説明

調圧リリーフ弁

【課題】建築物の免制震用途の緩衝器に適し、緩衝器に建築物の振動を抑制するのに最適な減衰力を発揮させることが可能な調圧リリーフ弁を提供することである。
【解決手段】上記した目的を解決するために、本発明における課題解決手段は、環状弁座4を備えた弁孔3を有する筒状のハウジング2と、弁孔3内に移動自在に収容されて環状弁座4に離着座する弁体5と、弁孔3内に設けたばね座10と、弁体5とばね座10との間に介装されて弁体5を環状弁座4に向けて附勢するばね14とを備えて免制震ダンパDに搭載される調圧リリーフ弁1において、ハウジング2の外周から弁孔3内に突出して弁体5の環状弁座4からの後退量が所定量となると弁体3に衝合して弁体5の環状弁座4からのそれ以上の後退を規制するストッパ16を設けたことを特徴する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調圧リリーフ弁の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の調圧リリーフ弁にあっては、たとえば、特に高減衰力を発生する免震用途などで使用されるダンパの内部に設けた二つの圧力室を連通する通路の途中に設けられ、環状弁座を備えた弁孔を有する筒状のハウジングと、環状弁座に離着座自在とされて弁孔内に収容される弁体と、弁孔の内周に螺着されるばね座と、弁体とばね座との間に介装されて弁体を環状弁座へ向けて附勢するコイルばねとを備えて構成されるものが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
この調圧リリーフ弁は、弁孔に対してばね座側から圧力を受ける場合には弁体が環状弁座に着座して弁孔を閉じ、反対に、環状弁座側から圧力を受けると弁体が環状弁座から後退して弁孔を開放して流体の流れを許容するようになっている。より具体的には、ダンパが作動した際に、弁孔の環状弁座側が圧縮側の圧力室に対向する場合、上昇する圧力室内の圧力によって弁体を弁孔内へ押し込む力が弁体を附勢するコイルばねの附勢力に打ち勝つと、弁体が環状弁座から離座して開弁し、圧縮側の圧力室と拡大側の圧力室とを弁孔内を介して連通せしめる。
【0004】
その際、弁体が環状弁座から離れる方向へ後退し、その後退量が大きくなるほど弁開口面積も大きくなるようになっており、開弁後(リリーフ後)は、当該弁開口面積で調圧リリーフ弁を通過する液体の流量を制御するようになっている。
【0005】
また、この調圧リリーフ弁が適用されるダンパは、調圧リリーフ弁に並列されるコンスタントオリフィスまたは比例弁を備えている。したがって、このダンパは、調圧リリーフ弁が開弁するまではコンスタントオリフィスまたは比例弁によって減衰力を発揮するので、伸縮速度に対して比較的大きなゲインの減衰力が発揮され、調圧リリーフ弁が開弁(リリーフ)すると伸縮速度の上昇に対してゲインが比較的小さい減衰力を出力することになり、このダンパにおける伸縮速度に対する減衰力の特性(減衰力特性)は、図5に示すが如くとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−71232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような調圧リリーフ弁を、特に、建築物の免制震用途に供されるダンパに適用する場合には、以下の不具合があると指摘される可能性がある。
【0008】
ここで、免震装置について説明すると、一般的に、免震装置では、建築物と地盤との間にゴム等の弾性体を介装し、建築物の振動を吸収するために当該弾性体に並列してダンパを介装するようにしている。
【0009】
このように免震装置を適用した建築物は、弾性体によって弾性支持されるが、建築物の質量は非常に大きいため、固有周期(固有振動数の逆数)は、建築物の質量にもよるが、一般的に3秒程度と長い。
【0010】
この免震装置を適用した建築物に地震動が作用しても、地震動の固有周期はこれよりも短く、建築物を共振させることはないとされてきた。ところが、近年、地震波の周波数成分には、長周期地震動と称される極低い周波数成分も含まれることがわかってきた。すると、このような長周期地震動が免震装置を適用した建築物に作用する場合、従来の調圧リリーフ弁がリリーフした後は、ダンパが発生する減衰力が頭打ちとなるため、建築物が共振して、建築物の振動を充分に抑制することができなくなる虞がある。
