説明

計測装置

【課題】コストの増加を抑えながら参照面と被検面との間の光路長差の変化に起因する計測誤差を低減し、参照面と被検面との間の距離を計測する計測装置を提供する。
【解決手段】周波数を走査可能なn(n=2以上の整数)個の光源と、前記n個の光源からのそれぞれの光を分割し、参照面と被検面とに入射させる分割素子と、前記参照面で反射された光と、前記被検面で反射された光との干渉により形成されるn個の干渉光を検出して干渉信号を出力する検出部と、前記距離を求める処理部と、前記処理部は、前記n個の光源のうち1つの第1光源からの光の周波数を第1方向に第1走査速度で走査するように制御し、且つ、前記n個の光源のうち他の1つの第2光源からの光の周波数を第1方向とは逆の第2方向に前記第1走査速度とは異なる第2走査速度で走査するように制御し、前記n個の光源を制御している間の前記干渉信号に基づいて、前記距離を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、参照面と被検面との間の距離を計測する計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
参照面と被検面(被検物)との間の距離を計測する計測装置として、周波数(波長)走査型の光波干渉計や固定波長型の光波干渉計が知られている。周波数走査型の光波干渉計は、光源の周波数を時間的に走査して得られる干渉信号の周波数に基づいて、参照面と被検面との間の距離を求める。周波数走査型の光波干渉計は、ヘテロダイン干渉計やホモダイン干渉計に代表される固定波長型の光波干渉計と比較して、構成が単純であり、低コストであるという利点がある。
【0003】
周波数走査型の光波干渉計では、計測条件として、周波数を走査している間に参照光(参照面で反射された光)と被検光(被検面で反射された光)との光路長差が変化しないことが必要であり、光路長差が僅かに変化しただけでも大きな計測誤差となる。例えば、光源の中心波長を780nm、光源の周波数の走査量を100GHz(0.2nm)とし、周波数を走査している間に光路長差が1nm変化した場合には、約3.8μmの計測誤差が生じてしまう。このような光路長差の変化は、振動や温度変化などによって必然的に生じるものである。そこで、参照光と被検光との光路長差の変化に起因する計測誤差を低減するための技術が幾つか提案されている(特許文献1及び非特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1には、中心波長が異なる2つの光源(周波数走査光源)を用いて、各干渉信号のビート信号の位相差に基づいて演算処理を行うことで、参照光と被検光との光路長差の変化に起因する計測誤差を低減する技術が開示されている。また、非特許文献1には、周波数を走査する方向が異なる2つの周波数走査光源を用いて、2つの干渉信号から得られる計測値の平均値をとることで、参照光と被検光との光路長差の変化に起因する計測誤差を低減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−120211号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Hai−Jun Yang and Keith Riles. “High−precision absolute distance measurement using dual−laser frequency scanned interferometry under realistic conditions”. Nuclear Instruments & Methods in Physics Research, Section A, Volume 575, Issue 3, 1 June 2007, pages 395−401
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、2つの光源のそれぞれの干渉信号を検出するために、2つの検出器が必要となり、装置コストの増大を招いてしまう。特に、被検物の面形状を計測する場合には、CCDやCMOSなどの2次元センサを検出器として用いるため、装置コストの増大が顕著となる。
【0008】
また、非特許文献1の技術では、2つの光源のそれぞれの干渉信号を1つの検出器で検出するために、かかる検出器で検出される干渉信号を時間的に切り替えるチョッパーが必要となり、装置コストの増大を招いてしまう。
【0009】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされ、コストの増加を抑えながら参照面と被検面との間の光路長差の変化に起因する計測誤差を低減し、参照面と被検面との間の距離の計測に有利な技術を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての計測装置は、参照面と被検面との間の距離を計測する計測装置であって、周波数を走査可能なn(n=2以上の整数)個の光源と、前記n個の光源からのそれぞれの光を分割し、前記参照面と前記被検面とに入射させる分割素子と、前記参照面で反射された光と、前記被検面で反射された光との干渉により形成されるn個の干渉光を検出して干渉信号を出力する検出部と、前記距離を求める処理を行う処理部と、を有し、前記処理部は、前記n個の光源のうち1つの第1光源からの光の周波数を第1方向に第1走査速度で走査するように制御し、且つ、前記n個の光源のうち他の1つの第2光源からの光の周波数を第1方向とは逆の第2方向に前記第1走査速度とは異なる第2走査速度で走査するように制御し、前記n個の光源を制御している間に前記検出部で検出される前記干渉光の前記干渉信号に基づいて、前記距離を求めることを特徴とする。
