説明

走行車両のサスペンション装置

【課題】 前フレームと揺動フレームとを連結することなく、左右方向の当接により揺動フレームの横振れを規制できるようにする。
【解決手段】 エンジンEから前方へ前フレーム3を突設して車体2の前部を構成し、この車体2の前部に揺動フレーム4の後部を左右方向の支持軸5廻り上下揺動自在に支持し、前記揺動フレーム4に前輪26を縣架した前車軸ケース6を前後方向のセンタ軸7廻り左右揺動自在に支持し、前記前フレーム3に前輪26用の左右サスペンションシリンダ8を設ける。前記揺動フレーム4と前フレーム3との間に左右方向の当接により揺動フレーム4の左右振れを規制する横振れ規制手段23を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタ等の走行車両のサスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走行車両のサスペンション装置の従来技術においては、特許文献1に開示されているように、エンジンの後部にミッションケースを連結しかつエンジンから前方へ前フレームを突設して車体を構成し、この車体の前部に揺動フレームの後部を左右方向の支持軸廻り上下揺動自在に支持し、前記揺動フレームに前輪を縣架した前車軸ケースを前後方向のセンタ軸廻り左右揺動自在に支持し、前記前フレームに前輪用の左右サスペンションシリンダを設け、前輪から前車軸ケースに伝わる衝撃を、揺動フレームを介してサスペンションシリンダで緩衝するように構成されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
前記揺動フレームは前輪からの左右方向の負荷により、後部の支持軸を中心に前部が左右方向に振れを生じることがあり、その振れ荷重で前記支持軸の耐久性が低下しないように、横振れ規制手段が設けられる。
一般的に4輪走行車両においては、前車軸ケースにかかる制動力、駆動力を左右のロアリンク及びアッパリンク等で受けもち、横向荷重をラテラルロッドにて受けもつように構成されており、前記横振れ規制手段として、一端が車体に枢支され、他端が前車軸ケース側に枢支されたラテラルロッドが採用されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】EP0761481B1号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】自動車技術ハンドブック設計(シャシ)編第8〜9頁、発行者社団法人自動車技術会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来技術のラテラルロッドを揺動フレームの横振れ規制に適用すると、ラテラルロッドは車体と前車軸ケース側とを連結しているので、前車軸ケースが上下動すると、ラテラルロッドは車体側の一端を中心に前車軸ケース側の他端が円弧運動することになり、揺動フレームの前部を左右に振らしながら、横向荷重を支持することになり、揺動フレームの後部の支持軸に過負荷が影響することを回避するのが困難な構造になる。
本発明は、このような従来技術の問題点を解決できるようにした走行車両のサスペンション装置を提供することを目的とする。
【0007】
本発明は、前フレームと揺動フレームとを連結することなく、左右方向の当接により揺動フレームの横振れを規制できるようにした走行車両のサスペンション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明における課題解決のための具体的手段は、次の通りである。
第1に、エンジンEから前方へ前フレーム3を突設して車体2の前部を構成し、この車体2の前部に揺動フレーム4の後部を左右方向の支持軸5廻り上下揺動自在に支持し、前記揺動フレーム4に前輪26を縣架した前車軸ケース6を前後方向のセンタ軸7廻り左右揺動自在に支持し、前記前フレーム3に前輪26用の左右サスペンションシリンダ8を設けており、
前記揺動フレーム4と前フレーム3との間に左右方向の当接により揺動フレーム4の左右振れを規制する横振れ規制手段23を設けていることを特徴とする。
【0009】
第2に、前記前フレーム3は揺動フレーム4を挟んで位置する左右側壁3Aを有し、前記横振れ規制手段23は、揺動フレーム4の側面に回転自在に設けられていて前記左右側壁3Aと当接可能な回転体23Aを有することを特徴とする。
