車両の制御装置
【課題】トルクステアによるステアリングホイールの操作を運転者の操舵状態によらずに効果的に収束させる。
【解決手段】EPS200を備えた車両10において、ECU100はトルクステア抑制処理を実行する。当該処理において、車両10が加速中であり、且つステアリングホイール11が手放し状態である場合に、モータ17から手放し時アシストトルクATRQ1が出力される。一方、ステアリングホイール11が手放し状態ではなく、且つ所定の許可条件が満たされた場合、モータ17から操舵時アシストトルクATRQ2が出力され、運転者の操舵操作が阻害されない範囲でステアリングホイール11の戻り不良が補償される。また、手放し時アシストトルクの出力中に操舵入力がなされた場合には、切り込み及び切り戻しの各々に応じて切り替え処理が行われ、アシストトルクが徐変されることによって違和感が抑制される。
【解決手段】EPS200を備えた車両10において、ECU100はトルクステア抑制処理を実行する。当該処理において、車両10が加速中であり、且つステアリングホイール11が手放し状態である場合に、モータ17から手放し時アシストトルクATRQ1が出力される。一方、ステアリングホイール11が手放し状態ではなく、且つ所定の許可条件が満たされた場合、モータ17から操舵時アシストトルクATRQ2が出力され、運転者の操舵操作が阻害されない範囲でステアリングホイール11の戻り不良が補償される。また、手放し時アシストトルクの出力中に操舵入力がなされた場合には、切り込み及び切り戻しの各々に応じて切り替え処理が行われ、アシストトルクが徐変されることによって違和感が抑制される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばEPS(Electronic controlled Power Steering:電子制御式パワーステアリング装置)等を備えた車両を制御する車両の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術分野において、例えばステアリングホイールの戻り不良を補償する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された電動パワーステアリング装置(以下、「従来の技術」と称する)によれば、推定される運転者トルクが大きい程モータの電流指令値が小さくされるため、完全な手放し状態であるか、ステアリングホイールに軽く手を添えているかにかかわらず、ステアリングホイールの戻り速度をほぼ一定とすることができ、運転者に与える違和感を防止することができるとされている。
【0003】
尚、戻し修正電流値を目標戻し修正電流値に近づける方向に微小電流値だけ変化させて戻し電流値とする技術も開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
尚、目標操舵角速度と実舵角速度に基づいてベース修正電流値を演算し、アシスト目標電流とする技術も開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
尚、電動モータの慣性による応答遅れの補償を操舵トルクの微分値に基づいて行う技術も提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2006−182051号公報
【特許文献2】特開2006−137281号公報
【特許文献3】特開2006−137359号公報
【特許文献4】特開2004−255934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えばFF(Front engine Front drive:前輪駆動)車両や四輪駆動車両等では、例えば、発進加速時等、比較的大きな加速度が車両に加わった場合に、車輪に加わる駆動トルクによってトルクステアが発生することがある。トルクステアが発生した場合、運転者の意思とは無関係に、且つ路面からの入力による場合と比較して大きくステアリングホイールが操作され易い。このようなトルクステアによるステアリングホイールの操作は、手放し時であっても、操舵時であっても生じ得ると共に、車両の走安性及び快適性を阻害する大きな要因となるため、迅速に収束させる必要がある。ところが、従来の技術は、不感帯に相当する操舵角範囲が設けられる、或いは操舵トルクが大きい場合にはモータ電流がゼロとされる等、定常的な手放し走行を前提にしているため、トルクステアによるステアリングホイールの過渡的な操作に対しては効果的に作用しない。即ち、従来の技術には、トルクステアの発生時に車両の走安性や快適性が大きく損なわれかねないという技術的な問題点がある。
【0008】
本発明は上述した問題点に鑑みてなされたものであり、トルクステアによるステアリングホイールの操作を運転者の操舵状態によらずに効果的に収束させ得る車両の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明に係る車両の制御装置は、車輪に対しステアリングホイールを介して付与される操舵力を補助する補助操舵力を付与可能である補助操舵力付与手段を備えた車両を制御する車両の制御装置であって、前記車両が所定の加速状態にあるか否かを判別する判別手段と、前記ステアリングホイールが人為的に操作されているか否かの二値状態を少なくとも含む前記ステアリングホイールの操作状態を特定する特定手段と、前記車両が前記加速状態にある旨の判別がなされた場合に、前記特定された操作状態に基づいて、前記車輪に対し前記補助操舵力として前記ステアリングホイールを中立位置に向かわせる所定の収束操舵力が付与されるように前記補助操舵力付与手段を制御する制御手段とを具備することを特徴とする。
【0010】
本発明において、「補助操舵力付与手段」とは、例えば操舵対象となる車輪(以下、適宜「操舵輪」と称する)に対し、ステアリングホイールを介して運転者等により与えられる操舵力を補助する補助操舵力を付与可能な手段を包括する概念であり、係る概念が担保される限りにおいて、補助操舵力付与手段における、例えば電気的、機械的或いは物理的な態様は何ら限定されない趣旨である。
【0011】
尚、ここで述べられる操舵力とは、ステアリングホイールを介して与えられる操舵トルクや、或いは更に当該操舵トルクが、ステアリングホイールを含む操舵装置を構成する、例えばステアリングシャフト、ラックアンドピニオン式やボールナット式等の各種態様を採り得る操舵機構、及びタイロッド等を適宜介して変換されてなる、操舵輪を左右方向に動かす物理力等を指す。従って、補助操舵力とは、例えばモータ等の電動機から出力されるモータトルク等であってもよいし、そのようなモータトルクが適宜変換されてなる、上述した物理力を増加又は減少させる補助的な物理力であってもよい。
【0012】
本発明に係る車両の制御装置によれば、その動作時には、例えばECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る判別手段により、車両が所定の加速状態にあるか否かが判別される。
【0013】
ここで、本発明に係る「所定の加速状態」とは、トルクステアの発生と対応付けられた加速状態を包括する概念であり、例えば予め実験的に、経験的に、理論的に或いはシミュレーション等に基づいて、実践上無視し得ないトルクステアの発生が、又はそのようなトルクステアの近未来的な発生が裏付けられてなる加速状態、或いはそのような加速状態に一定又は不定のマージンを付与してなる、トルクステアを予防する観点から定められた加速状態等であってもよい。
【0014】
ここで、「トルクステア」とは、相対的にみて急激な加速時において、例えばエンジン等の内燃機関、ドライブシャフト、デファレンシャル、及びアクスル等を含む駆動系を介して伝達される駆動トルクによって、操舵輪が例えば左右に動かされ、前述した操舵装置の各部等を適宜介して最終的にステアリングホイールが運転者の意思と無関係に操作される現象を包括する概念である。従って、本発明に係る車両とは、少なくとも操舵輪に駆動力が伝達される車両であり、好適には、FF車両や四輪駆動車両等を指す。
【0015】
判別手段における、車両が所定の加速状態にあるか否かの判別に係る態様は、当該判別が可能である限りにおいて何ら限定されないが、例えば、車両前後方向の加速度(以下、適宜「前後G」と称する)、車両の速度(以下、適宜「車速」と称する)、内燃機関におけるスロットルバルブの開度(以下、適宜「スロットル開度」と称する)、及び車両の駆動トルク等の少なくとも一部に基づいて判断されてもよい。尚、トルクステアは、車両における内燃機関の配置態様、及び駆動系、とりわけ左右のドライブシャフトの長さ等、車両の物理的又は機械的な構成に依存するから、このような加速状態に関する判別の基準は、車両毎に個別具体的に設定されていてもよい。
【0016】
一方、このような所定の加速状態にあるか否かに係る判別とは別に、本発明に係る車両の制御装置によれば、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る特定手段により、ステアリングホイールの操作状態が特定される。
【0017】
ここで、本発明に係る「操作状態」とは、ステアリングホイールが人為的に操作されているか否かの二値状態を少なくとも含む概念であり、係る概念が担保される限りにおいて、例えば、ステアリングホイールがどの程度人為的に操作されているかといった定量的な指標を含む、より精細な状態であってもよい趣旨である。
【0018】
尚、本発明における「特定」とは、例えば、何らかの検出手段を介して直接的に又は間接的に物理的数値又は物理的数値に対応する例えば電気信号等として検出すること、予め然るべき記憶手段等に記憶されたマップ等から該当する数値を選択する又はそのような選択を介して推定すること、それら検出された物理的数値若しくは電気信号又は選択若しくは推定された数値等から、予め設定されたアルゴリズムや計算式等に従って導出又は推定すること、或いはこのように検出、選択、推定又は導出された値等を単に電気信号等として取得すること等を包括する広い概念である。
【0019】
このように加速状態の判別及びステアリングホイールの操作状態の特定を経た結果、車両が加速状態にある旨の判別がなされた場合には、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る制御手段により、特定された操作状態に基づいて、前述した補助操舵力として収束操舵力が付与されるように補助操舵力付与手段が制御される。
【0020】
ここで、本発明に係る「収束操舵力」とは、ステアリングホイールを中立位置に向かわせる補助操舵力、言い換えればトルクステアを打ち消す方向へ作用する補助操舵力である。尚、「中立位置」とは、車両を直進させることが可能なステアリングホイールの操作位置であり、好適には操舵角にしてゼロ度或いはゼロ度近傍の位置を指す。但し、中立位置がこのように操舵角によって規定され得るとしても、収束操舵力は、必ずしも目標値としての操舵角を有しておらずともよい。即ち、補助操舵力によってステアリングホイールが幾らかなりとも中立位置へ誘われる、言い換えれば、運転者の意思に反して切り込み側へステアリングホイールが操作されることが幾らかなり阻害される限りにおいて、収束操舵力の付与に係る態様は自由であってよく、必ずしも補助操舵力のみによりステアリングホイールが中立位置へ向かって操作されずともよい。
【0021】
このような制御手段の作用によれば、トルクステアがリアルタイムに発生した場合に、又は近未来的なトルクステアの発生が予測される場合等に、その時点におけるステアリングホイールの操作状態に基づいて、例えば手放し状態であるのか、少なくとも保舵されているのかと言った二値状態(即ち、前述の二値状態に相当)に応じて上述した収束操舵力が車輪に付与される。従って、例えば、ステアリングホイールが手放し状態にある(即ち、人為的に操作されていない状態に相当)場合に、車両が急発進する等して加速状態にある旨の判別がなされた場合には、例えばトルクステアによるステアリングの操作を抑制し得る、又は収束させ得る、或いはそのようなトルクステアの発生自体を回避し得る、相対的に大きな収束操舵力が付与される。
【0022】
一方、トルクステアの発生時には、ステアリングホイールの操作状態によって、必要とされる収束操舵力は大きく異なり得る。例えば、ステアリングホイールが少なくとも保舵された状態(即ち、人為的に操作されている状態に相当)にある場合には、トルクステアを収束させるべく、或いは回避すべくなされ得るステアリングホイールの人為的な操作をアシストする方向へ収束操舵力が付与されればよく、手放し状態の場合と較べれば、比較的小さな収束操舵力で済む場合が多い。逆に、手放し状態における収束操舵力をこのような場合に適用すれば、ステアリングホイールが戻り過ぎると言った違和感が与えられ易い。従って、ステアリングホイールの操作状態に基づいて収束操舵力が付与されることにより、トルクステアによる走安性及び快適性の低下を抑えつつ、運転者へ与えられ得る違和感を回避するといった、実践上有益な効果が提供される。
【0023】
このように、本発明に係る車両の制御装置によれば、過渡的に車両の挙動を不安定ならしめるトルクステアの発生に際して或いは先んじて、適切な収束操舵力が付与されることにより、運転者の意思とは無関係なステアリングホイールの操作を抑制或いは回避することが可能となる。即ち、トルクステアによるステアリングホイールの操作を運転者の操舵状態によらずに効果的に収束させることが可能となるのである。
【0024】
尚、制御手段に係る制御の態様は、本発明に係る上述した効果を少なくとも阻害しない範囲で自由に決定されてよく、例えば収束操舵力の付与特性は、例えば予め実験的に、経験的に、理論的に或いはシミュレーション等に基づいて、手放し状態では可及的に速やかに収束操舵力が付与されるように、且つ保舵状態では運転者に違和感を与えずに操舵操作をアシストし得るように決定されていてもよい。
【0025】
尚、トルクステアは、上述したように、車両の物理的又は機械的な構成によって、より具体的には、例えばエンジンが横置きされること等によってドライブシャフトの長さが不等長である場合等に顕著に生じる。このような場合、予めトルクステアによるステアリングホイールが操作される方向は、左右いずれか一方に特定され得るから、トルクステアを招きかねない加速状態にある場合に、実際のトルクステアの発生に先んじて所定の方向に収束操舵力を付与することにより、実質的にみてトルクステアの発生自体を回避することも可能である。
【0026】
本発明に係る車両の制御装置の一の態様では、前記補助操舵力付与手段は、電動機を含む。
【0027】
この態様によれば、補助操舵力付与手段が、例えばモータ等の電動機を含んで構成されるため、収束操舵力を比較的簡便に且つ正確に付与することが可能となる。尚、この態様では、例えば電動機は操舵装置の一部として構成され、ステアリングシャフトの回転、ピニオンギアの回転、或いはラックバーの往復運動等をアシストするアシストトルクを補助操舵力として付与可能に構成されていてもよい。即ち、この場合、操舵装置は所謂EPSの形態を採る。
【0028】
尚、この態様における電動機の形態は何ら限定されず、例えばDCモータや三相交流モータ等の各種形態を採ることが可能である。また、係る電動機に電力を供給する電源装置も何ら限定されるものではなく、例えばセルモータ、シガライタ、ブロワ、ヘッドライト又はカーナビゲーション装置等車両に備わる各種補機類の電源装置として機能し得る例えば車載用12Vバッテリ等であってもよいし、このような補機用バッテリとは独立して構成された専用のバッテリ等であってもよい。更には、これら各種バッテリから供給される電圧を適宜昇圧せしめた、相対的に高圧な2次電圧を供給可能なバッテリであってもよい。
