説明

複合材の極低温下でのバリヤーとしての使用

(a)周囲条件での引張りヤング率が50GPa未満であり、(b)周囲条件での引張り破断歪が5%以上である複合材の極低温条件下での流体バリヤーとしての使用;並びに該複合材を含む、極低温流体用サンドイッチ体及び収容システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は所定の特性を有する複合材の極低温下でのバリヤー、特に流体バリヤーとしての使用に関する。また本発明は該複合材を用いたサンドイッチ体、及び該複合材を用いた、容器、パイプ、タンク、導管及び洞窟のような収容システムに関する。
【背景技術】
【0002】
極低温下で使用される貯蔵タンク及びパイプラインのような流体バリヤーは、極低温流体のバリヤーの背面材料への吐出防止を意図している。通常、従来の流体バリヤーは、ニッケル−鋼又は特殊な繊維強化複合材のような類似の特性を有する特殊の材料をベースとしている。このような特殊繊維強化複合材の例としては、グラファイト、S2ガラス及びEガラスのようなガラス、及び超高分子量ポリウレタンのような建築用繊維で強化した熱硬化性プラスチック基材(例えばエポキシ及びポリウレタン)からなるものが挙げられる。
【0003】
一例として、WO 2006/003192 A1には、LNG(液化天然ガス)、液化した窒素、酸素又は二酸化炭素、及び液化水素のような液化ガスの貯蔵用熱絶縁容器に流体バリヤーを使用することが記載されている。WO 2006/003192 A1に開示された流体バリヤーは、ポリウレタン又はエポキシ又はそれらの組み合わせのようなプラスチック材料で構成される。所望ならば、プラスチック材料はガラス繊維を取り込んで強化してよい。
【0004】
WO 2006/003192 A1の流体バリヤーは、既に充分、機能しているが、このような複合材をベースとする流体バリヤーを使用すると、建造物全体で適応させる必要のある高い応力が導入される恐れがあることが見出された。幾つかの場合には、これにより流体バリヤー及び/又は建造物全体が機械的に破損するかも知れない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は前記課題を最小化することである。
本発明の別の目的は、−30℃未満、−100℃未満、更には−150℃未満のような極低温条件下で流体バリヤーとして使用するための代替材料を提供することである。
本発明の別の目的は、極低温流体用の容器、パイプ、タンク、導管及び洞窟のような、改良収容システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的の1つ以上は、(a)周囲条件での引張りヤング率が50GPa未満であり、(b)周囲条件での引張り破断歪が5%以上である複合材の極低温条件下での流体バリヤーとしての使用を提供することにより達成できる。
【0007】
EP 0465252 A1には、ガスバリヤーを形成するガス不浸透性合成重合体からなる圧縮ガス用及び/又は極低温ガス用容器又は導管が記載されている。構成繊維は、ガス不浸透性合成重合体中に埋め込んで複合材を形成できる。通常、この複合材は低い歪及び高い弾性率を有する。この特許に記載される好適な構成繊維を用いて作った場合、通常、複合材のヤング率は50GPaを超える。
【0008】
米国特許第6,962,672号には特に宇宙エンジン用の高圧容器が記載されている。高圧容器の内部表皮は、ヤング率が1〜2GPaのポリアミドを使用できる。引張り破断歪については述べていないし、しかも内部表皮は複合体ではない。表皮の周りには例えば炭素繊維又は商品名“Kevlar”で販売されているアラミド繊維で作られた強化性巻き線が巻かれている。強化性巻き線中のこれらの材料は非常に高いヤング率を有する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
引張りヤング率は好ましくは40GPa未満、好ましくは1.0GPaを超え、更に好ましくは2.0を超える。引張りヤング率は、好ましくはDIN EN ISO 527に従って周囲条件、即ち、ISO 554による標準大気条件、特に推奨大気条件、例えば23℃、相対湿度50%及び圧力86〜106KPaで測定することが好ましい。
【0010】
