説明

路面画像作成方法および路面画像作成装置

【課題】 路面画像を縮小して表示する際にも、クラックの位置や進展形状を識別可能とする技術を提供する。
【解決手段】 微細なクラックの位置と進展形状を識別可能な縮小路面画像を作成する方法であって、道路を走行しながら路面を繰り返し撮影する工程と、撮影された原画像をつなぎ合わせた路面画像を記述する路面画像データを生成する工程と、路面画像データから、路面画像におけるクラックの位置と進展形状を特定する工程と、路面画像データから、路面画像を縮小した縮小路面画像を記述する縮小路面画像データを生成する工程と、路面画像から縮小路面画像への縮小倍率に従って、路面画像におけるクラックの位置と進展形状から、縮小路面画像におけるクラックの位置と進展形状を算出する工程と、縮小路面画像におけるクラックの位置と進展形状を縮小路面画像に識別可能に重ね合わせたクラック識別画像を出力する工程を備える方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路面画像を作成する方法と装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
道路の維持修繕を目的として、路面のひび割れ(クラック)やわだち掘れ、あるいは路面下の構造といった路面性状についての種々の調査が行われている。路面のクラックは道路が傷んでいることの証拠であるが、路面のクラックはその発生要因に着目して、路面下の構造に起因するクラックと、車両の往来による荷重や衝撃に起因するクラックに大別される。路面下の構造に起因するクラックは、例えばアスファルト表層下にあるコンクリート路床の継ぎ目部分に発生するクラックであって、リフレクションクラックと呼ばれている。リフレクションクラックは、道路の横断方向に直線的に進展することが知られている。荷重や衝撃に起因するクラックは、わだち掘れの部位に出現することが多く、その多くが道路の進行方向に進展することが知られている。
【0003】
路面のクラックに関する評価手法として、50cm四方ごとに含まれるクラックの本数(0本、1本、または2本以上)の表をもとにしたひび割れ率を用いる手法が現在用いられている。この評価手法によれば、道路が傷んでいる領域と傷んでいない領域を概略的に識別することはできるが、クラックの発生要因を推測することが困難であり、適切な維持修繕計画を立案することが困難である。路面上のクラックの発生要因を推測することができれば、その発生要因に応じてより傷みの進行を少なくする維持修繕を行うことが可能となる。クラックの発生要因は、円柱状のコアサンプルを道路から抜き取って調査することで推定することができるが、この作業にはコストと時間を必要とする。またコアの抜き取り調査を行うには、道路を通行止めしておく必要がある。従って、道路の全体にわたって丹念に調査することは事実上不可能である。
【0004】
そこで本出願人らは、路面のクラックの有無と、その発生要因を推定するために、路面撮影カメラを車両に搭載し、その車両で走行しながら路面を撮影し、高解像度で撮影された路面画像からクラックの位置、進展方向、密度などを特定する技術を開発している。この技術は、特許文献1や特許文献2に開示されている。この技術では、路面撮影カメラとしてラインカメラを用いる。ラインカメラによって、車両幅方向には1車線分の長さに亘って伸び、車両縦方向(進行方向)にはセンサの大きさとレンズ倍率およびシャッター速度によって定まる幅(例えば1mm)の線(ライン)状の領域を撮影する。撮影によって得られる画像を以下では原画像と呼ぶ。車両の縦方向の撮像幅が実用上十分に小さければ、この幅に実質的に等しい距離(例示の場合には1mm)を走行する毎に、ライン状視野内の路面の撮影を繰返すことによって、長い路面を細かな画素で撮影した画像(路面画像)を得ることができる。このとき、路面は、実用上平面であると近似して差し支えない。走行する車両から路面を撮影して得た撮影データおよび距離や走行車線の情報を記憶することによって、路面画像用データファイルが作成される。この路面画像用データファイルから得られる情報を使って原画像を配置し補間演算を施すことで、ディスプレイなどの表示対象に路面画像を表示することができ、路面のクラックの位置と進展形状や、路面に存在するマンホールの種類と位置や、路面にペイントされた各種の道路標識の鮮明さ等を把握しやすくなり、道路の維持管理に必要な負担を軽減することができる。道路の維持管理には、数kmにわたる範囲において数mm程度のクラックをも検出することや、クラックの正確な位置情報を把握することが可能な高解像度の路面画像が求められる。
【0005】
【特許文献1】特開2002−54911号公報
