説明

超高強度及び導電率を有するナノ結晶銅材料ならびにその製造方法

本発明は、ナノメートル結晶金属材料、特に、超高強度及び導電率を有するナノ双晶銅材料ならびにその製造方法である。電着法を使用することによって高純度多結晶Cu材料を製造する。微細構造は、実質的に等軸晶のサブミクロンサイズの粒径300〜1000nmのオーダである結晶粒からなる。結晶粒の中には、異なる方位の双晶層の高密度構造が存在し、同じ方位の双晶層が互いに対して平行であり、双晶層の厚さは数ナノメートルから100nmまでであり、その長さは100〜500nmである。関連技術と比較して、本発明は性質が優れている。周囲温度下で加工されると、材料は、900MPaまでの降伏強さ及び1086MPaまでの破断強さを有する。この超高強度は、多くの他の方法では、同じ銅材料によって実現することはできない。同時に、導電率が優れ、従来の粗結晶銅材料の導電率とほぼ同じであり、周囲温度下での抵抗は、96%IACSに等しい1.75±0.02×10-8Ω・mである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ結晶金属材料、特に超高強度及び高い導電率を有するナノ双晶銅材料ならびにその製造方法に関する。
【0002】
発明の背景
銅及びその合金は、多くの提案に広く使用される非鉄金属の1種である。数千年前の早くからしばしば使用されていた。たとえば、殷王朝及び周王朝(3700年以上前)時代、中国人が、鐘、三脚器(2個のループ取っ手と3又は4本の脚部を有する古代の調理具)及び武器を青銅によって製造していたことは周知である。これまで、Cu及びその合金は、従来及び現代の産業でなおも広く使用されている。Cu及びその合金の主な特徴は、高い導電率、良好な熱導電率ならびに大気、海水及び他の多くの媒体中での良好な耐食性である。そのうえ、種々の製品に加工し、鋳造する場合に適した非常に良好な加工性及び耐摩耗性を有している。銅及びその合金は、多くの工業分野、たとえば電力、電化製品、熱技術、化学工業、計測機器、造船及び機械製造などで不可欠な金属材料である。
【0003】
純粋なCuは非常に良好な伝導性能を有している。しかし、強さは非常に低い。Cu及びその合金の強化は、いくつかの方法、たとえば結晶粒微細化、冷間加工、固溶体合金化などによって達成することができるが、そのような手法は通常、導電率の顕著な低下を招く。たとえば、純粋なCuを元素(Al、Fe、Ni、Sn、Cd、Zn、Ag、Sbなど)の添加によって合金化すると、強さを2倍又は3倍に高めることができるが、Cu合金の導電率は劇的に低下する。その他にも、極少量のFe及びNiの添加がCuの磁性に影響を及ぼし、それは、コンパスや航行計器の製造にとって欠点である。一部の合金元素、たとえばCd、Zn、Sn及びPbなどの蒸発は、電子産業における、特に高温及び高真空環境での用途を制限するであろう。
【0004】
現在、機械設備、工具製造及び計測装置は、高速、高効率、高感度、低エネルギー消費及び超小型化に向かっている。したがって、精度及び信頼性において、銅材料に対する高い包括的な要求が提示されている。たとえば、急速に発展するコンピュータ産業、自動車産業、無線通信(たとえば携帯電話及びリチウム電池のプラグコネクタ)及びプリント(多層プリント回路基板及び高密度プリント回路基板を製造するため)などにおいて、銅材料の新たなタイプの高性能化が緊急に求められている。したがって、銅及びその合金を、それらの優れた導電率を損なうことなく有意に強化するための多大な挑戦がある。
【0005】
ナノ結晶材料とは、直径1〜100nmの非常に微細な結晶粒からなる単相又は多相の固体材料をいう。その小さな結晶粒及び多数の結晶粒界(GB)のおかげで、ナノ結晶材料は、物理的及び化学的性能、たとえば機械的性質、電気的性質、磁気的性質、光学的性質、発熱性、化学的性質などにおいて、従来のミクロンサイズの多結晶材料と大きな違いを示す。
【0006】