【0029】
本発明に係る車両の制御装置の他の態様では、前記制御手段は、前記ステアリングホイールの操舵角に応じて前記収束操舵力が付与されるように前記補助操舵力付与手段を制御する。
【0030】
この態様によれば、収束操舵力が、例えば舵角センサ等の検出手段により検出されるステアリングホイールの操舵角に応じて付与される。収束操舵力は、トルクステアを打ち消し、最終的には車両の走安性及び快適性を向上せしめる目的で付与されるものであり、その観点から言えば、操舵角は重要な意味を持つ。即ち、ステアリングホイールが手放し状態であれば、トルクステアによるステアリングホイールの操作自体を抑制するのが好ましく、収束操舵力の付与は比較的微小な操舵角から開始されるのが望ましい。一方で、運転者がステアリングホイールを少なくとも保舵した状態では、あくまで運転者の操作意思に応じた収束操舵力を付与する必要があるから、操舵角には一定又は不定の不感帯領域が設定される方がよい場合がある。この態様によれば、収束操舵力が操舵角に応じて付与されるから、例えばこのような、ステアリングホイールの操作状態に応じて異なり得る要求にも好適に応えることが可能となり、実践上有益である。
【0031】
尚、この態様では、前記制御手段は、予め前記操舵角に対応付けられて設定されてなる前記収束操舵力の基本特性に基づいて前記収束操舵力が付与されるように前記補助操舵力付与手段を制御してもよい。
【0032】
この場合、例えば予め実験的に、経験的に、理論的に或いはシミュレーション等に基づいて、ステアリングホイールの操作状態によらず運転者に違和感を与えることなくトルクステアを好適に打ち消すことが可能となるように、収束操舵力の基本特性が決定されており、例えば然るべき記憶手段にマップ等として格納されている。従って、制御手段は、実際の補助操舵力付与手段の制御に際し、当該基本特性に基づいて、更には適宜車速や駆動トルク等の指標値に応じた補正を行って、比較的軽い処理負荷の下で収束操舵力を好適に付与することが可能となる。尚、「基本特性に基づいて」とは、必ずしも付与すべき収束操舵力が、係る基本特性のみに従って決定されずともよいことを表す趣旨であり、より具体的には、例えば上述した如く車速や駆動トルク等に応じた補正が行われてもよいことを表す趣旨である。
【0033】
基本特性に基づいて収束操舵力が付与される態様においては、前記制御手段は、前記ステアリングホイールが人為的に操作されている場合には、前記基本特性の少なくとも一部として設定された第1特性に基づいて前記補助操舵力付与手段を制御すると共に、前記ステアリングホイールが人為的に操作されていない場合には、前記基本特性の少なくとも一部として設定された、(i)前記収束操舵力の最大値が前記第1特性における該最大値よりも大きく、且つ(ii)前記収束操舵力の付与が開始される前記操舵角を表す開始操舵角が、前記第1特性における該開始操舵角よりも小さい第2特性に基づいて前記補助操舵力付与手段を制御してもよい。
【0034】
この場合、ステアリングホイールが人為的に操作されている、即ち少なくとも保舵状態にある場合には、所定の第1特性に基づいて補助操舵力付与手段が制御されると共に、ステアリングホイールが人為的に操作されていない場合、即ち手放し状態にある場合には、第2特性に従い、係る第1特性における開始操舵角よりも小さい操舵角を開始操舵角として、最大値が係る第1特性における最大値よりも大きい収束操舵力が付与される。従って、ステアリングホイールが手放し状態にある場合と、保舵状態にある場合とで、収束操舵力の付与特性を全く独立したものとすることができ、より各々の場合に最適化された収束操舵力を付与可能となる。また、このような第1及び第2特性に相当するマップ、例えば、第1及び第2特性に相当する特性を得るための補助操舵力付与手段の制御量(電流値、トルク値又はデューティ比等)を規定するマップ等が然るべき記憶手段に記憶される場合には、上述したように、制御手段の負荷を軽減することも可能となるため実践上有益である。
【0035】
尚、このように少なくとも第1特性と第2特性との間で基本特性が切り替えられる態様では、前記制御手段は、前記基本特性を前記第1特性と前記第2特性との間で切り替える場合に、前記収束操舵力が徐々に変化するように前記補助操舵力付与手段を制御してもよい。
【0036】
手放し状態と保舵状態とでは、収束操舵力の値に実践上無視し得ない大きな差異が存在することが多い。従って、トルクステアの発生中、或いはトルクステアの発生を抑えるための制御中に、手放し状態から保舵状態へステアリングホイールの操作状態が変化すること等により、基本特性が切り替えられる場合には、例えばトルクショック等の違和感が運転者に与えられかねない。この態様では、制御手段が基本特性の切り替え時に収束操舵力を徐変するため、そのようなトルクショックを、少なくとも運転者に知覚されない程度に軽減することが可能となり実践上有益である。
【0037】
尚、このような徐変の態様は、何らこの種の制御をなさない場合と較べて幾らかなりとも違和感の発生を抑止し得る限りにおいて何ら限定されず、一方の特性に基づいて決定される収束操舵力から他方の特性に基づいて決定される収束操舵力まで、連続的に、或いは段階的に収束操舵力を変化させてもよい。また、このような切り替え時における収束操舵力の徐変制御を実行する期間は、走安性及び快適性が十分に担保され得る限りにおいて何ら限定されず、操作状態が変化した時点から、或いは操作状態が変化した旨の何らかの判定動作がなされた時点から一定又は不定の時間として規定されていてもよいし、特に経過時間によらずに、切り替え前後における収束操舵力の差分と、徐変の度合いに応じてその都度個別具体的に定まる期間であってもよい。
【0038】
尚、このように収束操舵力が徐変される態様では、前記制御手段は、前記基本特性を切り替える場合の前記収束操舵力が、前記操舵角及び前記ステアリングホイールの操舵トルクのうち少なくとも一方の時間微分値に基づいて付与されるように前記補助操舵力付与手段を制御してもよい。
【0039】
操舵角の時間微分値、即ち操舵角速度と、操舵トルクの時間微分値とは、運転者によるステアリングホイールの操作の度合いを規定する指標となり得る。従って、これらの指標値に基づいて基本特性切り替え時の収束操舵力が付与される場合には、運転者に与えられる違和感が極めて軽減され、自然な操作感覚を運転者に提供することが可能となる。尚、このような指標値に基づいて付与される、基本特性切り替え時の収束操舵力は、運転者がステアリングホイールを切り込んだ場合、即ち、中立位置から乖離する方向へステアリングホイールが操作される場合と、切り戻した場合、即ち運転者の意思によりステアリングホイールが中立方向へ戻される場合とで、無論相互に異なっていてよい。
【0040】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
<発明の実施形態>
以下、適宜図面を参照して本発明の車両の制御装置に係る実施形態について説明する。
【0042】
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る車両10の構成について説明する。ここに、図1は、車両10の基本的な構成を概念的に示す概略構成図である。
【0043】
図1に示すように、車両10は、操舵輪として左右一対の前輪FL及びFRを備え、これら前輪が操舵されることにより所望の方向に進行することが可能に構成されている。
【0044】
車両10は、ECU100、EPS200及びエンジン300を備える。
【0045】
ECU100は、夫々不図示のCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を備え、車両10の動作全体を制御することが可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「車両の制御装置」の一例である。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、EPS200を制御するための後述するトルクステア抑制処理を実行することが可能に構成されている。
【0046】
EPS200は、所謂電動式パワーステアリング装置であり、操舵輪である前輪FL及びFRを、運転者によるステアリングホイール11の操作に応じて操舵することが可能に構成されている。
【0047】
EPS200には、ラックアンドピニオン式の操舵方式が採用されており、ステアリングホイール11に一方の端部が接続されるステアリングシャフト12と、当該ステアリングシャフト12の他方の端部に接続されるラックアンドピニオン機構13とが備わっている。尚、EPS200には、例えばボールナット式等、他の操舵方式が採用されていても構わない。
【0048】
ラックアンドピニオン機構13は、ステアリングシャフト12の回転方向の力を、ラックバー14の往復動方向の力に変換することが可能に構成される。また、ラックバー14の両端は、タイロッド(符号省略)を介して前輪FL及びFRに連結されており、ラックバー14の往復運動に応じて、前輪FL及びFRの向きが変わる構成となっている。
【0049】
EPS200には、ステアリングホイール11の回転角度である操舵角δを検出することが可能に構成された舵角センサ15及びステアリングホイール11の操作を介してステアリングシャフト12に加えられる操舵トルクMTを検出することが可能に構成されたトルクセンサ16が備わる。舵角センサ15及びトルクセンサ16は、夫々ECU100と電気的に接続されており、夫々検出された操舵角δ及び操舵トルクMTは、ECU100により絶えず、或いは一定又は不定の周期毎に把握される構成となっている。
【0050】
また、EPS200には、モータ17が備わる。モータ17は、運転者の操作負担を軽減する補助操舵力としてアシストトルクを発生させると共に、不図示の減速ギアを介してステアリングシャフト12に当該アシストトルクを付与することが可能に構成された、本発明に係る「補助操舵力付与手段」の一例である。モータ17は、例えばインバータ等を含む不図示のモータ制御系を介してECU100と電気的に接続されており、その動作状態がECU100により制御される構成となっている。尚、モータ17から出力されるアシストトルクは、必ずしもステアリングシャフト12に付与されずともよく、例えば、ラックアンドピニオン機構13におけるピニオンギアに、当該ピニオンギアの回転をアシストすべく付与されてもよいし、ラックバー14に当該ラックバーの往復運動をアシストすべく付与されてもよい。
【0051】
車両10は、前後Gセンサ18、車速センサ19及びスロットル開度センサ20を備える。
【0052】
前後Gセンサ18は、車両10の前後方向に作用する加速度(即ち、前後G)Gxを検出することが可能に構成されたセンサである。前後Gセンサ18は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車両10の前後Gは、ECU100によって絶えず、或いは一定又は不定の周期毎に把握される構成となっている。
【0053】
車速センサ19は、車両10の速度(即ち、車速)Vを検出することが可能に構成されたセンサである。車速センサ19は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速は、ECU100によって絶えず、或いは一定又は不定の周期毎に把握される構成となっている。
【0054】
スロットル開度センサ20は、エンジン300におけるスロットルバルブの開度(即ち、スロットル開度)Thrを検出することが可能に構成されたセンサである。スロットル開度センサ20は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたスロットル開度は、ECU100によって絶えず、或いは一定又は不定の周期毎に把握される構成となっている。
【0055】
エンジン300は、ガソリンを燃料とし、車両10の動力源として機能するように構成された内燃機関であり、例えば、4気筒、6気筒、8気筒又は12気筒等、複数の気筒を備え、また夫々の気筒の配置態様に応じて直列型、V型或いは水平対向型等の各種態様を採る。エンジン300における、不図示のクランクシャフトから出力される駆動力は、不図示のデファレンシャル及びドライブシャフト等を適宜介して、操舵輪たる前輪FL及びFRに付与される。即ち、車両10は、FF車両として構成されている。尚、車両10の駆動形態は、無論FFに限定されず、例えば前輪FL及びFRに加えて不図示の後輪が駆動される、四輪駆動の形態を採ってもよい。
【0056】
<実施形態の動作>
次に、本実施形態の動作について説明する。
【0057】
車両10は、上述したようにFF車両であり、前輪FL及びFRは、操舵輪であると共に駆動輪である。そのため、これら前輪は、急発進時等、比較的大きい前後加速度が生じた際に、運転者の操舵操作とは無関係に操舵され、所謂トルクステアが発生することがある。トルクステアが発生した場合、走安性の低下を招く可能性があると共に、操舵輪に作用する操舵力がステアリングシャフト12を介してステアリングホイール11に伝達されることによって、結局運転者の操舵意思とは無関係にステアリングホイール11が操作され、運転者に著しい違和感を与えることとなって快適性が低下し易い。そこで、本実施形態に係る車両10では、ECU100が、トルクステア抑制処理を実行することによって、係るトルクステアの発生に好適に対処し得ている。以下、適宜図面を参照し、トルクステア抑制処理の詳細について説明する。
【0058】
始めに、図2を参照し、トルクステア抑制処理の基本的な流れについて説明する。ここに、図2は、トルクステア抑制処理のフローチャートである。
【0059】
図2において、ECU100は、始めに車両10が加速中であるか否かを判別する(ステップS100)。尚、加速中であるか否かに係る判別は、加速判定処理の結果に基づいて行われる。
【0060】
ここで、図3を参照し、加速判定処理の詳細について説明する。ここに、図3は、加速判定処理のフローチャートである。
【0061】
図3において、ECU100は、車速センサ19によって検出される車速Vが、所定の閾値Vth以上であるか否かを判別する(ステップS110)。ここで、車速の閾値Vthは、車速の検出誤差が実践上問題とならない限りにおいて、ゼロ近傍の極低車速領域で設定されている。車速Vが閾値Vth未満である場合(ステップS110:NO)、ECU100は、車両10が加速中でない旨の判別を行う(即ち、図2のステップS100における「NO」の分岐に相当)。
【0062】
車速Vが閾値Vth以上である場合(ステップS110:YES)、ECU100は、スロットル開度センサ20によって検出されるスロットル開度Thrが、所定の閾値Thrth以上であるか否かを判別する(ステップS120)。ここで、スロットル開度の閾値Thrthは、予め実験的に、経験的に、理論的に或いはシミュレーション等に基づいて、トルクステアの発生に対応付けられた値に設定されている。例えば、閾値Thrthは、トルクステアの発生確率が相対的にみて高いと推定され得る値に設定される。スロットル開度Thrが閾値Thrth未満である場合(ステップS120:NO)、ECU100は、車両10が加速中でない旨の判別を行う(即ち、図2のステップS100における「NO」の分岐に相当)。
【0063】