【0011】
そこで、本発明は、上記不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、建築物の免制震用途の緩衝器に適し、緩衝器に建築物の振動を抑制するのに最適な減衰力を発揮させることが可能な調圧リリーフ弁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を解決するために、本発明における課題解決手段は、環状弁座を備えた弁孔を有する筒状のハウジングと、弁孔内に移動自在に収容されて環状弁座に離着座する弁体と、弁孔内に設けたばね座と、弁体とばね座との間に介装されて弁体を環状弁座に向けて附勢するばねとを備えて免制震ダンパに搭載される調圧リリーフ弁において、ハウジングの外周から弁孔内に突出して弁体の環状弁座からの後退量が所定量となると弁体に衝合して弁体の環状弁座からのそれ以上の後退を規制するストッパを設けたことを特徴する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の調圧リリーフ弁を搭載したダンパは、ピストン速度が所定速度以上となると、減衰係数が大きくなって、より大きな減衰力を発揮して、振動を抑制するので、ダンパを免制震用途で使用する場合、弾性支持される建築物が長周期地震動によって振動励起されて大振幅で振動するような場合に、この振動に対して大きな減衰力を発揮して建築物の振動を効果的に減衰させることができる。
【0014】
また、調圧リリーフ弁を搭載したダンパは、ピストン速度が所定速度以下では、従来の免制震用のダンパと同様に、ピストン速度に対して比較的小さい減衰係数で減衰力を発揮するので、長周期地震動による振動励起がない場合には、減衰力過多とならず、弾性体で地盤側からの地震による振動の建築物への伝達の絶縁を妨げることなく、効果的に振動を減衰することができる。
【0015】
したがって、この調圧リリーフ弁は、ダンパに建築物の振動を抑制するのに最適な減衰力を発揮させることが可能であり、建築物の免制震用途のダンパに最適となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一実施の形態における調圧リリーフ弁の縦断面図である。
【図2】一実施の形態の調圧リリーフ弁を適用した免震用ダンパの概略図である。
【図3】一実施の形態の一変形例における調圧リリーフ弁の縦断面図である。
【図4】一実施の形態の調圧リリーフ弁を適用した免震用ダンパの減衰力特性を示した図である。
【図5】従来の調圧リリーフ弁を適用した免震用ダンパの減衰力特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の調圧リリーフ弁1を図に基づいて説明する。一実施の形態における調圧リリーフ弁1は、図1に示すように、環状弁座4を備えた弁孔3を有する筒状のハウジング2と、弁孔3内に移動自在に収容されて環状弁座4に離着座する弁体5と、弁孔3内に設けたばね座10と、弁体5とばね座10との間に介装されて弁体5を環状弁座4に向けて附勢するばねとしてのコイルばね14と、弁体の環状弁座4からの後退を規制するストッパ16とを備えて構成されている。
【0018】
そして、この調圧リリーフ弁1は、たとえば、図2示すような、ダンパDの内部に設けられる圧力室R1,R2を連通する通路20a,20bの途中に設けられて使用される。このダンパDは、地盤Gと建築物Wとの間に介装されており、また、地盤Gと建築物Wとの間に介装される弾性体Sと協働して免震装置を構成している。より詳しくは、ダンパDは、シリンダ21と、シリンダ21内に摺動自在に挿入されてシリンダ21内に作動油などの液体が充填される二つの圧力室R1,R2を画成するピストン22と、シリンダ21内に移動自在に挿入されてピストン22に連結されるピストンロッド23とを備えて構成されており、この場合、ダンパDは、両ロッド型のダンパとされている。なお、片ロッド型のダンパとされてもよいことは勿論である。
