説明

車両の制動力保持装置、及び車両の制動力保持方法

【課題】ヒルホールド制御を実行させるためにブレーキペダルが操作された場合に該ヒルホールド制御が作動しないことを抑制できる車両の制動力保持装置及び車両の制動力保持方法を提供する。
【解決手段】CPUは、ブレーキペダルの踏込み操作に基づき車両が停止してからの経過時間が基準時間BTになった場合、そのときの各ホイールシリンダ内のブレーキ液圧BPを基準ブレーキ液圧BBPと設定すると共に、この基準ブレーキ液圧BBPに基準値BVを加算することにより閾値KBPを設定する。そして、CPUは、各ホイールシリンダ内のブレーキ液圧BPが減圧された場合、そのブレーキ液圧BPの減圧に応じて基準ブレーキ液圧BBPを低い値に再設定すると共に、閾値KBPも低い値に再設定する。その後、ブレーキペダルの踏込み操作により各ホイールシリンダ内のブレーキ液圧BPが閾値KBP以上になった場合、CPUはヒルホールド制御を実行させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキペダルの操作により停止した車両の各車輪に付与されている制動力を前記ブレーキペダルの操作解消後においても保持させる車両の制動力保持装置、及び車両の制動力保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、坂路などの斜面上に車両が停止した場合に、搭乗者がブレーキペダルの踏込み操作を解消すると、各車輪に対する制動力が急激に低下するため、斜面の傾斜方向下側への車両の予期せぬ移動(すなわち、車両のずり下がり)が発生する。こうした車両の予期せぬ移動が発生した場合には、坂道発進操作等の車両操作に対する搭乗者の余裕を低下させてしまうおそれがあった。そこで、従来から、ブレーキペダルの踏込み操作の解消後においても停止車両の車輪に付与されている制動力を保持させて車両の予期せぬ移動の発生を抑制する所謂ヒルホールド制御を実行する車両の制動力保持装置、及び車両の制動力保持方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
この特許文献1に記載の車両の制動力保持装置では、図8に示すように、搭乗者によるブレーキペダルの踏込み操作により車両が停止した時点から基準時間T10経過後の各ホイールシリンダ(制動手段)内のブレーキ液圧を基準ブレーキ液圧BBP10としてRAMに記憶させるようになっている。そして、この基準ブレーキ液圧BBP10に予め設定された基準値を加算した値を閾値KBP10としてRAMに設定記憶させるようになっている。その後、ブレーキペダルがさらに強く踏込まれることによって、液圧回路内のブレーキ液圧が閾値KBP10以上になった場合には、各ホイールシリンダにより各車輪に付与される制動力を保持させるために、各ホイールシリンダ内のブレーキ液圧を保圧させるようになっている。
【特許文献1】特開平10−24817号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の車両の制動力保持装置では、車両停止時から基準時間経過後の各ホイールシリンダ内のブレーキ液圧に基づき設定される閾値によっては、ブレーキペダルをいくら強く踏込んでもヒルホールド制御が実行されないことがあった。すなわち、図8に示すように、基準時間T11が長く設定されたことなどに起因して、車両停止時から基準時間T11経過後の各ホイールシリンダ内のブレーキ液圧(基準ブレーキ液圧BBP11)が比較的高くなった場合には、設定される閾値KBP11が比較的高い値になる。そのため、搭乗者がヒルホールド制御を実行させるためにブレーキペダルを踏込んでも、各ホイールシリンダ内のブレーキ液圧が閾値KBP11以上とはならず、ヒルホールド制御が実行されないおそれがあった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ヒルホールド制御を実行させるためにブレーキペダルが操作された場合に該ヒルホールド制御が作動しないことを抑制できる車両の制動力保持装置及び車両の制動力保持方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、車両の制動力保持装置にかかる請求項1に記載の発明は、制動手段(36a,36b,36c,36d)が各車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力(BP)を付与することにより車両が停止してから基準時間(BT)経過後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)を基準制動力(BBP)として設定する基準制動力設定手段(60)と、前記基準制動力(BBP)と予め設定された基準値(BV)とを加算することにより閾値(KBP)を設定する閾値設定手段(60)と、前記閾値(KBP)設定後のブレーキペダル(37)の操作に基づく前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)が前記閾値(KBP)以上になったか否かを判定する制動力判定手段(60)と、該制動力判定手段(60)による判定結果が肯定判定になった場合に、前記ブレーキペダル(37)の操作解消後においても前記各車輪(FR,FL,RR,RL)の回動を回避するために前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)を保持させるように前記制動手段(36a,36b,36c,36d)を制御する制御手段(60)とを備える車両の制動力保持装置(11)において、前記閾値(KBP)設定後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)の変化率(DBP)を検出する制動力変化率検出手段(60)と、該制動力変化率検出手段(60)により検出された前記変化率(DBP)が負の値であるか否かを判定する変化率判定手段(60)とをさらに備え、該変化率判定手段(60)による判定結果が肯定判定である場合に、前記基準制動力設定手段(60)は、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)を前記基準制動力(BBP)として再設定すると共に、前記閾値設定手段(60)は、前記基準制動力設定手段(60)により再設定された前記基準制動力(BBP)と前記基準値(BV)とを加算することにより前記閾値(KBP)を再設定することを要旨とする。
【0007】