スロットル開度Thrが閾値Thrth以上である場合(ステップS120:YES)、ECU100は更に、車両10の前後Gセンサ19によって検出される車両10の前後加速度Gxが、所定の閾値Gxth以上であるか否かを判別する(ステップS130)。ここで、前後Gの閾値Gxthは、予め実験的に、経験的に、理論的に或いはシミュレーション等に基づいて、トルクステアの発生に対応付けられた値に設定されている。例えば、閾値Gxthは、トルクステアの発生確率が相対的にみて高いと推定され得る値に設定される。前後加速度Gxが閾値Gxth未満である場合(ステップS130:NO)、ECU100は、車両10が加速中でない旨の判別を行う(即ち、図2のステップS100における「NO」の分岐に相当)。
【0064】
前後加速度Gxが閾値Gxth以上である場合(ステップS130:YES)、ECU100は更に、車両10の駆動トルクDrtrqが所定の閾値Drtrqth以上であるか否かを判別する(ステップS140)。ここで、駆動トルクDrtrqは、前輪FL及びFRを実際に駆動するトルクであり、エンジン300の出力トルク、及びデファレンシャルのギア比等に基づいてECU100により算出される。また、駆動トルクDrtrqの閾値Drtrqthは、予め実験的に、経験的に、理論的に或いはシミュレーション等に基づいて、トルクステアの発生に対応付けられた値に設定されている。例えば、閾値Drtrqthは、トルクステアの発生確率が相対的にみて高いと推定され得る値に設定される。駆動トルクDrtrqが閾値Drtrqth未満である場合(ステップS140:NO)、ECU100は、車両10が加速中でない旨の判別を行う(即ち、図2のステップS100における「NO」の分岐に相当)。
【0065】
駆動トルクDrtrqが閾値Drtrqth以上である場合(ステップS140:YES)、ECU100は、車両10が加速中である旨の判別を行う(即ち、図2のステップS100における「YES」の分岐に相当)。このように、加速判定処理では、車速V、スロットル開度Thr、前後加速度Gx及び駆動トルクDrtrqの値に基づいて、車両10が加速中であるか否かの判別がなされる構成となっている。車両10が加速状態であるか否かの判別がなされると、加速判定処理は終了する。
【0066】
図2に戻り、車両10が加速中でない旨の判別がなされた場合(ステップS100:NO)、ECU100はステップS100を繰り返し実行し、実質的に処理を待機状態に制御する。一方、車両10が加速中である旨の判別がなされた場合(ステップS100:YES)、ECU100は更に、ステアリングホイール11が手放し状態であるか否かを判別する(ステップS200)。尚、ステアリングホイール11が手放し状態であるか否かに係る判別は、手放し判定処理の結果に基づいて行われる。
【0067】
ここで、図4を参照し、手放し判定処理の詳細について説明する。ここに、図4は、手放し判定処理のフローチャートである。
【0068】
図4において、ECU100は、トルクセンサ16によって検出される操舵トルクMTの絶対値が、所定の閾値MTth1未満であるか否かを判別する(ステップS210)。ここで、操舵トルクMTは、運転者の操舵方向によって正負いずれの値も採り得るため、絶対値が参照される。閾値MTth1は、例えば予め実験的に、経験的に、理論的に或いはシミュレーション等に基づいて、ステアリングホイール11が手放し状態であると推定され得る、或いは運転者による操舵入力が無いと推定され得る値(例えば、運転者による操舵入力がある場合には採り得ないような値)に設定されている。操舵トルクMTの絶対値が閾値MTth1以上である場合(ステップS210:NO)、ECU100は、ステアリングホイール11が手放し状態に無い旨の(即ち、運転者がステアリングホイール11を少なくとも保舵している旨の)判別を行う(即ち、図2のステップS200における「NO」の分岐に相当)。
【0069】
操舵トルクMTの絶対値が閾値MTth1未満である場合(ステップS210:YES)、ECU100は、ステアリングホイール11の操舵角速度ωの絶対値が、所定の閾値ωth1以上であるか否かを判別する(ステップS220)。ここで、操舵角速度ωは、舵角センサ15によって検出される操舵角δの時間微分値であり、ステアリングホイール11が操作される際の操作速度を規定する指標値である。操舵角δは、ステアリングホイール11の回転方向によって正負いずれの値も採り得るため、必然的に操舵角速度ωも正負いずれの値も採り得る構成となっている。このため、ステップS220に係る判別処理に際しては絶対値が参照される。閾値ωth1は、ステアリングホイール11が人為的にしろトルクステアによるにしろ、いずれかの方向に操作されていると推定され得る値に設定されている。ECU100は、操舵角速度ωの絶対値が閾値ωth1未満である場合(ステップS220:NO)、ステアリングホイール11が手放し状態に無い旨の判別を行う(即ち、図2のステップS200における「NO」の分岐に相当)。
【0070】
操舵角速度ωが閾値ωth1以上である場合(ステップS220:YES)、ECU100は、舵角センサ15によって検出されるステアリングホイール11の操舵角δの絶対値が所定の閾値δth1以上であるか否かを判別する(ステップS230)。ここで、操舵角δは、上述したように正負いずれの値も採り得るため、絶対値が参照される。また、閾値δth1は、ステアリングホイール11が人為的にしろトルクステアによるにしろ、いずれかの方向に操作されていると推定され得る値に設定されている。ECU100は、操舵角δの絶対値が閾値δth1未満である場合(ステップS230:NO)、ステアリングホイール11が手放し状態に無い旨の判別を行う(即ち、図2のステップS200における「NO」の分岐に相当)。尚、ステップS230に係る処理では、操舵角δの符号が、操舵角速度ωの符号と一致するか否かも同時に判別される。
【0071】
尚、本実施形態では、このようにステップS220及びステップS230に係る処理において、操舵角速度ω及び操舵角δの各々の絶対値が参照されるが、無論、ステアリングホイール11の操作方向(即ち、左右方向)毎に設定される、相互に符号のみが異なる二つの閾値と、操舵角速度ω及び操舵角δとを夫々個別に比較判別してもよい。
【0072】
操舵角δの絶対値がδth以上である場合(ステップS230:YES)、ECU100は、ステアリングホイール11が手放し状態である旨の判別を行う(即ち、図2のステップS200における「YES」の分岐に相当)。このように、手放し判定処理では、操舵トルクMT、操舵角速度ω及び操舵角δに基づいて、ステアリングホイール11が手放し状態であるか否かの判別が行われる構成となっている。定性的には、操舵トルクMTが十分に小さい状況下で、操舵角速度ω及び操舵角δが、相互に同一の符合で、ある程度の値を有する場合には、ステアリングホイール11が手放し状態である旨の判別がなされる構成となっている。ステアリングホイール11が手放し状態であるか否かの判別がなされると、手放し判定処理は終了する。
【0073】
図2に戻り、ステアリングホイール11が手放し状態である場合(ステップS200:YES)、ECU100は、ステアリングホイール11をニュートラルポジションに向かわせるための、手放し時N戻し制御を実行する(ステップS10)。一方、ステアリングホイール11が手放し状態でない場合(ステップS200:NO)、ECU100は、運転者がステアリングホイール11をニュートラルポジションへ戻す操作を補助するための、後述する操舵時N戻し制御の実行可否を判別する(ステップS300)。係る実行可否の判別は、許可判定処理の結果に基づいて行われる。
【0074】
ここで、図5を参照し、許可判定処理の詳細について説明する。ここに、図5は、許可判定処理のフローチャートである。
【0075】
図5において、ECU100は、操舵トルクMTの絶対値が所定の閾値MTth2以上であるか否かを判別する(ステップS310)。ここで、閾値MTth2は、運転者がステアリングホイール11を操舵する意思を有する旨を明確にするために、手放し状態の判別に係る閾値MTth1よりも大きい値に設定されている。操舵トルクMTの絶対値が閾値MTth2未満である場合(ステップS310:NO)、ECU100は、操舵時N戻し制御を禁止する旨の判別を行う(即ち、図2のステップS300における「NO」の分岐に相当)。
【0076】
一方、操舵トルクMTの絶対値が閾値MTth2以上である場合(ステップS310:YES)、ECU100は、操舵角速度ωの絶対値が所定の閾値ωth2以上であるか否かを判別する(ステップS320)。ここで、閾値ωth2は、手放し状態の判別に係る閾値ωth1よりも大きい値に設定されている。操舵角速度ωの絶対値が閾値ωth2未満である場合(ステップS320:NO)、ECU100は、操舵時N戻し制御を禁止する旨の判別を行う(即ち、図2のステップS300における「NO」の分岐に相当)。
【0077】
一方、操舵角速度ωの絶対値が閾値ωth2以上である場合(ステップS320:YES)、ECU100は、操舵角δの絶対値が所定の閾値δth2以上であるか否かを判別する(ステップS330)。ここで、閾値δth2は、手放し状態の判別に係る閾値δth1よりも大きい値に設定されている。操舵角δの絶対値が閾値δth2未満である場合(ステップS330:NO)、ECU100は、操舵時N戻し制御を禁止する旨の判別を行う(即ち、図2のステップS300における「NO」の分岐に相当)。
【0078】
他方、操舵角δの絶対値が閾値δth2以上である場合(ステップS330:YES)、ECU100は、操舵時N戻し制御を許可する旨の判別を行う(即ち、図2のステップS300における「YES」の分岐に相当)。このように、許可判定処理においては、操舵トルクMT、操舵角速度ω及び操舵角δに基づいて、操舵時N戻し制御の実行を許可するか否かの判別が行われる構成となっている。
【0079】
図2に戻り、操舵時N戻し制御が許可されない場合(ステップS300:NO)、ECU100は、処理をステップS100に戻し、車両10が加速中であるか否かの判別処理から続く一連の処理を実行する。一方、操舵時N戻し制御が許可される場合(ステップS300:YES)、ECU100は、操舵時N戻し制御を実行する(ステップS11)。操舵時N戻し制御が実行されると、処理はステップS100に戻され、一連の処理が繰り返される。
【0080】
ここで、手放し時N戻し制御の詳細について説明する。手放し時N戻し制御が実行される場合、ECU100は、モータ17から出力すべき手放し時アシストトルクATRQ1(以下、適宜「アシストトルクATRQ1」と称する)を算出し、当該アシストトルクATRQ1が出力されるようにモータ17の制御系を制御する。アシストトルクATRQ1は、下記(1)式に従って算出される。
【0081】
ATRQ1=ATRQ1base×GN1×GN2・・・(1)
ここで、ATRQ1baseは、アシストトルクATRQ1の基本値であり、GN1及びGN2は、夫々アシストトルクATRQ1の基本値ATRQ1baseを補正するためのゲインである。
【0082】
ここで、図6を参照し、ATRQ1base、GN1及びGN2の詳細について説明する。ここに、図6は、ATRQ1base、GN1及びGN2の特性を概念的に表してなる模式図である。
【0083】
図6において、上段から下段にかけて、ATRQ1baseの特性(図6(a))、ゲインGN1の特性(図6(b))、及びゲインGN2の特性(図6(c))が示される。
【0084】
図6(a)は、本発明に係る「第2特性」の一例であり、図6(a)において、アシストトルクATRQ1の基本値ATRQ1baseは、操舵角δに対応付けられて設定され、その軌跡は、図示PRF_ATRQ1baseとなる。即ち、基本値ATRQ1baseは、ほぼゼロとみなし得る程度に小さい、図示操舵角δ1(即ち、本発明に係る「開始操舵角」の一例)から、操舵角δ2(δ2>δ1)までの操舵角範囲で設定される。また、その最大値は、ATRQ1basemaxを採る。尚、最大値ATRQ1basemaxは、概ね4〜5N・m程度の値に設定される。
【0085】
図6(b)において、ゲインGN1は、車両10の駆動トルクDrtrqに対するゲインGNの特性であり、その軌跡は図示PRF_GN1によって表される。即ち、ゲインGN1は、駆動トルクDrtrq1(少なくとも前述したDrtrqth以上の値を採る)以上の範囲で設定され、Drtrq1からDrtrq2(Drtrq2>Drtrq1)までの範囲でリニアに上昇し、Drtrq2において、最大値GN1max(例えば、1である)を採る。
【0086】
図6(c)において、ゲインGN2は、車両Vに対するゲインGNの特性であり、その軌跡は図示PRF_GN2によって表される。即ち、ゲインGN2は、極低車速である車速V1(少なくとも前述したVth以上の値を採る)以上Vmax(Vmax>V1)の範囲で設定され、V1からV2(V2>V1)までの範囲では最大値GN2max(例えば、1である)を採り、V2以上の範囲でリニアに減少するように設定される。これらの諸特性に従えば、上記(1)式に従って算出されるアシストトルクATRQ1は、最大値として概ねATRQ1basemax近傍の値を採り、駆動トルクDrtrq及び車速Vに応じて補正される値となる。
【0087】
次に、操舵時N戻し制御の詳細について説明する。操舵時N戻し制御が実行される場合、ECU100は、モータ17から出力すべき操舵時アシストトルクATRQ2(以下、適宜「アシストトルクATRQ2」と称する)を算出し、当該アシストトルクATRQ2が出力されるようにモータ17の制御系を制御する。アシストトルクATRQ2は、下記(2)式に従って算出される。
【0088】
ATRQ2=ATRQ2base×GN1×GN2・・・(2)
ここで、ATRQ2baseは、アシストトルクATRQ2の基本値であり、GN1及びGN2は、夫々アシストトルクATRQ2の基本値ATRQ2baseを補正するためのゲインである。
【0089】
ここで、図7を参照し、ATRQ2base、GN1及びGN2の詳細について説明する。ここに、図7は、ATRQ2base、GN1及びGN2の特性を概念的に表してなる模式図である。尚、同図において、図6と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0090】
図7において、上段から下段にかけて、ATRQ2baseの特性(図7(a))、ゲインGN1の特性(図7(b))、及びゲインGN2の特性(図7(c))が示される。図7より明らかな通り、ゲインGN1の特性(図7(b))及びゲインGN2の特性(図7(c))は、夫々図6と同等であり、即ち、夫々PRF_GN1及びPRF_GN2によって、その特性が表される。
【0091】
一方で、図7(a)には、本発明の「第1特性」の一例である、アシストトルクATRQ2の基本値ATRQ2baseの特性が表される。図7(a)において、アシストトルクATRQ2の基本値ATRQ1baseは、操舵角δに対応付けられて設定され、その軌跡は、図示PRF_ATRQ2baseとなる。即ち、基本値ATRQ2baseには、図6(a)に示される基本値ATRQ1baseと較べて大きな不感帯が設定されており、図示操舵角δ3(δ3>δ1であり、δ3は、即ち、本発明に係る「開始操舵角」の他の一例)から、操舵角δ4(δ4>δ3)までの操舵角範囲で設定される。また、その最大値は、ATRQ2basemaxを採る。尚、最大値ATRQ2basemaxは、概ね0.3〜0.4N・m程度の値に設定されており、アシストトルクATRQ1の基本値ATRQ1baseと較べて十分に小さく設定されている。
【0092】