【0011】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、例えば、コストの増加を抑えながら参照面と被検面との間の光路長差の変化に起因する計測誤差を低減し、参照面と被検面との間の距離の計測に有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態における計測装置の構成を示す図である。
【図2】図1に示す計測装置の検出部で取得される干渉信号の一例を示す図である。
【図3】図2に示す干渉信号を周波数解析した結果の一例を示す図である。
【図4】図1に示す計測装置における参照面と被検面との間の距離を計測する処理を説明するためのフローチャートである。
【図5】本発明の第2の実施形態における計測装置の構成を示す図である。
【図6】図5に示す計測装置における参照面と被検面との間の距離を計測する処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態における計測装置MAAの構成を示す図である。計測装置MAAは、参照面と被検面との間の距離を計測する光波干渉計である。計測装置MAAは、第1光源1と、第2光源2と、処理部13と、無偏光ビームスプリッタ14、15及び20と、波長計測ユニット100及び200と、干渉計ユニット400とを有する。波長計測ユニット100は、ファブリペローエタロン10と、検出部7とを含み、波長計測ユニット200は、ファブリペローエタロン11と、検出部8とを含む。また、干渉計ユニット400は、無偏光ビームスプリッタ23と、検出部6とを含む。
【0016】
計測装置MAAは、本実施形態では、射出する光の周波数を走査可能な2つの光源(第1光源1及び第2光源2)を有するが、これに限定されるものではない。例えば、計測装置MAAは、射出する光の周波数を走査可能な3つ以上の光源を有してもよい。
【0017】
第1光源1から射出された光L1は、無偏光ビームスプリッタ14によって2つの光に分割され、一方の光が波長計測ユニット100に導かれ、他方の光が干渉計ユニット400に導かれる。また、第2光源2から射出された光L2は、無偏光ビームスプリッタ15によって2つの光に分割され、一方の光が波長計測ユニット200に導かれ、他方の光が干渉計ユニット400に導かれる。
【0018】
波長計測ユニット100に入射した光L1は、波長基準素子としてのファブリペローエタロン10を透過して検出部7に入射する。処理部13は、検出部7で検出された光強度(光L1の強度)に基づいて、第1光源1から射出される光の周波数(波長)を制御する。同様に、波長計測ユニット200に入射した光L2は、波長基準素子としてのファブリペローエタロン11を透過して検出部8に入射する。処理部13は、検出部8で検出された光強度(光L2の強度)に基づいて、第2光源2から射出される光の周波数(波長)を制御する。
【0019】
ファブリペローエタロン10及び11のそれぞれの透過スペクトルについては、透過スペクトルのそれぞれのピークの相対値が保証されていることが必要である。そこで、本実施形態では、透過スペクトルの間隔が保証された真空媒質のエタロンをファブリペローエタロン10及び11として用いている。真空媒質のエタロンは、内部媒質の屈折率及び分散がないため、波長の相対値を容易に保証することができる。更に、低熱膨張ガラスなどをエタロンの材質として用いれば、温度に対する膨張を低減し、長期的に安定した波長基準素子を実現することができる。但し、ファブリペローエタロン10及び11は、真空媒質のエタロンに限定されるものではなく、例えば、エアギャップのエタロンやソリッドエタロンなどを用いてもよい。この場合には、エタロンの温度を計測するなどして内部の屈折率及び分散を保証する必要がある。また、ファブリペローエタロン10及び11のそれぞれは、第1光源1及び第2光源2からのそれぞれの光の周波数の走査範囲内に、少なくとも2つ以上の透過スペクトルを有するとよい。これにより、第1光源1及び第2光源2からの光の周波数を走査している間の各時刻における波長を保証することができる。
【0020】
干渉計ユニット400に導かれる光L1及びL2は、無偏光ビームスプリッタ20によって合波される。干渉計ユニット400に入射した光L1は、無偏光ビームスプリッタ23によって参照面4に入射する第1参照光(第1光)と被検面5に入射する第1被検光(第2光)とに分割される。そして、第1参照光は、参照面4で反射して無偏光ビームスプリッタ23に戻り、第1被検光は、被検面5で反射して無偏光ビームスプリッタ23に戻る。同様に、干渉計ユニット400に入射した光L2は、無偏光ビームスプリッタ23によって参照面4に入射する第2参照光(第3光)と被検面5に入射する第2被検光(第2光)とに分割される。そして、第2参照光は、参照面4で反射して無偏光ビームスプリッタ23に戻り、第2被検光は、被検面5で反射して無偏光ビームスプリッタ23に戻る。このように、無偏光ビームスプリッタ23は、第1光源1からの光を第1光と第2光とに分割し、第2光源2からの光を第3光と第4光とに分割し、第1光及び第3光を参照面4に入射させ、第2光及び第4光を被検面5に入射させる分割素子として機能する。
【0021】
第1参照光と第1被検光、及び、第2参照光と第2被検光は、無偏光ビームスプリッタ23によって合波されて検出部6に入射する。検出部6は、第1参照光と第1被検光との干渉により形成される第1干渉光と、第2参照光と第2被検光との干渉により形成される第2干渉光とを含む光を(第1干渉光と第2干渉光とを一括して)検出して、図2に示すような干渉信号S12を出力(取得)する。干渉信号S12は、第1光源1からの光による(第1干渉光に対応する)干渉信号(第1信号)S1と、第2光源2からの光による(第2干渉光に対応する)干渉信号(第2信号)S2とを足し合わせた信号である。干渉信号S1、S2及びS12のそれぞれは、以下の式(1)、(2)及び(3)で表される。
【0022】
【数1】

