説明

複合焼結磁性材料の製造方法

【課題】量産性に優れた通常の焼結法において高周波域で優れた磁気特性を実現できる複合焼結磁性材料の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】金属磁性粉の表面を酸化して酸化皮膜を形成する第一の工程と、この酸化皮膜の表面に、Znと、少なくともMn、Ni、Mgの一種より選ばれた元素の酸化物とを被覆する第二の工程と、加圧成形により所定形状の成形体とする第三の工程と、熱処理により焼結体とする第四の工程から構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランス、チョークコイルあるいは磁気ヘッド等に用いられる複合焼結磁性材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の電気・電子機器の小型化に伴い、磁性体についても小型かつ高効率のものが要求されている。従来の磁性体としては、例えば高周波回路で用いられるチョークコイルではフェライト粉末を用いたフェライト磁芯および金属粉末の成形体である圧粉磁芯がある。
【0003】
このうち、フェライト磁芯は飽和磁束密度が小さく、直流重畳特性に劣るという欠点を有している。このため、従来のフェライト磁芯においては直流重畳特性を確保することを目的として、磁路に対して垂直な方向に数100μmのギャップを設けて直流重畳時のインダクタンス(L値)の低下を防止している。しかしながら、このような広いギャップはうなり音の発生源となるほか、特に高周波帯域において、ギャップから発生する漏洩磁束が巻線に銅損失の著しい増加をもたらす。
【0004】
一方、軟磁性金属粉末を成形して作製される圧粉磁芯はフェライト磁芯に比べて著しく大きい飽和磁束密度を有しており、小型化には有利といえる。また、この圧粉磁芯はフェライト磁芯と異なりギャップ無しで使用することが可能であり、うなり音や漏洩磁束による銅損失が小さいという特徴を持っている。
【0005】
しかしながら、圧粉磁芯は透磁率およびコア損失についてはフェライト磁芯より優れているとはいえない。特にチョークコイルやインダクタに使用する圧粉磁芯ではコア損失が大きいことから、コアの温度上昇が大きくなり、小型化が図りにくい。また、圧粉磁芯はその磁気特性を向上するために成形密度を上げる必要があり、通常5ton/cm2以上の成形圧力を必要とし、複雑な形状の製品を製造することは極めて困難である。そのため、圧粉磁芯はフェライト磁芯に比べてコア形状としての制約が大きく、製品の小型化が困難である。
【0006】
ここで、圧粉磁芯のコア損失は通常、ヒステリシス損失と渦電流損失とからなり、このうち渦電流損失は周波数の二乗および渦電流が流れるサイズの二乗に比例して増大する。従って、金属磁性粉の表面を絶縁材で被覆することによって、渦電流が流れるサイズを金属磁性粉の粒子間にわたるコア全体から金属磁性粉の粒子内のみに抑えることが可能となり、渦電流損失を低減させることができる。
【0007】
一方、圧粉磁芯は高い圧力で成形されることからコア全体に多数の加工歪を有することにより透磁率が低下し、その結果としてヒステリシス損失が増大する。これを回避するため、成形後、必要に応じて歪みを解放するための熱処理が施される。この熱処理において、金属磁性粉の粒子間を絶縁しつつ金属磁性粉どうしの結着を保つために水ガラスや樹脂等の絶縁性の結着剤が不可欠となる。
【0008】
従来、このような圧粉磁芯の製造方法としては金属磁性粉の表面をテトラヒドロキシシラン(SiOH4)で覆った後、熱処理を施すことで金属磁性粉の表面にSiO2被膜を形成した後加圧成形し、その後熱処理を施した圧粉磁芯や、テトラヒドロキシシラン(SiOH4)で表面を覆った金属磁性粉を熱処理することにより表面にSiO2被膜を形成した後、結着剤としての合成樹脂を混合してから加圧成形、熱処理を施すことで金属磁性粉どうしの結着を確保した圧粉磁芯の製造方法が知られている。
【0009】