周囲条件での引張り破断歪は、好ましくは8%を超え、更に好ましくは10%を超え、なお更に好ましくは15%を超える。通常、周囲条件での引張り破断歪は75%以下である。
引張り破断歪はDIN EN ISO 527に従って周囲条件で測定される。
【0011】
材料の応力は、材料の引張りヤング率及び熱膨張係数に関連し、極低温材料に対しては、これまで低応力材料は、使用時に経験する顕著な温度変化により、極低温材料と併用できないと考えられてきた。しかし、本発明は、比較的低い引張り弾性率を有する複合材を使用すると、意外にも極低温流体と併用できることを見出した。このような複合材を使用すると、流体バリヤー材料に対する熱誘導応力も、またいかなる支持構造に対する熱誘導応力も低下し、これにより支持構造用材料の広範な選択が可能となる。
【0012】
本発明の“複合材”は、完成構造内の顕微鏡レベルで別々に又は異なって残存する異なる物理的又は化学的特性を有する2種以上の構成材料から作った工学材料である。複合材の引張りヤング率値は、材料の相対使用量に依存できる。当業者は、所望の特性が得られるように複合材の各種成分の容量分率をどのように変化させるかを理解している。
【0013】
本発明の一実施態様では、複合体は単一材料複合体、即ち、同一材料からなる2つの層から形成した複合材料である。例えば2つの層は、高温高圧で融合させ、これにより配向熱可塑性材料間に、かつ配向熱可塑性材料中に内部分散された熱可塑性基材を形成したものである。当業者に知られているように、高圧、特に静水圧は、配向熱可塑性材料の融点を制御するのに重要である。更に単一材料複合材では化学的に異なる1種以上の添加剤を取り込んでよい。
【0014】
本発明の他の一実施態様では、複合材は、好ましくは強化剤を少なくとも部分的にプラスチック基材に取り込む場合、強化剤で強化したプラスチック基材である。こうしてプラスチック基材は、強化剤が埋め込まれた連続固体相として機能する。プラスチック基材と強化剤との比率に特別な制限はない。
【0015】
強化剤は、チョップド繊維又は連続繊維、フレーク又は粒子の形態であってよいが、好ましくはフェルト、織布、外衣(robing)、織物、ニット又は縫製(stitched)構造のような織物様構造を有する材料に変形することが好ましい。
【0016】
更に強化剤は、天然及び熱可塑性材料又はそれらの組み合わせよりなる群から選択することが好ましい。天然材料としては、ココヤシ皮繊維、綿、リンネル、黄麻、亜麻、ラミー、サイザルソウ及び麻のような植物繊維;及び羊毛、馬の髪及び絹のような動物繊維等が挙げられる。
【0017】
強化剤は熱可塑性材料からなることが好ましい。強化剤用熱可塑性材料は、好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、ポリイソブテン、又はそれらの共重合体又は三元共重合体よりなる群から選ばれたポリオレフィン、好ましくはポリプロピレンからなる。
【0018】
また強化剤は、得られる複合材料が50GPa未満の引張りヤング率及び5%以上の引張り破断歪を有する限り、炭素繊維、ガラス繊維及び重合体繊維等の広範な材料から選択できる。
【0019】
強化剤の引張り破断歪は、DIN EN ISO 527に従って周囲条件で測定して、好ましくは5%以上、更に好ましくは8%を超え、なお更に好ましくは10%を超え、最も好ましくは15%を超える。通常、引張り破断歪は75%以下である。
【0020】
本発明で使用されるプラスチック基材は、得られる複合材が50GPa未満の引張りヤング率を有する限り、ポリエステル、ポリカーボネート、ビニルエステル、エポキシ、フェノール系、ポリアミド等の重合体材料のような広範囲の材料から選択できる。しかし、プラスチック基材の引張りヤング率は、DIN EN ISO 527に従って周囲条件で測定して、0.1〜5.0GPaであることが好ましい。
【0021】
プラスチック基材としては、好ましくは熱可塑性材料又は熱硬化性材料が挙げられる。
本発明の特に好ましい実施態様では、プラスチック基材は熱可塑性材料である。熱可塑性材料が有利な点は容易に造形できることである。熱可塑性材料は、好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、ポリイソブテン、又はそれらの共重合体又は三元共重合体、例えばEPDMよりなる群から選ばれたポリオレフィン、好ましくはポリプロピレンを含む。
