説明

誘電体膜形成用塗布液の製造方法

【課題】保存性の良好な安定性の高い塗布液であって、無機EL素子に用いる誘電体層等に好適な、平坦性に優れ、空隙の少ない緻密な表面を有する誘電体層を得ることができる誘電体膜形成用塗布液の製造方法を提供する。
【解決手段】アルコール類、エステル類及びカルボン酸からなる混合溶剤中に、少なくとも1種の金属元素を含む有機酸塩と、チタン、スズ及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む金属アルコキシドを含有する前駆体溶液中に、特定の種類である有機溶媒、特定の種類であって特定の平均分子量を有する高分子樹脂、及び特定の種類であって特定の粘度を有する粘度調整液を含む希釈液を添加し、希釈後の前駆体溶液中の金属元素濃度を0.2〜0.5mol/Lに調整することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体膜形成用塗布液の製造方法に関し、さらに詳しくは、保存性の良好な安定性の高い塗布液であって、無機EL素子に用いる誘電体層等に好適な、平坦性に優れ、空隙の少ない緻密な表面を有する誘電体層を得ることができる誘電体膜形成用塗布液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機エレクトロルミネッセンスは、分散型と薄膜(2重絶縁構造)型に大別されるが、その製法は簡便であるため、大型広告やフレキシブルディスプレイに用いられていたが、明るさや色の種類が限られていた。しかしながら、発光材料として無機化合物を用いるので、有機エレクトロルミネッセンスに比べて信頼性が高く、安定で長寿命である特徴を有し、従来、医療機器や放送局用VTRの操作パネルとして、また最近では車のダッシュボード用表示パネルとして実用化されている。なお、エレクトロルミネッセン(以下、ELと呼称する。)材料は、透明であるので、赤、緑及び青の3原色の材料を重ね合わせることができ、原理的には、従来のディスプレイに比べて、格段に高精細なカラー表示が可能である。しかしながら、従来、青色EL素子の発光は緑色がかったものであり、鮮やかな青色で明るく発光する材料がなかったことにより、フルカラー化が阻まれていた。ところが、最近、高輝度・高寿命の青色発光材料が提案され、再度、無機ELディスプレイが注目されている。
【0003】
ところで、無機EL素子は、電極−誘電体層(1)−発光層−誘電体層(2)−電極から構成されるのサンドイッチ構造を有する。この中で、特に誘電体層(1)は、その特性が、素子の明るさや寿命(絶縁耐圧)に関係するので、重要な部材である。
ここで、この誘電体層(1)は、誘電体の前駆体溶液を使用し、塗布法や印刷法で成膜され、次いで高温で焼成することにより形成される。なお、誘電体層(1)の厚さとしては、数ミクロンほどある。ところが、一般に、焼成後の誘電体層の表面は、前駆体溶液に含有される有機物の揮発により凹凸や空隙が著しく、このままではEL素子として使用することができない。すなわち、激しい凹凸表面上に発光層を設けると、鮮明な画像を得ることができないので、誘電体層の表面を平坦化する必要がある。
【0004】
ところで、上記無機EL素子の誘電体層を形成する際、塗布用の誘電体の前駆体溶液としては、例えば、次の(イ)〜(ハ)の方法で製造される、薄膜キャパシタ作製時に用いられるBaTiO(BT)、BaSr TiO(BST)等の金属アルコキシドを含む溶液を用いることが考えられる。
(イ)バリウムおよびチタンの金属石鹸を使用し、600〜1300℃で結晶化させるチタン酸バリウム薄膜の形成する(例えば、特許文献1参照。)。
(ロ)酢酸バリウム等のカルボン酸バリウム塩とチタンイソプロポキシドの原料を、エチレングリコールモノメチルエーテルを含む有機溶媒に溶解し、これを加水分解してチタン酸バリウム薄膜形成用組成物とする(例えば、特許文献2参照。)。
(ハ)カルボン酸バリウム塩、ストロンチウム塩と、チタンイソプロポキシドとの原料を、エステルとした有機溶媒に溶解し、チタン酸バリウムストロンチウム薄膜形成用組成物ととする(例えば、特許文献3参照。)。
【0005】
しかしながら、これらの方法においては、多くの技術的課題があり、実用上の問題があった。例えば、(イ)では、焼成での金属石鹸の熱分解時にバリウム及びストロンチウムの炭酸塩は生成されないが、有機成分の揮発による質量変化が大きいため、形成される薄膜にクラックが発生したり、膜の収縮が大きくなるという問題が生じる。
また、(ロ)では、原料にカルボン酸塩を用いるため、焼成での結晶化の際に800℃を超える高温が必要である。これにより、絶縁性の悪化が避けられず、リーク電流が大きいために実用化には至っていない。この悪化原因は、高温焼成による膜の急激な収縮、或いは下地電極との反応等により、薄膜内に微小なクラック又はボイドが発生するためと考えられる。
また、(ハ)では、溶剤にエステルを用いることで、有機成分の揮発による質量変化は小さく、クラックの発生及び膜の収縮は生じにくい。しかしながら、高価なカルボン酸バリウム塩、カルボン酸ストロンチウム塩を用いなければならないこと、下地電極に金属膜を用いた場合に濡れ性が悪く塗膜の均一性が得られにくいこと、さらに溶剤がエステルのみであると外気による保存性が悪化してしまうこと等の問題があった。
