説明

車両の制御装置

【課題】エンジン出力での走行中にドライバの加速要求に基づく目標駆動トルクが増加した場合、モータ走行時と同等の応答性を持ってドライバの要求する目標駆動トルクを実現できるハイブリッド車両のトルク制御装置を提供する。
【解決手段】 エンジン1で出力するエンジントルクTeを車両Mの駆動輪5を駆動する駆動トルクTvと発電機2、3を稼働する稼働トルクTgとに分配する車両の制御装置29において、ドライバの要求に基づく目標の駆動トルクTdを増加させる場合、エンジントルクTeをドライバの要求前のエンジントルクに維持しつつ稼動トルクTgの分配比率を減少させることを特徴とする車両の制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン及び電動機を動力源として走行するハイブリッド車両に適用され、車両の走行に際し、エンジンと電動機の加速応答性の相違による違和感を抑制するようにした車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されたエンジンと電動回転機を駆動力源とし、これら駆動力源からの動力を駆動力伝達系を介して車輪に伝達することで走行するハイブリッド車両が提案されている。
ハイブリッド車は走行条件の異なる複数の運転域に応じて、最適な駆動力源を予め設定した駆動力源設定用のマップ等を用いて選択し、同選択した駆動力源を用いて走行する。 たとえば、車速が所定の閾値を上回る運転域では、エンジンの機械出力を主体としたパラレルモード走行する。更に、設定車速を下回る運転域で、高負荷であると、電動回転機を駆動源(モータ)として走行すると同時にエンジンの機械出力で電動回転機(ジェネレータ)を発電駆動させるシリーズモード走行する。更に、設定車速を下回る運転域で、中低負荷であると、電動回転機(モータ)を駆動源としてEVモードで走行する。
【0003】
このハイブリッド車で用いる駆動力源設定用のマップは、バッテリの容量である充電レベル(SOC)が適正値を保持する場合と、それを下回る場合とで切換えられ、充電レベル(SOC)が所定量低下すると、モード切替用の閾値としての車速をより低く設定して、パラレルモード域を低速側に拡大してバッテリの充電促進を図るようにしている。即ち、走行時にバッテリの容量である充電レベル(SOC)が所定値を下回ると、電動回転機(ジェネレータ)が発電駆動モードに切換えられ、バッテリの充電レベル(SOC)の過度の低下を抑制している。
【0004】
ところで、ハイブリッド車が電動回転機を駆動源(モータ)として走行するシリーズモードやEVモードで運転中において、図7に示すように、定常運転状態より時点tsで加速操作されて目標駆動トルクが増加すると、モータ駆動トルクは比較的応答性よく立ち上がるが、エンジントルクTeは応答遅れが生じる。
【0005】
そこで、特許文献1では、加速操作時におけるエンジン側のトルク応答に要する遅れ時間が比較的大きいのを考慮して、そのエンジンの応答遅れ分だけ電動機に対するトルク要求(増加分のモータ駆動トルク)の指示を加速操作時に遅延させて駆動させるようにしたハイブリッド車両の制御装置が開示される。ここではエンジンと電動回転機の各要求トルクの発生タイミングが相違することによるギクシャク感が生じることを防止できる。
【0006】
更に、従来の車両では、図6に示すように、パラレル走行時の例えば時点tm1に目標の駆動トルクTDがTD1で走行中に時点tm2に達し、エンジントルクTE1より大きな目標駆動トルクTD2に加速変位するとする。この際、予め設定されているモータジェネレータの稼動トルクTG1を所定の減少率αnでゼロまで減少させることで、その減少分を駆動輪駆動トルクTVのトルク上昇に振り向けて、加速応答性に寄与することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−67737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の車両のトルク制御では、エンジンの応答遅れに見合うだけ電動機の要求トルクの発生タイミングを遅らせるので、エンジンと電動機の各要求トルクの増量分の発生タイミングがずれることによるギクシャク感を排除できるが、ハイブリッド車両の加速時の応答性が常に低くなり、ドライバビリティを向上させることはできない。
【0009】