【0022】
単一材料複合体は、好ましくは配向熱可塑性材料で、ここで強化性繊維質相のような配向熱可塑性材料及び該配向熱可塑性材料の間の母材の両方とも、同じ熱可塑性重合体を含有し、好ましくは該重合体を主成分とし、更に好ましくは該重合体からなる。屈曲は、表面溶融を制御することにより達成される。引張りヤング率及び熱膨張係数(CTE)のような、単一材料複合体の物性は、この方法で行う溶融の程度により制御でき、配向熱可塑性材料/非配向熱可塑性材料の容量比(以下、繊維/母材比とも言う)を決定する。
【0023】
このような単一材料複合体の製造法は当業界で知られ、例えば米国特許出願公開第2005/0064163号;B.Alcock等、(2007)、Journal of Applied Polymer Science,第104巻、118−129頁;及びB.Alcock等、(2007)、複合体:Part A(applied science and manufacturing),第38巻、147−161頁に開示されている。
【0024】
この製造方法は、通常、配向熱可塑性重合体繊維を、単一方向のレイアップ(lay−up)、織布繊物又はチョップド繊維/不織布フェルトの各種形状で利用する。当業界で知られているように、繊維の融点を静水圧で制御することが重要である、繊維は、高圧下で融点未満の温度に加熱されるが、低圧下では融点を超える温度で加熱される。圧力を制御した時間低下させると、繊維表面から始まる繊維の溶融が起こる。制御圧力下でのこの表面溶融後、結晶化して固化構造を作る。
【0025】
代りの公知の方法は、繊維のような配向熱可塑性材料ストランドの周囲に基材の特殊な共(co)押出し(一緒に押出す)を使用することを含む。この共押出し及びテープ溶接方法は、材料特性を損失することなく、大きな封止窓(130〜180℃)のため、従来の封止方法に比べて有利である。
【0026】
単一材料複合体は、好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、ポリイソブテン、又はそれらの共重合体又は三元共重合体、例えばEPDMよりなる群から選ばれたポリオレフィン、好ましくはポリプロピレンを含み、更に好ましくは該ポリオレフィンを主成分とし、なお更に好ましくは該ポリオレフィンからなる。
【0027】
複合材は、極低温条件下、即ち、−30℃未満、更に好ましくは−100℃未満、更には−150℃未満の温度で流体バリヤーとして使用されるものである。このような温度(−100℃未満、好ましくは−150℃未満、通常、−160℃未満)は、液化天然ガス(LNG)に好適である。
【0028】
本明細書の目的では極低温液体は、ガスの温度を極低温条件まで低下させて、液化させた液化ガスである。極低温流体としては、極低温液体、極低温下に維持されたガス、及び極低温下に維持された超臨界液体が挙げられる。流体バリヤーは、極低温流体に好適なバリヤーである。本明細書の目的では極低温条件は、−30℃未満、好ましくは−100℃未満、更に好ましくは−150℃未満の温度を意味する。この方法ではこれらの特性を有する複合材を用いた利点が充分発揮されるからである。
【0029】
複合材は、ISO 554によるDIN EN ISO 527に従って−196℃(液体窒素)で測定した引張り破断歪が好ましくは3%以上、更に好ましくは5%以上、なお更に好ましくは6%以上、なお更に好ましくは8%以上、なお更に好ましくは10%以上である。
【0030】
複合材は、40℃での熱膨張係数が好ましくは250*10−6m/m/℃未満である。更に好ましくは複合材は配向され、この配向方向で40℃での熱膨張係数が250*10−6m/m/℃未満である。
【0031】
更に複合材は、−60℃での熱膨張係数が好ましくは100*10−6m/m/℃未満である。更に好ましくは複合材は配向され、この配向方向で−60℃での熱膨張係数が100*10−6m/m/℃未満である。
熱膨張係数は、ISO11359−2に従って−60〜+70℃の範囲での熱機械的分析(TMA)により好適に測定できる。
【0032】
