説明

車両のルーフドリップ部のシーリング方法

【課題】車両のルーフドリップ部のシーラによる防水処理と防錆処理に際し確実なシーリングと装飾用モールの嵌着の為のスペースを確保する。
【解決手段】シーラー5の塗装時の粘度の値を50〜55Pa.s/20℃に設定調整しておき、又、そのTI(チクソ係数)値を5.0〜5.3に設定調整しておき、シーラー5の塗装を、ルーフドリップ溝4の表面温度とシーラー5自体の温度との温度差が10〜40℃の状態において実施し、当該温度差を利用して、当該粘度を5〜15Pa.s/20℃の範囲低下させ、又、当該TI値を5.5〜5.8に上昇させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のルーフドリップ部のシーリング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のルーフパネルとサイドパネルの接合部に形成されるルーフドリップ溝は、両パネルの端部同士を重ねてスポット溶接した単純な合わせ構造が一般的である。かかるルーフドリップ溝は、スポット溶接故に雨水に対する防水処理と防錆処理が必要である。
従来から、例えばルーフドリップ溝の底部にボディシーラを塗布して当該防水防錆処理をした後、ルーフドリップ溝に装飾用モールを嵌着してボディシーラを隠し、仕上がり外観を良好にするようにしている。その具体例を図1に示すと、同図は車両1のルーフ部分の断面図で、ルーフパネル2とサイドパネル3の接合部に形成されたルーフドリップ溝4の底にボディシーラ5が塗布され、ルーフドリップ溝4の全長に略同一長さの棒状の装飾用モール6が嵌着されている。
【0003】
ルーフドリップ溝4は、ルーフパネル2のL形断面の端部2aとサイドパネル3のL形断面の端部3aを上下に重ね合わせてスポット溶接した構造で、ルーフドリップ溝4の底に在る両パネル2、3の端部同士を重ねた部分に適量のボディシーラ5がシーラ塗布ガン(図示せず)を使って塗布される。ボディシーラ5はポリ塩化ビニール等の防水・防錆剤で、ルーフドリップ溝4の底の両パネル2、3の合わせ面に浸透して防水処理と防錆処理を行うようになっている。
ルーフドリップ溝4にボディシーラ5を塗布した後、ルーフドリップ溝4に同一長さのモール6が嵌め込まれ、ルーフドリップ溝4の底等に接着剤で固定される。
【0004】
ところで、図1に示すように、ボディシーラ5により防水処理と防錆処理を行う場合、当該ボディシーラ5をシーラ塗布ガンで塗布した後に、確実なシーリングと装飾用モールの嵌着の為のスペースの確保から、一旦、ボディシーラ5を塗布後に、均し冶具を用いて均しを行って、ルーフパネル2のL形断面の端部2aからサイドパネル3のL形断面の端部3aに掛けて当該ボディシーラ5が行き渡るようにし、又、ボディシーラ5に凸部分があると装飾用モール6が取り付けられないのでその凸部分がないようにしていた。
この均し作業は、当該塗布(塗装)作業の7〜8倍もの時間を要しており、当該作業を要せず、しかも、確実なシーリングと装飾用モールの嵌着の為のスペースの確保が可能な技術の開発が求められていた。
【0005】
尚、当該シーリング技術として、ルーフパネル2とサイドパネル3の接合部のルーフドリップ溝4に熱硬化性樹脂を充填して、当該熱硬化性樹脂でルーフドリップ溝4の底の防水防錆処理を行い、かつ、ルーフドリップ溝4内の硬化した熱硬化性樹脂をそのまま装飾用モールとして利用するルーフ構造が知られている(特開平1−152049号公報、特開平9−207687号公報参照)。
又、特開平11−170927号公報には、下層が熱硬化接着性樹脂層で上層が耐熱表層形成樹脂層である複層テープを嵌着して行うシーリング方法が記載されている。
【特許文献1】特開平1−152049号公報、特開平9−207687号公報、特開平11−170927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記要請に答えることの出来る技術を提供することを目的としたものである。
本発明の他の目的や新規な特徴については本件明細書及び図面の記載からも明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の特許請求の範囲は、次の通りである。
(請求項1)車両のル−フドリップ部をシ−ラ−によりシ−リングする方法であって、粘度を50〜55Pa.s/20℃とし、チクソトロピック・インデックスを5.0〜5.3としたシ−ラ−を、当該ル−フドリップ部の表面温度と当該シ−ラ−自体の温度との温度差が10〜40℃の状態において塗装して、当該シ−ラ−の前記粘度を5〜15Pa.s/20℃の範囲低下させ、チクソトロピック・インデックスを5.5〜5.8に上昇させることを特徴とする車両のル−フドリップ部のシ−リング方法。
(請求項2)ルーフドリップ部の表面温度は、25℃〜70℃であり、シーラー温度は、10℃〜40℃であることを特徴とする、請求項1に記載の車両のルーフドリップ部のシーリング方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、車両のルーフドリップ部を上記のボディシーラ等のシーラーによりシーリングするのに、当初の当該シーラーのチクソトロピック・インデックス(TI)値を5.0〜5.3に設定(調整)しておき、当該シーラの塗装を当該ルーフドリップ部の表面温度と当該シーラー自体の温度との温度差が10〜40℃の状態において実施するようにして、その塗装された当該シーラーの前記粘度を、当該温度差を利用して5〜15Pa.s/20℃の範囲低下させ、又、その塗装された当該シーラーの前記TI値を、当該温度差を利用して、その後のルーフドリップ部の表面温度の低下(シーラーとの温度差の縮小)により、当該TI値を5.5〜5.8に上昇させるようにする。
上記構成により、シーラーの粘度を5〜15Pa.s/20℃の範囲低下させることにより、塗装直後の高い流動性により、均し冶具を用いなくても、シーラがルーフパネルのL形断面の端部からサイドパネルのL形断面の端部に掛けて行き渡り、又、シーラに凸部分を生ぜず、しかも、装飾用モールの取り付けスペースを充分確保でき、その後にそのTI値を5.5〜5.8に上昇させることにより、シーラの垂れ落ちが生じない。
これにより、ボディシーラ塗布後に必要であった刷毛やヘラなどによる均し作業が不要となり、確実なシーリングと装飾用モールの嵌着の為のスペースの確保が可能となり、作業時間を著しく短縮することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明では、図1で示すような、ルーフドリップ部例えばルーフドリップ溝の表面温度とボディシーラ5の材料自体の温度との間の温度差に着目して、その温度差が10〜40℃の状態になった時に、ボディシーラ5の塗布を行うようにする。
当該塗布は、例えば、車両を塗装工程の塗装焼付炉内に送って、車両を加熱しながら塗料を焼付けた後で、通常、行われる冷却工程を通さずに、比較的にルーフドリップ部の表面温度が高いときに、ボディシーラ5の塗布を行うようにすれば可能である。
ルーフドリップ部の表面温度とボディシーラの温度(作業時の温度)とを把握しておき、次の式1から導出されるその温度差が10〜40℃の状態の時に、ボディシーラ5の塗布を実施するようにする。