一方、図6に示した車両のトルク制御では、この場合、駆動輪駆動トルクTVがジェネレータとエンジンの応答性の違いにより、エンジントルクTEが立ち上がる時点tmuの前にエンジントルクTEに達してしまう。このため、駆動輪駆動トルクTVの上昇が一旦停止し、フラット化された状態efが生じ、その後、エンジントルクTEと共に再度上昇するため、ギクシャク感が生じ、加速フィーリングの低下を招き、この点でドライバビリティが低下するという問題がある。
【0010】
本発明は、以上のような課題に基づきなされたもので、目的とするところは、走行中の加速時に稼働トルクの分配量を減少させることで、駆動トルクの上昇を早めて、ドライバビリティの悪化を抑制でき、特に、目標駆動トルクがエンジントルクより大きくなる加速時のエンジントルクの低応答性による加速フィーリングの低下を抑制できる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の請求項1は、エンジンで出力するエンジントルクを車両の駆動輪を駆動する駆動トルクと発電機を稼働する稼働トルクとに分配する車両の制御装置において、ドライバの加速要求に基づいて前記駆動トルクがエンジントルクより大きくなる場合は、前記目標の駆動トルクが前記エンジントルクより大きくなる増加分のトルクを補うよう前記エンジントルクが出力増されると共に、該エンジントルクが増加変位するのに伴って前記稼働トルクの分配量の減少率を変更させることを特徴とする。
【0012】
この発明の請求項2は、請求項1に記載の車両の制御装置において、前記稼働トルクの分配量の減少率は、大から小となるように減少変更されることを特徴とする。
【0013】
この発明の請求項3は、請求項1又は2に記載の車両の制御装置において、前記目標の駆動トルクが前記エンジントルクより大きくなる増加分のトルクを補うよう前記エンジントルクが出力増される場合、前記エンジントルクは増加率が変わる変曲点を有し、該変曲点に対応する点で前記稼働トルクの減少率を大から小へ変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本願請求項1の発明によれば、走行中の加速時に稼働トルクの分配量の減少率を減少変更させ、その分駆動輪駆動トルクの上昇を早め、加速時のエンジントルクの低応答性による加速フィーリングの低下を抑制でき、しかも、目標の駆動トルクがエンジントルクより大きく切換えられた場合であっても、駆動輪駆動トルクの目標駆動トルクへの収束変位を早め、ドライバビリティの悪化を抑制できる。
【0015】
本願請求項2の発明によれば、駆動輪駆動トルクの目標駆動トルクへの収束変位時における稼動トルクの減少率を大から小となるように減少変更するので、駆動輪の駆動トルクの上昇変位時の加速フィーリングの低下を排除し、その上で、駆動輪駆動トルクの目標駆動トルクへの収束変位時における稼動トルクの減少率の変化を抑制して、駆動輪駆動トルクの上昇変位を修正して、好適にドライバビリティの悪化を抑制できる。
【0016】
本願請求項3の発明によれば、エンジントルクの増加率が変わる変曲点を求め、その変曲点と対応する時点で、稼働トルクの減少率の変化を抑制するので、駆動輪の駆動トルクの上昇変位時の加速フィーリングの低下を排除し、変曲点通過後には、稼動トルクの減少率の変化を抑制して、駆動輪駆動トルクの上昇変位を修正して、好適にドライバビリティの悪化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態としての車両の制御装置の全体図である。
【図2】図1の車両の制御装置の走行時の目標駆動トルク、駆動輪駆動トルク、電動回転機(モータ)の稼動トルク、エンジントルクの特性説明線図で、(a)は高加速時、(b)は低加速時を示す。
【図3】図1の車両の制御装置の走行時の目標駆動トルク、駆動輪駆動トルク、電動回転機(モータ)の稼動トルク、エンジントルクの各演算手段及び切換え時期算出手段を説明するブロック図を(a)に示し、(b)には(a)中の切換え時期算出手段に代えて第2実施形態で用いる切換え時期算出手段のみを抜き出して示した。
【図4】図1の車両の制御装置で使用するマップで、(a)は切換え時間設定マップの特性説明図、(b)は稼動トルク設定マップの特性説明図である。
【図5】図1の車両の制御装置が行なう走行制御ルーチンのフローチャートである。
【図6】従来の車両が加速操作された時点で稼動トルクを低減処理した場合の、駆動輪駆動トルク、エンジントルクの変化特性を説明する線図である。
【図7】従来の加速時におけるエンジントルクとモータトルクの相違を説明する線図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の第1の実施形態である車両の制御装置について説明する。
