説明

負極およびその製造方法、二次電池およびその製造方法、ならびにスルホン化合物

【課題】サイクル特性を向上させることが可能な二次電池を提供する。
【解決手段】正極21および負極22と共に電解液を備え、正極21と負極22との間に設けられたセパレータ23に電解液が含浸されている。負極22は、負極集電体22Aに設けられた負極活物質層22B上に被膜22Cを有しており、その被膜22Cは、カーボネート基(−O−CO−O−)およびスルホニル基(−SO2 −)を有するスルホン化合物を含有している。負極22の化学的安定性が向上するため、負極22においてリチウムイオンが吸蔵および放出されやすくなると共に、電解液の分解が抑制される。これにより、サイクル特性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極集電体に負極活物質層が設けられた負極およびその製造方法、負極を用いた二次電池およびその製造方法、ならびにスルホニル基を有するスルホン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多様な分野において、スルホニル基を有するスルホン化合物が広く用いられている。一例を挙げると、電気化学デバイスの分野では、電気的性能などを向上させるために、電解液などに添加剤として各種のスルホン化合物が含有されている。
【0003】
この電気化学デバイスのうち、携帯電話やノートパソコンなどのポータブル電子機器の電源として用いられる二次電池の分野では、容量特性やサイクル特性などの電池特性を向上させる研究が盛んに行われている。中でも、充放電反応にリチウムの吸蔵および放出を利用する二次電池(リチウムイオン二次電池)や、リチウム金属の析出および溶解を利用する二次電池(リチウム金属二次電池)は、従来の鉛電池やニッケルカドミウム電池よりも大きなエネルギー密度が得られるため、大いに期待されている。
【0004】
リチウムの吸蔵および放出を利用するリチウムイオン二次電池では、充放電反応に寄与するリチウムがほとんど金属リチウムとして電極に析出しないため、金属リチウムが電極から脱落して失活するといった可能性が低い。そのため、リチウムの析出および溶解を利用するリチウム金属二次電池よりも、充放電を繰り返した際の容量の再現性に優れており、安定な充放電特性を得ることができると考えられている。このリチウムイオン二次電池は、正極および負極と共に電解液を備えており、その電解液は溶媒および電解質塩を含んでいる。
【0005】
このリチウムイオン二次電池において、電解液の添加剤として用いられるスルホン化合物としては、既にいくつかのものが知られている。具体的には、低温放電特性や常温保存特性を向上させるために、o−メタンスルホン酸安息香酸メチルなどのスルホン酸エステルとカルボン酸エステルとを共有する芳香族化合物を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、高温保存時の負荷特性を向上させるために、スルホ安息香酸無水物などのスルホン酸とカルボン酸との無水物を用いることや、スルホ安息香酸などのフェニルスルホン酸あるいはベンゼンジスルホン酸ジカリウムなどのフェニルスルホン酸金属などを用いることが提案されている(例えば、特許文献2,3参照。)。また、高温サイクル特性を向上させるために、ジフェニルスルトンや1,3−プロパンスルトンなどの硫黄含有化合物を用いることが提案されている(例えば、特許文献4参照。)。さらに、充放電効率を向上させるために、ビニルスルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸イオン基を有するモノマーを用いることが提案されている(例えば、特許文献5参照。)。この場合には、電極の表面に、スルホン酸イオン基を有するモノマーが重合して形成された高分子化合物を被膜として設けることも提案されている。
【特許文献1】特開2000−268830号公報
【特許文献2】特開2002−008718号公報
【特許文献3】特開2002−056891号公報
【特許文献4】特開2006−294519号公報
【特許文献5】特開2007−042387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のスルホン化合物は、電気化学デバイスの電気的性能を向上させる上で、未だ十分であるとは言えない。特に、二次電池については、未だ十分なサイクル特性が得られていないため、そのサイクル特性を向上させる十分な余地がある。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、サイクル特性を向上させることが可能な負極およびその製造方法、二次電池およびその製造方法、ならびにスルホン化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の負極は、負極集電体に設けられた負極活物質層上に被膜を有し、被膜がカーボネート基およびスルホニル基を有するスルホン化合物を含有するものである。また、本発明の負極の製造方法は、負極集電体に設けられた負極活物質層上に被膜を有する負極を製造する方法であって、カーボネート基およびスルホニル基を有するスルホン化合物を含有する溶液を用いて、負極活物質層上に被膜を形成するようにしたものである。
【0009】
本発明の二次電池は、セパレータを介して対向された正極および負極と電解液とを備えたものであって、正極、負極、セパレータおよび電解液のうちの少なくとも1つがカーボネート基およびスルホニル基を有するスルホン化合物を含有するものである。また、本発明の二次電池の製造方法は、セパレータを介して対向された正極および負極と電解液とを備えた二次電池を製造する方法であって、正極、負極、セパレータおよび電解液のうちの少なくとも1つにカーボネート基およびスルホニル基を有するスルホン化合物を含有させるようにしたものである。
【0010】
本発明のスルホン化合物は、カーボネート基およびスルホニル基を有するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のスルホン化合物によれば、カーボネート基およびスルホニル基を有しているので、電気化学デバイスに電解液などの添加剤や電極などの被膜として用いられた場合に、それらの電解液や被膜などの化学的安定性が向上する。これにより、本発明のスルホン化合物を用いた負極あるいはその製造方法によれば、そのスルホン化合物を含有する被膜を負極活物質層に形成しているので、負極の化学的安定性が向上する。このため、負極が電池などの電気化学デバイスに用いられた場合に、負極において電極反応物質が効率よく吸蔵および放出されると共に、負極が電解液などの他の物質と反応しにくくなる。したがって、本発明の負極およびその製造方法を用いた二次電池およびその製造方法によれば、正極、負極、セパレータあるいは電解液のうちの少なくとも1つに上記したスルホン化合物を含有させているので、サイクル特性を向上させることができる。この場合には、正極、負極あるいはセパレータのうちの少なくとも1つに上記したスルホン化合物を含有させるために、そのスルホン化合物を含有する溶液を用いて浸積処理や塗布処理を行えば、減圧環境などの特殊な環境条件を要する方法を用いる場合と比較して、簡単にスルホン化合物を含有させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
本発明の一実施の形態に係るスルホン化合物は、例えば二次電池などの電気化学デバイスに用いられるものであり、カーボネート基(−O−CO−O−)およびスルホニル基(−SO2 −)を有している。このスルホン化合物が電気化学デバイスに用いられる場合には、例えば、電解液などの液体中に添加剤として分散されてもよいし、電極などの固体の表面に被膜として形成されてもよい。
【0014】
このスルホン化合物がカーボネート基およびスルホニル基を有しているのは、上記した電解液や被膜などの化学的安定性が向上するため、電気化学デバイスの電気的性能の向上に寄与するからである。
【0015】
このスルホン化合物は、カーボネート基およびスルホニル基を有していれば、全体としてはどのような構造を有していてもよい。この場合には、カーボネート基の数が1つでもよいし、2つ以上でもよい。スルホニル基の数についても、同様である。また、カーボネート基とスルホニル基とが直接的に結合していてもよいし、何らかの基を介して間接的に結合していてもよい。
【0016】
特に、スルホン化合物は、例えば、化1あるいは化2で表される構造を有しているのが好ましい。容易に合成可能であると共に、高い効果が得られるからである。なお、化2に示した構造は、化1に示したR1とR2とを単結合させた構造に相当するものである。
【0017】
【化1】

(R1は炭素数1以上8以下のアルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、R2は炭素数1以上8以下のアルキレン基あるいはハロゲン化アルキレン基であり、X1はハロゲン基、水酸基、あるいは−OM1で表される基である。ただし、M1はアルカリ金属、アルカリ土類金属あるいはシリルエステル基である。)
【0018】
【化2】

(R3は炭素数1以上8以下のアルキレン基あるいはハロゲン化アルキレン基であり、R4は炭素数1以上8以下のアルキレン基から水素基が1つ脱離した3価の基、またはハロゲン化アルキレン基から水素基あるいはハロゲン基が1つ脱離した3価の基であり、X2はハロゲン基、水酸基、あるいは−OM2で表される基である。ただし、M2はアルカリ金属、アルカリ土類金属あるいはシリルエステル基である。)
【0019】
なお、化1中のR1について説明した「ハロゲン化アルキル基」とは、アルキル基のうちの少なくとも1つの水素がハロゲンで置換された基である。同様に、化1中のR2および化2中のR3について説明した「ハロゲン化アルキレン基」とは、アルキレン基のうちの少なくとも1つの水素がハロゲンで置換された基である。
【0020】
また、化2中のR4について説明した「ハロゲン化アルキレン基から水素基あるいはハロゲン基が1つ脱離した3価の基」とは、アルキレン基のうちの少なくとも1つの水素がハロゲンで置換された基(2価の基)から、水素基あるいはハロゲン基が1つ離脱することによって3価となった基である。その離脱する基は、水素基であってもよいし、ハロゲン基であってもよい。
【0021】
さらに、化1中のX1について説明した「シリルエステル基」とは、−Si(R)3 で表される基であり、Rは、アルキル基である。この場合には、3つのRが同一でもよいし、異なってもよい。これらのことは、化2中のX2についても同様である。
【0022】
特に、化1において、R1およびR2の炭素数が8以下であるのは、炭素数が8よりも多くなるとスルホン化合物の溶解性が高くなるため、電気化学デバイスに用いられた場合に、有機溶剤などに溶解しすぎる可能性があるからである。また、化1について説明したハロゲン基は、特に限定されないが、中でも、フッ素基(−F)が好ましい。塩素基(−Cl)などの他の種類のハロゲン基よりも、高い効果が得られるからである。これらのことは、化2におけるR3およびR4の炭素数やハロゲン基の種類についても同様である。
【0023】
化1に示した構造を有するスルホン化合物としては、例えば、化3〜化6で表されるものが挙げられる。X1は、化3においてフッ素基、化4において水酸基(−OH)、化5においてM1がリチウムである−OLi、化6においてM1がトリメチルシリル基である−O−Si(CH3 3 である。
【0024】
【化3】

【0025】
【化4】

【0026】
【化5】

【0027】
【化6】

【0028】
化2に示した構造を有するスルホン化合物としては、例えば、化7〜化10で表されるものが挙げられる。X2は、化7においてフッ素基、化8において水酸基、化9においてM2がリチウムである−OLi、化10においてM2がトリメチルシリル基である−O−Si(CH3 3 である。
【0029】
【化7】

