説明

複合材でつくられるノズルまたは末広ノズル要素の製造方法

製造すべきノズルまたは末広ノズル要素の表面に求められる幾何構造を複製する表面を有する型(40)に繊維テクスチャの複数のパネルを合わせることによって、および相互接触する縁部で複数のパネルを連結することによって繊維プリフォーム(50)を得て、樹脂を含む固化成形組成物で含浸された繊維プリフォームに行われる形成操作によって固化成形された繊維強化材を形成するにあたり、型(40)と含浸された繊維プリフォームに当てたシェル(52、54)との間で形成操作を行い、少なくとも35%の繊維体積分率を有し、少なくとも軸方向寸法のほとんどにわたって多くとも5mmの厚さを有する固化成形された繊維強化材を得る。樹脂を熱分解させた後に気相中での化学浸透によって固化成形された繊維強化材の緻密化を継続して、緻密化の後に、製造すべきノズルまたは末広ノズル要素の形状および壁厚を実際に有する部品を得るようにする。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
発明の背景
本発明はマトリックスで緻密化された繊維強化材を有する複合材料の単一部品としてのノズルまたはノズル末広部をつくることに関する。
【0002】
本発明の適用分野はより詳細にはロケットエンジンまたは航空機エンジン用のノズルの分野である。
【0003】
宇宙または航空の分野において使用される部品に、耐熱構造複合材料、すなわちそれらを構造要素を構成するのに好適にする機械的特性を有し、さらにこれらの特性を高温において保持する能力を有する複合材料を使用することは周知である。このような耐熱構造材料は特に炭素/炭素(C/C)複合材料(炭素繊維強化材および炭素マトリックス);およびセラミックマトリックス複合材料(CMC)、たとえばC/SiC(炭素繊維強化材および炭化珪素マトリックス)、C/C−SiC(炭素繊維強化材ならびに炭素および炭化珪素の混合マトリックス)、または実際にSiC/SiCである。
【0004】
耐熱構造複合材料用の繊維強化材は、製造すべき部品の形状に近い形状を有する繊維プリフォームを得るようにフィラメントをワインディングすることによってまたは型の上に複数の繊維プライを重ねることによって得ることができる。繊維プライは、特に、繊維をプライに対して横に動かすかかりの付いた針を使用する針縫いによって互いに接合することができ、それによってプライ間に接合を与えて層間剥離に対する抵抗、すなわちプライがお互いから離れることに対する抵抗を増加させる。
【0005】
炭素またはセラミックマトリックスによって繊維強化材を緻密化させることは液体技術を使用してまたは化学気相浸透(CVI)によって行うことができる。液体技術を使用する緻密化は、周知の方法で、炭素またはセラミックの前駆体樹脂を含有する液体組成物で繊維強化材を含浸させた後、樹脂を重合および熱分解させて炭素またはセラミックの残留物を得ることを含み、含浸、重合、および熱分解の複数の連続サイクルを行うことができる。CVI緻密化は周知の方法で繊維強化材を閉鎖容器内に設置することによっておよび反応性ガスをこの閉鎖容器の中に入れることによって行われ、特に、圧力および温度の定められた条件下で、前記ガスが繊維強化材中へ拡散して分解するガスの成分の1種以上によってまたは反応するその成分の1種以上によってマトリックス材料を堆積させるのに役立つ。特定の形状の、特に複雑な形状の部品の場合、液体技術を使用する固化成形の第1の工程を適切な工具で行い、繊維強化材を凝固させて求められる形状にし、たとえばCVIによって工具を使用することなく緻密化を継続することがある。液体技術を使用する固化成形とCVIによる緻密化とを関連付けることは特に文献EP-A-0633233に記載されている。
【0006】
耐熱構造複合材料からノズル末広部を製造する提案はすでになされている。
【0007】
たとえば、文献US-A-6817184は炭素繊維ヤーンのフィラメントをワィンディングして付形することによって、繊維強化材と連続する一体的なフランジ部分を得るようにする、薄肉のC/SiC材料の末広部を作製する方法を開示している。局所的に厚みを増加させるために炭素繊維挿入物が挿入されることがある。この文献には、重ねた複数のファブリック層を型の上に置き、ファブリック層を炭素前駆体樹脂で含浸させ、樹脂を熱分解した後に、溶融シリコンで浸透を行ってC/SiC複合材を得ることにある従来技術が言及されている。
