説明

誘電体ペースト、キャパシタおよび基板

【要約書】
【課題】 高誘電率、低誘電正接かつ絶縁性に優れた誘電体ペースト、高誘電率かつ低誘電損失のキャパシタおよびこれを有する基板を提供する。
【解決手段】 バインダー樹脂と表面処理された導電性粉末とを含有してなる誘電体ペーストのより達成される。前記導電性粉末は、金属酸化物および/または炭素材料であることが好ましい。前記導電性粉末の表面処理は、該導電性粉末の微粒子にコーティング材料を接触させて行われるものである。前記コーティング材料は、絶縁樹脂またはカップリング剤である。前記誘電体ペーストよりなる誘電体と、導体より構成されるキャパシタ。また、前記キャパシタを内蔵する基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体ペースト、キャパシタおよび基板に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化や回路の高速化に対応するため、従来、電子基板に搭載されていたキャパシタは、高性能化され、電子基板に内蔵される構造となってきている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
キャパシタを電子基板に内蔵する方法としては、例えば、基板の電極上に高誘電体フィラーを含有した樹脂組成物をペーストとして印刷して誘電体層を形成し、その上にもう1つの電極を形成して内蔵する構造を得る方法がある。前記ペーストには高誘電率フィラーであるセラミックを用いられるのが一般的であるが、ペーストの誘電率は数十程度であるため、これにより得られるキャパシタの電気容量は数百pF程度であり、更に電気容量の高いキャパシタを得るためには誘電率がより大きな誘電体層が必要となる。樹脂組成物の誘電率を改善する方法としては、導電材料を添加する方法(例えば、特許文献2参照。)があり、これにより見かけの誘電率が著しく向上する。
【0004】
【特許文献1】特開2002−367858号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0006402号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記導電材料を添加する方法によりキャパシタを形成すると、キャパシタの絶縁性が損なわれ、tanδが大きくなる等の欠点があった。これを改良するために導電性フィラーの添加量を減少させる方法が考えられるが、誘電率の向上の効果が不十分になる傾向がある。
【0006】
tanδが損なわれる原因として最も大きな原因の一つに、導電性フィラーを添加したことにより絶縁性が低下したことが考えられる。tanδは抵抗とキャパシタンスの比と相関があることから、上記問題点を解決する方法として、誘電体層の抵抗値を上げ絶縁性を向上させることが有効な手段となる。このように誘電体層の誘電率を上げるためには絶縁性フィラーの添加が有効であるが、絶縁性フィラーを入れるとtanδが悪化するという排反事象が存在している。
【0007】
キャパシタの絶縁性を改良する手段としては、導電性フィラーを含む誘電体層の片側もしくは両側に薄い絶縁層を新たに作成し、更にその両側に電極を作成することでキャパシタを形成する方法が考えられるが、この方法では新たに形成した絶縁層自体も低いキャパシタとなり、導電性フィラーを含む誘電体層を有するキャパシタと直列につながる形となるため、該導電性フィラーを含む誘電体層の誘電特性を損なうことになり、全体としては電気容量の低いキャパシタとなる。
以上のように、導電性フィラーを含む樹脂組成物でキャパシタを形成することは事実上困難であった。
【0008】
本発明の目的は、高誘電率、低誘電正接かつ絶縁性に優れた誘電体ペーストを提供することである。
また、本発明の目的は、高誘電率かつ低誘電損失のキャパシタおよびこれを有する基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、下記(1)〜(15)項に記載の本発明により達成される。
(1) バインダー樹脂と表面処理された導電性粉末とを含有してなる誘電体ペースト。
(2) 前記導電性粉末は、金属酸化物および/または炭素材料である第(1)項に記載の誘電体ペースト。
(3) 前記導電性粉末の表面処理は、該導電性粉末の微粒子にコーティング材料を接触させて行われるものである第(1)項または第(2)項に記載の誘電体ペースト。
(4) 前記コーティング材料は、液体である第(3)項に記載の誘電体ペースト。
(5) 前記コーティング材料は、絶縁樹脂またはカップリング剤である第(3)項または第(4)項に記載の誘電体ペースト。
(6) 前記絶縁樹脂は、前記バインダー樹脂と同種のものである第(5)項に記載の誘電体ペースト。
(7) 前記カップリング剤は、アルミネート系カップリング剤である第(5)項または第(6)項に記載の誘電体ペースト。
(8) 前記導電性粉末の表面処理は、該導電性粉末を微粒子化しながらコーティング材料を接触させて行われるものである第(3)項乃至第(7)項のいずれかに記載の誘電体ペースト。
(9) 前記導電性粉末の微粒子は、5nm以上5μm以下の粒子径を有するものである第(3)項乃至第(8)項のいずれかに記載の誘電体ペースト。
(10) 前記導電性粉末は、1体積%〜25体積%含有する第(1)項乃至第(9)項のいずれかに記載の誘電体ペースト。
(11) 前記バインダー樹脂は、熱硬化性樹脂である第(1)項乃至第(10)項のいずれかに記載の誘電体ペースト。
(12) 前記バインダー樹脂は、環状オレフィン系樹脂である第(1)項乃至第(11)項のいずれかに記載の誘電体ペースト。
(13) 前記誘電体ペーストは、0.1Pa・s以上100Pa・s以下の粘度を有するものである第(1)項乃至第(12)項のいずれかに記載の誘電体ペースト。
(14) 前記誘電体ペーストは、硬化物として、1kHzの周波数において、50以上20,000以下の誘電率および0.001以上0.5以下の誘電正接を有するものである第(1)項乃至第(13)項のいずれかに記載の誘電体ペースト。
(15) 第(1)項乃至第(14)項のいずれかに記載の誘電体ペーストよりなる誘電体と、導体より構成されるキャパシタ。
(16) 第(15)項に記載のキャパシタを内蔵する基板。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高誘電率かつ絶縁性に優れた誘電体ペーストを得ることができる。
また、本発明によれば高誘電率かつ低誘電損失のキャパシタを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、バインダー樹脂と表面処理された導電性粉末とを含有してなる誘電体ペーストである。表面処理された導電性粉末を用いることにより、誘電体ペーストから得られる樹脂層は、絶縁性を低下することなく、高い誘電率で低い誘電正接が得られるものである。このような誘電体ペーストを用いて得られるキャパシタは、高誘電率かつ低誘電損失を有するものである。
【0012】
本発明の誘電体ペーストに用いるバインダー樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、熱可塑性および熱硬化性樹脂の混合物などをバインダー樹脂として用いることができる。