【0030】
【化8】

【0031】
【化9】

【0032】
【化10】

【0033】
もちろん、カーボネート基およびスルホニル基を有していれば、スルホン化合物が化1あるいは化2に示した構造を有する場合に限定されないことは、言うまでもない。
【0034】
なお、確認までに説明しておくと、化5および化9では、M1あるいはM2が1価のアルカリ金属(リチウム)である場合を例に挙げているため、スルホン化合物がM1あるいはM2以外の部分(カーボネート基およびスルホニル基を有する部分)を1つだけ有している。これに対して、M1あるいはM2が2以上の価数を有する場合には、スルホン化合物がM1あるいはM2以外の部分を2つ以上有することになる。一例を挙げると、M1あるいはM2が2価のアルカリ土類金属(マグネシウム(Mg)やカルシウム(Ca)など)である場合には、スルホン化合物がM1あるいはM2以外の部分を2つ有することになる。
【0035】
このスルホン化合物によれば、カーボネート基およびスルホニル基を有しているので、電気化学デバイスに電解液などの添加剤や電極などの被膜として用いられた場合に、それらの電解液や被膜などの化学的安定性が向上する。したがって、電気化学デバイスの電気的性能の向上に寄与することができる。より具体的には、スルホン化合物が電気化学デバイスとして二次電池に用いられた場合には、サイクル特性の向上に寄与することができる。
【0036】
特に、化1あるいは化2に示した構造を有していれば、溶解性が抑制されるため、有機溶剤などと一緒に電気化学デバイスに用いられた場合においても、電解液や被膜などの化学的安定性を向上させる機能を安定して発揮することができる。
【0037】
次に、上記したスルホン化合物の使用例について説明する。電気化学デバイスの一例として二次電池を挙げると、スルホン化合物は以下のようにして二次電池に用いられる。
【0038】
ここで説明する二次電池は、セパレータを介して対向された正極および負極と、電解液とを備え、例えば、負極の容量が電極反応物質であるリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池である。正極は、正極集電体上に正極活物質層を有しており、負極は、負極集電体上に負極活物質層を有している。電解液は、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。
【0039】
この二次電池では、正極、負極、セパレータおよび電解液のうちの少なくとも1つの構成要素が、上記したスルホン化合物を含有している。スルホン化合物を含有する構成要素の化学的安定性が向上するため、電解液の分解反応が抑制されるからである。
【0040】
正極および負極がスルホン化合物を含有する場合には、正極活物質層あるいは負極活物質層上にスルホン化合物を含有する被膜が設けられる。電解液がスルホン化合物を含有する場合には、溶媒中にスルホン化合物が分散される。この場合には、スルホン化合物の全部が溶解していてもよいし、その一部だけが溶解していてもよい。セパレータがスルホン化合物を含有する場合には、その片面あるいは両面にスルホン化合物を含有する被膜が設けられる。
【0041】
スルホン化合物を含有する構成要素は、正極、負極、セパレータおよび電解液のうちのいずれか1つだけでもよいが、2つ以上が含有するのが好ましく、全部が含有するのがより好ましい。電解液の分解反応がより抑制されるからである。中でも、スルホン化合物を含有する構成要素を1つだけに絞るならば、電解液よりも正極あるいはセパレータが好ましく、負極がより好ましい。また、スルホン化合物を含有する構成要素をいずれか2つの組み合わせだけに絞るならば、負極およびセパレータの組み合わせが好ましい。いずれの場合においても、より高い効果が得られるからである。
【0042】
この二次電池の種類(電池構造)は、特に限定されない。以下では、電池構造として円筒型およびラミネートフィルム型を例に挙げ、負極がスルホン化合物を含有する場合について、二次電池の詳細な構成を説明する。
【0043】
(第1の二次電池)
図1および図2は第1の二次電池の断面構成を表しており、図2では図1に示した巻回電極体20の一部を拡大して示している。
【0044】
この二次電池は、主に、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、セパレータ23を介して正極21と負極22とが巻回された巻回電極体20と、一対の絶縁板12,13とが収納されたものである。この円柱状の電池缶11を用いた電池構造は、円筒型と呼ばれている。
【0045】
電池缶11は、例えば、一端部が閉鎖されると共に他端部が開放された中空構造を有しており、鉄、アルミニウムあるいはそれらの合金などの金属材料によって構成されている。なお、電池缶11が鉄によって構成される場合には、例えば、ニッケルなどの鍍金が施されてもよい。一対の絶縁板12,13は、巻回電極体20を上下から挟み、その巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
【0046】
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、その内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient:PTC素子)16とが、ガスケット17を介してかしめて取り付けられている。これにより、電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の金属材料によって構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。この安全弁機構15では、内部短絡、あるいは外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上となった場合に、ディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との間の電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度の上昇に応じて抵抗が増大することにより、電流を制限して大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料によって構成されており、その表面にはアスファルトが塗布されている。
【0047】
巻回電極体20の中心には、センターピン24が挿入されていてもよい。この巻回電極体20では、アルミニウムなどの金属材料によって構成された正極リード25が正極21に接続されていると共に、ニッケルなどの金属材料によって構成された負極リード26が負極22に接続されている。正極リード25は、安全弁機構15に溶接などされて電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は、電池缶11に溶接などされて電気的に接続されている。
【0048】
正極21は、例えば、一対の面を有する正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが設けられたものである。ただし、正極活物質層21Bは、正極集電体21Aの片面だけに設けられていてもよい。
【0049】
正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によって構成されている。
【0050】
正極活物質層21Bは、正極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでおり、必要に応じて、結着剤や導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0051】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、リチウム含有化合物が好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物や、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物などが挙げられる。中でも、遷移金属元素としてコバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが好ましい。より高い電圧が得られるからである。その化学式は、例えば、Lix M1O2 あるいはLiy M2PO4 で表される。式中、M1およびM2は、1種類以上の遷移金属元素を表す。xおよびyの値は、充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
【0052】
リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Lix CoO2 )、リチウムニッケル複合酸化物(Lix NiO2 )、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(Lix Ni1-z Coz 2 (z<1))、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Lix Ni(1-v-w) Cov Mnw 2 (v+w<1))、あるいはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2 4 )などが挙げられる。中でも、コバルトを含む複合酸化物が好ましい。高い容量が得られると共に、優れたサイクル特性も得られるからである。また、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4 )あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-u Mnu PO4 (u<1))などが挙げられる。
【0053】
この他、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどの酸化物や、二硫化チタンあるいは硫化モリブデンなどの二硫化物や、セレン化ニオブなどのカルコゲン化物や、硫黄、ポリアニリンあるいはポリチオフェンなどの導電性高分子も挙げられる。
【0054】
もちろん、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料は、上記以外のものであってもよい。また、上記した一連の正極材料は、任意の組み合わせで2種以上混合されてもよい。
【0055】
導電剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックあるいはケチェンブラックなどの炭素材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。なお、導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料あるいは導電性高分子などであってもよい。
【0056】
結着剤としては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエンなどの合成ゴムや、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料が挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0057】
負極22は、例えば、一対の面を有する負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bよび被膜22Cが設けられたものである。ただし、負極活物質層22Bは、負極集電体22Aの片面だけに設けられていてもよい。被膜22Cについても、同様である。
【0058】
負極集電体22Aは、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によって構成されている。この負極集電体22Aの表面は、粗面化されているのが好ましい。いわゆるアンカー効果によって負極集電体22Aと負極活物質層22Bとの間の密着性が向上するからである。この場合には、少なくとも負極活物質層22Bと対向する領域において、負極集電体22Aの表面が粗面化されていればよい。粗面化の方法としては、例えば、電解処理によって微粒子を形成する方法などが挙げられる。この電解処理とは、電解槽中において電解法によって負極集電体22Aの表面に微粒子を形成して凹凸を設ける方法である。この電解処理が施された銅箔は、一般に「電解銅箔」と呼ばれている。
【0059】
負極活物質層22Bは、負極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種あるいは2種以上を含んでおり、必要に応じて、結着剤や導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。なお、結着剤および導電剤に関する詳細は、例えば、正極21について説明した場合と同様である。
【0060】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として有する材料が挙げられる。高いエネルギー密度が得られるからである。このような負極材料は、金属元素あるいは半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。なお、本発明における「合金」には、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含まれる。また、「合金」は、非金属元素を含んでいてもよい。この組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、あるいはそれらの2種以上が共存するものがある。
【0061】
上記した金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、リチウムと合金を形成することが可能な金属元素あるいは半金属元素が挙げられる。具体的には、マグネシウム、ホウ素(B)、アルミニウム、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素、ゲルマニウム(Ge)、スズ、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)などである。中でも、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種が好ましい。リチウムを吸蔵および放出する能力が大きいため、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0062】
ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を有する負極材料としては、例えば、ケイ素の単体、合金あるいは化合物や、スズの単体、合金あるいは化合物や、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。
【0063】
ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の第2の構成元素として、スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモン(Sb)およびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を有するものが挙げられる。ケイ素の化合物としては、例えば、酸素あるいは炭素(C)を有するものが挙げられ、ケイ素に加えて、上記した第2の構成元素を有していてもよい。ケイ素の合金あるいは化合物の一例としては、SiB4 、SiB6 、Mg2 Si、Ni2 Si、TiSi2 、MoSi2 、CoSi2 、NiSi2 、CaSi2 、CrSi2 、Cu5 Si、FeSi2 、MnSi2 、NbSi2 、TaSi2 、VSi2 、WSi2 、ZnSi2 、SiC、Si3 4 、Si2 2 O、SiOv (0<v≦2)、SnOw (0<w≦2)あるいはLiSiOなどが挙げられる。
【0064】
スズの合金としては、例えば、スズ以外の第2の構成元素として、ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を有するものが挙げられる。スズの化合物としては、例えば、酸素あるいは炭素を有するものが挙げられ、スズに加えて、上記した第2の構成元素を有していてもよい。スズの合金あるいは化合物の一例としては、SnSiO3 、LiSnO、Mg2 Snなどが挙げられる。
【0065】
特に、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を有する負極材料としては、例えば、スズを第1の構成元素とし、それに加えて第2および第3の構成元素を有するものが好ましい。第2の構成元素は、コバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム(V)、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ(Nb)、モリブデン、銀、インジウム、セリウム(Ce)、ハフニウム、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ビスマスおよびケイ素からなる群のうちの少なくとも1種である。第3の構成元素は、ホウ素、炭素、アルミニウムおよびリン(P)からなる群のうちの少なくとも1種である。第2および第3の構成元素を有することにより、サイクル特性が向上するからである。
【0066】
中でも、スズ、コバルトおよび炭素を構成元素として有し、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、スズおよびコバルトの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であるSnCoC含有材料が好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0067】
このSnCoC含有材料は、必要に応じて、さらに他の構成元素を有していてもよい。他の構成元素としては、例えば、ケイ素、鉄、ニッケル、クロム、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、アルミニウム、リン、ガリウムあるいはビスマスなどが好ましく、それらの2種以上を有していてもよい。より高い効果が得られるからである。
【0068】
なお、SnCoC含有材料は、スズ、コバルトおよび炭素を含む相を有しており、その相は、低結晶性あるいは非晶質な相であるのが好ましい。この相は、リチウムと反応可能な反応相であり、これによって優れたサイクル特性が得られるようになっている。この相のX線回折によって得られる回折ピークの半値幅は、特定X線としてCuKα線を用い、挿引速度を1°/minとした場合に、回折角2θで1.0°以上であることが好ましい。リチウムがより円滑に吸蔵および放出されると共に、電解質との反応性が低減されるからである。
【0069】
X線回折によって得られた回折ピークがリチウムと反応可能な反応相に対応するものであるか否かは、リチウムとの電気化学的反応の前後におけるX線回折チャートを比較することによって容易に判断することができる。例えば、リチウムとの電気化学的反応の前後において回折ピークの位置が変化すれば、リチウムと反応可能な反応相に対応するものである。この場合には、例えば、低結晶性あるいは非晶質な反応相の回折ピークが2θ=20°〜50°の間に見られる。この低結晶性あるいは非晶質な反応相は、例えば、上記した各構成元素を含んでおり、主に、炭素によって低結晶化あるいは非晶質化しているものと考えられる。
【0070】
なお、SnCoC含有材料は、低結晶性あるいは非晶質な相に加えて、各構成元素の単体または一部を含む相を有している場合もある。
【0071】
特に、SnCoC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が、他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合しているのが好ましい。スズなどの凝集あるいは結晶化が抑制されるからである。
【0072】
元素の結合状態を調べる測定方法としては、例えばX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)が挙げられる。このXPSは、軟X線(市販の装置ではAl−Kα線か、Mg−Kα線を用いる)を試料表面に照射し、試料表面から飛び出してくる光電子の運動エネルギーを測定することによって、試料表面から数nmの領域の元素組成、および元素の結合状態を調べる方法である。
【0073】
元素の内殻軌道電子の束縛エネルギーは、第1近似的には、元素上の電荷密度と相関して変化する。例えば、炭素元素の電荷密度が近傍に存在する元素との相互作用によって減少した場合には、2p電子などの外殻電子が減少しているので、炭素元素の1s電子は殻から強い束縛力を受けることになる。すなわち、元素の電荷密度が減少すると、束縛エネルギーは高くなる。XPSでは、束縛エネルギーが高くなると、高いエネルギー領域にピークはシフトするようになっている。
【0074】
XPSにおいて、炭素の1s軌道(C1s)のピークは、グラファイトであれば、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正された装置において、284.5eVに現れる。また、表面汚染炭素であれば、284.8eVに現れる。これに対して、炭素元素の電荷密度が高くなる場合、例えば炭素よりも陽性な元素と結合している場合には、C1sのピークは、284.5eVよりも低い領域に現れる。すなわち、SnCoC含有材料に含まれる炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素または半金属元素などと結合している場合には、SnCoC含有材料について得られるC1sの合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる。
【0075】
なお、XPS測定を行う場合には、表面が表面汚染炭素で覆われている際に、XPS装置に付属のアルゴンイオン銃で表面を軽くスパッタするのが好ましい。また、測定対象のSnCoC含有材料が負極22中に存在する場合には、二次電池を解体して負極22を取り出したのち、炭酸ジメチルなどの揮発性溶媒で洗浄するとよい。負極22の表面に存在する揮発性の低い溶媒と電解質塩とを除去するためである。これらのサンプリングは、不活性雰囲気下で行うのが望ましい。
【0076】
また、XPS測定では、スペクトルのエネルギー軸の補正に、例えばC1sのピークを用いる。通常、物質表面には表面汚染炭素が存在しているので、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、それをエネルギー基準とする。なお、XPS測定では、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形として得られるので、例えば市販のソフトウエアを用いて解析することにより、表面汚染炭素のピークと、SnCoC含有材料中の炭素のピークとを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
【0077】