【0023】
【数2】

【0024】
【数3】

【0025】
ここで、Aは第1参照光の振幅強度、Aは第2参照光の振幅強度、Bは第1被検光の振幅強度、Bは第2被検光の振幅強度である。また、f(t)は時刻tにおける第1光源1からの光の周波数、f(t)は時刻tにおける第2光源2からの光の周波数、Lは参照面4と被検面5との間の距離である。但し、空間の屈折率は1とし、分散はないものとしている。
【0026】
本実施形態では、垂直共振器面発光レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting LASER)を第1光源1及び第2光源2として用いている。第1光源1からの光の中心周波数fc及び第2光源2からの光の中心周波数fcのそれぞれは、fc=448[THz]及びfc=353[THz]である。
【0027】
また、処理部13は、参照面4と被検面5との間の距離を求める際に、第1光源1及び第2光源2を制御する。処理部13は、第1光源1からの光の周波数を第1方向に第1走査速度で走査するように第1光源1を制御し、且つ、第2光源2からの光の周波数を第1方向とは逆の第2方向に第1走査速度とは異なる第2走査速度で走査するように第2光源2を制御する。換言すれば、処理部13は、第1光源1及び第2光源2のそれぞれからの光の周波数を走査する方向及び周波数の走査速度の絶対値が互いに異なるように、第1光源1及び第2光源2を制御する。本実施形態では、処理部13は、第1光源1に関しては、第1光源1からの光の周波数を走査速度fv=100[GHz/sec](順方向)で走査するように制御する。そして、処理部13は、第2光源2に関しては、第2光源2からの光の周波数を走査速度fv=−79[GHz/sec](逆方向)で走査するように制御する。また、周波数を走査可能なn(n=3以上の整数)個の光源を有する場合には、処理部13は、第1光源と第2光源とは異なる第3光源も制御する。具体的には、処理部13は、第3光源からの光の周波数を第1方向又は第2方向に、第1走査速度及び第2走査速度とは異なる第3走査速度で走査する。
【0028】
なお、処理部13は、計測装置MAAが有するn(n=2以上の整数)個の光源に対して、以下の式4を満たすように、n個の光源を制御するとよい。式(4)において、fc(i=1〜nの整数)は、n個の光源のそれぞれからの光の中心周波数、fv(i=1〜nの整数)は、n個の光源のそれぞれからの光の周波数の走査速度である。
【0029】
【数4】