図1にはこの発明の一実施形態としての車両の制御装置が適用されたハイブリッド車両(以後単に車両と記す)の概略を示した。
車両MはFF(フロントエンジン−フロントドライブ:エンジン前置き前輪駆動)形式の駆動装置(パワートレイン)とその制御系統を有する。車両Mの動力源で用いる内燃機関としては、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジン、メタノールエンジンまたは水素エンジンなどを用いることができ、以下、エンジン1と記す。
【0019】
車両Mの動力源はエンジン1および第1、第2電動回転機2、3から成り、それら動力源からの駆動力を駆動力伝達系に、即ち、トランスアクスル4を介して車輪5側の駆動軸10に分離可能に伝達する。
エンジン1のクランクシャフト6には、フライホイール7が形成されている。フライホイール7にはダンパ機構8が配置され、これには同心的に配備の出力軸であるインプットシャフト11の端部がスプライン結合される。
また、インプットシャフト11の外側には、第1電動回転機である第1モータジェネレータ(MG1)2および第2電動回転機である第2モータジェネレータ(MG2)3が設けられている。
【0020】
第1モータジェネレータ2および第2モータジェネレータ3は、電力の供給により駆動する電動機としての機能(力行機能)と、機械エネルギを電気エネルギに変換する発電機としての機能(回生機能)とを兼ね備えている。
このような第1モータジェネレータ2および第2モータジェネレータ3には後述の電力制御手段31、32を介して電力を供給する蓄電装置が連結されている。なお、この蓄電装置としてはバッテリまたはキャパシタを用いることができるが、以後、ここではバッテリ30と記す。
インプットシャフト11の外側であって、第1モータジェネレータ2と第2モータジェネレータ3との間にトランスアクスル(動力分配機構)4が設けられる。このトランスアクスル4は、いわゆるシングルピニオン形式の遊星歯車機構を要部に備える。
【0021】
このトランスアクスル4の遊星歯車機構は、サンギヤ14と、サンギヤ14と同心状に配置されたリングギヤ15と、サンギヤ14およびリングギヤ15に噛合するピニオンギヤ16と、これを保持したキャリア17とを有している。更に、サンギヤ14とギヤ列18を介して第1モータジェネレータ2のロータ軸19とが一体回転するように連結される。更に、キャリア17とインプットシャフト11とが一体回転されるように連結され、リングギヤ15を支持する環状部材21と第2モータジェネレータ3のロータ軸22とが同軸的に連結される。
【0022】
更に、第1モータジェネレータ2のロータ23はロータ軸19と一体結合され、第2モータジェネレータ3のロータ24がロータ軸22に一体結合される。
ここで、第1モータジェネレータ2が発電機(ジェネレータ)として機能する状態においては、キャリア17から入力されるエンジン1からの動力が、サンギヤ14側とリングギヤ15側に、そのギヤ比に応じて分配される。
一方、第1モータジェネレータ2が、電動機(スタートしても機能できる)として機能するときには、キャリア17から入力されるエンジン1からの動力と、サンギヤ14から入力される第1モータジェネレータ2からの動力を統合して、リングギヤ15より車輪5側に出力できる。
【0023】
次に、第2モータジェネレータ3は、リングギヤ15にロータ軸22を介して結合されていることから、モータ(電動機)として機能するときには、その動力を車輪5に伝達でき、一方、発電機として機能(回生発電)するときには、リングギヤ15に車輪側より入力される回転力(動力)で発電可能である。
このようなトランスアクスル4内の遊星歯車機構の構成に基づいて、第1モータジェネレータ2および第2モータジェネレータ3は共に発電機(ジェネレータ)として駆動することができるとともに、電動機(モータ)として駆動できる周知の同期発電電動機を構成しており、電力制御手段31、32を介してバッテリ30と電力のやり取りを行なう。
なお、第1、第2電力制御手段31、32は後述のエンジン制御装置33と共に車両Mの制御ユニットをなす車両制御装置(HEV−ECU)29内に収容され、相互に信号の授受を行なうよう構成されている。
【0024】