【0008】
出願人によって使用されるもう1つの既知のプロセスは、複数の繊維プライを型の上に重ねて針縫いすることによって繊維強化材を形成し、CVIによって得られるマトリックスによって繊維強化材を緻密化させることを有する。上で述べたように、互いに接合されていない重ねた層からつくり上げられた繊維強化材と比較すると、針縫いは層間剥離に対する抵抗、したがってより優れた機械強度を提供する。実質的に均一な特性を有する針縫いされた強化材を得るには、比較的厚い針縫いされたプリフォームをつくることがやはり必要であり、その中心部のみが有用に使用可能である。たとえば、3ミリメートル(mm)の有用な強化材の厚さを得るためには、20mmの全体の厚さを有する針縫いされた繊維プリフォームをつくることが必要である。したがって繊維強化材をつくることは長期にわたり費用がかかり、様々な処理を必要とし、材料のより多くの損失をもたらす。加えて、針縫いされた繊維強化材における繊維体積百分率は比較的低く、それによって、得られるノズルまたはノズル末広部の機械的特性を制限する。
【0009】
本発明の目的および概要
本発明の目的は、上述の欠点を避けながら、非常に優れた機械的強度を有する複合材料から薄肉のノズルまたはノズル末広部をつくり出すことを可能にする方法を提案することにある。
【0010】
この目的は以下を含む方法によって達成される:
・三次元製織によって得られる繊維テクスチャの複数のパネルを得て;
・製造すべきノズルまたはノズル末広部の内側または外側表面に求められる形状を複製する表面を有する型に前記複数のパネルを合わせることによって、および互いに接触する縁部を介して複数のパネルをともに結合することによって繊維プリフォームを形成し;
・樹脂を含む固化成形組成物で含浸された前記繊維プリフォームを付形することによって固化成形された繊維強化材を形成するにあたり、前記型と前記含浸された繊維プリフォームに対して当てたジャケットとの間で付形を行い、少なくとも35%の繊維体積百分率を有し、少なくとも軸方向寸法の主要な部分にわたって繊維テクスチャパネルの単一層によって形成された5mm以下の厚さを有する固化成形された繊維強化材を得て;
・樹脂を熱分解させた後に化学気相浸透によって前記固化成形された繊維強化材の緻密化を継続して、緻密化の後に、製造すべき前記ノズルまたはノズル末広部の形状および壁厚を実際に有する部品を得るようにする。
【0011】
本発明の方法はそれが以下のことを同時に可能にする点で注目すべきである:
・典型的には壁が軸方向寸法の主要な部分にわたって約5mm以下の厚さ、好ましくは3mm以下もしくはさらに2mm未満の厚さを示し、たとえば2mmないし1mm、またはさらにそれ未満の範囲内にあり、一方で比較的大きな寸法、たとえば2000mmを超えることがある軸方向寸法および3000mmを超えることがある内側出口径を有する、非常に軽量な薄肉のノズルまたはノズル末広部を直接得ること;
・「略ネット形状」のノズルまたはノズル末広部、すなわち最終的な完成形状に非常に近い形状を有し、内側または外側の主面および有利にはさらに他の主面の少なくとも大部分がこれら表面を仕上げ部品段階においてまたはさらに繊維強化材段階において機械加工する必要なしに求められる形状を示すものを直接得ること;求められる空気力学的外形を直接得ることがこのように可能であり、最終的な機械加工を長軸端部に制限すること、特にそれをインターフェースおよび接続部分を提供するための機能性機械加工に制限することが可能である;および
・非常に優れた機械的特性を有するノズルまたはノズル末広部を、三次元(3D)製織によって得られる繊維テクスチャ、すなわち、製織することによって層間剥離のリスクを2Dファブリックまたはシートの形態で重ね合わされている2次元(2D)プライと比較して減少させて互いに接合されている複数のヤーン層を有する繊維テクスチャからつくられるパネルを使用することによって、および比較的高い繊維含流量を有することによって得ること。
【0012】
加えて、緻密化は、固化成形されることによって部分的に緻密化されており、製造すべきノズルまたはノズル末広部の壁の厚さに対応する制限された厚さの繊維強化材で行われる。このように薄い繊維強化材を緻密化することは小さなまたは非常に小さなその厚さにわたる緻密化勾配で達成することができる。
【0013】