【0006】
さらに、これらの方法で得られる前駆体溶液を、無機EL素子の誘電体層を形成する際の塗布液として用いたときには、さらに重大な問題を抱えている。すなわち、塗布後の面の凹凸を緩和するため、塗膜の均一性が重要となるため、上記前駆体溶液を用いた場合の塗布方法としては、液を滴下した後、スピンコートで膜形成する際、この操作を5〜6回繰返し、凹凸を解消した所望の厚さの膜を得る方法が必須である。このため、膜形成に時間がかかり、生産性に問題が生じる。また、上記前駆体溶液を用いた場合、塗布液を酸化物基板等の凹凸の激しい面に塗膜した場合、粘度によって、液のはじきによる塗膜の均一性の低下、又は穴等の欠陥の発生による膜表面の平坦性の低下が生じる。
これらの問題を改善するため、塗布液の構成成分として高粘性の有機溶媒を使用する場合には、塗布で使用する針先ノズルの詰まり、及び焼成時に生じる空隙や膜割れ等の欠陥生成が問題となっていた。
【0007】
以上のような状況から、平坦性に優れ、空隙の少ない緻密な表面を有する誘電体層を得ることができる塗布液が求められていた。
【特許文献1】特開平1−308801号公報(第1頁)
【特許文献2】特開平1−100024号公報(第1頁)
【特許文献3】特開平8−337421号公報(第1頁、第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、保存性の良好な安定性の高い塗布液であって、無機EL素子に用いる誘電体層等に好適な、平坦性に優れ、空隙の少ない緻密な表面を有する誘電体層を得ることができる誘電体膜形成用塗布液の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために、誘電体膜形成用塗布液の製造方法について、鋭意研究を重ねた結果、特定の前駆体溶液中に、特定の希釈液を添加し、希釈後の前駆体溶液中の金属元素濃度を特定値に調整したところ、保存性の良好な安定性の高い塗布液が得られ、それを用いて、平坦性に優れ、空隙の少ない緻密な表面を有する誘電体層を形成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、下記の要件(1)を満足する前駆体溶液(a)中に、下記の要件(2)〜(5)を満足する有機溶媒、高分子樹脂及び粘度調整液を含む希釈液を添加し、希釈後の前駆体溶液(b)中の金属元素濃度を0.2〜0.5mol/Lに調整することを特徴とする誘電体膜形成用塗布液の製造方法が提供される。
要件(1):前記前駆体溶液(a)は、アルコール類、エステル類及びカルボン酸からなる混合溶剤中に、バリウム、ストロンチウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属元素を含む有機酸塩と、チタン、スズ及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む金属アルコキシドを含有する。
要件(2):前記有機溶媒は、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、酢酸ブチル、酪酸ブチル、又は酢酸イソペンチルから選ばれる少なくとも1種である。
要件(3):前記高分子樹脂は、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル又はこれらの共重合体から選ばれる少なくとも1種であって、その平均分子量(Mn)が5000〜200000である。
要件(4):前記粘度調整液は、リシノール酸グリセリドを含み、その粘度が25℃で500〜1000mPa・sである。
要件(5):前記希釈液の有機溶媒、高分子樹脂及び粘度調整液の配合割合は、有機溶媒100容量部に対して、高分子樹脂が30〜60容量部、及び粘度調整液が8〜23容量部である。
【0011】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記前駆体溶液(a)の金属元素濃度は、0.3〜1.0mol/Lであることを特徴とする誘電体膜形成用塗布液の製造方法が提供される。
【0012】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、前記前駆体溶液(a)は、下記の工程(1)〜(3)を含む調製方法により得られることを特徴とする誘電体膜形成用塗布液の製造方法が提供される。
工程(1):1−ブタノール、1−ペンタノール、3メチル−1ブタノール、2メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、及び2−メチル−1−プロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコール類、酢酸ブチル、酢酸イソペンチル及び酪酸ブチルからなる群から選ばれる少なくとも1種のエステル類、並びに2−エチルヘキサン酸からなる混合溶剤を混合し、不活性ガス雰囲気下に100〜110℃の温度で環流させながら、バリウム、ストロンチウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属元素の金属、そのアルコキシド又はカルボン酸塩を添加し、攪拌して、金属元素濃度が0.3〜1.0mol/Lの有機酸塩液(A)を調製する。