上述した(1)式に従ってモータ17からアシストトルクATRQ1が出力される結果、手放しN戻し制御が実行される場合には、極めて小さい操舵角から比較的大きいアシストトルクATRQ1が出力され、トルクステアによってステアリングホイール11が操作された場合に、ステアリングホイール11が迅速にニュートラルポジションに復帰せしめられる。或いは、トルクステアの発生自体が抑制され、運転者の意思に反してステアリングホイール11が操作される事態が防止される。即ち、手放し状態における急加速時には、ステアリングホイール11がニュートラルポジション又はニュートラルポジション近傍に固定される。従って、トルクステアの発生時であっても車両10の走安性が低下することがなく、また快適性が低下することもない。
【0093】
尚、本実施形態では、手放し時アシストトルクATRQ1が出力される際には、EPS200のベース特性が切り替えられ、手放し時アシストトルクATRQ1がより効果的に付与される構成となっている。この際、ECU100は、EPS200の慣性補償制御と粘性補償制御を実行することによって、当該ベース特性を切り替えている。即ち、ECU100は、当該ベース特性の切り替え時に、ステアリングホイール11の慣性(所謂ハンドル慣性)を低下させた後に、ダンピング量を増加させ粘性を増加させる。このような粘性補償と慣性補償によるベース特性の切り替えにより、手放し時アシストトルクATRQ1によって効果的にステアリングホイール11の挙動を制御することが可能となる。
【0094】
一方、上述した(2)式に従ってモータ17からアシストトルクATRQ2が出力される結果、操舵時N戻し制御が実行される場合には、手放しN戻し制御と較べて大きな不感帯の効果により、ステアリングホイール11の操作が過度にアシストされている感覚を排除しつつ、運転者の操舵トルクを手放しN戻し制御時と較べて大きな舵角範囲で補うことが可能となり、違和感の発生による快適性の低下を抑制しつつ、走安性の向上を図ることが可能となる。
【0095】
ここで、手放し時N戻し制御と、操舵時N戻し制御とでは、例えば最大値及び操舵角範囲等、付与特性が大きく異なるため、一方の制御から他方の制御に切り替わる際に何らの対策も施されない場合には、運転者に制御の切り替わりがトルクショックとして知覚され快適性が大きく低下する可能性がある。このような快適性の低下は、操舵時N戻し制御から手放し時N戻し制御に切り替わる場合よりも、手放し時N戻し制御から操舵時N戻し制御へ切り替わる場合に顕著に発生し易い。そこで、トルクステア抑制処理においては、係る手放し時N戻し制御から操舵時N戻し制御への制御の切り替わり時における当該トルクショックの低減を図られ、快適性の維持が実現されている。
【0096】
即ち、図2に戻り、手放し時N戻し制御が実行された場合、ECU100は、運転者による操舵入力がなされた否かを判別する(ステップS400)。係る判別は、操舵入力判定処理の結果に基づいて行われる。ここで、図8を参照し、操舵入力判定処理の詳細について説明する。ここに、図8は、操舵入力判定処理のフローチャートである。
【0097】
図8において、ECU100は、操舵トルクMTの絶対値が所定の閾値MTth3以上であるか否かを判別する(ステップS410)。ここで、閾値MTth3は、手放し時N戻し制御からの切り替えであることに鑑みれば、少なくとも手放し状態の判別に係る閾値MTth1よりも大きい値に設定される。尚、本実施形態では、閾値MTth3は、操舵時N戻し制御の実行が許可される閾値MTth2よりも大きい値に設定されている。操舵トルクMTの絶対値が閾値MTth3未満である場合(ステップS410:NO)、ECU100は、操舵入力が無い旨の判別を行う(即ち、図2のステップS400における「NO」の分岐に相当)。
【0098】
一方、操舵トルクMTの絶対値が閾値MTth3以上である場合(ステップS410:YES)、ECU100は、操舵角速度ωの絶対値が所定の閾値ωth3以上であるか否かを判別する(ステップS420)。ここで、閾値ωth3は、操舵時N戻し制御の実行が許可される閾値ωth2よりも大きい値に設定されている。操舵角速度ωの絶対値が閾値ωth3未満である場合(ステップS420:NO)、ECU100は、操舵入力が無い旨の判別を行う(即ち、図2のステップS400における「NO」の分岐に相当)。
【0099】
一方、操舵角速度ωの絶対値が閾値ωth3以上である場合(ステップS420:YES)、ECU100は、操舵角δの絶対値が所定の閾値δth3以上であるか否かを判別する(ステップS430)。ここで、閾値δth3は、操舵時N戻し制御の実行が許可される閾値δth3よりも大きい値に設定されている。操舵角δの絶対値が閾値δth3未満である場合(ステップS430:NO)、ECU100は、操舵入力が無い旨の判別を行う(即ち、図2のステップS400における「NO」の分岐に相当)。
【0100】
他方、操舵角δの絶対値が閾値δth3以上である場合(ステップS430:YES)、ECU100は、操舵入力有る旨の判別を行う(即ち、図2のステップS400における「YES」の分岐に相当)。このように、操舵入力判定処理においては、操舵トルクMT、操舵角速度ω及び操舵角δに基づいて、運転者による操舵入力の有無に係る判別が行われる構成となっている。
【0101】
図2に戻り、当該操舵入力がなされない旨の判別がなされた場合(ステップS400:NO)、ECU100は処理をステップS100に戻すと共に、手放し時N戻し制御の実行中に操舵入力がなされた旨の判別がなされた場合(ステップS400:YES)には、当該操舵入力が切り込み操作に対応するものであるか否かを判別する(ステップS12)。ここで、操舵入力が切り込み操作であるか否かは、操舵トルクMT、操舵角速度ω、及び操舵角δに基づいて行われ、これら各指標値が夫々相互に同符号である場合には、切り込み操作が行われている旨の判別がなされる構成となっている。一方、操舵トルクMT、操舵角速度ω及び操舵角δが異符号である場合には、運転者による操舵入力が切り戻し操作である旨の判別がなされる構成となっている。
【0102】
ECU100は、操舵入力が切り込み操作である場合(ステップS12:YES)、切り込み時切り替え制御を実行する(ステップS13)と共に、操舵入力が切り戻し操作である場合(ステップS12:NO)、切り戻し時切り替え制御を実行する(ステップS14)。
【0103】
切り込み時切り替え制御において、ECU100は、下記(3)式に従って切り替え時アシストトルクATRQ3(以下、適宜「アシストトルクATRQ3」と称する)を算出し、当該ATRQ3が出力されるようにモータ17の制御系を制御する。
【0104】
ATRQ3=GN3×GN4×ATRQ2・・・(3)
ここで、GN3及びGN4は、前述した操舵時N戻し制御におけるアシストトルクATRQ2を補正するためのゲインである。また、この際、手放し時N戻し制御に係るアシストトルクATRQ1はゼロに制御される。即ち、切り込み操作では、運転者の意思で切り込み方向にステアリングホイール11が操作されているのであり、ステアリングホイール11をニュートラルポジションに誘うアシストトルクATRQ1は、かえって運転者に違和感を与えかねないのである。
【0105】
ここで、図9を参照し、ゲインGN3及びGN4の詳細について説明する。ここに、図9は、ゲインGN3及びゲインGN4の特性を概念的に表してなる模式図である。
【0106】
図9において、ゲインGN3の特性は図9(a)に示され、その軌跡は、図示PRF_GN3として示される。即ち、ゲインGN3は、操舵角速度ωと対応付けられてなるゲインであり、操舵角速度ωがゼロからω1までの範囲でリニアに増加し、操舵角速度ωがω1よりも大きい範囲では、最大値GN3max(概ね1程度の値)で固定される。尚、操舵角速度ω1の値は、例えば予め実験的に、経験的に、理論的に或いはシミュレーション等に基づいて、運転者の操舵操作とは逆方向に出力されることになるアシストトルクATRQ2による違和感の発生を、運転者の操舵操作によって実践上顕在化させることなく回避し得る値に設定されている。定性的には、ステアリングホイール11がゆっくり操作されている場合(操舵角速度ωが小さい場合に相当)には、運転者の操作感度が相対的に高いことに鑑みてゲインGN3を絞ることによってアシストトルクATRQ3が減少制御され、ステアリングホイール11が素早く操作されている場合(操舵角速度ωが大きい場合に相当)には、運転者の操作感度が相対的に低いことに鑑みてゲインGN3が絞られず、アシストトルクATRQ3はアシストトルクATRQ2に漸近する。また、ゲインGN4の特性は図9(b)に示され、その軌跡は、図示PRF_GN4として示される。即ち、ゲインGN4は、操舵トルク微分値DMTが増加するのに伴い最大値(概ね、1である)から曲線的に減少する。
【0107】
このように、切り込み時切り替え制御では、操舵角速度ω及び操舵トルク微分値DMTに基づいて決定されるゲインGN3及びGN4によってアシストトルクATRQ2が補正され、モータ17から出力されるトルクが徐変されることによって、制御切り替え時における違和感の発生が抑制される。
【0108】
一方、切り戻し時切り替え制御において、ECU100は、下記(4)式に従って切り替え時アシストトルクATRQ4(以下、適宜「アシストトルクATRQ4」と称する)を算出し、当該ATRQ4が出力されるようにモータ17の制御系を制御する。
【0109】
ATRQ4=GN5×ATRQ1+ATRQ2・・・(4)
ここで、GN5は、前述した手放し時N戻し制御におけるアシストトルクATRQ1を補正するためのゲインである。ここで、図10を参照し、ゲインGN5の詳細について説明する。ここに、図10は、ゲインGN5の特性を概念的に表してなる模式図である。
【0110】
図10において、ゲインGN5の特性は、図示PRF_GN5として示される。即ち、ゲインGN5は、操舵角速度ωと対応付けられてなるゲインであり、操舵角速度ωが増加するに連れ最大値(概ね、1である)から曲線的に減少する。従って、運転者がより速くステアリングホイール11を操作する程、アシストトルクATRQ4は操舵時アシストトルクATRQ2に漸近し、運転者に与えられる違和感が軽減される。
【0111】
このように、切り戻し時切り替え制御では、操舵角速度ωに基づいて決定されるゲインGN5によってアシストトルクATRQ1が補正され、モータ17から出力されるトルクが徐変されることによって、制御切り替え時における違和感の発生が抑制される。
【0112】
尚、切り込み時切り替え制御も、切り戻し時切り替え制御も、その実行期間は何ら限定されない。例えば、予め実験的に、経験的に、理論的に或いはシミュレーション等に基づいて、制御切り替え時の違和感を払拭するのに十分な期間として適合された一定又は不定の期間について、当該切り替え制御がなされてもよいし、手放し時N戻し制御に従って出力されるアシストトルクATRQ1と操舵時N戻し制御に従って出力されるアシストトルクATRQ2との時間的な狭間に一度だけ当該切り替え制御に対応するアシストトルクが出力されてもよい。
【0113】
図2に戻り、切り込み時切り替え制御又は切り戻し時切り替え制御が行われると、ECU100は、処理をステップS100に戻し、一連の処理を繰り返す。本実施形態に係るトルクステア抑制処理は以上のようにして行われる。以上説明したように、本実施形態に係るトルクステア抑制処理によれば、トルクステアによるステアリングホイール11の戻り不良が、ステアリングホイール11が手放し状態であっても、保舵状態であっても補償され、車両10の走安性及び快適性が担保される。この際特に、手放し時N戻し制御から操舵時N戻し制御への切り替わり時には、モータ17から出力されるアシストトルクが、操舵角速度ω或いは操舵トルク微分値DMTに基づいて徐変され、当該切り替わり時に運転者に与えられ得る違和感の発生が抑制され、自然な操舵感覚が実現される。即ち、トルクステアによるステアリングホイールの操作を運転者の操舵状態によらずに効果的に収束させることが可能となるのである。
【0114】
本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両の概略構成図である。
【図2】図1の車両におけるトルクステア抑制処理のフローチャートである。
【図3】図2のステップS100における動作を示すフローチャートである。
【図4】図2のステップS200における動作を示すフローチャートである。
【図5】図2のステップS300における動作を示すフローチャートである。
【図6】手放し時アシストトルクの算出過程に係る、ATRQ1base、GN1及びGN2の特性を概念的に表してなる模式図である。
【図7】操舵時アシストトルクの算出過程に係る、ATRQ2base、GN1及びGN2の特性を概念的に表してなる模式図である。
【図8】図2のステップS400における動作を示すフローチャートである。
【図9】切り込み時切り替え制御時におけるゲインGN3及びGN4の特性を表す模式図である。
【図10】切り戻し時切り替え制御におけるゲインGN5の特性を表す模式図である。
【符号の説明】
【0116】
FL、FR…車輪、10…車両、100…ECU、200…EPS、11…ステアリングホイール、12…ステアリングシャフト、13…ラックアンドピニオン機構、15…舵角センサ、16…トルクセンサ、17…モータ、18…前後Gセンサ、19…車速センサ、20…スロットル開度センサ、300…エンジン。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばEPS(Electronic controlled Power Steering:電子制御式パワーステアリング装置)等を備えた車両を制御する車両の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術分野において、例えばステアリングホイールの戻り不良を補償する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された電動パワーステアリング装置(以下、「従来の技術」と称する)によれば、推定される運転者トルクが大きい程モータの電流指令値が小さくされるため、完全な手放し状態であるか、ステアリングホイールに軽く手を添えているかにかかわらず、ステアリングホイールの戻り速度をほぼ一定とすることができ、運転者に与える違和感を防止することができるとされている。
【0003】
尚、戻し修正電流値を目標戻し修正電流値に近づける方向に微小電流値だけ変化させて戻し電流値とする技術も開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
尚、目標操舵角速度と実舵角速度に基づいてベース修正電流値を演算し、アシスト目標電流とする技術も開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
尚、電動モータの慣性による応答遅れの補償を操舵トルクの微分値に基づいて行う技術も提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2006−182051号公報
【特許文献2】特開2006−137281号公報
【特許文献3】特開2006−137359号公報