エンジニアリングにおいて材料を強化するためには、σy=σ0+d-1/2としての周知のHall-Petch(HP)関係によって記述されるように、転位の運動を妨げるためにより多くの結晶粒界を導入することによって材料の強さを高める結晶粒微細化がしばしば使用される。しかし、強さは、どんな方式でも結晶粒度の減少とともに単調に増大するわけではない。結晶粒度がナノメートルスケールまで、特に臨界結晶粒度未満まで減少すると、異常なH−P関係が生じる。実際に、実験的観察及びコンピュータシミュレーションは、結晶粒度がナノメートルまで微細化されるにつれて強化効果が弱まる又は消滅するかして、それにより軟化効果が現れるということを示した。結晶粒度が十分に小さい、すなわち格子転位平衡距離に近い場合、少数の転位しか結晶粒中に収容することができず、結晶粒界の移動(たとえば粒界の回転及び滑り)が優勢になり、材料の軟化につながる。したがって、ナノ結晶材料の場合に、転位の運動及び粒界の移動を同時に抑制することにより、超高強度を達成することができる。
【0007】
また、固溶体合金化の強化又は第二相の導入が、格子転位の運動を阻止するのに効果的な方法である。変形過程で多数の転位を発生させ、さらなる転位の運動を抑制する冷間加工(塑性ひずみ)もまた、材料を強化する。これらの強化法はすべて、転位の運動を制限するが、伝導する電子のための散乱を高める種々の欠陥(GB、転位、点欠陥及び強化相など)の導入に基づく。後者は材料の導電率を下げる。
【0008】
たとえば、室温における粗粒状Cuの引張り降伏強さ(σy)は、理論強度よりも二桁ほど低いわずか0.035GPaであり、伸びは約60%である。冷間加工ののち(圧延状態のCuとして)引張り降伏強さは適切に増大し、約250MPaである。ナノ結晶Cuは、粗粒状Cuよりも高いσyを有する。米国人科学者J. R. Weertmanら[Sander P. G., Eastman J. A. & Weertman J. R., Elastic and tensile behavior of nanocrystalline copper and palladium, Acta Mater., 45(1997) 4019-4025]は、不活性ガス凝縮により、結晶粒度が約30nmであり、引張り降伏強さが室温で365MPaであるナノ結晶Cuを製造した。R. Suryanarayana教授ら[Suryanarayana R. et al., Mechanical properties of nanocrystalline copper produced by solution-phase synthesis, J. Mater. Res. 11(1996) 439-448]は、ボールミル粉砕によってナノ結晶銅粉末を製造したのち、精製されたCu粉末をコールドプレスして結晶粒度26nmのナノ結晶Cuとした。その降伏強さは約400MPaである。しかし、ナノ結晶試料は、通常は1〜2%未満の非常に限られた伸びしか有しない。中国では、L. Lu、K. Luら(特許出願第0114026.7号)が、電着技術によって結晶粒度30nmのバルクナノ結晶Cuを製造している。電着状態のナノ結晶Cuが、従来のナノメートル材料中の大傾角GBとは違って、小傾角GBからなるということが示されている。室温における降伏強さは119MPaであり、伸びは30%である。電着状態のナノ結晶Cuを室温で冷間圧延すると、試料の平均結晶粒度は変化しなかったが、ナノ結晶中のミス方位及び転位密度が増大した。圧延状態のナノ結晶Cuの降伏強さは425MPaにも達したが、伸びは1.4%まで低下した。J. R. Weertmanらは、ナノ結晶Cu試料(1mm)の微小試験片引張り試験で535MPaの降伏強さを達成した[Legros M., Elliot B. R., Ritter M. N., Weertman J. R. & Hemker K. J., Microsample tensile testing of nanocrystalline metals, Philos. Mag. A., 80(2000) 1017-1026]。表面の機械的磨砕処理によって製造されたナノ結晶Cu試料の場合、微小試験片(試料の厚さ11〜14μm、ゲージ長1.7mm、断面積0.5mm×0.015mm)の室温における引張り試験結果が、降伏強さは760MPaの高さであったが、伸びがほぼゼロであることを示した[Wang Y. M., K. Wang, Pan D., Lu K., Hemker K. J. and Ma E., Microsample tensile testing of nanocrystalline Cu, Scripta Mater., 48(2003) 1581-1586]。一方、非常に大きな塑性変形によって加工された結晶粒度109nmの銅に関する室温における圧縮試験で約400MPaの降伏強さが達成されるが、室温(293K)での電気固有抵抗は2.46×10-8Ω・m(わずか68%IACS)の高さであった[Islamgaliev R. K., Pekala K., Pekala M. and Valiev R. Z., Phys. Stat. Sol. (a), 162(1997) 559-566]。
