説明

車両の変速比制御装置及び変速比制御方法

【課題】要求駆動力に対する加速レスポンスの悪化を抑制することが可能な、車両の変速比制御装置及び変速比制御方法を提供する。
【解決手段】消費エネルギー効率判定手段44が、車両の速度に対応する変速比領域を設定した通常変速マップに基づく変速比の変更条件で、走行パターン予測手段38が予測した走行パターンにより車両が走行した場合の、車両が消費する通常消費エネルギーよりも、通常変速マップよりも低速側の変速比領域を高速側へ拡大したローギア領域拡大変速マップに基づく変速比の変更条件で、走行パターン予測手段38が予測した走行パターンにより車両が走行した場合の、車両が消費するローギア消費エネルギーの効率が良いと判定すると、ローギア領域拡大変速マップに基づいて、駆動輪とモータとの間に介装した変速機の変速比を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータと駆動輪との間の駆動力伝達経路に、複数段の変速比を変更可能な変速機を介装する車両の変速比制御装置及び変速比制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、駆動輪を駆動可能なエンジン及びモータと駆動輪との間の駆動力伝達経路に、複数段の変速比を変更可能な変速機を介装する車両の変速比制御装置として、例えば、特許文献1に記載されているものがある。
この変速比制御装置では、良好な燃費を得るために変速比を高速段側へ切り換えた状態で、運転者の要求する駆動力要求の増加に対し、エンジン出力増大、モータ出力増大の順に、駆動力の調整制御を行うことにより、駆動力を増加させる。これは、一般的に、変速比を高速段側へ変更した状態では、変速比を低速段側へ変更した状態と比較して、エンジン及びモータの効率が向上するためである。
そして、エンジン及びモータの出力を増大させても要求駆動力を達成できない場合は、変速比を低速段側へ変更して、駆動力の調整制御を行い、駆動力を増加させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−146121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の変速比制御装置では、エンジン及びモータの出力を増大させても要求駆動力を達成できない場合に、変速比を高速段側から低速段側へ変更する。このため、変速比を変更するための時間が必要となり、要求駆動力に対するタイムラグが発生して、要求駆動力に対する加速レスポンスが悪化するという問題が発生するおそれがある。
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたもので、要求駆動力に対する加速レスポンスの悪化を抑制することが可能な、車両の変速比制御装置及び変速比制御方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が良いと判定すると、駆動輪とモータとの間に介装する変速機の変速比を、ローギア領域拡大変速マップ基づいて変更する。
ここで、上記通常消費エネルギーは、車両の速度に対応する変速比領域を設定した通常変速マップに基づく変速比の変更条件で、予測した走行パターンにより車両が走行した場合の、車両が消費するエネルギーである。また、上記ローギア消費エネルギーは、通常変速マップよりも低速側の変速比領域を高速側へ拡大したローギア領域拡大変速マップに基づく変速比の変更条件で、予測した走行パターンにより車両が走行した場合の、車両が消費するエネルギーである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が良いと判定すると、変速比の変更に用いる変速マップを、ローギア領域拡大変速マップとする。
これにより、駆動力要求が増加した際の変速比が低速側である状況が増加するため、変速比を高速段側から低速段側へ変更する機会を減少させることが可能となり、要求駆動力に対する加速レスポンスの悪化を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第一実施形態の変速比制御装置を備える車両の概略構成図である。
【図2】変速判断コントローラの詳細な構成を示すブロック図である。
【図3】通常変速マップを示す図である。
【図4】ローギア領域拡大変速マップを示す図である。
【図5】現在のバッテリの蓄電量と、回生電力予測手段が予測した回生電力との関係を示すマップである。
【図6】変速判断コントローラが行う処理を示すフローチャートである。
【図7】1[km]あたりのピーク車速及び発進と停止間の距離と、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が良い領域との関係を示すマップである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(第一実施形態)
(構成)
図1は、本実施形態の変速比制御装置を備える車両HEVの概略構成図である。
図1中に示すように、変速比制御装置を備える車両HEVは、エンジン1と、モータ2と、バッテリ4と、変速機6と、駆動輪8と、変速判断コントローラ10と、変速制御実施コントローラ12を備えている。すなわち、変速比制御装置を備える車両HEVは、エンジン1及びモータ2を備えるハイブリッド車両である。
エンジン1は、内燃機関であり、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンを用いて形成する。
【0009】
また、エンジン1は、エンジンコントローラ14及び変速制御実施コントローラ12との間で相互に情報信号の入出力を行う。そして、エンジンコントローラ14及び変速制御実施コントローラ12が出力する制御指令に基づき、スロットルバルブ(図示せず)のバルブ開度等を制御する。なお、エンジン1からエンジンコントローラ14及び変速制御実施コントローラ12へ出力する情報信号には、エンジン1の回転数やトルク等を含む。
【0010】
ここで、エンジン1が発生する駆動力は、エンジン1とモータ2との間の駆動力伝達経路に介装したクラッチ(図示せず)等を介して、モータ2へ伝達する。
モータ2は、例えば、ロータ(図示せず)に永久磁石を埋設し、ステータ(図示せず)にステータコイルを巻き付けた、同期型モータジェネレータで形成する。
また、モータ2には、インバータ(図示せず)を介して、バッテリ4を接続している。
【0011】
インバータは、モータコントローラ16及び変速制御実施コントローラ12との間で相互に情報信号の入出力を行う。そして、モータコントローラ16及び変速制御実施コントローラ12が出力する制御指令に基づいて三相交流を形成し、この形成した三相交流をモータ2に印加することにより、モータ2を制御する。なお、モータ2からモータコントローラ16及び変速制御実施コントローラ12へ出力する情報信号には、モータ2のトルクや回転数等を含む。
【0012】
また、モータ2は、バッテリ4から、インバータを介して電力の供給を受けることにより、回転駆動する電動機として動作可能である(以下、この状態を「力行」と記載する)。すなわち、力行の状態では、モータ2は、駆動輪8を回転可能な駆動力を出力する。
さらに、モータ2は、ロータが外力により回転している場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能する。そして、発電機として機能するモータ2は、発生した回生電力をバッテリ4へ蓄電することが可能である(以下、この動作状態を「回生」と記載する)。
【0013】
以上により、モータ2は、駆動輪8を駆動する機能(モータ)と、バッテリ4へ蓄電する回生電力の発電機能(ジェネレータ)を有する。
ここで、上記の「ロータが外力により回転している場合」とは、車両HEVの減速時等である。なお、上り勾配の坂道を走行する車両HEVが、要求駆動力を減少させずに減速する場合等には、モータ2は発電機として機能しないため、回生電力は発生しない。
【0014】
バッテリ4は、例えば、鉛蓄電池であり、バッテリコントローラ18を接続している。
バッテリコントローラ18は、バッテリ4の蓄電量(SOC「state of charge」)、バッテリ4の電圧や温度等を検出する。そして、これらの検出した蓄電量等を含む情報信号を、後述するユニット情報検出手段20へ出力する。
変速機6は、エンジン1及びモータ2と駆動輪8との間の駆動力伝達経路に介装し、駆動輪8とモータ2との間で、回転速度を任意の変速比で変速する。これにより、変速機6は、エンジン1やモータ2の発生した駆動力を、任意の変速比で駆動輪8に伝達可能である。
【0015】
本実施形態では、変速機6を、例えば、前進四段及び後退一段等、有段階の変速比を段階的に変更可能な有段変速機(例示の場合、4速AT等)で形成する。変速機6の変速比は、変速制御実施コントローラ12が変速機6へ出力する制御指令に基づいて変更する。