【特許文献4】特開2004−255934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えばFF(Front engine Front drive:前輪駆動)車両や四輪駆動車両等では、例えば、発進加速時等、比較的大きな加速度が車両に加わった場合に、車輪に加わる駆動トルクによってトルクステアが発生することがある。トルクステアが発生した場合、運転者の意思とは無関係に、且つ路面からの入力による場合と比較して大きくステアリングホイールが操作され易い。このようなトルクステアによるステアリングホイールの操作は、手放し時であっても、操舵時であっても生じ得ると共に、車両の走安性及び快適性を阻害する大きな要因となるため、迅速に収束させる必要がある。ところが、従来の技術は、不感帯に相当する操舵角範囲が設けられる、或いは操舵トルクが大きい場合にはモータ電流がゼロとされる等、定常的な手放し走行を前提にしているため、トルクステアによるステアリングホイールの過渡的な操作に対しては効果的に作用しない。即ち、従来の技術には、トルクステアの発生時に車両の走安性や快適性が大きく損なわれかねないという技術的な問題点がある。
【0008】
本発明は上述した問題点に鑑みてなされたものであり、トルクステアによるステアリングホイールの操作を運転者の操舵状態によらずに効果的に収束させ得る車両の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明に係る車両の制御装置は、車輪に対しステアリングホイールを介して付与される操舵力を補助する補助操舵力を付与可能である補助操舵力付与手段を備えた車両を制御する車両の制御装置であって、前記車両が所定の加速状態にあるか否かを判別する判別手段と、前記ステアリングホイールが人為的に操作されているか否かの二値状態を少なくとも含む前記ステアリングホイールの操作状態を特定する特定手段と、前記車両が前記加速状態にある旨の判別がなされた場合に、前記特定された操作状態に基づいて、前記車輪に対し前記補助操舵力として前記ステアリングホイールを中立位置に向かわせる所定の収束操舵力が付与されるように前記補助操舵力付与手段を制御する制御手段とを具備することを特徴とする。
【0010】
本発明において、「補助操舵力付与手段」とは、例えば操舵対象となる車輪(以下、適宜「操舵輪」と称する)に対し、ステアリングホイールを介して運転者等により与えられる操舵力を補助する補助操舵力を付与可能な手段を包括する概念であり、係る概念が担保される限りにおいて、補助操舵力付与手段における、例えば電気的、機械的或いは物理的な態様は何ら限定されない趣旨である。
【0011】
尚、ここで述べられる操舵力とは、ステアリングホイールを介して与えられる操舵トルクや、或いは更に当該操舵トルクが、ステアリングホイールを含む操舵装置を構成する、例えばステアリングシャフト、ラックアンドピニオン式やボールナット式等の各種態様を採り得る操舵機構、及びタイロッド等を適宜介して変換されてなる、操舵輪を左右方向に動かす物理力等を指す。従って、補助操舵力とは、例えばモータ等の電動機から出力されるモータトルク等であってもよいし、そのようなモータトルクが適宜変換されてなる、上述した物理力を増加又は減少させる補助的な物理力であってもよい。
【0012】
本発明に係る車両の制御装置によれば、その動作時には、例えばECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る判別手段により、車両が所定の加速状態にあるか否かが判別される。
【0013】
ここで、本発明に係る「所定の加速状態」とは、トルクステアの発生と対応付けられた加速状態を包括する概念であり、例えば予め実験的に、経験的に、理論的に或いはシミュレーション等に基づいて、実践上無視し得ないトルクステアの発生が、又はそのようなトルクステアの近未来的な発生が裏付けられてなる加速状態、或いはそのような加速状態に一定又は不定のマージンを付与してなる、トルクステアを予防する観点から定められた加速状態等であってもよい。
【0014】
ここで、「トルクステア」とは、相対的にみて急激な加速時において、例えばエンジン等の内燃機関、ドライブシャフト、デファレンシャル、及びアクスル等を含む駆動系を介して伝達される駆動トルクによって、操舵輪が例えば左右に動かされ、前述した操舵装置の各部等を適宜介して最終的にステアリングホイールが運転者の意思と無関係に操作される現象を包括する概念である。従って、本発明に係る車両とは、少なくとも操舵輪に駆動力が伝達される車両であり、好適には、FF車両や四輪駆動車両等を指す。
【0015】
判別手段における、車両が所定の加速状態にあるか否かの判別に係る態様は、当該判別が可能である限りにおいて何ら限定されないが、例えば、車両前後方向の加速度(以下、適宜「前後G」と称する)、車両の速度(以下、適宜「車速」と称する)、内燃機関におけるスロットルバルブの開度(以下、適宜「スロットル開度」と称する)、及び車両の駆動トルク等の少なくとも一部に基づいて判断されてもよい。尚、トルクステアは、車両における内燃機関の配置態様、及び駆動系、とりわけ左右のドライブシャフトの長さ等、車両の物理的又は機械的な構成に依存するから、このような加速状態に関する判別の基準は、車両毎に個別具体的に設定されていてもよい。
【0016】
一方、このような所定の加速状態にあるか否かに係る判別とは別に、本発明に係る車両の制御装置によれば、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る特定手段により、ステアリングホイールの操作状態が特定される。
【0017】
ここで、本発明に係る「操作状態」とは、ステアリングホイールが人為的に操作されているか否かの二値状態を少なくとも含む概念であり、係る概念が担保される限りにおいて、例えば、ステアリングホイールがどの程度人為的に操作されているかといった定量的な指標を含む、より精細な状態であってもよい趣旨である。
【0018】
尚、本発明における「特定」とは、例えば、何らかの検出手段を介して直接的に又は間接的に物理的数値又は物理的数値に対応する例えば電気信号等として検出すること、予め然るべき記憶手段等に記憶されたマップ等から該当する数値を選択する又はそのような選択を介して推定すること、それら検出された物理的数値若しくは電気信号又は選択若しくは推定された数値等から、予め設定されたアルゴリズムや計算式等に従って導出又は推定すること、或いはこのように検出、選択、推定又は導出された値等を単に電気信号等として取得すること等を包括する広い概念である。
【0019】
このように加速状態の判別及びステアリングホイールの操作状態の特定を経た結果、車両が加速状態にある旨の判別がなされた場合には、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る制御手段により、特定された操作状態に基づいて、前述した補助操舵力として収束操舵力が付与されるように補助操舵力付与手段が制御される。
【0020】
ここで、本発明に係る「収束操舵力」とは、ステアリングホイールを中立位置に向かわせる補助操舵力、言い換えればトルクステアを打ち消す方向へ作用する補助操舵力である。尚、「中立位置」とは、車両を直進させることが可能なステアリングホイールの操作位置であり、好適には操舵角にしてゼロ度或いはゼロ度近傍の位置を指す。但し、中立位置がこのように操舵角によって規定され得るとしても、収束操舵力は、必ずしも目標値としての操舵角を有しておらずともよい。即ち、補助操舵力によってステアリングホイールが幾らかなりとも中立位置へ誘われる、言い換えれば、運転者の意思に反して切り込み側へステアリングホイールが操作されることが幾らかなり阻害される限りにおいて、収束操舵力の付与に係る態様は自由であってよく、必ずしも補助操舵力のみによりステアリングホイールが中立位置へ向かって操作されずともよい。
【0021】
このような制御手段の作用によれば、トルクステアがリアルタイムに発生した場合に、又は近未来的なトルクステアの発生が予測される場合等に、その時点におけるステアリングホイールの操作状態に基づいて、例えば手放し状態であるのか、少なくとも保舵されているのかと言った二値状態(即ち、前述の二値状態に相当)に応じて上述した収束操舵力が車輪に付与される。従って、例えば、ステアリングホイールが手放し状態にある(即ち、人為的に操作されていない状態に相当)場合に、車両が急発進する等して加速状態にある旨の判別がなされた場合には、例えばトルクステアによるステアリングの操作を抑制し得る、又は収束させ得る、或いはそのようなトルクステアの発生自体を回避し得る、相対的に大きな収束操舵力が付与される。
【0022】
一方、トルクステアの発生時には、ステアリングホイールの操作状態によって、必要とされる収束操舵力は大きく異なり得る。例えば、ステアリングホイールが少なくとも保舵された状態(即ち、人為的に操作されている状態に相当)にある場合には、トルクステアを収束させるべく、或いは回避すべくなされ得るステアリングホイールの人為的な操作をアシストする方向へ収束操舵力が付与されればよく、手放し状態の場合と較べれば、比較的小さな収束操舵力で済む場合が多い。逆に、手放し状態における収束操舵力をこのような場合に適用すれば、ステアリングホイールが戻り過ぎると言った違和感が与えられ易い。従って、ステアリングホイールの操作状態に基づいて収束操舵力が付与されることにより、トルクステアによる走安性及び快適性の低下を抑えつつ、運転者へ与えられ得る違和感を回避するといった、実践上有益な効果が提供される。
【0023】
このように、本発明に係る車両の制御装置によれば、過渡的に車両の挙動を不安定ならしめるトルクステアの発生に際して或いは先んじて、適切な収束操舵力が付与されることにより、運転者の意思とは無関係なステアリングホイールの操作を抑制或いは回避することが可能となる。即ち、トルクステアによるステアリングホイールの操作を運転者の操舵状態によらずに効果的に収束させることが可能となるのである。
【0024】
尚、制御手段に係る制御の態様は、本発明に係る上述した効果を少なくとも阻害しない範囲で自由に決定されてよく、例えば収束操舵力の付与特性は、例えば予め実験的に、経験的に、理論的に或いはシミュレーション等に基づいて、手放し状態では可及的に速やかに収束操舵力が付与されるように、且つ保舵状態では運転者に違和感を与えずに操舵操作をアシストし得るように決定されていてもよい。
【0025】
尚、トルクステアは、上述したように、車両の物理的又は機械的な構成によって、より具体的には、例えばエンジンが横置きされること等によってドライブシャフトの長さが不等長である場合等に顕著に生じる。このような場合、予めトルクステアによるステアリングホイールが操作される方向は、左右いずれか一方に特定され得るから、トルクステアを招きかねない加速状態にある場合に、実際のトルクステアの発生に先んじて所定の方向に収束操舵力を付与することにより、実質的にみてトルクステアの発生自体を回避することも可能である。
【0026】
本発明に係る車両の制御装置の一の態様では、前記補助操舵力付与手段は、電動機を含む。
【0027】
この態様によれば、補助操舵力付与手段が、例えばモータ等の電動機を含んで構成されるため、収束操舵力を比較的簡便に且つ正確に付与することが可能となる。尚、この態様では、例えば電動機は操舵装置の一部として構成され、ステアリングシャフトの回転、ピニオンギアの回転、或いはラックバーの往復運動等をアシストするアシストトルクを補助操舵力として付与可能に構成されていてもよい。即ち、この場合、操舵装置は所謂EPSの形態を採る。
【0028】
尚、この態様における電動機の形態は何ら限定されず、例えばDCモータや三相交流モータ等の各種形態を採ることが可能である。また、係る電動機に電力を供給する電源装置も何ら限定されるものではなく、例えばセルモータ、シガライタ、ブロワ、ヘッドライト又はカーナビゲーション装置等車両に備わる各種補機類の電源装置として機能し得る例えば車載用12Vバッテリ等であってもよいし、このような補機用バッテリとは独立して構成された専用のバッテリ等であってもよい。更には、これら各種バッテリから供給される電圧を適宜昇圧せしめた、相対的に高圧な2次電圧を供給可能なバッテリであってもよい。
【0029】
本発明に係る車両の制御装置の他の態様では、前記制御手段は、前記ステアリングホイールの操舵角に応じて前記収束操舵力が付与されるように前記補助操舵力付与手段を制御する。
【0030】
この態様によれば、収束操舵力が、例えば舵角センサ等の検出手段により検出されるステアリングホイールの操舵角に応じて付与される。収束操舵力は、トルクステアを打ち消し、最終的には車両の走安性及び快適性を向上せしめる目的で付与されるものであり、その観点から言えば、操舵角は重要な意味を持つ。即ち、ステアリングホイールが手放し状態であれば、トルクステアによるステアリングホイールの操作自体を抑制するのが好ましく、収束操舵力の付与は比較的微小な操舵角から開始されるのが望ましい。一方で、運転者がステアリングホイールを少なくとも保舵した状態では、あくまで運転者の操作意思に応じた収束操舵力を付与する必要があるから、操舵角には一定又は不定の不感帯領域が設定される方がよい場合がある。この態様によれば、収束操舵力が操舵角に応じて付与されるから、例えばこのような、ステアリングホイールの操作状態に応じて異なり得る要求にも好適に応えることが可能となり、実践上有益である。
【0031】
尚、この態様では、前記制御手段は、予め前記操舵角に対応付けられて設定されてなる前記収束操舵力の基本特性に基づいて前記収束操舵力が付与されるように前記補助操舵力付与手段を制御してもよい。
【0032】
この場合、例えば予め実験的に、経験的に、理論的に或いはシミュレーション等に基づいて、ステアリングホイールの操作状態によらず運転者に違和感を与えることなくトルクステアを好適に打ち消すことが可能となるように、収束操舵力の基本特性が決定されており、例えば然るべき記憶手段にマップ等として格納されている。従って、制御手段は、実際の補助操舵力付与手段の制御に際し、当該基本特性に基づいて、更には適宜車速や駆動トルク等の指標値に応じた補正を行って、比較的軽い処理負荷の下で収束操舵力を好適に付与することが可能となる。尚、「基本特性に基づいて」とは、必ずしも付与すべき収束操舵力が、係る基本特性のみに従って決定されずともよいことを表す趣旨であり、より具体的には、例えば上述した如く車速や駆動トルク等に応じた補正が行われてもよいことを表す趣旨である。
【0033】
基本特性に基づいて収束操舵力が付与される態様においては、前記制御手段は、前記ステアリングホイールが人為的に操作されている場合には、前記基本特性の少なくとも一部として設定された第1特性に基づいて前記補助操舵力付与手段を制御すると共に、前記ステアリングホイールが人為的に操作されていない場合には、前記基本特性の少なくとも一部として設定された、(i)前記収束操舵力の最大値が前記第1特性における該最大値よりも大きく、且つ(ii)前記収束操舵力の付与が開始される前記操舵角を表す開始操舵角が、前記第1特性における該開始操舵角よりも小さい第2特性に基づいて前記補助操舵力付与手段を制御してもよい。
【0034】
この場合、ステアリングホイールが人為的に操作されている、即ち少なくとも保舵状態にある場合には、所定の第1特性に基づいて補助操舵力付与手段が制御されると共に、ステアリングホイールが人為的に操作されていない場合、即ち手放し状態にある場合には、第2特性に従い、係る第1特性における開始操舵角よりも小さい操舵角を開始操舵角として、最大値が係る第1特性における最大値よりも大きい収束操舵力が付与される。従って、ステアリングホイールが手放し状態にある場合と、保舵状態にある場合とで、収束操舵力の付与特性を全く独立したものとすることができ、より各々の場合に最適化された収束操舵力を付与可能となる。また、このような第1及び第2特性に相当するマップ、例えば、第1及び第2特性に相当する特性を得るための補助操舵力付与手段の制御量(電流値、トルク値又はデューティ比等)を規定するマップ等が然るべき記憶手段に記憶される場合には、上述したように、制御手段の負荷を軽減することも可能となるため実践上有益である。
