説明

走行式作業ロボット

【課題】災害発生時における作業を高い信頼性をもって実行すること。
【解決手段】この走行式作業ロボットは、不整地に対して追従可能なクローラ1を備え、このクローラ1によって不整地上を走行することが可能な走行台車2と、この走行台車2上に配置された多軸構成の胴体部3と、この胴体部に備えられた多関節アーム4と、胴体部3に備えられた多関節撮影手段5とを備えている。また、走行式作業ロボットは、走行台車2の下部に複数のクローラ1をそれぞれ、各クローラ1の長さ方向中央部を支点として回転揺動可能な状態で備え、備えられた各クローラ1をそれぞれ独立に駆動させるクローラ駆動手段(クローラモータ)を付加した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば防災時などにおいて作業員がアクセスできないような現場に遠隔操作にしたがって走行することによって移動し、現場の画像データを撮影してリアルタイムで送ったり、ドアやバルブの開閉、あるいは配管の切断などのような多目的な作業を、高い信頼性をもって行うのに適した走行式作業ロボットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、人間による作業が困難な作業を、人間に代わって行うことを目的として、例えば、原子力施設や化学プラントなどにおける防災関連作業を行うロボットの研究が盛んである。
【0003】
例えば、万が一、原子力施設において臨界事故等が生じると、空間放射線量率が極めて高くなるために、作業員が現場に赴き、臨界事故を終息させるための手段を講じるなどということはできない。また、化学プラント等において爆発が発生し、誘発火災のためにプラント全体が火災に覆われてしまうと、火災現場に近づくことさえもできず、消火作業に着手することもできない。
【0004】
このような災害が発生した場合に、現場まで走行してゆき、遠隔操作に基づいて、現場の撮影データをリアルタイムで送信したり、ドアやバルブの開閉、配管の切断、荷物の運搬、消火等といった作業を行う走行式作業ロボットの研究が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−105752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような走行式作業ロボットでは、以下のような問題がある。一般に、原子力施設や化学プラントは、プロセスの流れにしたがって設備を設けているために、敷地面積が広い。各設備の間は、入り組んだ廊下や、階段等によって複雑につながっている。更に、火災や爆発等によって、器物が廊下に落下し、走行の障害物となることも考えられる。したがって、走行式作業ロボットには、遠隔制御をしつつ、このような障害物によって凹凸の存在する走行路を走行したり、あるいは階段の昇降を安定して行うことが可能な高い操作性、および機動性が要求される。
【0007】
また、原子力施設や化学プラントは、各プロセスにおける機器が複雑に配置されているので、たとえばバルブの開閉作業や、配管の切断作業といった作業は、ほとんどの場合狭隘な場所において行わなくてはならない。そのため、走行式作業ロボットには、このような狭隘な場所であっても作業可能な、高い作業性が要求される。
【0008】
更に、このような作業は、上述したようなバルブの開閉作業や、配管の切断作業に限られるものではなく、様々な作業が必要になることも予想される。したがって、特定できない多くの作業に対しても、対応することが可能な高い汎用性が要求される。
【0009】
更にまた、作業時間が長期間に及ぶような場合であっても作業を継続することを可能とするためにバッテリを備えていることはもちろん、万が一、バッテリの電源が全て使われてしまった場合であっても、他の走行式作業ロボットのバッテリから電源を供給することができるような多様な電源供給手段を備えていることが要求される。
【0010】
したがって、災害発生時における作業を、高い信頼性をもって実行するためには、上述したように、不整地であっても安定した状態で走行可能な機動性、狭隘な場所においても作業可能な作業性、遠隔操作が可能でかつ柔軟性に富んだ操作性、電源の多様性、不特定多数の作業に対する対応が可能な汎用性を兼ね備えている必要がある。
【0011】
しかしながら、このように防災作業時に求められる全ての要求を満足させることができる走行式作業ロボットは、未だに実現されていない。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、不整地であっても安定した状態で走行可能な機動性、狭隘な場所においても作業可能な作業性、遠隔操作が可能でかつ柔軟性に富んだ操作性、電源の多様性、不特定多数の作業に対する対応が可能な汎用性を兼ね備え、もって、災害発生時における作業を高い信頼性をもって実行することが可能な走行式作業ロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明では、以下のような手段を講じる。
