説明

車両の前部車体構造

【課題】 フロントフェンダー内に形成した筒状部からフロントカウルを介して車室内に吸気騒音が伝達されるのを防止する。
【解決手段】 フェンダーパネル12、フェンダーアッパー13、フェンダーガーニッシュ14およびインナーフェンダー15により構成した前後方向に延びるダクトの中間部を独立気泡の発泡ゴムで構成したサイレンサ23で仕切ることで、ダクトの前端に導入した外気を吸気開口15aからエンジンの吸気通路に供給する際に発生する吸気騒音をサイレンサ23で遮断し、その吸気騒音が空調用外気導入口13aからフロントカウル22を経て車室内に侵入するのを抑制することができる。しかもフェンダーパネル12の内側に独立気泡の発泡ゴムで構成したサイレンサ23を配置したことにより、車両の衝突時にサイレンサ23が潰れて衝突エネルギーを効果的に吸収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントフェンダー部のアウター部材、インナー部材およびロア部材により外気が導入されるダクトを構成し、前記ダクトの前部に設けた吸気開口をエンジンの吸気通路に接続するとともに、前記ダクトの後部に設けた空調用外気導入口をフロントカウルに接続した車両の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
フロントガラスの下端に沿って車体左右方向に延びるフロントカウルの一端に、フロントフェンダーのアウターパネルと、ダッシュパネルと、ホイールハウスとによって区画された筒状部の後端を接続し、空調用の外気を筒状部およびフロントカウルを介して車室内に導入するものが、下記特許文献1により公知である。
【特許文献1】特開2000−43533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、フロントフェンダー内に形成した前記筒状部を吸気通路を介してエンジンの吸気系に接続し、この吸気通路を介してエンジンに吸気を供給する場合、エンジンの吸気騒音が前記筒状部からダクト(フェンダー断面)を通りフロントカウルあるいはフロントドアを介して車室内に伝達されてしまい、車室内の騒音レベルが高くなってしまう可能性がある。
【0004】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、フロントフェンダー内に形成した筒状部からフロントカウルを介して車室内に吸気騒音が伝達されるのを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、フロントフェンダー部のアウター部材、インナー部材およびロア部材により外気が導入されるダクトを構成し、前記ダクトの前部に設けた吸気開口をエンジンの吸気通路に接続するとともに、前記ダクトの後部に設けた空調用外気導入口をフロントカウルに接続した車両の前部車体構造であって、前記ダクトの吸気開口および空調用外気導入口間を独立気泡の発泡ゴムで構成したサイレンサで仕切ったことを特徴とする車両の前部車体構造が提案される。
【0006】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記サイレンサを前記アウター部材および前記インナー部材間に下方から挿入し、前記サイレンサおよび前記ロア部材を前記インナー部材に共締めしたことを特徴とする車両の前部車体構造が提案される。
【0007】
尚、実施例のフェンダーパネル12は本発明のアウター部材に対応し、実施例のフェンダーアッパー13およびフェンダーガーニッシュ14は本発明のインナー部材に対応し、実施例のインナーフェンダー15は本発明のロア部材に対応する。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の構成によれば、フロントフェンダー部のアウター部材、インナー部材およびロア部材により構成したダクトの中間部を独立気泡の発泡ゴムで構成したサイレンサで仕切ったので、ダクトに導入された外気を吸気開口からエンジンの吸気通路に供給する際に発生する吸気騒音をサイレンサで遮断し、その吸気騒音が空調用外気導入口からフロントカウルを介して車室内に侵入するのを抑制することができる。しかもフロントフェンダー部の内側に独立気泡の発泡ゴムで構成したサイレンサを配置したので、サイレンサが雨水を吸収して錆の原因となることもなく、車両の衝突時にサイレンサが潰れて衝突エネルギーを効果的に吸収することができる。
【0009】
請求項2の構成によれば、サイレンサをアウター部材およびインナー部材間に下方から挿入すると、サイレンサはやや圧縮されてダクト内に保持されるので、作業者は一方の手でロア部材を持ち、他方の手でサイレンサおよびロア部材をインナー部材に共締めすることが可能になり、サイレンサおよびロア部材を別個に固定する場合に比べて部品点数の削減および組み付け工数の削減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。
【0011】
図1〜図6は本発明の一実施例を示すものであり、図1は自動車の車体前部の平面図、図2は図1の2方向矢視図、図3は図2の要部拡大図、図4は図3の4−4線断面図、図5はサイレンサおよび取付ブラケットの斜視図、図6はサイレンサの取付時の作用説明図である。
【0012】
図1〜図4に示すように、自動車の車体前部のフロントフェンダー部11には、車幅方向外側に位置する金属製のフェンダーパネル12と、フェンダーパネル12よりも車幅方向内側に位置する金属製でボックス構造のフェンダーアッパー13と、フェンダーパネル12の上端およびフェンダーアッパー13の車幅方向内面を接続する合成樹脂製のフェンダーガーニッシュ14と、フェンダーパネル12の車幅方向外端およびフェンダーアッパー13の下面を接続する合成樹脂製のインナーフェンダー15とにより、車体前後方向に延びるダクト16(図1および図6参照)が構成される。フェンダーパネル12は本発明のアウター部材を構成し、フェンダーアッパー13およびフェンダーガーニッシュ14は本発明のインナー部材を構成し、インナーフェンダー15は本発明のロア部材を構成する。
【0013】
