記Mn基制振合金が、Mn−Cu合金、Mn−Cu−Al合金、Mn−Cu−Ni合金、Mn−Cu−Fe合金、Mn−Cu−Co合金、Mn−Cu−Ni−Fe合金またはMn−Cu−Al−Ni合金のいずれかである前記複合型制振材料。
3)前記Mn基制振合金が、Mn−Cu−Ni−Fe合金である前記複合型制振材料。
4)前記制振合金板状部材の損失係数が、湿度20℃、周波数100〜3000Hzの条件下において0.01以上である前記複合型制振材料。
5)前記フェノール系化合物が、次の一般式(I)
【0016】
【化1】

(一般式(I)において、
Aは、硫黄原子および/または酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の鎖状炭化水素基、芳香族基を有する該鎖状炭化水素基または炭素数5〜8の脂環式炭化水素基であり、
1およびR2は、それぞれ炭素数1〜10以下の炭化水素基、アルキロール基またはアルデヒド基であり、互いに同一でも異なるものでもよく、pおよびqは、それぞれ0〜3の整数であり、互いに同一でも異なるものでもよく、
Xはハロゲン原子であり、sおよびtはそれぞれ0または1であり、互いに同一でも異なるものでもよく、
xおよびyは、それぞれ1〜3の整数であり、互いに同一でも異なるものでもよい。)
で表される一種または二種以上の化合物である前記複合型制振材料。
6)前記一般式(I)中のAが、ヒドロキシル基に対して2位または4位に結合した鎖状炭化水素基である前記複合型制振材料。
7)前記一般式(I)中のR1およびR2の結合位置が、ヒドロキシル基に対してそれぞれ2位、4位または5位の少なくとも一つであり、互いに同一または異なる位置である(ただし、前記Aが当該位置に結合している場合を除く。)前記複合型制振材料。
【0017】
8)前記フェノール系化合物が、4,4’−チオビス(3−メチル−6−ターシャリ−ブチルフェノール);4,4’−メチレンビス(2,6−ジターシャリ−ブチルフェノール);4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−ターシャリ−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−ターシャリ−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ターシャリ−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)からなる群より選択される少なくとも一種である前記複合型制振材料。
9)前記フェノール系化合物が、2,2’−メチレンビス(4−メチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−エチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−プロピルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−クロロフェノール);4,4’−メチレンビス(2,5−ジメチルフェノール);4,4’−メチレンビス(2−メチル−5−エチルフェノール);4,4’−メチレンビス(4−メチル−5−プロピルフェノール);2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−4−メチルフェノール;2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン;1,1’ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン;α,α’(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、およびポリビニルフェノールからなる群より選択される少なくとも一種の化合物であって、その含有量が前記有機高分子系制振層の全重量基準で5〜70%である前記複合型制振材料。
10)前記無機充填剤が、マイカ、炭酸カルシウム、タルク、カーボン、鉄粉および酸化チタンからなる群より選択される少なくとも一種の無機材料であって、その配合割合が、前記有機高分子系制振層の全重量基準で2〜70重量%である前記複合型制振材料。
11)前記有機充填剤が、ジベンジリデンソルビトール、テトラフルオロエチレン、スルフェンアミド類、ベンゾチアゾール類、グアニジン類、セルロース粉末等から選択される少なくとも一種の有機材料であって、その配合割合が前記有機高分子系制振層の全重量基準で1〜30重量%である前記複合型制振材料。
12)前記有機高分子系制振層の20℃の条件下における損失係数が0.05以上である前記複合型制振材料。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る複合型制振材料は、少なくとも二枚の制振合金板と該制振合金板の間に挟持された有機高分子系制振層との組合せからなる構成を有し、制振材料としての形状安定性を有し、その組合せの特異性により、減衰能として、各構成要素の減衰能を凌駕する相乗的な減衰能を発揮すると共に、下記の実施例等でも示すように、減衰能の振幅ひずみ依存性が小さく、振幅ひずみの大きい領域において顕著な減衰能を有すると共に、振幅ひずみの小さい領域における微小振動の抑制においても顕著な効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る複合型制振材料の各構成要素についてさらに具体的に説明する。
