説明

車両のリヤサイドメンバー構造

【課題】 車両のリヤサイドメンバー構造において、キックアップ部に連結されるシートベルトのアンカーブラケットの位置を下げながら、サスペンションバネのストロークを確保する。
【解決手段】 キックアップ部2の上部6に下方にへこむ凹部を形成して、キックアップ部2の上部6の凹部の部分とキックアップ部2の下部との間に亘って、補強部材10を連結する。シートベルト16のアンカーブラケット9を、キックアップ部2の凹部に入り込ませて、補強部材10に対向するキックアップ部2の上部6の凹部の部分に連結する。補強部材10に対向するキックアップ部2の下部の下面部に、サスペンションバネ13を支持するバネ支持部材12を連結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車や商用車等の車両において、車体の後部に車体前後方向に沿って配置されるリヤサイドメンバーの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両においては、例えば特許文献1に開示されているように、車体後方に向って立ち上がるキックアップ部(特許文献1の図2の1b,1c)を、リヤサイドメンバー(特許文献1の図1及び図2の1)に備えており、シートベルトのアンカーブラケットをキックアップ部に連結し、サスペンションバネ(特許文献1の図2の10)をキックアップ部に支持させているものがある。
【0003】
【特許文献1】特開平11−29063号公報(図2及び図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば2ボックス型式の乗用車では、リヤシートの前後スライド量を大きくして、リヤシートをこれまでよりも後方に大きくスライドさせることができるように構成することが考えられている。
このようにリヤシートの前後スライド量を大きくした場合、シートベルトのアンカーブラケットの位置をこれまでよりも下げる必要が生じてくる。これは、リヤシートに着座する乗員のヒップポイントからシートベルトが引っ張られる方向(角度)が、リヤシートを最前方位置及び最後方位置にスライドさせた状態において、所定方向(所定の角度範囲)に入るようにする為である。
【0005】
前述のようにシートベルトのアンカーブラケットの位置を下げる必要が生じた場合、シートベルトのアンカーブラケットの位置に応じてキックアップ部の位置を下げることが考えられるが、このように構成すると、キックアップ部におけるサスペンションバネの支持部分の位置も下がってしまい、サスペンションバネのストロークが狭められてしまう。
本発明は車両のリヤサイドメンバー構造において、キックアップ部に連結されるシートベルトのアンカーブラケットの位置を下げながら、サスペンションバネのストロークを確保することができるように構成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[I]
(構成)
本発明の第1特徴は、車両のリヤサイドメンバー構造において次のように構成することにある。
車体の後部に車体前後方向に沿って配置されるリヤサイドメンバーに、車体後方に向って立ち上がるキックアップ部を備える。キックアップ部の上部に下方にへこむ凹部を形成して、キックアップ部の上部の凹部の部分とキックアップ部の下部との間に亘って、補強部材を連結する。シートベルトのアンカーブラケットを、キックアップ部の凹部に入り込ませて、補強部材に対向するキックアップ部の上部の凹部の部分に連結する。補強部材に対向するキックアップ部の下部の下面部に、サスペンションバネを支持するバネ支持部材を連結する。
【0007】
(作用)
本発明の第1特徴によると、車体の後部に車体前後方向に沿って配置されるリヤサイドメンバーに、車体後方に向って立ち上がるキックアップ部を備えた場合、キックアップ部の上部に下方にへこむ凹部を形成している。これにより、シートベルトのアンカーブラケットを、キックアップ部の凹部に入り込ませて、キックアップ部の上部の凹部の部分に連結することにより、シートベルトのアンカーブラケットの位置を下げることができる。
【0008】
本発明の第1特徴によると、シートベルトのアンカーブラケットの位置を下げる為に、キックアップ部の位置を全体的に下げるのではなく、キックアップ部の上部に下方にへこむ凹部を形成して対応しているので、キックアップ部の下部の位置を下げる必要がない。これにより、キックアップ部の位置を全体的に下げることにより、サスペンションバネのストロークが狭められると言う状態を避けることができる。
【0009】