しかしながら、このようにして得られた圧粉磁芯において、金属磁性粉の表面に被覆されたSiO2は非磁性体であり磁気ギャップとなるため、透磁率を低下させる原因となっていた。また、金属磁性粉どうしの間に充填された合成樹脂も磁気ギャップとなる上、合成樹脂が存在することから圧粉磁芯の磁性体の充填率が低下し、透磁率を低下させていた。
【0010】
このような透磁率の低下を回避する有効な手段として、金属粉末どうしの間に高固有抵抗を有し、且つ磁性体であるフェライトを形成した構成とする金属−フェライト複合磁芯が提案されており、この作製方法においては焼結時における金属粉末とフェライトの反応を制御することが重要である。その作製方法としては、金属粉末とフェライトの焼結時の反応を抑制しながら焼結するプラズマ活性化焼結法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平04−226003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前記従来の構成では生産性が低く、設備的にも高価となるといった課題があった。
【0012】
本発明は前記従来の課題を解決するもので、量産性に優れた通常の焼結法において優れた磁気特性を実現できる複合焼結磁性材料の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記従来の課題を解決するために、本発明は金属磁性粉の表面を酸化して酸化皮膜を形成する工程と、この酸化皮膜の表面に、Znと、少なくともMn、Ni、Mgの一種より選ばれた元素の酸化物とを被覆する工程と、加圧成形により所定形状の成形体とする工程と、熱処理により焼結体とする工程から構成する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の複合焼結磁性材料の製造方法は、量産性に優れた通常の焼結法において金属磁性粉どうしの間に高固有抵抗を有し、且つ磁性体であるフェライトを形成した構成を実現することにより、優れた磁気特性を実現できる複合焼結磁性材料の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1における複合焼結磁性材料の製造方法について説明する。
【0016】
本実施の形態1における複合焼結磁性材料の製造方法は、高い飽和磁束密度と透磁率を有する金属磁性粉の表面に所定の厚みの酸化皮膜を形成する第一の工程と、この酸化皮膜を形成した金属磁性粉の表面に金属粉であるZnと、少なくともMn、Ni、Mgの一種より選ばれる元素の酸化物(金属酸化物)とを均一に分散させながら被覆する第二の工程と、金型と成形機を用いて所定の形状を有する成形体に成形する第三の工程と、その後所定の雰囲気と温度条件によって熱処理することにより焼結体とする第四の工程より構成するものである。
【0017】
この第四の工程において、金属磁性粉の表面に形成した酸化皮膜と、この酸化皮膜の表面に均一に被覆した金属粉であるZnと、Mn、Ni、Mgの少なくとも一種より選ばれる金属酸化物を加熱により反応せしめることにより、金属であるZnの反応を中心とした液相焼結によって、金属磁性粉の表面に形成した酸化皮膜の構成成分、Znおよび金属酸化物とが反応し、フェライト層を低温で形成できるという特徴を有する製造方法である。このZnの反応を中心とした液相焼結によって、フェライト層の形成を促進しながら金属磁性粉との拡散反応を抑制することによって優れた磁気特性を有する所望の焼結体を得ることができるものである。
【0018】
その結果、低温で形成したフェライト層が金属磁性粉を互いに独立させるとともに焼結体としての結晶構造を形成することにより、高透磁率を有し、且つ渦電流損失を低減できる磁気特性を有する複合焼結磁性材料の製造方法を提供することができる。
【0019】
また、前記と同じような考え方により、金属磁性粉の表面に形成した酸化皮膜と、金属であるZnと、Mn、Ni、Mgの少なくとも一種より選ばれる元素からなる合金を反応せしめることによっても液相焼結によるフェライト層を低温で形成することができ、前記と同様の効果を発揮することができる。
