説明

誘導加熱調理器

【課題】わずかな鍋の載置位置の違い等により大きく調理結果が変わることを抑制した誘導加熱調理器を得るものである。
【解決手段】所定の空間を空け隣接して配置された複数の加熱コイル16a〜16eと、複数のインバーター回路6a〜6eと、加熱コイル16a〜16eに出力する電力またはインバーター回路6a〜6eに入力する電力を検出する電力検出手段と、インバーター回路6a〜6eの出力電流を検出する出力電流検出手段と、加熱コイル16a〜16e毎に検知する負荷検知手段と、負荷検知手段の検知結果によりインバーター回路6a〜6eから出力する電力または入力する電力を制御する制御手段とを備え、上方に負荷が載置されていることを検知した加熱コイル16a〜16eのみにインバーター回路6a〜6eから高周波電流を供給するとともに、負荷が所定の値より小さい場合には加熱コイル16a〜16eに供給する電力の最大値を制限する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の加熱コイルを備える誘導加熱調理器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の誘導加熱調理器においては、例えば、鍋などの調理容器が置載される天板と、天板下部に配置される複数の誘導加熱コイルと、この誘導加熱コイルに高周波電流を流し、調理容器を加熱する加熱制御部と、誘導加熱コイル毎に天板上に置載された鍋を検出する鍋検出手段を備え、加熱制御部は、鍋検出手段の検出結果にもとづいて鍋の置載されている位置に相当する誘導加熱コイルを特定し、この特定した誘導加熱コイルを駆動するものがあった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−99299号公報(請求項4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術によると、複数の誘導加熱コイルと、誘導加熱コイル毎に天板上に置載された鍋を検出する鍋検出手段を備え、加熱制御部が鍋検出手段の検出結果に基づいて鍋の置載されている位置に相当する誘導加熱コイルを特定して駆動するので、鍋の置載位置や鍋サイズに係らず効率の良い加熱が可能となる。
【0005】
しかし、各誘導加熱コイルを駆動するか否かは鍋検出手段の検出結果に基づき判断するのであるが、同一の鍋を置載した場合であっても、その誘導加熱コイル上方に位置する鍋底部分が小さい場合には当該誘導加熱コイルを駆動するか否か微妙となる。同じ鍋を使用した場合であって、わずかな載置位置の違いや鍋温度の違い等により、誘導加熱コイルの駆動・非駆動の状態が異なる場合がある。その結果、その鍋に入力可能な加熱電力が大きく変わり、使用者にとって同じ調理をする場合に同じ操作を行っても、焼けすぎたり、生焼けになったりと、その調理結果が異なってしまう場合があるという問題点があった。
【0006】
本発明は、前述の課題を解決するためになされたもので、わずかな鍋の載置位置の違い等により大きく調理結果が変わることを抑制した誘導加熱調理器を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題を解決する本発明に係る誘導加熱調理器は、被加熱物である調理容器を載置する天板と、天板の下方に配設され、一つの加熱口として所定の空間を空け隣接して配置された複数の加熱コイルと、複数の加熱コイルに高周波電流を供給する複数のインバーター回路と、複数のインバーター回路から複数の加熱コイルに出力する電力またはインバーター回路に入力する電力を検出する電力検出手段と、複数のインバーター回路の出力電流を検出する出力電流検出手段と、複数の加熱コイル毎にその上方に被加熱物である負荷が載置されていることを検知する負荷検知手段と、負荷検知手段の検知結果により複数のインバーター回路から出力する電力または複数のインバーター回路に入力する電力を制御する制御手段とを備え、負荷検知手段が複数の加熱コイルの内、上方に負荷が載置されていることを検知した加熱コイルのみにインバーター回路から高周波電流を供給するとともに、負荷検知手段が検知した負荷が所定の値より小さい場合には加