説明

診断用および治療用標的としてのSGK1

本発明は、sgk1(血清および糖質コルチコイド依存性キナーゼ1)の診断用の測定のための物質の利用と、組織因子の活性阻害に関連した疾患の治療的処置のためにsgk1に影響を与えるための活性薬剤の利用と、それに関連する診断用キットとに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、sgk1(血清および糖質コルチコイド依存性キナーゼ1)を診断目的で検出するための物質の使用、およびTF(組織因子)の妨げられた活性に関係する疾患の治療的処置のためにsgk1に影響を与えるための活性化合物の使用、さらに、それに関連する診断用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞がその環境の中で受ける数多くの外来性シグナルは、これらのシグナルが原形質膜およびその受容体から細胞質および細胞核内へ迅速かつ可逆的に伝達されることを目的として、細胞内リン酸化/脱リン酸化カスケードを引き起こす。これらのカスケードに関与する個々の蛋白質の調節のみが、細胞の高度な特異性と柔軟性を可能にし、そしてこの特異性と柔軟性は、細胞が細胞外のシグナルに非常に迅速に反応することを可能にしている。特に、これらの調節プロセスに関与するのは、キナーゼ、すなわち、リン酸基を個々の物質に転移させる蛋白質である。血清および糖質コルチコイド依存性キナーゼ(sgk)は、当初は、ラット乳癌細胞からクローニングされた(Webster MK、Goya L、Firestone GL.、J.Biol.Chem.268(16):11482〜11485頁、1993年;Webster MK、Goya L、Ge Y、Maiyar AC、Firestone GL.、Mol.Cell.Biol.13(4):2031〜2040頁、1993年)。ヒトのキナーゼhsgkは、細胞容積によって調節される遺伝子として肝臓細胞からクローニングされた(Waldegger S、Barth P、Raber G、Lang F.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:4440〜4445頁、1997年)。ラットのキナーゼ(Chen SY、Bhargava A、Mastroberardino L、Meijer OC、Wang J、Buse P、Firestone GL、Verrey F、Pearce D.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:2514〜2519頁、1999年;Naray−Fejes−Toth A、Canessa C、Cleaveland ES、Aldrich G、Fejes−Toth G.、J.Biol.Chem.274:16973〜16978頁、1999年)は、上皮のNa+チャンネル(ENaC)を刺激することが見出された。さらに、ENaCの活性の増大に高血圧症がともなうこと(Warnock DG.、Kidney Ind.53(1):1824頁、1998年)が示された。
【0003】
DE197 08 173では、hsgk1は、高ナトリウム血症、低ナトリウム血症、真性糖尿病、腎不全、異化亢進、肝性脳症、および微生物性またはウイルス性の感染症のような、細胞容積の変化によって病態生理学的に影響される多くの疾患に関係したかなりの診断用の可能性を有していることが示された。
【0004】
DE199 17 990は、スタウロスポリン、ケレリトリンまたはトランスドミナントに阻害性のキナーゼのような、細胞容積依存性の疾患の治療に用いることができるキナーゼ阻害剤について記述している。
【0005】
hsgkはまた脳でも発現され(Waldegger S、Barth P、Raber G、Lang F.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:4440〜4445頁、1997年)、脳においてKv1.3電圧依存性のK+チャンネルを調節する。これらKv1.3型のK+チャンネルは、ニューロンの興奮性を調節することに関与し(Pongs O.、Physiol.Rev.72:69〜88頁、1992年)、細胞増殖を調節することに関与し(Cahalan MDとChandy KG.、Cur.Opin.Biotech.8(6):749〜756頁、1997年)、さらにアポトーシスの細胞死を調節することに関与する(Szabo I、Gulbins E、Apfel H、Zhan X、Barth P、Busch AE、Schlottmann K、Pongs O、Lang F.