前記熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂およびビスフェノールAノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、およびレゾール型フェノール樹脂、等のフェノール樹脂;、ビスフェノールAエポキシ樹脂およびビスフェノールFエポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラックエポキシ樹脂およびクレゾールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、およびビスフェノールA−エピクロルヒドリン型エポキシ樹脂、等のエポキシ樹脂;、ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂等のトリアジン環を有する樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、シアネートエステル樹脂、メタクリロイル基を有する樹脂、が挙げられる。
これらの中でも、エポキシ樹脂やフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を主成分にすることが好ましい。これにより比較的低温でキャパシタを形成することが可能である。
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ABS樹脂、フッ素系樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルフィド、ポリエーテルサルフォン、ポリキノリン、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリテトラフルオロエチレン、液晶ポリマー、環状オレフィン系樹脂などが挙げられる。また、熱可塑性樹脂の側鎖または末端に、アルコキシ基などの置換基を有しても良いシリル基、(メタ)アクリル基やエポキシ基(グリシジルエーテル基)などを結合させ熱硬化性を付与してもよい。環状オレフィン系樹脂などは、誘電正接を下げることができ、耐湿性・耐熱性を向上することができる。
【0013】
前記誘電体ペーストは、前記環状オレフィン系樹脂において、側鎖に重合可能な官能基を有する環状オレフィン系樹脂を含むものが挙げられる。
前記環状オレフィン系樹脂を構成する環状オレフィンモノマーとしては、例えばシクロヘキセン、シクロオクテン等の単環体、ノルボルネン、ノルボルナジエン、ジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエン、テトラシクロドデセン、トリシクロペンタジエン、ジヒドロトリシクロペンタジエン、テトラシクロペンタジエン、ジヒドロテトラシクロペンタジエン等の多環体が挙げられる。これらのモノマーに官能基が結合した置換体も用いることができる。
【0014】
このような環状オレフィンモノマーの重合体には、例えば環状オレフィンモノマーの(共)重合体、環状オレフィンモノマ−とα−オレフィン類等の共重合可能な他のモノマ−との共重合体、およびこれらの共重合体の水素添加物等が挙げられる。これらの公知の重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体等が挙げられる。これら環状オレフィン系樹脂は、公知の重合法により製造することが可能であり、その重合方法には付加重合法と開環重合法とが挙げられる。このうち、ノルボルネン型モノマーを重合(特に、付加(共)重合)することによって得られたポリマーが好ましいが、本発明はなんらこれに限定されるものではない。
【0015】
環状オレフィン系樹脂の付加重合体としては、例えば(1)ノルボルネン型モノマーを付加(共)重合して得られるノルボルネン型モノマーの付加(共)重合体、(2)ノルボルネン型モノマーとエチレンやα−オレフィン類との付加共重合体、(3)ノルボルネン型モノマーと非共役ジエン、および必要に応じて他のモノマーとの付加共重合体が挙げられる。これらの樹脂は公知のすべての重合方法で得ることができる。
【0016】
このような環状オレフィン系樹脂の付加重合体は、金属触媒による配位重合またはラジカル重合によって得られる。このうち、配位重合においては、モノマーを、遷移金属触媒存在下、溶液中で重合することによってポリマーが得られる(NiCOLE R. GROVE et al. Journal of Polymer Science:part B,Polymer Physics, Vol.37, 3003−3010(1999))。
配位重合に用いる金属触媒として代表的なニッケルと白金触媒は、PCT WO 9733198とPCT WO 00/20472に述べられている。配位重合用金属触媒の例としては、(トルエン)ビス(パーフルオロフェニル)ニッケル、(メシレン)ビス(パーフルオロフェニル)ニッケル、(ベンゼン)ビス(パーフルオロフェニル)ニッケル、ビス(テトラヒドロ)ビス(パーフルオロフェニル)ニッケル、ビス(エチルアセテート)ビス(パーフルオロフェニル)ニッケル、ビス(ジオキサン)ビス(パーフルオロフェニル)ニッケル等の公知の金属触媒が挙げられる。
【0017】
また、ラジカル重合技術については、Encyclopedia of Polymer Science, John Wiley & Sons,13,708(1998)に述べられている。
一般的にはラジカル重合はラジカル開始剤の存在下、温度を50℃〜150℃に上げ、モノマーを溶液中で反応させる。ラジカル開始剤としてはアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル、アゾビスイソカプトロニトリル、アゾビスイソレロニトリル、t−ブチル過酸化水素等である。
【0018】
環状オレフィン系樹脂の開環重合体としては、例えば(4)ノルボルネン型モノマーの開環(共)重合体、および必要に応じて該(共)重合体を水素添加した樹脂、(5)ノルボルネン型モノマーとエチレンやα−オレフィン類との開環共重合体、および必要に応じて該(共)重合体を水素添加した樹脂、(6)ノルボルネン型モノマーと非共役ジエン、または他のモノマーとの開環共重合体、および必要に応じて該(共)重合体を水素添加した樹脂が挙げられる。これらの樹脂は公知のすべての重合方法で得ることができる。
【0019】
このような環状オレフィン系樹脂の開環重合体は、公知の開環重合法により、チタンやタングステン化合物を触媒として、少なくとも一種以上のノルボルネン型モノマ−を開環(共)重合して開環(共)重合体を製造し、次いで必要に応じて通常の水素添加方法により前記開環(共)重合体中の炭素−炭素二重結合を水素添加して熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂を製造することによって得られる。
【0020】
