説明

貝肉含有廃水の処理方法

【課題】貝肉含有廃水から、貝肉粉砕片や貝肉微細懸濁体、廃水の着色や臭気の基となる貝肉由来蛋白質等を、効果的に分離、除去して、かかる廃水の海域への放流を容易と為し得る方法を提供すること。
【解決手段】貝類の処理によって発生した貝肉含有廃水に対して、ペーパースラッジ焼却灰及び石膏を含む凝集固化剤を添加し、更に、カチオン性高分子凝集剤とペーパースラッジ灰の炭化物とを添加して、混合、撹拌することによって処理し、凝集物を生成せしめた後、その生じた凝集物を処理液から分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貝肉含有廃水の処理方法に係り、特に、真珠貝養殖において、浜揚げ(養殖した貝から真珠を取り出すこと)の際に発生する貝肉含有廃水の有利な処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、真珠養殖産業において、養殖した貝から真珠を取り出す浜揚げ作業にあっては、海から引き揚げたアコヤ貝等の養殖貝から、真珠が入ったままの貝肉部を取り出し、そしてそれを、消石灰と海水を入れた遠心型撹拌機内で混合撹拌して粉砕し、比重の違いにより、その処理液中から真珠を取り出すようにしている。また、そのようにして真珠が取り出された後の、粉砕された貝肉片を含む残液は、目開きが2,3mm程度の網カゴを用いて簡易ろ過され、それによって、大きな貝肉片を分離する一方、そのろ液は、そのまま、廃水として海域へ放流されている。
【0003】
しかしながら、上述したような網カゴを用いたろ過による分離方法では、細かな貝肉粉砕片は充分に回収することが出来ず、ろ液には、そのような細かな粉砕片が混入すると共に、貝肉微細懸濁体や貝肉由来の蛋白質に基づくと考えられる廃水の着色及び臭気も存在するものであるところから、それら貝肉粉砕片や貝肉由来の蛋白質等を多量に含んだろ液を、廃水として、真珠貝養殖漁場等の閉鎖性内湾へ放流することは、環境への負荷が大きいと考えられている。
【0004】
そこで、そのような貝肉粉砕片や貝肉由来の蛋白質を含む貝肉含有廃水を、例えば、特開2005−131595号公報に明らかにされているような、ペーパースラッジの焼却灰、ポルトランドセメント、及び石膏等からなる凝集固化剤を用いて、処理することにより、目的とする貝肉含有廃水から、貝肉粉砕片や貝肉微細懸濁体及び貝肉由来の蛋白質等を分離、除去することが考えられる。しかしながら、本発明者等が検討した結果、そのような凝集剤を用いて、貝肉含有廃水を処理した場合にあっても、上記したような貝肉含有廃水特有の、貝肉微細懸濁体や貝肉由来蛋白質に基づく廃水の着色及び臭気が、充分に、分離、除去し切れないことが明らかとなったのである。
【0005】
【特許文献1】特開2005−131595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここにおいて、本発明は、かくの如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、貝肉含有廃水から、貝肉粉砕片や貝肉微細懸濁体、廃水の着色や臭気の基となる貝肉由来蛋白質等を、効果的に分離、除去して、かかる廃水の海域への放流を容易と為し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そして、本発明は、かかる課題を解決するために、貝類の処理によって発生した貝肉含有廃水に対して、ペーパースラッジ焼却灰及び石膏を含む凝集固化剤を添加し、更に、カチオン性高分子凝集剤とペーパースラッジ灰の炭化物とを添加して、混合、撹拌することによって処理し、凝集物を生成せしめた後、その生じた凝集物を処理液から分離することを特徴とする貝肉含有廃水の処理方法を、その要旨とするものである。
【0008】
また、このような本発明に従う貝肉含有廃水の処理方法の望ましい態様の一つによれば、前記凝集物の生成した処理液を、互いに平行に配置された複数の回転軸にそれぞれ軸装された多数の楕円形状の回転板上に供給して、かかる回転板の回転方向に従って順次搬送しつつ、固液分離を行う固液分離装置を用いて、固液分離を行うことにより、前記凝集物が取り出されることとなる。
