説明

複合材料振動装置

【課題】 振動を妨げないための空間を必要としない小型でかつ機械的強度に優れた構造を有し、しかも、製造時あるいは周囲温度変化時の構成部材間の熱膨張係数差に起因する特性の変動が生じ難い複合材料振動装置を提供する。
【解決手段】 音響インピーダンス値Z1の材料を用いて構成された板状の圧電共振素子2に、音響インピーダンス値Z2を有する材料からなる反射層3,4を介して音響インピーダンス値Z3を有する材料からなる板状の保持部材5,6が積層されており、Z2<Z1かつZ2<Z3であり、反射層3,4の面方向に沿う熱膨張係数をX、保持部材の面方向に沿う熱膨張係数をYとしたときに、YとXとが逆極性とされており、あるいはYとXとが同極性かつYがXの3%以下とされている、あるいはY=約0とされている複合材料振動装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響インピーダンスが異なる複数の材料部分が連結されてなる複合材料振動装置に関し、より詳細には、圧電素子などの振動素子に、音響インピーダンスが異なる複数の材料層が積層されている積層型の複合材料振動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電共振装置や圧電フィルタ装置などの小型化を図るために、これらに使用されている圧電素子に、音響インピーダンスが異なる複数の材料層を連結してなる複合材料振動装置が知られている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、図7(a)及び(b)に示す複合材料振動装置が開示されている。複合材料振動装置101では、板状の圧電共振素子102が振動素子として用いられている。圧電共振素子102の上面には、反射層103を介して保持部材104が積層されている。圧電共振素子102の下面には、反射層105を介して保持部材106が積層されている。これらの部材が積層されている積層体の一方の端面に外部電極107が、他方の端面に外部電極108が形成されている。
【0004】
圧電共振素子102では、板状の圧電基板111の上面に励振電極112が、下面に励振電極113が形成されている。圧電基板111は、チタン酸ジルコン酸鉛系圧電セラミックスからなり、外部電極107,108を結ぶ方向である長さ方向に分極処理されている。励振電極112,113は圧電基板111の長さ方向中央で圧電基板111を介して対向している。励振電極112,113の対向している部分が駆動に際して電界が加えられる振動部を構成しており、圧電共振素子102は、エネルギー閉じ込め型の厚み滑りモードを利用した圧電共振素子として動作する。励振電極112は外部電極107に、励振電極113は外部電極108に電気的に接続されている。
【0005】
特許文献1に記載の複合材料振動装置101では、反射層103,105の音響インピーダンス値Z2が、圧電基板111の音響インピーダンス値Z1よりも小さく、かつ保持部材104,106の音響インピーダンス値Z3よりも小さくされている。より具体的には、ここでは、反射層103,105はエポキシ系樹脂からなり、保持部材104,106はセラミックスにより構成されている。Z3>Z2であるため、圧電共振素子102から反射層103,105に伝播してきた振動が、反射層103,105と保持部材104,106との界面において反射される。従って、上下の界面間に振動が閉じ込められるため、圧電共振素子102を保持部材104,106において機械的に保持したとしても、圧電共振素子102の振動に影響を与え難いとされている。
【0006】
なお、複合材料振動装置101では、上記保持部材106は、誘電体セラミックスにより構成されている。そして、保持部材106の上面に、容量電極114,115が、中央においてギャップを隔てて対向されている。また、保持部材106の下面には、容量電極116が形成されている。容量電極114,115と、容量電極116とは保持部材106を介して対向しており、三端子型のコンデンサを構成している。
【0007】
また、下記の特許文献2には、この種の複合材料振動装置の製造方法が開示されている。ここでは、保持部材を構成する保持基板上に、反射層形成用の流動性材料としてのエポキシ樹脂が塗布されている。次に、振動素子を貼り合わせるとともに、上記流動性材料が熱により硬化させて反射層が形成されている。
