説明

車両の前部構造

【課題】この発明は、車両の前面部に作用する外力で電動ファンが車両後方へ移動した場合、補機や排気装置との衝突による衝撃の吸収性を高めて電動ファンの損傷を防止し、車両の修理費用を低減することを目的とする。
【解決手段】この発明は、車両の前面部に車両後方への外力が作用した場合、ラジエータと電動ファンとを車両後方へ移動させるようにした車両の前部構造において、排気マニホールドと触媒コンバータとを一体の遮熱カバーで覆い、車両を前方から見た場合、遮熱カバーを電動ファンが存在する円形状の領域の半分以上の部分と車両前後方向で重なる形状に形成し、遮熱カバーをその上縁部と下縁部との各近傍で夫々排気マニホールドと触媒コンバータとに固定したこと特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車両の前部構造に係り、特に、車両の前面部に車両後方への外力が作用した場合に、ラジエータと電動ファンとを車両後方へ移動させるようにした車両の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、前部に配設したラジエータの車両後側の側面に電動ファンを配設し、電動ファンの後方にクランク軸を車両幅方向に向けたエンジンを搭載したものがある。一方、車両には、正面からの衝撃を受けて、前面部に車両後方への外力が作用した場合、車両の前部を潰して衝撃を吸収すると同時にラジエータや電動ファンを車両後方へ動かして、損傷を防止する前部構造としたものがある。
【0003】
このような車両の前部構造には、エンジンの前面側に配設される補機の間に空間部を形成し、空間部の前方にファン用の電気モータを配設することによって、前面部に車両後方への外力が作用して電気モータが後退した際に空間部に進入させ、補機との干渉を防止したものがある。
【特許文献1】特開2001−233066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、補機に加え、排気マニホールドや触媒コンバータを備えた排気装置をエンジンの前面に配設した場合には、前記特許文献1に開示されるような空間部を確保することが困難であり、電動ファンが補機や排気装置と衝突して損傷するおそれがあった。
【0005】
この発明は、車両の前面部に作用する外力で電動ファンが車両後方へ移動した場合、補機や排気装置との衝突による衝撃の吸収性を高めて電動ファンの損傷を防止し、車両の修理費用を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、車両の前部にラジエータを冷却する電動ファンを配設し、前記電動ファンの後方にクランク軸を車両幅方向に向けたエンジンを搭載し、前記エンジンの前面上部に排気マニホールドを取り付けるとともに排気マニホールドの下方に触媒コンバータを配設し、前記車両の前面部に車両後方への外力が作用した場合、前記ラジエータと電動ファンとを車両後方へ移動させるようにした車両の前部構造において、前記排気マニホールドと触媒コンバータとを一体の遮熱カバーで覆い、前記車両を前方から見た場合、前記遮熱カバーを電動ファンが存在する円形状の領域の半分以上の部分と車両前後方向で重なる形状に形成し、前記遮熱カバーをその上縁部と下縁部との各近傍で夫々前記排気マニホールドと触媒コンバータとに固定したこと特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明の車両の前部構造は、車両の前面部に作用する外力で電動ファンが車両後方へ移動した場合、排気マニホルド及び触媒コンバータからなる排気装置に対して隙間を隔てて前方に配設される電動ファンを、排気マニホルド及び触媒コンバータを覆う薄板で形成されている遮熱カバーと広範囲で接触させることができ、遮熱カバーを変形させて電動ファンに加わる衝撃を吸収することができる。
また、この発明の車両の前部構造は、遮熱カバーの排気マニホールド及び触媒コンバータに対する上下方向の取付間隔を広げることで、遮熱カバーの中央部を衝撃力に対してより変形し易い構造とすることができ、排気マニホールドや触媒コンバータとの衝突による衝撃の吸収性を高めて電動ファンの損傷を防止することができ、車両の修理費用を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下図面に基づいて、この発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0009】
図1〜図4は、この発明の実施例を示すものである。図1は車両のエンジンルームの右側面図、図2は車両のエンジンルームの正面図、図3は遮熱カバーを透視した車両のエンジンルームの拡大正面図、図4はエンジンの遮熱カバー部分の拡大斜視図である。
図1・図2において、1は車両、2はバンパ、3はエンジンフード、4はダッシュパネル、5はエンジンルームである。車両1は、前部に、バンパ2とサイドパネルとエンジンフード3とダッシュパネル4とで囲まれるエンジンルーム5を設けている。エンジンルーム5には、前部のバンパ2後側に車両幅方向に延びるバンパメンバ6を配設し、バンパメンバ6の後側下方に車両幅方向に延びるサブフレーム7を配設し、サブフレーム7の車両幅方向両端から車両後方に延びる左右のサイドフレーム8を配設している。