【0019】
また、ピストン22には、通路20a,20bが設けられており、この通路20a,20bの途中に、それぞれ一つの調圧リリーフ弁1が向きを互い違いにして設置されている。そして、このダンパDにあっては、ピストン22が図2中左方へ移動しようとする場合、図中の左方の圧力室R1内の圧力が上昇し、当該圧力が調圧リリーフ弁1のリリーフ圧に達すると、通路20aの途中に設置した調圧リリーフ弁1が開弁して圧力室R1内の流体を図中右方の圧力室R2へ逃がしつつ液体の流れに抵抗を与えて減衰力を発揮する。なお、通路20bの途中に設置した調圧リリーフ弁1は、圧力室R1の圧力を受けて閉じたままとなって、通路20bを遮断する。反対に、ピストン22が図2中右方へ移動しようとする場合、図中の右方の圧力室R2内の圧力が上昇し、当該圧力が調圧リリーフ弁1のリリーフ圧に達すると、通路20bの途中に設置した調圧リリーフ弁1が開弁して圧力室R2内の流体を図中左方の圧力室R1へ逃がしつつ液体の流れに抵抗を与えて減衰力を発揮する。なお、通路20aの途中に設置した調圧リリーフ弁1は、圧力室R2の圧力を受けて閉じたままとなって、通路20aを遮断する。
【0020】
なお、ダンパDは、通路20a,20bに並列して圧力室R1と圧力室R2とを連通するコンスタントオリフィス24を備えており、調圧リリーフ弁1が開弁するまでは、流体は、コンスタントオリフィス24を介して圧力室R1、R2を行き来する。
【0021】
このように、調圧リリーフ弁1は、ダンパDに振動が入力された際に、ダンパDに減衰力を発揮させる減衰弁として作用する。なお、ダンパDの構成は、上記に限られるものではなく、たとえば、ダンパDが片ロッド型で圧力室R1と圧力室R2の他にリザーバタンクを備えて、これらを数珠繋ぎに通路で連通し、ダンパDが伸縮の際に流体をリザーバR、圧力室R2、圧力室R1およびリザーバタンクの順に循環させるユニフローダンパとされる場合には、調圧リリーフ弁1を圧力室R1とリザーバタンクとを連通する通路に圧力室R1からリザーバタンクに向けて流体が流れる際に抵抗を与えるように設置するようにしてもよい。また、ダンパDが、やはり、圧力室R1と圧力室R2の他にリザーバタンクを備えている場合には、ピストンに設けた通路以外にもリザーバタンクと圧力室R1(R2)とを連通する通路の途中にも調圧リリーフ弁1を設けるようにしてもよい。いずれにせよ、調圧リリーフ弁1をダンパDに減衰力を発揮させることが可能なように設置すればよい。
【0022】
戻って、以下、調圧リリーフ弁1の各部について詳しく説明する。ハウジング2は、筒状であって、内部に弁体5が収容される弁孔3が設けられ、この弁孔3の図1中下端内周は縮径されて縮径部3aが形成され、この縮径部3aの形成によって設けられた段部で環状弁座4が形成されている。さらに、弁孔3の図1中上端内周には、螺子部3bが設けられており、この螺子部3bには、環状のナット15が螺着されている。
【0023】
また、ハウジング2には、その側方から開口して弁孔3に通じる複数の螺子孔9が放射状に同じ軸方向位置に穿ってあり、この螺子孔9には、ハウジング2の外方から捩じ込まれる螺子状のストッパ16が螺着されていて、当該ストッパ16の基端はハウジング2の外周から突出しないが、その先端は弁孔3内に突出している。なお、ハウジング2に螺子孔9の換わりに単なる孔を設けておき、ピン状のストッパを上記孔に圧入して固定するようにしてもよい。
【0024】
弁体5は、上記弁孔3内に軸方向へ移動自在に収容され、環状弁座4に離着座する円盤状の弁本体6と、弁本体6の正面側となる図1中下端に形成の円柱状の弁頭7と、弁本体6の反弁頭側に突出されるばね嵌合部8とを備えている。また、弁頭7は、弁孔3における縮径部3a内に摺動自在に挿入され、弁頭7をガイドとして弁体5は、弁孔3における縮径部3aに軸ぶれすることなく軸方向へ移動することができるようになっている。なお、弁本体6の外周を弁孔3の内周面に摺接させることで弁体5の移動をガイドさせるようにしてもよく、その場合、弁本体6を軸方向に貫く孔や外周に切欠などを設けて、流体の通過を許容するようにしておけばよい。
【0025】