上記構成では、閾値設定後においてブレーキペダルの操作によって各車輪に対する制動手段からの制動力が減少した場合、基準制動力及び閾値は、各車輪に対する制動手段からの制動力の減少に応じて低くなるように再設定される。すなわち、ブレーキペダルの操作解消後においても各車輪の回動を回避させるために各車輪に対する制動手段からの制動力を保持させるためのヒルホールド制御は、閾値が比較的高い値に設定されていたとしても、閾値設定後のブレーキペダルの操作に基づき閾値を比較的低い値に再設定することにより実行可能となる。したがって、ヒルホールド制御を実行させるためにブレーキペダルが操作された場合に該ヒルホールド制御が作動しないことを抑制できる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両の制動力保持装置において、前記変化率判定手段(60)による判定結果が肯定判定である場合に、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)が前記基準制動力(BBP)から予め設定された所定値(SBP)を減算した値以下になったか否かを判定する制動力再設定判定手段(60)をさらに備え、該制動力再設定判定手段(60)による判定結果が肯定判定である場合に、前記基準制動力設定手段(60)は、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)を前記基準制動力(BBP)として再設定すると共に、前記閾値設定手段(60)は、前記基準制動力設定手段(60)により再設定された前記基準制動力(BBP)と前記基準値(BV)とを加算することにより前記閾値(KBP)を再設定することを要旨とする。
【0009】
上記構成では、閾値設定後において各車輪に対する制動手段からの制動力が所定値分だけ減少した場合に、基準制動力及び閾値が再設定される。すなわち、常に基準制動力及び閾値を再設定するか否かを判定する場合に比して、基準制動力設定手段及び閾値設定手段の制御負担を低減させることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の車両の制動力保持装置において、前記車両が停止した路面の斜度(gr)を検出する路面斜度検出手段(60,SE9)と、該路面斜度検出手段(60,SE9)により検出された斜度(gr)の路面上に前記車両が停止する際に最低限必要な前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)を最小制動力(BPmin)として設定する最小制動力設定手段(60)とをさらに備え、前記基準制動力設定手段(60)は、前記変化率判定手段(60)による判定結果が肯定判定である場合において、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)が前記最小制動力(BPmin)未満になったときに、該最小制動力(BPmin)を前記基準制動力(BBP)として設定することを要旨とする。
【0011】
上記構成では、基準制動力は、最小制動力以上に確実に設定されると共に、閾値は、最小制動力と基準値との加算値以上に確実に設定される。そのため、閾値が比較的低く設定されることに基づき、ヒルホールド制御が搭乗者の意思とは無関係に作動(いわゆる誤作動)してしまうことを抑制できる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載の車両の制動力保持装置において、前記車両が停止した路面の斜度(gr)を検出する路面斜度検出手段(60,SE9)と、前記基準時間(BT)を、前記路面斜度検出手段(60)により検出された前記斜度(gr)が比較的大きい場合には該斜度(gr)が比較的小さい場合よりも大きな値となるように設定する基準時間設定手段(60)とをさらに備えたことを要旨とする。
【0013】
上記構成では、基準制動力及び閾値は、基準時間が比較的長く設定された場合の方が比較的短く設定された場合に比して大きな値に設定される。そのため、ヒルホールド制御の実行時において、路面の斜度が比較的大きい場合には、比較的小さい場合に比して各車輪に対する制動手段からの制動力を大きくすることができる。
【0014】
一方、車両の制動力保持方法にかかる請求項5に記載の発明は、各車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力(BP)が付与されることにより車両が停止してから基準時間(BT)経過後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)を基準制動力(BBP)として設定すると共に、該基準制動力(BBP)と予め設定された基準値(BV)とを加算することにより閾値(KBP)を設定した後、ブレーキペダル(37)の操作に基づく前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)が前記閾値(KBP)以上になったか否かを判定し、該判定結果が肯定判定になった場合に、前記ブレーキペダル(37)の操作解消後においても前記各車輪(FR,FL,RR,RL)の回動を回避するために前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)を保持させる車両の制動力保持方法において、前記閾値(KBP)設定後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)の変化率(DBP)を検出し、該検出結果が負の値であるか否かを判定し、該判定結果が肯定判定である場合には、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)を前記基準制動力(BBP)として再設定すると共に、該再設定された前記基準制動力(BBP)と前記基準値(BV)とを加算することにより前記閾値(KBP)を再設定するようにしたことを要旨とする。
【0015】
上記構成では、請求項1に記載の発明の場合と同様の作用効果を奏し得る。
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の車両の制動力保持方法において、前記閾値(KBP)設定後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)の変化率(DBP)が負の値であった場合に、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)が前記基準制動力(BBP)から予め設定された所定値(SBP)を減算した値以下になったか否かを判定し、該判定結果が肯定判定である場合には、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)を前記基準制動力(BBP)として再設定すると共に、該再設定された前記基準制動力(BBP)と前記基準値(BV)とを加算することにより前記閾値(KBP)を再設定するようにしたことを要旨とする。
【0016】
上記構成では、請求項2に記載の発明の場合と同様の作用効果を奏し得る。