好ましくは、繊維プリフォームを付形して、少なくともその軸方向端部において一体化された補強材部分を示す繊維強化材を得る。補強材部分は、求められる形状との追従を非常に薄い壁厚にも関わらず少なくとも繊維強化材の緻密化まで保証する。
【0014】
補強材部分の少なくとも1つは角度を形成する外形を与えることによってまたは繊維強化材の壁の厚さを繊維強化材の軸方向端部において局所的に増加させることによって得ることができる。
【0015】
パネルはそれらの隣接する縁部を重ねて前記型に合わせることができる。
【0016】
繊維プリフォームはプリフォームの軸の周囲の全周に延びる少なくとも1つの余分の厚さをもって形成されてもよく、余分の厚さは、たとえば、繊維テクスチャパネルの隣接する縁部を互いに重ねることによって得られる。
【0017】
繊維プリフォームを形成するために複数のパネルを縫い合わせによって互いに接合してもよい。
【0018】
有利には、繊維強化材を形成するために付形している間、含浸された繊維プリフォームを圧縮して高い繊維体積百分率を持つようにする。含浸された繊維プリフォームの圧縮の間に、ダイアフラム、たとえば折り目を形成せずに弾性変形可能なダイアフラムを有利に繊維プリフォームに当てる。これは型に当ったその表面から離れた表面に欠陥のない繊維強化材を得ることを可能にする。
【0019】
繊維テクスチャパネルを型に合わせるのに先立って固化成形組成物による含浸を繊維テクスチャに行ってもよい。
【0020】
好ましくは、繊維強化材を形成するために繊維プリフォームを付形するのに先立って、固化成形組成物の樹脂を予備硬化する。過剰なその後の圧縮を避けるために、繊維テクスチャの剛性をこのようにして高めてもよい。含浸された繊維テクスチャパネルを前記型に合わせる前に、樹脂の予備硬化を少なくとも部分的に行ってもよい。
【0021】
また本発明は複合材料からこのようにしてつくり出される薄肉および軽量のノズルおよびノズル末広部、特に3mm以下の厚さをそれらの軸方向寸法の主要な部分にわたって有するか、または1mmないし2mmの範囲内にある厚さのものであり、一方で比較的大きな寸法、たとえば少なくとも800mmの軸方向寸法および少なくとも1000mmの下流端部における内径を有することができるノズルまたはノズル末広部も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
本発明の実施形態を非限定的な表示としておよび添付の図面を参照して以下に説明する。
【図1】図1は本発明の方法によってつくることができるノズルの末広部の例の軸方向断面での半分図である。
【図2】図2は本発明の実施における方法の工程を示している。
【図3】図3は繊維プライの3D製織のためのインターロック組織の例を示している。
【図4】図4ないし図8は図1のノズル末広部を製作するための繊維プリフォームを本発明の実施においてつくる連続工程を示している。
【図5】図5は図4の平面V−Vにおける断片的な詳細断面図である。
【図6】図4ないし図8は図1のノズルの末広部を製作するための繊維プリフォームを本発明の実施において製造する連続工程を示している。
【図7】図4ないし図8は図1のノズルの末広部を製作するための繊維プリフォームを本発明の実施において製造する連続工程を示している。
【図8】図4ないし図8は図1のノズルの末広部を製作するための繊維プリフォームを本発明の実施において製造する連続工程を示している。
【図9】図9は、厚さが多様である繊維プリフォーム部分をつくることを目的とした繊維テクスチャパネルを型に合わせることを示した、拡大したスケールにおける軸方向断面での半分図である。
【図10】図10は、エラストマーダイアフラムを介在させて型とジャケットとの間の繊維プリフォームを圧縮することによって得られるノズル末広部のための繊維強化材を示した軸方向断面での半分図である。
【図11】図11は、本発明による方法によって得られるノズル末広部の最終機械加工前の写真である。
【図12】図12は本発明の方法によってつくることができる例のノズルの斜視図である。
【0023】
実施形態の詳細な説明
図1は本発明の方法によってつくることができるロケットエンジンノズルの末広部10の軸方向の半断面図である。
【0024】
