説明

複合被覆構造及び複合被覆工法

【課題】下地となる基材への追従性に優れ、機械的性状・化学的性状にも優れ、かつ、表面の滑らかな仕上がりを実現する被覆構造・被覆工法を提供する。
【解決手段】基材(床板構造物1)を下地として繊維マットを貼付し、繊維マットに熱硬化性樹脂を塗り付けて硬化させることにより、下層2を形成し、その上に塗材を塗って硬化させ、上層3を形成する。これにより、繊維強化熱硬化性樹脂からなる下層2と、その上に形成された上層3(塗り床層)とを備えた複合被覆となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてコンクリート床面の被覆構造・被覆工法に関し、特に、防水機能を要する被覆構造・被覆工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の塗り床構造は、例えば塗り床ハンドブック(平成18年版塗り床工業会編著)に記載されているように、建築物の内外を問わず、コンクリート等の床面にエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、MMA(メチルメタアクリレート)樹脂、ポリエステル等の合成樹脂系の塗材や、ポリマーセメント系の塗材を塗布したものである。このような塗り床は、美装性の向上、歩行感の向上、防塵性の向上等の効果が得られるため、事務所、店舗、学校の教室、廊下、倉庫、医療施設等で広く用いられている。また、一定水準の耐荷重性、耐衝撃性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱水性等を備えるため、各種工場床や厨房床等にも用いられている。特にエポキシ樹脂やウレタン樹脂の合成樹脂系の塗材は、仕上がりが美しく、かつ、上記の各性能を備えるため、各種用途に幅広く用いられている。
【0003】
一方、繊維強化熱硬化性樹脂を用いた塗り床も使用されている(例えば、特許文献1,2参照。)。これは、主として屋外仕様の床面(例えば屋上)に使用される。繊維強化熱硬化性樹脂層による床面の被覆は、防水性、耐熱性、遮塩性、耐擦傷性、耐候性、ガスバリヤー性等に優れているとされている。
【0004】
【特許文献1】特開平1−219242号公報
【特許文献2】特許第2580829号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えばコンクリート床面に施工された合成樹脂系の塗り床は、下地のコンクリートがひび割れを生じた瞬間の、いわゆるゼロスパンテンション(下地のスパン(ひび割れに相当)ゼロの状態から引っ張られること)で塗り床塗材が破断する。すなわち、コンクリート下地の乾燥収縮クラック、構造物の動きによる床面のクラック、打ち継ぎ部の目地クラック等、下地のクラックが発生すると、これに塗り床塗材が柔軟に追従することができず、ひび割れが発生するという問題点がある。
【0006】
また、下地の最初のクラック発生に塗り床が耐えて、ひび割れが発生しなかったとしても、一旦クラックができると、クラックの両岸で下地の微動が繰り返されるうちに、塗り床の塗材面に疲労劣化が起こり、結局はひび割れが発生する。例えば、水、熱水、薬液等を使用する厨房や工場のフロアが建物の2階以上にあると、塗り床にひび割れが発生した場合は、階下に水や薬液漏れ被害を生じさせることになる。
【0007】
そこで、このようなひび割れを防止すべく、合成樹脂系塗材を柔らかくして引張り伸び率を上げることにより、追従性(ひび割れを生じることなく、下地のクラック等の局所的変化に追従する性能(=亀裂抵抗性))を向上させようとする試みがなされてきた。このような柔軟化により合成樹脂系塗材の追従性は確かに改善されるが、その反面、柔軟化することにより塗材の耐荷重性等の機械的性状、耐薬品性、耐熱水性等の化学的性状が著しく低下する。
【0008】
逆に、機械的性状や化学的性状を向上させるためには、樹脂の分子構造を緻密にし、硬度、強度、弾性率(変形に対する抵抗性)を上げる必要がある。このように、結局、追従性と機械的・化学的性状とを両立させることは困難であり、より高水準な耐荷重性、耐薬品性、耐熱水性等の性能が要求される各種工場や厨房等の塗り床に、合成樹脂系塗材を使用することには限界があった。
【0009】
一方、繊維強化熱硬化性樹脂の場合には、強化繊維による表面の凹凸や、熱硬化性樹脂の硬化収縮による表面平滑度や光沢の低下により、床面の美観が低下する。凹凸を低減するには、表面に凹凸防止の目止め用中塗り樹脂やトップコートを使用することもできるが、その程度では十分ではない。また、トップコートには、表面のべたつきをなくすためにパラフィンワックス類が添加されており、これが、表面の光沢を著しく低下させる。