請求項7に記載の発明は、請求項5又は請求項6に記載の車両の制動力保持方法において、前記車両が停止した路面の斜度(gr)を検出すると共に、該検出された斜度(gr)の路面上に前記車両が停止する際に最低限必要な前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)を最小制動力(BPmin)として設定し、前記閾値(KBP)設定後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)の変化率(DBP)が負の値である場合において、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)が前記最小制動力(BPmin)未満であるときに、該最小制動力(BPmin)を前記基準制動力(BBP)として設定するようにしたことを要旨とする。
【0017】
上記構成では、請求項3に記載の発明の場合と同様の作用効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図7に従って説明する。なお、以下における本明細書中の説明においては、車両の進行方向(前進方向)を前方(車両前方)として説明する。また、特に説明がない限り、以下の記載における左右方向は、車両進行方向における左右方向と一致するものとする。
【0019】
図1に示すように、本実施形態における車両の制動力保持装置11は、複数(本実施形態では4つ)ある車輪(右前輪FR、左前輪FL、右後輪RR及び左後輪RL)のうち、前輪FR,FLが駆動輪として機能する車両(いわゆる前輪駆動車)に搭載されている。この制動力保持装置11は、駆動源となるエンジン12で発生した駆動力を前輪FR,FLに伝達する駆動力伝達機構13と、前輪FR,FLを転舵輪(「操舵輪」ともいう。)として転舵させるための前輪転舵機構14と、各車輪FR,FL,RR,RLに制動力を付与するための制動力付与機構15とを備えている。また、この制動力保持装置11は、上記各機構13,14,15を車両の走行状態に応じて適宜に制御するための電子制御装置(「ECU」ともいう。)16を備えている。なお、エンジン12は、車両の搭乗者によるアクセルぺダル17の踏込み操作に対応した駆動力を発生させる。
【0020】
駆動力伝達機構13には、吸気管18内の吸気通路18aの開口断面積を可変させるスロットル弁19の開度を制御するためのスロットル弁アクチュエータ(例えばDCモータ)20と、エンジン12の吸気ポート(図示略)近傍に燃料を噴射するインジェクタを有する燃料噴射装置21とが設けられている。また、駆動力伝達機構13には、エンジン12の出力軸に接続されたトランスミッション22と、このトランスミッション22から伝達された駆動力を適宜配分して前輪FL,FRに伝達するディファレンシャルギヤ23とが設けられている。さらに、駆動力伝達機構13には、アクセルぺダル17の踏込み量(開度)を検出するためのアクセル開度センサSE1が設けられている。
【0021】
前輪転舵機構14には、ステアリングホイール24と、ステアリングホイール24が固定されたステアリングシャフト25と、ステアリングシャフト25に連結された転舵アクチュエータ26とが設けられている。また、前輪転舵機構14には、転舵アクチュエータ26により車両の左右方向に移動自在なタイロッドと、このタイロッドの移動により前輪FL,FRを転舵させるリンクとを含んだリンク機構部27とが設けられている。さらに、前輪転舵機構14には、ステアリングホイール24の操舵角を検出するための操舵角センサSE2が設けられている。
【0022】
次に、制動力付与機構15について図2に基づき以下説明する。
図2に示すように、本実施形態の制動力付与機構15は、マスタシリンダ30及びブースタ31を有する液圧発生装置32と、2つの液圧回路33,34を有する液圧制御装置(図2では二点鎖線で示す。)35とを備えている。各液圧回路33,34は、液圧発生装置32に接続されると共に、各車輪FR,FL,RR,RLに対応して設けられたホイールシリンダ(制動手段)36a,36b,36c,36dに接続されている。すなわち、右前輪FRにはホイールシリンダ36aが対応すると共に、左前輪FLにはホイールシリンダ36bが対応している。また、右後輪RRにはホイールシリンダ36cが対応すると共に、左後輪RLにはホイールシリンダ36dが対応している。
【0023】
液圧発生装置32には、ブレーキペダル37が設けられており、このブレーキペダル37が車両の搭乗者によって踏込み操作されたことに基づき、液圧発生装置32のマスタシリンダ30及びブースタ31が駆動するようになっている。また、マスタシリンダ30には、2つの出力ポート30a,30bが設けられており、各出力ポート30a,30bのうち一方の出力ポート30aには第1液圧回路33が接続されると共に、他方の出力ポート30bには第2液圧回路34が接続されている。さらに、液圧発生装置32には、ブレーキペダル37が操作された際に電子制御装置16に向けて信号を送信するブレーキスイッチSW1が設けられている。
【0024】
液圧制御装置35には、第1液圧回路33内のブレーキ液圧を昇圧するためのポンプ38と、第2液圧回路34内のブレーキ液圧を昇圧するためのポンプ39と、各ポンプ38,39を同時に駆動させるモータMとが設けられている。また、各液圧回路33,34上にはブレーキオイルが貯留されるリザーバ40,41が設けられており、各リザーバ40,41内のブレーキオイルは、ポンプ38,39の駆動に基づき液圧回路33,34内に供給されるようになっている。さらに、各液圧回路33,34には、マスタシリンダ30内のブレーキ液圧を検出するための液圧センサPS1,PS2が設けられている。
【0025】
第1液圧回路33には、右前輪FRに対応するホイールシリンダ36aに接続されるホイールシリンダ36a用(右前輪FR用)の右前輪用経路33aと、左後輪RLに対応するホイールシリンダ36dに接続されるホイールシリンダ36d用(左後輪RL用)の左後輪用経路33bとが形成されている。そして、これら各経路33a,33b上には、常開型の電磁弁42,43と常閉型の電磁弁44,45とがそれぞれ設けられている。
【0026】
同様に、第2液圧回路34には、左前輪FLに対応するホイールシリンダ36bに接続されるホイールシリンダ36b用(左前輪FL用)の左前輪用経路34aと、右後輪RRに対応するホイールシリンダ36cに接続されるホイールシリンダ36c用(右後輪RR用)の右後輪用経路34bとが形成されている。そして、これら各経路34a,34b上には、常開型の電磁弁46,47と常閉型の電磁弁48,49とがそれぞれ設けられている。
【0027】
また、第1液圧回路33において各経路33a,33bに分岐された部位よりもマスタシリンダ30側には、常開型の比例電磁弁50が接続されると共に、この比例電磁弁50と並列関係をなすリリーフ弁51が接続されている。そして、比例電磁弁50とリリーフ弁51とにより比例差圧弁52が構成されている。比例差圧弁52は、電子制御装置16による制御に基づき、比例差圧弁52よりもマスタシリンダ30側とホイールシリンダ36a,36d側とで液圧差(ブレーキ液圧の差)を発生させることができる。なお、この液圧差の最大値は、リリーフ弁51を構成するばね51aの付勢力に基づく値となる。また、第1液圧回路33には、リザーバ40とポンプ38との間からマスタシリンダ30側に向けて分岐された分岐液圧路33cが形成されており、この分岐液圧路33c上には常閉型の電磁弁53が接続されている。
