説明

超電導機器

【課題】大電流が通電される場合でも、磁場による臨界電流の低下を低減できる超電導機器を提供する。
【解決手段】超電導ケーブル(超電導機器)1は、希土類元素を含む酸化物からなる超電導相を基板上に具えた超電導線材を巻回してなる内側超電導層12及び外側超電導層14を具える。内側超電導層12は、通電時、超電導線材に加わる主たる磁場の向きが当該超電導線材の長手方向に平行するように形成された軸方向磁場印加層である。各超電導層12,14を構成する超電導線材の巻回方向は同一方向であり、かつ両超電導層12,14では巻回方向が異なる。内側超電導層12を構成する各超電導線材層のピッチは、外側が内側よりも小さい。この構成により、内側超電導層12を構成する超電導線材には、通電時、軸方向磁場が印加され、平行磁場の印加による臨界電流の低下を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類元素やBiを含む酸化物からなる超電導相を金属内又は基板上に具える超電導線材により形成された超電導層を具える超電導機器に関するものである。特に、大電流が通電される場合でも、高い臨界電流を維持することができる超電導機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超電導線材を巻回してなる超電導層と、この超電導層を冷却する冷媒とを具える超電導機器が開発されつつある。このような超電導機器は、例えば、電気絶縁層の内外に配置される内側超電導層及び外側超電導層を具える超電導ケーブル(特許文献1)、超電導線材からなるコイルを具える超電導モーターや超電導マグネットなどが挙げられる。
【0003】
上記冷媒に液体窒素を利用する高温超電導機器には、Bi2223といったBi(ビスマス)を含む酸化物超電導相からなるフィラメントが銀などの安定化材中に埋設されたBi系超電導線材や、RE123(RE:希土類元素)といった希土類元素を含む酸化物超電導相が基板上に成膜されたRE系超電導線材が利用される。RE系超電導線材は、液体窒素温度における臨界電流密度がBi系超電導線材よりも高いことから、大電流用途に好ましいと期待される。
【0004】
大電流を流す場合、超電導層は、例えば、超電導線材からなる層を複数具えた多層構造とすることが挙げられる。また、一つの超電導層に具える各超電導線材層を構成する超電導線材のピッチは、全ての超電導線材層において等しい形態が挙げられる。特許文献1には、多層構造の超電導層を具える超電導ケーブルに対して、交流損失を低減するために、当該交流損失を生じさせる原因となる超電導導体の軸方向に生じる磁場を低減する構成として、各超電導線材層を構成する超電導線材の巻回方向を超電導線材層ごとに逆にする構成が開示されている。その他、特許文献1には、偏流を抑制するために、一つの超電導層に具える複数の超電導線材層のうち、外側の超電導線材層を構成する超電導線材のピッチを内側の超電導線材層を構成する超電導線材のピッチよりも短くすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09-045150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の超電導機器では、大電流を通電した場合、この通電により生じた磁場が印加されることにより臨界電流が低下するという問題がある。
【0007】
超電導線材に電流を流した場合、その電流値が大きくなるに従い、超電導線材に印加される磁場(通電により生じて印加される磁場。以下、単に印加磁場と呼ぶ)も大きくなる。そして、超電導線材に印加される主たる磁場の向きが当該超電導線材の一側面から他側面に向かう方向である場合(以下、この磁場を平行磁場と呼ぶ)、印加磁場による臨界電流の低下度合いが大きく、例えば、図4に示すように維持率(図4では縦軸に示すIcb/Ic)が低下する。特に、RE超電導線材(図4ではYBCO)は、Bi系超電導線材よりも上記平行磁場による臨界電流の低下度合いが大きく、維持率も大きく低下する。従って、大電流を流す場合には、通電電流値に応じた磁場による低下分を見込んで、所望の臨界電流を満たす超電導層を形成する必要がある。その結果、超電導線材を多くする必要があり、超電導線材の使用量の増加を招く。
【0008】
なお、ここでは、維持率とは、超電導線材における0Tでの臨界電流(自己磁場下における臨界電流):Icに対する、当該超電導線材における印加磁場(ここでは平行磁場)での臨界電流Icbとの比:Icb/Icを言う。
【0009】
例えば、従来の高温超電導ケーブルでは、電流値がせいぜい3kA程度の送電に対応するように設計されている。しかし、更なる電力需要の増加に対応できるように、より大容量、具体的には、電流値が5kA以上、更に10kA以上、とりわけ20kA以上といった大容量の送電が可能な構成が望まれる。