【特許文献2】特開2005−055318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高解像度の路面画像が得られると、ユーザはその画像から路面上のクラックの位置や進展形状を視認することが可能となり、局所的なクラックの態様を詳細に観察することが可能となる。しかしながら、路面画像を表示するディスプレイや、路面画像を印刷する用紙のサイズは限られているため、道路の全域にわたる路面画像を一度に表示することはできない。例えば道路の10km区間において、どこにクラックが存在しているのかを知りたい場合に、10km区間の全域にわたる路面画像を一度に表示することはできない。道路の全域にわたるクラックの大域的な分布を調べたい場合には、大域的な情報が効率的に得られる程度に路面画像を縮小し、選択的に表示しなければならない。
【0007】
画像処理によって路面画像を縮小して表示すると、もとの路面画像では認識できていたクラックが、縮小された画像では認識できなくなってしまうという問題が生じる。例えば、ラインカメラによって撮影された画像から得られる路面画像を1/100に縮小して表示する場合、100×100の画素によって表現されていた路面上の領域が、これを縮小表示した画像においては1つの画素によって表現される。この際に、元の路面画像における100×100の各画素の画像情報が平均化されて、縮小画像における1つの画素の画像情報とされる。路面上のクラックの太さは数mm程度であり、元の路面画像においては画素数個分の太さで表現される。画像の縮小処理がなされると、上記の平均化処理によってクラックが画像から除去されてしまい、縮小画像においてクラックを認識することができなくなってしまう。せっかく路面上の微細なクラックを識別できるように高解像度で撮影したにもかかわらず、縮小画像ではクラックを識別できなくなってしまう。
【0008】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、道路の大域的な領域を一度に表示できるように路面画像を縮小して表示する際にも、路面上のクラックの位置や進展形状を識別可能とする技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は微細なクラックの位置と進展形状を識別可能な縮小路面画像を作成する方法として具現化される。本発明の方法は、道路を走行しながら路面を繰り返し撮影する工程と、撮影された原画像をつなぎ合わせた路面画像を記述するデータ(路面画像データ)を生成する工程と、路面画像データから、路面画像におけるクラックの位置と進展形状を特定する工程と、路面画像データから、路面画像を縮小した画像(縮小路面画像)を記述するデータ(縮小路面画像データ)を生成する工程と、路面画像から縮小路面画像への縮小倍率に従って、路面画像におけるクラックの位置と進展形状から、縮小路面画像におけるクラックの位置と進展形状を算出する工程と、縮小路面画像におけるクラックの位置と進展形状を縮小路面画像に識別可能に重ね合わせた画像(クラック識別画像)を出力する工程を備えている。
【0010】
図6に上記の方法の原理を模式的に示している。上記の方法では、図6の(A)に示すように道路を走行しながら撮影して得られる路面画像100を記述する路面画像データを生成する。路面画像100には、路面のクラック102が写っている。そして、図6の(B)に示すようにその路面画像データから路面画像100におけるクラック102の位置と進展形状を予め特定しておく。ここで、クラック102の位置とは、路面画像100においてクラックが存在する位置、すなわち路面上においてクラックが存在する位置を意味する。クラック102の進展形状とは、路面画像100においてクラックが進展している形状、すなわち路面上においてクラックが進展している形状を意味する。そして、図6の(C)に示すように路面画像データについての画像縮小処理を行って縮小路面画像104を記述する縮小路面画像データを生成して、図6の(D)に示すように縮小路面画像におけるクラック102の位置と進展形状を算出する。そして、図6の(E)に示すように、図6の(D)の縮小路面画像におけるクラック102の位置と進展形状を図6の(C)の縮小路面画像104に重ね合わせたクラック識別画像106を出力する。この方法によれば、図6の(A)から(C)への画像の縮小処理においてクラック102が画像から除去されてしまっても、図6の(E)のように縮小路面画像104にクラック102の位置と進展形状を識別可能に重ね合わせたクラック識別画像106を出力することができる。上記の方法によって出力されるクラック識別画像106を観察することによって、ユーザは道路の全域にわたるクラック102の位置や進展形状の大域的な分布を容易に把握することが可能となる。なおこれらの処理によって得られる画像(クラック識別画像)は、表示装置の一画面分もしくは数画面分をスクロールして表示するもので、元の路面画像が非常に大きな範囲であるときは、このうちの一部を選択的に表示する。
