説明

超音波診断装置

【課題】超音波診断装置を用いて脈波における反射波の割合の指標であるAIを計測する。
【解決手段】脈波波形が血管径波形に相当することに基づき、エコートラッキング技術を用いて血管径波形200を取得する。血管径波形200上において最小値202及び最大値204が特定される。反射波の立ち上がり点208を特定するため、第1微分波形210上でピーク212が特定され、それを基準として第3微分波形214上でゼロクロス点218が特定される。そのゼロクロス点218は立ち上がり点208に相当する。特定された各点の振幅から公知の演算式によりAIが演算される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置に関し、特に、血管の健全性を表す指標を演算する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血管の健全性を表す指標として、AI(Augmentation index:オウグメンテーション・インデックス)が知られている。AIの大きさにより、動脈硬化の度合いや動脈の伸展性、つまり血管の硬さを認識することができる。動脈の血管壁には心臓からの脈波(前進波)が伝播する。脈波の波形を観測すると、心臓からの前進波に相当する山状の波形の上に、観測部位よりも末梢側にて生じた反射波に相当する部分が重なり合った盛り上がりが認められる。AIは、脈波信号における最大値と最小値との間の幅PPに対する、反射波による盛り上がり部分の幅ΔPの比率として、以下のように定義される。
【0003】
AI=ΔP/PP*100 (%) ・・・(1)
【0004】
上記のAIは、動脈硬化が進展すると大きくなる。
【0005】
従来においては、上腕などに装着されたカフに設けられた圧力センサからの信号波形に基づいてAIが計測されている(非特許文献1、特許文献1、特許文献2参照)。そのような計測方法ではカフを装着できる部位しかAIの計測を行えない。また、超音波診断とAI計測の両方が行われる検査も多いが、その場合に、超音波診断装置とAI計測用装置とをそれぞれ用意しなければならない。なお、AIとは別の指標としてウエーブインテンシティ(Wave intensity)が知られており、非特許文献2及び特許文献3には超音波診断を利用してウエーブインテンシティを計測する技術が記載されている。また、それらの文献には血管径の変化波形と血圧波形との間に高い相関があることが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−305012号公報
【特許文献2】特開2004−195204号公報
【特許文献3】特開2001−218768号公報
【非特許文献1】Yu-Lu LIANG et al.,Non-invasive measurements of arterial structure and function:repeatability,interrelationships and trial sample size,Clinical Science(1998)95,669-679
【非特許文献2】菅原基晃他,Wave intensityとは,心エコー 2001 vol.2 No.6 482-489
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、カフを用いることなく、脈波における反射波成分の割合を示す指標を求めることにある。
【0008】
本発明の他の目的は、超音波診断装置上で、脈波における反射波成分の割合を示す指標を求めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明は、血管に対して超音波を送受波し、受信信号を出力する送受波手段と、前記受信信号に基づいて、血管径の変化を表す変化信号を出力する血管径変化計測手段と、前記変化信号に基づいて、前記血管を伝わる脈波における反射波成分の割合を示す指標を演算する指標演算手段と、を含み、前記指標演算手段は、前記変化信号における最大値と最小値間の振幅の全体幅を求める全体幅演算手段と、前記変化信号における前記反射波成分の立ち上がり点を求める立ち上がり点演算手段と、前記変化信号における前記立ち上がり点から最大値までの振幅の部分幅を求める部分幅演算手段と、前記振幅の全体幅に対する前記振幅の部分幅の割合に基づいて、前記脈波における反射波成分の割合を示す指標を演算する手段と、を含むことを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、超音波の送受波により得られた受信信号に基づいて血管径の変化を表す変化信号が得られ、その変化信号を脈波信号とみなして、変化信号に対して波形解析を行うことにより、脈波における反射波成分の割合を示す指標が演算される。