車両の制御装置
【課題】スポーツ走行時と通常走行時とで、パワーON・OFF判定を異ならせることが可能な車両の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン1と、このエンジン1に連結される自動変速機2とが搭載された車両の制御装置には、エンジン1側から駆動系へ入力される駆動力がパワーON状態であるかパワーOFF状態であるかのパワーON・OFF判定を行うパワーON・OFF判定手段と、車両がスポーツ走行時であるか否かを判定するスポーツ走行判定手段と、パワーON・OFF判定手段によるパワーON・OFF判定を、スポーツ走行時と通常走行時とで変更する変更手段とが備えられている。パワーON・OFF判定は、車速およびスロットル開度に応じて設定される判定マップを用いて行われる。
【解決手段】エンジン1と、このエンジン1に連結される自動変速機2とが搭載された車両の制御装置には、エンジン1側から駆動系へ入力される駆動力がパワーON状態であるかパワーOFF状態であるかのパワーON・OFF判定を行うパワーON・OFF判定手段と、車両がスポーツ走行時であるか否かを判定するスポーツ走行判定手段と、パワーON・OFF判定手段によるパワーON・OFF判定を、スポーツ走行時と通常走行時とで変更する変更手段とが備えられている。パワーON・OFF判定は、車速およびスロットル開度に応じて設定される判定マップを用いて行われる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関(以下、エンジンともいう)と、そのエンジンに連結される自動変速機とが搭載された車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンを搭載した車両において、エンジンが発生するトルクおよび回転速度を車両の走行状態に応じて適切に駆動輪に伝達する変速機として、エンジンと駆動輪との間の変速比を自動的に最適設定する自動変速機が知られている。車両に搭載される自動変速機としては、例えば、クラッチおよびブレーキと遊星歯車装置とを用いてギア段(以下では、変速段ともいう)を設定する遊星歯車式変速機や、変速比を無段階に調整するベルト式無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)などがある。
【0003】
遊星歯車式の自動変速機が搭載された車両においては、車速およびスロットル開度(またはアクセル開度)に応じた最適なギア段を得るための変速線(ギア段の切り換えライン)を有する変速マップがECUなどに記憶されており、車速およびスロットル開度に基づいて変速マップを参照して目標ギア段を算出し、その目標ギア段に基づいて、摩擦係合要素であるクラッチ、ブレーキやワンウェイクラッチなどを、所定の状態に係合または解放することによってギア段を自動的に設定している。
【0004】
この種の自動変速機が搭載された車両においては、運転者(ユーザ)により操作されるシフトレバーが設けられており、そのシフトレバーを操作することにより、自動変速機のシフトポジションを、例えばP位置(パーキングレンジ)、R位置(リバースレンジ)、N位置(ニュートラルレンジ)、D位置(ドライブレンジ)などに切り変えることが可能になっている。また、近年では、手動変速機能付きの自動変速機(いわゆるシーケンシャルモード付き自動変速機)も実用化されており、運転者によるシフトレバーの操作によって自動変速機の変速段を任意に切り換えることも可能になっている。
【0005】
ところで、従来では、自動変速機において、エンジン側から駆動系へ入力される駆動力がパワーON状態(駆動状態)であるかパワーOFF状態(被駆動状態)であるかのパワーON・OFF判定(駆動・被駆動判定)を行って、この判定に基づいてそれぞれの状態に対応した変速制御を行うことが提案されている。例えば、特許文献1には、ダウンシフト時に、車速およびスロットル開度に応じてパワーON領域とパワーOFF領域とに分けて設定されるパワーON・OFF判定マップを用いてパワーON・OFF判定を行い、その判定に基づいてパワーONダウンシフトの変速制御とパワーOFFダウンシフトの変速制御とを切り替えて行うことが示されている。また、この特許文献1には、パワーON・OFF判定マップを、車速が大きいほどパワーOFF領域が広くなるように、かつ、ギア位置が低いほどパワーON領域が広くなるように設定することや、レンジ位置や油温に応じて異なるパワーON・OFF判定マップを設定することなどが記載されている。
【特許文献1】特許第3467923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1には、レンジ位置や油温に応じて異なるパワーON・OFF判定マップを設定することで、自動変速機における変速ショックや変速フィーリングの改善を図ることが示されているものの、上記シーケンシャルモードでの走行や、サーキット走行などのようないわゆるスポーツ走行の際に、通常走行時とは異なるパワーON・OFF判定マップを用いることについては示されていない。したがって、その点においてさらなる改善の余地がある。
【0007】
本発明は、そのような点に着目してなされたものであり、スポーツ走行時と通常走行時とで、パワーON・OFF判定を異ならせることが可能な車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題を解決するための手段を以下のように構成している。すなわち、本発明は、車両の制御装置であって、内燃機関とこの内燃機関に連結される自動変速機とが搭載された車両において、内燃機関側から駆動系へ入力される駆動力がパワーON状態であるかパワーOFF状態であるかのパワーON・OFF判定を行うパワーON・OFF判定手段を備え、このパワーON・OFF判定手段による判定結果に基づいてそれぞれの状態に対応した変速制御を行うように構成されている。そして、車両がスポーツ走行時であるか否かを判定するスポーツ走行判定手段と、前記パワーON・OFF判定手段によるパワーON・OFF判定を、スポーツ走行時と、スポーツ走行時ではない通常走行時とで変更する変更手段とを備えていることを特徴としている。ここで、前記パワーON・OFF判定手段によるパワーON・OFF判定は、判定マップを用いる手法で行ってもよいし、それ以外の手法で行ってもよい。判定マップを用いる手法では、車速およびスロットル開度に応じて設定されるマップなどが好適に利用される。
【0009】
上記構成によれば、スポーツ走行時と通常走行時とで、パワーON・OFF判定を異ならせることができるので、パワーON・OFF判定を、スポーツ走行時にはスポーティな変速動作の演出の観点を重視した設定とし、通常走行時には変速ショックの低減の観点を重視した設定とすることができる。スポーツ走行時には、例えば、アクセルペダルを踏み込んで内燃機関の回転数を上昇させるブリッピング制御などを行って変速演出を楽しめる領域を、通常走行時と比較して広げることが可能になる。
【0010】
また、本発明におけるパワーON・OFF判定を変更する態様として、次の2つが挙げられる。
【0011】
(1)パワーOFFと判定される領域を、スポーツ走行時には通常走行時に比べ広く設定する態様。この態様は、特に、スポーツ走行時にダウンシフトの変速動作を行う場合に有効であり、この場合、スポーツ走行時には、変速動作の演出を楽しめる領域を、通常走行時と比較して広げることができる。例えば、ブリッピングなどのような変速演出を楽しめる領域を広げることが可能になる。
【0012】
(2)パワーONと判定される領域を、スポーツ走行時には通常走行時に比べ広く設定する態様。この態様は、特に、スポーツ走行時にアップシフトの変速動作を行う場合に有効であり、この場合にも、スポーツ走行時には、変速動作の演出を楽しめる領域を、通常走行時と比較して広げることができる。
【0013】
また、本発明におけるスポーツ走行判定手段の具体構成として、以下の5つが挙げられる。
【0014】
(1)車両の加減速度を求める手段を備え、その加減速度が予め設定された閾値よりも大きい場合に、スポーツ走行時であると判定する構成。
【0015】
(2)シフト装置のシフトレバーの操作位置を検知する手段を備え、そのシフトレバーの操作位置が自動変速機の変速動作を運転者が手動によって行う際に選択される位置である場合に、スポーツ走行時であると判定する構成。
【0016】
(3)車両のスポーツ走行モードを運転者が手動によって選択するための選択手段を備え、その選択手段がONである場合に、スポーツ走行時であると判定する構成。
【0017】
(4)車両の走行場所がサーキットであるか否かを判別する手段を備え、車両の走行場所がサーキットである場合にスポーツ走行時であると判定する構成。
【0018】
(5)スポーツ走行時であるか否かを運転者が手動によって設定することが可能な設定手段を設ける構成。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、スポーツ走行時と通常走行時とで、パワーON・OFF判定を異ならせることができるので、パワーON・OFF判定を、通常走行時には変速ショックの低減などの観点を重視した設定とし、スポーツ走行時にはスポーティな変速動作の演出などの観点を重視した設定とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明を実施するための最良の形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0021】
まず、車両のパワートレーンの構成、自動変速機の基本動作等について説明する。図1は、実施形態における車両のパワートレーンを示す概略構成図である。図2は、図1の自動変速機2の一例を示すスケルトン図である。図3は、図1,図2の変速機構部30を模式的に示す斜視図である。
【0022】
図1に例示する車両のパワートレーンには、エンジン1、自動変速機2、エンジン制御装置(エンジンECU)3、トランスミッション制御装置(変速機ECU)5などが搭載されている。
【0023】
−エンジン−
エンジン1は、外部から吸入する空気と燃料噴射弁11から噴射される燃料とを適宜の比率で混合した混合気を燃焼させることにより、回転動力を発生するものである。この燃料噴射弁11は、エンジン制御装置3により制御される。エンジン1の出力軸であるクランクシャフト8は、トルクコンバータ20の入力軸に接続される。クランクシャフト8の回転数(エンジン回転数)は、エンジン回転数センサ91によって検出される。
【0024】
エンジン1に吸入される空気量は、電子制御式の電子スロットルバルブ12により調整される。電子スロットルバルブ12は、運転者(ユーザ)のアクセルペダル操作とは独立してスロットル開度を電子的に制御することが可能であり、その開度(スロットル開度)はスロットル開度センサ96によって検出される。
【0025】
電子スロットルバルブ12のスロットル開度は、エンジン制御装置3によって駆動制御される。具体的には、エンジン回転数センサ91によって検出されるエンジン回転数、運転者のアクセルペダル踏み込み量(アクセル開度)等のエンジン1の運転状態に応じた最適な吸入空気量(目標吸気量)が得られるように電子スロットルバルブ12のスロットル開度を制御している。より詳細には、スロットル開度センサ96を用いて電子スロットルバルブ12の実際のスロットル開度を検出し、その実スロットル開度が、上記目標吸気量が得られるスロットル開度(目標スロットル開度)に一致するように、電子スロットルバルブ12のスロットルモータ13をフィードバック制御している。
【0026】
−自動変速機−
自動変速機2は、主として、トルクコンバータ20、変速機構部30、油圧制御装置40、オイルポンプ60を含んで構成されており、この実施形態では、前進8段、後進1段の変速が可能になっている。
【0027】