【0011】
上記の方法によって出力されるクラック識別画像によって、路面上のクラックの位置、進展形状、密度などを大域的に表現することができる。これによって、路面上のクラックが、路面下の構造に起因するものであるのか、あるいは車両の往来に伴う荷重や衝撃に起因するものであるのか、その発生要因を識別することが可能となり、路面の損傷についての詳細な調査を簡便な手法によって行うことができる。上記の方法を路面の損傷に関する1次調査(スクリーニング)として実施し、その結果に基づいて道路のコア抜き取り調査を行うことが非常に有益である。道路のコア抜き取り作業にはコストと時間を要するため、必要な箇所のみについて実施することが好ましい。上記の方法によって得られるクラック識別画像から、路面におけるクラックの分布状況を把握し、それぞれのクラックの発生要因を推定した後に、必要な箇所についてのみコアの抜き取り調査を行うことにより、路面の性状調査にかかる費用を抑制し、短期間で作業を行うことができる。
【0012】
上記の方法においては、前記路面画像におけるクラックの位置と進展形状を特定する工程が、路面画像データにおける画素毎の明暗情報に基づいて、路面画像におけるクラックの位置と進展形状を自動的に抽出する工程を含むことが好ましい。
【0013】
上記の方法によれば、路面画像からクラックの位置と進展形状を特定する際に、オペレータが行う作業を簡略化することができる。クラック識別画像を出力するためのオペレータの労力を軽減することができる。
【0014】
上記の方法においては、前記クラック識別画像においてクラックが暖色で表現されることが好ましい。
【0015】
一般的な道路の路面の色彩はグレーであり、例えばクラック識別画像で黒や灰色を用いてクラックを表現すると、グレーの路面との対比において、クラックの視認性が悪くなってしまう。上記の方法によれば、クラック識別画像でクラックを黄色や赤などの暖色で表現することによって、グレーの路面との対比において、クラックの視認性を向上することができる。
【0016】
上記の方法においては、前記縮小倍率が1/100以下であることが好ましい。
【0017】
縮小倍率が1/100であれば、道路の20m区間の路面画像をA4サイズの用紙1枚に印刷することができる。従って、縮小倍率が1/100以下である場合には、道路の20m以上の区間についてのクラック識別画像を出力することが可能となり、ユーザは道路の20m以上の区間におけるクラックの分布状況をひとめで認識することが可能となる。
【0018】
本発明は、微細なクラックの位置と進展形状を識別可能な縮小路面画像を作成する装置としても具現化される。その装置は、道路を走行しながら路面を繰り返し撮影する手段と、撮影された原画像をつなぎ合わせた路面画像を記述するデータ(路面画像データ)を生成する手段と、路面画像データから、路面画像におけるクラックの位置と進展形状を特定する手段と、路面画像データから、路面画像を縮小した画像(縮小路面画像)を記述する縮小路面画像データを生成する手段と、路面画像から縮小路面画像への縮小倍率に従って、路面画像におけるクラックの位置と進展形状から、縮小路面画像におけるクラックの位置と進展形状を算出する手段と、縮小路面画像におけるクラックの位置と進展形状を縮小路面画像に識別可能に重ね合わせた画像(クラック識別画像)を出力する手段を備えている。
【発明の効果】
【0019】
本発明の方法および装置によれば、道路の大域的な領域を一度に表示できるように路面画像を縮小して表示する際にも、路面上のクラックの位置や進展形状を識別可能とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
後述する実施例の主要な特徴を記載する。
(1)路面を撮影する工程においては、夜間にライトで路面を照明しながら走行し、照明された路面をラインカメラで連続的に撮影する。
【実施例】
【0021】
本発明の実施例に係る路面画像作成システム2について、図面を参照しながら説明する。図1に示すように、路面画像作成システム2は、路面撮影装置10と、路面画像作成装置40を備えている。
【0022】
路面撮影装置10は、測定車20、撮影部12、ロータリーエンコーダ18、制御装置16、記憶装置15、照明部14を備えている。
【0023】
