認知および運動のリハビリテーションのためのホスホジエステラーゼ4インヒビター
本発明は、動物において中枢神経系(CNS)の障害または状態に関連する認知障害および運動障害の改善方法を提供する。該方法は、ホスホジエステラーゼ4インヒビターの全身投与、および任意に、動作の改善がもたらされるのに充分な条件下での動物の訓練を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
推定4〜500万の米国人(全年齢の約2%および65歳以上の高齢者の15%)は、なんらかの形態およびある程度の認知不全(failure)を有する。認知不全(知識を習得、保持および使用するプロセスである認知機能の不全または低下)は、一般的に、加齢関連記憶障害、せん妄(時々、急性錯乱状態とよばれる)、痴呆(時々、アルツハイマー型または非アルツハイマー型に分類される)、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンティングトン病(舞踏病)、精神遅滞、脳血管疾患(例えば、脳卒中、虚血)、情動障害(例えば、鬱)、精神病性障害(例えば、統合失調症、自閉症(カンナー症候群))、神経症性障害(例えば、不安、強迫性障害)、注意欠陥障害(ADD)、硬膜下血腫、正常圧水頭症、脳腫瘍、頭または脳の外傷を含む、中枢神経系(CNS)の障害または状態に伴って起こる。
【0002】
認知機能不全は、典型的に、記憶障害(新しい情報を学習する能力、または以前に学習した情報を思い出す能力の障害)、失語症(言語/発話の障害)、失行症(運動機能に障害はないが運動活動能力に障害)、失認(感覚機能に障害はないが物体を認識または確認ができない)、実行機能(すなわち、計画、組織化、順序付け、要約)の障害を含む、1つ以上の認知障害によって示される。
【0003】
認知機能不全は、社会的および/または職業上機能を果たす上で、個体が日常生活の活動を行なう能力を妨げ得、個体の自律性および生活の質に大きく影響し得る重大な障害を引き起こす。
【0004】
認知訓練プロトコルは、なんらかの形態またはある程度の認知機能不全を有する個体のリハビリにおいて一般的に使用されている。例えば、認知訓練プロトコルは、一般的に、脳卒中のリハビリテーションおよび加齢関連記憶低下のリハビリテーションに使用される。個体において認知動作(cognitive performance)(能力または機能)の特定の局面の改善または増大が得られる前に、しばしば、多数回の訓練セッション(session)が必要とされるため、認知訓練プロトコルは、非常にコストが高くなり、時間を浪費する。
【0005】
ヒトの脳損傷は、しばしば、運動および認知欠陥をもたらす。集中治療医学および患者管理の進歩により、外傷性脳損傷(TBI)後の患者の結果において改善がもたらされたが、現在、TBI後に起こるニューロン細胞死および機能不全を予防するための公知の治療はない。多くの治療は、TBIの前臨床モデルにおいて神経保護的であることが証明されているが、ほとんどは、ヒトにおいて有効性が示されていない。
【0006】
TBI後、患者が安定したら、標準的な治療により、集中的な運動または認知のリハビリテーションが指示される。このリハビリテーション中、患者は、しばしば、失った技能が回復し、最終的に、機能的結果が改善される。TBI後の運動または認知のリハビリテーションを増強する医薬治療が開発され得れば有益であり得、したがって、機能的結果が改善される。
【0007】
ラットでは、充分特徴付けされた外側液体衝撃(lateral fluid percussion)(LFP)脳損傷により、海馬、視床および皮質(例えば、運動皮質)において広範なアポトーシスおよび壊死細胞死が生じる。このニューロン死により、多くの脳システムにおいてニューロンの機能不全および障害が生じる。研究により、LFP脳損傷後、運動および認知機能における障害が示されている(Hamm,R.J. et al.,Behav. Brain Res.、59(1-2):169-173 (1993);Gong et al.,Brain Res.、700(1-2):299-302 (1995);Hamm,R.J,. J Neurotrauma.、18(11):1207-16 (2001);Floyd et al.,J Neurotrauma.、19(3):303-16 (2002);Hallam et al.,J Neurotrauma、21(5):521-39 (2004))。集中的なリハビリテーションにより、種々の実験的脳損傷後の神経行動学的結果が改善され得る。現在の支持されている理論は、リハビリテーション中、損傷脳組織および周囲の損傷領域内のニューロンは、失われた機能の一部を呈するように再訓練されるというものである。この「再訓練」は、学習の形態であり、神経の形成性の誘導を介して生じる。
【0008】
数多くの研究により、環状AMP (cAMP)および下流転写因子cAMP応答性エレメント結合タンパク質(CREB)は、長期記憶および神経の形成性の誘導における重要な調節因子であることが示されている(Yin,J. C. et al.,Cell、79(1):49-58 (1994);Bourtchuladze,R. et al.,Cell、79(1):59-68 (1994);Impey,S. et al.,Nat. Neurosci.、1(7):595-601 (1998))。cAMP/CREBシグナル伝達を障害する遺伝的または薬理学的介入は、長期記憶形成およびシナプス形成性を障害する。逆に、cAMP/CREBシグナル伝達を増大させる遺伝的または薬理学的介入は、長期記憶形成およびシナプス形成性を促進する。
【0009】
(発明の概要)
本発明は、(1)任意の現行の方法よりも効率的な種々の形態の認知機能不全のリハビリ、(2)通常の認知動作(能力もしくは機能)の増強、(3)任意の現行の方法よりも効率的な種々の形態の運動機能不全のリハビリ、または(4)通常の運動動作(能力もしくは機能)の増強のいずれかを可能にするための、環状AMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)経路増強薬の投与に関する。環状AMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)経路増強薬の投与は、認知または運動の訓練後の持続性動作の進歩(gain)を示す脳機能の任意の局面に適用され得る。したがって、環状AMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)経路増強薬の投与は、なんらかの形態およびある程度の認知もしくは運動機能不全を有する動物のリハビリ、または動物における通常の認知もしくは運動動作の向上(改善)に使用され得る。環状AMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)経路増強薬の投与はまた、ニューロンに分化する新たに獲得された移植幹細胞のシナプス結合を微調整するためにも使用され得る。
【0010】
本明細書に記載のように、環状AMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)経路増強薬の投与は、単独または認知増大訓練(Augmented Cognitive Training(ACT))の状況で行なわれ得る。ACTは、2つの部分:(1)各脳(認知または運動)機能のための特定の訓練プロトコルおよび(2)環状AMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)経路増強薬の投与を含む。この組合せでは、認知訓練単独で得られるものと比べて、動作の進歩をもたらすのに必要とされる訓練セッションの継続時間および/または回数が低減されることにより、あるいは動作の進歩をもたらすのに必要とされる訓練セッション間の休息間隔をなくすか短くすることにより、認知訓練が増大され得る。また、この組合せでは、特定の神経回路(1つまたは複数)のニューロン活動のパターンの誘導に必要とされる訓練セッションの継続時間および/または回数が低減されることにより、あるいは神経回路のシナプス結合間のCREB依存性の長期構造的/機能的(すなわち、持続性)変化を誘導するのに必要とされる訓練セッションまたは基礎的なニューロン活動のパターンの継続時間および/または回数が低減されることにより、認知訓練が増大され得る。このように、環状AMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)経路増強薬の投与により、既存の認知訓練プロトコルの効率が改善され、それにより有意な経済的利点がもたらされ得る。
【0011】
本発明の結果、(a)CREB経路機能を増強する増大剤を動物に投与する工程;および、任意に(b)動物に目的の認知課題(task)の動作の改善がもたらされるのに充分な条件下で、動物を訓練する工程を含む、それを必要とする動物(特に、ヒトまたは他の哺乳動物もしくは脊椎動物)における認知動作の特定の局面の増強方法が本明細書において提供される。
【0012】
「増大剤(augmenting agent)」はまた、本明細書において「CREB経路増強薬」ともいう。
【0013】
本明細書において、正規の認知訓練なしでCREB経路機能を増強する増大剤で動物を治療する工程を含む、動物において中枢神経系(CNS)の障害または状態に関連する認知障害を改善する方法が提供される。また、CREB経路機能を増強する増大剤を動物に投与する工程;および前記持続的改善を検出する工程を含む、動物において中枢神経系(CNS)の障害または状態に関連する認知障害に持続的改善を提供する方法が本明細書において提供される。一態様において、該方法は、動物に特定の認知課題の動作の改善がもたらされるのに充分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含む。CNSの障害および病気としては、加齢関連記憶障害、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンティングトン病(舞踏病)、他の老人性痴呆)、精神病性疾患(例えば、鬱、統合失調症、自閉症、注意欠陥障害)、外傷依存性機能低下(例えば、脳血管疾患(例えば、脳卒中、虚血)、脳腫瘍、頭または脳の損傷)、遺伝的欠陥(例えば、ルービンスタイン‐テービ症候群、ダウン症候群、アンジェルマン(Angelman)症候群、神経線維腫症、コフィン‐ローリー症候群、レット症候群、筋緊張性ジストロフィ、ぜい弱X症候群(例えば、ぜい弱X-1、ぜい弱X-2)、ウィリアムズ症候群)および学習障害が挙げられる。CREB経路機能を増強する増大剤での治療により、増大剤の投与を停止または中止した後、動物の認知課題の動作において持続的、存続的または持続性の改善がもたらされることが企図される。
【0014】
本明細書において、正規の認知訓練なしで動物をCREB経路機能を増強する増大剤(例えば、ホスホジエステラーゼ4インヒビター)で治療する工程を含む、前記治療を必要とする動物において、精神遅滞に関連する認知障害を改善する方法が提供される。また、本明細書において、CREB経路機能を増強する増大剤(例えば、ホスホジエステラーゼ4インヒビター)を動物に投与する工程および前記持続的改善を検出する工程を含む、動物において精神遅滞に関連する認知障害において持続的改善を提供する方法が提供される。一態様において、該方法は、動物に認知課題の動作の改善がもたらされるのに充分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含み、その障害は精神遅滞に関連する。精神遅滞は、認知過程および認知機能、例えば、学習および記憶獲得に影響を及ぼす。精神遅滞は、染色体または遺伝的要素、先天性感染、催奇形物質(薬物および他の化学物質)、栄養不良、放射線または着床および胚形成に影響する未知の条件によって引き起こされ得る。精神遅滞症候群としては、ルービンスタイン‐テービ症候群、ダウン症候群、アンジェルマン症候群、神経線維腫症、コフィン‐ローリー症候群、レット症候群、筋緊張性ジストロフィ、ぜい弱X症候群(例えば、ぜい弱X-1、ぜい弱X-2)およびウィリアムズ症候群(Weeber,E. J. et al., Neuron、33:845-848 (2002))が挙げられる。
【0015】
本明細書において、正規の認知訓練なしでCREB経路機能を増強する増大剤で動物を治療する工程を含む、ニューロン幹細胞またはグリア幹細胞操作を受けた動物においてCNS障害または状態に関連する認知障害を改善する方法が提供される。また、本明細書において、CREB経路機能を増強する増大剤を動物に投与する工程;および、前記持続的改善を検出する工程を含む、ニューロン幹細胞操作を受けた動物においてCNS障害または状態に関連する認知障害において持続的改善を提供する方法が提供される。一態様において、該方法は、動物においてニューロン活動またはニューロン活動のパターンを刺激または誘導するのに充分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含む。「ニューロン幹細胞操作」により、(1)外因性ニューロン幹細胞が動物の脳もしくは脊髄に移植されること、(2)動物において内因性ニューロン幹細胞の増殖が刺激または誘導されること、または(3)ニューロン細胞を支持する幹細胞が機能することが意図される。
【0016】
本明細書において、正規の認知訓練なしでCREB経路機能を増強する増大剤で動物を治療する工程を含む、動物において、特定の神経回路(1つまたは複数)の基礎となるニューロン活動またはニューロン活動のパターンの刺激を改善する方法が提供される。また、本明細書において、CREB経路機能を増強する増大剤を動物に投与する工程;および前記持続的改善を検出する工程を含む、動物において、特定の神経回路(1つまたは複数)の基礎となるニューロン活動またはニューロン活動のパターンの刺激において持続的改善を提供する方法が提供される。一態様において、該方法は、動物においてニューロン活動またはニューロン活動のパターンを刺激または誘導するのに充分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含む。
【0017】
一態様において、本発明は、正規の認知訓練なしでCREB経路機能を増強する増大剤で動物を治療する工程を含む、動物において、加齢関連記憶障害に関連する認知障害を改善する方法に関する。別の態様において、本発明は、CREB経路機能を増強する増大剤を動物に投与する工程;および前記持続的改善を検出する工程を含む、動物において、加齢関連記憶障害に関連する認知障害において持続的改善を提供する方法に関する。一態様において、該方法は、動物に認知課題の動作の持続的改善をもたらすのに充分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含み、その障害は加齢関連記憶障害に関連する。
【0018】
別の態様において、本発明は、正規の認知訓練なしでCREB経路機能を増強する増大剤で動物を治療する工程を含む、動物において、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンティングトン病、他の老人性痴呆)に関連する認知障害を改善する方法に関する。別の態様において、本発明は、CREB経路機能を増強する増大剤を動物に投与する工程;および前記持続的改善を検出する工程を含む、動物において、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンティングトン病、他の老人性痴呆)に関連する認知障害において持続的改善を提供する方法に関する。一態様において、該方法は、動物に認知課題の動作の持続的改善をもたらすのに充分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含み、その障害は神経変性疾患に関連する。
【0019】
別の態様において、本発明は、正規の認知訓練なしでCREB経路機能を増強する増大剤で動物を治療する工程を含む、動物において、精神病性疾患(例えば、鬱、統合失調症、自閉症、注意欠陥障害)に関連する認知障害を改善する方法に関する。別の態様において、本発明は、CREB経路機能を増強する増大剤を動物に投与する工程;および前記持続的改善を検出する工程を含む、動物において、精神病性疾患(例えば、鬱、統合失調症、自閉症、注意欠陥障害)に関連する認知障害において持続的改善を提供する方法に関する。一態様において、該方法は、動物に認知課題の動作の改善がもたらされるのに充分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含み、その障害は精神病性疾患に関連する。
【0020】
別の態様において、本発明は、正規の認知訓練なしでCREB経路機能を増強する増大剤で動物を治療する工程を含む、動物において、外傷依存性認知機能の低下に関連する認知障害(例えば、脳血管疾患(例えば、脳卒中、虚血)、脳腫瘍、頭部または脳の損傷)を改善する方法に関する。別の態様において、本発明は、CREB経路機能を増強する増大剤を動物に投与する工程;および前記持続的改善を検出する工程を含む、動物において、外傷依存性認知機能の低下に関連する認知障害(例えば、脳血管疾患(例えば、脳卒中、虚血)、脳腫瘍、頭または脳の損傷)において持続的改善を提供する方法に関する。一態様において、該方法は、動物に認知課題の動作の持続的改善をもたらすのに充分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含み、その障害は外傷依存性認知機能の低下に関連する。
【0021】
別の態様において、本発明は、正規の認知訓練なしでCREB経路機能を増強する増大剤で動物を治療する工程を含む、動物において、遺伝的欠陥に関連する認知障害(例えば、ルービンスタイン‐テービ症候群、ダウン症候群、アンジェルマン症候群、神経線維腫症、コフィン‐ローリー症候群、レット症候群、筋緊張性ジストロフィ、ぜい弱X症候群(例えば、ぜい弱X-1、ぜい弱X-2)およびウィリアムズ症候群)を改善する方法に関する。また、本明細書において、CREB経路機能を増強する増大剤を動物に投与する工程;および前記持続的改善を検出する工程を含む、動物において遺伝的欠陥に関連する認知障害において持続的改善を提供する方法が提供される。一態様において、該方法は、動物に認知課題の動作の改善がもたらされるのに充分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含み、その障害は遺伝的欠陥に関連する。
【0022】
本明細書において、正規の運動訓練なしでCREB経路機能を増強する増大剤で動物を治療する工程を含む、動物において、中枢神経系(CNS)の障害または状態に関連する運動障害を改善する方法が提供される。また、本明細書において、CREB経路機能を増強する増大剤を動物に投与する工程;および前記持続的改善を検出する工程を含む、前記治療を必要とする動物において、中枢神経系(CNS)の障害または状態に関連する運動障害において持続的改善を提供する方法が提供される。一態様において、該方法は、動物に特定の運動課題の動作の改善がもたらされるのに充分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含む。CNSの障害および病気としては、加齢関連記憶障害、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALSまたはルー・ゲーリグ病)、運動ニューロン疾患、ハンティングトン病(舞踏病)、他の老人性痴呆)、精神病性疾患(例えば、鬱、統合失調症、自閉症、注意欠陥障害)、外傷依存性機能低下(例えば、脳血管疾患(例えば、脳卒中、虚血)、脳腫瘍、頭、脳もしくは脊髄損傷)、遺伝的欠陥(例えば、ルービンスタイン‐テービ症候群、ダウン症候群、アンジェルマン症候群、神経線維腫症、コフィン‐ローリー症候群、レット症候群、筋緊張性ジストロフィ、ぜい弱X症候群(例えば、ぜい弱X-1、ぜい弱X-2)、ウィリアムズ症候群)および学習障害が挙げられる。CREB経路機能を増強する増大剤での治療により、増大剤の投与を停止または中止した後、動物に運動課題の動作の改善の維持または永続性がもたらされることが企図される。
【0023】
種々の態様において、増大剤は、ホスホジエステラーゼ4 (PDE4)インヒビターを含むことが企図される。PDE4インヒビターの例としては、ロリプラムおよび以下の式:
(式中、「Me」は「メチル」を意味し、「cPent」は「シクロペンチル」を意味する)の化合物が挙げられる。上記式は、そのエナンチオマーおよび混合物の両方を包含することが理解される。該化合物は、米国特許第6,458,829号に示された方法論を用いて調製され得、その教示は参照により本明細書に援用される。特定の態様において、この上記の式の3位および5位の炭素はS配置である(HT-0712):
(式中、「Me」は「メチル」を意味し、「cPent」は「シクロペンチル」を意味する)。PDE4インヒビターの他の例は、米国特許公開公報第2002/0028842 A1(2002年3月7日公開)号;米国特許第6,458,829B1号;米国特許第6,525,055B1号;米国特許第5,552,438号;米国特許第6,436,965号;および米国特許第6,204,275号に見られ得る。さらに他のPDE4インヒビターは、当該技術分野において公知であり、容易に入手可能である。
【0024】
(発明の詳細な説明)
ヒトを含む多くの種における多くの課題では、離間(spaced)訓練プロトコル(合間に休息間隔を有する多数回の訓練セッション)は、集中(massed)訓練プロトコル(合間に休息間隔のない多数回の訓練セッション)よりも強くて長期持続性の記憶をもたらす。
【0025】
ショウジョウバエにおけるパブロフの嗅覚学習の行動遺伝学的研究では、集中訓練により、それにもかかわらず少なくとも4日間は消えず、タンパク質合成依存的でなく、CREB-リプレッサー導入遺伝子の過剰発現によって破壊されず、ラディッシュ(radish)変異体において破壊される持続性記憶がもたらされることが確立された(Tully,T. et al.,Cell、79(1):35-47 (1994);および Yin,J. C. et al.,Cell、79(1):49-58 (1994))。対照的に、離間訓練では、少なくとも7日間持続し、タンパク質合成依存性であり、CREB-リプレッサー導入遺伝子の過剰発現によって破壊され、ラディッシュ変異体において正常である持続性記憶がもたらされる(Tully,T. et al.,Cell、79(1):35-47 (1994);およびYin,J. C. et al.,Cell、79(1):49-58 (1994))。離間訓練の1日後、記憶保持は、タンパク質合成-およびCREB非依存性早期記憶(ARM)ならびにタンパク質合成-およびCREB依存性長期記憶(LTM)の両方で構成される。さらなる集中訓練は、LTMを誘導するには不充分である(Tully,T. et al.,Cell、79(1):35-47 (1994);およびYin,J. C. et al.,Cell、79(1):49-58 (1994))。
【0026】
一連の証拠が増加していることにより、これらの結果は、無脊椎動物から哺乳動物に拡張される。例えば、アメフラシ(Aplysia)において、CREB発現の分子操作は、ハエのものと同様に(i)細胞培養物における感覚運動単シナプスでの促通性電気生理学的応答のLTM、および(ii)促通性刺激の離間適用後に通常生成される感覚ニューロンと運動ニューロン間のシナプス結合を抑制または増大させる(Bartsch,D. et al.,Cell、83(6):979-992 (1995))。ラットでは、海馬または扁桃体内へのアンチセンスRNAオリゴヌクレオチドの注射により、それぞれ、これらの解剖学的領域における活性に依存する2つの異なる課題のLTM形成がブロックされる(Guzowski,J. F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA、94(6):2693-2698 (1997);およびLamprecht,R. et al.,J. Neurosci.、17(21):8443-8450 (1997))。マウスでは、暗示的(implicit)および明示的(explicit)両方の課題に対するLTM形成は、CREB変異体マウスにおいて不完全である(Bourtchuladze,R. et al.,Cell、79(1):59-68 (1994))。
【0027】
海馬依存性状況把握(contextual)恐怖条件付けまたは受動回避課題での、CRE依存性レポーター遺伝子(β-ガラクトシダーゼ)を有するトランスジェニックマウスの訓練では、海馬の領域 CA1およびCA3においてCRE依存性レポーター遺伝子の発現が誘導される。扁桃体依存性恐怖条件付け課題でのこれらのマウスの訓練により、扁桃体においてCRE依存性レポーター遺伝子発現が誘導されるが、海馬では誘導されない。したがって、LTM形成が誘導される訓練プロトコルでは、哺乳動物の脳の特定の解剖学的領域においてCRE依存性遺伝子転写もまた誘導される(Impey、S. et al.,Nat. Neurosci.、1(7):595-601 (1998))。
【0028】
これらの動物モデルでは、LTM増強の3つの著しい場合が示された。第1に、CREB-アクチベータ導入遺伝子の過剰発現により、多数回の離間訓練セッションの必要性が排除され、代わりに、1回だけの訓練セッション(これは、通常、24時間後、記憶保持はほとんどまたは全くもたらさない)後にLTM形成が誘導される(Yin,J. C. et al.,Cell、81(1):107-115 (1995))。第2に、ラット扁桃体内へのウイルス発現CREB-アクチベータ導入遺伝子の注射もまた、恐怖増強驚愕応答に関する集中訓練後の記憶を増大させるのに充分であり、これは、離間訓練における休息間隔の必要性を排除する(Josselyn,S. A. et al.,Society for Neuroscience、第24巻、Abstract 365.10 (1998);およびJosselyn,S. A. et al.,J. Neurosci.、21:2404-2412 (2001))。第3に、CREB欠損マウスにおけるLTM形成(Bourtchuladze,R、et al.、Cell、79(1):59-68 (1994))は、変異体マウスが異なる離間訓練プロトコルに供された場合、通常形成され得る(Kogan,J. H. et al.,Curr. Biol.、7(1):1-11 (1997))。
【0029】
また、CREBは、脊椎動物の脳の種々の形態の発生および細胞性の形成性に関与しているようである。例えば、ニューロン活動は、皮質におけるCREB活性を増大させる(Moore,A. N. et al.,J. Biol. Chem.、271(24):14214-14220 (1996))。CREBはまた、海馬(Murphy,D. D. et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA、94(4):1482-1487 (1997))、体性感覚皮質(Glazewski,S. et al.,Cereb. Cortex、9(3):249-256 (1999))、線条体(Liu,F. C. et al.,Neuron、17(6):1133-1144 (1996))、および視覚皮質(Pham、T. A. et al.,Neuron、22(1):63-72 (1999))における発達上の形成性を媒介する。
【0030】
CREBは、ヒト神経変性疾患および脳損傷において影響を受けているようである。例えば、CREB活性化および/または発現は、アルツハイマー病において破壊されている(Ikezu,T. et al.,EMBO J.、15(10):2468-2475 (1996);Sato,N. et al.,Biochem. Biophys. Res. Commun.、232(3):637-642 (1997);Yamamoto-Sasaki,M. et al.,Brain. Res.、824(2):300-303 (1999);Vitolo,O. V. et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,13217-13221 (2002))。CREB活性化および/または発現はまた、発作または虚血後に上昇する(Blendy,J. A. et al.,Brain Res.、681(1-2):8-14 (1995);およびTanaka,K. et al.,Neuroreport、10(11):2245-2250 (1999))。「環境的富化」は、神経保護的であり、CREBを介した作用による細胞死を抑制する(Young,D. et al.,Nat. Med.、5(4):448-453 (1999))。
【0031】
CREBは薬物感受性および中断中に機能する。例えば、CREBは、エタノール(Pandey,S. C. et al.,Alcohol Clin. Exp. Res.、23(9):1425-1434 (1999);Constantinescu,A. et al.,J. Biol. Chem.、274(38):26985-26991 (1999);Yang,X. et al.,Alcohol Clin. Exp. Res.、22(2):382-390 (1998);Yang,X. et al.,J. Neurochem.、70(1):224-232 (1998);およびMoore,M. S. et al.,Cell、93(6):997-1007 (1998))、コカイン(Carlezon,W. A.、Jr. et al.,Science、282(5397):2272-2275 (1998))、モルヒネ(Widnell,K. L. et al.,J. Pharmacol. Exp. Ther.、276(1):306-315 (1996))、メタンフェタミン(Muratake,T. et al.,Ann N.Y. Acad. Sci.、844:21-26 (1998))ならびにカンナビノイド(Calandra、B. et al.,Eur. J. Pharmacol、374(3):445-455 (1999);およびHerring,A. C. et al.,Biochem. Pharmacol.、55(7):1013-1023 (1998))によって影響される。