なお、変速比を変更する際は、例えば、モータ2の駆動軸に接続させたオイルポンプ(図示せず)が生成する油圧を用いて、変速機6の状態を切り換える。オイルポンプが生成する油圧を用いて、変速機6の状態を切り換える際には、例えば、変速機6が備えるクラッチ等の作動に、オイルポンプが生成する油圧を用いる。
【0016】
ここで、変速制御実施コントローラ12が出力する制御指令に基づく、変速比の変更について説明する。
変速比を低速段側から高速段側へ変更(シフトアップ)する場合は、変速制御実施コントローラ12が出力する制御指令に基づいて、例えば、変速比を一速(最低速段の変速比)から二速(一速の一段上の変速比)へ変更する。これにより、モータ2が変速機6へ入力した回転速度を、増速して駆動輪8へ伝達する。
【0017】
一方、変速比を高速段側から低速段側へ変更(シフトダウン)する場合は、変速制御実施コントローラ12が出力する制御指令に基づいて、例えば、変速比を二速から一速へ変更する。これにより、モータ2が変速機6へ入力した回転速度を、減速して駆動輪8へ伝達する。
駆動輪8は、ディファレンシャル22、プロペラシャフト24及びドライブシャフト26等を介して、変速機6の出力軸と連結している。なお、本実施形態では、一例として、駆動輪8を、左前輪8L及び右前輪8Rとする。これに伴い、従動輪(図示せず)を、左後輪及び右後輪とする。
【0018】
また、左前輪8L及び右前輪8Rには、それぞれ、前輪ブレーキ装置(図示せず)を設けている。同様に、左後輪及び右後輪には、それぞれ、後輪ブレーキ装置(図示せず)を設けている。
各ブレーキ装置は、それぞれ、対応する車輪(駆動輪、従動輪)に対し、図外の液圧源から、運転者によるブレーキペダル(図示せず)の操作量(踏込み量)に応じて液圧を調整した、制動液圧を伝達する。なお、液圧の調整は、ブレーキ制御コントローラ28が出力する情報信号に応じて行う。
【0019】
具体的に、車両HEVの制動時には、ブレーキペダルの操作量に応じて液圧を制動液圧に調整した作動油を、制動ピストン(図示せず)へ供給する。そして、この制動ピストンを対応する車輪に押圧して摺接させることにより、対応する車輪に制動力を付与する。
また、各ブレーキ装置は、ブレーキ制御コントローラ28との間で相互に情報信号の入出力を行う。そして、ブレーキ制御コントローラ28が出力する制御指令に基づき、制動液圧を調整する。なお、各ブレーキ装置からブレーキ制御コントローラ28へ出力する情報信号には、制動ピストンへ供給する作動油の制動液圧等を含む。
【0020】
変速判断コントローラ10は、変速制御実施コントローラ12を介して、エンジン1、インバータ、バッテリ4、変速機6及びブレーキ制御コントローラ28との間で、相互に情報信号の入出力を行う。また、変速判断コントローラ10は、運転者情報検出手段30、道路環境情報検出手段32、ユニット情報検出手段20が出力する情報信号の入力を受ける。なお、変速判断コントローラ10の詳細な構成は、後述する。
【0021】
運転者情報検出手段30は、運転者によるアクセルペダル(図示せず)及びブレーキペダルの操作量、車両HEVの車速を検出する。そして、この検出したアクセルペダル及びブレーキペダルの操作量、車両HEVの車速を含む情報信号を、変速判断コントローラ10へ出力する。
ここで、運転者によるアクセルペダルの操作量は、例えば、アクセルペダルの変位量を検出可能なアクセルストロ−クセンサ等を用いて検出する。同様に、運転者によるブレーキペダルの操作量は、例えば、ブレーキペダルの変位量を検出可能なブレーキストロ−クセンサ等を用いて検出する。また、車両HEVの車速は、例えば、公知の車速センサを用いて検出する。
【0022】
道路環境情報検出手段32は、地図データ情報、車両HEVの現在位置情報、車両HEVが走行する予定の走行道路の交通量情報、走行道路の路面状態情報、走行道路の信号表示情報、車両HEVと先行車との車間距離情報を検出する。そして、これらの検出した各種情報を含む信号を、変速判断コントローラ10へ出力する。
ここで、地図データ情報は、例えば、車両HEVが備えるナビゲーション装置(カーナビゲーション)が有するデータから検出する。
【0023】
また、車両HEVの現在位置情報は、車両HEVが備えるGPS(Global Positioning System)用アンテナ等を用いて検出する。
また、車両HEVが走行する予定の走行道路の交通量情報は、走行道路の渋滞情報等であり、例えば、VICS(Vehicle Information and Communication System)情報等を用いて検出する。
【0024】
また、走行道路の路面状態情報は、例えば、走行道路の路面にスピードバンプが形成されている状態を示す情報であり、例えば、上記のナビゲーション装置が有する地図データ情報から検出する。これ以外にも、例えば、走行道路の路面に積雪状態等を示す情報を用いてもよい。また、例えば、登攀車線等、走行道路の傾斜を示す情報を用いてもよい。
また、走行道路の信号表示情報は、例えば、信号機制御用のサーバが出力する信号を受信して検出する。これ以外には、例えば、車両HEVが備えるカメラ等の撮像手段を用いて検出してもよい。
【0025】
また、車両HEVと先行車との車間距離情報は、例えば、車両HEVの車両前後方向前方へ赤外線レーザ等の電磁波を出力し、さらに、先行車に反射した電磁波を取得可能な手段を用いて検出する。
ユニット情報検出手段20は、モータ2やバッテリ4等、車両HEVが備える各種ユニットの状態や、車両HEV自体の状態を検出する。そして、この検出した各種状態を含む情報信号を、変速判断コントローラ10へ出力する。
【0026】
ここで、モータ2の状態とは、例えば、バッテリ4の蓄電量等に応じたモータトルクの制限値であり、バッテリコントローラ18が出力するバッテリ4の蓄電量等に基づいて検出する。
また、バッテリ4の状態とは、例えば、バッテリ4に供給可能な電力の最大値であり、バッテリコントローラ18が出力する、バッテリ4の蓄電量、電圧や温度等に基づいて検出する。
【0027】
また、車両HEV自体の状態とは、例えば、車両HEVの重量(車重)等であり、予め記憶する。なお、乗車人員や積載する荷物の重量等に応じて、車重を変化させてもよい。
変速制御実施コントローラ12は、変速判断コントローラ10が出力する制御指令に基づいて、変速制御実施コントローラ12が、変速機6、エンジン1、インバータ及びブレーキ制御コントローラ28へ出力する制御指令を生成する。そして、この生成した制御信号を、変速機6、エンジン1、インバータ及びブレーキ制御コントローラ28へ出力する。これにより、変速機6の変速比、エンジン1、モータ2及び各ブレーキ装置の挙動を制御する。
【0028】
次に、図1を参照しつつ、図2から図4を用いて、変速判断コントローラ10の詳細な構成を説明する。
図2は、変速判断コントローラ10の詳細な構成を示すブロック図である。
変速判断コントローラ10は、変速比変更手段34と、変速マップ記憶手段36と、走行パターン予測手段38と、通常消費エネルギー演算手段40と、ローギア消費エネルギー演算手段42を備えている。これに加え、変速判断コントローラ10は、消費エネルギー効率判定手段44と、変速マップ切換手段46と、回生電力予測手段48と、回生電力割合判定手段50を備えている。
【0029】
変速比変更手段34は、変速マップを参照して、変速機6の変速比を変更する。なお、変速マップに関する説明は、後述する。
具体的には、後述するように、変速マップ切換手段46が出力する情報信号に基づき、変速マップ記憶手段36が有する変速マップから、変速マップ切換手段46が切り換えた変速マップを選択して取得する。そして、この取得した変速マップを参照して、変速機6の変速比を設定する。そして、この設定した変速比を含む情報信号を、変速制御実施コントローラ12へ出力する。
【0030】
変速比変更手段34が出力した情報信号の入力を受けた変速制御実施コントローラ12は、変速機6の変速比を、変速比変更手段34が変速マップを参照して設定した変速比となるように変更させる制御指令を生成する。これに加え、変速比の変更に応じた、エンジン1、モータ2及び各ブレーキ装置の挙動を演算し、変速機6と、エンジン1、モータ2及び各ブレーキ装置との協調制御を行うための制御指令を生成する。
【0031】
なお、回生電力が発生する回生制動時には、モータ2が発生する回生トルクと、各ブレーキ装置が伝達する制動油圧との和が、車両HEVを減速させる減速トルクとなる。このため、変速制御実施コントローラ12は、回生制動時において、変速機6と、エンジン1、モータ2及び各ブレーキ装置との協調制御を行うための制御指令を生成する。この制御指令の生成は、モータ2が発生する回生トルクと、各ブレーキ装置が伝達する制動油圧との和が変動しないように行う。
【0032】
そして、変速制御実施コントローラ12は、これらの生成した制御指令を、変速機6、エンジン1、インバータ及びブレーキ制御コントローラ28へ出力する(図1参照)。