撮影部12は、測定車20の上部に固定されており、ブーム24とラインカメラ22を有している。ブーム24の先端は、照明部14の前端よりも前方側にオーバーハングしている。ラインカメラ22は、ブーム24の先端下部に装着されており、路面28を真上から測定車20の走行直角方向(路面28の幅方向)に沿って撮影する。ラインカメラ22は、レンズを透過して入力された画像をCMOS、CCD等の撮像素子で撮影する。このラインカメラ22は、4096個の撮像素子を持ち、各撮像素子は、「1mm×1mm」を撮影するので、一度に4096mmの長さに亘って撮影を行うことができる。4096mmは、1車線の幅よりも若干大きい。
【0024】
ロータリーエンコーダ18、制御装置16、記憶装置15は、測定車20に装着されている。測定車20は、マイクロバスを測定用に改造したものである。ロータリーエンコーダ18は路面28と接触しており、路面撮影装置10の走行にともなって回転する回転部18aと、回転部18aの回転を検出する回転検出部(図示省略)を備えている。ロータリーエンコーダ18は、路面撮影装置10が1mm走行する毎にパルスを出力する。
【0025】
制御装置16には、ラインカメラ22、ロータリーエンコーダ18、記憶装置15が接続されている。制御装置16は、CPU、ROM、RAM等を備えるコンピュータである。制御装置16は、ロータリーエンコーダ18から入力されるパルス信号を用いて、ROMに格納されている制御プログラムを実行して、指定された本数のパルス毎に制御信号(露光開始信号)をラインカメラ22に出力することにより、路面撮影装置10が1mm走行する毎にラインカメラ22に撮影を行わせる。従って、路面28は、ラインカメラ22によって連続的に撮影される。以下ではラインカメラ22によって撮影されたライン状の撮影画像を原画像と呼ぶ。また、制御装置16は、ロータリーエンコーダ18から入力されるパルス信号に基づいて、路面28の撮影を開始してからの路面撮影装置10の走行距離を把握している。そして、制御装置16は、撮影した各ライン撮影データと、路面の撮影を開始してからの路面撮影装置10の走行距離とを対応付けて、記憶装置15に記憶させる。記憶装置15は、入力されたデータを、複数のハードディスクに分散して記憶する。
【0026】
路面撮影装置10は、夜間にライト36で路面28を照明しながら走行し、照明された路面28をラインカメラ22で撮影する。ラインカメラ22によって撮影されて記憶装置15に記憶された画像データは、道路管理所等に設置された路面画像作成装置40にダウンロードされる。
【0027】
路面画像作成装置40は、電子計算機44、外部記憶装置46、ディスプレイ48、入力装置50、プリンタ52等を備えている。
【0028】
電子計算機44は、CPU、ROM、RAM等を備えるコンピュータである。外部記憶装置46は、ハードディスク等の記憶媒体を備える。電子計算機44は、路面撮影装置10の記憶装置15に記憶されている各ライン撮影データおよび走行距離のデータを、有線または無線通信を介してダウンロードし、外部記憶装置46に記憶する。電子計算機44は、外部記憶装置46に記憶されたライン撮影データおよび走行距離のデータを用いて、路面画像データを作成する。図2に示すように、電子計算機44は、各ライン撮影画像110、112、114、・・・が測定車20の左右方向(図中Y方向)に沿って伸びるように、各ライン撮影画像110、112、114、・・・を測定車20の走行方向(図中X方向)に撮影時の走行距離および位置に応じて配置したひとつながりの路面画像26を記述する路面画像データを作成する。なお原画像を配置したとき、距離に比して撮像視野が狭い場合は、画像補間を行う。得られた路面画像の縦横比は、実際の路面と同じである。電子計算機44は、作成された路面画像データを外部記憶装置46に記憶する。路面画像26には、路面28に入っているクラック43や、路面28の両サイドに描かれているライン42が撮影されている。
【0029】
本実施例の路面画像作成装置40は、外部記憶装置46に記憶された路面画像データから、路面画像におけるクラックの位置と進展形状を特定する。本実施例の路面画像作成装置40では、クラックを線分の連鎖として扱い、クラックを構成する線分同士が連結する点の位置と、それらの点の間での線分の有無を規定することによって、クラックの位置と進展形状を表現する。
【0030】
以下では図3を参照しながら、路面画像作成装置40がクラックの位置と進展形状を特定する処理について説明する。
【0031】
ステップS302では、電子計算機44は外部記憶装置46から路面画像データを読込む。
【0032】