【0032】
CREB/CRE転写経路を刺激し得るシグナル伝達経路は、cAMP調節系である。これと一致して、アデニレートシクラーゼ1(AC1)およびAC8両方の酵素を欠くマウスは学習することができない(Wong S. T. et al.,Neuron、23(4):787-798 (1999))。これらのマウスでは、海馬のCA1領域へのフォルスコリンの投与により、海馬依存性課題の学習および記憶が回復される。さらに、cAMPレベルを上昇させる薬物(例えば、ロリプラムおよびD1受容体アゴニスト)による高齢ラットの治療により、海馬依存性記憶の加齢依存性低下および細胞の長期増強が改善される(Barad,M. et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA、95(25):15020-15025 (1998))。これらの後者のデータは、cAMPシグナル伝達が学習障害高齢ラットにおいて不完全性であることを示唆する(Bach,M. E. et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA、96(9):5280-5285 (1999))。
【0033】
本発明は、(1)種々の形態の認知機能不全のリハビリを行なう、(2)通常の認知動作を増大させることができる新規な方法論に関する。CREB経路増強薬の投与は、見かけ上、新たに獲得された経験の生化学的効果を持続性のシナプスの構造的変化に変換するシナプス形成性の一般的な分子機構を介して作用する。CREB経路増強薬の投与は、認知訓練後、持続動作の進歩を示す脳機能の任意の局面に適用され得る。したがって、CREB経路増強薬の投与は、任意の形態の認知もしくは運動機能不全を有する動物のリハビリにおいて、または動物において通常の認知もしくは運動動作の任意の局面の増強もしくは改善に使用され得る。
【0034】
一連の証拠が増加していることにより、ニューロンは、成体の脳において増殖し続けること(Arsenijevic,Y. et al.,Exp. Neurol.、170:48-62 (2001);Vescovi,A. L. et al.,Biomed. Pharmacother.、55:201-205 (2001);Cameron,H. A. and McKay、R. D.、J. Comp. Neurol.、435:406-417 (2001);およびGeuna,S. et al.,Anat. Rec、265:132-141 (2001))、およびかかる増殖は、種々の経験に応答したものであること(Nilsson,M. et al.,J. Neurobiol.、39:569-578 (1999);Gould,E. et al.,Trends Cogn. Sci.、3:186-192 (1999);Fuchs,E.およびGould,E.、Eur. J. Neurosci.,12:2211-2214 (2000);Gould,E. et al.,Biol. Psychiatry、48:715-720 (2000);ならびにGould,E. et al.,Nat. Neurosci.、2:260-265 (1999))が示唆される。種々の治療適応のために成体の脳内にニューロン幹を移植する実験ストラテジーは、現在、進行中である(Kurimoto,Y. et al.,Neurosci. Lett.、306:57-60 (2001);Singh,G.、Neuropathology、21:110-114 (2001);ならびにCameron,H. A.およびMcKay,R. D.、Nat. Neurosci.、2:894-897 (1999))。発生の胚段階の神経発生について、既に多くが公知である(Saitoe,M.およびTully,T.、「Making connections between synaptic and behavioral plasticity in Drosophila」、In Toward a Theory of Neuroplasticity、J. McEachemおよび C. Shaw編(New York:Psychology Press.)、pp. 193-220 (2000))。ニューロンの分化、神経突起伸長および初期シナプス標的認識はすべて、活性非依存的様式で起こるようである。しかしながら、続くシナプス形成およびシナプス成長は、機能的に関連する様式でシナプス結合を微調整するためには、進行中のニューロン活動が必要とされる。これらの所見は、移植され神経幹細胞の機能的(最終)統合にはニューロン活動が必要であることを示す。したがって、CREB経路増強薬の投与は、適切な神経回路を働かせ、ニューロンに分化する新たに獲得された移植幹細胞のシナプス結合を微調整するために使用され得る。「適切な神経回路(1つまたは複数)を働かせる」により、特定の認知訓練プロトコルによってもたらされるものに相当するニューロン活動のパターンの適切な神経回路(1つまたは複数)における誘導が意図される。認知訓練プロトコルは、かかるニューロン活動を誘導するために使用され得る。代替的に、ニューロン活動は、神経回路の直接電気刺激によって誘導され得る。「ニューロンの活動」および「神経の活動」は、本明細書において互換的に使用される。
【0035】
ACTは、各脳機能のためのための特定の訓練プロトコルおよびCREB経路増強薬の全身投与を含む。訓練プロトコル(認知訓練)は、特定の脳領域においてニューロン活動を誘導し、特定の脳(認知)機能の改善された動作をもたらす。CREB経路増強薬は、本明細書において増大剤ともよばれ、CREB経路機能を増大させ、これには、新たに獲得された情報をLTMに固定することが必要とされる。「CREB経路機能を増大させる 」は、CREB依存性遺伝子発現を増大または改善する能力を意味する。CREB依存性遺伝子発現は、例えば、内因性遺伝子を直接もしくは間接的に刺激してCREBの量の増加をもたらして内因性CREB産生を増大させることにより、または機能的(生物学的に活性な)CREBを増大させることにより、増大または改善され得る。例えば、米国特許第5,929,223号;米国特許第6,051,559号;および国際公開公報WO9611270 (1996年4月18日公開)を参照のこと、該参考文献は、参照によりその全体が本明細書に援用される。CREB経路増強薬の投与により、訓練単独と比べて、動作の進歩に必要な訓練が減少する。特に、ACTは、動作の進歩をもたらすのに必要とされる訓練セッションの数を、認知訓練単独の場合よりも減らすことにより、または動作の進歩をもたらすのに必要とされる訓練セッション間の休息間隔がなくすか短くすることにより認知訓練を増強させ得る。このように、ACTにより、認知訓練技術の効率が改善され、それにより有意な経済的利点がもたらされる。「動作の進歩」は、認知動作の局面の改善を意味する。
【0036】
本発明は、(a)CREB経路機能を増強する増大剤を動物に投与する工程;および任意に(b)動物に特定の認知課題の動作の改善がもたらされるのに充分な条件下で動物を訓練する工程を含む、増強が必要とされる動物(特に、ヒトまたは他の哺乳動物もしくは脊椎動物)における認知動作の特定の局面の増強方法を提供する。
【0037】
例えば、正式な(formal)認知訓練プロトコルは、鬱(モノポラー(monopolor))および/または恐怖を有する患者を、該患者が鬱および/または恐怖(1つもしくは複数)に関連する病理学的応答を忘れ、適切な行動を学習するのを補助するように治療するために使用される。任意に認知訓練と組み合わせたCREB経路増強薬の投与により、これらの患者において動作の進歩に必要とされる訓練セッションの時間および/または回数が減少する。そのため、全体としての治療は、より短い時間で達成される。
【0038】
同様に、正式な認知訓練プロトコルは、自閉症を有する患者を、該患者が病理学的応答を忘れ、適切な行動を学習するのを補助するように治療するために使用される。任意に認知訓練と組み合わせたCREB経路増強薬の投与により、により、これらの患者において動作の進歩に必要とされる訓練セッションの時間および/または回数が減少する。
【0039】
正式な認知訓練プロトコル(例えば、理学療法、バイオフィードバック法)が、脳卒中患者のリハビリ(脳卒中のリハビリテーション)、特に、損傷されたまたは失われた感覚運動機能(1つまたは複数)のリハビリに使用される。認知訓練と組み合わせたCREB経路増強薬の投与により、これらの患者において動作の進歩に必要とされる訓練セッションの時間および/または回数が減少する。その結果、失われた認知または運動機能(1つまたは複数)のより高速でより効率的な回復が期待される。
【0040】
正式な認知訓練プロトコル(例えば、集中訓練、離間訓練)が、新しい言語の学習または新しい楽器の演奏の学習に使用される。認知訓練と組み合わせたCREB経路増強薬の投与により、動作の進歩がもたらされるのに必要とされる訓練セッションの時間および/または回数が減少する。その結果、新しい言語の学習または新しい楽器の演奏の学習に必要とされる練習(訓練セッション)が少なくなる。
【0041】
正式な認知訓練プロトコルは、学習、言語または読解に障害を有する個体における学習および/または実行の改善に使用される。認知訓練と組み合わせたCREB経路増強薬の投与により、これらの個体において動作の進歩がもたらされるのに必要とされる訓練セッションの時間および/または回数が減少する。
【0042】
正式な認知訓練プロトコルは、個体において神経回路を働かせ、ニューロンに分化する新たに獲得された移植幹細胞のシナプス結合を微調整するために使用される。認知訓練と組み合わせたCREB経路増強薬の投与により、これらの個体において、特定の神経回路(1つまたは複数)のニューロン活動のパターンの誘導に必要とされる訓練セッションの時間および/または回数が減少する。
【0043】
正式な認知訓練プロトコルは、個体において、特定の神経回路(1つまたは複数)の基礎となるニューロン活動またはニューロン活動のパターンの反復刺激のために使用される。認知訓練と組み合わせたCREB経路増強薬の投与により、神経回路のシナプス結合間のCREB依存性長期構造/機能(すなわち、持続性)変化を誘導するのに必要とされる訓練セッションおよび/または基礎となるニューロン活動のパターンの時間および/または回数が減少する。
【0044】
集中的なリハビリテーション治療により、脳損傷後の機能的回復が改善され得る。この回復は、生存ニューロンが、失われた機能を呈するように「再訓練」された場合、残留脳組織の再組織化により生じる。神経の形成性における変化は、この再組織化の基礎となると考えられる。cAMP/CREB経路の活性化は、神経の形成性における経験依存性変化のための必須の工程である。外側液体衝撃(LFP)脳損傷後の運動および認知リハビリテーションに対するHT-0712およびロリプラムの効果を調べた。成体ラットを、スキルド運動課題(千鳥状ステップ(staggered step))において基準の動作まで訓練し、LFPデバイスを用いて損傷させた。1週間の回復後、ラットは、PDE4インヒビターまたはビヒクルのいずれかとともにスキルド運動リハビリテーションを開始した。HT-0712およびロリプラムはともに、運動リハビリテーションを有意に増強した。別の群の動物では、ラットを、まず、物体認識のベースライン記憶動作について試験した。損傷後、ラットは、訓練後4時間目はそのまま物体認識を示したが、24時間目は記憶が不完全であった。物体認識(認知リハビリ)の反復認知訓練中、HT-0712またはビヒクルを与えた。6回セッションのリハビリ後、HT-0712群の動作は、ビヒクル群よりも有意に良好であった。この記憶改善は、薬物の非存在下で8週間もの長期間持続し、痕跡(trace)恐怖条件付けについて改善された記憶動作と解釈した。驚いたことに、PDE4インヒビターHT-0712は、脳損傷後の運動および認知回復を改善するために使用され得る。
【0045】
訓練は、1回または多数回の訓練セッションを含み得、目的の認知課題の動作の改善がもたらされるのに適切な訓練である。例えば、言語獲得における改善が所望される場合、訓練は言語獲得に集中され得る。楽器の演奏を学習する能力における改善が所望される場合、訓練は、楽器の演奏の学習に集中され得る。特定の運動技能における改善が所望される場合、訓練は、特定の運動技能の獲得に集中され得る。特定の目的の認知課題は、適切な訓練と適合している。
【0046】
本発明はまた、(a)CREB経路機能を増強する増大剤を動物に投与する工程;および(b)動物においてニューロン活動またはニューロン活動のパターンを刺激または誘導するのに充分な条件下で動物を訓練する工程を含む、動物において特定の神経回路(1つまたは複数)の基礎となるニューロン活動またはニューロン活動のパターンの反復刺激のための方法を提供する。この場合、訓練は、動物においてニューロン活動またはニューロン活動のパターンを刺激または誘導するのに適切な訓練である。
【0047】
「多数回の訓練セッション」は、2回以上の訓練セッションを意味する。増大剤は、1回以上の訓練セッションの前、セッション中、またはセッション後に投与され得る。特定の態様において、増大剤は、各訓練セッション前とセッション中に投与される。また、各訓練セッションと組み合わせた増大剤での治療は、「増大治療」という。「訓練」は認知訓練を意味する。
【0048】
正式な認知訓練プロトコルは公知であり、当該技術分野において容易に利用可能である。例えば、Karni, A.およびSagi, D., 「Where practice makes perfect in text discrimination: evidence for primary visual cortex plasticity」, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88:4966-4970 (1991); Karni, A.およびSagi, D.,「The time course of learning a visual skill」, Nature, 365:250-252 (1993); Kramer, A. F. et al.,「Task coordination and aging: explorations of executive control processes in the task switching paradigm」, Acta Psychol, (Amst), 101:339-378 (1999); Kramer, A. F. et al.,「Training for executive control: Task coordination strategies and aging」, In Aging and Skilled Performance: Advances In Theory and Applications, W. Rogers et al.編. (Hillsdale, NJ. : Erlbaum)(1999); Rider, R. A.およびAbdulahad, D. T.,「Effects of massed versus distributed practice on gross and fine motor proficiency of educable mentally handicapped adolescents」, Percept. Mot. Skills, 73:219-224 (1991); Willis, S. L.およびSchaie, K. W.,「Training the elderly on the ability factors of spatial orientation and inductive reasoning」, Psychol. Aging, 1 :239-247 (1986); Willis, S. L.およびNesselroade, C. S.,「Long-term effects of fluid ability training in old-old age」, Develop. Psychol., 26:905-910 (1990); Wek, S. R.およびHusak, W. S.,「Distributed and massed practice effects on motor performance and learning of autistic children」, Percept. Mot. Skills, 68:107-113 (1989); Verhaehen, P. et al.,「Improving memory performance in the aged through mnemonic training: a meta-analytic study」, Psychol. Aging, 7:242-251 (1992); Verhaeghen, P.およびSalthouse, T. A.,「Meta-analyses of age-cognition relations in adulthood: estimates of linear and nonlinear age effects and structural models」, Psychol. Bull., 122:231-249 (1997); Dean, C. M. et al.,「Task-related circuit training improves performance of locomotor tasks in chronic stroke: a randomized, controlled pilot試行」, Arch. Phys. Med. Rehabil., 81 :409-417 (2000); Greener, J. et al.,「Speech and language therapy for aphasia following stroke」, Cochrane Database Syst. Rev., CD000425 (2000); Hummelsheim, H.およびEickhof, C,「Repetitive sensorimotor training for arm and hand in a patient with locked-in syndrome」, Scand. J. Rehabil. Med., 31 :250-256 (1999); Johansson, B. B.,「Brain plasticity and stroke rehabilitation. The Willis lecture」, Stroke, 31 :223-230 (2000); Ko Ko, C.,「Effectiveness of rehabilitation for multiple sclerosis」, Clin. Rehabil., 13 (Suppl. 1):33-41 (1999); Lange, G. et al.,「Organizational strategy influence on visual memory performance after stroke: cortical/subcortical and left/right hemisphere contrasts」, Arch. Phys. Med. Rehabil., 81 :89-94 (2000); Liepert, J. et al.,「Treatment-induced cortical reorganization after stroke in humans」, Stroke, 31 : 1210-1216 (2000); Lotery, A. J. et al.,「Correctable visual impairment in stroke rehabilitation patients」, Age Ageing, 29:221-222 (2000); Majid, M. J. et al.,「Cognitive rehabilitation for memory deficits following stroke」(Cochrane review), Cochrane Database Syst. Rev., CD002293 (2000); Merzenich, M. et al.,「Cortical plasticity underlying perceptual, motor, and cognitive skill development: implications for neurorehabilitation」, Cold Spring Harb. Symp. Quant. Biol., 61 :1-8 (1996); Merzenich, M. M. et al.,「Temporal processing deficits of language-learning impaired children ameliorated by training」, Science, 271:77-81 (1996); Murphy, E.,「Stroke rehabilitation」, J. R. Coll. Physicians Lond., 33:466-468 (1999); Nagarajan, S. S. et al.,「Speech modifications algorithms used for training language learning-impaired children」, IEEE Trans. Rehabil. Eng., 6:257-268. (1998); Oddone, E. et al.,「Quality Enhancement Research Initiative in stroke: prevention, treatment, and rehabilitation」, Med. Care 38:192-1104 (2000); Rice-Oxley, M. and Turner-Stokes, L.,「Effectiveness of brain injury rehabilitation」, Clin. Rehabil., 13(Suppl l):7-24 (1999); Tallal, P. et al.,「Language learning impairments: integrating basic science, technology, and remediation」, Exp. Brain Res., 123:210-219 (1998); Tallal, P. et al.,「Language comprehension in language-learning impaired children improved with acoustically modified speech」, Science, 271 :81-84 (1996); Wingfield, A. et al.,「Regaining lost time: adult aging and the effect of time 休息oration on recall of time-compressed speech」, Psychol. Aging, 14:380-389 (1999)を参照のこと、これらの参考文献は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0049】
本明細書で使用されるように、用語「動物」としては、哺乳動物、ならびに他の動物、脊椎動物および無脊椎動物(例えば、鳥類、魚類、爬虫類、昆虫(例えば、ショウジョウバエ 種)、軟体動物(例えば、アメフラシ)が挙げられる。用語「哺乳動物」および「哺乳動物」は、本明細書で使用されるように、任意の脊椎動物、例えば、子供に授乳し、子供を出産するか(真獣類もしくは胎盤哺乳動物)または卵を産む(後獣類もしくは非胎盤哺乳動物)のいずれかである単孔類、有袋類および胎盤類をいう。哺乳動物種の例としては、ヒトおよび霊長類(例えば、サル、チンパンジー)、齧歯類(例えば、ラット、マウス、モルモット)ならびに反芻動物(ruminent)(例えば、ウシ、ブタ、ウマ)が挙げられる。
【0050】
動物は、なんらかの形態もしくはある程度の認知機能不全を有する動物、または通常の認知動作を有する動物(すなわち、なんらかの形態の認知不全(機能不全もしくはある程度の認知機能の低下)をもたない動物)であり得る。
【0051】
認知機能不全は、一般的に、脳機能不全および中枢神経系(CNS)の障害または状態と関連しており、遺伝、疾患、損傷および/または加齢により起こる。なんらかの形態またはある程度の認知不全(機能不全)を伴うCNSの障害および病気としては、限定されないが、以下のものが挙げられる。
1)加齢関連記憶障害;
2)神経変性障害、例えば、せん妄(急性錯乱状態);痴呆、例えば、アルツハイマー型および非アルツハイマー型痴呆、例えば、限定されないが、レヴィー小体痴呆、血管性痴呆、ビンスヴァンガー痴呆(皮質下性動脈硬化性脳障害脳症)、パーキンソン病と関連する痴呆、進行性核上性麻痺、ハンティングトン病(舞踏病)、ピック病、正常圧水頭症、クロイツフェルト‐ヤーコブ病、ゲルストマン‐シュトロイスラー‐シャインカー病、神経梅毒(全身不全麻痺)またはHIV感染、前頭葉痴呆症候群、頭部外傷と関連する痴呆、例えば、拳闘痴呆、脳外傷、硬膜下血腫、脳腫瘍、甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏症、頭蓋内放射線;他の神経変性障害;
3)精神病性障害、例えば、情動障害(気分障害)、例えば、限定されないが、鬱、例えば、抑鬱仮性痴呆;精神病性障害、例えば、限定されないが、統合失調症および自閉症(カンナー症候群);神経症性障害、例えば、限定されないが、不安および強迫性障害;注意欠陥障害;
4)外傷依存性認知機能の低下、例えば、限定されないが、脳血管疾患、例えば、脳卒中および虚血、例えば、虚血性脳卒中;脳外傷、例えば、硬膜下血腫および脳腫瘍;頭部損傷、冠状動脈バイパス移植(CABG)術による合併症および神経毒性(neurotoxcicity)、興奮毒性、ならびに発作と関連するもの(によるもの);
5)遺伝的欠陥により生じるなんらかの形態およびある程度の認知機能不全に関連する障害、例えば、限定されないが、ルービンスタイン‐テービ症候群、ダウン症候群、アンジェルマン症候群、ぜい弱X症候群(ぜい弱X-1、ぜい弱X-2)、神経線維腫症、コフィン‐ローリー症候群、筋緊張性ジストロフィ、レット症候群、ウィリアムズ症候群、クラインフェルター症候群、モザイク現象、13トリソミー(パトー症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、ターナー症候群、ネコ鳴き症候群、レッシュ‐ナイハン症候群(尿酸過剰血症)、ハンター症候群、ロウ眼脳腎症候群、ゴーシェ病、ハーラー症候群(ムコ多糖症)、ニーマン‐ピック病、テイ‐サックス病、ガラクトース血症、カエデシロップ病、フェニルケトン尿症、アミン酸尿症、酸血症、結節硬化症および原発性小頭蓋症;
6)特に、小児における学習、言語または読解の障害。「学習障害」は、個体が学習する過程に影響する基本的な心理学的プロセスの障害を意味する。学習障害は、聴解、思考、会話、読解、筆記、スペリング、計算または前記のものの任意の組合せに困難を引き起こし得る。学習障害としては、知覚のハンディキャップ、失読症および発達上の失語症が挙げられる。
【0052】
用語「認知動作」および「認知機能」は当該技術分野に認められる用語であり、当該技術分野で受け入れられる意味に従って本明細書で使用される。「認知課題」とは、認知機能を意味する。認知機能としては、記憶獲得、視覚識別、聴覚識別、実行機能、運動技術学習、要約演繹、空間能力、会話および言語技術ならびに言語獲得が挙げられる。「特定の局面の認知動作を高める」とは、例えば、記憶の獲得または学習課題の実行などの、特定の認知機能または脳機能を高めるまたは改善する能力を意味する。「特定の認知課題の動作における改善」とは、訓練前の動作と比べて特定の認知課題または特定の局面の脳機能の動作における改善を意味する。例えば、脳卒中後の患者が、足がふらふらし得るだけである場合、患者における動作の改善(動作の進歩)は、例えば、歩く能力である。
【0053】
「持続した改善を提供する」は、特定の認知課題の動作における改善が増大剤の投与が停止した後も残ることを意味する。
【0054】
従って、本発明はまた、正式認知訓練の非存在下で、CREB経路機能を高める増大剤で動物を治療する工程を含む、動物(特に、ヒトまたは他の哺乳動物または脊椎動物)のCNS障害または状態と関連する認知障害を改善する方法に関する。本発明はまた、CREB経路機能を高める増大剤を動物に投与する工程、および持続した改善を検出する工程を含む、動物(特にヒトまたは他の哺乳動物または脊椎動物)のCNS障害または状態と関連する認知障害における持続した改善を提供する方法に関する。本発明はまた、動物が特定の認知課題の動作における改善を生じるのに十分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含む方法に関する。
【0055】
1つの態様において、本発明は、(a)CREB経路機能を高める増大剤を動物に投与する工程、および任意に(b)損失が加齢関連記憶障害と関連し、動物が認知課題の動作における改善を生じるのに十分な条件下で動物を訓練する工程を含む、治療の必要がある動物において加齢関連記憶障害と関連する認知障害を治療する方法に関する。
