説明

走査電子顕微鏡

【課題】微調整からレビューまでを完全に自動化で行なえる走査型電子顕微鏡を提供する。
【解決手段】座標補正後の補正精度を算出し、ベクトル39を用いて表示する機能、得られた情報から座標補正後異物/欠陥を自動検出する際の探索時の倍率を自動で決定する機能、また探索倍率と測定条件から異物/欠陥の出現率とかかる時間を算出する機能を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料表面に存在する微細な測定対象物の観察が可能な走査電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)は、試料上に電子線を走査して照射し試料から発生される二次電子を検出して、観察対象物の二次電子像を表示装置の画面上に表示する。また、この技術は半導体製造分野において微細構造観察にも応用されている。近年、半導体デバイスの急速な微細化により異物/欠陥サイズの微小化が進んでおり、光学式の異物/欠陥検査装置等により行われていた異物/欠陥の探索及び観察はその解像度が限界に達している。この様な微細化の進んだ半導体デバイスではサブミクロンサイズの異物/欠陥がウェーハ上に存在しているだけで障害を発生することがある。また観察すべき異物/欠陥が、ウェーハ1枚あたり数十〜数百個にもなることから、障害の元となった異物/欠陥を詳しく調べるために、SEMによる自動異物/欠陥の探査認識機能(Auto Defect Review;ADR)と、ADRにより検出された異物/欠陥の自動分類装置(Auto Defect Classification;ADC)を組み合わせた自動観察のニーズが高まっている。
【0003】
SEMでこの様な微小な異物/欠陥を観察する場合には、予め他の異物/欠陥検査装置等で異物/欠陥のウェーハ上での位置を測定し、その測定によって得られる座標データを元に異物/欠陥を探し観察するのが普通である。しかしながら、実際には検査装置の座標系とSEMの座標系には微妙な誤差が存在するのが一般的であり、この誤差がSEMによる異物/欠陥探査の自動化を妨げる要因となっている。サブミクロンサイズの異物/欠陥をSEMで観察する場合は、最低でも5千倍程度に異物/欠陥を拡大してSEM画面に表示する必要がある。ところが、画面サイズの制限により一度に観察出来る範囲には限りがあるため、異物/欠陥検査装置から得た異物/欠陥座標データに誤差が大きく含まれていた場合は、異物/欠陥が画面からはみ出してしまうことがある。例えば、画面の大きさが200mm×200mmのSEMを使って5千倍の倍率で異物/欠陥を観察する場合、一度に観察出来る範囲は40μm×40μmしかなく、異物/欠陥検査装置から得た異物/欠陥座標データに±20μm以上の誤差が含まれていると異物/欠陥が画面から外れてしまい、異物/欠陥を発見することが出来ない場合が生じる。
【0004】
上記問題を解決するため、適度な大きさの異物/欠陥を用いて装置間の座標誤差が少なくなるような座標変換式を算出し、微調整を行う方法が取られるが、無作為に選出した異物/欠陥により補正を行った場合、補正される誤差の値にばらつきが出来、必ずしも満足のいく補正結果が得られるとは限らない。そのため特開平11−167893号公報「走査電子顕微鏡」(特許文献1)には、観察するウェーハ上の位置を変えた時に、移動した位置の近くに存在する異物/欠陥だけを使って自動的に座標変換式を再計算する方法が提案されている。近い位置にある異物/欠陥同士は、座標誤差に似通った傾向が見られるため、高い座標補正精度が期待できる。
【0005】
【特許文献1】特開平11−167893号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、期待する出現率(画面内に出現する異物をADRで100%検出できると仮定した場合の検出率)まで座標の補正が行われているかの判断基準が無く、実際の自動測定で出現率が低ければ、微調整時の測定点を増加させ、座標補正精度を高めた後、測定するしかなかった。微調整により数十μmの誤差を数μmに補正できれば異物/欠陥の観察を行えるが、異物/欠陥の分類を考えた場合、検出時よりも更に高い倍率の画像が要求される。微調整による座標補正後、手動で異物/欠陥を検出する場合、まず低倍で異物/欠陥を見つけ、その異物/欠陥を画面の中央に移動し、倍率を上げ画像を取得するが、異物/欠陥を自動で検出する場合には、以下に示す方法が用いられる。