【0010】
上述のような大電流が通電され、この通電電流値に応じた大きな磁場が印加される超電導機器に対して、通電時の磁場による臨界電流の低下を低減できる構成の開発が望まれる。
【0011】
そこで、本発明の目的は、大電流が流された場合でも臨界電流の低下を低減することができる超電導機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、通電時、特許文献1に開示されるように超電導線材に印加される軸方向磁場を低減するのではなく、逆に、軸方向磁場を意図的に発生させて、超電導線材に印加される全磁場が主に超電導線材の長手方向に対して平行になるように超電導層を構成することで、臨界電流の低下を低減できる、との知見を得た。また、本発明者らは、上記臨界電流の低下を低減する効果は、RE系超電導線材を利用した場合に顕著である、との知見も得た。
【0013】
図3は、冷媒(ここでは液体窒素やヘリウムガス)の温度を変化させてRE系超電導線材(ここでは市販のYBCO線材(幅:4.3mm,厚さ:0.21mm))及びBi系超電導線材(ここでは市販のBSCCO線材(幅:4.2mm,厚さ:0.25mm,フィラメント数:139本)の主たる印加磁場を平行磁場、又は軸方向磁場とした場合の臨界電流(A)を示す。図3(I)がRE系超電導線材のグラフ、図3(II)がBi系超電導線材のグラフである。この試験では、各超電導線材のサンプル長:70mm、電圧の端子間距離:14mm〜17mmとして、臨界電流を測定した。
【0014】
図3に示すように、いずれの超電導線材においても冷媒温度が低いほど(冷媒の絶対温度が小さいほど)、臨界電流が大きいことが分かる。また、いずれの超電導線材においても、磁場が大きくなるほど、臨界電流が低下することが分かる。
【0015】
そして、RE系超電導線材では、主たる印加磁場が平行磁場である場合、図3(I)に示すように磁場の増大に伴って臨界電流が大きく低下していることが分かる。例えば、大きさが同じ磁場で比較すると、軸方向磁場における臨界電流と平行磁場における臨界電流との差が大きく、主たる印加磁場が平行磁場である場合、RE系超電導線材では、臨界電流の低下度合いが大きい。また、RE系超電導線材では、上記平行磁場における臨界電流の低下度合いが図3(II)に示すBi系超電導線材よりも大きいことが分かる。しかし、RE系超電導線材及びBi系超電導線材のいずれも、軸方向磁場による臨界電流の低下が少ないこと、特に、RE系超電導線材では、軸方向磁場における臨界電流の低下度合いが小さいことが分かる。
【0016】
本発明は、上記知見に基づくものであり、酸化物からなる超電導相を金属内或いは基板上に具えた超電導線材を巻回してなる超電導層を具える超電導機器に係るものである。この超電導機器は、上記超電導線材に通電したときに当該超電導線材に加わる主たる磁場の向きが当該超電導線材の長手方向に実質的に平行になるように、上記超電導線材が巻回された軸方向磁場印加層を具える。
【0017】
上記構成によれば、後述する試験例に示すように、大電流が通電された場合でも臨界電流の低下を効果的に低減できる。また、臨界電流の低下が少ないことから、例えば、主たる印加磁場が平行磁場となるように形成された超電導機器と同程度の負荷率(超電導機器の臨界電流値に対する通電電流値の割合)を有する超電導機器を構築するにあたり、超電導線材の使用量を低減することができる。即ち、上記構成によれば、主たる超電導導体層となる軸方向磁場印加層に使用する超電導線材の本数を低減できることから、製造コストの低減や超電導機器の小型化をも図ることができる。
【0018】
本発明の一形態として、上記超電導線材は、希土類元素を含む酸化物からなる超電導相を基板上に具える形態が挙げられる。
【0019】
酸化物超電導相を金属内に具える超電導線材として、代表的には、銀や銀合金といった金属安定化材内にBi2Sr2Ca2Cu3O10で表わされるBi2223相といったBi系酸化物超電導相を具える上記Bi系超電導線材が挙げられる。一方、酸化物超電導相を基板上に具える超電導線材として、希土類元素を含むRE系酸化物超電導相が基板上に成膜された上記RE系超電導線材が挙げられる。その他、Bi系酸化物超電導相を基板上に具える超電導線材が挙げられる。本発明超電導機器は、超電導層がBi系超電導線材から構成される形態とすることができる。特に、超電導層がRE系超電導線材から構成される形態では、意図的に軸方向磁場を印加する構成とすることで、上述のように軸方向磁場における臨界電流の低下度合いが小さいことから、大電流が流される用途でも臨界電流の低下を効果的に低減することができる。
