説明

谷埋め盛土の地滑り防止工法

【課題】谷埋め盛土の地滑りを防止できるようにした谷埋め盛土の地滑り防止工法を提供する。
【解決手段】谷部1に造成された盛土地盤2の中に谷部1に沿って連続する地盤改良体3を造成する。地盤改良体3の両側に当該地盤改良体3の側部地山3aと谷部1の底部地山1aと側部地山1bとから新たに造成された谷部1Aの横幅Wと側部地山1bの高さDとの比率W/Dが10以下となるように設定する。盛土地盤2の中に谷部1に沿って連続するボーリング孔5を削孔する。ボーリング孔5内に固化材を注入してボーリング孔5周囲の盛土を固化することにより地盤改良体3を造成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断面ほぼU溝状をなす谷部の原地盤の上に盛土することにより造成された谷埋め盛土の地滑り防止工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
いわゆる谷埋め盛土によって造成された盛土造成地は、原地盤と盛土造成地盤との地盤性状が自ずと異なり、特に原地盤は盛土造成地盤に比べてかなり固いため地下水を通しにくく、地下水が原地盤面の上を流れていることが予測される。
【0003】
このため、原地盤と盛土造成地盤との境界面附近のせん断強度は小さく、地震などで外力が加わると盛土造成地盤全体が原地盤との境界面付近で地滑りを起こすことが予測され、特に大雨が降った後などには、造成地盤に浸透した大量の雨水が原地盤面の上を地下水となって流れることが予測されるため、盛土造成地盤が飽和状態になり、浸透圧および盛土重量の増加、地盤強度の低下等を来たし、境界面付近で大規模な地滑り災害に発展するおそれがある。
【0004】
従来、このような地滑り災害を未然に防ぐ対策として、例えば図8(a)に図示するように、盛土造成地20の下流側部に擁壁21を上流側方向に階段状に造成し、各擁壁21から盛土造成地20内にアンカーまたは排水孔22を施工する方法や、図8(b)に図示するように、盛土造成地20に集水井戸23を施工し、当該集水井戸23から盛土造成地20内に集水用の横ボーリング孔24を削孔する方法、さらには盛土造成地内に固化材を注入して地盤を強化する固結方法などが行われていた。
【特許文献1】特許2509005号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、いずれの方法も、盛土造成地盤そのものを強化するには一定の効果は得られても、原地盤と盛土造成地盤との境界附近で発生する盛土造成地盤全体の地滑りを防ぐには不充分であった。
【0006】
また特に、固結方法は地盤が不透水性となるために地下水を貯留する効果につながり、かつ不安定な斜面上における作業や斜面上にある人家などの生活圏内における作業が通常の生活環境を妨げることになるので好ましくない。また、排水孔を削孔する方法も、施工時に固結方法と同様の問題が生ずる。
【0007】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、特に原地盤と盛土造成地盤との境界部附近で発生する盛土造成地盤全体の地滑りを阻止できるようにした谷埋め盛土の地滑り防止工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の谷埋め盛土の地滑り防止工法は、谷部の地山に盛土することにより造成された谷埋め盛土の地滑り防止工法であって、前記谷埋め盛土の中に谷部に沿って連続する地盤改良体を造成し、当該地盤改良体の両側に当該地盤改良体の側部地山と前記谷部の底部地山と側部地山とから新たに造成された谷部の横幅Wと側部地山の高さDとの比率W/Dが10以下となるように設定することを特徴とするものである。
【0009】
例えば、図1(a),(b)に図示するような谷埋め盛土による造成地は、一般に谷部1の横幅Wと谷部1の側部地山(原地盤の地山)1bの高さDとの比率W/Dが10以下の場合、谷部1の側部地山1bと谷埋め盛土2との摩擦抵抗が影響して谷埋め盛土2は地滑りを起しにくいが、W/Dが10を超えると側部地山1bと谷埋め盛土2との摩擦抵抗の影響が少なく、大きな地滑り災害を起しやすい。
【0010】
特に、谷部1の底部地山1aと谷埋め盛土2との境界部分は地下水が流れていることが多いため、この境界部分で谷埋め盛土2の全体が地滑りを起しやすい。