、J.Biol.Chem.271:20465〜20469頁、1999年;Lang F、Szabo I、Lepple−Wienhues A、Siemen D、Gulbins E.、News Physiol.Sci.14:194〜200頁、1999年)ことが示された。Kv1.3はまた、リンパ球の増殖と機能を調節することにおいて重要である(Cahalan MDとChandy KG、Cur.Opin.Biotech.8(6):749〜756頁、1997年)。sgkファミリーの他の二つの構成要素、すなわち、sgk2とsgk3がクローニングされている(Kobayashi T、Deak M、Morrice N、Cohen P.、Biochem.J.344:189〜197頁、1999年)。さらに、sgksは、転写段階および転写後段階で調節されうるセリン−スレオニン蛋白質キナーゼファミリーを形成することが見出されている。sgk1と同様、sgk2とsgk3も、例えば、インシュリンおよびIGF1によってP13キナーゼ経路を介して活性化される。しかし、これまでのところ、sgk蛋白質ファミリーの特性は完全には決定されていない。
【0006】
それゆえに、本発明は、新規の診断上および治療上の適用のためにsgk1を利用するという目的に基づいている。
【0007】
驚くべきことに、無処置のsgk1の過剰発現は、不活性sgk1の発現に比較して、凝固活性の増大を起こすことを示すことが可能となった。この実験系では、凝固は組織因子(Tissue Factor:TF)によって誘発された。TFは、血管細胞または単核細胞と止血系との間の主要な連結リンクとして働く47kDaの膜貫通糖蛋白質である。このように作用する際に、TFは血液凝固カスケードを開始する(Davie EW、Fujikawa K、Kisiel W.、Biochemistry 30:10363〜10370頁、1991年)。TFは、第VII/VIIa因子に高い親和性で結合することによって血液凝固を開始する。結果として得られる複合体は、第IXおよびX因子の活性化を開始し、この後にトロンビンの産生が続く。トロンビンは、その役割として、フィブリノーゲンからフィブリンへの変換を触媒し、フィブリンの析出および血液凝固を起こす(Nemerson Y.、Blood 71:1〜8頁、1998年)。
【0008】
TFの発現の増大は、必ずしもTFの生物活性の増大に関連してはいない。機能的に活性なTFは、細胞表面での生物学的に活性な形態の発現に依存する。血管平滑筋細胞(SMCs)および単球においては、細胞にあるTFの全量の10〜20%のみが、上記生物学的に活性な形態を構成するが、これだけが細胞表面で利用可能であり、残りのTFは、細胞内部の貯蔵箇所に存在し(約30%)、また潜在的な表面のTFとしても存在する(50〜60%)(Preissner KT、Nawroth PP、Kanse SM.、J.Pathol.190:360〜372頁、2000年;Schecter AD、Giesen PL、Taby O、Rosenfield CL、Rossikhina M、Fyfe BS、Kohtz DS、Fallon JT、Nemerson Y、Taubmann MB.、J.Clin.Invest:100:2276〜2285頁、1997年)。その凝固作用(Ruef J、Hu ZY、Yin LY、Wu Y、Hanson SR、Kelly AB、Harker LA、Rao GN、Runge MS、Patterson、C.Circ.Res.:24〜33頁、1997年)に加えて、TFは腫瘍の転移および血管新生においても重要な役割をはたすことが示されている(Lwaleed BAとCooper AJ.、Medical Hypotheses.55:470〜473頁、2000年;Verheul HMW、Jorna AS、Hoekman K、Broxterman HJ、Gebbink MFBG、Pinedo HM.、Blood:4216〜4221頁、2000年)。このように、これまでに見出された機能的なデータは、sgk1の作用が、細胞膜でのTFの発現および/または機能に影響を与えること、ならびにそれによって血液の凝固性、腫瘍細胞の粘着とその後の転移、血管新生、さらには血管新生がある役割をはたす疾患に対して間接的に影響を与えるのに適していることを示す。sgk1の刺激は、組織因子の発現を増大させ、一方で、sgk1の阻害は、活性な組織因子の発現を低下させる。したがって、sgk1は上述の徴候に対して刺激的または阻害的に間接的な影響を与えることが可能である。
【0009】
(発明の開示)
したがって、本発明における目的は、独立請求項1、6、7、22、26および28の主題によって達成される。好ましい実施形態が従属請求項で特定されている。これにより、これら請求項全ての内容は、これらを参照することによって明細書中に組み入れられる。