【0020】
次に、金属磁性粉の表面に酸化皮膜を形成するためには酸化雰囲気中において熱処理する方法が生産性の観点から最も効率的であり、均一に金属磁性粉の表面を酸化皮膜によって被覆することが可能である。
【0021】
また、この酸化皮膜の構成としては、Fe23、Fe34等のFe酸化物、あるいは前記Fe酸化物に金属磁性粉の構成元素であるSi、Ni、Mo、Alが一部固溶した酸化物、例えば(Fe、Ni)Fe24等の酸化物が単独もしくは複数形成された酸化皮膜を形成することができる。このようにして形成された酸化皮膜は第四の工程において、Znや、Mn、Ni、Mgの酸化物と金属磁性粉との反応を抑制する効果を示すとともに、Znや、Mn、Ni、Mgの酸化物と反応することによりNi−Zn系、Mn−Zn系、Mg−Zn系のフェライト層となり優れた磁気特性の実現を可能とする。
【0022】
本実施の形態1において、特に低融点を有するとともにフェライトの構成元素であるZnを金属磁性粉の酸化皮膜の表面に被覆させており、このZnの融点以上の温度にて焼結反応を行うことにより、Znを溶融させながら酸化皮膜とMn、Ni、Mgの酸化物などとを反応させながら液相焼結を行わせることが特徴である。このZnの融点は420℃程度であり、この融点以上の温度で液相焼結を行わせることによって熱処理温度を低下させることが可能となるとともに、金属磁性粉の表面に形成した酸化皮膜が金属磁性粉とZnやMn、Ni、Mgの酸化物との反応を抑制するという効果も得られる。
【0023】
また、この複合焼結磁性材料に用いる金属磁性粉としては、Fe、Fe−Si系、Fe−Ni系、Fe−Ni−Mo系、Fe−Si−Al系から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。これらの金属磁性粉は飽和磁束密度、透磁率ともに高く優れた軟磁気特性を示すものである。またFe、Si、Ni、Mo、Alの比率は目的とする磁気特性に応じて適宜決めれば良い。
【0024】
さらに、金属磁性粉の粒径としては限定されるものではないが、1〜100μmが好ましく、より好ましくは10〜60μmである。この金属粉末の粒径が1μmより小さいと金属磁性粉の凝集が強くなり、Znや、Mn、Ni、Mgなどの酸化物を被覆する工程において分散が難しくなり、均一に被覆することが困難となる。また金属磁性粉の粒径が100μmより大きいと渦電流損失が大きくなる。
【0025】
また、Znや、Mn、Ni、Mgなどの酸化物の粒径としては金属磁性粉の粒径より小さいことが望ましく、特にZnの粒径は0.5〜20μmが好ましい。Znは酸素との親和力が強いために0.5μmより小さいと発火等の点から安全性に問題があり、20μmを超えると金属磁性粉の表面に被覆する時、均一性が低下する。また、Mn、Ni、Mgなどの酸化物の粒径としては0.02〜2μmが好ましい。この粒径が0.02μmより小さいと、作製工程における歩留まりが悪くなりコストアップの要因となる。また2μmより大きいと金属磁性粉の周囲に被覆する時に均一性が低下する。
【0026】
さらに、前記酸化物とともにLi、Na、Mg、Ca、Al、Sc、Ti、V、Mn、Co、Ni、Cu、Mo、Rh、W、Cd、Ga、Ge、Sn、Sbの酸化物の少なくとも一種を複合添加すること、あるいはこれらの元素からなる複合酸化物として添加することも可能である。
【0027】
つぎに、第四の工程において形成するフェライト層は金属磁性粉の酸化皮膜の構成元素と前記酸化物の構成元素およびZnから構成されるものであり、目的とする磁気特性に応じてフェライト層の組成は適宜決めれば良く、添加量や組成、酸化皮膜の量により決定することができる。
【0028】
また、金属磁性粉に酸化皮膜を形成する工程における工法としては特に限定されるものではなく、例えば通常の電気炉を用いて大気中にて行うことが生産性の観点から最も適しており、より好ましくは金属磁性粉を攪拌させながら均一に酸化皮膜を形成する方法が良い。この方法として、例えばロータリーキルン等を用いることができる。