【0014】
請求項1の発明では、不整地に対して追従可能なクローラを備え、前記クローラによって不整地上を走行することが可能な走行台車と、前記走行台車上に配置された多軸構成の胴体部と、前記胴体部に備えられた多関節アームと、前記胴体部に備えられた多関節撮影手段とを備え、且つ、前記走行台車の下部に複数の前記クローラをそれぞれ、前記各クローラの長さ方向中央部を支点として回転揺動可能な状態で備え、前記備えられた各クローラをそれぞれ独立に駆動させるクローラ駆動手段を付加した。
【0015】
請求項2の発明では、請求項1に記載の走行式作業ロボットにおいて、前記複数のクローラを、前記走行台車の走行方向に対して前方側に1対、後方側に1対、計4つ備えた。
【0016】
請求項3の発明では、請求項1または請求項2に記載の走行式作業ロボットにおいて、前記胴体部を、前記走行台車上において移動可能なように配置し、前記各クローラが前記支点を中心として回転した回転角度を検出する回転角度検出手段と、前記回転角度検出手段によって検出された前記各クローラの回転角度に基づいて、走行式作業ロボット本体が、前記不整地上で安定して走行するように、前記胴体部の前記走行台車上における配置位置を移動させることによって前記走行式作業ロボット本体の重心を移動させる重心移動手段とを付加した。
【0017】
請求項4の発明では、請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の走行式作業ロボットにおいて、前記各クローラの前記支点を中心としたトルクを検出するトルク検出手段と、前記トルク検出手段によって検出されたトルクを零とするように逆方向にトルクをかけるトルク制御手段とを付加した。
【0018】
請求項5の発明では、請求項4に記載の走行式作業ロボットにおいて、前記トルク制御手段は、階段を昇降する場合には、前記階段の昇り口および降り口における前記クローラのトルクを零とするように逆方向にトルクをかけるようにした。
【0019】
請求項6の発明では、請求項4または請求項5に記載の走行式作業ロボットにおいて、階段を昇降する場合であって、前記各クローラのいずれもが、前記階段の昇り口および降り口にない階段定常昇降状態においては、前記各クローラの走行方向を同一方向に向ける走行方向制御手段を付加した。
【0020】
請求項7の発明では、請求項4乃至6のうちいずれか1項に記載の走行式作業ロボットにおいて、階段を昇る場合であって、前記走行台車の走行方向に対して前方側に備えられたクローラが前記階段の昇り口にある場合には、前記トルク制御手段は、前記前方側に備えられたクローラのトルクを零とするように該クローラの前記支点を中心として前記逆方向にトルクをかける一方、後方側に備えられたクローラに対しては、該クローラの前記支点を中心として前記逆方向とは逆の方向にトルクをかけるようにした。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、不整地であっても安定した状態で走行することができる機動性、狭隘な場所においても作業可能な高い作業性、遠隔操作が可能であって柔軟性に富んだ操作性、電源の多様性、不特定多数の作業に対する対応が可能な汎用性を兼ね備えている。
【0022】
以上により、災害発生時における作業を高い信頼性をもって実行することが可能な走行式作業ロボットを実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る走行式作業ロボットの一例を示す斜視図(地面に対してクローラ長辺側で設置している場合)を示す図である。
【図2】図2は、同実施の形態に係る走行式作業ロボットの一例を示す機能ブロック図である。
【図3】図3は、同実施の形態に係る走行式作業ロボットの一例を示す斜視図(地面に対してクローラ短辺側で設置している場合)である。
【図4】図4は、クローラ、トルクセンサ、減速機、揺動モータ、回転角度検出器が備えられたピンの構成を示す模式図である。
【図5】図5は、階段の登り口におけるトルク制御を説明するための概念図である。
【図6】図6は、階段定常昇降時における走行式作業ロボットの状態を説明するための模式図である。
【図7】図7は、動力供給部の構成の一例を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0025】
本発明の実施の形態を図1から図7を用いて説明する。