【0028】
同様に、第2液圧回路34において各経路34a,34bに分岐された部位よりもマスタシリンダ30側には、常開型の比例電磁弁54が接続されると共に、この比例電磁弁54と並列関係をなすリリーフ弁55が接続されている。そして、比例電磁弁54とリリーフ弁55とにより比例差圧弁56が構成されている。比例差圧弁56は、電子制御装置16による制御に基づき、比例差圧弁56よりもマスタシリンダ30側とホイールシリンダ36b,36c側とで液圧差(ブレーキ液圧の差)を発生させることができる。なお、この液圧差の最大値は、リリーフ弁55を構成するばね55aの付勢力に基づく値となる。また、第2液圧回路34には、リザーバ41とポンプ39との間からマスタシリンダ30側に向けて分岐された分岐液圧路34cが形成されており、この分岐液圧路34c上には常閉型の電磁弁57が接続されている。
【0029】
ここで、上記各電磁弁42〜49のソレノイドコイルが通電状態にある場合及び非通電状態にある場合における各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧の変化について説明する。なお、以下の説明においては、各比例電磁弁50,54が閉じ状態であると共に、分岐液圧路33c,34c上の電磁弁53,57が閉じ状態であるものとする。
【0030】
まず、各電磁弁42〜49のソレノイドコイルが全て非通電状態にある場合には、常開型の電磁弁42,43,46,47は開き状態のままであると共に、常閉型の電磁弁44,45,48,49は閉じ状態のままである。そのため、上記ポンプ38,39が駆動している場合には、リザーバ40,41内のブレーキオイルが各経路33a,33b,34a,34bを介して各ホイールシリンダ36a〜36d内に流入し、各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧は上昇することになる。
【0031】
一方、各電磁弁42〜49のソレノイドコイルが全て通電状態にある場合には、常開型の電磁弁42,43,46,47が閉じ状態となると共に、常閉型の電磁弁44,45,48,49が開き状態となる。そのため、各ホイールシリンダ36a〜36d内からブレーキオイルが各経路33a,33b,34a,34bを介してリザーバ40,41へと流出し、各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧は降下することになる。
【0032】
そして、各電磁弁42〜49のうち常開型の電磁弁42,43,46,47のソレノイドコイルのみが通電状態にある場合には、全ての電磁弁42〜49が閉じ状態となる。そのため、各経路33a,33b,34a,34bを介したブレーキオイルの流動が規制される結果、各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧はその液圧レベルが保持されることになる。
【0033】
図1に示すように、電子制御装置16は、制御手段としてのCPU60、ROM61、及びRAM62などを備えたデジタルコンピュータと、各装置を駆動させるための駆動回路(図示略)とを主体として構成されている。ROM61には、液圧制御装置35(モータM、各電磁弁42〜49,53,57及び比例電磁弁50,54の駆動)を制御するための制御プログラム、及び後述するホイールシリンダ36a〜36d内の最低ブレーキ液圧を設定するためのマップ(図3参照)などが記憶されている。また、RAM62には、車両の制動力保持装置11の駆動中に適宜書き換えられる各種の情報(閾値など)が記録されるようになっている。
【0034】
また、電子制御装置16の入力側インターフェース(図示略)には、上記ブレーキスイッチSW1、液圧センサPS1,PS2、アクセル開度センサSE1、及び操舵角センサSE2がそれぞれ接続されている。また、入力側インターフェースには、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度を検出するための車輪速度センサSE3,SE4,SE5,SE6、及び実際に車両に働く横方向加速度(いわゆる「横G」)を検出するための横GセンサSE7がそれぞれ接続されている。さらに、入力側インターフェースには、実際に車両に働くヨーレイト(Yaw Rate)を検出するためのヨーレイトセンサSE8、及び車両の車体加速度を検出するための車体加速度センサ(「前後Gセンサ」ともいう。)SE9が接続されている。すなわち、CPU60は、ブレーキスイッチSW1、液圧センサPS1,PS2、及び上記各種センサSE1〜SE9からの各信号を受信するようになっている。
【0035】
一方、電子制御装置16の出力側インターフェース(図示略)には、各ポンプ38,39を駆動させるためのモータM、各電磁弁42〜49,53,57及び比例電磁弁50,54が接続されている。そして、CPU60は、上記スイッチSW1及び各センサPS1,PS2,SE1〜SE9からの入力信号に基づき、モータM、各電磁弁42〜49,53,57及び比例電磁弁50,54の動作を個別に制御するようになっている。
【0036】
次に、ROM61に記憶されるマップについて図3に基づき説明する。
図3に示すマップは、車両が停止する路面の斜度grと、この斜度grに車両が停止する際に最低限度必要なホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧(各車輪FL,FR,RL,RRに対する制動手段からの制動力)である最低ブレーキ液圧(最小制動力)BPminとの関係を示すものである。この最低ブレーキ液圧BPminは、路面の斜度grが大きくなる程、高くなるように設定されている。すなわち、最低ブレーキ液圧BPminは、路面の斜度grの大きさに比例して変化している。
【0037】
次に、本実施形態のCPU60が実行する制御処理ルーチンについて、図4〜図6に示すフローチャート及び図7に示すタイミングチャートに基づき以下説明する。図4及び図5には後述するヒルホールド制御の開始条件となる閾値を設定するための閾値設定処理ルーチンが示されると共に、図6には後述するヒルホールド制御の実行の有無を設定するためのヒルホールド制御処理ルーチンが示されている。
【0038】
最初に図4及び図5に示す閾値設定処理ルーチンについて説明する。
さて、CPU60は、ブレーキスイッチSW1からの信号を受信している場合には、所定周期毎に閾値設定処理ルーチンを実行する。そして、この閾値設定処理ルーチンにおいて、CPU60は、後述するヒルホールド制御を実行するための閾値KBPが未設定であるか否かを判定する(ステップS10)。この判定結果が否定判定である場合、CPU60は、閾値KBPが既に設定済みであると判断し、その処理を後述するステップS18に移行する。