このSnCoC含有材料は、例えば、各構成元素の原料を混合した混合物を電気炉、高周波誘導炉あるいはアーク溶解炉などで溶解させたのち、凝固させることによって形成可能である。また、ガスアトマイズあるいは水アトマイズなどの各種アトマイズ法や、各種ロール法や、メカニカルアロイング法あるいはメカニカルミリング法などのメカノケミカル反応を利用した方法などを用いてもよい。中でも、メカノケミカル反応を利用した方法が好ましい。SnCoC含有材料が低結晶性あるいは非晶質な構造になるからである。メカノケミカル反応を利用した方法では、例えば、遊星ボールミル装置やアトライタなどの製造装置を用いることができる。
【0078】
原料には、各構成元素の単体を混合して用いてもよいが、炭素以外の構成元素の一部については合金を用いるのが好ましい。このような合金に炭素を加えてメカニカルアロイング法を利用した方法によって合成することにより、低結晶化あるいは非晶質な構造が得られ、反応時間も短縮されるからである。なお、原料の形態は、粉体であってもよいし、塊状であってもよい。
【0079】
このSnCoC含有材料の他、スズ、コバルト、鉄および炭素を構成元素として有するSnCoFeC含有材料も好ましい。このSnCoFeC含有材料の組成は、任意に設定可能である。例えば、鉄の含有量を少なめに設定する場合の組成としては、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、鉄の含有量が0.3質量%以上5.9質量%以下、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下であるのが好ましい。また、例えば、鉄の含有量を多めに設定する場合の組成としては、炭素の含有量が11.9質量%以上29.7質量%以下、スズとコバルトと鉄との合計に対するコバルトと鉄との合計の割合((Co+Fe)/(Sn+Co+Fe))が26.4質量%以上48.5質量%以下、コバルトと鉄との合計に対するコバルトの割合(Co/(Co+Fe))が9.9質量%以上79.5質量%以下であるのが好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。このSnCoFeC含有材料の結晶性、元素の結合状態の測定方法、および形成方法などについては、上記したSnCoC含有材料と同様である。
【0080】
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料として、ケイ素の単体、合金あるいは化合物や、スズの単体、合金あるいは化合物や、それらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料を用いた負極活物質層22Bは、例えば、気相法、液相法、溶射法、塗布法あるいは焼成法、またはそれらの2種以上の方法を用いて形成される。この場合には、負極集電体22Aと負極活物質層22Bとが界面の少なくとも一部において合金化しているのが好ましい。詳細には、両者の界面において、負極集電体22Aの構成元素が負極活物質層22Bに拡散していてもよいし、負極活物質層22Bの構成元素が負極集電体22Aに拡散していてもよいし、それらの構成元素が互いに拡散し合っていてもよい。充放電時における負極活物質層22Bの膨張および収縮に起因する破壊が抑制されると共に、負極集電体22Aと負極活物質層22Bとの間の電子伝導性が向上するからである。
【0081】
なお、気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法、具体的には真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長(Chemical Vapor Deposition :CVD)法あるいはプラズマ化学気相成長法などが挙げられる。液相法としては、電解鍍金あるいは無電解鍍金などの公知の手法を用いることができる。塗布法とは、例えば、粒子状の負極活物質を結着剤などと混合したのち、溶剤に分散させて塗布する方法である。焼成法とは、例えば、塗布法によって塗布したのち、結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法に関しても公知の手法が利用可能であり、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法あるいはホットプレス焼成法が挙げられる。
【0082】
上記した他、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、炭素材料が挙げられる。この炭素材料とは、例えば、易黒鉛化性炭素や、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素や、(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などである。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭あるいはカーボンブラック類などがある。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスあるいは石油コークスなどが含まれる。有機高分子化合物焼成体とは、フェノール樹脂やフラン樹脂などを適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。炭素材料は、リチウムの吸蔵および放出に伴う結晶構造の変化が非常に少ないため、高いエネルギー密度が得られると共に優れたサイクル特性が得られ、さらに導電剤としても機能するので好ましい。なお、炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状あるいは鱗片状のいずれでもよい。
【0083】
また、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能な金属酸化物あるいは高分子化合物なども挙げられる。金属酸化物とは、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムあるいは酸化モリブデンなどであり、高分子化合物とは、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンあるいはポリピロールなどである。
【0084】
もちろん、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料は、上記以外のものであってもよい。また、上記した一連の負極材料は、任意の組み合わせで2種以上混合されもよい。
【0085】
上記した負極材料からなる負極活物質は、複数の粒子状をなしている。すなわち、負極活物質層22Bは、複数の負極活物質粒子を有しており、その負極活物質粒子は、例えば、上記した気相法などによって形成されている。ただし、負極活物質粒子は、気相法以外の方法によって形成されていてもよい。
【0086】
負極活物質粒子が気相法などの堆積法によって形成される場合には、その負極活物質粒子が単一の堆積工程を経て形成された単層構造を有していてもよいし、複数回の堆積工程を経て形成された多層構造を有していてもよい。ただし、堆積時に高熱を伴う蒸着法などによって負極活物質粒子を形成する場合には、その負極活物質粒子が多層構造を有しているのが好ましい。負極材料の堆積工程を複数回に分割して行う(負極材料を順次薄く形成して堆積させる)ことにより、その堆積工程を1回で行う場合と比較して負極集電体22Aが高熱に晒される時間が短くなり、熱的ダメージを受けにくくなるからである。
【0087】
この負極活物質粒子は、例えば、負極集電体22Aの表面から負極活物質層22Bの厚さ方向に成長しており、その根本において負極集電体22Aに連結されている。この場合には、負極活物質粒子が気相法によって形成されており、上記したように、負極集電体22Aとの界面の少なくとも一部において合金化しているのが好ましい。詳細には、両者の界面において、負極集電体22Aの構成元素が負極活物質粒子に拡散していてもよいし、負極活物質粒子の構成元素が負極集電体22Aに拡散していてもよいし、両者の構成元素が互いに拡散しあっていてもよい。
【0088】
特に、負極活物質層22Bは、必要に応じて、負極活物質粒子の表面(電解液と接する領域)を被覆する酸化物含有膜を有しているのが好ましい。酸化物含有膜が電解液に対する保護膜として機能し、充放電を繰り返しても電解液の分解反応が抑制されるため、サイクル特性が向上するからである。この酸化物含有膜は、負極活物質粒子の表面のうちの一部を被覆していてもよいし、全部を被覆していてもよい。
【0089】
この酸化物含有膜は、例えば、ケイ素、ゲルマニウムおよびスズからなる群のうちの少なくとも1種の酸化物を含有しており、中でも、ケイ素の酸化物を含有しているのが好ましい。負極活物質粒子の表面を全体に渡って容易に被覆しやすいと共に、優れた保護作用が得られるからである。もちろん、酸化物含有膜は、上記以外の他の酸化物を含有していてもよい。この酸化物含有膜は、例えば、気相法あるいは液相法によって形成されており、中でも液相析出法、ゾルゲル法、塗布法あるいはディップコーティング法などの液相法が好ましく、液相析出法がより好ましい。負極活物質粒子の表面を広い範囲に渡って容易に被覆しやすいからである。
【0090】
また、負極活物質層22Bは、必要に応じて、負極活物質粒子の粒子間の隙間や粒子内の隙間に、電極反応物質と合金化しない金属材料を有しているのが好ましい。金属材料を介して複数の負極活物質粒子が結着されると共に、上記した隙間に金属材料が存在することで負極活物質層22Bの膨張および収縮が抑制されるため、サイクル特性が向上するからである。
【0091】
この金属材料は、例えば、リチウムと合金化しない金属元素を構成元素として有している。このような金属元素としては、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛および銅からなる群のうちの少なくとも1種が挙げられ、中でも、コバルトが好ましい。上記した隙間に金属材料が容易に入り込みやすいと共に、優れた結着作用が得られるからである。もちろん、金属材料は、上記以外の他の金属元素を有していてもよい。ただし、ここで言う「金属材料」とは、単体に限らず、合金や金属化合物まで含む広い概念である。この金属材料は、例えば、気相法あるいは液相法によって形成されており、中でも電解鍍金法あるいは無電解鍍金法などの液相法が好ましく、電解鍍金法がより好ましい。上記した隙間に金属材料が入り込みやすくなると共に、その形成時間が短くて済むからである。
【0092】
なお、負極活物質層22Bは、上記した酸化物含有膜あるいは金属材料のいずれか一方だけを有していてもよいし、双方を有していてもよい。ただし、サイクル特性をより向上させるためには、双方を含んでいるのが好ましい。
【0093】
ここで、図3〜図6を参照して、負極22の詳細な構成について説明する。
【0094】
まず、負極活物質層22Bが複数の負極活物質粒子と共に酸化物含有膜を有する場合について説明する。図3は本発明の負極22の断面構造を模式的に表しており、図4は参考例の負極の断面構造を模式的に表している。図3および図4では、負極活物質粒子が単層構造を有している場合を示している。
【0095】
本発明の負極では、図3に示したように、例えば、蒸着法などの気相法によって負極集電体22A上に負極材料が堆積されると、その負極集電体22A上に複数の負極活物質粒子221が形成される。この場合には、負極集電体22Aの表面が粗面化され、その表面に複数の突起部(例えば、電解処理により形成された微粒子)が存在すると、負極活物質粒子221が上記した突起部ごとに厚さ方向に成長するため、複数の負極活物質粒子221が負極集電体22A上において配列されると共に根本において負極集電体22Aの表面に連結される。こののち、例えば、液相析出法などの液相法によって負極活物質粒子221の表面に酸化物含有膜222が形成されると、その酸化物含有膜222は負極活物質粒子221の表面をほぼ全体に渡って被覆し、特に、負極活物質粒子221の頭頂部から根本に至る広い範囲を被覆する。この酸化物含有膜222による広範囲な被覆状態は、その酸化物含有膜222が液相法によって形成された場合に得られる特徴である。すなわち、液相法によって酸化物含有膜222を形成すると、その被覆作用が負極活物質粒子221の頭頂部だけでなく根本まで広く及ぶため、その根本まで酸化物含有膜222によって被覆される。
【0096】
これに対して、参考例の負極では、図4に示したように、例えば、気相法によって複数の負極活物質粒子221が形成されたのち、同様に気相法によって酸化物含有膜223が形成されると、その酸化物含有膜223は負極活物質粒子221の頭頂部だけを被覆する。この酸化物含有膜223による狭範囲な被覆状態は、その酸化物含有膜223が気相法によって形成された場合に得られる特徴である。すなわち、気相法によって酸化物含有膜223を形成すると、その被覆作用が負極活物質粒子221の頭頂部に及ぶものの根本まで及ばないため、その根本までは酸化物含有膜223によって被覆されない。
【0097】
なお、図3では、気相法によって負極活物質層22Bが形成される場合について説明したが、焼結法などによって負極活物質層22Bが形成される場合においても同様に、複数の負極活物質粒子の表面をほぼ全体に渡って被覆するように酸化物含有膜が形成される。
【0098】
次に、負極活物質層22Bが複数の負極活物質粒子と共に電極反応物質と合金化しない金属材料を有する場合について説明する。図5は負極22の断面構造を拡大して表しており、(A)は走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)写真(二次電子像)、(B)は(A)に示したSEM像の模式絵である。図5では、複数の負極活物質粒子221が粒子内に多層構造を有している場合を示している。
【0099】
負極活物質粒子221が多層構造を有する場合には、その複数の負極活物質粒子221の配列構造、多層構造および表面構造に起因して、負極活物質層22B中に複数の隙間224が生じている。この隙間224は、主に、発生原因に応じて分類された2種類の隙間224A,224Bを含んでいる。隙間224Aは、隣り合う負極活物質粒子221間に生じるものであり、隙間224Bは、負極活物質粒子221内の各階層間に生じるものである。
【0100】
なお、負極活物質粒子221の露出面(最表面)には、空隙225が生じる場合がある。この空隙225は、負極活物質粒子221の表面にひげ状の微細な突起部(図示せず)が生じることに伴い、その突起部間に生じるものである。この空隙225は、負極活物質粒子221の露出面において、全体に渡って生じる場合もあれば、一部だけに生じる場合もある。ただし、上記したひげ状の突起部は、負極活物質粒子221の形成時ごとにその表面に生じるため、空隙225は、負極活物質粒子221の露出面だけでなく、各階層間にも生じる場合がある。
【0101】
図6は負極22の他の断面構造を表しており、図5に対応している。負極活物質層22Bは、隙間224A,224Bに、電極反応物質と合金化しない金属材料226を有している。この場合には、隙間224A,224Bのうちのいずれか一方だけに金属材料226を有していてもよいが、双方に金属材料226を有しているのが好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0102】
この金属材料226は、隣り合う負極活物質粒子221間の隙間224Aに入り込んでいる。詳細には、気相法などによって負極活物質粒子221が形成される場合には、上記したように、負極集電体22Aの表面に存在する突起部ごとに負極活物質粒子221が成長するため、隣り合う負極活物質粒子221間に隙間224Aが生じる。この隙間224Aは、負極活物質層22Bの結着性を低下させる原因となるため、その結着性を高めるために、上記した隙間224Aに金属材料226が充填されている。この場合には、隙間224Aの一部でも充填されていればよいが、その充填量が多いほど好ましい。負極活物質層22Bの結着性がより向上するからである。金属材料226の充填量は、20%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。
【0103】
また、金属材料226は、負極活物質粒子221内の隙間224Bに入り込んでいる。詳細には、負極活物質粒子221が多層構造を有する場合には、各階層間に隙間224Bが生じる。この隙間224Bは、上記した隙間224Aと同様に、負極活物質層22Bの結着性を低下させる原因となるため、その結着性を高めるために、上記した隙間224Bに金属材料226が充填されている。この場合には、隙間224Bの一部でも充填されていればよいが、その充填量が多いほど好ましい。負極活物質層22Bの結着性がより向上するからである。
【0104】
なお、負極活物質層22Bは、最上層の負極活物質粒子221の露出面に生じるひげ状の微細な突起部(図示せず)が二次電池の性能に悪影響を及ぼすことを抑えるために、空隙225に金属材料226を有していてもよい。詳細には、気相法などによって負極活物質粒子221が形成される場合には、その表面にひげ状の微細な突起部が生じるため、その突起部間に空隙225が生じる。この空隙225は、負極活物質粒子221の表面積の増加を招き、その表面に形成される不可逆性の被膜の量も増加させるため、電極反応(充放電反応)の進行度を低下させる原因となる可能性がある。したがって、電極反応の進行度の低下を抑えるために、上記した空隙225に金属材料226が埋め込まれている。この場合には、空隙225の一部でも埋め込まれていればよいが、その埋め込む量が多いほど好ましい。電極反応の進行度の低下がより抑えられるからである。図6において、最上層の負極活物質粒子221の表面に金属材料226が点在していることは、その点在箇所に上記した微細な突起部が存在していること表している。もちろん、金属材料226は、必ずしも負極活物質粒子221の表面に点在していなければならないわけではなく、その表面全体を被覆していてもよい。
【0105】
特に、隙間224Bに入り込んだ金属材料226は、各階層における空隙225を埋め込む機能も果たしている。詳細には、負極材料が複数回に渡って堆積される場合には、その堆積時ごとに負極活物質粒子221の表面に上記した微細な突起部が生じる。このことから、金属材料226は、各階層における隙間224Bに充填されているだけでなく、各階層における空隙225も埋め込んでいる。
【0106】
なお、図5および図6では、負極活物質粒子221が多層構造を有しており、負極活物質層22B中に隙間224A,224Bの双方が存在している場合について説明したため、負極活物質層22Bが隙間224A,224Bに金属材料226を有している。これに対して、負極活物質粒子221が単層構造を有しており、負極活物質層22B中に隙間224Aだけが存在する場合には、負極活物質層22Bが隙間224Aだけに金属材料226を有することとなる。もちろん、空隙225は両者の場合において生じるため、いずれの場合においても空隙225に金属材料226を有することとなる。
【0107】
被膜22Cは、上記したスルホン化合物のいずれか1種あるいは2種以上を含有している。この被膜22Cが負極活物質層22B上に設けられているのは、負極22の化学的安定性が向上し、それに伴って負極22に隣接する電解液の化学的安定性も向上するからである。これにより、負極22においてリチウムが効率よく吸蔵および放出されると共に、電解液の分解反応が抑制されるため、サイクル特性が向上する。
【0108】
この被膜22Cは、負極活物質層22Bの全面を覆うように設けられていてもよいし、その表面の一部を覆うように設けられていてもよい。この場合には、被膜22Cの一部が負極活物質層22Bの内部に入り込んでいてもよい。
【0109】
特に、被膜22Cは、上記したスルホン化合物と共に、アルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩(スルホン化合物に該当するものを除く)のいずれか1種あるいは2種以上を含有しているのが好ましい。被膜抵抗が抑えられるため、サイクル特性がより向上するからである。
【0110】
このようなアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩としては、例えば、アルカリ金属元素あるいはアルカリ土類金属元素の炭酸塩、ハロゲン化物塩、ホウ酸塩、リン酸塩あるいはスルホン酸塩などが挙げられる。具体的には、例えば、炭酸リチウム(Li2 CO3 )、フッ化リチウム(LiF)、四ホウ酸リチウム(Li2 4 7 )、メタホウ酸リチウム(LiBO2 )、ピロリン酸リチウム(Li4 2 7 )、トリポリリン酸リチウム(Li5 3 10)、オルトケイ酸リチウム(Li4 SiO4 )、メタケイ酸リチウム(Li2 SiO3 )、エタンジスルホン酸二リチウム、プロパンジスルホン酸二リチウム、スルホ酢酸二リチウム、スルホプロピオン酸二リチウム、スルホブタン酸二リチウム、スルホ安息香酸二リチウム、コハク酸二リチウム、スルホコハク酸三リチウム、スクエア酸二リチウム、エタンジスルホン酸マグネシウム、プロパンジスルホン酸マグネシウム、スルホ酢酸マグネシウム、スルホプロピオン酸マグネシウム、スルホブタン酸マグネシウム、スルホ安息香酸マグネシウム、コハク酸マグネシウム、二スルホコハク酸三マグネシウム、エタンジスルホン酸カルシウム、プロパンジスルホン酸カルシウム、スルホ酢酸カルシウム、スルホプロピオン酸カルシウム、スルホブタン酸カルシウム、スルホ安息香酸カルシウム、コハク酸カルシウム、あるいは二スルホコハク酸三カルシウムなどである。
【0111】
被膜22Cを形成する方法としては、例えば、塗布法、浸漬法あるいはディップコーティング法などの液相法や、蒸着法、スパッタ法あるいはCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)法などの気相法が挙げられる。これらの方法については、単独で用いてもよいし、2種以上の方法を併用してもよい。中でも、液相法として、上記したスルホン化合物を含有する溶液を用いて被膜22Cを形成するのが好ましい。具体的には、例えば、浸積法では、スルホン化合物を含有する溶液中に、負極活物質層22Bが形成された負極集電体22Aを浸漬し、あるいは塗布法では、スルホン化合物を含有する溶液を負極活物質層22Bの表面に塗布する。高い化学的安定性を有する良好な被膜22Bが容易に形成されるからである。スルホン化合物を溶解させる溶媒としては、例えば、水などの極性の高い溶媒が挙げられる。
【0112】
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂からなる多孔質膜や、セラミックからなる多孔質膜などによって構成されており、これらの2種以上の多孔質膜が積層されたものであってもよい。
【0113】
このセパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。
【0114】
溶媒は、例えば、有機溶剤などの非水溶媒のいずれか1種あるいは2種以上を含有している。この非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸メチルプロピルなどの炭酸エステル系溶媒などが挙げられる。優れた容量特性、サイクル特性および保存特性が得られるからである。中でも、炭酸エチレンあるいは炭酸プロピレンなどの高粘度溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒とを混合したものが好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するため、より高い効果が得られるからである。
【0115】
この溶媒は、化11〜化13で表される不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含有しているのが好ましい。サイクル特性が向上するからである。これらは単独でも良いし、複数種が混合されてもよい。
【0116】
【化11】