【0020】
本発明の一形態として、上記超電導機器が、内側超電導層と、上記内側超電導層の外周に設けられた電気絶縁層と、上記電気絶縁層の外周に設けられた外側超電導層とを具える超電導ケーブルであり、上記内側超電導層が上記軸方向磁場印加層であり、上記各超電導層が上記超電導線材を所定のピッチで、かつ異なる巻回方向で螺旋状に巻回して構成された形態が挙げられる。
【0021】
上述のように超電導ケーブルでは、大電流が通電される用途が望まれている。主たる超電導導体層となる内側超電導層が上記軸方向磁場印加層である上記形態によれば、大電流の通電時、印加磁場による臨界電流の低下が少なく、高い臨界電流を維持することができる。従って、上記形態によれば、上記大容量の送電の要求に十分に対応できる。
【0022】
上記超電導ケーブルにおいて、「内側超電導層を構成する超電導線材に加わる主たる磁場の向きが当該超電導線材の長手方向に実質的に平行になるように上記超電導線材が巻回されている」とは、以下を満たすこととする。
【0023】
上記内側超電導層を構成する上記超電導線材のピッチが、上記螺旋の軸に対する当該超電導線材の配置角度をθw、上記螺旋の軸に対する当該超電導線材に加わる主たる磁場の向きの角度をθmとするとき、上記配置角度θwと上記磁場の角度θmとの差が40°以内となるように設けられている。
【0024】
上記角度差(絶対値):|θw−θm|は、小さいほど好ましく、20°以下、更に10°以下、とりわけ5°以下が好ましく、0°が最も好ましい。配置角度θwは、例えば、超電導線材を巻回する下層の大きさ(外径)やピッチにより変化させることができる。磁場の向きの角度θmは、例えば、当該超電導線材を巻回する下層の大きさ(外径)、内側超電導層が多層の超電導線材層により構成される場合、当該超電導線材層よりも下層を構成する超電導線材層に流れる電流値、当該超電導線材層よりも上層を構成する超電導線材層のピッチや通電電流値により変化させることができる。上記角度差が小さくなるように、例えば、通電電流値に応じてピッチなどを選択するとよい。
【0025】
上記超電導ケーブルにおいて、上記内側超電導層は、上記超電導線材からなる層を多層に積層して設けられ、内側の超電導線材層を構成する超電導線材のピッチよりも外側の超電導線材層を構成する超電導線材のピッチが小さい形態が挙げられる。
【0026】
従来、交流超電導ケーブルでは、超電導導体層として機能する内側超電導層や超電導シールド層として機能する外側超電導層が多層の超電導線材層から構成されている場合、各超電導線材層を構成する超電導線材のピッチをいずれの層も等しくし、かつ巻回方向を交互に逆方向とすることで、軸方向磁場を低減して、交流損失を低減している(特許文献1)。これに対して、上記形態では、内側超電導層と外側超電導層とで超電導線材の巻回方向を逆方向とし、各超電導層に具える各超電導線材層を構成する超電導線材の巻回方向を同じとする。そのため、上記形態では、上述のように内側超電導層の主たる印加磁場が軸方向磁場となる。上記形態によれば、内側超電導層に具える超電導線材層のうち、外側の層のピッチが内側の層よりも小さいことで、各超電導線材層を構成する超電導線材に印加される合成磁場(当該超電導線材に印加される平行磁場と軸方向磁場との合成成分)が超電導線材の長手方向に平行になる。なお、内側超電導層及び外側超電導層を構成する超電導線材層の数は、特に問わない。即ち、各超電導層は、超電導線材層が一つの単層構造でも、上述のように多層構造でもよい。但し、大電流の通電用途には、使用する超電導線材の本数が多くなることから、上記多層構造であると、ケーブル径を小さくできて好ましい。
【0027】
本発明の一形態として、上記超電導機器が直流超電導ケーブルである形態が挙げられる。
【0028】
上述のように5kA以上、更に10kA以上といった大電流の送電を行う場合、超電導線材に交流損失が発生せず、短絡時の電流も小さい直流超電導ケーブルが適している。従って、このような大電流送電に利用される場合には、上述した軸方向磁場印加層を具える直流超電導ケーブルを利用することで、通電時において印加磁場による臨界電流の低下を低減することができる。
【0029】
本発明の一形態として、上記超電導機器が交流超電導ケーブルである形態が挙げられる。
【0030】
上述した軸方向磁場印加層を具える超電導ケーブルは、交流送電にも利用することができる。交流送電は、変圧や遮断が容易であり、線路を構築し易い。
【0031】
本発明の一形態として、上記基板上に具える上記超電導相がCVD法、レーザ蒸着法、及びMOD法から選択される1種により形成された形態が挙げられる。
【0032】