熱コイルに供給する電力の最大値を制限するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、負荷検知手段が加熱コイル上方に負荷が載置されていることを検知した加熱コイルのみにインバーター回路から高周波電流を供給するとともに、負荷検知手段が検知した負荷が所定の値より小さい場合には加熱コイルに供給する電力の最大値を抑制するので、鍋のわずかな載置位置の違い等により、誘導加熱コイルの駆動・非駆動の状態が異なる場合があっても、当該誘導加熱コイルが駆動される場合の加熱電力が制限されるので非駆動時との加熱電力差を小さくすることができ、調理結果が大きく変わることを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の構成を示す天板を外した斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の一つの加熱口分の回路構成を示す図である。
【図3】(a)本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の加熱コイルと鍋の位置関係の一例を示す図、(b)本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の加熱コイルと鍋の位置関係の他の一例を示す図である。
【図4】(a)従来の誘導加熱調理器の加熱コイル負荷抵抗値と最大出力電力との関係例を示す図、(b)本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の加熱コイル負荷抵抗値と最大出力電力との関係例を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の制御手段における加熱制御処理を示すフローチャートである。
【図6】図5のフローチャートにおける初期負荷判別処理(ステップ2)の詳細を示すフローチャートである。
【図7】図5のフローチャートにおける目標電力設定処理(ステップ5及びステップ16)の詳細を示すフローチャートである。
【図8】各加熱コイルの出力電力分配例の説明図である。
【図9】本発明の実施の形態2に係る誘導加熱調理器の回路構成を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態3に係る誘導加熱調理器の他の回路構成を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態4に係る誘導加熱調理器の他の加熱コイル負荷抵抗値と最大出力電流との関係を示す図である。
【図12】(a)誘導加熱調理器の複数の加熱コイル配置の一例を示す図、(b)誘導加熱調理器の複数の加熱コイル配置の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1
(構成)
図1は、本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の構成を示す天板を外した斜視図である。図1により、誘導加熱調理器の構成を説明する。
【0011】
図1において、101は天板、102は本体筐体、16は加熱コイル、103は加熱コイル16に高周波電流を供給する回路、104は操作部、105は表示手段である。
【0012】
天板101は鍋などの被加熱物を載置するためのもので、例えば金属性の枠体(図示せず)を外周に設けた耐熱性ガラス等の非導電性の素材により構成されている。非導電性素材部分の裏面または表面に塗装または印刷等により鍋などの被加熱物の載置位置が表示された加熱口106が設けられている。
【0013】
本体筐体102は例えば金属性の上面が開口した箱体で、その内部に回路103、表示手段105、加熱コイル16を収納するようになっており、本体筐体102の上面開口を天板101で覆い、誘導加熱調理器201を構成している。
【0014】
回路103は後述の図2で説明する構成を有しており、加熱コイル16に高周波電流を供給する。加熱コイル16は、加熱口106ごとに所定の空間を空けて複数個隣接して配置されている。本実施の形態では一の加熱口を5個の加熱コイル16a〜16eで、16aを中心としてその外周に16b〜16eを配置するように構成している。