制振合金板状部材
本発明に係る複合型制振材料を構成する要素の一つは、制振合金からなる板状成形体である。
【0020】
制振合金としては、振動エネルギーの吸収機構により、複合型、転位型、強磁性型、双晶型の存在することが知られているが、本発明に係る複合型制振材料を構成する制振合金板状部材としては、強磁性型と比較して振幅ひずみが大きい領域においても減衰能を発揮できる制振材料を提供可能な点で、双晶型制振合金が好適である。
【0021】
双晶型制振合金とは、マルテンサイト変態を惹起させてその生成相である双晶の運動により振動を吸収する機構を有する合金であるとされている。かかる双晶型制振合金としては、例えば、Mn−Cu合金、Cu−Mn−Al合金、Mn−Cu−Al合金、Mn−Cu−Ni合金、Mn−Cu−Fe合金、Mn−Cu−Co合金、Mn−Cu−Ni−Al合金、Mn−Cu−Ni−Fe合金、Cu−Mn−Al−Sn合金、Mn−Cu−Al−Fe−Ni合金、Cu−Al−Ni合金、Ti−Ni合金、Al−Zn合金、Cu−Zn−Al合金、Al−Ni−Cu合金、Fe−Mn−Si合金、Fe−Cr−Ni−Mn−Si−Co合金、Cu−Si合金、Ni−Al合金等を挙げることができる。
【0022】
これらのなかでも、Mn基制振合金が好ましく、Mnを主成分として、Cu,Ni,Fe,Co,Zn,Al等からなる群より選択される金属を含有する制振合金が好適である。具体的には、Mn−Cu合金、Mn−Cu−Al合金、Mn−Cu−Ni合金、Mn−Cu−Fe合金、Mn−Cu−Co合金、Mn−Cu−Ni−Fe合金、Mn−Cu−Al−Ni合金、Mn−Cu−Al−Fe−Ni合金等を挙げることができる。特に、本発明に係る複合型制振材料の制振合金板状部材には、Mn−Cu−Ni−Fe合金が好適であり、例えば特許第3807328号公報に記載されたMn−Cu−Ni−Fe合金を使用することができる。
【0023】
かかるMn基型制振合金の成分は、Mnをベースとし、Cu;16.9〜27.7質量%、Ni;2.1〜8.2質量%、Fe;1.0〜2.9質量%、C;0.05質量%以下に制御され、その他がMnおよび不可避的不純物からなるものである。
【0024】
かかる制振合金において、Cu、NiおよびFeの含有量がそれぞれ前記の範囲であるので、双晶組成の生成が促進され、また、応力負荷時における双晶の運動の阻害要因が低減されているので、所要の制振特性が得られ、本発明に係る複合型制振材料の構成要素として用いられる有機高分子系制振層との組合せによって振幅ひずみの小さい領域においても顕著な減衰能を発揮する点で有用である。
【0025】
前記の如き、成分組成を有する制振合金製品を実現した市販品としては、後述の実施例でも示すように大同特殊鋼社製の制振合金「STAR SILENT/スターサイレント」(登録商標)が提供されている。
【0026】
本発明に係る複合型制振材料を構成する要素としての制振合金板状部材としては、温度20℃、周波数100〜3000Hzの環境下において0.01以上の損失係数を有するものを採用することができる。
【0027】
有機高分子系制振層
本発明に係る複合型制振材料を構成する要素の有機高分子系制振層は、高分子マトリックス材料と該高分子マトリックス材料中に含有してなる少なくとも一種のフェノール系化合物および付加成分としての無機充填剤および/または有機充填剤(以下、「フェノール系化合物、無機充填剤および有機充填剤」を「制振付与剤」ということがある。)とからなるものである。
【0028】
前記高分子マトリックス材料としては、かかる制振付与剤のマトリックスとして機能する有機高分子化合物であり、所定の分子量、融点を有し、かつ極性側鎖を有するものであれば、特に限定されるものではなく、具体的には、アクリレート−メタクリレート樹脂、エチレン−メタクリレート樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、アクリルゴム、ブチルゴム、クロロプレン、SBR(スチレンブタジエンラバー)、エチレン−プロピレンゴム、ポリ乳酸樹脂をはじめ、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、エチレン−塩化ビニル樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、塩化ビニル樹脂、塩素化ポリブチレン等の塩素化ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、メチロール樹脂、ポリサクシネート樹脂およびポリイソブチレンテレフタレート樹脂等の有機高分子化合物を挙げることができる。これらは、制振材料の各種用途に応じて任意に選択して使用することができるが、フェノール系化合物との相互作用が可能な極性基を有するものであり、環境保全にとっても有効なものが好適である。本発明に係る複合型制振材料にとって、特に好ましい有機高分子マトリックス材料としては、前記の如き各種樹脂等のうちでも、アクリレート−メチルメタクリレート樹脂、アクリルゴム、ポリ乳酸樹脂、アクリルゴムとポリ乳酸樹脂との混合物、またはアクリレート−メタクリレート樹脂とポリ乳酸樹脂との混合物である。
