説明

誘導溶解装置

【課題】設備費を安価に抑えた誘導溶解装置を提供すること。
【解決手段】誘導溶解装置1は、加熱溶解した金属材料6から金属材料6の凝固物23を形成する炉本体7を収容する溶解室2と、溶解室2の下部に設置され、炉本体7内から引き抜かれた凝固物23を収容する引抜チャンバー3と、引抜チャンバー3の下部に設置された引抜装置4と、溶解室2と引抜チャンバー3のそれぞれの空間を真空に保持するための真空ポンプ5とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧雰囲気下またはガス雰囲気下において誘導加熱により金属を溶解して、鋳塊を鋳造する誘導溶解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導溶解装置には、円形に巻回された誘導コイルの内側に、電気的に絶縁された2つ以上のセグメントをスリットを介して誘導コイルの周方向に並べて構成した炉本体(水冷金属るつぼ)と、炉本体の下部で凝固した凝固物(インゴット)を下方に引き抜く引抜装置(引抜駆動装置)とを有しているものがある。上記の誘導溶解装置では、炉本体と引抜装置とは真空容器内に設置されている。そして、凝固物が大気中の酸素と反応し、酸化するのを防止するために、真空容器内が真空下に保たれる(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−307390号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、炉本体及び引抜装置の全体を内部に設置するためには、著しく大きな容積の真空容器が必要となる。
そして、その真空容器内を真空下に保持するためには、大型の真空ポンプが必要となり、設備費が増大してしまう。
【0005】
本発明の主たる目的は、設備費を安価に抑えた誘導溶解装置を提供することである。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
本発明の誘導溶解装置は、誘導加熱溶解した金属材料から前記金属材料の凝固物を形成する炉本体を収容する空間を有する溶解室と、引抜装置により前記炉本体内から引き抜かれた凝固物を収容し、前記溶解室の空間と連通する空間を有する引抜チャンバーと、前記溶解室及び前記引抜チャンバーのそれぞれの空間を減圧雰囲気下またはガス雰囲気下に保持する保持手段とを備えている。
【0007】
これによると、減圧雰囲気下またはガス雰囲気下に保持すべき空間は、溶解室及び引抜チャンバーのそれぞれの空間だけとなる。したがって、溶解室及び引抜装置の全体を収容する真空容器内の空間を減圧雰囲気下等に保持する場合と比較し、減圧雰囲気下等に保持する空間の容積を減少させることができる。そのため、大型の真空ポンプは不要となり、減圧雰囲気下またはガス雰囲気下に保持するための設備費を安価にすることができる。
【0008】
また、このとき、本発明において、前記引抜チャンバーは、その内部の前記凝固物を冷却する冷却手段を備えていることが好ましい。これによると、凝固物からの輻射熱を防止するとともに、凝固物を冷却することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係る誘導溶解装置の構成図である。図1に示すように、誘導溶解装置1は、炉本体7を収容する溶解室2と、溶解室2の下部に設置された引抜チャンバー3と、引抜チャンバー3の下部に設置された引抜装置4と、溶解室2と引抜チャンバー3のそれぞれの空間を真空に保持するための真空ポンプ(保持手段)5とを備えている。
【0011】
まずは、溶解室2の構成について説明する。図2は、炉本体7の構成図である。図3は、炉本体7の上面図である。図1に示すように、溶解室2は、真空ポンプ5に接続された真空容器21を有している。真空容器21内には、加熱溶解される金属材料を収容する水冷銅製の炉本体7を収容している。炉本体7は、その底部を形成し、後述するスターティングブロック24を取り付ける底面部8と、その外周を形成する円周方向に配列された側面壁となる導電性セグメント10とを有している。なお、炉本体7の材質は、純銅や銅合金の他、電気抵抗率の低い金や銀または場合によってはステンレス等を用いることができる。
【0012】
図2に示すように、底面部8は、上面に台形状の切り欠きを有しており、その切り欠きに合う形状に加工されたスターティングブロック24が取り付けられている。スターティングブロック24は、金属材料と同質材料である。
【0013】
図3に示すように、側面壁となる縦割り状の複数の導電性セグメント10は円周方向に相互に絶縁して配列することにより形成されている。なお、絶縁は、導電性セグメント10・10間に絶縁物を介装したり、導電性セグメント10・10間を隔離したりすることによって行われている。