CVD法やレーザ蒸着法は、安定して高特性の超電導相(特に、RE系酸化物超電導相)の成膜が可能であり、臨界電流値が高い線材が得られ易い。一方、MOD(Metal Organic Deposition)法は、Y(イットリウム)といった希土類元素を含んだトリフルオロ酢酸塩(TFA)やアセチルアセトナート塩を出発原料として用いた塩を基板に塗布して仮焼結した後、本焼結によりRE系酸化物超電導相を成膜する方法である。MOD法では、非真空雰囲気でRE系酸化物超電導相を形成可能である上に、比較的短時間で成膜できながら、高い臨界電流密度を有する超電導線材を製造可能である。従って、MOD法を利用することで、長尺なRE系超電導線材を生産性よく製造でき、RE系超電導線材の生産性を高められる。そのため、特に、MOD法により形成された超電導相を具える超電導線材の使用は、超電導機器の生産性を向上することができる。上述のように超電導相の成膜方法を異ならせることで、結晶構造を異ならせることができる。
【0033】
本発明の一形態として、上記軸方向磁場印加層に通電される電流値が10kA以上である形態が挙げられる。
【0034】
通電時の印加磁場による臨界電流の低下度合いが特に大きくなるのは、上述のように通電電流値が5kA以上、特に10kA以上である場合である。従って、上記軸方向磁場印加層を具える本発明超電導機器は、通電電流値が10kA以上である用途に好適に利用することができると期待される。
【発明の効果】
【0035】
本発明超電導機器は、大電流が通電される場合でも、臨界電流の低下が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、実施形態1に係る超電導機器(超電導ケーブル)の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、RE系酸化物超電導相を具える超電導線材の概略構成を示す模式断面図である。
【図3】図3は、種々の冷媒温度において、超電導線材に印加される磁場と臨界電流との関係を示すグラフであり、図3(I)は、RE系超電導線材の例、図3(II)は、Bi系超電導線材の例を示す。
【図4】図4は、RE系超電導線材に印加される磁場と臨界電流の維持率:Icb/Icとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図1,図2を参照して、実施形態1に係る超電導ケーブルを説明する。
≪実施形態1≫
[全体構成]
超電導ケーブル1は、複数心(ここでは3心)のケーブルコア10が撚り合わされて一つの断熱管20に収納された、多心一括型の直流ケーブルである。ケーブルコア10は、超電導線材から構成された内側超電導層12及び外側超電導層14とを具える。超電導線材は、基板121(図2)上に、希土類元素を含む酸化物からなる超電導相122(図2)を具える薄膜線材120である。超電導ケーブル1の特徴とするところは、内側超電導層12を構成する超電導線材に主として印加される磁場が当該超電導線材の長手方向に実質的に平行な磁場(軸方向磁場)である軸方向磁場印加層となっている点にある。以下、各構成をより詳細に説明する。
【0038】
[断熱管]
断熱管20は、内管21と外管22とからなる二重構造管であり、内管21と外管22との間が真空引きされた真空断熱構造である。内管21内には、液体窒素といった冷媒が充填され、この冷媒によりケーブルコア10の内側超電導層12及び外側超電導層14が冷却されて、超電導状態に維持される。内管21と外管22との間には、スーパーインシュレーションといった断熱材23や、両管21,22の間隔を保持するスペーサ(図示せず)が配置される。外管22の外周には、ポリ塩化ビニルといった耐食性に優れる材料を押出して形成した防食層24を具える。
【0039】
[ケーブルコア]
各ケーブルコア10は、中心から順にフォーマ11、内側超電導層12、電気絶縁層13、外側超電導層14、常電導層15、保護層(図示せず)を具える。
【0040】
<フォーマ>
フォーマ11は、内側超電導層12の支持体として機能する他、超電導ケーブル1では、短絡や地絡などの事故時に瞬間的に生じる大きな事故電流を分流するための流路に利用される。フォーマ11には、銅やアルミニウムなどの常電導材料にて形成された中実体や中空体(管体)を利用することができる。ここでは、フォーマ11は、ポリ塩化ビニル(PVC)やエナメルなどの絶縁被覆を具える銅線を複数本撚り合わせて構成された中実体としている。撚り線構造であることで、曲げ特性に優れ、超電導ケーブル1を交流送電に利用する場合、渦電流損を低減できる。
【0041】