エンジンルーム17に配置されたエンジンEを冷却すべく車体前端のフロントグリル18から取り入れられた冷却風の一部は、フロントバンパー19の内部を通ってダクト16の前端に供給される。車体左側のフロントフェンダー部11のインナーフェンダー15には吸気開口15a(図1および図2参照)が形成されており、ダクト16前部の内部空間は前記吸気開口15aおよび吸気通路20を通ってエンジンEの吸気系に供給される。またフロントガラス21の下縁に沿って車幅方向に延びるフロントカウル22の内部空間とダクト16の後端とが、フェンダーアッパー13に設けた空調用外気導入口13a(図1〜図3)を介して連通する。ダクト16の前後方向中間部、即ち、吸気開口15aおよび空調用外気導入口13aの中間位置に配置されたサイレンサ23によって前後に仕切られる。
【0014】
図5から明らかなように、サイレンサ23は弾性を有する独立気泡の発泡ゴムで概ね三角形の厚板状に形成されており、その第1辺23aがフェンダーパネル12の車幅方向内面に当接し、その第2辺23bの下部がフェンダーアッパー13の車幅方向外面に当接し、その第3辺23cがインナーフェンダー15の上面に僅かな隙間を存して対向する。このとき、サイレンサ23をダクト16内で位置決めすべく、サイレンサ23の第3辺23cが取付ブラケット24を介して固定される。ダクト16はサイレンサ23によって完全に仕切られることはなく、フロントカウル22に供給する空調用の外気が通過できる間隙が、サイレンサ23の第2辺23bおよび第3辺23cに沿って形成される。
【0015】
取付ブラケット24は金属板をプレス成形したもので、コ字状の挟持部24aと、挟持部24aの中央に接続されたL字状の取付部24bとを一体に備える。挟持部24aでサイレンサ23の第3辺23cを前後方向に挟持した状態で、挟持部24aのボルト孔24c,24cおよびサイレンサ23のボルト孔23dにボルト25を挿入してナット26で締結することで、サイレンサ23と取付ブラケット24とが一体化される。
【0016】
続いて、図6に示すように、インナーフェンダー15を取り付ける前のダクト16内にサイレンサ23を弾性変形させながら下方から挿入すると、取付ブラケット24の取付部24bがフェンダーアッパー13の下面に当接する。この状態で、フェンダーパネル12およびフェンダーアッパー13の下部にインナーフェンダー15を位置決めした後、インナーフェンダー15のボルト孔15b、取付ブラケット24の取付部24bのボルト孔24dおよびフェンダーアッパー13のボルト孔13bに挿入したボルト27を、フェンダーアッパー13の内部に設けたウエルドナット28に螺合することで、取付ブラケット24およびインナーフェンダー15をフェンダーアッパー13に共締めすることができる。この共締め構造を採用したことで、部品点数および組付工数を削減することができる。
【0017】
以上のように、フェンダーパネル12およびフェンダーアッパー13間にサイレンサ23を所定の潰し代をもって挿入することで、挿入後のサイレンサ23は手を離しても落下しないようにダクト16内に保持されるため、作業者は一方の手でインナーフェンダー15を持ち、他方の手でサイレンサ23およびインナーフェンダー15をフェンダーアッパー13に共締めすることが可能になり、組付作業の作業性が大幅に向上する。またフロントフェンダー部11の内部に独立気泡の発泡ゴムで構成したサイレンサ23を配置したので、車両の衝突時にサイレンサ23が潰れて衝突エネルギーを効果的に吸収することができる。このとき、サイレンサ23の厚さや挿入時の潰し代を適切に設定することで、上述した組付作業の作業性と衝突エネルギーを吸収効果とを両立させることができる。
【0018】
しかして、フロントフェンダー部11のフェンダーパネル12、フェンダーアッパー13、フェンダーガーニッシュ14およびインナーフェンダー15により構成したダクト16の中間部を独立気泡の発泡ゴムで構成したサイレンサ23で仕切ったので、ダクト16に導入された外気を吸気開口15aからエンジンEの吸気通路20に供給する際に発生する吸気騒音をサイレンサ23で遮断し、その吸気騒音が空調用外気導入口13aからフロントカウル22を経て車室内に侵入するのを抑制することができる。しかもサイレンサ23は独立気泡の発泡ゴムで構成されているので水分を吸収することがなく、それに当接するフェンダーパネル12やフェンダーアッパー13のような金属部材を錆びさせる虞がない。
【0019】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】自動車の車体前部の平面図
【図2】図1の2方向矢視図
【図3】図2の要部拡大図
【図4】図3の4−4線断面図
【図5】サイレンサおよび取付ブラケットの斜視図
【図6】サイレンサの取付時の作用説明図
【符号の説明】
【0021】
11 フロントフェンダー部
12 フェンダーパネル(アウター部材)
13 フェンダーアッパー(インナー部材)
13a 空調用外気導入口
14 フェンダーガーニッシュ(インナー部材)
15 インナーフェンダー(ロア部材)
15a 吸気開口
16 ダクト
20 吸気通路
22 フロントカウル
23 サイレンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントフェンダー部(11)のアウター部材(12)、インナー部材(13,14)およびロア部材(15)により外気が導入されるダクト(16)を構成し、前記ダクト(16)の前部に設けた吸気開口(15a)をエンジン(E)の吸気通路(20)に接続するとともに、前記ダクト(16)の後部に設けた空調用外気導入口(13a)をフロントカウル(22)に接続した車両の前部車体構造であって、
前記ダクト(16)の吸気開口(15a)および空調用外気導入口(13a)間を独立気泡の発泡ゴムで構成したサイレンサ(23)で仕切ったことを特徴とする車両の前部車体構造。
【請求項2】
前記サイレンサ(23)を前記アウター部材(12)および前記インナー部材(13,14)間に下方から挿入し、前記サイレンサ(23)および前記ロア部材(15)を前記インナー部材(13,14)に共締めしたことを特徴とする、請求項1に記載の車両の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−112298(P2007−112298A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−305852(P2005−305852)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】