(R11およびR12は水素基あるいはアルキル基である。)
【0117】
【化12】

(R13〜R16は水素基、アルキル基、ビニル基あるいはアリル基であり、それらのうちの少なくとも1つはビニル基あるいはアリル基である。)
【0118】
【化13】

(R17はアルキレン基である。)
【0119】
化11に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニレン系化合物である。この炭酸ビニレン系化合物としては、例えば、炭酸ビニレン(1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸メチルビニレン(4−メチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、炭酸エチルビニレン(4−エチル−1,3−ジオキソール−2−オン)、4,5−ジメチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4,5−ジエチル−1,3−ジオキソール−2−オン、4−フルオロ−1,3−ジオキソール−2−オン、あるいは4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソール−2−オンなどが挙げられ、中でも炭酸ビニレンが好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。
【0120】
化12に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニルエチレン系化合物である。炭酸ビニルエチレン系化合物としては、例えば、炭酸ビニルエチレン(4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン)、4−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−n−プロピル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、5−メチル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,5−ジビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられ、中でも炭酸ビニルエチレンが好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。もちろん、R13〜R16としては、全てがビニル基でもよいし、全てがアリル基でもよいし、ビニル基とアリル基とが混在していてもよい。
【0121】
化13に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸メチレンエチレン系化合物である。炭酸メチレンエチレン系化合物としては、4−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジメチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,4−ジエチル−5−メチレン−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。この炭酸メチレンエチレン系化合物としては、1つのメチレン基を有するもの(化13に示した化合物)の他、2つのメチレン基を有するものであってもよい。
【0122】
なお、不飽和結合を有する環状炭酸エステルとしては、化11〜化13に示したものの他、ベンゼン環を有する炭酸カテコール(カテコールカーボネート)などであってもよい。
【0123】
また、溶媒は、化14で表されるハロゲンを構成元素として有する鎖状炭酸エステルおよび化15で表されるハロゲンを構成元素として有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を含有しているのが好ましい。負極22の表面に安定な保護膜が形成されて電解液の分解反応が抑制されるため、サイクル特性が向上するからである。
【0124】
【化14】

(R21〜R26は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
【0125】
【化15】

(R27〜R30は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
【0126】
なお、化14中のR21〜R26は、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、化15中のR27〜30についても同様である。ハロゲンの種類は、特に限定されないが、例えば、フッ素、塩素および臭素からなる群のうちの少なくとも1種が挙げられ、中でも、フッ素が好ましい。高い効果が得られるからである。もちろん、他のハロゲンであってもよい。
【0127】
ハロゲンの数は、1つよりも2つが好ましく、さらに3つ以上であってもよい。保護膜を形成する能力が高くなり、より強固で安定な保護膜が形成されるため、電解液の分解反応がより抑制されるからである。
【0128】
化14に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)あるいは炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0129】
化15に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルとしては、例えば、化16および化17で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、化16に示した(1)の4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(2)の4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(3)の4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(4)のテトラフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(5)の4−フルオロ−5−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(6)の4,5−ジクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(7)のテトラクロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(8)の4,5−ビストリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(9)の4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(10)の4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(11)の4−メチル−5,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(12)の4−エチル−5,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。また、化17に示した(1)の4−トリフルオロメチル−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(2)の4−トリフルオロメチル−5−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(3)の4−フルオロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(4)の4,4−ジフルオロ−5−(1,1−ジフルオロエチル)−1,3−ジオキソラン−2−オン、(5)の4,5−ジクロロ−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(6)の4−エチル−5−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(7)の4−エチル−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(8)の4−エチル−4,5,5−トリフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、(9)の4−フルオロ−4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0130】
【化16】

【0131】
【化17】

【0132】
中でも、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンが好ましく、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンがより好ましい。特に、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンとしては、シス異性体よりもトランス異性体が好ましい。容易に入手可能であると共に、高い効果が得られるからである。
【0133】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいる。このリチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムあるいは六フッ化ヒ酸リチウムなどが挙げられる。優れた容量特性、サイクル特性および保存特性が得られるからである。中でも、六フッ化リン酸リチウムが好ましい。内部抵抗が低下するため、より高い効果が得られるからである。
【0134】
この電解質塩は、化18〜化20で表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有しているのが好ましい。上記した六フッ化リン酸リチウム等と一緒に用いられた場合に、より高い効果が得られるからである。なお、化18中のR33は、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、化19中のR41〜R43および化20中のR51およびR52についても同様である。
【0135】
【化18】

(X31は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素、またはアルミニウムである。M31は遷移金属、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。R31はハロゲン基である。Y31は−OC−R32−CO−、−OC−C(R33)2 −あるいは−OC−CO−である。ただし、R32はアルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基あるいはハロゲン化アリーレン基である。R33はアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基あるいはハロゲン化アリール基である。なお、a3は1〜4の整数であり、b3は0、2あるいは4の整数であり、c3、d3、m3およびn3は1〜3の整数である。)
【0136】
【化19】