すなわち、変化信号と脈波信号との間にはほぼ矩形な相関関係があり(特に収縮期においてそれが顕著である)、そのような相関関係を前提として指標が演算される。変化信号から脈波信号を求める場合には一般に較正が必要であるが、上記の(1)式では分子及び分母に定数を乗算しても結果が同じとなることから、そのような較正は不要である。但し、変化信号と脈波信号との間に非線形の関係が認められるような場合には、その関係に基づいて変化信号を較正した上で指標演算を行うのが望ましい。
【0011】
変化信号は一般にノイズ成分を含むので、各波形特徴点の特定に先立って変化信号を滑らかにすることが望ましい。また、波形解析に際しては、反射波成分の立ち上がり点(変曲点)を特定するために、変化波形の勾配の変化率などを利用するのが望ましい。その場合には複数回の微分処理などを利用するのが望ましい。但し、パターンフィッティング法、スプライン補間法、などの他の手法を用いて立ち上がり点を特定することも可能である。いずれにしても、本発明によれば、超音波診断が可能であれば任意の部位に対して指標計測を行うことが可能であり、超音波診断装置の他に指標計測装置を別途用意する必要がないので経済的である。超音波画像に基づく計測・診断と並行してあるいはその前後に簡便に指標計測を行えるので、検査全体の時間を短縮化できる。RF受信信号に対するエコートラッキング技術を利用すれば血管壁の微小変位を高精度に計測でき、その結果、指標演算精度を向上できる。また、ビームステアリング技術を利用して、所望の部位に対して計測用ビームを容易に設定でき、複数の部位に対する指標の同時計測なども容易であるし、リアルタイムの超音波画像を観察しながら指標の計測を行うことも可能である。
【0012】
望ましくは、前記指標演算手段は、更に、生体信号に基づいて複数心拍分の変化信号を切り出し、それらをアンサンブル平均化処理するアンサンブル平均化処理手段を含み、前記アンサンブル平均化処理後の変化信号に基づいて前記指標が演算される。この構成によれば、アンサンブル平均化処理により、反射波成分による波形の特徴部分を保存あるいは強調しつつS/N比を向上して精度良く指標を演算できる。アンサンブル平均化処理では各時相ごとにデータが平均化される。なお、各心拍における期間や波形が不揃いとなっているような場合にはアンサンブル平均化処理ではなく他のノイズ処理を適用するのが望ましい。
【0013】
望ましくは、前記立ち上がり点演算手段は、前記変化信号に対して段階的に微分処理を実行する微分処理手段と、前記段階的な微分処理の過程で得られる第1の微分信号に基づいて探索基準点を特定する探索基準点特定手段と、前記段階的な微分処理の過程を経て得られる第2の微分信号に対して、前記探索基準点を基準として探索を実行し、これにより前記反射波成分の立ち上がり点を特定する立ち上がり点特定手段と、を含む。この構成によれば、第1の微分信号に基づいて探索基準点が特定され、それを基準として、第2の微分信号上において立ち上がり点が探索される。つまり、各段階の微分波形の性質を巧みに利用して目的とする変曲点を正確に特定できる。
【0014】
望ましくは、前記第1の微分信号は前記変化信号に対する1回目の微分処理により得られた信号であり、前記第2の微分信号は前記変化信号に対する3回目の微分処理により得られた信号である。望ましくは、前記第1回目の微分処理により得られた第1の微分信号におけるピーク点が前記探索基準点として特定される。望ましくは、前記第3回目の微分処理により得られた第2の微分信号における正から負へのゼロクロス点が前記立ち上がり点として特定される。
【0015】