上記フォーマ11の外周にクッション層を設けてもよい。クッション層は、例えば、クラフト紙といった絶縁紙や、クラフト紙とプラスチックとを複合した半合成絶縁紙(例えば、PPLP(住友電気工業株式会社 登録商標))からなる絶縁性テープの巻回により形成できる。クッション層を具えることで、内側超電導層12を形成し易い上に、フォーマ11を構成する銅線による内側超電導層12の損傷を防止できる。
【0042】
<内側超電導層、外側超電導層>
内側超電導層12及び外側超電導層14は、薄膜線材120を単層又は多層に螺旋状に巻回することで構成される。1心のケーブルコア10に具える内側超電導層12は往路導体、外側超電導層14は接地されて帰路導体に利用され、1心のケーブルコア10で1回線の直流線路を構築できる。この例に示すように一つの断熱管20に複数心のケーブルコア10を具える場合、複数回線(ここでは、3回線)の直流線路を構築できる。
【0043】
薄膜線材120は、図2に示すように、基板121の上に順に、中間層(図示せず)、超電導相122が形成され、この超電導相122を覆うように安定化層123が形成された積層構造体である。
【0044】
超電導相122は、冷媒として液体窒素を使用可能な高温酸化物超電導相であって、Y,Ho(ホルミウム),Gd(ガドリニウム)といった希土類元素を含むRE系酸化物からなる。RE系酸化物超電導相は、RE123とよばれる(RE)Ba2Cu3Oxが代表的であり、具体的な組成は、YBCO,HoBCO,GdBCOが挙げられる。
【0045】
基板121は、金属材料からなるものが代表的である。特に、磁性材料、とりわけ強磁性体からなる磁性基板であると、上記RE系酸化物超電導相の配向性に優れることから成膜し易く、薄膜線材の製造性に優れる。強磁性体は、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、Ni-W合金といったニッケル合金、珪素鋼、パーマロイ、フェライト、強磁性ステンレス(例、SUS430)といった鉄含有物などが挙げられる。その他、基板121の構成材料には、ハステロイ(登録商標)といった非磁性材料を利用することができる。
【0046】
中間層は、YSZ(イットリア安定化ジルコニア),MgOといった酸化物からなるもの、安定化層123は、銀や銅及びその合金といった常電導材料からなるものが挙げられる。
【0047】
薄膜線材120の製造には、RE系酸化物超電導相を具える超電導線材の製造に利用される公知の製造方法を利用できる。特に、超電導相122の成膜に、MOD法を利用すると、薄膜線材120を生産性よく製造できる。
【0048】
ここでは、内側超電導層12及び外側超電導層14のいずれも、薄膜線材120を螺旋状に巻回して形成された超電導線材層が多層に積層された多層構造である(内側超電導層12:4層、外側超電導層14:3層)。各超電導線材層の層間には、クラフト紙などの絶縁紙を巻回した層間絶縁層125が形成されている。内側超電導層12及び外側超電導層14のいずれも、薄膜線材120からなる部分に加えて層間絶縁層125を含むことを許容する。
【0049】
内側超電導層12を構成する超電導線材の数や超電導線材層の数は、所望の設定電流値(電流容量)に応じて選択できる。また、外側超電導層14を構成する超電導線材の数や超電導線材層の数は、上記内側超電導層12に応じて適宜選択できる。
【0050】
なお、外側超電導層14の上に、銅といった常電導材料からなる金属テープを巻回して、常電導層15を設けることができる。常電導層15は、事故時において事故電流の分流路として機能させることができる。
【0051】
<電気絶縁層>
電気絶縁層13は、上記内側超電導層12の上に、上述したクラフト紙や半合成絶縁紙などの絶縁性テープを巻回することで形成される。内側超電導層12の直上に、カーボン紙や金属化紙などを巻回して内側半導電層を設けたり、上記絶縁性テープの巻回層の直上に、カーボン紙や金属化紙などを巻回して外側半導電層を設けたりすることができる。電気絶縁層13は、上記半導電層を具える形態とすることができる。
【0052】
<保護層>
外側超電導層14(或いは常電導層15)の外周に、外側超電導層14を機械的に保護するための保護層を具える。保護層は、上述したクラフト紙や半合成絶縁紙、布テープなどの絶縁性テープを巻回することで形成することができる。また、保護層は、ケーブルコア10が常電導層15を具える場合、常電導層15と断熱管20(内管21)との間の絶縁層としても機能する。
【0053】
<軸方向磁場印加層>
そして、内側超電導層12及び外側超電導層14は、通電時、内側超電導層12を構成する超電導線材に主として印加される磁場の向きが当該超電導線材の長手方向に実質的に平行になるように、即ち、主たる印加磁場が軸方向磁場となるように設けられている。即ち、内側超電導層12は、軸方向磁場印加層である。
【0054】