トルクコンバータ20は、エンジン1に回転連結されるもので、ポンプインペラ21、タービンランナ22、ステータ23、ワンウェイクラッチ24、ステータシャフト25、ロックアップクラッチ26を含む構成となっている。
【0028】
ワンウェイクラッチ24は、ステータ23を自動変速機2のケース2aに一方向の回転のみ許容して支承するものである。ステータシャフト25は、ワンウェイクラッチ24のインナレースを自動変速機2のケース2aに固定するものである。
【0029】
ロックアップクラッチ26は、トルクコンバータ20のポンプインペラ21とタービンランナ22とを直結可能とするものであり、必要に応じて、ポンプインペラ21とタービンランナ22とを直結する係合状態と、ポンプインペラ21とタービンランナ22とを切り離す解放状態と、係合状態と解放状態との中間の半係合状態とに切り換えられる。
【0030】
変速機構部30は、トルクコンバータ20から入力軸9に入力される回転動力を変速して出力軸10に出力するものであって、図2、図3に示すように、フロントプラネタリ31と、リアプラネタリ32と、中間ドラム33と、第1〜第4クラッチC1〜C4と、第1,第2ブレーキB1,B2と、ワンウェイクラッチF1とを含む構成となっている。
【0031】
フロントプラネタリ31は、ダブルピニオンタイプと呼ばれる歯車式遊星機構とされており、第1サンギアS1と、第1リングギアR1と、複数個のインナーピニオンギアP1と、複数個のアウターピニオンギアP2と、第1キャリアCA1とを含む構成となっている。
【0032】
第1サンギアS1は、自動変速機2のケース2aに固定されて回転不可能とされ、第1リングギアR1は、中間ドラム33に第3クラッチC3を介して一体回転可能な状態または相対回転可能な状態に支持され、第1リングギアR1の内径側に第1サンギアS1が同心状に挿入されている。
【0033】
複数個のインナーピニオンギアP1および複数個のアウターピニオンギアP2は、第1サンギアS1と第1リングギアR1との対向環状空間の円周複数箇所に介装されており、複数個のインナーピニオンギアP1は第1サンギアS1に噛合され、また、複数個のアウターピニオンギアP2はインナーピニオンギアP1および第1リングギアR1に噛合されている。
【0034】
第1キャリアCA1は、両ピニオンギアP1,P2を回転可能に支持するもので、この第1キャリアCA1の中心軸部が入力軸9に一体的に連結され、この第1キャリアCA1において両ピニオンギアP1,P2を支持する各支持軸部が、第4クラッチC4を介して中間ドラム33に一体回転可能な状態または相対回転可能な状態に支持されている。
【0035】
中間ドラム33は、第1リングギアR1の外径側に回転可能に配置されており、第1ブレーキB1を介して自動変速機2のケース2aに回転不可能な状態または相対回転可能な状態に支持されている。
【0036】
リアプラネタリ32は、ラビニオタイプと呼ばれる歯車式遊星機構とされており、大径の第2サンギアS2と、小径の第3サンギアS3と、第2リングギアR2と、複数個のショートピニオンギアP3と、複数個のロングピニオンギアP4と、第2キャリアCA2とを含む構成となっている。
【0037】
第2サンギアS2は、中間ドラム33に連結され、第3サンギアS3は、第1クラッチC1を介してフロントプラネタリ31の第1リングギアR1に一体回転可能または相対回転可能に連結され、第2リングギアR2は、出力軸10に一体に連結されている。
【0038】
複数個のショートピニオンギアP3は、第3サンギアS3に噛合され、また、複数個のロングピニオンギアP4は、第2サンギアS2および第2リングギアR2に噛合するとともにショートピニオンギアP3を介して第3サンギアS3に噛合されている。
【0039】
第2キャリアCA2は、両ピニオンギアP3,P4を回転可能に支持するもので、この第2キャリアCA2の中心軸部が第2クラッチC2を介して入力軸9に連結され、この第2キャリアCA2において両ピニオンギアP3,P4を支持する各支持軸部が、第2ブレーキB2およびワンウェイクラッチF1を介して自動変速機2のケース2aに支持されている。
【0040】
第1〜第4クラッチC1〜C4および第1,第2ブレーキB1,B2は、オイルの粘性を利用した湿式多板摩擦係合装置とされている。
【0041】
第1クラッチC1は、リアプラネタリ32の第3サンギアS3をフロントプラネタリ31の第1リングギアR1に対して一体回転可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。
【0042】
第2クラッチC2は、リアプラネタリ32の第2キャリアCA2を入力軸9に対して一体回転可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。
【0043】
第3クラッチC3は、フロントプラネタリ31の第1リングギアR1を中間ドラム33に対して一体回転可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。
【0044】
第4クラッチC4は、フロントプラネタリ31の第1キャリアCA1を中間ドラム33に対して一体回転可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。
【0045】
第1ブレーキB1は、中間ドラム33を自動変速機2のケース2aに対して一体化して回転不可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。
【0046】
第2ブレーキB2は、リアプラネタリ32の第2キャリアCA2を自動変速機2のケース2aに対して一体化して回転不可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。
【0047】
また、ワンウェイクラッチF1は、リアプラネタリ32の第2キャリアCA2の一方向のみの回転を許容するものである。
【0048】
変速機構部30では、摩擦係合要素である第1〜第4クラッチC1〜C4、第1,第2ブレーキB1,B2、および、ワンウェイクラッチF1が、所定の状態に係合または解放されることによってギア段(変速段)が設定される。第1〜第4クラッチC1〜C4、第1,第2ブレーキB1,B2の係合・解放は、油圧制御回路40によって制御される。
【0049】
油圧制御装置40は、変速機構部30の変速動作を制御するもので、リニアソレノイドバルブ、ON−OFFソレノイドバルブ、アキュームレータなどを含む構成になっている。そして、リニアソレノイドバルブおよびON−OFFソレノイドバルブの励磁・非励磁を制御して油圧回路を切り換えることによって、変速機構部30の第1〜第4クラッチC1〜C4、第1,第2ブレーキB1,B2の係合・解放を制御するようにしている。油圧制御回路40のリニアソレノイドバルブおよびON−OFFソレノイドバルブの励磁・非励磁は、トランスミッション制御装置5からのソレノイド制御信号(指示油圧信号)によって制御される。
【0050】
−エンジン制御装置およびトランスミッション制御装置−
エンジン制御装置3およびトランスミッション制御装置5は、一般的に公知のECU(Electronic Control Unit)とされ、ともにほぼ同様のハードウエア構成になっている。ここでは、トランスミッション制御装置5の具体構成について、図4に示している。
【0051】
トランスミッション制御装置5は、油圧制御装置40を制御することにより変速機構部30における適宜の変速段つまり動力伝達経路を成立させるものである。すなわち、トランスミッション制御装置5は、図4に示すように、CPU(Central Processing Unit)51と、ROM(Read Only Memory)52と、RAM(Random Access Memory)53と、バックアップRAM54と、入力インターフェース55と、出力インターフェース56とが、双方向性バス57によって相互に接続された構成になっている。
【0052】
CPU51は、ROM52に記憶された各種制御プログラムや制御マップに基づいて演算処理を実行する。ROM52には、変速機構部30の変速動作を制御するための各種制御プログラムが記憶されている。RAM53は、CPU51での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。バックアップRAM54は、各種の保存すべきデータを記憶する不揮発性のメモリである。
【0053】
入力インターフェース55には、エンジン回転数センサ91、入力軸回転数センサ92、出力軸回転数センサ93、シフトポジションセンサ94、アクセル開度センサ95、スロットル開度センサ96、車速センサ97、Gセンサ98、ブレーキペダルセンサ99、ブレーキマスタシリンダ圧センサ101などが接続されており、これらの各センサからの信号がトランスミッション制御装置5に入力される。また、出力インターフェース56には、油圧制御装置40の構成要素である上述したリニアソレノイドバルブ、ON−OFFソレノイドバルブ、アキュームレータなどが接続されている。
【0054】
入力軸回転数センサ92は、入力軸9の回転数を検出するものである。出力軸回転数センサ93は、出力軸10の回転数を検出するものである。シフトポジションセンサ94は、後述するシフトレバー71の操作位置を検知するものである。アクセル開度センサ95は、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出するものである。車速センサ97は、車両の走行速度を検出するものである。Gセンサ98は、車両の前後左右の加速度を検出するものである。ブレーキペダルセンサ99は、運転者によってブレーキペダルがON操作(制動操作)された際にブレーキON信号を出力するものである。ブレーキマスタシリンダ圧センサ101は、そのブレーキペダルがON操作された際のペダル踏み込み量をブレーキマスタシリンダ圧から求め、これにより、運転者による制動要求度合いを検出するようになっている。なお、トランスミッション制御装置5は、エンジン制御装置3との間で送受信可能に接続されており、必要に応じてエンジン制御装置3からエンジン制御に関する種々の情報を取得するようになっている。
【0055】
ここで、自動変速機2における各変速段(第1速段〜第8速段、後進段)を成立させる条件について、図5、図6により説明する。
【0056】
図5は、第1〜第4クラッチC1〜C4、第1,第2ブレーキB1,B2、および、ワンウェイクラッチF1における係合状態または解放状態と各変速段との関係を示す係合表(作動表)である。この図5において、○印は「係合状態」、×印は「解放状態」、◎印は「エンジンブレーキ時に係合状態」、△印は「駆動時のみ係合状態」を示す。
【0057】
図6は、第1〜第4クラッチC1〜C4、第1,第2ブレーキB1,B2、および、ワンウェイクラッチF1の係合により成立される変速段(第1速段〜第8速段、後進段)と、そのときの前後2つのプラネタリ31,32における各構成要素の回転数比との関係を示す速度線図である。この図6において、各縦軸方向は、2つのプラネタリ31,32における各構成要素の速度比であり、各縦軸の間隔は、各要素のギア比に応じて設定される。また、第1〜第4クラッチC1〜C4、第1,第2ブレーキB1,B2、および、ワンウェイクラッチF1が係合される点に、C1〜C4、B1、B2、F1を記入している。さらに、図6に記載している入力1〜入力4とは、入力軸9からの回転動力の入力位置を示し、また、図6に記載している出力とは、出力軸10に出力させる回転動力の出力位置を示している。
【0058】
また、車両の運転席の近傍には、図7に示すようなシフト装置7が配置されている。このシフト装置7にはシフトレバー71が変位可能に設けられている。また、シフト装置7には、R位置(リバースレンジ)、N位置(ニュートラルレンジ)、D位置(ドライブレンジ)、および、S位置(シーケンシャルレンジ)が設定されており、運転者が所望の変速位置へシフトレバー71を変位させることが可能になっている。これらR位置、N位置、D位置、S位置(下記の「+」位置および「−」位置も含む)の各変速位置は、シフトポジションセンサ94によって検出される。