【特許文献1】特開2003−332875号公報
【特許文献2】特開2003−338720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、上記反射層や保護層を構成する材料は特に限定されないが、目的とする音響インピーダンス値Z2,Z3を達成し得る適宜の材料が用いられる旨が段落番号0046において記載されている。具体的な例としては、エポキシ樹脂からなる反射層及びセラミックスからなる保護層が示されている。
【0009】
また、特許文献2には、上記反射層をエポキシ樹脂の硬化物により形成した構造が開示されている。
【0010】
ところで、一般に、熱硬化型のエポキシ樹脂系硬化性組成物は、100℃前後に加熱することにより硬化され、硬化物を与える。他方、この硬化物は、セラミックスに比べて熱膨張係数がはるかに大きい。従って、硬化後の冷却により、硬化物が大きく収縮すると、反射層と、振動素子を構成している圧電基板との界面において、収縮する反射層により面方向に沿う応力が加わることになる。すなわち、図7において矢印A,−Aで略図的に示すように、反射層103,105の主面の面積が小さくなるように反射層103,105が収縮すると、矢印A,−A方向の応力が圧電基板111の表面に加わることになる。そのため、上記応力により、圧電共振素子102の特性が変動するという問題があった。
【0011】
複合材料振動装置101のように、音響インピーダンスが相対的に低い反射層103,105を介して保持部材104,106を積層した積層型の複合材料振動装置101では、反射層の音響インピーダンス値Z2を相対的に小さくすることにより、保持部材において機械的に支持したとしても、圧電共振素子102の振動が影響を受け難いとされていた。
【0012】
しかしながら、実際には、上記反射層103,105を熱硬化型のエポキシ樹脂系硬化性組成物の硬化物により構成した場合には、硬化後の冷却に際しての収縮により、上記応力が生じ、圧電共振素子102の特性が劣化するという問題があった。
【0013】
また、反射層103,105が、熱硬化型の硬化性組成物を用いずに構成されている場合においても、最終的に得られた反射層103,105の熱膨張係数が振動部材である圧電共振素子102を構成している材料の熱膨張係数よりもはるかに大きい場合には、周囲温度が低下した場合には、やはり上記と同様にA,−A方向の応力が加わり、特性が劣化しがちであった。あるいは、逆に周囲温度が急激に上昇した場合には、A,−A方向とは逆方向の応力が加わり、やはり特性が劣化しがちであった。
【0014】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、音響インピーダンスが相対的に低い反射層を介して板状の保持部材を板状の振動素子に積層した構造を有し、しかも、反射層の熱膨張係数と、振動素子を構成している材料の熱膨張係数との差に基づく複合材料振動装置の振動特性の劣化が生じ難い、複合材料振動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、音響インピーダンスが異なる複数の部材が結合されている構造を有する複合材料振動装置であって、第1の音響インピーダンス値Z1を有する材料からなる板状体を用いて構成されており、かつ前記板状体の上面及び下面の少なくとも一方に励振電極が備えられた板状の振動素子と、第1の音響インピーダンス値Z1よりも小さい第2の音響インピーダンス値Z2を有する材料からなり、かつ前記振動素子の上面及び下面の少なくとも一方に積層された反射層と、前記第2の音響インピーダンス値Z2よりも大きな第3の音響インピーダンス値Z3を有する材料からなり、前記反射層の前記振動素子が積層されている側とは反対側の面に積層された板状の保持部材と、前記振動素子、反射層及び保持部材からなる積層体の表面に設けられており、かつ前記励振電極に電気的に接続された外部電極とを備え、前記反射層と前記保持部材との界面において、前記振動素子から反射層に伝播してきた振動が反射されるように構成されている、複合材料振動装置において、前記反射