変速マップ記憶手段36は、変速マップとして、車両HEVの速度(車速)に対応する変速比領域を設定した通常変速マップと、通常変速マップよりも低速側の変速比領域を高速側へ拡大したローギア領域拡大変速マップを有する。
【0033】
ここで、図3及び図4を参照して、通常変速マップと、ローギア領域拡大変速マップについて説明する。
図3は、通常変速マップを示す図である。また、図4は、ローギア領域拡大変速マップを示す図である。
図3及び図4中に示すように、ローギア領域拡大変速マップは、通常変速マップと比較して、低速(Lowギア)側の変速比領域を、高速(Highギア)側へ向けて拡大したマップである。
【0034】
なお、図3及び図4中に示すように、変速マップ記憶手段36が有する変速マップは、車両HEVの速度(車速)に応じて、Lowギア側とHighギア側との境界を設定し、車速の変化に応じて、変速比を変更するマップである。すなわち、変速マップは、車速と変速比との対応関係を示すマップである。
また、変速マップ記憶手段36は、低速側の変速比領域の高速側への拡大量が異なる複数のローギア領域拡大変速マップ(図示せず)を有している。なお、図4中には、低速側の変速比領域の高速側への拡大量が異なる複数のローギア領域拡大変速マップのうち、一つのローギア領域拡大変速マップを示す。
【0035】
走行パターン予測手段38は、車両HEVの走行パターンを予測する。
具体的には、走行パターン予測手段38は、道路環境情報及び運転者情報のうち少なくとも一方に基づいて、車両HEVの走行パターンを予測する。そして、予測した車両HEVの走行パターンを含む情報信号を、通常消費エネルギー演算手段40と、ローギア消費エネルギー演算手段42、回生電力予測手段48へ出力する。
【0036】
ここで、道路環境情報は、車両HEVが走行する予定である走行道路の環境を反映する情報である。また、運転者情報は、運転者による車両HEVの操作状態を反映する情報である。
道路環境情報は、具体的には、以下に示す各情報のうち少なくとも一つとする。
1.ナビゲーション装置が有する地図データ情報
2.車両の現在位置情報
3.走行道路の交通量情報
4.走行道路の路面状態情報
5.走行道路の信号表示情報
6.車両と先行車との車間距離情報
ここで、ナビゲーション装置が有する地図データ情報、車両の現在位置情報、走行道路の交通量情報、走行道路の路面状態情報、走行道路の信号表示情報及び車両と先行車との車間距離情報は、道路環境情報検出手段32が出力した情報信号から検出する。
【0037】
運転者情報は、具体的には、以下に示す各情報のうち少なくとも一つとする。
1.車両の走行パターン履歴
2.運転者の加減速操作履歴
3.運転者による加減速操作予測
ここで、車両の走行パターン履歴、運転者の加減速操作履歴及び運転者による加減速操作予測は、運転者情報検出手段30が出力した情報信号から検出する。これは、例えば、車両HEVの減速時において、運転者の運転スタイル(減速時の減速操作等)によっては、現時点の車速から、車両の減速を開始する地点を予測することが困難である。このため、運転者が過去に行った加減速操作や、今後行うと予測する加減速操作を参照して、車両の減速状態を予測するために検出する情報である。
【0038】
ここで、特に、走行パターン予測手段38が、車両HEVの走行パターンを、車両HEVが回生制動による減速を含む状態と予測する際の、具体的な処理について説明する。
走行パターン予測手段38は、以下に示す各条件のうち少なくとも一つに基づいて、車両HEVの走行パターンが、車両HEVが回生制動による減速を含む状態であると予測する。これにより、走行中の車両HEVが、現時点から回生制動により減速するまでの時間、現在地から回生制動により減速するまでの距離、回生制動により減速する際の減速度、回生制動により減速した後の車速を予測する。
【0039】
1.高速道路等の有料道路において、料金所への停車、または、ETCレーンを通過する際の減速を予測する。これは、例えば、ナビゲーション装置が有する地図データ情報と、車両の現在位置情報に基づいて行う。
2.パーキングエリアやサービスエリアへの侵入が推定され、その際に減速または停車を予測する。これは、例えば、ナビゲーション装置が有する地図データ情報と、車両の現在位置情報に基づいて行う。
3.現在地から目的地へ移動する間に、交差点通過時の旋回(右左折)に伴う減速を予測する。これは、例えば、ナビゲーション装置が有する地図データ情報、ナビゲーション装置を用いて設定した目的地の位置情報、車両の現在位置情報に基づいて行う。
【0040】
4.現在地から目的地へ移動する間に、幅の狭い道路や見通しの悪い道路への侵入に伴う減速を予測する。これは、例えば、ナビゲーション装置が有する地図データ情報、ナビゲーション装置を用いて設定した目的地の位置情報、車両の現在位置情報に基づいて行う。
なお、現在地から目的地へ移動する間に、上り勾配の坂道がある場合、この坂道における減速は、回生制動による減速ではないため、車両HEVが回生制動により減速する状態であるとの予測からは除外する。
【0041】
5.走行道路の進行方向にある信号機の表示が通行許可から停止へと変化し、減速または停車を予測する。これは、例えば、信号機制御用のサーバが出力する信号の受信、ナビゲーション装置が有する地図データ情報、車両の現在位置情報に基づいて行う。
6.スピードバンプや積雪等の減速を要する走行道路の路面状況や、渋滞や道路工事等の減速を要する走行道路の交通情報等、減速または停車を予測する。これは、例えば、ナビゲーション装置が有する地図データ情報、VICS情報、車両の現在位置情報に基づいて行う。
【0042】
7.自車両(車両HEV)が合流する道路の渋滞等により、減速または停車を予測する。これは、例えば、ナビゲーション装置が有する地図データ情報、VICS情報、車両の現在位置情報に基づいて行う。
8.現在地から目的地へ移動する間に、制限速度が高い道路から低い道路への侵入に伴う減速または停車を予測する。これは、例えば、ナビゲーション装置が有する地図データ情報、ナビゲーション装置を用いて設定した目的地の位置情報、車両の現在位置情報に基づいて行う。
【0043】
9.自車両(車両HEV)と先行車との距離が減少することにより、自車両の減速または停車を予測する。これは、例えば、自車両と先行車との車間距離と、自車両の車速に基づいて行う。
10.先行車の減速により、自車両の減速または停車を予測する。これは、例えば、先行車が送信する先行車の車速情報に基づいて行う。なお、先行車が送信する先行車の車速情報は、例えば、先行車から直接受信してもよく、また、基地局等が備えるサーバを介して受信してもよい。
【0044】
通常消費エネルギー演算手段40は、通常変速マップに基づく変速比の変更条件で、走行パターン予測手段38が予測した走行パターンにより走行した場合の、車両HEVが消費する通常消費エネルギーを演算する。そして、演算した通常消費エネルギーを含む情報信号を、消費エネルギー効率判定手段44へ出力する。
本実施形態では、通常消費エネルギーを、通常変速マップに基づく変速比の変更条件で、走行パターン予測手段38が車両HEVの走行パターンを回生制動による減速を含む状態と予測した場合の、車両HEVが消費するエネルギーとする。
また、本実施形態では、通常消費エネルギー演算手段40が、モータ2が発生する回生電力の回収量を参照して、通常消費エネルギーを演算する。
【0045】
ここで、通常消費エネルギー演算手段40が、モータ2が発生する回生電力の回収量を参照して、通常消費エネルギーを演算する際には、以下に示す各条件に基づいて、演算を行う。
1.モータ2のトルクに制限が生じている状態において、そのモータトルク制限値に応じて発生可能な回生電力の発電量。これは、例えば、バッテリコントローラ18が出力するバッテリ4の蓄電量等に基づいて検出する。
2.モータ2からバッテリ4へ入力する回生電力の最大値。これは、例えば、モータトルク制限値に応じて発生可能な回生電力の発電量や、インバータの内部抵抗等に基づいて検出する。
【0046】
3.モータ2からバッテリ4へ入力可能な回生電力の最大値。これは、例えば、バッテリ4の蓄電量(SOC)、バッテリ4の電圧や温度等に基づいて検出する。
4.運転者の加減速パターン。これは、例えば、アクセルペダル及びブレーキペダルの操作量、車両HEVの車速、車両HEVの車両前後方向への加速度等に基づいて検出する。
5.車両HEVの重量(車重)。これは、規定値であるため、予め記憶しておく。なお、乗車人員や積載する荷物の重量等に応じて、車重を変化させてもよい。
【0047】
6.モータ2以外にバッテリ4から電力の供給を受けて作動するユニットの消費電力。ここで、モータ2以外にバッテリ4から電力の供給を受けて作動するユニットとは、車両HEVが備えるカーエアコンや、ライト等の補機類である。上記ユニットの消費電力は、規定値であるため、予め記憶しておく。なお、カーエアコンの設定温度や風量等に応じて、ユニットの消費電力を変化させてもよい。
【0048】