【0059】
そして、シフトレバー71の変速位置が選択される状況と、そのときの自動変速機2の動作状況について、各変速位置(「N位置」、「R位置」、「D位置」、「S位置」)ごとに説明する。
【0060】
「N位置」は、自動変速機2の入力軸9と出力軸10との連結を切断する際に選択される位置であり、シフトレバー71がこの「N位置」に操作されると、自動変速機2のクラッチC1〜C4、ブレーキB1,B2の全てが解放される(図6参照)。
【0061】
「R位置」は、車両を後退させる際に選択される位置であり、シフトレバー71がこのR位置に操作されると、自動変速機2は後進ギア段に切り換えられる。
【0062】
「D位置」は、車両を前進させる際に選択される位置であり、シフトレバー71がこのD位置に操作されると、車両の運転状態などに応じて、自動変速機2の複数の前進ギア段(前進8速)が自動的に変速制御される。
【0063】
「S位置」は、シーケンシャルモード(マニュアルモードとも呼ばれる)での走行の際、つまり、複数の前進ギア段(前進8速)の変速動作を運転者が手動によって行う際に選択される位置であって、このS位置の前後に「−」位置および「+」位置が設けられている。「+」位置は、シーケンシャルモードのアップシフトのときにシフトレバー71が操作される位置であり、「−」位置は、シーケンシャルモードのダウンシフトのときにシフトレバー71が操作される位置である。そして、シフトレバー71がS位置にあるときに、シフトレバー71がS位置を中立位置として「+」位置または「−」位置に操作されると、自動変速機2の前進ギア段がアップまたはダウンされる。具体的には、「+」位置への1回操作ごとにギア段が1段ずつアップ(例えば1st→2nd→・・・→8th)される。一方、「−」位置への1回操作ごとにギア段が1段ずつダウン(例えば8th→7th→・・・→1st)される。
【0064】
−変速制御−
次に、自動変速機2の変速制御に用いられる変速マップについて、図8を参照して説明する。
【0065】
図8に示す変速マップは、車速およびアクセル開度をパラメータとし、それら車速およびアクセル開度に応じて、適正なギア段を求めるための複数の領域が設定されたマップである。変速マップは、トランスミッション制御装置5のROM52に記憶されている。変速マップの各領域は、複数の変速線(ギア段の切り換えライン)によって区画されている。なお、図8において、シフトアップ線(変速線)を実線で示し、シフトダウン線(変速線)を破線で示している。また、シフトアップおよびシフトダウンの各切り換え方向を図中に数字と矢印とを用いて示している。
【0066】
続いて、変速制御の基本動作について説明する。
【0067】
トランスミッション制御装置5は、車速センサ97の出力信号から車速を算出するとともに、アクセル開度センサ95の出力信号からアクセル開度を算出し、それら車速およびアクセル開度に基づいて、図8の変速マップを参照して目標ギア段を算出し、その目標ギア段と現状ギア段とを比較して変速動作が必要であるか否かを判定する。その判定結果により、変速動作が必要ない場合には(目標ギア段と現状ギア段とが同じで、ギア段が適切に設定されている場合には)、現状ギア段を維持するソレノイド制御信号(指示油圧信号)を自動変速機2の油圧制御装置40に出力する。
【0068】
一方、目標ギア段と現状ギア段とが異なる場合には変速動作を行う。例えば、自動変速機2のギア段が「5速」の状態で走行している状況から、車両の走行状態が変化して、例えば図8の点PAから点PBに変化した場合、シフトダウン変速線[5→4]を跨ぐ変化となるので、変速マップから算出される目標ギア段が「4速」となり、その4速のギア段を設定するソレノイド制御信号(指示油圧信号)を自動変速機2の油圧制御装置40に出力して、5速のギア段から4速のギア段への変速(5→4ダウンシフト)を行う。
【0069】
−実施形態の特徴部分−
この実施形態の特徴部分は、自動変速機2において、上記シーケンシャルモードでの走行時や、車両の加速度または減速度の大きいときなどのようないわゆるスポーツ走行の際に、そのようなスポーツ走行時ではない通常走行時(単に通常走行時という)とはパワーON・OFF判定(駆動・被駆動判定)を変更することにある。つまり、車両がスポーツ走行時であるか否かを判定するスポーツ走行判定手段と、スポーツ走行時と通常走行時とでパワーON・OFF判定を変更する変更手段とを設けたことにある。
【0070】
具体的に、この実施形態では、エンジン1側から駆動系へ入力される駆動力がパワーON状態(駆動状態:エンジン1の回転速度が自動変速機2の入力軸回転速度を上回っている状態)であるか、パワーOFF状態(被駆動状態:エンジン1の回転速度が自動変速機2の入力軸回転速度を下回っている状態)であるかを判定し、この判定に基づいてそれぞれの状態に対応した変速制御を行うように構成された自動変速機2において、パワーON・OFF判定を、スポーツ走行時と通常走行時とで変更することを特徴としている。以下、この制御の詳細について、図9のフローチャートを参照しながら説明する。
【0071】
図9に示す変速制御ルーチンは、トランスミッション制御装置5において実行される。このルーチンは、エンジン1の始動後の所定時間ごと(例えば、数msecごと)に実行される。
【0072】
まず、ステップST1において、上述した各種センサやエンジン制御装置3からのトランスミッション制御装置5への入力情報に基づいて、アップシフトまたはダウンシフトの変速出力(変速指示)があるか否かを判定する。この判定は、例えば車両の現在の走行状態および図8の変速マップに基づく変速要求があるか否かによって行うことが可能である。より詳細には、図8の変速マップ上で、車両の走行状態がシフトアップ線またはシフトダウン線を跨いで変化した場合に、アップシフトまたはダウンシフトの変速要求があると判定される。
【0073】
そして、判定結果が肯定判定の場合にはステップST2に進む。一方、判定結果が否定判定の場合には、アップシフトまたはダウンシフトの変速出力があるまで(肯定判定が得られるまで)、ステップST1の判定を繰り返し行う。ここで、このステップST1の判定を、シフトポジションセンサ94の出力信号に基づいて行うことも可能である。この場合、例えばシフトレバー71が上記S位置の「+」位置または「−」位置に操作された場合に、アップシフトまたはダウンシフトの変速出力があると判定される。
【0074】
次に、ステップST2において、車両がスポーツ走行時(走行中)であるか否かを判定する。この判定は、例えば車両の加速度または減速度が大きいか否かを判断することによって行うことが可能である。具体的に、例えば出力軸回転数センサ93の出力信号、車速センサ97の出力信号、Gセンサ98の出力信号、ブレーキペダルセンサ99の出力信号、ブレーキマスタシリンダ圧センサ101の出力信号などに基づいて、車両の加減速度の大きさを求め、その値が予め設定された所定値(閾値)よりも大きい場合には、スポーツ走行時であると判定され、この場合、ステップST5に進む。逆に、その加減速度の値が上記所定値以下である場合には、通常走行時であると判定され、この場合、ステップST3に進む。なお、それら出力信号のうち少なくとも1つを利用して車両の加速度または減速度の大きさを求めればよく、全ての出力信号を必ずしも利用しなくてもよい。
【0075】
ここで、このステップST2の判定を、シフトポジションセンサ94の出力信号に基づいて行うことも可能である。この場合、シフトレバー71の操作位置が上記S位置である場合には、車両がスポーツ走行時であると判定され、シフトレバー71の操作位置が上記S位置以外である場合には、車両が通常走行時であると判定される。
【0076】
そして、上記ステップST2の判定結果が否定判定である場合には、ステップST3において、通常走行時のパワーON・OFF判定を行い、次に、ステップST4において、そのパワーON・OFF判定にしたがった変速制御(アップシフト制御またはダウンシフト制御)を行う。すなわち、通常走行時には、通常走行時専用のパワーON・OFF判定を行い、パワーON状態における変速制御とパワーOFF状態における変速制御とを切り替えて行うようにしている。この場合、パワーON・OFF判定を変速ショックの低減を重視した設定とすることが可能である。
【0077】
この実施形態では、通常走行時のパワーON・OFF判定は、例えば、図10(a)に示すようなパワーON・OFF判定マップを参照して行われる。この図10(a)に示すパワーON・OFF判定マップは、通常走行時だけに参照されるマップであり、トランスミッション制御装置5のROM52に記憶されている。図10(a)のパワーON・OFF判定マップは、車速およびスロットル開度をパラメータとして、予め実験・計算等によってパワーON領域とパワーOFF領域とを求め、その結果を基にパワーONとパワーOFFとを区分する判定線(境界線)を設定したマップである。具体的に、パワーON・OFF判定マップは、このマップ上で左下方から右上方に向けて単調増加傾向にある判定線L1を挟んで、スロットル開度が大きい側のパワーON領域G11と、スロットル開度が小さい側のパワーOFF領域G12とに区分されている。
【0078】
パワーON・OFF判定は、車速センサ97の出力信号(または出力軸回転数センサ93の出力信号)およびスロットル開度センサ96の出力信号に基づいて算出された車速およびスロットル開度が、図10(a)のパワーON・OFF判定マップ上でいずれの領域に属するかを判断することによって行われる。そして、パワーON領域G11に属していれば、車両状態がパワーONであると判定され、ステップST4において、パワーONアップシフト制御またはパワーONダウンシフト制御が油圧制御装置40を制御することによって行われる。一方、パワーOFF領域G12に属していれば、車両状態がパワーOFFであると判定され、ステップST4において、パワーOFFアップシフト制御またはパワーOFFダウンシフト制御が油圧制御装置40を制御することによって行われる。なお、パワーON・OFF判定にしたがった変速制御は、従来公知であるのでここではその説明を割愛するが、例えば、パワーONアップシフト制御では、エンジン1の吹け上がりを抑えるような変速制御が行われ、パワーOFFダウンシフト制御では、自動変速機2の入力軸回転速度を上昇させて確実に変速動作を完了できるような変速制御が行われるようになっている。
【0079】
これに対し、上記ステップST2の判定結果が肯定判定である場合には、ステップST5において、スポーツ走行時のパワーON・OFF判定を行い、次に、ステップST6において、そのパワーON・OFF判定にしたがった変速制御(アップシフト制御またはダウンシフト制御)を行う。すなわち、スポーツ走行時には、スポーツ走行時専用のパワーON・OFF判定を行い、パワーON状態における変速制御とパワーOFF状態における変速制御とを切り替えて行うようにしている。この場合、パワーON・OFF判定をスポーティな変速動作の演出を重視した設定とすることが可能である。
【0080】
この実施形態では、スポーツ走行時のパワーON・OFF判定は、上述した通常走行時のパワーON・OFF判定とは異なり、例えば、図10(b)に示すようなパワーON・OFF判定マップを参照して行われる。この図10(b)に示すパワーON・OFF判定マップは、スポーツ走行時だけに参照されるマップであり、トランスミッション制御装置5のROM52に記憶されている。図10(b)のパワーON・OFF判定マップは、車速およびスロットル開度をパラメータとして、予め実験・計算等によってパワーON領域とパワーOFF領域とを求め、その結果を基にパワーONとパワーOFFとを判定する判定線を設定したマップである。具体的に、パワーON・OFF判定マップは、このマップ上で左下方から右上方に向けて単調増加傾向にある判定線L2を挟んで、スロットル開度が大きい側のパワーON領域G21と、スロットル開度が小さい側のパワーOFF領域G22とに区分されている。