第3に、前記横振れ規制手段23は、前記左右側壁3Aに着脱可能に固定されていて回
転体23Aと当接可能な当接板23Bを有することを特徴とする。
第4に、前記前フレーム3内に揺動フレーム4の前部を配置し、前記横振れ規制手段23を、前記揺動フレーム4の前部と前フレーム3との間でかつ前フレーム3の内側に配置していることを特徴とする。
[作用]
前記特徴を有する走行車両のサスペンション装置は次のような作用を奏する。
【0010】
前輪26用の左右サスペンションシリンダ8は、前輪26から前車軸ケース6を介して揺動フレーム4に加わる支持軸5廻りの上下方向の衝撃を緩衝する。荷重が変化したときに車体2の高さが変化するので、揺動フレーム4は支持軸5廻りに上下回動して、前フレームと前車軸ケース6との上下間隔が変化する。
前輪26から揺動フレーム4に左右方向の負荷が加わると、揺動フレーム4は支持軸5に支持された後部を中心に前部が左右に振れようとするが、横振れ規制手段23が揺動フレーム4の左右振れを規制する。
【0011】
横振れ規制手段23は、揺動フレーム4の側面に回転体23Aを回転自在に設けたものであり、揺動フレーム4が極めて僅かに左右に振れると、回転体23Aが前フレーム3の側壁3Aに当接し、それ以上の揺動フレーム4の左右振れを防止する。
揺動フレーム4と前フレーム3との間には、左右方向の当接状態はあるが、連結状態がないので、揺動フレーム4が支持軸5廻りに上下回動しても常に同一条件で揺動フレーム4の左右振れを規制できる。
横振れ規制手段23が回転体23Aを有することにより、前記当接は回転体23Aの転動を伴い、当接部分の耐久性を高くしておける。
【0012】
前記回転体23Aの当接の相手方に左右側壁3Aに着脱可能に固定された当接板23Bを採用することにより、回転体23Aの当接によって摩耗しても取り替えることができ、回転体23Aと当接板23Bとの間のすき間管理を良好に維持できる。
前記揺動フレーム4の前部を前フレーム3内に配置し、前記横振れ規制手段23を、前記揺動フレーム4の前部と前フレーム3との間に配置していると、支持軸5から可及的に遠い位置で揺動フレーム4の左右振れを規制でき、支持軸5に加わる左右方向の負荷を小さくできる。
【0013】
前記横振れ規制手段23は前フレーム3の内側に配置することにより、泥土の侵入が少なく、かつコンパクトに構成できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、前フレームと揺動フレームとを連結することなく、左右方向の当接により揺動フレームの横振れを規制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態を示す要部の側面図である。
【図2】同平面図である。
【図3】同正面図である。
【図4】左右揺動規制手段の作用を示す説明図である。
【図5】トラクタの前部の平面図である。
【図6】トラクタの前部の側面図である。
【図7】図1のX−X線断面図である。
【図8】図1のY−Y線断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
トラクタTの前部を示す図5、6において、トラクタTはエンジンEの後部に前ミッションケースM及び後ミッションケースを連結し、かつエンジンEから前方へ前フレーム3を突出して車体2を構成しており、前フレーム3に左右前輪26を縣架する前車軸ケース6を支持している。
前記前フレーム3上にはラジエータR、バッテリ等が搭載され、ボンネットBによって覆われおり、また、前記車体2の後上部側には、ステアリングハンドル、操縦席等が設け
られている。
【0017】
前記後ミッションケースの後輪デフピニオン軸から取り出される前輪動力は、前ミッションケースMの内部伝動軸27から前輪変速機構28を介して外部伝動軸29に伝達され、この外部伝動軸29から自在継手軸30を介して前車軸ケース6の前輪デフピニオン軸31に伝達される。
前記前輪変速機構28は油圧切換え式であり、内部伝動軸27からの前輪動力を後輪と等速の状態と、後輪に対して1.3〜2.0倍の増速の状態とに切り換えて外部伝動軸29に伝達可能になっている。
【0018】
