説明

超音波診断装置及び超音波信号処理装置

【課題】 生体内の腫瘍などの構造物、例えば肝血管腫の構造を診断するために有効な固有の機能を有する超音波診断装置等を提供すること。
【解決手段】 生体内の腫瘍等の構造物に対して、比較的強い機械的指標による超音波を断続的に標的に送信、又は機械的指標を周期的に変化させた超音波を標的に送信することで、当該構造物を力学的に運動させる。発生した運動は、例えばBモード画像における輝度テクスチャ情報の揺らぎ現象等として観察することができる。また、構造物の運動に関するMモード静止画像を利用して、所定位置の所定時間領域に関する信号変化量等に基づく評価指標を計算し、これを所定の形態で観察者に提示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内の腫瘍などの構造物、特に肝血管腫と肝癌などを鑑別するために、画像構成用のための超音波照射とは別に、局所的に機械的作用を加え、その運動を確認しやすくするための手法、及びMモード画像を利用して上記運動の定量的評価を実現可能な超音波診断装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は生体内情報の画像を表示する診断装置であり、X線やCT診断装置などの他の画像診断装置に比べ、安価で被爆が無く、非侵襲性に実時間で観測するための有用な装置として利用されている。超音波診断装置の適用範囲は広く、心臓などの循環器から肝臓、腎臓などの腹部、抹消血管、産婦人科、脳血管などに適用されている。
【0003】
腹部領域の例とした超音波診断を簡単に述べると、次の様である。すなわち、仮に検査中において腫瘍が発見された場合、それが悪性か良性かを鑑別し、経過観察か治療か、治療であればどのような治療を行うのかを決定しなければならない。肝臓を例にとって見れば、肝血管腫は良性の肝腫瘍であるが、造影剤を用いない通常の超音波診断装置で悪性の肝癌との鑑別が必ずしも容易でない場合がある。これに対し、造影CTや造影超音波による検査があるが、両者とも侵襲性が高くなること、加えて前者はX線の被爆の問題が発生し、後者は手技が複雑で検査に人員をさかなければならなくなる。また、MRIを用いた検査があるが、必ずしも全ての施設が所有しているわけではなく、検査の順番待ちも長いなどの問題もあり、早期検査の対応が困難である。このような背景を考慮すれば、造影剤を用いない通常の超音波診断検査で腫瘍の鑑別が出来ることが、医師にとっても患者にとっても望ましい。
【0004】
一方、近年の臨床的研究により、肝血管腫はその内部構造から、超音波診断装置肝のBモードの低エコー部で揺らいで観察されることが多いと報告されている(例えば、非特許文献1参照)。ここで「揺らぎ」とは、Bモードの輝度テクスチャ情報、すなわちスペックルパタンが、数秒間の間に徐々に変化するという現象を指す。この機序としては、血管腫は血管内皮細胞の増殖、および血液が充満している性状であるので、その非常に遅い血液の流動か、もしくは内皮細胞の変動等の運動であると考えられている。いずれにせよ、この血管腫の運動に起因する現象を確認することによって、通常の超音波診断装置でも肝血管腫と肝癌との鑑別の可能性が示されている。
【0005】
また、臨床検査においては、診断情報を履歴として記録することが必要である。現在、上述の現象を記録するためには、動画像を用いる手段が考えられるが、ここでいくつかの新たな課題が提示できる。
【0006】
第1に、動画像はビデオテープなどを介する必要が生じ、再確認時に煩雑さを伴う。また電子動画ファイルという手段もあるが、静止画像に比べ、記録容量が増大する傾向がある上、依然としてカルテに添付できない問題も生じる。
【0007】
第2に、上記現象は数秒間に渡る緩やかな変化であり、動画像であっても注意して見なくては、現象を見落としてしまう危険性がある。このため、この現象を顕著に示唆する表現方法が望まれる。また画像から診断する場合に一般的にいえる事項であるが、客観的、定量性な記録を残せることが望ましい。
【非特許文献1】(日本超音波医学会第76回学術集会 2003.05.08〜11、76-C108「肝血管腫の揺らぎ現象(fluttering signal)の検討」東京医科大学 荒島ら)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、生体内の腫瘍などの構造物、例えば肝血管腫の構造等を診断するために有効な固有の機能を有する超音波診断装置又は超音波信号処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するため、次のような手段を講じている。