そして、弁本体6の図1中下端を環状弁座4の図1中上面に当接させて着座させると、調圧リリーフ弁1は閉弁し、弁孔3内への流体の流入を遮断することができるようになっている。また、弁頭7には、先端から基端にかけてU字状の溝7aが形成されていて、弁本体6の図1中下端が環状弁座4の図1中上面から図1中上方となる弁孔3内側へ後退すると、その後退量に応じて溝7aが縮径部3aより弁孔3内に対面して開弁し、当該溝7aを介して流体が弁孔3内へ流入することができるようになっている。そして、この弁体5における弁本体6の後退量に応じて溝7aが弁孔3内に対面する面積が大きくなり、弁開口面積が増加するようになっている。なお、弁頭7の形状は、上記したところには限定されるものではなく、特に、弁体5の移動についてのガイドとしての機能を果さずともよい。
【0026】
そして、上記した弁孔3内には、弁体5の他にばね座10が収容されており、当該ばね座10は、円柱状のばね嵌合部11と、ばね嵌合部11の図1中上端に設けたフランジ状のばね受部12と、ばね嵌合部11の上端から下端へ通じる通孔13とを備えて構成されている。
【0027】
このばね座10は、弁孔3の螺子部3bに螺着される環状のナット15によって、弁孔3外への抜けが防止されており、環状弁座4から遠ざかる方向への移動が規制されている。
【0028】
また、ばね座10と弁体5との間には、コイルばね14が圧縮状態で介装されており、ばね座10の上述のナット15によって環状弁座4から遠ざかる方向への移動が規制されているので、圧縮されたコイルばね14の附勢力が弁体5に環状弁座4へ向けて作用している。よって、この調圧リリーフ弁1は、ハウジング2外から弁体5の弁頭7に作用する圧力によって弁体5を図1中上方へ押し上げる力が、コイルばね14の弁体5を図1中下方へ押し下げる附勢力に打ち勝つまでは閉弁状態を保ち、上記力がコイルばね14の附勢力に打ち勝つと弁体5がコイルばね14を押し縮めて環状弁体4から後退して開弁するようになっている。すなわち、この調圧リリーフ弁1にあっては、閉弁状態においてコイルばね14が発している附勢力によって、リリーフ圧(開弁圧)が設定されている。このように、調圧リリーフ弁1が開弁すると、弁体5を押し退けて溝7aを通過した流体は弁孔3内、ばね座10の通孔13およびナット15の内周を通って、ハウジング2の背面側へと抜けていくことになる。
【0029】
そして、弁体5は、先端側に作用する圧力が大きくなればなるほど、環状弁座4から離れて弁孔3内側への後退量が増加するが、環状弁座4からの後退量が所定の後退量となると、弁本体6の背面側に弁孔3内に突出される複数のストッパ16に衝合して、弁体5のそれ以上環状弁座4から遠ざかる方向への移動が規制されるようになっている。すなわち、弁体5は、ストッパ16によって、環状弁座4からのそれ以上の後退が規制される。
【0030】
戻って、コイルばね14は、その一端となる図1中下端の内周に、弁体5のばね嵌合部8が嵌合され、その他端となる図1中上端の内周には、ばね座10のばね嵌合部11が嵌合されていて、弁孔3内に遊嵌されるばね座10が弁孔3内で調芯されるようになっている。この場合、ばね座10におけるばね受部12の外周は、弁孔3における螺子部3bに対向するので、上述したように、コイルばね14でばね座10を調芯するようにしているが、ばね受部12が弁孔3の螺子部3b以外に対向する場合には、ばね受部12の外周を弁孔3の内周に当接させて弁孔3にばね座10を調芯させるようにしてもよい。
【0031】
なお、ストッパ16は、基本的には、その先端がコイルばね14の外周に干渉しないように弁孔3内に突出されているが、外径をコイルばね14の線材間隔より大径に設定しておけば、仮に、ストッパ16が緩んで弁孔3内側へ侵入していくことがあっても、コイルばね14の外周でそれ以上の弁孔3内側への進入を阻止することができ、ストッパ16が弁孔3内に完全に侵入して弁体5の移動を妨げたり、コイルばね14の線材間に挟まってコイルばね14の圧縮動作を妨げたりすることを阻止することができる。また、図3に示すように、弁本体6の背面側にストッパ16の先端に対向して当該ストッパ16の弁孔3内への侵入を防止するとともに、弁本体6より小径であってばね嵌合部8より大径でコイルばね14の一端が座する座部6aを設けておくようにすれば、ストッパ16の外径をコイルばね14の線材間隔以上に設定しなくとも、上記したところと同様の効果を得られる。