【0007】
予め他の異物/欠陥検査装置等で異物/欠陥のウェーハ上での位置を測定する。その測定によって得られる座標データを元に異物/欠陥の場所ヘステージを移動し予め設定した低い倍率(探索倍率)で異物/欠陥が存在する部分の画像を取得する。この取得した画像と、予め取得してある同じ倍率で正常なパターンの画像を比較し、異物/欠陥を検出する。また、パターン付きのウェーハでは、異物/欠陥の存在するダイの隣りのダイの同じ座標の画像をさらに取得し比較を行う。検出後、異物/欠陥を画面中央へ移動し、予め設定した高い倍率で画像を取得する。
【0008】
上記方法で自動検出を行う場合、探索倍率の設定は座標誤差に大きな制約を受けてしまう。探索倍率が高いほど、検出精度の向上が期待できるが、座標の誤差が大きい場合、画面内に異物/欠陥が入らなくなる。そのため、微調整後、数箇所の異物/欠陥に対して、測定者が補正後の異物/欠陥座標ヘステージを移動させ、その中心と、実際の異物/欠陥の位置から探索倍率を導くか、低い探索倍率を設定するしかなかった。またいずれの場合も、オペレーターの経験等により設定する倍率が異なるため、最終的な出現率等にも差異が生じてしまう。
【0009】
本発明の目的は従来技術の欠点をなくし、欠陥探索からレビューまでを完全に自動で行なうことのできる走査型電子顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため本発明においては、走査型電子顕微鏡に、観察対象の試料表面に存在する異物あるいは欠陥を、異物/欠陥検査装置からの座標情報を元に、自動で電子線を用いて観察する際、座標リンケージの微調整に用いられる座標補正式の補正精度を算出し、例えばベクトルを用いて表示する機能、座標誤差演算手段で使用するのに最適な異物/欠陥を自動検出・登録する手段を設けた。また、そこで得られた情報から、座標補正後異物/欠陥を自動検出する際の探索時の倍率を自動で決定する機能を設けた。更に、探索倍率と測定条件から、異物/欠陥の出現率とかかる時間を算出する機能を設けた。
【0011】
また、必要に応じて微調整による補正を行う前の座標誤差をベクトルを用いて表示する機能を付与した。更に、上記手法で得られた情報から、座標補正を行わず、異物/欠陥を自動検出する際の探索時の倍率を、自動で決定し、異物/欠陥の出現率とかかる時間を算出する機能を設けた。
【0012】
すなわち、本発明による走査電子顕微鏡は、試料を保持して移動する移動ステージを有し、他の装置で取得された前記試料上の特徴物に関する座標値を座標補正式で補正して得られた補正座標値に移動ステージを移動して特徴物を観察する機能を有する走査電子顕微鏡において、補正座標値と実際に特徴物が観察された座標値とに基づいて座標補正式の補正精度を算出する機能を有することを特徴とする。
【0013】
座標補正式は、他の装置で取得された前記試料上の複数の特徴物に関する座標値と当該特徴物が実際に観察された移動ステージの座標系における座標値との間の誤差が最小になるように設定されたものとすることができる。
【0014】
また、座標補正式は、予め指定してある試料上の複数の点の座標値を移動ステージの座標系で測定することに基づく、試料上の座標系を移動ステージの座標系に変換するための座標補正式とすることができる。
【0015】
補正精度のデータは、数値テーブルで持っている、ベクトル表示する等、色々な利用が考えられるが、本発明の走査電子顕微鏡は、実際に特徴点が観察された座標値を表す位置ベクトルと補正座標値を表す位置ベクトルとの差ベクトルに相当するベクトルを当該特徴物の位置に表示することにより補正精度を視覚的に表示する機能を有するのが好ましい。
【0016】
他の装置は異物/欠陥検査装置とすることができ、その場合、特徴物は観察対象試料の表面に存在する異物あるいは欠陥である。
【0017】