ここで、車両制御装置(HEV−ECU)29内に配備されるシステムコントローラ34には運転情報である、エンジン回転信号Ne、アクセル開度θa、スロットル開度θs、車速Vc(変速機出力回転数に同期した値)、充電レベル信号SOC(バッテリ状態)、第1モータジェネレータMG1の入出力軸19の回転数Nmg1、第2モータジェネレータMG2の入出力軸22の回転数Nmg2、などが入力される。これら入力情報に応じてシステムコントローラ34は、スロットル開度センサの信号θs、外気温センサの信号Tair、蓄電装置の充電量センサの充電レベル(SOC)の信号SOCより、発電トルク指令値およびモータトルク指令値などを演算する。そして、この演算結果に基づき、両モータジェネレータ第1、第2モータジェネレータ2,3(MG1,MG2)やエンジン1に対する指令値を、各コントローラ35,33へと送信する。
【0025】
ここで、第1、第2電力制御手段31、32は、バッテリ30からの直流電圧を交流電圧に変換して第1、第2モータジェネレータ2,3側へ出力する。更に、第1、第2モータジェネレータ2、3の回生動作によって発電された交流電圧を直流電圧に変換してバッテリ30を充電するインバータ311,321としての機能を備える。
しかも、第1、第2電力制御手段31、32は、インバータ311,321からの直流電圧を降圧してバッテリ30を充電する。更に、バッテリ30から受ける直流電圧を昇圧して第1、第2モータジェネレータ2,3側に出力するコンバータ312,322としての機能を備える。これら第1、第2電力制御手段31、32の制御部(モータコントローラ)35は入力されたモータトルク指令値Tr1,Tr2、モータジェネレータ2、3の各電流値、および不図示の各相コイル電圧を演算し、その演算結果に基づくPWM(Pulse Width Modulation)信号を生成してインバータ311,321を制御する。
【0026】
さらに、制御部(モータコントローラ)35は入力されたモータトルク指令値Tr1,Tr2およびモータ回転数に基づいてインバータ311,321の入力電圧を最適にするためのPWM信号を生成してコンバータ312,322を制御する機能を備える。
なお、バッテリ30はバッテリコントローラ36を介してシステムコントローラ34に接続され、これによりバッテリ30の充電状態(バッテリ充放電量SOC)を管理し、その情報をシステムコントローラ34へ送信する。
【0027】
次に、車両制御装置29内に配備され、システムコントローラ34と相互に信号の授受を行なうエンジン制御装置33について説明する。
エンジン制御装置33は演算処理装置(CPUまたはMPU)および記憶装置(RAMおよびROM)ならびに入出力インターフェイスを主体とするマイクロコンピュータにより構成されている。このエンジン制御装置33はエンジン1の目標駆動トルクを演算すると共に該目標駆動トルクを達成するようにエンジントルク制御を行ない、該目標駆動トルクの信号をシステムコントローラ34に出力する。
【0028】
システムコントローラ34は第1、第2電力制御手段31、32の制御部(モータコントローラ)35と協働して、目標駆動トルク及びアクセル開度、車速に応じた稼動トルクTgを演算し、稼動トルクTgに応じたトルク指令値Tr1,Tr2を演算し、そのトルク指令値Tr1,Tr2を実現するような交流電圧を第1、第2電力制御手段31、32を介して第1モータジェネレータ2および第2モータジェネレータ3に供給する。なお、図1中には、これらの信号の一部として、第1モータジェネレータ2のトルク指令値Tr1および第2モータジェネレータ3のトルク指令値Tr2を例示している。
【0029】
このように構成された車両Mにおいては、車両制御装置29内のシステムコントローラ34に入力される各信号および記憶されているデータに基づいて、エンジン制御装置33を介してエンジン1を制御し、制御部(モータコントローラ)35を介して第1モータジェネレータ2、第2モータジェネレータ3を制御する。
たとえば、車両Mが停止している状態からエンジン1を始動する場合は、第1モータジェネレータ2を電動機として駆動させる。すると、トランスアクスル4内のリングギヤ15が反力要素となり、第1モータジェネレータ2のトルクが、キャリア17、インプットシャフト11を経由してエンジン1に伝達されて、エンジン1がクランキングされる。
【0030】
このようにしてエンジン1をクランキングするとともに、エンジン制御装置33の駆動制御によりエンジン1での燃料の燃焼が行なわれて、エンジン1が自律回転可能となる。するとエンジン1のトルクがインプットシャフト11、キャリア17、リングギヤ15を経由して出力ギヤ列25に伝達され、更に、デファレンシャル6を経由して車輪5に伝達されて駆動力が発生する。