ステップS304では、路面画像におけるクラックの軌跡を特定する。本実施例では、電子計算機44は路面画像データによって記述される路面画像をディスプレイ48上に表示して、オペレータによるクラックの軌跡の入力を促す。ここで表示される路面画像には、画像の縮小処理が施されていない。従って、ラインカメラ22で撮影された画像を配置し補間することで、ディスプレイ48に縦横比が実物と同じ画像が表示される。電子計算機44のオペレータは、ディスプレイ48に表示された路面画像を視認しながら、路面上のクラックを識別して、路面画像上でのクラックの軌跡を入力装置50のマウス(図示省略)によって入力する。マウスによる入力は、ディスプレイ48に表示されたポインタを路面画像上でクラックに重ね合わせた状態でクリックし、クリックしたままクラックをなぞることによって行われる。なお、ステップS304では、オペレータによるクラックの視認性を向上するために、路面画像を拡大または縮小してディスプレイ48に表示してもよい。
【0033】
ステップS306では、オペレータによって入力されたクラックの軌跡に基づいて、クラックの位置と進展形状を算出する。ステップS304では、オペレータが視認した路面画像のクラックがマウス操作によって、路面画像における点の集合として入力されている。ステップS306では、電子計算機44は折れ線近似等を行い、路面画像データにおける線分の連鎖としてのクラックの位置と進展形状を算出する。折れ線近似については、画像処理の分野において従来から用いられている手法であるから、ここでは詳細な説明を省略する。
【0034】
ステップS308では、算出されたクラックの位置と進展形状を、路面画像データと関連付けて、外部記憶装置46に記憶する。
【0035】
上記した図3の処理によって、クラックの位置と進展形状が関連付けられた路面画像データを得ることができる。このデータを利用することによって、クラックを識別可能に重ね合わされた縮小路面画像(クラック識別画像)をディスプレイ48上に表示することもできるし、プリンタ52を用いて印刷することもできる。以下では図4を参照しながら、クラック識別画像を出力する処理について説明する。
【0036】
ステップS402では、表示範囲にしたがってクラックの位置と進展形状が関連付けられた路面画像データを外部記憶装置46から選択的に読み出す。
【0037】
ステップS404では、路面画像の縮小倍率を特定する。路面画像の縮小倍率は、オペレータが入力装置50のキーボード(図示省略)によって入力する。縮小倍率は路面画像を出力するディスプレイや用紙のサイズに応じて、任意に設定することができる。例えば、縮小路面画像をA4サイズの用紙に印刷する場合には、縮小倍率を1/100とすれば、道路の20m区間の路面画像を1枚の用紙に印刷することができる。また、縮小倍率を1/1000とすれば、道路の200m区間の路面画像を1枚の用紙に印刷することができる。
【0038】
ステップS406では、外部記憶装置46から読み出された路面画像データと、入力された縮小倍率に基づいて、その縮小倍率で縮小された路面画像(縮小路面画像)を記述する縮小路面画像データを作成する。路面画像データから縮小路面画像データを得る処理については、従来技術であるから、ここでは詳細な説明を省略する。
【0039】
ステップS408では、路面画像データに関連付けられたクラックの位置と進展形状と、入力された縮小倍率に基づいて、縮小路面画像におけるクラックの位置と進展形状を算出する。縮小路面画像におけるクラックの位置と進展形状は、路面画像におけるクラックの進展形状と縮小路面画像におけるクラックの進展形状が相似形となり、かつそれぞれの画像において対応する位置にクラックが存在するように算出される。
【0040】
ステップS410では、縮小路面画像にクラックを識別可能に重ね合わせた画像(クラック識別画像)を作成する。
クラック識別画像におけるクラックの太さは、実際のクラックの太さに関わらず、画像が出力されたときに視認しやすい太さに設定される。本実施例では、縮小路面画像に重ねあわせるクラックの太さは、出力されたときに数画素分の太さとなるように設定される。
クラック識別画像においてクラックを表示する色は、視認しやすい色であれば、どのような色であってもよい。本実施例では、クラックは黄色の線として表示される。一般の道路では路面の色彩はグレーであるから、黄色や赤色といった暖色を用いてクラックを表示することで、クラックを視認しやすくすることができる。
【0041】
ステップS412では、クラック識別画像をディスプレイ48に表示する。ディスプレイ48には、指定された縮小倍率で縮小された路面画像と、その上に識別可能に重ね合わされたクラックの位置と進展形状が表示される。画像の縮小処理によって、路面画像からクラックが除去されてしまった場合であっても、ステップS410でクラックの位置と進展形状が重ね合わされているから、出力される画像においてはクラックの位置と進展形状を明瞭に認識することができる。なお、ステップS412でクラック識別画像をプリンタ52によって印刷してもよい。