【0026】
図1は本発明の実施の形態に係る走行式作業ロボットの一例を示す斜視図であり、図2は同実施の形態に係る走行式作業ロボットの一例を示す機能ブロック図である。
【0027】
すなわち、本発明の実施の形態に係る走行式作業ロボットは、階段や段差のある床などの不整地に対して追従可能なクローラ1を下部に備え、このクローラ1によって不整地上を走行することが可能な走行台車2と、走行台車2上に配置された多軸構成の胴体部3と、胴体部3に備えられた多関節アーム4と、胴体部3に備えられた多関節撮影用アーム5とを備えている。
【0028】
クローラ1は、図1に示すように、走行台車2の走行方向Fに対して前方側に1対、後方側に1対、計4つ備えている。このような不整地追従型のクローラ1については、日本国特許第2717722号(平成9年11月14日登録)、および同第2935248号(平成11年6月4日登録)としてそれぞれ公報に開示されている。
【0029】
更に、本発明の実施の形態の走行式作業ロボットにおいて各クローラ1は、回転揺動可能なピン7に固着しており、クローラ1の長さ方向中央部を支点として回転揺動可能な状態で走行台車2の下部に取り付けている。また、各クローラ1は、それぞれ自己のクローラ1を駆動させるためのクローラモータ8を備えているので、各クローラ1はそれぞれ独立に駆動することを可能としている。クローラ1は、通常時には、図1に示すように、クローラ長辺側を不整地に対して設置させているが、これによって、図3に示すように、クローラ短辺側を不整地に対して設置させることも可能としている。この状態で、走行方向Fに対して左側のクローラ1と右側のクローラ1とをそれぞれ逆方向に回転させることによって、走行式作業ロボットを不整地上において回転させることが可能となる。
【0030】
また、図4に示すように、ピン7は、同軸形状をなしており、走行台車2の内側に向かってトルクセンサ10、減速機11、揺動モータ12、回転角度検出器13を固着している。
【0031】
回転角度検出器13は、ピン7の回転角度、すなわちクローラ1の不整地に対する回転角度を検出する。トルクセンサ10は、各クローラ1のピン7を中心としたトルクを検出する。減速機11は、ピン7の回転速度、すなわちクローラ1の不整地に対する回転速度を減速する。
【0032】
揺動モータ12は、トルクセンサ10によって検出されたトルクの逆方向にトルクをかけることによってトルクを零とするように制御する。特に、走行式作業ロボットがクローラ1を駆動することによって階段を昇降する場合においては、階段の昇り口および降り口におけるクローラ1のトルクを零とするように制御する。また、図5に示すように、階段を昇る場合であって、走行台車2の前方側に備えられたクローラ1(#1)が階段の昇り口にある場合には、この前方側に備えられたクローラ1(#1)のトルクを零とするように該クローラ1(#1)のピン7(#1)を中心とした逆方向のトルクTをかける一方、後方側に備えられたクローラ1(#2)に対しては、該クローラ1(#2)のピン7(#2)を中心として前方側のクローラ1(#1)がトルクをかけられた方向Tとは逆の方向Tにトルクをかける。
【0033】
また、階段を昇降する場合であって、図6(a)に示すように、クローラ1のいずれもが、階段の昇り口および降り口に無い階段定常昇降状態にある場合には、走行方向制御部15が、図6(a)および図6(b)に示すように各クローラ1の走行方向を同一方向Fに向ける。
【0034】
走行台車2内には、遠隔制御部16から送信される制御情報を受信するとともに、走行式作業ロボット各部の動作状態情報を遠隔制御部16に送信する通信部17と、走行式作業ロボット各部を動作させるための動力を供給する動力供給部18と、通信部17によって受信された制御情報に基づいて、クローラ1、胴体部3、多関節アーム4、多関節撮影用アーム5等の動作を制御する制御部19とを備えている。
【0035】
この通信部17は、無線通信、有線通信いずれも適用可能であり、無線通信を行う場合にはアンテナ21を介して、また有線通信を行う場合には、通信ケーブル22を用いて、それぞれ遠隔制御部16との通信を行う。すなわち、遠隔制御部16側から送信される、走行式作業ロボット各部の動作を制御するための制御情報を受信し制御部19に出力する。また、逆に、制御部19から出力される走行式作業ロボット各部であるクローラ1、走行台車2、胴体部3、多関節アーム4、多関節撮影用アーム5、後述するパンチルト装置23、カメラ24,25、およびサーボアンプ26等の動作状態情報を遠隔制御部16へ送信する。更には、カメラ24,25によって撮影された影像情報を遠隔制御部16側へ送信する。
【0036】
