説明

誘電体層形成用組成物、グリーンシート、誘電体層形成基板、及びその製造方法

【課題】前記無機成分が鉛分を含まないものであり、均一で安定した分散性及び貯蔵安定性を有する、誘電体層形成用組成物、グリーンシート、並びに誘電体層形成基板、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】無機成分、熱分解性バインダー、分散剤および溶剤を含有する誘電体層形成用組成物であって、前記無機成分が鉛分を含まないものであり、前記分散剤がポリカルボン酸系高分子化合物であり、かつ、前記熱分解性バインダーの含有量が、固形分比で、無機成分100重量部に対し、55〜105重量部であることを特徴とする誘電体層形成用組成物、この誘電体層形成用組成物をフィルム状に成形して得られるグリーンシート、基板上に、前記グリーンシートを用いて形成された誘電体層を有する誘電体層形成基板、並びにその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネル等の誘電体層の形成に好適な誘電体層形成用組成物、この組成物をフィルム状に成形して得られるグリーンシート、並びに、前記グリーンシートから得られた誘電体層を有する誘電体層形成基板、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置には、液晶表示装置やエレクトロルミネッセンス表示装置、プラズマディスプレイパネル等がある。これらの中でも、プラズマディスプレイパネル(以下、「PDP」ともいう)は、次世代のマルチメディアディスプレイとして注目を集めている。
【0003】
図3にPDPの一例の断面図を示す。図3に示すPDPは、前面板用ガラス基板1及び背面板用ガラス基板2の1対のガラス基板からなる。この前面板用ガラス基板1と背面板用ガラス基板2の内面には、互いに直交する表示電極3及びアドレス電極4がそれぞれ形成されている。表示電極3及びアドレス電極4は、誘電体層5(前面板誘電体層)及び6(背面板誘電体層)によりそれぞれ覆われている。また、ガラス基板1及び2は、保護膜7を介してリブ(隔壁)8によって放電空間(画素)に分離され、各画素には蛍光体9が形成されている。
【0004】
PDPの誘電体層を形成する方法としては、誘電体層形成用組成物をフィルム状に成形して得られるグリーンシートを基板と貼り合わせ、その後グリーンシートを焼成する方法等が知られている(特許文献1,2等)。この方法によれば、高品質な誘電体層を効率よく形成することができる。
【0005】
このような誘電体層形成用組成物には、優れた分散性と長期間に亘る保存安定性が求められている。分散性が劣っていたり、保存中に分散状態が悪化した誘電体層形成用組成物を用いる場合には、均一な塗膜を形成することができず、形成される誘電体層は欠点が多く、誘電体として所望の特性を得ることが困難となる。
【0006】
本発明に関連して、特許文献3には、無機成分(ガラス成分)、熱分解性バインダー、分散剤、及び溶剤を含有する誘電体層形成用組成物において、前記分散剤としてポリカルボン酸系高分子化合物を用いることが提案されている。
【特許文献1】特開平9−102273号公報
【特許文献2】特開平10−182919号公報
【特許文献3】特開2004−2164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、環境保護等の観点から、誘電体層形成に用いる無機成分として、鉛分(鉛化合物)を含まないものを用いることが望まれている。
【0008】
本発明者らが、特許文献3に記載された処方を、鉛分を含まない誘電体層形成用組成物に適用したところ、得られる誘電体層形成用組成物の分散性及び貯蔵安定性が十分ではないことがわかった。
【0009】
そこで、本発明は、無機成分、熱分解性バインダー、分散剤、及び溶剤を含有する誘電体層形成用組成物において、前記無機成分が鉛分を含まないものを使用する場合であっても、均一で安定した分散性及び貯蔵安定性を有し、塗布・焼成することにより、欠点がなく、均一で高品質な誘電体層を形成できる誘電体層形成用組成物、グリーンシート、並びに誘電体層形成基板、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鉛分を含まない無機成分、熱分解性バインダー、分散剤、及び溶剤を含有する誘電体層形成用組成物について鋭意研究した。その結果、分散剤として、ポリカルボン酸系高分子化合物を用い、熱分解性バインダーの含有量を、固形分比で、無機成分100重量部に対し、55〜105重量部とすると、均一で安定した分散性及び貯蔵安定性を有する誘電体層形成用組成物が得られること、この組成物で形成するグリーンシートを用いると、欠点がなく、高品質な誘電体層が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
かくして本発明の第1によれば、無機成分、熱分解性バインダー、分散剤および溶剤を含有する誘電体層形成用組成物であって、前記無機成分が鉛分を含まないものであり、前記分散剤がポリカルボン酸系高分子化合物であり、かつ、前記熱分解性バインダーの含有量が、固形分比で、無機成分100重量部に対し、55〜105重量部であることを特徴とする誘電体層形成用組成物が提供される。
本発明の誘電体層形成用組成物においては、前記分散剤の含有量が、固形分比で、無機成分100重量部に対し、0.01〜5重量部であることが好ましい。
【0012】
本発明の誘電体層形成用組成物においては、前記ポリカルボン酸系高分子化合物が、α−オレフィン/無水マレイン酸共重合物の部分エステル、脂肪族ポリカルボン酸塩、および脂肪族ポリカルボン酸特殊シリコーンからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0013】