層と前記振動素子との界面の面方向に沿う前記反射層の熱膨張係数をX、前記反射層と前記保持部材との界面の面方向に沿う前記保持部材の熱膨張係数をYとしたときに、XとYとが逆極性、あるいはXとYとが同極性かつYがXの3%以下とされていることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る複合材料振動装置のある特定の局面では、前記保持部材の前記反射層に積層されている面とは反対側の面に接着された板状のコンデンサをさらに備え、該板状のコンデンサが、誘電体基板と、該誘電体基板に設けられた複数の容量電極とを備える板状のコンデンサが接着されている。
【0017】
本発明に係る複合材料振動装置では、好ましくは、上記振動素子は電気機械結合変換素子で構成されている。
【0018】
上記電気機械結合変換素子としては、例えば、圧電素子または電歪素子が挙げられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る複合材料振動装置では、音響インピーダンス値Z1を有する材料からなる板状体を用いて構成された板状の振動素子に、音響インピーダンス値Z2を有する材料からなる反射層が積層されており、反射層の振動素子が積層されている側とは反対側の面に、音響インピーダンス値Z2よりも大きな音響インピーダンス値Z3を有する材料からなる板状の保持部材が積層されている。
【0020】
従って、特許文献1に記載の複合材料振動装置の場合と同様に、振動素子から反射層に伝播してきた振動が、反射層と保持部材との界面において反射される。従って、保持部材を利用して機械的に支持したとしても、支持構造による振動素子の振動特性への影響を抑制することができる。よって、振動を妨げないための空間を必要としないので、小型で、機械的強度に優れた複合材料振動装置を提供することができる。
【0021】
加えて、本発明では、反射層の振動素子との界面の面方向に沿う熱膨張係数をXとし、保持部材と反射層との界面に沿う保持部材の熱膨張係数をYとしたときに、XとYとが逆極性とされており、あるいはX及びYが同極性、かつYがXの3%以下とされているため、反射層と振動素子との熱膨張係数差による特性の劣化を抑制することができる。
【0022】
すなわち、例えば反射層が形成される際に冷却により反射層が大きく収縮した場合、あるいは周囲温度が急激に変化し反射層が収縮もしくは膨張した場合、反射層と振動素子との界面に該熱膨張係数差に起因する応力が加わることになる。しかしながら、XとYとが逆特性とされており、あるいは同極性でありかつYがXの3%以下とされているため、反射層の振動素子が積層されている側とは反対側の面においては、反射層の収縮もしくは膨張が、上記保持部材により抑制されることになる。よって、反射層の収縮もしくは膨張挙動が保持部材により抑制されるため、反射層の振動素子との界面における反射層の収縮もしくは膨張も抑制され、上記界面における応力を小さくすることができる。そのため、反射層と振動素子との熱膨張係数差に起因する上記応力が小さくされるため、該熱膨張係数差に起因する特性劣化を確実に抑制することが可能となる。
【0023】
保持部材の反射層に積層されている面とは反対側の面に接着された板状のコンデンサをさらに備え、該板状のコンデンサが誘電体基板と、誘電体基板に設けられた複数の容量電極とを有する場合には、板状のコンデンサを構成している誘電体基板は振動素子と直接には貼り合わされていない。振動素子に板状のコンデンサが直接貼り合わされた構造の場合には、振動素子を構成している材料の熱膨張係数と、板状のコンデンサを構成している誘電体基板の熱膨張係数の差を小さくしなければならない。接着部分における剥がれの発生等が生じるからである。
【0024】
これに対して、本発明では上記のように板状のコンデンサは振動素子に直接貼り合わされていないため、板状のコンデンサを構成している誘電体基板の熱膨張係数を、振動素子を構成している材料の熱膨張係数に制約されずに選択することができる。従って、誘電率εの大きさや誘電率温度特性などのコンデンサとしての特性を重視して、誘電体基板を広い範囲の材料から選択することが可能となる。
【0025】
よって、例えば容量内蔵型の発振子を構成する場合、必要な静電容量を、上記板状のコンデンサにより容易に構成することができる。