ノズル末広部10は炭素繊維でつくられた繊維強化材であって同様に炭素でつくられたマトリックスで緻密化されている繊維強化材を有する炭素/炭素(C/C)複合材料でつくることができる。ノズル末広部は炭素繊維でつくられた繊維強化材であって炭素およびセラミックの混合マトリックスによって緻密化されている繊維強化材を有する炭素/炭素−セラミック複合材料で等しく適切につくることもでき、セラミックはマトリックスの外側の相を構成して酸化に対する保護を提供する。マトリックスのセラミック相は炭化珪素でつくられてもよいしまたはそれは、たとえば、Si−B−C三成分系によって形成されてもよい。またノズル末広部は炭素繊維でつくられた繊維強化材であってセラミックでつくられているまたはセラミックから本質的になるマトリックスによって緻密化されている繊維強化材を有する炭素/セラミック複合材料から製造することもできる。
【0025】
この例では、ノズル末広部10は軸対称であり、厳密な意味での末広部14によって下流に延びるファスナフランジを形成する上流部分12を有しており、用語「上流」および「下流」はここでは末広部を通るガスの流れ方向と関連して使用される。フランジ12は末広部10をロケットエンジン本体の燃焼室からの出口のところに固定することを可能にする。フランジ形成部分12では、上流端部から始まって、末広部10の壁厚が次第に減少していき、その後それは部分14において実質的に一定におよび最小値になる。加えて、フランジ形成部分12では上流端部から始まって、径が減少していき、その後に部分14において増加し、したがって末広部10の径はその部分12と14との間の接続部において最小値を通過する。
【0026】
方法(図2)の第1工程20は複合材料の繊維強化材のためのベーステクスチャを形成する繊維テクスチャをつくることにある。テクスチャは好ましくは炭素繊維の三次元(3D)製織によって得られる。インターロック織りによる多層製織を実施することが可能であり、図3にその平面を示している。ワープヤーンの各層はウェフトヤーン(断面で示している)の複数の層を互いに接続しており、あるワープカラムのヤーンの全ては組織の平面内を同じように動く。しかし、他のタイプの多層製織、特に多層平織または多層朱子織が使用されてもよい。様々な多層式3D製織技術が文献WO-A-2006/136755に記載されている。
【0027】
繊維テクスチャは有利に1400℃ないし2200℃の範囲内にある温度でのおよび減圧または不活性雰囲気下、たとえば窒素またはアルゴン下での熱処理(工程21)を受ける。この熱処理は精製効果を得る(繊維に含有されるN、O、Na、およびCa元素を除去する)のに特に役立ちおよびそれは優れた熱動力特性を複合材料について得ることを可能にする。
【0028】
繊維テクスチャは固化成形組成物で含浸される(工程22)。含浸は溶媒中の樹脂の浴に浸すだけで行われてもよい。以下に示すような樹脂の熱分解およびCVIによる最終的な緻密化の前に繊維強化材を固化成形できる固体残留物を乾燥および重合の後に残す樹脂が使用される。例として、フェノールまたはエポキシ樹脂より選択される炭素前駆体樹脂が使用される。含浸は好ましくは、プリフォームを付形するための圧縮、樹脂の硬化、および硬化した樹脂の熱分解という引き続く工程の後に、得られた固化成形された繊維強化材における樹脂の熱分解後の残留物体積百分率(すなわち樹脂の熱分解残留物が占める繊維強化材の見かけ体積の百分率)が5%ないし15%の範囲内にあるような量の樹脂を提供するように行われる。
【0029】
含浸された繊維テクスチャは液抜きされて、樹脂の溶媒を除去するためおよび場合によってはさらに樹脂を予備硬化させるためにストーブ内に設置される(工程23)。予備硬化は繊維テクスチャの剛性を高めるのに役立つが、それは続いての型合わせにとって十分な可撓性を残すように制限される。
【0030】
その後パネルが含浸された繊維テクスチャから切り出され(工程24)、パネルは型合わせされかつ組み立てられて繊維プリフォームを形成する。
【0031】
含浸はパネルが切り出された後に行われてもよく、この場合上述の熱処理はパネルを切り出す前または後に、および含浸に先立って行われてもよいことに注意されたい。
【0032】
含浸された繊維テクスチャパネルは製造すべきノズルの末広部内側表面に求められる外形を複製する外側表面の雄型40(図5ないし図8)で型合わせされ、それによって繊維プリフォームが製造される(工程25)。
【0033】