1回目の微分処理により得られた微分信号は元の変化信号の勾配(傾き)の大きさを示し、そのピーク点は、元の変化信号全体における最初の立ち上がり部分の最大勾配点に相当する。つまり、反射波成分の立ち上がり点の時間的に手前側にある探索基準点として、そのような最大勾配点を利用することができる。他の特定点を探索基準点として用いることも可能であるが、最大勾配点であれば容易かつ正確に特定できるという利点がある。3回目の微分処理により得られた微分信号は、勾配の変化率の傾きの極性が変化する点をゼロクロス点として表すものである。その微分信号において、探索基準点から時間軸正方向へ探索した場合に、正から負への最初のゼロクロス点が反射波成分の立ち上がり点として特定される。3回目の微分処理による微分信号ではなく2回目の微分処理による微分信号を利用して目的とする点を探索することも可能である。いずれにしても、各段階の微分信号の性質に着目してより正確に立ち上がり点を特定するのが望ましい。
【0016】
望ましくは、前記立ち上がり点演算手段は、更に、前記段階的な微分処理における各段階の微分処理に先立って波形を平滑化する平滑化処理手段を含む。微分処理は、元波形上に存在する勾配の変化を強調することになるので、微分処理に先立って本来強調されるべきでないノイズなどを除外しておく必要がある。そのために、各段階の微分処理に先立って平滑化処理が実行される。
【0017】
望ましくは、前記平滑化処理手段は、波形上の尖鋭ノイズを抑圧する第1フィルタと、前記尖鋭ノイズを抑圧した後の波形を平滑化する第2フィルタと、を含む。この構成によれば、元の波形に存在する細かいノイズを抑圧した上で(それによる影響を受けずに)波形を平滑化できる。
【0018】
望ましくは、前記第1フィルタは、注目データを基準として参照範囲を設定する手段と、前記参照範囲内の複数のデータを参照し、それらに基づいて振幅許容範囲を設定する手段と、前記注目データの値が前記振幅許容範囲を超える場合には当該注目データの値を補間処理により補正する手段と、を含む。この構成によれば、周囲のデータよりも突出しているようなデータをノイズとみなしてそれを抑圧、除外できる。
【0019】
望ましくは、前記指標演算手段は、更に、前記変化信号における最大値よりも後に前記反射波成分の立ち上がり点が生じる現象を判定する手段を含む。望ましくは、前記現象が判定された場合に前記指標の符号が操作される。正常例の中には、反射波による波形の盛り上がり部分が主たる波形の正ピークの前ではなく後に生じるものがある。そのような場合でも、立ち上がり点を誤りなく特定できるように構成するのが望ましく、更に、そのような場合にはそれを判定してその事実を表示するか、指標の符号を正から負へ操作するのが望ましい。
【0020】
(2)本発明は、超音波を送受波し、RF受信信号を出力する送受波手段と、前記RF受信信号に基づいて断層画像を形成する断層画像形成手段と、前記断層画像上で診断対象となる血管を横切るビーム方向を設定する手段と、前記設定されたビーム方向において超音波の送受波を行うことにより得られたRF受信信号に基づいて、血管壁に対してトラッキングを行うことにより、血管径の変化を表す変化信号を出力する血管径変化計測手段と、前記変化信号を脈波信号とみなして、前記変化信号に基づいて、前記血管を伝わる脈波における反射波成分の割合を示す指標を演算する指標演算手段と、を含み、前記指標演算手段は、前記変化信号の波形解析により、前記変化信号における最大値、最小値及び反射波成分の立ち上がり点を求め、これにより前記指標を演算することを特徴とする。
【0021】
上記構成によれば、血管の断層画像を表示して、その断層画像上でビーム方向を設定することにより血管上における計測部位を指定でき、その計測部位について指標を計測できる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、カフを用いることなく、脈波における反射波成分の割合を示す指標を求めることができる。本発明によれば、超音波診断装置上で脈波における反射波成分の割合を示す指標を求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1には、本発明に係る超音波診断装置の好適な実施形態が示されており、図1は超音波診断装置の構成を示すブロック図である。この超音波診断装置は、従来の超音波診断装置と同様に超音波画像を形成する機能、超音波の送受波により得られた信号に基づいて各種の計測を行う機能を具備しており、更に脈波に含まれる反射波の割合を表す指標としてのAIを求める機能を有している。
【0025】
プローブ10は超音波を送受波する送受波器である。プローブ10内には複数の振動素子からなるアレイ振動子が設けられている。アレイ振動子によって超音波ビームが形成され、その超音波ビームは電子走査される。電子走査方式としては電子セクタ走査、電子リニア走査などをあげることができる。超音波ビームを走査することにより走査面が形成され、その走査面上のエコーデータを用いて断層画像を形成することができる。