工程(2):チタン、スズ及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素のアルコキシドを、1−ブタノール、1−ペンタノール、3メチル−1ブタノール、2メチル−1ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、及び2−メチル−1−プロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコール類、又は酢酸ブチル、酢酸イソペンチル及び酪酸ブチルからなる群から選ばれる少なくとも1種のエステル類のいずれかからなる溶剤中に添加し、大気下に20〜60℃の温度で攪拌して、金属元素濃度が0.3〜1.0mol/Lのアルコキシド液(B)を調製する。
工程(3):前記有機酸塩液(A)と前記アルコキシド液(B)を冷却しておき、その後、両者を、前者に含まれる金属元素の合計量と後者に含まれる金属元素の合計量とがモル比で等しくなるような配合割合で混合した後、不活性ガス雰囲気下に100〜110℃の温度で攪拌して、前駆体溶液を合成する。
【0013】
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、前記希釈液は、まず前記有機溶媒を準備し、50〜80℃の温度に加熱しながら、前記高分子樹脂を溶解し、次いで粘度調整液を混合することにより得られることを特徴とする誘電体膜形成用塗布液の製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4いずれかの発明において、前記希釈後の前駆体溶液(b)の粘度は、25℃で5〜15mPa・sであることを特徴とする誘電体膜形成用塗布液の製造方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5いずれかの発明において、前記希釈後の前駆体溶液(b)を塗布液として用いた際、平均表面粗さ(Ra)が270nmであるSiO基板上に1回塗布し、次いでスピンコートにより塗布し、乾燥後、600℃の温度で30分間焼成して得られる誘電体膜の平均表面粗さ(Ra)が150nm以下であることを特徴とする誘電体膜形成用塗布液の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の誘電体膜形成用塗布液の製造方法は、得られた塗布液を用いて誘電体膜を形成する際、従来技術では得ることが困難であった、平坦性に優れ、かつ空隙の少ない緻密な表面を有する誘電体層を形成することができ、例えば、無機EL素子の誘電体層に用いた場合、より鮮明な画像が得られるので、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の誘電体膜形成用塗布液の製造方法を詳細に説明する。
本発明の誘電体膜形成用塗布液の製造方法は、下記の要件(1)を満足する前駆体溶液(a)中に、下記の要件(2)〜(5)を満足する有機溶媒、高分子樹脂及び粘度調整液を含む希釈液を添加し、希釈後の前駆体溶液(b)中の金属元素濃度を0.2〜0.5mol/Lに調整することを特徴とする。
要件(1):前記前駆体溶液(a)は、アルコール類、エステル類及びカルボン酸からなる混合溶剤中に、バリウム、ストロンチウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属元素を含む有機酸塩と、チタン、スズ及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む金属アルコキシドを含有する。
要件(2):前記有機溶媒は、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、酢酸ブチル、酪酸ブチル、又は酢酸イソペンチルから選ばれる少なくとも1種である。
要件(3):前記高分子樹脂は、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル又はこれらの共重合体から選ばれる少なくとも1種であって、その平均分子量(Mn)が5000〜200000である。
要件(4):前記粘度調整液は、リシノール酸グリセリドを含み、その粘度が25℃で500〜1000mPa・sである。
要件(5):前記希釈液の有機溶媒、高分子樹脂及び粘度調整液の配合割合は、有機溶媒100容量部に対して、高分子樹脂が30〜60容量部、及び粘度調整液が8〜23容量部である。
【0018】
本発明の誘電体膜形成用塗布液の製造方法において、上記要件(1)を満足する前駆体溶液(a)中に、希釈後の前駆体溶液(b)中の金属元素濃度が0.2〜0.5mol/Lになるように、上記の要件(2)〜(5)を満足する有機溶媒、高分子樹脂及び粘度調整液を含む希釈液を添加することが重要である。これによって、希釈後の前駆体溶液の粘度が適切に調整されるとともに、希釈液中の高分子樹脂の作用効果等が相俟って、これを塗布液として用いた際、平坦性に優れ、空隙の少ない緻密な表面を有する誘電体層が得られる。
【0019】
1.前駆体溶液(a)とその調製方法
上記製造方法に用いる前駆体溶液(a)としては、アルコール類、エステル類及びカルボン酸からなる混合溶剤中に、バリウム、ストロンチウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む有機酸塩と、チタン、スズ及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む金属アルコキシドを含有するものである。