本発明においては、前記特徴物は異物あるいは欠陥であり、補正精度と観察する異物あるいは欠陥の大きさから、補正座標値に移動ステージを移動して異物あるいは欠陥を自動検出する際の探索時の倍率を自動で決定する機能を有することが好ましい。
【0018】
また、決定した倍率で異物あるいは欠陥を自動検出する際の出現率を算出する機能を有することが好ましい。
【0019】
さらに、算出した出現率と測定条件、異物あるいは欠陥の個数から、測定時間を算出する機能を有することが好ましい。この場合の測定条件には、画像を取り込むときフレーム加算してS/Nを上げるためのフレーム数、オートフォーカスの条件等が含まれる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、異物検査装置からの座標データを使って試料上の異物/欠陥を自動で観察する際に、使用者の手間を省いた状態で精度の高い座標補正を実行することができ、座標補正精度に応じて適正な探索倍率を自動設定し、欠陥検査からレビューまで自動で行なうことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。ここでは、半導体試料を対象として自動異物/欠陥検出を行う場合の例を説明する。
【0022】
図1に本発明で使用するSEMの構成の一例を示す。陰極1と第一陽極2に印加された電圧V1によって引き出された一次電子線4は、第二陽極3に印加される電圧Vaccにより加速されて後段のレンズ系に進行する。この一次電子線4は、レンズ制御電源14で制御された収束レンズ5と対物レンズ6により試料台15に保持されたウェーハ(試料)7に微小スポットとして収束され、二段の偏向コイル8によってウェーハ(試料)7上を二次元的に走査される。また移動ステージ16は制御手段17からの制御信号により試料台15を移動させ、ウェーハ(試料)7に対して電子線4が走査する位置を変えることが出来る。偏向コイル8の走査信号は観察倍率に応じて偏向制御装置9で制御される。ウェーハ(試料)7上を走査した一次電子線4により試料から発生した二次電子10は二次電子検出器11で検出される。二次電子検出器11で検出された二次電子情報は増幅器12で増幅され、コンピューター18で処理されてCRT13などの表示装置上に表示される。
【0023】
本発明では、試料台15の位置情報と、CRT13に表示される異物/欠陥の位置情報を利用して、異物検査装置19からの異物/欠陥の座標情報をコンピューター18で最適な値に補正し、かつその補正値から自動で異物/欠陥を自動検出する際の探索倍率を決定する。これにより、欠陥探索からレビューまでを完全に自動化で行なうことができる。
【0024】
図2は、ウェーハ座標系とステージ座標系の関係を示す図である。ステージ座標系は装置固有の座標系であり、この例ではステージ座標系の座標軸20,21は移動ステージ16の移動原点Oを基準としている。ステージ座標系はウェーハの位置や形状によらず常に一定であり、座標変換の結果にも影響されることはない。但し、装置固有の座標系であるため、他の装置とステージ座標系で測定した座標値を共有することは出来ない。
【0025】
これに対してウェーハ座標系は、パターン無しウェーハならばウェーハの外形形状に合わせて決定される座標系であり、パターン付きウェーハならば図2に示すように、パターンのダイに沿って座標系が決定される。この例ではVノッチ24を下にして一番下のダイの下辺の延長線をX軸22、一番左に位置するダイの左辺の延長線をY軸23としている。従って異なる装置間であっても、同一ウェーハを使用すれば、理論的にはウェーハ座標系で示された座標データを使って欠陥を観察することができる。
【0026】
しかし現実には、各装置に座標誤差が存在し、それを補正する必要がある。例えば、原点のオフセットを補正した場合のウェーハの座標系のX軸26、Y軸27は元のウェーハの座標軸をX,Y方向に移動したような座標軸になる。つまり、ウェーハ座標系での異物25の座標値は座標補正をする前は(x,y)であるが座標補正後は(x,y)に変わってしまう。これに対してステージ座標系での異物25の座標系は座標補正前も後も(x,y)であり常に一定である。このため、検出された異物/欠陥の座標値を登録する際に、補正前のウェーハ座標系での座標値と補正後のウェーハ座標系での座標値を登録すると共に、ステージ座標系での座標値を登録する必要がある。この機能は、例えばコンピューター18内でソフト的に実現することが出来る。