また、エンジン1の動力を用い、第1、第2電力制御手段31、32の制御処理によって、第1、第2モータジェネレータ2,3で発電を行ない、発生した電力を第1、第2電力制御手段31、32で処理してバッテリ30に充電することもできる。
【0031】
さらに、第2モータジェネレータ3を電動機として駆動し、そのトルクをトランスアクスル4内のリングギヤ15を経由させて車輪5へ伝達することができる。
このように、図1に示す車両Mは、エンジン1または第1、第2モータジェネレータ2、3のうちの少なくとも一方を駆動力源として用い、それらのトルクをトランスアクスル4によって、車輪5に伝達する。
更に、車両Mの惰力走行時には、車両の走行エネルギをトランスアクスル4を経由させて第1、第2モータジェネレータ2、3に発電トルク(回生トルク)として伝達することで、この第1、第2モータジェネレータ3を発電機として機能させ、発生した電力を第1、第2電力制御手段31、32で処理してバッテリ30に充電することも可能である。
【0032】
なお、第1、第2モータジェネレータ2、3を電動機として駆動させる場合に、第1、第2モータジェネレータ2、3の出力トルクを正方向のトルクと呼ぶ。これに対して、第1、第2モータジェネレータ2、3を発電機として機能させる場合に、第1、第2モータジェネレータ2、3の発電トルク(回生トルク)を負方向のトルクと呼ぶ。
ところで、従来のハイブリッド車両では、機械出力を主体としたパラレルモードで走行中に加速操作された場合、モータ主体の走行をするシリーズモードやEVモードでの走行中に比べて加速応答性が低く、加速フィーリングが低い。しかも、従来例として図6で説明したように、駆動輪駆動トルクTvがジェネレータとエンジンの応答性の違いにより、エンジントルクTeが立ち上がる時点tmuの前にエンジントルクTeに達し、駆動輪駆動トルクTvの上昇が一旦停止し、フラット化された状態が生じ、エンジントルクTeにギクシャク感が生じ、加速フィーリングの低下を招き、この点でドライバビリティが低下することとなる。
【0033】
そこで、このようなパラレルモード中の加速フィーリングの低下を抑制するような構成を本第1実施形態は採用している。
【0034】
まず、車両Mのシステムコントローラ34が行なうトルク演算機能を図3のブロック図に沿って説明する。
システムコントローラ34は目標駆動トルク算出手段A1と、稼動トルク算出手段A2と、エンジントルク算出手段A3と、切換え時期算出手段A5と、駆動輪駆動トルク算出手段A4と、を備える。
ここで、目標駆動トルク算出手段A1は現アクセル開度θaとエンジン回転数Neと車速Vcとより運転者の要求トルク、即ち、目標の駆動輪駆動トルクである目標駆動トルクTd(図2(a)ではTd1と記す)を算出する。
【0035】
エンジントルク算出手段A3は停車、走行状態を考慮し、エンジン1の回転数Ne、スロットル開度θsを用い、エンジントルクTeを算出する。特に、ドライバの加速要求(アクセル変化率θa/dt増)に基づいて目標駆動トルクTd(図2(a)ではTd1と記す)がエンジントルクTeより大きくなる場合は、目標駆動トルクTdがエンジントルクTeより大きくなる増加分のトルクdTzを求め、増加分トルクdTzを満たすエンジントルクTeの出力増を図るべくエンジン制御装置33を介してエンジン1を制御する。 稼動トルク算出手段A2は稼動トルク設定マップm2(図4(b)参照)を用い、現アクセル開度θaとエンジン回転数Neに応じたジェネレータトルクである稼動トルクTgを算出する。特に、エンジントルクTeが増加変位する際にはこれに伴って稼働トルクTgの分配量(エンジントルク)の減少率を変更させるよう処理される。
【0036】
切換え時期算出手段A5は、目標駆動トルクTdがエンジントルクTeより大きくなる、即ち、(図2(a)ではTd2と記すレベルに増加した際のその増加分のトルクdTzを読み取る。
更に、その増加分トルクdTzを含む目標駆動トルクTd2に駆動輪駆動トルクTvが達する収束時間tpf、及び稼動トルクTgの前期E1、後期E2の切換え時期tc(=tp4)を、予め設定される切換え時期設定マップm1(図4(a)参照)により、増加分トルクdTzに応じた値として算出する。
【0037】
この切換え時期設定マップm1での切換え時期tc(=tp4)の設定に当たっては、エンジントルクTeの立ち上がり時点tp3より前に駆動輪駆動トルクTvがエンジントルクTeに達することがないよう加速応答前期E1の減少率α1(=dTg1/dt)が設定され、更に、切換え点tc以後の後期E2における稼動トルクTgの減少率α2(=dTg2/dt)は減少率α1より小さく、緩やかな減少となるよう、収束時間dtfを考慮し、その収束時間dtfに稼動トルクTgがゼロに達するように設定される