ローギア消費エネルギー演算手段42は、ローギア領域拡大変速マップに基づく変速比の変更条件で、走行パターン予測手段38が予測した走行パターンにより走行した場合の、車両HEVが消費するローギア消費エネルギーを演算する。そして、演算したローギア消費エネルギーを含む情報信号を、消費エネルギー効率判定手段44へ出力する。
本実施形態では、ローギア消費エネルギーを、ローギア領域拡大変速マップに基づく変速比の変更条件で、走行パターン予測手段38が車両HEVの走行パターンを回生制動による減速を含む状態と予測した場合の、車両HEVが消費するエネルギーとする。
【0049】
また、本実施形態では、ローギア消費エネルギー演算手段が、モータ2が発生する回生電力の回収量を参照して、ローギア消費エネルギーを演算する。
なお、ローギア消費エネルギー演算手段42が、モータ2が発生する回生電力の回収量を参照して、ローギア消費エネルギーを演算する際には、通常消費エネルギー演算手段40と同様、上述した各条件に基づいて、演算を行う。
【0050】
消費エネルギー効率判定手段44は、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が良いか否かを判定する。そして、判定結果を含む情報信号を、変速マップ切換手段46へ出力する。
また、消費エネルギー効率判定手段44は、後述するように、変速マップ切換手段46が、変速比変更手段34の参照する変速マップをローギア領域拡大変速マップとした状態で、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が良いか否かを判定する。
【0051】
変速マップ切換手段46は、消費エネルギー効率判定手段44が、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が良いと判定すると、変速比変更手段34の参照する変速マップを、ローギア領域拡大変速マップとする。具体的には、変速マップ記憶手段36が有する変速マップから、ローギア領域拡大変速マップを選択する制御指令を生成し、この生成した制御指令を含む情報信号を、変速比変更手段34へ出力する。
【0052】
また、変速比変更手段34の参照する変速マップをローギア領域拡大変速マップとした変速マップ切換手段46は、変速比変更手段34の参照する変速マップを通常変速マップとする。具体的には、変速マップ記憶手段36が有する変速マップから、通常変速マップを選択して取得する制御指令を生成し、この生成した制御指令を含む情報信号を、変速比変更手段34へ出力する。これは、変速マップ切換手段46が、変速比変更手段34の参照する変速マップをローギア領域拡大変速マップとした状態で、消費エネルギー効率判定手段が、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が悪いと判定する場合に限定して行う。
【0053】
本実施形態では、変速マップ切換手段46は、変速比変更手段34の参照する変速マップを、複数のローギア領域拡大変速マップのうち、ローギア消費エネルギー演算手段が演算したローギア消費エネルギーの効率が最良となるマップとする。これは、走行パターン予測手段38が、運転者による加減速操作予測に基づいて、車両HEVの走行パターンを予測する場合に行う。
【0054】
ここで、運転者による加減速操作予測とは、運転者が、例えば、車両HEVが備えるナビゲーション装置を介して、現在地から目的地までの走行中に行うと予測する加減速操作を走行パターン予測手段38へ入力(インプット)する操作である。
そして、走行パターン予測手段38は、運転者が入力した上記加減速操作に基づいて、現在地から目的地までの走行中における走行パターン(最高速度、平均速度、発進位置と停止位置との間の距離等)を予測する。これにより、運転者による加減速操作予測に基づいて、車両HEVの走行パターンを予測する。
【0055】
また、変速マップ切換手段46は、後述するように、回生電力割合判定手段50が行う処理に応じて、変速比変更手段34の参照する変速マップを、通常変速マップとする。回生電力割合判定手段50が行う処理に応じて変速マップ切換手段46が行う処理については、後述する。
回生電力予測手段48は、通常変速マップに基づく変速比の変更条件で、走行パターン予測手段38が予測した走行パターンにより走行した場合の、モータ2が発生する回生電力を予測する。そして、予測した回生電力を含む情報信号を、回生電力割合判定手段50へ出力する。
【0056】
回生電力割合判定手段50は、回生電力予測手段48が予測したモータ2が発生する回生電力のバッテリ4の蓄電量に対する割合が、所定の割合を超えるか否かを判定する。そして、判定結果を含む情報信号を、変速マップ切換手段46へ出力する。
ここで、所定の割合とは、バッテリ4に要求する蓄電量に応じて設定する割合である。そして、例えば、バッテリ4に要求する蓄電量を80%以上と設定した場合において、バッテリ4の蓄電量が60%である状態で、回生電力予測手段48が予測した回生電力が20%を超えていれば、上記割合が所定の割合を超えていると判定する。
【0057】
回生電力割合判定手段50が、回生電力予測手段48が予測した回生電力の、バッテリ4の蓄電量に対する割合が、所定の割合を超えると判定すると、変速マップ切換手段46は、変速比変更手段34の参照する変速マップを、通常変速マップとする。
これは、例えば、走行パターン予測手段38の予測した走行パターンが、バッテリ4の蓄電量に対して、モータ2が発生する回生電力を十分に回収可能な走行パターンとなる場合である。なお、バッテリ4の蓄電量に対して回生電力を十分に回収可能な走行パターンとは、例えば、車両HEVが長い連続した下り勾配の坂道を走行する場合である。
【0058】
この場合、現在のバッテリ4の蓄電量と、回生電力予測手段48が予測した回生電力とを、例えば、図5中に示すマップに適用する。そして、現在のバッテリ4の蓄電量に応じた回生電力予測手段48が予測した回生電力が、図中に斜線で示す領域(Lowギア領域)外となる場合、上記予測した回生電力のバッテリ4の蓄電量に対する割合が、所定の割合を超えると判定する。なお、図5は、現在のバッテリ4の蓄電量と、回生電力予測手段48が予測した回生電力との関係を示すマップである。また、図5中では、縦軸に、回生電力予測手段48が予測した回生電力(予測回生電力)を示し、横軸に、現在のバッテリ4の蓄電量(SOC)を示す。また、図5中には、変速マップ切換手段46が、変速比変更手段34の参照する変速マップを、ローギア領域拡大変速マップとする制御を行う範囲に対し、下限値を「制御MIN」と示し、上限値を「制御MAX」と示している。
【0059】
これは、後述するように、変速比変更手段34の参照する変速マップを、ローギア領域拡大変速マップとすることによる消費エネルギーの低減効果が減少するためである。この要因は、現在のバッテリ4の蓄電量が高い状態では、バッテリ4へ入力可能な電力量が制限され、回収可能な回生電力が減少するためである。
なお、上記変速判断コントローラ10は、「変速比制御装置」に対応する。
また、上記バッテリコントローラ18及びユニット情報検出手段20は、「蓄電量検出手段」に対応する。
【0060】
(動作)
次に、図1から図5を参照しつつ、図6を用いて、本実施形態の変速比制御装置を備えた車両HEVの動作の一例について説明する。
図6は、変速判断コントローラ10が行う処理を示すフローチャートである。
図6中に示すフローチャートは、車両HEVが走行している状態からスタートする(START)。
車両HEVの走行時において、まず、走行パターン予測手段38が、例えば、所定のサンプリング時間毎に、運転者情報検出手段30、道路環境情報検出手段32及びユニット情報検出手段20が出力する情報信号が出力した情報信号を取得する。そして、この取得した情報信号に基づいて、車両HEVの走行パターンを予測(ステップS10に示す「これから走行すると推定される走行パターンを判断」)する(ステップS10)。
【0061】
なお、本フローチャートでは、走行パターン予測手段38が、車両HEVの走行パターンを、車両HEVが回生制動による減速を含む状態と予測する場合について説明する。
ステップS10において、走行パターン予測手段38が、車両HEVの走行パターンを予測すると、変速判断コントローラ10が行う処理は、ステップS12へ移行する。
ステップS12では、通常消費エネルギー演算手段40が、通常消費エネルギーを演算する。これに加え、ステップS12では、ローギア消費エネルギー演算手段42が、ローギア消費エネルギーを演算(ステップS12に示す「通常消費エネルギー及びローギア消費エネルギーを演算」)する。
【0062】
なお、本フローチャートでは、通常消費エネルギー及びローギア消費エネルギーを、走行パターン予測手段38が車両HEVの走行パターンを回生制動による減速を含む状態と予測した場合の、車両HEVが消費するエネルギーとする場合について説明する。