【0081】
パワーON・OFF判定は、車速センサ97の出力信号(または出力軸回転数センサ93の出力信号)およびスロットル開度センサ96の出力信号に基づいて算出された車速およびスロットル開度が、図10(b)のパワーON・OFF判定マップ上でいずれの領域に属するかを判断することによって行われる。そして、パワーON領域G21に属していれば、車両状態がパワーONであると判定され、ステップST6において、パワーONアップシフト制御またはパワーONダウンシフト制御が油圧制御装置40を制御することによって行われる。一方、パワーOFF領域G22に属していれば、車両状態がパワーOFFであると判定され、ステップST6において、パワーOFFアップシフト制御またはパワーOFFダウンシフト制御が油圧制御装置40を制御することによって行われる。なお、パワーON・OFF判定にしたがった変速制御は、従来公知であるのでここではその説明を割愛する。
【0082】
このように、スポーツ走行時と通常走行時とでパワーON・OFF判定を変更し、異ならせることで、パワーON・OFF判定を、スポーツ走行時にはスポーティな変速動作の演出(音や速度など)の観点を重視した設定とし、通常走行時には変速ショックの低減の観点を重視した設定とすることができる。具体的には、図10(b)のスポーツ走行時に参照されるパワーON・OFF判定マップでは、図10(a)の通常走行時に参照されるパワーON・OFF判定マップに比べ、パワーOFF領域が広く設定されている。この場合、図10(b)のパワーON・OFF判定マップでは、図10(a)のパワーON・OFF判定マップに比べ、マップ上の判定線がスロットル開度の大きい側に設定されている。これにより、スポーツ走行時には、変速動作の演出を楽しめる領域を、通常走行時と比較して広げることができる。例えば、ダウンシフトの変速動作を行う場合に、アクセルペダルを踏み込んでエンジン1の回転数を上昇させるブリッピング制御などのような変速演出を楽しめる領域を広げることが可能になる。なお、上述したようなスポーツ走行時には通常走行時に比べてパワーOFFと判定される領域を広く設定する制御をダウンシフト時だけ行うようにしてもよい。
【0083】
−他の実施形態−
以上、本発明の実施形態について説明したが、ここに示した実施形態は一例であり、さまざまに変形することが可能である。その一例を以下に挙げる。
【0084】
(1)上記実施形態では、前進8段変速の自動変速機の変速制御に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、他の任意の変速段の自動変速機の変速制御にも適用可能である。
【0085】
(2)上記実施形態では、車速とアクセル開度に基づいて適正な変速段を求めて変速制御を実行する例を示したが、本発明はこれに限られることなく、車速とスロットル開度に基づいて適正な変速段を求めて変速制御を実行するようにしてもよい。また、車両の走行状態に関する他のパラメータに基づいて適正な変速段を求めて変速制御を実行するようにしてもよい。
【0086】
(3)スポーツ走行判定手段として、次の構成を採用してもよい。
【0087】
(3−a)例えば、車両のスポーツ走行モードを運転者が手動によって選択するための選択手段(スポーツスイッチやパワースイッチなど)を備え、その選択手段がONである場合に、スポーツ走行時であると判定する構成が挙げられる。
【0088】
(3−b)また、車両の走行場所がサーキットであるか否かを判別する手段(ナビゲーションシステムなど)を備え、車両の走行場所がサーキットである場合にスポーツ走行時であると判定する構成が挙げられる。
【0089】
(3−c)また、スポーツ走行時であるか否かを運転者が手動によって設定することが可能な設定手段(スイッチ、ボタンなど)を設ける構成が挙げられる。
【0090】
(4)パワーON・OFF判定を変更する形態は、以下の形態であってもよい。
【0091】
(4−a)上記実施形態では、スポーツ走行時には通常走行時に比べパワーOFFと判定される領域を広く設定する例(図10参照)を示したが、例えば、図11に示すように、スポーツ走行時には通常走行時に比べパワーONと判定される領域を広く設定してもよい。図11(a)に示すパワーON・OFF判定マップは、通常走行時だけに参照されるマップであり、図10(a)のパワーON・OFF判定マップと同じである。一方、図11(b)に示すパワーON・OFF判定マップは、図11(a)の通常走行時に参照されるパワーON・OFF判定マップに比べ、パワーON領域が広く設定されている点で、図10(b)のパワーON・OFF判定マップとは異なる。
【0092】
このように、パワーON・OFF判定を変更することで、スポーツ走行時にアップシフトの変速動作を行う場合に有効であり、上述した場合と同様に、スポーツ走行時には、変速動作の演出を楽しめる領域を、通常走行時と比較して広げることができる。なお、図11(b)のパワーON・OFF判定マップは、具体的には、このマップ上で左下方から右上方に向けて単調増加傾向にある判定線L3を挟んで、スロットル開度が大きい側のパワーON領域G31と、スロットル開度が小さい側のパワーOFF領域G32とに区分されている。なお、スポーツ走行時には通常走行時に比べてパワーONと判定される領域を広く設定する制御をアップシフト時だけ行うようにしてもよい。
【0093】
(4−b)また、上記実施形態では、2つのパワーON・OFF判定マップをスポーツ走行時と通常走行時とで切り替えて設定する例(図10参照)を示したが、図12に示すように、1つのパワーON・OFF判定マップ上に、通常走行時に設定される判定線L1と、スポーツ走行時にパワーOFF領域を広げるように設定される判定線L2とを設ける構成としてもよい。図12のパワーON・OFF判定マップ上では、判定線L2が判定線L1に比べスロットル開度の大きい側に設定されている。この判定マップ上で、判定線L1は、図10(a)のパワーON・OFF判定マップ上の判定線L1に対応し、判定線L2は、図10(b)のパワーON・OFF判定マップ上の判定線L2に対応する。なお、判定線L1,L2に加え、同じパワーON・OFF判定マップ上に、スポーツ走行時にパワーON領域を広げるように設定される判定線L3を設ける構成としてもよい。この場合、判定線L3は、図11(b)のパワーON・OFF判定マップ上の判定線L3に対応する。
【0094】
(4−c)また、上記実施形態では、車速およびスロットル開度をパラメータとするパワーON・OFF判定マップを用いたが、車両の走行状態に関する他のパラメータに基づくパワーON・OFF判定マップを用いてもよい。例えば、車速およびエンジン負荷をパラメータとするパワーON・OFF判定マップを用いてもよい。
【0095】
(4−d)また、上記実施形態では、パワーON・OFF判定マップを用いてパワーON・OFF判定を行ったが、それ以外の手法で行ってもよい。例えば、スロットル開度のみに基づいてパワーON・OFF判定を行うようにしてもよい。また、エンジンの吸入空気量のみに基づいてパワーON・OFF判定を行うようにしてもよい。スロットル開度に基づいてパワーON・OFF判定を行う場合、スロットル開度が予め設定された閾値よりも大きい場合にはパワーONと判定し、スロットル開度がその閾値以下である場合にはパワーOFFと判定する。
【0096】
(5)本発明が適用される車両に搭載されるエンジンとしては、ガソリンエンジンであってもよいし、あるいは、ディーゼルエンジンであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】実施形態に係る車両のパワートレーンを示す概略構成図である。
【図2】自動変速機の一例を示すスケルトン図である。
【図3】自動変速機の変速機構部を模式的に示す斜視図である。
【図4】トランスミッション制御装置の構成を示すブロック図である。
【図5】自動変速機の変速機構部における各クラッチおよび各ブレーキの変速段ごとの係合状態を示す図である。
【図6】自動変速機の変速機構部の両プラネタリにおける各構成要素の回転数比を変速段ごとに示す速度線図である。
【図7】自動変速機の変速操作を行うシフト装置を示す斜視図である。
【図8】自動変速機の変速制御に用いる変速マップを示す図である。
【図9】自動変速機の変速制御の一例を示すフローチャートである。
【図10】パワーON・OFF判定に用いる判定マップを示す図である。
【図11】パワーON・OFF判定に用いる判定マップの変形例1を示す図である。
【図12】パワーON・OFF判定に用いる判定マップの変形例2を示す図である。
【符号の説明】
【0098】
1 エンジン
2 自動変速機
3 エンジン制御装置
5 トランスミッション制御装置
30 変速機構部
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関(以下、エンジンともいう)と、そのエンジンに連結される自動変速機とが搭載された車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンを搭載した車両において、エンジンが発生するトルクおよび回転速度を車両の走行状態に応じて適切に駆動輪に伝達する変速機として、エンジンと駆動輪との間の変速比を自動的に最適設定する自動変速機が知られている。車両に搭載される自動変速機としては、例えば、クラッチおよびブレーキと遊星歯車装置とを用いてギア段(以下では、変速段ともいう)を設定する遊星歯車式変速機や、変速比を無段階に調整するベルト式無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)などがある。
【0003】
遊星歯車式の自動変速機が搭載された車両においては、車速およびスロットル開度(またはアクセル開度)に応じた最適なギア段を得るための変速線(ギア段の切り換えライン)を有する変速マップがECUなどに記憶されており、車速およびスロットル開度に基づいて変速マップを参照して目標ギア段を算出し、その目標ギア段に基づいて、摩擦係合要素であるクラッチ、ブレーキやワンウェイクラッチなどを、所定の状態に係合または解放することによってギア段を自動的に設定している。
【0004】
この種の自動変速機が搭載された車両においては、運転者(ユーザ)により操作されるシフトレバーが設けられており、そのシフトレバーを操作することにより、自動変速機のシフトポジションを、例えばP位置(パーキングレンジ)、R位置(リバースレンジ)、N位置(ニュートラルレンジ)、D位置(ドライブレンジ)などに切り変えることが可能になっている。また、近年では、手動変速機能付きの自動変速機(いわゆるシーケンシャルモード付き自動変速機)も実用化されており、運転者によるシフトレバーの操作によって自動変速機の変速段を任意に切り換えることも可能になっている。
【0005】
ところで、従来では、自動変速機において、エンジン側から駆動系へ入力される駆動力がパワーON状態(駆動状態)であるかパワーOFF状態(被駆動状態)であるかのパワーON・OFF判定(駆動・被駆動判定)を行って、この判定に基づいてそれぞれの状態に対応した変速制御を行うことが提案されている。例えば、特許文献1には、ダウンシフト時に、車速およびスロットル開度に応じてパワーON領域とパワーOFF領域とに分けて設定されるパワーON・OFF判定マップを用いてパワーON・OFF判定を行い、その判定に基づいてパワーONダウンシフトの変速制御とパワーOFFダウンシフトの変速制御とを切り替えて行うことが示されている。また、この特許文献1には、パワーON・OFF判定マップを、車速が大きいほどパワーOFF領域が広くなるように、かつ、ギア位置が低いほどパワーON領域が広くなるように設定することや、レンジ位置や油温に応じて異なるパワーON・OFF判定マップを設定することなどが記載されている。