【0042】
以上のように、本実施例の路面画像作成装置40によれば、クラックが識別可能に重ね合わされた縮小路面画像を出力することができる。
【0043】
上記のように出力されたクラック識別画像から、ユーザは道路の全域にわたるクラックの大域的な分布を把握することができる。ユーザはこのクラック識別画像を観察することによって、例えば道路の1km区間においてどのあたりにクラックが集中的に存在しているのかを、容易に把握することができる。また、クラック識別画像に示されたクラックの進展形状から、そのクラックの発生要因を容易に推定することができる。道路の性状調査における労力を、著しく軽減することができる。
【0044】
なお、クラックの位置と進展形状が関連付けられた路面画像データを用いて、図4の処理によって作成されたクラック識別画像の妥当性を検証することもできる。すなわち、クラック識別画像において妥当性を検証したい範囲を特定し、特定された範囲に対応する路面画像(画像縮小処理がなされていない路面画像)の範囲をディスプレイ48に表示する構成とすることによって、クラック識別画像でクラックが表示されている部分について、実際に撮影された高解像度の路面画像でクラックの態様を観察することができる。クラック識別画像においてクラックが描画されている部分について、描画されたクラックの妥当性を検証することができる。
【0045】
なお上記したクラック識別画像の出力は、例えば図1に示すインターネット等のネットワーク60を介して路面画像作成装置40に接続された端末70の表示装置72上に行うこともできる。電子計算機44と端末70の制御装置76を協働させて、ステップS404の縮小倍率の特定を端末70の入力装置74からユーザが行い、ステップS412のクラック識別画像の出力を端末70の表示装置72上に行う構成とすることによって、ユーザは所望の縮小倍率のクラック識別画像を端末70を介して参照することができる。また、端末70に接続された印刷装置(図示省略)を用いて、ユーザはクラック識別画像を印刷することもできる。
【0046】
上記の実施例では、図3のステップS304において、オペレータがディスプレイ48に表示された路面画像を観察しながら路面画像上におけるクラックの軌跡を入力する場合について説明した。上記とは異なり、路面画像データから自動的に路面画像におけるクラックの軌跡を抽出することも可能である。
【0047】
図5を参照しながら、路面画像データから自動的にクラックの軌跡を抽出する処理について説明する。
ステップS502では、外部記憶装置46から読み出された路面画像データから、路面画像における明度の分布を特定する。路面画像における明度は一様ではなく、種々の要因によって変化している。例えば、路面にクラックが存在する場合、路面画像におけるクラックの像は、周囲に比して極端に明度が低い領域として表現される。また、クラック以外にも、路面の本来の断面形状や照明との位置関係に起因する照明ムラによっても、路面画像における明度は変化する。
【0048】
ステップS504では、ステップS502で特定された路面の明度分布について、道路の進行方向の移動平均を算出する。本実施例では、道路の進行方向について前後5mmずつの区間についての移動平均を算出する。路面上のクラックは数mm程度の太さであるから、ここでの移動平均処理によって、道路の横断方向に進展するクラックの影響が除去された路面の明度分布を得ることができる。
【0049】
ステップS506では、ステップS504で算出された路面の明度分布について、さらに道路の横断方向の移動平均を算出する。本実施例では、道路の横断方向について前後5mmずつの区間についての移動平均を算出する。ここでの移動平均処理によって、道路の進行方向に進展するクラックの影響も除去された路面の明度分布を得ることができる。
【0050】
ステップS508では、ステップS502で特定された路面の明度分布と、ステップS506で算出された路面の明度分布の差を算出する。ステップS506で算出される明度分布は、照明ムラ等のクラック以外の影響によって変化する路面の明度分布を示している。従って、ステップS502で特定された路面の明度分布と、ステップS506で算出された路面の明度分布の差を算出することによって、クラックの影響による変化のみが抽出された路面の明度分布を得ることができる。
【0051】
ステップS510では、ステップS508で算出された路面の明度分布の差から、その差が所定のしきい値よりも低い点を抽出する。ここでの処理によって抽出される点の集合は、路面画像におけるクラックの軌跡に相当する。上記のようにして、路面画像におけるクラックの軌跡を自動的に抽出することができる。