【0029】
アクリルゴムは、アクリル酸エステルの重合、またはそれを主体とする共重合により得られるゴム状弾性体である。アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル等が、また、共重合させる単量体にはメチルビニルケトン、アクリル酸、アクリロニトリル、ブタジエン、メチルメタクリレート等が用いられる。
【0030】
アクリレート−メタクリレート樹脂は、
【化2】

の繰り返し単位を有するアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルの重合体からなるものである。また、他の単量体、例えばスチレン等との共重合体も用いることができる。
【0031】
また、ポリ乳酸樹脂は、通常、乳酸の脱水重縮合により得られる乳酸オリゴマーをさらに解重合により得られるラクチドを開環重合に供することにより製造され、各種の方法により成形加工されるが、生分解性に優れていることから環境保全の対応にとって有用である。
【0032】
かかるポリ乳酸樹脂としては、重量平均分子量20万〜100万、好ましくは30万〜80万のものを採用することができ、融点150℃以上のものが好適である。また、ポリ乳酸樹脂は、セルロース、澱粉等の多糖類、その他の添加物を10〜50重量%含有させたものが成形性の観点から特に好ましい。
【0033】
次に、前記有機高分子系制振層を構成する制振付与剤としてのフェノール系化合物は、次の一般式(I);
【化3】

で表わされる。
【0034】
Aは、硫黄原子および/または酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の鎖状炭化水素基、芳香族基を有する該鎖状炭化水素基または炭素数5〜8の脂環式炭化水素基であり、
1およびR2は、それぞれ炭素数1〜10の炭化水素基、アルキロール基またはアルデヒド基であり、互いに同一でも異なるものでもよく、pおよびqは、それぞれ0〜3の整数であり、互いに同一でも異なるものでもよく、
Xはハロゲン原子であり、sおよびtはそれぞれ0または1であり、互いに同一でも異なるものでもよく、
xおよびyは、それぞれ1〜3の整数であり、互いに同一でも異なるものでもよい。
【0035】
前記一般式(I)は、少なくとも2個のフェノール環を有することを示したものであり、かつ、フェノール環を前記Aで示す結合基により連結してなる高分子化合物をも包含したものであることを開示したものである。
【0036】
式中、Aは、硫黄原子および/または酸素原子を含んでいてもよい鎖状炭化水素基である。鎖状炭化水素基は、二価炭化水素基であり、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基等を挙げることができる。また、これらの炭化水素基に芳香族基を結合したもの、例えばフェニル基を結合したメチレン基、
【0037】
【化4】

前記炭化水素基にヒドロキシル基を有する芳香族基を結合したもの、例えば、フェノール基を有するメチレン基
【0038】
【化5】

を挙げることができる。さらに前記Aとしては、炭素数5〜8の脂環式炭化水素基、例えば、シクロヘキシル基
【0039】
【化6】


も挙げることができる。
【0040】
かかる一般式(I)で表わされる化合物として、具体的には、例えば、4,4'−チオビス(3−メチル−6-tert-ブチルフェノール);4,4'−チオビス(2−メチル−6-tert-ブチルフェノール);4,4'−メチレンビス(2,6−ジ-tert-ブチルフェノール);4,4'−エチレンビス(2,6−ジ-tert-ブチルフェノール);4,4'−プロピリデンビス(2−メチル−6-tert-ブチルフェノール);4,4'−ビス(2,6−ジ-tert-ブチルフェノール);4,4'−ビス(2−メチル−6-tert-ブチルフェノール);2,2'−メチレンビス(4−エチル−6-tert-ブチルフェノール);2,2'−メチレンビス(4−メチル−6-tert-ブチルフェノール);4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6-tert-ブチルフェノール);4,4'−イソプロピリデンビス(2,6−ジ-tert-ブチルフェノール);2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール);2,2'−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール);2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)等を例示することができる。
【0041】