また、本フローチャートでは、通常消費エネルギー演算手段40が、モータ2が発生する回生電力の回収量を参照して、通常消費エネルギーを演算する場合について説明する。これに加え、ローギア消費エネルギー演算手段が、モータ2が発生する回生電力の回収量を参照して、ローギア消費エネルギーを演算する場合について説明する。
【0063】
以下、図3中に示す通常変速マップを参照して、通常消費エネルギーの演算に関する具体例について説明する。なお、図3中には、走行パターン予測手段38が予測した車両HEVの走行パターンを、車両HEVの速度と経過時間との関係に応じた形状の実線で示している。また、図3中では、縦軸に車両HEVの速度(車速)を示し、横軸に経過時間(時間)を示している。
まず、図3中に示すように、走行パターン予測手段38が予測した車両HEVの走行パターンを、通常変速マップ上において、三つの領域A〜Cに区分する。
【0064】
具体的には、停車状態から変速比をLowギアとして走行し、加速して変速比をLowギアからHighギアへ変更するまでの領域を、「領域A」とする。また、変速比をLowギアからHighギアとして走行し、加速及び速度維持の後に減速して、変速比をHighギアからLowギアへ変更するまでの領域を、「領域B」とする。さらに、変速比をHighギアからLowギアとして走行し、減速の後に停車するまでの領域を、「領域C」とする。すなわち、領域A及び領域Cにおいては、車両HEVは変速比をLowギアとして走行し、領域Bにおいては、車両HEVは変速比をHighギアとして走行する。
なお、領域B及び領域Cにおける減速は、回生制動による減速であり、回生電力が発生する。
【0065】
次に、領域A、領域B及び領域Cにおいて、それぞれ、車両HEVが消費するエネルギーを演算する。
まず、領域Aにおいて、車両HEVが消費するエネルギーを演算する具体的な手順について説明する。
領域Aにおいて車両HEVが消費するエネルギーの演算は、以下に示す各消費エネルギー(I)〜(V)を、全て加算して行う。
I.回生電力の減少量[kJ]
II.変速比に応じた機械的な損失[kJ]
III.モータ2の電気的損失[kJ]
IV.変速機6及びブレーキ装置の機械的な損失[kJ]
V.変速比をHighギアとして走行する際にエンジン1が消費する燃料と比較した、変速比をLowギアとして走行する際にエンジン1が消費する燃料の増加分[cc]
【0066】
すなわち、領域Aにおいて車両HEVが消費する領域A消費エネルギーA[kJ]は、以下の式(1)から演算する。
A[kJ]=I+II+III+IV+V…(1)
なお、上記のIからIVのエネルギー単位は[kJ]であるため、式(1)における演算を行う前には、上記のVに対し、エネルギー単位を[cc]から[kJ]へ変換する。この変換には、車両HEVやエンジン1のスペックに基づき、予測した走行パターンに応じた係数を用いる。
【0067】
ここで、回生電力の減少量は、例えば、モータトルク制限値に応じて発生可能な回生電力に基づいて算出する。なお、領域Aにおいては、車両HEVは減速を行わないため、回生電力自体が発生しない。このため、領域Aにおける回生電力の減少量は、0[kJ]である。
また、変速比に応じた機械的な損失は、例えば、変速比のスペックに応じ、変速機6の入力回転数・出力トルク等に基づいて算出する。
また、モータ2の電気的損失は、例えば、モータ2の入力回転数・出力トルク等に基づいて算出する。
【0068】
また、変速機6及びブレーキ装置の機械的な損失は、例えば、変速機6が備えるクラッチや、ブレーキ装置に発生する引き摺りによる損失である。これは、例えば、変速機6の入力回転数・出力トルク等に基づいて算出する。
また、変速比をHighギアとして走行する際にエンジン1が消費する燃料と比較した、変速比をLowギアとして走行する際にエンジン1が消費する燃料の増加分は、例えば、以下の方法により算出する。
変速比をHighギアとして走行する状態と、変速比をLowギアとして走行する状態では、エンジン1の動作点が異なるため、車速やトルクが同一であっても、エンジン1が消費する燃料が異なる。
【0069】
したがって、領域Aにおいては、変速比をLowギアとして走行する際にエンジン1が消費する燃料に対し、エンジン1の動作点を考慮して、変速比をHighギアとして走行する際にエンジン1が消費する燃料を演算する。これにより、上記燃料の増加分を算出する。
領域B及び領域Cにおいて車両HEVが消費するエネルギーの演算は、領域Aにおける演算と同様、上述した各消費エネルギー(I)〜(V)を、全て加算する。
【0070】
すなわち、領域Bにおいて車両HEVが消費する領域B消費エネルギーB[kJ]と、領域Cにおいて車両HEVが消費する領域C消費エネルギーC[kJ]は、領域A消費エネルギーA[kJ]と同様、上式(1)から演算する。
また、図3中に示すように、予測した走行パターンを通常変速マップに適用する場合、領域Aと領域Bとの間及び領域Bと領域Cとの間で、変速比を二回変更する。このため、オイルポンプの作動等で消費する変速エネルギーを演算する。
【0071】
ここで、変速エネルギーT[kJ]は、以下の式(2)から演算する。
T[kJ]=変速比を一回変更する際に必要な消費エネルギー×2(回数)…(2)
以上により、通常消費エネルギーE−BASE[kJ]は、以下の式(3)から演算する。
E−BASE[kJ]=A[kJ]+B[kJ]+C[kJ]T[kJ]…(3)
【0072】
次に、図4中に示すローギア領域拡大変速マップを参照して、ローギア消費エネルギーの演算に関する具体例について説明する。なお、図4中には、図3中と同様、走行パターン予測手段38が予測した車両HEVの走行パターンを、車両HEVの速度と経過時間との関係に応じた形状の実線で示している。また、図4中では、図3中と同様、縦軸に車両HEVの速度(車速)を示し、横軸に経過時間(時間)を示している。
【0073】
図4中に示すように、走行パターン予測手段38が予測した車両HEVの走行パターンを、ローギア領域拡大変速マップに適用すると、車両HEVは、図4中に示す全ての時間、変速比をLowギアとして走行する。なお、図4中及び以降の説明では、停車状態の車両HEVが加速及び速度維持の後に減速し、減速の後に停車するまでの領域を、すなわち、全ての領域を、「領域D」とする。
なお、領域Dにおける減速は、領域B及び領域Cにおける減速と同様、回生制動による減速であり、回生電力が発生する。
【0074】
次に、領域Dにおいて、車両HEVが消費するエネルギーを演算する。
領域Dにおいて車両HEVが消費するエネルギーの演算は、領域Aにおける演算と同様、上述した各消費エネルギー(I)〜(V)を、全て加算する。
すなわち、領域Dにおいて車両HEVが消費する領域D消費エネルギーD[kJ]は、領域A消費エネルギーA[kJ]と同様、上式(1)から演算する。
また、図4中に示すように、予測した走行パターンをローギア領域拡大変速マップに適用する場合、変速比の変更を行わない。したがって、変速エネルギーT[kJ]は0[kJ]となる。
【0075】
以上により、ローギア消費エネルギーE−Low[kJ]は、以下の式(4)から演算する。
E−Low[kJ]=D[kJ]…(4)
すなわち、通常消費エネルギーE−BASE[kJ]と異なり、ローギア消費エネルギーE−Low[kJ]には、変速エネルギーT[kJ]が含まれない。
ステップS12において、通常消費エネルギー及びローギア消費エネルギーを演算すると、変速判断コントローラ10が行う処理は、ステップS14へ移行する。
【0076】
ステップS14では、消費エネルギー効率判定手段44が、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が良いか否かを判定する。これにより、ローギア領域拡大変速マップを参照した走行で消費するエネルギーが、通常変速マップを参照した走行で消費するエネルギーよりも少ないか(ステップS14に示す「通常変速マップに対してエネルギー損失減少か?」)否かを判定する。
【0077】
具体的には、消費エネルギー効率判定手段44は、通常消費エネルギーE−BASE[kJ]と、ローギア消費エネルギーE−Low[kJ]とを比較する。そして、ローギア消費エネルギーE−Low[kJ]が、通常消費エネルギーE−BASE[kJ]に所定のエネルギー値を加算した値未満である場合に、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が良いと判定する。これにより、ローギア領域拡大変速マップを参照した走行で消費するエネルギーが、通常変速マップを参照した走行で消費するエネルギーよりも少ないと判定する。
【0078】
ここで、上述した所定のエネルギー値は、例えば、車両HEVが実際にローギア領域拡大変速マップを参照して走行した際に、高い確率で通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が良くなる範囲に設定した値であり、予め記憶する。