他の一面では本発明は、限定されるものではないが、LNG、液化した窒素、酸素、二酸化炭素及び水素等の液化ガスのような極低温流体の収容、貯蔵、加工、輸送又は移送への使用を提供する。このような使用は、水中、地下又はそれらの組合わせの下で一時的でも恒久的でもよい。また、このような使用は、極低温流体を収容、貯蔵、加工、輸送及び/又は移送するためのプラント又は設備のいずれかの部分の装置、デバイス、ユニット又はシステムの上流及び/又は下流であってもよい。この使用には、液化プラント、輸出、積荷、輸送、荷卸し、輸入又は末端使用設備、或いはそれらの一部の1つ以上が含まれる。
【0033】
このような使用は以下の利用が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
−30℃未満、好ましくは−100℃未満、更に好ましくは−150℃未満の温度で使用される極低温流体(純粋又はブレンド)を輸出ターミナル及び輸入ターミナルのタンク(即ち、大型貯蔵庫)、船積み、及びパイプやホースのような移送部品等に貯蔵及び輸送。
【0034】
極低温流体を(垂直)円筒形タンク、角柱形タンク、楕円形タンク及び球形タンク等のいずれかの幾何形状の陸上タンク及び沖合いタンクに収容。
容器、携帯容器、工場(shop)組立て容器、携帯タンク及び積荷タンク中の極低温流体の陸上及び沖合い貯蔵又は輸送。
【0035】
岩石洞窟のような洞窟又は地下容器等の地下貯蔵(その例はGastech(2005)にEric Amantini、Emanuel Chanfreau及びHo−Yeong Kimにより“The LNG storage in lined rock cavern”と題する論文で討議されている)(この文献はここに援用する)。
極低温流体を一時的又は恒久的に貯蔵するための加圧又は非加圧容器。
【0036】
限定されるものではないが、極低温流体を(垂直)円筒形、角柱形、楕円形、球形等のいずれの幾何形状でも輸送(陸上、海上又は航空機等いかなる方法でも)するための加圧又は非加圧容器。
【0037】
陸上及び沖合い、水上、水中を含み、パイプ、パイプ部分、パイプライン、配管システム、ホース、立上がり管、並びに関連設備及び細部を含む可撓性又は硬質の管中に流動輸送又は移送。
また本発明は、前述のような複合材の少なくとも1層を含む極低温流体用収容システム、好ましくは容器、パイプ、タンク、導管及び洞窟よりなる群の1つ以上を含む収容システムを提供する。
【0038】
このような収容システムの例及び使用例は前述の通りである。パイプとしては、連続的又は不連続のパイプライン又はパイプ部分が挙げられる。
収容システムの一特定例は、耐負荷構造の外殻と、該外殻の内側に設けた前述のような複合材からなる1つ以上の流体バリヤーとを少なくとも有する極低温流体の貯蔵用容器である。
【0039】
収容システムの他の一特定例は、好ましくはプラスチック材料から作った、耐負荷構造の外殻と、該外殻の内側に設けた、特にDIN EN ISO 527に従って大気条件で測定して、50GPa未満の引張りヤング率を有する前述のような複合材からなる1つ以上の流体バリヤーとを少なくとも有する極低温流体の輸送用パイプである。
【0040】
特にこのようなパイプは 、中央流体導管の周囲に設けた、前述のような複合材からなる1つ以上の内側同中心流体バリヤーと、外側同中心層と、任意に、少なくとも1つの内側流体バリヤーと外側同中心層との間に設けた、1種以上の熱絶縁体を充填した少なくとも1つの環状体(40)とを有することができる。
【0041】
このようなパイプは、2つの内側バリヤーの各隣接セット間、及び最外側の内側流体バリヤーと外側同中心層との間に環状体を有する2つ、3つ又は4つの内側流体バリヤーを有することができる。ここで該環状体の少なくとも2つは、2種以上の異なる熱絶縁体が充填されていることが好ましい。
【0042】
好適な熱絶縁体は、当業界では知られ、熱絶縁体としてはミクロゲル又はミクロサーム(microtherm)(セラミック粉と繊維との微細多孔質混合物)のような各種の発泡体及びゲルが挙げられる。
このようなパイプの一実施態様では、少なくとも1つの内側流体バリヤー、好ましくは全ての内側流体バリヤーは、極低温流体が存在する間の温度変化によりパイプの縦方向変化に適応するように、延伸可能である。
【0043】
また本発明は、前述のような複合材及び構造的支持体層からなり、極低温下でバリヤー、特に流体バリヤーとして使用するためのサンドイッチ体を提供する。このようなサンドイッチ体は、いかなる数の層、一般には2層又は3層を有してよく、本発明の収容システムは、材料及び幅などが同一又は異なる構造を有するこのようなサンドイッチ体を1つ以上有してよい。本発明サンドイッチ体の好適な幅は1〜50mmの範囲が可能である。