前記付加重合および開環重合に用いる重合溶媒としては、炭化水素や芳香族溶媒が挙げられる。炭化水素溶媒の例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、やシクロヘキサンなどであるがこれに限定されない。芳香族溶媒の例としては、ベンゼン、トルエン、キシレンやメシチレンなどであるがこれに限定されない。ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチルアセテート、エステル、ラクトン、ケトン、アミドも使用できる。これら溶剤を単独や混合しても重合溶媒として使用できる。
【0021】
本発明の環状オレフィン系樹脂の分子量は、開始剤とモノマーの比を変えたり、重合時間を変えたりすることにより制御することができる。上記の配位重合が用いられる場合、米国特許No.6,136,499に開示されるように、分子量を連鎖移動触媒の使用により制御することができる。この発明においては、エチレン、プロピレン、1−ヘキサン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテン、などα−オレフィンが分子量制御するのに適当である。
【0022】
前記環状オレフィン系樹脂は、側鎖に重合可能な官能基を有しているものを用いることができ、これにより、前記誘電体ペーストから樹脂層を形成した場合に基材との密着性や耐熱性などの特性を向上することができる。
前記官能基としては、例えばヒドロキシル基、カルボキシル基、エステル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、シリル基、エポキシ基(グリシジルエーテル基)等が挙げられる。前記側鎖に重合可能な官能基を有している環状オレフィン系樹脂は、下記に記載の側鎖に重合可能な官能基を有する環状オレフィンモノマーの重合体、またはそれと他の環状オレフィンモノマーとの共重合体であっても良い。
前記側鎖に重合可能な官能基を有する環状オレフィンとしては、具体的に5−ノルボルネン−2−メタノール、酢酸5−ノルボルネン−2−メチルエステル、プロピオン酸5−ノルボルネン−2−メチルエステル、酪酸5−ノルボルネン−2−メチルエステル、吉草酸5−ノルボルネン−2−メチルエステル、カプロン酸5−ノルボルネン−2−メチルエステル、カプリル酸5−ノルボルネン−2−メチルエステル、カプリン酸5−ノルボルネン−2−メチルエステル、ラウリン酸5−ノルボルネン−2−メチルエステル、ステアリン酸5−ノルボルネン−2−メチルエステル、オレイン酸5−ノルボルネン−2−メチルエステル、リノレン酸5−ノルボルネン−2−メチルエステル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸、5−ノルボルネン−2−カルボン酸メチルエステル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸エチルエステル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸t−ブチルエステル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸i−ブチルエステル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸トリメチルシリルエステル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸トリエチルシリルエステル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸イソボニルエステル、5−ノルボルネン−2−カルボン酸2−ヒドロキシエチルエステル、5−ノルボルネン−2−メチル−2−カルボン酸メチルエステル、ケイ皮酸5−ノルボルネン−2−メチルエステル、5−ノルボルネン−2−メチルエチルカルボネ−ト、5−ノルボルネン−2−メチルn−ブチルカルボネ−ト、5−ノルボルネン−2−メチルt−ブチルカルボネ−ト、5−メトキシ−2−ノルボルネン、(メタ)アクリル酸5−ノルボルネン−2−メチルエステル、(メタ)アクリル酸5−ノルボルネン−2−エチルエステル、(メタ)アクリル酸5−ノルボルネン−2−n−ブチルエステル、(メタ)アクリル酸5−ノルボルネン−2−n−プロピルエステル、(メタ)アクリル酸5−ノルボルネン−2−i−ブチルエステル、(メタ)アクリル酸5−ノルボルネン−2−i−プロピルエステル、(メタ)アクリル酸5−ノルボルネン−2−ヘキシルエステル、(メタ)アクリル酸5−ノルボルネン−2−オクチルエステル、(メタ)アクリル酸5−ノルボルネン−2−デシルエステル、5−トリメトキシシリル−2−ノルボルネン、5−トリエトキシシリル−2−ノルボルネン、5−(2−トリメトキシシリルエチル)−2−ノルボルネン、5−(2−トリエトキシシリルエチル)−2−ノルボルネン、5−(3−トリメトキシプロピル)−2−ノルボルネン、5−(4−トリメトキシブチル)−2−ノルボルネン、5−トリメチルシリルメチルエーテル−2−ノルボルネン、5−メチルグリシジルエーテル−2−ノルボルネンなどが挙げられる。これらの環状オレフィンモノマーを重合した付加重合体、およびこれらの環状オレフィンモノマーと他の環状オレフィンモノマーとの付加共重合体が最も好ましい。これにより、より耐熱性に優れることができる。
【0023】
前記重合可能な官能基の置換量は、特に限定されないが、前記環状オレフィン系樹脂全体の3〜70モル%が好ましく、特に5〜40モル%が好ましい。置換量が前記範囲内であると、特に誘電率に優れる。また、このような側鎖に重合可能な官能基を有する環状オレフィン系樹脂は、例えば1)前記環状オレフィン系樹脂に重合開始可能な官能基を有する化合物を変性反応により導入することによって、2)重合開始可能な官能基を有する単量体を重合することによって、3)重合開始可能な官能基を有する単量体を共重合体成分として他の成分と共重合することによって、または4)エステル基等の重合可能な官能基を有する単量体を共重合成分として共重合した後、エステル基を加水分解することによって得ることができる。
【0024】
さらに、環状オレフィンモノマーと共重合可能な不飽和モノマーとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等の炭素数2〜20のエチレン又はα−オレフィン、1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン等の非共役ジエン等が挙げられる。
【0025】
次に、ノルボルネン系樹脂の付加(共)重合体について説明する。
前記側鎖に重合可能な官能基を有しているノルボルネン系樹脂は、具体的には下記式(1)で表される繰り返し単位を有していることが好ましい。
【0026】
【化1】

式(1)中のXは、それぞれ独立して−CH−、−CHCH−または−O−を示す。R〜Rは、それぞれ独立して水素、または、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エステル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、シリル基、エポキシ基およびこれらの官能基を含む有機基から選ばれた1種以上の基を示し、少なくとも1つは官能基または該官能基を含む有機基を示す。nは0〜5の整数を示し、その繰り返しは異なっていても良い。