ステップS14において、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が良い(図中に示す「Yes」)と判定すると、変速判断コントローラ10が行う処理は、ステップS16の処理へ移行する。
一方、ステップS14において、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が悪い(図中に示す「No」)と判定すると、変速判断コントローラ10が行う処理は、ステップS10の処理へ復帰(RETURN)する。
【0079】
ステップS16では、変速マップ切換手段46が、変速比変更手段34の参照する変速マップを、ローギア領域拡大変速マップとする。さらに、ステップS16では、変速マップ切換手段46が、変速比変更手段34の参照する変速マップを、複数のローギア領域拡大変速マップのうち、ローギア消費エネルギーの効率が最良となるマップとする。すなわち、ステップS16では、変速比変更手段34の参照する変速マップを、消費エネルギーの効率が最良となるマップと(ステップS16に示す「最もエネルギーロスを減少できる変速マップへ変更」)する。
【0080】
ステップS16において、変速比変更手段34の参照する変速マップを、ローギア領域拡大変速マップとすると、変速判断コントローラ10が行う処理は、ステップS18へ移行する。
ステップS18では、変速比変更手段34の参照する変速マップを、ローギア領域拡大変速マップとした状態で、消費エネルギー効率判定手段44が、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が良いか否かを判定する。これは、変速比変更手段34の参照する変速マップを、ローギア領域拡大変速マップとした後に、例えば、100[msec]毎等、一定間隔で常に行う。これにより、ステップS18では、一定時間経過後に、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が良いか否かを判定(ステップS18に示す「一定時間経過後、ローギア領域拡大変速マップによる効果あり?」)する。
【0081】
ステップS18において、一定時間経過後に、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が良い(図中に示す「Yes」)と判定すると、変速判断コントローラ10が行う処理は、再びステップS18へ移行する。これにより、変速比変更手段34の参照する変速マップをローギア領域拡大変速マップとした状態を、継続させる。
一方、ステップS18において、一定時間経過後に、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が悪い(図中に示す「No」)と判定すると、変速判断コントローラ10が行う処理は、ステップS20へ移行する。
【0082】
ステップS20では、変速マップ切換手段46が、変速比変更手段34の参照する変速マップを、通常変速マップとする(ステップS20に示す「通常変速マップへ戻す」)。
ステップS20では、変速マップ切換手段46が、変速比変更手段34の参照する変速マップを、通常変速マップとした後、変速判断コントローラ10が行う処理は、ステップS10の処理へ復帰(RETURN)する。
なお、上述したように、本実施形態の変速比制御装置の動作で実施する変速比制御方法は、ローギア領域拡大変速マップに基づいて、駆動輪とモータとの間に介装した変速機の変速比を変更する方法である。この方法は、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が良いと判定する場合に限定して実施する。
【0083】
(第一実施形態の効果)
(1)本実施形態の変速比制御装置では、変速マップ切換手段が、変速比の変更に用いる変速マップを、ローギア領域拡大変速マップとする。これは、消費エネルギー効率判定手段が、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が良いと判定する場合に限定して行う。
このため、駆動力要求が増加した際の変速比が低速側である状況が増加して、変速比を高速段側から低速段側へ切り換える機会を減少させることが可能となり、要求駆動力に対するタイムラグの発生を抑制することが可能となる。
その結果、要求駆動力に対する加速レスポンスの悪化を抑制することが可能となるため、車両の操縦安定性を向上させることが可能となる。
【0084】
また、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が良いと判定する場合にのみ、変速マップ切換手段が、変速比の変更に用いる変速マップを、ローギア領域拡大変速マップとする。
このため、駆動力要求が増加した際の変速比が低速側である状況が増加して、変速比を高速段側から低速段側へ切り換える機会を減少させることが可能となり、変速比の変更中に生じる回生電力の回収ロスを減少させることが可能となる。
その結果、ローギア領域拡大変速マップに基づく変速比の変更条件で走行する車両に対し、要求駆動力に対する加速レスポンスの悪化を抑制するとともに、消費エネルギーの効率低下を抑制することが可能となる。
【0085】
(2)本実施形態の変速比制御装置では、走行パターン予測手段が、車両が走行する予定である走行道路の環境を反映する道路環境情報、及び運転者による車両の操作状態を反映する運転者情報のうち少なくとも一方に基づいて、車両の走行パターンを予測する。
このため、走行パターン予測手段が車両の走行パターンを予測するために用いる情報を、多種多様なソースから抽出することが可能となる。
その結果、ローギア領域拡大変速マップを参照して変速比を変更する条件で走行する車両に対し、消費エネルギーの低減効果を、より高い精度で発揮させることが可能となる。
【0086】
(3)本実施形態の変速比制御装置では、道路環境情報を、地図データ情報、車両の現在位置情報、走行道路の交通量情報、走行道路の路面状態情報、走行道路の信号表示情報及び車両と先行車との車間距離情報のうち少なくとも一つとする。
このため、走行パターン予測手段が車両の走行パターンを予測するために用いる道路環境情報を、運転者による車両の操作状態に因らず、多種多様なソースから抽出することが可能となる。
その結果、ローギア領域拡大変速マップを参照して変速比を変更する条件で走行する車両に対し、消費エネルギーの低減効果を、より高い精度で発揮させることが可能となる。
【0087】
(4)本実施形態の変速比制御装置では、運転者情報を、車両の走行パターン履歴及び運転者の加減速操作履歴のうち少なくとも一方とする。
このため、走行パターン予測手段が車両の走行パターンを予測するために用いる道路環境情報を、走行道路の環境に因らず、多種多様なソースから抽出することが可能となる。
その結果、ローギア領域拡大変速マップを参照して変速比を変更する条件で走行する車両に対し、消費エネルギーの低減効果を、より高い精度で発揮させることが可能となる。
【0088】
(5)本実施形態の変速比制御装置では、通常消費エネルギーを、通常変速マップに基づく変速比の変更条件で、走行パターン予測手段が車両の走行パターンを回生制動による減速を含む状態と予測した場合の、車両が消費するエネルギーとする。これに加え、ローギア消費エネルギーを、ローギア領域拡大変速マップに基づく変速比の変更条件で、走行パターン予測手段が車両の走行パターンを回生制動による減速を含む状態と予測した場合の、車両が消費するエネルギーとする。
【0089】
このため、走行中の車両が低車速まで減速することを前提として、変速マップ切換手段が、変速比変更手段の参照する変速マップを、ローギア領域拡大変速マップとすることが可能となる。
その結果、変速比を高速段側から低速段側へ切り換える機会を減少させることが可能となるため、変速比を変更する機会を減少させることが可能となる。
これにより、変速比の変更で消費する変速エネルギーを減少させて、消費エネルギーを減少させることが可能となるとともに、変速比を変更する際に発生する変速ショックを低減させて、車両の動力性能及び運転性能の低下を抑制することが可能となる。
【0090】
(6)本実施形態の変速比制御装置では、通常消費エネルギー演算手段が、モータが発生する回生電力の回収量を参照して通常消費エネルギーを演算する。これに加え、ローギア消費エネルギー演算手段が、回生電力の回収量を参照してローギア消費エネルギーを演算する。
このため、回生制動による減速時に回収可能な回生電力を、より高い精度で予測することが可能となり、変速比変更手段の参照する変速マップを、ローギア領域拡大変速マップとする判断の精度を向上させることが可能となる。
その結果、ローギア領域拡大変速マップを参照して変速比を変更する条件で走行する車両に対し、消費エネルギーの低減効果を、より高い精度で発揮させることが可能となる。
【0091】