【0010】
本発明の第1の視点は、被検体の所定部位に対し超音波を送信し、当該所定部位からのエコー信号を受信する超音波プローブと、前記超音波プローブを駆動するための駆動信号を発生し、当該駆動信号を前記超音波プローブに供給する駆動信号発生手段と、前記所定部位を運動させるための第1の超音波と、前記所定部位の運動を画像化するための第2の超音波とが前記超音波プローブから送信されるように、前記駆動信号発生手段を制御する制御手段と、前記超音波プローブによって受信される前記第2の超音波のエコー信号に基づいて、前記所定部位の運動を表す画像を生成する画像生成手段と、を具備することを特徴とする超音波診断装置である。
【0011】
本発明の第2の視点は、被検体の所定部位の運動を診断するための超音波画像を記憶する記憶手段と、前記超音波画像に基づいて、前記所定部位の運動を定量的に評価するための評価指標を計算する計算手段と、を具備することを特徴とする超音波信号処理装置である。
【発明の効果】
【0012】
以上本発明によれば、生体内の腫瘍などの構造物、例えば肝血管腫の構造等を診断するために有効な固有の機能を有する超音波診断装置又は超音波信号処理装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0014】
図1は、本実施形態に係る超音波診断装置10のブロック図である。本超音波診断装置10は、超音波プローブ12、装置本体11、装置本体11に接続されオペレータからの各種指示・命令・情報を装置本体11にとりこむための外部入力装置13、装置本体11により作成された画像を表示するための外部表示装置であるモニター14とから構成される。入力装置13には、関心領域(ROI)や後述する時間領域等の設定などを行うためのトラックボール13aやスイッチ13b等が設けられる。
【0015】
超音波プローブ12は、圧電セラミック等の音響/電気可逆的変換素子としての圧電振動子を有する。複数の圧電振動子は並列され、プローブ12の先端に装備される。
【0016】
装置本体11は制御プロセッサ(CPU)25をシステム全体の制御中枢として、他のユニットや内部記憶装置26や記憶部30とバスで接続されている。なお、記憶部30は、画像メモリ27、ソフトウェア格納部28、インタフェース部29等で構成されている。プローブ12には超音波送受信ユニット21が接続される。超音波送受信ユニット21は、制御プロセッサ25により内部記憶装置26に記憶されている送受信条件を読み込み、送受信条件に従ってパルスを発生する。超音波送受信ユニット21では、超音波をビーム状に集束し且つ送信指向性を決定するのに必要な遅延時間を各レートパルスに与え、レートパルスを受けたタイミングでプローブ12にチャンネル毎に電圧パルスを印加する。これにより超音波ビームが被検体に送信される。
【0017】
ここで、本超音波診断装置では、通常の画像生成のための超音波送信とは異なり、腫瘍などの構造物の変化(位置の変動や血液の流動その他の構造物の運動)を強調するような超音波送信を実行する。この送信音圧や周波数を周期的または不規則に変化させるなどの機械的作用を加えるために、ユーザーの入力装置13またはその他インタフェース部29から入力されるモード選択、ROI設定、時間領域設定、送信開始・終了等に基づき、内部記憶装置26に記憶された送受信条件と装置制御プログラムを読み出し、制御プロセッサ25により、送受信ユニット21が制御される。
【0018】
一方、通常の画像生成のための被検体内に照射された超音波ビームは、被検体内の音響インピーダンスの不連続面で反射し、その反射波がプローブ12で受信される。プローブ12からチャンネル毎に出力されるエコー信号は、送受信ユニット21に取り込まれる。エコー信号は、送受信ユニット21内でチャンネル毎に増幅され、受信指向性を決定するのに必要な遅延時間を与えられ、加算される。この加算により受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調される。この送信指向性と受信指向性とにより超音波送受信の総合的な指向性が決定される。この指向性を走査線と称する。
【0019】
送受信ユニット21から出力されるエコー信号は、Bモード処理ユニット22と、ドプラ処理ユニット23に送られる。Bモード処理ユニット22は、図示しないが、対数変換器、包絡線検波回路、アナログディジタルコンバータ(A/D)から構成される。対数変換器は、エコー信号を対数変換する。包絡線検波回路は対数変換器からの出力信号の包絡線を検波する。この検波信号はアナログディジタルコンバータを介してディジタル化され、検波データとして出力される。出力された検波データは後段の画像生成回路24にて、フレーム相関、座標変換などの空間的分布情報に演算される。画像生成回路24は、画像メモリ27に接続され、画像生成回路24で扱うデータを記憶するために具備される。