【0009】
さらに、本発明の望ましい態様の他の一つによれば、有利には、前記凝集固化剤が75〜94重量%、前記カチオン性高分子凝集剤が1〜5重量%、前記ペーパースラッジ灰の炭化物が5〜20重量%の割合で用いられることとなる。
【0010】
加えて、本発明にあっては、有利には、前記貝肉含有廃水に対して、更に、Ca分、Si分及びAl分からなる群より選ばれた少なくとも1種が、添加されることとなる。
【発明の効果】
【0011】
このように、本発明に従う貝肉含有廃水の処理方法にあっては、真珠貝等の貝類養殖場等で生じる貝肉含有廃水に対して、ペーパースラッジ焼却灰及び石膏を含む凝集固化剤に加えて、更に、カチオン性高分子凝集剤を添加することにより、貝肉含有廃水から、細かな貝肉粉砕片や貝肉微細懸濁体等を、有利に、分離、除去することが出来るのであり、しかも、それら凝集固化剤及びカチオン性高分子凝集剤と共に、更に、ペーパースラッジ灰の炭化物を添加するものであるところから、かかる炭化物の蛋白質吸着作用により、貝肉含有廃水に含まれる貝肉由来蛋白質等に基づく廃水の着色や臭気の効果的な分離、除去も、可能となったのである。このため、そのような処理の施された廃水は、そのまま海域に放流されても、環境に与える影響は少なく、環境負荷の軽減を効果的に図り得ることとなり、以て環境浄化に大きく寄与し得るのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
ところで、本発明において、その処理の対象とされる貝肉含有廃水とは、貝類の処理によって発生する、貝肉が分散、懸濁した廃水であって、その生成の過程は特に限定されるものではなく、例えば、真珠貝養殖の浜揚げ作業に際して発生する廃水であって、そのような貝肉含有廃水中には、一般に、海水中に、貝肉粉砕片や貝肉微細懸濁体及び貝肉由来の蛋白質と考えられる廃水の着色成分や臭気成分等が、含まれているものである。なお、このような貝肉含有廃水における海水等の水分と貝肉粉砕片等の固形分との割合は、特に限定されるものではないが、一般的には、貝肉含有廃水の含水率が90%以上となる割合のものが、対象とされることとなる。また、上記の真珠貝養殖の浜揚げ作業においては、貝肉部から真珠を取り出す際の粘り取り等のために、貝肉含有廃水に対して、消石灰が加えられることがあるが、本発明で対象とされる貝肉含有廃水には、そのような消石灰やその他の成分が含有されていても、何等差し支えない。
【0013】
そして、本発明に従って、上述せる如き貝肉含有廃水の処理を行うには、先ず、上記したような貝類の処理によって発生した貝肉含有廃水に対して、ペーパースラッジ焼却灰及び石膏を含む凝集固化剤が、添加されることとなる。
【0014】
ここにおいて、そのような凝集固化剤の成分として用いられるペーパースラッジ焼却灰と石膏は、何れも、浚渫土等の凝集固化剤として、従来から良く知られているものであって(例えば、特開2005−131595号公報等参照)、それらの中でも、ペーパースラッジ焼却灰は、製紙工場や再生紙工場等で産業廃棄物として発生するペーパースラッジが、減容化のために焼却処理されて、焼却灰とされたものであり、全国各地の製紙工場や再生紙工場等で安価に且つ安定的に入手することが出来るものである。なお、そのようなペーパースラッジ焼却灰の化学組成は、厳密には、工場毎に、またバッチ毎に異なるものであるが、一般に、CaO:10〜35重量%、SiO2 :25〜35重量%、Al23 :23〜40重量%、SO3 :3〜8重量%、Fe23 :1.5〜4重量%、MgO:1.5〜5重量%、TiO2 :0.5〜1.5重量%、K2 O:0.3〜1.0重量%等の組成からなるものであって、後述するエトリンガイト結晶生成において、エトリンガイト(3CaO・Al23 ・3CaSO4 ・32H2 O)の構成成分となるCaOやAl23 を含有するものである。
【0015】