【0015】
なお、本実施の形態では加熱口を4つ設けた構成としているがこれに限定されるものではなく、加熱口は2つでも3つでもよく仕様に合わせて適宜選択可能である。
【0016】
操作部104は使用者が加熱に使う加熱口を選択したり、その加熱口の加熱出力を調整したりするためのものである。本実施の形態では操作部104は本体筐体102の前側に設けた構成としているがこれに限定されるものではなく、天板101に設けてもよい。
【0017】
表示手段105は液晶表示デバイスやLEDなどで構成された情報表示装置で、操作部104からの加熱口選択状況や加熱出力の調整状況などの情報を表示したり、誘導加熱調理器201の動作状態などに関する情報を表示したりする。
【0018】
図2は、実施の形態1に係る誘導加熱調理器の一つの加熱口分の回路構成を示す図である。図2により、誘導加熱調理器の一つの加熱口分の回路構成を説明する。
【0019】
誘導加熱調理器201は、商用電源1に接続されており、商用電源1から供給される交流電力は直流電源回路2で直流電力に変換される。図2に示すように直流電源回路2は、交流電力を整流する整流ダイオードブリッジ3と、後述する5つの同一構成のインバーター回路6a〜6eごとに設けられたリアクトル4a〜4eおよび平滑コンデンサ5a〜5eとにより構成され、加熱コイル16a〜16eごとに設けられたインバーター回路6a〜6eに直流電力を供給している。
【0020】
なお、図2ではインバーター回路6a〜6eの内、6cと6d及びその周辺構成につき他の6a、6b、6eと同一構成であるので記載を省略しているがあるものとして後述の説明をする。
【0021】
リアクトル4a〜4eと平滑コンデンサ5a〜5eは、それぞれのインバーター回路6a〜6eに供給する直流電力を平滑化するための平滑回路を構成しており、安定した直流電力を供給するためのものである。
【0022】
各インバーター回路6a〜6eは前述のように同一の構成で、それぞれ直流電源回路2の直流母線間に2個直列に接続されたスイッチング素子7a〜7eおよび8a〜8eと、スイッチング素子7a〜7eと逆並列に接続されたダイオード9a〜9eおよびスイッチング素子8a〜8eと逆並列に接続された10a〜10eとによって形成され、2個直列のスイッチング素子7a〜7eおよび8a〜8eが駆動回路11a〜11eにより高周波で交互にオン・オフ駆動され、その出力端と直流母線の一端との間に高周波電圧を発生する。
【0023】
これらインバーター回路6a〜6eの出力する高周波電圧は、出力電圧検出手段13a〜13eにより検出される。また、各インバーター回路6a〜6eの出力する電流は加熱コイル16a〜16eにも流れ、出力電流検出手段12a〜12eにより検出される。
【0024】
14a〜14eは、出力電圧検出手段13a〜13eで検出された出力電圧値と、出力電流検出手段12a〜12eで検出された出力電流値(加熱コイル電流値)を積算してインバーター回路6a〜6eの出力電力値を生成する出力電力検出手段である。
【0025】
各インバーター回路6a〜6eの出力端と直流電源回路2の低電位側母線との間に負荷回路15a〜15eが接続されている。負荷回路15a〜15eは加熱コイル16a〜16eと共振コンデンサ17a〜17eの直列回路と、共振コンデンサ17a〜17eと並列に接続されたクランプダイオード18a〜18eとで構成されている。
【0026】
クランプダイオード18a〜18eは、加熱コイル16a〜16eと共振コンデンサ17a〜17eの接続点電位を直流電源回路2の低電位側母線電位にクランプする。このクランプダイオード18a〜18eの働きにより、スイッチング素子8a〜8eが導通した状態では加熱コイル16a〜16eに流れる電流は転流しない。
【0027】
制御手段19は、各インバーター回路6a〜6eの駆動制御を行うものであり、各インバーター回路6a〜6eの出力電流、出力電力に基づき、駆動回路11a〜11eを制御する。
【0028】