【0020】
上記混合溶剤としては、アルコール類、エステル類及びカルボン酸からなるものであるが、アルコール類として、1−ブタノール、1−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール等、エステル類として、酢酸ブチル、酢酸イソペンチル、酪酸ブチル等、及びカルボン酸として2−エチルヘキサン酸からなるものである。
【0021】
以下に、上記前駆体溶液(a)の調製方法を説明する。
上記前駆体溶液(a)を調製する方法としては、特に限定されるものではないが、アルカリ土類金属元素を含む有機酸塩液(A)とTi、Sn及びZrからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含むアルコキシド液(B)を別途調製したのち、所定の割合で両者を配合して前駆体溶液を調製する、例えば、下記の工程(1)〜(3)を含む方法が好ましい。
工程(1):1−ブタノール、1−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、及び2−メチル−1−プロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコール類、酢酸ブチル、酢酸イソペンチル及び酪酸ブチルからなる群から選ばれる少なくとも1種のエステル類、並びに2−エチルヘキサン酸からなる混合溶剤を混合し、不活性ガス雰囲気下に100〜110℃の温度で環流させながら、バリウム、ストロンチウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属元素の金属、そのアルコキシド又はカルボン酸塩を添加し、攪拌して、金属元素濃度が0.3〜1.0mol/Lの有機酸塩液(A)を調製する。
工程(2):チタン、スズ及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素のアルコキシドを、1−ブタノール、1−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、及び2−メチル−1−プロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコール類、又は酢酸ブチル、酢酸イソペンチル及び酪酸ブチルからなる群から選ばれる少なくとも1種のエステル類のいずれかからなる溶剤中に添加し、大気下に20〜60℃の温度で攪拌して、金属元素濃度が0.3〜1.0mol/Lのアルコキシド液(B)を調製する。
工程(3):前記有機酸塩液(A)と前記アルコキシド液(B)を冷却しておき、その後、両者を、前者に含まれる金属元素の合計量と後者に含まれる金属元素の合計量とがモル比で等しくなるような配合割合で混合した後、不活性ガス雰囲気下に100〜110℃の温度で攪拌して、前駆体溶液を合成する。
【0022】
(a)工程(1):有機酸塩液(A)の調製
有機酸塩液(A)の調製方法としては、まず、所定の混合溶剤を不活性ガス雰囲気下に100〜110℃の温度で環流させながら加熱しておく。次に、配合対象であるBa、Sr、Mg及びCaからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属元素の金属或いはこれらのアルコキシド又はカルボン酸塩を原料として添加して溶解する。なお、原料によっては、溶解が進むと溶解熱により温度上昇が著しいため注意を要する。ここで、1〜3時間攪拌して加熱溶解する。ここで、混合溶剤を使用する際の特徴としては、溶解が容易であり、溶剤単独でも水混和性が低いため、保存性は従来よりも優れたものができることである。
すなわち、加熱温度が100℃未満では、有機酸塩の形成が不十分である。一方、加熱温度が110℃を超えると、有機溶剤の揮発が活発になる。
【0023】
上記有機酸塩液(A)の金属濃度としては、特に限定されるものではないが、0.3〜1.0mol/Lが好ましい。すなわち、金属元素濃度が0.3mol/L未満では、濃度が希薄なため生産性が低下し、一方、金属元素濃度が1.0mol/Lを超えると、溶解が不十分になり液が安定しない問題がある。
【0024】
上記前駆体溶液(a)の調製方法において使用される混合溶剤としては、アルコール類として、1−ブタノール、1−ペンタノール、3メチル−1−ブタノール、2メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール等、エステル類として、酢酸ブチル、酢酸イソペンチル、酪酸ブチル等、及びカルボン酸として2−エチルヘキサン酸からなるものであるが、この中で、アルコール類として2メチル−1−ブタノール、エステル類として酢酸ブチル又は酪酸ブチル及びカルボン酸として2−エチルヘキサン酸からなるものが好ましい。
【0025】