前車軸ケース6は前輪デフ装置を内蔵している中央拡大部6aから左右外端へ次第に細くなっており、左右外端には終減速機構33を有し、中央拡大部6aの背面側には後部蓋兼軸受ケース6bが設けられかつステアリングシリンダ34が配置されている。
図1〜8において、前記前車軸ケース6は左右外端が上下動可能になるように揺動フレーム4に支持されており、センタピンとなるセンタ軸7廻りに左右揺動自在であり、中央拡大部6aの前部にセンタ軸7のセンタ軸前部7Fが形成され、後部蓋兼軸受ケース6bの後部にセンタ軸後部7Rが形成されている。
【0019】
前記前フレーム3は、左右一対の外側板3aと左右一対の内側板3bと前板3cとを有し、対応する外側板3aと内側板3bとは左右に重合してボルトナット等の固定具又は溶接等により連結固定され、左右一対の外側板3a及び左右一対の内側板3bの前端間に前板3cが固定具又は溶接等により連結固定されており、前記内側板3bの内面が前フレーム3の左右側壁3Aを形成している。
前記前フレーム3と前車軸ケース6との間には、圃場、路面等からの衝撃や振動を緩衝するとともに、トラクタTの前部の高さ調整、傾動等を行うサスペンション機構1が設けられている。前記サスペンション機構1は前フレーム3及び前車軸ケース6とともにサスペンション装置を構成する。
【0020】
前記サスペンション機構1は、前フレーム3に支持軸5廻り揺動(上下揺動)自在に支持されかつ前車軸ケース6をセンタ軸(軸心が前後方向)7廻り揺動(左右揺動)自在に支持する揺動フレーム4と、前フレーム3と揺動フレーム4との間に左右一対設けられたサスペンションシリンダ8と、この左右サスペンションシリンダ8と連通する油圧バルブ21及びアキュムレータ22等で構成されている。
図1、2、7において、前フレーム3の後部下面には取付台44が設けられ、この取付台44に板金又は鋳物で形成された支持ブラケット35が固着されており、この支持ブラケット35はエンジンEの直下に位置している。この支持ブラケット35は水平板で形成した固着部35aと、この固着部35aの左右下面に2枚の板材を下方突出状に固着して形成された左右一対の軸支持部35bとを有する。左右一対の軸支持部35bは二股形状になっていて、それぞれに支持軸5が貫通されている。
【0021】
左右の支持軸5は軸心が左右方向でかつ同心であり、前記自在継手軸30の前継手を構成する十字継手30aの回転中心と、上下方向において同心又は可及的同心になるように配置されている。
また、前記センタ軸7の軸心7Sも支持軸5の軸心及び十字継手30aの回転中心と上下方向において同心又は可及的同心になるように配置されており、支持軸5を中心に前部が上下するように揺動可能であり、即ち、揺動フレーム4及び前車軸ケース6は支持軸5を中心に上下揺動可能になっており、上下揺動しても前輪デフピニオン軸31が正常に回転できるようになっている。
【0022】
前記揺動フレーム4は、前車軸ケース6の前部を支持する前揺動フレーム4Fと、この前揺動フレーム4Fと連結されていて前記前車軸ケース6の後部を支持しながら支持軸5に枢支された後揺動フレーム4Rとを有する。
後揺動フレーム4Rは、前記左右各支持軸5にそれぞれ嵌合する後部平面視二股形状の左右支持軸受部10と、この左右支持軸受部10の前側で前記前車軸ケース6のセンタ軸後部7Rに嵌合する後軸受部11と、左右支持軸受部10の前部から後軸受部11にかけてそれらの上面側に形成されていて平坦面を有する取付け部12とが形成されている。
【0023】
前揺動フレーム4Fは概ね平面視長方形でかつ側面視L字形状であって、前記後揺動フレーム4Rの取付け部12上にボルト等で着脱自在に固定される固定部13と、この固定部13から前車軸ケース6の上方を通って前方へ突出する支持部14と、この支持部14の前部で下向きに突出して前記前車軸ケース6のセンタ軸前部7Fに嵌合する前軸受部15とを有する。
揺動フレーム4は前揺動フレーム4Fと後揺動フレーム4Rとで前車軸ケース6の中央拡大部6aに跨る側面視コ字形状であり、揺動フレーム4の上部を形成する前揺動フレーム4Fの固定部13及び支持部14は前フレーム3の左右側壁3A間に侵入配置されている。前記前フレーム3には前車軸ケース6の中央拡大部6aに対向する窪み部3Dが形成されていて、中央拡大部6aの左右外側部分を侵入させることにより、揺動フレーム4をより上位まで上昇できるようになっている。