【0020】
ドプラ処理ユニット23は、周波数解析によりその解析結果や、フィルタを用いて血流成分を抽出し平均速度、分散、パワー等の血流情報を多点について求める。求めた血流情報は、画像生成回路24に送られ、平均速度画像、分散画像、パワー画像、これらの組み合わせ画像を作成する。作成した画像情報はモニター14に送られ、カラー表示される。
【0021】
肝血管種の運動の定量的評価のための各演算処理は、前記画像メモリ27に記憶されたデータに基づき、ソフトウェア格納部28から読み出されたプログラムを用いて、制御プロセッサ25であるホストCPUあるいはローカルCPUにてソフトウェアにて処理される。演算のためのROI範囲の指定や評価方式の選択、開始等は、入力装置13やその他インタフェース部29により、ユーザーが入力し、制御プロセッサ25により処理される。演算された評価結果は、バスを介して再び画像メモリ27に記憶され、画像生成回路24に送られる。画像生成回路24において、演算結果をグラフやマップに対応して色付けし、目的の画像と合成処理を行う。最終的に作成された画像は、モニター14に送られ、表示される。
【0022】
なお、入力装置13またはその他インタフェース部29には、モード遷移用スイッチや画質調整用スイッチや画像保存スイッチなどのうち計測開始スイッチなど目的に応じて種々用意されているが、肝血管種の構造に起因する“揺らぎ現象”を強調するための超音波照射を行うために必要な選択、開始、終了スイッチ(SW)や、定量化のための計測開始SWも用意されている。
【0023】
(生体内腫瘍等の構造物の運動を発生させるための超音波送信機能)
次に、本超音波診断装置10が有する、生体内腫瘍等の構造物の運動を発生させるための超音波送信機能について説明する。この機能は、生体内の腫瘍等の構造物に対して所定の制御に基づく超音波を送信し当該構造物を力学的に運動させることで、超音波画像における輝度テクスチャ情報(スペックルパタン)の揺らぎ現象等を積極的に発生させる(より強調させる)ものである。以下、説明を具体的にするため、対象とする生体内の構造物が肝血管種である場合を例とする。また、画像化のための超音波送信を「第1種の超音波送信」、肝血管種内の構造物に変位を発生させるための超音波送信を「第2種の超音波送信」と呼ぶことにする。
【0024】
第2種の超音波送信は、代表的な二つのパターンに従って実行される。第1のパターンは、比較的強い機械的指標(Mechanical Index)による超音波を断続的(間歇的)に標的に送信する送信パターンである。第2のパターンは、機械的指標を周期的に変化させた超音波を標的に送信する送信パターンである。ここで、機械的指標は、送信音圧、送信周波数によって制御される。
【0025】
なお、第2種の超音波送信パターンは、上記二つに限定する趣旨ではなく、例えば、第1のパターンと第2のパターンとの組み合わせや、その他の超音波画像における肝血管種内の構造物の変位を積極的に発生させる送信パターンであれば、どのようなものであってもよい。本実施形態においては、説明を具体的にするため、上記第1又は第2のパターンを採用するものとする。
【0026】
各パターンに従う送信超音波の音圧、周波数、波数、送信間隔、音圧変化の周期等は、各種パラメータの複数の組み合わせ(送信パラメータパターン)によって予め登録されている。操作者は、第2種の超音波送信を含む撮影シーケンスを実行する場合には、予め登録され内部記憶装置26に記憶された複数の送信パラメータパターンの中から所望のものを選択し設定することで、そのパターンに従う第2種の超音波送信を実行することができる。また、必要に応じて、例えば図3に示すような設定画面により、各パラメータについて所望の値をマニュアル設定することも可能である。この様にマニュアル設定された送信パラメータパターンは、内部記憶装置26に自動的に登録される。
【0027】
なお、第2のパターンに従う超音波送信を行う場合には、後述する評価指標等に基づいて、揺らぎが最も強調されるように周期が自動的に最適化されることが好ましい。この最適化は、例えば画像上の輝度変化の割合に基づいて周期を制御することで、実現することができる。また、第2のパターンの周期については、十数秒、数秒の周期から、数百Msecなどの範囲におよぶものとする。