本発明の誘電体層形成用組成物においては、無機成分が、ガラス成分及びフィラー成分を含有するものであるのが好ましい。
本発明の誘電体層形成用組成物は、平均粒子径が0.5〜4.0μmのスラリーであるのが好ましい。
本発明の誘電体層形成用組成物は、好適には、プラズマディスプレイパネルの誘電体層の形成に用いられるものである。
【0014】
本発明の第2によれば、本発明の誘電体層形成用組成物をフィルム状に成形して得られるグリーンシートが提供される。
本発明の第3によれば、基板上に、本発明のグリーンシートを用いて形成された誘電体層を有することを特徴とする誘電体層形成基板が提供される。
本発明の第4によれば、本発明のグリーンシートを基板と貼り合わせる工程と、前記グリーンシートを焼成することにより、誘電体層を形成する工程とを有する誘電体層形成基板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の誘電体層形成用組成物は、鉛分を含まない無機成分を用いるため、環境保護の観点から優れている。
本発明の誘電体層形成用組成物は、スラリーの状態のままで保存したり、運搬しても、無機成分が凝集したり沈降したりすることがなく、長期に亘って均一で安定した分散状態を有する。
本発明の誘電体層形成用組成物を用いる場合には、均一な塗布ができるため、均一なグリーンシートを形成でき、結果として、欠点のない、均一で高品質な誘電体層を得ることができる。
【0016】
本発明の誘電体層形成用組成物及びグリーンシートは、プラズマディスプレイパネルの誘電体層の形成に好適に用いることができる。
本発明の誘電体層形成基板は、本発明のグリーンシートを用いて形成された誘電体層を有するため、均一で高品質である。
本発明の誘電体層形成基板の製造方法によれば、画素欠陥のない誘電体層を有する、均一で高品質な誘電体層形成基板を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を、1)誘電体層形成用組成物、2)グリーンシート、並びに、3)誘電体層形成基板、及びその製造方法に項分けして詳細に説明する。
【0018】
1)誘電体層形成用組成物
本発明の誘電体層形成用組成物(以下、単に「本発明の組成物」ということがある)は、無機成分、熱分解性バインダー、分散剤、および溶剤を含有する誘電体層形成用組成物であって、前記無機成分が鉛分を含まないものであり、かつ、前記分散剤がポリカルボン酸系高分子化合物であり、かつ、前記熱分解性バインダーの含有量が、固形分比で、無機成分100重量部に対し、55〜105重量部であることを特徴とする。
【0019】
(無機成分)
本発明の組成物に用いる無機成分は、環境保護の観点から鉛分を含まないものである。無機成分としては、鉛分を含まないガラス成分、又は、鉛分を含まないガラス成分およびフィラー成分からなる混合物が挙げられる。
【0020】
無機成分として、鉛分を含まないガラス成分およびフィラー成分からなる混合物を用いることにより、反射率に優れる白色誘電体層形成用組成物を得ることができる。
【0021】
鉛分を含まないガラス成分としては、鉛分を含まないものであれば、特に制限されないが、例えば、ZnO−B−SiO(酸化亜鉛−酸化ホウ素−酸化ケイ素)系ガラス、ZnO−P−SiO(酸化亜鉛−酸化リン−酸化ケイ素)系ガラス、Bi−B−SiO(酸化ビスマス−酸化ホウ素−酸化ケイ素)系ガラス、ZnO−B−KO(酸化亜鉛−酸化ホウ素−酸化カリウム)系ガラス、ZnO−P−TiO(酸化亜鉛−酸化リン−酸化チタン)系ガラス、B−SiO−Al(酸化ホウ素−酸化ケイ素−酸化アルミニウム)系ガラス、P−B−Al(酸化リン−酸化ホウ素−酸化アルミニウム)系ガラス等の三成分系ガラス;Bi−B−SiO−Al(酸化ビスマス−酸化ホウ素−酸化ケイ素−酸化アルミニウム)系ガラス、ZnO−B−SiO−Al(酸化亜鉛−酸化ホウ素−酸化ケイ素−酸化アルミニウム)系ガラス、ZnO−P−SiO−Al(酸化亜鉛−酸化リン−酸化ケイ素−酸化アルミニウム)系ガラス、ZnO−Bi−SiO−B(酸化亜鉛−酸化ビスマス−酸化ケイ素−酸化ホウ素)系ガラス等の四成分系ガラス;ZnO−Bi−SiO−Al−B(酸化亜鉛−酸化ビスマス−酸化ケイ素−酸化アルミニウム−酸化ホウ素)系ガラス等の五成分系ガラス;ZnO−Bi−SiO−Al−B−BaO(酸化亜鉛−酸化ビスマス−酸化ケイ素−酸化アルミニウム−酸化ホウ素−酸化バリウム)系ガラス等の六成分系ガラス;等が挙げられる。
また、これらのガラス成分には、CaO、NaO、TiO、CuO、LiO、KO、BaO、MgO、SrO等が添加されていてもよい。
【0022】
これらの中でも、ZnO−B−SiO−Al(酸化亜鉛−酸化ホウ素−酸化ケイ素−酸化アルミニウム)系ガラスの使用が好ましく、ZnO−Bi−SiO−Al−B−BaO(酸化亜鉛−酸化ビスマス−酸化ケイ素−酸化アルミニウム−酸化ホウ素−酸化バリウム)系ガラスの使用がより好ましい。
【0023】
フィラー成分としては、TiO(酸化チタン)、Al(アルミナ)、SiO(シリカ)、およびZrO(ジルコニア)等が挙げられる。これらの中でも、TiOおよびAlが好ましい。
【0024】
無機成分がガラス成分及びフィラー成分からなる混合物である場合、ガラス成分及びフィラー成分の配合割合は、通常、ガラス成分:フィラー成分=50:50〜99:1(重量比)、好ましくは70:30〜95:5である。
【0025】
無機成分は、粉末状のガラス成分および所望により粉末状のフィラー成分を混合して、或いはガラス成分を溶融し、次いで冷却、粉砕してフリットとし、これを所望により粉末状のフィラー成分と混合することで得ることができる。