【0024】
前記前フレーム3の内面と揺動フレーム4の前後中途部との間に、前フレーム3の昇降位置を検出する昇降検出センサ19が設けられている。この昇降検出センサ19はセンサ本体19aが前フレーム3の左右側壁3Aに固定され、センサロッド19bの先端が後揺動フレーム4Rの後軸受部11又は前揺動フレーム4Fの固定部13の側面に連結されている。
前記揺動フレーム4と前フレーム3との間、特に、前記揺動フレーム4の前部と前フレーム3の内面との間には、揺動フレーム4の左右方向の振れ(揺動)を規制する横振れ規制手段23が設けられている。この横振れ規制手段23は揺動フレーム4側の回転体23Aと前フレーム3側の当接板23Bとを有する。前記回転体23Aは鋼球、ボールで形成されている。
【0025】
前記揺動フレーム4の支持部14の前上部には、図1、2、5、6、8に示すように、突起部14bが左右外側方に突出しており、この左右各突起部14bの端面にドリル孔を形成して前後2個の回転体23Aを回転可能に嵌入しており、前記突起部14bには2個の回転体23Aを潤滑するためのグリス通路46が形成されている。
支持部14の前上部を挟んで位置する前フレーム3の左右側壁3Aの対向面には、当接板23Bが着脱可能に固定(ボルト固定)されており、前記回転体23Aが実質的に当接する当接面を形成している。この左右当接板23Bは回転体23Aと常に当接していてもよいが、極めて僅かなすき間を有して対峙しており、揺動フレーム4が左右方向に僅かに振れたときに振れ側の回転体23Aが当接する。
【0026】
前記回転体23Aは当接板23Bに当接している状態で揺動フレーム4が上下動すると、回転体23Aは当接板23Bを転動することになり、揺動フレーム4の上下動に対する抵抗は低くなっている。
回転体23Aを前フレーム3の左右側壁3Aに直接当接するように構成してもよいが、側壁3Aに当接板23Bを着脱可能に設けることにより、回転体23Aと同様に、摩耗したときに取り替えることができ、取り替え可能にすることにより、回転体23Aと当接板23Bとの間のすき間を常に良好に維持でき、またすき間が最適になるように当接板23Bの厚さを設定できる。
【0027】
前記横振れ規制手段23の回転体23Aは1個でも3個以上でもよく、当接板23Bは揺動フレーム4を上下動しても全範囲で全回転体23Aとの当接を確保する大きさに形成されている。また、前記回転体23Aは鋼球の他に円柱状のコロでもよく、その場合コロはその軸心をセンタ軸7の軸心7Sと平行に配置しておく。
前記横振れ規制手段23は、揺動フレーム4の支持部14の前上部と前フレーム3の左右側壁3Aの内面との間に配置されているが、支持部14の後部もしくは中途部、又は揺動フレーム4の後部もしくは中途部と前フレーム3との間に配置してもよい。
【0028】
また、横振れ規制手段23は、前フレーム3の内側に配置されて外方に露出する部分はないが、当接板23Bを前フレーム3から上下方向に突出させてもよい。
前フレーム3と揺動フレーム4との間には上下揺動規制手段25が設けられている。この上下揺動規制手段25は左右側壁3Aの上部と下部とから内方へ突出した上下揺動規制体25U、25Dを有する。
前記上揺動規制体25Uには支持部14の上面に平坦に形成された当たり面14aが当接可能になっており、前輪26及び前車軸ケース6に対する前フレーム3の過剰な沈み込み(揺動フレーム4の過剰な浮き上がり)を防止している。
【0029】
また、左右一対の下揺動規制体25Dには、前記支持部14の前部に形成した突起部14bが当接可能になっており、前フレーム3の過剰な浮き上がり(揺動フレーム4の過剰な沈み込み)を防止している。
前記当たり面14a及び突起部14bがそれぞれ上下揺動規制体25U、25Dに当接することにより、揺動フレーム4がサスペンション機能時に過大に上昇又は下降しようとするのを規制するだけでなく、サスペンションシリンダ8に過大な引き抜き力又は圧縮力がかかるのを抑制できる。
【0030】
前記揺動フレーム4は左右方向幅が前後方向中途部で細くなっており、前フレーム3の左右側壁3Aとの間にシリンダ配置空間を形成し、左右サスペンションシリンダ8を配置しており、前記後揺動フレーム4Rの前下部に左右方向に突出した連結部4Raが形成されている。