駆動輪駆動トルク算出手段A4は入力された現在のエンジントルクTeと稼動トルクTgと目標駆動トルクTdとに応じて駆動輪駆動トルクTvを算出する。ここでは稼動トルクTgが加速応答前期E1の減少率α1(=dTg1/dt)に制御されることで加速応答性を改善し、切換え点tc以後の後期E2には減少率α1より小さな減少率α2(=dTg2/dt)に制御され、緩やかで違和感を生じない減少となるよう、収束時間dtfを考慮し、その収束時間dtfに稼動トルクTgがゼロに達するようにエンジントルクTeが修正される。この制御はそのデータが駆動輪駆動トルク算出手段A4と稼動トルク算出手段A2とエンジントルク算出手段A3との間でフィードバックされつつ行なわれる。
【0038】
更に、具体的に説明すると、この際、加速応答前期E1に達する前において、稼動トルクTgの減少率α1は予め設定された値であるdTg1/dt(負の値)で減少する。この減少分を振り分けられた駆動輪駆動トルクTvが稼動トルクTgの減少量(絶対値)に応じて増加変位し、エンジントルクTeが立上がり時点tp3に達し、立上がり後は、エンジントルクTeと稼動トルクTgの減少量(絶対値)を加算した量に対応して駆動輪駆動トルクTvが増加変位する。
切換え時点tp4(=tc)を通過し、加速応答後期E2に入ると、稼動トルクTgの減少率α2は予め設定された負の値である(−dTg2/dt)(<−dTg1/dt)}で減少する。即ち、減少率は緩和され、絶対値で減少率は小さく、緩やかとなり、これにより収束時間tpfに稼動トルクTgがゼロに達するように設定される。
【0039】
ここで、加速応答前期E1には稼動トルクTgが比較的大きな減少率α1(=−dTg1/dt)で減少し、駆動輪駆動トルクTvを比較的大きく増加変位させて応答性確保に寄与した。この際、減少率α1(=−dTg1/dt)は過度に大きくはなく、エンジントルクTeの立上がり時点teu前にそのエンジントルクTeのフラット状態部分(図2の符号ef部分)に駆動輪駆動トルクTvが重なるのを阻止し、加速時の駆動輪駆動トルクTvのギクシャク感を排除し、違和感が生じることを防止した。
更に、加速応答後期E2に稼動トルクTgの減少率α2を低減し、絶対値で減少率は小さく、緩やかに設定されるので、駆動輪駆動トルクTvに占める稼動トルクTgの減少量が緩やかにゼロとなり、エンジントルクTeのみとなり、この点でも加速時の駆動輪駆動トルクTvのギクシャク感を排除し、違和感が生じることを防止できる。
【0040】
次に、車両Mのシステムコントローラ34で行なう走行制御について図5に沿って説明する。
エンジン駆動時にシステムコントローラ34はエンジン制御装置33を介して不図示のメインルーチンに沿ってエンジン駆動制御を行ない、その間に、加速指令のない状態、例えば、アクセル開度がゼロで、時点tn1(図2(b)参照)にあると判断するとステップs1よりs2に進む。
ここでは、図2(b)に示すように、例えば、アクセル開度がゼロで、時点tn1にあるとすると、目標の駆動輪駆動トルクである目標駆動トルクTd及び実際の駆動輪駆動トルクTvがゼロでは運転情報θa,Naに応じた稼動トルクTgを設定する。なお、アクセル開度θaとエンジン回転数Neを変数とし、両値が大きいほど大きな稼動トルクTgを設定する稼動トルク設定マップm2(図4(b)参照)を用いても良い。
【0041】
その上で、稼動トルクTgが制御部35により第1電力制御手段31を介して第1モータジェネレータ2を発電駆動する。ここでは停車状態であり、エンジントルクTeが稼動トルクTg1として消費され、稼動トルクTg1相当のトルク指令値Tr1で第1モータジェネレータ2が駆動し、目標駆動トルクTd0はゼロである。
次いで、アクセル開度が切り換り、時点tn2で目標の駆動トルクTdsがゼロより所定量高くなり、発進、加速域に達するとする。この場合、ステップs1より、s3に達し、目標の駆動トルクTdsがエンジントルクTeを上回るか判断し、上回ることがないとステップs4に進む。
【0042】
ステップs4では、エンジントルクTeがエンジン1の制御信号の伝達遅れ、機械的応答遅れの影響でゼロ位置よりより徐々に高まり、同時に駆動輪駆動トルクTvがゼロより目標駆動トルクTdsに向かう。