【0026】
用いる無機成分の平均粒子径は、好ましくは3μm以下、より好ましくは0.5〜3.0μmである。このような範囲の平均粒子径を有する無機成分を用いることにより、均一で安定した分散状態を有する誘電体層形成用組成物を得ることが容易となる。
【0027】
また、無機成分の最大粒子径は、均一で透明な誘電体層を得る上から、20μm以下であるのが好ましい。無機成分の最大粒子径が20μmを超えると、得られる誘電体層の表面にピンホール等の欠陥が発生しやすくなり、所望する耐電圧特性を得ることが困難となる。
無機成分の平均粒子径及び最大粒子径は、例えば、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置等により測定することができる。
【0028】
(分散剤)
本発明の組成物は、分散剤としてポリカルボン酸系高分子化合物を用いる。
本発明に用いるポリカルボン酸系高分子化合物とは、分子中に複数のカルボン酸基を有する高分子化合物を意味する。このようなポリカルボン酸系高分子化合物は、シランカップリング剤および一般的な界面活性剤などの周知の分散剤と比較して、ガラスフリットなどの高比重の粒子を良好に分散させることが可能である。
【0029】
ポリカルボン酸系高分子化合物を分散剤として使用することにより、誘電体層用組成物中のガラスフリットの分散性を向上させ、組成物を良好な分散状態に保つことが可能となる。すなわち、ガラスフリットが凝集し二次粒子を形成することが抑制される。その結果、誘電体層における誘電特性のバラツキを改善し、さらに誘電体層の耐電圧を向上させることが可能となる。
【0030】
ポリカルボン酸系高分子化合物としては、α−オレフィン/無水マレイン酸共重合体の部分エステル、脂肪族ポリカルボン酸塩、脂肪族ポリカルボン酸特殊シリコーンからなる群から選択される少なくとも一種を用いるのが好ましい。なかでも、α−オレフィン/無水マレイン酸共重合体の部分エステルは優れた分散効果を示す。α−オレフィン/無水マレイン酸共重合体の部分エステルの分子量は、特に制限されないが、好ましくは10,000〜50,000である。
【0031】
分散剤の配合量は、固形分比で、無機成分100重量部に対し、好ましくは0.01〜5重量部、より好ましくは0.5〜3重量部である。分散剤の配合量がこの範囲より少ないと、得られる誘電体層形成用組成物の分散状態が不均一となり、無機成分が沈降又は凝集しやすいものとなるおそれがある。一方、この範囲より多いと、焼成工程を経ても分散剤が誘電体層内に残存し、耐電圧及び透明性の低下の原因となる。
【0032】
(熱分解性バインダー)
本発明の組成物は、上記無機成分および分散剤に加えて、熱分解性バインダーを含有する。
本発明の組成物中の熱分解性バインダーの含有量は、固形分比で、無機成分100重量部に対し55〜105重量部、好ましくは65〜95重量部である。熱分解性バインダーをこのような範囲とすることで、均一で安定した分散状態を有する、分散性及び貯蔵安定性に優れる誘電体層形成用組成物を得ることができる。
【0033】
熱分解性バインダーは、焼成することにより分解して容易に除去できる、結合剤としての機能を有する。
本発明に用いる熱分解性バインダーとしては、特に制限されないが、結合剤としての機能を有し、焼成することにより分解して、容易に除去できる有機高分子として、優れたバインダーとしての役割とガラス基板との感圧接着剤としての役割を果たすアクリル樹脂の使用が好ましい。
【0034】
アクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリレート化合物の単独重合体、(メタ)アクリレート化合物の2種以上から得られる共重合体、(メタ)アクリレート化合物と他の共重合性単量体から得られる共重合体等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリレート化合物の2種以上から得られる共重合体が好ましい。ここで、(メタ)アクリレートは、アクリレート又はメタクリレートのいずれかを表す(以下にて同じ)。
【0035】
(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;
【0036】
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;
フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等のフェノキシアルキル(メタ)アクリレート;
2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−プロポキシエチル(メタ)アクリレート、2−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシブチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;
【0037】
ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート;
ベンジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0038】
他の共重合性単量体としては、上記(メタ)アクリレート化合物と共重合可能な化合物であれば特に制約されない。例えば、(メタ)アクリル酸、ビニル安息香酸、マレイン酸、ビニルフタル酸等の不飽和カルボン酸類;ビニルベンジルメチルエーテル、ビニルグリシジルエーテル、スチレン、α−メチルスチレン、ブタジエン、イソプレン等のビニル基含有ラジカル重合性化合物;等が挙げられる。