第1系列のパネル41は型40上に軸Aの周りに配置される。各パネル41は2つの径方向平面P0およびP2の間ならびに2つの子午面の間に及ぶ。平面P0は製造すべき繊維プリフォームのおよびノズル末広部の上流端部を含む平面に対応する。平面P2は製造すべき繊維プリフォームのほぼ中位部分にある。パネル41は、図5から分かるように、それらの隣接する縁部が余分の厚さ41を形成するように重なった状態で並置される。示した例では、4枚のパネル41がある。
【0034】
第2系列のパネル42はマンドレル40上にその軸Aの周りに配置される。パネル42の各々は2つの径方向平面P3およびP1の間ならびに2つの子午面に及び、平面P1は製造すべきプリフォームおよびノズル末広部の下流端部を含む平面に対応し、および平面P3は平面P2から少し上流側に位置している。パネル42は、パネル41と同様の方法で、それらの隣接する縁部が余分の厚さ42aを形成するように重なった状態で並置される。加えて、軸方向では、パネル41および42が、それらの隣接する縁部が平面P2およびP3の間に余分の厚さ42bを形成するように重なった状態で並置され、パネル42の縁部がパネル41の縁部に重なる。示した例では、パネル42は同様に数が4であるが、それらは、パネル41の隣接する縁部間の重なり領域がパネル42の隣接する縁部間の重なり領域に及ばないように、パネル41に対して角度がずれている。
【0035】
製造すべきプリフォームおよびノズル末広部の下流端部に対応するその端部として、型40は縁40aを形成するより大きな径の部分を提供する。パネル42のこのレベルに位置する端部は型40の部分40aに対して押し付けることによって外向きに湾曲し、それにより環状縁またはフランジ42を形成する。
【0036】
3D製織された繊維テクスチャの厚さは、ノズル末広部の繊維プリフォームが以下に示すように圧縮された後に最小の厚さを示す部分が繊維強化材の単一層を使用してつくられるように選択される。ノズル末広部のこの最小厚さの部分はその軸方向寸法の大部分に及んでいる。
【0037】
製造すべきノズル末広部の最も厚い部分に対応する上流部分では、複数の繊維テクスチャ層が重ねられる。
【0038】
たとえば、図7ないし図9に示すように、ある系列のパネル43がパネル42の上流部分を覆って配置され、パネル43は平面P0とノズル末広部の厚さの増加が上流に進むと始まる場所に対応する径方向平面P4との間に及ぶ。これらのパネルは4枚あり、各々が2つの余分の厚さ42aの間のスパンを占める。
【0039】
4枚のパネル44の追加の系列(図9)がパネル43の上に配置され、パネル44は平面P0と平面P4からの上流側に位置する径方向平面P5との間に及んでいる。パネル44は、縁部と縁部とを余分の厚さ42aに対して角度がずれている子午面に沿って並置させることによって互い接続される。
【0040】
4枚のパネル45のもう1つの追加の系列(図9)がパネル44の上に配置され、パネル45は平面P0と平面P4およびP5の間に位置する径方向平面P6との間に及ぶ。パネル45は、縁部と縁部とをパネル44間の接続部の子午面に対して角度がずれている子午面に沿って並置させることによって互いに接続される。
【0041】
最後に、4枚のパネル46の追加の系列(図8および図9)がパネル43、44、45の上に、パネル46が平面P0と平面P4およびP6の間に位置する中間平面P7との間に及び、それによりパネル46がパネル44および45の下流縁部を覆うような状態で配置される。パネル46は、縁部と縁部とがパネル43、44および45の接続子午面に対して角度がずれている子午面に沿って並置される。
【0042】
当然、追加パネルの系列の繊維プリフォームの上流部分における数および配置は、製造しようとする厚さの増加の外形に応じて選択する必要がある。
【0043】
一体となった繊維プリフォームを形成するために、繊維テクスチャパネルは、炭素スレッドを埋め込むか、または好ましくは炭素スレッドで縫い合わせることによって互いに接続される(工程26)。パネル41はそれらの互いに重なった縁部に沿って互いに縫い合わされ、パネル42も同様である。パネル41および42はそれらの互いに重なった縁部に沿って互いに縫い合わされて余分の厚さ42bを形成する。パネル43、44、45、および46は下にあるパネルに縫い合わせることによって取り付けられる。
【0044】