負荷抵抗算出手段20は制御手段19内に設けられ、出力電力検出手段14a〜14eで検出された電力と、出力電流検出手段12a〜12eにより検出された電流から、各負荷回路15a〜15eの負荷抵抗値Ra〜Re(これ以降、一括して負荷抵抗値Rと記述する場合が有る)を算出するものであり、負荷検知手段を構成する。負荷抵抗値Ra〜Reは、Ra〜Re=(出力電力値)/(出力電流値)の計算式により求める。
【0029】
この負荷抵抗値Ra〜Reは、各加熱コイル16a〜16eに流れる高周波電流により発生した磁束がその各加熱コイル16a〜16e上方に載置された鍋底に鎖交して発生する誘導渦電流による損失(発熱)により増減し、加熱コイルに対向する鍋底が広いほど負荷抵抗値Ra〜Reは大きくなる。
【0030】
したがって、この負荷抵抗値Ra〜Reの値により、その各加熱コイル16a〜16e上方に載置されている負荷の有無や大きさを判断できる。そこで、各加熱コイル16a〜16e上に適正な負荷が載置されている状態と載置されていない状態とを判別する閾値R1を、載置された負荷が小さい負荷か通常の負荷であるかを判別する閾値R2をそれぞれ設定する。
【0031】
図3(a)は本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の加熱コイルと鍋の位置関係の一例を示す図、図3(b)本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の加熱コイルと鍋の位置関係の他の一例を示す図、図4(a)は従来の誘導加熱調理器の加熱コイル負荷抵抗値と最大出力電力との関係例を示す図、図4(b)は本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の加熱コイル負荷抵抗値と最大出力電力との関係例を示す図であり、これにより従来の誘導加熱調理器と本発明の誘導加熱調理器との最大出力電力設定の違いを説明する。
【0032】
ここでは加熱コイル上方に負荷が載置されているか否かを判別する閾値R1を例えば1.0Ω、負荷が小さい負荷か通常の負荷であるかを判別する閾値R2を2.0Ωと設定する。図3(a)では、負荷となる調理容器である小径鍋22が加熱口106の中心から少しずれた位置に載置された状態であり、図3(b)では、小径鍋22が図3(a)よりもさらに少し中心からずれた位置に載置された状態を示している。
【0033】
図3(a)、(b)のいずれの状態においても、加熱コイル16c、16d、16eの上方には小径鍋22は位置せず、これらの加熱コイルの負荷回路15c、15d、15eの負荷抵抗値Rは小さく、閾値R1未満となって無負荷と判断される。
【0034】
加熱コイル16aについては、小径鍋22の鍋底がその上方を覆っており、かかる場合に負荷抵抗算出手段20で算出される負荷抵抗値Raは閾値R1より大きい値となる。また、加熱コイル16bについては、小径鍋22の鍋底がその上方の一部を覆っている状態である。ここで、図3(a)の状態では各加熱コイルの負荷抵抗値が、Ra=4.0Ω、Rb=0.9Ω、Rc、Rd、Re<1.0Ω、図3(b)の状態では各加熱コイルの抵抗値が、Ra=4.0Ω、Rb=1.0Ω、Rc、Rd、Re<1.0Ωである場合を一例として解説する。
【0035】
従来の誘導加熱調理器として図4(a)では、インバーター回路6a〜6eに流すことが可能な最大出力電流が20Aである場合の負荷抵抗値と、当該インバーター回路の最大出力電力値の関係を示している。但し、負荷抵抗値1.0Ω未満については無負荷として加熱しない。そのため、負荷抵抗値1.0Ω付近ではわずかな負荷抵抗値、すなわち、わずかな鍋載置位置や鍋温度の違いにより400W(=1.0Ω×20A)もの加熱量の差が生じてしまうことがある。
【0036】
一方、図4(b)に示す本発明の誘導加熱調理器では、適正負荷が加熱コイルの上方に載置されているが、その大きさが小さい、すなわち、負荷抵抗値Rが通常負荷と判断される閾値R2より小さい場合(R1≦R<R2)に最大出力電力Wmaxを抑制するようにしたもので、例えば、閾値R2=2.0Ω、としてR≧2.0Ωの負荷に対し、Wmax=400×R[W]とし、1.0Ω≦R<2.0Ωの負荷に対し、Wmax=700×R−600[W]とすることで、R=1.0Ωの場合、Wmax=100Wという最大出力電力を設定となり、加熱量の差を小さく抑えることができる。