【0039】
本発明においては、熱分解性バインダーとして、公知の製造方法で製造したもの、あるいは市販品として入手したものを用いることができる。
【0040】
熱分解性バンイダーの製造方法としては、特に制限されず、公知の方法を採用できる。例えば、アクリル樹脂は、前記(メタ)アクリレート化合物及び所望により他の共重合性単量体とを(共)重合させることにより製造することができる。重合方法は特に制限されず、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等のラジカル重合開始剤を用いるラジカル重合法が挙げられる。
【0041】
本発明に用いる熱分解性バインダーの重量平均分子量は、特に制限されないが、通常15,000〜400,000、好ましくは50,000〜300,000である。分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0042】
本発明に用いる熱分解性バインダーのガラス転移温度(Tg)は、特に制限されないが、通常、−15℃〜+40℃である。
【0043】
また本発明においては、熱分解性バインダーとして、熱分解性バインダーが水相に微粒子状に分散してなる熱分解性バインダーのエマルションを用いることもできる。
【0044】
(溶剤)
本発明の組成物は、前記無機成分、分散剤、熱分解性バインダーに加えて溶剤を含有する。溶剤は、組成物に適度な流動性又は可塑性、良好な膜形成性を付与するものである。
【0045】
本発明に用いる溶剤としては、水;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、乳酸メチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類:N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセタミド、ヘキサメチルリン酸ホスホロアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;ε−カプロラクタム等のラクタム類;γ−ラクトン、δ−ラクトン等のラクトン類;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;及びこれらの2種以上からなる混合溶媒;等が挙げられる。これらの中でも、均一で安定した分散状態を有する誘電体層形成用組成物を効率よく得る上からは、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、又はこれらの2種以上からなる混合溶媒の使用が好ましい。
溶剤の使用量は、特に限定されるものではないが、組成物全体に対して、通常1〜55重量%である。
【0046】
(その他の添加剤)
本発明の組成物には、必要に応じて、可塑剤、粘着付与剤、保存安定剤、消泡剤、熱分解促進剤、酸化防止剤等のその他の添加剤が添加されていてもよい。
例えば、可塑剤は、加工適性を向上させるために添加される。用いる可塑剤としては、アジピン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、グリコールエステル系可塑剤等が挙げられる。可塑剤の使用量は、無機成分100重量部に対して、0〜10重量部である。
【0047】
(組成物の調製)
本発明の組成物は、上述した熱分解性バインダー、無機成分、分散剤及び溶剤等の原料をプレミキシングした後、分散機にかけて機械的に分散させることにより調製することができる。
【0048】
分散に用いる分散機としては特に制約はなく、例えば、ボールミル、ビーズミルなどのメディアミル;超音波式、撹拌式等の各種ホモジナイザー;ジェットミル;ロールミル;等の公知の分散機が挙げられる。
【0049】
分散後は、組成物のスラリーの平均粒子径(組成物調製後の総無機成分の平均粒子径)が、0.5〜4.0μm、好ましくは、1〜3.5μmとなるように調製する。
スラリーの平均粒子径は、例えば、スラリーを、濃度0.05重量%となるようにメチルイソブチルケトンにて希釈し、JISZ8825−1に準拠し、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置にて測定することができる。
【0050】
以上のようにして得られる本発明の組成物は、鉛分を含まないため環境保護の観点から優れている。
【0051】
本発明の組成物は分散性に優れ、長期保存したり運搬した後であっても二次凝集や沈降がなく、組成物を調製した直後の良好な分散状態を長期間にわたって維持することができる。
したがって、長期間保存後の本発明の誘電体層形成用組成物を長期に亘って保存した後であっても、この組成物を用いることによって、調製直後の場合と同様に、均一なグリーンシートを形成でき、さらに、欠点のない均一で高品質な誘電体層を得ることができる。
【0052】
誘電体層形成用組成物の貯蔵安定性は、例えば、調製直後の誘電体層形成用組成物を密閉容器に入れ、容器を所定期間室温で静置した後、目視観察し、ガラス成分と有機成分の相分離の有無を調べることによって評価することができる。
【0053】
また、誘電体層形成用組成物の貯蔵安定性は、密閉容器に入れた直後の液面の高さHと、所定期間後の、ガラス成分と有機成分の相分離境界線の高さHaを測定し、下記に示す式により沈降率(%)を算出して評価することもできる。
【0054】
【数1】

【0055】
本発明の組成物を室温で4週間放置した後の沈降率は、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下であり、本発明の組成物は貯蔵安定性に優れる。