パネルの各系列において、パネルの数は当然4以外でもよく、1つの系列と他のものとで異なっていてもよく、著しい表面の凹凸が生じることなく型の形状にぴったり合うパネルの能力に特に依存する。同様に、繊維プリフォームの最小厚さを決めるパネルの系列の数は1でもよいし2以上でもよい。最小厚は、繊維プリフォームの形成および緻密化後に、5mm以下、有利には3mm以下の、または2mm未満、たとえば2mmないし1mmの範囲内にあるか、またはそれ未満の求められる膜厚を得るのを確実にするように選択される。
【0045】
当然、繊維テクスチャパネルを配置する他の方法が採用されてもよく、パネルは好ましくはそれらをそれら表面の実質的な変形なしに型合わせすることを可能にする最大の寸法を有するものが選択される。
【0046】
さらに、固化成形組成物を繊維プリフォームにそれを構築した後に塗布することによって繊維テクスチャを含浸することができる。
【0047】
繊維プリフォームが構築されたら、固化成形組成物の樹脂は予備硬化されてもよいし、またはその予備硬化は続いて圧縮されることができるのに十分な可撓性を残しながら繊維プリフォームの剛性を高めるように継続されてもよい(工程27)。このようにして続いての圧縮の最中に繊維プリフォームの偏平化を制限することができる。樹脂の任意の予備硬化はたとえば2段階で行われてもよく、一方は含浸された繊維テクスチャパネルを用いて型40に合わせるのに先立って行われ、および他方は繊維プリフォームが構築された後に行われ、またはそれはこれら2つの段階の一方のみで行われてもよい。
【0048】
繊維プリフォームは有利には、求められる、すなわち少なくとも35%、および好ましくは35%ないし50%の繊維体積百分率を有する繊維強化材を得るように圧縮される(工程28)。この目的のために、型40および繊維プリフォーム50は可撓ジャケット52の内部に配置され(図9)およびジャケットの内部が繊維プリフォームを圧縮するために吸引デバイスに接続される。折り目をつくることなく変形することができるエラストマー材料のダイアフラム54が、ジャケット52の折り目が繊維強化材の外側表面に跡をつけるのを防ぐために、ジャケット52とプリフォーム50との間に挿入されることがある。ジャケットの内側の吸引のレベルを制御できる限りにおいては、繊維プリフォームの圧縮を制限する目的で樹脂を予備硬化させる必要がないことがあることに注意されたい。
【0049】
圧縮後、樹脂を硬化させる工程29が行われ、固化成形された繊維プリフォーム、すなわちその形状を保ちながら処理することができる繊維プリフォームが得られる。
【0050】
固化成形された繊維強化材はそれの型合わせおよび固化成形で使用された工具から取り外され、この型40は複数の部品からなっており、そのためそれは分解できる。
【0051】
その下流端部において、固化成形された繊維強化材は縁42cに対応する環状縁を示し、これにより、固化成形された繊維強化材をこの位置において補強するのと求められる形状を少なくともノズル末広部を製作するプロセスの終わりまで適切に保持するのとに役立つ。その上流端部では、固化成形された繊維強化材は第1に余分の厚さおよび第2にフランジ12と製造すべき末広部の部分14との間の接続角に対応する角度を形成する外形を示し、これら両方が上流端部の形状を補強するのとそれを維持するのに役立つ。補強機能を提供するために、外側フランジを形成する代わりにまたはそれに加えて、厚さの増加が下流端部に提供されることがあることに気付かれたい。
【0052】
硬化された樹脂を熱分解させる工程30がたとえば700℃ないし1200℃の温度で行われ、次に繊維強化材がCVIによってオーブン内で緻密化される(工程31)。樹脂はCVIオーブン内の温度を、緻密化を行う直前に上昇させながら熱分解されてもよい。
【0053】
CVI緻密化は、炭素マトリックス、または炭素およびセラミックの混合マトリックス、たとえば炭素および炭化珪素(SiC)のマトリックスもしくは炭素および三成分珪素−炭素系(Si−B−C)のマトリックス、またはさらにセラミックマトリックス、たとえばSiCもしくはSi−B−Cマトリックスを得るように行われる。
【0054】
繊維強化材を熱分解炭素(PyC)マトリックスで緻密化させるためのCVIプロセスは周知である。繊維強化材はオーブン内に設置される。PyCの前駆体である反応性ガス、典型的には1種以上の炭化水素化合物を含有するガスがオーブンに導入される。特に予め定められた圧力および温度の条件下で、反応性ガスが繊維強化材の内部孔の中に拡散して、前記ガスの分解する成分の1種以上によってPyCがそこに堆積する。
【0055】