【0028】
第2種の超音波送信は、標的となる腫瘍部位を焦点として実行される。この焦点位置の設定は、例えば次の様な手順によって実行される。
【0029】
すなわち、まず、操作者は、映像化のためとは別に、“揺らぎ現象”を強調させるような第2の超音波送信を含む撮影シーケンスの開始操作を実行する。
【0030】
次に、操作者は、図2に示すように、腫瘍部位を含む領域を描出する超音波画像をモニター14に表示し、モニター14の画面上に疑似表示された走査線LとゲートG(送信超音波の焦点位置を決定するもの)を、トラックボール13aなどにより標的まで移動させ、設定する。また、設定後、標的となる腫瘍内の変動が疑似表示された走査線やゲートによって見えなくならないように、スイッチ13bやトラックボール13aからの操作によりゲートGの幅を変更させ、走査線Lに沿ってゲート位置を移動させる。
【0031】
この様に設定された標的(腫瘍部位)に対して、所定の操作をトリガとして第2種の超音波送信が実行される。送信パターンは、所定の操作により、任意のタイミングで別のパターンに切り替えることができる。
【0032】
第2種の超音波送信においては、腫瘍部位以外の領域は、診断にあまり寄与しない場合がある。従って、当該領域については、必ずしも第2種の超音波送信を行う必要はなく、例えば、所定の音圧による背景のBモードを構成するための超音波送信を実行する構成、或いは超音波送信を実行しない構成であってもよい。特に、第2種の超音波送信を実行する領域とそれ以外の領域(背景領域)とで超音波送信条件や送信の実行/不実行を区別する場合には、背景用についての送信条件等を決定するための専用のI/Fを具備する構成であってもよい。
【0033】
第2種の超音波送信によって発生した腫瘍部位の運動は、その後に実行される第1種の超音波送信によって得られるエコー信号により、映像化される。この腫瘍部位の運動を映像化するための第1種の超音波送信は、通常の映像化に従う送信条件によって実行される。当該第1種の超音波送信によって得られるエコー信号に基づいて、例えばBモード画像を複数フレーム生成し連続的に表示することで、腫瘍部位の運動を、各Bモード画像のスペックルパタンが徐々に変化する現象(すなわち「揺らぎ現象」)として観察することができる。
【0034】
なお、肝血管種の運動の観察は、Mモード画像を利用するものであってもよい。また、Mモード画像を利用する場合には、当該Mモード画像は、図2に示されたゲートGのエリアの大きさに対応して拡大表示されることが好ましい
また、同運動をMモード画像によって観察する場合には、腫瘍部位を標的とする走査線上のみに第2種の超音波送信を実行する構成であってもよい。係る構成において第2種の超音波送信を断続的に実行(すなわち、第1のパターンに従って実行)する場合には、装置による自動制御の他に、マニュアル操作によって第2種の超音波送信を任意のタイミングでON/OFFするようにしてもよい。
【0035】
(肝血管種運動の定量的評価機能)
次に、本超音波診断装置10が有する肝血管種運動の定量的評価機能について説明する。本機能による定量的評価は、Mモード静止画像を利用して後述するいずれかの評価指標を計算し、これを所定の形態にて表示することで実行される。
【0036】
図4は、本定量的評価において利用される、Mモード静止画像上で定義される座標系の一例を示した図である。同図において、縦軸座標n(0≦n≦N−1)は、ゲートG内の各位置を、横軸座標m(0≦m≦M−1)は各時刻をそれぞれ示している。本定量的評価を実行する場合には、まず、図4に示したMモード静止画像上の座標系において、評価対象となる時間領域が設定される。
【0037】
すなわち、操作者により、定量的評価を開始するための所定の操作が実行されると、Mモード画像上に図5に示すような始点直線Tsが時間軸に垂直に表示される。この始点直線Tsは、評価範囲の始点時刻を指定するためのものである。操作者は、Mモード画像上において、腫瘍辺縁あるいはその周りの臓器(ここでは肝臓)が静止している時間領域を確認し、当該時間領域の始点時刻に始点直線Tsをトラックボールなどの外部入力キーにより移動させ、移動後の位置に始点直線Tsを設定するための所定の操作を実行する。
【0038】
始点時刻に対応する始点直線Tsが設定されると、引き続き評価範囲の終点時刻を指定するための終点直線Teが、図6に示すように出現する。操作者は、同様の操作を実行し、図7に示すように、腫瘍辺縁等が静止している時間領域の終点時刻に始点直線Tsを設定する。
【0039】
評価対象となる時間領域が設定されると、当該領域について、次の様な定量的評価が実行される。