【0035】
尚、このように少なくとも第1特性と第2特性との間で基本特性が切り替えられる態様では、前記制御手段は、前記基本特性を前記第1特性と前記第2特性との間で切り替える場合に、前記収束操舵力が徐々に変化するように前記補助操舵力付与手段を制御してもよい。
【0036】
手放し状態と保舵状態とでは、収束操舵力の値に実践上無視し得ない大きな差異が存在することが多い。従って、トルクステアの発生中、或いはトルクステアの発生を抑えるための制御中に、手放し状態から保舵状態へステアリングホイールの操作状態が変化すること等により、基本特性が切り替えられる場合には、例えばトルクショック等の違和感が運転者に与えられかねない。この態様では、制御手段が基本特性の切り替え時に収束操舵力を徐変するため、そのようなトルクショックを、少なくとも運転者に知覚されない程度に軽減することが可能となり実践上有益である。
【0037】
尚、このような徐変の態様は、何らこの種の制御をなさない場合と較べて幾らかなりとも違和感の発生を抑止し得る限りにおいて何ら限定されず、一方の特性に基づいて決定される収束操舵力から他方の特性に基づいて決定される収束操舵力まで、連続的に、或いは段階的に収束操舵力を変化させてもよい。また、このような切り替え時における収束操舵力の徐変制御を実行する期間は、走安性及び快適性が十分に担保され得る限りにおいて何ら限定されず、操作状態が変化した時点から、或いは操作状態が変化した旨の何らかの判定動作がなされた時点から一定又は不定の時間として規定されていてもよいし、特に経過時間によらずに、切り替え前後における収束操舵力の差分と、徐変の度合いに応じてその都度個別具体的に定まる期間であってもよい。
【0038】
尚、このように収束操舵力が徐変される態様では、前記制御手段は、前記基本特性を切り替える場合の前記収束操舵力が、前記操舵角及び前記ステアリングホイールの操舵トルクのうち少なくとも一方の時間微分値に基づいて付与されるように前記補助操舵力付与手段を制御してもよい。
【0039】
操舵角の時間微分値、即ち操舵角速度と、操舵トルクの時間微分値とは、運転者によるステアリングホイールの操作の度合いを規定する指標となり得る。従って、これらの指標値に基づいて基本特性切り替え時の収束操舵力が付与される場合には、運転者に与えられる違和感が極めて軽減され、自然な操作感覚を運転者に提供することが可能となる。尚、このような指標値に基づいて付与される、基本特性切り替え時の収束操舵力は、運転者がステアリングホイールを切り込んだ場合、即ち、中立位置から乖離する方向へステアリングホイールが操作される場合と、切り戻した場合、即ち運転者の意思によりステアリングホイールが中立方向へ戻される場合とで、無論相互に異なっていてよい。
【0040】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
<発明の実施形態>
以下、適宜図面を参照して本発明の車両の制御装置に係る実施形態について説明する。
【0042】
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る車両10の構成について説明する。ここに、図1は、車両10の基本的な構成を概念的に示す概略構成図である。
【0043】
図1に示すように、車両10は、操舵輪として左右一対の前輪FL及びFRを備え、これら前輪が操舵されることにより所望の方向に進行することが可能に構成されている。
【0044】
車両10は、ECU100、EPS200及びエンジン300を備える。
【0045】
ECU100は、夫々不図示のCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を備え、車両10の動作全体を制御することが可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「車両の制御装置」の一例である。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、EPS200を制御するための後述するトルクステア抑制処理を実行することが可能に構成されている。
【0046】
EPS200は、所謂電動式パワーステアリング装置であり、操舵輪である前輪FL及びFRを、運転者によるステアリングホイール11の操作に応じて操舵することが可能に構成されている。
【0047】
EPS200には、ラックアンドピニオン式の操舵方式が採用されており、ステアリングホイール11に一方の端部が接続されるステアリングシャフト12と、当該ステアリングシャフト12の他方の端部に接続されるラックアンドピニオン機構13とが備わっている。尚、EPS200には、例えばボールナット式等、他の操舵方式が採用されていても構わない。
【0048】
ラックアンドピニオン機構13は、ステアリングシャフト12の回転方向の力を、ラックバー14の往復動方向の力に変換することが可能に構成される。また、ラックバー14の両端は、タイロッド(符号省略)を介して前輪FL及びFRに連結されており、ラックバー14の往復運動に応じて、前輪FL及びFRの向きが変わる構成となっている。
【0049】
EPS200には、ステアリングホイール11の回転角度である操舵角δを検出することが可能に構成された舵角センサ15及びステアリングホイール11の操作を介してステアリングシャフト12に加えられる操舵トルクMTを検出することが可能に構成されたトルクセンサ16が備わる。舵角センサ15及びトルクセンサ16は、夫々ECU100と電気的に接続されており、夫々検出された操舵角δ及び操舵トルクMTは、ECU100により絶えず、或いは一定又は不定の周期毎に把握される構成となっている。
【0050】
また、EPS200には、モータ17が備わる。モータ17は、運転者の操作負担を軽減する補助操舵力としてアシストトルクを発生させると共に、不図示の減速ギアを介してステアリングシャフト12に当該アシストトルクを付与することが可能に構成された、本発明に係る「補助操舵力付与手段」の一例である。モータ17は、例えばインバータ等を含む不図示のモータ制御系を介してECU100と電気的に接続されており、その動作状態がECU100により制御される構成となっている。尚、モータ17から出力されるアシストトルクは、必ずしもステアリングシャフト12に付与されずともよく、例えば、ラックアンドピニオン機構13におけるピニオンギアに、当該ピニオンギアの回転をアシストすべく付与されてもよいし、ラックバー14に当該ラックバーの往復運動をアシストすべく付与されてもよい。
【0051】
車両10は、前後Gセンサ18、車速センサ19及びスロットル開度センサ20を備える。
【0052】
前後Gセンサ18は、車両10の前後方向に作用する加速度(即ち、前後G)Gxを検出することが可能に構成されたセンサである。前後Gセンサ18は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車両10の前後Gは、ECU100によって絶えず、或いは一定又は不定の周期毎に把握される構成となっている。
【0053】
車速センサ19は、車両10の速度(即ち、車速)Vを検出することが可能に構成されたセンサである。車速センサ19は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速は、ECU100によって絶えず、或いは一定又は不定の周期毎に把握される構成となっている。
【0054】
スロットル開度センサ20は、エンジン300におけるスロットルバルブの開度(即ち、スロットル開度)Thrを検出することが可能に構成されたセンサである。スロットル開度センサ20は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたスロットル開度は、ECU100によって絶えず、或いは一定又は不定の周期毎に把握される構成となっている。
【0055】
エンジン300は、ガソリンを燃料とし、車両10の動力源として機能するように構成された内燃機関であり、例えば、4気筒、6気筒、8気筒又は12気筒等、複数の気筒を備え、また夫々の気筒の配置態様に応じて直列型、V型或いは水平対向型等の各種態様を採る。エンジン300における、不図示のクランクシャフトから出力される駆動力は、不図示のデファレンシャル及びドライブシャフト等を適宜介して、操舵輪たる前輪FL及びFRに付与される。即ち、車両10は、FF車両として構成されている。尚、車両10の駆動形態は、無論FFに限定されず、例えば前輪FL及びFRに加えて不図示の後輪が駆動される、四輪駆動の形態を採ってもよい。
【0056】
<実施形態の動作>
次に、本実施形態の動作について説明する。
【0057】
車両10は、上述したようにFF車両であり、前輪FL及びFRは、操舵輪であると共に駆動輪である。そのため、これら前輪は、急発進時等、比較的大きい前後加速度が生じた際に、運転者の操舵操作とは無関係に操舵され、所謂トルクステアが発生することがある。トルクステアが発生した場合、走安性の低下を招く可能性があると共に、操舵輪に作用する操舵力がステアリングシャフト12を介してステアリングホイール11に伝達されることによって、結局運転者の操舵意思とは無関係にステアリングホイール11が操作され、運転者に著しい違和感を与えることとなって快適性が低下し易い。そこで、本実施形態に係る車両10では、ECU100が、トルクステア抑制処理を実行することによって、係るトルクステアの発生に好適に対処し得ている。以下、適宜図面を参照し、トルクステア抑制処理の詳細について説明する。
【0058】
始めに、図2を参照し、トルクステア抑制処理の基本的な流れについて説明する。ここに、図2は、トルクステア抑制処理のフローチャートである。
【0059】
図2において、ECU100は、始めに車両10が加速中であるか否かを判別する(ステップS100)。尚、加速中であるか否かに係る判別は、加速判定処理の結果に基づいて行われる。
【0060】
ここで、図3を参照し、加速判定処理の詳細について説明する。ここに、図3は、加速判定処理のフローチャートである。
【0061】
図3において、ECU100は、車速センサ19によって検出される車速Vが、所定の閾値Vth以上であるか否かを判別する(ステップS110)。ここで、車速の閾値Vthは、車速の検出誤差が実践上問題とならない限りにおいて、ゼロ近傍の極低車速領域で設定されている。車速Vが閾値Vth未満である場合(ステップS110:NO)、ECU100は、車両10が加速中でない旨の判別を行う(即ち、図2のステップS100における「NO」の分岐に相当)。
【0062】
車速Vが閾値Vth以上である場合(ステップS110:YES)、ECU100は、スロットル開度センサ20によって検出されるスロットル開度Thrが、所定の閾値Thrth以上であるか否かを判別する(ステップS120)。ここで、スロットル開度の閾値Thrthは、予め実験的に、経験的に、理論的に或いはシミュレーション等に基づいて、トルクステアの発生に対応付けられた値に設定されている。例えば、閾値Thrthは、トルクステアの発生確率が相対的にみて高いと推定され得る値に設定される。スロットル開度Thrが閾値Thrth未満である場合(ステップS120:NO)、ECU100は、車両10が加速中でない旨の判別を行う(即ち、図2のステップS100における「NO」の分岐に相当)。
【0063】
スロットル開度Thrが閾値Thrth以上である場合(ステップS120:YES)、ECU100は更に、車両10の前後Gセンサ19によって検出される車両10の前後加速度Gxが、所定の閾値Gxth以上であるか否かを判別する(ステップS130)。ここで、前後Gの閾値Gxthは、予め実験的に、経験的に、理論的に或いはシミュレーション等に基づいて、トルクステアの発生に対応付けられた値に設定されている。例えば、閾値Gxthは、トルクステアの発生確率が相対的にみて高いと推定され得る値に設定される。前後加速度Gxが閾値Gxth未満である場合(ステップS130:NO)、ECU100は、車両10が加速中でない旨の判別を行う(即ち、図2のステップS100における「NO」の分岐に相当)。
【0064】
前後加速度Gxが閾値Gxth以上である場合(ステップS130:YES)、ECU100は更に、車両10の駆動トルクDrtrqが所定の閾値Drtrqth以上であるか否かを判別する(ステップS140)。ここで、駆動トルクDrtrqは、前輪FL及びFRを実際に駆動するトルクであり、エンジン300の出力トルク、及びデファレンシャルのギア比等に基づいてECU100により算出される。また、駆動トルクDrtrqの閾値Drtrqthは、予め実験的に、経験的に、理論的に或いはシミュレーション等に基づいて、トルクステアの発生に対応付けられた値に設定されている。例えば、閾値Drtrqthは、トルクステアの発生確率が相対的にみて高いと推定され得る値に設定される。駆動トルクDrtrqが閾値Drtrqth未満である場合(ステップS140:NO)、ECU100は、車両10が加速中でない旨の判別を行う(即ち、図2のステップS100における「NO」の分岐に相当)。
【0065】
駆動トルクDrtrqが閾値Drtrqth以上である場合(ステップS140:YES)、ECU100は、車両10が加速中である旨の判別を行う(即ち、図2のステップS100における「YES」の分岐に相当)。このように、加速判定処理では、車速V、スロットル開度Thr、前後加速度Gx及び駆動トルクDrtrqの値に基づいて、車両10が加速中であるか否かの判別がなされる構成となっている。車両10が加速状態であるか否かの判別がなされると、加速判定処理は終了する。
【0066】
図2に戻り、車両10が加速中でない旨の判別がなされた場合(ステップS100:NO)、ECU100はステップS100を繰り返し実行し、実質的に処理を待機状態に制御する。一方、車両10が加速中である旨の判別がなされた場合(ステップS100:YES)、ECU100は更に、ステアリングホイール11が手放し状態であるか否かを判別する(ステップS200)。尚、ステアリングホイール11が手放し状態であるか否かに係る判別は、手放し判定処理の結果に基づいて行われる。
【0067】
ここで、図4を参照し、手放し判定処理の詳細について説明する。ここに、図4は、手放し判定処理のフローチャートである。
【0068】
図4において、ECU100は、トルクセンサ16によって検出される操舵トルクMTの絶対値が、所定の閾値MTth1未満であるか否かを判別する(ステップS210)。ここで、操舵トルクMTは、運転者の操舵方向によって正負いずれの値も採り得るため、絶対値が参照される。閾値MTth1は、例えば予め実験的に、経験的に、理論的に或いはシミュレーション等に基づいて、ステアリングホイール11が手放し状態であると推定され得る、或いは運転者による操舵入力が無いと推定され得る値(例えば、運転者による操舵入力がある場合には採り得ないような値)に設定されている。操舵トルクMTの絶対値が閾値MTth1以上である場合(ステップS210:NO)、ECU100は、ステアリングホイール11が手放し状態に無い旨の(即ち、運転者がステアリングホイール11を少なくとも保舵している旨の)判別を行う(即ち、図2のステップS200における「NO」の分岐に相当)。
【0069】