【0011】
本発明は、特に谷部1の側部地山1bを含む谷部1の形状が谷埋め盛土2の地滑りに大きな影響を及ぼすことを見出し、谷部地山との境界部分における谷埋め盛土2の地滑りを未然に防止するようにしたものである。
【0012】
すなわち本発明は、例えば図2(a),(b)に図示するように、谷部1に人工的に地盤改良体3を造成することにより、当該地盤改良体3の両側に新たに造成された谷部1Aの地山と谷埋め盛土2との摩擦抵抗を、谷埋め盛土2の滑り力より大きくすることで谷埋め盛土2の地滑りを未然に防止するようにしたものである。
【0013】
この場合、地盤改良体3の側部地山3aと谷部1の底部地山1aおよび側部地山1bと谷埋め盛土2との摩擦抵抗を、谷埋め盛土2の滑り力より大きくすることで谷埋め盛土2の地滑りを未然に防止することができる。
【0014】
地盤改良体3は谷埋め盛土2の一部を谷部1に沿って堤体状に固化することにより容易に造成することができる。また、地盤改良体3は谷部1に沿って上流方向に連続して造成してもよく、あるいは所定間隔おきに所定の長さ連続して造成してもよく、さらには上流側と下流側にのみ造成してもよい。また、地盤改良体の径と間隔、さらに固化材は原地盤と谷埋め盛土の地質性状に応じて適宜決定することができる。
【0015】
また、谷部の下流側に谷埋め盛土を堰き止めるように擁壁を造成することもできる。この場合の擁壁はRC構造の他、石やコンクリートブロックなどを積み上げた組積構造や補強土擁壁工などで造成し、排水孔を設けるのがよい。
【0016】
請求項2記載の谷埋め盛土の地滑り防止工法は、請求項1記載の谷埋め盛土の地滑り防止工法において、谷埋め盛土の中に谷部に沿って連続するボーリング孔を削孔し、当該ボーリング孔内に固化材を注入して前記ボーリング孔周囲の盛土を一定範囲に渡って固化することにより、前記地盤改良体を造成することを特徴とするものである。
【0017】
ボーリング孔の削孔には誘導式曲りボーリングを利用することにより、谷部の地山と盛土地盤との境界面付近に沿ってボーリング孔をきわめて効率的に削孔することができる。これは、斜面の排水面積に対するボーリング本数、ボーリング長が少なくてすみ、かつ排水効果を確実にすることができるためである。
【0018】
なお、ここで用いる誘導式曲りボーリングは、ボーリングヘッドに位置情報を感知する装置を備え、この装置からの位置情報を地上で受信し、ボーリングの作業操作盤に表示される表示に基いてボーリングヘッドを遠隔操作し、ジャイロでボーリングの方向性を操作することができる装置である。
【0019】
請求項3記載の谷埋め盛土の地滑り防止工法は、請求項1または2記載の谷埋め盛土の地滑り防止工法において、地盤改良体は、谷部に沿って複数列造成することを特徴とするものである。
【0020】
請求項4記載の谷埋め盛土の地滑り防止工法は、請求項1〜3のいずれかに記載の谷埋め盛土の地滑り防止工法において、谷部の下流側部および/または上流側部の一定範囲内に、地盤改良体を造成することを特徴とするものである。
【0021】
本発明は、谷部の地山の状況に応じて上流側と下流側の一定範囲に限定的に地盤改良体を形成することで、固化材の無駄な使用を無くして合理的で経済的な地滑り防止を可能にしたものである。
【0022】
また、上流側の谷埋め盛土の一部を地盤改良によって固めておけば、その領域の地上りの滑動力しか作用しないために下流側の地盤改良体の規模を比較的小規模なものとすることができ、滑動に対する安全率を高めることができる。
【0023】
なお、上流側の谷埋め盛土の一部を地盤改良する方法としては、曲りボーリングを用いた固化材注入法の他に、垂直ボーリングまたは斜めボーリングを用いた固化材注入法、あるいは攪拌混合工法や高圧噴射注入法を利用してもよい。 また、上流側の作業性のよい場合や生活居住圏外で固結させればよいし、また列状に固結しなくても上流側で固結させれば、貯留の心配はなく、また表面水の下流側への浸透をその水密性によって遮断できるという効果がある。
【0024】
請求項5記載の谷埋め盛土の地滑り防止工法は、請求項1〜4のいずれかに記載の谷埋め盛土の地滑り防止工法において、谷部の地山と谷埋め盛土との境界部分に谷部に沿って連続する排水孔を形成することを特徴とするものである。
【0025】