本発明にあっては、かくの如き安価に且つ安定的に入手可能なペーパースラッジ焼却灰が、前記凝集固化剤の主成分として用いられているのであり、これによって、本発明に従う貝肉含有廃水の処理が、安価に行われ得ることとなるのである。加えて、そのようなペーパースラッジ焼却灰を凝集固化剤の主成分として使用することにより、産業廃棄物として処理に窮していたペーパースラッジを有効利用し得ることにもなるのである。
【0016】
また、かかるペーパースラッジ焼却灰と共に用いられる石膏としては、例えば、無水石膏、半水石膏等を挙げることが出来、中でも、特に、無水石膏が好ましく用いられる。即ち、本発明にあっては、凝集固化剤として、ペーパースラッジ焼却灰と共に添加せしめる成分として、従来のセメントに代えて、石膏を用いているのであるが、このように、セメントを用いることなく、貝肉含有廃水の処理を行うことにより、近年懸念されている、セメントを使用した固化剤等からの六価クロムの溶出の問題も、本発明に従う貝肉含有廃水の処理方法にあっては、何等考慮する必要がないのである。
【0017】
ここで、凝集固化剤の構成成分である、ペーパースラッジ焼却灰と石膏の添加割合は、貝肉含有廃水の種類に応じて適宜に決定されるものであって、何等限定されるものではないが、有利には、ペーパースラッジ焼却灰:石膏が、重量基準で、50:1〜1:1であり、より好ましくは、20:1〜3:1である。かかる範囲を越えて添加されると、ペーパースラッジ焼却灰と石膏との添加バランスが悪くなって、凝集固化作用が充分に得られない恐れがあるため、望ましくない。
【0018】
なお、本発明に従う貝肉含有廃水の処理方法において、上記したようなペーパースラッジ焼却灰と石膏とを含む凝集固化剤による凝集固化機構は、未だ完全には明らかではないが、貝肉含有廃水中に、前記したようなペーパースラッジ焼却灰と石膏とを添加すると、ペーパースラッジ焼却灰中の水和性無機物と石膏と廃水中の水とが反応することにより、エトリンガイト(3CaO・Al23 ・3CaSO4 ・32H2 O)が形成され、かかるエトリンガイトによる針状結晶が、貝肉含有廃水中の貝肉粉砕片等を核にして、取り囲むようにして結晶成長することにより、廃水中の貝肉粉砕片等及び凝集固化剤からなる凝集物が生成されると考えられる。
【0019】
加えて、本発明にあっては、そのようなエトリンガイトの結晶形成に続いて、ペーパースラッジ焼却灰中の水和性無機物の水和反応により生じた水酸化カルシウムとペーパースラッジ焼却灰中のシリカやアルミナ、及び石膏とがポゾラン反応することにより、ケイ酸カルシウム水和物(nCaO・SiO2 ・mH2 O)やアルミン酸カルシウム水和物(3CaO・Al23 ・6H2 O)及びエトリンガイト(3CaO・Al23 ・3CaSO4 ・32H2 O)等が形成され、これにより、生成される凝集物の耐久性が高められていると考えられる。
【0020】
そして、本発明に従う貝肉含有廃水の処理方法にあっては、その処理対象となる貝肉含有廃水に対して、上記したような凝集固化剤に加えて、更に、カチオン性高分子凝集剤及びペーパースラッジ灰の炭化物が、添加されるのである。
【0021】
そこにおいて、カチオン性高分子凝集剤としては、例えば、ポリアクリルアミドのマンニッヒ変性物、ホフマン分解物及びアミド基のスルホメチル化物等のポリアクリルアミドのカチオン変性物やカチオン性ビニルラクタムーアクリルアミド共重合体等の公知の各種のものを例示することが出来、また各種の市販品の中から適宜に選択されることとなるが、特に、ハイモ株式会社製のハイモロックMP等が、有利に用いられることとなる。
【0022】
このように、本発明に従う貝肉含有廃水の処理方法においては、上記した凝集固化剤に加えて、かかるカチオン性高分子凝集剤を更に添加するものであるところから、処理対象の貝肉含有廃水中に存在する貝肉微細懸濁体等が、貝肉粉砕片等と共に、凝集物として有利に生成せしめられ得ることとなるのであって、以て、貝肉含有廃水を効果的に処理し得ることとなるのである。
【0023】
また、かかるカチオン性高分子凝集剤と共に用いられるペーパースラッジ灰の炭化物は、上述したようなペーパースラッジ焼却灰を、更に、炭化炉内で、還元雰囲気下において加熱することにより、炭素化して、得られるものであって、前記したペーパースラッジ焼却灰と同様に、各地の製紙工場や再生紙工場等において、安価に且つ安定的に入手することが出来るものである。