【0040】
一般に、Mモードの縦軸はBモード上で設定したMモードサンプルライン上の位置を示し、横軸は観察のための経過時間を示す。今、位置を示す縦軸の標本点位置n (0≦n≦N-1)、経過時刻を示す横軸の評価のために指定された時間領域標本点位置m (0≦M≦M-1)における輝度あるいは信号値をfm,n とする。この信号値fm,nを用いて評価指標を計算し、肝血管種の運動を定量的に評価する。
【0041】
具体的な評価指標としては、例えば次に示すものを採用することができる。
【数1】

【0042】
上記(1)、(2)は、縦軸の位置n(0≦n≦N−1)における時間軸方向への輝度または信号強度の変動量を示す評価指標である。
【0043】
また、m(0≦m≦M−1)のうち、特定の位置M0の輝度または信号強度のfmo,n
を規準とする評価指標(3)、(4)を採用することもできる。
【数2】

【0044】
また、縦軸の位置n(0≦n≦N−1)における時間軸方向への輝度または信号強度の変動量を示す評価指標として、下記に示した一般に知られるFFTを用いて解析し、その結果を後述するグラフ等にて表示する。あるいは、血流の移動に基づくと予想される“揺らぎ現象”の速度成分を対象としてバンドパスフィルタ(BPF)で抽出したものを後述するグラフ等にて表示する。
【数3】

【0045】
ここで、H(k)はバンドパスフィルタ係数であり、ユーザーが抽出したいと考える帯域を指定することができる。また、操作性向上の観点から、事前に登録されているバンドパスフィルタ係数を、所定の操作によって選択し設定する構成であってもよい。
【0046】
また、縦軸の任意の位置に基準として固定される第1の位置s(0≦s≦N−1)における時間軸方向への輝度または信号強度の関数と、縦軸上の任意の位置に移動する第2の位置r(0≦r≦N−1)における時間軸方向への輝度または信号強度の関数との類似度を示す評価式として下式を評価する。
【数4】

【0047】
ここで、Fm,tは、縦軸位置tの軸上において、時間方向の平均値で規格化された式(a)によって求められるもの、或いは時間方向の最大値fMAX,tで規格化された式(b)によって求められるものである。(なお、fMAX,t = (f0,t,f1,t,f2,t,f3,t,・・・, fm-1,t) max()は()内より最大値を選択する関数である。)
【数5】

【0048】
上記第1の位置は、例えば次の様な操作によって所望の位置に設定される。すなわち、評価対象となる時間領域を設定した後、図8に示すような第1の位置を設定するためのポインタPや、時間軸に平行な直線が表示される。操作者は、トラックボール13aなどの外部入力装置により、現れた直線またはポインタPを所望の位置まで移動させ、所定の操作を行うことにより第1の位置を設定する。第1の位置設定後は、評価対象となる時間領域について、上記(6)、(7)の評価指標計算が実行され、その結果が後述するような数値、グラフ、またはマップ等の所定の形態にて表示される。
【0049】
なお、各評価指標の計算式は事前に設定されており、「評価選択」スイッチを押すことで切り換えることができる。また、切り換えとほぼ同時に指定された評価式で演算を直ちに実行して表示を更新しても良いし、切り換え後、「アップデート」スイッチを押してから演算式を実行しても良く、事前にユーザーがプリセットなどの事前設定画面で設定ができる。
【0050】
以上述べた定量的評価のための評価指標計算は、超音波診断装置の計測機能のひとつに位置付けられ、指定したシネメモリにおける輝度または信号強度の情報を用いて、データバスを介して、ソフトウェア格納部28から読み出されたプログラムを用いて、制御プロセッサ25であるホストCPUあるいはローカルCPUにてソフトウェアにて処理される。また、評価指標計算のための範囲指定や評価方式の選択、開始等は、入力装置13やその他インタフェース部29により、ユーザーが入力し、制御プロセッサ25により処理される。さらに、後述する評価指標計算において用いられる関数は、差分や二乗和、FFT、バンドパスフィルタ、積算処理などの一般に良く知られた演算関数またはその組み合わせであり、ソフトウェアにより容易に実現できるが、専用のハードウェアにより回路を実現しても構わない。
【0051】
(評価指標の提示機能)
上記定量的評価において計算された各評価指標は、例えば次に示すような形態にて観察者に提示される。
【0052】
図9は、(1)〜(4)、(6)、(7)の各評価指標を提示するのに好適な表示の一例である。同図に示すように、各位置における累積二乗又は累積絶対値誤差は、色彩と対応付けられ、時刻毎にマップ表示される。