動力供給部18もまた、図7に示すように、遠隔制御部16から電送ケーブル28を介して、あるいはバッテリ29から、電力供給を受けることを可能としている。この動力供給部18は、更に、2つのコンバータ30(#1),30(#2)と、バッテリ管理装置31と、放電管理装置32とを備えている。
【0037】
コンバータ30(#1)は、遠隔制御部16側から電送ケーブル28(#1)を介して供給された交流電流AC1(たとえば200V)を、所定電圧の直流電流DCに変換する。コンバータ30(#2)は、遠隔制御部16側から供給された交流電流AC2(たとえば100V)を、コンバータ30(#1)が変換した電圧と同じ所定電圧の直流電流DCに変換する。なお、コンバータ30(#1)は、コンバータ30(#2)よりも電圧の高い交流電流の供給を受け(すなわち、AC1>AC2)、動力供給部18は、通常時には交流電流AC1を受電し、交流電流AC1を受電することができない場合にバックアップとして交流電流AC2を受電し、これらを同時に受電することはない。これらコンバータ30によって変換された所定電圧の直流電流DCは、走行式作業ロボットの各部であるクローラ1、走行台車2、胴体部3、多関節アーム4、多関節撮影用アーム5、パンチルト装置23、カメラ24,25、サーボアンプ26等へ稼動用電力として供給する。なお、稼動用電力を供給する必要のない場合には、後述するようにバッテリ管理装置31による管理にしたがって、バッテリ29に蓄電されるようにしている。
【0038】
バッテリ管理装置31は、コンバータ30によって変換された所定電圧の直流電流DCを、稼動用電力として走行式作業ロボットの各部に供給するか、あるいは、バッテリ29に蓄電させるかの管理を行う。まず、遠隔制御部16から交流電流AC1が供給され、各部に稼動用電力を供給する必要がある場合には、コンバータ30(#1)によって変換された所定電圧の直流電流DCを稼動用電力として供給する。この直流電流DCは、走行式作業ロボット駆動用電力(サーボモータ33、クローラモータ8等に用いる)、あるいは走行式作業ロボットを制御するための制御用電力(制御部19、カメラ24,25、無線通信等に用いる)として用いる。一方、遠隔制御部16側から交流電流AC1が供給され、稼動用電力を供給する必要がない場合には、コンバータ30(#1)によって変換された所定電圧の直流電流DCの電力をバッテリ29に蓄電させる。
【0039】
また、遠隔制御部16側から交流電流AC1が供給されず、遠隔制御部16側から交流電流AC2が供給され、走行式作業ロボットの各部に稼動用電力を供給する場合には、コンバータ30(#2)によって変換された所定電圧の直流電流DCを稼動用電力として供給する。交流電流AC2の電圧は、交流電流AC1の電圧よりも低いので、これを補うために、放電管理装置32が、バッテリ29に蓄電されている直流電流DCを同時に供給する。このようにしてコンバータ30(#2)およびバッテリ29から供給された直流電流DCは、走行式作業ロボットの各部を制御するための駆動用電力、および制御用電力として用いられるようにしている。なお、バッテリ29に電力が蓄電されていない場合には、コンバータ30(#2)によって変換された直流電流DCのみを供給する。このようにしてコンバータ30(#2)のみから直流電流DCが供給された場合には、供給された直流電流DCは、走行式作業ロボットの各部を制御するための制御用電力として用いる。
【0040】
一方、遠隔制御部16側から交流電流AC1が供給されず、遠隔制御部16側から交流電流AC2が供給された場合であって、走行式作業ロボットの各部に稼動用電力が過剰な場合もしくは稼動用電力を供給しない場合には、コンバータ30(#2)によって変換された所定電圧の直流電流DCの電力をバッテリ29に蓄電させる。
【0041】
更に、遠隔制御部16または外部の電源設備(図示せず)から所定電圧の直流電流DCが供給され、かつ走行式作業ロボットの各部に稼動用電力を供給する場合には、所定電圧の直流電流DCを稼動用電力として供給する。この直流電流DCは、走行式作業ロボットを駆動させるための駆動用電力、および制御用の制御用電力として用いられるようにしている。一方、遠隔制御部16または外部の電源設備から所定電圧の直流電流DCが供給され、かつ走行式作業ロボットの各部に稼動用電力が過剰な場合もしくは稼動用電力を供給しない場合には、所定電圧の直流電流DCの電力をバッテリ29に蓄電させる。
【0042】
バッテリ29は、バッテリ管理装置31からの指示に基づいて、指定された直流電流DCの電力を蓄電する。
【0043】