【0056】
特定の態様において、増大剤はホスホジエステラーゼ4(PDE4)インヒビターである。PDE4インヒビターの例としては、ロリプラムおよび
以下の式:
の化合物が挙げられる。
【0057】
式中「Me」は「メチル」を表し、「cPent」は「シクロペンチル」を表す。上記式はそのエナンチオマーおよび混合物の両方を含むことを理解されたい。化合物は、米国特許第6,458,829号に提供される方法を用いて調製することができ、その教示は参照によって本明細書に援用される。特定の態様において、上述の式の3および5位の炭素はS配置:
である。
【0058】
式中「Me」は「メチル」を表し、「cPent」は「シクロペンチル」を表す。PDE4インヒビターの他の例が、米国出願公開第2002/0028842号A1(2002年5月7日公開);米国特許第6,458,829号B1;米国特許第6,525,055号B1;米国特許第5,552,438号;米国特許第6,436,965号;および米国特許第6,204,275号に見ることができる。さらなる他のPDE4インヒビターが公知であり、当該技術分野で容易に利用可能である。
【0059】
精神遅滞は学習および記憶獲得を含む認知処理および認知機能に影響を及ぼす(Weeber, E. J. et al., Neuron, 33:845-848))。精神遅滞は、染色体要因または遺伝的要因、先天的感染、奇形促進剤(薬物および他の化学物質)、栄養失調、放射線または着床および胚発生に影響を及ぼす未知の状態によって生じることがある。精神遅滞症候群としては、限定されないが、クラインフェルター症候群、モザイク現象、トリソミー13(パトー症候群)、トリソミー18(エドワード症候群)、ターナー症候群、ネコ鳴き症候群、レッシュ-ナイハン症候群(高尿酸血症)、ハンター症候群、ロイエ眼脳腎症候群、ゴーシェ病、ハーラー症候群(ムコ多糖沈着症)、ニーマン-ピック病、テイ=サックス病、ガラクトース血症、メープルシロップ尿病、フェニルケトン尿症、アミノ酸尿症、酸血症、結節硬化症および原発性小頭症が挙げられる。また、精神遅滞症候群としては、ルービンステイン-テービ症候群、ダウン症候群、アンジェルマン症候群、神経線維症、コフィン-ローリー症候群、レット症候群、筋緊張性ジストロフィー、脆弱X症候群(例えば、脆弱X-1、脆弱X-2)およびウイリアム症候群が挙げられる(Weeber, E. J. et al., Neuron, 33:845-848(2002))。
【0060】
本発明はまた、(a)CREB経路機能を高める増大剤を動物に投与する工程、および(b)動物における神経活動または神経活動のパターンを刺激または誘導するのに十分な条件下で動物を訓練する工程を含む、神経幹細胞操作を受けた動物のCNS障害または状態と関連する認知障害の治療方法に関する。「神経幹細胞操作」とは、(1)外因性神経幹細胞が動物の脳または脊髄に移植されることまたは(2)内因性神経幹細胞が動物で増殖するように刺激または誘導されることを意味する。動物の脳または脊髄への神経幹細胞の移植方法は、公知であり、当該技術分野で容易に利用可能である(例えば、Cameron, H. A.およびMcKay, R. D., Nat. Neurosci., 2:894-897(1999);Kurimoto, Y. et al., Neurosci. Lett., 306:57-60(2001);およびSingh, G., Neuropathology, 21:110-114(2001)参照)。動物の内因性神経幹細胞の増殖を刺激または誘導する方法は公知であり、当該技術分野で容易に利用可能である(例えば、Gould, E. et al., Trends Cogn. Sci, 3:186-192(1999); Gould, E. et al., Biol. Psychiatry, 48:715-20(2000);Nilsson, M. et al, J. Neurobiol., 39:569-578(1999); Fuchs, E.およびGould, E., Eur. J Neurosci., 12:2211-2214(2000);ならびにGould, E. et al., Nat. Neurosci., 2:260-265(1999)参照)。動物の脳または脊髄への神経幹細胞を移植する特定の方法および動物の内因性神経幹細胞の増殖を刺激または誘導する特定の方法は本発明の実施に重要ではない。
【0061】
さらに、本発明は、(a)CREB経路機能を高める増大剤を動物に投与する工程、および(b)動物が、学習、言語または読み取り実行の不能と関連する認知課題の動作における改善を生じるのに十分な条件下で動物を訓練する工程を含む、学習、言語もしくは読み取り不能、または前記のいずれかの組み合わせを有する動物の学習および/または動作を改善または高める方法に関する。
【0062】
本明細書で使用される増大剤は、薬理学的活性を有する化合物であり、薬物、化合物、イオン性化合物、有機化合物、補因子を含む有機リガンド、糖類、組み換えおよび合成ペプチド、タンパク質、ペプトイド、遺伝子を含む核酸配列、核酸産物、ならびに他の分子および組成物が挙げられる。
【0063】
例えば、増大剤は、細胞透過性cAMPアナログ(例えば、8-ブロモcAMP);アデニレートシクラーゼ1(AC1)のアクチベーター(例えば、フォルスコリン);限定されないがアドレナリン性レセプターおよびオピオイドレセプターおよびこれらのリガンドなどのGタンパク質結合レセプターに影響を及ぼす薬剤(例えば、フェネチルアミン);細胞内カルシウム濃度のモジュレーター(例えば、タプシガルジン、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)レセプターアゴニスト);cAMP分解の原因となるホスホジエステラーゼのインヒビター(例えば、ホスホジエステラーゼ1(PDE1)インヒビター)(例えば、イソ-ブト-メト-ザンチン(IBMX))、ホスホジエステラーゼ2(PDE2)インヒビター(例えば、イソ-ブト-メト-ザンチン(IBMX))、ホスホジエステラーゼ3(PDE3)インヒビター、ホスホジエステラーゼ4(PDE4)インヒビター(例えば、ロリプラム、HT0712)、など)(例えば、米国特許第6,458,829号B1;米国出願公開第2002/0028842号A1(2002年5月7日公開)も参照);CREBタンパク質活性化およびCREB依存性遺伝子発現を媒介するプロテインキナーゼおよびプロテインホスファターゼのモジュレーターであり得る。増大剤は、外因性CREB、CREBアナログ、CREB様分子、生物学的活性CREB断片、CREB融合タンパク質、内因性CREB、CREBアナログ、CREB様分子、生物学的活性CREB断片またはCREB融合タンパク質をコードする核酸配列であり得る。
【0064】
増大剤はまた、CREB機能モジュレーターまたはCREB機能モジュレーターをコードする核酸配列であり得る。本明細書で使用されるCREB機能モジュレーターはCREB経路機能を調節する能力を有する。「調節する」とは、CREB経路機能を変化(増大もしくは減少)または改変する能力を意味する。
【0065】
増大剤はCNSのCREB機能を高めることができる化合物であり得る。かかる化合物としては、限定されないが、膜安定性および膜流動性ならびに特定の免疫刺激に影響を及ぼす化合物が挙げられる。特定の態様において、増大剤はCNSのCREB経路機能を一過的に高めることができる。
【0066】
CREBアナログ、またはCREB誘導体は、内因性CREBに類似するアミノ酸配列を有するタンパク質として本明細書で定義される。本明細書で、類似アミノ酸配列は、内因性CREBの生物学的活性を有するような内因性CREBのアミノ酸配列の十分な同一性を有するが、アミノ酸配列の1つ以上の「サイレント」変化を有するアミノ酸配列を意味するように定義される。CREBアナログとしては、哺乳動物CREM、哺乳動物ATF-1および他のCREB/CREM/ATF-1サブファミリーメンバーが挙げられる。
【0067】
CREB様分子とは、その用語が本明細書で使用される場合、機能的にCREBと似ている(模倣する)タンパク質のことをいう。CREB様分子は内因性CREBに類似するアミノ酸配列を有する必要はない。
【0068】
CREBの生物学的活性ポリペプチド断片は、CREBの完全長アミノ酸配列の一部しか含まないが、生物学的活性を有するものでもよい。かかる断片はカルボキシルまたはアミノ末端欠失および内部欠失によって生み出すことができる。
【0069】
融合タンパク質は、本明細書に記載され、第一部分と呼ばれるCREBタンパク質を含み、CREBタンパク質で生じない第二部分に連結される。第二部分は単一のアミノ酸、ペプチド、またはポリペプチドあるいは炭水化物、脂質もしくは無機分子などの他の有機部分であり得る。
【0070】
核酸配列は本明細書で核酸分子のヘテロポリマーと定義される。核酸分子は二本鎖または一本鎖であり得、cDNAもしくはゲノムDNAなどのデオキシリボヌクレオチド(DNA)分子、またはリボヌクレオチド(RNA)分子であり得る。従って、核酸配列は、例えば、適切なイントロンの有無に関わらず、1つ以上のエキソン、および1つ以上の適切な制御配列を含むことができる。1つの例において、核酸分子は所望の核酸産物をコードする単一のオープンリーディングフレームを含む。核酸配列は適切なプロモーターに「作動可能に連結」される。
【0071】
所望のCREBタンパク質、CREBアナログ(CREM、ATF-1を含む)、CREB様分子、生物学的活性CREB断片、CREB融合タンパク質またはCREB機能モジュレーターをコードする核酸配列は、例えば、Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York (1998);およびSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor University Press, New York.(1989)に記載されるように、天然から単離され得るか、天然配列から改変され得るか、またはデノボで製造され得る。核酸は、適合可能なクローニングまたは制限部位の探求および製造などの当該技術分野で公知の方法によって、単離することができ、共に融合することができる。
【0072】
典型的に、核酸配列は、所望のCREBタンパク質、CREBアナログ、CREB様分子、CREB融合タンパク質またはCREB機能モジュレーターをコードする遺伝子である。典型的に、かかる遺伝子は、好ましくはCNSにおいてCREBタンパク質またはCREB機能モジュレーターの発現に影響を及ぼすことができる適切な制御配列に作動可能に連結される。本明細書で使用される場合、用語「作動可能に連結される」は、遺伝子(または核酸配列)の発現を可能にする様式で遺伝子(または核酸配列)が制御配列に連結されることを意味すると定義される。一般的に、作動可能に連結されるは、連続性を意味する。
【0073】
制御配列としては、転写プロモーター、転写を調節する選択オペレーター配列、転写および翻訳の終了を調節する適切なメッセンジャーRNA(mRNA)リボソーム結合部位および配列をコードする配列が挙げられる。特定の態様において、CREBタンパク質、CREBアナログ、CREB様分子、生物学的活性CREB断片、CREB融合タンパク質またはCREB機能モジュレーターをコードする組み換え遺伝子(または核酸配列)は、誘導または抑制され得る調節性制御のプロモーター下に置かれ、それによって産物のレベルに関して高い程度の制御を提供することができる。
【0074】
本明細書で使用される場合、用語「プロモーター」は、通常、構造遺伝子のコーディング領域の上流(5')のDNA配列のことをいい、RNAポリメラーゼおよび転写の開始に必要とされ得る他の因子のための認識部位および結合部位を提供することでコーディング領域の発現を制御する。適切なプロモーターは、当該技術分野で周知である。例示的なプロモーターとしては、SV40およびヒト伸長因子(EFI)が挙げられる。他の適切なプロモーターは当該技術分野で容易に利用可能である(例えば、Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York (1998); Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor University Press, New York.(1989);および米国特許第5,681,735号参照)。
【0075】
増大剤は様々な機構によってCREB経路機能を高めることができる。例えば、増大剤は、CREB依存性遺伝子発現の誘導をもたらすシグナル伝達経路に影響を及ぼすことができる。CREB依存性遺伝子発現の誘導は、例えば、CREB機能のポジティブエフェクターの上方調節および/またはCREB機能のネガティブエフェクターの下方調節を介して達成することができる。CREB機能のポジティブエフェクターとしては、アデニルシクラーゼおよびCREBアクチベーターが挙げられる。CREB機能のネガティブエフェクターとしては、cAMPホスホジエステラーゼ(cAMP PDE)およびCREBリプレッサーが挙げられる。
【0076】
増大剤は、アクチベーターまたはリプレッサー形態のCREBタンパク質および/または転写複合体を含むCREBタンパク質の生化学的上流に作用するかあるいはこれに直接作用することによってCREB経路機能を高めることができる。例えば、CREB経路機能は、転写時、転写後、または転写時および転写後の両方でCREBタンパク質レベルを増大することによって;例えばCREB結合タンパク質(CBPタンパク質)等の転写複合体の他の必要なコンポーネントへのCREBタンパク質の親和性を改変することによって;プロモーター領域のDNA CREB応答性エレメントに対する転写複合体を含むCREBタンパク質の親和性を改変することによって;または受動または能動性免疫のいずれかをCREBタンパク質アイソフォームに誘導することによって影響を及ぼすことができる。増大剤がCREB経路機能を高める特定の機構は本発明の実施に重要ではない。
【0077】
増大剤は様々な方法で動物に直接投与することができる。好ましい態様において、増大剤は全身投与される。投与の他の経路は当該技術分野で一般的に公知であり、点滴および/またはボーラス注射を含む静脈内、側脳室内、鞘内、非経口、粘膜、移植、腹腔、経口、皮内、経皮(例えば、徐放性ポリマー中)、筋肉内、皮下、局所、硬膜外などの経路が挙げられる。また、投与の他の適切な経路が、例えば、上皮または粘膜性裏打ちを介した吸収を達成するために使用され得る。また、特定の増大剤は遺伝子治療によって投与することができ、特定の治療タンパク質またはペプチドをコードするDNA分子が、例えば、インビボで特定のタンパク質またはペプチドを治療レベルで発現および分泌するベクターを介して動物に投与される。
【0078】
ベクターは、その用語が本明細書で使用される場合、例えば、DNAプラスミド、ウイルス、または他の適切なレプリコン(例えば、ウイルスベクター)の核酸ベクターのことをいう。ウイルスベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、パルボウイルス(例えば、アデノ関連ウイルス)、コロナウイルス、オルトミクソウイルスなどの−鎖RNAウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)、ラブドウイルス(例えば、狂犬病および水疱性口内炎ウイルス)、パラミクソウイルス(例えば、麻疹およびセンダイ)、ピコルナウイルスおよびアルファウイルスなどの+鎖RNAウイルス、ならびにアデノウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、ヘルペス単純ウイルス1型および2型、エプステイン-バーウイルス、サイトメガロウイルス)、およびポックスウイルス(例えば、ワクシニア、鶏痘、およびカナリア痘)を含む二本鎖DNAウイルスが挙げられる。他のウイルスとしては、ノーウォークウイルス、トガウイルス、フラビウイルス、レオウイルス、パボバウイルス、ヘパドナウイルス、および肝炎ウイルスなどが挙げられる。レトロウイルスの例としては、鳥類白血病肉腫、哺乳動物C型、B型ウイルス、D型ウイルス、HTLV-BLV群、レンチウイルス、スプマウイルスが挙げられる(Coffin, J.M., Retroviridae: The viruses and their replication, In Fundamental Virology, 第3版, B.N. Fields, et al.編, Lippincott-Raven Publishers, Philadelphia, 1996)。他の例としては、マウス白血病ウイルス、マウス肉腫ウイルス、マウス乳癌ウイルス、ウシ白血病ウイルス、ネコ白血病ウイルス、ネコ肉腫ウイルス、鳥類白血病ウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス、ヒヒ内在性ウイルス、ギボンサル類白血病ウイルス、メーソンファイザーサルウイルス、サル免疫不全ウイルス、サル肉腫ウイルス、ラウス肉腫ウイルスおよびレンチウイルスが挙げられる。ベクターの他の例は、例えば、McVey et al., 米国特許第5,801,030号に記載されており、その教示は参照によって本明細書に援用される。
【0079】
タンパク質またはペプチド(例えば、CREBタンパク質、CREBアナログ(CREM、ATF-1を含む)、CREB様分子、生物学的活性CREB断片、CREB融合タンパク質、CREB機能モジュレーター)をコードする核酸配列は、当該技術分野で一般的に公知の方法に従って核酸ベクターに挿入することができる(例えば、Ausubel et al., 編, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York (1998); Sambrook et al., 編, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor University Press, New York.(1989)参照)。
【0080】
投与様式は好ましくは、標的細胞の位置である。特定の態様において、投与様式は神経細胞に対してである。
【0081】
増大剤は、薬学的に許容できる表面活性剤(例えば、グリセリド)、賦形剤(例えば、ラクトース)、安定剤、保存剤、湿潤剤、緩和薬(emollient)、抗酸化剤、担体、希釈剤およびビヒクルなどの生物学的活性剤の他の成分と共に投与することができる。所望の場合、特定の甘味剤、香料、および/または着色剤も添加することができる。
【0082】
増大剤は薬学的に許容できる非経口ビヒクルと共に溶液、懸濁液、エマルジョンまたは凍結乾燥粉末として配合することができる。かかるビヒクルの例は、水、食塩水、リンガー溶液、等張塩化ナトリウム溶液、デキストロース溶液および5%ヒト血清アルブミンである。リポソームおよび硬化油などの非水性ビヒクルも使用することができる。ビヒクルまたは凍結乾燥粉末は、等張性(例えば、塩化ナトリウム、マンニトール)および化学安定性(例えば、緩衝液および保存剤)を維持する添加剤を含むことができる。製剤は一般に使用される技術によって無菌化することができる。適切な医薬担体はRemington's Pharmaceutical Sciencesに記載されている。
【0083】
動物に投与される増大剤の用量は、特に神経細胞においてCREB依存性遺伝子発現の変化に影響を及ぼすのに必要な量である。投与の頻度を含む動物への投与用量は、特定の増大剤の薬理動的特性、投与の様式および経路;レシピエントの身長、年齢、性別、健康、体重および食事;治療される症状の性質および程度または増大もしくは調節される認知機能の性質および程度、同時治療の種類、治療の頻度、および所望の効果を含む、様々な因子に依存して変化する。
【0084】
増大剤は、症状の性質および程度、同時治療の種類および所望の効果などの因子に依存して、単一用量または分割用量(例えば、日、週または月の間隔を隔てた用量シリーズ)、または徐放性形態で投与することができる。他の治療養生法または治療剤が本発明と共に使用することができる。
【0085】
次に、本発明は以下の実施例を例示するが、いかなる方法にも限定されるとはみなされない。
【実施例】
【0086】
被験体は実験の開始時に275〜300gの体重を有する103匹の成体雄Sprague-Dawleyラット(Taconic, Gremantown, NY)であった。ラットは12:12時間の昼夜サイクルを有する温度調節動物施設内で一匹ずつ飼われ、自由に食物と水にありつけた。全ての動物プロトコールはNIH指針に従い、Cold Spring Harbor 実験室動物保護および使用委員会によって承認された。
【0087】
千鳥状ステップ課題を用いた運動リハビリテーション
本研究で使用された千鳥状ステップ課題は、Klint et al., Journal of Neurotrauma, 21st Annual National Neurotrauma Society Symposium, 20(10):(2003)によって以前に特徴付けされた。これは、一連の上り28段が付属した長さ8フィートおよび幅3.5フィートの走路からなる。段は中線から5cmおよび段の間隔が25cmで交互に「ずらされた」。この配置に350gラットの自然歩行跡を直接描く上部歩行表面を置いた。薄片のプレキシグラス(8フィート長さ2.5インチ幅2mm厚さ)を走路の中央に置き、段の途中でラットが迷わないようにし、段の歩行表面から落ちた後に動物が足をつく支えとして働くようにした。走路の側面および上部はプレキシグラスで囲まれ、動物の側方移動および垂直移動を制限する。暗くした飼育箱(12インチ×12インチ×12インチ)を、走路の両端に取り付けた。明光と白色雑音発生器を有するスピーカーを、走路を囲むように飼育箱の内部および飼育箱の外部に取り付けた。コンピューターで制御されたドアが使用され、飼育箱の入口/出口を管理した。
【0088】
1〜13日目に、ラットを取り扱い、走路に慣れさせて、段の上部表面を踏んで自由に走路を横断するように訓練した。走路に慣れたら、(1)飼育箱を出る、(2)走路を横断するおよび(3)反対の飼育箱に入り不満足な(negative)刺激(明光および白色雑音)を終了するように、不満足な強化訓練模範を用いてラットを訓練した。60秒の休息間隔の後に、次にラットを同じ不満足な強化訓練模範を用いて元の飼育箱に戻るように訓練した。訓練の14日目に始めて、ラットを、基準動作(潜伏期<12秒、3連続横断で1以下の全エラー)を満たすまで5回試行で毎日訓練した。エラーは、段から滑り落ちた足跡または段の上部表面に着地しなかった指向の足取りをとって時間毎にスコア化された。
【0089】
ラットが基準に到達した24時間後に、LFPデバイスを用いて損傷された。動物は7日間回復させた。損傷8日後に、ラットを千鳥状ステップ課題についてベースライン動作(3横断)を試験した。次の日、5つの処理群:リハビリテーションを有するビヒクル(n=11)、リハビリテーションを有する0.15mg/kgのHT-0712(n=13)、リハビリテーションを有する0.1mg/kgのロリプラム(n=11)、リハビリテーションのない0.15mg/kg HT-0712(n=10)、またはリハビリテーションのないビヒクル(n=10)の1つに動物をランダムに指定した。注射はリハビリテーションの20分前i.p.で(またはリハビリテーションのない群について毎日一度で)与えた。リハビリテーション/注射を、連続して8日間繰り返した。10日目(リハビリテーションの最終日)に、注射を与えず、全てのラットをSS課題に対する動作について再度試験した。
【0090】
痕跡条件付け
運動リハビリテーションを完了した1週間後に、ラットを痕跡恐怖条件付けについて訓練した。標準化されたラット状況把握恐怖条件付け装置(Med Associates, Inc., VA)を暗くした音減衰箱(Med Associates, Inc., VA)内に置いた。訓練日に、75dBで20秒間続く2800Hz音の条件付け刺激(CS)の開始前に2分間条件付けチャンバーにラットを置いた。音が終わった30秒後に、0.5mAのショック非条件付け刺激(US)を動物に2秒間送達した。USのオフセットとCSの進行との試行間間隔を3分離した。ラットを5組のCSおよびUSで訓練した。最後のUS後に、ラットをさらに30秒間チャンバーに置き、次に飼育箱に戻した。各実験対象の後に、装置は75%エタノール、水で完全に洗浄され、乾燥され、換気した。ラットを訓練の7日後に試験した。訓練日と状況把握を区別するために、試験は新規の音減衰チャンバーおよび新規の寸法、色、表面および明るさを有する内部チャンバー内で行った。チャンバーは、エタノールの代わりにWindex溶液を用いて洗浄した。各試験は120秒の慣らしで始まり、次の20秒の音(CS)、さらに240秒の休息間隔が続き、CSは3回提示された。すくみを5秒間間隔でスコア化した。すくみを、5秒のうち3秒の運動の完全な欠失として定義した。すくみスコアパーセントは、CS後のすくみ全パーセントからCS前すくみパーセント(最初の120秒間)を引くことで計算された。各実験は、映像化された。全ての実験で、実験者は薬物処理および被験体の訓練条件に盲検であった。
【0091】
新規の物体認識を繰り返す認知リハビリテーション
開放式探求アリーナ(黒プレキシグラスボックス80cm長さ、60cm幅、および50cm高さ、間接的に55ルーメンで照明)は、薄層のケージベッディングを含み、それぞれの日の開始に新しいベッディングを半分取り替えた。アリーナ上に直接載せたビデオカメラは、全ての訓練および試験セッションを記録した。物体をボックスの中央領域の印をつけた位置に置き、物体の空間位置(左右側)は物体間でバランスが取られた。OR訓練前に、動物を取り扱い、連続して3日間1日当たり4分間探求アリーナに慣らした。訓練について、ラットは、7.5分で2つの同一物体(例えば、ろうそく)を含む探求アリーナを自由に探求した。訓練24時間後に、ラットは、前日に探求したある物体および類似サイズのある新規物体について5分間探求アリーナに戻された。この研究の目的で、本発明者らは、訓練セッションおよび24時間後の次の試験セッションを単一の「試行」と呼ぶ。試行完了1日(24時間)後に、動物は、新しい組の同一物体に訓練することによって新しい試行を開始し、次の日に試験セッションを続けた。認知リハビリテーション中に、ラットは休息日が全く無く訓練または試験のいずれかを行った。全部で、各ラットは17対の物体に対して訓練された(損傷前5および損傷後13)。訓練中に、アプローチ数および各物体を探求するのに費やした時間を記録した。試験中に、各物体を探求するのに費やした時間を記録した。識別指標は、以下の式((新規物体-古い物体)/(新しい物体+古い物体))×100を用いて新規および古い物体の探求時間を用いて算出した。
【0092】
認知リハビリテーションの時間経過は以下の通りであった。リハビリテーション手順の図式例示について図1参照:1〜10日目:試行1〜5、損傷前分析;11日目:実験的外傷脳損傷の誘導(TBI);12〜18日目:TBIからの回復;19〜20日目:試行6、損傷後ベースライン(BS1);21〜22日目:試行7、薬物を有する訓練(TD1);23日目:試行8、訓練と薬物のない試験との間隔が4時間の短期記憶(STM)試験;24〜25日目:試行9、薬物補助リハビリテーション前の第二ベースライン(BS2)動作の確立;26〜34日目:試行10〜14、薬物補助認知リハビリテーション(訓練20分前に与えられる薬物);35〜36日目:試行15、訓練時に薬物のない第一リハビリ後記憶評価(Ass1);42〜43日目:試行16、1週間の休息後の第二リハビリ後記憶評価(Ass2);79〜79日目:試行17、5週間の休息後の第三リハビリ後記憶評価(Ass3);85日目:痕跡条件付け;92日目:痕跡条件付け試験。
【0093】
外傷性脳損傷の誘導
外傷性脳損傷は十分に特徴付けられた外側液体衝撃モデル(LFP)を用いてもたらされた(Mcintosh et al., Neuroscience, 28(1):233-44(1989), Hallam et al., J Neurotrauma, 21(5):521-39(2004)。要するに、ラットは、麻酔され、挿管され、担体ガスとして外科用ガスを用いて2%イソフルランで機械的に換気された。体温はフィードバック温度調節器(Physitemp Instruments, Clifton, New Jersey)によって37.5±0.5℃でモニターおよび維持された。正中切開がナイフで行われ、4.8mmの円状開頭術をラムダと中央縫合線の3.0mm右のブレグマとの間の中間で行った。2.6mm内部直径の改変ルアー(leur)ロック連結器(外傷カンニューレ)が、シアノアクリル接着剤と歯科用アクリルを用いて開頭部に固定された。TBIを、液体衝撃デバイス(VCU Biomedical Engineering, Richmond,VA)で閉じた頭部間隙に少容積の食塩水を急速に注入することによって作り出した。次に動物をデバイスから除いて、アクリルおよびカンニューレを除去し、切開部を縫合した。換気は一次的な呼吸が再開するまでイソフルランなしで室内空気で続けた。LFPデバイスは重度の(3.2atm)脳損傷に対して較正された。この脳損傷は34%致死率となった(30のうち22のラットがOR研究で生存し、85のうち57のラットがSS研究で生存した)。
【0094】
薬物調製および注射
PDE4インヒビターHT-0712(0.15mg/kg)またはロリプラム(0.1mg/kg)を1.5%ジメチルスルホキシド(DMSO)および10%クレモフォアを含む食塩水ビヒクル中で送達した。この用量は、0.15mg/kgのHT-0712がラットで運動記憶を高める最も有効な用量であることを示す以前の研究から選ばれた(McDonald et al., Society for Neuroscience, Vol.24, Abstract 681.7.(2004)。