【0030】
このように、本実施形態では、第1光源1及び第2光源2のそれぞれからの光の周波数の走査速度の絶対値が互いに異なるように第1光源1及び第2光源2を制御する。これにより、検出部6から出力される干渉信号S12(図2参照)を周波数解析(例えば、フーリエ変換)することで、図3に示すように、干渉信号S1におけるピーク周波数P1と干渉信号S2におけるピーク周波数P2とを分離することができる。但し、第1光源1及び第2光源2のそれぞれからの光の周波数の走査速度の絶対値の差(速度差)は、ピーク周波数P1とピーク周波数P2とを分離可能な速度差にする必要がある。例えば、ピーク周波数P1とピーク周波数P2との差分(周波数差)を半値周波数幅よりも大きくすればよい。
【0031】
また、本実施形態では、式(4)を満たすように第1光源1及び第2光源2を制御する。第1光源1及び第2光源2からの光の周波数を走査している間に参照面4と被検面5との間の光路長に変化がない場合、干渉信号の位相φは、式(1)から理解されるように、以下の式(5)で表すことができる。
【0032】
【数5】

【0033】
干渉信号の位相φを時間微分すると干渉信号の周波数νとなる。干渉信号の周波数νは、以下の式(6)で表すことができる。
【0034】
【数6】

【0035】
式(6)において、fは、周波数の走査速度である。干渉信号の周波数νは、式(6)に示すように、参照面4と被検面5との間の距離Lのみに依存する。従って、検出部6から出力される干渉信号を周波数解析(例えば、フーリエ変換)することで、以下の式(7)から、参照面4と被検面5との間の距離Lを算出することができる。
【0036】
【数7】

【0037】
一方、第1光源1及び第2光源2からの光の周波数を走査している間に参照面4と被検面5との間の光路長に変化がある場合には、干渉信号の位相φ’は、式(7)ではなく、以下の式(8)で表される。なお、ここでは、参照面4と被検面5との間の光路長の変化は、1方向に線形な変化であるものとし、その変化速度をLとしている。
【0038】
【数8】

【0039】
また、上述したように、干渉信号の位相φ’を時間微分すると干渉信号の周波数ν’となる。干渉信号の周波数ν’は、以下の式(9)で表すことができる。式(9)において、fは、光源からの光の中心周波数である。
【0040】
【数9】

【0041】
従って、第1光源1及び第2光源2からの光の周波数を走査している間に参照面4と被検面5との間の光路長に変化がある場合、参照面4と被検面5との間の距離L’は、以下の式(10)で表される。
【0042】
【数10】