放電管理装置32は、交流電流AC1、直流電流DCのいずれも供給されず、かつ稼動用電力を走行式作業ロボットの各部に供給する場合には、バッテリ29に蓄電されている所定電圧の直流電流DCを稼動用電力として供給する。この直流電流DCは、走行式作業ロボットを駆動させるための駆動用電力、および制御するための制御用電力として用いられるようにしている。
【0044】
ケーブルリール35は、電送ケーブル28および通信ケーブル22のケーブルドラム36への巻き取り、または繰り出しのための制御を行うものであって、通信ケーブル22および電送ケーブル28といったケーブルを巻き取る場合にはケーブルドラム36を回転させて、このケーブルドラム36にケーブルを巻き取らせる。一方、ケーブルを繰り出す場合にはケーブルドラム36を逆回転させ、これによってケーブルドラム36に巻き取られているケーブルを繰り出すようにしている。ケーブルドラム36は、一定のピッチでケーブルの巻き取り、および繰り出しを行う。
【0045】
また、ケーブルドラム36の巻き取り面にケーブルにたるみが生じないように制御するために、たるみ検出器37と層巻き制御部38とを備えている。たるみ検出器37は、ケーブルドラム36によるケーブルの巻き取り時におけるケーブルのたるみを検出し、たるみを検出した場合には、たるみ検出信号をケーブル回転制御部39に出力する。ケーブル回転制御部39は、たるみ検出器37からたるみたるみ検出信号を受信した場合には、ケーブルリール35に対して、ケーブルドラム36の正回転速度を増加させるよう指示する。これによって、たるみをなくすための張力を該ケーブルに与える。
【0046】
また、層巻き制御部38は、ケーブルドラム36のケーブル巻き取り面一面にケーブルが保持された場合であって、更にケーブルを巻き取る場合には、ケーブルを、すでにケーブルドラム36に巻き取られたケーブルの上に層巻き状に巻き取り(多層巻き)保持するように制御する。
【0047】
このようにケーブルリール35、ケーブルドラム36、たるみ検出器37、層巻き制御部38、ケーブル回転制御部39によって通信ケーブル22および電送ケーブル28の効率良い巻き取り、および繰り出しを行うようにしている。このようなケーブルの処理については、特開平6−86441号公報に開示されているので、ここではその詳細を省略する。
【0048】
胴体部3は、胴体部移動機構41を備えており、この胴体部移動機構41によって走行台車2の上部に設けられた走行方向Fの前後方向に亘って円弧状をなすガイド部42に沿って走行可能としている。胴体部3は、ガイド部42の円弧頂点、すなわち、円弧の中点を基準位置Pとしているが、胴体部移動機構41が、各クローラ1の回転角度検出器13によって検出された各クローラ1の回転角度に基づいて、走行式作業ロボット本体が不整地上で安定して走行できるように、胴体部3をガイド部42に沿って走行させ、走行式作業ロボットの重心を走行させる。
【0049】
また、胴体部3は旋回駆動機構43を備えている。この旋回駆動機構43は、旋回軸Aを中心として胴体部3を旋回させる。
【0050】
多関節アーム4は、7つの関節51〜57を備えている。
【0051】
関節51は、胴体部3に接続された固定部と、旋回軸Sにおいて固定部に接続され、この旋回軸Sを中心に固定部に対して旋回可能な旋回部とを備えてなる旋回関節である。
【0052】
関節52は、関節51の旋回部に接続された固定部と、屈曲軸Sにおいて固定部に接続され、この屈曲軸Sを中心に関節51に対して任意の角度で屈曲可能な屈曲部とを備えてなる屈曲関節である。
【0053】
関節53は、関節52の屈曲部に接続された固定部と、旋回軸Sにおいて固定部に接続され、この旋回軸Sを中心に固定部に対して旋回可能な旋回部とを備えてなる旋回関節である。
【0054】
関節54は、関節53の旋回部に接続された固定部と、屈曲軸Sにおいて固定部に接続され、この屈曲軸Sを中心に関節53に対して任意の角度で屈曲可能な屈曲部とを備えてなる屈曲関節である。
【0055】
関節55は、関節54の屈曲部に接続された固定部と、旋回軸Sにおいて固定部に接続され、この旋回軸Sを中心に固定部に対して旋回可能な旋回部とを備えてなる旋回関節である。
【0056】
関節56は、関節55の旋回部に接続された固定部と、屈曲軸Sにおいて固定部に接続され、この屈曲軸Sを中心に関節55に対して任意の角度で屈曲可能な屈曲部とを備えてなる屈曲関節である。
【0057】
関節57は、関節56の屈曲部に接続された固定部と、旋回軸Sおいて固定部に接続され、この旋回軸Sを中心に固定部に対して旋回可能な旋回部とを備えてなる旋回関節である。この関節57の先端は、カメラ24や専用工具58等の取り付けおよび取り外しが自在な構成としている。カメラ24を備えた場合には、このカメラ24は、撮影した撮影情報を制御部19に出力する。専用工具58としては、例えば、ドアを開閉するための機構を備えた工具、物を持ち上げることが可能な工具、バルブを開閉するための機構を備えた工具、配管に穴を開けたりすることが可能な工具等、目的に応じて様々な工具がある。