【0009】
発明の概要
本発明の目的は、超高強度及び高い導電率を有するナノ双晶銅材料及びその製造方法を提供することである。
【0010】
上述した目的を実現するため、本発明の技術的プログラムは以下のとおりである。
【0011】
超高強度及び高い導電率を有するナノ双晶Cuの微細構造は、ランダムな方位及び高い密度の双晶ラメラ構造が存在するほぼ等軸晶のサブミクロンサイズの結晶粒で構成されている。同じ方位を有する双晶ラメラは結晶粒中で互いに対して平行である。ラメラ厚さは数ナノメートルから100nmまで異なり、長さは100nmから500nmまで異なる。
【0012】
加えて、材料の密度は8.93±0.03g/cm3であり、純度は99.997±0.02原子%であり、室温で引張りひずみ速度6×10-3/sにおける降伏強さは900±10MPaであり、伸びは13.5±0.5%である。サブミクロンサイズの粒径は300〜1000nmであり、室温(293K)での電気固有抵抗及び固有抵抗温度係数は、それぞれ(1.75±0.02)×10-8Ω・m及び6.78×10-11-1であり、導電率g=96%IACSに相当する(IACSは、国際焼きなまし銅標準を意味する)。
【0013】
きわめて高い引張り降伏強さ及び高い導電率を有するナノ双晶Cuの製造方法は以下のとおりである。
【0014】
電着技術を使用し、電解液は、イオン交換水及び蒸留水とのpH0.5〜1.5の電子純度等級CuSO4溶液からなる。アノードは、純度99.99%のCuシートであり、カソードは、Ni−P非晶質表面層でめっきされたFeシート又は低炭素鋼シートである。
【0015】
詳細な電気分解技術パラメータは以下のとおりである。パルス電流密度は40〜100A/cm2であり、オン期間(ton)が0.01〜0.05秒であり、オフ期間(toff)が1〜3秒であり、カソードとアノードとの間の距離は50〜150mmであり、アノード面積とカソード面積との比は(30〜50):1である。電解液を、電磁攪拌する間、15〜30℃の温度範囲で制御した。添加物は、0.02〜0.2mL/Lゼラチン(5〜25%)水溶液及び0.2〜1.0mL/L高純度NaCl(5〜25%)水溶液で構成される。
【0016】
本発明は以下の利点を有する。
【0017】
1.優れた性質。本発明の一つの特徴は、パルス電着技術によって、高い密度でナノメートル間隔の成長双晶を純粋なCu試料に誘発したということである。双晶ラメラの間隔は、数ナノメートルから100nmまで異なり、長さは約100〜500nmである。
【0018】
本材料は、室温で、従来法によって製造された匹敵しうる結晶粒度のCu試料の引張り降伏強さよりもはるかに高い900MPaの引張り降伏強さを示す。その一方で、試料は、非常に良好な導電率を維持する。室温での導電率は96%ICASである。
【0019】
2.幅広い用途。ナノメートル間隔の特殊な双晶ラメラのおかげで、本Cuは、超高強度を示しながらも妥当な導電率及び熱安定性を維持する。したがって、この特殊な材料は、急速に発展するコンピュータ産業、無線通信及びプリント基板に光明を投じる。
【0020】
3.簡単な製造方法。本発明の高密度成長ナノスケール双晶を有するCu試料は、従来の電着技術により、技術的条件を変更し、適切な電着パラメータを制御することによって達成することができる。
【0021】
発明の詳細な説明
以下、添付図面及び実施例を参照して本発明をさらに記載する。
【0022】
実施例1
1.高密度ナノスケール双晶ラメラ構造を有するCu材料をパルス電着技術によって製造した。電解液は、不純物、たとえば重金属の含量が厳しく抑制された脱イオン水との電子純度等級CuSO4溶液であった。酸性度はpH=1であった。純粋なCuシート(純度>99.99%)をアノードとして使用し、Ni−P非晶質表面層を有するFeシートをカソードとして使用した。