【0043】
式(10)に示すように、第1光源1及び第2光源2からの光の周波数を走査している間に参照面4と被検面5との間の光路長に変化がある場合、光路長の変化速度Lにf/fを乗算した分だけ計測誤差が生じてしまう。但し、n個の光源を用いている場合、各光源からの光の中心周波数fc及び周波数の走査速度fvが式(4)を満たしていれば、各光源から得られる計測値を平均することで、光路長の変化に起因する計測誤差を低減(除去)することが可能となる。
【0044】
以下、図4を参照して、計測装置MAAにおける参照面4と被検面5との間の距離を計測する処理を説明する。かかる処理は、処理部13が計測装置MAAの各部を統括的に制御することで行われる。処理部13は、計測装置MAAの全体(動作)を制御するためのCPUやメモリなどを含む。
【0045】
S402では、第1光源1からの光による干渉信号S1と第2光源2からの光による干渉信号S2とを足し合わせた信号である干渉信号S12(図2参照)を取得する。具体的には、処理部13は、第1光源1及び第2光源2のそれぞれからの光の周波数を走査速度fv=100[GHz/sec]及びfv=−79[GHz/sec]で走査するように第1光源1及び第2光源2を制御する。そして、処理部13は、第1光源1及び第2光源2のそれぞれからの光の周波数を走査している間に、第1干渉光と第2干渉光とを含む光を検出するように検出部6を制御して、干渉信号S12を取得する。
【0046】
S404では、干渉信号S1におけるピーク周波数P1及び干渉信号S2におけるピーク周波数P2を特定する。具体的には、処理部13は、S402で取得した干渉信号S12をフーリエ変換して干渉信号S1と干渉信号S2とに分離し、干渉信号S1及びS2のそれぞれにおけるピーク周波数P1及びP2を特定する(図3参照)。
【0047】
S406では、干渉信号S1に対応する参照面4と被検面5との間の距離L及び干渉信号S2に対応する参照面4と被検面5との間の距離Lを算出する。具体的には、処理部13は、S404で特定したピーク周波数P1及びP2に基づいて、式(7)から、干渉信号S1に対応する距離L及び干渉信号S2に対応する距離Lを算出する。
【0048】
S408では、S406で算出された距離L及びLに基づいて、参照面4と被検面5との間の距離Lを算出する。具体的には、処理部13は、干渉信号S1に対応する距離Lと干渉信号S2に対応する距離Lとを平均した距離を、参照面4と被検面5との間の距離Lとして算出する。
【0049】
このように、計測装置MAAによれば、各光源からの光の周波数を走査している間に参照面と被検面との間の光路長に変化がある場合でも、かかる光路長の変化に起因する計測誤差を低減して参照面と被検面との間の距離を高精度に計測することができる。また、計測装置MAAでは、複数の光源のそれぞれに対応する干渉信号を得るための複数の検出部や検出部で得られる干渉信号を時間的に切り替えるチョッパーなどが不要であるため、装置コストの増大を抑制することができる。
【0050】
なお、第1の実施形態では、計測装置MAAが参照面4と被検面5との間の距離を計測する場合について説明した。但し、計測装置MAAは、被検面5の形状を計測することも可能である。この場合、検出部6は、例えば、被検面5の上の複数の位置のそれぞれについて、第1干渉光と第2干渉光とを含む光を検出する複数の検出領域を含むように構成される。そして、処理部13は、複数の検出領域のそれぞれから出力される干渉信号に基づいて、複数の位置のそれぞれについて参照面4と被検面5との間の距離を求めることで被検面5の形状を求めることができる。また、検出部6を複数の検出領域を含むように構成できない場合には、被検面5と検出部6との相対的な位置関係を変更し、各位置関係について参照面4と被検面5との間の距離を求めることで被検面5の形状を求めることも可能である。
【0051】
<第2の実施形態>
図5は、本発明の第2の実施形態における計測装置MABの構成を示す図である。計測装置MABは、参照面と被検面との間の距離を計測する光波干渉計である。計測装置MABは、計測装置MAAの構成に加えて、第3光源3と、無偏光ビームスプリッタ16及び21と、波長計測ユニット300とを更に有する。波長計測ユニット300は、ファブリペローエタロン12と、検出部9とを含む。
【0052】
計測装置MABは、本実施形態では、射出する光の周波数を走査可能な3つの光源(第1光源1、第2光源2及び第3光源3)を有するが、これに限定されるものではない。例えば、参照面4と被検面5との間の距離の計測に要求される精度に応じて、光源を増加又は減少させてもよい。