【0095】
統計解析
全てのデータは平均±SEMとして表される。データ解析はSPSS 12.0ソフトウェア(SPSS, Chicago, Illinois)を用いて実施された。有意なレベルは全試験でP<0.05であった。千鳥状ステップでの損傷前と損傷後の動作の比較について、対称t検定が分析の全ての群を用いて実施された。ANOVAは、損傷後ベースラインの分析群(1日目)とリハビリ後運動評価の分析群(10日目)との間で実施された。千鳥状ステップリハビリテーション(2〜10日目)の分析のために、従属変数(足の踏外しまたは潜伏期)が被験体変数で繰り返した日数について繰り返し基準ANOVAを用いて分析された。ダネットhoc後試験はビヒクル注射群と薬物注射群との間での統計的差異を決定するために実施された。物体認識と痕跡条件付けデータの分析のために、スチューデント非対称t検定を用いて、各試験日の群で比較した。
【0096】
結果
PDE4インヒビターは運動リハビリテーションを高める
正常の若成体マウスでの本発明者らの以前の実験によって、長期記憶形成がPDE4インヒビターHT-0712およびロリプラムによって高められたことが確立された(Bourtchouladze R., et al.(2003) A mouse model of Rubinstein Taybi Syndorome:defective long-term memory is ameliorated by inhibitors of phosphodiesterase 4. Proceeding of the National Academy of Science U.S.A. 100:10518-10522; Scott R., et al.,(2002)CREB and the discovery of cognitive enhancers. Journal of Molecular Neuroscience 19:171-177; Tully T., et al.(2003) Targeting the CREB pathway for memory enhancers. Nature Reviews Drug Discovery 2:267-77)。具体的には、これらの薬物は、最大の長期記憶を生み出すのに必要な訓練量を低減することによって記憶形成を高める。これらのPDE4インヒビターがラットで脳損傷後の運動リハビリテーションを促進するかどうかは、熟練した運動機能を回復するのに必要なリハビリテーション量を低減することによって試験された。最後に、ラットは、熟練した運動課題、千鳥状ステップ課題に対する基準動作まで訓練された。基準動作に達した後に、ラットは、LFP脳損傷デバイスを用いて損傷され、1週間回復させた。損傷7日後(リハビリ1日目)に、全ての脳損傷群は、損傷前ベースラインと比較して足の踏外し(t=-18.36、p=4.28e-25)(図2A)および横断潜伏期(t=-13.52、p=7.86e-19)(図2B)の有意な増大を測定することによって、歩行および熟練した運動歩行精度の有意な阻害を有した。リハビリ1日目のANOVAは、処置群間の損傷後のベースライン動作の有意差を明らかにしなかった(F4,50=0.646, p=0.632)。次の日、ラットは、リハビリテーション有りのビヒクル/PDE4インヒビターの毎日投与またはリハビリテーション無しのビヒクル/PDE4インヒビターの毎日注射のいずれかを受けるようにランダムに指定された。
【0097】
リハビリテーションを受けるラットについて、千鳥状ステップのエラー(F2,32=7.50,p=0.02)および潜伏期に対する薬物処置の有意な影響を観察した。ダネットhoc後分析によって、HT-0712群(p=0.008)とロリプラム群(p=0.004)の両方がビヒクル処置群よりも有意に良好に実施されたことが明らかにされた。
【0098】
また、毎日のリハビリテーションのないビヒクル/HT-0712の毎日注射が最終試験日で動作を改善するかどうかが評価された。10日目のANOVA比較は、処置の有意な効果を示した(F4,50=10.11,p=0.00004)。hoc後ボンフェローニ分析はビヒクル群間で有意差がないこと(p=1.0)、およびPDE4インヒビター群間で有意差がないこと(p=1.0)を明らかにした。しかし、PDE4インヒビターの毎日注射を受ける全ての群は全てのビヒクル注射対照よりも有意に良好に実施された(比較は全く示さない)。具体的に、リハビリテーションのないHT-0712群は、リハビリテーションのないビヒクル群よりも有意に良好に実施され(p=0.01)、リハビリテーションのあるビヒクル群よりも有意に良好に実施された(p=.028)。
【0099】
PDE4インヒビターは認知リハビリテーションを高める
本発明者らの以前の実験によって、PDE4インヒビターロリプラムおよびHT-0712は、マウス、具体的にCBP+/-変異体マウスの長期記憶障害を改善し得ることが示された。これらのCBP+/-変異体マウスは、ルーベンステインーテービ症候群のマウスモデルであり、CREB経路の分子欠失によって生じる記憶障害を有する(Bourtchouladze et al., Proc Natl Acad Sci U S A., 100(18):10518-22, (2003);Olike et al., Hum Mol Genet.8(3):387-96.(1999))。訓練中にPDE4インヒビターHT-0712を用いた処置は長期記憶機能を野生型マウスに類似するレベルまで回復することができた。多くの研究によって、LFP損傷ラットは長期記憶の障害を有することが示された(引用)。2つの主な仮説、(1)訓練中に与えた単一投与のPDE4インヒビターHT-0712が観察された脳損傷ラットでの記憶障害を改善できること、および(2)PDE4インヒビターHT-0712を使用して脳損傷ラットでの認知リハビリテーションを促進できることを試験した。これらの仮説を試験するために、課題を必要としたが、1)長期記憶形成を必要とすること、2)記憶動作の繰り返し訓練および試験を可能にすることおよび3)個々の試行で動作を確実にすることは以前の試行での記憶動作で交絡されていなかった。物体認識課題はこれらの要件のうち3つを全て満たした。物体認識は、ラットの本能探求行動に依存する有害でない課題である。この課題での訓練中に、ラットに2つの同一物体が提示される。十分な曝露(訓練時間)の場合に、正常ラットは探求物体のLTMを形成する。ラットに2つの異なる物体(即ち、1つは新規の物体で1つは以前に探求した物体)が提示される場合、ラットは新規物体(引用(cite))を探求することに多くの時間を費やすことを選択する。この課題は、異なる組の新規物体に連続して曝露することを同じ動物で繰り返して実施することができる。従って、物体認識は、これらの仮説を試験するための理想的な課題である。
【0100】
損傷前に、ラットは訓練の24時間後に物体認識記憶について5回の試行で訓練/試験された。全ての試行で、ラットは、以前に探求した物体の記憶を保持し、新規物体を好む傾向を示した(図3E)。後に薬物またはビヒクルを受ける群間での記憶動作の有意差はなかった(図3E)。従って、各群の全ての損傷前識別指標を平均化し、各群の損傷前ベースライン動作を得た(図3A)。又、群間で有意差はなかった(p=0.391)。試行5の完了時に、ラットは、LFPデバイスで損傷され、7日間回復させた。損傷後の第一ベースライン試行(図3B)で、両方の群は物体認識の長期記憶障害を示した。この第一ベースライン評価で群間の統計的有意差(p=.665)はなかった。従って、実験的脳損傷は物体認識の記憶障害となった。
【0101】
次に、PDE4インヒビターHT-0712が脳損傷ラットで物体認識の長期記憶を高めることができるかどうかが決定された。ラットはランダムに処置群に指定され、訓練セッションの20分前にビヒクルまたはHT-0712のいずれかを注射した。試験後に、HT-0712を受ける群は、新規物体を好む傾向を示し、ビヒクル群よりも有意に良好に実施された(p=0.001)(図3B)。つまり、単一投与のPDE4インヒビターHT-0712は脳損傷ラットで観察される長期記憶障害を改善することができた。
【0102】
次に、これらのラットは、長期記憶障害の他に機能不全短期記憶を有したかどうかが決定された。これを試験するために、両方の群(薬物なし)が短期(4時間)記憶保持のために訓練および試験された。両方の群は以前に探求した物体の保持を示し、訓練の4時間後に新規物体を好んだ(図3C)。群間で有意差はなかった(p=0.311)。従って、LFP損傷は物体認識のラット長期記憶を破壊したが、ラットが訓練の4時間後に正常に実施し得る時まで短期記憶に影響を及ぼさなかった。
【0103】
単一投与のHT-0712がラットの長期記憶動作を変化するかどうかを決定するために、動物に薬物またはビヒクル注射なしで二回目の訓練をした(図4A、0日目)。試験時に、ビヒクル群とHT-0712群との間に有意差はなかった(p=0.607)。このことは単一注射のHT-0712は試行で長期記憶を高めることができるが、単一薬物投与は動物物体認識記憶障害を改善しなかったことを示した。
【0104】
HT-0712を用いた薬物補助認知リハビリテーションが開始された。ラットには5試行のOR訓練/試験が与えられた。ラットに各訓練セッションの20分前にビヒクルまたはHT-0712のいずれかを投与した。リハビリ1日目(p=0.001)、2日目(p=0.001)、3日目(p=0.007)、および5日目(p=0.001)に、HT-0712群はビヒクル群よりも有意に良好に実施された。
【0105】
薬物補助認知リハビリテーション後の長期記憶機能の任意の改善を評価するために、ラットは薬物処置なしで訓練/試験された。HT-0712補助認知リハビリテーションを受けた群はビヒクル群よりも有意に良好に実施された(p=0.003)(図4B)。これによって、繰り返された認知リハビリテーション中に与えられたPDE4インヒビターHT-0712が脳損傷ラットで観察される物体認識の長期記憶障害を改善することができたことが示唆される。
【0106】
長期記憶障害の観察された改善がHT-0712の繰り返し投与の亜急性効果または真のリハビリ効果によるものかどうかが決定された。従って、ラットは1週間休息させて、薬物なしで長期記憶機能を評価した。又、PDE4補助認知リハビリテーションの効果が続き、HT-0712群はビヒクル処置群よりも良好に実施された(p=0.04)(図4C)。
【0107】
この効果が長く続くかどうかを決定するために、ラットは7週間休息させた。その後にラットが取り扱われ、ORアリーナに再び慣れさせた。再び慣れさせた後(リハビリ終了後8週)、ラットをOR動作について試験した。又、HT-0712補助リハビリテーションを受ける群は、ビヒクル処置群よりも有意に良好に実施された(p=0.012)(図5A)。この2つの結論から、第一にLFP脳損傷は物体認識課題の長期記憶の長く続く障害となること、第二にHT-0712補助認知リハビリテーションは物体認識課題のこれらの長期記憶障害を改善することができることが導かれ得る。
【0108】
このリハビリテーションが物体認識に特異的であったかまたはこれが他の海馬依存性課題に一般化されるかどうかを決定するために、ラットが痕跡恐怖条件付け課題での記憶動作について試験された。この海馬に依存する課題で、ラットは音(CS)とショック(US)を結びつけるように訓練される。30秒の「痕跡」間隔がCSとUSを隔て、これが海馬依存性課題となる(McEcheron et al., Hippocampus, 8(6):638-46, (1998))。訓練の1週間後にラットを試験した場合に、HT-0712補助認知リハビリテーションを受ける群はビヒクル群よりも有意に良好に実施された(p=0.012)(図5B)。これによって、HT-0712補助認知リハビリテーションは第二の海馬依存性課題に一般化されることが示唆される。
【0109】
認知リハビリテーションは、ある海馬依存性課題を別のものに一般化するために、PDE4補助リハビリテーションがリハビリ方法に特異的であるかまたはこれは複数様相の改善を一般化するかどうかが決定された。具体的に、PDE4補助運動リハビリテーションを受けた動物はまた非運動課題で改善した記憶動作を獲得するか?最後に、PDE4補助運動リハビリテーションの1週間後に、運動リハビリラットは、痕跡恐怖条件付け課題で訓練され、1週間後に試験された。いかなる運動リハビリテーション群間でも有意差はなかった(p=0.185)(図5C)。
【0110】
運動リハビリ動物と痕跡恐怖記憶の認知リハビリ動物との間の直接の統計比較を問題にすることができる。非常に高いCS前すくみ(データ示さず)が運動リハビリテーション群で観察された。千鳥状ステップ課題で動物を動機付けするように使用された不満足な強化訓練模範の結果として、動物は飼育ゲージでないどんな環境に対しても一般化され高められた恐怖を有することが可能である。すくみとして示され一般化された恐怖の増大が任意の処置効果を遮蔽する場合がある。
【0111】
本明細書で言及される全ての刊行物、特許および特許出願は、それぞれの各公開公報、特許または特許出願が参照によって具体的および個別に援用されるように同じ程度に参照によって本明細書に援用される。
【0112】
本発明はその好ましい態様を参照して具体的に示され記載されているが、添付の特許請求の範囲に包含される発明の範囲から逸脱することなく形式および詳細における種々の変化が行われ得ることが当業者によって理解される。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】図1は、物体認識(OR)試行の時間的経過である。試行は、1回の訓練セッションの後、24時間後に試験セッションからなった(STM試行のための4時間区間を除く)。損傷前、ラットに5回の試行を行ない、損傷前記憶スコアを評価した。次いで、TBIを与え、7日間回復させ、以下のようにしてORリハビリテーションを開始した。試行6 損傷後ベースライン(BS1)、試行7 薬物での訓練 (TD1)、試行8、短期記憶(STM)試験、訓練と試験の間は4時間で薬物なし、試行9 第2のベースライン(BS2)を確立、試行10〜14 薬物補助認知リハビリテーション(薬物は各訓練セッション前に与える)、試行15 最初のリハビリ後記憶評価(Ass1)訓練時は薬物なし、1週間の休息、試行16 2回目のリハビリ後記憶評価(Ass2)、5週間の休息、試行17 3回目のリハビリ後記憶評価(Ass3)、1週間の休息、痕跡条件付け訓練、1週間の休息、痕跡条件付け試験。
【図2A】図2は、千鳥状ステップにおける運動器官リハビリテーションを示す。損傷前、ラットを千鳥状ステップ課題上で基準動作に対して訓練した(A〜D、0日目)。すべてのラットに脳損傷を与え、7日間回復させた。ラットを、エラー(足の踏外し)の平均数(図2A & B)および千鳥状ステップ課題における潜伏時間(図2C & D)について試験した(1日目、ベースライン)。すべての群は、足の踏外しの数の有意な増加を有した(p<0.001)。毎日リハビリテーションおよびPDE4インヒビターロリプラム (n=11)およびHT-0712 (n=13)での治療を与えたラットは、リハビリテーションおよびビヒクル処理(n=11)を与えたラットよりも(then)足の踏外しが少なく(図2A)、潜伏時間が短かった(図C)。千鳥状ステップリハビリテーションなしでPDE4インヒビターHT-0712を投与したラットは、リハビリテーションなしのビヒクル処理動物よりも足の踏外しが少なく(図2B)、潜伏時間が短かった(図2D)(*=p<0.05)。
【図2B】図2は、千鳥状ステップにおける運動器官リハビリテーションを示す。損傷前、ラットを千鳥状ステップ課題上で基準動作に対して訓練した(A〜D、0日目)。すべてのラットに脳損傷を与え、7日間回復させた。ラットを、エラー(足の踏外し)の平均数(図2A & B)および千鳥状ステップ課題における潜伏時間(図2C & D)について試験した(1日目、ベースライン)。すべての群は、足の踏外しの数の有意な増加を有した(p<0.001)。毎日リハビリテーションおよびPDE4インヒビターロリプラム (n=11)およびHT-0712 (n=13)での治療を与えたラットは、リハビリテーションおよびビヒクル処理(n=11)を与えたラットよりも(then)足の踏外しが少なく(図2A)、潜伏時間が短かった(図C)。千鳥状ステップリハビリテーションなしでPDE4インヒビターHT-0712を投与したラットは、リハビリテーションなしのビヒクル処理動物よりも足の踏外しが少なく(図2B)、潜伏時間が短かった(図2D)(*=p<0.05)。
【図2C】図2は、千鳥状ステップにおける運動器官リハビリテーションを示す。損傷前、ラットを千鳥状ステップ課題上で基準動作に対して訓練した(A〜D、0日目)。すべてのラットに脳損傷を与え、7日間回復させた。ラットを、エラー(足の踏外し)の平均数(図2A & B)および千鳥状ステップ課題における潜伏時間(図2C & D)について試験した(1日目、ベースライン)。すべての群は、足の踏外しの数の有意な増加を有した(p<0.001)。毎日リハビリテーションおよびPDE4インヒビターロリプラム (n=11)およびHT-0712 (n=13)での治療を与えたラットは、リハビリテーションおよびビヒクル処理(n=11)を与えたラットよりも(then)足の踏外しが少なく(図2A)、潜伏時間が短かった(図C)。千鳥状ステップリハビリテーションなしでPDE4インヒビターHT-0712を投与したラットは、リハビリテーションなしのビヒクル処理動物よりも足の踏外しが少なく(図2B)、潜伏時間が短かった(図2D)(*=p<0.05)。
【図2D】図2は、千鳥状ステップにおける運動器官リハビリテーションを示す。損傷前、ラットを千鳥状ステップ課題上で基準動作に対して訓練した(A〜D、0日目)。すべてのラットに脳損傷を与え、7日間回復させた。ラットを、エラー(足の踏外し)の平均数(図2A & B)および千鳥状ステップ課題における潜伏時間(図2C & D)について試験した(1日目、ベースライン)。すべての群は、足の踏外しの数の有意な増加を有した(p<0.001)。毎日リハビリテーションおよびPDE4インヒビターロリプラム (n=11)およびHT-0712 (n=13)での治療を与えたラットは、リハビリテーションおよびビヒクル処理(n=11)を与えたラットよりも(then)足の踏外しが少なく(図2A)、潜伏時間が短かった(図C)。千鳥状ステップリハビリテーションなしでPDE4インヒビターHT-0712を投与したラットは、リハビリテーションなしのビヒクル処理動物よりも足の踏外しが少なく(図2B)、潜伏時間が短かった(図2D)(*=p<0.05)。
【図3A】図3は、物体認識動作(平均DI±S.E.M.)を示す。物体認識の1日間記憶保持は、長期記憶形成に依存する。ラットを損傷前に5回の試行で訓練した。各試行は、一対の同一の物体に対する7.5分間の訓練セッションおよび長期記憶保持を評価するための24時間後の試験セッションからなった。記憶保持を、識別指数として定量した(方法参照)。損傷前、ラットは、以前に探索した(古い)物体と新しい物体とを識別した。すべての損傷前試行を平均して単一の損傷前識別指数を得た(図3A)。後に薬物処置を受けるかビヒクル処理を受ける群間に記憶動作に有意差はなかった(図3A)。
【図3B】図3は、物体認識動作(平均DI±S.E.M.)を示す。脳損傷後および回復7日後、両方の群は、物体認識に関して長期記憶障害を有した(図3B)。物体認識について群間に有意差はなかった。したがって、脳損傷により、治療前、すべての群について物体認識に対する通常の24 時間記憶が破壊された(図3B)。
【図3C】図3は、物体認識動作(平均DI±S.E.M.)を示す。次の試行では、訓練20分前に、ラットに0.15mg/kgのHT-0712またはビヒクル(i.p.)のいずれかを与えた。HT-0712群は、新規な物体に対して優先性を示し、ビヒクル群よりも有意に高い識別指数(p<0.01)を有した(図3C)。
【図3D】図3は、物体認識動作(平均DI±S.E.M.)を示す。脳損傷によって短期記憶障害がもたらされるかどうかを調べるため、次の試行では、ラットを薬物治療なしで訓練し、標準的な24時間後の代わりに4時間後に試験した。両方の群は、新規な物体に対して優先性を示し、群間に有意差はなかった。したがって、本発明者らは、LFP脳損傷は、物体認識に対する記憶障害を24時間目では引き起こしたが、4時間目では引き起こさなかったと結論付けることができる。(*=p<0.05)。
【図3E】図3Eは、損傷前のラットにおける物体認識動作を示す。物体認識における1日間記憶保持は長期記憶形成に依存する。ラットを一対の同一の物体に対して7.5分間訓練し、次いで、24時間後、記憶保持について試験した。記憶保持を識別指数として定量した。この訓練および24時間後の記憶保持についての試験の反復を、損傷前に、5回の試行で繰返した。この損傷前訓練中、ラットは、まだ治療群に割り当てておらず、PDE4治療を受けていなかった。群間を比較した損傷前のスチューデントt検定では、いずれの試験日でも、物体認識動作において有意差は示されなかった(試行1、p=0.591;試行2、p=0.177;試行(Trail)3、p=0.911;試行4、p=0.755;試行5、p=0.780)。
【図4A】図4は、薬物補助認知リハビリテーション動作(平均DI±SEM)を示す。反復認知リハビリテーションの最初の日、ラットを、薬物またはビヒクル注射なしで2回目の試験をした(図4A、試行0)。この2回目のベースライン評価では、ビヒクル群とHT-0712群間に有意差はなかった。次いで、ラットに、HT-0712またはビヒクルを用いて、毎日薬物補助認知リハビリテーションを5回の試行で開始した(図4A、試行1〜5)。リハビリ試行1(p=0.001)、試行2(p=0.001)、試行3(p=0.007)、および試行5(p=0.001)において、HT-0712群は、ビヒクル群よりも有意に良好な動作を示した。
【図4B】図4は、薬物補助認知リハビリテーション動作(平均DI±SEM)を示す。薬物補助(assisted)リハビリによって、薬物なしで記憶動作が改善されたかどうかを評価するため、ラットを薬物治療なしで訓練/試験した。HT-0712補助認知リハビリテーションを受けた群は、ビヒクル群よりも(that)有意に良好な動作を示した(図4B)。
【図4C】図4は、薬物補助認知リハビリテーション動作(平均DI±SEM)を示す。この長期記憶障害の改善がHT-0712の反復投与の亜急性効果によるものかどうかを調べるため、再度薬物なしで長期記憶機能を試験する前にラットを1週間休息させた(図4C)。再度、PDE4補助認知リハビリテーションの効果が持続した。HT-0712群は、ビヒクル処置群よりも有意に良好な動作を示した(*=p<0.05)。
【図5A】図5は、認知リハビリテーションの長期持続性効果を示す。PDE4補助認知リハビリテーション後の記憶機能の改善が長期持続性であるかどうかを調べるため、ラットを、物体認識に対する動作についてリハビリテーション終了の8週間後に試験した(図5A)。PDE4補助リハビリ群は、ビヒクル処置群よりも有意に良好な動作を示した。
【図5B】図5は、認知リハビリテーションの長期持続性効果を示す。次いで、ラットを、痕跡恐怖条件付けの1週間記憶保持について試験した。再度、PDE4補助認知リハビリ群は、ビヒクル処置群よりも有意に良好な動作を示した(図5B)。(*=p<0.05)。改善された記憶機能は、別の海馬依存性記憶課題と解釈された。
【図5C】図5Cは、運動リハビリテーション動物における痕跡恐怖条件付けの記憶動作を示す。PDE4補助薬物リハビリテーション群における運動動作(運動記憶)の改善が運動動作に特異的であるかどうか、またはこれが、痕跡恐怖記憶の改善された認知動作と解釈されるかどうかを調べるため、運動リハビリテーション終了の1週間後に、ラットを痕跡恐怖記憶について訓練した。ラットを訓練の1週間後に痕跡恐怖記憶について試験した。PDE4群/リハビリテーション群/リハビリテーションなし群間いずれにおいても有意差はなかった。
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
推定4〜500万の米国人(全年齢の約2%および65歳以上の高齢者の15%)は、なんらかの形態およびある程度の認知不全(failure)を有する。認知不全(知識を習得、保持および使用するプロセスである認知機能の不全または低下)は、一般的に、加齢関連記憶障害、せん妄(時々、急性錯乱状態とよばれる)、痴呆(時々、アルツハイマー型または非アルツハイマー型に分類される)、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンティングトン病(舞踏病)、精神遅滞、脳血管疾患(例えば、脳卒中、虚血)、情動障害(例えば、鬱)、精神病性障害(例えば、統合失調症、自閉症(カンナー症候群))、神経症性障害(例えば、不安、強迫性障害)、注意欠陥障害(ADD)、硬膜下血腫、正常圧水頭症、脳腫瘍、頭または脳の外傷を含む、中枢神経系(CNS)の障害または状態に伴って起こる。
【0002】
認知機能不全は、典型的に、記憶障害(新しい情報を学習する能力、または以前に学習した情報を思い出す能力の障害)、失語症(言語/発話の障害)、失行症(運動機能に障害はないが運動活動能力に障害)、失認(感覚機能に障害はないが物体を認識または確認ができない)、実行機能(すなわち、計画、組織化、順序付け、要約)の障害を含む、1つ以上の認知障害によって示される。
【0003】
認知機能不全は、社会的および/または職業上機能を果たす上で、個体が日常生活の活動を行なう能力を妨げ得、個体の自律性および生活の質に大きく影響し得る重大な障害を引き起こす。
【0004】
認知訓練プロトコルは、なんらかの形態またはある程度の認知機能不全を有する個体のリハビリにおいて一般的に使用されている。例えば、認知訓練プロトコルは、一般的に、脳卒中のリハビリテーションおよび加齢関連記憶低下のリハビリテーションに使用される。個体において認知動作(cognitive performance)(能力または機能)の特定の局面の改善または増大が得られる前に、しばしば、多数回の訓練セッション(session)が必要とされるため、認知訓練プロトコルは、非常にコストが高くなり、時間を浪費する。
【0005】
ヒトの脳損傷は、しばしば、運動および認知欠陥をもたらす。集中治療医学および患者管理の進歩により、外傷性脳損傷(TBI)後の患者の結果において改善がもたらされたが、現在、TBI後に起こるニューロン細胞死および機能不全を予防するための公知の治療はない。多くの治療は、TBIの前臨床モデルにおいて神経保護的であることが証明されているが、ほとんどは、ヒトにおいて有効性が示されていない。
【0006】
TBI後、患者が安定したら、標準的な治療により、集中的な運動または認知のリハビリテーションが指示される。このリハビリテーション中、患者は、しばしば、失った技能が回復し、最終的に、機能的結果が改善される。TBI後の運動または認知のリハビリテーションを増強する医薬治療が開発され得れば有益であり得、したがって、機能的結果が改善される。
【0007】
ラットでは、充分特徴付けされた外側液体衝撃(lateral fluid percussion)(LFP)脳損傷により、海馬、視床および皮質(例えば、運動皮質)において広範なアポトーシスおよび壊死細胞死が生じる。このニューロン死により、多くの脳システムにおいてニューロンの機能不全および障害が生じる。研究により、LFP脳損傷後、運動および認知機能における障害が示されている(Hamm,R.J. et al.,Behav. Brain Res.、59(1-2):169-173 (1993);Gong et al.,Brain Res.、700(1-2):299-302 (1995);Hamm,R.J,. J Neurotrauma.、18(11):1207-16 (2001);Floyd et al.,J Neurotrauma.、19(3):303-16 (2002);Hallam et al.,J Neurotrauma、21(5):521-39 (2004))。集中的なリハビリテーションにより、種々の実験的脳損傷後の神経行動学的結果が改善され得る。現在の支持されている理論は、リハビリテーション中、損傷脳組織および周囲の損傷領域内のニューロンは、失われた機能の一部を呈するように再訓練されるというものである。この「再訓練」は、学習の形態であり、神経の形成性の誘導を介して生じる。
【0008】
数多くの研究により、環状AMP (cAMP)および下流転写因子cAMP応答性エレメント結合タンパク質(CREB)は、長期記憶および神経の形成性の誘導における重要な調節因子であることが示されている(Yin,J. C. et al.,Cell、79(1):49-58 (1994);Bourtchuladze,R. et al.,Cell、79(1):59-68 (1994);Impey,S. et al.,Nat. Neurosci.、1(7):595-601 (1998))。cAMP/CREBシグナル伝達を障害する遺伝的または薬理学的介入は、長期記憶形成およびシナプス形成性を障害する。逆に、cAMP/CREBシグナル伝達を増大させる遺伝的または薬理学的介入は、長期記憶形成およびシナプス形成性を促進する。
【0009】
(発明の概要)