【0027】
図3に、半導体用SEMを用いた自動欠陥検出の処理の流れの例を示す。図3に示したステップに先立って、異物検査装置を用いてウェーハ上の異物(又は欠陥)の座標測定が行われている。この時、異物の位置を示す座標系は、基本的にはSEMと同じウェーハ座標系が用いられる。しかしながら、実際には異物検査装置の座標系とSEMの座標系には微妙な誤差が生じるのが一般的である。
【0028】
ステップ1で読込まれる異物検査装置19で測定した異物の座標データは、フロッピーディスク等の記録媒体によって、あるいはネットワーク接続により異物検査装置19からSEMに渡される(この時同時に、異物のサイズ情報も送られる)。次のステップ2で、異物検査装置19で異物/欠陥検査を行ったウェーハ7をロードする。データの受渡とウェーハのロードの順序は逆であってもかまわない。次にステップ3の座標リンケージ粗調整において、ウェーハ7上の予め指定してある点(2点以上)の、ステージ座標系での座標を測定し、その座標値からウェーハがステージ座標系に対してどのような位置(姿勢)にあるかを調べる。
【0029】
図4に、微調整に用いる点を選択する際の概略図を示す。ステップ4では、図4に示すように、ウェーハ座標上に異物/欠陥データ29とダイ31、微調整に用いる異物/欠陥を自動選択する範囲(以下、エリア30)を表示する。この表示は、ウェーハの設計データと異物検査装置からの異物/欠陥データを用いてCRT13上に行われる。
【0030】
ステップ5で、微調整に用いるのに適切なサイズの異物28(予めレシピ等でサイズを指定)を検出し、他の異物と異なる色又は形のマーク(図4の例では■)28で表示する。この時のサイズ情報は、異物検査装置19から座標データと共に送られる。図4に網掛け表示されているエリア30の個数、サイズ、位置はレシピ等で予め設定しておく。エリアの個数、サイズ、位置は自由に設定できるものとする。また、エリアの範囲は数値入力、ダイナンバー入力の他にマウスドラッグ等による指定を併用することで、レシピ作成時のオペレーターへの負担が軽減できる。また、エリア指定情報は、個別に保存することができるものとする。更に異なるエリア指定情報を登録し、切り替えていくことで、異物/欠陥の存在状態(分布状態)の異なる種々のウェーハに対しても適切なエリアの自動選択が可能である。
【0031】
ステップ6では、微調整に用いる異物検出を行うエリア30ヘステージ16が移動し、ステップ7で異物/欠陥の検出が行われる。ステップ7では、ステップ5で選出された微調整に用いるのに適切なサイズの異物28の中から、微調整に用いる異物を選出し、異物/欠陥の自動検出すると同様の手法で異物の検出を行う。図5に示すように、ダイ32の異物28を検出する場合では、装置は隣のダイ33の同一点(座標)に移動し参照画像を取得する。その後、ダイ32に移動し比較画像を取得する。この2つの画像の差を求め異物の特定を行う。ステップ8では検出された異物のSEMステージ座標系による座標値と異物検査装置による座標値とを対にして登録する。同一エリア内で複数点の異物座標を登録する場合は、ステップ8の処理を、予め設定しておいた異物/欠陥登録数だけ繰り返す。複数エリアで異物座標を登録する場合はステップ6へ戻り、ステップ6からステップ10の処理を、予め設定しておいたエリア数だけ繰り返す。
【0032】
ステップ11では、登録した座標値から、装置問の座標誤差を計算する座標誤差演算手段中の定数を決定し、適当な座標変換式が作成される。例えば、座標誤差要因が原点オフセット(a,b)と回転方向誤差β、X軸及びY軸の寸法精度誤差m,n、座標軸の直交精度誤差αの場合、座標変換式は次の〔数1〕で表される。
【0033】
【数1】

【0034】
ここで、
(x, y):異物検査装置で測定された異物座標値
(x, y):SEMの座標系に適合するように変換された異物座標値
(a, b):異物検査装置の座標原点誤差
m:異物検査装置のX軸寸法精度誤差
n:異物検査装置のY軸寸法精度誤差