【0026】
図1において、プローブ10は生体組織14の表面12上に当接されている。生体組織14内には血管16が存在している。この血管は例えば頸動脈である。AIを計測する場合には、通常、血管16に対して超音波ビーム21が直交するようにそのビーム方向が設定される。その設定に当たっては断層画像が表示され、その断層画像上においてユーザー操作によりカーソルを移動させて所望の方向へビーム方向を設定することができる。そのような操作は図示されていない操作パネルなどを用いて行われる。また設定されたビーム上において血管16の前壁18と後壁20のそれぞれに対してトラッキングゲートが設定され、各ゲート内で血管壁のエッジが検出され、そのエッジが後述するエコートラッキング技術によってトラッキングされる。
【0027】
本実施形態においては、AIを計測する部位を指定し、その部位に対して局所的にAIの計測を実行できるという利点がある。その計測に当たっては公知の様々なビーム制御技術を適用することができ、例えば、血管に対して複数のビーム方向を設定し、同時あるいは時分割で複数の部位についてAIを計測することも可能である。また血管の様々な走行状態に応じて適切にビーム方向を設定して高精度にAIを計測することが可能である。
【0028】
送受信部30は送信ビームフォーマー及び受信ビームフォーマーとして機能する。すなわち、送受信部30はアレイ振動子に対して複数の送信信号を供給し、また送受信部30はアレイ振動子から出力される複数の受信信号に対して整相加算処理を実行する。その処理後の受信信号(RF受信信号)は断層画像形成部32及び変位演算部36へ出力されている。
【0029】
断層画像形成部32は、受信信号に対して検波、対数圧縮、ノイズ除去などの各種の処理を実行し、また座標変換や補間処理などを適用し、これによって二次元断層画像(Bモード画像)を形成する。その画像データは表示処理部34に送られ、表示部40には断層画像が表示される。図1には示されていないが、血流画像形成部を設け、断層画像に血流画像が合成されたカラーフローマッピング画像を表示部40に表示するようにしてもよい。更に、生体に対する三次元計測を行って、三次元超音波画像を表示部40に表示することも可能である。
【0030】
変位演算部36は、血管16の変位、具体的には血管16の直径の変化を示す変化信号を生成する。その変化信号は血管径波形に相当するものである。具体的には、RF受信信号上において特定される2つのトラッキングポイント(前壁及び後壁に対応)のそれぞれに対してエコートラッキング技術を適用して信号の位相から血管壁のトラッキングを行い、その結果として2つのトラッキングポイント間の距離として血管の直径を逐次的に演算している。変位演算部36で生成された変化信号(血管径波形)はAI演算部38へ出力されている。また変化信号は必要に応じて表示処理部34へ出力される。すなわち、表示部40において血管波形を表示することも可能である。
【0031】
AI演算部38は、変化波形を脈波あるいは血圧波形とみなして上述した(1)式の演算を実行することにより、各心拍ごとにAIを演算する。その演算結果は表示処理部34へ送られる。表示部40上にはAIが数値として表示される。もちろんグラフ表示を行うようにしてもよい。
【0032】
制御部42は、図1に示される各構成の動作制御を行っている。制御部42には心電計44が接続されており、その心電計44から出力される心電信号が制御部42に入力されている。心電信号は必要に応じてAI演算部38などに出力される。制御部42には図示されていない操作パネルが接続されている。
【0033】
図2には、血圧波形100が示されている。この血圧波形100と血管径波形(変位信号の波形)は相似形であることが知られており、特に収縮期においてはそれらはかなり強い相関をもっている。本実施形態では血管径波形を血圧波形とみなしてAIの演算を実行している。これによって実際に血圧波形を計測することなく超音波の送受波により得られた受信信号からAIを求めることが可能となる。ちなみに、血管径波形から血圧波形を求めるためには較正が必要となるが、上述した(1)式において分子及び分母に同じ係数を掛けても結果値は不変であるため、本実施形態においてそのような較正は不要である。もちろん非線形の換算などが求められるような場合には、そのような換算を行った上で波形解析を行うようにすればよい。血圧波形100は図2に示されるように収縮期の初期から立ち上がった山状の形態を有するが、その立ち上がり後において反射波成分の寄与により更に盛り上がった波形部分が存在する。すなわち2段階の立ち上がりが認められ、その2つ目の立ち上がりの裾部分には変曲点が認められる。ちなみに、そのような反射波による盛り上がり部分が波形全体の最大値よりも後方に生じる場合があり、そのような場合においても本実施形態においてはAIを演算することが可能である。ただし、その場合には後述するように符号操作が行われる。