さらに好ましい化合物は、立体障害の少ないレスヒンダードタイプのフェノール系化合物であり、前記一般式(I)において、Aは、硫黄原子および/または酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜3の鎖状炭化水素基、芳香族基を有する鎖状炭化水素基、または炭素数5〜8の脂環式炭化水素基である。また、R1およびR2はそれぞれ炭素数3以下の炭化水素基、アルキロール基またはアルデヒド基であり、具体的には炭化水素基として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基から選択され、アルキロール基として、メチロール基、エチロール基をさらにアルデヒド基としてホルミル基を挙げることができる。かかるR1およびR2は、互いに同一でもまたは異なるものでもよい。また、R1およびR2の芳香環への結合数を示すpおよびqは、それぞれ0〜3の整数であり、1または2が好ましい。かかるpおよびqは、互いに同一でもまたは異なるものでもよい。
【0042】
1およびR2の芳香族環への結合位置は、レスヒンダードタイプのフェノール系化合物を実現できれば、任意に決定されたものでよいが、ヒドロキシル基の両隣接位置を同時に占めないものが好ましい。
【0043】
すなわち、Aが、ヒドロキシル基に対して2位または4位に結合したものであり、R1およびR2の結合位置が、それぞれ、2位、4位または5位の少なくとも一つであり、互いに同一または異なる位置である。Aが当該位置に結合している場合が除かれる。
【0044】
かくして、レスヒンダードタイプフェノール系化合物が実現し、かかるフェノール系化合物として好適なものは、具体的には、
2,2’−メチレンビス(4−メチルフェノール);
2,2’−メチレンビス(4−エチルフェノール);
2,2’−メチレンビス(4−プロピルフェノール);
2,2’−メチレンビス(4−クロロフェノール);
4,4’−メチレンビス(2,5−ジメチルフェノール);
4,4’−メチレンビス(2−メチル−5−エチルフェノール);
4,4’−メチレンビス(4−メチル−5−プロピルフェノール);
2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−4−メチルフェ
ノール;2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン;
1,1’ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン;
α,α’(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン
であり、さらに好ましいレスヒンダードフェノール系化合物は、
2,2’−メチレンビス(4−メチルフェノール);
2,2’−メチレンビス(4−クロロフェノール);
2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン;
1,1’ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等
を挙げることができる。
かかるフェノール系化合物の配合量は、有機高分子系制振層の全重量基準で、5〜70重量%、好ましくは10〜60重量%、さらに好ましくは、15〜50重量%の範囲である。
【0045】
次に、無機充填剤としては、サポナイト、スメクタイト、モンモリロナイト、バーミキュライト、ソットライト、マイカ、ステンレス粉末、トルマリン、BaTiO3、PbTiZrO3 等のSiO2 、Al23 、MgO、Na2O 等を含む層状化合物、タルク、炭酸カルシウム、天然ゼオライト、合成ゼオライト、メソポーラスゼオライト、フレーク状シリカ等が有用である。カーボン系フィラーとしてはケッチェンブラックカーボン、フレーク状グラファイト等を挙げることができる。
【0046】
特に、好ましい無機充填剤としては、有機高分子マトリックスが酸性の場合、塩基性無機充填剤が好ましい。塩基性無機充填剤としては、例えば、TiO2、MgO、CaO、タルク等を挙げることができる。また、酸性無機充填剤としては層状ケイ酸塩粘土鉱物を使用することができる。層状ケイ酸塩粘土鉱物としては2:1型鉱物が好ましく、特に底面間隔、すなわち、単位構造の厚さ、層面に垂直な方向の周期が比較的大きいもの、具体的にはマイカのほか、スメクタイト、モンモクロナイト、サポナイト、バーミキュライト等またはこれらの混合物が有用である。
【0047】
また、有機充填剤としては、ジベンジリデンソルビトール、テトラフルオロポリエチレン、スルフェンアミド類、ベンゾチアゾール類、ベンゾトリアゾール類、グアニジン類、ゲルオールD、セルロース粉末、不織布、木屑、糖、紙、セルロース、FRP等を用いることができる。スルフェンアミド類としては、例えばN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N’−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドおよびN,N−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等のベンゾチアゾリルスルフェンアミド類を挙げることができる。特に好ましいベンゾチアゾリルスルフェンアミド類は、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドである。