【0010】
かかる従来の問題点に鑑み、本発明は、下地となる基材(典型的には床面)への追従性に優れ、機械的性状・化学的性状にも優れ、かつ、表面の滑らかな仕上がりを実現する被覆構造・被覆工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の複合被覆構造は、基材を下地として形成され、繊維強化熱硬化性樹脂からなる下層と、塗材によって前記下層の上に形成された上層とを備えたことを特徴とする。
上記のような複合被覆構造は、繊維強化熱硬化性樹脂を下層に閉じこめ、その上に塗材で上層を形成する複合被覆とした。このような複合被覆構造は、下地と上層との間に、上層よりも引っ張りや圧縮に強い繊維強化熱硬化性樹脂からなる下層が存在することで、下地にひび割れが発生しても、応力の分散により、上層のひび割れを抑制することができる。また、防水性、耐熱性、遮塩性、耐擦傷性、耐候性、ガスバリヤー性等の機械的性状・化学的性状に優れた下層の存在は、そのまま複合被覆全体の当該性状に寄与する。さらに、繊維強化熱硬化性樹脂は露出しないので、塗材によって形成された上層により、表面の光沢を確保することができる。
【0012】
また、上記複合被覆構造において、基材は床板構造物であり、上層は塗り床用の合成樹脂からなるものであってもよい。
この場合、機械的性状・化学的性状に優れ、光沢のある床を提供することができる。特に、床下や階下への水漏れを防止する床面の被覆構造として最適である。
【0013】
一方、本発明の複合被覆工法は、(1)基材を下地として繊維マットを貼付し、(2)前記繊維マットに熱硬化性樹脂を塗り付けて硬化させることにより、下層を形成し、(3)前記下層の上に塗材を塗って硬化させ、上層を形成することを特徴とする。
上記のような複合被覆工法では、繊維強化熱硬化性樹脂を下層に閉じこめ、その上に塗材で上層を形成するので、表面に凹凸のある下層に対して、上層の接着性が良好となる。また、このような工法で生産された複合被覆は、上述の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、下地となる基材への追従性及び機械的性状・化学的性状に優れ、かつ、表面の滑らかな仕上がりを実現する被覆構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る複合被覆構造について説明する。ここで、複合被覆を施す対象となる典型的な基材とは、床板構造物である。床板構造物は、例えばセメントコンクリート、アスファルトコンクリート、JIS−5403(石綿スレート)、ALC(軽量気泡コンクリート)板、PC(プレストレストコンクリート)板、FRP(繊維強化プラスチック)、プラスチック、木質物、金属等の単独又は組合せにより構成される。なお、基材の形状は、床面のような水平面に限定されるものではく、構造物の表面であれば球面、曲面、垂直面、斜面等でもよい。但し、以下の説明では、主要な用途としての、セメントコンクリートを下地とする工場や厨房等建築構造物の床板構造物について説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る複合被覆構造を示す斜視図である。図において、基材となるのは、床板構造物1である。下層2は、繊維強化熱硬化性樹脂からなるものであり、床板構造物1を下地として形成される。上層3は、塗材によって下層2の上に形成されるものである。
工法としては、下層2は、床板構造物1を下地として繊維マットを貼付し、この繊維マットに熱硬化性樹脂を塗り付けて硬化させることにより形成される。また、上層3は、下層2の上に塗材を塗って硬化させることにより、形成される。このような工法では、繊維強化熱硬化性樹脂を下層2に閉じこめ、その上に塗材で上層3を形成するので、表面に凹凸のある下層2に対して、上層3の接着性(くいつき)が良好となる。
【0017】
上記のような複合被覆構造は、下地と上層3との間に、上層3よりも引っ張りや圧縮に強い繊維強化熱硬化性樹脂からなる下層2が存在することで、下地にひび割れが発生しても、上層3のひび割れを抑制することができる。このように、繊維強化熱硬化性樹脂層を下層2とする複合被覆によって上層3のひび割れを抑制することができる(すなわち、追従性が改善される。)のは、下地にひび割れが発生したとき、繊維強化熱硬化性樹脂層における繊維挿入効果で下層2が下地表面から微少に剥離して、上層3の塗り床層にゼロスパンテンションが作用することを抑制するからであると解される。また、下層2による応力の分散も、上層3のひび割れ抑制に寄与すると解される。