【特許文献1】特許第3467923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1には、レンジ位置や油温に応じて異なるパワーON・OFF判定マップを設定することで、自動変速機における変速ショックや変速フィーリングの改善を図ることが示されているものの、上記シーケンシャルモードでの走行や、サーキット走行などのようないわゆるスポーツ走行の際に、通常走行時とは異なるパワーON・OFF判定マップを用いることについては示されていない。したがって、その点においてさらなる改善の余地がある。
【0007】
本発明は、そのような点に着目してなされたものであり、スポーツ走行時と通常走行時とで、パワーON・OFF判定を異ならせることが可能な車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題を解決するための手段を以下のように構成している。すなわち、本発明は、車両の制御装置であって、内燃機関とこの内燃機関に連結される自動変速機とが搭載された車両において、内燃機関側から駆動系へ入力される駆動力がパワーON状態であるかパワーOFF状態であるかのパワーON・OFF判定を行うパワーON・OFF判定手段を備え、このパワーON・OFF判定手段による判定結果に基づいてそれぞれの状態に対応した変速制御を行うように構成されている。そして、車両がスポーツ走行時であるか否かを判定するスポーツ走行判定手段と、前記パワーON・OFF判定手段によるパワーON・OFF判定を、スポーツ走行時と、スポーツ走行時ではない通常走行時とで変更する変更手段とを備えていることを特徴としている。ここで、前記パワーON・OFF判定手段によるパワーON・OFF判定は、判定マップを用いる手法で行ってもよいし、それ以外の手法で行ってもよい。判定マップを用いる手法では、車速およびスロットル開度に応じて設定されるマップなどが好適に利用される。
【0009】
上記構成によれば、スポーツ走行時と通常走行時とで、パワーON・OFF判定を異ならせることができるので、パワーON・OFF判定を、スポーツ走行時にはスポーティな変速動作の演出の観点を重視した設定とし、通常走行時には変速ショックの低減の観点を重視した設定とすることができる。スポーツ走行時には、例えば、アクセルペダルを踏み込んで内燃機関の回転数を上昇させるブリッピング制御などを行って変速演出を楽しめる領域を、通常走行時と比較して広げることが可能になる。
【0010】
また、本発明におけるパワーON・OFF判定を変更する態様として、次の2つが挙げられる。
【0011】
(1)パワーOFFと判定される領域を、スポーツ走行時には通常走行時に比べ広く設定する態様。この態様は、特に、スポーツ走行時にダウンシフトの変速動作を行う場合に有効であり、この場合、スポーツ走行時には、変速動作の演出を楽しめる領域を、通常走行時と比較して広げることができる。例えば、ブリッピングなどのような変速演出を楽しめる領域を広げることが可能になる。
【0012】
(2)パワーONと判定される領域を、スポーツ走行時には通常走行時に比べ広く設定する態様。この態様は、特に、スポーツ走行時にアップシフトの変速動作を行う場合に有効であり、この場合にも、スポーツ走行時には、変速動作の演出を楽しめる領域を、通常走行時と比較して広げることができる。
【0013】
また、本発明におけるスポーツ走行判定手段の具体構成として、以下の5つが挙げられる。
【0014】
(1)車両の加減速度を求める手段を備え、その加減速度が予め設定された閾値よりも大きい場合に、スポーツ走行時であると判定する構成。
【0015】
(2)シフト装置のシフトレバーの操作位置を検知する手段を備え、そのシフトレバーの操作位置が自動変速機の変速動作を運転者が手動によって行う際に選択される位置である場合に、スポーツ走行時であると判定する構成。
【0016】
(3)車両のスポーツ走行モードを運転者が手動によって選択するための選択手段を備え、その選択手段がONである場合に、スポーツ走行時であると判定する構成。
【0017】
(4)車両の走行場所がサーキットであるか否かを判別する手段を備え、車両の走行場所がサーキットである場合にスポーツ走行時であると判定する構成。
【0018】
(5)スポーツ走行時であるか否かを運転者が手動によって設定することが可能な設定手段を設ける構成。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、スポーツ走行時と通常走行時とで、パワーON・OFF判定を異ならせることができるので、パワーON・OFF判定を、通常走行時には変速ショックの低減などの観点を重視した設定とし、スポーツ走行時にはスポーティな変速動作の演出などの観点を重視した設定とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明を実施するための最良の形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0021】
まず、車両のパワートレーンの構成、自動変速機の基本動作等について説明する。図1は、実施形態における車両のパワートレーンを示す概略構成図である。図2は、図1の自動変速機2の一例を示すスケルトン図である。図3は、図1,図2の変速機構部30を模式的に示す斜視図である。
【0022】
図1に例示する車両のパワートレーンには、エンジン1、自動変速機2、エンジン制御装置(エンジンECU)3、トランスミッション制御装置(変速機ECU)5などが搭載されている。
【0023】
−エンジン−
エンジン1は、外部から吸入する空気と燃料噴射弁11から噴射される燃料とを適宜の比率で混合した混合気を燃焼させることにより、回転動力を発生するものである。この燃料噴射弁11は、エンジン制御装置3により制御される。エンジン1の出力軸であるクランクシャフト8は、トルクコンバータ20の入力軸に接続される。クランクシャフト8の回転数(エンジン回転数)は、エンジン回転数センサ91によって検出される。
【0024】
エンジン1に吸入される空気量は、電子制御式の電子スロットルバルブ12により調整される。電子スロットルバルブ12は、運転者(ユーザ)のアクセルペダル操作とは独立してスロットル開度を電子的に制御することが可能であり、その開度(スロットル開度)はスロットル開度センサ96によって検出される。
【0025】
電子スロットルバルブ12のスロットル開度は、エンジン制御装置3によって駆動制御される。具体的には、エンジン回転数センサ91によって検出されるエンジン回転数、運転者のアクセルペダル踏み込み量(アクセル開度)等のエンジン1の運転状態に応じた最適な吸入空気量(目標吸気量)が得られるように電子スロットルバルブ12のスロットル開度を制御している。より詳細には、スロットル開度センサ96を用いて電子スロットルバルブ12の実際のスロットル開度を検出し、その実スロットル開度が、上記目標吸気量が得られるスロットル開度(目標スロットル開度)に一致するように、電子スロットルバルブ12のスロットルモータ13をフィードバック制御している。
【0026】
−自動変速機−
自動変速機2は、主として、トルクコンバータ20、変速機構部30、油圧制御装置40、オイルポンプ60を含んで構成されており、この実施形態では、前進8段、後進1段の変速が可能になっている。
【0027】
トルクコンバータ20は、エンジン1に回転連結されるもので、ポンプインペラ21、タービンランナ22、ステータ23、ワンウェイクラッチ24、ステータシャフト25、ロックアップクラッチ26を含む構成となっている。
【0028】
ワンウェイクラッチ24は、ステータ23を自動変速機2のケース2aに一方向の回転のみ許容して支承するものである。ステータシャフト25は、ワンウェイクラッチ24のインナレースを自動変速機2のケース2aに固定するものである。
【0029】
ロックアップクラッチ26は、トルクコンバータ20のポンプインペラ21とタービンランナ22とを直結可能とするものであり、必要に応じて、ポンプインペラ21とタービンランナ22とを直結する係合状態と、ポンプインペラ21とタービンランナ22とを切り離す解放状態と、係合状態と解放状態との中間の半係合状態とに切り換えられる。
【0030】
変速機構部30は、トルクコンバータ20から入力軸9に入力される回転動力を変速して出力軸10に出力するものであって、図2、図3に示すように、フロントプラネタリ31と、リアプラネタリ32と、中間ドラム33と、第1〜第4クラッチC1〜C4と、第1,第2ブレーキB1,B2と、ワンウェイクラッチF1とを含む構成となっている。
【0031】
フロントプラネタリ31は、ダブルピニオンタイプと呼ばれる歯車式遊星機構とされており、第1サンギアS1と、第1リングギアR1と、複数個のインナーピニオンギアP1と、複数個のアウターピニオンギアP2と、第1キャリアCA1とを含む構成となっている。
【0032】
第1サンギアS1は、自動変速機2のケース2aに固定されて回転不可能とされ、第1リングギアR1は、中間ドラム33に第3クラッチC3を介して一体回転可能な状態または相対回転可能な状態に支持され、第1リングギアR1の内径側に第1サンギアS1が同心状に挿入されている。
【0033】
複数個のインナーピニオンギアP1および複数個のアウターピニオンギアP2は、第1サンギアS1と第1リングギアR1との対向環状空間の円周複数箇所に介装されており、複数個のインナーピニオンギアP1は第1サンギアS1に噛合され、また、複数個のアウターピニオンギアP2はインナーピニオンギアP1および第1リングギアR1に噛合されている。
【0034】
第1キャリアCA1は、両ピニオンギアP1,P2を回転可能に支持するもので、この第1キャリアCA1の中心軸部が入力軸9に一体的に連結され、この第1キャリアCA1において両ピニオンギアP1,P2を支持する各支持軸部が、第4クラッチC4を介して中間ドラム33に一体回転可能な状態または相対回転可能な状態に支持されている。
【0035】
中間ドラム33は、第1リングギアR1の外径側に回転可能に配置されており、第1ブレーキB1を介して自動変速機2のケース2aに回転不可能な状態または相対回転可能な状態に支持されている。
【0036】
リアプラネタリ32は、ラビニオタイプと呼ばれる歯車式遊星機構とされており、大径の第2サンギアS2と、小径の第3サンギアS3と、第2リングギアR2と、複数個のショートピニオンギアP3と、複数個のロングピニオンギアP4と、第2キャリアCA2とを含む構成となっている。
【0037】
第2サンギアS2は、中間ドラム33に連結され、第3サンギアS3は、第1クラッチC1を介してフロントプラネタリ31の第1リングギアR1に一体回転可能または相対回転可能に連結され、第2リングギアR2は、出力軸10に一体に連結されている。
【0038】
複数個のショートピニオンギアP3は、第3サンギアS3に噛合され、また、複数個のロングピニオンギアP4は、第2サンギアS2および第2リングギアR2に噛合するとともにショートピニオンギアP3を介して第3サンギアS3に噛合されている。
【0039】
第2キャリアCA2は、両ピニオンギアP3,P4を回転可能に支持するもので、この第2キャリアCA2の中心軸部が第2クラッチC2を介して入力軸9に連結され、この第2キャリアCA2において両ピニオンギアP3,P4を支持する各支持軸部が、第2ブレーキB2およびワンウェイクラッチF1を介して自動変速機2のケース2aに支持されている。
【0040】
第1〜第4クラッチC1〜C4および第1,第2ブレーキB1,B2は、オイルの粘性を利用した湿式多板摩擦係合装置とされている。
【0041】
第1クラッチC1は、リアプラネタリ32の第3サンギアS3をフロントプラネタリ31の第1リングギアR1に対して一体回転可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。