【0023】
2.電気分解処理パラメータ:パルス電流密度50A/cm2、オン期間(ton)0.02秒、オフ期間(toff)2秒、両極間距離100mm、アノードとカソードとの面積比50:1、浴を電磁攪拌し、電着処理を20℃で実施した。浴添加物は、0.1mL/Lゼラチン水溶液(濃度15%)及び0.6mL/L高純度NaCl水溶液(濃度15%)で構成されたものであった。
【0024】
高密度のナノスケール(1nm=10-9m)双晶ラメラを有する製造されたCu試料は、室温(わずか0.2Tm、Tmは融点である)で、900±10MPaのきわめて高い引張り降伏強さ及び(1.75±0.02)×10-8Ω・m(96%IACSに相当)の良好な電気固有抵抗を示す。
【0025】
化学分析の結果は、電着状態のCu試料の純度が99.998原子%を超えることを示した。不純物元素の化学含量を以下に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
アルキメデスの原理によって測定した試料の密度は8.93±0.03g/cm3であり、文献における純粋な多結晶Cuの理論密度(8.96g/cm3)の99.7%に匹敵する。高解像度透過型電子顕微鏡(HRTEM)は、ナノ結晶Cuが、ほぼ等軸晶のサブミクロンサイズ(300〜1000nm)の結晶粒であって、異なる方位を有する高密度双晶ラメラ構造であり、結晶粒中で双晶ラメラが互いに対して平行であることを示した(図1−1、1−2、1−3)。ラメラ厚さは、約数ナノメートルから100nmまで異なり、平均間隔は約15nmである。長さは約100〜150nmである。電着状態の試料では、転位密度は非常に低い。電着状態のCu試料中の大部分の双晶粒界はコヒーレント双晶粒界である。数少ない転位しか検出することができない(図1−1、1−2、1−3、2−1、2−2)。
【0028】
図3は、室温における電着状態のCuの典型的な真応力−真ひずみ曲線を示す。比較のため、粗粒状Cuの引張り曲線をも含める。6×10-3s-1の引張り速度で、電着状態のCuの降伏強さは900±10MPaであり、伸びは13.5%である。図4は、ナノスケール双晶を有する電着状態のCu試料に関する電気固有抵抗の測定温度(4−296K)依存性を粗粒状Cuと比較して示す。ナノスケール双晶を有するCuの電気固有抵抗は室温で(1.75±0.02)×10-8Ω・mであり、それに比べ、粗粒状Cuの場合、(1.67±0.02)×10-8Ω・mである。
【0029】
実施例2
実施例1との違いは以下のとおりである。
【0030】
1.ナノ双晶ラメラ構造を有するCu材料を電着によって製造した。電解液は、蒸留水との電子純度等級CuSO4溶液で構成されたものであり、酸性度はpH=0.5であった。純粋なCuシート(純度>99.99%)をアノードとして使用し、Ni−P非晶質表面層を有するFeシートをカソードとして使用し、アノードとカソードとの面積比は約30:1であった。
【0031】
2.浴添加物は、0.02mL/Lゼラチン水溶液(濃度5%)と0.2mL/L高純度NaCl水溶液(濃度5%)との組み合わせであった。電気分解処理パラメータは以下のとおりであった。パルス電流密度は80A/cm2であり、オン期間(ton)は0.05秒であり、オフ期間(toff)は3秒であり、両極間距離は50mmであり、浴温度は15℃であった。
【0032】
上記条件下、高純度ナノスケール双晶ラメラ構造を有するCu材料を同様に達成することができる。TEM観察は、このようなナノスケール双晶Cuが先のCuと類似した微細構造を有することを示した。この構造はまた、異なる方位を有するナノ双晶ラメラ構造が高密度で存在する、ほぼ等軸晶のサブミクロンサイズの結晶粒であることを示した。しかし、平均双晶間隔はより大きく、約30nmであった。転位密度も同じく低い。このCuの引張り降伏強さは810MPaであり、電気固有抵抗は室温で(1.927±0.02)×10-8Ω・mである。
【0033】
実施例3
実施例1との違いは以下のとおりである。
【0034】
1.ナノ双晶ラメラ構造を有するCu材料を電着によって製造した。電解液は、蒸留水との電子純度等級CuSO4溶液で構成されたものであり、酸性度はpH=1.5であった。純粋なCuシート(純度>99.99%)をアノードとして使用し、Ni−P非晶質表面層を有する低炭素鋼シートをカソードとして使用し、アノードとカソードとの面積比は40:1であった。