【0039】
一方、ステップS10の判定結果が肯定判定である場合、CPU60は、閾値KBPが未設定であるものと判断し、各車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度センサSE3〜SE6から受信した信号に基づき、各車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度VWをそれぞれ検出する(ステップS11)。続いて、CPU60は、車両が停止したか否かを判定する(ステップS12)。すなわち、CPU60は、ステップS11にて検出した各車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度VWが「0(零)」になったことに基づき車両の車体速度が「0(零)」になったか否かを判定する。そして、ステップS12の判定結果が否定判定である場合、CPU60は、車両の車体速度が「0(零)」ではないものと判断し、閾値設定処理ルーチンを終了する。
【0040】
一方、ステップS12の判定結果が肯定判定である場合、CPU60は、車両の車体速度が「0(零)」になったものと判断し、車両が停止した路面の斜度grを検出する(ステップS13)。すなわち、CPU60は、車体加速度センサSE9から受信した信号に基づき路面の斜度grを検出する。この点で、本実施形態では、CPU60及び車体加速度センサSE9が、路面斜度検出手段として機能する。そして、CPU60は、ステップS13にて検出した路面の斜度grに対応する各ホイールシリンダ36a〜36d内の最低ブレーキ液圧BPminを、図3に示すマップに基づき設定する(ステップS14)。この点で、本実施形態は、CPU60が、ステップS13にて検出された路面の斜度gr上に車両が停止する際に最低限度必要な各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧(車輪FL,FR,RL,RRに対する制動手段からの制動力)を最低ブレーキ液圧(最小制動力)BPminとして設定する最小制動力設定手段としても機能する。
【0041】
続いて、CPU60は、車両が停止してからの経過時間STが予め設定された基準時間(例えば、「0.8」秒)BT以上になったか否かを判定する(ステップS15)。この基準時間BTは、後述するホイールシリンダ36a〜36d内の基準ブレーキ液圧BBPを設定するための時間であり、予め実験やシミュレーションなどによって設定される。そして、ステップS15の判定結果が否定判定(ST<BT)である場合、CPU60は、ステップS15の判定結果が肯定判定となるまで判定処理を繰り返し実行する。一方、ステップS15の判定結果が肯定判定(ST≧BT)になった場合、CPU60は、液圧回路33,34上の液圧センサPS1,PS2からの信号に基づき液圧回路33,34内のブレーキ液圧(各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧)を検出する。そして、CPU60は、図7のタイミングチャートに示すように、検出したブレーキ液圧BPを基準ブレーキ液圧(基準制動力)BBPとして設定する(ステップS16)。この点で、本実施形態では、CPU60が、基準制動力設定手段としても機能する。
【0042】
続いて、CPU60は、ステップS16にて設定した基準ブレーキ液圧BBPと予め設定された基準値BVとを加算することにより閾値KBPを設定する(ステップS17)。この点で、本実施形態では、CPU60が、閾値設定手段としても機能する。そして、CPU60は、その処理を後述するステップS18に移行する。
【0043】
ステップS18において、CPU60は、液圧回路33,34上の液圧センサPS1,PS2からの信号に基づき、閾値KBP設定後における液圧回路33,34内のブレーキ液圧(各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧)BPを検出する。続いて、CPU60は、ステップS18にて検出したブレーキ液圧BPを微分することにより、ブレーキ液圧微分値(ブレーキ液圧BPの変化率)DBPを検出する(ステップS19)。この点で、本実施形態では、CPU60が、閾値KBPの設定後における各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧(各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動手段からの制動力)BPの変化率(ブレーキ液圧微分値DBP)を検出する制動力変化率検出手段としても機能する。そして、CPU60は、ステップS19にて検出したブレーキ液圧微分値DBPが「0(零)」未満であるか否かを判定する(ステップS20)。この点で、本実施形態では、CPU60が、変化率判定手段としても機能する。
【0044】
ここで、ブレーキペダル37の踏込み量が増加している場合、各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧BPが増圧されるため、ブレーキ液圧微分値DBPは、正の値(>「0(零)」)になる。例えば、図7に示すように、車両が停止してからの経過時間STが基準時間BTよりも大きく且つ経過時間Ta以下である場合、ブレーキ液圧微分値DBPは正の値(>「0(零)」)になる。
【0045】
また、ブレーキペダル37の踏込み量が維持されている場合、各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧BPが増減しないため、ブレーキ液圧微分値DBPは「0(零)」になる。例えば、図7に示すように、車両が停止してからの経過時間STが経過時間Taよりも大きく且つ経過時間Tb以下である場合、ブレーキ液圧微分値DBPは「0(零)」になる。
【0046】
また、ブレーキペダル37の踏込み量が減少している場合、各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧BPが減圧されるため、ブレーキ液圧微分値DBPは、負の値(<「0(零)」)になる。例えば、図7に示すように、車両が停止してからの経過時間STが経過時間Tbよりも大きく且つ経過時間Tc以下である場合、ブレーキ液圧微分値DBPは負の値(<「0(零)」)になる。すなわち、CPU60は、ステップS20において、ブレーキペダル37の踏込み量が減少しているか否かについて判定することになる。
【0047】
そして、ステップS20の判定結果が否定判定(DBP≧「0(零)」)である場合、CPU60は、閾値設定処理ルーチンを終了する。一方、ステップS20の判定結果が肯定判定(DBP<「0(零)」)である場合、CPU60は、ステップS18にて検出した各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧BPが、閾値KBPから予め設定された所定値(例えば、「0.5M・Pa」)SBPを減算した値以下であるか否かを判定する(ステップS21)。この点で、本実施形態では、CPU60が、制動力再設定判定手段としても機能する。なお、所定値SBPは、閾値KBPを再設定するために必要な値であり、予め実験やシミュレーションなどによって設定される。