【0026】
上記振動素子が電気機械結合変換素子である場合には、本発明に従って、指示構造を簡略化することができ、しかも周囲の温度変化等による特性の変動が生じ難い複合材料振動装置を容易に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照しつつ本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0028】
図1(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る複合材料振動装置としての積層型圧電共振装置を示す正面断面図及び外観を示す斜視図である。
【0029】
圧電共振装置1は、板状の圧電共振素子2を有する。板状の圧電共振素子2の上面には、第1の反射層3,下面には第2の反射層5が積層されている。反射層3,5の圧電共振素子2に積層されている側とは反対側の面には、第1の保持部材4及び第2の保持部材6が積層されている。上記圧電共振素子2に、反射層3,5及び保持部材4,6からなる積層体の一方の端面に第1の外部電極7が、他方の端面に第2の外部電極8が形成されている。
【0030】
板状の圧電共振素子2は、矩形板状の圧電板11を有する。図2(a)に示すように、圧電板11の上面には、第1の励振電極12が形成されている。また、図2(b)に平面図で示すように、圧電板11の下面には、第2の励振電極13が形成されている。励振電極12,13は、特に限定されないが、本実施形態ではニクロム薄膜、モネル薄膜、銀薄膜の3層を順に積層してなる積層金属膜からなる。
【0031】
圧電板11は、細長い矩形板状の形状、すなわちストリップ状の形状を有する。この圧電板11は、本実施形態では、チタン酸ジルコン酸鉛系圧電セラミックスからなり、長さ方向に分極処理されている。圧電板11の音響インピーダンス値Z1は2.87×107kg/(m2s)である。なお、圧電板11は、他の圧電セラミックスや圧電単結晶により構成されてもよい。
【0032】
励振電極12,13は、圧電板11の全幅に至るように形成されている。もっとも、励振電極12,13は、圧電板11の全幅に至る必要は必ずしもない。
【0033】
励振電極12,13は、圧電板11の長さ方向中央において、圧電板11を介して対向している。この対向部分が駆動に際して電圧が印加される振動部である。この振動部の、圧電板11の長さ方向両側に振動減衰部が構成されている。すなわち、圧電共振素子2は、厚み滑りモードを利用したエネルギー閉じ込め型の圧電共振素子である。
【0034】
反射層3,5は、本実施形態では、エポキシ樹脂系組成物の硬化物からなり、その音響インピーダンス値Z2は2.80×106kg/(m2s)とされている。上記反射層3,5の圧電共振素子2との界面に沿う方向における反射層3,5の熱膨張係数Xは50ppm/℃である。
【0035】
他方、第1,第2の保持部材4,6は、本実施形態では、チタン酸鉛系絶縁性セラミックスからなり、その音響インピーダンス値Z3は、3.43×107kg/(m2s)であり、該保持部材4,6の反射層3,5との界面に沿う方向における熱膨張係数Yは−0.4ppm/℃である。
【0036】
励振電極12は、上記積層体の一方端面に引き出されており、第1の外部電極7に電気的に接続されている。他方、励振電極13は、上記積層体の他方端面に引き出されており、第2の外部電極8に電気的に接続されている。
【0037】
外部電極7,8は、本実施形態では、ニクロム薄膜、ニッケルめっき膜及びすずめっき膜の3層を順に積層してなる積層金属膜により構成されている。また、外部電極7,8は、回路基板などへ実装するために、積層体の下面、すなわち下方の保持部材6の下面に至るように延長されている。
【0038】
なお、外部電極7,8を構成する材料は特に限定されない。また、延長部7a,8aは必ずしも設けられずともよい。
【0039】
本実施形態の圧電共振装置1の特徴は、音響インピーダンス値Z2が、音響インピーダンス値Z1より小さくかつZ3よりも小さいこと、並びに上記熱膨張係数Yの極性と、熱膨張係数Xの極性とが逆とされていることにある。
【0040】