上記混合溶剤の配合比率としては、アルコール類、エステル類及びカルボン酸の各々から少なくとも1種類以上の溶剤を所望の割合で配合することが好ましい。例えば、アルカリ土類金属元素の金属の溶解にアルコール類、エステル類、及びカルボン酸からなる混合溶剤を用いるときには、混合溶剤の配合割合としては、アルコール類100容量部に対して、エステル類が50〜100容量部、及び2−エチルヘキサン酸が50容量部であることが好ましい。これにより、液溶解性や安定性が高まる。例えば、カルボン酸を加えず、アルコールとエステルとの混合溶剤では、金属アルコキシドの溶解度や液保存性がやや劣る。
【0026】
(b)工程(2):アルコキシド液(B)の調製
アルコキシド液(B)の調製方法としては、Ti、Sn及びZrからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む金属アルコキシド、或いはカルボン酸塩を原料として用いて、これを、1−ブタノール、1−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、及び2−メチル−1−プロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコール類、又は酢酸ブチル、酢酸イソペンチル、又は酪酸ブチルからなる群から選ばれる少なくとも1種のエステル類のいずれかからなる溶剤に添加し、大気下に20〜60℃の温度で0.2〜2時間攪拌して溶解する。すなわち、加熱温度が20℃未満では、金属アルコキシドの形成が不十分である。一方、加熱温度が60℃を超えると、有機溶剤の揮発が活発になる。
【0027】
上記有機酸塩液(A)の金属濃度としては、特に限定されるものではないが、0.3〜1.0mol/Lが好ましい。すなわち、金属元素濃度が0.3mol/L未満では、濃度が希薄になると生産性が低下し、一方、金属元素濃度が1.0mol/Lを超えると、溶解が不十分となり液が安定しない。
【0028】
なお、原料のうち、金属アルコキシドとしては、メトキシド、エトキシド、イソプロポキシド、又はブトキシドが挙げられるが、特に、適当な反応速度であることから、イソプロポキシド又はブトキシドが好ましい。また、カルボン酸塩としては、酢酸塩、又はエチルヘキサン酸塩の化合物を用いることができる。
【0029】
(c)工程(3):前駆体溶液(a)の合成
前駆体溶液の合成方法としては、上記有機酸塩液(A)及びアルコキシド液(B)を冷却後、各液中に含まれる金属量がモル比で1:1になるように、両液を配合し混合する。次いで、不活性ガス雰囲気下に100〜110℃の温度で、反応が十分行われる時間、例えば2時間以上攪拌し、構成元素を含む化合物を合成する。
ここで、合成温度の制御が重要であり、温度が100℃未満では、構成元素が単独で存在して加水分解速度に差が生じて膜組成の均一性が劣る。一方、温度が110℃を超えると、溶剤の揮発が活発化するだけでなく、内容物も同時に揮発して組成ずれが起こる。
【0030】
以上のように、上記前駆体溶液の調製方法おいては、溶解時、合成の加熱において環流させながら行うため、溶剤からの揮発成分がなく液組成の変動がないという特徴がある。
したがって、上記前駆体溶液(a)の金属元素濃度としては、有機酸塩液(A)とアルコキシド液(B)の金属元素濃度により、0.3〜1.0mol/Lの範囲に調整される。
【0031】
2.希釈液とその調製方法
上記製造方法に用いる希釈液としては、有機溶媒、高分子樹脂及び粘度調整液を含むものである。その調製方法としては、まず有機溶媒を準備し、これに高分子樹脂を溶解し、さらに粘度調整液を混合する。ここで、溶解及び混合に際し、特に加熱することは不要であるが、50〜80℃の温度に加熱するとより溶解が促進される。
【0032】
上記有機溶媒としては、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、酢酸ブチル、酪酸ブチル、又は酢酸イソペンチルから選ばれる少なくとも1種を用いる。
【0033】
上記高分子樹脂としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル又はこれらの共重合体から選ばれる少なくとも1種であって、その平均分子量(Mn)としては、5000〜200000、好ましくは5000〜10000である。
【0034】
上記粘度調整液としては、リシノール酸グリセリドを含み、その粘度としては、25℃で、500〜1000mPa・sであり、600〜800mPa・sが好ましい。
【0035】
上記希釈液中の有機溶媒、高分子樹脂及び粘度調整液の配合割合としては、有機溶媒100容量部に対して、高分子樹脂が30〜60容量部、及び粘度調整液が8〜23容量部であることが好ましい。
【0036】
3.誘電体膜形成用塗布液の製造
上記前駆体溶液(a)に、上記希釈液を混合し、希釈後の前駆体溶液(b)中の金属元素濃度が0.2〜0.5mol/Lになるように調整して誘電体膜形成用塗布液を得る。すなわち、金属元素濃度が0.2mol/L未満では、得られる塗布液の濃度が希薄になるため、1回の塗膜で形成される高誘電体膜の厚さが薄いので、塗膜回数が上昇し生産性が低下する。一方、金属元素濃度が0.5mol/Lを超えると、得られる塗布液の濃度が高くなるので、塗膜の焼成時に膜割れが生じる。
これにより、希釈後の前駆体溶液(b)の粘度としては、例えば、実施例で記載する評価方法で、25℃で5〜15mPa・sの範囲となり、平坦性に優れた表面を有する誘電体層を得ることができる。なお、前記粘度が5mPa・s未満では、一回あたりの塗膜の厚さが改善されない。一方、前記粘度が15mPa・sを超えると、スピンコートを行うときの膜厚分布にむらが生じる。