【0048】
そして、ステップS21の判定結果が否定判定(BP>(KBP−SBP))である場合、CPU60は、閾値設定処理ルーチンを終了する。一方、ステップS21の判定結果が肯定判定(BP≦(KBP−SBP))である場合、図7に示すように、CPU60は、ステップS18にて検出した各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧BPを基準ブレーキ液圧BBPとして再設定する(ステップS22)。続いて、図7に示すように、CPU60は、ステップS22にて再設定した基準ブレーキ液圧BBPに基準値BVを加算することにより閾値KBPを再設定する(ステップS23)。その後、CPU60は、閾値設定処理ルーチンを終了する。
【0049】
次に、図6に示すヒルホールド制御処理ルーチンについて説明する。
さて、CPU60は、ブレーキスイッチSW1からの信号を受信している場合には所定周期毎にヒルホールド制御処理ルーチンを実行する。そして、このヒルホールド制御処理ルーチンにおいて、CPU60は、各車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度センサSE3〜SE6から受信した信号に基づき、各車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度VWをそれぞれ検出し、車両が停止しているか否かを判定する(ステップS30)。すなわち、CPU60は、車両の車体速度が「0(零)」であるか否かを判定する。そして、ステップS30の判定結果が否定判定である場合、CPU60は、ヒルホールド制御処理ルーチンを終了する。
【0050】
一方、ステップS30の判定結果が肯定判定である場合、CPU60は、上記した閾値設定処理ルーチンにて閾値KBPが設定されているか否かを判定する(ステップS31)。この判定結果が否定判定である場合、CPU60は、閾値KBPが設定されていないものと判断し、ヒルホールド制御処理ルーチンを終了する。一方、ステップS31の判定結果が肯定判定である場合、CPU60は、閾値KBPが既に設定されているものと判断し、液圧回路33,34上の液圧センサPS1,PS2からの信号に基づき液圧回路33,34内のブレーキ液圧(各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧)BPを検出する。そして、CPU60は、検出した各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧BPが閾値KBP以上になったか否かを判定する(ステップS32)。この判定結果が否定判定(BP<KBP)である場合、CPU60は、ヒルホールド制御処理ルーチンを終了する。
【0051】
一方、ステップS32の判定結果が肯定判定(BP≧KBP)である場合、CPU60は、車両の停止後にブレーキペダル37がさらに深く踏込み操作されたものと判断し、ヒルホールド制御を実行する(ステップS33)。すなわち、図7に示すように、車両が停止してからの経過時間STが経過時間Tdになってから搭乗者がブレーキペダル37を深く踏込んだことにより、各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧BPが閾値KBP以上となった場合に、ヒルホールド制御が実行される。この点で、本実施形態では、CPU60が、閾値KBPの設定後における各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧BP(各車輪FL,FR,RL,RRに対する制動手段からの制動力)が閾値KBP以上になったか否かを判定する制動力判定手段としても機能する。
【0052】
ここで、ヒルホールド制御とは、ブレーキペダル37の踏込み操作に基づいて車両が停止した場合に、そのブレーキペダル37の踏込み操作が解消されたとしても、各車輪FR,FL,RR,RLに対する各ホイールシリンダ36a〜36dからの制動力を、各車輪FR,FL,RR,RLが回動しないように保持する制御である。すなわち、ヒルホールド制御が実行された場合、CPU60は、各液圧回路33,34上の常開型の電磁弁42,43,46,47を通電状態とすることにより、各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧BPを保持するようになっている。
【0053】
また、ヒルホールド制御は、ブレーキペダル37の踏込み操作が解除されてから(すなわち、搭乗者がブレーキペダル37の操作を止めてから)予め設定された所定時間(例えば2秒程度)の間実行されるようになっている。すなわち、ブレーキペダル37の踏込み操作が解除されてから所定時間が経過した場合には、ヒルホールド制御が自動的に終了し、常開型の電磁弁42,43,46,47を非通電状態にすると共に、常閉型の電磁弁44,45,48,49を通電状態にする。その結果、各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧BPが減圧されるようになっている。換言すると、CPU60は、各ホイールシリンダ36a〜36dにより各車輪FR,FL,RR,RLに付与される制動力を低下させることにより、各車輪FR,FL,RR,RLのロック状態を解除(すなわち、回動を許可)するようになっている。
【0054】
そして、CPU60は、ステップS33のヒルホールド制御を実行した後、ヒルホールド制御処理ルーチンを終了する。なお、CPU60は、上記した閾値設定処理ルーチンやヒルホールド制御処理ルーチンの実行中であっても、アクセル開度センサSE1からの信号に基づきアクセルぺダル17が踏込み操作されたことを検知した場合には、ヒルホールド制御を終了させる。この際に、CPU60は、設定された閾値KBPをリセットすることにより、閾値KBPが設定されていない状態にする。
【0055】
したがって、本実施形態では、以下に示す効果を得ることができる。
(1)閾値KBP設定後においてブレーキペダル37の踏込み操作によって各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧BP(各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動手段からの制動力)が減圧された場合、基準ブレーキ液圧(基準制動力)BBP及び閾値KBPは、ブレーキ液圧BPの減圧に応じて低くなるように再設定される。すなわち、ブレーキペダル37の踏込み操作の解消後においても各車輪FR,FL,RR,RLの回動を回避させるヒルホールド制御は、閾値KBPが比較的高い値に設定されていたとしても、閾値KBP設定後のブレーキペダル37の踏込み操作に基づき閾値KBPを比較的低い値に再設定することにより実行可能となる。したがって、ヒルホールド制御を実行させるためにブレーキペダル37が踏込み操作された場合に該ヒルホールド制御が作動しないことを抑制できる。