【0044】
また本発明は1つの絶縁材料層と前述のような複合材を有するバリヤーとからなる、極低温下でバリヤー、特に流体バリヤーとして使用するためのサンドイッチ体を提供する。絶縁材料は、好ましくは前述した絶縁体の1種以上である。
本発明の実施態様を以下の非限定的図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】LNGのような極低温流体を輸送するための本発明パイプの概略断面図である。
【0046】
【図2】LNGのような極低温流体を輸送するための本発明の他の実施態様によるパイプの概略断面図である。
【図3】LNGのような極低温流体を輸送するための本発明の他の実施態様によるパイプの概略断面図である。
【図4】LNGのような極低温流体を輸送するための本発明の他の実施態様によるパイプの概略断面図である。
【図5】極低温流体の貯蔵用容器の概略断面図である。
【0047】
【図6】本発明サンドイッチ体の概略断面図である。
【実施例】
【0048】
同一符号は同様な構造部品を言う。
図1は、LNG、LPG及び液体窒素のような極低温液体の輸送用パイプ2の概略断面図を示す。パイプ2は、耐負荷性外殻30と、該耐負荷性外殻30の内側に、中央流体導管100の周りに同中心的に設けた流体バリヤー10とからなる。
【0049】
耐負荷性外殻30は、ニッケル鋼のような金属材料又はコンクリートから作製できるが、炭素強化エポキシ材料又はガラス強化エポキシ材料のような剛性プラスチック材料から作ることが好ましい。
【0050】
流体バリヤー10は、引張りヤング率が50GPa未満の複合材から作製される。流体バリヤー10に好適な材料の一例は、ポリプロピレン繊維で強化したポリプロピレン基材からなる複合材、即ち、単一重合体複合材である。このような複合材は、例えばCurvTM C100A(Propex Fabric,Gronau,ドイツから得られる)としてそのまま得られ、DIN EN ISO 527に従って周囲条件で測定した引張りヤング率3.2GPaを有する。
【0051】
好適な複合材の他の一例は、ポリエチレン−ポリプロピレン混合物と共に押出したポリプロピレン繊維からなる複合材である。この共押出した材料は、商品名“PURE”(Lankhorst Pure Composites B.V.,Sneek,オランダから得られる)で市販されているもので、溶融して複合体用の基材を形成する。この複合材の引張りヤング率は約6.4GPa、引張り破断歪は10%である。
【0052】
他の好適な複合材は、A.Pegorretti等、“Flexural and interlaminar mechanical properties of unidirectional liquid crystalline single−polymer composites”,Composite Science and Technology 66(2006年),1953〜1962頁(この文献の内容は、ここに援用する)に記載されている。
下記表Iに前記複合材CurvTM C100Aの多くの特性を示す。
【0053】
【表1】

【0054】
熱膨張係数は、−60〜+70℃の温度範囲でISO11359−2に従って熱機械分析(TMA)により測定した。測定は、繊維方向及び繊維方向とは垂直の方向の両方で行った。他の測定は前述の方法に従って行った。
【0055】
当業者は、外殻30及び流体バリヤー10の他、パイプアッセンブリー2が外殻30と流体バリヤー10間に別の層のような他の部品、外殻30上に外側コーティング等を有することを理解している。
【0056】
このような一例を図2に示す。図2は、中央流体導管100から同中心的に第一流体バリヤー10、第一環状体40及び外側同中心層30を有し、一般にパイプ2aの内部部品を構造的に支持しているパイプを示す。環状体40は、1種以上の熱絶縁体、一般にエーロゲル、ミクロ発泡体等の発泡体又はゲルを充填してよい。
【0057】
図3は、中央流体導管100から同中心的に第一内側流体バリヤー10、第一環状体40、第二流体バリヤー11、第二環状体41、及び次いで外側同中心層30を有するパイプ2bの別の一例を示す。第一及び第二流体バリヤー10、11は、同一又は異なる組成であってよく、また第一又は第二環状40、41は、同一又は異なる絶縁体で構成してよい。