【0048】
ベンゾチアゾール類としては、2−(N,N−ジエチルチオカルバモイルチオ)ベンゾチアゾール、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール等を例示することができる。
また、ベンゾトリアゾール類としては、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールなどを例示することができる。
さらに、グアニジン類としては、1,3−ジフェニルグアニジン、ジ−o−トリルグアニジン等の塩基性窒素を含有するもので例示することができる。
【0049】
無機充填剤および有機充填剤は、微粒状体または繊維状で用いることが好ましく、特に40〜100μmのものが減衰能に優れた複合型制振材料の有機高分子系制振層の成分として有用である。また、無機充填剤の配合量は、有機高分子系制振層全重量基準で2〜70重量%、好ましくは20〜65重量%である。また、有機充填剤の配合量は、1〜30重量%、好ましくは2〜20重量%である。
【0050】
本発明に係る複合型制振材料の構成要素としての有機高分子系制振層は、前記の如き構成からなるが温度20℃の環境下において、0.05以上の損失係数を有するものを採用することができる。
【0051】
複合型制振材料
本発明に係る複合型制振材料は、前記の如き少なくとも二枚の制振合金板状部材とその間に配置された有機高分子系制振層とから構成される拘束型制振材料であることが好ましい。
【0052】
本発明に係る複合型制振材料の基本的な構造は、二枚の制振合金板状部材と、該制振合金板状部材の間に設けられた有機高分子制振層との組合せからなる積層体であるが、これを1ユニットとし、さらに、かかる1ユニットの複合型制振材料の一方または両方の前記制振合金板状部材と新たに供給される制振合金板状部材とにより、有機高分子制振層を挟持することにより2ユニット以上の多層構造の複合型制振材料が提供される。
【0053】
また、前記有機高分子系制振層の形態としては、少なくとも一種の有機高分子マトリックス材料と、該有機高分子マトリックス材料に配合された少なくとも一種の制振付与剤とからなるシート状成形体が挙げられるが、他の形態として、互いに異なる高分子マトリックス材料および互いに異なる制振付与剤を含有するシート状成形体の二層以上からなる積層体を挙げることができる。
【0054】
また、塗膜形成体についても、少なくとも一種の有機高分子マトリックス材料および少なくとも一種の制振付与剤を含有する塗料を、制振合金の接着面に塗工することにより形成されるが、互いに異なる有機高分子マトリックス材料および互いに異なる制振付与剤を含有する複数の塗料を塗膜形成体が多層構造となるように順次塗工してもよい。
【0055】
かかる複合型制振材料の形態としては、制振材料の用途により種々のものを選択し、提供することができ、限定されるものではないが、例えば、図5a〜図9bに示す成形体の形態のものを例示することができる。
【0056】
図5aは、本発明に係る複合型制振材料の平面が円形または角形の成形体を例示した斜視図である。
図5bは、図5aで示す複合型制振材料の成形体のa−a’の断面図であり、円形または角形の制振合金板70と制振合金板71との間に有機高分子系制振層として制振シート72を狭持し、制振シート72と制振合金板70との間に接着剤層73を、また、制振合金板71との間に接着剤層74をそれぞれ設けてなる複合型制振材料を例示したものである。
【0057】
図6aは、図5aで示す複合型制振材料の成形体にピン85を挿入して積層部材のズレを防止した複合型制振材料の成形体の斜視図であり、図6bはa−a’の断面図である。
ピン85は、制振合金板80、接着剤層83、制振シート82、接着剤層84および制振合金板81に貫通させ固定したものである。
【0058】
図7は、制振合金板91に有機高分子マトリックス材料のエマルジョンに制振付与剤を配合した塗布液を塗工して形成した制振塗膜92と制振合金板90との間に接着剤層93を設けた複合型制振材料を例示したものである。
図7で示す複合型制振材料の成形体は、図5a、図6aの複合型制振材料においては、中間層として制振シートを用いているのに対し、制振塗膜を用いた点に相違があり、本発明の他の一実施態様を示すものとして例示したものである。
【0059】
図8aは、制振合金板100と、制振合金板101の間に接着剤層103を設け、比較的厚い制振シート102を封入した複合型制振材料の成形体の断面図であり、耐荷重性を向上させた点に特異性がある。
図8aに示すように、制振合金板100は、制振シート102の形状に密着するように成形加工したものである。
図8bは、図8aで示す複合型制振材料の成形体にピン104および105を挿入し、積層部材のズレを防止した制振材料の成形体を示す。
【0060】