【0024】
そして、本発明に従って、上記した凝集固化剤及びカチオン性高分子凝集剤に加えて、更に、ペーパースラッジ灰の炭化物を添加することによって、そのような炭化物の有する有機物吸着効果により、貝肉由来蛋白質に基づくと考えられる貝肉含有廃水の着色や臭気を、効果的に、分離、除去せしめ得たのである。しかも、このペーパースラッジ灰の炭化物は、安価に入手可能であるところから、貝肉含有廃水の処理を有利に低コストで実現し得ると共に、前述せるように、処理に窮していたペーパースラッジの有効利用も、併せて実現し得ることとなったのである。
【0025】
ここで、上記した凝集固化剤、カチオン性高分子凝集剤及びペーパースラッジ灰の炭化物の添加割合としては、処理対象である貝肉含有廃水の含水率や、消石灰等の添加物等を考慮して、適宜に設定されることとなるが、有利には、前記凝集固化剤が75〜94重量%、前記カチオン性高分子凝集剤が1〜5重量%、前記ペーパースラッジ灰の炭化物が5〜20重量%の割合において、用いられることが望ましい。このような割合で用いることによって、貝肉含有廃水の処理を、より一層有利に行い得ることとなるのである。
【0026】
なお、凝集固化剤の添加割合が、上記した範囲よりも少ない場合には、凝集固化剤の添加による凝集固化効果を充分に発揮し得ない恐れがあり、また上記した範囲よりも多い場合には、カチオン性高分子凝集剤やペーパースラッジ灰の炭化物の添加割合が相対的に減少することとなって、それらの添加効果が充分に発揮され得ない恐れがあるため、望ましくない。また、カチオン性高分子凝集剤の添加割合が、上記した範囲よりも少ない場合には、カチオン性高分子凝集剤の添加による、貝肉微細懸濁体等の凝集効果が充分に得られない恐れがあるため、望ましくなく、また上記した範囲よりも多い場合には、生成される凝集物が微細になり沈降性が悪化すると共に、多量の高分子の添加により粘性が上昇するという問題を惹起する恐れがあるため、望ましくない。更に、ペーパースラッジ灰の炭化物の添加割合が、上記した範囲よりも少ない場合には、貝肉含有廃水中の着色や臭気の分離、除去が充分でなくなる恐れがあり、また上記した範囲よりも多すぎる場合には、貝肉含有廃水中において炭化物を良好に分散させることが困難となって、そのようなペーパースラッジ灰の炭化物の有機物吸着効果が低下するという問題を惹起する恐れがあるため、望ましくない。
【0027】
また、それら凝集固化剤、カチオン性高分子凝集剤及びペーパースラッジ灰の炭化物の添加総量としては、処理対象である貝肉含有廃水中の貝肉粉砕片等の固形分の量等を考慮して、適宜に決定されるものであるが、一般的には、貝肉含有廃水の100重量部に対して、それら凝集固化剤、カチオン性高分子凝集剤及びペーパースラッジ灰の炭化物の総量が、0.5〜10重量部となる量において、添加されることとなる。それらの添加量が、かかる範囲よりも少ない場合には、貝肉粉砕片や貝肉微細懸濁体及び貝肉含有廃水の着色や臭気の基となる貝肉由来蛋白質の分離が充分に行い難くなる恐れがあるため望ましくなく、またそのような範囲よりも多い場合には、それ以上の添加による凝集効果の向上が見込めず、無駄にコストがかかることとなる恐れがあり、望ましくない。
【0028】
さらに、本発明に従う貝肉含有廃水の処理方法にあっては、有利には、貝肉含有廃水に対して、更に、Ca分、Si分及びAl分からなる群より選ばれた少なくとも1種が、添加されることとなる。そこにおいて、Ca分としては、珊瑚カルシウム、貝殻カルシウム、卵殻カルシウム及び石灰石等が、またSi分としては、珪石粉、ガラス粉、非晶質シリカ粉、珪藻土及び粘土等が、更にAl分としては、アルミニウム残灰、アルミナケイ酸塩の天然鉱物等が例示され、それらの中から適宜に選択されて、用いられることとなる。
【0029】