【0027】
また、前記側鎖に重合可能な官能基を有しているノルボルネン系樹脂は、さらに側鎖に重合可能な官能基を有するノルボルネン型モノマーと、下記式(2)で表されるモノマーとの付加共重合体であることが好ましい。これにより、密着性と電気特性とのバランスが特に優れる樹脂層を得ることができる。
【0028】
【化2】

式(2)中のXは、それぞれ独立して−CH−、−CHCH−または−O−を示す。R〜Rは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐したアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ビニル基、アリル基、アラルキル基、環状脂肪族基またはアリール基から選ばれた1種以上の置換基を示す。nは0〜5の整数を示し、その繰り返しは異なっていても良い。
【0029】
前記アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等が挙げられ、アルケニル基の具体例としては、ビニル基、アリル基、ブチニル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、アルキニル基の具体例としては、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基等が挙げられ、アリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられ、アラルキル基の具体例としてはベンジル基、フェネチル基等が挙げられるが、本発明は何らこれらに限定されない。
【0030】
前記環状オレフィン系樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、1,000〜1,000,000が好ましく、特に5,000〜500,000が好ましく、最も10,000〜250,000が好ましい。重量平均分子量(Mw)が前記範囲内であると、耐熱性、成形物表面の平滑性等がバランスに優れる。
前記重量平均分子量は、例えばシクロヘキサン又はトルエンを有機溶剤とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算で評価することができる。
【0031】
前記環状オレフィン系樹脂の分子量分布[重量平均分子量:Mwと、数平均分子量:Mnとの比(Mw/Mn)]は、特に限定されないが、5以下が好ましく、特に4以下が好ましく、特に1〜3が好ましい。分子量分布が前記範囲内であると、電気特性に特に優れる。
前記分子量分布を測定する方法としては、例えばシクロヘキサンまたはトルエンを有機溶剤とするGPCで測定することができる。
また、上記方法で重量平均分子量や分子量分布が測定できない環状オレフィン系樹脂の場合には、通常の溶融加工法により樹脂層を形成し得る程度の溶融粘度や重合度を有するものを使用することができる。前記環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択できるが、通常50℃以上、好ましくは70℃以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは125℃以上である。
前記一般式(1)で表される構造を有する付加型のポリノルボルネンにおいて、置換基R、R、R、およびRは、目的に応じて、その置換基の種類と該置換基を有する繰り返し単位の割合を調整することにより、特性を好ましいものとすることができる。例えば、前記一般式(1)において、Xは−CH−とし、RおよびRは水素とし、nは0の場合、RおよびRとして、例えば、前記アルキル基を導入した場合、可とう性に優れるポリノルボルネン樹脂フィルムを得ることができるので好ましい。また、トリメトキシシリル基、またはトリエトキシシリル基を導入した場合、銅などの金属との密着性が向上するので好ましい。ただし、トリエトキシシリル基、トリメトキシシリル基の割合が多い場合、ポリノルボルネン樹脂の誘電正接が大きくなることがあるため、トリエトキシシリル基および/またはトリメトキシシリル基を有するノルボルネンの繰り返し単位は、一般式(1)で表されるノルボルネン1分子において、5〜80mol%の範囲にすることが好ましい。さらに好ましくは5〜50mol%である。
【0032】
中でも、特に、可とう性、密着性および誘電特性が良好な樹脂フィルムを得る上で、一般式(1)において、n−ブチル基を有するノルボルネン90mol%とトリエトシキシシリル基を有するノルボルネン10mol%からなるポリノルボルネン、未置換(置換基が水素原子)ノルボルネン90mol%とトリエトシシリル基を有するノルボルネン10mol%からなるポリノルボルネン、および未置換ノルボルネン75mol%とn−ヘキシル基を有するノルボルネン25mol%からなるポリノルボルネンが好ましい。
【0033】
また、前記側鎖にトリエトキシシリル基、トリメトキシシリル基の替わりにエポキシ基をエポキシ基を有するノルボルネン5〜95モル%、好ましくは、20〜80モル%、さらに好ましくは30〜70%の割合で使用する場合、基材との密着性を向上することができる。
【0034】
前記バインダー樹脂の含有量は、特に限定されないが、前記樹脂組成物全体の20〜99体積%が好ましく、特に40〜70体積%が好ましい。含有量が前記範囲内であると、特に熱硬化後の電極との密着性が向上する。
【0035】
本発明の誘電体ペーストに用いる導電性粉末としては、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸亜鉛、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ビスマス、チタン酸マグネシウム、チタン酸ネオジウムおよびチタン酸カルシウム等の金属酸化物粉末や、金、銀、銅、錫、白金、パラジウム、ルテニウム、鉄、ニッケル、コバルト、ゲルマニウム、シリコン、亜鉛、チタン、マグネシウムおよびアルミニウム等の金属粉末や、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、カーボンブラック、人造黒鉛、天然黒鉛およびフラーレンなどの炭素材料粉末等を挙げることができる。
これらの中でも、チタン酸バリウム、カーボンブラック、グラファイトの中から選ばれる1種以上が好ましい。これにより、高い誘電率と低いtanδを両立させることができる。
上記導電性粉末は、微粒子であることが好ましく、表面処理に供される粒子径が5nm以上5μm以下であることが、より好ましい。
また、上記導電性粉末の平均粒径は、キャパシタにおける誘電層の厚みの20%以下であることが好ましく、特に10%以下が好ましい。平均粒径が上記範囲内であると、キャパシタの製造におけるペースト印刷後の誘電層の表面平滑性・印刷性および電気絶縁性に優れる。
【0036】