【0010】
【数1】




【0011】
一般的に、上記の場合の好ましいルーフドリップ部の表面温度は25℃〜70℃であり、又、シーラー温度は10℃〜40℃である。
上記のように、当該温度差は10〜40℃の範囲であり、当該範囲を逸脱するときには、ボディシーラの塗布後に均し作業を必要としたり、装飾用モールの嵌着の為のスペースの確保が不可能となったり、流動性が大きすぎて、確実なシーリングが不可能になったりする。
【0012】
本発明では、ルーフドリップ部の表面温度とボディシーラの材料自体の温度との間の温度差が10〜40℃の状態になった時に、ボディシーラの塗布を行うようにするが、当該ボディシーラについて、その塗装前のチクソトロピック・インデックス(以下、チクソ係数という。TI)を適切な範囲としておく必要がある。
当該チクソ係数(TI)は、次の式2から導き出される。







































【0013】
【数2】



【0014】
当該TI値は、5.0〜5.3である。当初の当該TI値が5.0未満では、塗装後のTI値の低下が大きすぎて垂れ落ちが発生する虞れがある。一方、当該TI値が5.3を超えると、塗装後のTI値の変化が充分ではなくなり、レベリングが不十分なために均し作業を必要としたり、シーリングが不可能となる虞れがある。
【0015】
本発明では、ボディシーラが塗装された後のチクソ係数(TI)及び粘度の挙動は重要である。シーラとルーフドリップ部との温度差を利用して、一時的には初期の粘度の50〜55Pa.s/20℃を5〜15Pa.s/20℃の範囲低下させることにより、大きな流動性が得られるために高いシーリング効果とレベリング効果を奏し得る。その後に、ルーフドリップ部の表面温度が低下することにより、シーラー温度との温度差が縮小し、これにより当該TI値が急速に上昇して5.5〜5.8となり、塗装されたシーラーは垂れ落ちを防止することができる。
【0016】
本発明で使用されるシーラの例としては、ボディシーラとして使用される例えば塩化ビニルプラスチゾル系の自動車用シーリング材が挙げられる。
当該塩化ビニルプラスチゾル系の自動車用シーリング材の具体例としては、塩化ビニル系樹脂と可塑剤とを必須成分として含有し、必要に応じて添加される付着・粘着付与剤と充填剤とを含有してなり、希釈溶剤にて希釈してなる塩化ビニルプラスチゾル系の自動車用シーリング材が挙げられる。
【0017】
当該シーリング材を構成する塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルの単独重合体でも、塩化ビニルと他モノマーとの共重合体でもよい。塩化ビニル系樹脂の配合量は、15〜25重量%が適当である。塩化ビニル系樹脂の配合量が15重量%未満では、シーリング材による塗膜の形成が十分でなく、一方、25重量%を超えるときには塗膜が硬くなりすぎる事がある。
【0018】
当該シーリング材を構成する可塑剤としては、フタル酸系ポリエステル系可塑剤、セバチン酸系ポリエステル系可塑剤、アジピン酸系ポリエステル系可塑剤などが挙げられる。
他の可塑剤としては、通常塩化ビニル系シーリング材に使用される可塑剤が使用できる。ジオクチルフタレート(DOP)、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジイソブチルフタレート(DIBP)、などのフタル酸系エステル可塑剤、ジオクチルアジペート(DOA)などのアジピン酸系可塑剤が例示できる。当該可塑剤の配合量は25〜35重量%が適当である。可塑剤の配合量が25重量%未満であるとシーリング材の塗膜が硬くなりすぎる事があり、一方、35重量%を超えるときは、シーリング材の流動性が大きすぎ、塗膜形成が十分でない虞れが生じる。
【0019】
当該シーリング材を構成する付着付与剤としては、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアマイド樹脂等が使用できる。付着付与剤は、熱融着する際にこれを補助することができる。他に、粘着付与剤として、ポリアミド、ポリオール、ブロックイソシアネート等の粘着付与剤やポリブタジエン、ポリブテン等の液状ゴムを使用してもよい。
【0020】
当該シーリング材を構成する充填材としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、クレー、カオリン、亜鉛華、酸化チタン、シリカ、アルミナ等の顔料類、マイカ等のリン片状充填材、プラスチックバルーン、ガラスバルーン、シリカバルーン、シラスバルーン、炭素中空球等の中空状充填材等が例示できる。