α:異物検査装置の座標の直交性誤差
β:座標軸間の角度誤差
【0035】
異物検査装置で測定された異物座標(x,y)がSEMで測定された座標(x, y)に高精度に合致するように最小自乗法によってパラメータa,b,m,n,α,βを決定して作成された座標変換式により、異物検査装置からの座標値がSEM用に補正される。これは、例えばコンピューター19内でソフト的に実行することができる。
【0036】
ステップ12では、補正精度が算出される。補正精度を表すベクトルの算出方法の例を図6に示す。SEMのステージ座標系(X−0−Y)において、異物検査装置からの異物座標34は、ステップ11で作成された座標変換式により座標変換後の異物座標35に変換される。また、微調整時の座標登録によりSEMのステージ座標系における実際の異物座標36が登録されている。この変換後の異物座標35と実際の異物座標36が同じ座標、すなわちb=c、b'=c'であるのが望ましいが、異物検査装置との座標誤差に規則性が無い等の理由により、すべての異物/欠陥の座標誤差が同じ傾向にはならないため、変換後の異物座標35と実際の異物座標36にずれが生じる。このため、本発明ではエリア内の誤差を表すベクトルに、微調整時の座標登録結果から算出される、ステップ11で作成された座標変換式により算出される補正座標ベクトル37に対する実際の異物座標誤差ベクトル38を、補正精度ベクトル39として用いる。
【0037】
また局所的に高い補正精度が必要な場合は、補正精度ベクトル39の表示を実際の異物の座標ベクトル38に切り替える、または同時に表示することで同じ座標誤差の傾向を持つ異物の選出を簡便に行うことができる。
【0038】
ステップ13では、ステップ12で算出された補正精度ベクトル39を、異物の配置図上に反映させる。図7に補正精度ベクトル表示例を示す。図中□で表示した異物40は補正精度算出に使用した異物で、矢印はその異物に対して算出された補正精度ベクトル39である。このような表示方法を使用することによって、どの異物の座標が登録されているか等の情報を簡単に見分けることが可能となる。すなわち、図7を用いることによって、補正後の異物座標のずれが大きさと方向により視覚化されているため、適切な座標補正式により異物の座標変換が行われているかの確認が容易となる(異物座標補正精度の妥当性の確認)。また、座標補正を行なう前の異物のずれもベクトルで表示できるため、座標補正式算出に適切な異物が使用されているかの確認が容易となる。図7の例の場合、右上のエリア内の異物に対する補正精度ベクトルが他の異物に対する補正精度ベクトルに比較して極端に大きいのが見て取れ、この情報は、右上エリアの異物は他のものに代えて座標変換式を再計算すべきかどうかの判断材料に用いることができる。
【0039】
ステップ14では、ステップ12で算出された各エリアの補正精度ベクトルを用いて、自動異物/欠陥検出の際の探索倍率を算出する。図8に探索倍率算出方法の例を示す。各エリアの補正精度ベクトル39の成分ベクトルの大きさが最大のものを二倍し、仮想異物(観察する異物/欠陥の中で、最大の物と同じサイズを直径とする円)41を加えた長さを画面の1辺の長さと規定すれば、探索倍率Mが次の倍率算出式〔数2〕により自動で算出される。下式において、L(mm)はCRT13の一辺の長さである。
【0040】
【数2】

【0041】
また、画像重ね合せ時に、合わせしろが必要な場合には、その長さを〔数2〕の分母に加えることで対応できる。同様に、使用するベクトルを実際の異物座標誤差ベクトル38にすることで、異物/欠陥による座標補正を行わない条件での探索倍率も必要に応じて算出可能である。
【0042】
ステップ15では出現率(画面内に出現する異物をADRで100%検出できると仮定した場合の検出率)の算出を行う。ステップ14で探索倍率が算出されるが、探索倍率が高すぎると大きい異物は画面内に入らなくなる。また探索倍率が低すぎると小さい異物は検出できなくなる。そのため予め各倍率の異物検出限界の設定をすることで、ステップ14で算出した探索倍率と、異物検査装置からの異物のサイズ情報から出現率を算出することが出来る。また逆に出現率を探索倍率を算出する際のパラメータとすることで、探索倍率を算出するようにすることもできる。