【0052】
なお上記実施例では、クラック識別画像において全てのクラックを単一の色で表示する例を説明した。上記とは異なり、例えばひとつながりのクラックを同一の色で表示し、互いに分離しているクラックを別の色で表示するようにしてもよい。あるいは、路面画像からクラックの位置と進展形状を抽出する際に、クラックの太さについても抽出しておいて、太さに応じた色を用いてクラックを表示するようにしてもよい。あるいは、クラックが進展している方向に応じた色を用いてクラックを表示するようにしてもよい。
【0053】
上記の実施例では、縮小路面画像にクラックの位置と進展形状を識別可能に重ね合わせて表示する例を説明したが、路面の3次元形状についてのデータを併用して、クラック識別画像にさらに路面の等高線を識別可能に重ね合わせる構成としてもよい。路面の等高線を観察することで、わだち掘れの分布を把握することが可能である。従って、クラック識別画像に路面の等高線をさらに重ね合わせて出力することによって、クラックの分布とわだち掘れとの相関を容易に把握することが可能となる。これにより、クラックの発生要因を推定する上で、わだち掘れとの位置関係から、そのクラックが車両の往来に伴う荷重や衝撃に起因したクラックであるのか否か、明確に評価することが可能となる。
【0054】
なお路面の撮影にあたっては、ラインカメラ22の代わりに、2次元的な範囲を撮像するエリアカメラを用いることもできる。エリアカメラを実質的に真下に向けることにより、ラインカメラ22と同様な効果を得ることができるが、その場合には、4m幅を撮像するのに複数のカメラが必要になる。この場合には、原画像をつなぎ合わせた路面画像を得る処理は、1回の撮像で得られる2次元的な原画像を配置し張り合わせる処理に相当する。
【0055】
上記実施例では、路面画像データからクラックの位置と進展形状を特定して、特定されたクラックの位置と進展形状を路面画像データに関連付けて記憶する構成について説明した。クラックの位置と進展形状に関する情報は、クラックの線画として表現する以外にも数値としても表現可能である。従来道路の維持管理には、ひび割れ率を用いているが、ひび割れ率の算出根拠であるひび割れ升の情報を路面画像データと関連付け、升の大きさやひび割れ率算出範囲を目的に応じて可変することにより、クラックの分布や進展に関する情報の算出が可能である。これらを数値表現することは、視認目的よりむしろ、高精細かつ膨大な路面画像から必要な部位を検索して表示するのに有効である。この際に、例えば路面画像データから特定されたクラックの位置と進展形状から、道路の場所ごとのひび割れ率を算出しておいて、算出された場所ごとのひび割れ率についても路面画像データに関連付けて記憶する構成としてもよい。このような構成とすることによって、例えば最もひび割れ率が高い箇所を道路全体から検索して、その箇所についてのクラック識別画像を出力することができる。ひび割れ率の算出は、例えば次のようにして行う。まず、路面を50cm四方の升に区切って、その中に存在するクラックの本数をスコア値として算出する。このスコア値の算出の際に判定されるクラックの本数は、例えば、升目内に存在するクラックの総延長から一定の閾値ごとに1本、2本と判定する。そして、指定の面積(例えば200cm×200cm)の範囲ごとに、その範囲に含まれる50cm四方の升のスコア値の平均値から、その範囲のひび割れ率を算出する。例えば、その範囲に含まれる50cm四方の升のスコア値の平均値を2で除したものを、その範囲のひび割れ率とする。この場合、その範囲に含まれる50cm四方の升が全てスコア値2の場合に、その範囲のひび割れ率は100%となる。このように一定の範囲ごとに算出されたひび割れ率を路面画像データと関連付けておくことによって、例えば最もひび割れ率が高い箇所を道路全体から検索して、その箇所とその周辺のクラック識別画像を出力することができる。また、縮小路面画像やクラック識別画像に、場所ごとのひび割れ率を併記した出力をすることもできる。ひび割れ率の算出範囲は任意に設定することができるため、例えば、50cm×200cmの升目ごとに算出されるひび割れ率による検索を行うことで、進行方向にクラックが密集する部位を含む路面の画像を出力することができる。また、升の大きさを小さくし、ひび割れ率を算出する範囲を長方形にすると、よりクラックの方向性に着目した検索が可能となる。このようにクラックを線分の連鎖として抽出し、これから得られるクラックの密度に相当する数値を用いることによって、クラックの方向性に着目した路面画像の検索を実用上非常に短い時間で行うことができる。さらに起点からの距離範囲とひび割れ率の双方をキーとして検索するなど、他の位置情報に関する項目と組み合わせた検索も可能である。このような路面画像データへの関連付けは、わだち掘れの深さについて行ってもよい。この場合には、わだち掘れ量とひび割れ率の双方をキーとした検索が可能である。これにより、クラックの方向性とわだち掘れの相関関係などを容易に判断できる。