音響インピーダンス値Z2が、音響インピーダンス値Z1及びZ3より小さいため、圧電共振素子2に生じた振動が反射層3,5に伝播してきたとしても、反射層3と保持部材4との界面及び反射層5と保持部材6との界面により反射される。従って、保持部材4,6を機械的に支持したとしても、支持構造により圧電共振素子2の振動特性に影響を与え難い。
【0041】
加えて、上記熱膨張係数Yの極性と、熱膨張係数Xとの極性が逆であるため、圧電共振素子2の圧電板11の熱膨張係数と反射層3,5との熱膨張係数差に起因する共振特性の劣化も生じ難い。すなわち、例えば、周囲温度が急激に変化した場合や、反射層3,5を構成する材料を熱硬化型接着剤とし、該接着剤の硬化後の冷却に際しての収縮が生じた場合、前述したように、エポキシ系接着剤の硬化物の熱膨張係数Xは、圧電板11を構成しているチタン酸ジルコン酸鉛系セラミックスの熱膨張係数である−1.8ppm/℃の値よりもはるかに大きい。従って、図1のA,−A方向あるいはその逆方向の応力が、圧電共振素子2と反射層3,5との界面において生じることとなる。
【0042】
しかしながら、本実施形態では、Yの極性とXとの極性が異なるため、反射層3,5が温度変化により収縮したり膨張したりする場合、反射層3,5の外側に保持部材4,6が存在し、保持部材4,6が反射層3,5とは逆に膨張もしくは収縮しようとする。すなわち反射層3,5の外側面において収縮もしくは膨張が、保持部材4,6の膨張もしくは収縮により相殺されることになる。そのため、反射層3,5の収縮もしくは膨張が抑制され、ひいては反射層3,5と圧電板11の界面における上記応力が軽減されることになる。従って、反射層3,5を例えば上記のようにエポキシ樹脂の硬化性組成物の硬化物により構成した場合、硬化後の冷却に際しての収縮による影響を抑制することができる。
【0043】
また、圧電共振装置1作製した後に、周囲の温度が急激に変化した場合も、圧電板11の熱膨張係数と、反射層3,5の熱膨張係数との差に基づく応力による特性の変動を効果的に抑制することができる。これを具体的な実験例に基づき説明する。
【0044】
上記圧電板11として、チタン酸ジルコン酸鉛系セラミックスからなり、長さ1.8mm×幅0.5mm×厚み0.09mmであり、音響インピーダンス値Z1が2.87×107kg/(m2s )、面方向の熱膨張係数が−1.8ppm/℃である圧電板11の両面に励振電極12,13を形成した。励振電極12,13はニクロム、モネル、銀の3層を順にスパッタリングすることにより形成し、励振電極12,13の対向領域の寸法は0.4mm×0.5mmとした。このようにして、設計共振周波数が13MHzである圧電共振素子2を作製した。
【0045】
該圧電共振素子2の上面及び下面に、エポキシ樹脂系硬化性組成物を塗布し、半硬化状態の段階で、該硬化性組成物を介して保持部材4,6を積層し、100℃の温度に加熱し、硬化性組成物を硬化させ反射層3,5を形成した。すなわち、硬化性組成物を硬化させ、該硬化物の接着力により、圧電共振素子2と、保持部材4,6とを、反射層3,5により接着した。しかる後、室温まで冷却した。
【0046】
なお、上記のようにして形成された反射層3,5の寸法は1.8mm×0.5mm×厚さ0.02mmであり、音響インピーダンス値Z2は2.80×106kg/(m2s )であり、面方向に沿う熱膨張係数Xは50ppm/℃である。
【0047】
また、使用した保持部材4,6の寸法は1.8mm×0.5mm×厚み0.06mmであり、その音響インピーダンス値Z3は3.43×107kg/(m2s )、熱膨張係数Yは−0.4ppm/℃である。
【0048】
このようにして得られた本実施形態の積層型の圧電共振装置1と、保持部材4,6を構成する材料を種々変化させ、保持部材4,6の面方向に沿う熱膨張係数Yを変更したことを除いては上記と同様にして構成された複数種の圧電共振装置とを作製した。これらの圧電共振装置について、位相、−周波数特性を測定し、位相角の最大値θmaxを測定した。位相角最大値θmaxは、本実施形態の圧電共振装置1では、設計共振周波数である13MHzの近傍での位相最大値である。位相周波数特性における位相最大値θmaxが大きいほど良好な共振特性が得られることがわかる。
【0049】