(X41は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M41は遷移金属、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Y41は−OC−(C(R41)2 b4−CO−、−(R43)2 C−(C(R42)2 c4−CO−、−(R43)2 C−(C(R42)2 c4−C(R43)2 −、−(R43)2 C−(C(R42)2 c4−SO2 −、−O2 S−(C(R42)2 d4−SO2 −あるいは−OC−(C(R42)2 d4−SO2 −である。ただし、R41およびR43は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それぞれのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R42は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a4、e4およびn4は1あるいは2の整数であり、b4およびd4は1〜4の整数であり、c4は0〜4の整数であり、f4およびm4は1〜3の整数である。)
【0137】
【化20】

(X51は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M51は遷移金属、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Rfはフッ素化アルキル基あるいはフッ素化アリール基であり、いずれの炭素数も1〜10である。Y51は−OC−(C(R51)2 d5−CO−、−(R52)2 C−(C(R51)2 d5−CO−、−(R52)2 C−(C(R51)2 d5−C(R52)2 −、−(R52)2 C−(C(R51)2 d5−SO2 −、−O2 S−(C(R51)2 e5−SO2 −あるいは−OC−(C(R51)2 e5−SO2 −である。ただし、R51は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R52は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、そのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a5、f5およびn5は1あるいは2の整数であり、b5、c5およびe5は1〜4の整数であり、d5は0〜4の整数であり、g5およびm5は1〜3の整数である。)
【0138】
なお、長周期型周期表とは、IUPAC(国際純正・応用化学連合)が提唱する無機化学命名法改訂版によって表されるものである。具体的には、1族元素とは、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびフランシウムである。2族元素とは、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよびラジウムである。13族元素とは、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムおよびタリウムである。14族元素とは、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズおよび鉛である。15族元素とは、窒素、リン、ヒ素、アンチモンおよびビスマスである。
【0139】
化18に示した化合物としては、例えば、化21の(1)〜(6)で表される化合物などが挙げられる。化19に示した化合物としては、例えば、化22の(1)〜(8)で表される化合物などが挙げられる。化20に示した化合物としては、例えば、化23で表される化合物などが挙げられる。なお、化18〜化20に示した構造を有する化合物であれば、化21〜化23に示した化合物に限定されないことは言うまでもない。
【0140】
【化21】

【0141】
【化22】

【0142】
【化23】

【0143】
また、電解質塩は、化24〜化26で表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有していてもよい。上記した六フッ化リン酸リチウム等と一緒に用いられた場合に、より高い効果が得られるからである。なお、化24中のmおよびnは、同一でもよいし、異なってもよい。このことは、化26中のp、qおよびrについても同様である。
【0144】
【化24】

(mおよびnは1以上の整数である。)
【0145】
【化25】

(R61は炭素数が2以上4以下の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキレン基である。)
【0146】
【化26】

(p、qおよびrは1以上の整数である。)
【0147】
化24に示した鎖状の化合物としては、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 2 )、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(C2 5 SO2 2 )、(トリフルオロメタンスルホニル)(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C2 5 SO2 ))、(トリフルオロメタンスルホニル)(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C3 7 SO2 ))、あるいは(トリフルオロメタンスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 )(C4 9 SO2 ))などが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。
【0148】
化25に示した環状の化合物としては、例えば、化27で表される一連の化合物が挙げられる。すなわち、化27に示した(1)の1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミドリチウム、(2)の1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウム、(3)の1,3−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウム、(4)の1,4−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウムなどである。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミドリチウムが好ましい。高い効果が得られるからである。
【0149】
【化27】

【0150】
化26に示した鎖状の化合物としては、例えば、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO2 3 )などが挙げられる。
【0151】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下であるのが好ましい。この範囲外では、イオン伝導性が極端に低下する可能性があるからである。
【0152】
なお、電解液は、溶媒および電解質塩と共に、各種の添加剤を含んでいてもよい。電解液の化学的安定性がより向上するからである。
【0153】
この添加剤としては、例えば、スルトン(環状スルホン酸エステル)が挙げられる。このスルトンは、例えば、プロパンスルトンあるいはプロペンスルトンなどであり、中でも、プロペンスルトンが好ましい。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。電解液中におけるスルトンの含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。
【0154】
また、添加剤としては、例えば、酸無水物が挙げられる。この酸無水物は、例えば、コハク酸無水物、グルタル酸無水物あるいはマレイン酸無水物などのカルボン酸無水物や、エタンジスルホン酸無水物あるいはプロパンジスルホン酸無水物などのジスルホン酸無水物や、スルホ安息香酸無水物、スルホプロピオン酸無水物あるいはスルホ酪酸無水物などのカルボン酸とスルホン酸との無水物などであり、中でも、コハク酸無水物あるいはスルホ安息香酸無水物が好ましい。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。電解液中における酸無水物の含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。
【0155】
この二次電池は、例えば、以下の手順によって製造される。
【0156】
まず、正極21を作製する。最初に、正極活物質と、結着剤と、導電剤とを混合して正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、ドクタブレードあるいはバーコータなどによって正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させる。最後に、必要に応じて加熱しながらロールプレス機などによって塗膜を圧縮成型して正極活物質層21Bを形成する。この場合には、圧縮成型を複数回に渡って繰り返してもよい。
【0157】
次に、負極22を作製する。最初に、電解銅箔などからなる負極集電体22Aを準備したのち、蒸着法などの気相法によって負極集電体22Aの両面に負極材料を堆積させて、複数の負極活物質粒子を形成する。続いて、必要に応じて、液相析出法などの液相法によって酸化物含有膜を形成し、あるいは電解鍍金法などの液相法によって金属材料を形成して、負極活物質層22Bを形成する。続いて、上記したスルホン化合物を含有する溶液として、例えば、1重量%以上5重量%以下の濃度の水溶液を調製する。最後に、負極活物質層22Bが形成された負極集電体22Aを溶液中に数秒間浸漬してから引き上げ、室温で乾燥して被膜22Cを形成する。この被膜22Cを形成する場合には、上記した溶液を負極活物質層22Bの表面に塗布してから乾燥させるようにしてもよい。
【0158】
次に、正極集電体21Aに正極リード25を溶接などして取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を溶接などして取り付けたのち、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層させてから、長手方向において巻回させて巻回電極体20を作製する。
【0159】
二次電池の組み立ては、以下のようにして行う。最初に、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接すると共に、負極リード26の先端部を電池缶11に溶接する。続いて、巻回電極体20を一対の絶縁板12,13で挟みながら電池缶11の内部に収納する。続いて、電池缶11の内部に電解液を注入してセパレータ23に含浸させる。最後に、電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16をガスケット17を介してかしめることにより固定する。これにより、図1および図2に示した二次電池が完成する。
【0160】
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極22からリチウムイオンが放出され、セパレータ23に含浸された電解液を介して正極21に吸蔵される。
【0161】
この円筒型の二次電池によれば、負極22が上記した負極と同様の構成を有しているので、その負極22の化学的安定性が向上する。これにより、負極22においてリチウムイオンが吸蔵および放出されやすくなると共に、電解液の分解反応が抑制されるため、サイクル特性を向上させることができる。この場合には、上記したスルホン化合物を含有する溶液を用いて被膜22Cを形成しており、具体的には浸積処理や塗布処理などの簡単な処理を用いているので、減圧環境などの特殊な環境条件を要する方法を用いる場合と比較して、良好な被膜22Cを簡単に形成することができる。
【0162】
特に、負極22が高容量化に有利なケイ素等(リチウムを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を有する材料)を含む場合にサイクル特性が向上するため、炭素材料などの他の負極材料を含む場合よりも高い効果を得ることができる。
【0163】
(第2の二次電池)
図7は第2の二次電池の分解斜視構成を表しており、図8は図7に示した巻回電極体30のVIII−VIII線に沿った断面を拡大して示している。
【0164】
この二次電池は、例えば、上記した第1の二次電池と同様にリチウムイオン二次電池であり、主に、フィルム状の外装部材40の内部に、正極リード31および負極リード32が取り付けられた巻回電極体30が収納されたものである。このフィルム状の外装部材40を用いた電池構造は、ラミネートフィルム型と呼ばれている。
【0165】
正極リード31および負極リード32は、例えば、外装部材40の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード31は、例えば、アルミニウムなどの金属材料によって構成されており、負極リード32は、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によって構成されている。これらの金属材料は、例えば、薄板状あるいは網目状になっている。
【0166】
外装部材40は、例えば、ナイロンフィルム、アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムがこの順に貼り合わされたアルミラミネートフィルムによって構成されている。この外装部材40は、例えば、ポリエチレンフィルムが巻回電極体30と対向するように、2枚の矩形型のアルミラミネートフィルムの外縁部同士が融着あるいは接着剤によって互いに接着された構造を有している。
【0167】
外装部材40と正極リード31および負極リード32との間には、外気の侵入を防止するために密着フィルム41が挿入されている。この密着フィルム41は、正極リード31および負極リード32に対して密着性を有する材料によって構成されている。このような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂が挙げられる。
【0168】
なお、外装部材40は、上記したアルミラミネートフィルムに代えて、他の積層構造を有するラミネートフィルムによって構成されていてもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムによって構成されていてもよい。
【0169】
巻回電極体30は、セパレータ35および電解質36を介して正極33と負極34とが積層されたのちに巻回されたものであり、その最外周部は保護テープ37によって保護されている。
【0170】
図9は、図8に示した巻回電極体30の一部を拡大して表している。正極33は、例えば、一対の面を有する正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bが設けられたものである。負極34は、例えば、一対の面を有する負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bおよび被膜34Cが設けられたものである。正極集電体33A、正極活物質層33B、負極集電体34A、負極活物質層34B、被膜34Cおよびセパレータ35の構成は、それぞれ上記した第1の二次電池における正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22B、被膜22Cおよびセパレータ23の構成と同様である。
【0171】
電解質36は、電解液と、それを保持する高分子化合物とを含んでおり、いわゆるゲル状の電解質である。ゲル状の電解質は、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に漏液が防止されるので好ましい。
【0172】
高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンとポリヘキサフルオロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、あるいはポリカーボネートなどが挙げられる。これらは単独でもよいし、複数種が混合されてもよい。中でも、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンあるいはポリエチレンオキサイドが好ましい。電気化学的に安定だからである。
【0173】
電解液の組成は、第1の二次電池における電解液の組成と同様である。ただし、この場合の溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有するものまで含む広い概念である。したがって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
【0174】
なお、電解液を高分子化合物に保持させたゲル状の電解質36に代えて、電解液をそのまま用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ35に含浸される。
【0175】
ゲル状の電解質36を備えた二次電池は、例えば、以下の3種類の方法によって製造される。
【0176】
第1の製造方法では、最初に、例えば、上記した第1の二次電池における正極21および負極22の作製手順と同様の手順により、正極集電体33Aの両面に正極活物質層33Bを形成して正極33を作製すると共に、負極集電体34Aの両面に負極活物質層34Bおよび被膜34Cを形成して負極34を作製する。続いて、電解液と、高分子化合物と、溶剤とを含む前駆溶液を調製して正極33および負極34に塗布したのち、溶剤を揮発させてゲル状の電解質36を形成する。続いて、正極集電体33Aに正極リード31を取り付けると共に、負極集電体34Aに負極リード32を取り付ける。続いて、電解質36が形成された正極33と負極34とをセパレータ35を介して積層させてから長手方向に巻回し、その最外周部に保護テープ37を接着させて巻回電極体30を作製する。最後に、例えば、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回電極体30を挟み込んだのち、その外装部材40の外縁部同士を熱融着などで接着させて巻回電極体30を封入する。この際、正極リード31および負極リード32と外装部材40との間に、密着フィルム41を挿入する。これにより、図7〜図9に示した二次電池が完成する。
【0177】
第2の製造方法では、最初に、正極33に正極リード31を取り付けると共に負極34に負極リード32を取り付けたのち、セパレータ35を介して正極33と負極34とを積層して巻回させると共に最外周部に保護テープ37を接着させて、巻回電極体30の前駆体である巻回体を作製する。続いて、2枚のフィルム状の外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を熱融着などで接着させて、袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製して袋状の外装部材40の内部に注入したのち、外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とすることにより、ゲル状の電解質36を形成する。これにより、二次電池が完成する。
【0178】
第3の製造方法では、最初に、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ35を用いることを除き、上記した第2の製造方法と同様に、巻回体を形成して袋状の外装部材40の内部に収納する。このセパレータ35に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体、すなわち単独重合体、共重合体あるいは多元共重合体などが挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデンや、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体や、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。なお、高分子化合物は、上記したフッ化ビニリデンを成分とする重合体と共に、他の1種あるいは2種以上の高分子化合物を含んでいてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材40の内部に注入したのち、その外装部材40の開口部を熱融着などで密封する。最後に、外装部材40に加重をかけながら加熱し、高分子化合物を介してセパレータ35を正極33および負極34に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸し、その高分子化合物がゲル化して電解質36が形成されるため、二次電池が完成する。
【0179】
この第3の製造方法では、第1の製造方法と比較して、二次電池の膨れが抑制される。また、第3の製造方法では、第2の製造方法と比較して、高分子化合物の原料であるモノマーや溶媒などが電解質36中にほとんど残らず、しかも高分子化合物の形成工程が良好に制御されるため、正極33、負極34およびセパレータ35と電解質36との間において十分な密着性が得られる。
【0180】
このラミネートフィルム型の二次電池によれば、負極34が上記した負極と同様の構成を有しているので、サイクル特性を向上させることができる。この二次電池に関する上記以外の効果は、第1の二次電池と同様である。
【実施例】
【0181】
本発明の実施例について詳細に説明する。
【0182】
まず、以下の手順により、本発明のカーボネート基およびスルホニル基を有するスルホン化合物を代表して、化9(1)に示したスルホン化合物を合成した。最初に、脱気した水20cm3 (=20mL)中に4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン6.1gを溶解させて水溶液を調製し、10℃まで冷却した。続いて、水溶液中に亜硫酸リチウム6.0gを攪拌しながらゆっくり加えたのち、室温まで徐々に温度を上げながら3時間に渡って攪拌して反応させた。続いて、反応後の水溶液を濾過して不要物を除去したのち、減圧して、反応物である固体を濃縮した。続いて、反応物である固体をテトラヒドロフラン50cm3 (=50mL)中に加えて抽出したところ、その抽出液は2層に分離した。最後に、抽出液中の下層を110℃で減圧乾燥して、無色の化合物0.6gを得た。
【0183】
得られた化合物について、重水素化溶媒として重水を用いて核磁気共鳴法(nuclear magnetic resonance;NMR)によって同定した。その結果、1H−NMRスペクトル(3−(トリメチルシリル)−1−プロパンスルホン酸ナトリウム基準)が4.66ppm〜4.76ppm(m,2H)および5.38ppm〜5.41ppm(m,1H)に検出された。また、得られた化合物について、飛行時間型二次イオン質量分析法(Time Of Flight Secondary Ion Mass Spectrometry:TOF−SIMS)によって解析したところ、正二次イオンとしてC3 3 SO6 Li2+に相当する分子量のピークが検出されると共に、負二次イオンとしてC3 3 SO6-に相当する分子量のピークが検出された。これらのことから、得られた化合物がカーボネート基およびスルホニル基を有する化9(1)に示したスルホン化合物であり、そのスルホン化合物を既存の合成手順によって容易に合成可能であることが確認された。
【0184】
(実施例1−1)
以下の手順により、図7〜図9に示したラミネートフィルム型の二次電池を作製した。この際、負極34の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池となるようにした。
【0185】
まず、正極33を作製した。最初に、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを0.5:1のモル比で混合したのち、空気中において900℃×5時間の条件で焼成してリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。続いて、正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物91質量部と、導電剤としてグラファイト6質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して正極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の正極合剤スラリーとした。続いて、バーコータによって帯状のアルミニウム箔(厚さ=12μm)からなる正極集電体33Aの両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機によって圧縮成形して正極活物質層33Bを形成した。
【0186】
次に、負極34を作製した。最初に、電解銅箔からなる負極集電体34A(厚さ=10μm)を準備したのち、電子ビーム蒸着法によって負極集電体34Aの両面に負極活物質としてケイ素を堆積させて複数の負極活物質粒子を形成することにより、負極活物質層34Bを形成した。この負極活物質層34Bでは、1回の堆積工程で負極活物質粒子を形成することにより、負極活物質粒子が単層構造を有するようにした。また、負極集電体34Aの片面に形成する負極活物質層34Bの厚さは5μmとなるようにした。続いて、本発明のカーボネート基およびスルホニル基を有するスルホン化合物として、化9(1)に示したスルホン化合物を純水に溶解させて、3%水溶液を調製した。最後に、負極活物質層34Bが形成された負極集電体34Aを水溶液中に数秒間浸漬させてから引き上げたのち、60℃の減圧環境中において乾燥させて、負極活物質層34B上に被膜34Cを形成した。
【0187】
次に、溶媒として炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)とを混合したのち、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を溶解させて、電解液を調製した。この際、溶媒の組成(EC:DEC)を重量比で30:70とし、電解液中における六フッ化リン酸リチウムの濃度を1mol/kgとした。
【0188】
最後に、正極33および負極34と共に電解液を用いて二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体33Aの一端にアルミニウム製の正極リード31を溶接すると共に、負極集電体34Aの一端にニッケル製の負極リード32を溶接した。続いて、正極33と、微多孔性ポリプロピレンフィルムからなるセパレータ35(厚さ=25μm)と、負極54とをこの順に積層してから長手方向に巻回させたのち、粘着テープからなる保護テープ37で巻き終わり部分を固定して、巻回電極体30の前駆体である巻回体を形成した。続いて、外側から、ナイロンフィルム(厚さ=30μm)と、アルミニウム箔(厚さ=40μm)と、無延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ=30μm)とが積層された3層構造のラミネートフィルム(総厚=100μm)からなる外装部材40の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺を除く外縁部同士を熱融着して、袋状の外装部材40の内部に巻回体を収納した。続いて、外装部材40の開口部から電解液を注入してセパレータ35に含浸させて巻回電極体30を作製した。最後に、真空雰囲気中において外装部材40の開口部を熱融着して封止することにより、ラミネートフィルム型の二次電池が完成した。この二次電池については、負極34の充放電容量が正極33の充放電容量よりも大きくなるように正極活物質層33Bの厚さを調節することにより、満充電時において負極34にリチウム金属が析出しないようにした。
【0189】
(実施例1−2)
溶媒として炭酸プロピレン(PC)を加え、溶媒の組成(EC:PC:DEC)を重量比で10:20:70に変更したことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。
【0190】
(実施例1−3)
溶媒としてECに代えて、化15に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルである4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)を用い、溶媒の組成(DEC:FEC)を重量比で70:30に変更したことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。
【0191】
(実施例1−4)
溶媒としてPCおよびFECを加え、溶媒の組成(EC:PC:DEC:FEC)を重量比で10:10:70:10に変更したことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。
【0192】
(実施例1−5)
溶媒として、化15に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルである4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(DFEC)を加え、溶媒の組成(EC:DEC:DFEC)を重量比で10:70:20に変更したことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。
【0193】
(実施例1−6)
溶媒としてPCおよびDFECを加え、溶媒の組成(EC:PC:DEC:DFEC)を重量比で10:10:70:10に変更したことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。
【0194】
(実施例1−7)
溶媒としてECに代えて、FECと、化14に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルである炭酸ビス(フルオロメチル)(DFDMC)とを加え、溶媒の組成(DEC:FEC:DFDMC)を重量比で65:30:5に変更したことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。
【0195】
(実施例1−8,1−9)
溶媒として、PCと、化11に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルである炭酸ビニレン(VC)とを加え、溶媒の組成(EC:PC:DEC:VC)を重量比で10:19:70:1(実施例1−8)あるいは10:10:70:10(実施例1−9)に変更したことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。
【0196】
(比較例1−1〜1−3)
被膜34Cを形成しなかったことを除き、実施例1−1,1−3,1−5と同様の手順を経た。
【0197】
これらの実施例1−1〜1−9および比較例1−1〜1−3の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
【0198】
サイクル特性を調べる際には、23℃の雰囲気中において2サイクル充放電させて放電容量を測定し、引き続き同雰囲気中においてサイクル数の合計が100サイクルとなるまで充放電させて放電容量を測定したのち、放電容量維持率(%)=(100サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。この際、1サイクルの充放電条件としては、1mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が4.2Vに達するまで充電し、さらに4.2Vの定電圧で電流密度が0.02mA/cm2 に達するまで充電したのち、1mA/cm2 の定電流密度で電池電圧が2.5Vに達するまで放電した。
【0199】
【表1】