【0058】
なお、図1および図2に示すように、走行式作業ロボットは、多関節アーム4を複数備えていても良い。
【0059】
多関節撮影用アーム5は、6つの関節61〜66と、関節65および関節66から構成されてなるパンチルト装置23、関節66の先端に設置されたカメラ25、カメラ25の前方を照らすライト69、カメラ25およびライト69を覆う透明カバー70とを備えている。
【0060】
関節61は、関節51と同様に、胴体部3に接続された固定部と、所定旋回軸において固定部に接続され、この所定旋回軸を中心に固定部に対して旋回可能な旋回部とを備えてなる旋回関節である。また、関節62は、関節52と同様に、関節61の旋回部に接続された固定部と、所定屈曲軸において固定部に接続され、この所定屈曲軸を中心に関節61に対して任意の角度で屈曲可能な屈曲部とを備えてなる屈曲関節である。関節63は、関節53と同様に、関節62の屈曲部に接続された固定部と、所定旋回軸において固定部に接続され、この所定旋回軸を中心に固定部に対して旋回可能な旋回部とを備えてなる旋回関節である。関節64は、関節54と同様に、関節63の旋回部に接続された固定部と、所定屈曲軸において固定部に接続され、この所定屈曲軸を中心に関節63に対して任意の角度で屈曲可能な屈曲部とを備えてなる屈曲関節である。更に、関節65は、関節55と同様に、関節64の屈曲部に接続された固定部と、所定旋回軸において固定部に接続され、この所定旋回軸を中心に固定部に対して旋回可能な旋回部とを備えてなる旋回関節である。この関節66の先端にはカメラ25を備えており、このカメラ25は撮影した撮影情報を制御部19に出力する。
【0061】
制御部19は、多関節アーム4を構成する各関節51〜57のうちの関節51〜54、および多関節撮影用アーム5を構成する各関節61〜66のうちの関節61〜64の位置制御を行うことによって、多関節アーム4および多関節撮影用アーム5の空間位置や走行台車2との相対位置を制御する。また、制御部19は、パンチルト装置23を構成する関節65の旋回角度、および関節66の屈曲角度を制御させることによって、カメラ25およびライト69を所定方向に向ける。
【0062】
制御部19は、上述したように、走行式作業ロボットの各部の動作を制御するので、機能別に分類した複数のユニットから構成するようにしても良い。例えば、クローラ1の動作を制御する第1制御ユニット、胴体部3の動作を制御する第2制御ユニット、多関節アーム4の動作を制御する第3制御ユニット、多関節撮影用アーム5の動作を制御する第4制御ユニットなどといった各制御ユニットから構成し、更に各制御ユニット間をシリアル配線で結合することによって、各制御ユニット相互の情報伝達を可能とした構成としても良い。
【0063】
更に、胴体部3は、サーボモータ33とサーボアンプ73とを備えている。サーボモータ33は、サーボアンプ73から供給される電力によって、制御部19からの制御に基づき駆動部であるクローラ1、胴体部3、多関節アーム4、多関節撮影用アーム5に駆動力を与える。サーボアンプ73は、動力供給部18から電力の供給を受け、サーボモータ33に供給するための所定の電圧に増幅し、この増幅した電力をサーボモータ33に供給する。なお、このようなサーボモータ33とサーボアンプ73とを胴体部3に個別に備えても、また、サーボモータ33とサーボアンプ26とを一体化した機器であるサーボユニット71を胴体部3に備えてもいずれでも良い。
【0064】
上述したように、本発明の実施の形態に係る走行式作業ロボットにおいては、上記のような構成をしているので、ピン7を中心に揺動回転可能なクローラ1によって、階段や段差のある床などの不整地の上を自在に走行することができる。また、ピン7にはトルクセンサ10、減速機11、揺動モータ12、回転角度検出器13が備えられており、クローラ1にかかったトルクと逆方向のトルクがかけられ、トルクを零にするような制御がなされる。さらに、クローラ1の回転角度に連動して、胴体部3がガイド部42上を走行することによって、走行式作業ロボットが安定した状態で走行できるように重心位置が調整される。これらによって、階段や段差のある床などの不整地の上を安定した状態で自在に走行することが可能となる。
【0065】
また、胴体部3に接続して多関節アーム4および多関節撮影用アーム5がそれぞれ備えられている。多関節アーム4は、例えば7軸など、多数の関節を組み合わせることによって高い自由度が実現される。更に、アーム5の先端の関節57は、作業内容に応じた工具の取り付け、および取り外しが可能なように構成されているので汎用性が高く、かつ狭隘な場所に配置された対象物に対しても確実にアクセスし、所定の作業を行うことが可能となる。