【0029】
さらに、酸化皮膜を形成する熱処理温度としては100〜500℃の範囲とすることが好ましい。この熱処理温度が100℃より低いと酸化皮膜の形成に長時間を要し、500℃より高いと金属磁性粉の表面に形成される酸化皮膜どうしが一部結合した凝集粉となるため好ましくない。また、酸化皮膜の形成速度を調整するために、酸素分圧を制御して行うことも可能である。
【0030】
また、酸化皮膜を形成した金属磁性粉の表面にZnと、Mn、Ni、Mgなどの酸化物を被覆する工法としては、特に限定されるものではなく、例えば回転ボールミル、遊星ボールミル等各種ボールミルや、ホソカワミクロン社製のメカノフュージョンシステム、奈良機械製作所製のハイブリッタイゼーションシステム等による各種表面改質装置を用いることが可能である。このとき、添加するZnと、Mn、Ni、Mgなどの酸化物としては均一な粒径を有する粉末を用いることが好ましい。
【0031】
また、前記工法以外に、めっき、ゾルゲル、スパッタ等の方法を用いることも可能である。
【0032】
次に、加圧成形の方法は特に限定されるものではなく、通常の一軸加圧による成形法が量産性の観点から好ましい。この加圧成形における成形圧力も任意の圧力を用いることが可能であるが、好ましくは0.5ton/cm2〜15ton/cm2を用いるとよい。0.5ton/cm2より低い場合は十分な成形体密度が得られず、焼結した後の焼結体密度も低くなり、十分な磁気特性を実現することが困難となる。また、15ton/cm2より高い場合は金属磁性粉どうしが接触するために渦電流損失が増大する。
【0033】
また、焼結方法は特に限定されるものではなく、電気炉等を用いた通常の焼結方法によって焼結を行うことが可能である。この焼結工程における焼結温度としてはZnの溶融する420℃以上であり1300℃以下とすることが好ましく、より好ましくは450〜1150℃の範囲である。焼結温度が420℃より低いとZnの溶融による液相焼結が生じず、1300℃より高いと構成元素の揮発による組成ずれや結晶粒の粗大化による磁気特性の劣化が問題となる。
【0034】
なお、焼結時において酸素分圧の制御が必要な場合は、雰囲気制御可能な電気炉を用いることが可能である。この場合、まず始めに所定の温度において、加圧成形した成形体を非酸化性雰囲気中で予備焼結し、その後、温度を上げてフェライト層が少なくとも90%以上のスピネル相となる平衡酸素分圧雰囲気中にて焼結を行うことができる。
【0035】
このような焼成方法によって、金属磁性粉が過剰に酸化することによる磁気特性の劣化を抑制することができるとともに、高均質な結晶構造を有する複合焼結磁性材料の製造方法とすることができる。
【0036】
さらにまた、非酸化性雰囲気中での焼結により還元し、特性低下したフェライト層を再酸化させ、磁気特性を回復させることも可能となり、これにより軟磁気特性に優れた複合焼結磁性材料の製造方法を提供することが可能となる。
【0037】
つぎに、複合焼結磁性材料の製造方法について具体的に説明する。
【0038】
まず始めに、平均粒径が22μmで(表1)に示した組成を有する金属磁性粉を250〜400℃の範囲でロータリーキルンを用いて大気中にて1〜2時間の酸化処理を行い、金属磁性粉の表面に平均厚み0.3μmの酸化皮膜を形成した。このとき、金属磁性粉の表面に形成した酸化皮膜の厚みはオージェ解析、SIMS解析および電子顕微鏡などの装置を用いて、酸化皮膜の深さを測定することにより測定することができる。この酸化皮膜を形成した金属磁性粉と、平均粒径が約5μmのZn粉と、(表1)に記載の金属酸化物を配合し、その後ボールミルを用いて混合分散を行った。このとき用いた金属酸化物は粒径が0.01〜0.1μm程度のものを用いた。また配合組成としては第四の工程の熱処理において形成されるフェライト層の組成が(表1)に記載の組成となるように算出して決定した。また、フェライト層の組成がNi系試料(試料No1,2,6,7,9,10)と、Mg系試料(試料No4,5,12)は(表1)に記載の条件にて成形後、窒素雰囲気中で1〜2hr焼結し、その後、大気中にて前記熱処理温度で1〜2hrの熱処理を行った。一方、フェライト層の組成がMn系試料(試料No3,8,11)は(表1)に記載の条件にて成形後、窒素雰囲気中で1〜2hr焼結し、その後、2%酸素雰囲気中にて前記熱処理温度で1〜2hrの熱処理を行った。なお、それぞれの試料の冷却は窒素雰囲気中で行った。