キックアップ部において、キックアップ部の下部の位置を下げずに、キックアップ部の上部に下方にへこむ凹部を形成すると、キックアップ部の強度が低下することが懸念されるのであるが、本発明の第1特徴によると、キックアップ部の上部の凹部の部分とキックアップ部の下部との間に亘って補強部材を連結することより、キックアップ部の強度を確保している。
【0010】
この場合、本発明の第1特徴によると、シートベルトのアンカーブラケットを補強部材に対向するキックアップ部の上部の凹部の部分に連結し、補強部材に対向するキックアップ部の下部の下面部にサスペンションバネを支持するバネ支持部材を連結しているので、補強部材の上方にシートベルトのアンカーブラケットが位置し、補強部材の下方にバネ支持部材が位置している。これにより、シートベルトのアンカーブラケットに掛かる負荷及びバネ支持部材に掛かる負荷が、補強部材に掛かることになるので、この補強部材をシートベルトのアンカーブラケット及びバネ支持部材の補強部材としても機能させることができる。
【0011】
(発明の効果)
本発明の第1特徴によると、車両のリヤサイドメンバー構造において、サスペンションバネのストロークが狭められると言う状態を避けながら、シートベルトのアンカーブラケットの位置を下げることができるようになって、サスペンションバネのストロークの確保により乗り心地を確保しながら、リヤシートの前後スライド量を大きくすることに対応することができるようになった。
【0012】
本発明の第1特徴によると、キックアップ部の上部に下方にへこむ凹部を形成することにより、キックアップ部に補強部材を備えた場合、この補強部材をシートベルトのアンカーブラケット及びバネ支持部材の補強部材としても機能させることができるので、シートベルトのアンカーブラケットの専用の補強部材及びバネ支持部材の専用の補強部材を不要にすることができて(専用の補強部材を備えたとしても、小規模のものでよくなって)、構造の簡素化及び重量の低減の面で有利なものとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は4ドアの2ボックス型式の乗用車の左後部を示しており、車体の後部に車体前後方向に沿って右及び左のリヤサイドメンバー1が配置され、右及び左のリヤサイドメンバー1に車体後方に向って斜めに立ち上がるキックアップ部2が備えられている。右及び左のリヤサイドメンバー1の下部にブラケット3が溶接によって連結されて、後輪4を支持するリヤサスペンションアーム5がブラケット3の横軸芯P1周りに上下揺動自在に支持されており、キックアップ部2とリヤサスペンションアーム5とに亘って、サスペンションバネ13及びショックアブソーバ14が取り付けられている。
【0014】
図1,2,3に示すように、キックアップ部2が断面U字状に形成されており(下部2a、車体内方側の内壁部2b及び車体外方側の外壁部2c)、リヤシート7が設置されるリヤフロアパネル8がキックアップ部2の上側に配置されて、キックアップ部2とリヤフロアパネル8とがスポット溶接によって連結されている。キックアップ部2の上側に配置されるリヤフロアパネル8において、後述するアンカーブラケット9の付近が切り欠かれて、別部材である上部部材6(キックアップ部2の上部に相当)が備えられており、上部部材6は下方にへこむ凹部状に形成されている。
【0015】
図2及び図3に示すように、上部部材6の外周部に、前及び後側の前及び後フランジ部6a、車体内方側の横向きの内横フランジ部6b、車体外方側の縦向きの外横フランジ部6cが備えられている。上部部材6の前及び後フランジ部6aと、リヤフロアパネル8のフランジ部8aとがスポット溶接によって連結されている。上部部材6の内横フランジ部6bと、リヤフロアパネル8のフランジ部8bと、キックアップ部2の内壁部2bのフランジ部2dとがスポット溶接によって連結されている。上部部材6の外横フランジ部6cと、キックアップ部2の外壁部2cとがスポット溶接によって連結されている。
【0016】
図2及び図3に示すように、リヤフロアパネル8の板厚よりも上部部材6の板厚が厚いものに設定されており、上部部材6の板厚よりもキックアップ部2の板厚が厚いものに設定されている。
この場合、派生車種やリヤシート7の前後スライド量の変更に対して、上部部材6の板厚を変更して対応したり(例えばキックアップ部2の板厚よりも上部部材6の板厚が厚くなるように設定する)、上部部材6の前後長さ(図2における紙面左右方向の長さ)を変更して対応することができる。
【0017】