操舵トルクMTの絶対値が閾値MTth1未満である場合(ステップS210:YES)、ECU100は、ステアリングホイール11の操舵角速度ωの絶対値が、所定の閾値ωth1以上であるか否かを判別する(ステップS220)。ここで、操舵角速度ωは、舵角センサ15によって検出される操舵角δの時間微分値であり、ステアリングホイール11が操作される際の操作速度を規定する指標値である。操舵角δは、ステアリングホイール11の回転方向によって正負いずれの値も採り得るため、必然的に操舵角速度ωも正負いずれの値も採り得る構成となっている。このため、ステップS220に係る判別処理に際しては絶対値が参照される。閾値ωth1は、ステアリングホイール11が人為的にしろトルクステアによるにしろ、いずれかの方向に操作されていると推定され得る値に設定されている。ECU100は、操舵角速度ωの絶対値が閾値ωth1未満である場合(ステップS220:NO)、ステアリングホイール11が手放し状態に無い旨の判別を行う(即ち、図2のステップS200における「NO」の分岐に相当)。
【0070】
操舵角速度ωが閾値ωth1以上である場合(ステップS220:YES)、ECU100は、舵角センサ15によって検出されるステアリングホイール11の操舵角δの絶対値が所定の閾値δth1以上であるか否かを判別する(ステップS230)。ここで、操舵角δは、上述したように正負いずれの値も採り得るため、絶対値が参照される。また、閾値δth1は、ステアリングホイール11が人為的にしろトルクステアによるにしろ、いずれかの方向に操作されていると推定され得る値に設定されている。ECU100は、操舵角δの絶対値が閾値δth1未満である場合(ステップS230:NO)、ステアリングホイール11が手放し状態に無い旨の判別を行う(即ち、図2のステップS200における「NO」の分岐に相当)。尚、ステップS230に係る処理では、操舵角δの符号が、操舵角速度ωの符号と一致するか否かも同時に判別される。
【0071】
尚、本実施形態では、このようにステップS220及びステップS230に係る処理において、操舵角速度ω及び操舵角δの各々の絶対値が参照されるが、無論、ステアリングホイール11の操作方向(即ち、左右方向)毎に設定される、相互に符号のみが異なる二つの閾値と、操舵角速度ω及び操舵角δとを夫々個別に比較判別してもよい。
【0072】
操舵角δの絶対値がδth以上である場合(ステップS230:YES)、ECU100は、ステアリングホイール11が手放し状態である旨の判別を行う(即ち、図2のステップS200における「YES」の分岐に相当)。このように、手放し判定処理では、操舵トルクMT、操舵角速度ω及び操舵角δに基づいて、ステアリングホイール11が手放し状態であるか否かの判別が行われる構成となっている。定性的には、操舵トルクMTが十分に小さい状況下で、操舵角速度ω及び操舵角δが、相互に同一の符合で、ある程度の値を有する場合には、ステアリングホイール11が手放し状態である旨の判別がなされる構成となっている。ステアリングホイール11が手放し状態であるか否かの判別がなされると、手放し判定処理は終了する。
【0073】
図2に戻り、ステアリングホイール11が手放し状態である場合(ステップS200:YES)、ECU100は、ステアリングホイール11をニュートラルポジションに向かわせるための、手放し時N戻し制御を実行する(ステップS10)。一方、ステアリングホイール11が手放し状態でない場合(ステップS200:NO)、ECU100は、運転者がステアリングホイール11をニュートラルポジションへ戻す操作を補助するための、後述する操舵時N戻し制御の実行可否を判別する(ステップS300)。係る実行可否の判別は、許可判定処理の結果に基づいて行われる。
【0074】
ここで、図5を参照し、許可判定処理の詳細について説明する。ここに、図5は、許可判定処理のフローチャートである。
【0075】
図5において、ECU100は、操舵トルクMTの絶対値が所定の閾値MTth2以上であるか否かを判別する(ステップS310)。ここで、閾値MTth2は、運転者がステアリングホイール11を操舵する意思を有する旨を明確にするために、手放し状態の判別に係る閾値MTth1よりも大きい値に設定されている。操舵トルクMTの絶対値が閾値MTth2未満である場合(ステップS310:NO)、ECU100は、操舵時N戻し制御を禁止する旨の判別を行う(即ち、図2のステップS300における「NO」の分岐に相当)。
【0076】
一方、操舵トルクMTの絶対値が閾値MTth2以上である場合(ステップS310:YES)、ECU100は、操舵角速度ωの絶対値が所定の閾値ωth2以上であるか否かを判別する(ステップS320)。ここで、閾値ωth2は、手放し状態の判別に係る閾値ωth1よりも大きい値に設定されている。操舵角速度ωの絶対値が閾値ωth2未満である場合(ステップS320:NO)、ECU100は、操舵時N戻し制御を禁止する旨の判別を行う(即ち、図2のステップS300における「NO」の分岐に相当)。
【0077】
一方、操舵角速度ωの絶対値が閾値ωth2以上である場合(ステップS320:YES)、ECU100は、操舵角δの絶対値が所定の閾値δth2以上であるか否かを判別する(ステップS330)。ここで、閾値δth2は、手放し状態の判別に係る閾値δth1よりも大きい値に設定されている。操舵角δの絶対値が閾値δth2未満である場合(ステップS330:NO)、ECU100は、操舵時N戻し制御を禁止する旨の判別を行う(即ち、図2のステップS300における「NO」の分岐に相当)。
【0078】
他方、操舵角δの絶対値が閾値δth2以上である場合(ステップS330:YES)、ECU100は、操舵時N戻し制御を許可する旨の判別を行う(即ち、図2のステップS300における「YES」の分岐に相当)。このように、許可判定処理においては、操舵トルクMT、操舵角速度ω及び操舵角δに基づいて、操舵時N戻し制御の実行を許可するか否かの判別が行われる構成となっている。
【0079】
図2に戻り、操舵時N戻し制御が許可されない場合(ステップS300:NO)、ECU100は、処理をステップS100に戻し、車両10が加速中であるか否かの判別処理から続く一連の処理を実行する。一方、操舵時N戻し制御が許可される場合(ステップS300:YES)、ECU100は、操舵時N戻し制御を実行する(ステップS11)。操舵時N戻し制御が実行されると、処理はステップS100に戻され、一連の処理が繰り返される。
【0080】
ここで、手放し時N戻し制御の詳細について説明する。手放し時N戻し制御が実行される場合、ECU100は、モータ17から出力すべき手放し時アシストトルクATRQ1(以下、適宜「アシストトルクATRQ1」と称する)を算出し、当該アシストトルクATRQ1が出力されるようにモータ17の制御系を制御する。アシストトルクATRQ1は、下記(1)式に従って算出される。
【0081】
ATRQ1=ATRQ1base×GN1×GN2・・・(1)
ここで、ATRQ1baseは、アシストトルクATRQ1の基本値であり、GN1及びGN2は、夫々アシストトルクATRQ1の基本値ATRQ1baseを補正するためのゲインである。
【0082】
ここで、図6を参照し、ATRQ1base、GN1及びGN2の詳細について説明する。ここに、図6は、ATRQ1base、GN1及びGN2の特性を概念的に表してなる模式図である。
【0083】
図6において、上段から下段にかけて、ATRQ1baseの特性(図6(a))、ゲインGN1の特性(図6(b))、及びゲインGN2の特性(図6(c))が示される。
【0084】
図6(a)は、本発明に係る「第2特性」の一例であり、図6(a)において、アシストトルクATRQ1の基本値ATRQ1baseは、操舵角δに対応付けられて設定され、その軌跡は、図示PRF_ATRQ1baseとなる。即ち、基本値ATRQ1baseは、ほぼゼロとみなし得る程度に小さい、図示操舵角δ1(即ち、本発明に係る「開始操舵角」の一例)から、操舵角δ2(δ2>δ1)までの操舵角範囲で設定される。また、その最大値は、ATRQ1basemaxを採る。尚、最大値ATRQ1basemaxは、概ね4〜5N・m程度の値に設定される。
【0085】
図6(b)において、ゲインGN1は、車両10の駆動トルクDrtrqに対するゲインGNの特性であり、その軌跡は図示PRF_GN1によって表される。即ち、ゲインGN1は、駆動トルクDrtrq1(少なくとも前述したDrtrqth以上の値を採る)以上の範囲で設定され、Drtrq1からDrtrq2(Drtrq2>Drtrq1)までの範囲でリニアに上昇し、Drtrq2において、最大値GN1max(例えば、1である)を採る。
【0086】
図6(c)において、ゲインGN2は、車両Vに対するゲインGNの特性であり、その軌跡は図示PRF_GN2によって表される。即ち、ゲインGN2は、極低車速である車速V1(少なくとも前述したVth以上の値を採る)以上Vmax(Vmax>V1)の範囲で設定され、V1からV2(V2>V1)までの範囲では最大値GN2max(例えば、1である)を採り、V2以上の範囲でリニアに減少するように設定される。これらの諸特性に従えば、上記(1)式に従って算出されるアシストトルクATRQ1は、最大値として概ねATRQ1basemax近傍の値を採り、駆動トルクDrtrq及び車速Vに応じて補正される値となる。
【0087】
次に、操舵時N戻し制御の詳細について説明する。操舵時N戻し制御が実行される場合、ECU100は、モータ17から出力すべき操舵時アシストトルクATRQ2(以下、適宜「アシストトルクATRQ2」と称する)を算出し、当該アシストトルクATRQ2が出力されるようにモータ17の制御系を制御する。アシストトルクATRQ2は、下記(2)式に従って算出される。
【0088】
ATRQ2=ATRQ2base×GN1×GN2・・・(2)
ここで、ATRQ2baseは、アシストトルクATRQ2の基本値であり、GN1及びGN2は、夫々アシストトルクATRQ2の基本値ATRQ2baseを補正するためのゲインである。
【0089】
ここで、図7を参照し、ATRQ2base、GN1及びGN2の詳細について説明する。ここに、図7は、ATRQ2base、GN1及びGN2の特性を概念的に表してなる模式図である。尚、同図において、図6と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0090】
図7において、上段から下段にかけて、ATRQ2baseの特性(図7(a))、ゲインGN1の特性(図7(b))、及びゲインGN2の特性(図7(c))が示される。図7より明らかな通り、ゲインGN1の特性(図7(b))及びゲインGN2の特性(図7(c))は、夫々図6と同等であり、即ち、夫々PRF_GN1及びPRF_GN2によって、その特性が表される。
【0091】
一方で、図7(a)には、本発明の「第1特性」の一例である、アシストトルクATRQ2の基本値ATRQ2baseの特性が表される。図7(a)において、アシストトルクATRQ2の基本値ATRQ1baseは、操舵角δに対応付けられて設定され、その軌跡は、図示PRF_ATRQ2baseとなる。即ち、基本値ATRQ2baseには、図6(a)に示される基本値ATRQ1baseと較べて大きな不感帯が設定されており、図示操舵角δ3(δ3>δ1であり、δ3は、即ち、本発明に係る「開始操舵角」の他の一例)から、操舵角δ4(δ4>δ3)までの操舵角範囲で設定される。また、その最大値は、ATRQ2basemaxを採る。尚、最大値ATRQ2basemaxは、概ね0.3〜0.4N・m程度の値に設定されており、アシストトルクATRQ1の基本値ATRQ1baseと較べて十分に小さく設定されている。
【0092】
上述した(1)式に従ってモータ17からアシストトルクATRQ1が出力される結果、手放しN戻し制御が実行される場合には、極めて小さい操舵角から比較的大きいアシストトルクATRQ1が出力され、トルクステアによってステアリングホイール11が操作された場合に、ステアリングホイール11が迅速にニュートラルポジションに復帰せしめられる。或いは、トルクステアの発生自体が抑制され、運転者の意思に反してステアリングホイール11が操作される事態が防止される。即ち、手放し状態における急加速時には、ステアリングホイール11がニュートラルポジション又はニュートラルポジション近傍に固定される。従って、トルクステアの発生時であっても車両10の走安性が低下することがなく、また快適性が低下することもない。
【0093】
尚、本実施形態では、手放し時アシストトルクATRQ1が出力される際には、EPS200のベース特性が切り替えられ、手放し時アシストトルクATRQ1がより効果的に付与される構成となっている。この際、ECU100は、EPS200の慣性補償制御と粘性補償制御を実行することによって、当該ベース特性を切り替えている。即ち、ECU100は、当該ベース特性の切り替え時に、ステアリングホイール11の慣性(所謂ハンドル慣性)を低下させた後に、ダンピング量を増加させ粘性を増加させる。このような粘性補償と慣性補償によるベース特性の切り替えにより、手放し時アシストトルクATRQ1によって効果的にステアリングホイール11の挙動を制御することが可能となる。
【0094】
一方、上述した(2)式に従ってモータ17からアシストトルクATRQ2が出力される結果、操舵時N戻し制御が実行される場合には、手放しN戻し制御と較べて大きな不感帯の効果により、ステアリングホイール11の操作が過度にアシストされている感覚を排除しつつ、運転者の操舵トルクを手放しN戻し制御時と較べて大きな舵角範囲で補うことが可能となり、違和感の発生による快適性の低下を抑制しつつ、走安性の向上を図ることが可能となる。
【0095】
ここで、手放し時N戻し制御と、操舵時N戻し制御とでは、例えば最大値及び操舵角範囲等、付与特性が大きく異なるため、一方の制御から他方の制御に切り替わる際に何らの対策も施されない場合には、運転者に制御の切り替わりがトルクショックとして知覚され快適性が大きく低下する可能性がある。このような快適性の低下は、操舵時N戻し制御から手放し時N戻し制御に切り替わる場合よりも、手放し時N戻し制御から操舵時N戻し制御へ切り替わる場合に顕著に発生し易い。そこで、トルクステア抑制処理においては、係る手放し時N戻し制御から操舵時N戻し制御への制御の切り替わり時における当該トルクショックの低減を図られ、快適性の維持が実現されている。
【0096】
即ち、図2に戻り、手放し時N戻し制御が実行された場合、ECU100は、運転者による操舵入力がなされた否かを判別する(ステップS400)。係る判別は、操舵入力判定処理の結果に基づいて行われる。ここで、図8を参照し、操舵入力判定処理の詳細について説明する。ここに、図8は、操舵入力判定処理のフローチャートである。
【0097】
図8において、ECU100は、操舵トルクMTの絶対値が所定の閾値MTth3以上であるか否かを判別する(ステップS410)。ここで、閾値MTth3は、手放し時N戻し制御からの切り替えであることに鑑みれば、少なくとも手放し状態の判別に係る閾値MTth1よりも大きい値に設定される。尚、本実施形態では、閾値MTth3は、操舵時N戻し制御の実行が許可される閾値MTth2よりも大きい値に設定されている。操舵トルクMTの絶対値が閾値MTth3未満である場合(ステップS410:NO)、ECU100は、操舵入力が無い旨の判別を行う(即ち、図2のステップS400における「NO」の分岐に相当)。
【0098】
一方、操舵トルクMTの絶対値が閾値MTth3以上である場合(ステップS410:YES)、ECU100は、操舵角速度ωの絶対値が所定の閾値ωth3以上であるか否かを判別する(ステップS420)。ここで、閾値ωth3は、操舵時N戻し制御の実行が許可される閾値ωth2よりも大きい値に設定されている。操舵角速度ωの絶対値が閾値ωth3未満である場合(ステップS420:NO)、ECU100は、操舵入力が無い旨の判別を行う(即ち、図2のステップS400における「NO」の分岐に相当)。