本発明は特に、大雨時の地滑り災害の防止策としてきわめて有効な方法であり、一般に大雨時およびその直後においては、谷埋め盛土は飽和状態にあり、地滑り破壊を起し易いが、地下水を強制的に排水することにより谷埋め盛土の飽和状態化を回避することで大規模な地滑り災害を未然に防止することができる。
【0026】
なお、排水孔はボーリング孔に塩ビ管、鋼管またはコルゲート管などの管に多数の水抜き孔を設けた孔開き管を挿入することにより簡単に形成することができる。また、排水孔は地盤の傾斜方向に例えばS字状に蛇行した状態に削孔してもよい。
【0027】
請求項6記載の谷埋め盛土の地滑り防止工法は、請求項2〜5のいずれかに記載の谷埋め盛土の地滑り防止工法において、ボーリング孔は誘導式曲りボーリングによって削孔することを特徴とするものである。
【0028】
請求項7記載の谷埋め盛土の地滑り防止工法は、請求項1〜6のいずれかに記載の谷埋め盛土の地滑り防止工法において、地盤改良体を谷部の地山にアンカーによって定着することを特徴とするものである。
【0029】
この場合のアンカーには、通常のグランドアンカーやプレストレスを利用したアンカーの他に、例えば鉄筋アンカー(ネイリングアンカー)等を利用することができる。本工法によれば、棒状の補強材、主に鉄筋、鋼管、形鋼、帯筋などを盛土地盤中に数多く打設して一種の合成補強土塊を形成することにより盛土の強度を直接補強することができる。
【0030】
請求項8記載の谷埋め盛土の地滑り防止工法は、請求項1〜7のいずれかに記載の谷埋め盛土の地滑り防止工法において、地盤改良体の中に谷部に沿って連続するボーリング孔を削孔し、当該ボーリング孔内にアンカー材を挿通し、かつ当該アンカー材の先端を谷部の地山に定着した後、前記ボーリング孔に固化材を注入することを特徴とするものである。
【0031】
本発明によれば、谷埋め盛土による造成地がすでに宅地化され、地上の建物などが障害になって地上から谷部の地山にアンカー材を直接施工できない場合でも、宅地化されない場所から容易に施工することができる。この場合のアンカー材には鉄筋やPC鋼材、あるいはワイヤーなどを用いることができる。
【0032】
請求項9記載の谷埋め盛土の地滑り防止工法は、請求項1〜8のいずれかに記載の谷埋め盛土の地滑り防止工法において、ボーリング孔内に複数のアンカー材を挿通し、各アンカー材の先端を谷部の地山の異なる位置にそれぞれ定着することを特徴とするものである。本発明は、特に谷部の地山を地下水が流れていたり、あるいは谷部が比較的急勾配などの理由により、地滑りが比較的起きやすい場所に適している。この場合、各アンカー材の先端は谷部の上流方向に一定間隔おきに定着するのがよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、谷部に人工的に地盤改良体を造成することにより、当該地盤改良体の両側に新たに造成された谷部の地山と谷埋め盛土との摩擦抵抗を、谷埋め盛土の滑り力より大きくすることで谷埋め盛土の地滑りを未然に防止して地盤の安定化を図ることができる。
【0034】
また、谷部と谷埋め盛土との境界部分に排水孔を形成して地下水を強制的に排水するようにしたことで、谷埋め盛土の安定化をさらに高めることができる。
【0035】
地盤改良体を造成する際のボーリング孔および排水孔の削孔は谷部の地山と谷埋め盛土との境界部分に誘導式曲りボーリングを利用して行うため、地上部分がすでに宅地化され、建物が存在する場合などでも、生活圏外から生活圏を侵すことなく施工を行うことができ、かつ少ないボーリング数やボーリング延長で、容易にかつ効果的な排水を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
図1(a),(b)は、自然界に広く存在する谷部を盛土によって造成された谷埋め盛土の造成地を示す。図において、谷部1は底部地山1aとその両側の側部地山1b,1bとから自然な断面ほぼU溝状の地形をなし、特に谷部1の横幅Wと深さDとの比率、すなわち谷部1の底部地山1aの横幅と側部地山1bの高さとの比(W/D)が10を超えるかなり浅い谷形地形をなしている。
【0037】
そして、こうした地形をなす谷部1に谷埋め盛土によって盛土地盤2が造成されている。また、盛土地盤2の中に例えば図2(a),(b)に図示するような地盤改良体3が谷部1の上流方向に連続して造成されている。
【0038】