【0053】
図10は、(1)〜(7)の各評価指標を提示するのに好適な表示の一例である。同図に示すように、各位置における累積二乗又は累積絶対値誤差の最終演算値、又はFFTの後BPFにより抽出された成分の積分値が、マップ(カラーバー)表示される。
【0054】
図11は、(1)〜(7)の各評価指標を提示するのに好適なマップ表示の一例である。同図に示すように、各位置における累積二乗又は累積絶対値誤差の最終演算値の分布、又はFFTの後BPFにより抽出された成分の周波数分布が、グラフ表示される。
【0055】
図12は、(5)の評価指標を提示するのに好適な表示の一例である。同図に示すように、FFT、又はFFTの後BPF処理を加えた周波数解析結果が、グラフ表示される。
【0056】
上記図9〜図12のいずれの形態によって評価指標が提示されるかは、予め設定された各評価指標との組み合わせの中から、操作者が所望の形態を選択することによって決定される。
【0057】
(動作)
次に、肝血管種内の構造物に変位を発生させるための超音波走査、及び肝血管種内の構造物の変位に関する定量的評価を含む一連の撮影動作について、図面を参照しながら説明する。
【0058】
図13は、肝血管種の運動を発生させるための超音波走査等を含む撮影動作において実行される各処理の流れを示したフローチャートである。同図において、まず、肝血管種の超音波画像診断シーケンスを開始する指示が実行され(ステップS1)、患者ID、所望の送信パラメータパターン、評価方法及び評価指標の提示形態等の選択、ゲート位置の設定等が実行される(ステップS2)。
【0059】
次に、選択された送信パラメータパターンに従う第2種及び第1種の超音波送信が実行され(ステップS3)、第1種の超音波送信によって得られたエコー信号に基づいて、超音波画像(ここでは、Mモード画像)が生成され、モニター14に所定の形態にて表示される。また、操作者は、被験者に呼吸を一時的に止めて臓器の動きを一時停止させ、評価に適当な画像が表示できた時点でフリーズスイッチを押すことにより、画像メモリ27に超音波画像を適宜記憶する(ステップS4)。
【0060】
次に、操作者は、記憶された各超音波画像を読み出してモニター14に表示し、トラックボール13a等により表示された超音波画像をめくりながら、肝血管種の運動の定量的評価に最適なMモード画像を選択する(ステップS5)。
【0061】
次に、選択されたMモード画像上に評価対象となる時間領域が設定され(ステップS6)、選択された評価方法に対応する評価指標を計算が実行される(ステップS7)。計算された評価指標は、既述のいずれかの形態によってモニター14に表示され、観察者に提示される(ステップS8)。
【0062】
以上述べた構成によれば、以下の効果を得ることができる。
【0063】
本超音波診断装置によれば、第2種の超音波送信により、肝血管種の運動を効果的且つ積極的に発生させることができる。従って、第2種の超音波送信の後に第1種の超音波送信を実行することで、肝血管種の運動を、超音波画像における輝度テクスチャ情報の揺らぎ現象として観察することができ、造影超音波などの侵襲性の高い検査をすることなく、診断に有効な情報を提供することができる。
【0064】
本超音波診断装置によれば、第2種の超音波送信の送信パターン、送信パラメータパターン、第2種の超音波送信と第1種の超音波送信との間の時間間隔等をプリセットされた内容から選択することで、設定することができる。従って、肝血管種の超音波診断において、迅速且つ簡便な装置操作を実現することができ、操作者の精神的及び身体的負担を軽減させることができる。
【0065】
また、本超音波診断装置によれば、種々の評価指標に基づいて、肝血管種の運動に起因する超音波画像の揺らぎ現象を定量的に評価することができ、肝血管種の超音波診断において有効且つ客観的な情報を提供することができる。また、この定量的評価は、グラフ、カラーバー等による所定の形態によって表示される。従って、観察者は、一般的には観察が容易でない肝血管種の運動に起因する超音波画像の揺らぎ現象を、優れた視認性によって観察することができる。加えて、医師は、グラフ、カラーバー等により提示される定量的評価を利用することで、患者に対して診断結果を分かり易く説明することができ、インフォームドコンセントを尊重した診断を実現することができる。
【0066】