【0039】
また、(表1)において比較例として用いた金属圧粉磁芯の試料(試料No13,14)は金属磁性粉にSi樹脂を1.2wt%添加し、(表1)に記載の条件で成形後、窒素中で1〜2hrの熱処理を行った。一方、フェライト磁芯においては、Ni系試料(試料No15)ではフェライト粉末を用いて(表1)に記載の条件にて成形した後、大気中で1〜2hrの焼結を行い、Mn系試料(試料No16)ではフェライト粉末を(表1)に記載の条件にて成形後、2%酸素雰囲気中にて前記熱処理温度で1〜2hrの熱処理を行った。なお、それぞれの比較例の冷却は実施例と同じように窒素雰囲気中で行った。
【0040】
なお、作製した試料の形状は外形15mm、内径10mm、高さ3mm程度のトロイダルコアである。
【0041】
このようにして作製したトロイダルコアの試料について、電磁気特性である直流重畳特性、コア損失特性を測定評価した。この直流重畳特性は印加磁場50Oe、周波数120kHzにおける透磁率をLCRメータにて測定して評価した。一方、コア損失特性は交流B−Hカーブ測定機を用いて測定周波数120kHz、測定磁束密度0.1Tで測定を行った。これらの評価結果を(表1)に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
(表1)の結果より、本発明の複合焼結磁性材料の製造方法によって作製されたトロイダルコアにおいて、金属磁性粉の表面に絶縁材を被覆して作製した圧粉磁芯や金属磁性粉どうしの間に樹脂等の結着剤を充填して作製した圧粉磁芯における透磁率の低下という欠点を解決し、優れた直流重畳特性、低いコア損失特性を示しており、フェライトコアと比較しても優れた軟磁気特性を実現できる複合焼結磁性材料の製造方法を提供することができる。
【0044】
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2における複合焼結磁性材料の製造方法について説明する。
【0045】
本実施の形態2において、基本的な構成は実施の形態1とほぼ同様であり、大きく異なっている構成は、Mn、Ni、Mgの酸化物を用いる代わりに、ZnとMn、Ni、Mgの少なくとも一種の元素からなる合金を用いることである。
【0046】
このような構成とすることにより、焼結過程において酸化皮膜と、ZnとMn、Ni、Mgの少なくとも一種より選ばれる元素からなる合金を反応せしめることによりフェライト層とし、このフェライト層が金属磁性粉を互いに独立させ、且つ連続体である焼結体である構成を有し、金属磁性粉どうしの間に高固有抵抗を有し、且つ磁性体であるフェライト層を形成した構成を実現し、優れた磁気特性を実現できる。これにより、高透磁率化を実現し且つ渦電流損失を低減することが可能となる複合焼結磁性材料の製造方法を提供することができる。
【0047】
これらの合金組成としては特に限定されるものではないが、好ましくは融点が1300℃以下となる合金組成が好ましく、より好ましくは融点が800℃以下となる組成である。1300℃より融点が高いと本発明の焼結工程時に金属磁性粉の表面に形成された酸化皮膜と反応させて均一なフェライト層を形成することが難しくなり、一部残存する。また、構成元素の揮発による組成ずれや結晶粒径の不均一化により磁気特性の高性能化が困難となるという不具合が生じる。
【0048】
なお、主成分に対し微量の不純物あるいは添加物が含まれたとしても同様の効果を示すことはいうまでもない。
【0049】