【0018】
また、防水性、耐熱性、遮塩性、耐擦傷性、耐候性、ガスバリヤー性等の機械的性状・化学的性状に優れた下層2の存在は、そのまま複合被覆全体の当該性状に寄与する。さらに、繊維強化熱硬化性樹脂は露出しないので、塗材によって形成された上層3により、表面の光沢を確保することができる。従って、機械的性状・化学的性状に優れ、光沢のある床を提供することができる。特に、床下や階下への水漏れを防止する床面の被覆構造として最適である。
以下、上層3及び下層2について、さらに詳細に説明する。
【0019】
上層(塗り床層)3は、塗り床ハンドブック(平成18年版塗り床工業会編著)に記載されているような塗り床用の樹脂を基本材料にした組成物で構成され、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、MMA樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等の合成樹脂がビヒクル(vehicle:塗料を構成する主要成分)として使用されている。また、これら塗り床用の樹脂材料は、使用される部位、要求される性能、施工法によって使い別けられる。例えば1液型か2液型か、また0.8mm以上の厚膜型か、それ未満の薄膜型か、あるいは溶剤型か水性型か等があり、必要な種類の樹脂材料が選択される。なお、各種の耐久性を考慮した場合には一般に厚膜型が好ましい。
【0020】
塗り床材の組成は、主成分の合成樹脂ビヒクルの他、希釈剤、着色顔料、充填材、添加剤等から構成される。主成分の合成樹脂ビヒクルは、塗り床材を塗膜として硬化させるための成分で、塗り床材の物性等の基本性能はこの合成樹脂ビヒクルに大きく依存する。希釈剤は主に、塗り床材の粘度調整用として使用される。厚膜型や薄膜溶剤型塗り床材には有機溶剤や非反応性希釈剤、反応性希釈剤が使用され、薄膜水性型塗り床材には水が溶媒の一つとして使用される。着色顔料は塗り床材の着色に用いられ、一般的にはシアニンブルー、シアニングリーン等の有機系顔料、又は、酸化チタン、弁柄、カーボンブラック等の無機系顔料が用いられている。
【0021】
充填材は塗膜性能および塗装性能の調整成分として使用される。一般的にはタルク、炭酸カルシウム、粉末状シリカ等が使用される。添加剤には分散剤、消泡剤、レベリング剤等があり、塗膜性能及び塗装性能の調整成分として使用される。
また、合成樹脂塗り床材は、材料の反応形態により1液型と2液型の種類がある。2液型の場合、一般的には反応の主体となるビヒクルを含有する成分を主剤、硬化させるビヒクルを含有する成分を硬化剤と呼称している。1液型の材料としては、ウレタン樹脂系の湿気硬化型やアクリル樹脂系の乾燥造膜型がある。
【0022】
前述のように、塗り厚みによって厚膜型と薄膜型がある。厚膜型塗り床材は、樹脂成分及び無機質充填材等、90%以上の固形分と、溶剤や水分等、10%以下揮発成分とで構成されている。一方、薄膜型は「溶剤系塗り床材」又は「防塵塗料」と呼ばれ、固形分が50〜70%、揮発成分が30〜40%程度である。エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系は厚膜型と薄膜型の両方があり、MMA樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂系は厚膜型のみしかない。厚膜型塗り床材とは、硬化後の塗膜厚みが0.8mm程度以上の塗り床材をいい、薄膜型に比較し耐久性、耐荷重性、弾力性、耐薬品性、耐熱水性等、選択する樹脂系や工法によって、様々な機能を付与することができる。本実施形態の複合被覆構造・複合被覆工法においては、厚膜型塗り床材が好ましい。
【0023】
次に、塗り床材に使用する各種樹脂について詳細に説明する。本実施形態で使用するエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂や上記の水添エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂、難燃型エポキシ樹脂等が挙げられる。なお、エポキシ基を少なくとも分子中に2個以上含有するエポキシ樹脂は、硬化に際して反応性が高く、また硬化物が3次元網目を作りやすい等の点から好ましい。エポキシ樹脂組成物の硬化剤として用いるポリアミン系硬化剤はトリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノプロピルアミン等の化合物が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