(7)本実施形態の変速比制御装置では、回生電力予測手段が、通常変速マップに基づく変速比の変更条件で、走行パターン予測手段が予測した走行パターンにより走行した場合の、回生電力を予測する。これに加え、回生電力割合判定手段が、回生電力予測手段が予測した回生電力の、バッテリの蓄電量に対する割合が所定の割合を超えると判定すると、変速マップ切換手段が、変速比の変更に用いる変速マップを通常変速マップとする。
【0092】
このため、バッテリの蓄電量に対して、回生電力を十分に回収可能な状態であり、変速比の変更中に生じる回生電力の回収ロスが少ない状態で、通常変速マップに基づく変速比の変更条件で、車両を走行させることが可能となる。
その結果、変速比の変更中に生じる回生電力の回収ロスを抑制するメリット以外に、消費エネルギーを抑制可能なメリットが多い状態で、車両を走行させることが可能となるため、消費エネルギーを低減させることが可能となる。
【0093】
(8)本実施形態の変速比制御装置では、変速マップ切換手段が、変速比の変更に用いる変速マップをローギア領域拡大変速マップとした状態で、消費エネルギー効率判定手段が、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が良いか否かを判定する。この状態で、消費エネルギー効率判定手段が、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が悪いと判定すると、変速マップ切換手段が、変速比の変更に用いる変速マップを通常変速マップとする。
【0094】
このため、変速比変更手段の参照する変速マップをローギア領域拡大変速マップとした後、一定時間経過後に消費エネルギーを抑制する効果が得られなかった場合には、通常変速マップに基づく変速比の変更条件で、車両を走行させることが可能となる。
その結果、ローギア領域拡大変速マップ及び通常変速マップに基づく変速比の変更条件で、車両を走行させることによる、総合的な消費エネルギーを抑制する効果を向上させることが可能となる。
【0095】
(9)本実施形態の変速比制御装置では、変速マップ切換手段が、変速比の変更に用いる変速マップを、複数のローギア領域拡大変速マップのうち、ローギア消費エネルギー演算手段が演算したローギア消費エネルギーの効率が最良となるマップとする。これは、運転者による加減速操作予測に基づいて、走行パターン予測手段が車両の走行パターンを予測し、且つ消費エネルギー効率判定手段が、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が良いと判定する場合に限定して行う。
【0096】
このため、走行道路の交通情報等と比較して確実性の高い、運転者による加減速操作予測に基づいて予測した車両の走行パターンを用いて、ローギア消費エネルギーの効率を演算することが可能となる。
その結果、ローギア領域拡大変速マップに基づく変速比の変更条件で走行する車両に対し、消費エネルギーの低減効果を、より高い精度で発揮させることが可能となる。
【0097】
(10)本実施形態の変速比制御方法では、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が良いと判定すると、ローギア領域拡大変速マップに基づいて、駆動輪とモータとの間に介装した変速機の変速比を変更する。
このため、駆動力要求が増加した際の変速比が低速側である状況が増加して、変速比を高速段側から低速段側へ切り換える機会を減少させることが可能となる。
その結果、要求駆動力に対する加速レスポンスの悪化を抑制することが可能となるため、車両の操縦安定性を向上させることが可能となる。これに加え、変速比の変更中に生じる回生電力の回収ロスを減少させることが可能となるため、消費エネルギーの効率低下を抑制することが可能となる。
【0098】
(応用例)
(1)本実施形態の変速比制御装置では、走行パターン予測手段が、道路環境情報及び運転者情報のうち少なくとも一方に基づいて、車両の走行パターンを予測する。しかしながら、車両の走行パターンを予測する際に用いる情報は、これらに限定するものではなく、例えば、他車両から受信する他車両の走行パターンであってもよい。
【0099】
(2)本実施形態の変速比制御装置では、通常消費エネルギー及びローギア消費エネルギーを、走行パターン予測手段が、車両の走行パターンを回生制動による減速を含む状態と予測した場合の、車両が消費するエネルギーとする。しかしながら、これに限定するものではなく、通常消費エネルギー及びローギア消費エネルギーを、走行パターン予測手段が、車両の走行パターンを回生制動によらない減速を含む状態と予測した場合の、車両が消費するエネルギーとしてもよい。
【0100】
(3)本実施形態の変速比制御装置では、通常消費エネルギー演算手段及びローギア消費エネルギー演算手段が、モータが発生する回生電力の回収量を参照して、対応する消費エネルギーを演算する。しかしながら、これに限定するものではなく、通常消費エネルギー演算手段及びローギア消費エネルギー演算手段が、モータが発生する回生電力の回収量を参照せずに、対応する消費エネルギーを演算してもよい。
【0101】
(4)本実施形態の変速比制御装置では、回生電力割合判定手段が、回生電力予測手段が予測した回生電力の、バッテリの蓄電量に対する割合が所定の割合を超えると判定すると、変速マップ切換手段が、変速比の変更に用いる変速マップを通常変速マップとする。しかしながら、これに限定するものではなく、回生電力予測手段及び回生電力割合判定手段を備えていない構成としてもよい。
【0102】
(5)本実施形態の変速比制御装置では、変速比の変更に用いる変速マップをローギア領域拡大変速マップとした状態で、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が悪いと判定すると、変速比の変更に用いる変速マップを通常変速マップとする。しかしながら、これに限定するものではなく、変速比の変更に用いる変速マップをローギア領域拡大変速マップとした後は、例えば、車両が停車するまで、変速比の変更に用いる変速マップをローギア領域拡大変速マップとした状態を保持してもよい。
【0103】
(6)本実施形態の変速比制御装置では、変速マップ記憶手段が、低速側の変速比領域の拡大量が異なる複数のローギア領域拡大変速マップを有する。しかしながら、これに限定するものではなく、変速マップ記憶手段が、一つのローギア領域拡大変速マップを有する構成としてもよい。
【0104】
(7)本実施形態の変速比制御装置では、車両の走行中に、車両の走行パターンの予測、通常消費エネルギー及びローギア消費エネルギーの演算を行う。そして、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が良いと判定すると、変速比の変更に用いる変速マップをローギア領域拡大変速マップとするが、これに限定するものではない。すなわち、予め、通常消費エネルギー及びローギア消費エネルギーの演算を行った状態で、車両の走行パターンを予測し、この予測に基づいて、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が良いと判定してもよい。以下に、その一例を説明する。
【0105】
一例として、走行パターン予測手段が、車両の走行パターン履歴や、運転者による加減速操作履歴に基づいて、車両の走行パターンを予測する場合について説明する。これは、例えば、ナビゲーション装置が有する地図データ情報や、車両HEVの現在位置情報等の取得が困難な場合に行う。
まず、予め、通常消費エネルギー及びローギア消費エネルギーの演算を行う。具体的には、1[km]あたりのピーク車速(最高車速)及び発進と停止間の距離と、通常消費エネルギー及びローギア消費エネルギーの効率との関係について演算する。なお、この演算を行うと、1[km]あたりのピーク車速が高く、且つ1[km]あたりの発進と停止間の距離が短いほど、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が良いとの結果が得られる。
【0106】
したがって、車両HEVの走行パターン履歴や、運転者による加減速操作履歴に基づき、1[km]あたりのピーク車速及び発進と停止間の距離を検出し、これらの検出したピーク車速と発進及び停止回数とを、例えば、図7中に示すマップに適用する。これにより、ピーク車速及び発進と停止間の距離が対応する点が、図7中に斜線で示す領域(Lowギア領域)内に存在する状態が、一定時間(例えば、1[min]程度)継続する場合に、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が良いと判定する。なお、図7は、1[km]あたりのピーク車速及び発進と停止間の距離と、通常消費エネルギーよりもローギア消費エネルギーの効率が良い領域との関係を示すマップである。また、図7中では、縦軸に、発進と停止間のピーク車速(図中では、「Go−Stop間ピーク車速」と記載する)を示す。同様に、図7中では、横軸に、1[km]あたりに発進及び停止を行った回数(図中では、「Go−Stop回数/km」と記載する)を示す。
【0107】