【0032】
このように構成された調圧リリーフ弁1は、上述のようにすべての構成部材がハウジング2に一体化されてカートリッジ化され、たとえば、上述したように、ダンパDのピストン22に設けた通路20a,20b等に挿入され固定されることになる。具体的には、通路20a,20bは、ピストン22に孔を設けて形成され、当該通路20a,20bを形成する孔に上記の如くにカートリッジ化された調圧リリーフ弁1を挿入してから、当該孔に環状のナットを螺着する等して通路20a,20bに調圧リリーフ弁1を固定することになる。そうすると、ハウジング2に螺着されるストッパ16は、通路20a,20bを形成する孔によってハウジング2の外側への移動が規制されるので、ストッパ16はハウジング2外へ脱落することはない。
【0033】
つづいて、調圧リリーフ弁1の動作についてダンパDの通路20a内に設置された場合を例に説明する。上述のように構成される調圧リリーフ弁1にあっては、ピストン22に図2中左向きの外力が作用すると、図中の左方の圧力室R1内の圧力が上昇する。しかし、上記圧力がリリーフ圧に達するまでは、調圧リリーフ弁1は開弁しないので、流体は、コンスタントオリフィス24のみを介して圧力室R1から圧力室R2へ移動する。したがって、調圧リリーフ弁1が開弁するまでのダンパDのピストン速度に対する減衰力の特性である減衰力特性は、図4中の区間Aに示すように、オリフィス特有の二乗特性となり、ダンパDは、ピストン速度に対して比較的高い減衰係数の減衰力を発揮する。
【0034】
ピストン22の移動速度が高くなり、図中の左方の圧力室R1内の圧力が上昇し、当該圧力が調圧リリーフ弁1のリリーフ圧に達すると、上述したように、弁体5は、上記圧力によって押圧されてコイルばね14を圧縮し、環状弁座4から離れて後退して通路20aを開放する。調圧リリーフ弁1が開弁すると、圧縮される左方の圧力室R1内の流体は、弁孔3内に流れ込んで、通孔13を介してハウジング2の背面へ抜け、拡大される右方の圧力室R2へ移動することになる。ダンパDは、このピストン22の左方への移動に対して、流体の流れに調圧リリーフ弁1で抵抗を与えて、当該ピストン22の移動を抑制する減衰力を発生する。その際、コンスタントオリフィス24における抵抗は、調圧リリーフ弁1に比較して大きく、これを流れる流量は僅であり、ダンパDの減衰力特性は、調圧リリーフ弁1による特性が支配的となる。
【0035】
そして、ピストン22の左方への移動速度が所定の移動速度にまで達せず、弁体5に作用する圧力室R1内の圧力が、弁体5をストッパ16に衝合させるまで後退させられない状態では、弁体5は、ピストン速度の上昇による圧力室R1内の圧力上昇に見合って環状弁座4から遠ざかり弁開口面積を増加させることができるので、ダンパDは、図4中の区間Bに示すように、ピストン速度の上昇に対して比較的小さな傾きで減衰力を上昇させる減衰力特性を発揮する。
【0036】
なお、この調圧リリーフ弁1にあっては、流体が弁体5と環状弁座4の間を通過する際に、当該流体の流れに抵抗が与えられるだけでなく、流体が通孔13を通過する際にも、当該流体の流れに抵抗が与えられるようになっている。そのため、弁体5と環状弁座4の間を通過した流体が上記通孔13を通過することによって、弁孔3内の圧力が上昇して、この圧力を二次圧として弁体5の背面側となる図1中上面側に作用させて弁体5を閉弁方向となる環状弁座4側へ附勢することができるようになっている。このように、通孔13の開口面積によって、二次圧を任意に設定することができ、通孔13の開口面積は調圧リリーフ弁1の開弁後におけるダンパDの減衰力特性を特徴づける調整要素である。
【0037】
つづいて、ピストン22の左方への移動速度(ダンパDの伸縮速度)が所定速度にまで達し、弁体5に作用する圧力室R1内の圧力が大きくなって弁体5をストッパ16に衝合させるまで後退させると、その後のピストン速度の上昇によって圧力室R1内の圧力がいくら上昇しても、弁体5はストッパ16によって環状弁座4から遠ざかる方向への移動が阻止されるので、それ以上弁開口面積を増加させることができず、ダンパDは、図4中の区間Cに示すように、ピストン速度の上昇に対して比較的大きな傾きで減衰力を上昇させる減衰力特性を発揮する。なお、ダンパDの通路20b内に設置される調圧リリーフ弁1の動作は、ピストン22の移動方向が上記とは反対のときに、上記したところと同様の動作を呈するので、詳しい説明を省略する。