炭酸カルシウムには、表面処理したものも表面処理していないものも使用でき、適宜これら表面処理した炭酸カルシウムと表面処理していない炭酸カルシウムとを混合することが好ましい。 これら表面処理した炭酸カルシウムと表面処理していない炭酸カルシウムとの混合割合を変化させることにより、塗装時のTI値を5.0〜5.3の範囲内に調整でき、又、装飾用モールの装着前の塗装されたシーラーの当該TI値を、一時的に5.0未満に低下させて大きな流動性を得て高いシーリング効果とレベリング効果とを得、その後に、ルーフドリップ部の表面温度の低下に伴うシーラー温度との温度差の縮小により、当該TI値を急速に上昇させ5.5以上となして、塗装されたシーラーを平滑な表面とし、垂れ落ちを防止することができる。
【0021】
当該シーリング材を構成するのに、必要に応じて他の添加剤を配合する事ができる。当該添加剤としては、塩化ビニル樹脂安定剤、紫外線吸収剤、吸湿剤、塗膜作業性向上のための高沸点溶剤等が例示できる。当該添加剤の配合量は、0〜10重量%とすることができる。
【0022】
当該シーリング材は、塩化ビニル系樹脂などのシーリング材を構成する成分を、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー、オープンニーダー、真空ニーダー等の従来公知の混合分散機によって分散混練することにより製造される。また、シーリング材を塗装するには、エアレスポンプ等により駆動する高圧塗装機により、フローガンと呼ばれる専用塗装機によって塗装することができる。
【0023】
(発明の実施の形態)
本発明の理解に供するため、以下に実施例を記載する。いうまでもなく、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1.
【0024】
表1に示す配合でシーリング材を調製した。当該シーリング材の粘度(Pa.s/20℃)は50で、又、そのチクソ係数(TI)は、回転粘度計(例えばBH型回転粘度計)のロータ数を2rpmと20rpmに変えた時の粘度をそれぞれ測定し、前記の式1に従い算出したところ、5.2であった。
当該シーリング材を用いて、シーラー温度20℃、ルーフドリップ溝の表面温度50℃にてシーリングを行った。当該シーリング時のシーリング材の粘度を上記と同様に測定したところ、10Pa.s/20℃低下して40Pa.s/20℃となり、又、チクソ係数(TI)を、上記と同様に測定したところ、ルーフドリップ溝の表面温度が低下して、シーラー温度との温度差が縮小したことにより、当該シーリング材のチクソ係数(TI)は5.7まで上昇した。
シーリング塗装時に刷毛やヘラなどによる均し作業を要せずに、ルーフモールの取り付けが可能で、且つ、良好なシーリングを行うことができた。シーリング塗装に要する作業時間を従来の1/7に短縮することができた。
上記シーリング材を用いて、塗装方法や粘度による段差のスキの充填性を調べた。
試験方法は図2に示す通りで、ノズル7の角度を変え、又、塗膜のオフセットXを変えて、スキYの値(単位mm)を調べて、当該シーリング材の性能を調べた。
試験方法:
ノズル角度 30°及び60°
ガン速度 約400mm/sec
塗装圧力 5〜6MPa
(GRACO BULLDOG 30:1 3/8x5mm)
塗料温度 20℃(雰囲気16℃)
試験結果を表2に示す。
又、フロー性を
(焼付け140℃x20分後の膜厚/ウエット放置1時間後の膜厚)x100
で求めたところ、100%を示し、フロー性に優れていることが判った。
比較例1.
【0025】
次の表1に示す配合でシーリング材を調製した。当該シーリング材の粘度(Pa.s/20℃)は50で、又、そのチクソ係数(TI)は、6.5であった。
実施例1と同様にして、当該シーリング材を用いて、シーラー温度20℃、ルーフドリップ溝の表面温度50℃にてシーリングを行った。当該シーリング時のシーリング材の粘度を上記と同様に測定したところ、5.0Pa.s/20℃しか低下しなかった。又、当該シーリング時のシーリング材のチクソ係数(TI)を上記と同様に測定したところ、ルーフドリップ溝の表面温度が低下して、シーラー温度との温度差が縮小したことにより、シーリング材のチクソ係数(TI)は7.0まで上昇した。
上記シーリング材を用いて、実施例1と同様にして、塗装方法や粘度による段差のスキの充填性やフロー性を調べた。
試験方法は図2に示す通りで、ノズル7の角度を変え、又、塗膜のオフセットXを変えて、スキYの値(単位mm)を調べて、当該シーリング材の性能を調べた。
試験結果を表2に示す。
又、実施例1と同様にして、フロー性を調べたところ、96%を示し、シーリング効果は不十分であった。






