【0010】
本発明によれば、少なくとも1種の物質を、真核生物細胞内でのsgk1の発現および/または機能を検出するために用いることができる。したがって、このことは、特に、TFの活性の乱れと関係がある疾患を診断することも可能にする。この物質は、例えば、sgk1を対象とし、かつ当業者に既知のELISA(酵素結合免疫吸着剤検定)のような検出方法において採用できる抗体でもよい。そのような免疫検定において、測定すべき抗原(sgk1)に対する特定の抗体(あるいは、抗体測定の場合には相同の試験抗原)を、担体物質(例えばセルロースまたはポリスチレン)に結合し、そして、その上に、試料とのインキュベーションを経て免疫複合体が形成される。続くステップで、標識した抗体をこれらの免疫複合体に添加する。この免疫複合体が結合した酵素基質複合体は、反応混合物に発色性基質を添加することによって可視化することができ、また、試料中の抗原濃度は、免疫複合体結合マーカー酵素の光度定量測定により、既知の酵素活性の標準値と比較することによって、測定することができる。
【0011】
診断用の検出に使用できる他の物質はオリゴヌクレオチドであり、これは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて、選択的に決定したDNAセグメントが増幅される分子遺伝学的方法によってsgk1を定量的に検出するのに適している。
【0012】
別の好ましい実施形態では、本発明による用途で用いられる物質は、ストリンジェントな条件下でsgk1とハイブリッド形成することができるポリヌクレオチドである。これらのポリヌクレオチドは、例えば、sgk1のDNAまたはRNAの含有量を測定するためにサザンまたはノーザンブロットを実行するために、用いることができる。当業者ならば、適切な方法をよく知っている。sgk1の転写速度は、例えば、このようにして解析することができる。
【0013】
本発明による用途の特に好ましい実施形態では、上記物質、すなわち特に、抗体、オリゴヌクレオチドおよび/またはポリヌクレオチドは、sgk1における変異を検出するために適している。興味深いことに、sgk1におけるある変異がキナーゼの発現および/または活性の増大に関連していることが見出された。このことは、特に、2個のヌクレオチド多型(SNPs)の場合に観察される。これらのヌクレオチド多型は、ヒトsgk1においては最初に第6イントロン(T→C)そして第8エクソン(C→T)に位置している。これについてはは、読者は、WO02/074987を参照していただきたい。該文献には、これらヌクレオチド多型が、高血圧症の遺伝的素因に関係していることが示されている。同様の知見が、他の変異の場合でも得られており、特に、挿入変異の場合に得られる。したがって本発明は、sgk1の発現および/または活性の増大に関係する対応変異を検出し、このようにして、TFの活性障害に関係する疾患の診断のために結論を出すことができるように、適当な抗体、オリゴヌクレオチドおよび/またはポリヌクレオチドを使うことを想定している。当業者には、上述の用途に使用される方法論的な手法はなじみのものである。sgk1の発現および/または機能を定量的に検出できる他の方法は、当業者には明らかであり、そして、これも同様に本発明に包含される。
【0014】
本発明は、TFの活性障害に関係する疾患を治療することを目的とした、真核生物細胞におけるsgk1の発現および/または機能に対して影響を与える、特に阻害または活性化するための活性化合物を請求する。sgk1は、sgk2やsgk3と同様にキナーゼであるので、スタウロスポリン、ケレリトリンなどの当業者に知られているキナーゼ阻害剤は、特にトランスドミナントにネガティブなキナーゼ変異体などの他の物質と同様に検討できる。当業者はこれらの物質をよく知っており、それらの物質は、商業的(Sigma、Calbiochemなど)および非商業的な供給元から得ることができる。使用できる活性化剤の例は、例えば、sgk1の組換え的に改変した変異体、およびホスファターゼの阻害剤である。当業者はまた、ホスファターゼ阻害剤をよく知っており、それらの幾つかは同様に、商業的(Sigma、Calbiochemなど)および非商業的に入手可能である。ホスファターゼ阻害剤を使用すると、脱リン酸化を阻害し、その結果、sgk1に活性化された標的(TF)が活性化状態にとどまるであろう。医薬品または製薬組成物を生産するために、これらの活性化合物を使用することが好ましい。
【0015】