本発明は、(1)任意の現行の方法よりも効率的な種々の形態の認知機能不全のリハビリ、(2)通常の認知動作(能力もしくは機能)の増強、(3)任意の現行の方法よりも効率的な種々の形態の運動機能不全のリハビリ、または(4)通常の運動動作(能力もしくは機能)の増強のいずれかを可能にするための、環状AMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)経路増強薬の投与に関する。環状AMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)経路増強薬の投与は、認知または運動の訓練後の持続性動作の進歩(gain)を示す脳機能の任意の局面に適用され得る。したがって、環状AMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)経路増強薬の投与は、なんらかの形態およびある程度の認知もしくは運動機能不全を有する動物のリハビリ、または動物における通常の認知もしくは運動動作の向上(改善)に使用され得る。環状AMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)経路増強薬の投与はまた、ニューロンに分化する新たに獲得された移植幹細胞のシナプス結合を微調整するためにも使用され得る。
【0010】
本明細書に記載のように、環状AMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)経路増強薬の投与は、単独または認知増大訓練(Augmented Cognitive Training(ACT))の状況で行なわれ得る。ACTは、2つの部分:(1)各脳(認知または運動)機能のための特定の訓練プロトコルおよび(2)環状AMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)経路増強薬の投与を含む。この組合せでは、認知訓練単独で得られるものと比べて、動作の進歩をもたらすのに必要とされる訓練セッションの継続時間および/または回数が低減されることにより、あるいは動作の進歩をもたらすのに必要とされる訓練セッション間の休息間隔をなくすか短くすることにより、認知訓練が増大され得る。また、この組合せでは、特定の神経回路(1つまたは複数)のニューロン活動のパターンの誘導に必要とされる訓練セッションの継続時間および/または回数が低減されることにより、あるいは神経回路のシナプス結合間のCREB依存性の長期構造的/機能的(すなわち、持続性)変化を誘導するのに必要とされる訓練セッションまたは基礎的なニューロン活動のパターンの継続時間および/または回数が低減されることにより、認知訓練が増大され得る。このように、環状AMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)経路増強薬の投与により、既存の認知訓練プロトコルの効率が改善され、それにより有意な経済的利点がもたらされ得る。
【0011】
本発明の結果、(a)CREB経路機能を増強する増大剤を動物に投与する工程;および、任意に(b)動物に目的の認知課題(task)の動作の改善がもたらされるのに充分な条件下で、動物を訓練する工程を含む、それを必要とする動物(特に、ヒトまたは他の哺乳動物もしくは脊椎動物)における認知動作の特定の局面の増強方法が本明細書において提供される。
【0012】
「増大剤(augmenting agent)」はまた、本明細書において「CREB経路増強薬」ともいう。
【0013】
本明細書において、正規の認知訓練なしでCREB経路機能を増強する増大剤で動物を治療する工程を含む、動物において中枢神経系(CNS)の障害または状態に関連する認知障害を改善する方法が提供される。また、CREB経路機能を増強する増大剤を動物に投与する工程;および前記持続的改善を検出する工程を含む、動物において中枢神経系(CNS)の障害または状態に関連する認知障害に持続的改善を提供する方法が本明細書において提供される。一態様において、該方法は、動物に特定の認知課題の動作の改善がもたらされるのに充分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含む。CNSの障害および病気としては、加齢関連記憶障害、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンティングトン病(舞踏病)、他の老人性痴呆)、精神病性疾患(例えば、鬱、統合失調症、自閉症、注意欠陥障害)、外傷依存性機能低下(例えば、脳血管疾患(例えば、脳卒中、虚血)、脳腫瘍、頭または脳の損傷)、遺伝的欠陥(例えば、ルービンスタイン‐テービ症候群、ダウン症候群、アンジェルマン(Angelman)症候群、神経線維腫症、コフィン‐ローリー症候群、レット症候群、筋緊張性ジストロフィ、ぜい弱X症候群(例えば、ぜい弱X-1、ぜい弱X-2)、ウィリアムズ症候群)および学習障害が挙げられる。CREB経路機能を増強する増大剤での治療により、増大剤の投与を停止または中止した後、動物の認知課題の動作において持続的、存続的または持続性の改善がもたらされることが企図される。
【0014】
本明細書において、正規の認知訓練なしで動物をCREB経路機能を増強する増大剤(例えば、ホスホジエステラーゼ4インヒビター)で治療する工程を含む、前記治療を必要とする動物において、精神遅滞に関連する認知障害を改善する方法が提供される。また、本明細書において、CREB経路機能を増強する増大剤(例えば、ホスホジエステラーゼ4インヒビター)を動物に投与する工程および前記持続的改善を検出する工程を含む、動物において精神遅滞に関連する認知障害において持続的改善を提供する方法が提供される。一態様において、該方法は、動物に認知課題の動作の改善がもたらされるのに充分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含み、その障害は精神遅滞に関連する。精神遅滞は、認知過程および認知機能、例えば、学習および記憶獲得に影響を及ぼす。精神遅滞は、染色体または遺伝的要素、先天性感染、催奇形物質(薬物および他の化学物質)、栄養不良、放射線または着床および胚形成に影響する未知の条件によって引き起こされ得る。精神遅滞症候群としては、ルービンスタイン‐テービ症候群、ダウン症候群、アンジェルマン症候群、神経線維腫症、コフィン‐ローリー症候群、レット症候群、筋緊張性ジストロフィ、ぜい弱X症候群(例えば、ぜい弱X-1、ぜい弱X-2)およびウィリアムズ症候群(Weeber,E. J. et al., Neuron、33:845-848 (2002))が挙げられる。
【0015】
本明細書において、正規の認知訓練なしでCREB経路機能を増強する増大剤で動物を治療する工程を含む、ニューロン幹細胞またはグリア幹細胞操作を受けた動物においてCNS障害または状態に関連する認知障害を改善する方法が提供される。また、本明細書において、CREB経路機能を増強する増大剤を動物に投与する工程;および、前記持続的改善を検出する工程を含む、ニューロン幹細胞操作を受けた動物においてCNS障害または状態に関連する認知障害において持続的改善を提供する方法が提供される。一態様において、該方法は、動物においてニューロン活動またはニューロン活動のパターンを刺激または誘導するのに充分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含む。「ニューロン幹細胞操作」により、(1)外因性ニューロン幹細胞が動物の脳もしくは脊髄に移植されること、(2)動物において内因性ニューロン幹細胞の増殖が刺激または誘導されること、または(3)ニューロン細胞を支持する幹細胞が機能することが意図される。
【0016】
本明細書において、正規の認知訓練なしでCREB経路機能を増強する増大剤で動物を治療する工程を含む、動物において、特定の神経回路(1つまたは複数)の基礎となるニューロン活動またはニューロン活動のパターンの刺激を改善する方法が提供される。また、本明細書において、CREB経路機能を増強する増大剤を動物に投与する工程;および前記持続的改善を検出する工程を含む、動物において、特定の神経回路(1つまたは複数)の基礎となるニューロン活動またはニューロン活動のパターンの刺激において持続的改善を提供する方法が提供される。一態様において、該方法は、動物においてニューロン活動またはニューロン活動のパターンを刺激または誘導するのに充分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含む。
【0017】
一態様において、本発明は、正規の認知訓練なしでCREB経路機能を増強する増大剤で動物を治療する工程を含む、動物において、加齢関連記憶障害に関連する認知障害を改善する方法に関する。別の態様において、本発明は、CREB経路機能を増強する増大剤を動物に投与する工程;および前記持続的改善を検出する工程を含む、動物において、加齢関連記憶障害に関連する認知障害において持続的改善を提供する方法に関する。一態様において、該方法は、動物に認知課題の動作の持続的改善をもたらすのに充分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含み、その障害は加齢関連記憶障害に関連する。
【0018】
別の態様において、本発明は、正規の認知訓練なしでCREB経路機能を増強する増大剤で動物を治療する工程を含む、動物において、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンティングトン病、他の老人性痴呆)に関連する認知障害を改善する方法に関する。別の態様において、本発明は、CREB経路機能を増強する増大剤を動物に投与する工程;および前記持続的改善を検出する工程を含む、動物において、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンティングトン病、他の老人性痴呆)に関連する認知障害において持続的改善を提供する方法に関する。一態様において、該方法は、動物に認知課題の動作の持続的改善をもたらすのに充分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含み、その障害は神経変性疾患に関連する。
【0019】
別の態様において、本発明は、正規の認知訓練なしでCREB経路機能を増強する増大剤で動物を治療する工程を含む、動物において、精神病性疾患(例えば、鬱、統合失調症、自閉症、注意欠陥障害)に関連する認知障害を改善する方法に関する。別の態様において、本発明は、CREB経路機能を増強する増大剤を動物に投与する工程;および前記持続的改善を検出する工程を含む、動物において、精神病性疾患(例えば、鬱、統合失調症、自閉症、注意欠陥障害)に関連する認知障害において持続的改善を提供する方法に関する。一態様において、該方法は、動物に認知課題の動作の改善がもたらされるのに充分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含み、その障害は精神病性疾患に関連する。
【0020】
別の態様において、本発明は、正規の認知訓練なしでCREB経路機能を増強する増大剤で動物を治療する工程を含む、動物において、外傷依存性認知機能の低下に関連する認知障害(例えば、脳血管疾患(例えば、脳卒中、虚血)、脳腫瘍、頭部または脳の損傷)を改善する方法に関する。別の態様において、本発明は、CREB経路機能を増強する増大剤を動物に投与する工程;および前記持続的改善を検出する工程を含む、動物において、外傷依存性認知機能の低下に関連する認知障害(例えば、脳血管疾患(例えば、脳卒中、虚血)、脳腫瘍、頭または脳の損傷)において持続的改善を提供する方法に関する。一態様において、該方法は、動物に認知課題の動作の持続的改善をもたらすのに充分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含み、その障害は外傷依存性認知機能の低下に関連する。
【0021】
別の態様において、本発明は、正規の認知訓練なしでCREB経路機能を増強する増大剤で動物を治療する工程を含む、動物において、遺伝的欠陥に関連する認知障害(例えば、ルービンスタイン‐テービ症候群、ダウン症候群、アンジェルマン症候群、神経線維腫症、コフィン‐ローリー症候群、レット症候群、筋緊張性ジストロフィ、ぜい弱X症候群(例えば、ぜい弱X-1、ぜい弱X-2)およびウィリアムズ症候群)を改善する方法に関する。また、本明細書において、CREB経路機能を増強する増大剤を動物に投与する工程;および前記持続的改善を検出する工程を含む、動物において遺伝的欠陥に関連する認知障害において持続的改善を提供する方法が提供される。一態様において、該方法は、動物に認知課題の動作の改善がもたらされるのに充分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含み、その障害は遺伝的欠陥に関連する。
【0022】
本明細書において、正規の運動訓練なしでCREB経路機能を増強する増大剤で動物を治療する工程を含む、動物において、中枢神経系(CNS)の障害または状態に関連する運動障害を改善する方法が提供される。また、本明細書において、CREB経路機能を増強する増大剤を動物に投与する工程;および前記持続的改善を検出する工程を含む、前記治療を必要とする動物において、中枢神経系(CNS)の障害または状態に関連する運動障害において持続的改善を提供する方法が提供される。一態様において、該方法は、動物に特定の運動課題の動作の改善がもたらされるのに充分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含む。CNSの障害および病気としては、加齢関連記憶障害、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALSまたはルー・ゲーリグ病)、運動ニューロン疾患、ハンティングトン病(舞踏病)、他の老人性痴呆)、精神病性疾患(例えば、鬱、統合失調症、自閉症、注意欠陥障害)、外傷依存性機能低下(例えば、脳血管疾患(例えば、脳卒中、虚血)、脳腫瘍、頭、脳もしくは脊髄損傷)、遺伝的欠陥(例えば、ルービンスタイン‐テービ症候群、ダウン症候群、アンジェルマン症候群、神経線維腫症、コフィン‐ローリー症候群、レット症候群、筋緊張性ジストロフィ、ぜい弱X症候群(例えば、ぜい弱X-1、ぜい弱X-2)、ウィリアムズ症候群)および学習障害が挙げられる。CREB経路機能を増強する増大剤での治療により、増大剤の投与を停止または中止した後、動物に運動課題の動作の改善の維持または永続性がもたらされることが企図される。
【0023】
種々の態様において、増大剤は、ホスホジエステラーゼ4 (PDE4)インヒビターを含むことが企図される。PDE4インヒビターの例としては、ロリプラムおよび以下の式:
(式中、「Me」は「メチル」を意味し、「cPent」は「シクロペンチル」を意味する)の化合物が挙げられる。上記式は、そのエナンチオマーおよび混合物の両方を包含することが理解される。該化合物は、米国特許第6,458,829号に示された方法論を用いて調製され得、その教示は参照により本明細書に援用される。特定の態様において、この上記の式の3位および5位の炭素はS配置である(HT-0712):
(式中、「Me」は「メチル」を意味し、「cPent」は「シクロペンチル」を意味する)。PDE4インヒビターの他の例は、米国特許公開公報第2002/0028842 A1(2002年3月7日公開)号;米国特許第6,458,829B1号;米国特許第6,525,055B1号;米国特許第5,552,438号;米国特許第6,436,965号;および米国特許第6,204,275号に見られ得る。さらに他のPDE4インヒビターは、当該技術分野において公知であり、容易に入手可能である。
【0024】
(発明の詳細な説明)
ヒトを含む多くの種における多くの課題では、離間(spaced)訓練プロトコル(合間に休息間隔を有する多数回の訓練セッション)は、集中(massed)訓練プロトコル(合間に休息間隔のない多数回の訓練セッション)よりも強くて長期持続性の記憶をもたらす。
【0025】
ショウジョウバエにおけるパブロフの嗅覚学習の行動遺伝学的研究では、集中訓練により、それにもかかわらず少なくとも4日間は消えず、タンパク質合成依存的でなく、CREB-リプレッサー導入遺伝子の過剰発現によって破壊されず、ラディッシュ(radish)変異体において破壊される持続性記憶がもたらされることが確立された(Tully,T. et al.,Cell、79(1):35-47 (1994);および Yin,J. C. et al.,Cell、79(1):49-58 (1994))。対照的に、離間訓練では、少なくとも7日間持続し、タンパク質合成依存性であり、CREB-リプレッサー導入遺伝子の過剰発現によって破壊され、ラディッシュ変異体において正常である持続性記憶がもたらされる(Tully,T. et al.,Cell、79(1):35-47 (1994);およびYin,J. C. et al.,Cell、79(1):49-58 (1994))。離間訓練の1日後、記憶保持は、タンパク質合成-およびCREB非依存性早期記憶(ARM)ならびにタンパク質合成-およびCREB依存性長期記憶(LTM)の両方で構成される。さらなる集中訓練は、LTMを誘導するには不充分である(Tully,T. et al.,Cell、79(1):35-47 (1994);およびYin,J. C. et al.,Cell、79(1):49-58 (1994))。
【0026】
一連の証拠が増加していることにより、これらの結果は、無脊椎動物から哺乳動物に拡張される。例えば、アメフラシ(Aplysia)において、CREB発現の分子操作は、ハエのものと同様に(i)細胞培養物における感覚運動単シナプスでの促通性電気生理学的応答のLTM、および(ii)促通性刺激の離間適用後に通常生成される感覚ニューロンと運動ニューロン間のシナプス結合を抑制または増大させる(Bartsch,D. et al.,Cell、83(6):979-992 (1995))。ラットでは、海馬または扁桃体内へのアンチセンスRNAオリゴヌクレオチドの注射により、それぞれ、これらの解剖学的領域における活性に依存する2つの異なる課題のLTM形成がブロックされる(Guzowski,J. F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA、94(6):2693-2698 (1997);およびLamprecht,R. et al.,J. Neurosci.、17(21):8443-8450 (1997))。マウスでは、暗示的(implicit)および明示的(explicit)両方の課題に対するLTM形成は、CREB変異体マウスにおいて不完全である(Bourtchuladze,R. et al.,Cell、79(1):59-68 (1994))。
【0027】
海馬依存性状況把握(contextual)恐怖条件付けまたは受動回避課題での、CRE依存性レポーター遺伝子(β-ガラクトシダーゼ)を有するトランスジェニックマウスの訓練では、海馬の領域 CA1およびCA3においてCRE依存性レポーター遺伝子の発現が誘導される。扁桃体依存性恐怖条件付け課題でのこれらのマウスの訓練により、扁桃体においてCRE依存性レポーター遺伝子発現が誘導されるが、海馬では誘導されない。したがって、LTM形成が誘導される訓練プロトコルでは、哺乳動物の脳の特定の解剖学的領域においてCRE依存性遺伝子転写もまた誘導される(Impey、S. et al.,Nat. Neurosci.、1(7):595-601 (1998))。
【0028】
これらの動物モデルでは、LTM増強の3つの著しい場合が示された。第1に、CREB-アクチベータ導入遺伝子の過剰発現により、多数回の離間訓練セッションの必要性が排除され、代わりに、1回だけの訓練セッション(これは、通常、24時間後、記憶保持はほとんどまたは全くもたらさない)後にLTM形成が誘導される(Yin,J. C. et al.,Cell、81(1):107-115 (1995))。第2に、ラット扁桃体内へのウイルス発現CREB-アクチベータ導入遺伝子の注射もまた、恐怖増強驚愕応答に関する集中訓練後の記憶を増大させるのに充分であり、これは、離間訓練における休息間隔の必要性を排除する(Josselyn,S. A. et al.,Society for Neuroscience、第24巻、Abstract 365.10 (1998);およびJosselyn,S. A. et al.,J. Neurosci.、21:2404-2412 (2001))。第3に、CREB欠損マウスにおけるLTM形成(Bourtchuladze,R、et al.、Cell、79(1):59-68 (1994))は、変異体マウスが異なる離間訓練プロトコルに供された場合、通常形成され得る(Kogan,J. H. et al.,Curr. Biol.、7(1):1-11 (1997))。
【0029】
また、CREBは、脊椎動物の脳の種々の形態の発生および細胞性の形成性に関与しているようである。例えば、ニューロン活動は、皮質におけるCREB活性を増大させる(Moore,A. N. et al.,J. Biol. Chem.、271(24):14214-14220 (1996))。CREBはまた、海馬(Murphy,D. D. et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA、94(4):1482-1487 (1997))、体性感覚皮質(Glazewski,S. et al.,Cereb. Cortex、9(3):249-256 (1999))、線条体(Liu,F. C. et al.,Neuron、17(6):1133-1144 (1996))、および視覚皮質(Pham、T. A. et al.,Neuron、22(1):63-72 (1999))における発達上の形成性を媒介する。
【0030】
CREBは、ヒト神経変性疾患および脳損傷において影響を受けているようである。例えば、CREB活性化および/または発現は、アルツハイマー病において破壊されている(Ikezu,T. et al.,EMBO J.、15(10):2468-2475 (1996);Sato,N. et al.,Biochem. Biophys. Res. Commun.、232(3):637-642 (1997);Yamamoto-Sasaki,M. et al.,Brain. Res.、824(2):300-303 (1999);Vitolo,O. V. et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,13217-13221 (2002))。CREB活性化および/または発現はまた、発作または虚血後に上昇する(Blendy,J. A. et al.,Brain Res.、681(1-2):8-14 (1995);およびTanaka,K. et al.,Neuroreport、10(11):2245-2250 (1999))。「環境的富化」は、神経保護的であり、CREBを介した作用による細胞死を抑制する(Young,D. et al.,Nat. Med.、5(4):448-453 (1999))。
【0031】
CREBは薬物感受性および中断中に機能する。例えば、CREBは、エタノール(Pandey,S. C. et al.,Alcohol Clin. Exp. Res.、23(9):1425-1434 (1999);Constantinescu,A. et al.,J. Biol. Chem.、274(38):26985-26991 (1999);Yang,X. et al.,Alcohol Clin. Exp. Res.、22(2):382-390 (1998);Yang,X. et al.,J. Neurochem.、70(1):224-232 (1998);およびMoore,M. S. et al.,Cell、93(6):997-1007 (1998))、コカイン(Carlezon,W. A.、Jr. et al.,Science、282(5397):2272-2275 (1998))、モルヒネ(Widnell,K. L. et al.,J. Pharmacol. Exp. Ther.、276(1):306-315 (1996))、メタンフェタミン(Muratake,T. et al.,Ann N.Y. Acad. Sci.、844:21-26 (1998))ならびにカンナビノイド(Calandra、B. et al.,Eur. J. Pharmacol、374(3):445-455 (1999);およびHerring,A. C. et al.,Biochem. Pharmacol.、55(7):1013-1023 (1998))によって影響される。
【0032】
CREB/CRE転写経路を刺激し得るシグナル伝達経路は、cAMP調節系である。これと一致して、アデニレートシクラーゼ1(AC1)およびAC8両方の酵素を欠くマウスは学習することができない(Wong S. T. et al.,Neuron、23(4):787-798 (1999))。これらのマウスでは、海馬のCA1領域へのフォルスコリンの投与により、海馬依存性課題の学習および記憶が回復される。さらに、cAMPレベルを上昇させる薬物(例えば、ロリプラムおよびD1受容体アゴニスト)による高齢ラットの治療により、海馬依存性記憶の加齢依存性低下および細胞の長期増強が改善される(Barad,M. et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA、95(25):15020-15025 (1998))。これらの後者のデータは、cAMPシグナル伝達が学習障害高齢ラットにおいて不完全性であることを示唆する(Bach,M. E. et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA、96(9):5280-5285 (1999))。
【0033】
本発明は、(1)種々の形態の認知機能不全のリハビリを行なう、(2)通常の認知動作を増大させることができる新規な方法論に関する。CREB経路増強薬の投与は、見かけ上、新たに獲得された経験の生化学的効果を持続性のシナプスの構造的変化に変換するシナプス形成性の一般的な分子機構を介して作用する。CREB経路増強薬の投与は、認知訓練後、持続動作の進歩を示す脳機能の任意の局面に適用され得る。したがって、CREB経路増強薬の投与は、任意の形態の認知もしくは運動機能不全を有する動物のリハビリにおいて、または動物において通常の認知もしくは運動動作の任意の局面の増強もしくは改善に使用され得る。
【0034】
一連の証拠が増加していることにより、ニューロンは、成体の脳において増殖し続けること(Arsenijevic,Y. et al.,Exp. Neurol.、170:48-62 (2001);Vescovi,A. L. et al.,Biomed. Pharmacother.、55:201-205 (2001);Cameron,H. A. and McKay、R. D.、J. Comp. Neurol.、435:406-417 (2001);およびGeuna,S. et al.,Anat. Rec、265:132-141 (2001))、およびかかる増殖は、種々の経験に応答したものであること(Nilsson,M. et al.,J. Neurobiol.、39:569-578 (1999);Gould,E. et al.,Trends Cogn. Sci.、3:186-192 (1999);Fuchs,E.およびGould,E.、Eur. J. Neurosci.,12:2211-2214 (2000);Gould,E. et al.,Biol. Psychiatry、48:715-720 (2000);ならびにGould,E. et al.,Nat. Neurosci.、2:260-265 (1999))が示唆される。種々の治療適応のために成体の脳内にニューロン幹を移植する実験ストラテジーは、現在、進行中である(Kurimoto,Y. et al.,Neurosci. Lett.、306:57-60 (2001);Singh,G.、Neuropathology、21:110-114 (2001);ならびにCameron,H. A.およびMcKay,R. D.、Nat. Neurosci.、2:894-897 (1999))。発生の胚段階の神経発生について、既に多くが公知である(Saitoe,M.およびTully,T.、「Making connections between synaptic and behavioral plasticity in Drosophila」、In Toward a Theory of Neuroplasticity、J. McEachemおよび C. Shaw編(New York:Psychology Press.)、pp. 193-220 (2000))。ニューロンの分化、神経突起伸長および初期シナプス標的認識はすべて、活性非依存的様式で起こるようである。しかしながら、続くシナプス形成およびシナプス成長は、機能的に関連する様式でシナプス結合を微調整するためには、進行中のニューロン活動が必要とされる。これらの所見は、移植され神経幹細胞の機能的(最終)統合にはニューロン活動が必要であることを示す。したがって、CREB経路増強薬の投与は、適切な神経回路を働かせ、ニューロンに分化する新たに獲得された移植幹細胞のシナプス結合を微調整するために使用され得る。「適切な神経回路(1つまたは複数)を働かせる」により、特定の認知訓練プロトコルによってもたらされるものに相当するニューロン活動のパターンの適切な神経回路(1つまたは複数)における誘導が意図される。認知訓練プロトコルは、かかるニューロン活動を誘導するために使用され得る。代替的に、ニューロン活動は、神経回路の直接電気刺激によって誘導され得る。「ニューロンの活動」および「神経の活動」は、本明細書において互換的に使用される。
【0035】