前記車両1は、エンジンルーム5の前部にラジエータ9を配設している。ラジエータ9の車両前後方向後側には、ファンシュラウド10が取り付けられ、ファンシュラウド10内にラジエータ9を冷却する2つの電動ファン11・12を車両幅方向に並列に配設している。2つの電動ファン11・12は、径方向中央部に後側へ突出するファンモータ部13・14を備えている。ファンモータ部13・14は、ファンシュラウド10に若干後方に突出するように取り付けられ、電動ファン11・12を夫々駆動する。
前記エンジンルーム5には、右側の電動ファン11の後方にクランク軸15を車両幅方向に向けたエンジン16を搭載している。エンジン16の車両幅方向左側には、変速機17を連結している。変速機17は、左側の電動ファン12の後方に搭載している。
【0010】
前記エンジン16は、図1・図2に示すように、複数の気筒を有するシリンダブロック18の上部にシリンダヘッド19を取り付け、シリンダヘッド19の上部にシリンダヘッドカバー20を取り付け、シリンダブロック18の下部にロアケース21を取り付けて前記クランク軸15を軸支し、ロアケース21の下部にオイルパン22を取り付けている。エンジン16の車両幅方向右側には、シリンダブロック17とシリンダヘッド18とロアケース20とにまたがってチェーンカバー23を取り付けている。エンジン16は、前面を前側エンジンマウント24により前記サブフレーム7に支持している。
前記エンジン16は、後面に吸気装置25を配設している。吸気装置25は、エンジン16の後面上部であるシリンダヘッド19の後面に、各気筒に吸気を供給する吸気マニホールド26を取り付けている。吸気マニホールド26には、スロットルボディや吸気管などを接続している。
また、前記エンジン16は、前面に排気装置27を配設している。排気装置27は、図3に示すように、エンジン16の前面上部であるシリンダヘッド19の前面に、排気マニホールド28を取り付けている。排気マニホールド28は、シリンダヘッド19の前面に取り付けられる取付フランジ29と、取付フランジ29に上流端を接続した4本の分岐管30と、これら分岐管30の下流端を集めて接続した1本の集合管31とからなる。排気マニホールド28は、集合管31の下部に触媒コンバータ32を接続することで、排気マニホールド28の下方に触媒コンバータ32を配設している。触媒コンバータ32には、後方に排気を導く排気管33を接続している。
この車両1は、図1に示すように、排気マニホルド28及び触媒コンバータ32からなる排気装置27に対して隙間Sを隔てて前方に電動ファン11を配設しており、前面部のバンパ2に車両後方への外力Fが作用した場合、車両の前部のバンパ2及びバンパメンバ6の後方の衝撃吸収部(図示せず)を潰して衝撃を吸収すると同時に、ラジエータ9と電動ファン11・12とを車両後方へ移動させるようにした前部構造となっている。
【0011】
この車両1の前部構造は、排気マニホールド28と触媒コンバータ32とを、一体の遮熱カバー34で覆っている。遮熱カバー34は、図2に示すように、車両1を前方から見た場合、右側の電動ファン11が存在する円形状の領域Aの半分以上の部分と車両前後方向で重なる形状に、薄板で形成している。この遮熱カバー34の形状は、排気マニホールド28と触媒コンバータ32とを覆うように、上部のクランク軸線方向に延びる横長部分35と下部の上下方向に延びる縦長部分36とによって、略T字形状ないしY字形状に形成されている。
これにより、この車両1の前部構造は、図1に示すように、車両1の前面部に作用する外力Fで電動ファン11が車両後方の二点鎖線で示す位置へ移動した場合、排気マニホルド28及び触媒コンバータ32からなる排気装置27に対して隙間Sを隔てて前方に配設される電動ファン11を、排気マニホルド28及び触媒コンバータ32を覆う薄板で形成されている遮熱カバー34と広範囲で接触させることができ、遮熱カバー34を二点鎖線で示す形状に変形させて電動ファン11に加わる衝撃を吸収することができる。
前記排気マニホールド28には、図3に示すように、上方に位置する取付フランジ29のクランク軸線方向両端近傍に夫々上部排気側取付部37・38を設け、下方に位置する触媒コンバータ32に下部排気側取付部39を設けている。前記遮熱カバー34には、図2に示すように、クランク軸線方向に延びる横長部分35の上縁部に前記上部排気側取付部37・38に各々取り付けられる上部カバー側取付部40・41を設け、上下方向に延びる縦長部分36の下縁部に前記下部排気側取付部39に取り付けられる下部カバー側取付部42を設けている。
この車両1の前部構造は、図4に示すように、排気マニホールド28の上部排気側取付部37・38に遮熱カバー34の上部カバー側取付部40・41を夫々取り付けるとともに、触媒コンバータ32の下部排気側取付部39に遮熱カバー34の下部カバー側取付部42を取り付けることで、遮熱カバー34をその上縁部と下縁部との各近傍で夫々排気マニホールド28と触媒コンバータ2とに固定している。