このように、Ca分、Si分又はAl分を、貝肉含有廃水に対して、更に添加せしめることによって、前記した凝集固化剤による凝集固化効果が、より一層有利に発揮され得るのである。即ち、前述したような、ペーパースラッジ焼却灰と石膏と廃水中の水との反応によるエトリンガイトの生成や、それに続くポゾラン反応によるケイ酸カルシウム水和物、アルミン酸カルシウム水和物等の生成に際して、Ca分、Si分又はAl分を更に添加して、無機成分の調整を行うことにより、それらの反応を、より一層有利に進行せしめ得るのである。なお、そのようなCa分、Si分又はAl分の添加量及び添加割合は、ペーパースラッジ焼却灰の添加量やその化学組成等、更には石膏の添加量等に基づいて、適宜に決定されることとなる。
【0030】
また、本発明に従う貝肉含有廃水の処理方法においては、上述の如き添加物の他にも、更に必要に応じて、従来より、凝集剤に用いられている各種の添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲内で添加せしめてもよい。そのような添加剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等のアルカリ性無機化合物等のpH調節剤、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)、塩化第二鉄、ポリ塩化アルミニウム等の無機系凝集剤、アルキルベンゼンスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、ステアリン酸塩等のアニオン性界面活性剤及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンブロック共重合体等のノニオン性界面活性剤等の界面活性剤、トリポリリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩等の分散剤及びポリビニルアルコール系樹脂等のバインダー等を例示することが出来る。
【0031】
そして、本発明に従う貝肉含有廃水の処理方法にあっては、処理対象とされる貝肉含有廃水に対して、前記した凝集固化剤、カチオン性高分子凝集剤、ペーパースラッジ灰の炭化物を添加した後、混合、撹拌することによって処理し、凝集物を生成せしめるものであるが、そこにおいて、それら凝集固化剤等を添加するに際しては、何等特殊な方法を必要とせず、従来から周知の方法に従って、任意の順序にて添加せしめても、或いはそれらの幾つか又は全部を予め混合物とした後に、添加せしめてもよい。また、混合、撹拌による処理の方法にあっても、何等限定されるものではなく、従来から周知の方法が、何れも採用可能である。
【0032】
また、そのような混合、撹拌による処理が施された後、それによって、上記したようなエトリンガイト等の形成により生成せしめられた凝集物が、処理液から分離されることとなる。そこにおいて、凝集物の分離の手法としては、特に限定されるものではなく、従来から公知の手法が、何れも採用可能であるが、本発明にあっては、前記凝集物の生成した処理液を、互いに平行に配置された複数の回転軸にそれぞれ軸装された多数の楕円形状の回転板上に供給して、かかる回転板の回転方向に従って順次搬送しつつ、固液分離を行う固液分離装置を用いて、固液分離を行うことにより、前記凝集物を取り出すようにした手法が、有利に採用されることとなる。
【0033】
すなわち、本発明に従う貝肉含有廃水の処理方法にあっては、前述のようにして生成された凝集物の処理液からの分離に際して、例えば、図1及び図2に示される如き構成の処理装置が、好適に用いられることとなるのである。
【0034】