【0014】
側面壁を形成する導電性セグメント10は、冷却水が流動する冷却水路11を内部に有している。冷却水路11は、導電性セグメント10の上端部(側面壁の上端部)から下端部(側面壁の下端部)にかけて形成されている。また、冷却水路11は、外水路11a及び内水路11bにより構成されており、外水路11a及び内水路11bは上端部で連通している。外水路11aの下端部はパイプ33に接続され、図示しない冷却水供給装置に接続されている。また、内水路11bの下端部はパイプ34に接続され、冷却水供給装置に接続されている。したがって、冷却水供給装置から供給された冷却水はパイプ33を介して、外水路11aの下端部から供給され、上端部へと流動した後、内水路11bの上端部に流入し、下端部へと流動し、パイプ34を介して、冷却水供給装置へと循環している。循環した冷却水は、冷却水供給装置内に戻って冷却されて、再び冷却水として使用される。このように、冷却水路11内に冷却水を流動させることによって、導電性セグメント10を含む炉本体7を所定の温度(金属材料との反応温度)以下に冷却している。
【0015】
図2に示すように、導電性セグメント10により形成された側面壁の外周には、誘導加熱コイル12が設けられている。誘導加熱コイル12には、任意の周波数の交流電力を出力可能な図示しない電源装置が接続されている。電源装置は、誘導加熱コイル12に対して交流電力を供給して金属材料を誘導加熱する。
【0016】
金属材料は塊状をしており、鉄及び非鉄とその合金をはじめ、チタンの他、ジルコニウム、ハフニウム、クロム、ニオブ、タンタル、モリブデン、ウラン、希土類金属、トリウム、及びこれらの合金から選ばれる金属からなる反応性金属を用いることができる。
【0017】
真空容器21の空間と後述する引抜チャンバー3の空間とは、連通しており、真空容器21とともに高真空から大気圧まで任意の圧力に減圧可能な真空ポンプ5により真空に保たれている。なお、真空容器21及び引抜チャンバー3は、真空ポンプ5を用いて真空下に保たれるのではなく、ガス供給系などを用いてガス雰囲気下に保たれてもいてもよい。
【0018】
次に、引抜チャンバー3について説明する。図1に示すように、引抜チャンバー3は、円筒形状の側面壁13と、側面壁13の底部を形成する円形状の底面壁14とを備えている。側面壁13の上端は、真空容器21の下面に固定されている。すなわち、引抜チャンバー3の空間は、真空容器21の下面、側面壁13及び底面壁14により形成されている。
【0019】
底面壁14は、面中央に孔部22が形成されており、孔部22には、後述する引抜き部材28が嵌挿されている。そのため、孔部22から引抜チャンバー3内へ外部の空気が侵入することはない。
【0020】
側面壁13は、冷却水が流動する冷却水路25(冷却手段)を内部に有している。冷却水路25の下端部は、パイプ35に接続され、図示しない図冷却水供給装置に接続されている。また、冷却水路25の上端部は、パイプ36に接続され、冷却水供給装置に接続されている。したがって、冷却水供給装置から供給された冷却水はパイプ35を介して、冷却水路25の下端部から供給され、上端部へと流動した後、パイプ36を介して、冷却水供給装置へと循環している。この冷却水を流動させた冷却水路25は、引抜チャンバー3を冷却して、引き抜かれた後述する凝固物(スカル)23を冷却することができる。また、凝固物23から放射される熱を吸収し、凝固物23からの輻射熱を防止することができる。
【0021】
次に、引抜装置4について説明する。図1に示すように、引抜装置4は、上下方向に棒状に延びた2本のガイドバー15と、上下方向に棒状に延びた2本のボールネジ16と、昇降部材17と、円筒形状の引抜き部材28と、台車部19とを有している。昇降部材17の中央には、上方に延びた引抜き部材28が固定されており、引抜き部材28の上面は炉本体7の底面部8の下面に固定されている。また、昇降部材17は左右両端の2本のガイドバー15及び左右先端部よりも中央寄りの2本のボールネジ16によって上下方向に移動可能に規制されている。2本のガイドバー15及び2本のボールネジ16の下端は、台車部19の上面に固定されている。したがって、昇降部材17が上下方向に昇降することにより、昇降部材17に固定された引抜き部材28も上下方向に昇降する。
【0022】
引抜き部材28の内部には、2本の冷却パイプ18が備えられており、冷却水が流動している。冷却水が冷却パイプ18内を流動することにより、炉本体7の底面部8を下面から冷却している。
【0023】
上記の構成において、誘導溶解装置1の動作について説明する。まず、炉本体7の底面部8の上面に、スターティングブロック24が取り付けられる。そして、炉本体7に金属材料が投入される。