本発明の他の好ましい実施形態では、上記活性化合物はsgk1自体を対象とする。上記活性化合物は、例えば、アンチセンス配列、いわゆるキナーゼ欠損変異体、または、スタウロスポリンおよび/またはケレリトリン、またはそれらの類似体などの他のキナーゼ阻害剤でもよく、これらは既に上述した。さらに活性化合物は、いわゆる低分子化合物や、sgk1の発現に対して影響を与える、好ましくは、阻害または活性化するペプチドをコードしているポリヌクレオチドでもよい。
【0016】
本発明の他の好ましい実施形態では、上記活性化合物は、sgk1の活性化剤、阻害剤、調節剤および/または生物学的前駆体を対象とする。これら活性化剤、阻害剤、調節剤および/または生物学的前駆体は、上流および/または下流に位置するsgk1シグナル伝達カスケードの構成要素、sgk1の発現のレベルに関わる転写因子、sgk1の活性化剤、阻害剤、調節剤および/または生物学的前駆体の蛋白質分解のためプロテアーゼ、または、活性化合物に影響されかつsgk1の発現および/または機能に関与する今までに知られていない分子でもよい。
【0017】
本発明によれば、既知の活性化合物およびまだ知られていない活性化合物を使用することが可能である。特に好ましい実施形態では、sgk1の活性化剤、阻害剤、調節剤および/または生物学的前駆体を対象とする活性化合物は、いわゆる小分子化合物であり、特に、1000未満の分子量(MW)を持つこの性質の化合物である。低分子化合物は、例えば、イミダゾール誘導体SB203580(MW:377.4)またはSB202190(MW:331.3)のようなキナーゼ阻害剤でもよく、両者とも既知のキナーゼ発現阻害剤であり、Calbiochemによって市販されている。
【0018】
本発明は、TFの活性障害に関係するあらゆる形態の疾患を治療するために使用される。これについては、遺伝性または後天性の凝固障害(coagulopathies)および/または血管障害(angiopathies)が、特に考慮される。凝固障害は、一般に凝固の撹乱を意味するものとして理解される。遺伝性の凝固障害(いわゆる欠陥凝固障害)は、異常フィブリノーゲン血症、低プロコンバーチン血症、血友病B、スチュアート−プロワー欠乏症、などである。後天性の凝固障害の例は、プロトロンビン複合体欠乏、消費性凝固障害、線溶亢進、免疫凝固障害および複合凝固障害である。両方の形態の凝固障害は、多様な原形質性凝固因子の欠乏または機能的な撹乱によって引き起こされる。様々な総体的症状にしたがって、出血傾向を持つ凝固障害(負の凝固障害)と血栓傾向を持つ凝固障害(正の凝固障害)とを区別するとともに、原因の部位に応じて、肝性、心原性および免疫性の凝固障害を区別する。したがって、sgk1を活性化または阻害することによって、血液が凝固する性質を、低減または増大することができ、それによって医療適用に適合させることができる。同様の考慮は、血管障害、すなわち糖尿病性血管障害、糖尿病性微小血管障害、肺性高血圧(pulmonary hypertension)、動脈硬化(arteriosclerosis)などのような、血管性疾患という包括的用語の下にまとめられる疾患にも適用される。この場合も、特に、遺伝性および/または後天性の血管障害の処置のために、上記活性化合物を用いることができる。
【0019】
特に好ましい実施形態では、肺性高血圧および/または動脈硬化を検出するための物質またはこれらを処置するための活性化合物が使用される。
【0020】
他の好ましい実施形態では、活性化合物は、血管新生(angiogenesis)を刺激または阻害するために用いられる。血管新生は、例えば、胚発生における、血管壁の発生として理解され、数多くの血管新生依存性疾患(angiogenesis−dependent diseases)が当業者には知られており、例えば、真性糖尿病、腫瘍形成および自己免疫疾患がある。他の好ましい実施形態では、活性化合物は、創傷治癒を刺激または阻害するために用いられる。
【0021】
本発明はまた診断用キットに関する。このキットは、TFの活性障害に関係する疾患を診断することを目的とした、sgk1の発現および/または機能を検出するのに適した少なくとも1種の物質を含む。本発明による診断用キットは、特に、sgk1の発現および/または機能を検出するための物質が、sgk1に対する抗体、sgk1のDNAセグメントを増幅するためのポリメラーゼ連鎖反応のためのオリゴヌクレオチド、および/またはストリンジェントな条件下でsgk1とハイブリッド形成することができるポリヌクレオチドであることを特徴とする。これについては、これらの物質を、変異の検出、特にsgk1の発現および/または活性の増大に関連するヌクレオチド多型および/または挿入(変異)の検出のために使用することは、格別好ましい。この点について、読者は上記の明細書を参照していただきたい。
【0022】