【0056】
本発明の組成物は、フラットパネルディスプレイの誘電体層、特にPDPの誘電体層の形成に好適に用いることができる。
また、本発明の組成物は、後述する本発明のグリーンシートの製造原料としても有用である。
【0057】
2)グリーンシート
本発明のグリーンシートは、本発明の組成物をフィルム状に成形して得られるものである。具体的には、本発明の組成物をキャリアーフィルム上に塗工し、次いで乾燥してフィルム化して製造することができる。
【0058】
本発明のグリーンシートを製造する一例を図1に示す。
図1において、13はキャリアーフィルム、14は本発明の誘電体層形成用組成物を塗工する塗工装置、18は誘電体層形成用組成物の塗膜を乾燥する(溶媒を除去する)乾燥装置、20a及び20bは、グリーンシート上に保護フィルムを積層する積層ロールである。
【0059】
以下、図1を参照しながら、本発明のグリーンシートの製造方法を説明する。
先ず、ロール状に巻き取られたキャリアーフィルム13が塗工装置14へ送られる。キャリアーフィルム13としては、誘電体層形成用組成物の塗膜との剥離性に優れるものであれば特に制限されない。例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等のプラスチックフィルムを用いることができる。また、前記プラスチックフィルムの片面に、シリコーン樹脂、アルキッド樹脂、フッ素樹脂、長鎖アルキル樹脂等の剥離剤を塗布したものを用いるのが好ましい。さらに、上記プラスチックフィルム上に剥離性を有する樹脂、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム上にポリオレフィン樹脂を押し出したものでもよい。キャリアーフィルムの厚さは、通常10〜200μmである。
【0060】
次に、塗工装置14により、キャリアーフィルム13上に組成物が塗布される。塗工装置14は貯蔵部15と塗工部16からなる。貯蔵部15は、スラリー状の組成物を貯蔵し、この組成物を一定量ずつ塗工部16に送液する。塗工部16としては特に制限されない。例えば、ナイフコーター、ダイコーター等の公知のコーターを用いることができる。
本発明の組成物の塗工量は、形成する組成物の塗膜17aの厚みに応じて適宜設定することができる。
【0061】
次に、表面に組成物の塗膜17aが形成されたキャリアーフィルム13は、乾燥装置18に送り込まれる。この乾燥装置18内で組成物の塗膜17aを乾燥する(すなわち、溶剤等の揮発成分を除去する)ことにより、組成物の乾燥塗膜、すなわち、グリーンシート17がキャリアーフィルム13上に積層された積層物を得ることができる。
【0062】
前記組成物の塗膜17aを乾燥する方法としては特に制限されないが、例えば、(イ)塗膜が形成されたキャリアーフィルムを所定温度に加熱する方法、(ロ)前記塗膜表面に乾燥空気又は熱風を送り込む方法、(ハ)前記(イ)及び(ロ)を組み合わせる方法等が挙げられる。
乾燥するときの温度は、キャリアーフィルムが熱変形しない温度以下であれば特に制限されず、通常室温から150℃、好ましくは60〜130℃であり、乾燥時間は1〜10分である。
乾燥後の塗膜17aの厚みは、通常10〜200μm、好ましくは20〜120μmである。
【0063】
次いで、グリーンシート17上に保護フィルム19を積層する。
図1中、保護フィルム19はロール状に巻き取られた長尺のフィルムである。用いる保護フィルムとしては、前記キャリアーフィルムと同じものを使用することができる。保護フィルムの厚みは、通常10〜200μmである。
【0064】
グリーンシート17上に保護フィルム19を積層するには、図1中、2つの積層ロール20a及び20bの間をグリーンシート17と保護フィルム19とを通過させて、貼り合わせる(ラミネートする)。ラミネートは、積層ロール20a及び20bの両方又は一方、例えば、保護フィルム面側のロール20bを加熱して行ってもよい。
【0065】
本発明のグリーンシートは組成物の分散性に優れるため、キャリアーフィルム面に接する面に限らず露出した側の表面も平滑になる。このため、本発明のグリーンシートは、キャリアーフィルム及び保護フィルムとの貼り合わせ易さに優れ、ラミネートをスムーズに行うことができる(ラミネート適性に優れる)。ラミネート適性は、積層フィルム(キャリアーフィルム−グリーンシート−保護フィルム)を目視にて観察し、3層が適正に貼り合わされているかどうかで評価することができる。本発明のグリーンシートは、このようなラミネート状態となるので、焼成して得られる誘電体層もピンホール欠点がなく、平滑な表面を形成できる。
【0066】
以上のようにして、キャリアーフィルム13−グリーンシート17−保護フィルム19の3層からなる積層フィルム21を得ることができる。
得られた積層フィルム21は、ロール状に巻き取り、回収して保存、運搬することができる。
【0067】
以上のようにして得られる本発明のグリーンシートは、本発明の組成物をフィルム状に成形して得られたものであるので、均一で高品質の誘電体層を形成することができる。
【0068】
3)誘電体層形成基板及びその製造方法
本発明の誘電体層形成基板は、基板上に、本発明のグリーンシートを用いて形成された誘電体層を有することを特徴とする。
【0069】
本発明の誘電体層形成基板は、例えば、グリーンシートを基板と貼り合わせる工程と、前記グリーンシートを焼成することにより、誘電体層を形成する工程とを有する本発明の誘電体層形成基板の製造方法によって得ることができる。具体的には、グリーンシートから保護フィルムを剥離した後、基板にラミネートし、次いで、キャリアーフィルムを剥離した後、該グリーンシートを焼成して得ることができる。この方法によれば、大面積であっても、均一で高品質な誘電体層形成基板を製造することができる。