【0037】
上記、希釈後の前駆体溶液(b)では、樹脂成分により、乾燥時による外気の影響を受けにくくするばかりでなく、クラック、空隙等の問題が生じることはない。また、熱分解性に優れた樹脂成分を選定したために、焼成において残滓を形成することもなく、誘電体膜の誘電特性に低下は見られない。さらに、従来の上記樹脂成分を含有しない塗布液がその低粘度と濡れ性不良のために不向きであった酸化物基板等で使用に際しても、凹凸の激しい面に塗膜しても、その膜表面の平坦性を改善することもできるという大きな利点を有する。すなわち、例えば、EL素子の作製では、ガラス基板上に電極、誘電体ペーストを塗り、加熱して数ミクロンの誘電体層を形成するが、通常、樹脂及びペースト成分の揮発で大きな穴や亀裂が生じる。こうした誘電体層の表面の欠陥、多孔質の膜質、凹凸形状等があると、その上に蒸着法又はスパッタリング法等の気相堆積法で形成される発光層が、表面形状に追随するため平滑に形成することができない。このような基板の非平坦部に形成された発光層部には効果的に電界を印加することができないので、有効発光面積が減少したり、膜厚の局所的な不均一性から発光層が部分的に絶縁破壊を生じ、発光輝度の低下を生じるといった問題がある。これに対し、本発明の誘電体膜形成用塗布液を使用すれば、スムーズに穴表面を被覆して修復することができる。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた塗布液の評価方法及び薄膜の形成方法と評価方法は、以下の通りである。
(1)金属の分析:ICP発光分析法で行った。
【0039】
(2)塗布液の評価方法:次の(イ)〜(ホ)の評価を行った。
(イ)塗布液の粘度測定:室温を25℃に保ち、B型回転式粘度計を用いて5分間測定した。
(ロ)塗布膜の緻密性の評価:BaTiO焼結体基板を鏡面研磨し、その表面にスピンコートで塗膜、乾燥して、600℃で30分の熱処理を行う。膜形成後、10万倍のSEM観察で、平均空隙径及び最大空隙径を求めた。
(ハ)塗布膜の平坦性の評価:平均表面粗さ(Ra)が270nmであるSiO基板を用い、表面にスピンコートで塗膜、乾燥して、600℃で30分の熱処理を行った。膜形成後、AFM観察で塗膜の平均表面粗さ(Ra)を求めた。
(ニ)塗布膜の厚さの評価:鏡面研磨したSiO/Si基板の一部にマスキングテープを貼り、表面にスピンコートで塗膜後、テープを剥がして段差を設けた。次いで、乾燥後、600℃で30分の熱処理を行い膜形成した。その後、段差計により塗布膜の厚さを求めた。
(ホ)塗布液の安定性の評価:25℃、45%RHに保った環境下で塗布液を1週間放置して、沈殿物の有無を調べた。
【0040】
(実施例1)
(1)前駆体溶液の調製
まず、2−メチル−1−ブタノール、酢酸ブチル及び2−エチルヘキサン酸を、容量比で2−メチル−1−ブタノール:酢酸ブチル:2−エチルヘキサン酸:=100:50:50で配合した混合溶剤中に、モル比で金属バリウム:金属ストロンチウム=0.7:0.3の割合で秤量した金属バリウムと金属ストロンチウムを添加し、窒素雰囲気下に110℃で2時間攪拌混合して、金属元素濃度0.8mol/Lのバリウムストロンチウム有機酸塩液(A)を調製した。また、酢酸ブチルに、チタンイソプロポキシドを添加し、大気雰囲気下に25℃で0.4時間攪拌溶解して、Ti濃度0.8mol/Lのチタンアルコキシド液(B)を調製した。
次に、モル比でバリウムとストロンチウムの合計量:チタン=1:1になるように、バリウムストロンチウム有機酸塩液(A)中にチタンアルコキシド液(B)を滴下し、窒素雰囲気下に110℃で2時間攪拌混合して、金属元素濃度0.8mol/Lの前駆体溶液を得た。
【0041】
(2)塗布液の製造
上記前駆体溶液と、以下の手順により調製した希釈液とを、容量比で1:1で混合し、昼夜放置後、金属元素濃度0.4mol/Lの塗布液を得た。
[希釈液の調製]
まず、有機溶媒として2−メチル−1−ブタノールに、高分子樹脂成分である平均分子量(Mn)が15万であるメタクリル酸ブチル・アクリル酸ブチルの共重合体を加えて、大気下に60℃で1時間攪拌溶解した。次に、得られた液に、粘度調整液として粘度600mPa・sのリシノール酸グリセリドを室温で添加し、塗布液を得た。このときの有機溶媒、高分子樹脂成分、粘度調整液の配合割合は、有機溶媒100容量部に対し、高分子樹脂が44容量部及び粘度調整液が16容量部とした。
その後、得られた塗布液の粘度及び安定性、並びに塗布膜の厚さ、緻密性及び平坦性を評価した。結果を表1、2に示す。
【0042】
(実施例2)
以下の手順で調製した希釈液を用いたこと以外は、実施例1と同様に行い、その後、得られた塗布液の粘度及び安定性、並びに塗布膜の厚さ、緻密性及び平坦性を評価した。結果を表1、2に示す。
[希釈液の調製]
まず、有機溶媒として酢酸イソペンチルと1−ブタノールを容量比で酢酸イソペンチル:1−ブタノール=4:1に配合した溶剤に、高分子樹脂成分である平均分子量(Mn)が1万である、メタクリル酸メチルとメタクリル酸ブチルとを容量比でメタクリル酸メチル:メタクリル酸ブチル=1:1で配合したものを加えて、大気下に60℃で溶解した。次に、得られた液に、粘度調整液として粘度600mPa・sのリシノール酸グリセリドを室温で添加し、塗布液を得た。このときの有機溶媒、高分子樹脂成分、粘度調整液の配合割合は、有機溶媒100容量部に対し、高分子樹脂が31容量部及び粘度調整液が23容量部とした。