この際、駆動輪駆動トルクTvは遅れ時間dt1の後の時点tpfに目標の駆動トルクTd0に収束し、この時点tnfの状態でエンジントルクTe、駆動輪駆動トルクTvの出力が維持され、第1モータジェネレータ2が稼動トルクTgのまま発電駆動を継続し走行する。これにより低加速時のエコノミー走行を可能とする。
なお、減速時には、図2(b)に2点鎖線で示すように、目標駆動トルクTd及びエンジントルクTeが速やかに低下してTd0,Te1に進む。更に、第2モータジェネレータ3の回生駆動による発電作動が加わり、第1モータジェネレータ2の発電作動は減速中edのみ増加する。
【0043】
次いで、所定時点で、再度、ステップs3に達し、そこで高加速に切り換わる場合に達する場合を図2(a)に沿って説明する。
図2(a)中の時点tp1では、依然として、ステップs3からステップs4を繰り返している。この場合、エンジントルクTeが一定値(アクセル開度が所定値を上回る)にあり、更に、目標駆動トルクTd1と実際の駆動輪駆動トルクTvaが同値である。ここでは一定値のエンジントルクTeの出力値より駆動輪駆動トルクTva(=Td)を減算した値がその時点での稼動トルクTgとなり、その時点での稼動トルクTg(=Tg1)相当のトルク指令値Tr1(図1、図3(a)参照)で第1モータジェネレータ2が駆動され、駆動輪駆動トルクTvaでの走行と同時に発電がなされる。
【0044】
この後、アクセル開度θaが切り換り、目標駆動トルクTdが駆動輪駆動トルクTvaより時点tp2で所定量δTd(図2(a)参照)高くなり、加速域に達するとステップs3からs5に達する。
ステップs5では、加速応答前期処理を行う。ここでは上昇分駆動トルクδTdを含む目標駆動トルクTd2が算出される。更に、稼動トルクTg1の駆動輪駆動トルクTvに対する分配比率の減少により発電抑制を図り、その減少駆動トルクdTd相当分を駆動輪駆動トルクTvの上昇分に振り分ける。
【0045】
このように稼動トルクTg1が加速応答前期E1において負の値である減少率α1(=dTg1/dt)で抑制制御され、この発電抑制により増加した駆動輪駆動トルクTvで加速応答性を改善する。
次いでステップs6で切換え時期tp4(=tc)に達するのを待ち、達するとステップs7に進む。
ステップs7では、切換え点tc以後の後期E2と判断し、加速フィーリング向上後期処理に進む。ここでは稼動トルクTg1の駆動輪駆動トルクTvに対する分配比率を、負の値である減少率α1より小さな減少率α2(=dTg2/dt)に制御する。更に、収束時間tpfを考慮し、その収束時間tpfに稼動トルクTgがゼロに達するように制御され、これにより、緩やかで違和感を生じないエンジントルクTe主体の走行に切換えられる。
【0046】
次いでステップs8で収束時期tpfに達するのを待ち、達するとステップs9に進む。
ステップs9では、収束時期tpf以後の減速時を判断し、減速と判断する前はパワーモードでの走行が継続され、減速と判断するとステップs10に進む。
ステップs10では減速処理に時点tprで入り、ここでは目標駆動トルクTdが破線で示すように降下し、次いで目標駆動トルクTdにエンジントルクTeが収束し、其の時点tpr1でのアクセル開度θaと、エンジン回転数Neとに応じた稼動トルクTgrを稼動トルク設定マップm2より求め、同値に稼動トルクを切換える。この場合、稼動トルクTgrが第1モータジェネレータ2のトルク指令値Tr1にのみ分配され、発電駆動しても良く、あるいは、稼動トルクTgrを所定比率で分配して第1モータジェネレータ2に発電駆動させ、他の分配分で第2モータジェネレータ3を走行トルク出力用に用いても良い。
【0047】
このように、図1の車両の制御装置によれば、走行中に加速指示があると、稼動トルクTgの分配比率の減少を図り、その分駆動輪駆動トルクTvの上昇を早め、加速時のエンジントルクの低応答性による加速フィーリングの低下を抑制できる。特に、目標駆動トルクTdがエンジントルクTeより大きく切換えられた場合であっても、駆動輪駆動トルクTvの目標駆動トルクTdへの収束変位を早め、ドライバビリティの悪化を抑制できる。
【0048】
更に、駆動輪駆動トルクTvの目標駆動トルクTdへの収束変位時における稼動トルクの減少率α1、α2を大から小となるように減少変更するので、駆動輪の駆動トルクTvの上昇変位時の加速フィーリングの低下を排除した上で、目標駆動トルクTdへの収束変位時における稼動トルクTgの減少率α1の変化を抑制して、駆動輪駆動トルクTvの前期E1の上昇変位を修正して、好適にドライバビリティの悪化を抑制できる。