【0099】
一方、操舵角速度ωの絶対値が閾値ωth3以上である場合(ステップS420:YES)、ECU100は、操舵角δの絶対値が所定の閾値δth3以上であるか否かを判別する(ステップS430)。ここで、閾値δth3は、操舵時N戻し制御の実行が許可される閾値δth3よりも大きい値に設定されている。操舵角δの絶対値が閾値δth3未満である場合(ステップS430:NO)、ECU100は、操舵入力が無い旨の判別を行う(即ち、図2のステップS400における「NO」の分岐に相当)。
【0100】
他方、操舵角δの絶対値が閾値δth3以上である場合(ステップS430:YES)、ECU100は、操舵入力有る旨の判別を行う(即ち、図2のステップS400における「YES」の分岐に相当)。このように、操舵入力判定処理においては、操舵トルクMT、操舵角速度ω及び操舵角δに基づいて、運転者による操舵入力の有無に係る判別が行われる構成となっている。
【0101】
図2に戻り、当該操舵入力がなされない旨の判別がなされた場合(ステップS400:NO)、ECU100は処理をステップS100に戻すと共に、手放し時N戻し制御の実行中に操舵入力がなされた旨の判別がなされた場合(ステップS400:YES)には、当該操舵入力が切り込み操作に対応するものであるか否かを判別する(ステップS12)。ここで、操舵入力が切り込み操作であるか否かは、操舵トルクMT、操舵角速度ω、及び操舵角δに基づいて行われ、これら各指標値が夫々相互に同符号である場合には、切り込み操作が行われている旨の判別がなされる構成となっている。一方、操舵トルクMT、操舵角速度ω及び操舵角δが異符号である場合には、運転者による操舵入力が切り戻し操作である旨の判別がなされる構成となっている。
【0102】
ECU100は、操舵入力が切り込み操作である場合(ステップS12:YES)、切り込み時切り替え制御を実行する(ステップS13)と共に、操舵入力が切り戻し操作である場合(ステップS12:NO)、切り戻し時切り替え制御を実行する(ステップS14)。
【0103】
切り込み時切り替え制御において、ECU100は、下記(3)式に従って切り替え時アシストトルクATRQ3(以下、適宜「アシストトルクATRQ3」と称する)を算出し、当該ATRQ3が出力されるようにモータ17の制御系を制御する。
【0104】
ATRQ3=GN3×GN4×ATRQ2・・・(3)
ここで、GN3及びGN4は、前述した操舵時N戻し制御におけるアシストトルクATRQ2を補正するためのゲインである。また、この際、手放し時N戻し制御に係るアシストトルクATRQ1はゼロに制御される。即ち、切り込み操作では、運転者の意思で切り込み方向にステアリングホイール11が操作されているのであり、ステアリングホイール11をニュートラルポジションに誘うアシストトルクATRQ1は、かえって運転者に違和感を与えかねないのである。
【0105】
ここで、図9を参照し、ゲインGN3及びGN4の詳細について説明する。ここに、図9は、ゲインGN3及びゲインGN4の特性を概念的に表してなる模式図である。
【0106】
図9において、ゲインGN3の特性は図9(a)に示され、その軌跡は、図示PRF_GN3として示される。即ち、ゲインGN3は、操舵角速度ωと対応付けられてなるゲインであり、操舵角速度ωがゼロからω1までの範囲でリニアに増加し、操舵角速度ωがω1よりも大きい範囲では、最大値GN3max(概ね1程度の値)で固定される。尚、操舵角速度ω1の値は、例えば予め実験的に、経験的に、理論的に或いはシミュレーション等に基づいて、運転者の操舵操作とは逆方向に出力されることになるアシストトルクATRQ2による違和感の発生を、運転者の操舵操作によって実践上顕在化させることなく回避し得る値に設定されている。定性的には、ステアリングホイール11がゆっくり操作されている場合(操舵角速度ωが小さい場合に相当)には、運転者の操作感度が相対的に高いことに鑑みてゲインGN3を絞ることによってアシストトルクATRQ3が減少制御され、ステアリングホイール11が素早く操作されている場合(操舵角速度ωが大きい場合に相当)には、運転者の操作感度が相対的に低いことに鑑みてゲインGN3が絞られず、アシストトルクATRQ3はアシストトルクATRQ2に漸近する。また、ゲインGN4の特性は図9(b)に示され、その軌跡は、図示PRF_GN4として示される。即ち、ゲインGN4は、操舵トルク微分値DMTが増加するのに伴い最大値(概ね、1である)から曲線的に減少する。
【0107】
このように、切り込み時切り替え制御では、操舵角速度ω及び操舵トルク微分値DMTに基づいて決定されるゲインGN3及びGN4によってアシストトルクATRQ2が補正され、モータ17から出力されるトルクが徐変されることによって、制御切り替え時における違和感の発生が抑制される。
【0108】
一方、切り戻し時切り替え制御において、ECU100は、下記(4)式に従って切り替え時アシストトルクATRQ4(以下、適宜「アシストトルクATRQ4」と称する)を算出し、当該ATRQ4が出力されるようにモータ17の制御系を制御する。
【0109】
ATRQ4=GN5×ATRQ1+ATRQ2・・・(4)
ここで、GN5は、前述した手放し時N戻し制御におけるアシストトルクATRQ1を補正するためのゲインである。ここで、図10を参照し、ゲインGN5の詳細について説明する。ここに、図10は、ゲインGN5の特性を概念的に表してなる模式図である。
【0110】
図10において、ゲインGN5の特性は、図示PRF_GN5として示される。即ち、ゲインGN5は、操舵角速度ωと対応付けられてなるゲインであり、操舵角速度ωが増加するに連れ最大値(概ね、1である)から曲線的に減少する。従って、運転者がより速くステアリングホイール11を操作する程、アシストトルクATRQ4は操舵時アシストトルクATRQ2に漸近し、運転者に与えられる違和感が軽減される。
【0111】
このように、切り戻し時切り替え制御では、操舵角速度ωに基づいて決定されるゲインGN5によってアシストトルクATRQ1が補正され、モータ17から出力されるトルクが徐変されることによって、制御切り替え時における違和感の発生が抑制される。
【0112】
尚、切り込み時切り替え制御も、切り戻し時切り替え制御も、その実行期間は何ら限定されない。例えば、予め実験的に、経験的に、理論的に或いはシミュレーション等に基づいて、制御切り替え時の違和感を払拭するのに十分な期間として適合された一定又は不定の期間について、当該切り替え制御がなされてもよいし、手放し時N戻し制御に従って出力されるアシストトルクATRQ1と操舵時N戻し制御に従って出力されるアシストトルクATRQ2との時間的な狭間に一度だけ当該切り替え制御に対応するアシストトルクが出力されてもよい。
【0113】
図2に戻り、切り込み時切り替え制御又は切り戻し時切り替え制御が行われると、ECU100は、処理をステップS100に戻し、一連の処理を繰り返す。本実施形態に係るトルクステア抑制処理は以上のようにして行われる。以上説明したように、本実施形態に係るトルクステア抑制処理によれば、トルクステアによるステアリングホイール11の戻り不良が、ステアリングホイール11が手放し状態であっても、保舵状態であっても補償され、車両10の走安性及び快適性が担保される。この際特に、手放し時N戻し制御から操舵時N戻し制御への切り替わり時には、モータ17から出力されるアシストトルクが、操舵角速度ω或いは操舵トルク微分値DMTに基づいて徐変され、当該切り替わり時に運転者に与えられ得る違和感の発生が抑制され、自然な操舵感覚が実現される。即ち、トルクステアによるステアリングホイールの操作を運転者の操舵状態によらずに効果的に収束させることが可能となるのである。
【0114】
本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両の概略構成図である。
【図2】図1の車両におけるトルクステア抑制処理のフローチャートである。
【図3】図2のステップS100における動作を示すフローチャートである。
【図4】図2のステップS200における動作を示すフローチャートである。
【図5】図2のステップS300における動作を示すフローチャートである。
【図6】手放し時アシストトルクの算出過程に係る、ATRQ1base、GN1及びGN2の特性を概念的に表してなる模式図である。
【図7】操舵時アシストトルクの算出過程に係る、ATRQ2base、GN1及びGN2の特性を概念的に表してなる模式図である。
【図8】図2のステップS400における動作を示すフローチャートである。
【図9】切り込み時切り替え制御時におけるゲインGN3及びGN4の特性を表す模式図である。
【図10】切り戻し時切り替え制御におけるゲインGN5の特性を表す模式図である。
【符号の説明】
【0116】
FL、FR…車輪、10…車両、100…ECU、200…EPS、11…ステアリングホイール、12…ステアリングシャフト、13…ラックアンドピニオン機構、15…舵角センサ、16…トルクセンサ、17…モータ、18…前後Gセンサ、19…車速センサ、20…スロットル開度センサ、300…エンジン。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に対しステアリングホイールを介して付与される操舵力を補助する補助操舵力を付与可能である補助操舵力付与手段を備えた車両を制御する車両の制御装置であって、
前記車両が所定の加速状態にあるか否かを判別する判別手段と、
前記ステアリングホイールが人為的に操作されているか否かの二値状態を少なくとも含む前記ステアリングホイールの操作状態を特定する特定手段と、
前記車両が前記加速状態にある旨の判別がなされた場合に、前記特定された操作状態に基づいて、前記車輪に対し前記補助操舵力として前記ステアリングホイールを中立位置に向かわせる所定の収束操舵力が付与されるように前記補助操舵力付与手段を制御する制御手段と
を具備することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記補助操舵力付与手段は、電動機を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記ステアリングホイールの操舵角に応じて前記収束操舵力が付与されるように前記補助操舵力付与手段を制御する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、予め前記操舵角に対応付けられて設定されてなる前記収束操舵力の基本特性に基づいて前記収束操舵力が付与されるように前記補助操舵力付与手段を制御する
ことを特徴とする請求項3に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記ステアリングホイールが人為的に操作されている場合には、前記基本特性の少なくとも一部として設定された第1特性に基づいて前記補助操舵力付与手段を制御すると共に、前記ステアリングホイールが人為的に操作されていない場合には、前記基本特性の少なくとも一部として設定された、(i)前記収束操舵力の最大値が前記第1特性における該最大値よりも大きく、且つ(ii)前記収束操舵力の付与が開始される前記操舵角を表す開始操舵角が、前記第1特性における該開始操舵角よりも小さい第2特性に基づいて前記補助操舵力付与手段を制御する
ことを特徴とする請求項4に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記基本特性を前記第1特性と前記第2特性との間で切り替える場合に、前記収束操舵力が徐々に変化するように前記補助操舵力付与手段を制御する
ことを特徴とする請求項5に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記基本特性を切り替える場合の前記収束操舵力が、前記操舵角及び前記ステアリングホイールの操舵トルクのうち少なくとも一方の時間微分値に基づいて付与されるように前記補助操舵力付与手段を制御する
ことを特徴とする請求項6に記載の車両の制御装置。
【請求項1】
車輪に対しステアリングホイールを介して付与される操舵力を補助する補助操舵力を付与可能である補助操舵力付与手段を備えた車両を制御する車両の制御装置であって、
前記車両が所定の加速状態にあるか否かを判別する判別手段と、
前記ステアリングホイールが人為的に操作されているか否かの二値状態を少なくとも含む前記ステアリングホイールの操作状態を特定する特定手段と、
前記車両が前記加速状態にある旨の判別がなされた場合に、前記特定された操作状態に基づいて、前記車輪に対し前記補助操舵力として前記ステアリングホイールを中立位置に向かわせる所定の収束操舵力が付与されるように前記補助操舵力付与手段を制御する制御手段と
を具備することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記補助操舵力付与手段は、電動機を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記ステアリングホイールの操舵角に応じて前記収束操舵力が付与されるように前記補助操舵力付与手段を制御する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、予め前記操舵角に対応付けられて設定されてなる前記収束操舵力の基本特性に基づいて前記収束操舵力が付与されるように前記補助操舵力付与手段を制御する
ことを特徴とする請求項3に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記ステアリングホイールが人為的に操作されている場合には、前記基本特性の少なくとも一部として設定された第1特性に基づいて前記補助操舵力付与手段を制御すると共に、前記ステアリングホイールが人為的に操作されていない場合には、前記基本特性の少なくとも一部として設定された、(i)前記収束操舵力の最大値が前記第1特性における該最大値よりも大きく、且つ(ii)前記収束操舵力の付与が開始される前記操舵角を表す開始操舵角が、前記第1特性における該開始操舵角よりも小さい第2特性に基づいて前記補助操舵力付与手段を制御する
ことを特徴とする請求項4に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記基本特性を前記第1特性と前記第2特性との間で切り替える場合に、前記収束操舵力が徐々に変化するように前記補助操舵力付与手段を制御する
ことを特徴とする請求項5に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記基本特性を切り替える場合の前記収束操舵力が、前記操舵角及び前記ステアリングホイールの操舵トルクのうち少なくとも一方の時間微分値に基づいて付与されるように前記補助操舵力付与手段を制御する
ことを特徴とする請求項6に記載の車両の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2008−126808(P2008−126808A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313270(P2006−313270)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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