地盤改良体3は、当該地盤改良体3の側部地山3aと谷部1の底部地山1aと側部地山1bによって新たに造成された谷部1Aの横幅Wと側部地山1bの高さDとの比率(W/D)が10以下となる位置に造成されている。また特に、谷部1の横幅Wと側部地山1bの高さDとの比率(W/D)がかなり大きい場合には、例えば図2(b)に図示するように、地盤改良体3は谷部1の上流方向に複数列に造成されている。
【0039】
地盤改良体3は、盛土地盤2内に谷部1の下流側から上流側方向にボーリング孔を削孔し、当該ボーリング孔内に固化材を注入してボーリング孔周囲の盛土を一定範囲に渡って固化することにより造成されている。
【0040】
地盤改良体3がこのような寸法条件のもとで造成され、かつ地盤改良体3が固化材の注入により所定の固化強度と水密性を有することで、新たに造成された谷部1Aの地山(底部地山1a、側部地山1bおよび地盤改良体3の側部地山3a)と盛土地盤2との摩擦抵抗が盛土地盤2の滑動力を上回るため、盛土地盤2の地滑りは阻止される。また、新たに造成された各谷部1A内の盛土地盤2は透水性を有するため、各谷部1Aは雨水や地下水が下流に向かって流れる排水ゾーンとして機能するため、雨水や地下水が盛土地盤2内に停滞することもない。
【0041】
したがって、上記した谷埋め盛土は、固化材による盛土の固結効果と排水効果が同時に得られ、また地盤改良体3が地下水を貯留して排水を妨げることもないので、谷部1の地山と盛土地盤2との境界部分の地盤の安定を向上させることができる。
【0042】
図3(a)は、地盤改良体3が谷部1の下流側から上流側方向に一定間隔おきに造成された例を示し、また図3(b)は地盤改良体3が谷部1の下流側から上流側方向に一定間隔おきに、かつ複数列に造成されている例を示したものである。
【0043】
図4(a),(b)は、図3(a),(b)の例において新たに造成された各谷部1Aの盛土地盤2内に、排水孔4が谷部1の下流側から上流方向に連続して形成されている例を示したものである。排水孔4は各谷部1Aの底部地山1aと盛土地盤2との境界部分に形成されている。
【0044】
また、排水孔4は谷部1の底部地山1aと盛土地盤2との境界部分に下流側から上流側方向にボーリング孔を削孔し、当該ボーリング孔内に穴開きパイプを挿入する等して形成されている。なお、孔開きパイプには鋼管や塩ビ管、あるいはコルゲート管などの外周壁に多数の水抜き孔を形成したものが用いられている。
【0045】
このように、盛土地盤2内に排水孔4を形成して境界部分の地下水を強制的に排水することにより地下水位を低下させて盛土地盤2の飽和状態化を回避することで、境界部分の地盤の安定化を高めることができ、特に大雨時およびその直後の地滑り災害を未然に防止することができる。
【0046】
なお、特に図示はしないが、上流側の盛土を一定範囲に渡って固化材により固めておけば、その領域の地上りの滑動力しか作用しないため、地盤改良体3を比較的小規模なものとすることができ、また盛土地盤2の滑動に対する安全率が高められるという効果を生ずる。
【0047】
上流側の盛土地盤2の一部を固めて地盤改良体を形成する方法としては、曲りボーリングの他、垂直ボーリングや斜めボーリング等を利用して固化材を注入する方法や、攪拌混合工法や高圧噴射注入工法などを利用することができる。
【0048】
特に曲りボーリングや斜めボーリングによる施工は、改良部から離れた場所から行うことができるため、足元の安定した場所にボーリング装置を設置して行うことができ、また地盤改良体が生活居住圏内の場合でも、特に妨げになることはない。
【0049】
図5(a),(b)は、谷部1に当該谷部1の上流方向に沿って造成され、かつ谷部1の底部地山1aにアンカー材17によって固定された地盤改良体3を示したものである。この場合、アンカー材17は地盤改良体3に谷部1の上流方向に沿って削孔されたボーリング孔5内に挿通され、当該アンカー材17の先端17aは谷部1の底部地山1aに定着されている。
【0050】
特に、図5(b)の例においては、複数のアンカー材17がボーリング孔5内に挿通され、各アンカー材17の先端17a,17b,17c,17dはそれぞれ、谷部1の底部地山1aに谷部1の上流方向に所定間隔おきに定着されている。そして、図5(a),(b)のいずれの例においても、ボーリンング孔5内に固化材が充填されている。
【0051】