【0043】
(実施例3)
以下の手順で調製した希釈液を用いたこと、及び前駆体溶液と希釈液とを容量比で2:3で混合し、金属元素濃度0.3mol/Lの塗布液を得たこと以外は、実施例1と同様に行い、その後、得られた塗布液の粘度及び安定性、並びに塗布膜の厚さ、緻密性及び平坦性を評価した。結果を表1、2に示す。
[希釈液の調製]
まず、有機溶媒として2−メチル−1−プロパノールと酢酸ブチルとを容量比で2−メチル−1−プロパノール:酢酸ブチル=2:1に配合した溶剤に、高分子樹脂成分である平均分子量(Mn)が15万である、メタクリル酸ブチル・アクリル酸ブチルの共重合体を加えて、大気下に60℃で溶解した。次に、得られた液に、粘度調整液として粘度600mPa・sのリシノール酸グリセリドを室温で添加し、塗布液を得た。このときの有機溶媒、高分子樹脂成分、粘度調整液の配合割合は、有機溶媒100容量部に対し、高分子樹脂が58容量部及び粘度調整液が8容量部とした。
【0044】
(実施例4)
前駆体溶液と希釈液とを容量比で1:1で混合し、金属元素濃度0.4mol/Lの塗布液を得たこと以外は、実施例3と同様に行い、その後、得られた塗布液の粘度及び安定性、並びに塗布膜の厚さ、緻密性及び平坦性を評価した。結果を表1、2に示す。
【0045】
(実施例5)
前駆体溶液と希釈液とを容量比で3:2で混合し、金属元素濃度0.5mol/Lの塗布液を得たこと以外は、実施例3と同様に行い、その後、得られた塗布液の粘度及び安定性、並びに塗布膜の厚さ、緻密性及び平坦性を評価した。結果を表1、2に示す。
【0046】
(比較例1)
希釈液の調製において、2−メチル−1−ブタノールのみを用い、高分子樹脂と粘度調整液を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様に行い、その後、得られた塗布液の粘度及び安定性、並びに塗布膜の厚さ、緻密性及び平坦性を評価した。結果を表1、2に示す。これより、低粘度のため、平坦性に劣ることが分かる。
【0047】
(比較例2)
希釈液の調製において、高分子樹脂として平均分子量(Mn)が300であるポリエチレングリコールを使用したこと以外は、実施例1と同様に行い、その後、得られた塗布液の粘度及び安定性、並びに塗布膜の厚さ、緻密性及び平坦性を評価した。結果を表1、2に示す。なお、平均分子量が低い樹脂を選定したため、塗布膜は割れてしまい、平坦な膜が得られなかった。
【0048】
(比較例3)
希釈液の調製において、高分子樹脂として平均分子量(Mn)が35万であるメタクリル酸ブチル・アクリル酸ブチルの共重合体を使用したこと以外は、実施例1と同様に行い、その後、得られた塗布液の粘度及び安定性、並びに塗布膜の厚さ、緻密性及び平坦性を評価した。結果を表1、2に示す。なお、平均分子量が高い樹脂を選定したため、緻密な膜が得られなかった。
【0049】
(比較例4)
希釈液の調製において、有機溶媒、高分子樹脂及び粘度調整液の配合割合を、容量比で有機溶媒100容量部に対し、高分子樹脂が44容量部及び粘度調整液が40容量部としたこと以外は、実施例1と同様に行い、その後、得られた塗布液の粘度及び安定性、並びに塗布膜の厚さ、緻密性及び平坦性を評価した。結果を表1、2に示す。なお、液粘度を高くしたため、平坦な膜が得られなかった。
【0050】
(比較例5)
希釈液の調製において、高分子樹脂を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様に行い、その後、得られた塗布液の粘度及び安定性、並びに塗布膜の厚さ、緻密性及び平坦性を評価した。結果を表1、2に示す。なお、高分子樹脂を配合しなかったため、膜割れしてしまい、平坦な膜が得られなかった。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
表1、2より、実施例1〜5では、特定の前駆体溶液中に、特定の有機溶媒、高分子樹脂及び粘度調整液を含む希釈液を添加し、希釈後の前駆体溶液中の金属元素濃度を0.2〜0.5mol/Lに調整し、本発明に従って行なわれたので、保存性の良好な安定性の高い塗布液が得られ、これを用いて塗布した際、平坦性に優れ、空隙の少ない緻密な表面を有する誘電体層が得られることが分かる。
これに対して、比較例1〜5では、有機溶媒、高分子樹脂及び粘度調整液の種類又はその配合割合が本発明の条件に合わないので、得られた塗布液において粘度或いは高分子樹脂の平均分子量等の問題があり、塗布膜が割れたり、平坦な膜又は緻密な膜が得られなかったり、満足すべき結果が得られないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上より明らかなように、本発明の誘電体膜形成用塗布液の製造方法は、保存性の良好な安定性の高い塗布液であって、平坦性に優れ、空隙の少ない緻密な表面を有する誘電体層を得ることができるので、無機EL素子に用いる誘電体層等、平坦性又は緻密性を重視する基板表面を改質する用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の要件(1)を満足する前駆体溶液(a)中に、下記の要件(2)〜(5)を満足する有機溶媒、高分子樹脂及び粘度調整液を含む希釈液を添加し、希釈後の前駆体溶液(b)中の金属元素濃度を0.2〜0.5mol/Lに調整することを特徴とする誘電体膜形成用塗布液の製造方法。