なお、前記合金とMn、Ni、Mgの少なくとも一種より選ばれた元素の酸化物を複合添加することも可能である。さらには、前記酸化物とともにLi、Na、Mg、Ca、Al、Sc、Ti、V、Mn、Co、Ni、Cu、Mo、Rh、W、Cd、Ga、Ge、Sn、Sbの酸化物の少なくとも一種を複合添加すること、あるいはこれらの元素からなる複合酸化物として添加することも可能である。
【0050】
つぎに、本実施の形態2における複合焼結磁性材料の製造方法について具体的に説明する。
【0051】
まず始めに、組成が重量%で51.2Fe−48.8Ni、平均粒径が20μmの金属磁性粉を用い、大気中にて400℃で1hr、ロータリーキルンを用いて酸化処理を行い、平均厚みが0.4μmの酸化皮膜を金属磁性粉の表面に形成した。このようにして得られた金属磁性粉に(表2)記載の平均粒径が2〜8μmの合金粉末を配合し、メカノフュージョン法を用いて混合分散を行った。その後は実施の形態1と同様にして評価用の試料(試料No17〜19)を作製した。
【0052】
このようにして作製したそれぞれの試料について、実施の形態1と同様の方法によって、直流重畳特性、コア損失について評価を行った。これらの評価結果を(表2)に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
(表2)の結果より、本実施の形態2による複合焼結磁性材料の製造方法を用いて作製したトロイダルコアは優れた直流重畳特性、低いコア損失特性を示していることが分かる。
【0055】
(実施の形態3)
以下、本発明の実施の形態3における複合焼結磁性材料の製造方法について説明する。
【0056】
まず始めに、組成が重量%で94.6Fe−5.4Si、平均粒径が19μmの金属磁性粉を準備し、この金属磁性粉を用いて実施の形態1と同じように電気炉としてロータリーキルンを用い、熱処理の温度および時間を変化させて、それぞれの酸化皮膜の厚みをδとし、金属磁性粉の粒径をdとしたとき、δ/dが(表3)に示すような特性を有する金属磁性粉を作製した。
【0057】
このようにして酸化皮膜を形成した金属磁性粉に、平均粒径が6μmのZnと平均粒径が0.03μmのMgOの所定量を配合し、その後ボールミルにて混合分散を行った。その配合量としては第四の工程の熱処理において形成されるフェライト層の組成がモル%でMg0.518Zn0.488Fe1.984±γの組成となるように算出して決定した。
【0058】
次に、このように配合して得られた混合粉末を成形圧6ton/cm2にてトロイダルコアの形状に加圧成形し、窒素雰囲気中にて950℃で1〜2hrの熱処理を行い、その後大気中にて950℃で1〜2hrの熱処理を行った。
【0059】
なお、作製した試料の形状は実施の形態1と同様である。このようにして作製した試料について、電磁気特性である直流重畳特性とコア損失特性について、実施の形態1と同様の方法で評価を行った。これらの評価結果を(表3)に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
(表3)の結果より、金属磁性粉の粒径をdとし、金属磁性粉の表面に形成された酸化皮膜の厚みをδとしたとき、δ/d≧1×10-4の関係となるような構成とすることにより、第四の工程における熱処理によってフェライト層を形成させるための反応過程において、金属磁性粉との反応を抑制し、低温で液相焼結によって金属磁性粉の周囲にフェライト層を形成することができる複合焼結磁性材料の製造方法を実現することができる。これによって優れた磁気特性を有する複合焼結磁性材料を効率よく製造することができる。
【0062】