【0053】
第3光源3から射出された光L3は、無偏光ビームスプリッタ16によって2つの光に分割され、一方の光が波長計測ユニット300に導かれ、他方の光が干渉計ユニット400に導かれる。
【0054】
波長計測ユニット300に入射した光L3は、波長基準素子としてのファブリペローエタロン12を透過して検出部9に入射する。処理部13は、検出部9で検出された光強度(光L3の強度)に基づいて、第3光源3から射出される光の周波数(波長)を制御する。なお、ファブリペローエタロン12の構成などは、ファブリペローエタロン10及び11と同様であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0055】
干渉計ユニット400に導かれる光L1、L2及びL3は、無偏光ビームスプリッタ20及び21によって合波される。干渉計ユニット400に入射した光L3は、無偏光ビームスプリッタ23によって参照面4に入射する第3参照光と被検面5に入射する第3被検光とに分割される。そして、第3参照光は、参照面4で反射して無偏光ビームスプリッタ23に戻り、第3被検光は、被検面5で反射して無偏光ビームスプリッタ23に戻る。
【0056】
第1参照光と第1被検光、第2参照光と第2被検光、及び、第3参照光と第3被検光は、無偏光ビームスプリッタ23によって合波されて検出部6に入射する。検出部6は、第1参照光と第1被検光との第1干渉光と、第2参照光と第2被検光との第2干渉光と、第3参照光と第3被検光との第3干渉光とを含む光を検出して(第1干渉光、第2干渉光及び第3干渉光を一括して検出して)、干渉信号S123を出力する。干渉信号S123は、第1光源1からの光による(第1干渉光に対応する)干渉信号S1と、第2光源2からの光による(第2干渉光に対応する)干渉信号S2と、第3光源3からの光による(第3干渉光に対応する)干渉信号S3とを足し合わせた信号である。
【0057】
以下、図6を参照して、計測装置MABにおける参照面4と被検面5との間の距離を計測する処理を説明する。かかる処理は、処理部13が計測装置MABの各部を統括的に制御することで行われる。
【0058】
S602では、第1光源1からの光による干渉信号S1と、第2光源2からの光による干渉信号S2と、第3光源3からの光による干渉信号S3とを足し合わせた信号である干渉信号S123を取得する。この際、処理部13は、式(4)を満たすように、第1光源1、第2光源2及び第3光源3を制御する。具体的には、本実施形態では、第1光源1乃至第3光源3のそれぞれからの光の周波数は、走査速度fv=100[GHz/sec](順方向)、fv=80[GHz/sec](順方向)及びfv=−49[GHz/sec](逆方向)で走査される。なお、第1光源1からの光の中心周波数fc、第2光源2からの光の中心周波数fc及び第3光源3からの光の中心周波数fcのそれぞれは、fc=380[THz]、fc=382[THz]及びfc=420[THz]である。また、本実施形態では、計測時間は1秒とし、第1光源1、第2光源2及び第3光源3のそれぞれの周波数走査量Δf、Δf及びΔfは、Δf=100[GHz]、Δf=80[GHz]及びΔf=−49[GHz]である。
【0059】
S604では、干渉信号S1におけるピーク周波数P1、干渉信号S2におけるピーク周波数P2及び干渉信号S3におけるピーク周波数P3を特定する。具体的には、処理部13は、S602で取得した干渉信号S123をフーリエ変換して干渉信号S1と、干渉信号S2と、干渉信号S3とに分離し、干渉信号S1、S2及びS3のそれぞれにおけるピーク周波数P1、P2及びP3を特定する。
【0060】
S606では、干渉信号S1に対応する参照面4と被検面5との間の距離L、干渉信号S2に対応する参照面4と被検面5との間の距離L及び干渉信号S3に対応する参照面4と被検面5との間の距離Lを算出する。具体的には、処理部13は、S604で特定したピーク周波数P1、P2及びP3に基づいて、式(7)から、干渉信号S1に対応する距離L、干渉信号S2に対応する距離L及び干渉信号S3に対応する距離Lを算出する。
【0061】
S608では、S606で算出した距離L、L及びLに基づいて、第1光源1、第2光源2及び第3光源3のそれぞれの中心周波数fc、fc及びfcにおける端数位相φ、φ及びφを算出する。具体的には、処理部13は、以下の式(11)に示すように、離散フーリエ変換(DFT)を用いて、端数位相φを算出する。但し、式(11)から算出される端数位相φは、±πの範囲のみであり、干渉次数は不明である。
【0062】
【数11】