前記左右一対のサスペンションシリンダ8は、シリンダ本体8Aの上端部が水平横軸状の支軸40を介して前フレーム3に枢支連結され、ピストンロッド8Bの下端部が連結ピン41を介して揺動フレーム4の連結部4Raに枢支連結されている。
【0031】
前記連結ピン41はセンタ軸7と上下方向において同一か又は若干低く位置し、左右方向においてセンタ軸7から略等距離の位置で、前後方向においてセンタ軸後部7Rの近傍でステアリングシリンダ34と干渉しないように配置されている。また、連結部4Raはサスペンションシリンダ8にストロークの長いものを適用できるように、後揺動フレーム4Rの下面から下方に突出している。
左右一対のサスペンションシリンダ8は作動油を供給することにより伸縮自在であり、左右同時に伸長させて、揺動フレーム4を前車軸ケース6と共に支持軸5廻りに下方へ揺動(相対的に車体2前部が上昇)させ、左右同時に収縮させて、揺動フレーム4を前車軸ケース6と共に支持軸5廻りに上方に揺動(相対的に車体2前部が下降)させる。
【0032】
また、左右のサスペンションシリンダ8からの作動油の流動をロックすると、揺動フレーム4及び前車軸ケース6は支持軸5廻りの上下揺動がロックされる。
前記左右サスペンションシリンダ8と連通する油圧バルブ21及びアキュムレータ22は、前フレーム3の左右側壁3A間の前部内に配置されている。油圧バルブ21は前フレーム3に固定され、アキュムレータ22は油圧バルブ21の下面側に直付けされ、油圧バルブ21の上面側にサスペンションシリンダ8と連通する油圧配管24が接続されている。この油圧配管24は前記上下揺動規制手段25の上側に配置して、上下動する揺動フレーム4との干渉を回避しておくことが好ましい。
【0033】
前記油圧バルブ21は油圧配管24を介して左右サスペンションシリンダ8への作動油の供給、停止、ロックを行い、アキュムレータ22は左右サスペンションシリンダ8との間の作動油を貯溜し、前車軸ケース6に加わる圃場、路面等からの衝撃や振動を緩衝するサスペンション機能を発揮する。
アキュムレータ22は左右一対のサスペンションシリンダ8のヘッド側に接続されたヘッド側アキュムレータ22Hと、ロッド側に接続されたロッド側アキュムレータ22Lとを有し、前フレーム3の前板3cに装着された保護板38によって前下方から障害物と接触するのを防止されている。
【0034】
前記揺動フレーム4の枢支点である支持軸5は、エンジンEより前方に配置することも可能であるが、ここでは図6に示すように、エンジンEの直下であって、車体2の重心Pの下方でかつ前方に位置している。
トラクタTは、駆動時や制動をかけたときに車体2の重心Pにピッチングモーメントが発生し、車体2の前部が上昇するノーズリフト又は車体2の前部が沈むノーズダイブが発生するようになるが、前記支持軸5は前後方向において、ノーズリフトとノーズダイブとが発生し難い位置に配置されている。
【0035】
即ち、図6において、重心Pの高さ、前輪26と後輪の接地スパン、前輪26分担荷重
又はサスペンションシリンダ8にかかる荷重、後輪分担荷重等を測定し、点Q1は重心Pの高さにおいて、前輪26分担荷重と後輪分担荷重の比で前輪26からの距離を算出して得られた点であり、トラクタTが単体のときのピッチング発生(ノーズリフト、ノーズダイブ)有無の平衡点であり、前輪26の接地点を通って点Q1を結ぶアンチピッチング平衡線Y1より支持軸5は後方に位置し、理論的に駆動時にノーズダイブを、制動時にはノーズリフトを発生しない状態となる。
【0036】
また、点Q2は重心Pの高さにおいて、トラクタTが急制動をかけたときのサスペンションシリンダ8にかかる荷重から算出した前輪分担荷重と後輪分担荷重の比で前輪26からの距離を算出して得られた点であり、トラクタTが急制動をかけたときのピッチング発生有無の平衡点であり、前輪26の接地点と点Q2とを結ぶアンチピッチング平衡線Y2より支持軸5は前方に位置し、理論的に急制動時にはノーズダイブ、ノーズリフトを発生しない状態であり、アンチピッチング平衡線Y2に極めて近い位置である。
支持軸5をアンチピッチング平衡線Y2より後方に配置することもできるが、そのようにすると制動時のノーズダイブが発生しやすくなり、また支持軸5が低位置となり、トラクタTの地上高が採り難くなる、という問題が生じるので好ましくない。また、トラクタTでは過大な制動力が加わることが少ないので、前記アンチピッチング平衡線Y2に近い前側でも、実際的に加えられる中程度の制動力では十分なアンチピッチング状態が得られる。