図9aは、制振合金板111と制振合金板112との間に制振シート114を積層した複合型制振材料の成形体の斜視図である。
図9bは、図9aで示す複合型制振材料成形体のa−a’断面図であり、制振合金板111を下方に円錐形の突型とし、これに嵌合可能なように下方の制振合金板112を凹型に成形したものである。制振シート114の断面形状が屈曲したものであり、積層部材のズレ防止をさらに強固にしたものである。
【0061】
本発明に係る複合型制振材料は、目的および用途に応じて前記の如き各種の形態をとることができ、任意に設計することができるので、構成部材のサイズ等については、適宜選択すればよいが、本発明に係る複合型制振材料を構成する制振合金板状部材の厚さは、例えば、0.5〜30mm、好ましくは1〜20mm、さらに好ましくは1〜10mmを例示することができる。
また、本発明に係る複合型制振材料の構成要素としての有機高分子系制振層の厚さは、0.2〜4mm、好ましくは、0.5〜3mmであり、1ユニットの複合型制振材料としては制振材料全体の厚さが、1〜65mm、好ましくは1〜5mmのものである。
【0062】
本発明に係る複合型制振材料の製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、有機高分子系制振層を構成する制振シートを用い、その両面に接着剤を塗布し、2枚の制振合金板を圧着する方法、有機高分子マトリックス材料として接着性能の高い樹脂を用いて製造された制振シートを2枚の制振合金板で圧着する方法、また、制振シートを構成する有機高分子マトリックス材料を直接制振合金板上に溶融押出してシート化する方法、制振塗料を制振合金板の内側に塗工し得られた塗膜に制振合金板を熱圧着する方法等を挙げることができる。
【0063】
前記の接着剤としては、金属と有機高分子化合物の接着に通常用いられる接着剤、例えば、シリル化ウレタン樹脂等を用いることができる。
また、前記制振塗料としては、有機高分子マトリックス材料のエマルジョンに制振付与剤、無機および有機充填剤を配合して調製した塗布液を用いることができる。かかる塗布液として具体的には、例えば、特開2003−3125号公報に記載された塗料成分を配合してなる制振塗料組成物を使用することができる。
【0064】
本発明によれば、前記の如き構成から、振幅ひずみの小さい領域において減衰能を発揮し、かつ、ひずみの大きい領域まで減衰能を発揮することができる制振成形体を提供することができる。
従って、その用途は、建築、橋梁、家電、産業機器、自動車、事務機器、住宅設備、電気製品、スポーツ用品等の多部門にわたる。例えば、産業機器関係では、振動体本体として、ブロア、ファン等の部品または振動体のカバーが挙げられ、橋梁関係では遮音板、建築関係では、間仕切りパネル等、家電関係では、音響/映像機器、シャシーケース、スピーカーまわり部品のほか、医療機器、精密測定機器、センサー輸送機器等に用いることができる。特に、微小振動を抑制することが不可欠な分野に広範に用いることができる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明について実施例および比較例によりさらに具体的に説明する。もっとも本発明は、実施例等により何ら限定されるものではない。
なお、実施例および比較例において使用した各材料を次に示す。また、減衰能の測定は下記の方法に依った。
【0066】
1.複合型制振材料の調製用材料
(1)制振合金板:
複合型制振材料の制振合金板状部材として、代表的な化学成分が、Mnをベースとし、Cu:22.4質量%(20.0原子%)、Ni:5.2質量%(5.0原子%)、Fe:2.0質量%(2.0原子%)およびMn:残部を含有するMn基制振合金板(厚さ1mm×幅10mm×長さ200mm)(大同特殊鋼社製制振合金「STAR SILENT/スターサイレント」)を使用した。
(2)普通鋼板:
厚さ1mm×幅10mm×長さ200mmの市販品を使用した。
(3)制振シート:
有機高分子系制振層としてアクリルエラストマーとレスヒンダードタイプのフェノール系化合物(2,2’−メチレンビス(4−メチルフェノール)と2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパンとの混合物)20重量%、マイカ20重量%の各粒状物を常温以上の温度で混練した後、混合物を150℃、200kgf/cm2の条件下でプレスし成形したシート状成形物から切り出した厚さ0.5mm×幅10mm×長さ200mmの制振シート(タイテックスジャパン社製「PIEZON」)を使用した。
(4)塩化ビニルシート:
市販の軟質塩化ビニルシート(比重1.3)(厚さ0.5mm×幅10mm×長さ200mm)を使用した。
【0067】
2.減衰能の測定方法
損失係数(η)は、JIS G0602に準じた中央加振法、ダイレクト梁により周波数100〜3000Hzにおいて20℃で測定した。
内部摩擦(Q-1)は、JIS G0602に準拠した中央加振法により減衰特性を測定した。減衰特性の測定は次のようにして行なった。