要件(1):前記前駆体溶液(a)は、アルコール類、エステル類及びカルボン酸からなる混合溶剤中に、バリウム、ストロンチウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属元素を含む有機酸塩と、チタン、スズ及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む金属アルコキシドを含有する。
要件(2):前記有機溶媒は、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、酢酸ブチル、酪酸ブチル、又は酢酸イソペンチルから選ばれる少なくとも1種である。
要件(3):前記高分子樹脂は、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル又はこれらの共重合体から選ばれる少なくとも1種であって、その平均分子量(Mn)が5000〜200000である。
要件(4):前記粘度調整液は、リシノール酸グリセリドを含み、その粘度が25℃で500〜1000mPa・sである。
要件(5):前記希釈液の有機溶媒、高分子樹脂及び粘度調整液の配合割合は、有機溶媒100容量部に対して、高分子樹脂が30〜60容量部、及び粘度調整液が8〜23容量部である。
【請求項2】
前記前駆体溶液(a)の金属元素濃度は、0.3〜1.0mol/Lであることを特徴とする請求項1に記載の誘電体膜形成用塗布液の製造方法。
【請求項3】
前記前駆体溶液(a)は、下記の工程(1)〜(3)を含む調製方法により得られることを特徴とする請求項1に記載の誘電体膜形成用塗布液の製造方法。
工程(1):1−ブタノール、1−ペンタノール、3メチル−1ブタノール、2メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、及び2−メチル−1−プロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコール類、酢酸ブチル、酢酸イソペンチル及び酪酸ブチルからなる群から選ばれる少なくとも1種のエステル類、並びに2−エチルヘキサン酸からなる混合溶剤を混合し、不活性ガス雰囲気下に100〜110℃の温度で環流させながら、バリウム、ストロンチウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属元素の金属、そのアルコキシド又はカルボン酸塩を添加し、攪拌して、金属元素濃度が0.3〜1.0mol/Lの有機酸塩液(A)を調製する。
工程(2):チタン、スズ及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素のアルコキシドを、1−ブタノール、1−ペンタノール、3メチル−1ブタノール、2メチル−1ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、及び2−メチル−1−プロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコール類、又は酢酸ブチル、酢酸イソペンチル及び酪酸ブチルからなる群から選ばれる少なくとも1種のエステル類のいずれかからなる溶剤中に添加し、大気下に20〜60℃の温度で攪拌して、金属元素濃度が0.3〜1.0mol/Lのアルコキシド液(B)を調製する。
工程(3):前記有機酸塩液(A)と前記アルコキシド液(B)を冷却しておき、その後、両者を、前者に含まれる金属元素の合計量と後者に含まれる金属元素の合計量とがモル比で等しくなるような配合割合で混合した後、不活性ガス雰囲気下に100〜110℃の温度で攪拌して、前駆体溶液を合成する。
【請求項4】
前記希釈液は、まず前記有機溶媒を準備し、50〜80℃の温度に加熱しながら、前記高分子樹脂を溶解し、次いで粘度調整液を混合することにより得られることを特徴とする請求項1に記載の誘電体膜形成用塗布液の製造方法。
【請求項5】
前記希釈後の前駆体溶液(b)の粘度は、25℃で5〜15mPa・sであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の誘電体膜形成用塗布液の製造方法。
【請求項6】
前記希釈後の前駆体溶液(b)を塗布液として用いた際、平均表面粗さ(Ra)が270nmであるSiO基板上に1回塗布し、次いでスピンコートにより塗布し、乾燥後、600℃の温度で30分間焼成して得られる誘電体膜の平均表面粗さ(Ra)が150nm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の誘電体膜形成用塗布液の製造方法。

【公開番号】特開2009−295530(P2009−295530A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150370(P2008−150370)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】