【0058】
図4は、中央流体導管100から同中心的に第一、第二及び第三流体バリヤー10、11、12及び外側同中心層30、並びにそれらの間に第一、第二及び第三環状体40、41、42を有するパイプ2cの他の一例を示す。
通常、図2に例示したようなパイプ2aは、同中心的に、
【0059】
直径が50〜1500mm、好ましくは250〜1000mm、更に好ましくは500〜900mmの範囲の中央流体導管10;
厚さが1〜10mmの範囲の第一内側流体バリヤー10;
厚さが25〜250mmの範囲の第一環状体40;及び
厚さが25〜250mmの範囲の外側同中心層30;
を有する。
【0060】
図5は、極低温流体の貯蔵用熱絶縁容器200の概略断面図を示す。容器200は、基板220及び側壁230からなる耐負荷構造の外殻215を有する。図5の実施態様では、基板220及び側壁230はコンクリート製である。完全には容器200は、隔離されて前記構造外殻215の一部を形成できる屋根(図示せず)を含むものである。
【0061】
容器200は、更に少なくとも2つの熱絶縁性収容層、即ち、内側収容層240及び外側収容層250を有し、これらは構造外殻215の内表面に固定されている。
【0062】
各収容層240,250は、絶縁材料(例えばPVC又はPURのような発泡プラスチック材)のパネルを有する。
更に容器200は、2つの気密かつ液密の流体バリヤー210を有し、一方のバリヤーは容器200に収容された液化ガス205と接触し、他方のバリヤーは内側収容層240と外側収容層250との間にある。流体バリヤー210は前述のように複合材から作られる。複合材の好適な例は表Iに示した通りである。
【0063】
流体バリヤー210、収容層240,250及び外側外殻210は、当業界で知られているように、スプレー、接着、機械的固定、溶融溶接等いかなる好適な手段でも互いに固定してよい。
図6は、本発明のサンドイッチ体300の概略断面図で、図1〜5で例示したようなパイプアッセンブリー2、2a、2b、2c又は貯蔵タンク200を使用してよい。
サンドイッチ体300はPVC、PUR等の熱絶縁材料層320、及び前述の複合材で作った流体バリヤー310からなる。流体バリヤー310は、接着剤結合、溶接又は溶融、その他、当業界で知られている好適手段で板310に結着してよい。
当業者は、発明の範囲から逸脱しない限り、多くの改変を行ってよいことを容易に理解している。
【符号の説明】
【0064】
2 極低温流体輸送用パイプ又はパイプアッセンブリー
2a パイプアッセンブリー
2b パイプアッセンブリー
2c パイプアッセンブリー
10 内側同中心流体バリヤー
11 内側流体バリヤー
12 内側流体バリヤー
13 内側流体バリヤー
30 外側同中心層
40 環状体
41 環状体
42 環状体
43 環状体
100 中央流体導管
200 貯蔵用熱絶縁容器又は貯蔵タンク
205 液化ガス
210 流体バリヤー
215 耐負荷構造の外殻
220 基板
230 側壁
240 内側収容層
250 外側収容層
300 サンドイッチ体
310 流体バリヤー
【先行技術文献】
【特許文献】
【0065】
【特許文献1】WO 2006/003192 A1
【特許文献2】EP 0465252 A1
【特許文献3】米国特許第6,962,672号
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0064163号
【非特許文献】
【0066】
【非特許文献1】B.Alcock等、(2007)、Journal of Applied Polymer Science,第104巻、118−129頁B.Alcock等、(2007)、複合体:Part A(applied science and manufacturing),第38巻、147−161頁
【非特許文献2】A.Pegorretti等、“Flexural and interlaminar mechanical properties of unidirectional liquid crystalline single?polymer composites”,Composite Science and Technology 66(2006年),1953〜1962頁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)周囲条件での引張りヤング率が50GPa未満であり、(b)周囲条件での引張り破断歪が5%以上である複合材の極低温条件下での流体バリヤーとしての使用。