この保持部材4,6における熱膨張係数Yと、上記位相角最大値θmaxとの関係を図3(a)に示す。図3(a)から明らかなように、保持部材4,6の熱膨張係数Yが負の値であるか、あるいは2ppm未満の場合に、位相角最大値θmaxが非常に大きいことがわかる。
【0050】
また、図3(b)は、図3(a)の横軸をY/Xとして図3(a)の結果を書き換えた結果である。図3(b)から明らかなように、Y/Xが3%以下であれば、位相角最大値θmaxが非常に大きいことがわかる。
【0051】
他方、上記複数種の圧電共振装置の内、保持部材4,6の熱膨張係数Yが9.3ppm/℃の場合及び−0.4ppm/℃の場合の圧電共振装置の有限要素法により計算された応力分布データを図4(a)及び(b)に模式的に平面図で示す。
【0052】
なお、図4(a)及び(b)における下記の記号a),b)は、それぞれ、圧縮応力及び引張り応力であることを示し、長さが長いほど、応力が大きいことを示す。
【0053】
【数1】

【0054】
図4(b)から明らかなように、保持部材4,6の熱膨張係数Yが−0.4ppm/℃の場合には、圧電共振素子2に加わる応力値は24MPa以下であるのに対し、保持部材4,6の熱膨張係数が9.3ppm/℃の場合には150MPa程度と応力が非常に大きく、従って圧電共振素子2の振動を強く阻害することがわかった。
【0055】
上記のように、保持部材4,6の熱膨張係数Yが、負の値、あるいは2ppm/℃以下の場合に、位相角最大値θmaxが非常に大きくなるのは、図4(a)及び(b)の比較から明らかなように、圧電共振素子2に加わる熱膨張係数差に起因する応力が非常に小さくなっていることによることがわかる。
【0056】
これは、上記のように、圧電共振素子2を構成している圧電板11の熱膨張係数が−1.8ppm/℃であり、従って、反射層3,5を構成するエポキシ樹脂系硬化性組成物の硬化後の冷却に際しての大きな収縮により、圧電共振素子2と反射層3,5との界面に大きな応力が加わることによると考えられる。ところが、保持部材4,6の熱膨張係数Yは、負の値、あるいは2ppm/℃より小さい場合には、保持部材4,6が反射層3,5の収縮を抑制するように作用するため、上記応力が小さくなり、良好な共振特性が得られていると考えられる。
【0057】
すなわち、本実施形態の圧電共振装置1では、上記のように、保持部材4,6の熱膨張係数Yが、圧電共振素子2を構成している圧電板11の熱膨張係数と極性が逆であるか、あるいは同極性である場合には、反射層3,5の熱膨張係数Xに比べて、保持部材4,6の熱膨張係数Yを十分に小さくすること、さらに言えばYをゼロ近傍とすることにより、上記のように良好な共振特性を実現し得ることがわかる。
【0058】
なお、本発明者の実験によれば、Xを、Yより十分に大きくする場合、YがXの3%以下とすれば、上記実施形態と同様に良好な共振特性を実現し得ることが確かめられている。従って、XをYに比べて十分大きくするとは、YがXの3%以下になることを意味する。
【0059】
本実施形態では、上記反射層3,5がエポキシ樹脂系の硬化性組成物の硬化物により構成されており、該硬化物が硬化性組成物を加熱することにより硬化されていた。従って、硬化後の収縮により上記応力が生じていた。
【0060】
しかしながら、本実施形態の圧電共振装置1では、加熱により硬化されて形成される反射層を用いたものに限定されない。すなわち、加熱硬化型材料以外の材料からなる反射層を構成した場合においても、例えば得られた圧電共振装置1の周囲温度が急激に変化した場合では、反射層の熱膨張係数と圧電素子を構成している圧電板の熱膨張係数とが大きく異なる場合には、やはり同様の問題が生じる。従って、そのような場合においても、保持部材の熱膨張係数Yを、反射層を構成する材料の熱膨張係数Xと逆極性とした構成、あるいは同極性の場合には、XをYに比べて十分大きく、すなわちYがXの3%以下、さらにはY=約0とした構成を採用することにより、上記実施形態の場合と同様に反射層と振動素子との界面に加わる応力を効果的に小さくすることができる。
【0061】
よって、反射層は、光の照射により硬化された硬化物、例えば、光硬化されたエポキシ樹脂系硬化物で形成されてもよい。また、硬化性材料の硬化物以外の材料で反射層が構成されてもよく、エポキシ以外の樹脂材料や他の有機系もしくは無機系材料により構成されてもよい。