さらに、sgk1の過剰発現または過小発現または機能亢進または機能低下に関連した疾患を診断するためのキットを使用することが可能である。これらの診断用薬剤は、とりわけ、上述の凝固障害、血管障害、血管新生依存性疾患、創傷治癒の疾患などのような疾患を検出するために、診断用キットにおいて選択的に使うことができる。これについても、sgk1の乱された発現および/または機能を検出することでその疾患を検出することができる。特に、この物質は、ヌクレオチドおよび/またはペプチドレベルまたはポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドレベルについての検出を可能にする物質であってもよい。そのような物質の付加的な特徴については、読者は、本明細書中の先の適切な記載を参照していただきたい。
【0023】
これに加えて、本発明は、TFの活性障害に関係する疾患を診断するための方法を包含する。これに関しては、sgk1の発現および/または機能もしくは活性は、患者から取った生体試料において定量的に検出される。この生体試料は、例えば、血液や尿のような流体でも、例えば、細胞試料のような他のものでもよい。定量的な検出は、例えば、sgk1に対する抗体の使用、sgk1のDNAセグメントを増幅するためのポリメラーゼ連鎖反応に適したオリゴヌクレオチドの使用、ならびに/あるいは厳密な条件下でsgk1のDNAおよび/またはmRNAとハイブリッド形成できるポリヌクレオチドの使用によって行う。
【0024】
この方法では、sgk1における特定の変異、特にヌクレオチド多型および/または挿入、これら特定の変異はsgk1の発現および/または機能または活性の増大に関係しているのだが、これらの変異を検出するために前記物質を使用することに、特に好ましさが与えられる。診断すべき疾患は、例えば、血液凝固障害に関係した疾患、または肺性高血圧や動脈硬化のような血管性の疾患である。
【0025】
本発明はさらに、sgk1の発現および/または機能に対して影響を与え、特に阻害または活性化する少なくとも1種の活性化合物を含み、好ましくは、適切な場合には、製薬用の賦形剤をも含む製薬組成物を包含する。これについては、活性化合物は、これまでに既に言及した、阻害剤のスタウロスポリン、ケレリトリン、SB203580およびSB202190、あるいはそれらの類似体のようなキナーゼ阻害剤、またはその他の物質であってもよい。活性化合物はさらに、sgk1の発現に対して影響を与え、好ましくは阻害または活性化するペプチド、好ましくはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであってもよい。本発明によるポリペプチドの一例は、いわゆるキナーゼ欠損変異体である。標的蛋白質の組換え改変変異体が発現および/または機能に影響し得る他の例は、当業者によく知られており、数多くの教科書/参照文献さらには実験研究用の指示書(例えば、Maniatis T、Fritsch EF、Sambrook J.、ニューヨーク州コールドスプリングハーバー:Cold Spring Harbor Laborator、1996年;Leonard G、Davis PhD、Michael W、Kuehl Md、James F、Battey MD.、McGraw−Hill Professional Publishing、1995年)において見つけられる。本発明による活性化合物はさらに、いわゆる低分子化合物、好ましくは1000未満の分子量(MW)を持つ低分子化合物であってもよい。さらに、活性化合物はまた、アンチセンス配列、すなわちmRNAと二本鎖二重鎖を形成し、それによって標的ポリペプチドの翻訳を阻害することができる配列であってもよい。sgk1の配列そのものを、例えば、ベクターまたはプラスミドにその配列を組み込むことによって、過剰発現を達成するために使用することも可能であり、標的配列を前もって、例えばプロモーターなどの「キャリア」分子で修飾することも可能である。そのような化合物の付加的な特徴について、読者は本明細書中の適切な先の記述を参照していただきたい。
【0026】