【0070】
ここで用いる基板としては、ガラス基板、セラミック基板等が挙げられ、ガラス基板が好ましい。ガラス基板としては、例えば、表面に表示電極が形成された前面板用ガラス基板等が挙げられる。基板の厚みは特に制限されないが、通常1〜10mm程度である。
【0071】
本発明の誘電体層形成基板として、PDPの前面板用ガラス基板に用いられる透明誘電体層を製造する一例を図2に示す。図2に示すものは、図3中、前面板用ガラス基板1上に透明誘電体層5を形成する例である。
【0072】
先ず、図2(a)に示すように、積層フィルム21の片面の保護フィルム19を剥離除去する。
次に、図2(b)に示すように、グリーンシート17を、表面に表示電極3が形成された前面板用ガラス基板1上(表示電極3が形成されている側)に熱圧着する。熱圧着は、例えば、加熱ローラーを用いて、加熱温度50℃〜130℃、圧力0.05MPa〜2.0MPaの条件で行うことができる。本発明の組成物中の熱分解性バインダーは、バインダーであるとともに、感圧性接着剤としての機能を持つことができるため、簡便な操作により、グリーンシート17をガラス基板1に均一に貼着することができる。
【0073】
次いで、図2(c)に示すように、グリーンシート17からキャリアーフィルム13を剥離除去し、グリーンシート17が熱圧着されたガラス基板1を焼成する。この過程で、組成物中の熱分解性バインダーが熱分解し、有機成分が完全に除去される。
【0074】
グリーンシート17が熱圧着されたガラス基板を焼成する方法としては、例えば、グリーンシート17が熱圧着されたガラス基板を焼成炉の中に入れて全体を加熱する方法が挙げられる。
【0075】
焼成温度は、熱分解性バインダーが熱分解し、有機成分が完全に除去され、かつ、無機成分が均一な溶融状態となって溶融し、均一化する温度である。この焼成温度は、通常、グリーンシート中の無機成分の軟化点付近の温度であるとされている。具体的には、通常500〜650℃、好ましくは520〜620℃である。
焼成時間は通常1分から3時間、好ましくは5分〜120分である。
【0076】
焼成後は、冷却することにより、図2(d)に示すように、厚さ5〜100μm、好ましくは5〜90μmの透明誘電体層5が積層されたガラス基板1を得ることができる。
【0077】
以上のようにして得られる透明誘電体層5は、ピンホール欠点のない、均一で高品質なものであって、透明性に優れている。
誘電体層の表面粗さRa(μm)は、通常、0.2以下である。表面粗さRa(μm)は、例えば、接触式表面粗さ計を用いて測定することができる。
【0078】
なお、本実施形態では、PDPの前面板用ガラス基板1に用いられる透明誘電体層5を形成する場合について説明したが、背面板用ガラス基板2に対する白色誘電体層6や、セラミック基板上や回路基板上の誘電体層等も同様にして形成することができる。
【0079】
本発明の誘電体層形成基板を用いることにより、高品質なフラットパネルディスプレイを製造することができる。フラットパネルディスプレイとしては、PDP、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス表示装置等が挙げられ、PDPが特に好ましい。
【実施例】
【0080】
次に実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0081】
無機成分、熱分解性バインダー、分散剤、溶剤及び可塑剤は、次のものを用いた。
1)無機成分
ZnO−Bi−SiO−Al−B−BaO系ガラス(80重量%)、TiO、SiO(TiO/SiO=75/25(重量%))を主成分としたフィラー成分(20重量%)からなる平均粒子径1.4μmのガラスフリット
【0082】
2)熱分解性バインダー
アゾビスイソブチロニトリル0.5重量部をラジカル重合開始剤として用い、2−エチルヘキシルメタクリレート100重量部、アクリル酸1重量部を、トルエン中で、70℃16時間重合させることにより得られた共重合体(重量平均分子量(Mw)=170,000、ガラス転移温度(Tg)=−11℃)の50重量%溶液。
【0083】
3)分散剤
(1)分散剤A:ポリカルボン酸系高分子化合物(α−オレフィン/無水マレイン酸共重合体の部分エステル、商品名:フローレン G700、共栄社化学(株)製)、濃度100%
(2)分散剤B:ポリエーテル系分散剤(商品名:フローレン NC−500、共栄社化学(株)製)、濃度50%
(3)分散剤C:ノニオン系非シリコーン化合物(商品名:ポリフローKL505、共栄社化学(株)製)、濃度100%
【0084】
4)溶剤
トルエン
5)可塑剤
アジピン酸ジブチル
【0085】
また、各実施例、比較例で調製した組成物の分散状態及び誘電体層の特性に関する評価方法は以下の通りである。
(i)平均粒子径及び最大粒子径の測定
スラリーの平均粒子径(μm)及び最大粒子径は、スラリーを濃度0.05重量%となるようにメチルイソブチルケトンにて希釈し、JISZ8825−1に準拠し、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(型式:LA−920、(株)堀場製作所製)で測定した。
【0086】
(ii)沈降率の測定
調製直後の誘電体層形成用組成物を容器に入れ、該容器を密閉し、液面の高さHを測定した。容器を所定期間室温で静置した後、目視観察し、ガラス成分と有機成分の相分離の有無を調べた。ガラス成分と有機成分が相分離している場合には、相分離境界線の高さHaを測定した。沈降率(%)は、下記に示す式により算出した。
【0087】
【数2】

【0088】