図1,2,3に示すように、キックアップ部2の下部2aと上部部材6との間に補強部材10が配置されている。図4に示すように補強部材10は、基板部10a、基板部10aの前部から斜め前方下方に延出された前脚部10b、基板部10aの後部から斜め後方下方に延出された後脚部10c、基板部10aに固定されたナット10d、前脚部10bに備えられたフランジ部10e、後脚部10cに備えられたフランジ部10f、基板部10aに備えられたフランジ部10g等を備えて構成されている。
【0018】
図2,3,4に示すように、補強部材10のフランジ部10e,10fと、キックアップ部2の下部2aとがスポット溶接によって連結されている。補強部材10のフランジ部10gと、キックアップ部2の外壁部2cとがスポット溶接によって連結されている。上部部材6が補強部材10の基板部10aに乗せ付けられ、アンカーブラケット9が上部部材6に乗せ付けられており、1本のボルト11によりアンカーブラケット9、上部部材6及び補強部材10の基板部10a(ナット10d)が締められて連結されている。リヤシート7に対するシートベルト16の端部が、アンカーブラケット9に連結されている(キックアップ部の上部の凹部の部分とキックアップ部の下部との間に亘って、補強部材を連結した状態に相当)(シートベルトのアンカーブラケットを、キックアップ部の凹部に入り込ませて、補強部材に対向するキックアップ部の上部の凹部の部分に連結した状態に相当)。
【0019】
図1,2,3に示すように、底を備えた円筒状のバネ支持部材12が備えられており、バネ支持部材12の外周部にフランジ部12aが備えられている。補強部材10に対向するキックアップ部2の下部2aの下面部に、バネ支持部材12が配置されており、補強部材10のフランジ部10eと、バネ支持部材12のフランジ部12aの前部とが平面視で同じ位置に重なるように、バネ支持部材12のフランジ部12aと、キックアップ部2の下部2aとがスポット溶接によって連結されている。
【0020】
図3に示すように、バネ支持部材12のフランジ部12aの横部が、キックアップ部2の下部2aから横外側(図3の紙面右側)に少し出る状態となっている。補強部材15が備えられており、補強部材15の下部と、バネ支持部材12のフランジ部12aの横部とがスポット溶接によって連結されている。補強部材10のフランジ部10gと、補強部材15の上部とが側面視で同じ位置に重なるように、補強部材15の上部と、キックアップ部2の外壁部2cとがスポット溶接によって連結されている。これにより、バネ支持部材12にサスペンションバネ13の上部が支持されている。
【0021】
[発明の実施の別形態]
本発明は、2ボックス型式(ハッチバック車)の乗用車ばかりではなく、1ボックス型式や3ボックス型式の乗用車にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】車体の後部の左側面図
【図2】キックアップ部、アンカーブラケット、上部部材、補強部材及びバネ支持部材の付近の縦断側面図
【図3】キックアップ部、アンカーブラケット、上部部材、補強部材及びバネ支持部材の付近の縦断正面図
【図4】補強部材の斜視図
【符号の説明】
【0023】
1 リヤサイドメンバー
2 キックアップ部
2a キックアップ部の下部
6 キックアップ部の上部
9 アンカーブラケット
10 補強部材
12 バネ支持部材
13 サスペンションバネ
16 シートベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の後部に車体前後方向に沿って配置されるリヤサイドメンバーに、車体後方に向って立ち上がるキックアップ部を備えると共に、
前記キックアップ部の上部に下方にへこむ凹部を形成して、
前記キックアップ部の上部の凹部の部分とキックアップ部の下部との間に亘って、補強部材を連結し、
シートベルトのアンカーブラケットを、前記キックアップ部の凹部に入り込ませて、前記補強部材に対向するキックアップ部の上部の凹部の部分に連結し、
前記補強部材に対向するキックアップ部の下部の下面部に、サスペンションバネを支持するバネ支持部材を連結してある車両のリヤサイドメンバー構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−245910(P2007−245910A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−71639(P2006−71639)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】