【0026】
【表1】

























【0027】
【表2】

【0028】
表2から、本発明例に拠れば、ノズル角度を変化させても、又、段差1mmでも2mmでも、更には、塗膜オフセットを変化させても、その隙間を0にすることができ、シーリングに際し、確実なシーリングと装飾用モールの嵌着の為のスペースの確保が良好に行えることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、自動車のほか車両全般に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】ルーフドリップ溝のシール構造を示す断面図である。
【図2】本発明の実施例における試験方法の説明図である。
【符号の説明】
【0031】
1 車両
2 ルーフパネル
3 サイドパネル
4 ルーフドリップ溝
5 シーラー
6 装飾モール
7 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のル−フドリップ部をシ−ラ−によりシ−リングする方法であって、粘度を50〜55Pa.s/20℃とし、チクソトロピック・インデックスを5.0〜5.3としたシ−ラ−を、当該ル−フドリップ部の表面温度と当該シ−ラ−自体の温度との温度差が10〜40℃の状態において塗装して、当該シ−ラ−の前記粘度を5〜15Pa.s/20℃の範囲低下させ、チクソトロピック・インデックスを5.5〜5.8に上昇させることを特徴とする車両のル−フドリップ部のシ−リング方法。
【請求項2】
ル−フドリップ部の表面温度は、25℃〜70℃であり、シ−ラ−温度は、10℃〜40℃であることを特徴とする、請求項1に記載の車両のル−フドリップ部のシ−リング方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−117140(P2006−117140A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−308145(P2004−308145)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【出願人】(000232542)日本特殊塗料株式会社 (35)
【Fターム(参考)】