具体的には、それらの図から明らかなように、固液分離装置2は、装置本体のフレーム6に対して、複数の回転軸8を水平面内において互いに平行に配列して、回転自在に軸支する一方、かかる回転軸8には、多数の楕円形状の回転板4が、所定間隔を隔てて軸装されていると共に、隣接する回転板4,4間には、図1において左右方向となるガイド面としての上面を有する案内部材10が、配置されてなる構造とされている。そして、それぞれの回転軸8を同一方向に回転させることにより、各軸に取り付けた回転板4の上部周面によって形成される送り面側に投入された前記凝集物の生成した処理液は、各列の回転板4の周面に下方から持ち上げられながら、案内部材10の上面に沿って、図1において右方向に搬送されることとなる。そして、前記凝集物の生成した処理液は、案内部材10及び回転板4の上面を移動する過程で、回転板4,4間の間隙内の回転板4と案内部材10との間の隙間及び隣接する回転板4同士の周面間の間隙から、水、その他の液体成分を、下方に流出濾過せしめて、外部に放流する一方、案内部材10上に捕集される固形成分は、回転板4の周面にて送られながら、順次濾過脱水されて、含水率の減少された凝集物として、固液分離装置2から取り出され得るようになっているのである。
【0035】
なお、このような固液分離装置2において、案内部材10は、その上面が平滑なガイド面となるように構成されている一方、回転板4の楕円の位相が、隣接する軸ごとに、順次90度ずつずらして配置されており(図1参照)、これによって、回転板4の回転中に、隣接する回転板4の送り面が回転中に順次波形を形成しながら、送り方向に変動するように構成されている。また、装置本体のケーシングの上部には、先端にウェイト12が取り付けられたアーム14が、軸16により、上下揺動可能に軸支されてなる構造の圧搾装置18が設けられており、この圧搾装置18が回転板4周面の上下方向への運動に追従して揺動せしめられ、以て、搬送される凝集物を押圧して、更なる脱水を行い得るようになっている。
【0036】
かくして、固液分離装置2から取り出された凝集物は、含水率が75%以下程度まで低減されたものとなるのであり、また、その取り扱いも容易なものである。一方、外部に放流されたろ液は、貝肉粉砕片や貝肉微細懸濁体及び貝肉由来蛋白質に基づく貝肉含有廃水の着色や臭気が、有利に、分離、除去されたものとなるのである。
【0037】
また、本発明にあっては、上記したような固液分離装置を用いた固液分離により取り出された凝集物を、水道水等の水に再懸濁させて、再度、上記した固液分離装置による固液分離を行うようにしてもよい。このような処理を2,3回繰り返すことによって、最終的に得られる凝集物中に含まれる塩分等を、容易に除去することが出来る。そして、そのように塩分が除去された凝集物は、農業用、園芸用の補助材料として、有効に利用し得るのである。
【0038】
さらに、本発明において処理対象とされる貝肉含有廃水中には、前述したように、貝肉部の粉砕時に、消石灰が加えられて、ろ液が高いpH値を有することがあるが、そのような場合には、固液分離により分離されたろ液に対して、中和処理を施した後に、海域に放流することが、望ましい。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明の幾つかの実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記の具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0040】
−実施例1〜4、比較例1,2−
アコヤ貝からの真珠取出し作業において排出される、貝肉片を約5%濃度で分散、含有する貝肉含有廃水を、準備した。そして、これに、ペーパースラッジ焼却灰(王子製紙株式会社、米子工場製)及び石膏と共にカチオン性高分子凝集剤としてポリアクリルアミド系高分子凝集剤(商品名:ハイモロックMP、ハイモ株式会社製)及び/又はペーパースラッジ灰の炭化物(王子製紙株式会社、米子工場製)を、それぞれ、下記表1及び表2に示す分量(%)となるように添加して、混合、撹拌して反応せしめ、それによって生じた凝集体を、2mmメッシュの篩いにてろ過した。得られたろ液を、目視にて観察し、以下の判断基準に従って、それぞれ評価した。その結果を、下記表1及び表2に併せて示す。
○:貝肉粉砕片、貝肉微細懸濁体、ろ液の着色及び臭気が、充分に、分離、除去され ている
×:貝肉粉砕片、貝肉微細懸濁体、ろ液の着色及び臭気が、充分に、分離、除去され れていない
【0041】
−比較例3−