これにより、この車両1の前部構造は、遮熱カバー34の排気マニホールド28及び触媒コンバータ32に対する上下方向の取付間隔を広げることで、図1に示すように、遮熱カバー34の中央部を衝撃力に対してより変形し易い構造とすることができ、排気マニホールド28や触媒コンバータ34との衝突による衝撃の吸収性を高めて電動ファン11の損傷を防止することができ、車両1の修理費用を低減することができる。
【0012】
また、この車両1の前部構造は、図1に示すように、電動ファン11は径方向中央部にエンジン16側へ突出するファンモータ部13を備えており、車両1を側方から見た場合、遮熱カバー34をファンモータ部13と対向する部分の前端面43が車両前方へ膨んだ円弧状の曲面に形成している。
これにより、この車両1の前部構造は、上記構造によって、遮熱カバー34のうち、ファンモータ部13と対向する部分43の衝撃吸収性を向上させ、ファンモータ部13の損傷を防止することができる。
さらに、この車両1の前部構造は、図3・図4に示すように、エンジン16の前面部に、アダプタケース44を介してオイルフィルタ45を車両前方へ突出する状態で取り付けている。オイルフィルタ45は、遮熱カバー34の上部の横長部分35と下部の縦長部分36とが接続する車両幅方向右側中間の窪部分46と、エンジン16の前面部下端の車両幅方向右側に取り付けられた補機である空調用コンプレッサ47の車両幅方向左側上端の角部分48との間の、エンジン16の前面部に取り付けられている。遮熱カバー34は、図1に示すように、前端面43をオイルフィルタ45の前端部49より車両前方へ突出させて形成している。
これにより、この車両1の前部構造は、上記構造によって、車両後方へ移動する電動ファン11を遮熱カバー34の前端面43に接触させることで、電動ファン11がオイルフィルタ45の前端部49に衝突して損傷することを防止できる。そのため、この車両1の前部構造は、車両1の修理費用を低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0013】
この発明の車両の前部構造は、車両後方へ移動する電動ファンが補機や排気装置と衝突した際の衝撃の吸収性を高めて電動ファンの損傷を防止し、車両の修理費用を低減するものであり、ラジエータを冷却する電動ファンの後方にクランク軸を車両幅方向に向けたエンジンを搭載した車両に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例を示す車両のエンジンルームの右側面図である。
【図2】実施例を示す車両のエンジンルームの正面図である。
【図3】実施例を示す遮熱カバーを透視した車両のエンジンルームの拡大正面図である。
【図4】実施例を示すエンジンの遮熱カバー部分の拡大斜視図である。
【符号の説明】
【0015】
1 車両
5 エンジンルーム
9 ラジエータ
11・12 電動ファン
13・14 ファンモータ部
15 クランク軸
16 エンジン
27 排気装置
28 排気マニホールド
32 触媒コンバータ
34 遮熱カバー
37・38 上部排気側取付部
39 下部排気側取付部
40・41 上部カバー側取付部
42 下部カバー側取付部
44 アダプタケース
45 オイルフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前部にラジエータを冷却する電動ファンを配設し、
前記電動ファンの後方にクランク軸を車両幅方向に向けたエンジンを搭載し、
前記エンジンの前面上部に排気マニホールドを取り付けるとともに排気マニホールドの下方に触媒コンバータを配設し、
前記車両の前面部に車両後方への外力が作用した場合、前記ラジエータと電動ファンとを車両後方へ移動させるようにした車両の前部構造において、
前記排気マニホールドと触媒コンバータとを一体の遮熱カバーで覆い、
前記車両を前方から見た場合、前記遮熱カバーを電動ファンが存在する円形状の領域の半分以上の部分と車両前後方向で重なる形状に形成し、
前記遮熱カバーをその上縁部と下縁部との各近傍で夫々前記排気マニホールドと触媒コンバータとに固定したこと特徴とする車両の前部構造。
【請求項2】
前記電動ファンは径方向中央部にエンジン側へ突出するファンモータ部を備えており、
前記車両を側方から見た場合、前記遮熱カバーを前記ファンモータ部と対向する部分が車両前方へ膨んだ円弧状の曲面に形成していること特徴とする請求項1に記載の車両の前部構造。
【請求項3】
前記エンジンの前面部に、アダプタケースを介してオイルフィルタを車両前方へ突出する状態で取り付け、
前記遮熱カバーの前端面を前記オイルフィルタの前端部より車両前方へ突出させたこと特徴とする請求項1に記載の車両の前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−144687(P2010−144687A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325526(P2008−325526)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】