【0042】
第2クラッチC2は、リアプラネタリ32の第2キャリアCA2を入力軸9に対して一体回転可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。
【0043】
第3クラッチC3は、フロントプラネタリ31の第1リングギアR1を中間ドラム33に対して一体回転可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。
【0044】
第4クラッチC4は、フロントプラネタリ31の第1キャリアCA1を中間ドラム33に対して一体回転可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。
【0045】
第1ブレーキB1は、中間ドラム33を自動変速機2のケース2aに対して一体化して回転不可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。
【0046】
第2ブレーキB2は、リアプラネタリ32の第2キャリアCA2を自動変速機2のケース2aに対して一体化して回転不可能な係合状態または相対回転可能な解放状態とするものである。
【0047】
また、ワンウェイクラッチF1は、リアプラネタリ32の第2キャリアCA2の一方向のみの回転を許容するものである。
【0048】
変速機構部30では、摩擦係合要素である第1〜第4クラッチC1〜C4、第1,第2ブレーキB1,B2、および、ワンウェイクラッチF1が、所定の状態に係合または解放されることによってギア段(変速段)が設定される。第1〜第4クラッチC1〜C4、第1,第2ブレーキB1,B2の係合・解放は、油圧制御回路40によって制御される。
【0049】
油圧制御装置40は、変速機構部30の変速動作を制御するもので、リニアソレノイドバルブ、ON−OFFソレノイドバルブ、アキュームレータなどを含む構成になっている。そして、リニアソレノイドバルブおよびON−OFFソレノイドバルブの励磁・非励磁を制御して油圧回路を切り換えることによって、変速機構部30の第1〜第4クラッチC1〜C4、第1,第2ブレーキB1,B2の係合・解放を制御するようにしている。油圧制御回路40のリニアソレノイドバルブおよびON−OFFソレノイドバルブの励磁・非励磁は、トランスミッション制御装置5からのソレノイド制御信号(指示油圧信号)によって制御される。
【0050】
−エンジン制御装置およびトランスミッション制御装置−
エンジン制御装置3およびトランスミッション制御装置5は、一般的に公知のECU(Electronic Control Unit)とされ、ともにほぼ同様のハードウエア構成になっている。ここでは、トランスミッション制御装置5の具体構成について、図4に示している。
【0051】
トランスミッション制御装置5は、油圧制御装置40を制御することにより変速機構部30における適宜の変速段つまり動力伝達経路を成立させるものである。すなわち、トランスミッション制御装置5は、図4に示すように、CPU(Central Processing Unit)51と、ROM(Read Only Memory)52と、RAM(Random Access Memory)53と、バックアップRAM54と、入力インターフェース55と、出力インターフェース56とが、双方向性バス57によって相互に接続された構成になっている。
【0052】
CPU51は、ROM52に記憶された各種制御プログラムや制御マップに基づいて演算処理を実行する。ROM52には、変速機構部30の変速動作を制御するための各種制御プログラムが記憶されている。RAM53は、CPU51での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。バックアップRAM54は、各種の保存すべきデータを記憶する不揮発性のメモリである。
【0053】
入力インターフェース55には、エンジン回転数センサ91、入力軸回転数センサ92、出力軸回転数センサ93、シフトポジションセンサ94、アクセル開度センサ95、スロットル開度センサ96、車速センサ97、Gセンサ98、ブレーキペダルセンサ99、ブレーキマスタシリンダ圧センサ101などが接続されており、これらの各センサからの信号がトランスミッション制御装置5に入力される。また、出力インターフェース56には、油圧制御装置40の構成要素である上述したリニアソレノイドバルブ、ON−OFFソレノイドバルブ、アキュームレータなどが接続されている。
【0054】
入力軸回転数センサ92は、入力軸9の回転数を検出するものである。出力軸回転数センサ93は、出力軸10の回転数を検出するものである。シフトポジションセンサ94は、後述するシフトレバー71の操作位置を検知するものである。アクセル開度センサ95は、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出するものである。車速センサ97は、車両の走行速度を検出するものである。Gセンサ98は、車両の前後左右の加速度を検出するものである。ブレーキペダルセンサ99は、運転者によってブレーキペダルがON操作(制動操作)された際にブレーキON信号を出力するものである。ブレーキマスタシリンダ圧センサ101は、そのブレーキペダルがON操作された際のペダル踏み込み量をブレーキマスタシリンダ圧から求め、これにより、運転者による制動要求度合いを検出するようになっている。なお、トランスミッション制御装置5は、エンジン制御装置3との間で送受信可能に接続されており、必要に応じてエンジン制御装置3からエンジン制御に関する種々の情報を取得するようになっている。
【0055】
ここで、自動変速機2における各変速段(第1速段〜第8速段、後進段)を成立させる条件について、図5、図6により説明する。
【0056】
図5は、第1〜第4クラッチC1〜C4、第1,第2ブレーキB1,B2、および、ワンウェイクラッチF1における係合状態または解放状態と各変速段との関係を示す係合表(作動表)である。この図5において、○印は「係合状態」、×印は「解放状態」、◎印は「エンジンブレーキ時に係合状態」、△印は「駆動時のみ係合状態」を示す。
【0057】
図6は、第1〜第4クラッチC1〜C4、第1,第2ブレーキB1,B2、および、ワンウェイクラッチF1の係合により成立される変速段(第1速段〜第8速段、後進段)と、そのときの前後2つのプラネタリ31,32における各構成要素の回転数比との関係を示す速度線図である。この図6において、各縦軸方向は、2つのプラネタリ31,32における各構成要素の速度比であり、各縦軸の間隔は、各要素のギア比に応じて設定される。また、第1〜第4クラッチC1〜C4、第1,第2ブレーキB1,B2、および、ワンウェイクラッチF1が係合される点に、C1〜C4、B1、B2、F1を記入している。さらに、図6に記載している入力1〜入力4とは、入力軸9からの回転動力の入力位置を示し、また、図6に記載している出力とは、出力軸10に出力させる回転動力の出力位置を示している。
【0058】
また、車両の運転席の近傍には、図7に示すようなシフト装置7が配置されている。このシフト装置7にはシフトレバー71が変位可能に設けられている。また、シフト装置7には、R位置(リバースレンジ)、N位置(ニュートラルレンジ)、D位置(ドライブレンジ)、および、S位置(シーケンシャルレンジ)が設定されており、運転者が所望の変速位置へシフトレバー71を変位させることが可能になっている。これらR位置、N位置、D位置、S位置(下記の「+」位置および「−」位置も含む)の各変速位置は、シフトポジションセンサ94によって検出される。
【0059】
そして、シフトレバー71の変速位置が選択される状況と、そのときの自動変速機2の動作状況について、各変速位置(「N位置」、「R位置」、「D位置」、「S位置」)ごとに説明する。
【0060】
「N位置」は、自動変速機2の入力軸9と出力軸10との連結を切断する際に選択される位置であり、シフトレバー71がこの「N位置」に操作されると、自動変速機2のクラッチC1〜C4、ブレーキB1,B2の全てが解放される(図6参照)。
【0061】
「R位置」は、車両を後退させる際に選択される位置であり、シフトレバー71がこのR位置に操作されると、自動変速機2は後進ギア段に切り換えられる。
【0062】
「D位置」は、車両を前進させる際に選択される位置であり、シフトレバー71がこのD位置に操作されると、車両の運転状態などに応じて、自動変速機2の複数の前進ギア段(前進8速)が自動的に変速制御される。
【0063】
「S位置」は、シーケンシャルモード(マニュアルモードとも呼ばれる)での走行の際、つまり、複数の前進ギア段(前進8速)の変速動作を運転者が手動によって行う際に選択される位置であって、このS位置の前後に「−」位置および「+」位置が設けられている。「+」位置は、シーケンシャルモードのアップシフトのときにシフトレバー71が操作される位置であり、「−」位置は、シーケンシャルモードのダウンシフトのときにシフトレバー71が操作される位置である。そして、シフトレバー71がS位置にあるときに、シフトレバー71がS位置を中立位置として「+」位置または「−」位置に操作されると、自動変速機2の前進ギア段がアップまたはダウンされる。具体的には、「+」位置への1回操作ごとにギア段が1段ずつアップ(例えば1st→2nd→・・・→8th)される。一方、「−」位置への1回操作ごとにギア段が1段ずつダウン(例えば8th→7th→・・・→1st)される。
【0064】
−変速制御−
次に、自動変速機2の変速制御に用いられる変速マップについて、図8を参照して説明する。
【0065】
図8に示す変速マップは、車速およびアクセル開度をパラメータとし、それら車速およびアクセル開度に応じて、適正なギア段を求めるための複数の領域が設定されたマップである。変速マップは、トランスミッション制御装置5のROM52に記憶されている。変速マップの各領域は、複数の変速線(ギア段の切り換えライン)によって区画されている。なお、図8において、シフトアップ線(変速線)を実線で示し、シフトダウン線(変速線)を破線で示している。また、シフトアップおよびシフトダウンの各切り換え方向を図中に数字と矢印とを用いて示している。
【0066】
続いて、変速制御の基本動作について説明する。
【0067】
トランスミッション制御装置5は、車速センサ97の出力信号から車速を算出するとともに、アクセル開度センサ95の出力信号からアクセル開度を算出し、それら車速およびアクセル開度に基づいて、図8の変速マップを参照して目標ギア段を算出し、その目標ギア段と現状ギア段とを比較して変速動作が必要であるか否かを判定する。その判定結果により、変速動作が必要ない場合には(目標ギア段と現状ギア段とが同じで、ギア段が適切に設定されている場合には)、現状ギア段を維持するソレノイド制御信号(指示油圧信号)を自動変速機2の油圧制御装置40に出力する。
【0068】
一方、目標ギア段と現状ギア段とが異なる場合には変速動作を行う。例えば、自動変速機2のギア段が「5速」の状態で走行している状況から、車両の走行状態が変化して、例えば図8の点PAから点PBに変化した場合、シフトダウン変速線[5→4]を跨ぐ変化となるので、変速マップから算出される目標ギア段が「4速」となり、その4速のギア段を設定するソレノイド制御信号(指示油圧信号)を自動変速機2の油圧制御装置40に出力して、5速のギア段から4速のギア段への変速(5→4ダウンシフト)を行う。
【0069】
−実施形態の特徴部分−
この実施形態の特徴部分は、自動変速機2において、上記シーケンシャルモードでの走行時や、車両の加速度または減速度の大きいときなどのようないわゆるスポーツ走行の際に、そのようなスポーツ走行時ではない通常走行時(単に通常走行時という)とはパワーON・OFF判定(駆動・被駆動判定)を変更することにある。つまり、車両がスポーツ走行時であるか否かを判定するスポーツ走行判定手段と、スポーツ走行時と通常走行時とでパワーON・OFF判定を変更する変更手段とを設けたことにある。