実施例1において準備した貝肉含有廃水に、ペーパースラッジ灰の炭化物(王子製紙株式会社、米子工場製)及び焼成したホタテ貝殻を、下記表2に示す分量(%)となるように添加して、混合、撹拌して反応せしめ、それによって生じた凝集体を、2mmメッシュの篩いにてろ過した。得られたろ液について、実施例1と同様にして凝集効果を評価した。その結果を、下記表2に併せて示す。
【0042】
−比較例4−
実施例1において準備した貝肉含有廃水に、ペーパースラッジ灰の炭化物(王子製紙株式会社、米子工場製)及びアニオン性高分子凝集剤としてポリアクリル酸系高分子凝集剤(商品名:ハイモロックMP、ハイモ株式会社製)を、下記表1に示す分量となるように添加して、混合、撹拌して反応せしめ、それによって生じた凝集体を、2mmメッシュの篩いにてろ過した。得られたろ液について、実施例1と同様にして凝集効果を評価した。その結果を、下記表1に併せて示す。
【0043】
【表1】

【表2】

【0044】
かかる表1及び表2の結果から明らかなように、凝集固化剤(ペーパースラッジ焼却灰及び石膏)、カチオン性高分子凝集剤及びペーパースラッジ灰の炭化物を用いて、貝肉含有廃水の処理を行った場合(実施例1〜4)には、かかる貝肉含有廃水中の貝肉粉砕片、貝肉微細懸濁体及び貝肉由来蛋白質に基づくと考えられる廃水の着色や臭気を、充分に、分離、除去せしめることが出来ることが分かった。
【0045】
一方、凝集固化剤(ペーパースラッジ焼却灰及び石膏)と共に、カチオン性高分子凝集剤及びペーパースラッジ灰の炭化物の何れか一方を、本発明における有利な添加割合以外の割合で添加せしめた場合(比較例1,2)や、本発明に従うカチオン性高分子凝集剤に代えて焼成ホタテ貝殻を用いた場合(比較例3)、更にはアニオン性高分子凝集剤を用いた場合(比較例4)にあっては、良好な凝集効果を得ることが出来なかった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に従う貝肉含有廃水の処理方法において用いられる固液分離装置の一例を示す概略説明図である。
【図2】図1におけるA−A断面説明図である。
【符号の説明】
【0047】
2 固液分離装置 4 回転板
6 フレーム 8 回転軸
10 案内部材 12 ウェイト
14 アーム 16 軸
18 圧搾装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
貝類の処理によって発生した貝肉含有廃水に対して、ペーパースラッジ焼却灰及び石膏を含む凝集固化剤を添加し、更に、カチオン性高分子凝集剤とペーパースラッジ灰の炭化物とを添加して、混合、撹拌することによって処理し、凝集物を生成せしめた後、その生じた凝集物を処理液から分離することを特徴とする貝肉含有廃水の処理方法。
【請求項2】
前記凝集物の生成した処理液を、互いに平行に配置された複数の回転軸にそれぞれ軸装された多数の楕円形状の回転板上に供給して、かかる回転板の回転方向に従って順次搬送しつつ、固液分離を行う固液分離装置を用いて、固液分離を行うことにより、前記凝集物が取り出されることを特徴とする請求項1に記載の貝肉含有廃水の処理方法。
【請求項3】
前記凝集固化剤が75〜94重量%、前記カチオン性高分子凝集剤が1〜5重量%、前記ペーパースラッジ灰の炭化物が5〜20重量%の割合で用いられることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の貝肉含有廃水の処理方法。
【請求項4】
前記貝肉含有廃水に対して、更に、Ca分、Si分及びAl分からなる群より選ばれた少なくとも1種を添加することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の貝肉含有廃水の処理方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−119633(P2008−119633A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307773(P2006−307773)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】