最後に、本発明は、sgk1の活性化因子、阻害因子、調節因子および/または生物学的前駆体の発現および/または機能に対して影響を与え、特に阻害または活性化する少なくとも1種の活性化合物の有効量を含む製薬組成物を包含する。この製薬組成物は、適切な場合には、好ましくは製薬用の賦形剤をも含む。これらsgk1の活性化因子、阻害因子、調節因子および/または生物学的な前駆体は、例えば、sgk1の活性の調節に関与する他のキナーゼや、sgk1が発現されるときのレベルについて役割をはたす転写因子、さらに、伝達カスケードにおけるsgk1の他の既知の構成要素または今のところ未知の構成要素、さらに、既に上述した分子であってもよい。sgk1の活性化因子、阻害因子、調節因子および/または生物学的な前駆体の発現に対して影響を与え、好ましくは阻害または活性化するペプチドをコードするポリヌクレオチドが、そのような組成物中に存在してもよい。また、好ましくは1000未満の分子量(MW)を持ち、かつsgk1の活性化因子、阻害因子、調節因子および/または生物学的な前駆体を対象とし、かつこれについては、このキナーゼの発現および/または機能を阻害または活性化する、低分子化合物を使用することも可能である。そのような活性化合物の付加的な特徴については、読者は本明細書中の適切な先の記述を参照していただきたい。
【0027】
本発明の現存および付加的な特徴は、従属請求項および図面と組み合わせて、好ましい実施形態に関する下記の記述から発生する。これについては、個々の特徴はそれぞれ個別に実現することができ、または、幾つかの特徴は互いに組み合わせて実現できる。
【0028】
(実施例)
図1において、最高値の%で表した凝固促進活性を、カルシウム再添加後の時間に対してプロットしてある。図1に関わる実験において、ヒト血管平滑筋細胞(HAOSMC)の凝固促進活性は、カルシウム再添加した貧血小板血漿(PPP)における凝固プロセス中のトロンビン形成を測定することによって測定した(Beguin S、Lidhout T、Hemker HC:Throm.Haemost.61:25〜29頁、1998年)。このために、集密状態の血管平滑筋細胞を無血清培地で24時間保ち、その後HEPESタイロード溶液で3回洗い、その後にヒトPPPでインキュベートした。トロンビンの形成は、インキュベーション培地に16.7mMのCaCl2を添加することによって誘発した。それぞれの場合において、20μlの上清を1分から2分毎に取り除き、取り除いた容積中でのトロンビンの形成を、染料S−2238(Haemochrom Diagnostica)を用いて測定した。光学濃度を、分光光度計(Uvikon、Contron−instruments)において405nmで測定した。平滑筋細胞における、表面凝固推進活性の膜結合組織因子の利用可能性への依存度を、ヒト組織因子に対する中和抗体(Mab# 4508;American Diagnostica;PPPへのカルシウム再添加前の20分間にわたり10μg/ml)を用いて示した。
【0029】
図1に示すように、ヒト血管平滑筋細胞の凝固促進活性は、CaCl2を添加した後数分で増大した。この増大は、不活性キナーゼ(sgk−MT)を発現させたときのほうが、正常なキナーゼ(sgk−WT)を発現させたときよりも遅い。トロンビン(Thr)を追加で投与すると、予想通り、凝固促進活性の増大の加速を起こす。これについても、上記の作用は、無処置のキナーゼを発現している細胞におけるほうが、不活性の変異体を発現している細胞におけるよりも明白でかつ急速である。無処置(天然型)sgkキナーゼ(sgk−WT)を発現している細胞は、不活性sgk変異体(sgk−MT)を発現している細胞よりも、各時点で、より高い凝固促進活性を示し、このことは、トロンビンを添加した(それぞれ、sgk−WT/ThrとSgk−MT/Thr)か否かに関わらない。
【0030】
この結果は、血管平滑筋細胞における無処置sgk1の過剰発現が凝固活性の増大を起こすことを明白に示す。多様な細胞プロセスにおけるこの既知の重要な役割の結果として、この結果はまた、細胞膜での組織因子の発現の増大に関連したsgk1の機能亢進が、血液の凝固性を促進し、転移をその後にともなう腫瘍細胞の接着を可能にし、血管新生を増大することができることも示す。逆に、この機構は、sgk1発現を抑制することによって、またはsgk1を薬理学的に阻害することによって抑制されるであろう。
【0031】
図2は、対照プラスミドを宿す対照細胞(C:対照)、トランスフェクトされた活性キナーゼ(W:SGK天然型)を含む細胞、およびトランスフェクトされた不活性キナーゼを含む細胞(M:SGK変異体)からの組織因子mRNA(TF mRNA)のノーザンブロットを示す。該細胞は、上記の実験で使用された細胞と同等のヒト血管平滑筋細胞である。28S rRNAを内標準として使用する。ヒトTF cDNAをプローブとして用いた。細胞は、それぞれの場合で、トロンビン(3U/ml)で4時間処理したものと、しなかったものがある。上記ノーザンブロットから、対照細胞と比較して、活性SGK(W)を含む細胞で、トロンビン処理したものは、組織因子mRNAの転写が上方調節され、一方、不活性なSGK変異体を含む細胞では、転写が低減されることが理解できる。このことは、組織因子の発現がヒト血管平滑筋細胞においてSGKによって調節されることを明らかに示している。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】血管平滑筋細胞の凝固促進活性の刺激を示すグラフである。