【0056】
上記実施例では、クラックを線分の連鎖として扱い、クラックを構成する線分同士が連結する点の位置と、それらの点の間での線分の有無を規定することで、クラックの位置と進展形状を表現している。上記とは異なり、クラックを点の集合として扱い、クラックを構成する複数の点の位置によってクラックの位置と進展形状を表現してもよい。
【0057】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は路面画像作成システムを模式的に示す図である。
【図2】図2は作成される路面画像を例示する図である。
【図3】図3は路面画像からクラックの位置と進展形状を特定する処理のフローチャートである。
【図4】図4はクラック識別画像を作成する処理のフローチャートである。
【図5】図5はクラックの軌跡を自動的に抽出する処理のフローチャートである。
【図6】図6は本発明の原理を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0059】
2:路面画像作成システム
10:路面撮影装置
12:撮影部
14:照明部
15:記憶装置
16:制御装置
18:ロータリーエンコーダ
20:測定車
22:ラインカメラ
24:ブーム
26:路面画像
28:路面
36:ライト
40:路面画像作成装置
42:ライン
43:クラック
44:電子計算機
46:外部記憶装置
48:ディスプレイ
50:入力装置
52:印刷装置
70:端末
72:表示装置
74:入力装置
76:制御装置
100:路面画像
102:クラック
104:縮小路面画像
106:クラック識別画像
110、112、114:ライン撮影画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細なクラックの位置と進展形状を識別可能な縮小路面画像を作成する方法であって、
道路を走行しながら路面を繰り返し撮影する工程と、
道路を撮影した原画像をつなぎ合わせた路面画像を記述するデータ(路面画像データ)を生成する工程と、
路面画像データから、路面画像におけるクラックの位置と進展形状を特定する工程と、
路面画像データから、路面画像を縮小した画像(縮小路面画像)を記述するデータ(縮小路面画像データ)を生成する工程と、
路面画像から縮小路面画像への縮小倍率に従って、路面画像におけるクラックの位置と進展形状から、縮小路面画像におけるクラックの位置と進展形状を算出する工程と、
縮小路面画像におけるクラックの位置と進展形状を縮小路面画像に識別可能に重ね合わせた画像(クラック識別画像)を出力する工程を備える方法。
【請求項2】
前記路面画像におけるクラックの位置と進展形状を特定する工程が、
路面画像データにおける画素毎の明暗情報に基づいて、路面画像におけるクラックの位置と進展形状を自動的に抽出する工程を含む、請求項1の方法。
【請求項3】
前記クラック識別画像においてクラックが暖色で表現される、請求項1の方法。
【請求項4】
前記縮小倍率が1/100以下である、請求項1の方法。
【請求項5】
微細なクラックの位置と進展形状を識別可能な縮小路面画像を作成する装置であって、
道路を走行しながら路面を繰り返し撮影する手段と、
撮影された原画像をつなぎ合わせた路面画像を記述するデータ(路面画像データ)を生成する手段と、
路面画像データから、路面画像におけるクラックの位置と進展形状を特定する手段と、
路面画像データから、路面画像を縮小した画像(縮小路面画像)を記述する縮小路面画像データを生成する手段と、
路面画像から縮小路面画像への縮小倍率に従って、路面画像におけるクラックの位置と進展形状から、縮小路面画像におけるクラックの位置と進展形状を算出する手段と、
縮小路面画像におけるクラックの位置と進展形状を縮小路面画像に識別可能に重ね合わせた画像(クラック識別画像)を出力する手段を備える装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−46065(P2008−46065A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223877(P2006−223877)
【出願日】平成18年8月21日(2006.8.21)
【出願人】(591270556)名古屋市 (77)
【出願人】(599137828)株式会社 サンウェイ (15)
【Fターム(参考)】