本実施形態で使用されるウレタン塗り床用樹脂とは、材料の反応形態により1液型と2液型の種類がある。1液型には湿気硬化型とエマルジョン型があり、湿気硬化型は空気中の水分を直接または間接の硬化剤として常温下で硬化反応して塗膜を形成する。エマルジョン型は乾燥によって塗膜を形成する。1液湿気硬化型材料はイソシアネート化合物とポリオールを反応させて得られる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーに希釈剤、着色顔料、充填材、添加剤等を練り混ぜたペースト状液体の材料である。
【0025】
2液型ウレタン塗り床用樹脂は、主剤と硬化剤の2成分の材料を混合、塗布した後、常温下で硬化反応して塗膜を形成する。主剤はイソシアネート化合物とポリオールを反応させて得られる末端にイソシアネート基を有する粘ちょう状液体である。また硬化剤はイソシアネート基と反応するポリオール、アミン等に、希釈剤、着色顔料、充填材、添加剤等を練り混ぜたペースト状液体の材料である。2液型ウレタン塗り床用樹脂には特殊な吹きつけ塗装機を使用して、短時間で硬化させる超速硬化ウレタンと呼称される材料もある。
【0026】
上記ウレタン塗り床用樹脂原料として使用するイソシアネートとしては、ウレタン塗り床用樹脂の製造に使用される有機ポリイソシアネート類がいずれも使用できる。例えばトリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の化合物が例示されるが、これらに限定されるものではない。
またポリオールとしてはポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール等の化合物が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
本実施形態で使用されるMMA樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂に共通する特性は、硬化機構がラジカル硬化型のため、極めて短時間で硬化することである。塗り床用MMA樹脂はメタクリル酸メチル等を原料とするモノマー・オリゴマーを主成分とした樹脂液に、施工現場でBPO(過酸化ベンゾイル)等の有機過酸化物、促進剤、顔料、充填材等を加え重合・硬化させる。樹脂液はモルタル用、流しのべ用、トップコート用等の用途により最も適した粘度に合わせる。
【0028】
塗り床用ポリエステル樹脂は後述する繊維強化熱硬化性樹脂層に使用する樹脂と同系統の化合物である。塗膜層を形成するには、多塩基酸と多価アルコールを反応させて合成した不飽和ポリエステルをスチレン等のモノマーに溶解して得た液体に、施工時にMEKPO(メチルエチルケトンペルオキシド)等の有機過酸化物を加え、重合・硬化させる。
塗り床用ビニルエステル樹脂はポリエステル樹脂と類似の構造をもち、使用方法もポリエステル樹脂と同様である。性能的にはポリエステル樹脂より耐薬品性に優れる特性を有している。塗膜層を形成するには、エポキシ樹脂の末端にメタクリル酸またはアクリル酸を反応して得られる樹脂をスチレン等のモノマーに溶解して得た液体に、施工時にMEKPO等の有機過酸化物を加え、重合・硬化させる。
【0029】
次に、繊維強化熱硬化性樹脂(一般にはFRPの呼称で知られる。)によって構成される下層2について説明する。
下層2の熱硬化性樹脂として使用されるのは、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等であり、好ましくは不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂である。下層2に使用される不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂は、前述の、塗り床用樹脂における不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂とほとんど同一の組成、製造法である。
【0030】
さらに詳細に説明すると、不飽和ポリエステル樹脂としては、α,β−不飽和二塩基酸叉はその酸無水物と、芳香族飽和二塩基酸叉はその酸無水物と、グリコール類の重縮合によって製造され、場合によっては酸成分として脂肪族或いは脂環族飽和二塩基酸を併用して製造された不飽和ポリエステル30〜80重量部を、α,β−不飽和単量体70〜20重量部に溶解して得られるものが挙げられる。また、ビニルエステル樹脂とは、不飽和ポリエステルの末端をビニル変性したもの、及び、エポキシ樹脂骨格の末端をビニル変性したものである。