このような構成において、次に地盤改良体3と排水孔4の施工方法について説明する。
【0052】
最初に、図6(a),(b)に図示するように、谷部1の底部地山1aと盛土地盤2との境界部分にボーリング孔5を削孔する。この場合のボーリングには誘導式曲りボーリングを用い、ボーリング孔5は谷部1の底部地山1aと盛土地盤2との境界面付近に沿って、盛土地盤2内に谷部1の下流側から上流側に向かって連続して削孔する。
【0053】
具体的には、図示するような盛土掘進用のドリルヘッド6aと掘進方向変更用のテーパ刃6bを先端に備えたボーリングロッド6をケーシング7内に挿入し、ドリルヘッド6aを盛土地盤2内に回転させながら上流方向に押し込んでボーリングを行う。
【0054】
その際、ボーリングロッド6の回転を停止し、テーパ刃6bの向きを代えてボーリングの方向を変更することができる。そして、ボーリング孔5が上流側に到達したらケーシング7のみを残し、ボーリングロッド6を引き抜く。
【0055】
次に、図7(a)に図示するようにボーリング孔5のケーシング内に注入管8を挿入しつつケーシング(図7(a)ではケーシングは省略)を引き抜く。注入管8は、例えば図示するように外管9と当該外管9内に挿入された内管10とから構成され、外管9の先端部分にはゴムスリーブ等からなる逆支弁9aを備えた吐出口9bが外管9の長手方向および周方向に所定間隔おきに形成され、各吐出口9bの両側に膨張パッカ11,11がそれぞれ取り付けられている。
【0056】
膨張パッカ11,11は、地上から注入パイプ12aを介して送り込まれた流体(エアまたは液体)または固結液体によって膨張し、ボーリング孔5の孔壁を強く押圧することにより外管9をボーリング孔5内に固定すると共に、ボーリング孔5と外管9との間に密封空間13を形成する構成になっている。この場合の密封空間13はボーリング孔5の孔壁と外管9と左右膨張パッカ11,11とから形成される。
【0057】
一方、内管10の先端部分に膨張パッカ14,14が所定間隔おきに取り付けられている。膨張パッカ14,14は、膨張パッカ11,11と同様に地上から注入パイプ12bを介して送り込まれた流体または固結液体によって膨張し、外管9の内壁を強く押圧することにより内管10を外管9内に固定すると共に、外管9と内管10との間に密封空間15を形成する構成になっている。 なお、この場合の密封空間15は外管9と内管10と左右膨張パッカ14,14とから形成される。
【0058】
このような構成において、注入管8によってボーリング孔5周辺の盛土地盤2中に固化材を注入するには、まず、ボーリング孔5内に注入管8の外管9を挿入する。そして、外管9の各膨張パッカ11,11を当該膨張パッカ11内に流体又は固結液体を注入して膨張させることにより、外管9をボーリング孔5内に固定し、かつ外管9とボーリング孔5との間に密封空間13を形成する。
【0059】
次に、外管9内に内管10を挿入し、各膨張パッカ14,14を当該膨張パッカ14にエア又は液体を注入して膨張させることにより、内管10の先端部分を外管9内に固定すると共に、外管9と内管10との間に密封空間15を形成する。
【0060】
次に、密封空間15内に注入パイプ12cを介して固化材を高圧で送り込む。密封空間15内に送り込まれた固化材は、外管9の吐出口9bを通って密封空間13内に押し出され、密封空間13周辺の盛土地盤2内に注入される。
【0061】
なお、膨張パッカ11と14に注入されたエアまたは液体を抜いて膨張パッカ11と14をそれぞれ収縮させることにより、外管9と内管10は再び自由に移動させることができる。
【0062】
この場合、固化材は密封空間13周辺の地盤中に注入されるため、1ヶ所の固化材の注入によって形成される地盤改良体は球状に形成されるが、注入管8を谷部1の上流側から下流側方向に徐々に引き抜きながら固化材の注入を繰り返し行うことにより、地盤改良体3は谷部1の上流側から下流側方向に連続して形成することができる。
【0063】
なお、図7(a)の例においては、固化材は複数の密封空間13内に一本の注入管12cによって同時に注入する構成になっているが、内管10内に複数の注入管12cを挿入し、各注入管12cを介して各密封空間13に固化材を同時に注入することもできる。さらに、複数の注入管8を用い、複数のボーリング孔5に同時に固化材を注入することもできる。このように施工することで、図2〜図4に図示するような地盤改良体3を効率的に造成することができる。