本発明の誘電体ペーストにおいて、導電性粉末の表明処理に用いるコーティング材料としては、例えば、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂、ポリイミド樹脂およびポリアミド樹脂などの熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂などの絶縁樹脂や、ジメチルシリコーンオイル、脂肪酸変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、シリコーンポリエステル、シリコーンエポキシ、シリコーンアクリル、シリコーンウレタンおよびシリコーンアルキッドなどのシリコーン類や、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤およびアルミネート系カップリング剤などのカップリング剤や、高分子タイプ湿潤分散剤などの表面処理剤等が挙げられる。
【0037】
本発明で用いられる表面処理された導電性粉末において、導電性粉末は、導電性の高い金属酸化物や炭素材が好ましく、これらの導電性粉末を用いることにより見かけ上非常に大きな静電容量を有するキャパシタを作製することができる。しかし、ただ単にバインダー樹脂に導電性粉末を添加するだけでは、通電してしまい、誘電体として機能しなくなるため、前記導電性粉末をコーティング材料で表面処理することにより導電性粉末同士の接触部分をなくして絶縁性を確保することができる。このコーティング材料は、前記バインダー樹脂と同種であることあるいはアルミネート系カップリング剤であることが好ましい。これらの処理剤を用いることによって、導電性粉末が凝集することなくバインダー樹脂に分散し、低い誘電正接を有するキャパシタを作成することができる。
【0038】
本発明における導電性粉末の表面処理方法としては、前記導電性粉末の表面に、前記コーティング材料を、均一に付着・被覆させることができる方法であれば限定されないが、導電性粉末とコーティング材料とを接触させることができる方法で、例えば、導電性粉末を液状のコーティング材料に混合して分散させる方法などの固体−液体混合方法、噴霧状態の導電性粉末の表面に液状のコーティング材料を噴霧して付着させる方法などの固−液噴霧接触方法などが挙げられる。これらの中でも、導電性粉末の上面に均一に付着させる上で噴霧状態の導電性粉末の表面に液状のコーティング材料を噴霧して付着させる方法が好ましい。表面処理における導電性粉末は、粉末を装置内に均一に噴霧させる上で、上記粒子の大きさであることが好ましく、これが二次凝集を生じる場合は、該導電性粉末を微粒子化しながらコーティング材料を接触させて表面処理を行うことがより好ましい。
【0039】
上記導電性粉末の表面処理におけるコーティング材料の付着厚みとしては、3nm以上3μm以下であることが好ましく、特に20nm以上1μm以下であることが好ましい。絶縁被膜が上記範囲内であると、特に電気絶縁性に優れたキャパシタを得ることができる。
【0040】
前記導電性粉末の含有量としては、一般的には1体積%以上、50体積%以下であることが好ましく、1体積%以上、25体積%であることが本発明の目的を達成する上でより好ましい。
【0041】
本発明の誘電体ペーストには上記成分以外に、前記バインダー樹脂の硬化剤、硬化促進剤、希釈剤などを必要に応じて添加することができる。
前記熱硬化性樹脂において、その硬化剤としては、例えば、エポキシ樹脂を用いる場合、フェノール樹脂系硬化剤、ポリアミン系硬化剤、ポリカルボン酸系硬化剤等を使用することができる。具体的には、フェノール樹脂系硬化剤としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールノボラック樹脂、ポリp−ビニルフェノール等があげられ、ポリアミン系硬化剤としてはジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジシアンジアミド、ポリアミドアミン(ポリアミド樹脂)、ケチミン化合物、イソホロンジアミン、m−キシレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、N-アミノエチルピペラジン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチルジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン等があげられ、ポリカルボン酸系硬化剤としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、3,6−エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサクロルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6−エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸があげられる。
これらの中でもフェノール樹脂系硬化剤を使用することが好ましい。これにより誘電率および誘電損失特性の良いキャパシタを得ることができる。
【0042】
前記硬化剤の含有量は、特に限定されないが、熱硬化性樹脂の官能基1当量に対して硬化剤の活性水素を有する官能基が0.3〜1.5当量の範囲であるのが好ましく、特に0.5〜1.2当量の範囲であるのが好ましい。
含有量が前記範囲内であると、特に熱硬化後、誘電率と誘電損失特性に優れたキャパシタを得ることができる。
【0043】
前記希釈剤としては、例えば、メチルエチルケトンおよびシクロヘキサノンなどのケトン類、トルエンおよびキシレンなどの芳香族炭化水素類、メタノール、イソプロパノールおよびシクロヘキサノールなどのアルコール類、シクロヘキサンおよびメチルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素、石油エーテルおよび石油ナフサなどの石油系溶剤、セロソルブおよびブチルセロソルブなどのセロソルブ類、カルビトール、メチルカルビトールおよびブチルカルビトールなどのカルビトール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテートおよびブチルカルビトールアセテートなどの酢酸エステル類などを挙げることができる。
これらの中でも、カルビトール類、酢酸エステル類の中から選ばれる1種以上が好ましい。これにより、キャパシタの表面平滑性を向上することができる。
【0044】
前記希釈剤の含有量は、特に限定されないが、前記樹脂組成物全体の1体積%〜80体積%が好ましく、特に20〜60体積%が好ましい。含有量が前記範囲内であると、特に表面平滑性に優れたキャパシタを得ることができる。
【0045】
前記硬化促進剤としては、例えば、エポキシ樹脂を用いる場合、1,8−ジアザ−ビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの三級アミン類;2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾールなどのイミダゾール類;トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類;テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、2−エチル−4−メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N−メチルモルホリン・テトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン塩などをあげることができる。