【0062】
保持部材4,6についても、上記熱膨張係数関係及び音響インピーダンス関係を満たす限り、他のセラミックスや樹脂などのセラミックス以外の材料で形成されてもよい。
【0063】
図5は、本発明の第2の実施形態に係る複合材料振動装置としての積層型の圧電共振装置を示す斜視図である。第2の実施形態の圧電共振装置21では、圧電共振素子2Aにおいて、励振電極12Aが外部電極8に、励振電極13Aが外部電極7に電気的に接続されていること、反射層3A,5Aの厚みが反射層3,5に比べて薄くされていること、並びに下方の保持部材の下面に接着層22を介して板状のコンデンサ素子23が積層されていることを除いては、第1の実施形態の圧電共振装置1と同様に構成されている。従って、同一部分についは同一の参照番号を付することにより、その詳細な説明は省略する。
【0064】
圧電共振装置21では、例えばエポキシ系接着剤などの適宜の接着剤からなる接着層22を介して板状のコンデンサ素子23が積層されている。板状のコンデンサ素子23は、矩形板状の誘電体基板24を有する。誘電体基板24の上面には、一対の容量電極25,26が中央においてギャップを隔てて対向するように配置されている。容量電極25の外側端は外部電極7に、容量電極26の外側端は外部電極8に接続されている。容量電極25,26と誘電体基板24を介して対向するように、容量電極27が誘電体基板24の下面中央に形成されている。容量電極27は、圧電共振装置21を回路基板に実装する際に端子電極として作用するだけでなく、容量電極25,26との間で静電容量を取り出すように機能する。
【0065】
従って、板状のコンデンサ素子23は、容量電極25,26及び端子電極27を有する三端子型のコンデンサ素子である。
【0066】
圧電共振装置21では、板状のコンデンサ素子23からなる容量が内蔵されているため、容量内蔵型の圧電発振子として利用することができる。
【0067】
圧電共振装置21においても反射層3A,5Aの音響インピーダンス値Z2は、音響インピーダンス値Z1及びZ3よりも小さくされており、かつ反射層3A,5Aの熱膨張係数Xは、保持部材4,6の熱膨張係数Yと逆極性か、あるいは熱膨張係数Yよりも大きくされている。あるいは、Y=約0とされている。従って、第1の実施形態の圧電共振装置1の場合と同様に、本実施形態においても、反射層3A,5Aの形成時、あるいは形成後の温度変化による収縮や膨張に起因する応力による影響を抑制することができる。
【0068】
また、本実施形態では、コンデンサ素子23が保持部材6の下面に接着されているが、この場合、誘電体基板を構成する材料を広い範囲から選択することができる。すなわち、圧電共振素子2Aに誘電体基板24が直接貼り合わされた構造では、両者の熱膨張係数差が大き過ぎると、周囲温度の変化による剥離が生じたりするおそれがあった。従って、コンデンサを構成する誘電体基板材料の選択の範囲が狭い。
【0069】
これに対して、本実施形態では、誘電体基板24は、保持部材6の下面に接着層22を介して接合されているため、誘電体基板24を構成する誘電体材料を、圧電共振素子2Aを構成している圧電板11の熱膨張係数の値に制約を受けることなく選択することができる。従って、容量内蔵型の圧電共振素子を構成する際に必要かつ最適な誘電体材料を用いて板状のコンデンサ素子23を構成することができる。
【0070】
図6は、第2の実施形態の圧電共振装置21の変形例の圧電共振装置を示す斜視図である。圧電共振装置31は、圧電共振素子2Aの上方に設けられた反射層3A及び保持部材4が設けられていないこと、並びに圧電共振素子2Aの上面にコーティング膜32が設けられていることを除いては、第2の実施形態の圧電板21と同様に構成されている。圧電共振装置31から明らかなように、本発明においては、振動部材の一方面側にのみ反射層5Aを介して保持部材6が積層されていてもよい。
【0071】
また、コーティング膜32は、圧電共振素子2Aの上面を保護するために設けられているものであり、このような保護作用を果たす適宜の材料により構成され得る。このような材料としては適宜の絶縁性材料などを挙げることができる。