【0037】
揺動フレーム4の支持軸5を単体時の前後輪分担荷重から算出したアンチピッチング平衡線Y1と急制動時の前後輪分担荷重から算出したアンチピッチング平衡線Y2との角度範囲内に配置することにより、制動をかけたときに大きくノーズリフトやノーズダイブをするのが減少でき、安定的な走行が可能になる。
なお、水平線に対するアンチピッチング平衡線Y1のアンチピッチング角λ1は例えば42〜49°又はその前後角度であり、アンチピッチング平衡線Y2のアンチピッチング角λ2は24〜30°又はその前後角度である。
【0038】
前記揺動フレーム4の支持軸5は、トラクタTの前部に一定重さのウエイトを取り付けた荷重付加状態での点Q3(重心Pの高さにおいて、前輪26分担荷重と後輪分担荷重の比で前輪26からの距離を算出して得られた点)を求め、この点Q3と前輪26の接地点とを通るアンチピッチング平衡線Y3上に位置するように設定されている。水平線に対する支持軸5を通るアンチピッチング平衡線Y3のアンチピッチング角は34〜44°、好ましくは36〜42°に設定することが好ましい。
図1〜6において、前記前フレーム3の外側板3aの外面には略三角ブロック形状の部材を固着して揺動規制部36が外方突出状に設けられ、前車軸ケース6の中央拡大部6aの左右外側部分上面には、略三角ブロック形状の部材を固着又は一体成形して被揺動規制部37が形成されており、これらによって左右揺動規制手段Sが構成されている。
【0039】
前記左右揺動規制手段Sは、前車軸ケース6がセンタ軸7廻りに左右揺動して被揺動規制部37が揺動規制部36に当接することにより、前車軸ケース6の過大な左右揺動を規制する。
前記前フレーム3の左右各揺動規制部36は、下から上へ左右方向外向きに傾斜した傾斜面の受け面36Aを有し、この受け面36Aのセンタ軸7を通る左右水平の面に対する傾斜角度K1は例えば61〜71°前後に設定されている(図3に図示)。
前記前車軸ケース6の左右各被揺動規制部37は、下から上へ左右方向外向きに傾斜した傾斜面の当接面37Aを有し、この当接面37Aのセンタ軸7を通る左右水平の面に対する傾斜角度K2は例えば50〜63°前後に設定されており、受け面36Aの傾斜角度K1が当接面37Aの傾斜角度K2より6〜10°前後大きく設定されている。
【0040】
前記揺動フレーム4の上下揺動、即ち、前車軸ケース6の当接面37Aの上下揺動のストロークは上下中央位置から上下に例えば30〜44mm又はその前後となっており、最下位と最上位では前フレーム3と前車軸ケース6との上下方向の間隔が60〜88mm前後と大きく変化する。
図4において、前車軸ケース6が上下中央位(前フレーム3も上下中央位)にあるとき
に左右揺動すると、6〜8°前後の揺動角度θ1で当接面37Aが受け面36Aと当接する。この上下中央位当接角度θ1を同一にして、当接面37Aと受け面36Aとが水平状態である場合と比較すると、次のようになる。
【0041】
即ち、前車軸ケース6が最上位(前フレーム3が最下位)にあるときに左右揺動すると、3°前後の揺動角度θ2で当接面37Aが受け面36Aと当接する。この最上位当接角度θ2は、当接面37Aと受け面36Aとが水平状態である場合には1°前後であり、それに比して十分大きくなっている。即ち、前フレーム3が低いときは前車軸ケース6の左右揺動を許容する角度範囲を拡大できる。
また、前車軸ケース6が最下位(前フレーム3が最上位)にあるときに左右揺動すると、11〜13°前後の揺動角度θ3で当接面37Aが受け面36Aと当接する。この最下位当接角度θ3は、当接面37Aと受け面36Aとが水平状態である場合には20°前後であり、それに比して十分小さくなっている。即ち、前フレーム3が高いときは前車軸ケース6の左右揺動過多を制限できる。
【0042】
前記当接面37Aと受け面36Aとは、左右方向外向き傾斜しているが故に、センタ軸7廻りの左右揺動方向における両面の隙間は、前フレーム3の上下移動の変化の影響を少なくでき、即ち、前フレーム3の高さ変化度合いよりも前車軸ケース6の左右揺動の制限角度変化の度合いを小さくでき、特に、前フレーム3が最下位にあるときの前車軸ケース6の左右揺動角度を必要角度採ることができる。