【0070】
具体的に、この実施形態では、エンジン1側から駆動系へ入力される駆動力がパワーON状態(駆動状態:エンジン1の回転速度が自動変速機2の入力軸回転速度を上回っている状態)であるか、パワーOFF状態(被駆動状態:エンジン1の回転速度が自動変速機2の入力軸回転速度を下回っている状態)であるかを判定し、この判定に基づいてそれぞれの状態に対応した変速制御を行うように構成された自動変速機2において、パワーON・OFF判定を、スポーツ走行時と通常走行時とで変更することを特徴としている。以下、この制御の詳細について、図9のフローチャートを参照しながら説明する。
【0071】
図9に示す変速制御ルーチンは、トランスミッション制御装置5において実行される。このルーチンは、エンジン1の始動後の所定時間ごと(例えば、数msecごと)に実行される。
【0072】
まず、ステップST1において、上述した各種センサやエンジン制御装置3からのトランスミッション制御装置5への入力情報に基づいて、アップシフトまたはダウンシフトの変速出力(変速指示)があるか否かを判定する。この判定は、例えば車両の現在の走行状態および図8の変速マップに基づく変速要求があるか否かによって行うことが可能である。より詳細には、図8の変速マップ上で、車両の走行状態がシフトアップ線またはシフトダウン線を跨いで変化した場合に、アップシフトまたはダウンシフトの変速要求があると判定される。
【0073】
そして、判定結果が肯定判定の場合にはステップST2に進む。一方、判定結果が否定判定の場合には、アップシフトまたはダウンシフトの変速出力があるまで(肯定判定が得られるまで)、ステップST1の判定を繰り返し行う。ここで、このステップST1の判定を、シフトポジションセンサ94の出力信号に基づいて行うことも可能である。この場合、例えばシフトレバー71が上記S位置の「+」位置または「−」位置に操作された場合に、アップシフトまたはダウンシフトの変速出力があると判定される。
【0074】
次に、ステップST2において、車両がスポーツ走行時(走行中)であるか否かを判定する。この判定は、例えば車両の加速度または減速度が大きいか否かを判断することによって行うことが可能である。具体的に、例えば出力軸回転数センサ93の出力信号、車速センサ97の出力信号、Gセンサ98の出力信号、ブレーキペダルセンサ99の出力信号、ブレーキマスタシリンダ圧センサ101の出力信号などに基づいて、車両の加減速度の大きさを求め、その値が予め設定された所定値(閾値)よりも大きい場合には、スポーツ走行時であると判定され、この場合、ステップST5に進む。逆に、その加減速度の値が上記所定値以下である場合には、通常走行時であると判定され、この場合、ステップST3に進む。なお、それら出力信号のうち少なくとも1つを利用して車両の加速度または減速度の大きさを求めればよく、全ての出力信号を必ずしも利用しなくてもよい。
【0075】
ここで、このステップST2の判定を、シフトポジションセンサ94の出力信号に基づいて行うことも可能である。この場合、シフトレバー71の操作位置が上記S位置である場合には、車両がスポーツ走行時であると判定され、シフトレバー71の操作位置が上記S位置以外である場合には、車両が通常走行時であると判定される。
【0076】
そして、上記ステップST2の判定結果が否定判定である場合には、ステップST3において、通常走行時のパワーON・OFF判定を行い、次に、ステップST4において、そのパワーON・OFF判定にしたがった変速制御(アップシフト制御またはダウンシフト制御)を行う。すなわち、通常走行時には、通常走行時専用のパワーON・OFF判定を行い、パワーON状態における変速制御とパワーOFF状態における変速制御とを切り替えて行うようにしている。この場合、パワーON・OFF判定を変速ショックの低減を重視した設定とすることが可能である。
【0077】
この実施形態では、通常走行時のパワーON・OFF判定は、例えば、図10(a)に示すようなパワーON・OFF判定マップを参照して行われる。この図10(a)に示すパワーON・OFF判定マップは、通常走行時だけに参照されるマップであり、トランスミッション制御装置5のROM52に記憶されている。図10(a)のパワーON・OFF判定マップは、車速およびスロットル開度をパラメータとして、予め実験・計算等によってパワーON領域とパワーOFF領域とを求め、その結果を基にパワーONとパワーOFFとを区分する判定線(境界線)を設定したマップである。具体的に、パワーON・OFF判定マップは、このマップ上で左下方から右上方に向けて単調増加傾向にある判定線L1を挟んで、スロットル開度が大きい側のパワーON領域G11と、スロットル開度が小さい側のパワーOFF領域G12とに区分されている。
【0078】
パワーON・OFF判定は、車速センサ97の出力信号(または出力軸回転数センサ93の出力信号)およびスロットル開度センサ96の出力信号に基づいて算出された車速およびスロットル開度が、図10(a)のパワーON・OFF判定マップ上でいずれの領域に属するかを判断することによって行われる。そして、パワーON領域G11に属していれば、車両状態がパワーONであると判定され、ステップST4において、パワーONアップシフト制御またはパワーONダウンシフト制御が油圧制御装置40を制御することによって行われる。一方、パワーOFF領域G12に属していれば、車両状態がパワーOFFであると判定され、ステップST4において、パワーOFFアップシフト制御またはパワーOFFダウンシフト制御が油圧制御装置40を制御することによって行われる。なお、パワーON・OFF判定にしたがった変速制御は、従来公知であるのでここではその説明を割愛するが、例えば、パワーONアップシフト制御では、エンジン1の吹け上がりを抑えるような変速制御が行われ、パワーOFFダウンシフト制御では、自動変速機2の入力軸回転速度を上昇させて確実に変速動作を完了できるような変速制御が行われるようになっている。
【0079】
これに対し、上記ステップST2の判定結果が肯定判定である場合には、ステップST5において、スポーツ走行時のパワーON・OFF判定を行い、次に、ステップST6において、そのパワーON・OFF判定にしたがった変速制御(アップシフト制御またはダウンシフト制御)を行う。すなわち、スポーツ走行時には、スポーツ走行時専用のパワーON・OFF判定を行い、パワーON状態における変速制御とパワーOFF状態における変速制御とを切り替えて行うようにしている。この場合、パワーON・OFF判定をスポーティな変速動作の演出を重視した設定とすることが可能である。
【0080】
この実施形態では、スポーツ走行時のパワーON・OFF判定は、上述した通常走行時のパワーON・OFF判定とは異なり、例えば、図10(b)に示すようなパワーON・OFF判定マップを参照して行われる。この図10(b)に示すパワーON・OFF判定マップは、スポーツ走行時だけに参照されるマップであり、トランスミッション制御装置5のROM52に記憶されている。図10(b)のパワーON・OFF判定マップは、車速およびスロットル開度をパラメータとして、予め実験・計算等によってパワーON領域とパワーOFF領域とを求め、その結果を基にパワーONとパワーOFFとを判定する判定線を設定したマップである。具体的に、パワーON・OFF判定マップは、このマップ上で左下方から右上方に向けて単調増加傾向にある判定線L2を挟んで、スロットル開度が大きい側のパワーON領域G21と、スロットル開度が小さい側のパワーOFF領域G22とに区分されている。
【0081】
パワーON・OFF判定は、車速センサ97の出力信号(または出力軸回転数センサ93の出力信号)およびスロットル開度センサ96の出力信号に基づいて算出された車速およびスロットル開度が、図10(b)のパワーON・OFF判定マップ上でいずれの領域に属するかを判断することによって行われる。そして、パワーON領域G21に属していれば、車両状態がパワーONであると判定され、ステップST6において、パワーONアップシフト制御またはパワーONダウンシフト制御が油圧制御装置40を制御することによって行われる。一方、パワーOFF領域G22に属していれば、車両状態がパワーOFFであると判定され、ステップST6において、パワーOFFアップシフト制御またはパワーOFFダウンシフト制御が油圧制御装置40を制御することによって行われる。なお、パワーON・OFF判定にしたがった変速制御は、従来公知であるのでここではその説明を割愛する。
【0082】
このように、スポーツ走行時と通常走行時とでパワーON・OFF判定を変更し、異ならせることで、パワーON・OFF判定を、スポーツ走行時にはスポーティな変速動作の演出(音や速度など)の観点を重視した設定とし、通常走行時には変速ショックの低減の観点を重視した設定とすることができる。具体的には、図10(b)のスポーツ走行時に参照されるパワーON・OFF判定マップでは、図10(a)の通常走行時に参照されるパワーON・OFF判定マップに比べ、パワーOFF領域が広く設定されている。この場合、図10(b)のパワーON・OFF判定マップでは、図10(a)のパワーON・OFF判定マップに比べ、マップ上の判定線がスロットル開度の大きい側に設定されている。これにより、スポーツ走行時には、変速動作の演出を楽しめる領域を、通常走行時と比較して広げることができる。例えば、ダウンシフトの変速動作を行う場合に、アクセルペダルを踏み込んでエンジン1の回転数を上昇させるブリッピング制御などのような変速演出を楽しめる領域を広げることが可能になる。なお、上述したようなスポーツ走行時には通常走行時に比べてパワーOFFと判定される領域を広く設定する制御をダウンシフト時だけ行うようにしてもよい。
【0083】
−他の実施形態−
以上、本発明の実施形態について説明したが、ここに示した実施形態は一例であり、さまざまに変形することが可能である。その一例を以下に挙げる。
【0084】
(1)上記実施形態では、前進8段変速の自動変速機の変速制御に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、他の任意の変速段の自動変速機の変速制御にも適用可能である。
【0085】
(2)上記実施形態では、車速とアクセル開度に基づいて適正な変速段を求めて変速制御を実行する例を示したが、本発明はこれに限られることなく、車速とスロットル開度に基づいて適正な変速段を求めて変速制御を実行するようにしてもよい。また、車両の走行状態に関する他のパラメータに基づいて適正な変速段を求めて変速制御を実行するようにしてもよい。
【0086】
(3)スポーツ走行判定手段として、次の構成を採用してもよい。
【0087】
(3−a)例えば、車両のスポーツ走行モードを運転者が手動によって選択するための選択手段(スポーツスイッチやパワースイッチなど)を備え、その選択手段がONである場合に、スポーツ走行時であると判定する構成が挙げられる。
【0088】
(3−b)また、車両の走行場所がサーキットであるか否かを判別する手段(ナビゲーションシステムなど)を備え、車両の走行場所がサーキットである場合にスポーツ走行時であると判定する構成が挙げられる。
【0089】
(3−c)また、スポーツ走行時であるか否かを運転者が手動によって設定することが可能な設定手段(スイッチ、ボタンなど)を設ける構成が挙げられる。
【0090】
(4)パワーON・OFF判定を変更する形態は、以下の形態であってもよい。
【0091】