【0043】
異物のサイズと視野範囲の関係を図9に示す。縦軸を検出可能な異物のサイズ、横軸を視野一辺の長さとする。二次電子像を表示する画面の一辺が512pixelで、その一辺が1μmの倍率の場合、視野表示範囲に入る最大の大きさは1μmで、これ以上の大きさの異物は画面からはみ出してしまう。また最小の大きさは1pixelすなわち1/512μmになり、これより小さい異物は表示されなくなる。また視野の一辺の長さは、倍率と二次電子像を表示する画面の一辺の長さ(図8参照)で決定されるため、横軸を倍率で置換えると、図10の斜線部分が各倍率における検出可能な異物の大きさになる。ここでは図10を倍率テーブルとして出現率を算出する。図8の方法で倍率が決定されると、その倍率で観察可能な異物の大きさも倍率テーブルにより決定する。ここで、観察する対象の大きさが図10中のaの範囲とすると,b範囲の大きさの異物は検出できなくなる。このため次の〔数3〕により、出現率が決定される。
【0044】
【数3】

【0045】
逆に、観察する異物の大きさを最初に指定することで、倍率テーブルにより、観察可能な倍率の範囲が決定される。この時の最小倍率が異物サイズ指定時の探索倍率になる。ここで、図8で算出される探索倍率の出現率を100%とすると、それぞれの倍率での視野範囲の面積比から〔数4〕のように出現率を求めることができる。またこの時の出現率は、100%を越える場合も考えられるが100%を最大とする。
図11は 異物サイズ指定による出現率の説明図である。
【0046】
【数4】

【0047】
ここでは各倍率での最小異物サイズを1pixelとしたが、実際の測定では画像のS/N等の影響により3pixel以下では検出できない。そこで、観察条件等を倍率テーブルに盛込むことで出現率の精度向上が望める。
【0048】
出現率を算出しておくことには次のような利点がある。
(1) 探索倍率を設定する際の目安となる
(2) 実際に測定を行う前に検出率が予測できる
(3) 測定時間が予測できる
(4) 座標変換式の変換精度が実際に測定する前に数値化できる
(5) 装置間のリンケージ精度が数値化できる
【0049】
ステップ16ではスループットの算出を行う。観察する異物の個数等の測定条件と出現率からスループットの算出を行う。スループットは、次の〔数5〕に従って算出することができる。式中、異物1個当たりの検出時間は、ステージ移動時間、画像取り込み時間、画像処理時間等の関数である。
【0050】
【数5】

【0051】
ステップ17では、ステップ15で算出された探索倍率をもとに、自動異物/欠陥検出、さらに自動異物/欠陥分類が順次実施される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明による走査型電子顕微鏡の一例を示す構成図。
【図2】ウェーハ座標系とステージ座標系の関係図。
【図3】自動欠陥検出の処理の流れの例を示す図。
【図4】登録する異物/欠陥を選択する際の一例を示す図。
【図5】半導体ウェーハ上の異物/欠陥の概念図。
【図6】補正精度を表すベクトルの算出方法の例を示す図。
【図7】ステージ座標上での補正精度を表すベクトルの説明図。
【図8】最適倍率算出方法の説明図。
【図9】観察可能な異物の大きさと視野範囲の説明図。
【図10】観察可能な異物の大きさと倍率の説明図。
【図11】異物サイズ指定による出現率の説明図。
【符号の説明】
【0053】
1:陰極、2:第一陽極、3:第二陽極、4:一次電子線、5:収束レンズ、6:対物レンズ、7:ウェーハ、8:偏向コイル、9:偏向制御装置、10:二次電子線、11:二次電子検出器、12:増幅器、13:CRT、14:レンズ制御電源、15:試料台、16:移動ステージ、17:覇御装置、18:コンピューター、19:異物検査装置、20:ステージ座標系のX軸、21:ステージ座標系のY軸、22:座標補正前ウェーハ座標系X軸、23:座標補正前ウェーハ座標系Y軸、24:Vノッチ、25:異物、26:座標補正後ウェーハ座標系X軸、27:座標補正後ウェーハ座標系Y軸、28:予め設定したサイズ条件を満たす異物、29:異物検査装置で検出された異物、30:異物を選択する為のエリア、31:ダイ、32:異物のあるダイ、33:参照画像測定用ダイ、34:座標変換前の異物座標、35:座標変換後の異物座標、36:実際の異物座標、37:補正座標ベクトル、38:異物座標誤差ベクトル、39:補正精度ベクトル、40:座標値を登録した異物、41:仮想異物、42:探索倍率算出式