【0072】
なお、本発明においては、上記積層型の圧電共振装置に限らず、圧電共振素子以外の板状の共振素子を用いた積層型の複合材料振動装置に本発明に広く適用することができる。従って、板状の圧電共振素子2,2Aに代えて、電歪素子などの電気機械結合変換素子を用いてもよく、電気機械結合変換素子以外の板状の振動素子を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】(a)及び(b)は、本発明の第1の実施形態に係る複合材料振動装置の正面断面図及び外観を示す斜視図。
【図2】(a)及び(b)は、第1の実施形態の複合材料振動装置で用いられている圧電共振素子の平面図及び底面図。
【図3】(a)は、第1の実施形態の圧電共振装置において、保持部材の熱膨張係数を変更した場合の位相−周波数特性における位相角最大値θmaxの変化を示す図、及び(b)は、(a)の結果を横軸をY/X(%)として書き換えた内容を示す。
【図4】(a)及び(b)は、保持部材の熱膨張係数が9.3ppm/℃及び−0.4ppm/℃の場合における圧電共振素子に加わる応力を有限要素法で解析した結果を模式的に示す各図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る複合材料振動装置としての積層型圧電共振装置を示す模式的正面斜視図。
【図6】第2の実施形態の積層型の圧電共振装置の変形例を示す斜視図。
【図7】(a)及び(b)は、従来の複合材料振動装置の正面断面図及び外観斜視図。
【符号の説明】
【0074】
1…圧電共振装置
2,2A…圧電共振素子
3,5…反射層
3A,5A…反射層
4,6…保持部材
7,8…外部電極
7a,8a…延長部
11…圧電板
12,13…励振電極
12A,13A…励振電極
21…圧電共振装置
22…接着層
23…コンデンサ素子
24…誘電体基板
25,26,27…容量電極
31…圧電共振装置
32…コーティング層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の音響インピーダンス値Z1を有する材料からなる板状体を用いて構成されており、かつ前記板状体の上面及び下面の少なくとも一方に励振電極が備えられた板状の振動素子と、
第1の音響インピーダンス値Z1よりも小さい第2の音響インピーダンス値Z2を有する材料からなり、かつ前記振動素子の上面及び下面の少なくとも一方に積層された反射層と、
前記第2の音響インピーダンス値Z2よりも大きな第3の音響インピーダンス値Z3を有する材料からなり、前記反射層の前記振動素子が積層されている側とは反対側の面に積層された板状の保持部材と、
前記振動素子、反射層及び保持部材からなる積層体の表面に設けられており、かつ前記励振電極に電気的に接続された外部電極とを備え、
前記反射層と前記保持部材との界面において、前記振動素子から反射層に伝播してきた振動が反射されるように構成されている、複合材料振動装置において、
前記反射層と前記振動素子との界面の面方向に沿う前記反射層の熱膨張係数をX、前記反射層と前記保持部材との界面の面方向に沿う前記保持部材の熱膨張係数をYとしたときに、XとYとが逆極性、あるいはXとYとが同極性かつYがXの3%以下とされていることを特徴とする、複合材料振動装置。
【請求項2】
前記保持部材の前記反射層に積層されている面とは反対側の面に接着された板状のコンデンサをさらに備え、該板状のコンデンサが、誘電体基板と、該誘電体基板に設けられた複数の容量電極とを有することを特徴とする、請求項1に記載の複合材料振動装置。
【請求項3】
前記振動素子が、電気機械結合変換素子である、請求項1または2に記載の複合材料振動装置。
【請求項4】
前記電気機械結合変換素子が、圧電素子または電歪素子である、請求項3に記載の複合材料振動装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−72156(P2008−72156A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−350165(P2004−350165)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】