(8)本実施形態の変速比制御装置では、変速比の変更に用いる変速マップを、低速(Lowギア)側及び高速(Highギア)側の変速比領域を設定した二段の変速マップ(図3及び図4参照)としたが、これに限定するものではない。すなわち、変速比の変更に用いる変速マップを、例えば、低速(Lowギア)側と高速(Highギア)側との間に、中速(Midギア)側の変速比領域を設定した三段の変速マップとしてもよい。この場合、ローギア領域拡大変速マップは、LowギアとMidギアとの境界を、Midギア側へ拡大したマップとする。
【0108】
(9)本実施形態の変速比制御装置では、変速機を、変速比を段階的に変更する有段変速機で形成したが、これに限定するものではなく、変速機を、変速比を連続的に変更可能な無段変速機で形成してもよい。この場合、低速側の変速比領域を、高精度に拡大させることが可能となる。
(10)本実施形態の変速比制御装置では、変速比制御装置を備える車両を、エンジン及びモータを備えるハイブリッド車両としたが、これに限定するものではない。すなわち、変速比制御装置を備える車両を、モータのみを備える車両としてもよい。
【符号の説明】
【0109】
1 エンジン
2 モータ
4 バッテリ
6 変速機
8 駆動輪(左前輪8L、右前輪8R)
10 変速判断コントローラ(変速比制御装置)
12 変速制御実施コントローラ
14 エンジンコントローラ
16 モータコントローラ
18 バッテリコントローラ(蓄電量検出手段)
20 ユニット情報検出手段(蓄電量検出手段)
28 ブレーキ制御コントローラ
30 運転者情報検出手段
32 道路環境情報検出手段
34 変速比変更手段
36 変速マップ記憶手段
38 走行パターン予測手段
40 通常消費エネルギー演算手段
42 ローギア消費エネルギー演算手段
44 消費エネルギー効率判定手段
46 変速マップ切換手段
48 回生電力予測手段
50 回生電力割合判定手段
HEV 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪を回転可能なモータと当該駆動輪との間に介装する変速機の変速比を変速マップに基づいて変更する車両の変速比制御装置であって、
前記変速マップとして、前記車両の速度に対応する変速比領域を設定した通常変速マップと、当該通常変速マップよりも低速側の変速比領域を高速側へ拡大したローギア領域拡大変速マップと、を有する変速マップ記憶手段と、
前記車両の走行パターンを予測する走行パターン予測手段と、
前記通常変速マップに基づく前記変速比の変更条件で前記走行パターン予測手段が予測した走行パターンにより走行した場合の、前記車両が消費する通常消費エネルギーを演算する通常消費エネルギー演算手段と、
前記ローギア領域拡大変速マップに基づく前記変速比の変更条件で前記走行パターン予測手段が予測した走行パターンにより走行した場合の、前記車両が消費するローギア消費エネルギーを演算するローギア消費エネルギー演算手段と、
前記通常消費エネルギーよりも前記ローギア消費エネルギーの効率が良いか否かを判定する消費エネルギー効率判定手段と、
前記消費エネルギー効率判定手段が前記通常消費エネルギーよりも前記ローギア消費エネルギーの効率が良いと判定すると、前記変速比の変更に用いる前記変速マップを前記ローギア領域拡大変速マップとする変速マップ切換手段と、を備えることを特徴とする車両の変速比制御装置。
【請求項2】
前記走行パターン予測手段は、前記車両が走行する予定である走行道路の環境を反映する道路環境情報、及び運転者による前記車両の操作状態を反映する運転者情報のうち少なくとも一方に基づいて、前記車両の走行パターンを予測することを特徴とする請求項1に記載した車両の変速比制御装置。
【請求項3】
前記道路環境情報を、地図データ情報、前記車両の現在位置情報、前記走行道路の交通量情報、前記走行道路の路面状態情報、前記走行道路の信号表示情報及び前記車両と先行車との車間距離情報のうち少なくとも一つとすることを特徴とする請求項2に記載した車両の変速比制御装置。
【請求項4】
前記運転者情報を、前記車両の走行パターン履歴及び運転者の加減速操作履歴のうち少なくとも一方とすることを特徴とする請求項2または3に記載した車両の変速比制御装置。
【請求項5】
前記通常消費エネルギーを、前記通常変速マップに基づく前記変速比の変更条件で前記走行パターン予測手段が前記車両の走行パターンを回生制動による減速を含む状態と予測した場合の、前記車両が消費するエネルギーとし、
前記ローギア消費エネルギーを、前記ローギア領域拡大変速マップに基づく前記変速比の変更条件で前記走行パターン予測手段が前記車両の走行パターンを回生制動による減速を含む状態と予測した場合の、前記車両が消費するエネルギーとすることを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1項に記載した車両の変速比制御装置。
【請求項6】
前記通常消費エネルギー演算手段は、前記モータが発生する回生電力の回収量を参照して前記通常消費エネルギーを演算し、
前記ローギア消費エネルギー演算手段は、前記回生電力の回収量を参照して前記ローギア消費エネルギーを演算することを特徴とする請求項1から5のうちいずれか1項に記載した車両の変速比制御装置。
【請求項7】
前記車両は、前記モータが発生する回生電力を蓄電可能なバッテリを備え、
前記バッテリの蓄電量を検出する蓄電量検出手段と、
前記通常変速マップに基づく前記変速比の変更条件で前記走行パターン予測手段が予測した走行パターンにより走行した場合の、前記回生電力を予測する回生電力予測手段と、
前記回生電力予測手段が予測した前記回生電力の前記蓄電量に対する割合が所定の割合を超えるか否かを判定する回生電力割合判定手段と、を備え、
前記変速マップ切換手段は、前記回生電力割合判定手段が前記予測した前記回生電力の前記蓄電量に対する割合が所定の割合を超えると判定すると、前記変速比の変更に用いる前記変速マップを前記通常変速マップとすることを特徴とする請求項1から6のうちいずれか1項に記載した車両の変速比制御装置。
【請求項8】
前記消費エネルギー効率判定手段は、前記変速マップ切換手段が前記変速比の変更に用いる変速マップを前記ローギア領域拡大変速マップとした状態で、前記通常消費エネルギーよりも前記ローギア消費エネルギーの効率が良いか否かを判定し、
前記変速比の変更に用いる変速マップを前記ローギア領域拡大変速マップとした前記変速マップ切換手段は、前記消費エネルギー効率判定手段が前記通常消費エネルギーよりも前記ローギア消費エネルギーの効率が悪いと判定すると、前記変速比の変更に用いる変速マップを前記通常変速マップとすることを特徴とする請求項1から7のうちいずれか1項に記載した車両の変速比制御装置。
【請求項9】
前記変速マップ記憶手段は、前記低速側の変速比領域の前記高速側への拡大量が異なる複数のローギア領域拡大変速マップを有し、
前記走行パターン予測手段は、運転者による加減速操作予測に基づいて、前記車両の走行パターンを予測し、
前記変速マップ切換手段は、前記消費エネルギー効率判定手段が前記通常消費エネルギーよりも前記ローギア消費エネルギーの効率が良いと判定すると、前記変速比の変更に用いる変速マップを、前記複数のローギア領域拡大変速マップのうち前記ローギア消費エネルギー演算手段が演算した前記ローギア消費エネルギーの効率が最良となるマップとすることを特徴とする請求項1から8のうちいずれか1項に記載した車両の変速比制御装置。
【請求項10】
駆動輪を回転可能なモータと当該駆動輪との間に介装する変速機の変速比を変速マップに基づいて変更する車両の変速比制御方法であって、
前記変速マップとして、前記車両の速度に対応する変速比領域を設定した通常変速マップと、当該通常変速マップよりも低速側の変速比領域を高速側へ拡大したローギア領域拡大変速マップと、を有し、
前記車両の走行パターンを予測し、
前記通常変速マップに基づく前記変速比の変更条件で前記予測した走行パターンにより前記車両が走行した場合の、前記車両が消費する通常消費エネルギーを演算し、
前記ローギア領域拡大変速マップに基づく前記変速比の変更条件で前記予測した走行パターンにより前記車両が走行した場合の、前記車両が消費するローギア消費エネルギーを演算し、
前記通常消費エネルギーよりも前記ローギア消費エネルギーの効率が良いか否かを判定し、
前記通常消費エネルギーよりも前記ローギア消費エネルギーの効率が良いと判定すると、前記変速比の変更に用いる前記変速マップを前記ローギア領域拡大変速マップとすることを特徴とする車両の変速比制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−216626(P2010−216626A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66927(P2009−66927)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】