より具体的には、内側超電導層12を構成する各超電導線材層の巻回方向が全て同一方向であり、外側超電導層14を構成する各超電導線材層の巻回方向が全て同一方向である。かつ、内側超電導層12の巻回方向と外側超電導層14の巻回方向とが異なっている(逆方向である)。また、内側超電導層12を構成する各超電導線材層において外側(電気絶縁層13側)に位置する超電導線材層を構成する超電導線材のピッチが、内側(フォーマ11側)に位置する超電導線材層を構成する超電導線材のピッチよりも短い。ここでは、内側超電導層12の内側から外側に向かって順次ピッチが短い。また、外側超電導層14を構成する各超電導線材層のピッチは等しく、かつできる限り小さい方が好ましい。より具体的には、外側超電導層14を構成する各超電導線材層のピッチは、内側超電導層12を構成する最外側の超電導線材層のピッチと同程度ぐらいが好ましい。
【0055】
[試験例]
実施形態1の超電導ケーブルに大電流(ここでは10kA)を通電したときの臨界電流の維持率をシミュレーションにより調べた。この試験の対象とした、実施形態1の超電導ケーブルの仕様を表1に示す。
【0056】
比較として、内側超電導層を構成する超電導線材の主たる印加磁場が平行磁場(図2に示す超電導線材において、磁場の向きが左右方向である磁場)となるように構成した超電導ケーブルを用意した。比較の超電導ケーブルの仕様を表2に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
表1,表2に示すいずれの超電導ケーブルにおいても、超電導線材は厚さ:0.15mm、幅:4mm、臨界電流Icw:300AのRE系超電導線材(ここではYBCO)、層間絶縁層は厚さ:0.15mmのクラフト紙、各半導電層はカーボン紙や金属化紙を利用して層構造とした場合を想定している。表1,表2では、電気絶縁層の大きさは、外側半導電層の最外層の外径を代表して示す。
【0060】
そして、この試験では、通電電流値(直流):Iallを10kA(10,000A)とした場合の平行磁場:Br、軸方向磁場:Ba、合成磁場:B、各超電導線材層の臨界電流値:Ic=n×Icw(但し、nは当該超電導線材層を構成する超電導線材の本数)、各超電導線材層の通電電流値:Iop=Iall/(各超電導層を構成する超電導線材層の層数)、通電時に発生する磁場を考慮した各超電導線材層の臨界電流値:Icb、各超電導線材層を構成する超電導線材において螺旋の軸(ここでは、超電導ケーブルの軸に等しい)に対する当該超電導線材の配置角度θw及び上記螺旋の軸に対する当該超電導線材に加わる主たる磁場の向きの角度θmをそれぞれ演算により求めた。その結果を表3,表4に示す。
【0061】
表3,表4に示す各パラメータは、Brを各超電導線材層の外層に発生する径方向磁場(平行磁場)、Baを各超電導線材層の内層に発生する軸方向磁場、真空の透磁率μ0を4π×10−7として、以下のようにして求めた。
平行磁場Br:(当該超電導線材層及びその下層に存在する全ての超電導線材層のIopの総和)/[(当該超電導線材層の直下層の外径)×π]
軸方向磁場Ba:当該超電導線材層及びその上層に存在する各超電導線材層に対して、μ0×{(各超電導線材層のIop)/(各超電導線材層のピッチ)}の総和
合成磁場B:{(Br)2+(Ba)2}1/2
臨界電流値Icb:各超電導線材層のIcに対して、通電時に発生する合成磁場Bが印加された場合の臨界電流の維持率を図4に示すデータ(YBCO,77K)から算出することにより求めた臨界電流値。なお、実施形態1の超電導ケーブルの内側超電導層では、軸方向磁場に対するIcb/Ic特性からIcbを求め、比較の超電導ケーブルの内側超電導層では、平行方向磁場に対するIcb/Ic特性からIcbを求めた。
線材の配置角度θw:arctan{π×(当該超電導線材層の直下層の外径)/(当該超電導線材層のピッチ)}/(180°/π)
磁場の角度θm:arctan{(平行磁場Br)/(軸方向磁場Ba)}/(180°/π)
【0062】
この試験では、比較の超電導ケーブルを基本とし、比較の超電導ケーブルの負荷率と同程度の負荷率となるように、実施形態1の超電導ケーブルを設計した。また、比較の超電導ケーブルの外側超電導層を構成する超電導線材の本数と同程度となるように、実施形態1の超電導ケーブルの外側超電導層を設計した。
【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
【表5】

【0066】
表3に示すように内側超電導層及び外側超電導層を構成する各超電導線材層の巻回方向や内側超電導層を構成する各超電導線材層のピッチを調整することで、内側超電導層を構成する超電導線材に主として印加される磁場の向きが異なることが分かる。具体的には、比較の超電導ケーブルでは、内側超電導層の主たる印加磁場が平行磁場Brであるのに対し、実施形態1の超電導ケーブルでは、軸方向磁場Baであることが分かる。