【0037】
(動作)
図5は本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の制御手段における加熱制御処理を示すフローチャート、図6は図5のフローチャートにおける初期負荷判別処理(ステップ2)の詳細を示すフローチャート、図7は図5のフローチャートにおける目標電力設定処理(ステップ5及びステップ16)の詳細を示すフローチャートである。
以下、これらのフローチャートを用いて、本実施の形態1における誘導加熱調理器の制御手段の動作について説明する。
【0038】
図5において、制御手段19は、操作部104からの火力設定等の加熱要求の有無を判断し(ステップ1)、加熱要求があった場合には加熱コイル16a〜16eの上方に加熱する鍋が載置されているか判断するため、初期負荷判別処理を実行する(ステップ2)。
【0039】
初期負荷検知処理(ステップ2)を図6により詳述すると、まず、加熱コイル16a用のインバーター回路6aの駆動回路11aを制御してインバーター回路6aを駆動し、内加熱コイル16aの負荷回路15aに所定の高周波電圧を印加する(ステップ2−1−1)。
【0040】
そして、出力電流検出手段12a、出力電力検出手段14aにより、加熱コイル16aの高周波電流と、インバーター回路6aから出力される高周波電力Wを検出し(ステップ2−1−2)、その電力値Wと出力電流値Iから負荷抵抗算出手段20が負荷抵抗値Ra(=W/I)を算出(ステップ2−1−3)し、その負荷抵抗値Raを判別する(ステップ2−1−4)。
【0041】
負荷抵抗値Raが閾値R1未満の場合には、適正負荷なしと判断して目標電力設定用の抵抗値を0とする(ステップ2−1−5)。負荷抵抗値RaがR1以上でR2未満の場合には負荷状態を小負荷とし、目標電力設定用の抵抗値をRaで設定する(ステップ2−1−6)。負荷抵抗値RがR2以上の場合には負荷状態を通常負荷とし、目標電力設定用の抵抗値をRaで設定する(ステップ2−1−7)。
【0042】
以上のフローにて、加熱コイル16aに係るインバーター初期負荷検知処理(ステップ2−1)を終了する。以下、同様にして加熱コイル16b〜16eについて、その加熱コイル上方に鍋が載置されているか否か、載置されている鍋(負荷)23の大きさはどのくらいか、判別する処理を行う(ステップ2−2〜2−5)。
【0043】
初期負荷検知終了後、上方に適正負荷が載置されている加熱コイルの有無を判断する(ステップ3)。いずれの加熱コイルの上方にも適正負荷が無い場合にはステップ1に戻る。加熱コイル16b〜16e何れかの上方に適正負荷がある場合には、その適正負荷がある加熱コイル、例えば16a、16bに電力を供給するインバーター回路6a、6bについて、その負荷抵抗値Ra、Rbから前述の算式 R≧2.0Ωの負荷に対し、Wmax=400×R[W]、1.0Ω≦R<2.0Ωの負荷に対し、Wmax=700×R−600[W]に基づき、上限電力Wamaxを設定する。
【0044】
次に、各加熱コイル16a〜16eの目標電力設定処理を行う(ステップ5)。目標電力設定処理(ステップ5)を図7により詳述すると、操作部104で設定された全体の加熱出力Wallを加熱コイル16a〜16eごとの目標電力に各加熱コイルの負荷抵抗値に基づいて分配する。
【0045】
まず、加熱コイル16aについて〔ステップ5−1〕、適性負荷があったかを判定し(ステップ5−1−1)、適性負荷がなかった場合には目標電力を0とする(ステップ5−1−2)。適正負荷があった場合には、加熱コイル16aの目標電力Waを全体の設定加熱電力と各負荷抵抗値Ra〜Reから、Wa=Wall×Ra/(Ra+Rb+Rc+Rd+Re)と設定し(ステップ5−1−3)、その設定した目標電力Waと上限電力Wamaxを比較し(ステップ5−1−4)、目標電力Waが上限電力を超えていた場合には目標電力Waを上限電力とする(ステップ5−1−5)。
【0046】