【図2】ヒト血管平滑筋細胞における組織因子SGKの調節(ノーザンブロット)を示すグラフである。T:トロンビン(3U/ml)4時間、C:対照、W:SGK天然型、M:SGK変異体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TF(組織因子)の活性障害に関係する疾患を診断することを目的とした、真核生物細胞におけるsgk1の発現および/または機能を検出するための少なくとも1種の物質の使用。
【請求項2】
前記物質が、Sgk1に対する抗体であることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記物質が、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)において、sgk1の特定のDNAセグメントを増幅するために使用できるオリゴヌクレオチドであることを特徴とする、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記物質が、ストリンジェントな条件下でsgk1とハイブリッド形成できるポリヌクレオチドであることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記物質が、sgk1における変異、特にヌクレオチド多型(SNPs)および/または挿入の検出に適していることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
TFの活性障害に関係する疾患を治療することを目的とした、真核生物細胞におけるsgk1の発現および/または機能に対して影響を与える、特に阻害または活性化するための少なくとも1種の活性化合物の使用。
【請求項7】
TFの活性障害に関係する疾患を治療するための医薬品または製薬組成物を生産することを目的とした、真核生物細胞におけるsgk1の発現および/または機能に対して影響を与える、特に阻害または活性化するための少なくとも1種の活性化合物の使用。
【請求項8】
前記活性化合物が、sgk1を対象とすることを特徴とする請求項6または7に記載の使用。
【請求項9】
前記活性化合物が、sgk1の活性化因子、阻害因子、調節因子および/または生物学的前駆体を対象とすることを特徴とする、請求項6から8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記活性化合物が、キナーゼ阻害剤、好ましくは、スタウロスポリンおよび/またはケレリトリン、またはそれらの類似体の1つであることを特徴とする、請求項6から9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記活性化合物が、sgk1の発現および/または機能に対して影響を与える、好ましくは阻害または活性化するペプチド、好ましくはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであることを特徴とする、請求項6から10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
前記活性化合物が、低分子化合物、好ましくは1000未満の分子量(MW)を有する低分子化合物であることを特徴とする、請求項6から11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
TFの活性障害に特に関係する前記疾患が、凝固障害であることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
前記凝固障害が遺伝性の凝固障害であることを特徴とする請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記凝固障害が後天性の凝固障害であることを特徴とする請求項13に記載の使用。
【請求項16】
TFの活性障害に特に関係する前記疾患が、血管障害であることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
前記血管障害が遺伝性の血管障害であることを特徴とする請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記血管障害が後天性の血管障害であることを特徴とする請求項16に記載の使用。
【請求項19】