SiCマトリックスまたはマトリックス相を形成するためのCVIプロセスも周知であり、反応性ガスはメチルトリクロロシラン(MTS)および水素ガスの混合物を典型的に有する。Si−B−C三成分系から構成されるマトリックス相を形成するために、MTS、三塩化ホウ素(BCl3)、および水素ガスの混合物を含有する反応性ガスを使用することができる。
【0056】
繊維強化材の厚さは制限されるので、繊維強化材のコアとその表面部分との間の著しい緻密化勾配のリスクは避けられる。
【0057】
さらに、ノズル末広部に求められる、少なくともその内側表面に関するおよび有利にはその外側表面の事実上全てに関する形状を有する補強された部分がこのようにして得られ、仕上げ機械加工は場合により端部、特に接合点に制限される。外側の縁を固化成形された繊維強化材の下流端部に形成する補強材部分は末広部において有用でなければ緻密化の後に除去されてもよい。
【0058】
さらに、余分の厚さ42bの存在は補強材または補強材用の支持体を構成することができる強化された部分を末広部の中位につくり出す。
【0059】
図11は、緻密化後であって最終的な機械加工前の、図2ないし図10を参照しながら説明したものと同様の方法で得られたノズル末広部を示した写真であり、使用したベース繊維テクスチャはインターロック組織を有する1.5mm厚の三次元ファブリックである。厳密な意味での末広部はフランジとのその接続部における約400mmからその下流端部における約1020mmまでに及ぶ内径を有していた。末広部の全体の長さは厳密な意味での末広部について(フランジを含めない)の約850mmを含めて約970mmであった。とりわけこのような寸法の場合、緻密化後、末広部は約42%の高い繊維含有量および非常に低い重量、すなわち約6.48キログラム(kg)を示し、固化成形された繊維強化材の最終的な緻密化の前でありかつ樹脂を硬化した後の重量は約5.52kgであった。厳密な意味での末広部を形成する部分では、壁厚は繊維テクスチャパネル間の重なった部分に対応する領域を除いて約1.5mmであった。
【0060】
本発明はロケットエンジンノズルの末広部をつくることに限定されない。飛行機またはヘリコプター用の航空機エンジンのためのノズルをつくるのに適用されてもよい。図12はガスタービン飛行機エンジン用のこのような1つのノズルを示している。その軸方向端部において、このノズルはある角度を形成する外形の部分を示し、この部分は繊維強化段階において補強材部分を構成する。
【0061】
本発明は、薄肉で軽量であり、比較的大きな寸法、特に少なくとも800mmの軸方向寸法および少なくとも1000mmの下流端における内径を有することができるノズルまたはノズル末広部を得ることを可能にする点で特に注目されるべきである。
【0062】
航空機エンジンノズルの場合、複合材料はセラミック繊維、たとえば炭化珪素からつくられる繊維強化材と同様にセラミック、たとえば同様に炭化珪素からつくられるマトリックスを有し、固化成形樹脂が好ましくはセラミック前駆体樹脂であるセラミックマトリックス複合材料(CMC)でもよい。
【0063】
特に航空機エンジンノズルのためのある用途においては、繊維プリフォームの付形および繊維強化材の型合わせはノズルの外側表面に望まれる形状を複製する内側表面を示す雌型で行われることがある。
【0064】
本発明は、図12に示したノズルの場合のように、必ずしも完全に軸対称である必要のないノズルまたはノズル末広部をつくるのに適用可能であることにも注意されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックスによって緻密化された繊維強化材を含む複合材料から薄肉のノズルまたはノズル末広部を製造する方法であって、
・三次元製織によって得られる繊維テクスチャの複数のパネルを得て;
・製造すべきノズルまたはノズル末広部の内側または外側表面に求められる形状を複製する表面を有する型に前記複数のパネルを合わせることによって、および互いに接触する縁部を介して複数のパネルをともに結合することによって繊維プリフォームを形成し;
・樹脂を含む固化成形組成物で含浸された前記繊維プリフォームを付形することによって固化成形された繊維強化材を形成するにあたり、前記型と前記含浸された繊維プリフォームに対して当てたジャケットとの間で付形を行い、少なくとも35%の繊維体積百分率を有し、少なくとも軸方向寸法の主要な部分にわたって繊維テクスチャパネルの単一層によって形成された5mm以下の厚さを有する固化成形された繊維強化材を得て;