【0046】
前記硬化促進剤の含有量は、特に限定されないが、前記樹脂組成物全体の0.01体積%〜5体積%が好ましく、特に0.1〜2体積%が好ましい。含有量が前記範囲内であると、硬化後の樹脂強度および耐電圧特性に優れたキャパシタを得ることができる。
【0047】
また、前記環状オレフィン系樹脂においては、重合開始剤を含むことができ、これにより、側鎖に重合可能な環状オレフィン系樹脂を架橋反応させることができる。
前記重合開始剤としては、加熱により重合を開始する重合開始剤、光により重合を開始する重合開始剤、熱および光のいずれでも重合を開始する重合開始剤が挙げられる。これらの中でも加熱により重合を開始する重合開始剤が好ましい。
【0048】
このような重合開始剤としては、例えば過酸化ジベンゾイル、過酸化ラウロイル、クミルパーオキサイド、過硫酸カリウムおよび過酸化水素等の過酸化物、アゾビス(イソブチロニトリル)およびアゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物等の公知な熱ラジカル重合開始剤等を使用することができる。また、光により重合を開始する重合開始剤としては、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2、4、4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2、4、6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム等が挙げられる。また、熱および光のいずれでも重合を開始する重合開始剤としては、トリアリールスルフォニウム塩、ジアリ−ルヨードニウム塩、スルフォン酸塩エステル、ハロゲン化物等が挙げられる。
【0049】
前記重合開始剤の含有量は、特に限定されないが、前記環状オレフィン系樹脂100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましく、特に0.5〜5重量部が好ましい。含有量が前記範囲内であると、特に耐熱性に優れる。
なお、重合開始温度を調整するために、前記重合開始剤を複数種混合して用いることも可能である。
【0050】
本発明の誘電体ペーストには、さらに、キャパシタを作製した際の表面平滑性を向上させるために種々レベリング剤や導電性粉末の分散性を向上させるための種々分散剤や硬化後の可とう性をあげるための種々エラストマーなどの添加剤を添加してもよい。
【0051】
本発明の誘電体ペーストの製造方法としては、例えば、表面処理された導電性粉末以外の上記各種成分および適当な量の希釈剤を混合容器に入れ均一なワニスになるまで十分にかき混ぜて、次いで、表面処理された導電性粉末を加えて、これを混合し樹脂組成物として、該樹脂組成物を3本ロールなどの混練機を用いて混練してペーストとして得る方法が挙げられるが、この方法に限定されない。前記混練方法において、その他の混練機としてはボールミル・振動ミル・ブレード高速回転式ミキサー・多軸回転式ミキサーなどの高せん断力が挙げられる。
【0052】
ここで得られる誘電体ペーストとしては、粘度が0.1Pa・sから100Pa・sであることが好ましく、これにより、誘電体層を作製する際に、種々の方法を用いることができる。本発明における粘度としては、E型粘度計で測定する、通常のズリ粘度で測定することができる。
また、上記誘電体ペーストは、硬化物として、1kHzの周波数において、50以上20,000以下の誘電率および0.001以上0.5以下の誘電正接を有するものであることが、キャパシタなどの誘電体として用いる上で、好ましい。
【0053】
本発明のキャパシタとしては、前記誘電体ペーストよりなる誘電体と、導体より構成されるものであり、例えば、上記で得た誘電体ペーストよりなる誘電体層を、1対の導体層で挟持した構造を有するものが挙げられる(図1(c))。
【0054】
キャパシタの製造方法としては、例えば、まず、基板104に形成された下部銅電極101上に本発明の誘電体ペーストを印刷形成し、その後160℃で3時間硬化させ誘電体層102を形成させる(図1(a),(b))。誘電体層の形成方法としては、例えば、スクリーンおよびステンシルなどにより印刷する方法、スピンコート、インクジェットおよびスプレーなどにより塗布する方法、バーコートなどにより製膜する方法などを挙げることができる。
上記の誘電体層は、薄い方がキャパシタの電気容量が向上するため単層が好ましいが、キャパシタのその他の特性を向上させるために、複数層重ねることが可能である。例えば、誘電体層の中にピンホールが存在すると、電極形成時にピンホール中に導電物質が入り両電極間でショートがおこる場合があり、この場合、キャパシタとしての特性が発現しなくなる。また、前記ピンホールが気泡となって誘電体層の中に残ると、気泡の部分の誘電率は1であるためキャパシタ特性に著しく悪影響を及ぼす場合があり、誘電体層を複数層重ねることにより、これらの現象を防止することが容易になる。
【0055】
次に、上記で形成した誘電体層102の上に、上部電極として導体層103を形成して本発明のキャパシタを得ることができる(図1(c))。導体層の形成方法としては、例えば、銀ペーストなどの導電性ペーストを印刷して形成する方法、金および銅などの金属を蒸着して形成する方法、銅などの金属をメッキにより形成する方法などが挙げられる。
以上のようにして、導電フィラーを含む誘電層の両側に導電層を有する本発明のキャパシタが作製できる。
【0056】
上記で得た本発明のキャパシタについて、誘電層中のフィラーがどの程度分散されているかどうかについては、キャパシタの断面を走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡の測定で得られた画像を処理することにより、それぞれの体積比およびフィラー間の距離を定量化することが可能である。また、キャパシタの電気容量の測定はLCRメーターで測定することができる。
【0057】
次に、本発明のキャパシタを内蔵した多層配線板の製造方法について説明する。図2は、本発明の実施形態である多層配線板の製造方法の一例を説明するための図で、図2(e)は得られる多層配線板の構造を示す断面図である。
【0058】
まず、コア基板として、FR−4の両面金属箔(銅箔)付き絶縁基板203にドリル機で開孔して開孔部202を設けた後、無電解めっきにより、開孔部202にめっきを行い、前記絶縁基板の両面の金属箔間の導通を図り、次いで、前記金属箔をエッチングすることにより導体回路層201を形成する(図2(a))。導体回路層201の材質としては、この製造方法に適するものであれば、どのようなものでも良いが、導体回路の形成においてエッチングや剥離などの方法により除去可能であることが好ましく、前記エッチングにおいては、これに使用される薬液などに耐性を有するものが好ましい。そのような導体回路層201の材質としては、例えば、銅、銅合金、42合金およびニッケル等が挙げられる。特に、銅箔、銅板および銅合金板は、電解めっき品や圧延品を選択できるだけでなく、様々な厚みのものを容易に入手できるため、導体回路層201として使用するのに好ましい。