【0049】
上述のところで、駆動輪駆動トルク算出手段A4は、駆動輪駆動トルクTvを目標駆動トルクTdへ収束変位する際に、加速応答前期E1の稼動トルクTgの減少率α1より、加速応答後期E2の減少率α2を大から小に変更し、その切換え時期tc(=tp4)を切換え時期算出手段A5により、切換え時期設定マップm1を用いて算出していた。
これに代えて、次の、第2実施形態としての車両の制御装置のように切換え時期tcを設定しても良い。なお、この第2実施形態としての車両の制御装置は切換え時期tcの設定処理以外は第1実施形態と同様の構成を採るため、重複説明は略し、図2を兼用する。 ここでは、切換え時期算出手段A5’(図3(b)参照)がエンジントルクTeの増加率β(=dTe/dt)を算出し、この増加率βが変わる、即ち、1より大の状態より小に変わる変曲点P1(図2(a)中の●印参照)を算出する。
【0050】
次いで、切換え時期算出手段A5は、目標駆動トルクTdがエンジントルクTeより大きくなる増加分のトルクdTzを求める。
更に、その増加分トルクdTzを含む目標駆動トルクTd2に駆動輪駆動トルクTvが達する収束時間tpfを予め設定される切換え時期設定マップm1(図4参照)により、増加分トルクdTzに応じた値として算出する。
【0051】
特に、ここでは前期E1、後期E2の切換え時間tp4’(=dtc)を変曲点P1の発生時期に一致させる(図2(a)参照)。そして稼動トルク算出手段A2はこの変曲点P1に対応する切換え時間tp4’の前の前期E1の減少率α1(=dTg1/dt)を比較的大きく設定し、切換え時間tp4’(=dtc)以後の後期E2の減少率α2(=dTg2/dt)を比較的小さくする。これにより、駆動輪駆動トルクTvは前期E1には加速応答性よく上昇し、後期E2には、緩やかで違和感を生じない減少となるよう制御される。
【0052】
このように第2実施形態としての車両の制御装置は、エンジントルクTeの増加率が変わる変曲点P1を求め、その変曲点P1と対応する時点tp4’(=tc)で、稼働トルクTgの減少率α1を、より小さな減少率α2へと緩やかな変化に抑制するので、駆動輪駆動トルクTvの上昇変位時の加速フィーリングの低下を排除し、変曲点通過後には、稼動トルクの減少率の変化を抑制して、駆動輪駆動トルクの上昇変位を修正して、好適にドライバビリティの悪化を抑制できる。
【符号の説明】
【0053】
1 エンジン
2,3 第1、第2モータジェネレータ(電動回転機)
29 車両制御装置
30 バッテリ
33 エンジン制御装置
34 システムコントローラ
35 制御部(モータコントローラ)
Td 目標駆動トルク(目標の駆動輪駆動トルク)
Te エンジントルク
Tg 稼動トルク
Tv 駆動輪駆動トルク(駆動輪の駆動トルク)
Tr1,Tr2 モータトルク指令値
dTd 変動トルク
M 車両
m1 切換え時期設定マップ
m2 稼動トルク設定マップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンで出力するエンジントルクを車両の駆動輪を駆動する駆動トルクと発電機を稼働する稼働トルクとに分配する車両の制御装置において、
ドライバの加速要求に基づいて前記駆動トルクがエンジントルクより大きくなる場合は、前記目標の駆動トルクが前記エンジントルクより大きくなる増加分のトルクを補うよう前記エンジントルクが出力増されると共に、該エンジントルクが増加変位するのに伴って前記稼働トルクの分配量の減少率を変更させることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記稼働トルクの分配量の減少率は、大から小となるように減少変更されることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記目標の駆動トルクが前記エンジントルクより大きくなる増加分のトルクを補うよう前記エンジントルクが出力増される場合、前記エンジントルクは増加率が変わる変曲点を有し、該変曲点に対応する点で前記稼働トルクの減少率を大から小へ減少変更することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−91357(P2013−91357A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233260(P2011−233260)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】