【0024】
冷却水供給装置により、冷却水路11に冷却水を流すことにより側面壁となる導電性セグメント10を冷却し、金属材料を溶解する準備を完了する。また、冷却水路25に冷却水を流すことにより引抜チャンバー3を冷却し、冷却パイプ18内に冷却水を流すことにより炉本体7の底面部8を下面から冷却する。
【0025】
そして、通電することにより、高周波の交流電力を誘導加熱コイル12に出力させる。誘導加熱コイル12に交流電力が供給されると、炉本体7内の金属材料が誘導加熱されることにより溶解する。このとき、スターティングブロック24の上部表面の一部も溶解する。スターティングブロック24の下部は、スターティングブロック24の取り付けられた底面部8が冷却水路26により冷却されているため溶解しない。そして、溶解した金属材料6と溶解したスターティングブロック24とが一体化される。また、炉本体7内の溶解した金属材料6の一部は導電性セグメント10により形成された側面壁の壁面に接触すると、側面壁である導電性セグメント10の冷却作用により金属材料6が再び凝固することによって、凝固物23が側面壁に沿って容器状に形成される。
【0026】
続いて、凝固物23を引き抜くために、昇降部材17が徐々に下降する。凝固物23は形成されながら引き抜かれる。すなわち、昇降部材17に固定された引抜き部材28と、引抜き部材28に固定された底面部8も下降する。そして、凝固物23は溶解室2の下部に設けられた引抜チャンバー3内に引き出され、冷却水路25により冷却された側面壁13によって冷却される。
【0027】
最後に、凝固物23を取り出すために、真空容器21の下部と固定された側面壁13を分離させる。すなわち、引抜チャンバー3を溶解室2から分離させる。引抜チャンバー3を下降させ、台車部19を移動することによって、引抜チャンバー3及び引抜装置4を移動させ、凝固物23を上面から取り出す。
【0028】
以上のように、本実施形態の誘導溶解装置1では、凝固物23が大気中の酸素と反応し、酸化するのを防止するために、真空下に保持すべき空間は、溶解室2及び引抜チャンバー3のそれぞれの空間だけとなる。したがって、溶解室2及び引抜装置4の全体を収容する真空容器内の空間を真空に保持する場合と比較し、真空下に保持する空間の容積を減少させることができる。そのため、真空下に保持するための設備費を安価にすることができる。
【0029】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、前述した実施形態では、引抜チャンバー3の側面壁13は、冷却水路25を内部に有しているが、冷却水路25を有していなくてもよい。また、側面壁13の冷却は冷却水を用いた水冷式であったが、クーリングフィンを設けて風をあてて冷却する空冷式でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係る誘導溶解装置の構成図である。
【図2】炉本体の構成図である。
【図3】炉本体の上面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 誘導溶解装置
2 溶解室
3 引抜チャンバー
4 引抜装置
5 真空ポンプ
6 金属材料
7 炉本体
13 側面壁
14 底面壁
21 真空容器
23 凝固物
25 冷却水路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導加熱溶解した金属材料から前記金属材料の凝固物を形成する炉本体を収容するための空間を有する溶解室と、
前記溶解室の空間と連通し且つ引抜装置により前記炉本体内から引き抜かれた凝固物を収容するための空間を有する引抜チャンバーと、
前記溶解室及び前記引抜チャンバーのそれぞれの空間を減圧雰囲気下またはガス雰囲気下に保持する保持手段とを備えていることを特徴とする誘導溶解装置。
【請求項2】
前記引抜チャンバーは、その内部の前記凝固物を冷却する冷却手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の誘導溶解装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−49358(P2008−49358A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226719(P2006−226719)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(000002059)神鋼電機株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】