(iii)ラミネート適性
ラミネート適性は、得られる積層フィルム(PETフィルム−グリーンシート−PETフィルム)を目視にて観察し、3層が適正に貼り合わされているかどうかで評価した。貼り合わされている場合を○、凝集物などの存在により、適正に貼り合わされていない場合を×と評価した。
【0089】
(iv)膜厚
膜厚は、表面粗さ測定機(型式:SVP−3000S4、(株)ミツトヨ製)によって測定した。
【0090】
(v)ピンホール欠点
誘電体層(95mm×95mm)上のピンホールの有無を顕微鏡にて観察した。ピンホール欠点がない場合を○、ピンホール欠点が1つでもある場合を×と評価した。
【0091】
(vi)表面粗さ(Ra)
電極付きガラス基板上に、誘電体層用組成物から得られたグリーンシートをガラス基板上に貼着、次いで焼成することによって形成された誘電体層について、その誘電体層の表面を表面粗さ測定機(型式:SVP−3000S4、(株)ミツトヨ社製)を用いて測定することにより評価した。
【0092】
(実施例1)
前記無機成分100重量部、熱分解性バインダー160重量部(無機成分100重量部に対し、固形分比で80重量部)、分散剤A 1重量部(無機成分100重量部に対し、固形分比で1重量部)、溶剤25重量部、及び可塑剤1重量部を、ビーズミル系分散機を用いて分散させることにより、実施例1の誘電体層形成用組成物1(以下「スラリー1」という)を調製した。
スラリー1の平均粒子径(μm)、最大粒子径(μm)、及びスラリー1の4日後、2週間後及び4週間後の沈降率(%)を測定した。測定結果を第1表に示す。
【0093】
キャリアーフィルムとして、片面をシリコーン樹脂により厚さ0.1μmで剥離処理された厚さ50μmの長尺のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意した。このフィルムの剥離処理された面上に、上記で得たスラリー1をナイフコーターを用いて塗布した。次いで、100℃で2分間乾燥して、PETフィルム上に厚さ35μmのグリーンシート1を得た。
【0094】
次に、上記で得たグリーンシート1上に、前記PETフィルムと同じ長尺の、片面をシリコーン樹脂により厚さ0.1μmで剥離処理された保護用PETフィルムの剥離処理面をロール間圧着させることにより、PETフィルム−グリーンシート−PETフィルムの3層が積層されてなる積層フィルムを得た。このとき、上記の方法によりラミネート適性を評価した。評価結果を第1表に示す。
【0095】
グリーンシート1上の保護用PETフィルムを剥離除去した。得られたキャリアーフィルム(PETフィルム)−グリーンシートの積層フィルム(95mm×95mm)を、グリーンシート面を下にして、表面に表示電極が形成されたガラス基板(100mm×100mm×2.8mm)表面に重ね合わせ、加熱ローラーを用いて熱圧着(80℃、0.5MPa)した。
次いで、キャリアーフィルムを剥離除去し、焼成炉内に入れ、室温から10℃/分で400℃まで昇温し、400℃で20分間維持し、さらに、10℃/分で575℃まで昇温し、575℃で20分間維持する条件でグリーンシート1の樹脂を焼成することにより熱分解除去し、厚さ10μmの誘電体層が形成された誘電体層形成基板1を得た。
得られた誘電体層形成基板1上の誘電体層のピンホール欠点の有無を顕微鏡で観察し、表面粗さRa(μm)を測定した。測定結果を第1表に示す。
【0096】
(実施例2)
実施例1において、熱分解性バインダーの使用量を160重量部から140重量部(無機成分100重量部に対し、固形分比で70重量部)に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2の誘電体層形成用組成物2(以下「スラリー2」という)を得た。さらに、焼成後の誘電体層の厚みが10μmとなるように、グリーンシート2及び誘電体層形成基板2を作製した。
スラリー2の平均粒子径(μm)、最大粒子径(μm)、スラリー2の4日後、2週間後及び4週間後の沈降率(%)、グリーンシート2のラミネート適性、誘電体層形成基板2上の誘電体層のピンホール欠点の有無、表面粗さRa(μm)を第1表に示す。
【0097】
(比較例1)
実施例1において、分散剤A 1重量部に代えて、分散剤B 2重量部(無機成分100重量部に対し、固形分比で1重量部)を用いた以外は実施例1と同様にして、誘電体層形成用組成物3(以下、「スラリー3」という)を得た。さらに、焼成後の誘電体層の厚みが10μmとなるように、グリーンシート3及び誘電体層形成基板3を作製した。
スラリー3の平均粒子径(μm)、最大粒子径(μm)、スラリー3の4日後、2週間後及び4週間後の沈降率(%)、グリーンシート3のラミネート適性、誘電体層形成基板3上の誘電体層のピンホール欠点の有無、表面粗さRa(μm)を第1表に示す。
【0098】
(比較例2)
実施例1において、分散剤A 1重量部に代えて、分散剤C 3.3重量部(無機成分100重量部に対し、固形分比で1重量部)を用いた以外は実施例1と同様にして、誘電体層形成用組成物4(以下、「スラリー4」という)を得た。さらに、焼成後の誘電体層の厚みが10μmとなるように、グリーンシート4及び誘電体層形成基板4を作製した。 スラリー4の平均粒子径(μm)、最大粒子径(μm)、スラリー4の4日後、2週間後及び4週間後の沈降率(%)、グリーンシート4のラミネート適性、誘電体層形成基板4上の誘電体層のピンホール欠点の有無、表面粗さRa(μm)を第1表に示す。
【0099】
(比較例3)
実施例1において、熱分解性バインダーを160重量部(固形分比;80重量部)用いる代わりに、100重量部(固形分比;50重量部)用いて、実施例1と同様にして、誘電体層形成用組成物5(以下、「スラリー5」という)を得た。さらに、焼成後の誘電体層の厚みが10μmとなるように、グリーンシート5及び誘電体層形成基板5を作製した。