・樹脂を熱分解させた後に化学気相浸透によって前記固化成形された繊維強化材の緻密化を継続して、緻密化の後に、製造すべき前記ノズルまたはノズル末広部の形状および壁厚を実際に有する部品を得るようにする
ことを含む方法。
【請求項2】
前記繊維プリフォームを付形して、少なくともその軸方向端部において一体化された補強材部分を示す繊維強化材を得ることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固化成形された強化材の軸方向端部に角度を形成する外形を与えることによって少なくとも1つの補強材部分を得ることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記固化成形された強化材の壁厚を局所的に増加させることによって少なくとも1つの補強材部分を得ることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記複数のパネルをそれらの隣接する縁部を重ねて型に合わせることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記繊維プリフォームを、前記プリフォームの軸の周囲の全周に延びる少なくとも1つの余分の厚さをもって形成し、前記余分の厚さは複数の繊維テクスチャパネルの隣接する縁部を互いに重ねることによって得られることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記複数のパネルを縫い合わせによって互いに結合することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記繊維強化材を形成するために付形している間、前記含浸された繊維プリフォームを圧縮することを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記含浸された繊維プリフォームの圧縮の間に、折り目を形成せずに弾性変形可能なダイアフラムを前記繊維プリフォームに当てることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記繊維テクスチャパネルを前記型に合わせる前に、前記繊維テクスチャに固化成形組成物による含浸を行うことを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記繊維強化材を形成するために前記繊維プリフォームを付形する前に、前記固化成形組成物の前記樹脂を予備硬化することを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記含浸された繊維テクスチャパネルを前記型に合わせる前に、予備硬化を少なくとも部分的に行うことを特徴とする請求項10および11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれか1項に記載の方法によって得られる複合材料で作られ、その軸方向寸法の主要な部分にわたって3mm以下の厚さを有する薄肉のノズルまたはノズル末広部。
【請求項14】
前記厚さが1mmないし2mmの範囲にあることを特徴とするノズルまたはノズル末広部。
【請求項15】
800mm以上の軸方向寸法および1000mm以上のその下流端部での内径を有する請求項13または請求項14に記載のノズルまたはノズル末広部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2011−527957(P2011−527957A)
【公表日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517972(P2011−517972)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【国際出願番号】PCT/FR2009/051397
【国際公開番号】WO2010/007308
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(502202281)スネクマ・プロピュルシオン・ソリド (48)
【氏名又は名称原語表記】SNECMA PROPULSION SOLIDE
【Fターム(参考)】