【0035】
2.浴添加物は、0.15mL/Lゼラチン水溶液(濃度25%)と1.0mL/L高純度NaCl水溶液(濃度25%)との組み合わせであった。電気分解処理パラメータは以下のとおりであった。パルス電流密度は40A/cm2であり、オン期間(ton)は0.01秒であり、オフ期間(toff)は1秒であり、両極間距離は150mmであり、浴温度は25℃であった。
【0036】
上記条件下、高純度及び高密度成長双晶を有するCu材料を同様に製造することができる。TEM観察は、このナノ双晶Cuもまた、異なる方位を有する高密度成長双晶を含むほぼ等軸晶のサブミクロンサイズの結晶粒で構成されており、ラメラ双晶の平均厚さが約43nmであり、転位密度が非常に低いということを示した。引張り降伏強さは650MPaであり、電気固有抵抗は室温で(2.151±0.02)×10-8Ω・mである。
【0037】
比較例1
従来の焼きなまし状態の粗粒状Cuは通常、室温で、35MPa未満の引張り降伏強さ(σy)及び200MPa未満の極限引張り強さ(σuts)を有し、破断伸びは60%未満である。冷間圧延Cuの引張り降伏強さ及び極限強さは通常、それぞれ約250MPa及び290MPaまで増大し、破断伸びは約8%である。したがって、従来の粗粒状Cuの引張り降伏強さ(焼きなまし状態又は冷間圧延)は通常、250MPa未満である。
【0038】
比較例2
米国人科学者R. Suryanarayanaらは、メカニカルアロイングによってナノ結晶Cu粉末を製造した。その粉末を、精製したのち、バルクナノ結晶Cu試料(結晶粒度26nm)にプレスした。この試料に関して測定された引張り降伏強さは約400MPaである。
【0039】
比較例3
米国人科学者J. Weertmanらによって報告されているように、不活性ガス凝縮(IGC)及び高真空(10-5〜10-6Pa)中のその場圧密化技術(圧力1〜5GPa)により、平均結晶粒度22nm〜110nmのナノ結晶Cu材料を製造した。試料の密度は理論密度の約96%であり、微小ひずみは高めであった。室温での定ひずみ引張り試験は、ナノ結晶Cuが粗粒状Cuよりも高い強度を示し、引張り降伏強さ及び破断強さがそれぞれ約300〜360MPa及び415〜480MPaであることを示した。研究はまた、材料の強さが、その平均結晶粒度だけでなく、その製造履歴にも密接に関連するということを示す。通常、小さな結晶粒度の試料は高めの強度を示すが、大きな結晶粒の試料は低めの強度を示し、結晶粒度の低下とともに塑性が低下する。結晶粒度が22nmまで低下すると、降伏強さは360MPaの最大値に達し、その後、結晶粒度のさらなる増大とともに低下する。IGCによって製造されたCu試料と電着によって製造されたCu試料との大きな違いの一つは、前者試料の電気固有抵抗が非常に高いということである。
【0040】
比較例4
米国人科学者J. Weertmanらは、不活性ガス凝縮力(1.4GPaの圧力)によって凝固させた平均結晶粒度30nmのナノ結晶Cu試料を製造した。試料の密度は理論密度の99%であった。微小試験片(試料の全長は3mmであり、断面積は200μm×200μmである)の引張り特性は、降伏強さが535MPaに達するということを示した。しかし、マクロ試験片から得られた機械的性質が、機械的挙動及びその微細構造に関する信頼しうる全体的な理解を与えることができることは明白である。
【0041】
比較例5
中国では、L. Lu及びK. Luらが、DC電着によって結晶粒度30nmのバルクナノスケールCuを製造した。実験は、電着状態のナノ結晶Cuが小傾角粒界を有し(従来のナノ結晶材料の大傾角粒界とは異なる)、室温降伏強さが119MPaであり、伸びが30%であることを示した。電着状態のナノ結晶Cu試料を室温で圧延するならば、試料の平均結晶粒度は変化しなかったが、試料中のナノ結晶間のミス方位及び転位密度が増大した。平均結晶粒度は同じであるが微細構造が異なる圧延状態のナノ結晶Cuの降伏強さは425MPaまで極端に増大したが、伸びはわずか1.4%まで低下した。
【0042】
比較例6