スラリー5の平均粒子径(μm)、最大粒子径(μm)、スラリー5の4日後、2週間後及び4週間後の沈降率(%)、グリーンシート5のラミネート適性、誘電体層形成基板5上の誘電体層のピンホール欠点の有無、表面粗さRa(μm)を第1表に示す。
【0100】
(比較例4)
実施例1において、熱分解性バインダーを160重量部(固形分比;80重量部)用いる代わりに、220重量部(固形分比;110重量部)用いて実施例1と同様にして、誘電体層形成用組成物6(以下、「スラリー6」という)を得た。さらに、焼成後の誘電体層の厚みが10μmとなるように、グリーンシート6及び誘電体層形成基板6を作製した。
スラリー6の平均粒子径(μm)、最大粒子径(μm)、スラリー6の4日後、2週間後及び4週間後の沈降率(%)、グリーンシート6のラミネート適性、誘電体層形成基板6上の誘電体層のピンホール欠点の有無、表面粗さRa(μm)を第1表に示す。
【0101】
【表1】

【0102】
第1表から、実施例1、2の誘電体層形成用組成物(スラリー)1、2は、長期にわたり安定した分散性を有すること(貯蔵安定性に優れる)、この組成物から得られるグリーンシート1、2はラミネート適性に優れ、焼成することにより、表面粗さRaの小さい、ピンホール欠点のない均一な誘電体層を形成できることがわかる。
【0103】
一方、ポリカルボン酸系高分子化合物以外の分散剤B、Cを使用して得られた、比較例1、2の誘電体層形成用組成物(スラリー)3、4では、貯蔵安定性に劣り、塗布・焼成して得られる誘電体層はピンホール欠点があり、表面粗さRaが劣っていた。
【0104】
無機成分100重量部に対し、固形分比で55重量部以下の熱分解性バインダーを用いた比較例3の誘電体層形成用組成物(スラリー)5は、誘電体層形成用組成物1に比較して貯蔵安定性に劣っていた。また、この組成物から得られるグリーンシート5はラミネート適性に劣り、焼成して得られる誘電体層はピンホール欠点があり、表面粗さRaが劣っていた。
【0105】
また、無機成分100重量部に対し、固形分比で105重量部以上の熱分解性バインダーを用いた比較例4では、得られる誘電体層形成基板6にピンホール欠点が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明のグリーンシートを製造する工程概略図である。
【図2】本発明の誘電体層形成基板の形成方法を示す工程断面図である。
【図3】プラズマディスプレイパネルの一例の構造断面図である。
【符号の説明】
【0107】
1…前面板用ガラス基板、2…背面板用ガラス基板、3…表示電極、4…アドレス電極、5…誘電体層(前面板誘電体層)、6…誘電体層(背面板誘電体層)、7…保護膜、8…リブ(隔壁)、9…蛍光体、13…キャリアーフィルム、14…塗工装置、15…貯蔵部、16…塗工部、17a…誘電体層形成用組成物の塗膜、17…グリーンシート、18…乾燥装置、19…保護フィルム、20a、20b…積層ロール、21…積層フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機成分、熱分解性バインダー、分散剤および溶剤を含有する誘電体層形成用組成物であって、前記無機成分が鉛分を含まないものであり、前記分散剤がポリカルボン酸系高分子化合物であり、かつ、前記熱分解性バインダーの含有量が、固形分比で、無機成分100重量部に対し、55〜105重量部であることを特徴とする誘電体層形成用組成物。
【請求項2】
前記分散剤の含有量が、固形分比で、無機成分100重量部に対し、0.01〜5重量部であることを特徴とする請求項1に記載の誘電体層形成用組成物。
【請求項3】
前記ポリカルボン酸系高分子化合物が、α−オレフィン/無水マレイン酸共重合物の部分エステル、脂肪族ポリカルボン酸塩、および脂肪族ポリカルボン酸特殊シリコーンからなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1または2に記載の誘電体層形成用組成物。
【請求項4】
前記無機成分が、ガラス成分及びフィラー成分を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体層形成用組成物。
【請求項5】
平均粒子径が0.5〜4.0μmのスラリーであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の誘電体層形成用組成物。
【請求項6】
プラズマディスプレイパネルの誘電体層の形成に用いられるものである請求項1〜5のいずれかに記載の誘電体層形成用組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の誘電体層形成用組成物をフィルム状に成形して得られるグリーンシート。
【請求項8】
基板上に、請求項7に記載のグリーンシートを用いて形成された誘電体層を有することを特徴とする誘電体層形成基板。
【請求項9】
請求項8に記載のグリーンシートと基板とを貼り合わせる工程と、前記グリーンシートを焼成することにより、誘電体層を形成する工程とを有する誘電体層形成基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−130316(P2008−130316A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312779(P2006−312779)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】