【0066】
多関節撮影用アーム5には、カメラ25が設けられているので、このカメラ25によって撮影された影像を遠隔制御部16からモニタすることによって、例えば、作業員がアクセスできないような場所(例えば、放射線量率の高い場所、高温の場所、危険な場所等)であっても、その内部の様子をモニタすることができる。このカメラ25はパンチルト装置23によって方向が制御されるので、作業員によって指定された任意の場所をモニタすることができる。また、撮影方向を照らすライト69を備えているので、対象物を鮮明にモニタできる。更に、ライト69およびカメラ25は透明カバー70によって覆われているので、例えば水中用モニタとしての適用も可能である。
【0067】
遠隔制御部16から走行式作業ロボット側へと送信された制御信号の受信、および走行式作業ロボット側から遠隔制御部16側への動作状況信号の送信はいずれも通信部17を介してなされるが、各信号の伝送は通信ケーブル22を用いた有線方式、あるいはアンテナ21を介してなされる無線方式のいずれでもよい。したがって、例えば、ケーブルドラム36に保持可能な通信ケーブル22長さよりも遠隔の作業場所に走行する場合、あるいは通信ケーブル22側に何らかの異常があった場合には、信号通信を有線方式から無線方式に切り替えることができ、信頼性、冗長性に優れている。
【0068】
動力供給部18も、遠隔制御部16から電送ケーブル28を介して供給された電源を元に走行式作業ロボットの各部に電力を供給する方式、あるいは、バッテリ29に蓄電しておいて、このバッテリ29から走行式作業ロボットの各部に電力を供給する方式のいずれの方式も適用することができるので、信頼性、冗長性に優れている。更に、この動力供給部18は、遠隔制御部16から交流電流AC1および交流電流AC2が供給されなくても、直流電流DCを外部から受け、この直流電流DCをそのまま走行式作業ロボットの各部に供給することができる。このようにして、外部から供給された直流電流DCを走行式作業ロボットの各部に供給する場合には、この供給された直流電流DCは、駆動用あるいは制御用の電源として用いられる。外部から供給された直流電流DCを供給する必要がない場合には、バッテリ29に蓄電し、この蓄電された直流電流DCを、必要に応じてバッテリ29から取り出し、走行式作業ロボットの各部に供給することができる。これによって、例えば、遠隔制御部16側から交流電流AC1も交流電流AC2も供給することができず、かつ、バッテリ29に蓄電されていた電力も全て使い果たしてしまった状態となった場合、別の走行式作業ロボットの動力供給部18から直流電流DCの供給を受けることによって、この直流電流DCをバッテリ29に蓄電し、この蓄電した直流電流DCを走行式作業ロボットに駆動用の電源として供給することによって走行式作業ロボットを再び駆動させることができる。
【0069】
従来、このような、電源不足による停止が、原子力災害時などにおける空間放射線量率の高い場所において発生した場合には、該ロボットを回収することができなかったが、該動力供給部18によれば、別の走行式作業ロボットを駆動することによって、停止した走行式作業ロボットに接近し、バッテリ29を充電することによって、再び自走する駆動用電源を供給することが可能となるので、走行式作業ロボットの利用効率および運転セキュリティを高めることに資することができる。
【0070】
走行式作業ロボットと遠隔制御部16との間の情報通信を行う場合には通信ケーブル22を、また、遠隔制御部16から走行式作業ロボット側への電力供給を有線で行う場合には、電送ケーブル28がそれぞれ用いられる。これらケーブル22,28は、たるみ検出器37、ケーブル回転制御部39、ケーブルリール35が連動することによってたるみが発生しないように制御されながら、ケーブルドラム36に巻き取り保持される。また、層巻き制御部38によってケーブル22,28が層巻き制御されることによって極力小さいケーブルドラム36を用いることが可能となる。
【0071】
以上、本発明の好適な実施の形態について、添付図面を参照しながら説明したが、本発明はかかる構成に限定されない。特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上のように、この発明にかかる走行式作業ロボットは、災害発生時における作業を高い信頼性をもって実行することが可能な点で有益である。
【符号の説明】
【0073】
F…走行方向
T…トルク方向
P…基準位置
A…旋回軸
、S、S、S…旋回軸
、S、S…屈曲軸
AC…交流電流
DC…直流電流
1…クローラ