同様に、加熱コイル16b〜16eについて、それぞれ目標電力の設定処理を行う(ステップ5−2〜5−5)。なお、各加熱コイルの目標電力は、Wb=(Wall−Wa)×Rb/(Rb+Rc+Rd+Re)(ステップ5−2−3)、Wc=(Wall−(Wa+Wb))×Rc/(Rc+Rd+Re)(ステップ5−3−3)、Wd=(Wall−(Wa+Wb+Wc))×Rd/(Rd+Re)(ステップ5−4−3)、We=(Wall−(Wa+Wb+Wc+Wd))×Re/Re(ステップ5−5−3)と、設定するものとする。
【0047】
これは、出来る限り、設定加熱電力が全体として出力されるとともに、各加熱コイル16a〜16eの負荷抵抗値Ra〜Reに比例して出力がされるようにしたものである。
【0048】
各加熱コイル16a〜16eの目標電力の設定が完了すると、適正負荷を検出した加熱コイルのインバーター回路について駆動回路を制御してインバーター出力を開始し(ステップ6)、出力電流検出手段12a〜12eおよび出力電力検出手段14a〜14eにより各インバーター回路の出力電流および電力を検出する(ステップ7)。そして、加熱コイル16a〜16eごとにインバーター回路の出力制御処理を行う。
【0049】
加熱コイル16aの出力制御処理(ステップ8)では、まず、インバーター回路16aを駆動中か判断し(ステップ8−1)、駆動中でなければ処理を終了し、駆動中であれば加熱コイル16aを流れるインバーター回路6aの出力電流が過大か否か判断し(ステップ8−2)、過大でなければ加熱コイル16aの目標電力Waと検出電力Wを比較する(ステップ8−3)。
【0050】
その結果、加熱コイル16aの検出電力の方が目標電力より小さい場合にはインバーター回路6aの出力を増大させる制御を行い(ステップ8−4)、検出電力と目標電力が略同等であればインバーター回路6aの出力をそのまま維持する。
【0051】
ステップ8−2で加熱コイル16aの電流が過大であると判断した場合や、ステップ8−3で検出電力の方が目標電力より大きいと判断した場合には、インバーター回路6aの出力を減少させる制御を行う(ステップ8−5)。他の加熱コイル16b〜16eについても加熱コイル16aと同様にインバーター回路6b〜6eを制御する(ステップ9〜12)。
【0052】
次に、操作部104からの加熱停止の要求の有無を判断し(ステップ13)、加熱停止要求があった場合には駆動回路11a〜11eを制御して全てのインバーター回路6a〜6eの駆動を停止し(ステップ14)、ステップ1へ戻る。
【0053】
ステップ13で加熱停止要求が無かった場合には、設定火力変更要求の有無を判断し(ステップ15)、設定火力変更要求が無ければそのままステップ7へ戻り、設定火力変更要求があった場合には変更された設定火力に基づき各加熱コイルごとの目標電力を再設定して(ステップ16)、ステップ7へ移行する。なお、目標電力再設定処理(ステップ16)は、図7に示す目標電力設定処理(ステップ5)と同等の処理となっている。
【0054】
以上のような加熱制御処理を行うことにより、図3(a)、(b)に示した負荷である小径鍋22の載置状態(加熱コイル16aが適正負荷、加熱コイル16bが小負荷、加熱コイル16c〜16eが負荷無し、よって加熱コイル16c〜16eからの出力無し)における加熱コイル16a、16bからの出力電力を図8に示す。
【0055】
図8は各加熱コイルの出力電力分配例の説明図であり、図8(a)は図4(a)に示した従来の誘導加熱調理器の負荷抵抗値と最大加熱電力との関係に基づいた電力配分を示したものである。
【0056】
操作部104で設定された設定加熱電力が500W、1000W、2000Wの場合、設定加熱電力が500W、1000Wでは図3(a)、(b)に示すどちらの負荷である小径鍋22の載置状態において加熱口全体で、500W、1000Wの出力が可能であり差が無い。
【0057】
しかし、2000Wでは、図3(b)に示す負荷である小径鍋22の載置状態では2000W出力できるが、図3(a)に示す負荷となる調理容器である小径鍋22の載置状態では1600Wしか出力できず、400Wの差が生じる。したがって、個別の加熱コイルにおいて、適正鍋の有無が切り替わる閾値付近の負荷状態において、わずかな鍋の状態の違いにより被調理物の加熱不足や、加熱し過ぎが生じてしまうことがある。