ACTは、各脳機能のためのための特定の訓練プロトコルおよびCREB経路増強薬の全身投与を含む。訓練プロトコル(認知訓練)は、特定の脳領域においてニューロン活動を誘導し、特定の脳(認知)機能の改善された動作をもたらす。CREB経路増強薬は、本明細書において増大剤ともよばれ、CREB経路機能を増大させ、これには、新たに獲得された情報をLTMに固定することが必要とされる。「CREB経路機能を増大させる 」は、CREB依存性遺伝子発現を増大または改善する能力を意味する。CREB依存性遺伝子発現は、例えば、内因性遺伝子を直接もしくは間接的に刺激してCREBの量の増加をもたらして内因性CREB産生を増大させることにより、または機能的(生物学的に活性な)CREBを増大させることにより、増大または改善され得る。例えば、米国特許第5,929,223号;米国特許第6,051,559号;および国際公開公報WO9611270 (1996年4月18日公開)を参照のこと、該参考文献は、参照によりその全体が本明細書に援用される。CREB経路増強薬の投与により、訓練単独と比べて、動作の進歩に必要な訓練が減少する。特に、ACTは、動作の進歩をもたらすのに必要とされる訓練セッションの数を、認知訓練単独の場合よりも減らすことにより、または動作の進歩をもたらすのに必要とされる訓練セッション間の休息間隔がなくすか短くすることにより認知訓練を増強させ得る。このように、ACTにより、認知訓練技術の効率が改善され、それにより有意な経済的利点がもたらされる。「動作の進歩」は、認知動作の局面の改善を意味する。
【0036】
本発明は、(a)CREB経路機能を増強する増大剤を動物に投与する工程;および任意に(b)動物に特定の認知課題の動作の改善がもたらされるのに充分な条件下で動物を訓練する工程を含む、増強が必要とされる動物(特に、ヒトまたは他の哺乳動物もしくは脊椎動物)における認知動作の特定の局面の増強方法を提供する。
【0037】
例えば、正式な(formal)認知訓練プロトコルは、鬱(モノポラー(monopolor))および/または恐怖を有する患者を、該患者が鬱および/または恐怖(1つもしくは複数)に関連する病理学的応答を忘れ、適切な行動を学習するのを補助するように治療するために使用される。任意に認知訓練と組み合わせたCREB経路増強薬の投与により、これらの患者において動作の進歩に必要とされる訓練セッションの時間および/または回数が減少する。そのため、全体としての治療は、より短い時間で達成される。
【0038】
同様に、正式な認知訓練プロトコルは、自閉症を有する患者を、該患者が病理学的応答を忘れ、適切な行動を学習するのを補助するように治療するために使用される。任意に認知訓練と組み合わせたCREB経路増強薬の投与により、により、これらの患者において動作の進歩に必要とされる訓練セッションの時間および/または回数が減少する。
【0039】
正式な認知訓練プロトコル(例えば、理学療法、バイオフィードバック法)が、脳卒中患者のリハビリ(脳卒中のリハビリテーション)、特に、損傷されたまたは失われた感覚運動機能(1つまたは複数)のリハビリに使用される。認知訓練と組み合わせたCREB経路増強薬の投与により、これらの患者において動作の進歩に必要とされる訓練セッションの時間および/または回数が減少する。その結果、失われた認知または運動機能(1つまたは複数)のより高速でより効率的な回復が期待される。
【0040】
正式な認知訓練プロトコル(例えば、集中訓練、離間訓練)が、新しい言語の学習または新しい楽器の演奏の学習に使用される。認知訓練と組み合わせたCREB経路増強薬の投与により、動作の進歩がもたらされるのに必要とされる訓練セッションの時間および/または回数が減少する。その結果、新しい言語の学習または新しい楽器の演奏の学習に必要とされる練習(訓練セッション)が少なくなる。
【0041】
正式な認知訓練プロトコルは、学習、言語または読解に障害を有する個体における学習および/または実行の改善に使用される。認知訓練と組み合わせたCREB経路増強薬の投与により、これらの個体において動作の進歩がもたらされるのに必要とされる訓練セッションの時間および/または回数が減少する。
【0042】
正式な認知訓練プロトコルは、個体において神経回路を働かせ、ニューロンに分化する新たに獲得された移植幹細胞のシナプス結合を微調整するために使用される。認知訓練と組み合わせたCREB経路増強薬の投与により、これらの個体において、特定の神経回路(1つまたは複数)のニューロン活動のパターンの誘導に必要とされる訓練セッションの時間および/または回数が減少する。
【0043】
正式な認知訓練プロトコルは、個体において、特定の神経回路(1つまたは複数)の基礎となるニューロン活動またはニューロン活動のパターンの反復刺激のために使用される。認知訓練と組み合わせたCREB経路増強薬の投与により、神経回路のシナプス結合間のCREB依存性長期構造/機能(すなわち、持続性)変化を誘導するのに必要とされる訓練セッションおよび/または基礎となるニューロン活動のパターンの時間および/または回数が減少する。
【0044】
集中的なリハビリテーション治療により、脳損傷後の機能的回復が改善され得る。この回復は、生存ニューロンが、失われた機能を呈するように「再訓練」された場合、残留脳組織の再組織化により生じる。神経の形成性における変化は、この再組織化の基礎となると考えられる。cAMP/CREB経路の活性化は、神経の形成性における経験依存性変化のための必須の工程である。外側液体衝撃(LFP)脳損傷後の運動および認知リハビリテーションに対するHT-0712およびロリプラムの効果を調べた。成体ラットを、スキルド運動課題(千鳥状ステップ(staggered step))において基準の動作まで訓練し、LFPデバイスを用いて損傷させた。1週間の回復後、ラットは、PDE4インヒビターまたはビヒクルのいずれかとともにスキルド運動リハビリテーションを開始した。HT-0712およびロリプラムはともに、運動リハビリテーションを有意に増強した。別の群の動物では、ラットを、まず、物体認識のベースライン記憶動作について試験した。損傷後、ラットは、訓練後4時間目はそのまま物体認識を示したが、24時間目は記憶が不完全であった。物体認識(認知リハビリ)の反復認知訓練中、HT-0712またはビヒクルを与えた。6回セッションのリハビリ後、HT-0712群の動作は、ビヒクル群よりも有意に良好であった。この記憶改善は、薬物の非存在下で8週間もの長期間持続し、痕跡(trace)恐怖条件付けについて改善された記憶動作と解釈した。驚いたことに、PDE4インヒビターHT-0712は、脳損傷後の運動および認知回復を改善するために使用され得る。
【0045】
訓練は、1回または多数回の訓練セッションを含み得、目的の認知課題の動作の改善がもたらされるのに適切な訓練である。例えば、言語獲得における改善が所望される場合、訓練は言語獲得に集中され得る。楽器の演奏を学習する能力における改善が所望される場合、訓練は、楽器の演奏の学習に集中され得る。特定の運動技能における改善が所望される場合、訓練は、特定の運動技能の獲得に集中され得る。特定の目的の認知課題は、適切な訓練と適合している。
【0046】
本発明はまた、(a)CREB経路機能を増強する増大剤を動物に投与する工程;および(b)動物においてニューロン活動またはニューロン活動のパターンを刺激または誘導するのに充分な条件下で動物を訓練する工程を含む、動物において特定の神経回路(1つまたは複数)の基礎となるニューロン活動またはニューロン活動のパターンの反復刺激のための方法を提供する。この場合、訓練は、動物においてニューロン活動またはニューロン活動のパターンを刺激または誘導するのに適切な訓練である。
【0047】
「多数回の訓練セッション」は、2回以上の訓練セッションを意味する。増大剤は、1回以上の訓練セッションの前、セッション中、またはセッション後に投与され得る。特定の態様において、増大剤は、各訓練セッション前とセッション中に投与される。また、各訓練セッションと組み合わせた増大剤での治療は、「増大治療」という。「訓練」は認知訓練を意味する。
【0048】
正式な認知訓練プロトコルは公知であり、当該技術分野において容易に利用可能である。例えば、Karni, A.およびSagi, D., 「Where practice makes perfect in text discrimination: evidence for primary visual cortex plasticity」, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88:4966-4970 (1991); Karni, A.およびSagi, D.,「The time course of learning a visual skill」, Nature, 365:250-252 (1993); Kramer, A. F. et al.,「Task coordination and aging: explorations of executive control processes in the task switching paradigm」, Acta Psychol, (Amst), 101:339-378 (1999); Kramer, A. F. et al.,「Training for executive control: Task coordination strategies and aging」, In Aging and Skilled Performance: Advances In Theory and Applications, W. Rogers et al.編. (Hillsdale, NJ. : Erlbaum)(1999); Rider, R. A.およびAbdulahad, D. T.,「Effects of massed versus distributed practice on gross and fine motor proficiency of educable mentally handicapped adolescents」, Percept. Mot. Skills, 73:219-224 (1991); Willis, S. L.およびSchaie, K. W.,「Training the elderly on the ability factors of spatial orientation and inductive reasoning」, Psychol. Aging, 1 :239-247 (1986); Willis, S. L.およびNesselroade, C. S.,「Long-term effects of fluid ability training in old-old age」, Develop. Psychol., 26:905-910 (1990); Wek, S. R.およびHusak, W. S.,「Distributed and massed practice effects on motor performance and learning of autistic children」, Percept. Mot. Skills, 68:107-113 (1989); Verhaehen, P. et al.,「Improving memory performance in the aged through mnemonic training: a meta-analytic study」, Psychol. Aging, 7:242-251 (1992); Verhaeghen, P.およびSalthouse, T. A.,「Meta-analyses of age-cognition relations in adulthood: estimates of linear and nonlinear age effects and structural models」, Psychol. Bull., 122:231-249 (1997); Dean, C. M. et al.,「Task-related circuit training improves performance of locomotor tasks in chronic stroke: a randomized, controlled pilot試行」, Arch. Phys. Med. Rehabil., 81 :409-417 (2000); Greener, J. et al.,「Speech and language therapy for aphasia following stroke」, Cochrane Database Syst. Rev., CD000425 (2000); Hummelsheim, H.およびEickhof, C,「Repetitive sensorimotor training for arm and hand in a patient with locked-in syndrome」, Scand. J. Rehabil. Med., 31 :250-256 (1999); Johansson, B. B.,「Brain plasticity and stroke rehabilitation. The Willis lecture」, Stroke, 31 :223-230 (2000); Ko Ko, C.,「Effectiveness of rehabilitation for multiple sclerosis」, Clin. Rehabil., 13 (Suppl. 1):33-41 (1999); Lange, G. et al.,「Organizational strategy influence on visual memory performance after stroke: cortical/subcortical and left/right hemisphere contrasts」, Arch. Phys. Med. Rehabil., 81 :89-94 (2000); Liepert, J. et al.,「Treatment-induced cortical reorganization after stroke in humans」, Stroke, 31 : 1210-1216 (2000); Lotery, A. J. et al.,「Correctable visual impairment in stroke rehabilitation patients」, Age Ageing, 29:221-222 (2000); Majid, M. J. et al.,「Cognitive rehabilitation for memory deficits following stroke」(Cochrane review), Cochrane Database Syst. Rev., CD002293 (2000); Merzenich, M. et al.,「Cortical plasticity underlying perceptual, motor, and cognitive skill development: implications for neurorehabilitation」, Cold Spring Harb. Symp. Quant. Biol., 61 :1-8 (1996); Merzenich, M. M. et al.,「Temporal processing deficits of language-learning impaired children ameliorated by training」, Science, 271:77-81 (1996); Murphy, E.,「Stroke rehabilitation」, J. R. Coll. Physicians Lond., 33:466-468 (1999); Nagarajan, S. S. et al.,「Speech modifications algorithms used for training language learning-impaired children」, IEEE Trans. Rehabil. Eng., 6:257-268. (1998); Oddone, E. et al.,「Quality Enhancement Research Initiative in stroke: prevention, treatment, and rehabilitation」, Med. Care 38:192-1104 (2000); Rice-Oxley, M. and Turner-Stokes, L.,「Effectiveness of brain injury rehabilitation」, Clin. Rehabil., 13(Suppl l):7-24 (1999); Tallal, P. et al.,「Language learning impairments: integrating basic science, technology, and remediation」, Exp. Brain Res., 123:210-219 (1998); Tallal, P. et al.,「Language comprehension in language-learning impaired children improved with acoustically modified speech」, Science, 271 :81-84 (1996); Wingfield, A. et al.,「Regaining lost time: adult aging and the effect of time 休息oration on recall of time-compressed speech」, Psychol. Aging, 14:380-389 (1999)を参照のこと、これらの参考文献は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0049】
本明細書で使用されるように、用語「動物」としては、哺乳動物、ならびに他の動物、脊椎動物および無脊椎動物(例えば、鳥類、魚類、爬虫類、昆虫(例えば、ショウジョウバエ 種)、軟体動物(例えば、アメフラシ)が挙げられる。用語「哺乳動物」および「哺乳動物」は、本明細書で使用されるように、任意の脊椎動物、例えば、子供に授乳し、子供を出産するか(真獣類もしくは胎盤哺乳動物)または卵を産む(後獣類もしくは非胎盤哺乳動物)のいずれかである単孔類、有袋類および胎盤類をいう。哺乳動物種の例としては、ヒトおよび霊長類(例えば、サル、チンパンジー)、齧歯類(例えば、ラット、マウス、モルモット)ならびに反芻動物(ruminent)(例えば、ウシ、ブタ、ウマ)が挙げられる。
【0050】
動物は、なんらかの形態もしくはある程度の認知機能不全を有する動物、または通常の認知動作を有する動物(すなわち、なんらかの形態の認知不全(機能不全もしくはある程度の認知機能の低下)をもたない動物)であり得る。
【0051】
認知機能不全は、一般的に、脳機能不全および中枢神経系(CNS)の障害または状態と関連しており、遺伝、疾患、損傷および/または加齢により起こる。なんらかの形態またはある程度の認知不全(機能不全)を伴うCNSの障害および病気としては、限定されないが、以下のものが挙げられる。
1)加齢関連記憶障害;
2)神経変性障害、例えば、せん妄(急性錯乱状態);痴呆、例えば、アルツハイマー型および非アルツハイマー型痴呆、例えば、限定されないが、レヴィー小体痴呆、血管性痴呆、ビンスヴァンガー痴呆(皮質下性動脈硬化性脳障害脳症)、パーキンソン病と関連する痴呆、進行性核上性麻痺、ハンティングトン病(舞踏病)、ピック病、正常圧水頭症、クロイツフェルト‐ヤーコブ病、ゲルストマン‐シュトロイスラー‐シャインカー病、神経梅毒(全身不全麻痺)またはHIV感染、前頭葉痴呆症候群、頭部外傷と関連する痴呆、例えば、拳闘痴呆、脳外傷、硬膜下血腫、脳腫瘍、甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏症、頭蓋内放射線;他の神経変性障害;
3)精神病性障害、例えば、情動障害(気分障害)、例えば、限定されないが、鬱、例えば、抑鬱仮性痴呆;精神病性障害、例えば、限定されないが、統合失調症および自閉症(カンナー症候群);神経症性障害、例えば、限定されないが、不安および強迫性障害;注意欠陥障害;
4)外傷依存性認知機能の低下、例えば、限定されないが、脳血管疾患、例えば、脳卒中および虚血、例えば、虚血性脳卒中;脳外傷、例えば、硬膜下血腫および脳腫瘍;頭部損傷、冠状動脈バイパス移植(CABG)術による合併症および神経毒性(neurotoxcicity)、興奮毒性、ならびに発作と関連するもの(によるもの);
5)遺伝的欠陥により生じるなんらかの形態およびある程度の認知機能不全に関連する障害、例えば、限定されないが、ルービンスタイン‐テービ症候群、ダウン症候群、アンジェルマン症候群、ぜい弱X症候群(ぜい弱X-1、ぜい弱X-2)、神経線維腫症、コフィン‐ローリー症候群、筋緊張性ジストロフィ、レット症候群、ウィリアムズ症候群、クラインフェルター症候群、モザイク現象、13トリソミー(パトー症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、ターナー症候群、ネコ鳴き症候群、レッシュ‐ナイハン症候群(尿酸過剰血症)、ハンター症候群、ロウ眼脳腎症候群、ゴーシェ病、ハーラー症候群(ムコ多糖症)、ニーマン‐ピック病、テイ‐サックス病、ガラクトース血症、カエデシロップ病、フェニルケトン尿症、アミン酸尿症、酸血症、結節硬化症および原発性小頭蓋症;
6)特に、小児における学習、言語または読解の障害。「学習障害」は、個体が学習する過程に影響する基本的な心理学的プロセスの障害を意味する。学習障害は、聴解、思考、会話、読解、筆記、スペリング、計算または前記のものの任意の組合せに困難を引き起こし得る。学習障害としては、知覚のハンディキャップ、失読症および発達上の失語症が挙げられる。
【0052】
用語「認知動作」および「認知機能」は当該技術分野に認められる用語であり、当該技術分野で受け入れられる意味に従って本明細書で使用される。「認知課題」とは、認知機能を意味する。認知機能としては、記憶獲得、視覚識別、聴覚識別、実行機能、運動技術学習、要約演繹、空間能力、会話および言語技術ならびに言語獲得が挙げられる。「特定の局面の認知動作を高める」とは、例えば、記憶の獲得または学習課題の実行などの、特定の認知機能または脳機能を高めるまたは改善する能力を意味する。「特定の認知課題の動作における改善」とは、訓練前の動作と比べて特定の認知課題または特定の局面の脳機能の動作における改善を意味する。例えば、脳卒中後の患者が、足がふらふらし得るだけである場合、患者における動作の改善(動作の進歩)は、例えば、歩く能力である。
【0053】
「持続した改善を提供する」は、特定の認知課題の動作における改善が増大剤の投与が停止した後も残ることを意味する。
【0054】
従って、本発明はまた、正式認知訓練の非存在下で、CREB経路機能を高める増大剤で動物を治療する工程を含む、動物(特に、ヒトまたは他の哺乳動物または脊椎動物)のCNS障害または状態と関連する認知障害を改善する方法に関する。本発明はまた、CREB経路機能を高める増大剤を動物に投与する工程、および持続した改善を検出する工程を含む、動物(特にヒトまたは他の哺乳動物または脊椎動物)のCNS障害または状態と関連する認知障害における持続した改善を提供する方法に関する。本発明はまた、動物が特定の認知課題の動作における改善を生じるのに十分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含む方法に関する。
【0055】
1つの態様において、本発明は、(a)CREB経路機能を高める増大剤を動物に投与する工程、および任意に(b)損失が加齢関連記憶障害と関連し、動物が認知課題の動作における改善を生じるのに十分な条件下で動物を訓練する工程を含む、治療の必要がある動物において加齢関連記憶障害と関連する認知障害を治療する方法に関する。
【0056】
特定の態様において、増大剤はホスホジエステラーゼ4(PDE4)インヒビターである。PDE4インヒビターの例としては、ロリプラムおよび
以下の式:
の化合物が挙げられる。
【0057】
式中「Me」は「メチル」を表し、「cPent」は「シクロペンチル」を表す。上記式はそのエナンチオマーおよび混合物の両方を含むことを理解されたい。化合物は、米国特許第6,458,829号に提供される方法を用いて調製することができ、その教示は参照によって本明細書に援用される。特定の態様において、上述の式の3および5位の炭素はS配置:
である。
【0058】
式中「Me」は「メチル」を表し、「cPent」は「シクロペンチル」を表す。PDE4インヒビターの他の例が、米国出願公開第2002/0028842号A1(2002年5月7日公開);米国特許第6,458,829号B1;米国特許第6,525,055号B1;米国特許第5,552,438号;米国特許第6,436,965号;および米国特許第6,204,275号に見ることができる。さらなる他のPDE4インヒビターが公知であり、当該技術分野で容易に利用可能である。
【0059】
精神遅滞は学習および記憶獲得を含む認知処理および認知機能に影響を及ぼす(Weeber, E. J. et al., Neuron, 33:845-848))。精神遅滞は、染色体要因または遺伝的要因、先天的感染、奇形促進剤(薬物および他の化学物質)、栄養失調、放射線または着床および胚発生に影響を及ぼす未知の状態によって生じることがある。精神遅滞症候群としては、限定されないが、クラインフェルター症候群、モザイク現象、トリソミー13(パトー症候群)、トリソミー18(エドワード症候群)、ターナー症候群、ネコ鳴き症候群、レッシュ-ナイハン症候群(高尿酸血症)、ハンター症候群、ロイエ眼脳腎症候群、ゴーシェ病、ハーラー症候群(ムコ多糖沈着症)、ニーマン-ピック病、テイ=サックス病、ガラクトース血症、メープルシロップ尿病、フェニルケトン尿症、アミノ酸尿症、酸血症、結節硬化症および原発性小頭症が挙げられる。また、精神遅滞症候群としては、ルービンステイン-テービ症候群、ダウン症候群、アンジェルマン症候群、神経線維症、コフィン-ローリー症候群、レット症候群、筋緊張性ジストロフィー、脆弱X症候群(例えば、脆弱X-1、脆弱X-2)およびウイリアム症候群が挙げられる(Weeber, E. J. et al., Neuron, 33:845-848(2002))。
【0060】
本発明はまた、(a)CREB経路機能を高める増大剤を動物に投与する工程、および(b)動物における神経活動または神経活動のパターンを刺激または誘導するのに十分な条件下で動物を訓練する工程を含む、神経幹細胞操作を受けた動物のCNS障害または状態と関連する認知障害の治療方法に関する。「神経幹細胞操作」とは、(1)外因性神経幹細胞が動物の脳または脊髄に移植されることまたは(2)内因性神経幹細胞が動物で増殖するように刺激または誘導されることを意味する。動物の脳または脊髄への神経幹細胞の移植方法は、公知であり、当該技術分野で容易に利用可能である(例えば、Cameron, H. A.およびMcKay, R. D., Nat. Neurosci., 2:894-897(1999);Kurimoto, Y. et al., Neurosci. Lett., 306:57-60(2001);およびSingh, G., Neuropathology, 21:110-114(2001)参照)。動物の内因性神経幹細胞の増殖を刺激または誘導する方法は公知であり、当該技術分野で容易に利用可能である(例えば、Gould, E. et al., Trends Cogn. Sci, 3:186-192(1999); Gould, E. et al., Biol. Psychiatry, 48:715-20(2000);Nilsson, M. et al, J. Neurobiol., 39:569-578(1999); Fuchs, E.およびGould, E., Eur. J Neurosci., 12:2211-2214(2000);ならびにGould, E. et al., Nat. Neurosci., 2:260-265(1999)参照)。動物の脳または脊髄への神経幹細胞を移植する特定の方法および動物の内因性神経幹細胞の増殖を刺激または誘導する特定の方法は本発明の実施に重要ではない。
【0061】
さらに、本発明は、(a)CREB経路機能を高める増大剤を動物に投与する工程、および(b)動物が、学習、言語または読み取り実行の不能と関連する認知課題の動作における改善を生じるのに十分な条件下で動物を訓練する工程を含む、学習、言語もしくは読み取り不能、または前記のいずれかの組み合わせを有する動物の学習および/または動作を改善または高める方法に関する。
【0062】
本明細書で使用される増大剤は、薬理学的活性を有する化合物であり、薬物、化合物、イオン性化合物、有機化合物、補因子を含む有機リガンド、糖類、組み換えおよび合成ペプチド、タンパク質、ペプトイド、遺伝子を含む核酸配列、核酸産物、ならびに他の分子および組成物が挙げられる。
【0063】
例えば、増大剤は、細胞透過性cAMPアナログ(例えば、8-ブロモcAMP);アデニレートシクラーゼ1(AC1)のアクチベーター(例えば、フォルスコリン);限定されないがアドレナリン性レセプターおよびオピオイドレセプターおよびこれらのリガンドなどのGタンパク質結合レセプターに影響を及ぼす薬剤(例えば、フェネチルアミン);細胞内カルシウム濃度のモジュレーター(例えば、タプシガルジン、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)レセプターアゴニスト);cAMP分解の原因となるホスホジエステラーゼのインヒビター(例えば、ホスホジエステラーゼ1(PDE1)インヒビター)(例えば、イソ-ブト-メト-ザンチン(IBMX))、ホスホジエステラーゼ2(PDE2)インヒビター(例えば、イソ-ブト-メト-ザンチン(IBMX))、ホスホジエステラーゼ3(PDE3)インヒビター、ホスホジエステラーゼ4(PDE4)インヒビター(例えば、ロリプラム、HT0712)、など)(例えば、米国特許第6,458,829号B1;米国出願公開第2002/0028842号A1(2002年5月7日公開)も参照);CREBタンパク質活性化およびCREB依存性遺伝子発現を媒介するプロテインキナーゼおよびプロテインホスファターゼのモジュレーターであり得る。増大剤は、外因性CREB、CREBアナログ、CREB様分子、生物学的活性CREB断片、CREB融合タンパク質、内因性CREB、CREBアナログ、CREB様分子、生物学的活性CREB断片またはCREB融合タンパク質をコードする核酸配列であり得る。