【0059】
次に、導体回路層に形成された電極上に上記誘電体ペーストを印刷し誘電体層204を形成する(図2(b))。誘電体層の形成方法としては、スクリーン・ステンシルなどの印刷方法やディスペンサー・インクジェット・スプレー塗布方法などが挙げられる。
【0060】
次に、導体回路層201上に、上記樹脂組成物を用いて、絶縁層205を形成する(図2(c))。絶縁層205を形成する方法としては、塗布法やフィルム積層法などが挙げられ、前記塗布法としては、例えば、カーテンコータ、バーコータ、コンマコータ、ナイフコータ、グラビアコータ、ダイコータ、スピンコータ、印刷機、真空印刷機およびディスペンサーなどの装置を用いて、上記樹脂組成物を絶縁層を形成する面に塗布して、塗膜を形成し、該塗膜を、乾燥機、窒素乾燥機、真空乾燥機などを用いて、乾燥・硬化して、絶縁層を形成する方法が挙げられる。前記フィルム積層方法としては、上記樹脂組成物を用いてポリエステルフィルムなどの基材の上に、上記同様にして塗膜を形成し、これを、乾燥して支持基材付きフィルム(絶縁膜)を作製し、これを、絶縁層を形成する面に、真空プレス、常圧ラミネーター、真空ラミネータ−およびベクレル式積層装置等を用いてフィルムを積層して絶縁層を形成する方法が挙げられ、また、ポリエステルフィルムなどの樹脂基材に替えて、金属基材の上に、上記同様にして絶縁膜を形成し、金属層付きフィルム(絶縁膜)を作製し、これを積層して絶縁層を形成する方法などが挙げられる。前記金属層付きフィルムにおいては、該金属層を導体回路として加工することができる。
【0061】
上記絶縁層は加熱硬化するが、その温度は、150℃〜300℃の範囲が好ましい。特に、150℃〜250℃が好ましい。また、一層目の絶縁層を加熱、半硬化させ、前記絶縁層上に、一層ないし複数の絶縁層を形成し半硬化の絶縁層を実用上問題ない程度に再度加熱硬化させることにより絶縁層間および絶縁層と導体回路間の密着力を向上させることができる。この場合の半硬化の温度は、150℃〜250℃が好ましく、150℃〜200℃がより好ましい。
また、前記絶縁層を形成後に、絶縁層の表面にプラズマ処理を施すことで絶縁層間および絶縁層と導体回路間の密着力を向上させることができる。プラズマ処理のガスとして、酸素、アルゴン、フッ素、フッ化炭素、窒素などを一種もしくは複数種混合して用いることができる。また、プラズマ処理は複数回実施しても良い。
【0062】
次に、絶縁層205に、レーザーを照射して、ビアホール206を形成する(図2(d))。前記レーザーとしては、エキシマレーザー、UVレーザーおよび炭酸ガスレーザーなどが使用でき、前記レーザーによるビアホールの開孔においては、絶縁層の材質が感光性・非感光性に関係なく、微細なビアホールを容易に形成することができるので、微細加工が必要とされる場合に、特に好ましい。また、ビアホール205の形成方法としては、上記レーザーを照射する方法以外にレーザーおよびプラズマなどによるドライエッチング、ケミカルエッチング等を用いることができる。また、絶縁層205を感光性の樹脂により作製した場合には、絶縁層205を選択的に感光し、現像することでビアホール206を形成することもできる。
【0063】
次に、第二の導体回路層207を形成する(図2(e))。第二の導体回路層207の形成方法としては、公知の方法であるセミアディティブ法などで形成することができる。これらの方法により、多層配線板を製造することができる。
【0064】
本発明のキャパシタは電子基板上に作成することが可能であり、例えば、該電子基板を作製するビルドアップ工程の中で、内層基板に、本発明のキャパシタを作成することにより電子基板内に埋め込むことも可能である。
【0065】
(実施例)
以下、本発明を実施例および比較例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものでは無い。
【実施例1】
【0066】
1.導電性粉末の表面処理
導電性粉末として平均粒径30nmのカーボンブラック(Printex−XE2 デグサ社製)100gと、導電性粉末のコーティング剤としてアルミネートカップリング剤(プレンアクトAL−M 味の素(株)製)30gとを用いて表面処理するにあたり、図3に示した乾式表面処理装置301(装置円錐台部上部内径150mm、下部内径25mm×装置内高さ380mmの円筒形状)を用い、カーボンブラックはスプレー装置302(アトマックス製、BN−90S−IS)により20g/minで供給するとともに乾式表面処理装置内に旋回流を発生させ、コーティング剤はノズル霧化装置303(扶桑精機株式会社製、マジックカットe−ミスト(ノズル型FN−Z40))により6g/minで供給して噴霧し、表面処理を行い、表面処理された導電性粉304を得た。
【0067】
2.絶縁剤被覆導電性フィラー含有樹脂組成物の調整
フェノールノボラック型エポキシ樹脂(エピコート1032H60 ジャパンエポキシレジン社製)20g、フェノール樹脂(MEH−7500 明和化成社製)10g、ブチルセロソルブ30g、2−メチルイミダゾール(2MZ 四国化成)0.1gを容器に入れ溶解し、均一な溶液とした。
次に上記絶縁剤被覆カーボンブラックを10g(仕込み理論体積%:20体積%)加え、スパチュラで十分に攪拌した。
攪拌終了後、3本ロールミルにて十分に混練を行い、目的とする導電性フィラーを含む誘電体ペーストを得た。
【0068】
3.キャパシタの作製
FR−4(ELC4765、住友ベークライト株式会社製)に感光性レジストフィルム(AUS308、太陽インク製造株式会社製)をラミネートし、測定のための端子および電極を形成したマスクをかけ、露光機により露光した。
露光後現像し、余分なレジストを取り除いた。その後、エッチングを行い銅を取り除き、更にレジストを取り除くことにより、測定のための端子および電極(1cm角)を形成した基板を得た。
【0069】
上記誘電体ペーストをスクリーン印刷機で上記基板の電極と一致するように印刷し、160℃で3時間加熱することにより樹脂を硬化し、誘電体層の片側に導電体層がある誘電体付き基板を得た。このとき、誘電率を後から算出できるように誘電体層の厚みを厚み計で測定した。本実施例の場合、厚みは30μmであった。
【0070】
上記誘電体付き基板の上に、スクリーン印刷機で誘電体層と測定のための端子に重なるように銀ペーストを印刷し、150℃で1時間硬化させた。
このようにして、基板上に本発明のキャパシタを作製した。
【0071】
4.電気容量、誘電率、tanδの測定
プレシジョンLCRメーター 4284A(ヒューレット・パッカード社製)で測定周波数1000Hzで電気容量とtanδを測定し、エッチングで作製した電極の面積、誘電体層の厚みを併用して誘電率を算出した。
【実施例2】
【0072】