【0200】
表1に示したように、被膜34Cを形成した実施例1−1〜1−9では、それを形成しなかった比較例1−1〜1−3と比較して、溶媒の組成に依存せずに、放電容量維持率が高くなった。この結果は、被膜34Cを形成することにより、負極34においてリチウムイオンが吸蔵および放出しやすくなると共に、充放電を繰り返しても電解液が分解しにくくなることを表している。
【0201】
この場合には、溶媒の組成に着目すると、FEC、DFECおよびDFDMCを含有する実施例1−3〜1−7では、それらを含有しない実施例1−1,1−2よりも放電容量維持率が高くなると共に、VCを含有する実施例1−8,1−9においても、それらを含有しない実施例1−1,1−2よりも放電容量維持率が高くなった。特に、実施例1−3〜1−7では、FECよりもDFECおよびDFDMCを含有する場合において放電容量維持率が高くなった。
【0202】
なお、ここでは化11に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルを用いた場合の結果だけを示しており、化12あるいは化13に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルを用いた場合の結果を示していない。しかしながら、化12に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステル等は、化11に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルと同様に電解液の分解を抑制する機能を果たすため、前者を用いた場合においても後者を用いた場合と同様の結果が得られることは、明らかである。
【0203】
これらのことから、本発明の二次電池では、カーボネート基およびスルホニル基を有するスルホン化合物を含有する被膜34Cを負極活物質層34B上に設けることにより、溶媒の組成に依存せずに、サイクル特性が向上することが確認された。
【0204】
また、溶媒として、化11〜化13に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルを用い、または化14に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルあるいは化15に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルを用いることにより、サイクル特性がより向上することも確認された。特に、化14に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルあるいは化15に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルを用いる場合には、ハロゲンの数が多いほど高い効果が得られる。
【0205】
(実施例2−1〜2−4)
電解質塩として、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 :実施例2−1)、化18に示した化合物である化21(1)に示した化合物(実施例2−2)あるいは化21(6)に示した化合物(実施例2−3)、または化25に示した化合物である化27(2)に示した化合物(実施例2−4)を加え、電解液中におけるLiPF6 の濃度を0.9mol/kg、LiBF4 等の濃度を0.1mol/kgに変更したことを除き、実施例1−1,1−3と同様の手順を経た。
【0206】
(実施例2−5〜2−7)
電解液に添加剤として、スルトンであるプロペンスルトン(PRS:実施例2−5)、または酸無水物であるコハク酸無水物(SCAH:実施例2−6)あるいはスルホ安息香酸無水物(SBAH:実施例2−7)を加えたことを除き、実施例1−3と同様の手順を経た。この際、電解液中におけるPRS等の含有量を1重量%とした。この「1重量%」は、溶媒全体を100重量%としたとき、1重量%に相当する分だけPRS等を添加したという意味である。
【0207】
これらの実施例2−1〜2−7の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表2に示した結果が得られた。
【0208】
【表2】