【0067】
より具体的には、内側超電導層を構成する各超電導線材の配置角度θwと、当該超電導線材に主として印加される磁場の角度θmとの差が40°以内と非常に小さいことが分かる。特に、比較の超電導ケーブルでは、上記角度差:(θw−θm)が大きく、絶対値で70°以上であるのに対し、実施形態1の超電導ケーブルでは、上記角度差:(θw−θm)が絶対値で1°以下であり、実質的に0°であると言える。即ち、実施形態1の超電導ケーブルでは、内側超電導層を構成する各超電導線材に主として印加される磁場の向きが、当該超電導線材の長手方向に実質的に平行になっていると言える。
【0068】
この試験例で作製した実施形態1の超電導ケーブル及び比較の超電導ケーブルの内側超電導層について、超電導線材の使用数(本)、超電導線材の臨界電流値Icwの総和:Itotal、通電時の磁場を考慮した臨界電流値Icbの総和:Ireal、負荷率、臨界電流の維持率を表5に示す。表5に示すように、内側超電導層を構成する各超電導線材の主たる印加磁場の向きが、当該超電導線材の長手方向に実質的に平行になっている実施形態1の超電導ケーブルは、内側超電導層の臨界電流の維持率(ここでは、上記Icwの総和Itotalに対する上記Icbの総和Irealの割合:Itotal/Ireal)が向上していることが分かる。即ち、実施形態1の超電導ケーブルは、10kA以上といった大電流が通電された場合でも、臨界電流Icの低下を低減できると言える。
【0069】
なお、実施形態1の超電導ケーブルの設計にあたり、外側超電導層を構成する超電導線材に印加される主たる磁場の向きは、特に問わない。また、実施形態1の超電導ケーブルの設計にあたり、外側超電導層を構成する超電導線材の本数も、内側超電導層と同様に少なくすることもできる。この場合、外側超電導層を構成する超電導線材層の層数を少なくしてもよい。
【0070】
[効果]
上記超電導ケーブル1は、内側超電導層12を構成する超電導線材の主たる印加磁場が平行磁場ではなく、軸方向磁場であることで、上記試験例に示すように、5kA以上、更に10kA以上といった大電流が流された場合でも、臨界電流の低下を抑制し、臨界電流の維持率を高く保持することができる。また、上記試験例の比較の超電導ケーブルのような主たる印加磁場が平行磁場である超電導ケーブルと同程度の負荷率の超電導ケーブルを得る場合、内側超電導層12が軸方向磁場印加層である形態とすることで、内側超電導層12に使用する超電導線材の本数を低減することができる。
【0071】
≪実施形態2≫
上記実施形態1では、直流超電導ケーブルの形態を説明したが、内側超電導層が軸方向磁場印加層である別の超電導機器として、例えば、交流超電導ケーブルが挙げられる。この形態では、内側超電導層を超電導導体層、外側超電導層を超電導シールド層に利用するとよい。
【0072】
≪実施形態3≫
上記実施形態1では、内側超電導層12及び外側超電導層14の双方が多層の超電導線材層により構成された形態を説明した。その他、いずれの超電導層も単層の超電導線材層により構成された形態とすることができる。この場合、内側超電導層を構成する超電導線材に印加される主たる磁場の向きが、当該超電導線材の長手方向に実質的に平行になるようにするには、(1)当該超電導線材の巻回方向と外側超電導層を構成する超電導線材の巻回方向とを異ならせる、(2)Pin×Pout=(π×din)2を満たすピッチ構成にする(Pin及びPoutは、内側超電導層及び外側超電導層のピッチ、dinは内側超電導層の直径とする)、とよい。但し、上述した実施形態1のように、両超電導層とも多層構造の超電導線材層により構成された形態であると、ケーブル径を小さくし易い。
【0073】
≪実施形態4≫
上記実施形態1では、多心一括型の形態を説明したが、1心のケーブルコアを一つの断熱管に収納した単心型、2心又は4心以上の複数心のケーブルコアを一つの断熱管に収納した多心一括型とすることができる。一つの断熱管に収納されるケーブルコアの数は特に問わない。実施形態1を含む多心一括型の形態では、複数心のケーブルコアを尤度を持って撚り合せることで、ケーブルコアの構成部材が冷媒により冷却されて熱収縮するとき、この収縮の吸収代を確保できる。
【0074】
≪実施形態5≫