また、本超音波診断装置によれば、肝血管種の運動に起因する超音波画像の揺らぎ現象を、超音波動画像に比してデータ量の少ない定量的情報として保存することができる。従って、容量に限りのあるハード資源を有効に活用することができる。また、データ量が少ないため、電子カルテへの添付も可能となり、当該定量的情報を通信によってやりとりすることも可能である。
【0067】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。例えば、次のような変形例を挙げることができる。
【0068】
(1)肝血管種運動の定量的評価において採用可能な評価指標は、上記例に限定するものではなく、Mモード画像における時間軸方向に関する変動量を示す値、または異なる縦軸位置における時間変化の類似度が示せるものであれば、どのような評価指標であってもよい。
【0069】
(2)上述した肝血管種運動の定量的評価処理は、当該各処理をコンピュータに実行させるためのプログラムをワークステーション等の画像処理装置や超音波診断装置にて展開することによっても実現可能である。また、このプログラムをリムーバブルな記憶媒体に格納し、当該記憶媒体をインタフェース部29の外部記憶装置から本装置内に読み込み展開することによっても実現可能である。
【0070】
(3)上記実施形態では、説明を分かり易くするため、第2種の超音波送信は肝血管種に力学的に作用を及ぼすことのみを目的とすることとし、画像化には利用しないこととした。しかしながら、これに限定する趣旨ではなく、必要に応じて第2種の超音波送信に起因するエコー信号を画像化に利用する構成としてもよい。
【0071】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上本発明によれば、肝血管腫の構造を診断するために有効な固有の機能を有する超音波診断装置又は超音波信号処理装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1は、実施形態に係る超音波診断装置10のブロック図である。
【図2】図2は、超音波画像と重畳して疑似表示される走査線LとゲートGの一例を示した図である。
【図3】図3は、第2種の超音波送信の送信パラメータをマニュアル設定するためのGUIの一例を示した図である。
【図4】図4は、本定量的評価において利用される、Mモード画像上で定義される座標系の一例を示した図である。
【図5】図5は、本定量的評価における対象時間領域の設定操作を説明するための図である。
【図6】図6は、本定量的評価における対象時間領域の設定操作を説明するための図である。
【図7】図6は、本定量的評価における対象時間領域の設定操作を説明するための図である。
【図8】図8は、本定量的評価における対象時間領域の設定操作を説明するための図である。
【図9】図9は、評価指標を提示するのに好適な表示の一例を示した図である。
【図10】図10は、評価指標を提示するのに好適な表示の他の例を示した図である。
【図11】図11は、評価指標を提示するのに好適な表示の他の例を示した図である。
【図12】図12は、評価指標を提示するのに好適な表示の他の例を示した図である。
【図13】図13は、肝血管種の運動を発生させるための超音波走査等を含む撮影動作において実行される各処理の流れを示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0074】
10…超音波診断装置、11…装置本体、12…超音波プローブ、13…入力装置、13a…トラックボール、13b…スイッチ、14…モニター、21…送受信ユニット、22…Bモード処理ユニット、23…ドプラ処理ユニット、25…画像生成回路、26…内部記憶装置、27…画像メモリ、25…制御プロセッサ、28…ソフトウェア格納部、29…インタフェース部、30…記憶部、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の所定部位に対し超音波を送信し、当該所定部位からのエコー信号を受信する超音波プローブと、
前記超音波プローブを駆動するための駆動信号を発生し、当該駆動信号を前記超音波プローブに供給する駆動信号発生手段と、
前記所定部位を運動させるための第1の超音波と、前記所定部位の運動を画像化するための第2の超音波とが前記超音波プローブから送信されるように、前記駆動信号発生手段を制御する制御手段と、
前記超音波プローブによって受信される前記第2の超音波のエコー信号に基づいて、前記所定部位の運動を表す画像を生成する画像生成手段と、
を具備することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記所定部位を運動させるための前記第1の超音波の送信を実行した後、前記所定部位の運動を画像化するための前記第2の超音波を複数フレーム分送信するように、前記駆動信号発生手段を制御し、