【0058】
図8(b)は図4(b)に示した本発明の誘導加熱調理器の負荷抵抗値と最大出力電力の関係に基づき、各加熱コイルへの電力配分を行った場合の各加熱コイルの出力電力の例である。操作部104で設定された設定加熱電力が2000Wの場合、図3(a)の状態の加熱出力は1600W、図3(b)の状態の加熱出力は1700Wと、100Wの差に抑えられ、加熱出力の差を小さくできることで調理結果のばらつきを抑えることができるようになる。
【0059】
図8(c)は、図4(b)に示した本発明の誘導加熱調理器の負荷抵抗値と最大出力電力の関係から求まる各加熱コイルに出力可能な最大出力電力に比例して電力を分配した場合の電力分配例である。このように電力分配を行えば、低加熱電力から高加熱電力まで、鍋載置状態のわずかな違いによる加熱分布の違いを抑えて、調理結果のばらつきをさらに抑えることが出来る。
【0060】
なお、実施の形態1では、一つの加熱口に対する加熱コイルの数は5個のものを示したが、加熱コイルの数は5個に限らず、例えば図12(a)、(b)に示すように7個や9個であってもよく、仕様に応じて適宜設定可能である。
【0061】
実施の形態2
実施の形態1に係る誘導加熱調理器の直流電源回路2は、整流ダイオードブリッジが1つであり、各インバーター回路の出力電力を検出する出力電力検出手段を備えたものであったが、例えば図9に示すようにインバーター回路毎に整流ダイオードブリッジ25a〜25eを個別に有する直流電源回路26a〜26eを備え、その入力電流検出手段23a〜23eと入力電圧検出手段24a〜24eによりインバーター回路の入力電力値を検出する回路構成の誘導加熱調理器であってもよく、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0062】
実施の形態3
実施の形態1に係る誘導加熱調理器の図2および実施の形態2に係る誘導加熱調理器の図9に示した回路構成は、一つの加熱コイルに対し、一つのインバーター回路が対応しているものであったが、図10は一つのインバーター回路で直列に接続された複数の加熱コイルが駆動される回路構成例である。
【0063】
このような回路構成であっても、各インバーター回路の負荷回路の抵抗値により各インバーター回路を駆動するか否か判別し、負荷抵抗値が小さいインバーター回路の駆動を停止し、あるいは入力電力を低く制限すれば、わずかな負荷状態の違いによる当該インバーター回路の駆動の有無による被調理物の加熱状態の違いが抑制され、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0064】
なお、一つのインバーター回路に接続する加熱コイルは3個以上であってもよく、また、並列に接続された加熱コイルであってもよい。
【0065】
実施の形態4
実施の形態1では図4(b)に示すように加熱コイルの負荷抵抗値に応じて対応するインバーター回路から出力する電力を制限し、特に無負荷に近い小負荷である場合に出力可能な最大電力より低く抑制するようにしたが、図11に示すように小負荷状態である負荷抵抗値が低い場合に出力電流の最大値を低く制限することとしても、当該インバーター回路が出力する加熱電力は低く制限され、わずかな負荷状態の違いによる当該インバーター回路の駆動の有無による被調理物の加熱状態の違いが抑制され、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0066】
なお、各実施の形態において実施の形態1同様、一つの加熱口に対する加熱コイルの数は5個に限定されるものではなく、図12に示すように7個や9個であってもよく、仕様に応じて適宜設定可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 商用電源、2 直流電源回路、3 整流ダイオードブリッジ、4a〜4e リアクトル、5a〜5e 平滑コンデンサ、6a〜6e インバーター回路、7a〜7e スイッチング素子、8a〜8e スイッチング素子、9a〜9e ダイオード、10a〜10e ダイオード、11a〜11e 駆動回路、12a〜12e 出力電流検出手段、13a〜13e 