【0064】
また、膨張パッカ11にエアや液体を注入する代わりにモルタル等の固化材を注入する場合は、外管9は回収せず、原地盤と盛土地盤2との境界部分に埋設し、盛土地盤2の補強材として利用することができる。
【0065】
なお、上記において図示しないが、曲りボーリングのボーリングロッド内の1本または複数の流路から注入液を注入しながら、ボーリングロッドを引抜いて地盤を固結してもよいし、また外管から直接注入液を注入してもよいし、また外管から注入しながら外管を引抜いて地盤を固結してもよい。
【0066】
排水孔4は、ボーリング孔5を削孔した後、当該ボーリング孔5内に孔開き管(図省略)を挿入することにより形成することができる。
【0067】
図7(b)は、ボーリング孔5周辺の盛土地盤2中に固化材を注入する他の方法を示し、この場合の注入管8には、図7(a)で説明した外管9として、膨張パッカ11の無いものを使用し、ボーリング孔5内に外管9を挿入した後、ボーリング孔5と外管9との間に隙間充填材16を充填する。
【0068】
そして、密封空間15内に注入パイプ12cを介して固化材を送り込む。密封空間15内に送り込まれた固化材は、外管9の吐出口9bから隙間充填材16を破って吐出口9b周辺の盛土地盤2内に注入される。
【0069】
この方法においても、注入管8を谷部1の上流側から下流側方向に徐々に引き抜きながら固化材の注入を繰り返し行うことにより、地盤改良体3は谷部1の上流側から下流側方向に連続して造成することができる。
【0070】
なお、隙間充填材16を先にボーリング孔5内に充填し、その後から外管9をボーリング孔5内に挿入してもよい。隙間充填材16には例えば低強度のセメントベントナイトを用いることができる。
【0071】
また、図7(a)に示す場合と同様に、固化材は複数の密封空間15内に一本の注入管12cによって同時に注入してもよいし、内管10内に複数の注入管12cを挿入し、各注入管12cを介して各密封空間15に固化材を同時に注入することもできる。
【0072】
さらに、複数の注入管8を用い、複数のボーリング孔5に同時に固化材を注入することによって三次元多点注入工法を用いることもできる。
【0073】
なお、当該三次元多点注入工法は、当出願人が所有する特許発明(特許第3724644号)であり、概要を簡単に説明すると、吐出口を有する複数の注入管を地盤中の複数の注入ポイントに埋設し、これらの注入管を通して各注入管の吐出口から地盤改良材を同時に多点注入するようにした地盤注入工法であって、それぞれ独立した駆動源で作動し、かつ集中管理装置で制御される多数のユニットポンプを備えた多連装注入装置を用い、これら多数のユニットボンプが導管を通して複数の注入管と接続され、前記多数のユニットポンプの作動により、地盤改良材を複数の吐出口から地盤中の注入ポイントを通して多点注入するようにしたことを特徴とするものである。
【0074】
また本工法は、固化材を貯蔵する貯蔵タンクと当該貯蔵タンクに接続された多連装注入装置と吐出口を有する複数の注入管とを備え、当該多連装注入装置は、一プラント中にそれぞれ独立した駆動源で作動し、かつ集中管理装置で制御される多数のユニットポンプを備えている。また、注入管は地盤の複数の注入ポイントに埋設され、それぞれが前記各ユニットポンプと導管を通して接続されている。さらに、前記多数のユニットポンプは独立し、それぞれ集中管理装置で制御される回転数変速機を備え、前記導管は流量圧力検出器を備えている。
【0075】
そして、前記流量圧力検出器からの流量および/または圧力データの信号を集中管理装置に送信し、前記貯蔵タンク内の地盤改良材を各ユニットポンプの作動により任意の注入速度、注入圧力および注入量で各注入管に圧送し、複数の吐出口から同時に地盤に多点注入することができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、特に谷部の原地盤と盛土地盤との境界部附近で発生する谷埋め盛土の地滑りを未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】谷埋め盛土によって造成された造成地を示し、(a)は斜視図、(b)は断面図である。
【図2】(a),(b)は、谷埋め盛土によって造成され、盛土内に地盤改良体が造成された造成地を示す斜視図である。