前記前車軸ケース6の受け面36Aは、受け最下部位36dから受け最上部位36uまでを連続した傾斜面に形成されており、前記当接面37Aも当接最下部位37dから当接最上部位37uまでを連続した傾斜面に形成されている。
【0043】
前記前車軸ケース6が上下中央位(前フレーム3も上下中央位)にあるとき、当接面37Aの当接最上部位37uが受け面36Aの上下中央部位と当接し、前車軸ケース6が最下位(前フレーム3が最上位)にあるとき、当接面37Aの当接最上部位37uが受け面36Aの受け最下部位36dと当接し、前車軸ケース6が最上位(前フレーム3が最下位)にあるとき、当接面37Aの全面と受け面36Aの全面とが面接触するようになっている。
前記当接面37Aと受け面36Aは、前車軸ケース6が最上位(前フレーム3が最下位)にあるときに当接面37Aの全面と受け面36Aの全面とが面接触すると、大荷重を広い面で受けることができ、前車軸ケース6の左右揺動制限だけでなく、揺動フレーム4の上方揺動の制限もすることができる。
【0044】
なお、本発明は前記実施形態における各部材の形状及びそれぞれの前後・左右・上下の位置関係は、図1〜8に示すように構成することが最良である。しかし、前記実施形態に限定されるものではなく、部材、構成を種々変形したり、組み合わせを変更したりすることもできる。
例えば、横振れ規制手段23は、回転体23Aを前フレーム3にブロックを設けてそのブロックに嵌入し、揺動フレーム4の左右突起部14bを上下に長くして、その突起部14bの端面を回転体23Aに当接するように構成してもよい。
【0045】
前輪26用の左右サスペンションシリンダ8は、前フレーム3と揺動フレーム4との間に設けられているが、前フレーム3と前車軸ケース6との間に設けることもできる。
【符号の説明】
【0046】
1 サスペンション機構
2 車体
3 前フレーム
3A 側壁
3a 外側板
3b 内側板
4 揺動フレーム
4F 前揺動フレーム
4R 後揺動フレーム
5 支持軸
6 前車軸ケース
7 センタ軸
8 サスペンションシリンダ
13 固定部
14 支持部
14a 突起部
23 横振れ規制手段
23A 回転体
23B 当接板
26 前輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(E)から前方へ前フレーム(3)を突設して車体(2)の前部を構成し、この車体(2)の前部に揺動フレーム(4)の後部を左右方向の支持軸(5)廻り上下揺動自在に支持し、前記揺動フレーム(4)に前輪(26)を縣架した前車軸ケース(6)を前後方向のセンタ軸(7)廻り左右揺動自在に支持し、前記前フレーム(3)に前輪(26)用の左右サスペンションシリンダ(8)を設けており、
前記揺動フレーム(4)と前フレーム(3)との間に左右方向の当接により揺動フレーム(4)の左右振れを規制する横振れ規制手段(23)を設けていることを特徴とする走行車両のサスペンション装置。
【請求項2】
前記前フレーム(3)は揺動フレーム(4)を挟んで位置する左右側壁(3A)を有し、前記横振れ規制手段(23)は、揺動フレーム(4)の側面に回転自在に設けられていて前記左右側壁(3A)と当接可能な回転体(23A)を有することを特徴とする請求項1に記載の走行車両のサスペンション装置。
【請求項3】
前記横振れ規制手段(23)は、前記左右側壁(3A)に着脱可能に固定されていて回転体(23A)と当接可能な当接板(23B)を有することを特徴とする請求項2に記載の走行車両のサスペンション装置。
【請求項4】
前記前フレーム(3)内に揺動フレーム(4)の前部を配置し、前記横振れ規制手段(23)を、前記揺動フレーム(4)の前部と前フレーム(3)との間でかつ前フレーム(3)の内側に配置していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の走行車両のサスペンション装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−228632(P2010−228632A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79267(P2009−79267)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】