【0064】
増大剤はまた、CREB機能モジュレーターまたはCREB機能モジュレーターをコードする核酸配列であり得る。本明細書で使用されるCREB機能モジュレーターはCREB経路機能を調節する能力を有する。「調節する」とは、CREB経路機能を変化(増大もしくは減少)または改変する能力を意味する。
【0065】
増大剤はCNSのCREB機能を高めることができる化合物であり得る。かかる化合物としては、限定されないが、膜安定性および膜流動性ならびに特定の免疫刺激に影響を及ぼす化合物が挙げられる。特定の態様において、増大剤はCNSのCREB経路機能を一過的に高めることができる。
【0066】
CREBアナログ、またはCREB誘導体は、内因性CREBに類似するアミノ酸配列を有するタンパク質として本明細書で定義される。本明細書で、類似アミノ酸配列は、内因性CREBの生物学的活性を有するような内因性CREBのアミノ酸配列の十分な同一性を有するが、アミノ酸配列の1つ以上の「サイレント」変化を有するアミノ酸配列を意味するように定義される。CREBアナログとしては、哺乳動物CREM、哺乳動物ATF-1および他のCREB/CREM/ATF-1サブファミリーメンバーが挙げられる。
【0067】
CREB様分子とは、その用語が本明細書で使用される場合、機能的にCREBと似ている(模倣する)タンパク質のことをいう。CREB様分子は内因性CREBに類似するアミノ酸配列を有する必要はない。
【0068】
CREBの生物学的活性ポリペプチド断片は、CREBの完全長アミノ酸配列の一部しか含まないが、生物学的活性を有するものでもよい。かかる断片はカルボキシルまたはアミノ末端欠失および内部欠失によって生み出すことができる。
【0069】
融合タンパク質は、本明細書に記載され、第一部分と呼ばれるCREBタンパク質を含み、CREBタンパク質で生じない第二部分に連結される。第二部分は単一のアミノ酸、ペプチド、またはポリペプチドあるいは炭水化物、脂質もしくは無機分子などの他の有機部分であり得る。
【0070】
核酸配列は本明細書で核酸分子のヘテロポリマーと定義される。核酸分子は二本鎖または一本鎖であり得、cDNAもしくはゲノムDNAなどのデオキシリボヌクレオチド(DNA)分子、またはリボヌクレオチド(RNA)分子であり得る。従って、核酸配列は、例えば、適切なイントロンの有無に関わらず、1つ以上のエキソン、および1つ以上の適切な制御配列を含むことができる。1つの例において、核酸分子は所望の核酸産物をコードする単一のオープンリーディングフレームを含む。核酸配列は適切なプロモーターに「作動可能に連結」される。
【0071】
所望のCREBタンパク質、CREBアナログ(CREM、ATF-1を含む)、CREB様分子、生物学的活性CREB断片、CREB融合タンパク質またはCREB機能モジュレーターをコードする核酸配列は、例えば、Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York (1998);およびSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor University Press, New York.(1989)に記載されるように、天然から単離され得るか、天然配列から改変され得るか、またはデノボで製造され得る。核酸は、適合可能なクローニングまたは制限部位の探求および製造などの当該技術分野で公知の方法によって、単離することができ、共に融合することができる。
【0072】
典型的に、核酸配列は、所望のCREBタンパク質、CREBアナログ、CREB様分子、CREB融合タンパク質またはCREB機能モジュレーターをコードする遺伝子である。典型的に、かかる遺伝子は、好ましくはCNSにおいてCREBタンパク質またはCREB機能モジュレーターの発現に影響を及ぼすことができる適切な制御配列に作動可能に連結される。本明細書で使用される場合、用語「作動可能に連結される」は、遺伝子(または核酸配列)の発現を可能にする様式で遺伝子(または核酸配列)が制御配列に連結されることを意味すると定義される。一般的に、作動可能に連結されるは、連続性を意味する。
【0073】
制御配列としては、転写プロモーター、転写を調節する選択オペレーター配列、転写および翻訳の終了を調節する適切なメッセンジャーRNA(mRNA)リボソーム結合部位および配列をコードする配列が挙げられる。特定の態様において、CREBタンパク質、CREBアナログ、CREB様分子、生物学的活性CREB断片、CREB融合タンパク質またはCREB機能モジュレーターをコードする組み換え遺伝子(または核酸配列)は、誘導または抑制され得る調節性制御のプロモーター下に置かれ、それによって産物のレベルに関して高い程度の制御を提供することができる。
【0074】
本明細書で使用される場合、用語「プロモーター」は、通常、構造遺伝子のコーディング領域の上流(5')のDNA配列のことをいい、RNAポリメラーゼおよび転写の開始に必要とされ得る他の因子のための認識部位および結合部位を提供することでコーディング領域の発現を制御する。適切なプロモーターは、当該技術分野で周知である。例示的なプロモーターとしては、SV40およびヒト伸長因子(EFI)が挙げられる。他の適切なプロモーターは当該技術分野で容易に利用可能である(例えば、Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York (1998); Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor University Press, New York.(1989);および米国特許第5,681,735号参照)。
【0075】
増大剤は様々な機構によってCREB経路機能を高めることができる。例えば、増大剤は、CREB依存性遺伝子発現の誘導をもたらすシグナル伝達経路に影響を及ぼすことができる。CREB依存性遺伝子発現の誘導は、例えば、CREB機能のポジティブエフェクターの上方調節および/またはCREB機能のネガティブエフェクターの下方調節を介して達成することができる。CREB機能のポジティブエフェクターとしては、アデニルシクラーゼおよびCREBアクチベーターが挙げられる。CREB機能のネガティブエフェクターとしては、cAMPホスホジエステラーゼ(cAMP PDE)およびCREBリプレッサーが挙げられる。
【0076】
増大剤は、アクチベーターまたはリプレッサー形態のCREBタンパク質および/または転写複合体を含むCREBタンパク質の生化学的上流に作用するかあるいはこれに直接作用することによってCREB経路機能を高めることができる。例えば、CREB経路機能は、転写時、転写後、または転写時および転写後の両方でCREBタンパク質レベルを増大することによって;例えばCREB結合タンパク質(CBPタンパク質)等の転写複合体の他の必要なコンポーネントへのCREBタンパク質の親和性を改変することによって;プロモーター領域のDNA CREB応答性エレメントに対する転写複合体を含むCREBタンパク質の親和性を改変することによって;または受動または能動性免疫のいずれかをCREBタンパク質アイソフォームに誘導することによって影響を及ぼすことができる。増大剤がCREB経路機能を高める特定の機構は本発明の実施に重要ではない。
【0077】
増大剤は様々な方法で動物に直接投与することができる。好ましい態様において、増大剤は全身投与される。投与の他の経路は当該技術分野で一般的に公知であり、点滴および/またはボーラス注射を含む静脈内、側脳室内、鞘内、非経口、粘膜、移植、腹腔、経口、皮内、経皮(例えば、徐放性ポリマー中)、筋肉内、皮下、局所、硬膜外などの経路が挙げられる。また、投与の他の適切な経路が、例えば、上皮または粘膜性裏打ちを介した吸収を達成するために使用され得る。また、特定の増大剤は遺伝子治療によって投与することができ、特定の治療タンパク質またはペプチドをコードするDNA分子が、例えば、インビボで特定のタンパク質またはペプチドを治療レベルで発現および分泌するベクターを介して動物に投与される。
【0078】
ベクターは、その用語が本明細書で使用される場合、例えば、DNAプラスミド、ウイルス、または他の適切なレプリコン(例えば、ウイルスベクター)の核酸ベクターのことをいう。ウイルスベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、パルボウイルス(例えば、アデノ関連ウイルス)、コロナウイルス、オルトミクソウイルスなどの−鎖RNAウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)、ラブドウイルス(例えば、狂犬病および水疱性口内炎ウイルス)、パラミクソウイルス(例えば、麻疹およびセンダイ)、ピコルナウイルスおよびアルファウイルスなどの+鎖RNAウイルス、ならびにアデノウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、ヘルペス単純ウイルス1型および2型、エプステイン-バーウイルス、サイトメガロウイルス)、およびポックスウイルス(例えば、ワクシニア、鶏痘、およびカナリア痘)を含む二本鎖DNAウイルスが挙げられる。他のウイルスとしては、ノーウォークウイルス、トガウイルス、フラビウイルス、レオウイルス、パボバウイルス、ヘパドナウイルス、および肝炎ウイルスなどが挙げられる。レトロウイルスの例としては、鳥類白血病肉腫、哺乳動物C型、B型ウイルス、D型ウイルス、HTLV-BLV群、レンチウイルス、スプマウイルスが挙げられる(Coffin, J.M., Retroviridae: The viruses and their replication, In Fundamental Virology, 第3版, B.N. Fields, et al.編, Lippincott-Raven Publishers, Philadelphia, 1996)。他の例としては、マウス白血病ウイルス、マウス肉腫ウイルス、マウス乳癌ウイルス、ウシ白血病ウイルス、ネコ白血病ウイルス、ネコ肉腫ウイルス、鳥類白血病ウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス、ヒヒ内在性ウイルス、ギボンサル類白血病ウイルス、メーソンファイザーサルウイルス、サル免疫不全ウイルス、サル肉腫ウイルス、ラウス肉腫ウイルスおよびレンチウイルスが挙げられる。ベクターの他の例は、例えば、McVey et al., 米国特許第5,801,030号に記載されており、その教示は参照によって本明細書に援用される。
【0079】
タンパク質またはペプチド(例えば、CREBタンパク質、CREBアナログ(CREM、ATF-1を含む)、CREB様分子、生物学的活性CREB断片、CREB融合タンパク質、CREB機能モジュレーター)をコードする核酸配列は、当該技術分野で一般的に公知の方法に従って核酸ベクターに挿入することができる(例えば、Ausubel et al., 編, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York (1998); Sambrook et al., 編, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor University Press, New York.(1989)参照)。
【0080】
投与様式は好ましくは、標的細胞の位置である。特定の態様において、投与様式は神経細胞に対してである。
【0081】
増大剤は、薬学的に許容できる表面活性剤(例えば、グリセリド)、賦形剤(例えば、ラクトース)、安定剤、保存剤、湿潤剤、緩和薬(emollient)、抗酸化剤、担体、希釈剤およびビヒクルなどの生物学的活性剤の他の成分と共に投与することができる。所望の場合、特定の甘味剤、香料、および/または着色剤も添加することができる。
【0082】
増大剤は薬学的に許容できる非経口ビヒクルと共に溶液、懸濁液、エマルジョンまたは凍結乾燥粉末として配合することができる。かかるビヒクルの例は、水、食塩水、リンガー溶液、等張塩化ナトリウム溶液、デキストロース溶液および5%ヒト血清アルブミンである。リポソームおよび硬化油などの非水性ビヒクルも使用することができる。ビヒクルまたは凍結乾燥粉末は、等張性(例えば、塩化ナトリウム、マンニトール)および化学安定性(例えば、緩衝液および保存剤)を維持する添加剤を含むことができる。製剤は一般に使用される技術によって無菌化することができる。適切な医薬担体はRemington's Pharmaceutical Sciencesに記載されている。
【0083】
動物に投与される増大剤の用量は、特に神経細胞においてCREB依存性遺伝子発現の変化に影響を及ぼすのに必要な量である。投与の頻度を含む動物への投与用量は、特定の増大剤の薬理動的特性、投与の様式および経路;レシピエントの身長、年齢、性別、健康、体重および食事;治療される症状の性質および程度または増大もしくは調節される認知機能の性質および程度、同時治療の種類、治療の頻度、および所望の効果を含む、様々な因子に依存して変化する。
【0084】
増大剤は、症状の性質および程度、同時治療の種類および所望の効果などの因子に依存して、単一用量または分割用量(例えば、日、週または月の間隔を隔てた用量シリーズ)、または徐放性形態で投与することができる。他の治療養生法または治療剤が本発明と共に使用することができる。
【0085】
次に、本発明は以下の実施例を例示するが、いかなる方法にも限定されるとはみなされない。
【実施例】
【0086】
被験体は実験の開始時に275〜300gの体重を有する103匹の成体雄Sprague-Dawleyラット(Taconic, Gremantown, NY)であった。ラットは12:12時間の昼夜サイクルを有する温度調節動物施設内で一匹ずつ飼われ、自由に食物と水にありつけた。全ての動物プロトコールはNIH指針に従い、Cold Spring Harbor 実験室動物保護および使用委員会によって承認された。
【0087】
千鳥状ステップ課題を用いた運動リハビリテーション
本研究で使用された千鳥状ステップ課題は、Klint et al., Journal of Neurotrauma, 21st Annual National Neurotrauma Society Symposium, 20(10):(2003)によって以前に特徴付けされた。これは、一連の上り28段が付属した長さ8フィートおよび幅3.5フィートの走路からなる。段は中線から5cmおよび段の間隔が25cmで交互に「ずらされた」。この配置に350gラットの自然歩行跡を直接描く上部歩行表面を置いた。薄片のプレキシグラス(8フィート長さ2.5インチ幅2mm厚さ)を走路の中央に置き、段の途中でラットが迷わないようにし、段の歩行表面から落ちた後に動物が足をつく支えとして働くようにした。走路の側面および上部はプレキシグラスで囲まれ、動物の側方移動および垂直移動を制限する。暗くした飼育箱(12インチ×12インチ×12インチ)を、走路の両端に取り付けた。明光と白色雑音発生器を有するスピーカーを、走路を囲むように飼育箱の内部および飼育箱の外部に取り付けた。コンピューターで制御されたドアが使用され、飼育箱の入口/出口を管理した。
【0088】
1〜13日目に、ラットを取り扱い、走路に慣れさせて、段の上部表面を踏んで自由に走路を横断するように訓練した。走路に慣れたら、(1)飼育箱を出る、(2)走路を横断するおよび(3)反対の飼育箱に入り不満足な(negative)刺激(明光および白色雑音)を終了するように、不満足な強化訓練模範を用いてラットを訓練した。60秒の休息間隔の後に、次にラットを同じ不満足な強化訓練模範を用いて元の飼育箱に戻るように訓練した。訓練の14日目に始めて、ラットを、基準動作(潜伏期<12秒、3連続横断で1以下の全エラー)を満たすまで5回試行で毎日訓練した。エラーは、段から滑り落ちた足跡または段の上部表面に着地しなかった指向の足取りをとって時間毎にスコア化された。
【0089】
ラットが基準に到達した24時間後に、LFPデバイスを用いて損傷された。動物は7日間回復させた。損傷8日後に、ラットを千鳥状ステップ課題についてベースライン動作(3横断)を試験した。次の日、5つの処理群:リハビリテーションを有するビヒクル(n=11)、リハビリテーションを有する0.15mg/kgのHT-0712(n=13)、リハビリテーションを有する0.1mg/kgのロリプラム(n=11)、リハビリテーションのない0.15mg/kg HT-0712(n=10)、またはリハビリテーションのないビヒクル(n=10)の1つに動物をランダムに指定した。注射はリハビリテーションの20分前i.p.で(またはリハビリテーションのない群について毎日一度で)与えた。リハビリテーション/注射を、連続して8日間繰り返した。10日目(リハビリテーションの最終日)に、注射を与えず、全てのラットをSS課題に対する動作について再度試験した。
【0090】
痕跡条件付け
運動リハビリテーションを完了した1週間後に、ラットを痕跡恐怖条件付けについて訓練した。標準化されたラット状況把握恐怖条件付け装置(Med Associates, Inc., VA)を暗くした音減衰箱(Med Associates, Inc., VA)内に置いた。訓練日に、75dBで20秒間続く2800Hz音の条件付け刺激(CS)の開始前に2分間条件付けチャンバーにラットを置いた。音が終わった30秒後に、0.5mAのショック非条件付け刺激(US)を動物に2秒間送達した。USのオフセットとCSの進行との試行間間隔を3分離した。ラットを5組のCSおよびUSで訓練した。最後のUS後に、ラットをさらに30秒間チャンバーに置き、次に飼育箱に戻した。各実験対象の後に、装置は75%エタノール、水で完全に洗浄され、乾燥され、換気した。ラットを訓練の7日後に試験した。訓練日と状況把握を区別するために、試験は新規の音減衰チャンバーおよび新規の寸法、色、表面および明るさを有する内部チャンバー内で行った。チャンバーは、エタノールの代わりにWindex溶液を用いて洗浄した。各試験は120秒の慣らしで始まり、次の20秒の音(CS)、さらに240秒の休息間隔が続き、CSは3回提示された。すくみを5秒間間隔でスコア化した。すくみを、5秒のうち3秒の運動の完全な欠失として定義した。すくみスコアパーセントは、CS後のすくみ全パーセントからCS前すくみパーセント(最初の120秒間)を引くことで計算された。各実験は、映像化された。全ての実験で、実験者は薬物処理および被験体の訓練条件に盲検であった。
【0091】
新規の物体認識を繰り返す認知リハビリテーション
開放式探求アリーナ(黒プレキシグラスボックス80cm長さ、60cm幅、および50cm高さ、間接的に55ルーメンで照明)は、薄層のケージベッディングを含み、それぞれの日の開始に新しいベッディングを半分取り替えた。アリーナ上に直接載せたビデオカメラは、全ての訓練および試験セッションを記録した。物体をボックスの中央領域の印をつけた位置に置き、物体の空間位置(左右側)は物体間でバランスが取られた。OR訓練前に、動物を取り扱い、連続して3日間1日当たり4分間探求アリーナに慣らした。訓練について、ラットは、7.5分で2つの同一物体(例えば、ろうそく)を含む探求アリーナを自由に探求した。訓練24時間後に、ラットは、前日に探求したある物体および類似サイズのある新規物体について5分間探求アリーナに戻された。この研究の目的で、本発明者らは、訓練セッションおよび24時間後の次の試験セッションを単一の「試行」と呼ぶ。試行完了1日(24時間)後に、動物は、新しい組の同一物体に訓練することによって新しい試行を開始し、次の日に試験セッションを続けた。認知リハビリテーション中に、ラットは休息日が全く無く訓練または試験のいずれかを行った。全部で、各ラットは17対の物体に対して訓練された(損傷前5および損傷後13)。訓練中に、アプローチ数および各物体を探求するのに費やした時間を記録した。試験中に、各物体を探求するのに費やした時間を記録した。識別指標は、以下の式((新規物体-古い物体)/(新しい物体+古い物体))×100を用いて新規および古い物体の探求時間を用いて算出した。
【0092】
認知リハビリテーションの時間経過は以下の通りであった。リハビリテーション手順の図式例示について図1参照:1〜10日目:試行1〜5、損傷前分析;11日目:実験的外傷脳損傷の誘導(TBI);12〜18日目:TBIからの回復;19〜20日目:試行6、損傷後ベースライン(BS1);21〜22日目:試行7、薬物を有する訓練(TD1);23日目:試行8、訓練と薬物のない試験との間隔が4時間の短期記憶(STM)試験;24〜25日目:試行9、薬物補助リハビリテーション前の第二ベースライン(BS2)動作の確立;26〜34日目:試行10〜14、薬物補助認知リハビリテーション(訓練20分前に与えられる薬物);35〜36日目:試行15、訓練時に薬物のない第一リハビリ後記憶評価(Ass1);42〜43日目:試行16、1週間の休息後の第二リハビリ後記憶評価(Ass2);79〜79日目:試行17、5週間の休息後の第三リハビリ後記憶評価(Ass3);85日目:痕跡条件付け;92日目:痕跡条件付け試験。
【0093】
外傷性脳損傷の誘導
外傷性脳損傷は十分に特徴付けられた外側液体衝撃モデル(LFP)を用いてもたらされた(Mcintosh et al., Neuroscience, 28(1):233-44(1989), Hallam et al., J Neurotrauma, 21(5):521-39(2004)。要するに、ラットは、麻酔され、挿管され、担体ガスとして外科用ガスを用いて2%イソフルランで機械的に換気された。体温はフィードバック温度調節器(Physitemp Instruments, Clifton, New Jersey)によって37.5±0.5℃でモニターおよび維持された。正中切開がナイフで行われ、4.8mmの円状開頭術をラムダと中央縫合線の3.0mm右のブレグマとの間の中間で行った。2.6mm内部直径の改変ルアー(leur)ロック連結器(外傷カンニューレ)が、シアノアクリル接着剤と歯科用アクリルを用いて開頭部に固定された。TBIを、液体衝撃デバイス(VCU Biomedical Engineering, Richmond,VA)で閉じた頭部間隙に少容積の食塩水を急速に注入することによって作り出した。次に動物をデバイスから除いて、アクリルおよびカンニューレを除去し、切開部を縫合した。換気は一次的な呼吸が再開するまでイソフルランなしで室内空気で続けた。LFPデバイスは重度の(3.2atm)脳損傷に対して較正された。この脳損傷は34%致死率となった(30のうち22のラットがOR研究で生存し、85のうち57のラットがSS研究で生存した)。
【0094】
薬物調製および注射
PDE4インヒビターHT-0712(0.15mg/kg)またはロリプラム(0.1mg/kg)を1.5%ジメチルスルホキシド(DMSO)および10%クレモフォアを含む食塩水ビヒクル中で送達した。この用量は、0.15mg/kgのHT-0712がラットで運動記憶を高める最も有効な用量であることを示す以前の研究から選ばれた(McDonald et al., Society for Neuroscience, Vol.24, Abstract 681.7.(2004)。
【0095】
統計解析
全てのデータは平均±SEMとして表される。データ解析はSPSS 12.0ソフトウェア(SPSS, Chicago, Illinois)を用いて実施された。有意なレベルは全試験でP<0.05であった。千鳥状ステップでの損傷前と損傷後の動作の比較について、対称t検定が分析の全ての群を用いて実施された。ANOVAは、損傷後ベースラインの分析群(1日目)とリハビリ後運動評価の分析群(10日目)との間で実施された。千鳥状ステップリハビリテーション(2〜10日目)の分析のために、従属変数(足の踏外しまたは潜伏期)が被験体変数で繰り返した日数について繰り返し基準ANOVAを用いて分析された。ダネットhoc後試験はビヒクル注射群と薬物注射群との間での統計的差異を決定するために実施された。物体認識と痕跡条件付けデータの分析のために、スチューデント非対称t検定を用いて、各試験日の群で比較した。
【0096】
結果
PDE4インヒビターは運動リハビリテーションを高める
正常の若成体マウスでの本発明者らの以前の実験によって、長期記憶形成がPDE4インヒビターHT-0712およびロリプラムによって高められたことが確立された(Bourtchouladze R., et al.(2003) A mouse model of Rubinstein Taybi Syndorome:defective long-term memory is ameliorated by inhibitors of phosphodiesterase 4. Proceeding of the National Academy of Science U.S.A. 100:10518-10522; Scott R., et al.,(2002)CREB and the discovery of cognitive enhancers. Journal of Molecular Neuroscience 19:171-177; Tully T., et al.(2003) Targeting the CREB pathway for memory enhancers. Nature Reviews Drug Discovery 2:267-77)。具体的には、これらの薬物は、最大の長期記憶を生み出すのに必要な訓練量を低減することによって記憶形成を高める。これらのPDE4インヒビターがラットで脳損傷後の運動リハビリテーションを促進するかどうかは、熟練した運動機能を回復するのに必要なリハビリテーション量を低減することによって試験された。最後に、ラットは、熟練した運動課題、千鳥状ステップ課題に対する基準動作まで訓練された。基準動作に達した後に、ラットは、LFP脳損傷デバイスを用いて損傷され、1週間回復させた。損傷7日後(リハビリ1日目)に、全ての脳損傷群は、損傷前ベースラインと比較して足の踏外し(t=-18.36、p=4.28e-25)(図2A)および横断潜伏期(t=-13.52、p=7.86e-19)(図2B)の有意な増大を測定することによって、歩行および熟練した運動歩行精度の有意な阻害を有した。リハビリ1日目のANOVAは、処置群間の損傷後のベースライン動作の有意差を明らかにしなかった(F4,50=0.646, p=0.632)。次の日、ラットは、リハビリテーション有りのビヒクル/PDE4インヒビターの毎日投与またはリハビリテーション無しのビヒクル/PDE4インヒビターの毎日注射のいずれかを受けるようにランダムに指定された。
【0097】
リハビリテーションを受けるラットについて、千鳥状ステップのエラー(F2,32=7.50,p=0.02)および潜伏期に対する薬物処置の有意な影響を観察した。ダネットhoc後分析によって、HT-0712群(p=0.008)とロリプラム群(p=0.004)の両方がビヒクル処置群よりも有意に良好に実施されたことが明らかにされた。
【0098】
また、毎日のリハビリテーションのないビヒクル/HT-0712の毎日注射が最終試験日で動作を改善するかどうかが評価された。10日目のANOVA比較は、処置の有意な効果を示した(F4,50=10.11,p=0.00004)。hoc後ボンフェローニ分析はビヒクル群間で有意差がないこと(p=1.0)、およびPDE4インヒビター群間で有意差がないこと(p=1.0)を明らかにした。しかし、PDE4インヒビターの毎日注射を受ける全ての群は全てのビヒクル注射対照よりも有意に良好に実施された(比較は全く示さない)。具体的に、リハビリテーションのないHT-0712群は、リハビリテーションのないビヒクル群よりも有意に良好に実施され(p=0.01)、リハビリテーションのあるビヒクル群よりも有意に良好に実施された(p=.028)。
【0099】
PDE4インヒビターは認知リハビリテーションを高める
本発明者らの以前の実験によって、PDE4インヒビターロリプラムおよびHT-0712は、マウス、具体的にCBP+/-変異体マウスの長期記憶障害を改善し得ることが示された。これらのCBP+/-変異体マウスは、ルーベンステインーテービ症候群のマウスモデルであり、CREB経路の分子欠失によって生じる記憶障害を有する(Bourtchouladze et al., Proc Natl Acad Sci U S A., 100(18):10518-22, (2003);Olike et al., Hum Mol Genet.8(3):387-96.(1999))。訓練中にPDE4インヒビターHT-0712を用いた処置は長期記憶機能を野生型マウスに類似するレベルまで回復することができた。多くの研究によって、LFP損傷ラットは長期記憶の障害を有することが示された(引用)。2つの主な仮説、(1)訓練中に与えた単一投与のPDE4インヒビターHT-0712が観察された脳損傷ラットでの記憶障害を改善できること、および(2)PDE4インヒビターHT-0712を使用して脳損傷ラットでの認知リハビリテーションを促進できることを試験した。これらの仮説を試験するために、課題を必要としたが、1)長期記憶形成を必要とすること、2)記憶動作の繰り返し訓練および試験を可能にすることおよび3)個々の試行で動作を確実にすることは以前の試行での記憶動作で交絡されていなかった。物体認識課題はこれらの要件のうち3つを全て満たした。物体認識は、ラットの本能探求行動に依存する有害でない課題である。この課題での訓練中に、ラットに2つの同一物体が提示される。十分な曝露(訓練時間)の場合に、正常ラットは探求物体のLTMを形成する。ラットに2つの異なる物体(即ち、1つは新規の物体で1つは以前に探求した物体)が提示される場合、ラットは新規物体(引用(cite))を探求することに多くの時間を費やすことを選択する。この課題は、異なる組の新規物体に連続して曝露することを同じ動物で繰り返して実施することができる。従って、物体認識は、これらの仮説を試験するための理想的な課題である。