【請求項2】
前記複合材の40℃での熱膨張係数が250*10−6m/m/℃未満である請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記複合材の−196℃での引張り破断歪が3%以上である請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記複合材の−60℃での熱膨張係数が100*10−6m/m/℃未満である請求項1〜3のいずれか1項以上に記載の使用。
【請求項5】
前記複合材が単一材料の複合体、又は強化剤で強化したプラスチック基材を含む請求項1〜4のいずれか1項以上に記載の使用。
【請求項6】
前記単一材料複合体が熱可塑性材料であり、該熱可塑性材料は強化性繊維質相のような配向熱可塑性材料及び該配向熱可塑性材料間の基材の両方が同じプラスチックを含む請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記複合材が、5%以上の引張り破断歪を有する強化剤で強化したプラスチック基材を含む請求項5に記載の使用。
【請求項8】
極低温流体の収容、貯蔵、加工、輸送又は移送への請求項1〜7のいずれか1項以上に記載の使用。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項以上に記載の複合材及び構造的支持体層からなり、極低温下でバリヤー、特に流体バリヤーとして使用するためのサンドイッチ体。
【請求項10】
絶縁材料層(320)及び請求項1〜7のいずれか1項以上に記載の複合材で構成されるバリヤー(310)からなる、極低温下でバリヤー、特に流体バリヤーとして使用するためのサンドイッチ体。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1項以上に記載の複合材の少なくとも1層からなる極低温流体用収容システム。
【請求項12】
耐負荷構造の外殻(215)、
該外殻(215)の内側に設けた、請求項1〜7のいずれか1項以上に記載の複合材からなる1つ以上の流体バリヤー(210)、
を少なくとも有する極低温流体(205)貯蔵用容器(200)である請求項11に記載の収容システム。
【請求項13】
中央流体導管(100)の周囲に設けた、請求項1〜7のいずれか1項以上に記載の複合材からなる1つ以上の内側同中心流体バリヤー(10)、
外側同中心層(30)、及び
任意に、少なくとも1つの内側流体バリヤー(10)と外側同中心層(30)との間に設けた、1種以上の熱絶縁体を充填した少なくとも1つの環状体(40)、
を少なくとも有する極低温流体輸送用パイプ(2)である請求項11に記載の収容システム。
【請求項14】
2つの内側バリヤーの少なくとも1つの隣接セット間、及び/又は最外側の内側流体バリヤー(11、12、13)と外側同中心層(30)との間に環状体(40、41、42、43)を有する2つ、3つ又は4つの内側流体バリヤー(10、11、12、13)からなる請求項13に記載の収容システム。
【請求項15】
2つの内側バリヤーの各隣接セット間、及び最外側の内側流体バリヤー(11、12、13)と外側同中心層(30)との間に環状体(40、41、42、43)を有する2つ、3つ又は4つの内側流体バリヤー(10、11、12、13)からなる請求項14に記載の収容システム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−511845(P2010−511845A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539754(P2009−539754)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際出願番号】PCT/EP2007/063410
【国際公開番号】WO2008/068303
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
【Fターム(参考)】