ロシア人科学者R. V. Valievらによって報告されているように、非常に大きな塑性変形により、空隙のないサブミクロンサイズの純粋なCuを得た。Cu試料の平均結晶粒度は210nmであったが、試料中の残留応力は高かった。室温で、引張り強さは500MPaであり、伸びは約5%であった。試料の室温電気抵抗は、70%IACSに相当する2.24×10-8Ω・mであった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1−1】本発明のパルス電着によるナノスケール双晶を有する電着状態の銅の明視野TEMイメージである。
【図1−2】本発明のパルス電着によるナノスケール双晶を有する電着状態の銅のTEMイメージから測定した結晶粒度の統計的分布である。
【図1−3】本発明のパルス電着によるナノスケール双晶を有する電着状態の銅のTEMイメージから測定した双晶ラメラの厚さの統計的分布である。
【図2−1】本発明のパルス電着によるナノスケール双晶を有する電着状態の銅のHRTEMイメージである。
【図2−2】本発明のパルス電着によるナノスケール双晶を有する電着状態の銅のHRTEMイメージに対応する電子回折図である(この図で、A及びTは双晶化元素であり、Aはマトリックスであり、Tは双晶である)。
【図3】室温におけるナノ双晶を有する電着状態のCu及び粗粒状多結晶Cu試料の典型的な引張り応力−ひずみ曲線である。
【図4】4〜296Kの温度範囲におけるナノ双晶を有する電着状態のCu及び粗粒状多結晶Cu試料に関して測定された電気固有抵抗の温度依存性である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほぼ等軸晶のサブミクロンサイズの結晶粒で構成され、各結晶粒の中に異なる方位の成長双晶ラメラが高密度で存在し、同じ方位の双晶ラメラは相互に平行であり、双晶間隔が数ナノメートルから100nmまでの範囲であり、長さが100nmから500nmまでの範囲である、超高強度及び高い導電率を有するナノ双晶銅材料。
【請求項2】
以下の性質:8.93±0.03g/cm3の密度、99.997±0.02原子%の純度、室温で、引張りひずみ速度6×10-3/sにおける900±10MPaの降伏強さ及び13.5±0.5%の伸び、室温(293K)で(1.75±0.02)×10-8Ω・mの電気固有抵抗、6.78×10-11-1の固有抵抗温度係数を有する、請求項1記載の超高強度及び高い導電率を有するナノ双晶銅材料。
【請求項3】
前記サブミクロンサイズの粒径が300〜1000nmである、請求項1記載の超高強度及び高い導電率を有するナノ双晶銅材料。
【請求項4】
請求項1記載の超高強度及び高い導電率を有するナノ双晶銅材料の製造方法であって、電着技術を使用し、イオン交換水又は蒸留水を添加した電子純度等級CuSO4溶液を電解液として選択し、前記電解液のpHが0.5〜1.5であり、アノードが純度99.99%のCuシートであり、カソードがNi−P非晶質層によってめっきされた表面を有する鉄シート又は低炭素鋼シートであり、
前記パルス電着技術パラメータが、40〜100A/cm2のパルス電流密度、0.01〜0.05秒のオン期間(ton)、1〜3秒のオフ期間(toff)、50〜100mmのカソードとアノードとの間の距離、(30〜50):1のアノードとカソードとの面積比、15〜30℃の電解液温度、電磁攪拌中の電解液を含み、
添加物が、濃度5〜25%の0.02〜0.2mL/Lゼラチン水溶液と、濃度5〜25%の0.2〜1.0mL/L高純度NaCl水溶液との組み合わせである方法。

【図1−2】
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【図1−3】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−505101(P2006−505101A)
【公表日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−547350(P2004−547350)
【出願日】平成15年10月16日(2003.10.16)
【国際出願番号】PCT/CN2003/000867
【国際公開番号】WO2004/040042
【国際公開日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【出願人】(505164391)中国科学院金属研究所 (1)
【Fターム(参考)】