2…走行台車
3…胴体部
4…多関節アーム
5…多関節撮影用アーム
7…ピン
8…クローラモータ
10…トルクセンサ
11…減速機
12…揺動モータ
13…回転角度検出器
15…走行方向制御部
16…遠隔制御部
17…通信部
18…動力供給部
19…制御部
21…アンテナ
22…通信ケーブル
23…パンチルト装置
24、25…カメラ
26…サーボアンプ
28…電送ケーブル
29…バッテリ
30…コンバータ
31…バッテリ管理装置
32…放電管理装置
33…サーボモータ
35…ケーブルリール
36…ケーブルドラム
37…たるみ検出器
38…層巻き制御部
39…ケーブル回転制御部
41…胴体部移動機構
42…ガイド部
43…旋回駆動機構
51〜57、61〜66…関節
58…専用工具
69…ライト
70…透明カバー
71…サーボユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不整地に対して追従可能なクローラを備え、前記クローラによって不整地上を走行することが可能な走行台車と、前記走行台車上に配置された多軸構成の胴体部と、前記胴体部に備えられた多関節アームと、前記胴体部に備えられた多関節撮影手段とを備え、且つ、
前記走行台車の下部に複数の前記クローラをそれぞれ、前記各クローラの長さ方向中央部を支点として回転揺動可能な状態で備え、前記備えられた各クローラをそれぞれ独立に駆動させるクローラ駆動手段を付加したことを特徴とする走行式作業ロボット。
【請求項2】
請求項1に記載の走行式作業ロボットにおいて、前記複数のクローラを、前記走行台車の走行方向に対して前方側に1対、後方側に1対、計4つ備えたことを特徴とする走行式作業ロボット。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の走行式作業ロボットにおいて、前記胴体部を、前記走行台車上において移動可能なように配置し、前記各クローラが前記支点を中心として回転した回転角度を検出する回転角度検出手段と、前記回転角度検出手段によって検出された前記各クローラの回転角度に基づいて、走行式作業ロボット本体が、前記不整地上で安定して走行するように、前記胴体部の前記走行台車上における配置位置を移動させることによって前記走行式作業ロボット本体の重心を移動させる重心移動手段とを付加したことを特徴とする走行式作業ロボット。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の走行式作業ロボットにおいて、前記各クローラの前記支点を中心としたトルクを検出するトルク検出手段と、前記トルク検出手段によって検出されたトルクを零とするように逆方向にトルクをかけるトルク制御手段とを付加したことを特徴とする走行式作業ロボット。
【請求項5】
請求項4に記載の走行式作業ロボットにおいて、前記トルク制御手段は、階段を昇降する場合には、前記階段の昇り口および降り口における前記クローラのトルクを零とするように逆方向にトルクをかけるようにしたことを特徴とする走行式作業ロボット。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の走行式作業ロボットにおいて、階段を昇降する場合であって、前記各クローラのいずれもが、前記階段の昇り口および降り口にない階段定常昇降状態においては、前記各クローラの走行方向を同一方向に向ける走行方向制御手段を付加したことを特徴とする走行式作業ロボット。
【請求項7】
請求項4乃至6のうちいずれか1項に記載の走行式作業ロボットにおいて、階段を昇る場合であって、前記走行台車の走行方向に対して前方側に備えられたクローラが前記階段の昇り口にある場合には、前記トルク制御手段は、前記前方側に備えられたクローラのトルクを零とするように該クローラの前記支点を中心として前記逆方向にトルクをかける一方、後方側に備えられたクローラに対しては、該クローラの前記支点を中心として前記逆方向とは逆の方向にトルクをかけるようにしたことを特徴とする走行式作業ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−158772(P2010−158772A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68693(P2010−68693)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【分割の表示】特願2001−55310(P2001−55310)の分割
【原出願日】平成13年2月28日(2001.2.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】