【0034】
図2に示されるように、1心拍内においてあるいは収縮期において、血圧波形すなわち血管径波形における最大値106と最小値102とが特定され、それらの振幅方向の全体幅PPが演算される。その一方、反射波の寄与による盛り上がった部分の立ち上がり点104が後述する手法によって特定され、その立ち上がり点104と最大値106との間の振幅方向の部分幅ΔPが演算される。そして、上記の(1)式を実行することにより、全体幅PPに対する部分幅ΔPの比率としてAIが演算される。図2に示されるように、立ち上がり点104は図2に示されている波形上では簡単に特定することが困難であるため、以下に説明する手法を適用してその立ち上がり点104の特定精度を向上させている。
【0035】
図3を用いて具体的に説明する。図3の(A)には血圧波形に相当する血管径波形200が示されている。(B)には血管径波形200に対して1回目の微分処理を行って得られた第1微分波形210が示されている。(C)には血管径波形200に対して3回目の微分処理を適用することにより得られた第3微分波形214が示されている。
【0036】
本実施形態においては、血管径波形200を基礎として最大値204及び最小値202が特定され、その一方において、上述した立ち上がり点208の特定にあたっては図3に示される第1微分波形210及び第3微分波形214が利用される。
【0037】
まず、第1微分波形210において一定期間内におけるピーク212が特定される。第1微分波形210は血管径波形200における勾配の大きさを表すものであるため、ピーク212は血管径波形200におけるそれ全体の立ち上がり部分206の最も勾配の大きい地点に相当する。そのピーク212の時間軸上の位置t4が探索の基準点として利用され、具体的にはそこを開始点として符号216で示すように時間軸の正方向に反射波の立ち上がり点208すなわち変曲点の探索が行われる。
【0038】
その探索は本実施形態において第3微分波形214上に行われており、第3微分波形214上において、上記のピーク212から時間軸の正方向に探索を行った場合における最初の正から負へのゼロクロス点218が特定される。このゼロクロス点218は元の血管径波形200における反射波の立ち上がり点208に相当するものである。
【0039】
このように、本実施形態においては各段階で行われる微分処理によって得られた波形の性質に着目し、探索の基準点を最初に見出した上で、変曲点をより明確に判断できるような波形上において当該変曲点を特定するものである。これによれば他の変動箇所を立ち上がり点として誤認してしまう問題を効果的に防止できるという利点がある。もちろん、図3に示される手法は一例であって、例えばパターンフィッティングやスプライン補間の手法などを利用して血管径波形の解析を行って、立ち上がり点を特定するようにしてもよい。
【0040】
図4には、上述した方法を実現するためのAI演算部の具体的な構成例が示されている。
【0041】
アンサンブル平均化回路50には、血管径波形としての変化信号が入力される。アンサンブル平均化回路50は、心電信号に基づく心電トリガ信号(R波)にしたがって各心拍周期を認識し、変化信号を各心拍ごとに切り出して、各心拍ごとの変化信号に対してアンサンブル平均化処理を適用する。すなわち同じ時相のデータ同士で平均化処理を行って、平均化処理後の変化信号を生成する。このようなアンサンブル平均化処理により、S/N比を向上できる。
【0042】
アンサンブル平均化回路50の後段には第1回路モジュール118、第2回路モジュール120、第3回路モジュール122、第4回路モジュール124が直列的に設けられている。それぞれの回路モジュール118〜124は、いずれもピークフィルタ52,58,64,70と、スムージングフィルタ54,60,66,72とを備えており、更に回路モジュール120〜124には微分器56,62,68が設けられている。