出力電圧検出手段 14a〜14e 出力電力検出手段、15a〜15e 負荷回路、16a〜16e 加熱コイル、17a〜17e 共振コンデンサ、18a〜18e クランプダイオード、19 制御手段、20 負荷抵抗算出手段、22 小径鍋、23a〜23e 入力電流検出手段、24a〜24e 入力電圧検出手段、25a〜25e 整流ダイオードブリッジ、26a〜26e 直流電源回路、30a〜30g 加熱コイル、40a〜40i 加熱コイル、101 天板、102 本体筐体、103 回路、104 操作部、105 表示手段、201 誘導加熱調理器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物である調理容器を載置する天板と、
該天板の下方に配設され、一つの加熱口として所定の空間を空け隣接して配置された複数の加熱コイルと、
前記複数の加熱コイルに高周波電流を供給する複数のインバーター回路と、
前記複数のインバーター回路から前記複数の加熱コイルに出力する電力または前記インバーター回路に入力する電力を検出する電力検出手段と、
前記複数のインバーター回路の出力電流を検出する出力電流検出手段と、
前記複数の加熱コイル毎にその上方に被加熱物である負荷が載置されていることを検知する負荷検知手段と、
該負荷検知手段の検知結果により前記複数のインバーター回路から出力する電力または前記複数のインバーター回路に入力する電力を制御する制御手段と、を備え、
前記負荷検知手段が複数の前記加熱コイルの内、上方に負荷が載置されていることを検知した加熱コイルのみに前記インバーター回路から高周波電流を供給するとともに、前記負荷検知手段が検知した負荷が所定の値より小さい場合には前記加熱コイルに供給する電力の最大値を制限することを特徴とする誘導加熱調理器。
【請求項2】
被加熱物である調理容器を載置する天板と、
該天板の下方に配設され、一つの加熱口として所定の空間を空け隣接して配置した複数の加熱コイルと、
前記複数の加熱コイルに高周波電流を供給する複数のインバーター回路と、
複数の前記インバーター回路から複数の前記加熱コイルに出力する電力または前記インバーター回路に入力する電力を検出する電力検出手段と、
複数の前記インバーター回路の出力電流を検出する出力電流検出手段と、
複数の前記インバーター回路毎にその出力端に接続されている前記加熱コイルの上方に被加熱物である負荷が載置されていることを検知する負荷検知手段と、
該負荷検知手段の検知結果により前記複数のインバーター回路から出力する電力または前記複数のインバーター回路に入力する電力を制御する制御手段と、を備え、
前記負荷検知手段が複数の前記インバーター回路の内、前記加熱コイル上方に負荷が載置されていることを検知したインバーター回路のみを駆動するとともに、前記負荷検知手段が検知した負荷が小さい場合には前記インバーター回路の入力電力、または出力電力の最大値を制限することを特徴とする誘導加熱調理器。
【請求項3】
前記負荷検知手段は、前記電力検出手段が検出した前記インバーター回路の入力電力、または出力電力と、前記出力電流検出手段が検出した出力電流に基づき前記加熱コイル上方の負荷の有無および負荷の大きさを判別するものであり、負荷の有無および大きさを判別するための第1の閾値と、第1の閾値より大きい第2の閾値とが設けられており、
負荷の大きさが第1の閾値以上で第2の閾値未満の場合には、前記加熱コイルに接続した前記インバーター回路から高周波電流を供給するとともに、前記インバーター回路の入力電力、あるいは、出力電力の最大値を制限することを特徴とする請求項1または請求項2記載の誘導加熱調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−65499(P2013−65499A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204219(P2011−204219)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000176866)三菱電機ホーム機器株式会社 (1,201)
【Fターム(参考)】