【0063】
S610では、S606で算出した距離L、L及びLの平均値Laveに基づいて、端数位相φと端数位相φとを接続(位相接続)する。具体的には、処理部13は、以下の式(12)から、第1光源1の中心周波数fcにおける干渉信号S1と、第2光源2の中心周波数fcにおける干渉信号S2との干渉次数差M12を算出する。
【0064】
【数12】

【0065】
ここで、round( )は、引数を整数に丸める関数である。また、Laveは距離L、L及びLの平均値であるため、上述したように、参照面4と被検面5との間の光路長の変化に起因する計測誤差は低減(除去)される。従って、第1光源1、第2光源2及び第3光源3からの光の周波数を走査している間に参照面4と被検面5との間の光路長に変化がある場合でも、干渉次数差M12を高精度に算出することが可能である。
【0066】
S612では、第1光源1からの光と第2光源2からの光との合成波長(から得られる干渉信号)に対応する参照面4と被検面5との間の距離L12を算出する。具体的には、処理部13は、中心周波数fc及びfcと、端数位相φ及びφと、干渉次数差M12を用いて、以下の式(13)から、距離L12を算出する。
【0067】
【数13】

【0068】
距離L12は、第1光源1の中心周波数fcと第2光源2の中心周波数fcとの周波数差に相当する周波数走査量で計測した結果に相当し、距離Lよりも1/20(=Δf/(fc−fc))の精度に向上している。
【0069】
S614では、S612で算出した距離L12に基づいて、端数位相φと端数位相φとを接続(位相接続)する。具体的には、処理部13は、以下の式(14)から、第1光源1の中心周波数fcにおける干渉信号S1と、第3光源3の中心周波数fcにおける干渉信号S3との干渉次数差M13を算出する。
【0070】
【数14】

【0071】
S616では、参照面4と被検面5との間の距離Lを算出する。処理部13は、第1光源1からの光と第3光源3からの光との合成波長(から得られる干渉信号)に対応する参照面4と被検面5との間の距離L13を距離Lとして算出する。具体的には、処理部13は、中心周波数fc及びfcと、端数位相φ及びφと、干渉次数差M13を用いて、以下の式(15)から、距離L13を算出する。
【0072】
【数15】

【0073】
距離L13は、第1光源1の中心周波数fcと第3光源3の中心周波数fcとの周波数差に相当する周波数走査量で計測した結果に相当し、距離Lよりも1/400(=(fc−fc)/(fc−fc))の精度に向上している。
【0074】
このように、計測装置MABによれば、各光源からの光の周波数を走査している間に参照面と被検面との間の光路長に変化がある場合でも、かかる光路長の変化に起因する計測誤差を低減して干渉次数差を高精度に求めることができる。従って、計測装置MABは、かかる干渉次数差を用いて、参照面と被検面との間の距離を高精度に計測することができる。また、計測装置MABでは、複数の光源のそれぞれに対応する干渉信号を得るための複数の検出部や検出部で得られる干渉信号を時間的に切り替えるチョッパーなどが不要であるため、装置コストの増大を抑制することができる。なお、計測装置MABは、計測装置MAAと同様に、参照面と被検面との間の距離だけではなく、被検面の形状も計測することが可能である。
【0075】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照面と被検面との間の距離を計測する計測装置であって、
周波数を走査可能なn(n=2以上の整数)個の光源と、
前記n個の光源からのそれぞれの光を分割し、前記参照面と前記被検面とに入射させる分割素子と、
前記参照面で反射された光と、前記被検面で反射された光との干渉により形成されるn個の干渉光を検出して干渉信号を出力する検出部と、
前記距離を求める処理を行う処理部と、を有し、
前記処理部は、
前記n個の光源のうち1つの第1光源からの光の周波数を第1方向に第1走査速度で走査するように制御し、且つ、前記n個の光源のうち他の1つの第2光源からの光の周波数を第1方向とは逆の第2方向に前記第1走査速度とは異なる第2走査速度で走査するように制御し、
前記n個の光源を制御している間に前記検出部で検出される前記干渉光の前記干渉信号に基づいて、前記距離を求めることを特徴とする計測装置。
【請求項2】
前記光源は、周波数を走査可能なn(n=3以上の整数)個の光源を有し、
前記処理部は、
前記第1光源と前記第2光源とは異なる第3光源からの光の周波数を前記第1方向又は前記第2方向に、前記第1走査速度及び前記第2走査速度とは異なる第3走査速度で走査するように制御することを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記処理部は、
前記検出部から出力された前記干渉信号を周波数解析して前記n個の干渉光に対応するn個の信号に分離し、
前記n個の干渉光に対応するn個のピーク周波数のそれぞれから算出される前記参照面と前記被検面との間の距離を平均した距離を、前記距離として求めることを特徴とする請求項1又は2に記載の計測装置。
【請求項4】
前記n個の光源のそれぞれからの光の中心周波数をfc(i=1〜nの整数)、前記n個の光源のそれぞれからの光の周波数の走査速度をfv(i=1〜nの整数)とすると、
前記処理部は、

を満たすように、前記n個の光源を制御することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の計測装置。
【請求項5】
前記検出部は、前記被検面の上の複数の位置のそれぞれについて、前記n個の干渉光を含む光を検出する複数の検出領域を含み、
前記処理部は、前記複数の検出領域のそれぞれから出力される前記干渉信号に基づいて、前記複数の位置のそれぞれについて前記距離を求めることで前記被検面の形状を求めることを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載の計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−96877(P2013−96877A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240660(P2011−240660)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】