【0043】
回路モジュール118においては、最初の微分処理に先立って、ピークフィルタ52及びスムージングフィルタ54によるフィルタリングが実行される。ピークフィルタ52は、波形上に存在する先鋭なノイズを抑圧するフィルタであり、スムージングフィルタ54は移動平均処理を実行するものである。このことは図4に示されている他のピークフィルタ58,64,70及びスムージングフィルタ60,66,72についても同様である。第2回路モジュール120においては微分器56によって第1回目の微分処理が実行され、それによって生成された微分信号がピークフィルタ58及びスムージングフィルタ60を介して第3回路モジュール122へ出力される。第3回路モジュール122においては微分器62によって第2回目の微分処理が実行され、その処理後の微分信号はピークフィルタ64及びスムージングフィルタ66を通過して第4回路モジュールへ出力される。第4回路モジュール124においては微分器68によって第3回目の微分処理が実行され、その処理後の微分信号がピークフィルタ70及びスムージングフィルタ72に出力され、最終的な処理結果を表す信号が変曲点検出器76へ出力されている。
【0044】
一方、符号74は探索基準点を検出する回路であり、具体的にはそれはmax(dD/dt)点検出器として構成されている。その検出器74は図3に示されるピーク212を検出するものである。本実施形態においては第1回目の微分処理により得られた微分信号上において探索基準点が検出されている。
【0045】
変曲点検出器76は反射波成分による立ち上がり点すなわち変曲点を検出する回路であり、本実施形態においては図3に示したように第3回目の微分処理により得られた微分信号において所定のゼロクロス点を検出することにより立ち上がり点が検出されている。その場合においては上記の検出器74によって検出されたピーク点の時間軸上の位置が利用されており、その位置から時間軸上の正方向に所定のゼロクロス点を探索する処理が実行される。演算器78は、全体幅PPを演算する機能と、部分幅ΔPを演算する機能と、AIとしてのΔP/PPを演算する機能とを有している。血管径波形における最大値と最小値の差分であるPPは、アンサンブル平均化回路50から出力される変化信号に基づいて特定されている。ただし、ピークフィルタ52及びスムージングフィルタ54を通過した後の変化信号において各ピークを特定するようにしてもよい。演算器78は、変曲点検出器76から出力される変曲点としての立ち上がり点の振幅値と最大値の振幅値との間の差分として部分幅ΔPを演算する。そしてPPとΔPとからAIが演算される。
【0046】
符号操作器80は、血管径波形の最大値よりも立ち上がり点が時間軸上の後方に発生した場合に、それを判定し、そのような場合にAIに対してマイナス符号を付加する回路である。すなわち符号操作器80はアンサンブル平均化回路50から出力される変化信号あるいはスムージングフィルタ54から出力される変化信号を基礎として最大値を特定し、すなわち図2に示されるt3を特定し、その一方において変曲点検出器76によって特定される立ち上がり点の時間値t2を認識し、t2がt3よりも手前側にあれば入力されるAIをそのまま通過させ、その一方において、t2がt3よりも後となる場合にはAIに対してマイナスの符号を付加している。正常例においてもそのような現象が生じることが確認されており、マイナス符号の付加はそのような状態を数値上で確認するために必要な機能である。
【0047】
次に、図5を用いて図4に示したピークフィルタ52,58,64,70の作用について説明する。ピークフィルタ52,58,64,70は、波形上における突出した値を抑圧する処理を行うものである。詳しくは、各注目データを基準として、その前後に存在する複数の近傍データを参照し、それらにより注目データの値に対して上下に許容範囲を設定し、その許容範囲から注目データの値が外れてしまう場合には、それをノイズとみなして、それを除外し且つそれに代えて補間値を代入する処理を実行する。このように上下に突出する尖鋭ノイズを除去した上で後段の平滑化を行えば平滑化処理結果を適正なものにできる。以下に具体的に作用を説明する。
【0048】