このように、金属磁性粉の表面に形成された酸化皮膜の厚みをδ、金属磁性粉の粒径をdとしたとき、δ/dの関係がδ/d≧1×10-4であることが好ましい。δ/dが1×10-4より小さいと焼結時における金属粉末とフェライト層の形成材料であるZnや、Mn、Ni、Mg等との反応を制御する効果に乏しくなり、優れた磁気特性を実現することが難しい。また、δ/dの上限に関しては特に限定されるものではなく、目的とする磁気特性に応じて適宜決定すればよい。すなわち、焼結工程後に形成されるフェライト層の組成や厚みの目標値によって決定される。例えば、フェライト層の組成を同一としたとき酸化皮膜の厚み、すなわちδ/dが大きくなる程、複合焼結磁性材料中のフェライト層の占有率は増えることになり、複合焼結磁性材料の飽和磁束密度は低くなる。従って、直流重畳特性の観点からは複合焼結磁性材料の飽和磁束密度が1T以上となるように決定することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上のように、本発明にかかる複合焼結磁性材料の製造方法は、高い透磁率、優れた直流重畳特性、低いコア損失を有する複合焼結磁性材料を実現できることから、特にトランスコア、チョークコイル、あるいは磁気ヘッド等に用いられる磁性材料の製造方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属磁性粉の表面を酸化して酸化皮膜を形成する第一の工程と、この酸化皮膜の表面に、Znと、少なくともMn、Ni、Mgの一種より選ばれた元素の酸化物を被覆する第二の工程と、加圧成形により所定形状の成形体とする第三の工程と、熱処理により焼結体とする第四の工程からなる複合焼結磁性材料の製造方法。
【請求項2】
第一の工程において、酸化雰囲気中で酸化皮膜を形成する請求項1に記載の複合焼結磁性材料の製造方法。
【請求項3】
第四の工程において、酸化皮膜と、Znと、少なくともMn、Ni、Mgの一種より選ばれた元素の酸化物とを反応せしめてフェライト層を形成し、このフェライト層が金属磁性粉を互いに独立させ、且つ焼結体を形成する請求項1に記載の複合焼結磁性材料の製造方法。
【請求項4】
第四の工程において、450〜1150℃で熱処理する請求項3に記載の複合焼結磁性材料の製造方法。
【請求項5】
金属磁性粉として、Fe、Fe−Si系、Fe−Ni系、Fe−Ni−Mo系、Fe−Si−Al系から選ばれる少なくとも一種を用いる請求項1に記載の複合焼結磁性材料の製造方法。
【請求項6】
金属磁性粉の粒径をdとし、酸化皮膜の厚みをδとしたとき、δ/d≧1×10-4の関係となるように酸化皮膜の厚みを形成する請求項1に記載の複合焼結磁性材料の製造方法。
【請求項7】
金属磁性粉の表面を酸化して酸化皮膜を形成する第一の工程と、この酸化皮膜の表面に、Znと少なくともMn、Ni、Mgの一種より選ばれた元素からなる合金を被覆する第二の工程と、加圧成形により所定形状の成形体とする第三の工程と、熱処理により焼結体とする第四の工程からなる複合焼結磁性材料の製造方法。
【請求項8】
第一の工程において、酸化雰囲気中にて熱処理することにより酸化皮膜を形成する請求項7に記載の複合焼結磁性材料の製造方法。
【請求項9】
第四の工程において、酸化皮膜と、Znと少なくともMn、Ni、Mgの一種より選ばれた元素からなる合金を反応せしめてフェライト層を形成し、このフェライト層が金属磁性粉を互いに独立させ、且つ焼結体を形成する請求項7に記載の複合焼結磁性材料の製造方法。
【請求項10】
第四の工程において、550〜1100℃で熱処理する請求項9に記載の複合焼結磁性材料の製造方法。
【請求項11】
金属磁性粉として、Fe、Fe−Si系、Fe−Ni系、Fe−Ni−Mo系、Fe−Si−Al系から選ばれる少なくとも一種を用いる請求項7に記載の複合焼結磁性材料の製造方法。
【請求項12】
金属磁性粉の粒径をdとし、酸化皮膜の厚みをδとしたとき、δ/d≧1×10-4の関係となるように酸化皮膜の厚みを形成する請求項7に記載の複合焼結磁性材料の製造方法。

【公開番号】特開2006−131462(P2006−131462A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−323360(P2004−323360)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】