【0038】
このように調圧リリーフ弁1を搭載したダンパDは、ピストン速度が所定速度以上となると、減衰係数が大きくなって、より大きな減衰力を発揮して、振動を抑制するので、ダンパDを免制震用途で使用する場合、弾性支持される建築物Wが長周期地震動によって振動励起されて大振幅で振動するような場合に、この振動に対して大きな減衰力を発揮して建築物の振動を効果的に減衰させることができる。
【0039】
また、調圧リリーフ弁1を搭載したダンパDは、ピストン速度が所定速度以下では、従来の免制震用のダンパと同様に、ピストン速度に対して比較的小さい減衰係数で減衰力を発揮するので、長周期地震動による振動励起がない場合には、減衰力過多とならず、弾性体Sで地盤G側からの地震による振動の建築物Wへの伝達の絶縁を妨げることなく、効果的に振動を減衰することができる。
【0040】
したがって、この調圧リリーフ弁1は、ダンパDに建築物Wの振動を抑制するのに最適な減衰力を発揮させることが可能であり、建築物Wの免制震用途のダンパDに最適となる。
【0041】
なお、上記ストッパ16が上記弁体5に衝合して弁体5の環状弁座4からの後退を規制する際のダンパDの所定速度は、任意に設定することができるが、具体的にはたとえば、長周期地震動によって建築物Wが共振する際に達することが見込まれる伸縮速度に設定される。また、当該所定速度に達すると、上記ストッパ16が上記弁体5に衝合して弁体5の環状弁座4からの後退を規制するようにすればよいので、上記ストッパ16が上記弁体5に衝合する際の所定の後退量については所定速度に応じて設定すればよい。
【0042】
以上、本発明の実施の形態について説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、ダンパの調圧リリーフ弁に利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 調圧リリーフ弁
2 ハウジング
3 弁孔
3a 弁孔における縮径部
3b 弁孔における螺子部
4 環状弁座
5 弁体
6 弁本体
6a 座部
7 弁頭
8 弁体におけるばね嵌合部
9 螺子孔
10 ばね座
11 ばね座におけるばね嵌合部
12 ばね座におけるばね受部
13 通孔
14 コイルばね
15 ナット
16 ストッパ
20a,20b 通路
21 シリンダ
22 ピストン
23 ピストンロッド
24 コンスタントオリフィス
D ダンパ
G 地盤
R1,R2 圧力室
S 弾性体
W 建築物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状弁座を備えた弁孔を有する筒状のハウジングと、弁孔内に移動自在に収容されて環状弁座に離着座する弁体と、弁孔内に設けたばね座と、弁体とばね座との間に介装されて弁体を環状弁座に向けて附勢するばねとを備えて免制震ダンパに搭載される調圧リリーフ弁において、ハウジングの外周から弁孔内に突出して弁体の環状弁座からの後退量が所定量となると弁体に衝合して弁体の環状弁座からのそれ以上の後退を規制するストッパを設けたことを特徴する調圧リリーフ弁。
【請求項2】
ダンパの伸縮速度が所定速度に達すると上記ストッパで上記弁体の環状弁座からの後退を規制することを特徴とする請求項1に記載の調圧リリーフ弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−163380(P2011−163380A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24025(P2010−24025)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(304039065)カヤバ システム マシナリー株式会社 (185)
【Fターム(参考)】