前記画像生成手段は、
前記超音波プローブによって受信される前記第2の超音波のエコー信号に基づいて、前記複数フレームに対応する前記所定部位の運動を表す画像を生成すること、
を特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記第2の超音波の機械的指数よりも大きい機械的指標によって前記第1の超音波が間歇的に送信されるように、又は前記第1の超音波の機械的指標が周期的に又は非周期的に変化するように、前記駆動信号発生手段を制御することを特徴とする請求項1又は2記載の超音波診断装置。
【請求項4】
生成された前記超音波画像に基づいて、前記生体部位の運動を定量的に評価するための評価指標を計算する計算手段をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記評価指標は、前記所定部位の少なくとも一点における所定期間に関する信号の差分値であることを特徴とする請求項4記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記評価指標は、前記所定部位の少なくとも一点における所定期間に関する信号変化量の積分値であることを特徴とする請求項4記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記評価指標は、前記所定部位の少なくとも一点よりなる第1の位置の所定期間に関する信号変化量と、前記第1の位置とは異なる前記所定部位の少なくとも一点よりなる第2の位置の所定期間に関する信号変化量との類似度を示す値であることを特徴とする請求項4記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記評価指標は、前記所定部位の少なくとも一点における所定期間に関する信号の周波数解析値であることを特徴とする請求項4記載の超音波診断装置。
【請求項9】
生成された前記複数フレームに対応する前記所定部位を表す画像を連続的に表示することで、前記所定部位の運動に基づく揺らぎ現象を表示する表示手段をさらに具備することを特徴とする請求項2記載の超音波診断装置。
【請求項10】
前記評価指標を、その値に対応したカラーマップ又はカラーバー、グラフその他の定量的表示形態によって表示する表示手段をさらに具備することを特徴とする請求項4乃至8記載の超音波診断装置。
【請求項11】
被検体の所定部位の運動を診断するための超音波画像を記憶する記憶手段と、
前記超音波画像に基づいて、前記所定部位の運動を定量的に評価するための評価指標を計算する計算手段と、
を具備することを特徴とする超音波信号処理装置。
【請求項12】
前記評価指標は、前記所定部位の少なくとも一点における所定期間に関する信号の差分値であることを特徴とする請求項11記載の超音波信号処理装置。
【請求項13】
前記評価指標は、前記所定部位の少なくとも一点における所定期間に関する信号変化量の積分値であることを特徴とする請求項11記載の超音波信号処理装置。
【請求項14】
前記評価指標は、前記所定部位の少なくとも一点よりなる第1の位置の所定期間に関する信号変化量と、前記第1の位置とは異なる前記所定部位の少なくとも一点よりなる第2の位置の所定期間に関する信号変化量との類似度を示す値であることを特徴とする請求項11記載の超音波信号処理装置。
【請求項15】
前記評価指標は、前記所定部位の少なくとも一点における所定期間に関する信号の周波数解析値であることを特徴とする請求項11記載の超音波信号処理装置。
【請求項16】
前記超音波画像を時系列的に表示することで、前記所定部位の運動に基づく揺らぎ現象を表示する表示手段をさらに具備することを特徴とする請求項11乃至15記載の超超音波信号処理装置。
【請求項17】
前記評価指標を、その値に対応したカラーマップ又はカラーバー、グラフその他の定量的表示形態によって表示する表示手段をさらに具備することを特徴とする請求項11乃至15記載の超音波信号処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−87744(P2006−87744A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−278252(P2004−278252)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】