【0209】
表2に示したように、電解質塩としてLiBF4 等を加えたり、電解液中に添加剤としてPRS等を加えた場合においても、表1の結果と同様の結果が得られた。すなわち、被膜34Cを形成した実施例2−1〜2−7では、それを形成しなかった比較例1−1,1−2と比較して、放電容量維持率が高くなった。
【0210】
この場合には、電解質塩の種類に着目すると、LiBF4 等を加えた実施例2−1〜2−4では、それらを加えなかった実施例1−1,1−3よりも放電容量維持率が高くなった。また、添加剤の有無に着目すると、PRS等を加えた実施例2−5〜2−7では、それらを加えなかった実施例1−3よりも放電容量維持率が高くなった。
【0211】
なお、ここでは四フッ化ホウ酸リチウム、または化18あるいは化25に示した化合物を用いた場合の結果だけを示しており、過塩素酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウム、または化19、化20、化24あるいは化26に示した化合物を用いた場合の結果を示していない。しかしながら、過塩素酸リチウム等は、四フッ化ホウ酸リチウム等と同様に放電容量維持率を増加させる機能を果たすため、前者を用いた場合においても後者を用いた場合と同様の結果が得られることは、明らかである。
【0212】
これらのことから、本発明の二次電池では、カーボネート基およびスルホニル基を有するスルホン化合物を含有する被膜34Cを負極活物質層34B上に設けることにより、電解質塩の種類を変更したり、電解液中に添加剤を添加しても、サイクル特性が向上することが確認された。
【0213】
また、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムあるいは六フッ化ヒ酸リチウムを用い、または化18〜化20あるいは化24〜化26に示した化合物を用いたり、電解液の添加剤としてスルトンあるいは酸無水物を用いることにより、サイクル特性がより向上することも確認された。
【0214】
(実施例3−1,3−2)
被膜34C中に、アルカリ金属塩であるスルホプロピオン酸二リチウム(実施例3−1)あるいはアルカリ土類金属塩であるスルホプロピオン酸マグネシウム(実施例3−2)を含有させたことを除き、実施例1−3と同様の手順を経た。この被膜34Cを形成する場合には、化9(1)に示したスルホン化合物を溶解させた3%水溶液に、スルホプロピオン酸二リチウム等を3%加えた溶液を用いた。
【0215】
(実施例3−3)
負極活物質層34Bを形成する場合に、複数の負極活物質粒子を形成したのち、液相析出法によって負極活物質粒子の表面に酸化物含有膜としてケイ素の酸化物(SiO2 )を析出させたことを除き、実施例1−3と同様の手順を経た。この酸化物含有膜を形成する場合には、ケイフッ化水素酸にアニオン補足剤としてホウ素を溶解させた溶液中に、負極活物質粒子が形成された負極集電体34Aを3時間浸積し、その負極活物質粒子の表面にケイ素の酸化物を析出させたのち、水洗して減圧乾燥した。
【0216】
(実施例3−4)
負極活物質層34Bを形成する場合に、複数の負極活物質粒子を形成したのち、電解鍍金法によって金属材料としてコバルト(Co)の鍍金膜を成長させたことを除き、実施例1−3と同様の手順を経た。この金属材料を形成する場合には、鍍金浴にエアーを供給しながら通電して負極集電体34Aの両面にコバルトを堆積させた。この際、鍍金液として日本高純度化学株式会社製のコバルト鍍金液を用い、電流密度を2A/dm2 〜5A/dm2 とし、鍍金速度を10nm/秒とした。
【0217】
(実施例3−5)
負極活物質層34Bを形成する場合に、複数の負極活物質粒子を形成したのち、実施例3−3,3−4の手順によって酸化物含有膜および金属材料をこの順に形成したことを除き、実施例1−3と同様の手順を経た。
【0218】
(比較例2−1〜2−3)
被膜34Cを形成しなかったことを除き、実施例3−3〜3−5と同様の手順を経た。
【0219】
これらの実施例3−1〜3−5および比較例2−1〜2−3の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表3に示した結果が得られた。
【0220】
【表3】

【0221】
表3に示したように、被膜34中にアルカリ金属塩等を含有させたり、その被膜34Cの形成前に酸化物含有膜や金属材料を形成した場合においても、表1の結果と同様の結果が得られた。すなわち、被膜34Cを形成した実施例3−1〜3−5では、それを形成しなかった比較例2−1〜2−3と比較して、放電容量維持率が高くなった。
【0222】
この場合には、被膜34中におけるアルカリ金属塩等の有無に着目すると、アルカリ金属塩等を含有する実施例3−1、3−2では、それらを含有しない実施例1−3よりも放電容量維持率が高くなった。また、酸化物含有膜や金属材料の有無に着目すると、酸化物含有膜あるいは金属材料を形成した実施例3−3〜3−5では、それらを形成しない実施例1−3よりも放電容量維持率が高くなった。特に、実施例3−3〜3−5では、酸化物含有膜あるいは金属材料のいずれか一方だけを形成した場合よりも双方を形成した場合において放電容量維持率が高くなり、いずれか一方だけを形成する場合には金属材料よりも酸化物含有膜において放電容量維持率が高くなった。また、実施例3−1〜3−5では、被膜34C中にアルカリ金属塩等を含有させた場合よりも酸化物含有膜や金属材料を形成した場合において放電容量維持率が高くなった。
【0223】
これらのことから、本発明の二次電池では、カーボネート基およびスルホニル基を有するスルホン化合物を含有する被膜34Cを負極活物質層34B上に設けることにより、被膜34中にアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩を含有させたり、被膜34Cの形成前に酸化物含有膜や金属材料を形成しても、サイクル特性が向上することが確認された。
【0224】
また、被膜34中にアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩を含有させたり、被膜34Cの形成前に酸化物含有膜あるいは金属材料を形成すれば、サイクル特性がより向上することも確認された。特に、アルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩よりも酸化物含有膜あるいは金属材料において放電容量維持率が高くなり、酸化物含有膜あるいは金属材料を用いる場合には、金属材料だけよりも酸化物含有膜だけにおいて放電容量維持率が高くなり、いずれか一方よりも双方において放電容量維持率が高くなる。
【0225】
(実施例4−1)
負極34に代えて、正極33にスルホン化合物を含有させたことを除き、実施例1−3と同様の手順を経た。この正極33にスルホン化合物を含有させる場合には、被膜34Cと同様の形成手順により、正極活物質層33B上にスルホン化合物を含有する被膜を形成した。
【0226】
(実施例4−2)
負極34に代えて、セパレータ35にスルホン化合物を含有させたことを除き、実施例1−3と同様の手順を経た。このセパレータ35にスルホン化合物を含有させる場合には、被膜34Cと同様の形成手順により、セパレータ35の両面にスルホン化合物を含有する被膜を形成した。
【0227】
(実施例4−3)
負極34に代えて、電解液にスルホン化合物を含有させたことを除き、実施例1−3と同様の手順を経た。この電解液にスルホン化合物を含有させる場合には、上記した被膜中における含有量と同様になるように分散量を調整しながら、電解液中にスルホン化合物を分散させた。
【0228】
これらの実施例4−1〜4−3の二次電池についてサイクル特性を調べたところ、表4に示した結果が得られた。
【0229】
【表4】

【0230】
表4に示したように、正極33、セパレータ35あるいは電解液にスルホン化合物を含有させた実施例4−1〜4−3においても、負極34にスルホン化合物を含有させた実施例1−3と同様に、比較例1−2よりも放電容量維持率が高くなった。この場合には、スルホン化合物の含有箇所が異なる実施例1−3,4−1〜4−3を比較すると、電解液よりも正極33あるいはセパレータ35に含有させた場合において放電容量維持率が高くなり、負極34に含有させた場合において放電容量維持率がより高くなった。
【0231】
なお、ここでは正極33、負極34、セパレータ35あるいは電解液のいずれかだけにスルホン化合物を含有させた場合の結果だけを示しており、それらのうちの2つ以上の構成要素にスルホン化合物を含有させた場合の結果を示していない。しかしながら、いずれか1つの構成要素がスルホン化合物を含有する場合において放電容量維持率が増加することが明らかであり、2つ以上の構成要素にスルホン化合物を含有させた場合に放電容量維持率が低下する特別な理由も考えられないことから、2つ以上の構成要素にスルホン化合物を含有させた場合においても、いずれか1つの構成要素にスルホン化合物を含有させた場合と同様の結果が得られることは、明らかである。
【0232】
これらのことから、本発明の二次電池では、正極33、負極34、セパレータ35および電解液のうちの少なくとも1つに、カーボネート基およびスルホニル基を有するスルホン化合物を含有させることにより、サイクル特性が向上することが確認された。
【0233】
上記した表1〜表4の結果から明らかなように、本発明の二次電池では、正極、負極、セパレータおよび電解液のうちの少なくとも1つに、カーボネート基およびスルホニル基を有するスルホン化合物を含有させることにより、溶媒の組成、電解質塩の種類、あるいは電解液中における添加剤の有無などに依存せずに、サイクル特性が向上することが確認された。中でも、上記したスルホン化合物を負極に含有させれば、サイクル特性がより向上することも確認された。
【0234】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本発明のスルホン化合物あるいは負極の使用用途は、必ずしも電池に限らず、電池以外の他の電気化学デバイスであっても良い。他の用途としては、例えば、キャパシタなどが挙げられる。
【0235】
また、上記した実施の形態および実施例では、電池の種類として、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づいて表されるリチウムイオン二次電池について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。本発明の電池は、負極活物質としてリチウム金属を用い、負極の容量がリチウムの析出および溶解に基づいて表されるリチウム金属二次電池や、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電容量を正極の充電容量よりも小さくし、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に伴う容量とリチウムの析出および溶解に伴う容量とを含み、かつ、それらの容量の和によって表される二次電池についても、同様に適用可能である。なお、本発明の電池をリチウム金属二次電池に適用する場合には、例えば、スルホン化合物を含有する溶液を調製するために用いる溶媒として、極性の高い非水溶媒などを用いることが可能である。
【0236】
また、上記した実施の形態および実施例では、本発明の電池の電解質として、電解液や、電解液を高分子化合物に保持させたゲル状電解質を用いる場合について説明したが、他の種類の電解質を用いるようにしてもよい。他の電解質としては、例えば、イオン伝導性セラミックス、イオン伝導性ガラスあるいはイオン性結晶などのイオン伝導性無機化合物と電解液とを混合したものや、他の無機化合物と電解液とを混合したものや、これらの無機化合物とゲル状電解質とを混合したものなどが挙げられる。
【0237】
また、上記した実施の形態および実施例では、電池構造が円筒型およびラミネートフィルム型である場合、ならびに電池素子が巻回構造を有する場合を例に挙げて説明したが、本発明の電池は、角型、コイン型およびボタン型などの他の電池構造を有する場合や、電池素子が積層構造などの他の構造を有する場合についても同様に適用可能である。
【0238】
また、上記した実施の形態および実施例では、電極反応物質としてリチウムを用いる場合について説明したが、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの他の1族元素や、マグネシウム(Mg)あるいはカルシウム(Ca)などの2族元素や、アルミニウムなどの他の軽金属を用いてもよい。これらの場合においても、負極活物質として、上記した実施の形態で説明した負極材料を用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0239】
【図1】本発明の一実施の形態に係るスルホン化合物を用いた第1の二次電池の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図3】図2に示した負極の構成を拡大して表す断面図である。
【図4】参考例の負極の構成を表す断面図である。
【図5】図2に示した負極の断面構造を表すSEM写真およびその模式図である。
【図6】図2に示した負極の他の断面構造を表すSEM写真およびその模式図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係るスルホン化合物を用いた第2の二次電池の構成を表す断面図である。
【図8】図7に示した巻回電極体のVIII−VIII線に沿った断面図である。
【図9】図8に示した巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【符号の説明】
【0240】
1…11…電池缶、12,13…絶縁板、14…電池蓋、15…安全弁機構、15A…ディスク板、16…熱感抵抗素子、17…ガスケット、20,30…巻回電極体、21,33…正極、21A,33A…正極集電体、21B,33B…正極活物質層、22,34…負極、22A,34A…負極集電体、22B,34B…負極活物質層、22C,34C…被膜、23,35…セパレータ、24…センターピン、25,31…正極リード、26,32…負極リード、36…電解質、37…保護テープ、40…外装部材、41…密着フィルム、221…負極活物質粒子、222…酸化物含有膜、224(224A,224B)…隙間、225…空隙、226…金属材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体に設けられた負極活物質層上に被膜を有し、
前記被膜は、カーボネート基(−O−CO−O−)およびスルホニル基(−SO2 −)を有するスルホン化合物を含有する
ことを特徴とする負極。
【請求項2】
前記スルホン化合物は、化1および化2で表される化合物のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の負極。
【化1】

(R1は炭素数1以上8以下のアルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、R2は炭素数1以上8以下のアルキレン基あるいはハロゲン化アルキレン基であり、X1はハロゲン基、水酸基、あるいは−OM1で表される基である。ただし、M1はアルカリ金属、アルカリ土類金属あるいはシリルエステル基である。)
【化2】

(R3は炭素数1以上8以下のアルキレン基あるいはハロゲン化アルキレン基であり、R4は炭素数1以上8以下のアルキレン基から水素基が1つ脱離した3価の基、またはハロゲン化アルキレン基から水素基あるいはハロゲン基が1つ脱離した3価の基であり、X2はハロゲン基、水酸基、あるいは−OM2で表される基である。ただし、M2はアルカリ金属、アルカリ土類金属あるいはシリルエステル基である。)
【請求項3】
前記被膜は、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種(前記スルホン化合物に該当するものを除く)を含有することを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項4】
前記負極活物質層は、ケイ素(Si)の単体、合金および化合物、ならびにスズ(Sn)の単体、合金および化合物のうちの少なくとも1種を含有する負極活物質を含むことを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項5】
前記負極活物質層は、複数の負極活物質粒子を有すると共に、前記負極活物質粒子の表面を被覆する酸化物含有膜を有することを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項6】
前記酸化物含有膜は、ケイ素、ゲルマニウム(Ge)およびスズのうちの少なくとも1種の酸化物を含有することを特徴とする請求項5記載の負極。
【請求項7】
前記負極活物質層は、複数の負極活物質粒子を有すると共に、前記負極活物質粒子間の隙間に電極反応物質と合金化しない金属材料を有することを特徴とする請求項1記載の負極。
【請求項8】
前記負極活物質粒子は、その粒子内に多層構造を有し、前記負極活物質層は、前記負極活物質粒子内の隙間に前記金属材料を有することを特徴とする請求項7記載の負極。
【請求項9】
前記金属材料は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)および銅(Cu)のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項7記載の負極。
【請求項10】
負極集電体に設けられた負極活物質層上に被膜を有する負極の製造方法であって、
カーボネート基およびスルホニル基を有するスルホン化合物を含有する溶液を用いて、前記負極活物質層上に前記被膜を形成する
ことを特徴とする負極の製造方法。
【請求項11】
前記スルホン化合物は、化3および化4で表される化合物のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項10記載の負極の製造方法。
【化3】