【0031】
これらの樹脂には、必要により増粘剤、充填剤、硬化触媒、硬化促進剤、低収縮化剤等が添加される。特に硬化触媒、硬化促進剤の添加は、迅速な硬化に有用である。
着色剤としては、既知の有機及び無機の染料、顔料がいずれも使用できるが、中でも、耐熱性、透明性に優れ、かつ不飽和ポリエステル等の硬化を著しく妨害することのないものが好ましい。
【0032】
一方、繊維強化材としては、例えばガラス繊維、アミド、アラミド、ビニロン、ポリエステル、フェノール等の有機繊維、カーボン繊維、金属繊維、セラミック繊維あるいはそれらの組合わせが用いられる。施工性、経済性を考慮した場合、好ましいのはガラス繊維、有機繊維である。ガラス繊維の形態は、平織り、朱子織り、マット状等があるが、施工性、厚み保持等よりマット状が最も好ましい。またガラスロービングを20〜100mmにカットして、チョップドストランドにしてスプレー施工で使用することも可能である。
【0033】
下層2における充填剤としては、炭酸カルシウム粉、クレー、アルミナ粉、硅石粉、タルク、硫酸バリウム、シリカパウダー、ガラス粉、ガラスビーズ、マイカ、水酸化アルミニウム、セルロース系、硅砂、川砂、寒水石、大理石屑、砕石等の周知のものが挙げられ、なかでも炭酸カルシウム、ガラス粉、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム等が好ましい。
【0034】
硬化触媒としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等に作用するもので、例えば、アゾイソブチロニトリルのようなアゾ化合物、ターシャリーブチルパーベンゾエート、ターシャリーパーオクトエート、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物等を挙げることができ、不飽和ポリエステル樹脂100重量部に対して通常0.3〜3重量部の範囲で用いることができる。
硬化促進剤としては、有機酸の金属塩類特にコバルト塩、例えばナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルト、アセチルアセトンコバルト等が使用される。
【0035】
複合被覆工法については、前述のように、下地の上に下層2となる繊維強化熱硬化性樹脂層を施工し、これが硬化した後に、直接上層3としての塗り床層を施工する。下層2と上層3との接着性は一般的には良好であるが、使用する材料の特性によっては層間にプライマー等を使用して、さらに接着性を向上させてもよい。
本実施形態の上層3(塗り床材)は、一般的な工具・機具類(例えばコテやローラ)によって施工される。また、プライマーは、周知の工程管理、施工法等で施工される。詳細には前述の、塗り床ハンドブック(平成18年版塗り床工業会編著)第4章に記載されている塗り床の施工に準拠して施工される。
【0036】
一方、下層2(繊維強化熱硬化性樹脂層(FRP層))は、周知の積層含浸法で施工され、積層含浸ローラ等を用いるハンドレイアップ法や、特殊例として機械を用いるスプレーアップ法でもよい。ハンドレイアップ法に関する工具・器具類、工程管理、施工法等は、日本建築学会の建築工事標準仕様書・同解説JASS8(2008改定版)防水工事に詳細に記載されているFRP系塗膜防水工法・密着仕様L−FFの施工法に基づいて施工することができる。
【0037】
以下、具体的な実施例としての試験体と、その試験結果について説明する。
試験体の材料は、以下の通りとする。
(塗り床材料)
エポキシ樹脂:ケミクリートE・流しのべ工法、株式会社エービーシー商会製
ポリウレタン樹脂:ビューコート・流しのべ工法、株式会社エービーシー商会製
MMA樹脂:ブレンマーRC−810・流しのべ工法、ニチユソリュウション
(FRP材料)
不飽和ポリエステル樹脂:ポリルーフS−2・双和化学産業株式会社製
ビニルエステル樹脂:X−1A・双和化学産業株式会社製
ガラスマット:ポリルーフマット#450・双和化学産業株式会社製
プライマー:ポリルーフS−1R・双和化学産業株式会社製
【0038】
実施例1〜4の試験体としては、図1の床板構造物1として繊維強化セメント板を使用し、下層2(FRP層)・上層3(塗り床層)には、後掲の表1、表2に記載された樹脂を使用した。FRP層の仕様としては、2000年、日本建築学会制定のFRP防水工事施工指針(案)・同解説のF−A仕様を採用した。また、塗り床層の仕様としては、エポキシ系、ウレタン系共に厚み2mmで作成、プライマーはそれぞれの系のものを塗り床ハンドブックに準拠して使用した。なお、FRP層の下(繊維強化セメント板との間)には、湿気硬化型ウレタン系プライマーを塗布した。