S101では初期設定がなされる。ここでは、参照幅を規定するパラメータwindow幅/2にaが代入され、マージン係数xにbが代入される。S102では、処理対象となる波形が入力され、それがdataとして格納される。S103では、注目データの番号iにaが代入される。iはS110で1つずつインクリメントされるものである。S104では、入力波形dataからデータ配列data1が切り出される。データ配列data1は、注目データdata(i)を中心にしたdata(i-a)からdata(i+a)までのデータブロックである。次に、S105では、データ配列data1から注目データdata(i)を除いたデータ配列data2が参照される。S106では、データ配列data2における最大値d2_max及び最小値d2_minが特定される。そして、S107では、最大値d2_max及び最小値d2_minを基準として許容範囲の上限maxvalue及び下限minvalueが求められる。具体的には、以下の計算が実行される。
【0049】
maxvalue=d2_max+(d2_max-d2_min)*x
minvalue=d2_min-(d2_max-d2_min)*x
【0050】
S108では、上記のように設定された許容範囲内に注目データdata(i)が入っているか否かが判断され、注目データdata(i)が許容範囲を上回る場合あるいは下回る場合にはそのデータをノイズとみなして、注目データの前後の近傍データの平均値(data(i-1)+data(i+1))/2が注目データの値として置換される。そして、S110ではiが1つインクリメントされて、上記の工程が繰り返し実行される。これにより、入力波形の全体にわたって尖鋭ノイズを抑圧することが可能となる。
【0051】
上記処理は一例であって、注目データの手前側にある複数の近傍データだけを参照して許容範囲を設定するようにしてもよい。そのような処理によれば既にノイズが抑圧された複数のデータを利用して許容範囲を設定できる。上記処理では注目データの前後にわたって近傍データを参照したので、波形の全体傾向に即して許容範囲を設定できる利点がある。また、より多くの近傍データを用いて注目データに代入する補間値を演算するようにしてもよい。
【0052】
以上説明したように、本実施形態の超音波診断装置によれば、超音波診断装置を用いてAIを計測することができるので、超音波診断装置とAI計測とを行う検査において単一の装置でその検査を実行できると共に、検査時間を短縮できるという利点がある。また超音波画像を観察しながらAI計測条件を設定できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る超音波診断装置の好適な実施形態を示すブロック図である。
【図2】血圧波形(血管径波形)を示す図である。
【図3】AIを演算するための各点の認識方法を説明するための図である。
【図4】AI演算部の具体的な構成例を示すブロック図である。
【図5】ピークフィルタにおける作用を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
10 プローブ、14 生体組織、16 血管、36 変位演算部、38 AI演算部、100 血圧波形(血管径波形)、102 最小値、104 立ち上がり点(勾配増大方向の変曲点)、106 最大値、200 血管径波形、210 第1微分波形、214 第3微分波形。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管に対して超音波を送受波し、受信信号を出力する送受波手段と、
前記受信信号に基づいて、血管径の変化を表す変化信号を出力する血管径変化計測手段と、
前記変化信号に基づいて、前記血管を伝わる脈波における反射波成分の割合を示す指標を演算する指標演算手段と、
を含み、
前記指標演算手段は、
前記変化信号における最大値と最小値間の振幅の全体幅を求める全体幅演算手段と、
前記変化信号における前記反射波成分の立ち上がり点を求める立ち上がり点演算手段と、
前記変化信号における前記立ち上がり点から最大値までの振幅の部分幅を求める部分幅演算手段と、
前記振幅の全体幅に対する前記振幅の部分幅の割合に基づいて、前記脈波における反射波成分の割合を示す指標を演算する手段と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記指標演算手段は、更に、生体信号に基づいて複数心拍分の変化信号を切り出し、それらをアンサンブル平均化処理するアンサンブル平均化処理手段を含み、