【0056】
(2)閾値KBP設定後において各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧BP(各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動手段からの制動力)が所定値SBP分だけ減圧された場合に、基準ブレーキ液圧(基準制動力)BBP及び閾値KBPが再設定される。すなわち、常に基準ブレーキ液圧BBP及び閾値KBPを再設定するか否かを判定する場合に比して、基準制動力設定手段及び閾値設定手段として機能するCPU60の制御負担を低減させることができる。
【0057】
(3)基準ブレーキ液圧(基準制動力)BBPは、最低ブレーキ液圧(最小制動力)BPmin以上に確実に設定されると共に、閾値KBPは、最低ブレーキ液圧BPminと基準値BVとの加算値以上に確実に設定される。そのため、閾値KBPが比較的低く設定されることに基づき、ヒルホールド制御が搭乗者の意思とは無関係に作動(いわゆる誤作動)してしまうことを抑制できる。
【0058】
なお、実施形態は以下のような別の実施形態(別例)に変更してもよい。
・実施形態において、基準時間BTは、車両が停止した路面の斜度grが比較的大きい場合には比較的小さい場合に比して長い時間に設定されるようにしてもよい。すなわち、ROM61には、路面の斜度grと基準時間BTとの関係を示すマップを記憶させ、車両停止直後に検出された路面の斜度grに基づき、この斜度grに対応する基準時間BTをマップから読み出すようにしてもよい。このように構成した場合には、基準ブレーキ液圧BBP及び閾値KBPは、基準時間BTが比較的長く設定された場合の方が比較的短く設定された場合に比して大きな値に設定される。そのため、ヒルホールド制御の実行時において、路面の斜度grが比較的大きい場合には、比較的小さい場合に比して各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧BP(各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動手段からの制動力)を大きくすることができる。
【0059】
・実施形態において、最低ブレーキ液圧BPminを設定しなくてもよい。
・実施形態において、閾値設定処理ルーチンのステップS21を省略してもよい。この場合、ステップS20の判定結果が肯定判定となった場合には、ステップS22において各ホイールシリンダ36a〜36d内の基準ブレーキ液圧BBPが再設定されることになる。
【0060】
・実施形態において、ROM61には、図3に示すマップを記憶させるのではなく、路面の斜度grと各ホイールシリンダ36a〜36d内の最低ブレーキ液圧BPminとの関係式を記憶させ、この関係式に基づき最低ブレーキ液圧BPminを設定するようにしてもよい。
【0061】
・実施形態において、ブレーキペダルは、搭乗者の足で操作するいわゆるフットペダル式のブレーキペダルではなく、手動で操作可能なブレーキペダルであってもよい。
・実施形態において、前輪駆動車に搭載された車両の制動力保持装置11ではなく、後輪駆動車に搭載される車両の制動力保持装置に具体化してもよい。また、四輪駆動車に搭載される車両の制動力保持装置に具体化してもよい。
【0062】
・実施形態において、第1液圧回路33には右前輪FR用のホイールシリンダ36aと左前輪FL用のホイールシリンダ36bとが接続されると共に、第2液圧回路34には右後輪RR用のホイールシリンダ36cと左後輪RL用のホイールシリンダ36dとが接続されるような回路構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本実施形態における車両の制動力保持装置のブロック図。
【図2】本実施形態における制動力付与機構のブロック図。
【図3】路面の斜度と最低ブレーキ液圧との関係を示すマップ。
【図4】閾値設定処理ルーチンを示すフローチャート(前半部分)。
【図5】閾値設定処理ルーチンを示すフローチャート(後半部分)。
【図6】ヒルホールド制御処理ルーチンを示すフローチャート。
【図7】ブレーキペダルの踏込み操作に基づき各ホイールシリンダ内のブレーキ液圧が変化する様子を示すタイミングチャート。
【図8】従来の車両の制動力保持装置の場合におけるタイミングチャート。
【符号の説明】
【0064】
11…車両の制動力保持装置、36a〜36d…ホイールシリンダ(制動手段)、37…ブレーキペダル、60…CPU(基準制動力設定手段、閾値設定手段、制動力判定手段、制御手段、制動力変化率検出手段、変化率判定手段、制動力再設定判定手段、路面斜度検出手段、最小制動力設定手段、基準時間設定手段)、BBP…基準ブレーキ液圧(基準制動力)、BP…ブレーキ液圧(制動力)、BPmin…最低ブレーキ液圧(最小制動力)、BT…基準時間、BV…基準値、DBP…ブレーキ液圧微分値(制動力の変化率)、FR,FL,RR,RL…車輪、gr…路面の斜度、KBP…閾値、SBP…所定値、SE9…車体加速度センサ(路面斜度検出手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制動手段(36a,36b,36c,36d)が各車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力(BP)を付与することにより車両が停止してから基準時間(BT)経過後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)を基準制動力(BBP)として設定する基準制動力設定手段(60)と、
前記基準制動力(BBP)と予め設定された基準値(BV)とを加算することにより閾値(KBP)を設定する閾値設定手段(60)と、
前記閾値(KBP)設定後のブレーキペダル(37)の操作に基づく前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)が前記閾値(KBP)以上になったか否かを判定する制動力判定手段(60)と、
該制動力判定手段(60)による判定結果が肯定判定になった場合に、前記ブレーキペダル(37)の操作解消後においても前記各車輪(FR,FL,RR,RL)の回動を回避するために前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)を保持させるように前記制動手段(36a,36b,36c,36d)を制御する制御手段(60)とを備える車両の制動力保持装置(11)において、