(R1は炭素数1以上8以下のアルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、R2は炭素数1以上8以下のアルキレン基あるいはハロゲン化アルキレン基であり、X1はハロゲン基、水酸基、あるいは−OM1で表される基である。ただし、M1はアルカリ金属、アルカリ土類金属あるいはシリルエステル基である。)
【化4】

(R3は炭素数1以上8以下のアルキレン基あるいはハロゲン化アルキレン基であり、R4は炭素数1以上8以下のアルキレン基から水素基が1つ脱離した3価の基、またはハロゲン化アルキレン基から水素基あるいはハロゲン基が1つ脱離した3価の基であり、X2はハロゲン基、水酸基、あるいは−OM2で表される基である。ただし、M2はアルカリ金属、アルカリ土類金属あるいはシリルエステル基である。)
【請求項12】
前記スルホン化合物を含有する溶液中に前記負極活物質層を浸漬し、あるいは前記スルホン化合物を含有する溶液を前記負極活物質層に塗布することを特徴とする請求項10記載の負極の製造方法。
【請求項13】
前記スルホン化合物を含有する溶液は、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種(前記スルホン化合物に該当するものを除く)を含有することを特徴とする請求項10記載の負極の製造方法。
【請求項14】
セパレータを介して対向された正極および負極と、電解液とを備えた二次電池であって、
前記正極、前記負極、前記セパレータおよび前記電解液のうちの少なくとも1つは、カーボネート基およびスルホニル基を有するスルホン化合物を含有する
ことを特徴とする二次電池。
【請求項15】
前記スルホン化合物は、化5および化6で表される化合物のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項14記載の二次電池。
【化5】

(R1は炭素数1以上8以下のアルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、R2は炭素数1以上8以下のアルキレン基あるいはハロゲン化アルキレン基であり、X1はハロゲン基、水酸基、あるいは−OM1で表される基である。ただし、M1はアルカリ金属、アルカリ土類金属あるいはシリルエステル基である。)
【化6】

(R3は炭素数1以上8以下のアルキレン基あるいはハロゲン化アルキレン基であり、R4は炭素数1以上8以下のアルキレン基から水素基が1つ脱離した3価の基、またはハロゲン化アルキレン基から水素基あるいはハロゲン基が1つ脱離した3価の基であり、X2はハロゲン基、水酸基、あるいは−OM2で表される基である。ただし、M2はアルカリ金属、アルカリ土類金属あるいはシリルエステル基である。)
【請求項16】
前記負極は、負極集電体に設けられた負極活物質層上に被膜を有し、前記被膜は、前記スルホン化合物を含有することを特徴とする請求項14記載の二次電池。
【請求項17】
前記被膜は、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種(前記スルホン化合物に該当するものを除く)を含有することを特徴とする請求項16記載の二次電池。
【請求項18】
前記負極活物質層は、ケイ素の単体、合金および化合物、ならびにスズの単体、合金および化合物のうちの少なくとも1種を含有する負極活物質を含むことを特徴とする請求項16記載の二次電池。
【請求項19】
前記負極活物質層は、複数の負極活物質粒子を有すると共に、前記負極活物質粒子の表面を被覆する酸化物含有膜を有することを特徴とする請求項16記載の二次電池。
【請求項20】
前記酸化物含有膜は、ケイ素、ゲルマニウムおよびスズのうちの少なくとも1種の酸化物を含有することを特徴とする請求項19記載の二次電池。
【請求項21】
前記負極活物質層は、複数の負極活物質粒子を有すると共に、前記負極活物質粒子間の隙間に電極反応物質と合金化しない金属材料を有することを特徴とする請求項16記載の二次電池。
【請求項22】
前記負極活物質粒子は、その粒子内に多層構造を有し、前記負極活物質層は、前記負極活物質粒子内の隙間に前記金属材料を有することを特徴とする請求項21記載の二次電池。
【請求項23】
前記金属材料は、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛および銅のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項21記載の二次電池。
【請求項24】
前記電解液は、化7〜化9で表される不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含有する溶媒を含むことを特徴とする請求項14記載の二次電池。
【化7】

(R11およびR12は水素基あるいはアルキル基である。)
【化8】

(R13〜R16は水素基、アルキル基、ビニル基あるいはアリル基であり、それらのうちの少なくとも1つはビニル基あるいはアリル基である。)
【化9】

(R17はアルキレン基である。)
【請求項25】
前記化7に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニレンであり、前記化8に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸ビニルエチレンであり、前記化9に示した不飽和結合を有する環状炭酸エステルは、炭酸メチレンエチレンであることを特徴とする請求項24記載の二次電池。
【請求項26】
前記電解液は、化10で表されるハロゲンを有する鎖状炭酸エステルおよび化11で表されるハロゲンを有する環状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を含有する溶媒を含むことを特徴とする請求項14載の二次電池。
【化10】

(R21〜R26は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
【化11】

(R27〜R30は水素基、ハロゲン基、アルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。)
【請求項27】
前記化10に示したハロゲンを有する鎖状炭酸エステルは、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ジフルオロメチルメチルあるいは炭酸ビス(フルオロメチル)であり、前記化11に示したハロゲンを有する環状炭酸エステルは、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンあるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンであることを特徴とする請求項26記載の二次電池。
【請求項28】
前記電解液は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、過塩素酸リチウム(LiClO4 )および六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 )からなる群のうちの少なくとも1種を含有する電解質塩を含むことを特徴とする請求項14記載の二次電池。
【請求項29】
前記電解液は、化12〜化14で表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有する電解質塩を含むことを特徴とする請求項14記載の二次電池。
【化12】

(X31は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素、またはアルミニウム(Al)である。M31は遷移金属、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。R31はハロゲン基である。Y31は−OC−R32−CO−、−OC−C(R33)2 −あるいは−OC−CO−である。ただし、R32はアルキレン基、ハロゲン化アルキレン基、アリーレン基あるいはハロゲン化アリーレン基である。R33はアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基あるいはハロゲン化アリール基である。なお、a3は1〜4の整数であり、b3は0、2あるいは4の整数であり、c3、d3、m3およびn3は1〜3の整数である。)
【化13】

(X41は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M41は遷移金属、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Y41は−OC−(C(R41)2 b4−CO−、−(R43)2 C−(C(R42)2 c4−CO−、−(R43)2 C−(C(R42)2 c4−C(R43)2 −、−(R43)2 C−(C(R42)2 c4−SO2 −、−O2 S−(C(R42)2 d4−SO2 −あるいは−OC−(C(R42)2 d4−SO2 −である。ただし、R41およびR43は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、それぞれのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R42は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a4、e4およびn4は1あるいは2の整数であり、b4およびd4は1〜4の整数であり、c4は0〜4の整数であり、f4およびm4は1〜3の整数である。)
【化14】

(X51は長周期型周期表における1族元素あるいは2族元素である。M51は遷移金属、または長周期型周期表における13族元素、14族元素あるいは15族元素である。Rfはフッ素化アルキル基あるいはフッ素化アリール基であり、いずれの炭素数も1〜10である。Y51は−OC−(C(R51)2 d5−CO−、−(R52)2 C−(C(R51)2 d5−CO−、−(R52)2 C−(C(R51)2 d5−C(R52)2 −、−(R52)2 C−(C(R51)2 d5−SO2 −、−O2 S−(C(R51)2 e5−SO2 −あるいは−OC−(C(R51)2 e5−SO2 −である。ただし、R51は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。R52は水素基、アルキル基、ハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基であり、そのうちの少なくとも1つはハロゲン基あるいはハロゲン化アルキル基である。なお、a5、f5およびn5は1あるいは2の整数であり、b5、c5およびe5は1〜4の整数であり、d5は0〜4の整数であり、g5およびm5は1〜3の整数である。)
【請求項30】
前記化12に示した化合物は、化15の(1)〜(6)で表される化合物であり、前記化13に示した化合物は、化16の(1)〜(8)で表される化合物であり、前記化14に示した化合物は、化17で表される化合物であることを特徴とする請求項29記載の二次電池。
【化15】

【化16】

【化17】

【請求項31】
前記電解液は、化18〜化20で表される化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有する電解質塩を含むことを特徴とする請求項14記載の二次電池。
【化18】

(mおよびnは1以上の整数である。)
【化19】

(R61は炭素数2以上4以下の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキレン基である。)
【化20】

(p、qおよびrは1以上の整数である。)
【請求項32】
前記電解液は、スルトンを含むことを特徴とする請求項14記載の二次電池。
【請求項33】
前記電解液は、酸無水物を含むことを特徴とする請求項14記載の二次電池。
【請求項34】
セパレータを介して対向された正極および負極と、電解液とを備えた二次電池の製造方法であって、
前記正極、前記負極、前記セパレータおよび前記電解液のうちの少なくとも1つに、カーボネート基およびスルホニル基を有するスルホン化合物を含有させる
ことを特徴とする二次電池の製造方法。
【請求項35】
前記スルホン化合物は、化21および化22で表される化合物のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項34記載の二次電池の製造方法。
【化21】

(R1は炭素数1以上8以下のアルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、R2は炭素数1以上8以下のアルキレン基あるいはハロゲン化アルキレン基であり、X1はハロゲン基、水酸基、あるいは−OM1で表される基である。ただし、M1はアルカリ金属、アルカリ土類金属あるいはシリルエステル基である。)
【化22】

(R3は炭素数1以上8以下のアルキレン基あるいはハロゲン化アルキレン基であり、R4は炭素数1以上8以下のアルキレン基から水素基が1つ脱離した3価の基、またはハロゲン化アルキレン基から水素基あるいはハロゲン基が1つ脱離した3価の基であり、X2はハロゲン基、水酸基、あるいは−OM2で表される基である。ただし、M2はアルカリ金属、アルカリ土類金属あるいはシリルエステル基である。)
【請求項36】
前記正極は、正極集電体上に正極活物質層を有し、前記負極は、負極集電体上に負極活物質層を有し、
前記スルホン化合物を含有する溶液を用いて、前記正極活物質層、前記負極活物質層および前記セパレータのうちの少なくとも1つの表面に、前記スルホン化合物を含有する被膜を形成することを特徴とする請求項34記載の二次電池の製造方法。
【請求項37】
前記スルホン化合物を含有する溶液中に前記正極活物質層、前記負極活物質層および前記セパレータのうちの少なくとも1つを浸漬し、あるいは前記スルホン化合物を含有する溶液を前記正極活物質層、前記負極活物質層および前記セパレータのうちの少なくとも1つに塗布することを特徴とする請求項36記載の二次電池の製造方法。
【請求項38】
前記負極活物質層の表面に前記被膜を形成するために用いる前記スルホン化合物を含有する溶液は、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩のうちの少なくとも1種(前記スルホン化合物に該当するものを除く)を含有することを特徴とする請求項36記載の二次電池の製造方法。
【請求項39】
カーボネート基およびスルホニル基を有することを特徴とするスルホン化合物。
【請求項40】
化23あるいは化24で表される構造を有することを特徴とする請求項39記載のスルホン化合物。
【化23】

(R1は炭素数1以上8以下のアルキル基あるいはハロゲン化アルキル基であり、R2は炭素数1以上8以下のアルキレン基あるいはハロゲン化アルキレン基であり、X1はハロゲン基、水酸基、あるいは−OM1で表される基である。ただし、M1はアルカリ金属、アルカリ土類金属あるいはシリルエステル基である。)
【化24】

(R3は炭素数1以上8以下のアルキレン基あるいはハロゲン化アルキレン基であり、R4は炭素数1以上8以下のアルキレン基から水素基が1つ脱離した3価の基、またはハロゲン化アルキレン基から水素基あるいはハロゲン基が1つ脱離した3価の基であり、X2はハロゲン基、水酸基、あるいは−OM2で表される基である。ただし、M2はアルカリ金属、アルカリ土類金属あるいはシリルエステル基である。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−163890(P2009−163890A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339154(P2007−339154)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】