前記疾患が肺高血圧症および/または動脈硬化であることを特徴とする、請求項16から18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
前記活性化合物が、血管新生を刺激または阻害するために用いられることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項21】
前記活性化合物が、創傷治癒を刺激または阻害するために用いられることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項22】
TFの活性障害に関係する疾患を診断することを目的とした、sgk1の発現および/または機能を検出するための少なくとも1種の物質を含む診断用キット。
【請求項23】
前記物質が、請求項2から5の少なくとも一項に記載の物質であることを特徴とする請求項22に記載の診断用キット。
【請求項24】
sgk1の機能亢進および/または機能低下に関連した疾患を診断することを目的とした、請求項22または23に記載の診断用キット。
【請求項25】
凝固障害、血管障害および/または血管新生依存性疾患を診断することを目的とした、請求項22から24のいずれか一項に記載の診断用キット。
【請求項26】
TFの活性障害に関係する疾患を診断するための方法であって、sgk1に対する抗体を用い、および/またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)においてsgk1の特定のDNAセグメントを増幅できるオリゴヌクレオチドを用い、および/またはストリンジェントな条件下でsgk1のDNAまたはmRNAとハイブリッド形成できるポリヌクレオチドを用いて、患者から採取した生体試料においてsgk1の発現および/または機能を定量的に検出する方法。
【請求項27】
前記抗体、オリゴヌクレオチドおよび/またはポリヌクレオチドが、sgk1における特定の変異、特にヌクレオチド多型および/または挿入を検出するために用いられることを特徴とする、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
sgk1の発現および/または機能に対して影響を与える、特に阻害または活性化する少なくとも1種の活性化合物の有効量と、適切な場合には、製薬用の賦形剤とを含む製薬組成物。
【請求項29】
前記活性化合物が、キナーゼ阻害剤、好ましくは、スタウロスポリンおよび/またはケレリトリン、またはそれらの類似体の1つであることを特徴とする、請求項28に記載の製薬組成物。
【請求項30】
前記活性化合物が、sgk1の発現および/または機能に対して影響を与える、好ましくは阻害または活性化するペプチド、好ましくはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであることを特徴とする、請求項28に記載の製薬組成物。
【請求項31】
前記活性化合物が、低分子化合物、好ましくは1000未満の分子量(MW)を有する低分子化合物であることを特徴とする、請求項28に記載の製薬組成物。
【請求項32】
sgk1の活性化因子、阻害因子、調節因子および/または生物学的前駆体の発現および/または機能に対して影響を与える、特に阻害または活性化する少なくとも1種の活性化合物の有効量と、適切な場合には、製薬用の賦形剤とを含むことを特徴とする請求項28に記載の製薬組成物。
【請求項33】
前記活性化合物が、sgk1の活性化因子、阻害因子、調節因子および/または生物学的前駆体の発現および/または機能に対して影響を与える、好ましくは阻害または活性化するペプチド、好ましくはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであることを特徴とする、請求項32に記載の製薬組成物。
【請求項34】
前記活性化合物が、低分子化合物、好ましくは1000未満の分子量(MW)を有する低分子化合物であることを特徴とする、請求項32に記載の製薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−518992(P2006−518992A)
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−569000(P2004−569000)
【出願日】平成15年3月3日(2003.3.3)
【国際出願番号】PCT/EP2003/002163
【国際公開番号】WO2004/079003
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(503080615)
【氏名又は名称原語表記】LANG, Florian
【Fターム(参考)】