上記実施形態1では、超電導線材として、RE系超電導線材を用いた形態を説明したが、超電導線材として、Bi2223といったBi系酸化物超電導相を金属内に具えるBi系超電導線材、例えば、DI-BSCCO(住友電気工業株式会社の登録商標)を利用することができる。この場合、図3(II)に示すように、通電電流値が大きく磁場が大きい場合、具体的には磁場が1T以上といった場合では、超電導線材に主として加わる磁場が平行磁場であるときの臨界電流(白抜き図形)に対して、軸方向磁場であるときの臨界電流(黒塗り図形)が1割〜2割程度大きいことが分かる。従って、Bi系超電導線材を利用した場合も、軸方向磁場印加層を具える形態とすることで、大電流が流される用途であっても、臨界電流の低下を抑制し、臨界電流の維持率を高く保持することができる。
【0075】
上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、超電導相の形成方法、各超電導層に具える超電導線材層の数、各超電導線材層を構成する超電導線材の大きさ、ピッチ、巻回方向などを適宜変更することができる。また、上述の軸方向磁場印加層を超電導コイルに構成することで、本発明超電導機器の別の形態として、超電導モーターや超電導マグネットへの利用が期待される。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明超電導機器は、大電流、特に5kA以上、更に10kA以上の電流が通電される用途に好適に利用することができる。特に、本発明超電導機器が直流超電導ケーブルである場合、大容量の送電線路の構成部材に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0077】
1 超電導ケーブル
10 ケーブルコア 11 フォーマ 12 内側超電導層 13 電気絶縁層
14 外側超電導層 15 常電導層
20 断熱管 21 内管 22 外管 23 断熱材 24 防食層
120 薄膜線材 121 基板 122 超電導相 123 安定化層
125 層間絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物からなる超電導相を金属内或いは基板上に具えた超電導線材を巻回してなる超電導層を具える超電導機器であって、
前記超電導線材に通電したときに当該超電導線材に加わる主たる磁場の向きが当該超電導線材の長手方向に実質的に平行になるように前記超電導線材が巻回された軸方向磁場印加層を具えることを特徴とする超電導機器。
【請求項2】
前記超電導線材は、希土類元素を含む酸化物からなる超電導相を基板上に具えることを特徴とする請求項1に記載の超電導機器。
【請求項3】
前記超電導機器は、内側超電導層と、前記内側超電導層の外周に設けられた電気絶縁層と、前記電気絶縁層の外周に設けられた外側超電導層とを具える超電導ケーブルであり、
前記内側超電導層は、前記軸方向磁場印加層であり、
前記各超電導層は、前記超電導線材を所定のピッチで、かつ異なる巻回方向で螺旋状に巻回して構成され、
前記内側超電導層を構成する前記超電導線材のピッチは、前記螺旋の軸に対する当該超電導線材の配置角度をθw、前記螺旋の軸に対する当該超電導線材に加わる主たる磁場の角度をθmとするとき、前記配置角度θwと前記磁場の角度θmとの差が40°以内となるように設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の超電導機器。
【請求項4】
前記内側超電導層は、前記超電導線材からなる層を多層に積層して設けられ、内側の超電導線材層を構成する超電導線材のピッチよりも外側の超電導線材層を構成する超電導線材のピッチが小さいことを特徴とする請求項3に記載の超電導機器。
【請求項5】
前記基板上に具える前記超電導相は、CVD法、レーザ蒸着法、及びMOD法から選択される1種により形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の超電導機器。
【請求項6】
前記超電導機器は、直流超電導ケーブルであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の超電導機器。
【請求項7】
前記超電導機器は、交流超電導ケーブルであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の超電導機器。
【請求項8】
前記軸方向磁場印加層に通電される電流値が10kA以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の超電導機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−38476(P2012−38476A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175750(P2010−175750)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】