前記閾値(KBP)設定後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)の変化率(DBP)を検出する制動力変化率検出手段(60)と、
該制動力変化率検出手段(60)により検出された前記変化率(DBP)が負の値であるか否かを判定する変化率判定手段(60)とをさらに備え、
該変化率判定手段(60)による判定結果が肯定判定である場合に、前記基準制動力設定手段(60)は、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)を前記基準制動力(BBP)として再設定すると共に、前記閾値設定手段(60)は、前記基準制動力設定手段(60)により再設定された前記基準制動力(BBP)と前記基準値(BV)とを加算することにより前記閾値(KBP)を再設定する車両の制動力保持装置。
【請求項2】
前記変化率判定手段(60)による判定結果が肯定判定である場合に、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)が前記基準制動力(BBP)から予め設定された所定値(SBP)を減算した値以下になったか否かを判定する制動力再設定判定手段(60)をさらに備え、該制動力再設定判定手段(60)による判定結果が肯定判定である場合に、前記基準制動力設定手段(60)は、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)を前記基準制動力(BBP)として再設定すると共に、前記閾値設定手段(60)は、前記基準制動力設定手段(60)により再設定された前記基準制動力(BBP)と前記基準値(BV)とを加算することにより前記閾値(KBP)を再設定する請求項1に記載の車両の制動力保持装置。
【請求項3】
前記車両が停止した路面の斜度(gr)を検出する路面斜度検出手段(60,SE9)と、該路面斜度検出手段(60,SE9)により検出された斜度(gr)の路面上に前記車両が停止する際に最低限必要な前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)を最小制動力(BPmin)として設定する最小制動力設定手段(60)とをさらに備え、前記基準制動力設定手段(60)は、前記変化率判定手段(60)による判定結果が肯定判定である場合において、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)が前記最小制動力(BPmin)未満になったときに、該最小制動力(BPmin)を前記基準制動力(BBP)として設定する請求項1又は請求項2に記載の車両の制動力保持装置。
【請求項4】
前記車両が停止した路面の斜度(gr)を検出する路面斜度検出手段(60,SE9)と、前記基準時間(BT)を、前記路面斜度検出手段(60)により検出された前記斜度(gr)が比較的大きい場合には該斜度(gr)が比較的小さい場合よりも大きな値となるように設定する基準時間設定手段(60)とをさらに備えた請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載の車両の制動力保持装置。
【請求項5】
各車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力(BP)が付与されることにより車両が停止してから基準時間(BT)経過後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)を基準制動力(BBP)として設定すると共に、該基準制動力(BBP)と予め設定された基準値(BV)とを加算することにより閾値(KBP)を設定した後、ブレーキペダル(37)の操作に基づく前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)が前記閾値(KBP)以上になったか否かを判定し、該判定結果が肯定判定になった場合に、前記ブレーキペダル(37)の操作解消後においても前記各車輪(FR,FL,RR,RL)の回動を回避するために前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)を保持させる車両の制動力保持方法において、
前記閾値(KBP)の設定後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)の変化率(DBP)を検出し、該検出結果が負の値であるか否かを判定し、該判定結果が肯定判定である場合には、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)を前記基準制動力(BBP)として再設定すると共に、該再設定された前記基準制動力(BBP)と前記基準値(BV)とを加算することにより前記閾値(KBP)を再設定するようにした車両の制動力保持方法。
【請求項6】
前記閾値(KBP)の設定後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)の変化率(DBP)が負の値であった場合に、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)が前記基準制動力(BBP)から予め設定された所定値(SBP)を減算した値以下になったか否かを判定し、該判定結果が肯定判定である場合には、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)を前記基準制動力(BBP)として再設定すると共に、該再設定された前記基準制動力(BBP)と前記基準値(BV)とを加算することにより前記閾値(KBP)を再設定するようにした請求項5に記載の車両の制動力保持方法。
【請求項7】
前記車両が停止した路面の斜度(gr)を検出すると共に、該検出された斜度(gr)の路面上に前記車両が停止する際に最低限必要な前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)を最小制動力(BPmin)として設定し、前記閾値(KBP)の設定後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)の変化率(DBP)が負の値である場合において、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)が前記最小制動力(BPmin)未満であるときに、該最小制動力(BPmin)を前記基準制動力(BBP)として設定するようにした請求項5又は請求項6に記載の車両の制動力保持方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−106307(P2007−106307A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−300513(P2005−300513)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】