前記アンサンブル平均化処理後の変化信号に基づいて前記指標が演算されることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項1記載の装置において、
前記立ち上がり点演算手段は、
前記変化信号に対して段階的に微分処理を実行する微分処理手段と、
前記段階的な微分処理の過程で得られる第1の微分信号に基づいて探索基準点を特定する探索基準点特定手段と、
前記段階的な微分処理の過程を経て得られる第2の微分信号に対して、前記探索基準点を基準として探索を実行し、これにより前記反射波成分の立ち上がり点を特定する立ち上がり点特定手段と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項3記載の装置において、
前記第1の微分信号は前記変化信号に対する1回目の微分処理により得られた信号であり、
前記第2の微分信号は前記変化信号に対する3回目の微分処理により得られた信号であることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項4記載の装置において、
前記第1回目の微分処理により得られた第1の微分信号におけるピーク点が前記探索基準点として特定されることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項4記載の装置において、
前記第3回目の微分処理により得られた第2の微分信号における正から負へのゼロクロス点が前記立ち上がり点として特定されることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項3記載の装置において、
前記立ち上がり点演算手段は、更に、前記段階的な微分処理における各段階の微分処理に先立って波形を平滑化する平滑化処理手段を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
請求項7記載の装置において、
前記平滑化処理手段は、
波形上の尖鋭ノイズを抑圧する第1フィルタと、
前記尖鋭ノイズを抑圧した後の波形を平滑化する第2フィルタと、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項9】
請求項8記載の装置において、
前記第1フィルタは、
注目データを基準として参照範囲を設定する手段と、
前記参照範囲内の複数のデータを参照し、それらに基づいて振幅許容範囲を設定する手段と、
前記注目データの値が前記振幅許容範囲を超える場合には当該注目データの値を補間処理により補正する手段と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項10】
請求項1記載の装置において、
前記指標演算手段は、更に、前記変化信号における最大値よりも後に前記反射波成分の立ち上がり点が生じる現象を判定する手段を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項11】
請求項10記載の装置において、
前記現象が判定された場合に前記指標の符号が操作されることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項12】
超音波を送受波し、RF受信信号を出力する送受波手段と、
前記RF受信信号に基づいて断層画像を形成する断層画像形成手段と、
前記断層画像上で診断対象となる血管を横切るビーム方向を設定する手段と、
前記設定されたビーム方向において超音波の送受波を行うことにより得られたRF受信信号に基づいて、血管壁に対してトラッキングを行うことにより、血管径の変化を表す変化信号を出力する血管径変化計測手段と、
前記変化信号を脈波信号とみなして、前記変化信号に基づいて、前記血管を伝わる脈波における反射波成分の割合を示す指標を演算する指標演算手段と、
を含み、
前記指標演算手段は、前記変化信号の波形解析により、前記変化信号における最大値、最小値及び反射波成分の立ち上がり点を求め、これにより前記指標を演算することを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−122380(P2006−122380A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−315303(P2004−315303)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】