【0039】
表1における比較例1,2の試験体としては、繊維強化セメント板上に、FRP層なしで、単層としての塗り床層のみを形成したものを使用した。
表2における比較例3,4の試験体としては、繊維強化セメント板上に、単層としてのFRP層を形成し、塗り床層を設けず、代わりにトップコートを施したものを使用した。
なお、トップコートに関しては、表1における試験体については施さず、表2の試験体(実施例4も同様)についてのみ施した。トップコートの施工法は、プライマーと同様である。
【0040】
上記のような試験体に対して、追従性試験、衝撃強さ試験、表面光沢度試験を実施した結果を、表1及び表2に示す。
追従性については、試験体を上下より引っ張って評価した。データは、破断時の伸び(荷重と伸び曲線とにより)、破壊荷重、及び、破断状態を調べた。表1中の「破断状態」に関して、記号A、記号Bは、以下の評価内容である。
A:上層(塗り床層)に異常なし、下層(FRP層)と下地の剥離(問題なし)
B:上層(塗り床層)の破断(問題あり)
【0041】
一方、衝撃試験に関しては、塗り床ハンドブック(平成18年版塗り床工業会編著)記載の塗り床材の衝撃強さ試験方法の、NNK−002に準拠して試験体の作成及び評価試験を実施した。複合被覆の構成は追従性試験と同様に作成した。評価は表面塗膜に亀裂が入るまでの回数とする。
また、光沢度試験法は、JISK5600−4.7、60度鏡面光沢度試験に準じて評価した。
【0042】
【表1】

【0043】
なお、表1において、EPはエポキシ樹脂、PUはポリウレタン樹脂、UPEは不飽和ポリエステル樹脂、VEはビニルエステル樹脂を表わす。
【0044】
【表2】

【0045】
なお、表2において、アスタリスクを付した衝撃試験の回数は、トップコートにひび割れが発生した時点でのものである。また、MMAはMMA樹脂を表わす。
【0046】
表1より、追従性に関して、実施例1〜3と、比較例1,2との差は歴然としており、複合被覆により飛躍的に追従性が改善されていることがわかる。
また、衝撃試験に関しても、実施例1〜3と、比較例1,2との差は歴然としており、複合被覆により飛躍的に耐衝撃性が改善されていることがわかる。
さらに、光沢度に関しては、言うまでもなく実施例1〜3は、比較例1,2と全く同様の値を示している。
【0047】
一方、トップコートを施した表2の実施例4と、比較例3,4とを比較すると、追従性のうち破断時の伸びに関しては複合被覆の方が優れている。破壊荷重に関しては、小差ではあるが、実施例4が、比較例3,4より優れている。
衝撃試験に関しては、比較例3,4ではトップコートのひび割れが見られ、実施例4の複合被覆が明らかに優れている。
また、比較例3,4は、光沢度において実施例4の複合被覆より明らかに劣っている。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態に係る複合被覆構造を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0049】
1 床板構造物(基材)
2 下層
3 上層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を下地として形成され、繊維強化熱硬化性樹脂からなる下層と、
塗材によって前記下層の上に形成された上層と
を備えたことを特徴とする複合被覆構造。
【請求項2】
前記基材は床板構造物であり、前記上層は塗り床用の合成樹脂からなる請求項1記載の複合被覆構造。
【請求項3】
基材を下地として繊維マットを貼付し、
前記繊維マットに熱硬化性樹脂を塗り付けて硬化させることにより、下層を形成し、
前記下層の上に塗材を塗って硬化させ、上層を形成する
ことを特徴とする複合被覆工法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−95962(P2010−95962A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269631(P2008−269631)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(392024079)双和化学産業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】