まず、試験片の1次共振波数を測定し、その周波数において振幅を様々に変化させてバースト正弦波を加振した場合の減衰振動波形を測定した。次に、得られた減衰波形をフーリエ変換し、周波数分布を求め、半値幅法により、ピーク高さが半分となる範囲Δfとピーク周波foとにより内部摩擦(Q-1)=Δf/(1.732fo)を求めた。測定は室温(25℃)で行なった。
【0068】
実施例1(制振シート/制振合金板拘束型制振材料)
制振合金板状部材として、前記の制振合金板を2枚用意した。この2枚の制振合金板の各々の片面に接着剤として、シリル化ウレタン樹脂を塗布した後、接着剤の塗布面を内側にして有機高分子系制振層として前記制振シートを狭持し、圧着することにより、表1に示すように、制振合金板状部材の間に有機高分子系制振層が配置された全厚2.7mm、比重5.56g/cm、面密度15.00kg/mの複合型制振材料を調製した。これを損失係数の測定に供したところ、周波数との関係において図1に示す結果が得られた。同図によれば、損失係数は、周波数100〜1000Hzの領域では0.3の高水準にあり、かつ測定周波数の領域では周波数に対する依存性は小さいことが示されている。
振幅ひずみに対する内部摩擦の測定結果を図2に、さらに、振幅ひずみおよび周波数と内部摩擦との関係を図3に示す。
図2によれば、本発明に係る複合型制振材料は、実施例1のグラフで示すように振幅ひずみが小さい領域においてもその影響をほとんど受けず、高水準の内部摩擦を有することが示されている。
また、図3によれば、本発明に係る複合型制振材料は、周波数の低い領域では内部摩擦の等高線で示されるように振幅ひずみが−7.0(log(ε))の小さい領域においても、−3.5(log(ε))の大きい領域における減衰能と同程度の減衰能を発揮していることが示されている。
【0069】
比較例1(塩化ビニルシート/制振合金板拘束型制振材料)
有機高分子系制振層として、制振シートの代わりに前記塩化ビニルシートを用いたこと以外、すべて実施例1と同一条件および同一操作により2枚の前記制振合金板の間に塩化ビニルシートを狭持させ、表1に示すように、全厚2.7mm、比重5.60g/cm3 、面密度15.13kg/m2 の複合型制振材料を調製した。
得られた複合型制振材料の損失係数の測定の結果を図1に示す。図1によれば、損失係数は、周波数100〜300Hzの領域で0.2を維持しているが、周波数を増加させると急速に低下し、3000Hzでは約0.06であることが示されている。
また、振幅ひずみに対する内部摩擦を測定した結果を図2に、さらに、振幅ひずみおよび周波数と内部摩擦との関係を図4に示す。
図2によれば、内部摩擦は、比較例1のグラフで示すように実施例1に比較して減衰能が低水準にあるばかりでなく、図4によれば、振幅ひずみの小さい領域においては、周波数の増加に伴ない激減することが示されている。
【0070】
比較例2(制振シート/制振合金板非拘束型制振材料)
前記制振合金板の片面に前記制振シートを両面テープを用いて貼り合わせて非拘束型制振材料を調製した。制振材料の全厚、比重および面密度を表1に示す。また、損失係数を図1に、内部摩擦を図2に示す。
【0071】
比較例3(制振シート/普通鋼板拘束型制振材料)
制振合金板の代わりに普通鋼板を用いたこと以外すべて実施例1と同様にして拘束型制振材料を調製した。
表1に全厚、比重、面密度を示す。また、損失係数を図1に、振幅ひずみに対する内部摩擦を図2にそれぞれ示す。
【0072】
比較例4(制振合金板)
前記制振合金板を1枚用意した。全厚、比重および面密度を表1に示す。損失係数を図1に、振幅ひずみに対する内部摩擦を図2に示す。
図2では、振幅ひずみに対する内部摩擦が、制振シート/制振合金板非拘束型制振材料と同一の挙動を示しており、かつ、振幅ひずみの小さい領域では大きい領域に比較して低いことが示されている。
【0073】
以上の実施例および比較例による測定結果から、本発明に係る複合型制振材料が次の特異性を有することが判明した。
1)制振シートおよび塩化ビニルシートをそれぞれ二枚の制振合金板で拘束した
複合型制振材料は、表1に示すように、全厚が同等であり、比重、面密度が、
ほぼ同等であったが、図2に示すように、制振シートを用いた拘束型制振材
料の内部摩擦(減衰能)が塩化ビニルシートを用いた拘束型制振材料に比較
して振幅ひずみの広い領域で大きな値を示した。かかる点を考慮すると制振
効果に対する制振シートの寄与するところ大であることが分かる。
【0074】
2)制振シートを二枚の制振合金で拘束した拘束型制振材料の損失係数は、図1
で示すように、制振シートを一枚の制振合金の片面に接着した非拘束型制振
材料および制振合金板単体のそれぞれの損失係数よりも著しく大きく、相乗
的効果を奏していることは、本発明に係る複合型制振材料を構成する有機高
分子系制振層および拘束型構造によるところが大きく、かつ、各構成要素の
組合せが特異性を有することによるものと言える。
さらに、制振シートを制振合金板で拘束した複合型制振材料は、制振シー
トを普通鋼板で拘束したものと比較すると低振幅ひずみ域から高振幅ひずみ
域まで内部摩擦が大きく、本発明に係る複合型制振材料を構成する制振合金
板と有機高分子系制振層および拘束型構造によるところが大きいと言える。
【0075】