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を保持して移動する移動ステージを有し、他の装置で取得された前記試料上の特徴物に関する座標値を座標補正式で補正して得られた補正座標値に前記移動ステージを移動して前記特徴物を観察する機能を有する走査電子顕微鏡において、
前記特徴物の個数、サイズ、位置を設定するためのレシピを前記他の装置で取得された前記試料上の特徴物のデータを用いてCRTに表示し、設定された個数、ザイズ、位置を用いて検出した特徴物の、前記移動ステージの座標系による座標値と、前記他の装置で取得された前記試料上の特徴物に関する座標値とから、前記座標補正式を作成するコンピューターを備えることを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1記載の走査電子顕微鏡において、前記座標補正式は、前記他の装置で取得された前記試料上の複数の特徴物に関する座標値と当該特徴物が実際に観察された前記移動ステージの座標系における座標値との間の誤差が最小になるように設定されたものであることを特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項1記載の走査電子顕微鏡において、前記座標補正式は、予め指定してある試料上の複数の点の座標値を前記移動ステージの座標系で測定することに基づく、前記試料上の座標系を前記移動ステージの座標系に変換するための座標補正式であることを特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項1,2又は3記載の走査電子顕微鏡において、実際に前記特徴点が観察された座標値を表す位置ベクトルと前記補正座標値を表す位置ベクトルとの差ベクトルに相当するベクトルを当該特徴物の位置に表示することにより前記補正精度を視覚的に表示する機能を有することを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の走査電子顕微鏡において、前記特徴物は異物あるいは欠陥であり、前記補正精度と観察する異物あるいは欠陥の大きさから、前記補正座標値に前記移動ステージを移動して異物あるいは欠陥を自動検出する際の探索時の倍率を自動で決定する機能を有することを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項5記載の走査電子顕微鏡において、決定した倍率で異物あるいは欠陥を自動検出する際の、異物あるいは欠陥の個数に対する自動検出可能な異物あるいは欠陥の個数の割合を示す出現率を算出する機能を有することを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項7】
請求項6記載の走査電子顕微鏡において、算出した出現率と測定条件、異物あるいは欠陥の個数から、測定時間を算出する機能を有することを特徴とする走査電子顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−101551(P2007−101551A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287787(P2006−287787)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【分割の表示】特願2000−159062(P2000−159062)の分割
【原出願日】平成12年5月29日(2000.5.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000233550)株式会社日立ハイテクサイエンスシステムズ (112)
【Fターム(参考)】