(4−a)上記実施形態では、スポーツ走行時には通常走行時に比べパワーOFFと判定される領域を広く設定する例(図10参照)を示したが、例えば、図11に示すように、スポーツ走行時には通常走行時に比べパワーONと判定される領域を広く設定してもよい。図11(a)に示すパワーON・OFF判定マップは、通常走行時だけに参照されるマップであり、図10(a)のパワーON・OFF判定マップと同じである。一方、図11(b)に示すパワーON・OFF判定マップは、図11(a)の通常走行時に参照されるパワーON・OFF判定マップに比べ、パワーON領域が広く設定されている点で、図10(b)のパワーON・OFF判定マップとは異なる。
【0092】
このように、パワーON・OFF判定を変更することで、スポーツ走行時にアップシフトの変速動作を行う場合に有効であり、上述した場合と同様に、スポーツ走行時には、変速動作の演出を楽しめる領域を、通常走行時と比較して広げることができる。なお、図11(b)のパワーON・OFF判定マップは、具体的には、このマップ上で左下方から右上方に向けて単調増加傾向にある判定線L3を挟んで、スロットル開度が大きい側のパワーON領域G31と、スロットル開度が小さい側のパワーOFF領域G32とに区分されている。なお、スポーツ走行時には通常走行時に比べてパワーONと判定される領域を広く設定する制御をアップシフト時だけ行うようにしてもよい。
【0093】
(4−b)また、上記実施形態では、2つのパワーON・OFF判定マップをスポーツ走行時と通常走行時とで切り替えて設定する例(図10参照)を示したが、図12に示すように、1つのパワーON・OFF判定マップ上に、通常走行時に設定される判定線L1と、スポーツ走行時にパワーOFF領域を広げるように設定される判定線L2とを設ける構成としてもよい。図12のパワーON・OFF判定マップ上では、判定線L2が判定線L1に比べスロットル開度の大きい側に設定されている。この判定マップ上で、判定線L1は、図10(a)のパワーON・OFF判定マップ上の判定線L1に対応し、判定線L2は、図10(b)のパワーON・OFF判定マップ上の判定線L2に対応する。なお、判定線L1,L2に加え、同じパワーON・OFF判定マップ上に、スポーツ走行時にパワーON領域を広げるように設定される判定線L3を設ける構成としてもよい。この場合、判定線L3は、図11(b)のパワーON・OFF判定マップ上の判定線L3に対応する。
【0094】
(4−c)また、上記実施形態では、車速およびスロットル開度をパラメータとするパワーON・OFF判定マップを用いたが、車両の走行状態に関する他のパラメータに基づくパワーON・OFF判定マップを用いてもよい。例えば、車速およびエンジン負荷をパラメータとするパワーON・OFF判定マップを用いてもよい。
【0095】
(4−d)また、上記実施形態では、パワーON・OFF判定マップを用いてパワーON・OFF判定を行ったが、それ以外の手法で行ってもよい。例えば、スロットル開度のみに基づいてパワーON・OFF判定を行うようにしてもよい。また、エンジンの吸入空気量のみに基づいてパワーON・OFF判定を行うようにしてもよい。スロットル開度に基づいてパワーON・OFF判定を行う場合、スロットル開度が予め設定された閾値よりも大きい場合にはパワーONと判定し、スロットル開度がその閾値以下である場合にはパワーOFFと判定する。
【0096】
(5)本発明が適用される車両に搭載されるエンジンとしては、ガソリンエンジンであってもよいし、あるいは、ディーゼルエンジンであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】実施形態に係る車両のパワートレーンを示す概略構成図である。
【図2】自動変速機の一例を示すスケルトン図である。
【図3】自動変速機の変速機構部を模式的に示す斜視図である。
【図4】トランスミッション制御装置の構成を示すブロック図である。
【図5】自動変速機の変速機構部における各クラッチおよび各ブレーキの変速段ごとの係合状態を示す図である。
【図6】自動変速機の変速機構部の両プラネタリにおける各構成要素の回転数比を変速段ごとに示す速度線図である。
【図7】自動変速機の変速操作を行うシフト装置を示す斜視図である。
【図8】自動変速機の変速制御に用いる変速マップを示す図である。
【図9】自動変速機の変速制御の一例を示すフローチャートである。
【図10】パワーON・OFF判定に用いる判定マップを示す図である。
【図11】パワーON・OFF判定に用いる判定マップの変形例1を示す図である。
【図12】パワーON・OFF判定に用いる判定マップの変形例2を示す図である。
【符号の説明】
【0098】
1 エンジン
2 自動変速機
3 エンジン制御装置
5 トランスミッション制御装置
30 変速機構部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関とこの内燃機関に連結される自動変速機とが搭載された車両において、内燃機関側から駆動系へ入力される駆動力がパワーON状態であるかパワーOFF状態であるかのパワーON・OFF判定を行うパワーON・OFF判定手段を備え、このパワーON・OFF判定手段による判定結果に基づいてそれぞれの状態に対応した変速制御を行うように構成された車両の制御装置であって、
車両がスポーツ走行時であるか否かを判定するスポーツ走行判定手段と、
前記パワーON・OFF判定手段によるパワーON・OFF判定を、スポーツ走行時と、スポーツ走行時ではない通常走行時とで変更する変更手段とを備えていることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御装置において、
前記パワーON・OFF判定のパワーOFFと判定される領域が、前記スポーツ走行時には通常走行時に比べ広く設定されていることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の制御装置において、
前記パワーOFFと判定される領域を広くする設定がダウンシフト時にだけ行われることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両の制御装置において、
前記パワーON・OFF判定のパワーONと判定される領域が、前記スポーツ走行時には通常走行時に比べ広く設定されていることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両の制御装置において、
前記パワーONと判定される領域を広くする設定がアップシフト時にだけ行われることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の車両の制御装置において、
車両の加減速度を求める手段を備え、
車両の加減速度が予め設定された閾値よりも大きい場合に、前記スポーツ走行時であると判定されることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の車両の制御装置において、
シフト装置のシフトレバーの操作位置を検知する手段を備え、
前記シフトレバーの操作位置が自動変速機の変速動作を運転者が手動によって行う際に選択される位置である場合に、前記スポーツ走行時であると判定されることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の車両の制御装置において、
車両のスポーツ走行モードを運転者が手動によって選択するための選択手段を備え、
前記選択手段がONである場合に、前記スポーツ走行時であると判定されることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の車両の制御装置において、
車両の走行場所がサーキットであるか否かを判別する手段を備え、
前記車両の走行場所がサーキットである場合に、前記スポーツ走行時であると判定されることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の車両の制御装置において、
前記スポーツ走行時であるか否かを運転者が手動によって設定することが可能な設定手段が設けられていることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項1】
内燃機関とこの内燃機関に連結される自動変速機とが搭載された車両において、内燃機関側から駆動系へ入力される駆動力がパワーON状態であるかパワーOFF状態であるかのパワーON・OFF判定を行うパワーON・OFF判定手段を備え、このパワーON・OFF判定手段による判定結果に基づいてそれぞれの状態に対応した変速制御を行うように構成された車両の制御装置であって、
車両がスポーツ走行時であるか否かを判定するスポーツ走行判定手段と、
前記パワーON・OFF判定手段によるパワーON・OFF判定を、スポーツ走行時と、スポーツ走行時ではない通常走行時とで変更する変更手段とを備えていることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御装置において、
前記パワーON・OFF判定のパワーOFFと判定される領域が、前記スポーツ走行時には通常走行時に比べ広く設定されていることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の制御装置において、
前記パワーOFFと判定される領域を広くする設定がダウンシフト時にだけ行われることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両の制御装置において、
前記パワーON・OFF判定のパワーONと判定される領域が、前記スポーツ走行時には通常走行時に比べ広く設定されていることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両の制御装置において、
前記パワーONと判定される領域を広くする設定がアップシフト時にだけ行われることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の車両の制御装置において、
車両の加減速度を求める手段を備え、
車両の加減速度が予め設定された閾値よりも大きい場合に、前記スポーツ走行時であると判定されることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の車両の制御装置において、
シフト装置のシフトレバーの操作位置を検知する手段を備え、
前記シフトレバーの操作位置が自動変速機の変速動作を運転者が手動によって行う際に選択される位置である場合に、前記スポーツ走行時であると判定されることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の車両の制御装置において、
車両のスポーツ走行モードを運転者が手動によって選択するための選択手段を備え、
前記選択手段がONである場合に、前記スポーツ走行時であると判定されることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の車両の制御装置において、
車両の走行場所がサーキットであるか否かを判別する手段を備え、
前記車両の走行場所がサーキットである場合に、前記スポーツ走行時であると判定されることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の車両の制御装置において、
前記スポーツ走行時であるか否かを運転者が手動によって設定することが可能な設定手段が設けられていることを特徴とする車両の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−52731(P2009−52731A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222919(P2007−222919)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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