【0100】
損傷前に、ラットは訓練の24時間後に物体認識記憶について5回の試行で訓練/試験された。全ての試行で、ラットは、以前に探求した物体の記憶を保持し、新規物体を好む傾向を示した(図3E)。後に薬物またはビヒクルを受ける群間での記憶動作の有意差はなかった(図3E)。従って、各群の全ての損傷前識別指標を平均化し、各群の損傷前ベースライン動作を得た(図3A)。又、群間で有意差はなかった(p=0.391)。試行5の完了時に、ラットは、LFPデバイスで損傷され、7日間回復させた。損傷後の第一ベースライン試行(図3B)で、両方の群は物体認識の長期記憶障害を示した。この第一ベースライン評価で群間の統計的有意差(p=.665)はなかった。従って、実験的脳損傷は物体認識の記憶障害となった。
【0101】
次に、PDE4インヒビターHT-0712が脳損傷ラットで物体認識の長期記憶を高めることができるかどうかが決定された。ラットはランダムに処置群に指定され、訓練セッションの20分前にビヒクルまたはHT-0712のいずれかを注射した。試験後に、HT-0712を受ける群は、新規物体を好む傾向を示し、ビヒクル群よりも有意に良好に実施された(p=0.001)(図3B)。つまり、単一投与のPDE4インヒビターHT-0712は脳損傷ラットで観察される長期記憶障害を改善することができた。
【0102】
次に、これらのラットは、長期記憶障害の他に機能不全短期記憶を有したかどうかが決定された。これを試験するために、両方の群(薬物なし)が短期(4時間)記憶保持のために訓練および試験された。両方の群は以前に探求した物体の保持を示し、訓練の4時間後に新規物体を好んだ(図3C)。群間で有意差はなかった(p=0.311)。従って、LFP損傷は物体認識のラット長期記憶を破壊したが、ラットが訓練の4時間後に正常に実施し得る時まで短期記憶に影響を及ぼさなかった。
【0103】
単一投与のHT-0712がラットの長期記憶動作を変化するかどうかを決定するために、動物に薬物またはビヒクル注射なしで二回目の訓練をした(図4A、0日目)。試験時に、ビヒクル群とHT-0712群との間に有意差はなかった(p=0.607)。このことは単一注射のHT-0712は試行で長期記憶を高めることができるが、単一薬物投与は動物物体認識記憶障害を改善しなかったことを示した。
【0104】
HT-0712を用いた薬物補助認知リハビリテーションが開始された。ラットには5試行のOR訓練/試験が与えられた。ラットに各訓練セッションの20分前にビヒクルまたはHT-0712のいずれかを投与した。リハビリ1日目(p=0.001)、2日目(p=0.001)、3日目(p=0.007)、および5日目(p=0.001)に、HT-0712群はビヒクル群よりも有意に良好に実施された。
【0105】
薬物補助認知リハビリテーション後の長期記憶機能の任意の改善を評価するために、ラットは薬物処置なしで訓練/試験された。HT-0712補助認知リハビリテーションを受けた群はビヒクル群よりも有意に良好に実施された(p=0.003)(図4B)。これによって、繰り返された認知リハビリテーション中に与えられたPDE4インヒビターHT-0712が脳損傷ラットで観察される物体認識の長期記憶障害を改善することができたことが示唆される。
【0106】
長期記憶障害の観察された改善がHT-0712の繰り返し投与の亜急性効果または真のリハビリ効果によるものかどうかが決定された。従って、ラットは1週間休息させて、薬物なしで長期記憶機能を評価した。又、PDE4補助認知リハビリテーションの効果が続き、HT-0712群はビヒクル処置群よりも良好に実施された(p=0.04)(図4C)。
【0107】
この効果が長く続くかどうかを決定するために、ラットは7週間休息させた。その後にラットが取り扱われ、ORアリーナに再び慣れさせた。再び慣れさせた後(リハビリ終了後8週)、ラットをOR動作について試験した。又、HT-0712補助リハビリテーションを受ける群は、ビヒクル処置群よりも有意に良好に実施された(p=0.012)(図5A)。この2つの結論から、第一にLFP脳損傷は物体認識課題の長期記憶の長く続く障害となること、第二にHT-0712補助認知リハビリテーションは物体認識課題のこれらの長期記憶障害を改善することができることが導かれ得る。
【0108】
このリハビリテーションが物体認識に特異的であったかまたはこれが他の海馬依存性課題に一般化されるかどうかを決定するために、ラットが痕跡恐怖条件付け課題での記憶動作について試験された。この海馬に依存する課題で、ラットは音(CS)とショック(US)を結びつけるように訓練される。30秒の「痕跡」間隔がCSとUSを隔て、これが海馬依存性課題となる(McEcheron et al., Hippocampus, 8(6):638-46, (1998))。訓練の1週間後にラットを試験した場合に、HT-0712補助認知リハビリテーションを受ける群はビヒクル群よりも有意に良好に実施された(p=0.012)(図5B)。これによって、HT-0712補助認知リハビリテーションは第二の海馬依存性課題に一般化されることが示唆される。
【0109】
認知リハビリテーションは、ある海馬依存性課題を別のものに一般化するために、PDE4補助リハビリテーションがリハビリ方法に特異的であるかまたはこれは複数様相の改善を一般化するかどうかが決定された。具体的に、PDE4補助運動リハビリテーションを受けた動物はまた非運動課題で改善した記憶動作を獲得するか?最後に、PDE4補助運動リハビリテーションの1週間後に、運動リハビリラットは、痕跡恐怖条件付け課題で訓練され、1週間後に試験された。いかなる運動リハビリテーション群間でも有意差はなかった(p=0.185)(図5C)。
【0110】
運動リハビリ動物と痕跡恐怖記憶の認知リハビリ動物との間の直接の統計比較を問題にすることができる。非常に高いCS前すくみ(データ示さず)が運動リハビリテーション群で観察された。千鳥状ステップ課題で動物を動機付けするように使用された不満足な強化訓練模範の結果として、動物は飼育ゲージでないどんな環境に対しても一般化され高められた恐怖を有することが可能である。すくみとして示され一般化された恐怖の増大が任意の処置効果を遮蔽する場合がある。
【0111】
本明細書で言及される全ての刊行物、特許および特許出願は、それぞれの各公開公報、特許または特許出願が参照によって具体的および個別に援用されるように同じ程度に参照によって本明細書に援用される。
【0112】
本発明はその好ましい態様を参照して具体的に示され記載されているが、添付の特許請求の範囲に包含される発明の範囲から逸脱することなく形式および詳細における種々の変化が行われ得ることが当業者によって理解される。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】図1は、物体認識(OR)試行の時間的経過である。試行は、1回の訓練セッションの後、24時間後に試験セッションからなった(STM試行のための4時間区間を除く)。損傷前、ラットに5回の試行を行ない、損傷前記憶スコアを評価した。次いで、TBIを与え、7日間回復させ、以下のようにしてORリハビリテーションを開始した。試行6 損傷後ベースライン(BS1)、試行7 薬物での訓練 (TD1)、試行8、短期記憶(STM)試験、訓練と試験の間は4時間で薬物なし、試行9 第2のベースライン(BS2)を確立、試行10〜14 薬物補助認知リハビリテーション(薬物は各訓練セッション前に与える)、試行15 最初のリハビリ後記憶評価(Ass1)訓練時は薬物なし、1週間の休息、試行16 2回目のリハビリ後記憶評価(Ass2)、5週間の休息、試行17 3回目のリハビリ後記憶評価(Ass3)、1週間の休息、痕跡条件付け訓練、1週間の休息、痕跡条件付け試験。
【図2A】図2は、千鳥状ステップにおける運動器官リハビリテーションを示す。損傷前、ラットを千鳥状ステップ課題上で基準動作に対して訓練した(A〜D、0日目)。すべてのラットに脳損傷を与え、7日間回復させた。ラットを、エラー(足の踏外し)の平均数(図2A & B)および千鳥状ステップ課題における潜伏時間(図2C & D)について試験した(1日目、ベースライン)。すべての群は、足の踏外しの数の有意な増加を有した(p<0.001)。毎日リハビリテーションおよびPDE4インヒビターロリプラム (n=11)およびHT-0712 (n=13)での治療を与えたラットは、リハビリテーションおよびビヒクル処理(n=11)を与えたラットよりも(then)足の踏外しが少なく(図2A)、潜伏時間が短かった(図C)。千鳥状ステップリハビリテーションなしでPDE4インヒビターHT-0712を投与したラットは、リハビリテーションなしのビヒクル処理動物よりも足の踏外しが少なく(図2B)、潜伏時間が短かった(図2D)(*=p<0.05)。
【図2B】図2は、千鳥状ステップにおける運動器官リハビリテーションを示す。損傷前、ラットを千鳥状ステップ課題上で基準動作に対して訓練した(A〜D、0日目)。すべてのラットに脳損傷を与え、7日間回復させた。ラットを、エラー(足の踏外し)の平均数(図2A & B)および千鳥状ステップ課題における潜伏時間(図2C & D)について試験した(1日目、ベースライン)。すべての群は、足の踏外しの数の有意な増加を有した(p<0.001)。毎日リハビリテーションおよびPDE4インヒビターロリプラム (n=11)およびHT-0712 (n=13)での治療を与えたラットは、リハビリテーションおよびビヒクル処理(n=11)を与えたラットよりも(then)足の踏外しが少なく(図2A)、潜伏時間が短かった(図C)。千鳥状ステップリハビリテーションなしでPDE4インヒビターHT-0712を投与したラットは、リハビリテーションなしのビヒクル処理動物よりも足の踏外しが少なく(図2B)、潜伏時間が短かった(図2D)(*=p<0.05)。
【図2C】図2は、千鳥状ステップにおける運動器官リハビリテーションを示す。損傷前、ラットを千鳥状ステップ課題上で基準動作に対して訓練した(A〜D、0日目)。すべてのラットに脳損傷を与え、7日間回復させた。ラットを、エラー(足の踏外し)の平均数(図2A & B)および千鳥状ステップ課題における潜伏時間(図2C & D)について試験した(1日目、ベースライン)。すべての群は、足の踏外しの数の有意な増加を有した(p<0.001)。毎日リハビリテーションおよびPDE4インヒビターロリプラム (n=11)およびHT-0712 (n=13)での治療を与えたラットは、リハビリテーションおよびビヒクル処理(n=11)を与えたラットよりも(then)足の踏外しが少なく(図2A)、潜伏時間が短かった(図C)。千鳥状ステップリハビリテーションなしでPDE4インヒビターHT-0712を投与したラットは、リハビリテーションなしのビヒクル処理動物よりも足の踏外しが少なく(図2B)、潜伏時間が短かった(図2D)(*=p<0.05)。
【図2D】図2は、千鳥状ステップにおける運動器官リハビリテーションを示す。損傷前、ラットを千鳥状ステップ課題上で基準動作に対して訓練した(A〜D、0日目)。すべてのラットに脳損傷を与え、7日間回復させた。ラットを、エラー(足の踏外し)の平均数(図2A & B)および千鳥状ステップ課題における潜伏時間(図2C & D)について試験した(1日目、ベースライン)。すべての群は、足の踏外しの数の有意な増加を有した(p<0.001)。毎日リハビリテーションおよびPDE4インヒビターロリプラム (n=11)およびHT-0712 (n=13)での治療を与えたラットは、リハビリテーションおよびビヒクル処理(n=11)を与えたラットよりも(then)足の踏外しが少なく(図2A)、潜伏時間が短かった(図C)。千鳥状ステップリハビリテーションなしでPDE4インヒビターHT-0712を投与したラットは、リハビリテーションなしのビヒクル処理動物よりも足の踏外しが少なく(図2B)、潜伏時間が短かった(図2D)(*=p<0.05)。
【図3A】図3は、物体認識動作(平均DI±S.E.M.)を示す。物体認識の1日間記憶保持は、長期記憶形成に依存する。ラットを損傷前に5回の試行で訓練した。各試行は、一対の同一の物体に対する7.5分間の訓練セッションおよび長期記憶保持を評価するための24時間後の試験セッションからなった。記憶保持を、識別指数として定量した(方法参照)。損傷前、ラットは、以前に探索した(古い)物体と新しい物体とを識別した。すべての損傷前試行を平均して単一の損傷前識別指数を得た(図3A)。後に薬物処置を受けるかビヒクル処理を受ける群間に記憶動作に有意差はなかった(図3A)。
【図3B】図3は、物体認識動作(平均DI±S.E.M.)を示す。脳損傷後および回復7日後、両方の群は、物体認識に関して長期記憶障害を有した(図3B)。物体認識について群間に有意差はなかった。したがって、脳損傷により、治療前、すべての群について物体認識に対する通常の24 時間記憶が破壊された(図3B)。
【図3C】図3は、物体認識動作(平均DI±S.E.M.)を示す。次の試行では、訓練20分前に、ラットに0.15mg/kgのHT-0712またはビヒクル(i.p.)のいずれかを与えた。HT-0712群は、新規な物体に対して優先性を示し、ビヒクル群よりも有意に高い識別指数(p<0.01)を有した(図3C)。
【図3D】図3は、物体認識動作(平均DI±S.E.M.)を示す。脳損傷によって短期記憶障害がもたらされるかどうかを調べるため、次の試行では、ラットを薬物治療なしで訓練し、標準的な24時間後の代わりに4時間後に試験した。両方の群は、新規な物体に対して優先性を示し、群間に有意差はなかった。したがって、本発明者らは、LFP脳損傷は、物体認識に対する記憶障害を24時間目では引き起こしたが、4時間目では引き起こさなかったと結論付けることができる。(*=p<0.05)。
【図3E】図3Eは、損傷前のラットにおける物体認識動作を示す。物体認識における1日間記憶保持は長期記憶形成に依存する。ラットを一対の同一の物体に対して7.5分間訓練し、次いで、24時間後、記憶保持について試験した。記憶保持を識別指数として定量した。この訓練および24時間後の記憶保持についての試験の反復を、損傷前に、5回の試行で繰返した。この損傷前訓練中、ラットは、まだ治療群に割り当てておらず、PDE4治療を受けていなかった。群間を比較した損傷前のスチューデントt検定では、いずれの試験日でも、物体認識動作において有意差は示されなかった(試行1、p=0.591;試行2、p=0.177;試行(Trail)3、p=0.911;試行4、p=0.755;試行5、p=0.780)。
【図4A】図4は、薬物補助認知リハビリテーション動作(平均DI±SEM)を示す。反復認知リハビリテーションの最初の日、ラットを、薬物またはビヒクル注射なしで2回目の試験をした(図4A、試行0)。この2回目のベースライン評価では、ビヒクル群とHT-0712群間に有意差はなかった。次いで、ラットに、HT-0712またはビヒクルを用いて、毎日薬物補助認知リハビリテーションを5回の試行で開始した(図4A、試行1〜5)。リハビリ試行1(p=0.001)、試行2(p=0.001)、試行3(p=0.007)、および試行5(p=0.001)において、HT-0712群は、ビヒクル群よりも有意に良好な動作を示した。
【図4B】図4は、薬物補助認知リハビリテーション動作(平均DI±SEM)を示す。薬物補助(assisted)リハビリによって、薬物なしで記憶動作が改善されたかどうかを評価するため、ラットを薬物治療なしで訓練/試験した。HT-0712補助認知リハビリテーションを受けた群は、ビヒクル群よりも(that)有意に良好な動作を示した(図4B)。
【図4C】図4は、薬物補助認知リハビリテーション動作(平均DI±SEM)を示す。この長期記憶障害の改善がHT-0712の反復投与の亜急性効果によるものかどうかを調べるため、再度薬物なしで長期記憶機能を試験する前にラットを1週間休息させた(図4C)。再度、PDE4補助認知リハビリテーションの効果が持続した。HT-0712群は、ビヒクル処置群よりも有意に良好な動作を示した(*=p<0.05)。
【図5A】図5は、認知リハビリテーションの長期持続性効果を示す。PDE4補助認知リハビリテーション後の記憶機能の改善が長期持続性であるかどうかを調べるため、ラットを、物体認識に対する動作についてリハビリテーション終了の8週間後に試験した(図5A)。PDE4補助リハビリ群は、ビヒクル処置群よりも有意に良好な動作を示した。
【図5B】図5は、認知リハビリテーションの長期持続性効果を示す。次いで、ラットを、痕跡恐怖条件付けの1週間記憶保持について試験した。再度、PDE4補助認知リハビリ群は、ビヒクル処置群よりも有意に良好な動作を示した(図5B)。(*=p<0.05)。改善された記憶機能は、別の海馬依存性記憶課題と解釈された。
【図5C】図5Cは、運動リハビリテーション動物における痕跡恐怖条件付けの記憶動作を示す。PDE4補助薬物リハビリテーション群における運動動作(運動記憶)の改善が運動動作に特異的であるかどうか、またはこれが、痕跡恐怖記憶の改善された認知動作と解釈されるかどうかを調べるため、運動リハビリテーション終了の1週間後に、ラットを痕跡恐怖記憶について訓練した。ラットを訓練の1週間後に痕跡恐怖記憶について試験した。PDE4群/リハビリテーション群/リハビリテーションなし群間いずれにおいても有意差はなかった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正式認知訓練の非存在下で、ホスホジエステラーゼ4(PDE4)インヒビターで動物を治療する工程を含む、動物の中枢神経系(CNS)障害または状態と関連する認知障害を改善する方法。
【請求項2】
前記動物がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記認知障害が精神遅滞である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記認知障害が記憶障害である、請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記記憶障害が加齢に関連する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記認知障害が神経変性疾患または状態と関連する、請求項2記載の方法。
【請求項7】
前記認知障害が精神疾患または状態と関連する、請求項2記載の方法。
【請求項8】
前記認知障害が外傷依存性の認知機能の低下と関連する、請求項2記載の方法。
【請求項9】
前記認知障害が遺伝的欠陥と関連する、請求項2記載の方法。
【請求項10】
前記認知障害が神経幹細胞操作で生じる、請求項2記載の方法。
【請求項11】
ホスホジエステラーゼ4(PDE4)インヒビターが、ロリプラムまたは
式I:
の化合物ならびにそのエナンチオマーおよび混合物から選択され、式中「Me」は「メチル」を表し、「cPent」は「シクロペンチル」を表す、請求項1記載の方法。
【請求項12】
ホスホジエステラーゼ4(PDE4)インヒビターが、構造:
を含み、式中「Me」は「メチル」を表し、「cPent」は「シクロペンチル」を表す、請求項11記載の方法。
【請求項13】
動物にホスホジエステラーゼ4(PDE)インヒビターを投与する工程、および持続した改善を検出する工程を含む、動物の中枢神経系(CNS)障害または状態と関連する認知障害における持続した改善を提供する方法。
【請求項14】
特定の認知課題の動作における改善を生じるのに十分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項15】
訓練のみで達成される前記認知課題の動作と比べて、動作の進歩が達成される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
訓練が複数訓練セッションを含む、請求項14記載の方法。
【請求項17】
前記ホスホジエステラーゼ4インヒビターが各訓練セッションの前およびその間に投与される、請求項14記載の方法。
【請求項18】
前記ホスホジエステラーゼ4インヒビターが各訓練セッションの後に投与される、請求項14記載の方法。
【請求項19】
正式認知訓練の非存在下で、ホスホジエステラーゼ4(PDE4)インヒビターで動物を治療する工程を含む、動物において、特定の神経回路を基礎とするような神経活動の刺激または神経活動のパターンを改善する方法。
【請求項20】
前記動物がヒトである、請求項19記載の方法。
【請求項21】
動物にホスホジエステラーゼ4(PDE4)インヒビターを投与する工程、および持続した改善を検出する工程を含む、動物において、特定の神経回路を基礎とするような神経活動の刺激または神経活動のパターンにおける持続した改善を提供する方法。
【請求項22】
動物における神経活動または神経活動のパターンを刺激または誘導するのに十分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記動物がヒトである、請求項22記載の方法。
【請求項24】
正式認知訓練の非存在下で、ホスホジエステラーゼ4(PDE4)インヒビターで動物を治療する工程を含む、動物の中枢神経系(CNS)障害または状態と関連する運動障害を改善する方法。
【請求項25】
前記動物がヒトである、請求項24記載の方法。
【請求項26】
ホスホジエステラーゼ4(PDE4)インヒビターが、ロリプラムまたは
式I:
の化合物ならびにそのエナンチオマーおよび混合物から選択され、式中「Me」は「メチル」を表し、「cPent」は「シクロペンチル」を表す、請求項24記載の方法。
【請求項27】
ホスホジエステラーゼ4(PDE4)インヒビターが、構造:
を含み、式中「Me」は「メチル」を表し、「cPent」は「シクロペンチル」を表す、請求項26記載の方法。
【請求項28】
動物にホスホジエステラーゼ4(PDE4)インヒビターを投与する工程、および持続した改善を検出する工程を含む、動物の中枢神経系(CNS)障害または状態と関連する運動障害における持続した改善を提供する方法。
【請求項29】
特定の認知課題の動作における改善を生じるのに十分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含む、請求項28記載の方法。
【請求項30】
訓練のみで達成される前記認知課題の動作と比べて、動作の進歩が達成される、請求項29記載の方法。
【請求項31】
訓練が複数訓練セッションを含む、請求項29記載の方法。
【請求項32】
前記ホスホジエステラーゼ4インヒビターが各訓練セッションの前およびその間に投与される、請求項29記載の方法。
【請求項33】
前記ホスホジエステラーゼ4インヒビターが各訓練セッションの後に投与される、請求項29記載の方法。
【請求項1】
正式認知訓練の非存在下で、ホスホジエステラーゼ4(PDE4)インヒビターで動物を治療する工程を含む、動物の中枢神経系(CNS)障害または状態と関連する認知障害を改善する方法。
【請求項2】
前記動物がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記認知障害が精神遅滞である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記認知障害が記憶障害である、請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記記憶障害が加齢に関連する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記認知障害が神経変性疾患または状態と関連する、請求項2記載の方法。
【請求項7】
前記認知障害が精神疾患または状態と関連する、請求項2記載の方法。
【請求項8】
前記認知障害が外傷依存性の認知機能の低下と関連する、請求項2記載の方法。
【請求項9】
前記認知障害が遺伝的欠陥と関連する、請求項2記載の方法。
【請求項10】
前記認知障害が神経幹細胞操作で生じる、請求項2記載の方法。
【請求項11】
ホスホジエステラーゼ4(PDE4)インヒビターが、ロリプラムまたは
式I:
の化合物ならびにそのエナンチオマーおよび混合物から選択され、式中「Me」は「メチル」を表し、「cPent」は「シクロペンチル」を表す、請求項1記載の方法。
【請求項12】
ホスホジエステラーゼ4(PDE4)インヒビターが、構造:
を含み、式中「Me」は「メチル」を表し、「cPent」は「シクロペンチル」を表す、請求項11記載の方法。
【請求項13】
動物にホスホジエステラーゼ4(PDE)インヒビターを投与する工程、および持続した改善を検出する工程を含む、動物の中枢神経系(CNS)障害または状態と関連する認知障害における持続した改善を提供する方法。
【請求項14】
特定の認知課題の動作における改善を生じるのに十分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項15】
訓練のみで達成される前記認知課題の動作と比べて、動作の進歩が達成される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
訓練が複数訓練セッションを含む、請求項14記載の方法。
【請求項17】
前記ホスホジエステラーゼ4インヒビターが各訓練セッションの前およびその間に投与される、請求項14記載の方法。
【請求項18】
前記ホスホジエステラーゼ4インヒビターが各訓練セッションの後に投与される、請求項14記載の方法。
【請求項19】
正式認知訓練の非存在下で、ホスホジエステラーゼ4(PDE4)インヒビターで動物を治療する工程を含む、動物において、特定の神経回路を基礎とするような神経活動の刺激または神経活動のパターンを改善する方法。
【請求項20】
前記動物がヒトである、請求項19記載の方法。
【請求項21】
動物にホスホジエステラーゼ4(PDE4)インヒビターを投与する工程、および持続した改善を検出する工程を含む、動物において、特定の神経回路を基礎とするような神経活動の刺激または神経活動のパターンにおける持続した改善を提供する方法。
【請求項22】
動物における神経活動または神経活動のパターンを刺激または誘導するのに十分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記動物がヒトである、請求項22記載の方法。
【請求項24】
正式認知訓練の非存在下で、ホスホジエステラーゼ4(PDE4)インヒビターで動物を治療する工程を含む、動物の中枢神経系(CNS)障害または状態と関連する運動障害を改善する方法。
【請求項25】
前記動物がヒトである、請求項24記載の方法。
【請求項26】
ホスホジエステラーゼ4(PDE4)インヒビターが、ロリプラムまたは
式I:
の化合物ならびにそのエナンチオマーおよび混合物から選択され、式中「Me」は「メチル」を表し、「cPent」は「シクロペンチル」を表す、請求項24記載の方法。
【請求項27】
ホスホジエステラーゼ4(PDE4)インヒビターが、構造:
を含み、式中「Me」は「メチル」を表し、「cPent」は「シクロペンチル」を表す、請求項26記載の方法。
【請求項28】
動物にホスホジエステラーゼ4(PDE4)インヒビターを投与する工程、および持続した改善を検出する工程を含む、動物の中枢神経系(CNS)障害または状態と関連する運動障害における持続した改善を提供する方法。
【請求項29】
特定の認知課題の動作における改善を生じるのに十分な条件下で動物を訓練する工程をさらに含む、請求項28記載の方法。
【請求項30】
訓練のみで達成される前記認知課題の動作と比べて、動作の進歩が達成される、請求項29記載の方法。
【請求項31】
訓練が複数訓練セッションを含む、請求項29記載の方法。
【請求項32】
前記ホスホジエステラーゼ4インヒビターが各訓練セッションの前およびその間に投与される、請求項29記載の方法。
【請求項33】
前記ホスホジエステラーゼ4インヒビターが各訓練セッションの後に投与される、請求項29記載の方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【公表番号】特表2009−537568(P2009−537568A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511250(P2009−511250)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/069279
【国際公開番号】WO2007/137181
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(508171860)ヘリコン セラピューティクス,インコーポレイテッド (8)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/069279
【国際公開番号】WO2007/137181
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(508171860)ヘリコン セラピューティクス,インコーポレイテッド (8)
【Fターム(参考)】
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