【図3】(a),(b)は、谷埋め盛土によって造成され、盛土内に地盤改良体が造成された造成地を示す斜視図である。
【図4】(a),(b)は、谷埋め盛土によって造成され、盛土内に地盤改良体が造成され、かつ排水孔が配置された造成地を示す斜視図である。
【図5】(a),(b)は、地山にアンカー材によって固定された地盤改良体を示す一部断面図である。
【図6】(a),(b)はボーリングロッドの動さを示す谷部の地山と谷埋め盛土との境界部分の断面図である。
【図7】(a),(b)は、固化材の注入方法を示す注入管先端部の縦断面図である。
【図8】(a),(b)は従来の地盤強化方法の一例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0078】
1 谷部
1a 底部地山
1b 側部地山
2 盛土地盤(谷埋め盛土)
3 地盤改良体
3a 側部地山
4 排水孔
5 ボーリング孔
6 ボーリングロッド
6a ドリルヘッド
6b テーパ刃
7 ケーシング
8 注入管
9 外管
9a 逆止弁
9b 吐出口
10 内管
11 膨張パッカ
12a 注入パイプ
12b 注入パイプ
12c 注入パイプ
13 密封空間
14 膨張パッカ
15 密封空間
16 隙間充填材
17 アンカー材
18 固化材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
谷部の地山に盛土することにより造成される谷埋め盛土の地滑り防止工法であって、前記谷埋め盛土の中に谷部に沿って連続する地盤改良体を造成し、当該地盤改良体の両側に当該地盤改良体の側部地山と前記谷部の底部地山と側部地山とから新たに造成された谷部の横幅Wと側部地山の高さDとの比率W/Dが10以下となるように設定することを特徴とする谷埋め盛土の地滑り防止工法。
【請求項2】
谷埋め盛土の中に谷部に沿って連続するボーリング孔を削孔し、当該ボーリング孔内に固化材を注入して前記ボーリング孔周囲の盛土を固化することにより、前記地盤改良体を造成することを特徴とする請求項1記載の谷埋め盛土の地滑り防止工法。
【請求項3】
地盤改良体は、谷部に沿って複数列造成することを特徴とする請求項1または2記載の谷埋め盛土の地滑り防止工法。
【請求項4】
谷部の下流側部および/または上流側部の一定範囲内に、地盤改良体を造成することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の谷埋め盛土の地滑り防止工法。
【請求項5】
谷部の地山と谷埋め盛土との境界部分に谷部に沿って連続する排水孔を形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の谷埋盛土の地滑り防止工法。
【請求項6】
ボーリング孔は誘導式曲りボーリングによって削孔することを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の谷埋め盛土の地滑り防止工法。
【請求項7】
地盤改良体は谷部の地山にアンカー材によって固定することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の谷埋め盛土の地滑り防止工法。
【請求項8】
地盤改良体の中に谷部に沿って連続するボーリング孔を削孔し、当該ボーリング孔内にアンカー材を挿通し、かつ当該アンカー材の先端を谷部の地山に定着した後、前記ボーリング孔に固化材を注入することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の谷埋め盛土の地滑り防止工法。
【請求項9】
ボーリング孔内に複数のアンカー材を挿通し、各アンカー材の先端を谷部の地山の異なる位置にそれぞれ定着することを特徴とする請求項8記載の谷埋め盛土の地滑り防止工法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−45352(P2008−45352A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223119(P2006−223119)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【出願人】(000162652)強化土エンジニヤリング株式会社 (116)
【Fターム(参考)】