平均粒径が、3μmのグラファイトカーボン(SGL−3 エスイーシー社製)を導電性フィラーとして用いた以外は、実施例1と同様にした。
【実施例3】
【0073】
平均粒径が、25nmのカーボンブラック(Special Black 4 デグサ社製)を導電性フィラーとして用いた以外は、実施例1と同様にした。
【実施例4】
【0074】
Printex−XE2の体積%が50体積%になるように樹脂に添加した以外は、実施例1と同様にした。
【実施例5】
【0075】
Printex−XE2の体積%が5体積%になるように樹脂に添加した以外は、実施例1と同様にした。
【実施例6】
【0076】
Printex−XE2の表面を表面処理剤で処理する時に、Printex−XE2を100g(20g/min)、表面処理剤60g(12g/min)で乾式表面処理装置(図3)に仕込んだ以外は、実施例1と同様にした。
【実施例7】
【0077】
Printex−XE2の表面を表面処理剤で処理する時に、Printex−XE2を100g(20g/min)、表面処理剤10g(2g/min)で乾式表面処理装置(図3)に仕込んだ以外は、実施例1と同様にした。
【実施例8】
【0078】
バインダー樹脂にポリノルボルネン20g(プロメラス社製、アバトレル(ブチルノルボルネン90mol%とトリエトキシシリルノルボルネン10mol%の共重合体))とジエチレングリコールモノメチルエーテル20gの混合溶液を用いた以外は実施例1と同様にした。
【0079】
(比較例1)
平均粒径が、10μmのグラファイトカーボン(SGB−10 エスイーシー社製)を導電性フィラーとして用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0080】
(比較例2)
Printex−XE2の体積%が85体積%になるように樹脂に添加した以外は、実施例1と同様にした。
【0081】
(比較例3)
Printex−XE2の体積%が0.5体積%になるように樹脂に添加した以外は、実施例1と同様にした。
【0082】
(比較例4)
Printex−XE2の表面を表面処理剤で処理する時に、Printex−XE2を100g(20g/min)、表面処理剤1g(0.2g/min)で乾式表面処理装置(図3)に仕込んだ以外は、実施例1と同様にした。
【0083】
(比較例5)
上記絶縁剤被覆Printex−XE2を用いる代わりに表面処理を施していないPrintex−XE2を用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0084】
各実施例および比較例で得られたキャパシタについて、以下の評価を行った。評価項目を内容と共に示す。得られた結果を表1に示す。
1.キャパシタの電気容量
プレシジョンLCRメーター 4284A(ヒューレット・パッカード社製)で測定周波数1000Hzで電気容量を測定した。
【0085】
2.キャパシタのtanδ
プレシジョンLCRメーター 4284A(ヒューレット・パッカード社製)で測定周波数1000Hzでtanδを測定した。
【0086】
3.キャパシタの誘電率
プレシジョンLCRメーター 4284A(ヒューレット・パッカード社製)で測定周波数1000Hzで電気容量を測定し、エッチングで作製した電極の面積、誘電体層の厚みを併用して誘電率を算出した。
【0087】
【表1】

【0088】
表1から明らかなように、実施例1〜8は、高い電気容量・誘電率を示し、キャパシタとして高い性能を示した。
また、実施例1〜8は、低いtanδを示し、キャパシタとして高い信頼性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明のキャパシタを模式的に示す断面図である。
【0090】
【図2】本発明のキャパシタを内蔵した多層配線板を模式的に示す断面図である。
【0091】
【図3】本発明の実施例に用いた乾式表面処理装置を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0092】
101 下部電極
102 誘電体層
103 上部導体層
104 基板
201 導体回路層
202 開孔部
203 絶縁基板
204 誘電体層
205 絶縁層
206 ビアホール
207 第二の導体回路層
208 配線形成両面基板
301 乾式表面処理装置
302 スプレー装置
303 ノズル霧化装置
304 表面処理された導電性粉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂と表面処理された導電性粉末とを含有してなる誘電体ペースト。
【請求項2】
前記導電性粉末は、金属酸化物および/または炭素材料である請求項1に記載の誘電体ペースト。
【請求項3】
前記導電性粉末の表面処理は、該導電性粉末の微粒子にコーティング材料を接触させて行われるものである請求項1または2に記載の誘電体ペースト。
【請求項4】
前記コーティング材料は、液体である請求項3に記載の誘電体ペースト。
【請求項5】
前記コーティング材料は、絶縁樹脂またはカップリング剤である請求項3または4に記載の誘電体ペースト。
【請求項6】
前記絶縁樹脂は、前記バインダー樹脂と同種のものである請求項5に記載の誘電体ペースト。
【請求項7】
前記カップリング剤は、アルミネート系カップリング剤である請求項5または6に記載の誘電体ペースト。
【請求項8】
前記導電性粉末の表面処理は、該導電性粉末を微粒子化しながらコーティング材料を接触させて行われるものである請求項3乃至7のいずれかに記載の誘電体ペースト。
【請求項9】
前記導電性粉末の微粒子は、5nm以上5μm以下の粒子径を有するものである請求項3乃至8のいずれかに記載の誘電体ペースト。
【請求項10】
前記導電性粉末は、1体積%〜25体積%含有する請求項1乃至9のいずれかに記載の誘電体ペースト。
【請求項11】
前記バインダー樹脂は、熱硬化性樹脂である請求項1乃至10のいずれかに記載の誘電体ペースト。
【請求項12】
前記バインダー樹脂は、環状オレフィン系樹脂である請求項1乃至11のいずれかに記載の誘電体ペースト。
【請求項13】
前記誘電体ペーストは、0.1Pa・s以上100Pa・s以下の粘度を有するものである請求項1乃至12のいずれかに記載の誘電体ペースト。
【請求項14】
前記誘電体ペーストは、硬化物として、1kHzの周波数において、50以上20,000以下の誘電率および0.001以上0.5以下の誘電正接を有するものである請求項1乃至13のいずれかに記載の誘電体ペースト。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれかに記載の誘電体ペーストよりなる誘電体と、導体より構成されるキャパシタ。
【請求項16】
請求項15に記載のキャパシタを内蔵する基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−107770(P2006−107770A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−288988(P2004−288988)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】