3)制振シートを制振合金板で拘束した複合型制振材料は図3で示すように、内
部摩擦のレベルは約0.05から0.5 の間にある。また内部摩擦の振幅ひずみ依
存性が小さく、微小振動域においても内部摩擦は低下せず、顕著な効果を発
揮することが観察された。
塩化ビニルシートを前記制振合金板で拘束した複合型制振材料は、図4で
示すように、内部摩擦レベルは約0.05から0.2 の間にあるが、図3と比較す
ると制振シートを前記制振合金板で拘束した複合型制振材料には及ばないこ
とが観察された。
【0076】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に係る複合型制振材料の減衰能(損失係数)を他の制振材料(比較例1〜4)と比較して表わしたグラフである。
【図2】本発明に係る複合型制振材料の減衰能(内部摩擦)の振幅ひずみとの関係を他の制振材料(比較例1〜4)と比較して表したグラフである。
【図3】本発明に係る複合型制振材料の減衰能(内部摩擦)の振幅ひずみと周波数依存性を示すグラフである。
【図4】比較例1の複合型制振材料の減衰能(内部摩擦)の振幅ひずみと周波数依存性を示すグラフである。
【図5a】本発明に係る複合型制振材料の成形体の一実施態様を示す斜視図である。
【図5b】図5aの複合型制振材料の成形体のa−a’断面図である。
【図6a】本発明に係る複合型制振材料の成形体の他の実施態様を示す斜視図である。
【図6b】図6aの複合型制振材料の成形体のa−a’断面図である。
【図7】本発明に係る複合型制振材料の成形体の他の実施態様を示す断面図である。
【図8a】本発明に係る複合型制振材料の成形体の他の実施態様を示す断面図である。
【図8b】本発明に係る複合型制振材料の成形体の他の実施態様を示す断面図である。
【図9a】本発明に係る複合型制振材料の成形体の他の実施態様を示す斜視図である。
【図9b】図9aの複合型制振材料の成形体のa−a’断面図である。
【符号の説明】
【0078】
70,71 制振合金板
72 制振シート
73,74 接着剤層
80,81 制振合金板
82 制振シート
83,84 接着剤層
85,86 ピン
90,91 制振合金板
92 塗膜
93 接着剤層
100,101 制振合金板
102 制振シート
103 接着剤層
104,105 ピン
111,112 制振合金板
114 制振シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二枚の制振合金板状部材と、
該制振合金板状部材の間に配置された有機高分子系制振層と
からなる複合型制振材料であって、
前記制振合金板状部材が双晶型制振合金からなり、
前記有機高分子系制振層が、有機高分子マトリックス材料と、該有機高分子マトリックス材料中に含有してなる少なくとも一種のフェノール系化合物とからなることを特徴とする複合型制振材料。
【請求項2】
前記双晶型制振合金が、Mn基制振合金である請求項1に記載の複合型制振材料。
【請求項3】
前記有機高分子マトリックス材料に、さらに付加される成分が、無機充填剤および/または有機充填剤である請求項1に記載の複合型制振材料。
【請求項4】
前記有機高分子マトリックス材料が、アクリレート−メタクリレート樹脂、エチレン−メタクリレート樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、アクリルゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、塩素化ポリオレフィン、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、メチロール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリサクシネート樹脂およびポリブチレンテレフタレート樹脂からなる群より選択された少なくとも一種の樹脂である請求項1に記載の複合型制振材料。
【請求項5】
前記有機高分子系制振層が、シート状成形体または前記制振合金板状部材の内面に塗工された塗膜成形体である請求項1に記載の複合型制振材料。

【図5a】
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【図5b】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9a】
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【図9b】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−115118(P2009−115118A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−285483(P2007−285483)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(000244660)木曽興業株式会社 (7)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】